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特開2023-102374カソード電極、及びカソード電極と基材との複合体
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  • 特開-カソード電極、及びカソード電極と基材との複合体 図1
  • 特開-カソード電極、及びカソード電極と基材との複合体 図2
  • 特開-カソード電極、及びカソード電極と基材との複合体 図3
  • 特開-カソード電極、及びカソード電極と基材との複合体 図4
  • 特開-カソード電極、及びカソード電極と基材との複合体 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102374
(43)【公開日】2023-07-25
(54)【発明の名称】カソード電極、及びカソード電極と基材との複合体
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/091 20210101AFI20230718BHJP
   C25B 11/053 20210101ALI20230718BHJP
   C25B 11/031 20210101ALI20230718BHJP
   C25B 11/065 20210101ALI20230718BHJP
   C25B 11/075 20210101ALI20230718BHJP
   C25B 1/23 20210101ALI20230718BHJP
   C25B 3/03 20210101ALI20230718BHJP
   C25B 3/07 20210101ALI20230718BHJP
   C25B 3/26 20210101ALI20230718BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20230718BHJP
   C25B 11/093 20210101ALI20230718BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20230718BHJP
【FI】
C25B11/091
C25B11/053
C25B11/031
C25B11/065
C25B11/075
C25B1/23
C25B3/03
C25B3/07
C25B3/26
C25B9/00 Z
C25B9/00 G
C25B11/093
C25B11/081
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022002812
(22)【出願日】2022-01-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、ムーンショット型研究開発事業「地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/電気化学プロセスを主体とする革新的CO2大量資源化システムの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴博
(72)【発明者】
【氏名】味村 裕
(72)【発明者】
【氏名】山本 潔
(72)【発明者】
【氏名】杉山 正和
(72)【発明者】
【氏名】嶺岸 耕
(72)【発明者】
【氏名】松本 純
(72)【発明者】
【氏名】武田 大
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA23
4K011AA29
4K011AA68
4K021AB25
4K021AC01
4K021AC05
4K021BA02
4K021BA17
4K021DB18
(57)【要約】
【課題】本発明は、二酸化炭素の還元反応によって、一酸化炭素、エチレンなどのオレフィン系炭化水素、エタノールなどのアルコールを生成する触媒反応において、水素の選択率が低下し、二酸化炭素還元生成物の選択率が向上するカソード電極を提供する。
【解決手段】電気的に二酸化炭素を還元するカソード電極であり、亜酸化銅と、銅と、銀、金、亜鉛、カドミウム及びスズからなる群から選択された少なくとも1種の他の金属元素と、を含む第1層と、前記第1層上に形成された、銅、銀、金、亜鉛、カドミウム及びスズからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素からなる構成元素を含む第2層と、を含むカソード電極。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的に二酸化炭素を還元するカソード電極であり、
亜酸化銅と、銅と、銀、金、亜鉛、カドミウム及びスズからなる群から選択された少なくとも1種の他の金属元素と、を含む第1層と、
前記第1層上の少なくとも一部領域に形成された、銅、銀、金、亜鉛、カドミウム及びスズからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素からなる構成元素を含む第2層と、
を含むカソード電極。
【請求項2】
電気的に二酸化炭素を還元するカソード電極であり、
銅へ還元されない亜酸化銅と、銀、金、亜鉛、カドミウム及びスズからなる群から選択された少なくとも1種の他の金属元素と、還元処理により銅へ還元される還元用亜酸化銅と、を含む第1層と、
前記第1層上の少なくとも一部領域に形成された、銅、銀、金、亜鉛、カドミウム及びスズからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素からなる構成元素を含む第2層と、
を含むカソード電極。
【請求項3】
前記第2層が、前記第1層の保護層である請求項1または2に記載のカソード電極。
【請求項4】
前記第2層の構成元素が、銀元素を含む請求項1乃至3のいずれか1項に記載のカソード電極。
【請求項5】
前記構成元素の銀元素が、銀の単体または銀の酸化物の状態である請求項4に記載のカソード電極。
【請求項6】
前記第1層の他の金属元素が、亜鉛元素を含む請求項1乃至5のいずれか1項に記載のカソード電極。
【請求項7】
前記第2層の平均厚さが、10nm以上200nm以下である請求項1乃至6のいずれか1項に記載のカソード電極。
【請求項8】
前記第1層の銅元素のモル数/酸素元素のモル数の値が、1.5以上5.1以下である請求項1乃至7のいずれか1項に記載のカソード電極。
【請求項9】
前記第1層が、多孔質構造を有する請求項1乃至8のいずれか1項に記載のカソード電極。
【請求項10】
多孔質構造を有する基材と、前記基材上に前記第1層側が配置された請求項1乃至9のいずれか1項に記載のカソード電極と、を有する、カソード電極と基材との複合体。
【請求項11】
前記基材が、多孔質カーボンである請求項10に記載の複合体。
【請求項12】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載のカソード電極を備えた、電気的に二酸化炭素を一酸化炭素、オレフィン系炭化水素及び/またはアルコールへ還元する電解還元装置。
【請求項13】
請求項10または11に記載の複合体を備えた、電気的に二酸化炭素を一酸化炭素、オレフィン系炭化水素及び/またはアルコールへ還元する電解還元装置。
【請求項14】
多孔質構造を有する基材を用意する工程と、
前記基材上に、亜酸化銅と、銀、金、亜鉛、カドミウム及びスズからなる群から選択された少なくとも1種の他の金属元素と、を共電析させて第1層である第1共電析層を形成する、第1共電析層形成工程と、
前記第1共電析層上の少なくとも一部領域に、銅、銀、金、亜鉛、カドミウム及びスズからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素からなる構成元素にて製膜して第2層を形成する、第2層形成工程と、
を有するカソード電極と基材との複合体の製造方法。
【請求項15】
前記第2層形成工程の後に、前記第1共電析層と前記第2層を部分還元する、部分還元工程をさらに有する請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記基材が、多孔質カーボンである請求項14または15に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素を電気的に還元して、二酸化炭素を一酸化炭素、エチレン等のオレフィン系炭化水素及び/またはアルコールへ変換することができるカソード電極、及びカソード電極と基材との複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化による悪影響が様々に地球環境の変化をもたらし、多くの問題現象が生じている。その原因のひとつとして、大気中の温室効果ガス、特に、温室効果ガスの多くを占める二酸化炭素の濃度上昇にあるとされている。大気中の二酸化炭素濃度を下げるために、陸上の新たな植林や海洋藻類による光合成量の増加だけでなく、積極的に大気中の二酸化炭素を吸収、回収することも検討されている。さらには、二酸化炭素を吸収、回収するだけではなく、二酸化炭素由来の炭素を有機化合物の原料として活用することが望ましい。
【0003】
具体的には、二酸化炭素を還元して、例えば、エチレン、エタノール、一酸化炭素、メタン、メタノール、ギ酸等に変換して、有機化合物の合成用として活用していくことが検討されている。その中でも、特に、C2化合物であるエチレン及びエタノールは、様々な有機化合物を合成する際の誘導体として大変有用であり、一酸化炭素やメタン等のC1化合物よりも利用価値が高い。
【0004】
近年、上記のような二酸化炭素の還元反応には、光触媒や、電極触媒等の触媒が広く用いられており、さらに性能に優れた触媒の開発が求められている。二酸化炭素の還元反応に用いられる触媒には、反応効率だけでなく、特定の反応に対する選択性が求められており、そのような観点からは材料の選択が重要となる(非特許文献1)。例えば、一酸化炭素を効率良く還元生成させ、還元物質中での一酸化炭素の割合を向上させる点で、触媒材料として、金、銀、亜鉛が用いられている。また、メタン、エタン、エチレン等の炭化水素を効率良く還元生成させる点で、触媒材料として、銅が用いられている。このうち、特に、銅は、エチレンなどのC2化合物を生成できることから、二酸化炭素のカソード還元電極触媒として着目されている。
【0005】
銅を用いた二酸化炭素のカソード還元電極触媒としては、例えば、基材上に有機物からなる拡散防止層を形成し、さらにその上に主に金属クラスターからなる触媒層を形成することで、触媒層と基材間の金属元素の拡散、金属の副反応を防ぎ、触媒効率の低下を抑制した二酸化炭素還元用カソード電極が提案されている(特許文献1)。一方で、特許文献1では、実施例にて評価されているのは二酸化炭素還元反応におけるエチレン等の各生成物のファラデー効率である。特許文献1では、エチレン等の有機化合物を合成する触媒反応が、長期間にわたって安定的に持続することについて検証されていない。
【0006】
二酸化炭素の還元反応によるエチレン等の有機化合物の生成を工業的に実用化するには、エチレン等の有機化合物を生成する触媒反応が、数百時間以上という長期間にわたって安定的に持続することが要求されている。特許文献1の二酸化炭素還元用カソード電極は、エチレン等の有機化合物を生成する触媒反応を長期間にわたって安定的に持続させる点で改善の余地があった。
【0007】
また、二酸化炭素還元用カソード電極では、有機化合物の優れた合成効率を得るためには、二酸化炭素の還元にあたり、二酸化炭素の還元反応が副反応(水の分解反応)に起因する水素の生成よりも優位となって水素の選択率が低下し、また、二酸化炭素還元生成物の選択率が向上することが必要である。しかし、特許文献1では、二酸化炭素の還元にあたり、水素の選択率が低下し、また、二酸化炭素還元生成物の選択率が向上することついて検証されていない。特許文献1の二酸化炭素還元用カソード電極は、水素の選択率が低下し、また、二酸化炭素還元生成物の選択率が向上する点でも、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2018-168410号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Y Hori「Electrochemical reduction of CO at a Copper Electrode.」 J. Phys. Chem. B. 101(36). 7075-7081 (1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記事情に鑑み、本発明は、二酸化炭素の還元反応によって、一酸化炭素、エチレンなどのオレフィン系炭化水素、エタノールなどのアルコールを生成する触媒反応において、水素の選択率が低下し、二酸化炭素還元生成物の選択率が向上するカソード電極、該カソード電極と基材との複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の構成の要旨は、以下の通りである。
[1]電気的に二酸化炭素を還元するカソード電極であり、
亜酸化銅と、銅と、銀、金、亜鉛、カドミウム及びスズからなる群から選択された少なくとも1種の他の金属元素と、を含む第1層と、
前記第1層上の少なくとも一部領域に形成された、銅、銀、金、亜鉛、カドミウム及びスズからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素からなる構成元素を含む第2層と、
を含むカソード電極。
[2]電気的に二酸化炭素を還元するカソード電極であり、
銅へ還元されない亜酸化銅と、銀、金、亜鉛、カドミウム及びスズからなる群から選択された少なくとも1種の他の金属元素と、還元処理により銅へ還元される還元用亜酸化銅と、を含む第1層と、
前記第1層上の少なくとも一部領域に形成された、銅、銀、金、亜鉛、カドミウム及びスズからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素からなる構成元素を含む第2層と、
を含むカソード電極。
[3]前記第2層が、前記第1層の保護層である[1]または[2]に記載のカソード電極。
[4]前記第2層の構成元素が、銀元素を含む[1]乃至[3]のいずれか1つに記載のカソード電極。
[5]前記構成元素の銀元素が、銀の単体または銀の酸化物の状態である[4]に記載のカソード電極。
[6]前記第1層の他の金属元素が、亜鉛元素を含む[1]乃至[5]のいずれか1つに記載のカソード電極。
[7]前記第2層の平均厚さが、10nm以上200nm以下である[1]乃至[6]のいずれか1つに記載のカソード電極。
[8]前記第1層の銅元素のモル数/酸素元素のモル数の値が、1.5以上5.1以下である[1]乃至[7]のいずれか1つに記載のカソード電極。
[9]前記第1層が、多孔質構造を有する[1]乃至[8]のいずれか1つに記載のカソード電極。
[10]多孔質構造を有する基材と、前記基材上に前記第1層側が配置された[1]乃至[9]のいずれか1つに記載のカソード電極と、を有する、カソード電極と基材との複合体。
[11]前記基材が、多孔質カーボンである[10]に記載の複合体。
[12][1]乃至[9]のいずれか1つに記載のカソード電極を備えた、電気的に二酸化炭素を一酸化炭素、オレフィン系炭化水素及び/またはアルコールへ還元する電解還元装置。
[13][10]または[11]に記載の複合体を備えた、電気的に二酸化炭素を一酸化炭素、オレフィン系炭化水素及び/またはアルコールへ還元する電解還元装置。
[14]多孔質構造を有する基材を用意する工程と、
前記基材上に、亜酸化銅と、銀、金、亜鉛、カドミウム及びスズからなる群から選択された少なくとも1種の他の金属元素と、を共電析させて第1層である第1共電析層を形成する、第1共電析層形成工程と、
前記第1共電析層上の少なくとも一部領域に、銅、銀、金、亜鉛、カドミウム及びスズからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素からなる構成元素にて製膜して第2層を形成する、第2層形成工程と、
を有するカソード電極と基材との複合体の製造方法。
[15]前記第2層形成工程の後に、前記第1共電析層と前記第2層を部分還元する、部分還元工程をさらに有する[14]に記載の製造方法。
[16]前記基材が、多孔質カーボンである[14]または[15]に記載の製造方法。
【0012】
なお、「第1層の銅元素のモル数/酸素元素のモル数の値が、1.5以上5.1以下である」の「第1層の銅元素のモル数/酸素元素のモル数の値」とは、卓上走査型電子顕微鏡Phenom G6 ProXを用い、加速電圧15kV、倍率5000~10000倍としてエネルギー分散型X線分光法(EDS)分析を行った。上記測定条件下、第1層の表面をエネルギー分散型X線分光法(EDS)で測定したスペクトルから得られた銅元素のモル数/酸素元素のモル数の値を意味する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のカソード電極の態様では、亜酸化銅と、銅と、銀、金、亜鉛、カドミウム及びスズからなる群から選択された少なくとも1種の他の金属元素と、を含む第1層上に、銅、銀、金、亜鉛、カドミウム及びスズからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素からなる構成元素を含む第2層を形成している。第1層は、二酸化炭素を還元する触媒層として機能する。第2層は、第1層の保護層及び二酸化炭素を還元する触媒能を有する層として機能する。上記から、本発明のカソード電極の態様では、触媒活性を有する層が積層構造となっている。また、本発明のカソード電極の態様では、第2層の存在により、二酸化炭素還元の活性部位が増加し、また、水の第1層への浸入量が適切な範囲に制御されて、カソード電極の二酸化炭素の還元反応の場における水と二酸化炭素の比率が適切な範囲に調整される、と考えられる。従って、本発明のカソード電極の態様では、二酸化炭素の還元反応が副反応である水素生成反応よりも優位になり、二酸化炭素還元生成物の選択率が増加するとともに、水素選択率が減少する、と考えられる。また、第2層の存在によって、特に、第1層の深部(すなわち、第1層のうち、第2層とは反対側の部位)における亜酸化銅から銅への還元が抑制されて、第1層において銅元素のモル数/酸素元素のモル数の値が適切な範囲に長時間保持されることで、二酸化炭素還元生成物の選択率が向上しつつ、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が長期間にわたって高い効率を安定して維持できる特性(以下、「安定性」ということがある)も向上する傾向がある、と考えられる。
【0014】
本発明のカソード電極の態様では、特に、第1層を挟んで第2層とは反対の側からガス状の二酸化炭素をカソード電極に供給し、第1層の深部が主な二酸化炭素の還元反応の反応場となり得る形態において、顕著な効果を発揮する。
【0015】
従って、本発明のカソード電極の態様によれば、亜酸化銅と、銅と、銀、金、亜鉛、カドミウム及びスズからなる群から選択された少なくとも1種の他の金属元素と、を含む第1層と、前記第1層上に形成された、銅、銀、金、亜鉛、カドミウム及びスズからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素からなる構成元素を含む第2層と、を含む、または、銅へ還元されない亜酸化銅と、銀、金、亜鉛、カドミウム及びスズからなる群から選択された少なくとも1種の他の金属元素と、還元処理により銅へ還元される還元用亜酸化銅と、を含む第1層と、前記第1層上に形成された、銅、銀、金、亜鉛、カドミウム及びスズからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素からなる構成元素を含む第2層と、を含むことにより、二酸化炭素の還元反応によって、一酸化炭素、エチレンなどのオレフィン系炭化水素、エタノールなどのアルコールを生成する触媒反応において、水素の選択率が低下し、二酸化炭素還元生成物の選択率が向上する。
【0016】
本発明のカソード電極の態様によれば、前記第2層の構成元素に銀元素を含むことにより、第2層における二酸化炭素から一酸化炭素への還元がより促進され、水素生成が抑制されて水素選択率がより確実に低下するとともに、第2層で還元された一酸化炭素が、第1層の触媒作用にてC-C結合反応がより促進されることによって、エチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成するので、二酸化炭素還元生成物の選択率がより確実に向上する。
【0017】
本発明のカソード電極の態様によれば、第1層の他の金属元素が亜鉛元素を含むことにより、二酸化炭素の還元反応によって、一酸化炭素、エチレンなどのオレフィン系炭化水素、エタノールなどのアルコールを生成する触媒反応において、水素の選択率がより確実に低下しつつ、二酸化炭素還元生成物の選択率がより確実に向上する。
【0018】
本発明のカソード電極の態様によれば、第2層の平均厚さが10nm以上200nm以下であることにより、二酸化炭素還元の活性部位が確実に増加し、また、水の第1層への浸入量が適切な範囲に確実に制御されるので、二酸化炭素還元生成物の選択率が確実に増加するとともに、水素選択率が確実に減少する。
【0019】
本発明のカソード電極の態様によれば、第1層の銅元素のモル数/酸素元素のモル数の値が1.5以上5.1以下の範囲であることにより、二酸化炭素還元生成物の選択率が確実に増加するとともに、水素選択率が確実に減少し、また、二酸化炭素の還元反応によって、一酸化炭素、エチレンなどのオレフィン系炭化水素、エタノールなどのアルコールを生成する触媒反応を、さらに長期間にわたって安定的に持続できる。
【0020】
本発明のカソード電極の態様によれば、第1層が多孔質構造を有することにより、二酸化炭素の還元反応によって、一酸化炭素、エチレンなどのオレフィン系炭化水素、エタノールなどのアルコールを生成する触媒反応を、長期間にわたってさらに安定的に持続できつつ、二酸化炭素還元生成物の選択率が確実に増加するとともに、水素選択率が確実に減少する。
【0021】
本発明のカソード電極と基材との複合体の態様によれば、本発明のカソード電極を備えることにより、二酸化炭素の還元反応によって、一酸化炭素、エチレンなどのオレフィン系炭化水素、エタノールなどのアルコールを生成する触媒反応において、水素の選択率が低下し、二酸化炭素還元生成物の選択率が向上する。
【0022】
本発明のカソード電極と基材との複合体の態様によれば、基材が多孔質カーボンであることにより、ガス状の二酸化炭素が円滑に第1層に接触できるので、ガス状の二酸化炭素であっても、二酸化炭素の還元反応によって、一酸化炭素、エチレンなどのオレフィン系炭化水素、エタノールなどのアルコールを生成する触媒反応を、長期間にわたってさらに安定的に持続できつつ、二酸化炭素還元生成物の選択率が確実に増加するとともに、水素選択率が確実に減少する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明のカソード電極と基材との複合体の断面の概要を示す説明図である。
図2】カソード電極と基材との複合体の製造方法における、電解研磨処理工程の説明図である。
図3】カソード電極と基材との複合体の製造方法における、共電析層形成工程の説明図である。
図4】カソード電極と基材との複合体の製造方法における、部分還元工程の説明図である。
図5】本発明のカソード電極を備えた電解還元装置の概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[カソード電極]
本発明のカソード電極について、以下に説明する。本発明の第1のカソード電極は、電気的に二酸化炭素を還元するカソード電極であり、亜酸化銅(CuO)と、銅(Cu)と、銀(Ag)、金(Au)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)及びスズ(Sn)からなる群から選択された少なくとも1種の他の金属元素(M1)と、を含む第1層と、第1層上に形成された、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)及びスズ(Sn)からなる群から選択された少なくとも1種の金属元素からなる構成元素(M2)を含む第2層と、を含む。上記した本発明の第1のカソード電極の第1層は、必須成分として、亜酸化銅(CuO)と、銅(Cu)と、上記他の金属元素(M1)と、を含む。
【0025】
本発明の第1のカソード電極では、第1層が、必須成分として、亜酸化銅(CuO)と、銅(Cu)と、銀(Ag)、金(Au)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)及びスズ(Sn)からなる群から選択された少なくとも1種の他の金属元素(M1)と、を含むことにより、二酸化炭素の還元反応によって、一酸化炭素、エチレンなどのオレフィン系炭化水素、エタノールなどのアルコールを生成する触媒反応の場となるので、第1層が、第1のカソード電極の触媒層として機能する。
【0026】
第1のカソード電極では、第2層は、第1層の表面の少なくとも一部領域を被覆していることから、第2層は、第1層の保護層としての機能を有する。第1のカソード電極では、第2層は、第1層と連続して形成されており、第1層の表面上に直接接している。また、第2層は、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)及びスズ(Sn)からなる群から選択された少なくとも1種の金属元素からなる還元能を有する構成元素(M2)を含むので、第2層は、二酸化炭素を還元する触媒能を有する層としても機能する。第1のカソード電極では、第1層と第2層との間には境界が存在するので、顕微鏡観察等により、第1層と第2層を識別することができる。
【0027】
第1のカソード電極では、触媒層として機能する第1層に加えて、二酸化炭素を還元する触媒能を有する第2層が設けられていることにより、二酸化炭素還元の活性部位が増加する。また、第1のカソード電極では、第1層の保護層としての機能も有する第2層が設けられていることにより、水の第1層への浸入量が適切な範囲に制御されて、第1のカソード電極の二酸化炭素の還元反応の場における水と二酸化炭素の比率が適切な範囲に調整される、と考えられる。二酸化炭素の還元反応の副反応として水の分解反応が挙げられるところ、第1のカソード電極では、二酸化炭素の還元反応の場における水と二酸化炭素の比率が適切な範囲に調整されることから、副反応である水素生成反応(すなわち、水の分解反応)よりも二酸化炭素の還元反応が優位になり、二酸化炭素還元生成物の選択率が増加するとともに、水素選択率が減少する、と考えられる。また、第1層の保護層として機能する第2層によって、第1層における亜酸化銅から銅への還元が抑制されることで、第1層における銅元素のモル数/酸素元素のモル数の値が適切な範囲に長時間保持されるので、オレフィン系炭化水素やアルコールを生成する触媒反応が長期間にわたって高い効率を安定して維持できる特性も向上する傾向がある、と考えられる。
【0028】
従って、第1のカソード電極の態様によれば、亜酸化銅と、銅と、銀、金、亜鉛、カドミウム及びスズからなる群から選択された少なくとも1種の他の金属元素と、を含む第1層と、前記第1層上に形成された、銅、銀、金、亜鉛、カドミウム及びスズからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素からなる構成元素を含む第2層と、を含むことにより、上記触媒反応において、水素の選択率が低下し、二酸化炭素還元生成物の選択率が向上する。
【0029】
また、本発明の第2のカソード電極は、電気的に二酸化炭素を還元するカソード電極であり、銅へ還元されない亜酸化銅(CuO)と、銀(Ag)、金(Au)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)及びスズ(Sn)からなる群から選択された少なくとも1種の他の金属元素(M1)と、還元処理により銅へ還元される還元用亜酸化銅(CuO)と、を含む第1層と、前記第1層上に形成された、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)及びスズ(Sn)からなる群から選択された少なくとも1種の金属元素からなる構成元素(M2)を含む第2層と、を含む。第2のカソード電極の第1層では、亜酸化銅(CuO)の一部が還元されて銅(Cu)となる。本発明の第2のカソード電極の第1層は、必須成分として、亜酸化銅(CuO)と、上記他の金属元素(M1)とを含む。本発明の第2のカソード電極の第1層は、還元処理されることで、還元用の亜酸化銅(CuO)が還元されて銅(Cu)となり、亜酸化銅(CuO)と、銅(Cu)と、銀(Ag)、金(Au)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)及びスズ(Sn)からなる群から選択された少なくとも1種の他の金属元素(M1)と、を含むカソード電極となる。
【0030】
第2のカソード電極でも、第1のカソード電極と同じく、第2層は、第1層の表面の少なくとも一部領域を被覆していることから、第2層は、第1層の保護層としての機能を有する。また、第2のカソード電極でも、第2層は、第1層と連続して形成されており、第1層の表面上に直接接している。また、第2のカソード電極でも、第2層は、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)及びスズ(Sn)からなる群から選択された少なくとも1種の金属元素からなる還元能を有する構成元素(M2)を含むので、第2層は、二酸化炭素を還元する触媒能を有する層としても機能する。第2のカソード電極でも、第1層と第2層との間には境界が存在するので、顕微鏡観察等により、第1層と第2層を識別することができる。
【0031】
第2のカソード電極でも、上記した第1のカソード電極と同様の機能を有している。従って、第2のカソード電極でも、上記触媒反応において、水素の選択率が低下し、二酸化炭素還元生成物の選択率が向上する。
【0032】
カソード電極の第1層における他の金属元素(M1)の態様は、特に限定されず、例えば、金属自体(金属単体)の態様が挙げられ、また、金属自体(金属単体)の態様の他に、水酸化物の態様、酸化物の態様が挙げられる。また、他の金属元素(M1)は、金属自体(金属単体)の態様と水酸化物の態様と酸化物の態様が混在していてもよい。他の金属元素(M1)としては、銀、金、亜鉛、カドミウム、スズであれば、いずれも使用可能であるが、二酸化炭素の還元反応によって、一酸化炭素、エチレンなどのオレフィン系炭化水素、エタノールなどのアルコールを生成する触媒反応において、水素の選択率がより確実に低下しつつ、二酸化炭素還元生成物の選択率がより確実に向上する点から、亜鉛、銀が好ましく、亜鉛が特に好ましい。これらの他の金属元素(M1)は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。他の金属元素(M1)による有利な効果としては、エチレンなどのオレフィン系炭化水素またはエタノールなどのアルコールの生成反応の安定性向上と、COのCOへの還元能にある。なお、他の金属元素(M1)には、原料として添加された金属元素も電析などにより析出した金属元素も含む。
【0033】
第1層における酸素元素のモル数に対する銅元素のモル数、すなわち、銅元素のモル数/酸素元素のモル数の値は、特に限定されないが、その下限値は、水素の選択率が確実に低下しつつ、二酸化炭素還元生成物の選択率が確実に向上する点から、1.5が好ましく、1.6がより好ましく、水素の選択率がさらに低下しつつ、二酸化炭素還元生成物の選択率がさらに向上する点から、2.0が特に好ましい。一方で、銅元素のモル数/酸素元素のモル数の値の上限値は、二酸化炭素の還元反応によって、一酸化炭素、エチレンなどのオレフィン系炭化水素、エタノールなどのアルコールを生成する触媒反応を、安定的に持続できる点から、5.1が好ましく、5.0がより好ましく、4.8が特に好ましい。
【0034】
カソード電極の第1層の構造は、中実でも多孔質でもよいが、二酸化炭素の還元反応によって、一酸化炭素、エチレンなどのオレフィン系炭化水素、エタノールなどのアルコールを生成する触媒反応を、長期間にわたってさらに安定的に持続しつつ、二酸化炭素還元生成物の選択率が確実に増加するとともに、水素選択率が確実に減少する点から、多孔質構造が好ましい。多孔質構造中におけるの空隙の割合(空隙率)は、特に限定されないが、その下限値は、二酸化炭素の第1層への浸透を円滑化することで、一酸化炭素、エチレンなどのオレフィン系炭化水素、エタノールなどのアルコールの生成効率がさらに向上する点から、1体積%が好ましく、10体積%が特に好ましい。一方で、多孔質構造の空隙率の上限値は、第1層の触媒反応に寄与する表面積を維持することで、一酸化炭素、エチレンなどのオレフィン系炭化水素、エタノールなどのアルコールの生成効率がさらに向上する点から、99体積%が好ましく、90体積%が特に好ましい。
【0035】
カソード電極の第2層における還元能を有する構成元素(M2)の態様は、特に限定されず、例えば、金属自体(金属単体)の態様が挙げられ、また、金属自体(金属単体)の態様の他に、水酸化物の態様、酸化物の態様が挙げられる。また、還元能を有する構成元素(M2)は、金属自体(金属単体)の態様と水酸化物の態様と酸化物の態様とが混在していてもよい。還元能を有する構成元素(M2)としては、銅、銀、金、亜鉛、カドミウム、スズであれば、いずれも使用可能であるが、二酸化炭素の還元反応によって、一酸化炭素、エチレンなどのオレフィン系炭化水素、エタノールなどのアルコールを生成する触媒反応において、水素の選択率がより確実に低下しつつ、二酸化炭素還元生成物の選択率がより確実に向上する点から、銀、金、亜鉛が好ましく、銀が特に好ましい。
【0036】
第2層の平均厚さは、特に限定されないが、その下限値は、二酸化炭素還元の活性部位が確実に増加し、また、水の第1層への浸入量が増大して副反応である水の分解反応を確実に抑制する点から、10nmが好ましく、二酸化炭素還元の活性部位がさらに増加し、また、副反応である水の分解反応をさらに確実に抑制する点から、20nmがより好ましく、安定性がさらに向上する点から、50nmが特に好ましい。一方で、第2層の平均厚さの上限値は、第1層への水の浸入が過剰に阻害されることを防止して二酸化炭素と水の反応が促進されることで、二酸化炭素還元生成物の選択率が確実に増加するとともに、水素選択率が確実に減少する点から、200nmが好ましく、二酸化炭素還元生成物の選択率がさらに増加するとともに、水素選択率がさらに減少する点から、180nmがより好ましく、二酸化炭素還元生成物の選択率がさらに向上する点から、150nmが特に好ましい。
【0037】
上記から、第2層の平均厚さが上記範囲に調整されていることにより、二酸化炭素還元の活性部位が確実に増加し、また、水の第1層への浸入量が適切な範囲に確実に制御されるので、二酸化炭素還元生成物の選択率が確実に増加するとともに、水素選択率が確実に減少する。なお、第2層の平均厚さとは、カソード電極の断面における走査電子顕微鏡(SEM)像を観察して測定した厚さを意味する。
【0038】
本発明のカソード電極は、第1層の側からガス状の二酸化炭素をカソード電極に供給し、第2層の側から液相の水を供給することで、主に第1層の触媒作用にてガス状の二酸化炭素と水が反応して電気的に二酸化炭素を還元することで、一酸化炭素、エチレンなどのオレフィン系炭化水素、エタノールなどのアルコールを生成することができる。
【0039】
[カソード電極と基材との複合体]
本発明のカソード電極は、カソード電極単体の状態で使用されてもよく、以下に説明するように、基材と複合体を形成した状態で使用されてもよい。図1は、本発明のカソード電極と基材との複合体の断面の概要を示す説明図である。
【0040】
図1に示すように、カソード電極100と基材1との複合体120は、基材1と、基材1上に形成された上記した本発明のカソード電極100とを有する。基材1は、カソード電極100の第1層101側に設けられる。すなわち、基材1上に、カソード電極100の第1層101側が配置されている。カソード電極100の第2層102側には基材は設けられておらず、第2層102はカソード電極100及び複合体120の外部環境に露出している。カソード電極100は、基材1表面を被覆する被覆膜となっている。カソード電極100と基材1との複合体120では、本発明のカソード電極100を備えることにより、二酸化炭素の還元反応によって、一酸化炭素、エチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応において、水素の選択率が低下し、二酸化炭素還元生成物の選択率が向上する複合体を得ることができる。
【0041】
基材1上に形成されたカソード電極100の第1層101の構造は、中実でもよく、多孔質でもよいが、上記の通り、二酸化炭素の還元反応によって、一酸化炭素、エチレンなどのオレフィン系炭化水素、エタノールなどのアルコールを生成する触媒反応を、長期間にわたってさらに安定的に持続しつつ、二酸化炭素還元生成物の選択率が確実に増加するとともに、水素選択率が確実に減少する点から、多孔質構造が好ましい。カソード電極100の第1層101の多孔質構造は、中実構造のカソード電極に対して、後述する部分還元処理を行うことで形成することができる。なお、図1では、説明の便宜上、第1層101は多孔質構造としては表現していない。
【0042】
基材1は、ガス状の二酸化炭素を円滑に第1層101に供給するために、多孔質構造となっている。また、多孔質構造の基材1としては、例えば、多孔質カーボン、銅(Cu)、ニオブ(Nb)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、上記金属を1種以上含有する合金、ステンレス鋼等の金属からなる多孔質金属等が挙げられる。このうち、ガス状の二酸化炭素が円滑に第1層101に接触でき、ガス状の二酸化炭素であっても、二酸化炭素の還元反応によって、一酸化炭素、エチレンなどのオレフィン系炭化水素、エタノールなどのアルコールを生成する触媒反応を、長期間にわたってさらに安定的に持続できつつ、二酸化炭素還元生成物の選択率が確実に増加するとともに、水素選択率が確実に減少する点から、多孔質カーボンが好ましい。また、基材1の平均厚さは、特に限定されないが、例えば、0.2mm以上1.5mm以下の板材が挙げられる。
【0043】
カソード電極100と基材1との複合体120におけるカソード電極100は、例えば、亜酸化銅の原料である銅イオンと他の金属元素(M1)のイオンを含む共電析溶液に基材1を浸漬して、基材1上に亜酸化銅と他の金属元素(M1)を共電析させて形成する、共電析層である。
【0044】
[カソード電極と基材との複合体の製造方法]
カソード電極と基材との複合体の製造方法例について、以下に説明する。図2は、カソード電極と基材との複合体の製造方法における、電解研磨処理工程の説明図である。図3は、カソード電極と基材との複合体の製造方法における、共電析層形成工程の説明図である。図4は、カソード電極と基材との複合体の製造方法における、部分還元工程の説明図である。
【0045】
カソード電極と基材との複合体の製造方法としては、例えば、(1)多孔質構造を有する基材を用意する工程と、(2)用意した基材に、必要に応じて、電解研磨処理を行う電解研磨処理工程と、(3)電解研磨処理が必要に応じて行われた基材上に、亜酸化銅と、銀、金、亜鉛、カドミウム及びスズからなる群から選択された少なくとも1種の他の金属元素(M1)と、を共電析させて第1層である第1共電析層を形成する、第1共電析層形成工程と、(4)第1共電析層上の少なくとも一部領域に、銅、銀、金、亜鉛、カドミウム及びスズからなる群から選択された少なくとも1種の金属元素からなる構成元素(M2)にて製膜して第2層を形成する、第2層形成工程と、(5)形成された第1共電析層と第2層を、必要に応じて部分還元する、部分還元工程と、を有する。上記工程のうち、(1)の工程と(3)の工程と(4)の工程が必須の工程であり、(2)の工程と(5)の工程が任意の工程である。
【0046】
(1)多孔質構造を有する基材を用意する工程
多孔質構造を有する基材を用意する工程は、上記した基材を準備する工程である。基材の材料種や多孔質構造の空隙率は、カソード電極と基材との複合体に要求される特性に応じて、適宜選択可能である。このうち、多孔質構造を有する基材としては、多孔質カーボンが好ましい。
【0047】
(2)電解研磨処理工程
電解研磨処理工程は、例えば、基材の材料種として金属を使用する場合に、必要に応じて実施する工程である。電解研磨処理工程は、基材表面をヘキサン等の有機溶剤で脱脂した後、洗浄・乾燥した後、図2に示すように、容器10に混酸溶液11を収容し、混酸溶液11に陽極である基材1を浸漬させ、基材1を挟む位置に陰極2を浸漬させ、陽極である基材1と陰極2に電解電位を付与する。陽極である基材1と陰極2に電解電位を付与することで基材1の表面が電解研磨される。基材1の表面が電解研磨されることで、基材1の表面の加工変質層が低減、除去される。混酸溶液11としては、例えば、リン酸と硫酸の混酸水溶液が挙げられる。陰極2としては、例えば、チタンを挙げることができる。
【0048】
(3)第1共電析層形成工程
図3に示すように、銅イオン、他の金属元素(M1)及び有機酸を所定のモル比にて含む共電析水溶液21を容器20に収容し、アルカリ水溶液を用いて共電析水溶液21のpHを所定の範囲に調整する。容器20の外面を浸漬した水等の媒体23の温度を温度制御装置22にて調節することで、共電析水溶液21の温度を50~60℃に調整する。その後、基材1、参照電極(Ag/AgCl)24及び対極(白金電極)25を共電析水溶液21に浸漬させる。次に、電源から供給される電流密度を制御して、基材1上に、亜酸化銅及び他の金属元素(M1)を共電析させることで、第1層である第1共電析層を形成する。なお、共電析させる亜酸化銅及び他の金属元素(M1)の電析量、成分比等は、共電析水溶液21の濃度、成分比、共電析時間、電流密度及び共電析水溶液21のpHを制御することで、調整が可能である。アルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等が挙げられる。pHの設定範囲としては、例えば、9.0~11が挙げられる。有機酸としては、例えば、シュウ酸、酢酸、乳酸、クエン酸が挙げられる。
【0049】
(4)第2層形成工程
第2層の形成方法は、特に限定されず、例えば、第1層である第1共電析層に対してスパッタリング等の製膜処理を行うことで、形成することができる。また、第2層を製膜する方法として、共電析にて共電析層を形成させる第2共電析層形成工程としてもよい。第2共電析層形成工程は、図3に示す第1共電析層形成工程と同様にして行うことができる。すなわち、還元能を有する構成元素(M2)及び有機酸を所定のモル比にて含む共電析水溶液21を容器20に収容し、アルカリ水溶液を用いて共電析水溶液21のpHを所定の範囲に調整する。容器20の外面を浸漬した水等の媒体23の温度を温度制御装置22にて調節する。その後、基材1上に第1共電析層を形成することで得られた複合体1’、参照電極(Ag/AgCl)24及び対極(白金電極)25を共電析水溶液21に浸漬させる。次に、電源から供給される電流密度を制御して、第1共電析層上に、還元能を有する構成元素(M2)を共電析させることで、第2層である第2共電析層を形成する。なお、共電析させる還元能を有する構成元素(M2)の電析量等は、共電析水溶液21の濃度、共電析時間、電流密度及び共電析水溶液21のpHを制御することで、調整が可能である。
【0050】
(5)部分還元工程
図4に示すように、基材1上に第1共電析層と第2層を形成することで得られた複合体1’とアノード極33を、隔膜31を有する2室型の電解セル30に収容した部分還元用水溶液32に浸漬させ、2室型の電解セル30に電源34から電解電位を付加することにより、部分還元処理を行う。部分還元処理を行うことで、第1層である第1共電析層を多孔質化させることができる。アノード極33としては、例えば、白金が挙げられる。部分還元用水溶液32としては、例えば、複合体1’側もアノード極側も、炭酸水素カリウム水溶液が挙げられる。
【0051】
[電解還元装置]
次に、本発明のカソード電極を備えた、電気的に二酸化炭素を一酸化炭素、オレフィン系炭化水素及び/またはアルコールへ還元する電解還元装置、本発明のカソード電極と基材との複合体を備えた、電気的に二酸化炭素を一酸化炭素、オレフィン系炭化水素及び/またはアルコールへ還元する電解装置について、以下に説明する。図5は、本発明のカソード電極を備えた電解還元装置の概要を示す説明図である。
【0052】
図5に示すように、電解還元装置210としては、例えば、3室型電解還元装置が挙げられる。具体的には、電解還元装置210は、例えば、互いに区画されたカソードガス室211、カソード液室212、及びアノード液室213を有する電解セル214を有する。カソードガス室211とカソード液室212とは、ガス拡散電極としてのカソード216によって区画されている。カソード液室212とアノード液室213とはイオン伝導性を有する隔壁217によって区画されている。アノード218は、アノード液室213に配置されている。カソードガス室211には、気体の二酸化炭素が供給される。カソード液室212には、カソード液が供給される。アノード液室213には、アノード液が供給される。アノード218及びカソード216は直流電源219に接続されている。
【0053】
アノード液及びカソード液は、電解質が溶解した水溶液である。電解質は、カリウム、ナトリウム、リチウム、又はこれらの化合物の少なくとも1つを含む。電解質は、例えば、LiOH、NaOH、KOH、LiCO、NaCO、KCO、LiHCO、NaHCO、及びKHCOからなる群の少なくとも1つを含むとよい。
【0054】
カソード216は、ガス拡散電極であり、ガス拡散層221とマイクロポーラス層222とを有する。電解還元装置210では、カソード216として、本発明のカソード電極と基材との複合体が使用され、マイクロポーラス層222が前記複合体の基材に相当する。ガス拡散層221は、二酸化炭素を含む気体を透過するが、カソード液を含む水溶液の透過を抑制する。マイクロポーラス層222は、二酸化炭素を含む気体とカソード液を含む水溶液とを共に透過させる。ガス拡散層221及びマイクロポーラス層222は、それぞれ、平面状に形成されている。ガス拡散層221はカソードガス室211側に配置され、マイクロポーラス層222はカソード液室212側に配置されている。
【0055】
ガス拡散層221としては、例えば、カーボンペーパー、カーボンフェルト、カーボンクロス等の多孔質の導電性基材の表面に、ポリテトラフルオロエチレン等の撥水性被膜を形成したものが挙げられる。導電性基材は、直流電源219の負極に接続され、電子の供給を受ける。マイクロポーラス層222は、ガス拡散層221の表面にカーボンブラック等を用いて形成され、触媒を担持している。電解還元装置210では、マイクロポーラス層222が担持している触媒として、本発明のカソード電極が使用される。
【実施例0056】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
[実施例1]
カソード電極の調製について
第1共電析層形成工程
図3に示す共電析装置にて、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを9.5~10に調整した硫酸銅、硫酸亜鉛を主成分とする共電析水溶液を、媒体である水の温度を温度制御装置にて調節することで50~60℃に温度調整後、基材(多孔質カーボン)、参照電極(Ag/AgCl)、対極(白金電極)を共電析水溶液中に設置し、電流密度を制御して、基材上に銅、亜酸化銅及び亜鉛(水酸化物及び/または酸化物の態様)を共電析させることで、基材上に第1層に対応する第1共電析層を形成した。
【0058】
第2層形成工程
第1層である第1共電析層に対してスパッタリング処理をすることで、第1層である第1共電析層上に、第2層を平均厚さ10nmにて形成し、カソード電極と基材との複合体を製造した。
【0059】
部分還元工程
基材上に形成した第1共電析層と第2層に対して、図4に示す、隔膜を有する2室型の電解セルにて、アノード極として白金、部分還元用水溶液として、第1共電析層を形成した基板側、アノード極側、いずれも炭酸水素カリウム水溶液を用いた電解により、第1共電析層に対して部分還元処理を行い、第1共電析層を多孔質化させた。
【0060】
[実施例2]
スパッタリング処理の条件を制御することで、第層を平均厚さ100nmにて形成した以外は、実施例1と同様にして、カソード電極と基材との複合体を製造した。
【0061】
[実施例3]
スパッタリング処理の条件を制御することで、第2層を平均厚さ200nmにて形成した以外は、実施例1と同様にして、カソード電極と基材との複合体を製造した。
【0062】
[比較例1]
第2共電析層形成工程を実施せずに保護層である第2層を形成しない以外は、実施例1と同様にして、カソード電極と基材との複合体を製造した。
【0063】
実施例及び比較例の他の金属元素(M1)、還元能を有する構成元素(M2)、第2層の平均厚さ、及び第1層の銅元素のモル数/酸素元素のモル数の値(Cu/O比)を下記表1に示す。
【0064】
評価項目
[安定性試験]
後述するように測定した二酸化炭素還元生成ガス合計選択率の時間変化を測定した。二酸化炭素還元生成ガス合計選択率が降下を始めた時点を基準として、前記基準の時点から二酸化炭素還元生成ガス合計選択率が基準の95%まで低下するまでの時間を安定性の指標とした。
【0065】
[二酸化炭素還元生成ガス合計選択率(%)]
電解セルの出口ガス中に含まれる生成物の濃度とガス流量から、単位時間当たりの生成物のモル数、及び必要な電子のモル数を算出した。一方、電位印加装置の設定電流値から、単位時間当たりに電解セルを通過した電子のモル数を算出した。前者の後者に対する割合を二酸化炭素還元生成ガス合計選択率(%)として評価した。出口ガス中に含まれる生成物の濃度は、ガスクロマトグラフ(型番:Agilent 990マイクロGC)を用いて測定した。ガス流量はマスフローメーターを用いて測定した。二酸化炭素還元生成ガス合計選択率とは、生成物のうち二酸化炭素から還元されたガス成分の選択率の合計値とした。なお、ガス成分としては、エチレン、メタン、一酸化炭素、エタン等が挙げられる。
【0066】
[水素選択率(%)]
二酸化炭素還元生成ガス合計選択率の測定における生成物のうち、水素の割合を選択率(%)として測定した。
【0067】
実施例及び比較例の測定結果を下記表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
上記表1に示すように、触媒層として機能する第1層上に保護層として機能する第2層を被覆した実施例1~3では、二酸化炭素の還元反応によってエチレンや一酸化炭素を生成する触媒反応において、水素選択率が低下し、二酸化炭素還元生成ガス合計選択率が向上した。
【0070】
特に、第2層の平均厚さが100nm~200nmの範囲にある実施例2~3では、長期間にわたって前記触媒反応を安定して持続できる安定性が向上した。また、Cu/O比が1.5~3.6の範囲にある実施例2~3では、安定性が向上した。また、実施例1~3では、還元能を有する構成元素(M2)として銀元素を使用することで、二酸化炭素還元生成ガス合計選択率(%)と水素選択率(%)がさらに向上した。
【0071】
一方で、触媒層として機能する第1層上に保護層として機能する第2層を形成しなかった比較例1では、上記触媒反応において、水素選択率が十分に低下せず、優れた二酸化炭素還元生成ガス合計選択率が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のカソード電極は、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が高効率にて持続できるので、大気中の二酸化炭素を吸収、回収して、二酸化炭素から産業上有用な有機化合物を生成する分野で利用価値が高い。
【符号の説明】
【0073】
1 基材
100 カソード電極
101 第1層
102 第2層
120 複合体
図1
図2
図3
図4
図5