(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023015303
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】酸素生成用透明電極、その製造方法、それを備えたタンデム型水分解反応電極、及びそれを用いた酸素発生装置
(51)【国際特許分類】
C25B 11/052 20210101AFI20230124BHJP
C25B 11/067 20210101ALI20230124BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20230124BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20230124BHJP
C25B 1/55 20210101ALI20230124BHJP
C25B 9/50 20210101ALI20230124BHJP
C25B 11/087 20210101ALI20230124BHJP
【FI】
C25B11/052
C25B11/067
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B1/55
C25B9/50
C25B11/087
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022183098
(22)【出願日】2022-11-16
(62)【分割の表示】P 2019535721の分割
【原出願日】2018-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2017154524
(32)【優先日】2017-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成26年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願)
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】513056835
【氏名又は名称】人工光合成化学プロセス技術研究組合
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西山 洋
(72)【発明者】
【氏名】東 智弘
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 豊
(72)【発明者】
【氏名】山田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】堂免 一成
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 洋一
(72)【発明者】
【氏名】秋山 誠治
(57)【要約】
【課題】透明度が高く、かつ従来のTa
3N
5電極よりも電極性能が改善された、酸素生成用透明電極を提供する。
【解決手段】水分解反応において酸素発生側電極として使用されるTa3N5を含む酸素生成用透明電極であって、600nm~900nmの光の透過率が80%以上、かつAM1.5G照射下、1.23V
RHEでの光電流密度が3mA/cm
2以上である、酸素生成用透明電極。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分解反応において酸素発生側電極として使用されるTa3N5を含む酸素生成用透明電極であって、波長600nm~900nmの光の透過率が80%以上、かつAM1.5G照射下、1.23VRHEでの光電流密度が3mA/cm2以上である、酸素生成用透明電極。
【請求項2】
請求項1に記載の酸素生成用透明電極と、波長600nmよりも長波長側に吸収ピークを有する水素生成用電極を組み合わせた、タンデム型水分解反応電極。
【請求項3】
請求項1に記載の酸素生成用透明電極並びに/又は請求項2に記載されたタンデム型水分解反応電極を備える、水分解装置。
【請求項4】
化合物の合成方法であって、
請求項3に記載の水分解装置により水を分解して得られた水素及び/又は酸素を反応させるステップ、を含む、合成方法。
【請求項5】
前記化合物が、低級オレフィン、アンモニア又はアルコールである、請求項4に記載の合成方法。
【請求項6】
請求項3に記載の水分解装置、及び触媒を備えた反応器、を有する合成装置であって、
前記水分解装置から得られる水素と、他の原料と、を前記反応器に導入し、反応器内で反応させる、合成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素生成用透明電極、その製造方法、前記酸素生成用透明電極を備えたタンデム型水分解反応電極、及び前記酸素生成用透明電極を用いた酸素発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー資源の大半を占める化石燃料は有限であることから、光エネルギーを利用して、水を水素と酸素に分解することでエネルギー源とする研究が進められている。その際には光触媒が用いられることが通常である。
現在研究が進められている光触媒の具体的形態の一つとして、導電性の酸化物、酸窒化物、窒化物といった光半導体の表面に助触媒を担持させた水分解用電極がある。
【0003】
水分解用電極は水素生成用電極と酸素生成用電極があり、そのうち酸素生成用の光触媒として窒化タンタル(Ta3N5)を用いたものが提案されている。例えば非特許文献1では、Ta鏡面基板上に窒化タンタルの前駆体である酸化タンタル(TaOx)の薄膜を準備し、100%アンモニアガスにより窒化することで得られた、Ta鏡面基板とTa3N5の積層体が開示される。一般的に、100%アンモニアガスを用いる窒化プロセスは、細かい条件検討を行わなくても窒化反応が進行するため、都合が良いと考えられている。
【0004】
また、非特許文献2には、石英基板とタンタルをドープした透明導電膜との積層体を準備し、該積層体上に窒化タンタルの前駆体Ta(N(CH3)2)5の原子層を堆積させた後、100%アンモニアガスにより窒化することで得られた、石英基板とTa3N5の透明積層体が開示される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M.Zhong,et al., Angew.Chem.Int.Ed.,2017,56,4739-4743
【非特許文献2】H.Hajibabaei,et al.,Chem.Science,2016,7,6760
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記開示された非特許文献1のTa3N5を用いた積層体は、Ta鏡面基板を用いることから、透明の酸素生成用電極とすることは不可能である。また上記開示された非特許文献2のTa3N5を用いた積層体は、前駆体膜を原子堆積により行うため、Ta3N5の厚膜を得るためには相当の時間を要し、工業的には不可能に近い。また、窒化の際に前駆体のカーボン源が混入するためTa3N5膜の純度が低く、透過率が低い。
本発明は、透明度が高く、かつ従来のTa3N5電極よりも電極性能が改善された、酸素生成用透明電極を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、透明でかつ高い電極性能を有するTa窒化物電極を提供すべく鋭意検討を重ねた結果、Ta窒化物前駆体からTa窒化物への窒化プロセスにおいて、アンモニアに加えキャリアガスを含む混合ガスにより窒化を行うことで、所望のTa窒化物電極が得られることに想到した。更に、透明基板上においてTa窒化物前駆体との間に、窒化物半
導体層を設けることでも、所望のTa窒化物電極が得られることに想到した。
本発明は以下の要旨を含む。
【0008】
<1>透明基板上にTa窒化物層を有する、酸素生成用透明電極の製造方法であって、
透明基板上にTa窒化物前駆体層を形成するステップ、及び
アンモニア及びキャリアガスを含む混合ガスにより前記Ta窒化物前駆体層を窒化するステップ、を含む、製造方法。
<2>前記Ta窒化物層がTa3N5層である、<1>に記載の製造方法。
<3>前記透明基板がサファイア基板又はSiO2基板である、<1>又は<2>に記載の製造方法。
<4>前記キャリアガスが窒素ガスである、<1>~<3>の何れかに記載の製造方法。<5>透明基板上に、窒化物半導体層、及びTa窒化物層がこの順に積層された、酸素生成用透明電極。
<6>前記Ta窒化物層がTa3N5層である、<5>に記載の酸素生成用透明電極。
<7>前記窒化物半導体層がGaN層である、<5>又は<6>に記載の酸素生成用透明電極。
<8>前記透明基板がサファイア基板又はSiO2基板である、<5>~<7>の何れかに記載の酸素生成用透明電極。
<9>波長600nm~900nmの光透過率が80%以上である、<5>~<8>の何れかに記載の酸素生成用透明電極。
<10><1>~<4>の何れかに記載の製造方法により製造された酸素生成用透明電極と、水素生成用電極を積層するステップ、を含む、タンデム型水分解反応電極の製造方法。
<11><5>~<9>の何れかに記載の酸素生成用透明電極と水素生成用電極とを積層させた、タンデム型水分解反応電極。
<12>水分解反応において酸素発生側電極として使用されるTa3N5を含む酸素生成用透明電極であって、600nm~900nmの光の透過率が80%以上、かつAM1.5G照射下、1.23VRHEでの光電流密度が3mA/cm2以上である、酸素生成用透明電極。
<13><12>に記載の酸素生成用透明電極と、波長600nmよりも長波長側に吸収ピークを有する水素生成用電極を組み合わせた、タンデム型水分解反応電極。
<14>透明基板上に、窒化物半導体層、及びTi窒化物層がこの順に積層された、酸素生成用透明電極。
<15>前記窒化物半導体層がGaN層である、<14>に記載の酸素生成用透明電極。<16>前記透明基板がサファイア基板又はSiO2基板である、<14>又は<15>に記載の酸素生成用透明電極。
<17><5>~<9>、<12>及び<14>~<16>の何れかに記載の酸素生成用透明電極を備える、酸素発生装置。
<18><5>~<9>、<12>及び<14>~<16>の何れかに記載の酸素生成用透明電極並びに/又は<11>若しくは<13>に記載されたタンデム型水分解反応電極を備える、水分解装置。
<19>化合物の合成方法であって、
<18>に記載の水分解装置により水を分解して得られた水素及び/又は酸素を反応させるステップ、を含む、合成方法。
<20>前記化合物が、低級オレフィン、アンモニア又はアルコールである、<19>に記載の合成方法。
<21><18>に記載の水分解装置、及び触媒を備えた反応器、を有する合成装置であって、
前記水分解装置から得られる水素と、他の原料と、を前記反応器に導入し、反応器内で反応させる、合成装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、透明度が高く、かつ従来のTa3N5電極よりも電極性能が改善された、酸素生成用透明電極を得ることができる。本発明により提供される酸素生成用透明電極は電極性能が非常に高い上、透明度が高いことから、水素生成用電極との間でタンデム型水分解反応電極を形成することができる。このような形態により、両電極を平面状に並べて配置する必要がないことから、入射する太陽光等の光に対し、平面状に配置した場合と比較して約2倍の効率で水分解が可能となり、これを用いた装置を得ることもできる。
また本発明の別の効果としては、透明基板上に透明な窒化タンタルの層を設けた半導体装置用の基板を得ることもできる。
また、本発明のさらなる効果としては、Ti窒化物を用いた酸素生成用電極において、より効率的に太陽光を利用できる酸素生成用透明電極を得ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1で作成した透明光電極の、600nm~900nmでの透過率を示す。
【
図2】実施例2で作成した透明光電極の、600nm~900nmでの透過率を示す。
【
図3】実施例1で測定した、アンモニアガス100%の条件で窒化して得た集積体の透明光電極のボルタモグラムを示す。
【
図4】実施例1で測定した、アンモニアガスと窒素ガスからなる混合ガス(NH
3:N
2=3:7)で窒化して得た集積体の透明光電極のボルタモグラムを示す。
【
図5】アンモニアガスと窒素ガスの混合ガスの比率と、1.23V
RHEでの光電流密度との関係を示す。
【
図6】実施例2で測定した、アンモニアガス100%の条件で窒化して得た集積体の透明光電極のボルタモグラムを示す。
【
図7】実施例2で測定した、アンモニアガスと窒素ガスからなる混合ガス(NH
3:N
2=3:7)で窒化して得た集積体の透明光電極のボルタモグラムを示す。
【
図8】アンモニアガスと窒素ガスの混合ガスの比率と、1.23V
RHEでの光電流密度との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明につき詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
<酸素生成用透明電極1>
以下、本発明の第1実施形態に係る酸素生成用透明電極について説明する。
本発明の第1実施形態に係る酸素生成用透明電極は、透明基板上にTa窒化物層を有する、酸素生成用透明電極である。透明基板とTa窒化物層との間に透明な窒化物半導体層を有してもよい。
【0013】
(電極の透過率)
本実施形態の酸素生成用透明電極は透明であり、具体的に透明とは、波長600nm以上900nm以下の光の透過率が通常80%以上であり、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましい。上限は通常100%である。また、より好ましくは、波長600nmから1200nmにおいて上述の透過率になっていることである。ここでいう波長600nm以上900nm以下の光の透過率が80%以上とは、波長600nm以上900nm以下の光の平均透過率が80%以上であることを意味するが、より好ましくは、特異的な点を除きすべての波長で
80%以上であることであり、もっとも好ましくは、波長600nm以上900nm以下の範囲で透過率が最も低くなる点が80%以上であることである。
本実施形態の酸素生成用透明電極は透明度が高いことから、水素生成用電極との間でタンデム型水分解反応電極を形成する形態で使用することが好ましい。タンデム型とすることにより、両電極を平面状に並べて配置する必要がないことから、入射する太陽光等の光に対し、平面状に配置した場合と比較して約2倍の効率で水分解が可能となる。
【0014】
(透明基板)
本実施形態に用いられる透明基板は、Ta窒化物層を支持する透明な支持体である。また、水分解電極として使用されることから、幅広いpH領域においても化学的に安定な絶縁基板であることが好ましい。透明基板における透明性は上記透明電極における透明と同様であることが好ましいが、更に可視光全領域において光の透過率が80%以上であってよく、90%以上であってよい。
透明基板は、透明であり、且つTa窒化物層を支持する限り特段限定されない。透明基板を構成する材料としては、具体的にはSiO2(石英)、サファイアを含む透明アルミナ、窒化シリコン、窒化アルミニウム、窒化ガリウム(GaN)自立基板、シリコンカーバイド(SiC)、ダイヤモンド、ハロゲン化アルカリおよびハロゲン化アルカリ土類金属などが挙げられる。これらの中でも、SiO2又はサファイアであることが好ましい。
【0015】
後述する窒化物半導体層を備える場合には、窒化物半導体層を設けることが容易な透明基板を選択してもよい。例えば窒化物半導体層がGaNである場合には、GaN層の設け易さから透明基板を構成する材料はサファイアを含む透明アルミナであることが好ましく、特にサファイアであることが好ましい。
【0016】
透明基板の厚さは特段限定されないが、厚すぎることで透明性が低下する傾向にあり、また薄過ぎることで支持体としての強度が不十分になることから、通常10μm以上、好ましくは100μm以上であり、また通常5mm以下、好ましくは1mm以下である。
【0017】
(Ta窒化物層)
透明基板上に形成されるTa窒化物層の厚みは特段限定されないが、厚すぎることで透明性が低下する傾向にあり、また薄過ぎることで十分な発電性能を有しない場合があるため、通常50nm以上、好ましくは100nm以上であり、また通常2μm以下、好ましくは1μm以下である。
【0018】
透明基板上に形成されるTa窒化物層は、Ta窒化物のみから形成されてもよいが、本発明の効果を阻害しない範囲で、不純物がドープされていてもよい。
【0019】
本実施形態において、Ta窒化物層を構成するTa窒化物としては、特に制限されず、例えば、θ-TaN、ε-TaN、Ta3N5等を挙げることができる。これらの中でも、高い光透過率、光半導体特性、高い光触媒能の観点から、Ta3N5であることが好ましい。
【0020】
(窒化物半導体層)
窒化物半導体層は、透明基板とTa窒化物層との間に配置され、Ta窒化物前駆体の窒化の際には透明基板の透明性を担保し得る。窒化物半導体層は、励起キャリア弁別層として動作することが好ましい。励起キャリア弁別について、以下説明する。
酸素生成用透明電極(Ta窒化物透明電極)表面では、透明電極表面に光が照射されると、光励起キャリアである電子と正孔が生じる。生成した光励起キャリアの正孔全てが速やかに水と反応して酸素を生成すれば、電極触媒の性能が無駄になることなく使用されるが、多くの場合そのようにはならず、ある割合の生成した光励起キャリアは、水と反応せ
ずに電子と正孔が再結合してしまい、電極の性能を低下させる。この励起キャリアを速やかに分離し、再結合を抑制する役目を果たすのが励起キャリア弁別層である。
【0021】
窒化物半導体層を設けることで、基板の透明性を担保するのみならず、酸素生成能力が大幅に改善され得る。窒化物半導体層は、上記のとおり光励起キャリアである電子と空孔の再結合過程を効果的に抑制することにより、透明光触媒電極の性能を著しく向上させたのではないかと、本発明者は量子力学的理論計算から推測する。
【0022】
窒化物半導体層としては、透明な窒化物半導体であればよいが、電子バンド構造的に、Ta窒化物の価電子帯上端よりも深いエネルギー準位に価電子帯上端を持ち、また導電帯下端は、Ta窒化物の価電子帯上端と導電帯下端の間に位置していることが好ましい。具体的にはGaN、AlGaN、InGaN、InAlGaNなどがあげられる。これらの窒化物半導体層にドーパントをドーピングし、内部のキャリア濃度を制御してもよい。ドーパントとしては、例えばMg、Si、Zn、Hg、Cd、Be、Li、Cがあげられ、単独もしくは複数種類を用いてもよい。窒化物半導体層の厚みは、使用する光の強度により適宜設定できるため特段限定されないが、通常100nm以上、好ましくは500nm以上とすると、酸素生成に使用する波長の光を十分吸収しやすくなるため好ましい。また、上限値としては、特に限定されないが、通常10μm以下、好ましくは6μm以下である。これは、ある程度以上厚くしても、酸素生成に使用される波長の光が届かない部分は酸素生成に使用されないこと、及び再結合により失われる電荷を減らすことができること、から好ましい。
この窒化物半導体層は、ダイヤモンド又はSiCの層と置き換えてもよく、ダイヤモンド又はSiCに置き換えた時の好ましい膜厚や、エネルギー準位等は窒化物半導体と同様である。
【0023】
本実施形態の酸素生成用透明電極は、必要に応じ助触媒を担持してもよい。助触媒を担持させることで、酸素生成能力が向上し得る。助触媒については、既知のものを適宜用いることができ、また担持させる方法も既知の方法を用いることができ、酸素生成用透明電極の透明性を阻害しない範囲で助触媒を担持させることができる。
具体的な助触媒としてはIrOx、NiOx、FeOx、CoOxなどの金属酸化物、NiCoOx、NiFeCoOxなどの金属複合酸化物、およびリン化コバルトやリン酸コバルト、およびホウ化コバルトなどのコバルト塩などが挙げられる。
【0024】
(電極性能)
本実施形態に係る酸素生成用透明電極は高い透明性を有することは上記説明したとおりであり、これに加えて、高い電極性能を有する。具体的には、AM1.5G照射下、1.23V vs. RHE(以下、1.23VRHEとも表記する)の条件下で3mA/cm2以上、好ましくは4mA/cm2以上の光電流密度を生成するという、高い電極性能を有する。
【0025】
<酸素生成用透明電極1の製造方法>
以下、本発明の第1実施形態に係る酸素生成用透明電極の製造方法について説明する。
本実施形態に係る製造方法は、透明基板上にTa窒化物前駆体層を形成する前駆体形成ステップ、及びアンモニア及びキャリアガスを含むガスにより前記Ta窒化物前駆体層を窒化する窒化ステップ、を含む。必要に応じ、透明基板とTa窒化物前駆体との間に窒化物半導体層を形成する窒化物半導体層形成ステップを有してもよい。
【0026】
(窒化物半導体層の形成)
透明基板上に窒化物半導体層を形成するステップは特段の制限はなく、既知の方法により窒化物半導体を透明基板上に形成すればよい。窒化物半導体を形成する方法としては、
例えばMOCVDなどの気相成長法であってよく、スパッタリングや電子ビームなどの物理気相成長であってよい。
【0027】
(Ta窒化物前駆体層の形成)
前駆体形成ステップは、透明基板上に、又は上記窒化物半導体層を有する場合には透明基板と窒化物半導体層の積層体上に、Ta窒化物前駆体層を形成するステップである。
Ta窒化物前駆体層は、窒化することでTa窒化物、好ましくはTa3N5となる化合物であれば特段限定されず、例えば金属タンタル、アモルファスのタンタル、TaOx、タンタル錯体、TaCl5、Ta2O5などがあげられる。このうち好ましくは、炭素のように分解後に不純物として層内に残ることなく、水や塩素として層内から蒸発する、タンタル酸化物、タンタルハロゲン化物、金属タンタルである。
Ta窒化物前駆体層の厚みは、窒化後のTa窒化物層の所望の厚みに応じて適宜設定される。
【0028】
Ta窒化物前駆体層を形成する方法は特段の制限はなく、窒化物半導体層と同様に例えばMOCVDなどの気相成長法であってよく、MBE、PLD、スパッタリングや電子ビームなどの物理気相成長であってよい。また、インクジェットプリンティング、スクリーンプリンティング、スピンコートなどインクを使用した塗布法によりTa窒化物前駆体層を形成してもよい。使用するTa窒化物前駆体の原料は、入手可能な市販品を用いることができる。Ta窒化物前駆体層を形成する際の形成温度は、窒化が進行しない温度であれば特段限定されず、通常、1000℃以下の温度であってよい。また、また雰囲気も特段限定されず、大気雰囲気下であってよく、窒素ガス、アルゴンなどの不活性雰囲気下であってよい。形成の際の圧力も特段限定されず、大気圧下であってよく、減圧下であってよく、加圧下であってよく、通常0Pa以上、10MPa以下である。
【0029】
(Ta窒化物前駆体層の窒化)
窒化ステップは、Ta窒化物前駆体層を窒化してTa窒化物層とするステップである。
本実施形態では、窒化ステップにおいてアンモニア及びキャリアガスを含む混合ガスによりTa窒化物前駆体層を窒化する。従来、Ta窒化物層を形成するための窒化には、アンモニア100%のガスを用いて窒化を行っていた。本実施形態では、アンモニアに加え、キャリアガスとの混合ガスを用いることで、透明であり、且つ酸素生成能が高いTa窒化物層を得ることに想到した。
【0030】
混合ガス中のキャリアガスは、窒素ガス、アルゴンなどの不活性ガスであることが好ましく、窒素ガスであることが好ましい。混合ガスをアンモニアと窒素とで構成する場合には、混合ガス中のアンモニアと窒素との体積比は特段限定されないが、通常99:1~1:99であり、10:90~90:10であってよく、15:85~70:30であってよく、20:80~50:50であってよい。
なお、混合ガス中には、本発明の効果を阻害しない範囲で、アンモニア、窒素、アルゴン以外のガスを含んでもよいが、その割合は5体積%以下であることが好ましく3%以下、2%以下、1%以下であってよい。
【0031】
窒化ステップにおける窒化温度は、通常500℃以上であり1000℃以下であってよい。また通常950℃以下であり、900℃以下であってよい。窒化時間も特段限定されず、通常1分以上であり、1時間以上であってよい。また通常10時間以下であり、4時間以下であってよい。
【0032】
<酸素生成用透明電極2>
以下、本発明の第2実施形態に係る酸素生成用透明電極について説明する。
本発明の第2実施形態に係る酸素生成用透明電極は、上記第1実施形態に係る酸素生成
用透明電極のTa窒化物層に代えて、Ti窒化物層を有する酸素生成用透明電極であり、透明基板とTa窒化物層との間に窒化物半導体層を有している。
【0033】
(Ti窒化物層)
透明基板上に形成されるTi窒化物層の厚みは特段限定されないが、厚すぎることで透明性が低下する傾向にあり、また薄過ぎることで十分な発電性能を有しない場合があるため、通常50nm以上、好ましくは100nm以上であり、また通常2μm以下、好ましくは1μm以下である。
【0034】
透明基板上に形成されるTi窒化物層は、Ti窒化物(TiN)のみから形成されてもよいが、本発明の効果を阻害しない範囲で、不純物がドープされていてもよい。
【0035】
第2実施形態に係る酸素生成用透明電極の「電極の透過率」、「透明基板」、「窒化物半導体層」及び「電極性質」の説明としては、第1実施形態に係る酸素生成用透明電極の「電極の透過率」、「透明基板」、「窒化物半導体層」及び「電極性能」の説明を援用する。すなわち、Taとの記載をTiとして読み替えればよい。
【0036】
この第2実施形態の特徴は、透明基板とTi窒化物層との間に窒化物半導体層を有していることであり、これにより、励起キャリアを速やかに分離し、再結合を抑制することができるため、Ti窒化物を用いた酸素生成用透明電極の効率を向上することができるのである。
【0037】
<酸素生成用透明電極2の製造方法>
本発明の第2実施形態に係る酸素生成用透明電極の製造方法について説明する。
本実施形態に係る製造方法は、透明基板とTi窒化物層との間に窒化物半導体層を形成できる限り特に限定されない。より詳細には、本発明の第1実施形態に係る酸素生成用透明電極の製造方法と同様に透明基板上にTi窒化物前駆体層を形成する前駆体形成ステップ、及びアンモニア及びキャリアガスを含むガスにより前記Ti窒化物前駆体層を窒化する窒化ステップ、を含む。本実施形態においては、透明基板とTi窒化物前駆体との間に窒化物半導体層を形成する窒化物半導体層形成ステップが必須となる。
【0038】
なお、本発明の第2実施形態に係る酸素生成用透明電極の製造方法における「窒化物半導体層の形成」及び「Ti窒化物前駆体層の窒化」の説明としては、それぞれ、本発明の第1実施形態に係る酸素生成用透明電極の製造方法での「窒化物半導体層の形成」及び「Ta窒化物前駆体の窒化」の説明を援用する。
【0039】
(Ti窒化物前駆体層の形成)
前駆体形成ステップは、透明基板上に、又は上記窒化物半導体層を有する場合には透明基板と窒化物半導体層の積層体上に、Ti窒化物前駆体層を形成するステップである。
Ti窒化物前駆体層は、窒化することでTi窒化物(TiN)となる化合物であれば特段限定されず、例えば金属チタン、TiOx、チタン錯体、TiCl4などがあげられる。このうち好ましくは、炭素のように分解後に不純物として層内に残ることなく、水や塩素として層内から蒸発する、チタン酸化物、チタンハロゲン化物、金属チタンである。
Ti窒化物前駆体層の厚みは、窒化後のTi窒化物層の所望の厚みに応じて適宜設定される。
【0040】
Ti窒化物前駆体層を形成する方法は特段の制限はなく、窒化物半導体層と同様に例えばMOCVDなどの気相成長法であってよく、MBE、PLD、スパッタリングや電子ビームなどの物理気相成長であってよい。また、インクジェットプリンティング、スクリーンプリンティング、スピンコート、浸漬などインクを使用した塗布法によりTi窒化物前
駆体層を形成してもよい。使用するTi窒化物前駆体の原料は、入手可能な市販品を用いることができる。Ti窒化物前駆体層を形成する際の形成温度は、窒化が進行しない温度であれば特段限定されず、通常、1000℃以下の温度であってよい。また、また雰囲気も特段限定されず、大気雰囲気下であってよく、窒素ガス、アルゴンなどの不活性雰囲気下であってよい。形成の際の圧力も特段限定されず、大気圧下であってよく、減圧下であってよく、加圧下であってよく、通常0Pa以上、10MPa以下である。
【0041】
<水分解反応電極>
本発明の第1の実施形態又は第2実施形態に係る酸素生成用透明電極は、対極である水素生成用電極と組み合わせて設置することで、水分解反応電極を形成することができる。
【0042】
(水素生成用電極)
水素生成用電極としては、公知のものを用いることができる。
水素生成用電極は、600nmよりも長波長側に吸収端波長を持つp型の半導体光電極である限り特段限定されず、具体的にはセレン化銅インジウムガリウム(CuInxGa1―xSe2)、銅亜鉛硫化スズ(Cu2ZnSnS4)、デラフォサイト(CuFeO2)ランタンチタン銅酸硫化物(La5Ti2CuS5O7)、硫化インジウム銅(CuInS2)などのCu(I)を組成に持つ多元系や、テルル化カドミウム(CdTe)などのII-VI族系、ヒ化ガリウム(GaAs)などのIII-V系、およびp-型シリコン(p-Si)などが挙げられる。これらの半導体光電極の表面にCdS、In2S3、ZnSなどを修飾することで電極表面にp-n接合を形成し、ついでPtやRuなどに代表される水素生成を促進する助触媒を固定化して水分解電極に使用することが好ましい。
【0043】
<タンデム型水分解反応電極>
以下、本発明の第3実施形態に係るタンデム型水分解反応電極について説明する。
本発明の第1又は第2実施形態に係る酸素生成用透明電極は、波長600nm~900nmにおける光透過率が80%以上、好ましくは90%以上であることから、かかる酸素生成用透明電極と水素生成用電極とを積層させた、タンデム型水分解反応電極とすることができる。すなわち、本発明の第1又は第2実施形態に係る酸素生成用透明電極は、水素生成用電極が使用する波長600nm以上の長波長の光を充分に透過させることから、酸素生成用透明電極と水素生成用電極とを積層させた場合に、外部からの入射光のうち600nmより短波長の光は酸素生成用透明電極によって酸素を生成し、酸素生成用透明電極で使用しない波長600nm以上の長波長光は透過させ、透過させた光を水素生成用電極が使用する。そのためタンデム型の水分解反応電極とする場合、酸素生成用透明電極は、水素生成用電極よりも入射光側に配置される。
本実施形態に係る酸素生成用透明電極を用いることで、両電極を平面状に並べて配置する必要がないことから、入射する太陽光等の光に対し、平面状に配置した場合と比較して約2倍の効率で水分解が可能となる。
【0044】
以上のように、本発明によれば、透明性が高く、高い電極性能を有する、酸素生成用透明電極を提供することが可能となり、水分解用電極等として高い効率で酸素を製造することができる。本発明によって提供される酸素生成用透明電極は、1.23V vs. RHEにおいて5.7mA/cm2の光電流密度を疑似太陽光(AM1.5G)照射下で生成可能であり、タンデム型水分解用セルに適用した場合、理論的には太陽光エネルギー変換効率7%を達成可能である。
【0045】
<酸素発生装置>
本発明の第4実施形態に係る酸素発生装置は、本発明の第1又は第2実施形態に係る酸素生成用透明電極を備える。前記酸素生成用透明電極を用いることにより、太陽エネルギ
ーを効率的に用いて水から酸素を生成することができる。
【0046】
<水分解装置>
以下、本発明の第5実施形態に係る水分解装置は、本発明の第1若しくは第2実施形態に係る酸素生成用透明電極及び/又は本発明の第3実施形態に係るタンデム型水分解反応電極を備える。前記酸素生成用透明電極及び/又はタンデム型水分解反応電極を用いることにより、太陽エネルギーを効率的に用いて水を分解する装置を作ることができる。
【0047】
<化合物の合成方法>
以下、本発明の第6実施形態に係る化合物の合成方法について説明する。
本実施形態に係る化合物の合成方法は、上記水分解装置により水を分解して得られた水素及び/又は酸素を反応させるステップ、を含む。
【0048】
本実施形態に係る合成方法で利用する合成反応は特に制限されず、合成によって得られる前記化合物は、無機化合物であってもよく、有機化合物であってもよい。無機化合物としては、例えば、アンモニア、過酸化水素等を挙げられる。有機化合物としては、炭素数2~4程度の低級オレフィン、アルコール等が挙げられる。
【0049】
より具体的には、例えば、上記水分解装置により水を分解して得られた水素を窒素と反応させることにより、アンモニアを合成することができる。また、水素を二酸化炭素と反応させることにより、化学原料品であるメタノールを製造することができる。さらには、MTO反応により、得られたメタノールからエチレン及びプロピレンを合成することができる。
【0050】
一方、上記水分解装置により水を分解して得られた酸素は、例えば紫外線のようなエネルギーを照射することにより、オゾンを合成することができる。また、酸素を光触媒の存在下で水と反応させることにより、過酸化水素を合成することができる。
【0051】
なお、上記水分解装置により水を分解して得られた酸素は、上記合成方法の他、例えばオゾンや過酸化水素の製造の他、製鋼、非鉄金属の精錬、ガラス原料の溶解や鋼材の切断、ロケット燃料、化学品の酸化、医療用酸素などの用途に使用できる。
【0052】
<化合物の合成装置>
以下、本発明の第7実施形態に係る化合物の合成装置について説明する。
本実施形態に係る化合物の合成装置は、水分解装置、及び触媒を備えた反応器、を有する合成装置であって、前記水分解装置から得られる水素と、他の原料と、を前記反応器に導入し、反応器内で反応させる装置である。
このような構成により、得られた水素を他の原料とともに、それぞれの反応に適した触媒を有する反応器中に導入し、それらを反応器中で反応させることにより、所望の化合物を合成することができる。
【0053】
(他の原料)
本実施形態において、他の原料は特に限定されず、所望の化合物に応じて適宜選択すればよい。具体的には、例えば二酸化炭素、一酸化炭素、及び窒素が挙げられる。
得られた水素と二酸化炭素又は一酸化炭素との反応により、例えば炭素数2~4程度の低級オレフィンを合成することができる。また、得られた水素と窒素との反応により、アンモニアを合成することができる。
このような他の原料は、例えば予め原料供給装置に充填しておき、必要に応じて前記反応器に導入すればよい。
【0054】
(反応器)
本実施形態において、反応器は、内部に触媒を備え、かつ、前記水分解装置から得られた水素と他の原料を内部で反応させて所望の化合物を合成することができる限り特に限定されず、公知のものを使用することができる。
多くの反応が化学平衡を利用した反応になるため、反応器中に分離膜を設置し、得られた反応生成物を反応器から取り出すことにより、より高効率で所望の化合物を得ることができる。
また、前記触媒は、反応器中で行われる合成反応に応じて公知の触媒から適宜選択し得る。
【0055】
本発明の第1又は第2実施形態に係る酸素生成用透明電極を利用することにより、いわゆる人工光合成による水の酸素と水素への分解を容易になし得る。また、水分解により生じた水素を用いて、効率的に各種化合物を得ることができる。
【実施例0056】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲が実施例のみに限定されないことはいうまでもない。
<実施例1>
(作製例1:絶縁性の透明基板上におけるTa3N5光触媒の作製)
RFマグネトロンスパッタを用いて、厚さ0.4mmで波長200mm以上の光で93%程度の透過率であるSiO2透明基板上へTa3N5前駆体であるTaOxを積層させ、集積体A(Ta3N5前駆体薄膜/SiO2)を得た。TaOxの積層には、Eiko社製ES-250Lを使用し、膜厚500nmでTa3N5前駆体薄膜を積層した。
集積体Aを電気管状炉にて、アンモニアガスと窒素ガスからなる混合ガスを用いて、10:0、5:5、3:7、2:8の混合率での気流下にて、750-950℃で1時間窒化処理することで集積体B(Ta3N5光触媒膜:膜厚500nm/SiO2)を得た。
UV-vis(紫外・可視)透過スペクトル測定、UV-vis反射スペクトル測定およびXRD(X-ray diffraction)測定により評価を行い、得られた光触媒膜が窒化タンタル(Ta3N5)であることを確認した。なお、UV-vis透過スペクトル測定およびUV-vis反射スペクトル測定には、日本分光社製紫外・可視分光光度計V-670を、XRD測定にはRigaku社製SmartLab X-ray diffractmeterをそれぞれ用い、以下の実施例においても同様の装置を用いた。
【0057】
(助触媒形成)
トリス(2-エチルヘキサン酸)鉄(III)と2-エチルヘキサン酸ニッケル(II)をヘキサンに溶解させ、この溶液を上記作製例1にて製造した集積体Bの光触媒薄膜の表面に滴下した。紫外線を照射して光触媒層表面にNi-Fe酸化物系助触媒を担持させた。そののち、ヘキサン溶媒で光触媒層表面を洗浄した。
【0058】
(透明光電極の作製)
上記作製例1にて製造した集積体Bの表面に、インジウムなどの低融点金属を用いてスポット半田付けし、光触媒薄膜と樹脂被覆付の金属線を集積体Bに接続した。なお、インジウムなどの金属類は、光触媒薄膜から外部回路への電気輸送の役割も担う。その後、光触媒層以外の金属露出部分をエポキシ樹脂で被覆した。
こうして得られた透明光電極の600nm~900nmでの透過率を
図1に示す。
【0059】
(透明光電極の性能評価)
上記作製例1にて製造した集積体Bの表面に助触媒を担持した透明光電極を用い、リン酸カリウムなどの支持電解質を溶解させた電解液中で、水分解反応の活性を光電気化学測
定によって評価した。アルゴンガスを電解液へ通気することで、溶存酸素を取り除いた。
Hokuto Denko社製(HSV 110)のポテンシオスタットを三極式の電気化学セルに接続し、透明光電極の電極電位を制御しながら、San-Ei Electronic社製のソーラーシミュレータ(XES-40S2)を用いて疑似太陽光を照射した。
【0060】
(結果)
アンモニアガス100%の条件で窒化して得た集積体Bの透明光電極は、1.23V vs.可逆水素電極(V
RHE)で0.3mA/cm
2の光電流を生成した。こうして得られた透明光電極のボルタモグラムを
図3に示す。
一方、アンモニアガスと窒素ガスからなる混合ガス(NH
3:N
2=3:7)で窒化して得た集積体Bの透明光電極は、4.0mA/cm
2の一桁以上も大きい光電流を生成した。こうして得られた透明光電極のボルタモグラムを
図4に示す。混合ガスを用いた新規窒化プロセスの開発によって、光電流値の大幅な増強に成功した。アンモニアガスと窒素ガスの混合ガスの比率と1.23V
RHEでの光電流密度の関係を
図5に示す。アンモニアガスの比率が小さくなるにつれて、光電流密度が顕著に大きくなることが明らかになった。
なお、ボルタモグラムは、電位掃引速度(v)=10mVs
-1、電位掃引範囲(1.5V
RHE→0V
RHE)で測定した。
【0061】
<実施例2>
(作製例2:光触媒層と透明基板の間に窒化物半導体層を導入した透明光触媒電極の作製)
GaN(窒化ガリウム:層厚4000nm)を積層させたサファイア透明基板を用いて、GaN表面に実施例1と同様の手法を用いTa3N5前駆体であるTaOxを積層させ、集積体C(Ta3N5前駆体薄膜:膜厚500nm/GaN/サファイア)を得た。集積体Cを電気管状炉にて、アンモニアガスと窒素ガスからなる混合ガスを、10:0、8:2、7:3、3:7の様々な混合率での気流下にて、750℃~950℃で1時間窒化処理することで集積体D(Ta3N5光触媒膜/GaN/サファイア)を得た。実施例1と同様の手法を用い評価を行い、得られた光触媒膜が窒化タンタル(Ta3N5)であることを確認した。
【0062】
(助触媒形成)
実施例1と同様の手法を用い、助触媒を集積体Dの表面に適量担持した。
【0063】
(透明光電極の作製)
上記作製例2にて製造し、助触媒を担持した集積体DのGaNの部位に、実施例1と同様の手法を用い樹脂被覆付の金属線をインジウムでハンダ付けした。その際、金属線をはんだ付けするインジウム等の低融点金属がGaNのみまたは、Ta
3N
5およびGaN両方に接触していても構わない。その後、光触媒層以外の金属露出部分(インジウム)をエポキシ樹脂で被覆した。
こうして得られた透明光電極の600nm~900nmでの透過率を
図2に示す。
【0064】
(透明光電極の性能評価)
実施例1と同様の手法を用い、助触媒を担持した集積体Dからなる透明光電極の水分解活性を評価した。
【0065】
(結果)
アンモニアガス100%の条件で窒化して得た集積体Dの透明光電極は、1.23V
RHEで2.9mA/cm
2の光電流を生成した。こうして得られた透明光電極のボルタモ
グラムを
図6に示す。
アンモニアガスと窒素ガスからなる混合ガス(比率は、NH
3:N
2=3:7)で窒化して得た集積体Dの透明光電極は、5.7mA/cm
2の高い光電流を生成した。こうして得られた透明光電極のボルタモグラムを
図7に示す。窒化物半導体層の導入によって、励起子である電子と空孔の再結合過程を効果的に抑制することにより、透明光触媒電極の性能を著しく向上させた。アンモニアガスと窒素ガスの混合ガスの比率と1.23V
RHEでの光電流密度の関係を
図8に示す。混合ガス中のアンモニアガスの比率が小さくなるにつれて、光電流密度は大幅に増加する傾向が見られた。ただし、アンモニアガスの比率が2割よりも小さくなると、逆に光電流密度の低下が観測された。混合ガスを用いた新規窒化プロセスと励起子弁別層を有する新規構造の開発によって、水分解活性を大幅に増加させることに成功した。