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特開2024-117643カソード電極、カソード電極と基材との複合体、カソード電極を備えた電解還元装置及びカソード電極と基材との複合体の製造方法
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  • 特開-カソード電極、カソード電極と基材との複合体、カソード電極を備えた電解還元装置及びカソード電極と基材との複合体の製造方法 図1
  • 特開-カソード電極、カソード電極と基材との複合体、カソード電極を備えた電解還元装置及びカソード電極と基材との複合体の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117643
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】カソード電極、カソード電極と基材との複合体、カソード電極を備えた電解還元装置及びカソード電極と基材との複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/073 20210101AFI20240822BHJP
   C25B 11/031 20210101ALI20240822BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20240822BHJP
   C25B 11/061 20210101ALI20240822BHJP
   C25B 11/065 20210101ALI20240822BHJP
   C25B 11/055 20210101ALI20240822BHJP
   C25B 1/23 20210101ALI20240822BHJP
   C25B 3/26 20210101ALI20240822BHJP
   C25B 3/07 20210101ALI20240822BHJP
   C25B 3/03 20210101ALI20240822BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240822BHJP
   C23C 20/08 20060101ALI20240822BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20240822BHJP
   B01J 37/12 20060101ALI20240822BHJP
   B01J 31/10 20060101ALI20240822BHJP
   C07C 11/04 20060101ALI20240822BHJP
   C07C 1/02 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
C25B11/073
C25B11/031
C25B11/052
C25B11/061
C25B11/065
C25B11/055
C25B1/23
C25B3/26
C25B3/07
C25B3/03
C25B9/00 G
C25B9/00 Z
C23C20/08
B01J37/02 301P
B01J37/12
B01J31/10 Z
C07C11/04
C07C1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】28
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023853
(22)【出願日】2023-02-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、ムーンショット型研究開発事業「地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/電気化学プロセスを主体とする革新的CO2大量資源化システムの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】三觜 佑理
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴博
(72)【発明者】
【氏名】味村 裕
(72)【発明者】
【氏名】山本 潔
(72)【発明者】
【氏名】杉山 正和
(72)【発明者】
【氏名】嶺岸 耕
(72)【発明者】
【氏名】武田 大
(72)【発明者】
【氏名】松本 純
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4K011
4K021
4K022
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BA17
4G169BA24A
4G169BA24B
4G169BA36A
4G169BA36C
4G169BB02A
4G169BC01A
4G169BC03B
4G169BC08A
4G169BC16A
4G169BC16B
4G169BC16C
4G169BC17A
4G169BC17C
4G169BC22A
4G169BC22C
4G169BC31A
4G169BC31B
4G169BC32A
4G169BC32C
4G169BC33A
4G169BC33C
4G169BC35A
4G169BC35C
4G169BC36A
4G169BC36C
4G169BC50A
4G169BC50C
4G169BD03A
4G169BD03C
4G169BD04A
4G169BD05A
4G169BD05C
4G169BD15A
4G169BE34A
4G169CB02
4G169CB63
4G169DA06
4G169EB01
4G169EC28
4G169EE01
4G169EE06
4G169EE09
4G169FA01
4G169FA05
4G169FB02
4G169FB41
4G169FC02
4H006AA04
4H006BA91
4K011AA11
4K011AA20
4K011AA23
4K011AA68
4K011DA10
4K021AB25
4K021AC02
4K021AC05
4K022AA02
4K022BA08
4K022BA15
4K022DA01
(57)【要約】
【課題】水素の選択率が低下し、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたって高い効率を安定的に持続できるカソード電極を提供する。
【解決手段】電気的に二酸化炭素を還元するカソード電極であり、銅を含み、前記銅が、金属イオンで置換されたカチオン交換物質で表面修飾されているカソード電極。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的に二酸化炭素を還元するカソード電極であり、
銅を含み、前記銅が、金属イオンで置換されたカチオン交換物質で表面修飾されているカソード電極。
【請求項2】
前記銅が、2価の銅と、0価の銅及び/または1価の銅と、を含む請求項1に記載のカソード電極。
【請求項3】
前記銅が、還元処理により0価の銅へ還元される、還元用の1価の銅及び/または還元用の2価の銅と、0価の銅へ還元されない1価の銅及び/または2価の銅と、を含む請求項1に記載のカソード電極。
【請求項4】
さらに、銀、金、カドミウム、スズ、アルミニウム、ホウ素、ガリウム、亜鉛、チタン及びケイ素からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素を含む請求項1乃至3のいずれか1項に記載のカソード電極。
【請求項5】
前記添加元素が、前記銅100原子%に対して、0.10原子%以上1.0原子%以下含まれる請求項4に記載のカソード電極。
【請求項6】
前記添加元素が、前記銅100原子%に対して、0.25原子%以上0.70原子%以下含まれる請求項4に記載のカソード電極。
【請求項7】
前記添加元素が、アルミニウムを含む請求項4に記載のカソード電極。
【請求項8】
前記カチオン交換物質が、スルホン酸化テトラフルオロエチレン系のポリマーを含む請求項1乃至3のいずれか1項に記載のカソード電極。
【請求項9】
前記金属イオンが、アルカリ金属イオン及び/またはアルカリ土類金属イオンを含む請求項1乃至3のいずれか1項に記載のカソード電極。
【請求項10】
前記金属イオンで置換されたカチオン交換物質が、前記銅の上に層状に形成されている請求項1乃至3のいずれか1項に記載のカソード電極。
【請求項11】
前記金属イオンで置換されたカチオン交換物質が、前記銅と混合されている請求項1乃至3のいずれか1項に記載のカソード電極。
【請求項12】
多孔質構造を有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載のカソード電極。
【請求項13】
基材と、前記基材上に配置された請求項1乃至3のいずれか1項に記載のカソード電極と、を有する、カソード電極と基材との複合体。
【請求項14】
前記基材が、多孔質構造を有する請求項13に記載の複合体。
【請求項15】
多孔質構造を有する前記基材の材質が、カーボン、フッ素含有樹脂または金属である請求項14に記載の複合体。
【請求項16】
多孔質構造を有する前記基材の材質が金属であり、前記金属が銅である請求項14に記載の複合体。
【請求項17】
多孔質構造を有する前記基材の材質が金属であり、前記金属が銅粒子の焼結体である請求項14に記載の複合体。
【請求項18】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のカソード電極を備えた、電気的に二酸化炭素を一酸化炭素、オレフィン系炭化水素及び/またはアルコールへ還元する電解還元装置。
【請求項19】
請求項13に記載の複合体を備えた、電気的に二酸化炭素を一酸化炭素、オレフィン系炭化水素及び/またはアルコールへ還元する電解還元装置。
【請求項20】
多孔質構造を有する基材を用意する工程と、
前記基材上に、スパッタリングにより、銅を有するスパッタリング層を形成するスパッタリング層形成工程と、
前記スパッタリング層上に、金属イオンで置換されたカチオン交換物質を施与して前記銅を表面修飾する、金属イオンで置換されたカチオン交換物質施与工程と、
を有する、電気的に二酸化炭素を還元するカソード電極と基材との複合体の製造方法。
【請求項21】
前記銅が、2価の銅と、0価の銅及び/または1価の銅と、を含む請求項20に記載の複合体の製造方法。
【請求項22】
前記銅が、還元処理により0価の銅へ還元される、還元用の1価の銅及び/または還元用の2価の銅と、0価の銅へ還元されない1価の銅及び/または2価の銅と、を含む請求項20に記載の複合体の製造方法。
【請求項23】
前記スパッタリング層が、さらに、銀、金、カドミウム、スズ、アルミニウム、ホウ素、ガリウム、亜鉛、チタン及びケイ素からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素を含む請求項20乃至22のいずれか1項に記載の複合体の製造方法。
【請求項24】
前記スパッタリング層形成工程の後であって前記金属イオンで置換されたカチオン交換物質施与工程の前に、さらに、前記スパッタリング層の前記銅の少なくとも一部を酸化して前記1価の銅及び/または前記2価の銅とする銅酸化処理工程を有する請求項21または22に記載の複合体の製造方法。
【請求項25】
前記銅酸化処理工程にて酸化された前記1価の銅及び/または前記2価の銅を、前記金属イオンで置換されたカチオン交換物質施与工程の前に、部分還元して0価の銅及び/または1価の銅とする部分還元工程を、さらに有する請求項24に記載の複合体の製造方法。
【請求項26】
前記銅酸化処理工程が、無電解めっきである請求項24に記載の複合体の製造方法。
【請求項27】
前記スパッタリング層形成工程が、スパッタリングにより、前記銅を有するスパッタリング層である銅スパッタリング層を形成する銅スパッタリング層形成工程と、前記銅スパッタリング層上に、スパッタリングにより、前記添加元素を有するスパッタリング層である添加元素スパッタリング層を形成する添加元素スパッタリング層形成工程と、を有する請求項23に記載の複合体の製造方法。
【請求項28】
前記スパッタリング層形成工程が、前記添加元素スパッタリング層上に、スパッタリングにより、さらに、銅を有するスパッタリング層である銅スパッタリング層を形成する銅スパッタリング層形成工程を有する請求項27に記載の複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素を電気的に還元して、二酸化炭素を一酸化炭素、エチレン等のオレフィン系炭化水素及び/またはアルコールへ変換することができるカソード電極、カソード電極と基材との複合体、カソード電極を備えた電解還元装置及びカソード電極と基材との複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化による悪影響が地球環境の変化をもたらし、多くの問題現象が生じている。地球環境の変化の原因のひとつとして、大気中の温室効果ガスの濃度上昇、特に、温室効果ガスの多くを占める二酸化炭素の濃度上昇にあるとされている。大気中の二酸化炭素濃度を下げるために、陸上の新たな植林や海洋藻類による光合成量の増加だけでなく、積極的に大気中の二酸化炭素を吸収、回収することも検討されている。さらには、二酸化炭素を吸収、回収するだけではなく、二酸化炭素由来の炭素を有機化合物の原料として活用することも検討されている。
【0003】
具体的には、二酸化炭素を還元して、例えば、エチレン、エタノール等のC2化合物、一酸化炭素、メタン、メタノール、ギ酸等のC1化合物に変換して、有機化合物の合成用として活用していくことが検討されている。これらのうち、特に、C2化合物であるエチレン及びエタノールは、様々な有機化合物を合成する際の誘導体として大変有用であり、一酸化炭素やメタン等のC1化合物よりも利用価値が高い。
【0004】
近年、上記のような二酸化炭素の還元反応には、光触媒や、電極触媒等の触媒が広く用いられており、さらに性能に優れた触媒の開発が求められている。二酸化炭素の還元反応に用いられる触媒には、反応効率だけでなく、特定の反応に対する選択性が求められており、そのような観点から、触媒材料の選択が重要となる(非特許文献1)。例えば、一酸化炭素を効率良く還元生成させ、還元物質中での一酸化炭素の割合を向上させる点で、触媒材料として、金、銀、亜鉛が用いられている。また、メタン、エタン、エチレン等の炭化水素を効率よく還元生成させる点で、触媒材料として、銅が用いられている。特に、銅は、エチレンなどのC2化合物を生成できることから、二酸化炭素のカソード還元電極触媒として着目されている。
【0005】
銅を用いた二酸化炭素のカソード還元電極としては、例えば、銅を含む陰極材料上に、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタニド、アクチニド、遷移金属、ポスト変遷金属、および非金属、酸化物および/またはその合金、混合金属酸化物およびイオン伝導性ポリマーからなる群から選ばれた1つ以上を含むコーティングが存在する陰極の構造が提案されている(特許文献1)。一方で、特許文献1では、二酸化炭素を還元してギ酸等の有機化合物に変換して抽出することにとどまり、エチレン等の有機化合物を合成する触媒反応が、高いエチレン等の選択率を長期間にわたって安定的に持続することについては検証されていない。
【0006】
二酸化炭素の還元反応によるエチレン等の有機化合物の生成を工業的に実用化するには、エチレン等の有機化合物を生成する触媒反応が、高いエチレン等の有機化合物の選択率を数百時間以上という長期間にわたって安定的に持続することが要求されている。特許文献1の陰極の構造では、エチレン等の有機化合物を生成する触媒反応が長期間にわたって高い効率を安定的に持続できる点で改善の余地があった。
【0007】
また、二酸化炭素還元用カソード電極では、エチレン等の有機化合物の優れた合成効率を得るためには、二酸化炭素の還元にあたり、二酸化炭素の還元反応が副反応(水の分解反応)に起因する水素の生成よりも優位となって、水素の選択率が低下して、二酸化炭素還元生成物の選択率が向上することが必要である。しかし、特許文献1では、二酸化炭素の還元にあたり、水素の選択率が低下して、二酸化炭素還元生成物の選択率が向上することついて検証されていない。特許文献1の陰極の構造は、水素の選択率が低下して、二酸化炭素還元生成物の選択率が向上する点でも、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2021-516290号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Y Hori「Electrochemical reduction of CO at a Copper Electrode.」 J. Phys. Chem. B. 101(36). 7075-7081 (1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記事情に鑑み、本発明は、水素の選択率が低下し、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたって高い効率を安定的に持続できるカソード電極、カソード電極と基材との複合体、カソード電極を備えた電解還元装置、及びカソード電極と基材との複合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の構成の要旨は、以下の通りである。
[1]電気的に二酸化炭素を還元するカソード電極であり、
銅を含み、前記銅が、金属イオンで置換されたカチオン交換物質で表面修飾されているカソード電極。
[2]前記銅が、2価の銅と、0価の銅及び/または1価の銅と、を含む[1]に記載のカソード電極。
[3]前記銅が、還元処理により0価の銅へ還元される、還元用の1価の銅及び/または還元用の2価の銅と、0価の銅へ還元されない1価の銅及び/または2価の銅と、を含む[1]に記載のカソード電極。
[4]さらに、銀、金、カドミウム、スズ、アルミニウム、ホウ素、ガリウム、亜鉛、チタン及びケイ素からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素を含む[1]乃至[3]のいずれか1つに記載のカソード電極。
[5]前記添加元素が、前記銅100原子%に対して、0.10原子%以上1.0原子%以下含まれる[4]に記載のカソード電極。
[6]前記添加元素が、前記銅100原子%に対して、0.25原子%以上0.70原子%以下含まれる[4]に記載のカソード電極。
[7]前記添加元素が、アルミニウムを含む[4]に記載のカソード電極。
[8]前記カチオン交換物質が、スルホン酸化テトラフルオロエチレン系のポリマーを含む[1]乃至[3]のいずれか1つに記載のカソード電極。
[9]前記金属イオンが、アルカリ金属イオン及び/またはアルカリ土類金属イオンを含む[1]乃至[3]のいずれか1つに記載のカソード電極。
[10]前記金属イオンで置換されたカチオン交換物質が、前記銅の上に層状に形成されている[1]乃至[3]のいずれか1つに記載のカソード電極。
[11]前記金属イオンで置換されたカチオン交換物質が、前記銅と混合されている[1]乃至[3]のいずれか1つに記載のカソード電極。
[12]多孔質構造を有する[1]乃至[3]のいずれか1つに記載のカソード電極。
[13]基材と、前記基材上に配置された[1]乃至[3]のいずれか1つに記載のカソード電極と、を有する、カソード電極と基材との複合体。
[14]前記基材が、多孔質構造を有する[13]に記載の複合体。
[15]多孔質構造を有する前記基材の材質が、カーボン、フッ素含有樹脂または金属である[14]に記載の複合体。
[16]多孔質構造を有する前記基材の材質が金属であり、前記金属が銅である[14]に記載の複合体。
[17]多孔質構造を有する前記基材の材質が金属であり、前記金属が銅粒子の焼結体である[14]に記載の複合体。
[18][1]乃至[3]のいずれか1つに記載のカソード電極を備えた、電気的に二酸化炭素を一酸化炭素、オレフィン系炭化水素及び/またはアルコールへ還元する電解還元装置。
[19][13]に記載の複合体を備えた、電気的に二酸化炭素を一酸化炭素、オレフィン系炭化水素及び/またはアルコールへ還元する電解還元装置。
[20]多孔質構造を有する基材を用意する工程と、
前記基材上に、スパッタリングにより、銅を有するスパッタリング層を形成するスパッタリング層形成工程と、
前記スパッタリング層上に、金属イオンで置換されたカチオン交換物質を施与して前記銅を表面修飾する、金属イオンで置換されたカチオン交換物質施与工程と、
を有する、電気的に二酸化炭素を還元するカソード電極と基材との複合体の製造方法。
[21]前記銅が、2価の銅と、0価の銅及び/または1価の銅と、を含む[20]に記載の複合体の製造方法。
[22]前記銅が、還元処理により0価の銅へ還元される、還元用の1価の銅及び/または還元用の2価の銅と、0価の銅へ還元されない1価の銅及び/または2価の銅と、を含む[20]に記載の複合体の製造方法。
[23]前記スパッタリング層が、さらに、銀、金、カドミウム、スズ、アルミニウム、ホウ素、ガリウム、亜鉛、チタン及びケイ素からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素を含む[20]乃至[22]のいずれか1つに記載の複合体の製造方法。
[24]前記スパッタリング層形成工程の後であって前記金属イオンで置換されたカチオン交換物質施与工程の前に、さらに、前記スパッタリング層の前記銅の少なくとも一部を酸化して前記1価の銅及び/または前記2価の銅とする銅酸化処理工程を有する[21]または[22]に記載の複合体の製造方法。
[25]前記銅酸化処理工程にて酸化された前記1価の銅及び/または前記2価の銅を、前記金属イオンで置換されたカチオン交換物質施与工程の前に、部分還元して0価の銅及び/または1価の銅とする部分還元工程を、さらに有する[24]に記載の複合体の製造方法。
[26]前記銅酸化処理工程が、無電解めっきである[24]に記載の複合体の製造方法。
[27]前記スパッタリング層形成工程が、スパッタリングにより、前記銅を有するスパッタリング層である銅スパッタリング層を形成する銅スパッタリング層形成工程と、前記銅スパッタリング層上に、スパッタリングにより、前記添加元素を有するスパッタリング層である添加元素スパッタリング層を形成する添加元素スパッタリング層形成工程と、を有する[23]に記載の複合体の製造方法。
[28]前記スパッタリング層形成工程が、前記添加元素スパッタリング層上に、スパッタリングにより、さらに、銅を有するスパッタリング層である銅スパッタリング層を形成する銅スパッタリング層形成工程を有する[27]に記載の複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のカソード電極の態様によれば、銅を含み、前記銅が、金属イオンで置換されたカチオン交換物質で表面修飾されていることにより、カソード電極を構成する銅への水分子(HO)の供給量が金属イオンで置換されたカチオン交換物質によって制御されるので、副反応生成物である水素の選択率が低下して、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたって高い効率を安定的に持続できる。金属イオンで置換されたカチオン交換物質は、カチオン交換物質の水素イオン(H)が金属イオンに置換された構造であり、従って、水素イオン(H)の含有量が低減された構造となっている。
【0013】
触媒材料として銅が使用されているカソード電極における二酸化炭素の還元反応では、上記カソード電極に存在する価数の違う銅の境界部(例えば、0価の銅と1価の銅との境界部)が、主に、二酸化炭素由来の炭素がC-C結合を形成し、またC-C結合を安定化する部位として機能する、と考えられる。すなわち、価数の違う銅の境界部(例えば、0価の銅と1価の銅との境界部)が、二酸化炭素の還元反応の主な活性部位である、と考えられる。上記から、本発明のカソード電極の態様によれば、前記銅が、2価の銅と、0価の銅及び/または1価の銅と、を含む、または、前記銅が、還元処理により0価の銅へ還元される、還元用の1価の銅及び/または還元用の2価の銅と、0価の銅へ還元されない1価の銅及び/または2価の銅と、を含むことにより、さらに確実に、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたって高い効率を安定的に持続できる。
【0014】
触媒材料として銅が使用されているカソード電極では、二酸化炭素の還元反応の際に、1価の銅は還元されて0価の銅となり、2価の銅は還元されて0価の銅または1価の銅となる。長期間にわたって二酸化炭素の還元反応を持続させると、2価の銅が0価の銅または1価の銅へ還元されていき、1価の銅が0価の銅へ還元されていくことで、価数の違う銅の境界部(例えば、0価の銅と1価の銅との境界部)が減少していく傾向にある、と考えられる。上記から、本発明のカソード電極の態様によれば、銅に加えて、さらに、銀、金、カドミウム、スズ、アルミニウム、ホウ素、ガリウム、亜鉛、チタン及びケイ素からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素を含むことにより、前記添加元素がカソード電極内に酸素を保持する機能を有することで、1価の銅から0価の銅への還元が適度に抑制される。上記から、長期間にわたって二酸化炭素の還元反応を持続させても、0価の銅と1価の銅との存在比が確実に適正化されることでC-C結合の生成と安定化が維持され、さらに確実に、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたって安定的に持続できる。
【0015】
なお、エチレンもエタノールもC2化合物であり、触媒材料上でのC-C結合の生成が反応経路の中間にある。従って、エチレン生成とエタノール生成の活性部位は同一または非常に近接しているため、エチレン生成の安定性とエタノール生成の安定性は類似の傾向を示し、エチレン生成でもエタノール生成でも、二酸化炭素の還元反応は同様に進む。
【0016】
本発明のカソード電極の態様によれば、前記添加元素が、前記銅100原子%に対して、0.10原子%以上1.0原子%以下含まれることにより、長期間にわたって二酸化炭素の還元反応を持続させても、0価の銅と1価の銅との存在比が確実に適正化されて、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたってさらに安定的に持続できる。
【0017】
本発明のカソード電極の態様によれば、前記添加元素が、前記銅100原子%に対して、0.25原子%以上0.70原子%以下含まれることにより、長期間にわたって二酸化炭素の還元反応を持続させても、0価の銅と1価の銅との存在比をさらに適正な範囲に維持でき、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、より長期間にわたってさらに安定的に持続できる。
【0018】
本発明のカソード電極の態様によれば、前記添加元素が、アルミニウムを含むことにより、カソード電極内に酸素を適度に保持する機能が確実に得られるので、長期間にわたって二酸化炭素の還元反応を持続させても、0価の銅と1価の銅との存在比が確実に適正化されて、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたってさらに安定的に持続できる。
【0019】
本発明のカソード電極の態様によれば、前記カチオン交換物質がスルホン酸化テトラフルオロエチレン系のポリマーを含み、前記金属イオンがアルカリ金属イオン及び/またはアルカリ土類金属イオンを含むことにより、カソード電極を構成する銅への水分子(HO)の供給量が確実に制御されるので、副反応生成物である水素の選択率がより確実に低下して、より確実に、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたって高い効率を安定的に持続できる。
【0020】
本発明のカソード電極の態様によれば、前記金属イオンで置換されたカチオン交換物質が前記銅の上に層状に形成されている、または前記金属イオンで置換されたカチオン交換物質が前記銅と混合されていることにより、金属イオンで置換されたカチオン交換物質の存在によって、銅への水分子(HO)の供給量がより適正に制御される。
【0021】
本発明のカソード電極の態様によれば、カソード電極が多孔質構造を有することにより、カソード電極の二酸化炭素の還元反応の場において、水と二酸化炭素との接触が円滑化されるので、エチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が長期間にわたってさらに安定的に持続できる。
【0022】
本発明のカソード電極と基材との複合体の態様によれば、基材と本発明のカソード電極とを有することにより、副反応生成物である水素の選択率が低下して、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたって高い効率を安定的に持続できる、カソード電極と基材との複合体を得ることができる。
【0023】
本発明のカソード電極と基材との複合体の態様によれば、前記基材が多孔質構造を有することにより、ガス状の二酸化炭素が円滑にカソード電極に接触できるので、気相の二酸化炭素であっても、エチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が長期間にわたってさらに安定的に持続できる。
【0024】
本発明のカソード電極と基材との複合体の製造方法によれば、基材上に、スパッタリングにより、銅を有するスパッタリング層を形成するスパッタリング層形成工程と、前記スパッタリング層上に、金属イオンで置換されたカチオン交換物質を施与して前記銅を表面修飾する、金属イオンで置換されたカチオン交換物質施与工程と、を有することにより、副反応生成物である水素の選択率が低下して、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたって高い効率を安定的に持続できる複合体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明のカソード電極と基材との複合体の断面の概要を示す説明図である。
図2】カソード電極と基材との複合体の製造方法における、電解研磨処理工程の説明図である。
図3】カソード電極と基材との複合体の製造方法における、スパッタリング層形成工程と銅酸化処理工程の説明図である。
図4】カソード電極と基材との複合体の製造方法における、部分還元工程の説明図である。
図5】本発明のカソード電極と基材との複合体の構造を示す説明図である。
図6】本発明のカソード電極を備えた電解還元装置の概要を示す説明図である。
図7】本発明のカソード電極を備えた他の電解還元装置の概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[カソード電極]
本発明のカソード電極について、以下に説明する。本発明のカソード電極は、電気的に二酸化炭素を還元するカソード電極であり、銅(Cu)を含み、前記銅(Cu)が、金属イオンで置換されたカチオン交換物質で表面修飾されている。本発明のカソード電極は、必須成分として、触媒材料である銅と、銅の表面を修飾している、金属イオンで置換されたカチオン交換物質と、を含む。金属イオンで置換されたカチオン交換物質は、カチオン交換物質の水素イオン(H)が金属イオンに置換された化学構造であり、水素イオン(H)の含有量が低減されたカチオン交換物質である。
【0027】
カソード電極を構成する触媒材料である銅の表面に、金属イオンで置換されたカチオン交換物質(カチオン交換物質の水素イオン(H)が金属イオンで置換されたカチオン交換物質)が存在していることによって、銅への水分子(HO)の供給量、すなわち、水素イオン(H)の供給量が制御される。また、カチオン交換物質は金属イオンで置換されており、水素イオン(H)の含有量が低減されているので、カチオン交換物質から銅へ水素イオン(H)が供給されることも防止されている。従って、本発明のカソード電極は、触媒材料である銅に水素イオン(H)が過剰に供給されることを防止できる構造となっている。なお、カチオン交換物質は、カチオン交換物質の有する水素イオンが金属イオンに置換されている状態が、水素イオンが金属イオンに置換されていない状態よりも安定しているので、カソード電極において、カチオン交換物質は金属イオンで置換された状態が維持されている。
【0028】
上記から、二酸化炭素の還元反応の副反応生成物である水素の選択率が低下して、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたって高い効率を安定的に持続できる。
【0029】
金属イオンで置換されたカチオン交換物質を構成するカチオン交換物質、すなわち、金属イオンで置換される前のカチオン交換物質としては、例えば、カチオン交換樹脂が挙げられ、カチオン交換樹脂としては、例えば、スルホン酸化テトラフルオロエチレン系のポリマー(商品名「ナフィオン」)、パーフルオロアルキル化合物(PFAS)系のポリマー、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)系のポリマー等が挙げられる。これらのうち、銅の表面の修飾が容易である点から、スルホン酸化テトラフルオロエチレン系のポリマーが好ましい。
【0030】
カチオン交換物質の水素イオンが金属イオンで置換されていればよく、金属イオンで置換されたカチオン交換物質を構成する金属イオンは、特に限定されないが、カソード電極を構成する銅への水分子(HO)の供給量が確実に制御され、副反応生成物である水素の選択率がより確実に低下して、より確実に、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたって高い効率を安定的に持続できる点から、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンが好ましい。アルカリ金属としては、リチウムイオン(Li)、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)、ルビジウムイオン(Rb)、セシウムイオン(Cs)、フランシウムイオン(Fr)が挙げられる。アルカリ土類金属イオンとしては、ベリリウムイオン(Be2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、カルシウムイオン(Ca2+)、ストロンチウムイオン(Sr2+)、バリウムイオン(Ba2+)、ラジウムイオン(Ra2+)が挙げられる。これらの金属イオンは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
これらの金属イオンのうち、カソード電極を構成する銅への水分子(HO)の供給量がより確実に制御され、副反応生成物である水素の選択率がより確実に低下する点から、アルカリ金属イオンがより好ましく、リチウムイオン(Li)、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)、ルビジウムイオン(Rb)がさらに好ましく、銅への水分子(HO)の供給量をさらに制御でき、副反応生成物である水素の選択率がさらに低下する点から、カリウムイオン(K)が特に好ましい。
【0032】
銅が、金属イオンで置換されたカチオン交換物質で表面修飾されている態様としては、特に限定されないが、金属イオンで置換されたカチオン交換物質の存在によって銅への水分子の供給量がより適正に制御できる点から、金属イオンで置換されたカチオン交換物質が銅の上に層状に形成されている態様、金属イオンで置換されたカチオン交換物質が銅と混合されている態様が好ましく、金属イオンで置換されたカチオン交換物質が銅の上に層状に形成されている態様が特に好ましい。
【0033】
金属イオンで置換されたカチオン交換物質の含有量は、特に限定されないが、その下限値は、銅への水分子の供給量が確実に制御して銅に水素イオン(H)が過剰に供給されることを確実に防止できる点から、銅元素100gに対するカチオン交換物質の堆積量は125g以上24333g以下が好ましい。
【0034】
金属イオンで置換されたカチオン交換物質の調製方法としては、例えば、カチオン交換物質の溶液(例えば、水溶液)と金属イオン含有溶液(例えば、水溶液)を作製し、カチオン交換物質の溶液と金属イオン含有溶液を混合することで、カチオン交換物質の水素イオンが金属イオンに置換されて、金属イオンで置換されたカチオン交換物質を得ることができる。
【0035】
本発明のカソード電極では、第1のカソード電極の態様として、触媒材料である銅が、2価の銅と、0価の銅及び/または1価の銅と、を含む。第1のカソード電極の態様では、必須成分として、2価の銅と0価の銅及び/または1価の銅を含む。1価の銅としては亜酸化銅(CuO)が挙げられ、2価の銅としては酸化銅(CuO)が挙げられる。また、0価の銅としては、銅(Cu)単体が挙げられる。
【0036】
触媒材料として銅が使用されているカソード電極における二酸化炭素の還元反応では、価数の違う銅の境界部(例えば、0価の銅と1価の銅との境界部)が、主に、二酸化炭素由来の炭素がC-C結合を形成し、またC-C結合を安定化する部位として機能する、すなわち、価数の違う銅の境界部(例えば、0価の銅と1価の銅との境界部)が二酸化炭素の還元反応の主な活性部位である、と考えられる。上記から、触媒材料である銅が、2価の銅と、0価の銅及び/または1価の銅と、を含むことにより、さらに確実に、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたって高い効率を安定的に持続できる。
【0037】
本発明のカソード電極では、第2のカソード電極の態様として、銅が、還元処理により0価の銅へ還元される、還元用の1価の銅及び/または還元用の2価の銅と、0価の銅へ還元されない1価の銅及び/または2価の銅と、を含む。第2のカソード電極の態様では、1価の銅及び/または2価の銅の一部が還元されて0価の銅となる。上記から、第2のカソード電極の態様では、銅(Cu)として、還元用の1価の銅及び/または還元用の2価の銅と、0価の銅へ還元されない1価の銅及び/または2価の銅と、が存在する。上記した第2のカソード電極の態様は、必須成分として、1価の銅及び/または2価の銅を含む。第2のカソード電極の態様は、還元処理されることで、還元用の2価の銅が還元されて0価の銅または1価の銅となり、還元用の1価の銅が還元されて0価の銅となる。従って、第2のカソード電極の態様では、還元処理されることで、0価の銅と1価の銅及び/または2価の銅を含むカソード電極となる。
【0038】
1価の銅としては亜酸化銅(CuO)が挙げられ、2価の銅としては酸化銅(CuO)が挙げられる。また、0価の銅としては、銅(Cu)単体が挙げられる。
【0039】
触媒材料である銅が、還元処理により0価の銅へ還元される、還元用の1価の銅及び/または還元用の2価の銅と、0価の銅へ還元されない1価の銅及び/または2価の銅と、を含むことにより、さらに確実に、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたって高い効率を安定的に持続できる。
【0040】
本発明のカソード電極(第1のカソード電極の態様、第2のカソード電極の態様を含む)では、触媒材料として、銅(Cu)に加えて、さらに、任意成分として、銀(Ag)、金(Au)、カドミウム(Cd)、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)及びケイ素(Si)からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素(M)を含んでいてもよい。
【0041】
本発明のカソード電極では、触媒材料として銅が使用されており、二酸化炭素の還元反応の際に、1価の銅は還元されて0価の銅となり、2価の銅は還元されて0価の銅または1価の銅となる。従って、長期間にわたって二酸化炭素の還元反応を持続させると、2価の銅が0価の銅または1価の銅へ還元されていき、1価の銅が0価の銅へ還元されていくことから、価数の違う銅の境界部(例えば、0価の銅と1価の銅との境界部)が減少していく傾向にある、と考えられる。そこで、銅に加えて、さらに、銀、金、カドミウム、スズ、アルミニウム、ホウ素、ガリウム、亜鉛、チタン及びケイ素からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素(M)を含むことにより、添加元素(M)がカソード電極内に酸素を保持する機能を有するので、1価の銅から0価の銅への還元が適度に抑制される。上記から、長期間にわたって二酸化炭素の還元反応を持続させても、0価の銅と1価の銅との存在比が確実に適正化されることでC-C結合の生成と安定化が維持されて、さらに確実に、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたって安定的に持続できる。
【0042】
銀、金、カドミウム、スズ、アルミニウム、ホウ素、ガリウム、亜鉛、チタン及びケイ素からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素(M)の態様は、特に限定されず、例えば、添加元素(M)自体(添加元素(M)単体)の態様が挙げられる。また、添加元素(M)自体の態様の他に、水酸化物の態様、酸化物の態様が挙げられる。また、添加元素(M)は、添加元素(M)自体の態様と水酸化物の態様と酸化物の態様が混在していてもよい。これらの添加元素(M)は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
添加元素(M)の含有量は、特に限定されないが、その下限値は、0価の銅、1価の銅及び2価の銅等、全ての銅を含めた銅元素100原子%に対して、長期間にわたって二酸化炭素の還元反応を持続させても、0価の銅と1価の銅との存在比が確実に適正化されて、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたってさらに安定的に持続できる点から、0.10原子%の割合が好ましく、0.20原子%の割合がより好ましく、長期間にわたって二酸化炭素の還元反応を持続させても、0価の銅と1価の銅との存在比をさらに適正な範囲に維持でき、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、より長期間にわたってさらに安定的に持続できる点から、0.25原子%の割合が特に好ましい。一方で、添加元素(M)の含有量の上限値は、0価の銅、1価の銅及び2価の銅等、全ての銅を含めた銅元素100原子%に対して、長期間にわたって二酸化炭素の還元反応を持続させても、0価の銅と1価の銅との存在比が確実に適正化されて、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたってさらに安定的に持続できる点から、1.0原子%の割合が好ましく、0.85原子%の割合がより好ましく、長期間にわたって二酸化炭素の還元反応を持続させても、0価の銅と1価の銅との存在比をさらに適正な範囲に維持でき、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、より長期間にわたってさらに安定的に持続できる点から、0.70原子%の割合が特に好ましい。
【0044】
添加元素(M)としては、 銀、金、カドミウム、スズ、アルミニウム、ホウ素、ガリウム、亜鉛、チタン、ケイ素であれば、銅と比較して酸化されやすく、また、銅と比較して酸素との親和性が高い傾向があるので、いずれも使用可能である。一方で、これらの添加元素(M)のうち、カソード電極内に酸素を適度に保持する機能が確実に得られるので、長期間にわたって二酸化炭素の還元反応を持続させても、0価の銅と1価の銅との存在比が確実に適正化されて、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたってさらに安定的に持続できる点から、アルミニウムが好ましい。
【0045】
カソード電極の構造は、特に限定されず、中実でも多孔質でもよいが、カソード電極の二酸化炭素の還元反応の場において、水と二酸化炭素との接触が円滑化されることで、エチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が長期間にわたってさらに安定的に持続できる点から、多孔質構造が好ましい。多孔質構造中における空隙の割合(空隙率)は、特に限定されないが、その下限値は、二酸化炭素のカソード電極への浸透を円滑化することで、エチレンなどのオレフィン系炭化水素、エタノールなどのアルコールの生成効率がさらに向上する点から、1体積%が好ましく、10体積%が特に好ましい。一方で、多孔質構造の空隙率の上限値は、カソード電極の触媒反応に寄与する表面積を維持することで、エチレンなどのオレフィン系炭化水素、エタノールなどのアルコールの生成効率がさらに向上する点から、99体積%が好ましく、90体積%が特に好ましい。
【0046】
本発明のカソード電極は、例えば、カソード電極の一方の側からガス状(気相)の二酸化炭素を供給し、カソード電極の他方の側から液相の水を供給することで、カソード電極の触媒作用にてガス状(気相)の二酸化炭素と水が反応して電気的に二酸化炭素を還元して、エチレンなどのオレフィン系炭化水素、エタノールなどのアルコールを生成することができる。
【0047】
[カソード電極と基材との複合体]
本発明のカソード電極は、カソード電極単体の状態で使用されてもよく、以下に説明するように、基材と複合体を形成した状態で使用されてもよい。図1は、本発明のカソード電極と基材との複合体の断面の概要を示す説明図である。
【0048】
図1に示すように、カソード電極100と基材1との複合体120は、基材1と、基材1上に配置された本発明のカソード電極100とを有する。カソード電極100は、第1の部位101と第1の部位101に対向した第2の部位102を有している。基材1は、カソード電極100の第1の部位101側に設けられている。すなわち、基材1上に、カソード電極100の第1の部位101側が配置されている。カソード電極100の第2の部位102側には基材は設けられておらず、第2の部位102はカソード電極100及び複合体120の外部環境に露出している。カソード電極100は、基材1表面を被覆する被覆膜となっている。カソード電極100と基材1との複合体120では、本発明の、銅が金属イオンで置換されたカチオン交換物質にて表面修飾されているカソード電極100を備えることにより、副反応生成物である水素の選択率が低下して、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたって高い効率を安定的に持続できる。
【0049】
基材1上に形成されたカソード電極100の構造は、中実でもよく、多孔質でもよいが、上記の通り、カソード電極100の二酸化炭素の還元反応の場において、水と二酸化炭素との接触が円滑化されることで、エチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が長期間にわたってさらに安定的に持続できる点から、多孔質構造が好ましい。カソード電極100の多孔質構造は、例えば、後述する部分還元処理を行うことで形成することができる。なお、図1では、説明の便宜上、カソード電極100は多孔質構造としては表現していない。
【0050】
基材1は、中実でもよく、多孔質でもよいが、ガス状の二酸化炭素が円滑にカソード電極に接触できるので、気相の二酸化炭素であっても、エチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が長期間にわたってさらに安定的に持続できる点から、ガス透過性を有する多孔質構造が好ましい。
【0051】
多孔質構造の基材1の材質としては、特に限定されないが、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたってさらに安定的に持続できる、カソード電極と基材との複合体を得ることができる点から、例えばカーボン、フッ素含有樹脂、金属が好ましい。カーボンとしては、例えば、カーボンブラックとカーボン繊維の複合体等が挙げられる。フッ素含有樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、パーフルオロアルコキシアルカン、パーフルオロエチレンプロピレンコポリマー、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレンクロロトリフルオロエチレンコポリマー等が挙げられる。金属としては、例えば、銅(Cu)、ニオブ(Nb)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、上記金属を1種以上含有する合金、ステンレス鋼等の金属からなる多孔質金属が挙げられる。多孔質構造の基材1の材質が金属であり、前記金属が銅(Cu)である場合、多孔質金属として、例えば、銅粒子の焼結体が挙げられる。
【0052】
基材1の平均厚さは、特に限定されないが、例えば、0.2mm以上1.5mm以下の板材が挙げられる。
【0053】
カソード電極100と基材1との複合体120におけるカソード電極100は、例えば、基材1上に、スパッタリングにより製膜された、銅と必要に応じて添加元素(M)とを有するスパッタリング層である。なお、カソード電極100と基材1との複合体120におけるカソード電極100は、例えば、銅イオンと必要に応じて添加元素(M)イオンとを含む共電析溶液に基材1を浸漬して、基材1上に銅成分と必要に応じて添加元素(M)とを共電析させて形成する、共電析層でもよい。
【0054】
[カソード電極と基材との複合体の製造方法]
カソード電極と基材との複合体の製造方法例について、以下に説明する。図2は、カソード電極と基材との複合体の製造方法における、電解研磨処理工程の説明図である。図3は、カソード電極と基材との複合体の製造方法における、スパッタリング層形成工程と銅酸化処理工程の説明図である。図4は、カソード電極と基材との複合体の製造方法における、部分還元工程の説明図である。図5は、本発明のカソード電極と基材との複合体の構造を示す説明図である。
【0055】
電気的に二酸化炭素を還元する、カソード電極と基材との複合体の製造方法としては、(1)基材(例えば、多孔質構造を有する基材)を用意する工程と、(2)用意した基材に、必要に応じて、電解研磨処理を行う電解研磨処理工程と、(3)電解研磨処理が必要に応じて行われた基材上に、スパッタリングにより、銅を有するスパッタリング層を形成するスパッタリング層形成工程と、(4)必要に応じて、スパッタリング層形成工程の後、さらに、スパッタリング層の銅の少なくとも一部を酸化して1価の銅及び/または2価の銅とする銅酸化処理工程と、(5)必要に応じて、銅酸化処理工程にて酸化された1価の銅及び/または2価の銅を部分還元して0価の銅及び/または1価の銅とする部分還元工程と、(6)必要に応じて銅酸化処理工程と部分還元工程が行われたスパッタリング層上に、金属イオンで置換されたカチオン交換物質を施与してスパッタリング層の銅を表面修飾する、金属イオンで置換されたカチオン交換物質施与工程と、を有する。上記工程のうち、(1)の工程と(3)の工程と(6)の工程が必須であり、(2)の工程と(4)の工程と(5)の工程が任意である。
【0056】
上記したカソード電極と基材との複合体の製造方法により、基材上に、金属イオンで置換されたカチオン交換物質にて触媒材料である銅が表面修飾されているカソード電極を形成することができる。上記したカソード電極と基材との複合体の製造方法により、副反応生成物である水素の選択率が低下して、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたって高い効率を安定的に持続できる複合体を製造することができる。上記したカソード電極と基材との複合体の製造方法で形成されるカソード電極としては、銅が、2価の銅と、0価の銅及び/または1価の銅と、を含むカソード電極、または、銅が、還元処理により0価の銅へ還元される、還元用の1価の銅及び/または還元用の2価の銅と、0価の銅へ還元されない1価の銅及び/または2価の銅と、を含むカソード電極が挙げられる。
【0057】
(1)基材(例えば、多孔質構造を有する基材)を用意する工程
基材(例えば、多孔質構造を有する基材)を用意する工程は、上記した基材を準備する工程である。基材の材質や多孔質構造の空隙率は、カソード電極と基材との複合体に要求される特性に応じて、適宜選択可能である。
【0058】
(2)電解研磨処理工程
電解研磨処理工程は、例えば、基材の材料として金属を使用する場合に、必要に応じて実施する工程である。電解研磨処理工程は、基材表面をヘキサン等の有機溶剤で脱脂して、洗浄・乾燥した後、図2に示すように、容器10に混酸溶液11を収容し、混酸溶液11に陽極である基材1を浸漬させ、基材1を挟む位置に陰極2を浸漬させ、陽極である基材1と陰極2に電解電位を付与する。陽極である基材1と陰極2に電解電位を付与することで基材1の表面が電解研磨される。基材1の表面が電解研磨されることで、基材1の表面の加工変質層が低減、除去される。混酸溶液11としては、例えば、リン酸と硫酸の混酸水溶液が挙げられる。陰極2としては、例えば、チタン等を挙げることができる。
【0059】
(3)スパッタリング層形成工程
図3に示すように、スパッタリング層形成工程は、スパッタリングにより、基材1上に、銅を有するスパッタリング層20を形成する。スパッタリング層20が、銅(Cu)に加えて、さらに、任意成分として、銀、金、カドミウム、スズ、アルミニウム、ホウ素、ガリウム、亜鉛、チタン及びケイ素からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素(M)を含む場合には、図3に示すように、スパッタリング層形成工程として、基材1上に、スパッタリングにより、銅(Cu)を有するスパッタリング層である銅(Cu)スパッタリング層を形成する銅(Cu)スパッタリング層形成工程と、銅(Cu)スパッタリング層上に、スパッタリングにより、添加元素(M)を有するスパッタリング層である添加元素(M)スパッタリング層を形成する添加元素(M)スパッタリング層形成工程と、を有する。また、形成した添加元素(M)スパッタリング層上に、スパッタリングにより、さらに、銅(Cu)を有するスパッタリング層である銅(Cu)スパッタリング層を形成する銅(Cu)スパッタリング層形成工程を有する。電源からの電力量とスパッタリング時間を調整することで、銅(Cu)100原子%に対する添加元素(M)の含有量を調整することができる。また、必要に応じて、スパッタリング層20全体として銅(Cu)と添加元素(M)の存在を均一化するために、銅(Cu)スパッタリング層形成工程と添加元素(M)スパッタリング層形成工程とを交互に複数回行ってもよい。スパッタリング層形成工程を経て、基材1上に、2価の銅と0価の銅及び/または1価の銅とを含み、必要に応じて添加元素を含むカソード電極、または、還元処理により0価の銅へ還元される還元用の1価の銅及び/または還元用の2価の銅と、0価の銅へ還元されない1価の銅及び/または2価の銅を含み、必要に応じて添加元素を含むカソード電極を形成することができる。
【0060】
(4)銅酸化処理工程
銅酸化処理工程は、1価の銅及び/または2価の銅の存在比を所定量に調整する場合に、必要に応じて実施する工程である。図3に示すように、銅酸化処理工程は、形成されたスパッタリング層20に対して無電解めっきによる酸化処理をすることで、スパッタリング層20に含まれている0価の銅(Cu)の少なくとも一部を酸化して1価の銅(CuO)及び/または2価の銅(CuO)とした、酸化処理部22を形成する。無電解めっきによる酸化処理としては、例えば、スパッタリング層20を硫酸銅水溶液に浸漬させる酸化処理方法が挙げられる。
【0061】
(5)部分還元工程
部分還元工程は、銅酸化処理工程にて酸化された1価の銅及び/または2価の銅を、必要に応じて、0価の銅及び/または1価の銅へ還元することで0価の銅と1価の銅との存在比をさらに適正化する場合に、実施する工程である。部分還元工程は、図4に示すように、基材1上にスパッタリング層20を形成することで得られた複合体1’とアノード極33とを、隔膜31を有する2室型の電解セル30に収容した部分還元用水溶液32に浸漬させ、2室型の電解セル30に電源34から電解電位を付加することにより、部分還元処理を行う。また、部分還元処理を行うことで、スパッタリング層20を多孔質化させることができる。アノード極33としては、例えば、白金が挙げられる。部分還元用水溶液32としては、例えば、複合体1’側もアノード極側も、炭酸水素カリウム水溶液が挙げられる。
【0062】
(6)金属イオンで置換されたカチオン交換物質施与工程
金属イオンで置換されたカチオン交換物質施与工程は、図5に示すように、必要に応じて銅酸化処理工程と部分還元工程が行われたスパッタリング層20上に、金属イオンで置換されたカチオン交換物質21を施与して、スパッタリング層20の銅の表面を金属イオンで置換されたカチオン交換物質21にて修飾する工程である。銅酸化処理工程により酸化処理部22を形成した場合には、酸化処理部22にも金属イオンで置換されたカチオン交換物質21を施与する。スパッタリング層20上に、金属イオンで置換されたカチオン交換物質21を施与する方法としては、例えば、金属イオンで置換されたカチオン交換物質21の溶液をスプレーにて噴霧する方法が挙げられる。スパッタリング層20上に金属イオンで置換されたカチオン交換物質21を施与することで、1価の銅(CuO)の少なくとも一部が2価の銅(CuO)へ酸化される。
【0063】
[電解装置]
次に、本発明のカソード電極を備えた、電気的に二酸化炭素を一酸化炭素、オレフィン系炭化水素及び/またはアルコールへ還元する電解還元装置、本発明のカソード電極と基材との複合体を備えた、電気的に二酸化炭素を一酸化炭素、オレフィン系炭化水素及び/またはアルコールへ還元する電解還元装置について説明する。図6は、本発明のカソード電極を備えた電解還元装置の概要を示す説明図である。図7は、本発明のカソード電極を備えた他の電解還元装置の概要を示す説明図である。
【0064】
図6に示すように、電解還元装置210としては、例えば、3室型電解還元装置が挙げられる。具体的には、電解還元装置210は、例えば、互いに区画されたカソードガス室211と、カソード液室212と、アノード液室213と、を備えた電解セル214を有する。カソードガス室211とカソード液室212とは、ガス拡散電極としてのカソード216によって区画されている。カソード液室212とアノード液室213とはイオン伝導性を有する隔壁217によって区画されている。アノード電極218は、アノード液室213に配置されている。カソードガス室211には、気体の二酸化炭素が供給される。カソード液室212には、カソード液が供給される。アノード液室213には、アノード液が供給される。アノード電極218及びカソード216は直流電源219に接続されている。
【0065】
アノード液及びカソード液は、電解質が溶解した水溶液である。電解質は、例えば、カリウム、ナトリウム、リチウム、またはこれらの化合物の少なくとも1つを含む。電解質は、例えば、LiOH、NaOH、KOH、LiCO、NaCO、KCO、LiHCO、NaHCO、及びKHCOからなる群の少なくとも1つの化合物を含む。
【0066】
カソード216は、ガス拡散電極であり、ガス拡散層221とマイクロポーラス層222とを有する。電解還元装置210では、カソード216として、本発明である、銅の表面が金属イオンで置換されたカチオン交換物質にて修飾されているカソード電極と基材との複合体が使用され、マイクロポーラス層222が前記複合体の基材に相当する。ガス拡散層221は、二酸化炭素を含む気体を透過するが、カソード液を含む水溶液の透過を抑制する。マイクロポーラス層222は、二酸化炭素を含む気体とカソード液を含む水溶液とを共に透過させる。ガス拡散層221及びマイクロポーラス層222は、それぞれ、平面状に形成されている。ガス拡散層221はカソードガス室211側に配置され、マイクロポーラス層222はカソード液室212側に配置されている。
【0067】
ガス拡散層221としては、例えば、カーボンペーパー、カーボンフェルト、カーボンクロス等の多孔質の導電性基材の表面に、ポリテトラフルオロエチレン等の撥水性被膜を形成したものが挙げられる。導電性基材は、直流電源219の負極に接続され、電子の供給を受ける。マイクロポーラス層222は、ガス拡散層221の表面にカーボン、フッ素含有樹脂、金属等を用いて形成されており、触媒を担持している。電解還元装置210では、マイクロポーラス層222が担持している触媒として、本発明である、銅の表面が金属イオンで置換されたカチオン交換物質にて修飾されているカソード電極が使用される。また、電解還元装置210の直流電源219として再生可能エネルギーを使用することで、環境負荷を低減しつつ、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成することができる。なお、ガス拡散層221とマイクロポーラス層222とを有するガス拡散電極に代えて、マイクロポーラス層222の一部分がガス拡散層221として機能するガス拡散電極を設けてもよい。
【0068】
また、図7に示すように、他の電解還元装置210として、例えば、MEA型電解セル構造の電解還元装置210が挙げられる。なお、図7に示す他の電解還元装置210では、図6に示す電解還元装置210と同じ構成については図6に示す電解還元装置210と同じ符号を付している。MEA型電解セル構造の電解還元装置210は、カソード液を使用していないことから、カソード液室212を有していない。従って、MEA型電解セル構造の電解還元装置210は、互いに区画されたカソードガス室211と、カソード液室212と、アノード液室213と、を備えた電解セル214に代えて、互いに区画されたカソードガス室211と、アノード液室213と、を備えた電解セル214を有する。カソードガス室211とアノード液室213とは、カソード電極とアノード電極218に狭持された隔膜217によって区画されている。アノード電極218は、アノード液室213に配置されている。カソードガス室211には、気体の二酸化炭素が供給される。アノード液室213には、アノード液が供給される。アノード電極218及びカソード電極は直流電源219に接続されている。MEA型電解セル構造の電解還元装置210では、隔膜217自体を電解質として用いることで、カソード液を使用していないことから、集積化に適している。
【0069】
MEA型電解セル構造の電解還元装置210でも、カソード電極は、ガス拡散電極であり、ガス拡散層221とマイクロポーラス層222とを有する。また、MEA型電解セル構造の電解還元装置210でも、カソード電極として、本発明である、銅の表面が金属イオンで置換されたカチオン交換物質にて修飾されているカソード電極と基材との複合体が使用され、マイクロポーラス層222が前記複合体の基材に相当する。
【実施例0070】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
[実施例1]
カソード電極の調製について
スパッタリング層形成工程
基材(多孔質カーボン)上に、DC100W、アルゴンガス6.0sccm、5分間の条件によるスパッタリングにて、銅層を製膜し、第1の銅スパッタリング層を形成した。その後、形成した第1の銅スパッタリング層上に、DC50W、アルゴンガス6.0sccm、30秒間の条件によるスパッタリングにて、アルミニウム層を製膜し、第1のアルミニウムスパッタリング層を形成した。その後、形成した第1のアルミニウムスパッタリング層上に、DC100W、アルゴンガス6.0sccm、5分間の条件によるスパッタリングにて、銅層を製膜し、第2の銅スパッタリング層を形成した。その後、形成した第2の銅スパッタリング層上に、DC50W、アルゴンガス6.0sccm、30秒間の条件によるスパッタリングにて、アルミニウム層を製膜し、第2のアルミニウムスパッタリング層を形成した。その後、形成した第2のアルミニウムスパッタリング層上に、DC100W、アルゴンガス6.0sccm、5分間の条件によるスパッタリングにて、銅層を製膜し、第3の銅スパッタリング層を形成し、5層からなる積層体であるスパッタリング層とした。
【0072】
銅酸化処理工程
上記のようにして得られた積層体であるスパッタリング層を、硫酸銅と硫酸カリウムを含んだ水溶液(9.7mMの銅イオン、0.5Mの硫酸イオン)100mLに浸漬させて、20℃にて20分間の無電解めっきをし、銅スパッタリング層に含まれている0価の銅の一部を酸化して1価の銅及び/または2価の銅とした。
【0073】
金属イオンで置換されたカチオン交換物質施与工程
カチオン交換樹脂(スルホン酸化テトラフルオロエチレン系のポリマー、「ナフィオン」(登録商標)、デュポン社)の水溶液(濃度5質量%)と水酸化カリウム水溶液(濃度8M)を混合してカリウムイオンで置換されたカチオン交換樹脂の水溶液(カチオン交換樹脂の水素イオンがカリウムイオンで置換されたカチオン交換樹脂の水溶液)を調製した。得られたカリウムイオンで置換されたカチオン交換樹脂の水溶液を、銅酸化処理工程を行った、5層からなる積層体であるスパッタリング層の表面に、スプレー塗布(カリウムイオンで置換されたカチオン交換樹脂の水溶液の塗布量650μL)して加熱乾燥し、塗布前後の重量差から、銅元素100gに対するカチオン交換樹脂(ナフィオン)の堆積量が125g~24333gとなるよう、スパッタリング層の銅の表面を、カリウムイオンで置換されたカチオン交換樹脂で修飾した。
【0074】
上記のようにして、基材上にスパッタリング層であるカソード電極を調製し、カソード電極と基材との複合体を製造した。
【0075】
[比較例1]
金属イオンで置換されたカチオン交換物質施与工程に代えて、後述する水酸化カリウム施与工程を用いた以外は実施例1と同様にして、カソード電極と基材との複合体を製造した。上記から、比較例1では、5層からなる積層体であるスパッタリング層の銅が、カリウムイオンで置換されたカチオン交換樹脂で表面修飾されておらず、その代わりに、カリウムイオンと水酸化物イオンで表面修飾されているカソード電極と基材との複合体とした。
【0076】
水酸化カリウム施与工程
8Mの水酸化カリウム水溶液に500μLの水を添加して水酸化カリウム水溶液を調製し、調製した水酸化カリウム水溶液を、銅酸化処理工程を行った、5層からなる積層体であるスパッタリング層の表面に、スプレー塗布(水酸化カリウム水溶液の塗布量600μL)して、加熱乾燥し、スパッタリング層の銅の表面を、カリウムイオンと水酸化物イオンで修飾した。
【0077】
評価項目
[安定性試験]
二酸化炭素還元反応の開始から24時間後におけるエチレンガス選択率(E24、単位:%)を測定した。E24が50%以上を、二酸化炭素の還元反応によってエチレンを生成する触媒反応が、長期間にわたって安定的に持続でき、触媒反応の安定性に優れていると評価した。エチレンガス選択率は以下のように評価した。
【0078】
[エチレンガス選択率(%)]
電解セル(電解液:1MのKHCO水溶液、電解液流量:50mL/min)の出口ガス中に含まれるエチレンの濃度とガス流量から、単位時間当たりのエチレンのモル数、及び必要な電子のモル数を算出した(二酸化炭素ガス流量:40mL/min)。一方、電位印加装置の設定電流値(-530mA)から、単位時間当たりに電解セルを通過した電子のモル数を算出した。前者の後者に対する割合をエチレン選択率(%)として評価した。出口ガス中に含まれるエチレンの濃度は、ガスクロマトグラフ(型番:Agilent 990マイクロGC)を用いて測定した。ガス流量はマスフローメーターを用いて測定した。
【0079】
実施例及び比較例の測定結果を下記表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
上記表1に示すように、スパッタリング層の銅の表面をカリウムイオンで置換されたカチオン交換樹脂で修飾した実施例1では、二酸化炭素還元反応の開始から24時間後におけるエチレンガス選択率(E24)が50%以上であり、二酸化炭素の還元反応によってエチレンを生成する触媒反応が、長期間にわたって安定的に持続でき、触媒反応の安定性に優れていた。
【0082】
一方で、スパッタリング層の銅の表面をカリウムイオンと水酸化物イオンで修飾した比較例1では、二酸化炭素還元反応の開始から24時間後におけるエチレンガス選択率(E24)が27%であり、二酸化炭素の還元反応によってエチレンを生成する触媒反応が、長期間にわたって安定的に持続できるとは評価できなかった。
【0083】
なお、X線回折法(XRD)にて、安定性試験の前後における実施例1のカソード電極と比較例1のカソード電極を分析したところ、安定性試験の前後ともに、実施例1と比較例1の0価の銅(Cu)、1価の銅(CuO)及び2価の銅(CuO)の回折X線強度のピークについて、有意な差異を認めることはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のカソード電極は、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が長期間にわたって安定的に持続できるので、大気中の二酸化炭素を吸収、回収して、二酸化炭素から産業上有用な有機化合物を生成する分野で利用価値が高い。
【符号の説明】
【0085】
1 基材
20 スパッタリング層
21 金属イオンで置換されたカチオン交換物質
100 カソード電極
120 複合体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7