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特開2024-18075カソード電極、カソード電極と基材との複合体、カソード電極を備えた電解還元装置及びカソード電極と基材との複合体の製造方法
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  • 特開-カソード電極、カソード電極と基材との複合体、カソード電極を備えた電解還元装置及びカソード電極と基材との複合体の製造方法 図1
  • 特開-カソード電極、カソード電極と基材との複合体、カソード電極を備えた電解還元装置及びカソード電極と基材との複合体の製造方法 図2
  • 特開-カソード電極、カソード電極と基材との複合体、カソード電極を備えた電解還元装置及びカソード電極と基材との複合体の製造方法 図3
  • 特開-カソード電極、カソード電極と基材との複合体、カソード電極を備えた電解還元装置及びカソード電極と基材との複合体の製造方法 図4
  • 特開-カソード電極、カソード電極と基材との複合体、カソード電極を備えた電解還元装置及びカソード電極と基材との複合体の製造方法 図5
  • 特開-カソード電極、カソード電極と基材との複合体、カソード電極を備えた電解還元装置及びカソード電極と基材との複合体の製造方法 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018075
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】カソード電極、カソード電極と基材との複合体、カソード電極を備えた電解還元装置及びカソード電極と基材との複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/091 20210101AFI20240201BHJP
   C25B 3/26 20210101ALI20240201BHJP
   C25B 11/031 20210101ALI20240201BHJP
   C25B 11/053 20210101ALI20240201BHJP
   C25B 11/065 20210101ALI20240201BHJP
   C25B 11/061 20210101ALI20240201BHJP
   C25B 11/077 20210101ALI20240201BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20240201BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20240201BHJP
   B01J 23/72 20060101ALI20240201BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20240201BHJP
   C25B 3/03 20210101ALI20240201BHJP
   C25B 3/07 20210101ALI20240201BHJP
   C25B 1/23 20210101ALI20240201BHJP
【FI】
C25B11/091
C25B3/26
C25B11/031
C25B11/053
C25B11/065
C25B11/061
C25B11/077
C23C28/00 C
C22C9/00
B01J23/72 M
B01J37/02 301P
C25B3/03
C25B3/07
C25B1/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121152
(22)【出願日】2022-07-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、ムーンショット型研究開発事業「地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/電気化学プロセスを主体とする革新的CO2大量資源化システムの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴博
(72)【発明者】
【氏名】山本 潔
(72)【発明者】
【氏名】味村 裕
(72)【発明者】
【氏名】杉山 正和
(72)【発明者】
【氏名】嶺岸 耕
(72)【発明者】
【氏名】山口 信義
(72)【発明者】
【氏名】松本 純
(72)【発明者】
【氏名】武田 大
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
4K021
4K044
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BA22A
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BC16A
4G169BC16B
4G169BC17A
4G169BC31A
4G169BC31B
4G169BC35A
4G169BC50A
4G169BD03A
4G169BD05A
4G169BE34A
4G169CB81
4G169CC22
4G169CC29
4G169CC40
4G169DA06
4G169EC28
4G169EE08
4G169FA03
4G169FB02
4G169FB39
4G169FB43
4G169FC08
4K011AA11
4K011AA20
4K011AA23
4K011AA29
4K011AA68
4K011BA06
4K011DA11
4K021AA09
4K021AC02
4K021AC05
4K021AC09
4K021BA17
4K021DB05
4K021DB06
4K021DB18
4K021DB40
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC15
4K044AA06
4K044AA11
4K044AA16
4K044AB08
4K044BA06
4K044BA10
4K044BA12
4K044BB04
4K044BB06
4K044BC14
4K044CA13
4K044CA16
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたって高い効率を安定的に持続できるカソード電極、カソード電極と基材との複合体を提供する。
【解決手段】電気的に二酸化炭素を還元するカソード電極であり、銅と、アルミニウム、ホウ素、ガリウム、亜鉛、チタン及びケイ素からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素と、を含み、前記銅が、0価の銅と、1価の銅及び/または2価の銅と、を含むカソード電極。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的に二酸化炭素を還元するカソード電極であり、
銅と、アルミニウム、ホウ素、ガリウム、亜鉛、チタン及びケイ素からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素と、を含み、
前記銅が、0価の銅と、1価の銅及び/または2価の銅と、を含むカソード電極。
【請求項2】
電気的に二酸化炭素を還元するカソード電極であり、
銅と、アルミニウム、ホウ素、ガリウム、亜鉛、チタン及びケイ素からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素と、を含み、
前記銅が、還元処理により0価の銅へ還元される、還元用の1価の銅及び/または還元用の2価の銅と、0価の銅へ還元されない1価の銅及び/または2価の銅と、を含むカソード電極。
【請求項3】
前記添加元素が、前記銅100原子%に対して、0.10原子%以上1.0原子%以下含まれる請求項1または2に記載のカソード電極。
【請求項4】
前記添加元素が、前記銅100原子%に対して、0.25原子%以上0.70原子%以下含まれる請求項1または2に記載のカソード電極。
【請求項5】
前記添加元素が、アルミニウムを含む請求項1または2に記載のカソード電極。
【請求項6】
多孔質構造を有する請求項1または2に記載のカソード電極。
【請求項7】
基材と、前記基材上に配置された請求項1または2に記載のカソード電極と、を有する、カソード電極と基材との複合体。
【請求項8】
前記基材が、多孔質構造を有する請求項7に記載の複合体。
【請求項9】
多孔質構造を有する前記基材の材質が、カーボンである請求項8に記載の複合体。
【請求項10】
多孔質構造を有する前記基材の材質が、フッ素含有樹脂である請求項8に記載の複合体。
【請求項11】
多孔質構造を有する前記基材の材質が、金属である請求項8に記載の複合体。
【請求項12】
前記金属が、銅である請求項11に記載の複合体。
【請求項13】
前記金属が、銅粒子の焼結体である請求項11に記載の複合体。
【請求項14】
請求項1または2に記載のカソード電極を備えた、電気的に二酸化炭素を一酸化炭素、オレフィン系炭化水素及び/またはアルコールへ還元する電解還元装置。
【請求項15】
請求項7に記載の複合体を備えた、電気的に二酸化炭素を一酸化炭素、オレフィン系炭化水素及び/またはアルコールへ還元する電解還元装置。
【請求項16】
多孔質構造を有する基材を用意する工程と、
前記基材上に、スパッタリングにより、銅と、アルミニウム、ホウ素、ガリウム、亜鉛、チタン及びケイ素からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素と、を有するスパッタリング層を形成するスパッタリング層形成工程を有する、前記銅が、0価の銅と、1価の銅及び/または2価の銅と、を含むカソード電極を形成する工程と、
を有する、電気的に二酸化炭素を還元するカソード電極と基材との複合体の製造方法。
【請求項17】
多孔質構造を有する基材を用意する工程と、
前記基材上に、スパッタリングにより、銅と、アルミニウム、ホウ素、ガリウム、亜鉛、チタン及びケイ素からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素と、を有するスパッタリング層を形成するスパッタリング層形成工程を有する、前記銅が、還元処理により0価の銅へ還元される、還元用の1価の銅及び/または還元用の2価の銅と、0価の銅へ還元されない1価の銅及び/または2価の銅と、を含むカソード電極を形成する工程と、
を有する、電気的に二酸化炭素を還元するカソード電極と基材との複合体の製造方法。
【請求項18】
前記スパッタリング層形成工程の後、さらに、前記スパッタリング層の前記銅の少なくとも一部を酸化して前記1価の銅及び/または前記2価の銅とする、銅酸化処理工程を有する請求項16または17に記載の複合体の製造方法。
【請求項19】
前記銅酸化処理工程にて酸化された前記1価の銅及び/または前記2価の銅を、部分還元して0価の銅及び/または1価の銅とする、部分還元工程を、さらに有する請求項18に記載の複合体の製造方法。
【請求項20】
前記銅酸化処理工程が、無電解めっきである請求項18に記載の複合体の製造方法。
【請求項21】
前記スパッタリング層形成工程が、スパッタリングにより、前記銅を有するスパッタリング層を形成する銅スパッタリング層形成工程と、前記銅スパッタリング層上に、スパッタリングにより、前記添加元素を有するスパッタリング層を形成する添加元素スパッタリング層形成工程と、を有する請求項16または17に記載の複合体の製造方法。
【請求項22】
前記添加元素スパッタリング層上に、スパッタリングにより、さらに、前記銅を有するスパッタリング層を形成する銅スパッタリング層形成工程を有する請求項21に記載の複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素を電気的に還元して、二酸化炭素を一酸化炭素、エチレン等のオレフィン系炭化水素及び/またはアルコールへ変換することができるカソード電極、カソード電極と基材との複合体、カソード電極を備えた電解還元装置及びカソード電極と基材との複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化による悪影響が様々に地球環境の変化をもたらし、多くの問題現象が生じている。地球環境の変化の原因のひとつとして、大気中の温室効果ガス、特に、温室効果ガスの多くを占める二酸化炭素の濃度上昇にあるとされている。大気中の二酸化炭素濃度を下げるために、陸上の新たな植林や海洋藻類による光合成量の増加だけでなく、積極的に大気中の二酸化炭素を吸収、回収することも検討されている。さらには、二酸化炭素を吸収、回収するだけではなく、二酸化炭素由来の炭素を有機化合物の原料として活用することも検討されている。
【0003】
具体的には、二酸化炭素を還元して、例えば、エチレン、エタノール等のC2化合物、一酸化炭素、メタン、メタノール、ギ酸等のC1化合物に変換して、有機化合物の合成用として活用していくことが検討されている。これらの中でも、特に、C2化合物であるエチレン及びエタノールは、様々な有機化合物を合成する際の誘導体として大変有用であり、一酸化炭素やメタン等のC1化合物よりも利用価値が高い。
【0004】
近年、二酸化炭素の還元反応には、光触媒や、電極触媒等の触媒が広く用いられており、さらに性能に優れた触媒の開発が求められている。二酸化炭素の還元反応に用いられる触媒には、反応効率だけでなく、特定の反応に対する選択性が求められており、そのような観点から、触媒材料の選択が重要となる(非特許文献1)。例えば、一酸化炭素を効率良く還元生成させ、還元物質中での一酸化炭素の割合を向上させる点で、触媒材料として、金、銀、亜鉛が用いられている。また、メタン、エタン、エチレン等の炭化水素を効率よく還元生成させる点で、触媒材料として、銅が用いられている。これらのうち、特に、銅は、エチレンなどのC2化合物を生成できることから、二酸化炭素のカソード還元電極触媒として着目されている。
【0005】
銅を用いた二酸化炭素のカソード還元電極触媒としては、例えば、基材上に有機物からなる拡散防止層を形成し、さらに拡散防止層の上に、主に金属クラスターからなる触媒層を形成することで、触媒層と基材間の金属元素の拡散、金属の副反応を防ぎ、触媒効率の低下を抑制した二酸化炭素還元用カソード電極が提案されている(特許文献1)。一方で、特許文献1では、実施例にて評価されているのは二酸化炭素還元反応におけるエチレン等の各生成物のファラデー効率である。特許文献1では、エチレン等の有機化合物を合成する触媒反応が、高いエチレン等の選択率を長期間にわたって安定的に持続することについて検証されていない。
【0006】
二酸化炭素の還元反応によるエチレン等の有機化合物の生成を工業的に実用化するには、エチレン等の有機化合物を生成する触媒反応が、高いエチレン等の有機化合物の選択率を数百時間以上という長期間にわたって安定的に持続することが要求されている。特許文献1の二酸化炭素還元用カソード電極では、エチレン等の有機化合物を生成する触媒反応が長期間にわたって高い効率を安定的に持続できる点で改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-168410号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Y Hori「Electrochemical reduction of CO at a Copper Electrode.」 J. Phys. Chem. B. 101(36). 7075-7081 (1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記事情に鑑み、本発明は、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたって高い効率を安定的に持続できるカソード電極、カソード電極と基材との複合体、カソード電極を備えた電解還元装置、及びカソード電極と基材との複合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の構成の要旨は、以下の通りである。
[1]電気的に二酸化炭素を還元するカソード電極であり、
銅と、アルミニウム、ホウ素、ガリウム、亜鉛、チタン及びケイ素からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素と、を含み、
前記銅が、0価の銅と、1価の銅及び/または2価の銅と、を含むカソード電極。
[2]電気的に二酸化炭素を還元するカソード電極であり、
銅と、アルミニウム、ホウ素、ガリウム、亜鉛、チタン及びケイ素からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素と、を含み、
前記銅が、還元処理により0価の銅へ還元される、還元用の1価の銅及び/または還元用の2価の銅と、0価の銅へ還元されない1価の銅及び/または2価の銅と、を含むカソード電極。
[3]前記添加元素が、前記銅100原子%に対して、0.10原子%以上1.0原子%以下含まれる[1]または[2]に記載のカソード電極。
[4]前記添加元素が、前記銅100原子%に対して、0.25原子%以上0.70原子%以下含まれる[1]または[2]に記載のカソード電極。
[5]前記添加元素が、アルミニウムを含む[1]または[2]に記載のカソード電極。
[6]多孔質構造を有する[1]または[2]に記載のカソード電極。
[7]基材と、前記基材上に配置された[1]または[2]に記載のカソード電極と、を有する、カソード電極と基材との複合体。
[8]前記基材が、多孔質構造を有する[7]に記載の複合体。
[9]多孔質構造を有する前記基材の材質が、カーボンである[8]に記載の複合体。
[10]多孔質構造を有する前記基材の材質が、フッ素含有樹脂である[8]に記載の複合体。
[11]多孔質構造を有する前記基材の材質が、金属である[8]に記載の複合体。
[12]前記金属が、銅である[11]に記載の複合体。
[13]前記金属が、銅粒子の焼結体である[11]に記載の複合体。
[14][1]または[2]に記載のカソード電極を備えた、電気的に二酸化炭素を一酸化炭素、オレフィン系炭化水素及び/またはアルコールへ還元する電解還元装置。
[15][7]に記載の複合体を備えた、電気的に二酸化炭素を一酸化炭素、オレフィン系炭化水素及び/またはアルコールへ還元する電解還元装置。
[16]多孔質構造を有する基材を用意する工程と、
前記基材上に、スパッタリングにより、銅と、アルミニウム、ホウ素、ガリウム、亜鉛、チタン及びケイ素からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素と、を有するスパッタリング層を形成するスパッタリング層形成工程を有する、前記銅が、0価の銅と、1価の銅及び/または2価の銅と、を含むカソード電極を形成する工程と、
を有する、電気的に二酸化炭素を還元するカソード電極と基材との複合体の製造方法。
[17]多孔質構造を有する基材を用意する工程と、
前記基材上に、スパッタリングにより、銅と、アルミニウム、ホウ素、ガリウム、亜鉛、チタン及びケイ素からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素と、を有するスパッタリング層を形成するスパッタリング層形成工程を有する、前記銅が、還元処理により0価の銅へ還元される、還元用の1価の銅及び/または還元用の2価の銅と、0価の銅へ還元されない1価の銅及び/または2価の銅と、を含むカソード電極を形成する工程と、
を有する、電気的に二酸化炭素を還元するカソード電極と基材との複合体の製造方法。
[18]前記スパッタリング層形成工程の後、さらに、前記スパッタリング層の前記銅の少なくとも一部を酸化して前記1価の銅及び/または前記2価の銅とする、銅酸化処理工程を有する[16]または[17]に記載の複合体の製造方法。
[19]前記銅酸化処理工程にて酸化された前記1価の銅及び/または前記2価の銅を、部分還元して0価の銅及び/または1価の銅とする、部分還元工程を、さらに有する[18]に記載の複合体の製造方法。
[20]前記銅酸化処理工程が、無電解めっきである[18]に記載の複合体の製造方法。
[21]前記スパッタリング層形成工程が、スパッタリングにより、前記銅を有するスパッタリング層を形成する銅スパッタリング層形成工程と、前記銅スパッタリング層上に、スパッタリングにより、前記添加元素を有するスパッタリング層を形成する添加元素スパッタリング層形成工程と、を有する[16]または[17]に記載の複合体の製造方法。
[22]前記添加元素スパッタリング層上に、スパッタリングにより、さらに、前記銅を有するスパッタリング層を形成する銅スパッタリング層形成工程を有する[21]に記載の複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のカソード電極の態様によれば、銅と、アルミニウム、ホウ素、ガリウム、亜鉛、チタン及びケイ素からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素と、を含み、前記銅が、0価の銅と、1価の銅及び/または2価の銅と、を含む、または、銅と、アルミニウム、ホウ素、ガリウム、亜鉛、チタン及びケイ素からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素と、を含み、前記銅が、還元処理により0価の銅へ還元される、還元用の1価の銅及び/または還元用の2価の銅と、0価の銅へ還元されない1価の銅及び/または2価の銅と、を含むことにより、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたって安定的に持続できる。
【0012】
触媒材料として銅が使用されているカソード電極における二酸化炭素の還元反応では、上記カソード電極に存在する0価の銅と1価の銅との境界部が、二酸化炭素由来の炭素がC-C結合を形成し、またC-C結合を安定化する部位として機能する、すなわち、0価の銅と1価の銅との境界部が二酸化炭素の還元反応の主な活性部位である、と考えられる。また、上記カソード電極では、二酸化炭素の還元反応の際に、1価の銅は還元されて0価の銅となり、2価の銅は還元されて0価の銅または1価の銅となる。従って、長期間にわたって二酸化炭素の還元反応を持続させると、2価の銅が0価の銅または1価の銅へ還元され、1価の銅が0価の銅へ還元されていくことで、0価の銅と1価の銅との境界部が減少していく傾向にあるところ、本発明のカソード電極では、銅に加えて、アルミニウム、ホウ素、ガリウム、亜鉛、チタン及びケイ素からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素を含むことにより、前記添加元素がカソード電極内に酸素を保持する機能を有することで、1価の銅から0価の銅への還元が適度に抑制される。上記から、本発明のカソード電極では、長期間にわたって二酸化炭素の還元反応を持続させても、0価の銅と1価の銅との存在比が適正化されていることでC-C結合の生成と安定化が維持されると考えられる。その結果、本発明のカソード電極では、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたって安定的に持続できると考えられる。
【0013】
なお、エチレンもエタノールもC2化合物であり、触媒材料上でのC-C結合の生成が反応経路の中間にある。従って、エチレン生成とエタノール生成の活性部位は同一または非常に近接しているため、エチレン生成の安定性とエタノール生成の安定性は類似の傾向を示し、エチレン生成でもエタノール生成でも、二酸化炭素の還元反応は同様に進む。
【0014】
本発明のカソード電極の態様によれば、前記添加元素が、前記銅100原子%に対して、0.10原子%以上1.0原子%以下含まれることにより、長期間にわたって二酸化炭素の還元反応を持続させても、0価の銅と1価の銅との存在比が確実に適正化されて、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたってさらに安定的に持続できる。
【0015】
本発明のカソード電極の態様によれば、前記添加元素が、前記銅100原子%に対して、0.25原子%以上0.70原子%以下含まれることにより、長期間にわたって二酸化炭素の還元反応を持続させても、0価の銅と1価の銅との存在比をさらに適正な範囲に維持でき、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、より長期間にわたってさらに安定的に持続できる。
【0016】
本発明のカソード電極の態様によれば、前記添加元素が、アルミニウムを含むことにより、カソード電極内に酸素を適度に保持する機能が確実に得られるので、長期間にわたって二酸化炭素の還元反応を持続させても、0価の銅と1価の銅との存在比が確実に適正化されて、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたってさらに安定的に持続できる。
【0017】
本発明のカソード電極の態様によれば、カソード電極が多孔質構造を有することにより、カソード電極の二酸化炭素の還元反応の場における、水と二酸化炭素の接触が円滑化されるので、エチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が長期間にわたってさらに安定的に持続できる。
【0018】
本発明のカソード電極と基材との複合体の態様によれば、基材と本発明のカソード電極とを有することにより、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたって安定的に持続できるカソード電極と基材との複合体を得ることができる。
【0019】
本発明のカソード電極と基材との複合体の態様によれば、前記基材が多孔質構造を有することにより、ガス状の二酸化炭素が円滑にカソード電極に接触できるので、ガス状の二酸化炭素であっても、エチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が長期間にわたってさらに安定的に持続できる。
【0020】
本発明のカソード電極と基材との複合体の製造方法によれば、基材上に、スパッタリングにより、銅と、アルミニウム、ホウ素、ガリウム、亜鉛、チタン及びケイ素からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素と、を有するスパッタリング層を形成する、スパッタリング層形成工程を有することにより、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が長期間にわたって安定的に持続できる複合体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明のカソード電極と基材との複合体の断面の概要を示す説明図である。
図2】カソード電極と基材との複合体の製造方法における、電解研磨処理工程の説明図である。
図3】カソード電極と基材との複合体の製造方法における、スパッタリング層形成工程の説明図である。
図4】カソード電極と基材との複合体の製造方法における、部分還元工程の説明図である。
図5】本発明のカソード電極を備えた電解還元装置の概要を示す説明図である。
図6】本発明のカソード電極を備えた他の電解還元装置の概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[カソード電極]
本発明のカソード電極について、以下に説明する。本発明の第1のカソード電極は、電気的に二酸化炭素を還元するカソード電極であり、銅(Cu)と、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)及びケイ素(Si)からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素(M)と、を含み、前記銅(Cu)が、0価の銅と、1価の銅及び/または2価の銅と、を含む。上記した第1の本発明のカソード電極は、必須成分として、0価の銅と1価の銅及び/または2価の銅を含む銅と、上記添加元素(M)と、を含む。上記から、第1の本発明のカソード電極では、銅(Cu)として、0価の銅と、1価の銅及び/または2価の銅と、が存在する。
【0023】
第1のカソード電極において、1価の銅としては亜酸化銅(CuO)が挙げられ、2価の銅としては酸化銅(CuO)が挙げられる。また、0価の銅としては、銅単体が挙げられる。
【0024】
本発明の第1のカソード電極では、必須成分として、0価の銅と1価の銅及び/または2価の銅とを含む銅(Cu)と、上記添加元素(M)と、を含むことにより、長期間にわたって二酸化炭素の還元反応を持続させても、上記添加元素(M)がカソード電極内に酸素を保持する機能を有することで、1価の銅から0価の銅への還元が適度に抑制されている。本発明の第1のカソード電極では、上記のように、長期間にわたって二酸化炭素の還元反応を持続させても、1価の銅から0価の銅への還元が適度に抑制されていることで、0価の銅と1価の銅との存在比が適正化されているので、C-C結合の生成と安定化が維持されている。その結果、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたって安定的に持続できる。
【0025】
また、本発明の第2のカソード電極は、電気的に二酸化炭素を還元するカソード電極であり、銅(Cu)と、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)及びケイ素(Si)からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素(M)と、を含み、前記銅(Cu)が、還元処理により0価の銅へ還元される、還元用の1価の銅及び/または還元用の2価の銅と、0価の銅へ還元されない1価の銅及び/または2価の銅と、を含む。第2のカソード電極では、1価の銅及び/または2価の銅の一部が還元されて0価の銅となる。上記から、第2の本発明のカソード電極では、銅(Cu)として、還元用の1価の銅及び/または還元用の2価の銅と、0価の銅へ還元されない1価の銅及び/または2価の銅と、が存在する。上記した第2の本発明のカソード電極は、必須成分として、1価の銅及び/または2価の銅と、上記添加元素(M)と、を含む。本発明の第2のカソード電極は、還元処理されることで、還元用の2価の銅が還元されて0価の銅または1価の銅となり、還元用の1価の銅が還元されて0価の銅となる。従って、本発明の第2のカソード電極は、還元処理されることで、0価の銅と1価の銅及び/または2価の銅を含む銅と、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)及びケイ素(Si)からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素(M)と、を含むカソード電極となる。
【0026】
第2のカソード電極において、1価の銅としては亜酸化銅(CuO)が挙げられ、2価の銅としては酸化銅(CuO)が挙げられる。また、0価の銅としては、銅単体が挙げられる。
【0027】
本発明の第2のカソード電極では、必須成分として、1価の銅及び/または2価の銅を含む銅(Cu)と、上記添加元素(M)と、を含むことにより、長期間にわたって二酸化炭素の還元反応を持続させても、0価の銅と1価の銅との存在比が適正化されていることでC-C結合の生成と安定化が維持されるので、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたって安定的に持続できる。
【0028】
カソード電極における、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)及びケイ素(Si)からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素(M)の態様は、特に限定されず、例えば、添加元素自体(添加元素単体)の態様が挙げられる。また、添加元素自体の態様の他に、水酸化物の態様、酸化物の態様が挙げられる。また、添加元素(M)は、添加元素自体の態様と水酸化物の態様と酸化物の態様が混在していてもよい。
【0029】
前記添加元素(M)の含有量は、特に限定されないが、その下限値は、0価の銅、1価の銅及び2価の銅等、全ての銅を含めた銅元素100原子%に対して、長期間にわたって二酸化炭素の還元反応を持続させても0価の銅と1価の銅との存在比が確実に適正化されて、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が長期間にわたってさらに安定的に持続できる点から、0.10原子%の割合が好ましく、0.20原子%の割合がより好ましく、長期間にわたって二酸化炭素の還元反応を持続させても0価の銅と1価の銅との存在比をさらに適正な範囲に維持でき、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応がより長期間にわたってさらに安定的に持続できる点から、0.25原子%の割合が特に好ましい。一方で、前記添加元素(M)の含有量の上限値は、0価の銅、1価の銅及び2価の銅等、全ての銅を含めた銅元素100原子%に対して、長期間にわたって二酸化炭素の還元反応を持続させても0価の銅と1価の銅との存在比が確実に適正化されて、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が長期間にわたってさらに安定的に持続できる点から、1.0原子%の割合が好ましく、0.85原子%の割合がより好ましく、長期間にわたって二酸化炭素の還元反応を持続させても0価の銅と1価の銅との存在比をさらに適正な範囲に維持でき、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応がより長期間にわたってさらに安定的に持続できる点から、0.70原子%の割合が特に好ましい。
【0030】
添加元素(M)としては、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、ケイ素(Si)であれば、銅(Cu)と比較して酸化されやすく、また、銅(Cu)と比較して酸素との親和性が高い傾向があるので、いずれも使用可能である。一方で、これらの添加元素(M)のうち、カソード電極内に酸素を適度に保持する機能が確実に得られることで、長期間にわたって二酸化炭素の還元反応を持続させても0価の銅と1価の銅との存在比が確実に適正化されて、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が長期間にわたってさらに安定的に持続できる点から、アルミニウム(Al)が好ましい。これらの添加元素(M)は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
本発明の第1のカソード電極及び第2のカソード電極では、必要に応じて、任意成分として、銀(Ag)、金(Au)、パラジウム(Pd)及びカドミウム(Cd)からなる群から選択された少なくとも1種の他の金属元素(M1)を含んでいてもよい。前記他の金属元素(M1)が含まれることで、カソード電極の、エチレンなどのオレフィン系炭化水素またはエタノールなどのアルコールの生成反応の安定性向上に寄与し、また、カソード電極のCOからCOへの還元能の向上に寄与する。
【0032】
他の金属元素(M1)の態様は、特に限定されず、例えば、金属自体(金属単体)の態様が挙げられ、また、金属自体(金属単体)の態様の他に、水酸化物の態様、酸化物の態様が挙げられる。また、他の金属元素(M1)は、金属自体(金属単体)の態様と水酸化物の態様と酸化物の態様が混在していてもよい。これらの他の金属元素(M1)は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。他の金属元素(M1)の含有量は、特に限定されないが、0価の銅、1価の銅及び2価の銅等、全ての銅を含めた銅元素100原子%に対して、0.01原子%以上10原子%以下の範囲が好ましく、0.1原子%以上1.0原子%以下の範囲が特に好ましい。
【0033】
カソード電極の構造は、中実でも多孔質でもよいが、カソード電極の二酸化炭素の還元反応の場における水と二酸化炭素の接触が円滑化されることで、エチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が長期間にわたってさらに安定的に持続できる点から、多孔質構造が好ましい。多孔質構造中における空隙の割合(空隙率)は、特に限定されないが、その下限値は、二酸化炭素のカソード電極への浸透を円滑化することで、エチレンなどのオレフィン系炭化水素、エタノールなどのアルコールの生成効率がさらに向上する点から、1体積%が好ましく、10体積%が特に好ましい。一方で、多孔質構造の空隙率の上限値は、カソード電極の触媒反応に寄与する表面積を維持することで、エチレンなどのオレフィン系炭化水素、エタノールなどのアルコールの生成効率がさらに向上する点から、99体積%が好ましく、90体積%が特に好ましい。
【0034】
本発明のカソード電極は、例えば、カソード電極の一方の側からガス状の二酸化炭素を供給し、カソード電極の他方の側から液相の水を供給することで、カソード電極の触媒作用にてガス状の二酸化炭素と水が反応して電気的に二酸化炭素を還元して、エチレンなどのオレフィン系炭化水素、エタノールなどのアルコールを生成することができる。
【0035】
[カソード電極と基材との複合体]
本発明のカソード電極は、カソード電極単体の状態で使用されてもよく、以下に説明するように、基材と複合体を形成した状態で使用されてもよい。図1は、本発明のカソード電極と基材との複合体の断面の概要を示す説明図である。
【0036】
図1に示すように、カソード電極100と基材1との複合体120は、基材1と、基材1上に配置された上記した本発明のカソード電極100とを有する。カソード電極100は、第1の部位101と第1の部位101に対向した第2の部位102を有しており、基材1は、カソード電極100の第1の部位101側に設けられている。すなわち、基材1上に、カソード電極100の第1の部位101側が配置されている。カソード電極100の第2の部位102側には基材は設けられておらず、第2の部位102はカソード電極100及び複合体120の外部環境に露出している。カソード電極100は、基材1表面を被覆する被覆膜となっている。カソード電極100と基材1との複合体120では、本発明のカソード電極100を備えることにより、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたって安定的に持続できるカソード電極と基材との複合体を得ることができる。
【0037】
基材1上に形成されたカソード電極100の構造は、中実でもよく、多孔質でもよいが、上記の通り、カソード電極の二酸化炭素の還元反応の場における水と二酸化炭素の接触が円滑化されることで、エチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が長期間にわたってさらに安定的に持続できる点から、多孔質構造が好ましい。カソード電極100の多孔質構造は、中実構造のカソード電極に対して、例えば、後述する部分還元処理を行うことで形成することができる。なお、図1では、説明の便宜上、カソード電極100は多孔質構造としては表現していない。
【0038】
基材1は、中実でもよく、多孔質でもよいが、ガス状の二酸化炭素が円滑にカソード電極に接触できることで、ガス状の二酸化炭素であっても、エチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が長期間にわたってさらに安定的に持続できる点から、ガス透過性を有する多孔質構造が好ましい。
【0039】
また、多孔質構造の基材1の材質としては、特に限定されないが、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が、長期間にわたってさらに安定的に持続できるカソード電極と基材との複合体を得ることができる点から、例えば、カーボン、フッ素含有樹脂、金属が好ましい。フッ素含有樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、パーフルオロアルコキシアルカン、パーフルオロエチレンプロピレンコポリマー、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレンクロロトリフルオロエチレンコポリマー等が挙げられる。金属としては、例えば、銅(Cu)、ニオブ(Nb)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、上記金属を1種以上含有する合金、ステンレス鋼等の金属からなる多孔質金属等が挙げられる。前記金属が銅(Cu)の場合、多孔質金属として、例えば、銅粒子の焼結体が挙げられる。
【0040】
基材1の平均厚さは、特に限定されないが、例えば、0.2mm以上1.5mm以下の板材が挙げられる。
【0041】
カソード電極100と基材1との複合体120におけるカソード電極100は、例えば、基材1上に、スパッタリングにより製膜された、銅と添加元素(M)有するスパッタリング層である。なお、カソード電極100と基材1との複合体120におけるカソード電極100は、例えば、銅イオンと添加元素(M)のイオンを含む共電析溶液に基材1を浸漬して、基材1上に銅成分と添加元素(M)を共電析させて形成する、共電析層でもよい。
【0042】
[カソード電極と基材との複合体の製造方法]
カソード電極と基材との複合体の製造方法例について、以下に説明する。図2は、カソード電極と基材との複合体の製造方法における、電解研磨処理工程の説明図である。図3は、カソード電極と基材との複合体の製造方法における、スパッタリング層形成工程の説明図である。図4は、カソード電極と基材との複合体の製造方法における、部分還元工程の説明図である。
【0043】
カソード電極と基材との複合体の製造方法としては、(1)基材(例えば、多孔質構造を有する基材)を用意する工程と、(2)用意した基材に、必要に応じて、電解研磨処理を行う電解研磨処理工程と、(3)電解研磨処理が必要に応じて行われた基材上に、スパッタリングにより、銅(Cu)と、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)及びケイ素(Si)からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素(M)と、を有するスパッタリング層を形成する、スパッタリング層形成工程と、(4)必要に応じて、スパッタリング層形成工程の後、さらに、形成されたスパッタリング層の銅の少なくとも一部を酸化して1価の銅及び/または2価の銅とする、銅酸化処理工程と、(5)銅酸化処理工程にて酸化された1価の銅及び/または2価の銅を、部分還元して0価の銅及び/または1価の銅とする、部分還元工程と、を有する。上記工程のうち、(1)の工程と(3)の工程が必須の工程であり、(2)の工程と(4)の工程と(5)の工程が任意の工程である。
【0044】
上記したカソード電極と基材との複合体の製造方法により、基材上に、銅が0価の銅と1価の銅及び/または2価の銅とを含むカソード電極、または、銅が、還元処理により0価の銅へ還元される還元用の1価の銅及び/または還元用の2価の銅と、0価の銅へ還元されない1価の銅及び/または2価の銅と、を含むカソード電極を形成することができる。また、上記したカソード電極と基材との複合体の製造方法により、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が長期間にわたって安定的に持続できる複合体を製造することができる。
【0045】
(1)基材(例えば、多孔質構造を有する基材)を用意する工程
基材(例えば、多孔質構造を有する基材)を用意する工程は、上記した基材を準備する工程である。基材の材料種や多孔質構造の空隙率は、カソード電極と基材との複合体に要求される特性に応じて、適宜選択可能である。
【0046】
(2)電解研磨処理工程
電解研磨処理工程は、例えば、基材の材料として金属を使用する場合に、必要に応じて実施する工程である。電解研磨処理工程は、基材表面をヘキサン等の有機溶剤で脱脂した後、洗浄・乾燥した後、図2に示すように、容器10に混酸溶液11を収容し、混酸溶液11に陽極である基材1を浸漬させ、基材1を挟む位置に陰極2を浸漬させ、陽極である基材1と陰極2に電解電位を付与する。陽極である基材1と陰極2に電解電位を付与することで基材1の表面が電解研磨される。基材1の表面が電解研磨されることで、基材1の表面の加工変質層が低減、除去される。混酸溶液11としては、例えば、リン酸と硫酸の混酸水溶液が挙げられる。陰極2としては、例えば、チタン等を挙げることができる。
【0047】
(3)スパッタリング層形成工程
図3に示すように、スパッタリング層形成工程は、スパッタリングにより、基材1上に、銅を有するスパッタリング層を形成する銅スパッタリング層形成工程と、銅スパッタリング層上に、スパッタリングにより、添加元素(M)を有するスパッタリング層を形成する添加元素(M)スパッタリング層形成工程と、を有する。また、必要に応じて、形成した添加元素(M)スパッタリング層上に、スパッタリングにより、さらに、銅を有するスパッタリング層を形成する銅スパッタリング層形成工程を有する。電源からの電力量とスパッタリング時間を調整することで、銅100原子%に対する添加元素(M)の含有量を調整することができる。また、必要に応じて、スパッタリング層全体として銅と添加元素(M)の存在を均一化するために、銅スパッタリング層形成工程と添加元素(M)スパッタリング層形成工程とを交互に複数回行ってもよい。スパッタリング層形成工程を経て、基材1上に、0価の銅と1価の銅及び/または2価の銅とを含み且つ添加元素(M)を有するカソード電極、または、還元処理により0価の銅へ還元される還元用の1価の銅及び/または還元用の2価の銅と、0価の銅へ還元されない1価の銅及び/または2価の銅と、を含み、且つ添加元素(M)を有するカソード電極を形成することができる。
【0048】
(4)銅酸化処理工程
銅酸化処理工程は、1価の銅及び/または2価の銅の存在比を所定量に調整する場合に、必要に応じて実施する工程である。図3に示すように、銅酸化処理工程は、形成されたスパッタリング層に対して無電解めっきによる酸化処理をすることで、スパッタリング層に含まれている0価の銅の少なくとも一部を酸化して1価の銅及び/または2価の銅とする。無電解めっきによる酸化処理としては、例えば、スパッタリング層を硫酸銅水溶液に浸漬させる酸化処理方法が挙げられる。
【0049】
(5)部分還元工程
部分還元工程は、銅酸化処理工程にて酸化された1価の銅及び/または2価の銅を、0価の銅及び/または1価の銅へ還元することで0価の銅と1価の銅との存在比をさらに適正化する場合に、必要に応じて実施する工程である。部分還元工程は、図4に示すように、基材1上にスパッタリング層を形成することで得られた複合体1’とアノード極33を、隔膜31を有する2室型の電解セル30に収容した部分還元用水溶液32に浸漬させ、2室型の電解セル30に電源34から電解電位を付加することにより、部分還元処理を行う。また、部分還元処理を行うことで、スパッタリング層を多孔質化させることができる。アノード極33としては、例えば、白金が挙げられる。部分還元用水溶液32としては、例えば、複合体1’側もアノード極側も、炭酸水素カリウム水溶液が挙げられる。
【0050】
[電解装置]
次に、本発明のカソード電極を備えた、電気的に二酸化炭素を一酸化炭素、オレフィン系炭化水素及び/またはアルコールへ還元する電解還元装置、本発明のカソード電極と基材との複合体を備えた、電気的に二酸化炭素を一酸化炭素、オレフィン系炭化水素及び/またはアルコールへ還元する電解還元装置について、以下に説明する。図5は、本発明のカソード電極を備えた電解還元装置の概要を示す説明図である。図6は、本発明のカソード電極を備えた他の電解還元装置の概要を示す説明図である。
【0051】
図5に示すように、電解還元装置210としては、例えば、3室型電解還元装置が挙げられる。具体的には、電解還元装置210は、例えば、互いに区画されたカソードガス室211と、カソード液室212と、アノード液室213と、を備えた電解セル214を有する。カソードガス室211とカソード液室212とは、ガス拡散電極としてのカソード216によって区画されている。カソード液室212とアノード液室213とはイオン伝導性を有する隔壁217によって区画されている。アノード電極218は、アノード液室213に配置されている。カソードガス室211には、気体の二酸化炭素が供給される。カソード液室212には、カソード液が供給される。アノード液室213には、アノード液が供給される。アノード電極218及びカソード216は直流電源219に接続されている。
【0052】
アノード液及びカソード液は、電解質が溶解した水溶液である。電解質は、例えば、カリウム、ナトリウム、リチウム、またはこれらの化合物の少なくとも1つを含む。電解質は、例えば、LiOH、NaOH、KOH、LiCO、NaCO、KCO、LiHCO、NaHCO、及びKHCOからなる群の少なくとも1つの化合物を含む。
【0053】
カソード216は、ガス拡散電極であり、ガス拡散層221とマイクロポーラス層222とを有する。電解還元装置210では、カソード216として、本発明のカソード電極と基材との複合体が使用され、マイクロポーラス層222が前記複合体の基材に相当する。ガス拡散層221は、二酸化炭素を含む気体を透過するが、カソード液を含む水溶液の透過を抑制する。マイクロポーラス層222は、二酸化炭素を含む気体とカソード液を含む水溶液とを共に透過させる。ガス拡散層221及びマイクロポーラス層222は、それぞれ、平面状に形成されている。ガス拡散層221はカソードガス室211側に配置され、マイクロポーラス層222はカソード液室212側に配置されている。
【0054】
ガス拡散層221としては、例えば、カーボンペーパー、カーボンフェルト、カーボンクロス等の多孔質の導電性基材の表面に、ポリテトラフルオロエチレン等の撥水性被膜を形成したものが挙げられる。導電性基材は、直流電源219の負極に接続され、電子の供給を受ける。マイクロポーラス層222は、ガス拡散層221の表面にカーボン、フッ素含有樹脂、金属等を用いて形成されており、触媒を担持している。電解還元装置210では、マイクロポーラス層222が担持している触媒として、本発明のカソード電極が使用される。また、電解還元装置210の直流電源219として再生可能エネルギーを使用することで、環境負荷を低減しつつ、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成することができる。なお、ガス拡散層221とマイクロポーラス層222とを有するガス拡散電極に代えて、マイクロポーラス層222の一部分がガス拡散層221として機能するガス拡散電極を設けてもよい。
【0055】
また、図6に示すように、他の電解還元装置210として、例えば、MEA型電解セル構造の電解還元装置210が挙げられる。なお、図6に示す他の電解還元装置210では、図5に示す電解還元装置210と同じ構成については図5に示す電解還元装置210と同じ符号を付している。MEA型電解セル構造の電解還元装置210は、カソード液を使用していないことから、カソード液室212を有していない。従って、MEA型電解セル構造の電解還元装置210は、互いに区画されたカソードガス室211と、カソード液室212と、アノード液室213と、を備えた電解セル214に代えて、互いに区画されたカソードガス室211と、アノード液室213と、を備えた電解セル214を有する。カソードガス室211とアノード液室213とは、カソード電極とアノード電極218に狭持された隔膜217によって区画されている。アノード電極218は、アノード液室213に配置されている。カソードガス室211には、気体の二酸化炭素が供給される。アノード液室213には、アノード液が供給される。アノード電極218及びカソード電極は直流電源219に接続されている。MEA型電解セル構造の電解還元装置210では、隔膜217自体を電解質として用いることで、カソード液を使用していないことから、集積化に適している。
【0056】
MEA型電解セル構造の電解還元装置210でも、カソード電極は、ガス拡散電極であり、ガス拡散層221とマイクロポーラス層222とを有する。また、MEA型電解セル構造の電解還元装置210でも、カソード電極として、本発明のカソード電極と基材との複合体が使用され、マイクロポーラス層222が前記複合体の基材に相当する。
【実施例0057】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
[実施例1]
カソード電極の調製について
スパッタリング層形成工程
基材(多孔質カーボン)上に、DC100W、アルゴンガス6.0sccm、10分間の条件によるスパッタリングにて、銅層を製膜し、第1の銅スパッタリング層を形成した。その後、形成した第1の銅スパッタリング層上に、DC50W、アルゴンガス6.0sccm、30秒間の条件によるスパッタリングにて、アルミニウム層を製膜し、アルミニウムスパッタリング層を形成した。その後、形成したアルミニウムスパッタリング層上に、DC100W、アルゴンガス6.0sccm、5分間の条件によるスパッタリングにて、銅層を製膜し、第2の銅スパッタリング層を形成し、3層からなる積層体であるスパッタリング層とした。
【0059】
銅酸化処理工程
上記のようにして得られた積層体であるスパッタリング層を、9.7mMの硫酸銅水溶液に浸漬させて、20分間の無電解めっきをし、銅スパッタリング層に含まれている0価の銅の一部を酸化して1価の銅及び/または2価の銅とした。
【0060】
上記のようにして、基材上にスパッタリング層であるカソード電極を調製し、カソード電極と基材との複合体を製造した。
【0061】
カソード電極中のアルミニウムの含有量は、0価の銅、1価の銅及び2価の銅等、全ての銅を含めた銅元素100原子%に対して、0.28原子%であった。アルミニウムの含有量は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置を用いて測定した。
【0062】
[実施例2]
スパッタリング層形成工程を以下の工程に変更した以外は、実施例1と同様にして、カソード電極と基材との複合体を製造した。
【0063】
スパッタリング層形成工程
基材(多孔質カーボン)上に、DC100W、アルゴンガス6.0sccm、5分間の条件によるスパッタリングにて、銅層を製膜し、第1の銅スパッタリング層を形成した。その後、形成した第1の銅スパッタリング層上に、DC50W、アルゴンガス6.0sccm、30秒間の条件によるスパッタリングにて、アルミニウム層を製膜し、第1のアルミニウムスパッタリング層を形成した。その後、形成した第1のアルミニウムスパッタリング層上に、DC100W、アルゴンガス6.0sccm、5分間の条件によるスパッタリングにて、銅層を製膜し、第2の銅スパッタリング層を形成した。その後、形成した第2の銅スパッタリング層上に、DC50W、アルゴンガス6.0sccm、30秒間の条件によるスパッタリングにて、アルミニウム層を製膜し、第2のアルミニウムスパッタリング層を形成した。その後、形成した第2のアルミニウムスパッタリング層上に、DC100W、アルゴンガス6.0sccm、5分間の条件によるスパッタリングにて、銅層を製膜し、第3の銅スパッタリング層を形成し、5層からなる積層体であるスパッタリング層とした。
【0064】
[実施例3]
スパッタリング層形成工程を以下の工程に変更した以外は、実施例1と同様にして、カソード電極と基材との複合体を製造した。
【0065】
スパッタリング層形成工程
基材(多孔質カーボン)上に、DC100W、アルゴンガス6.0sccm、3.75分間の条件によるスパッタリングにて、銅層を製膜し、第1の銅スパッタリング層を形成した。その後、形成した第1の銅スパッタリング層上に、DC50W、アルゴンガス6.0sccm、30秒間の条件によるスパッタリングにて、アルミニウム層を製膜し、第1のアルミニウムスパッタリング層を形成した。その後、形成した第1のアルミニウムスパッタリング層上に、DC100W、アルゴンガス6.0sccm、3.75分間の条件によるスパッタリングにて、銅層を製膜し、第2の銅スパッタリング層を形成した。その後、形成した第2の銅スパッタリング層上に、DC50W、アルゴンガス6.0sccm、30秒間の条件によるスパッタリングにて、アルミニウム層を製膜し、第2のアルミニウムスパッタリング層を形成した。その後、形成した第2のアルミニウムスパッタリング層上に、DC100W、アルゴンガス6.0sccm、3.75分間の条件によるスパッタリングにて、銅層を製膜し、第3の銅スパッタリング層を形成した。その後、形成した第3の銅スパッタリング層上に、DC50W、アルゴンガス6.0sccm、30秒間の条件によるスパッタリングにて、アルミニウム層を製膜し、第3のアルミニウムスパッタリング層を形成した。その後、形成した第3のアルミニウムスパッタリング層上に、DC100W、アルゴンガス6.0sccm、3.75分間の条件によるスパッタリングにて、銅層を製膜し、第4の銅スパッタリング層を形成し、7層からなる積層体であるスパッタリング層とした。
【0066】
[実施例4]
スパッタリング層形成工程を以下の工程に変更した以外は、実施例1と同様にして、カソード電極と基材との複合体を製造した。
【0067】
スパッタリング層形成工程
基材(多孔質カーボン)上に、DC100W、アルゴンガス6.0sccm、2.5分間の条件によるスパッタリングにて、銅層を製膜し、第1の銅スパッタリング層を形成した。その後、形成した第1の銅スパッタリング層上に、DC50W、アルゴンガス6.0sccm、30秒間の条件によるスパッタリングにて、アルミニウム層を製膜し、第1のアルミニウムスパッタリング層を形成した。その後、形成した第1のアルミニウムスパッタリング層上に、DC100W、アルゴンガス6.0sccm、2.5分間の条件によるスパッタリングにて、銅層を製膜し、第2の銅スパッタリング層を形成した。その後、形成した第2の銅スパッタリング層上に、DC50W、アルゴンガス6.0sccm、30秒間の条件によるスパッタリングにて、アルミニウム層を製膜し、第2のアルミニウムスパッタリング層を形成した。その後、形成した第2のアルミニウムスパッタリング層上に、DC100W、アルゴンガス6.0sccm、2.5分間の条件によるスパッタリングにて、銅層を製膜し、第3の銅スパッタリング層を形成した。その後、形成した第3の銅スパッタリング層上に、DC50W、アルゴンガス6.0sccm、30秒間の条件によるスパッタリングにて、アルミニウム層を製膜し、第3のアルミニウムスパッタリング層を形成した。その後、形成した第3のアルミニウムスパッタリング層上に、DC100W、アルゴンガス6.0sccm、2.5分間の条件によるスパッタリングにて、銅層を製膜し、第4の銅スパッタリング層を形成した。その後、形成した第4の銅スパッタリング層上に、DC50W、アルゴンガス6.0sccm、30秒間の条件によるスパッタリングにて、アルミニウム層を製膜し、第4のアルミニウムスパッタリング層を形成した。その後、形成した第4のアルミニウムスパッタリング層上に、DC100W、アルゴンガス6.0sccm、2.5分間の条件によるスパッタリングにて、銅層を製膜し、第5の銅スパッタリング層を形成し、9層からなる積層体であるスパッタリング層とした。
【0068】
[比較例1]
アルミニウムスパッタリング層と第2の銅スパッタリング層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして、カソード電極と基材との複合体を製造した。上記から、比較例1では、カソード電極にアルミニウムは含有されていない態様とした。
【0069】
実施例1~4及び比較例1の添加元素の種類と銅100原子%に対する添加元素の含有割合を下記表1に示す。
【0070】
評価項目
[安定性試験]
二酸化炭素還元反応の開始直後から二酸化炭素還元反応の開始から24時間後の間におけるエチレンガス選択率の最大値(EMAX)に対する二酸化炭素還元反応の開始から24時間後におけるエチレンガス選択率(E24)の比率R(単位:%)(R=(E24/EMAX)×100)を測定した。比率Rが80%以上を、二酸化炭素の還元反応によってエチレンを生成する触媒反応が、長期間にわたって安定的に持続でき、触媒反応の安定性に優れていると評価した。エチレンガス選択率は以下のように評価した。
【0071】
[エチレンガス選択率(%)]
電解セルの出口ガス中に含まれるエチレンの濃度とガス流量から、単位時間当たりのエチレンのモル数、及び必要な電子のモル数を算出した。一方、電位印加装置の設定電流値から、単位時間当たりに電解セルを通過した電子のモル数を算出した。前者の後者に対する割合をエチレン選択率(%)として評価した。出口ガス中に含まれるエチレンの濃度は、ガスクロマトグラフ(型番:Agilent 990マイクロGC)を用いて測定した。ガス流量はマスフローメーターを用いて測定した。
【0072】
また、実施例2のカソード電極については、電解液に1MのKHCO水溶液(pH8~9)を用い、電気化学測定システム(北斗電工化学、HZ-7000)に、実施例2のカソード電極、可逆水素電極(RHE)、対極としてPtメッシュ電極を接続した3電極系で、二酸化炭素還元反応試験(二酸化炭素電解還元試験)を行った。気相生成物はマイクロGC(ジーエルサイエンス株式会社、Agilent 990マイクロガスクロマトグラフ(GC))を用いたオンライン分析で定量し、液相生成物は反応終了後の反応液を採取してFID-GC(アジレント・テクノロジー株式会社、8890ガスクロマトグラフ(GC))により定量した。上記により、二酸化炭素還元反応試験における試験開始(0時間)から24時間までのエチレンのファラデー効率、24時間経過後後のエタノール、ギ酸のファラデー効率を測定した。なお、ファラデー効率は、二酸化炭素還元反応試験時に流れた電子の総量と、ガスクロマトグラフにより定量された生成ガスの量の割合から算出した。
【0073】
実施例及び比較例の測定結果を下記表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
上記表1に示すように、カソード電極中に銅に加えて添加元素であるアルミニウムも含有する実施例では、二酸化炭素還元反応の開始直後から二酸化炭素還元反応の開始から24時間後の間におけるエチレンガス選択率の最大値(EMAX)に対する24時間後におけるエチレンガス選択率(E24)の比率Rが80%以上であり、二酸化炭素の還元反応によってエチレンを生成する触媒反応が、長期間にわたって安定的に持続でき、触媒反応の安定性に優れていた。
【0076】
特に、銅100原子%に対してアルミニウムが0.28原子%以上0.68原子%以下の割合で含まれる実施例1~4では、比率Rが87%以上と、エチレンを生成する触媒反応が長期間にわたってさらに安定的に持続でき、触媒反応の安定性がさらに向上した。
【0077】
また、実施例2のカソード電極では、エチレンのファラデー効率は二酸化炭素還元反応試験開始とともに徐々に向上し、約10時間経過時点で最大となり48%となった。また、二酸化炭素還元反応試験から約10時間経過後も、エチレンのファラデー効率は大きな低下傾向を示さず、二酸化炭素還元反応試験から24時間の時点でも47%と高いファラデー効率を得ることができた。また、二酸化炭素還元反応試験からから24時間経過後に、電解液を分析した結果、エタノール及びギ酸のファラデー効率は、それぞれ、22%、0.4%であった。上記から、C2成分のファラデー効率は少なくとも二酸化炭素還元反応試験開始から24時間にわたって約70%に達することが確認できた。また、エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)分析から、従来は顕著であったCuOの還元がAlの添加によって抑制されていることが確認されたことから、Al添加によってカソード電極中の酸素含有量が維持されたことが、長時間にわたってエチレンのファラデー効率が高い値に保たれた原因と考えられる。
【0078】
一方で、カソード電極中に添加元素であるアルミニウムを含有していない比較例1では、比率Rが67%であり、二酸化炭素の還元反応によってエチレンを生成する触媒反応が、長期間にわたって安定的に持続できるとは評価できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のカソード電極は、二酸化炭素の還元反応によってエチレンなどのオレフィン系炭化水素やエタノールなどのアルコールを生成する触媒反応が長期間にわたって安定的に持続できるので、大気中の二酸化炭素を吸収、回収して、二酸化炭素から産業上有用な有機化合物を生成する分野で利用価値が高い。
【符号の説明】
【0080】
1 基材
100 カソード電極
120 複合体
図1
図2
図3
図4
図5
図6