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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025094811
(43)【公開日】2025-06-25
(54)【発明の名称】自硬性材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/26 20060101AFI20250618BHJP
   C04B 12/04 20060101ALI20250618BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20250618BHJP
【FI】
C04B28/26
C04B12/04
C04B18/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023210578
(22)【出願日】2023-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(71)【出願人】
【識別番号】506416400
【氏名又は名称】シーカ テクノロジー アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】人見 尚
(72)【発明者】
【氏名】田口 信子
(72)【発明者】
【氏名】白井 孝
(72)【発明者】
【氏名】杉山 隆文
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 賢
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA27
4G112PD01
(57)【要約】
【課題】施工性の向上を図る。
【解決手段】フライアッシュを未燃炭素除去処理して、未燃炭素除去処理済フライアッシュを生成する第1工程と、前記未燃炭素除去処理済フライアッシュにメカノケミカル処理を施し、前記未燃炭素除去処理済フライアッシュの表面を活性化させる第2工程と、強アルカリ溶液とケイ素微粉末を混ぜ合わせ、前記強アルカリ溶液にケイ素成分が溶出されたケイ素混合物を作製する第3工程と、表面が活性化された前記未燃炭素除去処理済フライアッシュと前記ケイ素混合物とを混ぜ合わせる第4工程と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フライアッシュを未燃炭素除去処理して、未燃炭素除去処理済フライアッシュを生成する第1工程と、
前記未燃炭素除去処理済フライアッシュにメカノケミカル処理を施し、前記未燃炭素除去処理済フライアッシュの表面を活性化させる第2工程と、
強アルカリ溶液とケイ素微粉末を混ぜ合わせ、前記強アルカリ溶液にケイ素成分が溶出されたケイ素混合物を作製する第3工程と、
表面が活性化された前記未燃炭素除去処理済フライアッシュと前記ケイ素混合物とを混ぜ合わせる第4工程と、
を有することを特徴とする自硬性材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の自硬性材料の製造方法であって、
前記第1工程において、前記未燃炭素除去処理済フライアッシュ中の前記未燃炭素の含有率を1%以下にする、
ことを特徴とする自硬性材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の自硬性材料の製造方法であって、
前記未燃炭素除去処理は、前記フライアッシュを加熱する加熱処理である、
ことを特徴とする自硬性材料の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の自硬性材料の製造方法であって、
前記加熱処理は、加熱装置で1時間以内である、
ことを特徴とする自硬性材料の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の自硬性材料の製造方法であって、
前記加熱処理の温度は500℃以上600℃以下である、
ことを特徴とする自硬性材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の自硬性材料の製造方法であって、
前記強アルカリ溶液と、前記未燃炭素除去処理済フライアッシュ及び前記ケイ素微粉末を含む結合材と、の比は25%以上40%以下である、
ことを特徴とする自硬性材料の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の自硬性材料の製造方法であって、
前記結合材における、前記未燃炭素除去処理済フライアッシュの割合は90%以上である、
ことを特徴とする自硬性材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の自硬性材料の製造方法であって、
前記ケイ素微粉末におけるケイ素濃度は、40000PPM以上である、
ことを特徴とする自硬性材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1~請求項8の何れか1項に記載の自硬性材料の製造方法であって、
前記自硬性材料は、セメントを含有しない、
ことを特徴とする自硬性材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自硬性材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントーペースト、モルタル、及びコンクリート等の自硬性材料として、普通ポルトランドセメント等のセメント系材料が広く普及している。また、セメント系材料に代えて石炭灰(フライアッシュ)を母材とする自硬性材料の開発がなされている。例えば、特許文献1には、メカノケミカル処理によって表面が活性化されたフライアッシュと、強アルカリ溶液とケイ素粉末とを混合した混合物と、を混合することで緻密性の高い自硬性材料を得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-218070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、石炭灰を用いて自硬性材料を製造する場合、流動性の改善が望まれるなど施工性に課題があった。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、施工性の向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための主たる発明は、フライアッシュを未燃炭素除去処理して、未燃炭素除去処理済フライアッシュを生成する第1工程と、前記未燃炭素除去処理済フライアッシュにメカノケミカル処理を施し、前記未燃炭素除去処理済フライアッシュの表面を活性化させる第2工程と、強アルカリ溶液とケイ素微粉末を混ぜ合わせ、前記強アルカリ溶液にケイ素成分が溶出されたケイ素混合物を作製する第3工程と、表面が活性化された前記未燃炭素除去処理済フライアッシュと前記ケイ素混合物とを混ぜ合わせる第4工程と、を有することを特徴とする自硬性材料の製造方法である。
【0007】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、施工性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】石炭灰中の未燃炭素の電子顕微鏡(SEM)像である。
図2】本実施形態における自硬性材料の製造方法のフロー図である。
図3】硬化体が形成される様子を示す概略図である。
図4】加熱温度と未燃炭素量の関係を示す図である。
図5】試験材料の一覧を示す図である。
図6】供試体の配合を示す図である。
図7図7A図7Fは、粒度分布の測定結果を示す図である。
図8】pHの測定結果を示す図である。
図9】電気伝導率の測定結果を示す図である。
図10】練り上がり後のペーストの簡易フローの測定結果を示す図である。
図11図11A図11Eは、混錬後から固化までの粘性の経時変化を示す図である。
図12】圧縮強度の測定結果を示す図である。
図13】形状変化率の測定結果を示す図である。
図14】供試体の外観を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0011】
(態様1)
フライアッシュを未燃炭素除去処理して、未燃炭素除去処理済フライアッシュを生成する第1工程と、前記未燃炭素除去処理済フライアッシュにメカノケミカル処理を施し、前記未燃炭素除去処理済フライアッシュの表面を活性化させる第2工程と、強アルカリ溶液とケイ素微粉末を混ぜ合わせ、前記強アルカリ溶液にケイ素成分が溶出されたケイ素混合物を作製する第3工程と、表面が活性化された前記未燃炭素除去処理済フライアッシュと前記ケイ素混合物とを混ぜ合わせる第4工程と、を有することを特徴とする自硬性材料の製造方法。
【0012】
態様1の自硬性材料の製造方法によれば、施工性の向上を図ることができる。
【0013】
(態様2)
態様1に記載の自硬性材料の製造方法であって、前記第1工程において、前記未燃炭素除去処理済フライアッシュ中の前記未燃炭素の含有率を1%以下にすることが望ましい。
【0014】
態様2の自硬性材料の製造方法によれば、混錬後のフロー(流動性)を改善することができる。
【0015】
(態様3)
態様1又は態様2に記載の自硬性材料の製造方法であって、前記未燃炭素除去処理は、前記フライアッシュを加熱する加熱処理であることが望ましい。
【0016】
態様3の自硬性材料の製造方法によれば、フライアッシュを加熱することで簡易に未燃炭素を除去(低減)することができる。
【0017】
(態様4)
態様3に記載の自硬性材料の製造方法であって、前記加熱処理は、加熱装置で1時間以内であることが望ましい。
【0018】
態様4の自硬性材料の製造方法によれば、フライアッシュ中の未燃炭素を除去(低減)することができる。
【0019】
(態様5)
態様3または態様4に記載の自硬性材料の製造方法であって、前記加熱処理の温度は500℃以上600℃以下であることが望ましい。
【0020】
態様5の自硬性材料の製造方法によれば、フロー(流動性)を改善することができる。
【0021】
(態様6)
態様1~態様5の何れか1項に記載の自硬性材料の製造方法であって、前記強アルカリ溶液と、前記未燃炭素除去処理済フライアッシュ及び前記ケイ素微粉末を含む結合材と、の比は25%以上40%以下であることが望ましい。
【0022】
態様6の自硬性材料の製造方法によれば、硬化体の強度を向上できる。
【0023】
(態様7)
態様1~態様6の何れか1項に記載の自硬性材料の製造方法であって、前記結合材における、前記未燃炭素除去処理済フライアッシュの割合は90%以上であることが望ましい。
【0024】
態様7の自硬性材料の製造方法によれば、硬化体の強度を向上できる。
【0025】
(態様8)
態様1~態様7の何れか1項に記載の自硬性材料の製造方法であって、前記ケイ素微粉末におけるケイ素濃度は、40000PPM以上であることが望ましい。
【0026】
態様8の自硬性材料の製造方法によれば、硬化体の強度を向上できる。
【0027】
(態様9)
態様1~態様8の何れか1項に記載の自硬性材料の製造方法であって、前記自硬性材料は、セメントを含有しないことが望ましい。
【0028】
態様9の自硬性材料の製造方法によれば、セメントを使用せずに硬化体(セメントレス硬化体)を形成することができる。
【0029】
===実施形態===
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明者等は、石炭灰(フライアッシュ)にメカノケミカル処理を施すことで石炭灰の表面を活性化させ、また、アルカリ溶液を作用させることで、活性化された表面を溶解し、この表面同士を結合させて、石炭灰を母材とするセメントレスの自硬性材料を製造できることを提案している(特許文献1参照)。この技術により、産業副産物(例えば、火力発電所において石炭を燃焼した際に発生する石炭灰)を自硬性材料の製造に利用することが可能となる。しかしながら、石炭灰を用いて自硬性材料を製造する場合、流動性の改善が望まれるなど施工性に課題があった。
【0030】
ところで、産業副産物の石炭灰には、通常、重量比で数%(例えば5%程度)の未燃炭素が含有されている。
【0031】
図1は、石炭灰中の未燃炭素の電子顕微鏡(SEM)像である。図1のSEM像のように、未燃炭素の塊の中に石炭灰の粒子が包埋されている状態のものが散見された。この未燃炭素が流動性に影響を及ぼしていると推定されるため、本願では、石炭灰に含有される未燃炭素を除去することを着想した。
【0032】
図2は、本実施形態における自硬性材料の製造方法のフロー図である。また、図3は、硬化体が形成される様子を示す概略図である。
【0033】
材料準備処理(S1)において、石炭灰(フライアッシュ)に未燃炭素除去処理(S11:第1工程に相当)を施す。後述する実施例では、石炭灰中の未燃炭素を除去する方法として、加熱装置(電気炉)による加熱処理を採用している。なお、本実施形態において、未燃炭素の「除去」とは、石炭灰から未燃炭素を完全に取り除くことを意味するのではなく、石炭灰中の未燃炭素の含有率を減少(低減)させることを意味する。後述するように、未燃炭素処理除去処理済みの石炭灰においても、未燃炭素は少し含まれている。
【0034】
次に、未燃炭素処理除去処理済みの石炭灰(未燃炭素除去処理済フライアッシュ)の表面を活性化させるメカノケミカル処理(S12:第2工程に相当)を行う。以下では、メカノケミカル処理のことを「MC処理」あるいは「摩砕処理」ともいう。このメカノケミカル処理により、図3の中央に示すように、反応性の乏しい粒子(ここでは石炭灰)の表面に反応性が付与される。
【0035】
なお、メカノケミカル処理とは、固体物質に衝撃やせん断、摩擦などの機械的な処理を施すことで、その物質の化学的な特性(反応性)を付与する処理である。また、粒子を粉砕して成分均質化も図れる。このような処理を行うことができる装置としては、例えば、ボールミル、振動ミル、遊星ボールミル、媒体攪拌型ミル等の混合装置、ボール媒体ミル、ローラーミル、乳鉢等の粉砕機、ジェット粉砕機等が挙げられる。後述する実施例では、遊星ボールミルを用いている。
【0036】
また、材料準備処理(S1)において、強アルカリ溶液とケイ素微粉末とを混ぜ合わせ、泥漿化(スラリー化)する事前混合処理(S13:第3工程に相当)を行う。これにより、強アルカリ溶液にケイ素成分が溶出されたケイ素混合物(以下、スラリーともいう)を作製する。なお、ケイ素微粉末と強アルカリ溶液は、石炭灰(フライアッシュ)同士を結合させるためのものである。本実施形態では、ケイ素微粉末として、非晶質シリカを主成分とするシリカフュームを用いるが、これには限られず、アルカリの存在下において、溶解されたケイ素元素を供給することができるものであればよい。
【0037】
次に、各材料の混合処理(S2:第4工程に相当)において、表面が活性化された未燃炭素除去処理済みの石炭灰と、ケイ素混合物(スラリー)とを混ぜ合わせる。
【0038】
そして、充填・養生処理(S3)において、混合物を型枠に充填して養生する。これにより、図3の右側に示すように、石炭灰が溶液中において表面同士で反応し、硬化体を形成する。なお、スラリーに溶解された状態のシリカフュームは、石炭灰の隙間を埋める役割を有している。
【0039】
このように、本実施形態では、未燃炭素除去処理(ステップS11)を行なうことにより、石炭灰中に含まれる未燃炭素を除去している。そして、未燃炭素除去処理後の石炭灰を用いてメカノケミカル処理を行い、スラリーと混合している。これにより、フレッシュ状態の流動性(フロー)を改善でき、施工性の向上を図れることが確認できた(後述の実施例参照)。
【0040】
<<<実施例>>>
<<加熱温度と未燃炭素量との関係について>>
前述したように、本実施例では、石炭灰中の未燃炭素を除去する方法として加熱処理を採用している。未燃炭素の除去割合と加熱温度の関係の把握のため、電気炉を用いた石炭灰の加熱試験を実施した。石炭灰は、磯子火力発電所の石炭灰(2018年8月入手(3回目)、以下、磯子3)を用いた。また、加熱処理は、いすず製作所製の電気炉を用いて、所定の温度で加熱を実施した。なお、加熱時間は1時間以下が望ましく、本実施例では1時間とした。
【0041】
図4は、加熱温度と未燃炭素量の関係を示す図である。図の横軸は加熱温度(℃)であり、縦軸は未燃炭素量(%:未燃炭素の含有率)である。
【0042】
図4において、石炭灰中の未燃炭素量は、加熱温度が400℃以下では約4%であるが、500℃と600℃の間で急激に変化(減少)している。具体的には、未燃炭素量は、500℃では約1%、550℃で約0.3%、600℃で約0.1%となっている。
【0043】
そこで、本実施例では、供試体の作製の際に、400℃~700℃の間で加熱条件を振り、また、比較例として未燃炭素除去処理無し(加熱無し)の条件も設定した(図6参照)。
【0044】
<<試験材料と供試体の作成>>
図5は、試験材料の一覧を示す図である。
【0045】
図に示すように石炭灰(フライアッシュ)は、磯子火力発電所の集塵灰(磯子3)を用いた。また、混錬水として、3mol/Lの濃度の水酸化カリウム(KOH溶液:強アルカリ溶液)にシリカフューム(SF)を半溶解させて、溶存ケイ素濃度を40000ppmとしたスラリー(フジミインコーポレーテッド製)を用いた。なお、ケイ素濃度は40000ppm以上であることがより望ましい。これにより、自硬性材料の硬化体の強度がより向上する。
【0046】
図6は、供試体の配合を示す図である。図中の加熱温度は、石炭灰の未燃炭素除去処理(ステップS11:ここでは加熱処理)における温度である。なお、加熱装置及び加熱時間は、加熱試験(図4)の条件(電気炉を用いて1時間加熱)と同じである。
【0047】
また、図には示していないが、各水準において、それぞれ、石炭灰のメカノケミカル処理(ステップS12)の条件振りも行った。メカノケミカル処理は、遊星型ボ-ルミルを用いて乾式で行った。遊星型ボ-ルミルは、fritsch社のP-5タイプを用い、回転速度は300rpmとした。なお、摩砕条件(摩砕時間)は、0時間(摩砕なし)、1時間、2時間、3時間、4時間、6時間(従来条件)とした。
【0048】
図6に示す配合でペースト硬化体による供試体を作製した。混錬水と結合材の比(W/B)は、25%以上40%以下が望ましく、このうち安定して高い圧縮強度が得られている32.5%とした。なお、結合材(B)には、石炭灰(フライアッシュ)とシリカフューム(SF)が含まれる。結合材(B)における、石炭灰の割合は90%以上であることが望ましい。
【0049】
供試体の作製については、図2のステップS1の後、ステップS2において、石炭灰(フライアッシュ)とスラリーをミキサーで約1分練混ぜし、ステップS3で円柱型枠(直径20mm、高さ40mm)に打ち込んだ(充填した)。打設したペーストは、40℃の恒温機内で2日間封かん養生の後に脱型し、40℃の条件で5日間、乾燥養生した。
【0050】
<<試験内容および試験方法>>
<摩砕処理後の石炭灰の外観観察および粒度分布>
摩砕処理(ステップS12)後の石炭灰の一部を取り出し、外観の観察およびマイクロトラックベル社製のMT3000を用いて粒度分布を測定した。
【0051】
<pHおよび電気伝導率の測定>
地盤工学会の試験方法を参考に、石炭灰とイオン交換水を固液比=1:5で固定し、懸濁液のpHおよび電気伝導率を測定した。
【0052】
<混錬直後のペーストの簡易フロー測定>
混錬直後(ステップS2の直後)のペーストを一部採取し、簡易フロー試験を実施した。この試験では、ステンレス板に設置したSEM観察資料エポキシ固定用のアクリルセル(内径28mm、高さ22mm)にペーストを充填し、アクリルセルを速やかに持ち上げ、ペーストの広がり状況について、その長径と短径を測定し、その平均値をフローとした。
【0053】
<混錬後のフレッシュ状態の変化>
混練直後からのフレッシュ状態の把握のため、ペーストの粘性の経時変化について、レオメーター(粘度計)を用いて測定した。レオメーターは、マルバーン・パナリティカル社製の回転型レオメーターKINEXUS Lab+を用いた。レオメーターでは、直径3cmのステンレス製円盤にペーストを挟み込み、ギャップ(ペーストの厚さ)を1mmとして、0.2%のせん断ひずみを5Hzの周波数で加えて、ペーストの応答より測定した。サンプリング間隔は10秒とした。
【0054】
<ペースト硬化体の圧縮強度と寸法変化率測定>
圧縮強度は、材齢7日(封かん養生2日、乾燥養生5日)の供試体を用いて測定した。1水準あたりの供試体数は3とした。圧縮強度試験には島津製作所製のオートグラフを用いた。
【0055】
寸法変化率は、材齢2日の直径を分母として、材齢2日より材齢7日の差(材齢7日の直径-材齢2日の直径)を分子として求めた。すなわち、寸法変化率が負の場合は、硬化に伴い供試体の収縮が生じたことになり、寸法変化率が正の場合は、硬化に従い供試体が膨張したことになる。なお、直径の算出方法としては、供試体の円周方向の直径について、直交する2箇所の長さを測定し、その平均を直径とした。
【0056】
<<試験結果>>
<摩砕処理後の石炭灰の外観観察および粒度分布について>
石炭灰は灰色であり、加熱すると明るい黄土色に変化した。さらに、遊星ボールミルによる摩砕処理によって、茶色の色調が強くなった。
【0057】
図7A図7Fは、粒度分布の測定結果を示す図である。各図の横軸は、粒径(μm)であり、縦軸は頻度(%)である。なお、図7Aは非加熱(比較例)、図7Bは400℃、図7Cは500℃、図7Dは550℃、図7Eは600℃、図7Fは700℃の場合の粒度分布を示している。また、各図(各加熱温度)において、メカノケミカル処理(摩砕処理)の時間をMCとして表記している。例えばMC0Hは、摩砕なしであり、MC1Hは、摩砕1時間であることを示している(以下の図においても同様)。
【0058】
なお、図では、見やすさを考慮して、各水準の縦軸の値を0.5%ずつずらしている(例えば、粒径が0.1μmや1000μmでは、各水準の値が0.5%ずつずれているが、実際には、全てほぼ同じである)。
【0059】
図7Aに示すように、非加熱および摩砕無し(非加熱/MC0H)の石炭灰では、粒径が約50μmのピークを中心とした粒度分布であったが、1時間の摩砕で細粒化に伴い、ピークは約4μmに移動し、2時間摩砕において約3μmに加えて約30μmをピークとする新たな分布が現れた。以降、摩砕時間の増加とともに、約30μmをピークとする分布が大きくなった。
【0060】
400℃加熱(図7B)においても、図7Aとほぼ同様の傾向となった。
【0061】
500℃加熱(図7C)では、1時間の摩砕(MC1H)で粒径が約2.5μmの粒径をピークとする分布が現れた。摩砕時間の増加でも同様で、粒度分布の形状変化は少なく、わずかに粗粒分の増加が認められた
【0062】
550℃加熱(図7D)では、約2.5μmの粒径をピークとする分布は同じであるが、摩砕時間を増加させた場合に、2.5μmのピークの分布が小さくなり、約30μmの粒径をピークとする分布が現れた。
【0063】
600℃以上では、図7E及び図7Fに示すように、約30μmの粒径をピークとする分布が卓越する結果となった。
【0064】
このように、未燃炭素の含有率が少なくなる(換言すると加熱温度が高くなる)につれて、摩砕による粒度分布は変化し、550℃以上では、未燃炭素を除去していない(非加熱の)石炭灰とは異なる粒度分布となった。
【0065】
なお、摩砕時間を増加させた場合に新たに発生するピーク(約30μm付近のピーク)は、以下の理由によると考えられる。すなわち、メカノケミカル処理の摩砕により粒子自体は小径となるが、反応性の乏しい粒子(ここでは石炭灰)の表面に反応性が付与され、表面に反応性が付与された小径の粒子が凝集して大きな塊が形成されたと考えられる。
【0066】
<pHの測定結果>
図8は、pHの測定結果を示す図である。図8の横軸は未燃処理除去の加熱温度(℃)であり、縦軸はpHである。
【0067】
図8より、高い加熱温度で処理した石炭灰ほど、pHが高い値を示す結果が得られた。また、摩砕時間が長いほど、ばらつきは大きいが、pHは低くなる傾向となった。
【0068】
<電気伝導率の測定結果>
図9は、電気伝導率の測定結果を示す図である。図9の横軸は未燃処理除去の加熱温度(℃)であり、縦軸は電気伝導率(mS/s)である。
【0069】
摩砕無しの場合、600℃加熱した石炭灰は、非加熱の石炭灰と比べて、電気伝送率が約25mS/mほど低い値となった。
【0070】
摩砕処理1時間(MC1H)では、「摩砕無し」と比べて、全体的に電気伝導率が低くなり、加熱温度の差が小さくなった。
【0071】
摩砕処理2時間(MC2H)以上では、摩砕処理1時間よりもさらに電気伝導率が低くなり、加熱温度や摩砕時間にかかわらず、ほぼ同じ値になった。
【0072】
<簡易フローの測定結果>
図10は、練り上がり後のペーストの簡易フローの測定結果を示す図である。図10の横軸は未燃処理除去の加熱温度(℃)であり、縦軸はフロー(mm)である。また、図中の28mmの点線は、フロー測定用の容器の直径を示す。なお、摩砕処理6時間(MC6H)のペーストは、粘性が非常に高く、フローの測定及び供試体の作成が不可能であった。また、加熱無し及び400℃加熱で、摩砕処理1時間(MC1H)についても、同様に、粘性が非常に高く、フローの測定及び供試体の作成が不可能であった。
【0073】
摩砕無しは、60mm以上の高い流動性を有し、特に600℃加熱では94.3mmの大きい値を示した。これは、石炭灰が結合性を持たず、かつ、高温の熱処理により炭素(未燃炭素)の含有量が極めて低いことに起因すると考えられる。
【0074】
摩砕処理を加えると、フローは低くなるが、加熱処理が400℃を超えるとフローは増大し、約550℃で極大(ピーク)となった。なお、加熱温度が600℃以上では、摩砕時間が長くなるにつれて、フローの大きさが減少する傾向がみられ、摩砕処理4時間ではほぼ流動性を持たない結果となった。
【0075】
この結果より、未燃炭素除去の加熱温度を550℃くらい(換言すると未燃炭素量を0.3%程度)とすることでフローを改善(施工性を向上)させることができることが確認された。なお、600℃以上では550℃よりもフローが低下しているので、未燃炭素は全て除去せず、少し残したほうがよいと考えられる。
【0076】
<フレッシュ状態の変化>
図11A図11Eは、混錬後から固化までの粘性の経時変化を示す図である。各図の横軸は時間(分)であり、縦軸は粘性η(Pa・s)である。なお、図11Aは摩砕処理1時間、図11Bは摩砕処理2時間、図11Cは摩砕処理3時間、図11Dは摩砕処理4時間、図11Eは摩砕処理6時間の場合をそれぞれ示している。
【0077】
摩砕処理1時間(図11A)では、非加熱及び400℃加熱(未燃炭素の含有率の大きいもの)は混錬直後から強張りを生じ、測定できなかった。その他(500~700℃の加熱)のペーストにおいては、加熱温度の上昇に従い、粘性が低下する傾向がみられた。
【0078】
摩砕処理2時間(図11B)では、摩砕処理1時間(図11A)に比べて、粘性は全体的に低下している。非加熱及び400℃加熱は、混錬直後から粘性が高く、5分程度で硬化状態に到達した。500℃以上の加熱では、加熱温度の上昇に従い、徐々に粘性が低下し、600℃と700℃では、混錬後20分程度までほぼ同じ粘性の経時変化を示した。
【0079】
摩砕処理3時間(図11C)では、摩砕処理2時間(図11B)に比べて、さらに粘性が全体的に低下する傾向となった。
【0080】
摩砕処理4時間(図11D)では、500℃加熱以下では粘性の低下が認められたものの、それ以上の加熱温度では、摩砕処理3時間(図11C)とほぼ同様の粘性の経時変化となった。
【0081】
摩砕処理6時間(図11E)では、摩砕処理4時間(図11D)に比べて、全体的に粘性は高く、特に600℃加熱では、混錬直後から粘性が高くて型枠への打込みが困難となった。
【0082】
これらの結果により、摩砕処理の時間は、6時間(従来条件)では長すぎ、3時間あたりが適していると言える。また、500℃以上の加熱を行う(換言すると未燃炭素の含有率を1%以下にする)ことで、加熱なしの場合と比べて、ペーストが硬化するまでの時間を大きく延長できる(施工性を向上できる)ことが確認された。
【0083】
<圧縮強度の測定結果>
図12は、圧縮強度の測定結果を示す図である。図12の横軸は未燃炭素除去処理の加熱温度(℃)であり、縦軸は圧縮強度(N/mm)である。
【0084】
摩砕なしの供試体の圧縮強度は、非加熱の17N/mmを最大として、加熱ありでは高くても10N/mm程度に留まった。
【0085】
摩砕処理1時間(MC1H)では、加熱無し(非加熱)と400℃加熱で、ペーストの粘性が非常に高く供試体の作製が困難であった。
【0086】
それ以外の摩砕処理(MC2H~4H)を加えた石炭灰は、何れもほぼ同様の圧縮強度を示した。具体的には、非加熱では50N/mm弱の圧縮強度であり、加熱温度が高くなるにつれて圧縮強度が微減し、500℃より高くなると、急激に減少して、600℃及び700℃では30N/mmとなった。なお、建設材料として使用するための圧縮強度(20N/mm)は確保できている。
【0087】
<寸法変化率の測定結果>
図13は、形状変化率(寸法変化率)の測定結果を示す図である。図13の横軸は未燃炭素除去処理の加熱温度(℃)であり、縦軸は寸法変化率(%)である。
【0088】
なお、図の縦軸(形状変化率)の値が正(0より大)の場合は、供試体が膨張したことを示し、負(0より小)の場合は、供試体が収縮したことを示す。
【0089】
図より、500℃以上加熱した石炭灰では、摩砕処理を加えることで収縮を抑制できる傾向がみられた。特に、550℃から600℃の範囲で、摩砕処理が3時間の石炭灰は、形状変化率が負(収縮)から正(膨張)に転ずる結果となった。
【0090】
以上の結果より、石炭灰を500~600℃に加熱する(換言すると、未燃炭素を1%~0.1%にする)ことにより、練り上がり直後のフローが増大し、特に550℃の加熱で、フローが最大になった。また、粘性の経時変化において、非加熱と比べて、硬化までの時間を延長できた。よって、石炭灰の未燃炭素を除去することにより、施工性の向上を図れることが確認された。
【0091】
また、500~600℃の加熱及び摩砕処理を加えることで、収縮を抑制できることも確認された。
【0092】
また、摩砕処理の時間は3時間程度がよい(従来よりも摩砕時間を短縮できる)ことが確認された。
【0093】
また、図14は、作製した供試体の外観を示す図である。非加熱(未燃炭素除去処理なし)では黒色であり、加熱処理が550℃で明るい色調への変化が見られ、600℃においては、ほぼ白色に近い色調となった。このように加熱処理(未燃炭素除去処理)によって未燃炭素を除去することで硬化体が白色に近くなるので、着色などの自由度を獲得することもできる。
【0094】
===その他の実施形態について===
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。
【0095】
前述の実施形態ではメカノケミカル処理として遊星型ボ-ルミルを用いた処理を例示したが、石炭灰の表面を活性化できれば、この処理に限定されるものではない。
【0096】
また、前述の実施形態では強アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を用いたが、これには限られず、水酸化ナトリウムを水に溶解した水酸化ナトリウム溶液であってもよい。また、強アルカリ溶液の濃度も3mol/Lに限定されない。
【0097】
また、自硬性材料に関して、細骨材を加えてモルタルとしてもよいし、細骨材及び粗骨材を加えてコンクリート(セメントレスコンクリート)としてもよい。
【0098】
また、石炭灰(フライアッシュ)と、ケイ素混合物(スラリー)を混合する工程(ステップS2)において、他の材料(例えば、硬化までの時間を調整する減水材や遅延剤、ひび割れを防止する収縮低減剤など)をさらに混合してもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14