(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-27
(45)【発行日】2023-01-11
(54)【発明の名称】記録装置及び記録方法
(51)【国際特許分類】
G11B 5/31 20060101AFI20221228BHJP
G11B 5/02 20060101ALI20221228BHJP
G11B 5/706 20060101ALI20221228BHJP
G11B 5/127 20060101ALI20221228BHJP
G11B 5/187 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
G11B5/31 Z
G11B5/02 R
G11B5/706
G11B5/127 Z
G11B5/187 Z
(21)【出願番号】P 2020572275
(86)(22)【出願日】2020-02-12
(86)【国際出願番号】 JP2020005355
(87)【国際公開番号】W WO2020166610
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2019024026
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、エネルギー・環境新技術先導プログラム「磁気テープにおけるミリ波記録方式の開発研究」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大越 慎一
(72)【発明者】
【氏名】吉清 まりえ
(72)【発明者】
【氏名】井元 健太
(72)【発明者】
【氏名】中川 幸祐
(72)【発明者】
【氏名】生井 飛鳥
(72)【発明者】
【氏名】所 裕子
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 誠
(72)【発明者】
【氏名】白田 雅史
(72)【発明者】
【氏名】直井 憲次
【審査官】松元 伸次
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-328841(JP,A)
【文献】特開2017-199446(JP,A)
【文献】特開2003-203304(JP,A)
【文献】特開2008-059737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B5/00-5/024
5/127-5/255
5/31-5/325
5/62-5/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録媒体に外部磁場を印加する外部磁場印加部と、
周波数20GHz~1000GHzの光を照射する光照射部と、
前記光照射部からの前記光を共振させて集光し、前記光の磁場を増強させた増強磁場を発生させる集光器と、
を備え、
前記外部磁場と前記増強磁場とを前記磁気記録媒体に印加して前記磁気記録媒体の磁化を反転させる、記録装置。
【請求項2】
前記集光器は、前記磁気記録媒体で自然共鳴が生じる共鳴周波数で前記光を共振し、前記共鳴周波数で磁場が増強した前記増強磁場を発生させる、請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記集光器は、前記増強磁場が発生する辺が、前記磁気記録媒体の記録面から200[nm]以内に配置されている、請求項1又は2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記集光器は、前記増強磁場が発生する辺にコーナ部が形成されており、前記コーナ部が前記磁気記録媒体に対向配置されている、請求項1~3のうちいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項5】
前記磁気記録媒体は、記録面にイプシロン酸化鉄粒子を含む、請求項1~
4のうちいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項6】
前記光照射部は、
前記磁気記録媒体の前記集光器が対向する領域に向けて前記光を照射せずに、前記集光器に向けて前記光を照射する、請求項1~
5のうちいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項7】
前記集光器は、ギャップを有しているリング状の集光リングであ
り、
前記磁気記録媒体の記録面に対向配置され前記増強磁場が発生する辺と、前記増強磁場が発生する辺と前記磁気記録媒体の厚み方向に所定距離をあけて対向配置され前記ギャップが形成された辺と、前記増強磁場が発生する辺と前記ギャップが形成された辺の端部を連結する辺とを有する、請求項1~
6のうちいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項8】
前記光照射部は、前記光としてパルス光を照射する、請求項1~
7のうちいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項9】
周波数20GHz~1000GHzの光を集光器で共振させて集光し、前記光の磁場を増強させた増強磁場を発生させ、外部磁場印加部からの外部磁場と、前記増強磁場とを磁気記録媒体に印加して、前記磁気記録媒体の磁化を反転させる、記録方法。
【請求項10】
前記磁気記録媒体は、記録面にイプシロン酸化鉄粒子を含む、請求項
9に記載の記録方法。
【請求項11】
磁気記録媒体に外部磁場を印加する外部磁場印加部と、
光を照射する光照射部と、
前記光照射部からの前記光を共振させて集光し、前記光の磁場を増強させた増強磁場を発生させる集光器と、
を備え、
前記外部磁場と前記増強磁場とを前記磁気記録媒体に印加して前記磁気記録媒体の磁化を反転させる、記録装置であって、
前記外部磁場印加部は、前記磁気記録媒体の記録面に沿って一列に配置された複数の外部磁場ユニットを備えており、各前記外部磁場ユニット毎に前記磁気記録媒体の磁化を反転させる、記録装置。
【請求項12】
光を集光器で共振させて集光し、前記光の磁場を増強させた増強磁場を発生させ、外部磁場印加部からの外部磁場と、前記増強磁場とを磁気記録媒体に印加して、前記磁気記録媒体の磁化を反転させる、記録方法であって、
前記磁気記録媒体に前記外部磁場を印加した後、前記集光器に前記光を照射する、記録方法。
【請求項13】
光を集光器で共振させて集光し、前記光の磁場を増強させた増強磁場を発生させ、外部磁場印加部からの外部磁場と、前記増強磁場とを磁気記録媒体に印加して、前記磁気記録媒体の磁化を反転させる、記録方法であって、
前記集光器に前記光を照射した後、前記磁気記録媒体に前記外部磁場を印加する、記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置及び記録方法に関し、イプシロン酸化鉄粒子を使用した磁気記録媒体などに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体では、記録の高密度化に向けて磁性粒子の微小化が望まれており、近年、磁性粒子の微小化が可能なイプシロン酸化鉄粒子を使用した磁気記録媒体が注目されている。磁性粒子の微小化に伴い、信号のS/N比を増大させることができる一方で、熱に対する磁化の安定性は、磁気異方性定数と粒子体積とに比例すると考えられているため、微小化により磁化の熱安定性が損なわれてしまう。
【0003】
ここで、磁気異方性定数は、磁気記録媒体の保磁力を高めることにより、高くすることができると考えられている。従って、粒子体積(粒径)が小さく熱安定性の高い粒子を得るためには、保磁力の高い物質を磁性材料として用いることが有効となる。例えば、発明者らは特許文献1および非特許文献1~4において、磁化容易軸の配向方向に対して平行方向の外部磁場を印加することにより測定される磁気ヒステリシスループにおいて、20[kOe](1.59×106[A/m])を超える保磁力Hcが観測されたイプシロン酸化鉄粒子を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】S. Ohkoshi, A. Namai, K. Imoto, M. Yoshikiyo, W. Tarora, K. Nakagawa, M. Komine, Y. Miyamoto, T. Nasu, S. Oka, and H. Tokoro, Scientific Reports, 5, 14414/1-9 (2015).
【文献】S. Sakurai, A. Namai, K. Hashimoto, and S. Ohkoshi, J. Am. Chem. Soc., 131, 18299-18303 (2009).
【文献】A. Namai, S. Sakurai, M. Nakajima, T. Suemoto, K. Matsumoto, M. Goto, S. Sasaki, and S. Ohkoshi, J. Am. Chem. Soc., 131, 1170-1173 (2009).
【文献】A. Namai, M. Yoshikiyo, K. Yamada, S. Sakurai, T. Goto, T. Yoshida, T Miyazaki, M. Nakajima, T. Suemoto, H. Tokoro, and S. Ohkoshi, Nature Communications, 3, 1035/1-6 (2012).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、磁気記録媒体の保磁力Hcを高くした場合には、高レベルの飽和磁束密度を有する磁気ヘッドを使用して高い外部磁場を発生させて、磁気記録媒体に情報を記録することが必要となる。磁気ヘッドの発生外部磁場は、一般的には、使用される軟磁性膜の飽和磁束密度に比例するともいわれており、現在、1.5~4.5[kOe](1.19~3.58×105[A/m])程度の保磁力Hcをもつハードディスクが報告されているが、これらのハードディスクの記録書き込み用の磁気ヘッドでは、飽和磁束密度が2.4Tのような高い飽和磁束密度をもつ材料が使用されている。
【0007】
上述した特許文献1に見られるように、例えば、20[kOe](1.59×106[A/m])レベルの巨大な保磁力Hcを持つイプシロン酸化鉄粒子などを磁気記録媒体の磁気記録材料に用いた場合、現状よりもさらに高い飽和磁束密度をもつ材料が存在しないと、磁気記録媒体に対して情報を記録することは難しいという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は以上の点を考慮してなされたもので、高い保磁力を有した磁気記録媒体でも、容易に情報を記録できる記録装置及び記録方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため本発明による記録装置は、磁気記録媒体に外部磁場を印加する外部磁場印加部と、光を照射する光照射部と、前記光照射部からの前記光を共振させて集光し、前記光の磁場を増強させた増強磁場を発生させる集光器と、を備え、前記外部磁場と前記増強磁場とを前記磁気記録媒体に印加して前記磁気記録媒体の磁化を反転させる。
【0010】
また、本発明の記録方法は、光を集光器で共振させて集光し、前記光の磁場を増強させた増強磁場を発生させ、外部磁場印加部からの外部磁場と、前記増強磁場とを磁気記録媒体に印加して、前記磁気記録媒体の磁化を反転させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、集光器で光を共振させることで増強磁場を得、磁気記録媒体の磁化を反転させる際に外部磁場及び増強磁場を併用することで、磁化を反転させる際に必要となる外部磁場を下げることができる。よって、高い保磁力を有した磁気記録媒体でも、光を共振させることで、低い外部磁場で容易に情報を記録できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明による記録装置の全体構成を示す概略図である。
【
図2A】
図2Aは、外部磁場を印加した後に、ミリ波帯の光を照射して磁気記録媒体の磁化を反転させたときについて説明するための概略図である。
【
図2B】
図2Bは、ミリ波帯の光を照射した後に、外部磁場を印加して磁気記録媒体の磁化を反転させたときについて説明するための概略図である。
【
図3A】
図3Aは、磁化反転プロセスのエネルギーポテンシャル(光照射前)を示す概略図である。
【
図3B】
図3Bは、磁化反転プロセスのエネルギーポテンシャル(外部磁場印加時)を示す概略図である。
【
図3C】
図3Cは、磁化反転プロセスのエネルギーポテンシャル(外部磁場印加及び光照射時)を示す概略図である。
【
図4】外部磁場と、光の磁場と、保磁力との関係について統計熱力学的計算により求めた結果を示した表である。
【
図5】ミリ波集光リングに照射するミリ波帯の光の電界強度を示したグラフである。
【
図6】ミリ波集光リングの構成と、ミリ波集光リングへの光の照射について説明するための概略図である。
【
図7】ミリ波集光リングから30[nm]の距離における磁場分布を、電磁界解析により調べたときの結果を示した画像である。
【
図8A】220[GHz]や660[GHz]の光を共振させる集光リングを用いて、光を共振させたときの磁場強度を、電磁界解析により計算したときの計算結果を100~900[GHz]の範囲で示したグラフである。
【
図8B】220[GHz]や660[GHz]の光を共振させる集光リングを用いて、光を共振させたときの磁場強度を、電磁界解析により計算したときの計算結果を100~300[GHz]の範囲で拡大表示したグラフである。
【
図9】ミリ波集光リングにおいて電磁界解析を行った際に着目する領域を示した概略図である。
【
図10A】
図10Aは、ミリ波集光リングに対して光を0[deg]の角度で照射したときの電磁界解析の結果を示した画像である。
【
図10B】
図10Bは、ミリ波集光リングに対して光を30[deg]の角度で照射したときの電磁界解析の結果を示した画像である。
【
図10C】
図10Cは、ミリ波集光リングに対して光を45[deg]の角度で照射したときの電磁界解析の結果を示した画像である。
【
図10D】
図10Dは、ミリ波集光リングに対して光を60[deg]の角度で照射したときの電磁界解析の結果を示した画像である。
【
図11A】
図11Aは、ミリ波集光リングにおいて奥行き方向zでの磁場増強度を調べた位置を示す概略図である。
【
図11B】
図11Bは、各位置毎に調べた奥行き方向zでの磁場増強度を示したグラフである。
【
図12A】
図12Aは、ミリ波集光リングが形成された磁性フィルムの製造方法を説明するための概略図である。
【
図12B】
図12Bは、ミリ波集光リングにおいて解析を行う領域を示した概略図である。
【
図13】磁性フィルムに印加する外部磁場の印加方向と、ミリ波集光リングに照射される79[GHz]の光の照射方向とを説明するための概略図である。
【
図14A】
図14Aは、AFMの解析結果を示した画像と、MFMの解析結果を示した画像とを並べたものである。
【
図14B】
図14Bは、電磁界解析結果を示した画像と、MFMの解析結果を示した画像とを並べたものである。
【
図16】ミリ波集光リングを設けたシリコン基板と、磁性フィルムとを重ね合わせる様子を示した概略図である。
【
図17A】
図17Aは、レジストが積層されたシリコン基板の構成を示した概略図である。
【
図17E】
図17Eは、パターニングされたレジストを除去したときの概略図である。
【
図17F】
図17Fは、シリコン基板上にミリ波集光リングが形成された構成を示した概略図である。
【
図18】シリコン基板と磁性フィルムとを重ね合わせた試料の構成を示した概略図である。
【
図19】磁性フィルムに印加する外部磁場の印加方向と、ミリ波集光リングに照射される79[GHz]の光の照射方向とを説明するための概略図である。
【
図20A】
図20Aは、
図19の試料の拡大写真と、当該拡大写真内に設けられているミリ波集光リングの構成を示した概略図である。
【
図21】ミリ波集光リングの内周コーナ部付近におけるMFMの解析結果を示した画像と、電磁界解析結果を示した画像である。
【
図22】複数の外部磁場ユニットを一列に配置した構成を示す概略図である。
【
図23A】
図23Aは、他の実施形態によるミリ波集光リングの構成を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下図面に基づいて本発明の実施の形態を詳述する。
【0014】
(1)本発明の記録装置の概略
まず、本発明の記録装置の構成について以下説明する。
図1に示すように、本実施形態の記録装置10は、外部磁場印加部11と、集光リング12と、光L1を集光リング12に照射する光照射部13とを備える。ここでは、始めに、集光リング12に照射される光L1として、30~300[GHz]のミリ波帯内の光L1を適用する場合について以下説明する。また、以下の実施形態では、集光リング12をミリ波集光リング12と称する。
【0015】
記録装置10は、外部磁場印加部11と、ミリ波集光リング12と、30~300[GHz]のミリ波帯内の光L1をミリ波集光リング12に照射する光照射部13とを備えている。本実施形態において、外部磁場印加部11は、面部11aが磁気記録媒体1の記録面1aに対して垂直に配置され、この面部11aの端部に磁気ヘッド11bを有する。磁気ヘッド11bは磁気記録媒体1の記録面1aから200[nm]以下の隙間を設けて記録面1aに対向配置されている。
【0016】
ここで、外部磁場印加部11は、例えば、公知の書き込み磁気ヘッドモジュールであり、内部に図示しないコイルなどを備えている。外部磁場印加部11は、例えば、書き込み電流がコイルに印加されることで、磁気記録媒体1に対向した磁気ヘッド11bが磁化され、磁気ヘッド11bから記録面1aに外部磁場H0を印加し得る。
【0017】
なお、
図1では、磁気記録媒体1の長手方向をxとし、磁気記録媒体1の幅方向をyとしており、これら長手方向x及び幅方向yと直交する方向を磁気記録媒体1の厚み方向zとし、磁気ヘッド11bから厚み方向zに外部磁場H
0を発して記録面1aに印加する。
【0018】
外部磁場印加部11には後述するミリ波集光リング12が設けられている。ミリ波集光リング12は、金、白金などの金属材料からなり、ギャップ14を有したリング状に形成されている。この場合、ミリ波集光リング12は、磁気記録媒体1の記録面1aに対向配置される辺12aと、当該辺12aと所定距離を設けて対向配置され、かつギャップ14が形成された辺12bと、これら辺12a,12bの端部を連結する側辺12c,12dとを有しており、これら辺12a,12b及び側辺12c,12dで囲まれた中空部12eがギャップ14と連通している。
【0019】
本実施形態の場合、ミリ波集光リング12は、これら辺12a,12b及び側辺12c,12dが、外部磁場印加部11の面部11aに設けられており、外部磁場印加部11の磁気ヘッド11bとともに辺12aが、磁気記録媒体1の記録面1aに対向配置されている。この場合、ミリ波集光リング12の辺12aは、磁気記録媒体1の記録面1aから200[nm]以下の隙間を設けて配置されている。
【0020】
ここで、ミリ波集光リング12は、30~300[GHz]のミリ波帯内の光L1を共振させるように、ギャップ14が形成された辺12bの端部14aから、側辺12c、辺12a及び側辺12dを介して、ギャップ14が形成された辺12bの他の端部14bまでの長さ(以下、辺長とも称する)が選定されている。
【0021】
これにより、ミリ波集光リング12は、30~300[GHz]のミリ波帯内の光L1が光照射部13から照射されると、リングがコイル、ギャップがコンデンサとしての役割を果たすことで、辺長で設定した共振周波数の誘導電流が発生し、それに伴いリングの周囲に非常に強い磁場が発生する。これにより、ミリ波集光リング12は、光L1が有する磁場のうち共振周波数での磁場を増強させた増強磁場(以下、この実施形態では、ミリ波磁場と称する)HMを、辺12aに発生させる。ミリ波集光リング12は、光L1が有する磁場のうち共振周波数での磁場が増強したミリ波磁場HMを、辺12aから記録面1aに印加する。なお、ミリ波磁場HMは、ミリ波集光リング12の辺長に亘り発生するが、ここでは記録面1aに対向する辺12aに着目して以下説明する。
【0022】
このような共振周波数での磁場の増強は、ミリ波集光リング12の辺長を選定することで調整することができる。なお、後述する検証試験では、ミリ波集光リング12に光L1を照射することで、ミリ波集光リング12に照射した光L1の磁場に対して共振周波数での磁場が900倍になることを確認している。
【0023】
これにより、記録装置10では、例えば、高い保磁力Hcを有するイプシロン酸化鉄粒子を磁気記録材料として使用した磁気記録媒体1であっても、ミリ波集光リング12に光L1を照射することで、高レベルの飽和磁束密度を有する磁気ヘッドを用いずに、低い外部磁場H0でもミリ波磁場HMのアシストにより、磁気記録媒体1の磁化を反転させ、情報を記録することができる。なお、記録装置10は、例えば、磁気記録媒体1を長手方向xに搬送させることで、磁気記録媒体1に情報の連続的な記録を行うことができる。
【0024】
なお、光照射部13から照射される光L1は、例えばパルス光を適用するが、本発明はこれに限らない。
【0025】
(2)本発明の記録装置において磁気記録材料として使用するイプシロン酸化鉄粒子
本発明の記録装置10では、磁気記録媒体として、高い保磁力Hcを有するイプシロン酸化鉄粒子を磁気記録材料として使用する磁気記録媒体1を適用することが望ましい。本発明では、高い保磁力Hcを有するイプシロン酸化鉄粒子を磁気記録材料として使用していても、ミリ波集光リング12により光L1を共振させて得られるミリ波磁場HMを利用することで、高レベルの飽和磁束密度を有する磁気ヘッドを用いずに、低い外部磁場で磁化を反転させ、情報を記録することができる。
【0026】
ここでは、本実施形態で使用する、高い保磁力Hcを有するイプシロン酸化鉄粒子について以下説明する。イプシロン酸化鉄粒子としては、一般式がε-Fe2O3、ε-AxFe2-xO3(AはFeを除く元素、xは0<x<2の範囲)、ε-ByCzFe2-y-zO3(ここでのB及びCは、A及びFeを除く元素であり、かつ互いに異なる元素、yは0<y<1の範囲、zは0<z<1の範囲)、ε-DUEVFWFe2-U-V-WO3(ここでのD、E及びFは、A及びFeを除く元素であり、かつ互いに異なる元素、Uは0<U<1の範囲、Vは0<V<1の範囲、Wは0<W<1の範囲)で表される結晶のいずれかであることが望ましい。
【0027】
ε-AxFe2-xO3は、結晶系と空間群がε-Fe2O3と同じであって、ε-Fe2O3結晶のFeサイトの一部がFe以外の元素Aで置換されたものである。ε-Fe2O3の結晶構造を安定に保つため、Aとしては、3価の元素を用いることが好ましい。さらにAとしては、Al,Sc,Ti,V,Cr,Ga,In,Y,Rhから選択される1種の元素を挙げることができる。
【0028】
ε-ByCzFe2-y-zO3は、結晶系と空間群がε-Fe2O3と同じであって、ε-Fe2O3結晶のFeサイトの一部が、Fe以外の2種の元素B,Cで置換されたものである。ε-Fe2O3の結晶構造を安定に保つため、Bとしては4価の元素、Cとしては2価の元素を用いることが好ましい。さらに、BとしてはTi、Cとしては、Co,Ni,Mn,Cu及びZnから選択される1種の元素を挙げることができる。
【0029】
ε-DUEVFWFe2-U-V-WO3は、結晶系と空間群がε-Fe2O3と同じであって、ε-Fe2O3結晶のFeサイトの一部が、Fe以外の3種の元素D,E,Fで置換されたものである。ε-Fe2O3の結晶構造を安定に保つため、Dとしては3価の元素、Eとしては4価の元素、Fとしては2価の元素を用いることが好ましい。Dとしては、Al,Sc,Ti,V,Cr,Ga,In,Y,Rhから選択される1種の元素を挙げることができる。また、EとしてはTi、Fとしては、Co,Ni,Mn,Cu及びZnから選択される1種の元素を挙げることができる。
【0030】
なお、上述したA、B、C、D、E及びFからFeを除くのは、ε-Fe2O3のFe3+イオンサイトの一部を、1種類、又は、互いに異なる2種類、3種類の元素で置換するためである。ここでイプシロン酸化鉄粒子の粒径は特に限定されないが、例えば、TEM(透過型電子顕微鏡)写真から計測した平均粒径が5~200[nm]の範囲であることが望ましく、磁気記録媒体1の記録密度を高めるためには、平均粒径が100[nm]以下であることがより望ましく、50[nm]以下であることがより望ましく、20[nm]以下であることがより望ましい。
【0031】
これらイプシロン酸化鉄粒子は、公知のものである。Feサイトの一部がFe以外の1種の元素A、2種類の元素B、C、3種の元素D、E、Fでそれぞれ置換されたε-AxFe2-xO3、ε-ByCzFe2-y-zO3、又はε-DUEVFWFe2-U-V-WO3のいずれかの結晶からなるイプシロン酸化鉄粒子は、例えば、逆ミセル法及びゾル-ゲル法を組み合わせた工程と、焼成工程とによって合成することができる。また、特開2008-174405号公報に開示されるように、直接合成法及びゾル-ゲル法を組み合わせた工程と、焼成工程とによって合成することができる。
【0032】
なお、より具体的な製造方法については、例えば、公知文献である「Jian Jin,Shinichi Ohkoshi and Kazuhito Hashimoto,ADVANCED MATERIALS 2004,16,No.1、January 5,p.48-51」や、「Shin-ichi Ohkoshi,Shunsuke Sakurai,Jian Jin,Kazuhito Hashimoto,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,97,10K312(2005)」に開示されているため、ここではその説明は省略する。
【0033】
(3)イプシロン酸化鉄粒子を含んだ磁気記録媒体
本実施形態の記録装置10に用いる磁気記録媒体1は、例えば下記のようにして製造する。上述したイプシロン酸化鉄粒子を所定の溶媒に分散させて得られた分散液を、基体上に設ける。例えば、ガラス基板上にポリエステルフィルムを貼り付け、当該フィルム上へ分散液を滴下する。基体上に設けられた分散液を、配向の確実性を高める観点から2テスラ以上の磁束密度下に置き、分散液を硬化させることでフィルム状の粒子分散体を得ることができる。なお、このようなフィルム状の粒子分散体の詳細な製造方法は、特開2016-135737号公報に開示されているため、ここではその説明は省略する。
【0034】
このようにして製造される磁気記録媒体1は、例えば、配向度=SQ(磁化容易軸方向)/SQ(磁化困難軸方向)にて定義される磁性粒子の配向度の値が、0.6を超えることが望ましい。また、イプシロン酸化鉄粒子の磁化容易軸を所定方向に向けて配向させた粒子分散体は、室温での保磁力Hcが3[kOe](2.39×105[A/m])以上であることが望ましい。
【0035】
(4)外部磁場の印加と、ミリ波帯の光照射とを組み合わせた、磁気記録媒体の磁化反転方法
ここで、外部磁場H
0の印加と、ミリ波帯の光照射とを組み合わせた、磁気記録媒体1の磁化反転方法の概要について、以下説明する。
図2Aでは、磁気記録媒体1の磁化3を簡略的に示した模式図である。
図2Aでは、外部磁場H
0の印加と、ミリ波帯の光L2の照射とがされていないとき、磁化3の磁化方向が、例えば外部磁場方向と逆方向(以下、初期配向方向と称する)に配向されている。なお、ここで、
図2A中に示すミリ波帯の光L2とは、ミリ波集光リング12により光L1を共振させて集光させた光に相当するものであり、ミリ波磁場H
Mを有する光である。
【0036】
図2Aに示すように、磁気記録媒体1の表面に向けて外部磁場H
0が印加されると、磁気記録媒体1では、外部磁場H
0が印加された領域(
図2A中、「磁場印加」と表記)内の磁化3が、外部磁場H
0の影響を受けて傾く。この際、磁気記録材料として、高い保磁力Hcを有しているイプシロン酸化鉄粒子を用いている場合、外部磁場H
0のみによっては磁化3を180度反転させることが難しく、磁化3が傾くに留まり、情報を記録することができない。
【0037】
外部磁場H
0が印加された状態で、イプシロン酸化鉄粒子の共鳴周波数であるミリ波帯の光L2が照射されると、当該ミリ波帯の光L2が照射された領域(
図2A中、「ミリ波照射」と表記)では、外部磁場H
0により傾いている磁化3が、ミリ波帯の光L2によって励起され、歳差運動を始め、最終的に磁化方向が初期配向方向から180度反転する。なお、イプシロン酸化鉄粒子の共鳴周波数とは、30~300[GHz]のミリ波帯内において、イプシロン酸化鉄粒子の電磁波吸収量が最大となるピークがある周波数をいう。
【0038】
なお、上述した実施形態では、外部磁場H
0を磁気記録媒体1に印加した状態で、イプシロン酸化鉄粒子の共鳴周波数であるミリ波帯の光L2を照射することで、ミリ波帯の光L2が磁化反転をアシストし、磁化方向が初期配向方向から180度反転する場合について説明したが、
図2Bに示すように、イプシロン酸化鉄粒子の共鳴周波数であるミリ波帯の光L2を磁気記録媒体1に照射した状態で、外部磁場H
0を印加するようにしもてもよい。この場合、外部磁場H
0が磁化反転をアシストし、磁化方向が初期配向方向から180度反転する。
【0039】
ここで、外部磁場H
0の印加とミリ波帯の光L2の照射とにより磁化3を反転する現象(以下、磁化反転プロセスとも称する)について、
図3A、
図3B及び
図3Cを用いてポテンシャルエネルギーの観点から以下説明する。
【0040】
図3Aは、外部磁場H
0が印加されておらず、かつミリ波帯の光L2も照射されていないときのエネルギーポテンシャルを示す。
図3Aでは、初期配向方向に向いている磁化安定位置での磁化方向を0度とし、磁化反転した磁化安定位置での磁化方向を180度として横軸に示す。この場合、エネルギー最小部箇所が0度付近と180度付近に現れており、これら0度と180度との間に磁化反転のエネルギー障壁が現れる。
【0041】
0度付近の磁化3はエネルギー障壁によって反転し得ない。その後、外部磁場H
0が印加されると、
図3Bに示すように、エネルギーポテンシャルが変化し、0度付近のエネルギーポテンシャルが上がるとともに、180度付近のエネルギーポテンシャルが下がり、180度付近にエネルギー最小部箇所が現れる。しかしながら、0度と180度との間に未だ磁化反転のエネルギー障壁が存在しており、0度の磁化方向が維持される。
【0042】
この状態において、イプシロン酸化鉄粒子の共鳴周波数であるミリ波帯の光L2が照射されると、
図3Bに示す点線のエネルギーが与えられ、
図3Cに示すように、磁化反転のエネルギー障壁を越え、磁化3が反転して180度付近が磁化安定位置となる。
【0043】
ここで、
図4は、外部磁場H
0と、ミリ波集光リング12で集光されていないミリ波帯の光(以下、「未集光のミリ波帯の光」とも称する)の磁場H
ミリと、磁気記録媒体1の保磁力Hcとの関係について、統計熱力学計算により求めた計算結果をまとめた表である。
図4に示すように、例えば、3000[Oe]の外部磁場H
0を印加した状態のときに、1100[Oe]の磁場H
ミリのミリ波帯の光を照射することで、6000[Oe]の保磁力Hcを有する磁気記録媒体1の磁化を反転できることが分かる。
【0044】
例えば、
図5は、未集光のミリ波帯の光の一例を示しており、電場の時間依存性を示したグラフである。このような未集光のミリ波帯の光では、0.11[T]の磁場を実現できていることが確認されているが、この磁場の値は、ミリ波が有する広い周波数帯域全体での磁場の総量値である。そのため、ミリ波が有する広い周波数帯域全体の中で、イプシロン酸化鉄粒子の共鳴周波数と同じ周波数での磁場は、全体の0.11[T]のうち僅か1%程度にも満たない。そのため、未集光のミリ波帯の光では、イプシロン酸化鉄粒子の共鳴周波数と同じ周波数での磁場はとても小さいものとなり、例えば、3000[Oe]の外部磁場H
0を印加した状態のときに、
図5に示す未集光のミリ波帯の光を照射しても、実際には6000[Oe]の保磁力Hcを有する磁気記録媒体1の磁化を反転することは難しい。
【0045】
そこで、本実施形態では、
図6に示すように、ミリ波集光リング12にミリ波帯の光L1を照射し、磁気記録媒体1の共鳴周波数において光L1をミリ波集光リング12で共振させ、当該共振周波数での磁場を増強させることとした。このように、ミリ波集光リング12で光L1を共振させることで得られるミリ波磁場H
Mを利用することで、例えば、3000[Oe]の外部磁場H
0を印加しても、6000[Oe]の高い保磁力Hcを有する磁気記録媒体1の磁化を反転させることができる。
【0046】
(5)検証試験
(5-1)FDTD法によるシミュレーション試験
次に、220[GHz]及び660[GHz]で共振する集光リング(ここでは、660[GHz]でも共振させることから、ミリ波集光リングと称さず、単に、集光リングと称する)を設計して、時間領域差分法(以下、FDTD法:Finite-difference time-domain methodと称する)によるシミュレーション試験を行い、電磁界解析を行った。
図6は、シミュレーション試験において使用した長方形状の集光リング12を示す。この集光リング12は、幅を96.75[μm]、ギャップ14を21.5[μm]、高さを268.75[μm]、線幅を5.34[μm]、奥行きの厚みを100[nm]として定義し、220[GHz]や660[GHz]の光を共振させるように設計した。
【0047】
また、シミュレーション試験に用いる集光リング12は、真空中に浮いている完全導体の金属として定義した。そして、FDTD法によるシミュレーション試験によって、このような集光リング12に、
図5に示すような光(以下、光L1とする)を照射したときの電磁界解析を行った。なお、集光リング12に照射する光L1は、集光リング12に対して垂直に照射される直線偏光として定義した。
【0048】
そして、集光リング12において、ギャップ14のない短辺である辺12aの外側30[nm]の位置P
1で発生している磁場の周波数依存性について、FDTD法によるシミュレーション試験を基に調べた。
図7は、FDTD法によるシミュレーション試験の電磁界解析結果を示している。なお、
図7は、実際にはカラー画像であり、電界強度は、赤>橙>黄>緑>青>紫の順に高く示され、暖色系で磁場が大きいことを表すものとなる。
【0049】
図7から、辺12aの外側30[nm]の位置において、200[nm]の太さで高い磁場が発生していることが確認できた。また、
図7の結果から、辺12aの外側30[nm]の位置で発生している磁場を計算したところ、
図8Aに示すような計算結果が得られ、220[GHz]で共振するだけでなく、ミリ波帯ではない660[GHz]でも共振することがわかった。
図8Bから、集光リング12に入力する入力磁場に対して、220[GHz]で約900倍の磁場となることが確認できた。
【0050】
以上より、この検証試験によって、集光リング12に、300[GHz]超の660[GHz]のサブテラヘルツ波帯内の光L1を照射しても、集光リング12によって光L1を共振できることが確認できた。よって、サブテラヘルツ波帯内の光L1の磁場を増強した増強磁場が得られることが確認できた。そのため、本実施形態の記録装置10では、30~300[GHz]のミリ波帯内の光だけでなく、100~1000[GHz]のサブテラヘルツ波帯内の光をも用いることができる。なお、ここで、光の周波数が1000[GHz]超になると、リングサイズが10[μm]程度になり、記録ヘッドによる記録幅が小さくなることが推測されることから、ある程度の記録幅を確保する場合には、光L1の周波数は1000[GHz]以下であることが望ましい。
【0051】
次に、79[GHz]や240[GHz]の光を共振させるミリ波集光リング12を設計して、FDTD法によるシミュレーション試験を行い、電磁界解析を行った。
図9は、このシミュレーション試験に用いたミリ波集光リング12を示している。このミリ波集光リング12は、辺12aや側辺12c,12d、ギャップ14、線幅などが、79[GHz]や240[GHz]の光に共振するように設計されている。
【0052】
シミュレーション試験において、ミリ波集光リング12に照射するミリ波帯の光L1は、ミリ波集光リング12に対して垂直に照射される直線偏光として定義した。そして、ミリ波集光リング12の正面からミリ波集光リング12の中心部に向けて照射するミリ波帯の光L1の角度を変えて、FDTD法によるシミュレーション試験を行った。
【0053】
具体的には、ミリ波集光リング12に対して垂直(0[deg])にミリ波帯の光L1を照射したときのシミュレーション試験と、ミリ波集光リング12の短辺に向けて30[deg]の角度を設けてミリ波帯の光L1を照射したときのシミュレーション試験を行った。また、同様に、ミリ波集光リング12の短辺に向けて45[deg]の角度を設けてミリ波帯の光L1を照射したときのシミュレーション試験と、ミリ波集光リング12の短辺に向けて60[deg]の角度を設けてミリ波帯の光L1を照射したときのシミュレーション試験とを行った。
【0054】
そして、このFDTD法によるシミュレーション試験では、
図9に示したミリ波集光リング12の角部付近の領域ER
1について着目して、それぞれ電磁界解析を行った。その結果、
図10A~
図10Dに示すような結果が得られた。
図10Aは、0[deg]でミリ波帯の光L1を照射したときの電磁界解析の結果を示し、
図10Bは、30[deg]でミリ波帯の光L1を照射したときの電磁界解析の結果を示し、
図10Cは、45[deg]でミリ波帯の光L1を照射したときの電磁界解析の結果を示し、
図10Dは、60[deg]でミリ波帯の光L1を照射したときの電磁界解析の結果を示す。
【0055】
図10A~
図10Dの結果から、ミリ波集光リング12に対して、ミリ波帯の光L1の照射角度を変えても、ミリ波帯の光L1の磁場が増強されていることが確認できた。また、ミリ波集光リング12に対して、ミリ波帯の光L1の照射角度を大きくする方が、僅かではあるが、磁場の増強が大きくなることが確認できた。さらに、ミリ波帯の光L1の照射角度に係わらず、ミリ波集光リング12の辺12aにおいては、コーナ部分で一段と磁場の増強がされていることが確認できた。なお、
図10A中に表記された「0.289μm」の数値は、磁場の最大値の90%以上の箇所の幅を示す。
図10B~
図10Dも同様である。
【0056】
次に、この79[GHz]の光を共振させるミリ波集光リング12において、0[deg]でミリ波帯の光L1を照射した場合について、FDTD法によるシミュレーション試験を行い、
図11Aに示すように、ミリ波集光リング12の内周コーナ部付近の3箇所において、奥行き方向zでの磁場増強度を計算した。具体的には、ミリ波集光リング12の辺12aから内側に17[nm]離れた位置において、側辺12cからの距離が0[nm]、300[nm]及び600[nm]での各位置で、それぞれ奥行き方向zにおける磁場増強度を計算した。
【0057】
その結果、
図11Bに示すような結果が得られた。
図11Bから、ミリ波集光リング12の側辺12cから離れるに従って磁場増強度が低くなるものの、側辺12cから最も離れた600[nm]の位置で奥行き方向zに-1000[nm]離れた位置であっても高い磁場増強度が得られていることが確認できた。また、FDTD法によるシミュレーション試験によって、奥行き方向zでの距離が0[nm]の位置でミリ波集光リング12の内周コーナ部付近について、電磁界解析により磁場分布を調べたところ、
図11Cに示すような結果が得られた。
図11Cの電磁界解析結果から、ミリ波集光リング12の縁に沿って強磁場が分布しており、特にコーナ部での磁場が強くなっていることが確認できた。
【0058】
(5-2)磁性フィルム上にミリ波集光リングを付着させた試料を用いた検証試験
次に、実際に磁気記録媒体として磁性フィルムを作製し、この磁性フィルムに直接形成したミリ波集光リング12でミリ波磁場を発生させ、このミリ波磁場と外部磁場とにより、磁性フィルムの磁化を反転させることができるか否かについて確認する検証試験を行った。
【0059】
(5-2-1)ミリ波集光リングが付着した磁性フィルムの作製
ここでは、まず、既知の方法により合成されたε-Ga0.22Ti0.05Co0.07Fe1.68O3の結晶からなるイプシロン酸化鉄粒子を、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH:tetramethyl ammonium hydroxide)からなる分散液中に分散させ、遠心分離処理により分級を行い、粒径を揃えた粉末試料を得た。この粉末試料について透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、球状粒子であることが確認できた。次に、この粉末試料を用いて、検証試験に用いる磁性フィルムを作製した。なお、このε-Ga0.22Ti0.05Co0.07Fe1.68O3の結晶からなるイプシロン酸化鉄粒子は、公知の物であり、電磁波吸収量の最大ピーク(すなわち、自然共鳴が生じる共鳴周波数)が80[GHz]であり、保磁力Hcが4.3[kOe]であることが確認されている。
【0060】
磁性フィルムの作製には、ウレタン樹脂と塩化ビニル樹脂とを混合させた混合物を用意し、この混合物と、分級した粉末試料とを所定溶媒中に分散させた分散液を作製した。次いで、石英基板に分散液を塗布してゆき、2Tの磁束密度下に置き、分散液を乾燥させることで、分散液が硬化した透明な磁性フィルムを石英基板上に形成した。この際、磁性フィルムは、磁束密度が垂直方向にかかるように配置した。
【0061】
次に、
図12Aに示すように、石英基板17の表面に形成された磁性フィルム18上にミリ波集光リング12を付着させるプロセスを行った。
図12Aに示すように、まず、シリコン基板にミリ波集光リング12の外形と一致する孔19aを空けたマスク20aを作製した。次に、石英基板17の表面に形成された磁性フィルム18の上に、作製したマスク20aを重ね合わせ、マスク20a側から金をスパッタリングすることにより、磁性フィルム18上に、80[GHz]や240[GHz]の光を共振させる、Auからなるミリ波集光リング12を形成した。
【0062】
このようにして、
図12Bに示すように、短辺となる辺12a,12bが278.0[μm]、ギャップ14が61.8[μm]、長辺となる側辺12c,12dが772.8[μm]、線幅が15.4[μm]のミリ波集光リング12を磁性フィルム18上に形成した。なお、このミリ波集光リング12は、磁性フィルム18上で80[GHz]や240[GHz]の光を共振させるように設計したものである。
【0063】
(5-2-2)外部磁場印加及びミリ波帯の光照射試験
次に、このようにして、磁性フィルム18の表面に直接形成したミリ波集光リング12を使用して、外部磁場印加及びミリ波帯の光照射試験を行った。磁性フィルム18の磁化は、始め、
図13に示すように、下から上に配向するようにした。そして、永久磁石を使用して、磁性フィルム18の初期の磁化方向と逆向きとなる上から下に外部磁場H
0を印加した。外部磁場H
0は、2.9[kOe]とした。また、
図5に示した、パルス状のミリ波帯の光L1を、外部磁場H
0と同様に上から下にミリ波集光リング12に向けて1ショット照射した。
【0064】
そして、
図12Bに示すように、ミリ波集光リング12のコーナ部の領域ER
2について、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)による解析と、磁気力顕微鏡(MFM:Magnetic Force Microscope)による解析と、電磁界解析とを行った。
図14Aは、AFM解析結果と、磁性探針によるMFM解析結果とを並べたものである。
【0065】
これらAFM解析結果と、磁性探針を用いたMFM解析結果は、同時に測定した測定結果であり、AFM解析結果から、ミリ波集光リング12のコーナ部を確認することができた。また、磁性探針を用いたMFM解析結果から、AFM解析結果で確認したミリ波集光リング12のコーナ部に沿って色味が変わっていることが確認できた。このような磁性探針を用いたMFM解析結果から、ミリ波集光リング12の周辺にて磁性フィルム18の磁化が反転していることが確認できた。
【0066】
図14Bは、電磁界解析結果と、磁性探針を用いたMFM解析結果とを並べたものである。電磁界解析結果は、ミリ波集光リング12の下面より94[nm]下方の平面における磁場強度を調べたものである。電磁界解析結果から、ミリ波集光リング12のコーナ部に沿って磁場強度が大きくなっていることが確認できた。
【0067】
次に、
図12Bに示したミリ波集光リング12のコーナ部の領域ER
2について、非磁性探針を用いてAFM解析とMFM解析とを行ったところ、
図15A及び
図15Bに示すような結果が得られた。
図15AのAFM解析結果からはミリ波集光リング12のコーナ部を確認することができたが、
図15Bに示す、非磁性探針を用いたMFM解析結果からは、ミリ波集光リング12のコーナ部での色味の変化は確認することはできなかった。このように非磁性探針を用いたMFM解析では応答が確認できなかったため、
図14A及び
図14Bに示したMFM解析は磁気の応答であると言える。
【0068】
(5-3)シリコン基板上の集光リングと磁性フィルムとを重ね合わせた試料を用いた検証試験
(5-3-1)シリコン基板上の集光リングと磁性フィルムとを重ね合わせた試料の作製
この検証試験では、上述した「(5-2-1)ミリ波集光リングが付着した磁性フィルムの作製」と同様に、ε-Ga
0.22Ti
0.05Co
0.07Fe
1.68O
3の結晶からなるイプシロン酸化鉄粒子を含む分散液を石英基板上に塗布してゆき、2Tの磁束密度下に置き、分散液を乾燥させることで、
図16に示すように、透明な磁性フィルム18を石英基板17上に形成した。この際、磁性フィルム18は、磁束密度が垂直方向にかかるように配置した。
【0069】
また、これとは別に、27[GHz]や80[GHz]の光を共振させるように設計したAuからなる集光リング(ここでは、27[GHz]でも共振させることから、ミリ波集光リングと称さず、単に、集光リングと称する)12を、シリコン基板25の表面に沿って形成した。なお、シリコン基板25上に集光リング12を作製する方法を、
図17A~
図17Fに示す。まず、
図17Aに示すように、シリコン基板25上にレジスト19を形成した。次いで、
図17Bに示すように、電子線により、レジスト19をパターニングしてゆき、27[GHz]や80[GHz]の光を共振させるように設計した集光リングの外形と一致する孔19aを形成し、
図17Cに示すように、孔19aの内部にシリコン基板25を露出させたレジスト20を作製した。
【0070】
次いで、
図17Dに示すように、パターニングされたレジスト20の孔19aを埋めるようにして、蒸着により金(Au)からなるメッキ層22を形成した後、
図17Eに示すように、レジスト20を除去することで、孔19aに位置にのみメッキ層22を残存させた。これにより、
図17Fに示すように、シリコン基板25上に、27[GHz]や80[GHz]の光を共振させる、Auからなる集光リング12を形成した。集光リング12は、その辺長の全てがシリコン基板25の表面に付着するように形成した。そして、このようにして作製したシリコン基板25と、上記の磁性フィルム18とを重ね合わせ、磁性フィルム18及びシリコン基板25の間に集光リング12を配置させた試料を作製した。
【0071】
図18は、磁性フィルム18及びシリコン基板25の間に集光リング12を設けた試料27の上面構成と、試料27において1つの集光リング12が設けられた領域を拡大顕微鏡で写した写真とを示す。なお、この検証試験では、複数の集光リング12をマトリックス状に配置した。また、磁性フィルム18の表面にはレーザでマーキングMが形成されており、磁性フィルム18をシリコン基板25に重ね合わせた際に、集光リング12の周辺にマーキングMが配置されるようにした。なお、このマーキングMは、各集光リング12の各部の位置を特定する際に、目安とするものである。
【0072】
また、
図20Aに示すように、この拡大顕微鏡により拡大した観察領域内に、80[GHz]の光を共振させるように設計した集光リング12を配置した。この場合、集光リング12は、短辺が298.9[μm]、ギャップが66.4[μm]、長辺が830.9[μm]、線幅が16.6[μm]に形成されている。
【0073】
(5-3-2)外部磁場印加と、ミリ波帯又は準ミリ波帯の光照射試験
磁性フィルム18の磁化は、始め、
図19に示すように、上から下に配向するようにした。そして、永久磁石を使用して、磁性フィルム18の初期の磁化方向と逆向きとなる下から上に外部磁場H
0を印加した。外部磁場H
0は、3.8[kOe]とした。また、
図5に示した光L2を、外部磁場H
0とは逆の上から下に集光リング12に向けて30[sec]照射した。
【0074】
なお、磁性フィルム18をシリコン基板25に重ね合わせた際に、磁性フィルム18やシリコン基板25の表面に存在する凸部などにより、磁性フィルム18と集光リング12との間には数百[nm]の隙間が形成されていると考えられる。
【0075】
図20Bは、
図20Aに示した集光リング12のコーナ部の領域ER
3を中心に拡大した写真を示しており、この
図20Bには、集光リング12のコーナ部が写っており、集光リング12が設けられていることが分かる。そして、磁性フィルム18からシリコン基板25を剥がした後、
図21に示すように、集光リング12の内周コーナ部が配置されていた付近の磁性フィルム18の領域ER
4,ER
5について、MFMによる解析と、電磁界解析とを行ったところ、
図21に示すような結果が得られた。
【0076】
図21では、集光リング12のコーナ部が配置されていた付近の磁性フィルム18の領域ER
4,ER
5におけるMFM解析結果(MFM像)と電磁界解析結果とをそれぞれ並べたものである。
【0077】
図21に示したMFM解析結果から、集光リング12のコーナ部での色味が変わっていることが確認できた。このようなMFM解析結果から、磁性フィルム18と集光リング12との間に隙間が形成されている場合でも、磁性フィルム18の磁化が反転していることが確認できた。また、
図21に示した電磁界解析結果から、磁性フィルム18では、集光リング12のコーナ部が配置されていた付近で、他と比べて強い磁場となっていることが確認できた。
【0078】
また、これとは別に、上述した手順と同様に、「(5-3-1)シリコン基板上の集光リングと磁性フィルムとを重ね合わせた試料の作製」で作製した磁性フィルム18に対して、当該磁性フィルム18の初期の磁化方向と逆向きとなる下から上に外部磁場H0を印加した。そして、27[GHz]の準ミリ波帯の光を、外部磁場H0とは逆の上から下に集光リング12に向けて照射した。
【0079】
磁性フィルム18からシリコン基板25を剥がした後、集光リング12が配置されていた付近の磁性フィルム18の領域について、MFMによる解析と、電磁界解析とを行った。その結果、集光リング12が配置されていた付近の磁性フィルム18の領域での色味が変わっていることが確認できた。このようなMFM解析結果から、30[GHz]未満の27[GHz]の準ミリ波帯内で共振するリングに光を照射しても、磁性フィルム18の磁化が反転していることが確認できた。
【0080】
以上の検証結果から、ミリ波集光リング12として用いた集光リング12に、30[GHz]未満の27[GHz]の準ミリ波帯内で共振するリングに光を照射しても、当該集光リング12によって光を共振でき、増強磁場が得られることが確認できた。そのため、本実施形態の記録装置1では、30~300[GHz]のミリ波帯内の光だけでなく、20~30[GHz]の準ミリ波帯内の光をも用いることができる。なお、ここで、光の周波数が20[GHz]未満になると、リングサイズが1[mm]を超え、記録幅が広がることが推測されることから、光L1の周波数は20[GHz]以上であることが望ましい。
【0081】
(6)作用及び効果
以上の構成において、記録装置10では、光L1の周波数帯域は限定されないが、例えば、20~1000[GHz]、好ましくは30~300[GHz]の帯域内の光L1を集光リング12に照射することで、光L1を集光リング12で共振させて集光し、当該光L1の磁場を増強させた増強磁場を発生させることができる。これにより、記録装置10では、外部磁場印加部11からの外部磁場H0と、集光リング12から発生した増強磁場HMとを、磁気記録媒体1に印加して磁気記録媒体1の磁化を反転させることができる。
【0082】
このように、記録装置10では、集光リング12で光L1を共振させることで増強磁場を得、磁気記録媒体1の磁化を反転させる際に増強磁場を併用することで、磁化を反転させる際に必要となる外部磁場H0を下げることができる。よって、高い保磁力を有した磁気記録媒体1でも、光を共振させることで、低い外部磁場H0で容易に情報を記録できる。
【0083】
ところで、近年、マイクロ波を発生するスピン・トルク・オシレーター(STO:Spin-Torque Oscillator)を用い、情報記録時に、外部磁場とともに、STOからマイクロ波磁界を磁気記録媒体に印加し、強磁性粉末の磁化反転をアシストして磁化パターンを形成するマイクロ波アシスト記録方式が知られている。これに対して、本実施形態の記録装置10は、光照射部13からの光L1を集光リング12で共振させて集光し、集光リング12で光の磁場を増強させた増強磁場を、外部磁場とともに磁気記録媒体1に印加しており、上述したマイクロ波アシスト記録方式の記録装置とは全く異なる構成を有している。
【0084】
本実施形態の記録装置10では、準ミリ波、ミリ波、サブテラヘルツ波帯の強磁場を狭い領域に発生できること、微粒子化をしても磁性を失わない磁気異方性の大きい材料の磁化反転が可能なことから、マイクロ波アシスト記録方式に比べて、記録密度の向上という点で有利な効果を有する。
【0085】
また、記録装置10では、光照射部13からの光L1を、磁気記録媒体1の集光リング12の辺が対向する領域に向けて照射せずに、集光リング12に向けて照射している。従って、記録装置10では、比較的照射範囲が広い集光リング12に光を照射すればよいため、その分、光照射部13の照射角度や設置位置等、設計の自由度が高い記録装置10を実現できる。
【0086】
(7)他の実施形態
なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。上述した実施形態においては、1つの外部磁場印加部11に、1つの集光リング12を設けた構成としたが、本発明はこれに限らない。例えば、
図22に示すように、複数の外部磁場ユニット30を備えた外部磁場印加部31を、集光リング12に設けるようにしてもよい。
【0087】
このような記録装置は、例えば、磁気記録媒体1に対向配置された集光リング12の辺12aに沿って複数の外部磁場ユニット30が一列に配置された外部磁場印加部31を有する。各外部磁場ユニット30は、磁気記録媒体1の幅方向に並ぶ各トラックTに合わせて、集光リング12の辺12aに配置されている。これにより、各外部磁場ユニット30は、直下にあるトラックTにのみ外部磁場H0を印加し得る。
【0088】
このような構成とすることで、外部磁場印加部11からの外部磁場H0と、集光リング12から発生した増強磁場HMとを、磁気記録媒体1に印加して磁気記録媒体1の磁化を反転させる際、必要箇所の外部磁場ユニット30のみから外部磁場H0を印加することで、各外部磁場ユニット30毎に磁気記録媒体1の磁化を反転させる。
【0089】
また、上述した実施形態においては、集光器として、1辺にギャップ14を有した四辺状の集光リング12を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、
図23Aに示すように、蛇行している凹凸辺32aを有した集光リング32を適用してもよい。
【0090】
図23Aに示した集光リング32では、凸部33a及び凹部33bで矩形波状に形成された凹凸辺32aと、この凹凸辺32aと対向し、ギャップ14を有した辺32bと、これら凹凸辺32a及び辺32bの端部を連結する側辺32c,32dを有している。
【0091】
このような集光リング32では、凹凸辺32aの凸部33aを、磁気記録媒体1の幅方向に並ぶ各トラックに合わせて配置させることで、各凸部33aから発する増強磁場HMを直下にあるトラックに対してそれぞれ印加し得る。特に、上述した検証試験から、集光リングのコーナ部では比較的強い増強磁場HMが生じることが確認されていることから、このような構成とすることで、各凸部33aのコーナ部から発する強い増強磁場HMをトラックに印加させることができる。
【0092】
なお、上述した集光リング32は、矩形波状に蛇行した凹凸辺32aとしたが、例えば、正弦波状に蛇行した凹凸辺や、三角波状に蛇行した凹凸辺、ノコギリ波状に蛇行した凹凸辺などであってよい。
【0093】
また、その他の集光器としては、
図23Bに示すように、辺34aと、辺34aの端部に設けられた側辺34c,34dの3辺からなる非リング状の集光器34を適用してもよい。さらに、その他としては、L字状やU字状などの集光器や、ギャップを有した円形状の集光器などでもよい。このような形状とした集光器であっても、辺長を選定することで、例えば、20~1000[GHz]、好ましくは30~300[GHz]の帯域内の光を共振させて集光し得、当該光の磁場を増強させた増強磁場を発生させることができる。
【0094】
なお、上述した
図22に示した集光リング12に変えて、
図23Aに示した集光リング32や、
図23Bに示した集光器34などを適用してもよい。例えば、
図22に示した集光リング12を、
図23Aに示した集光リング32に変えた場合には、集光リング32の凸部33aに外部磁場ユニット30を設けるようにしてもよい。
【0095】
また、上述した実施形態における磁気記録媒体としては、例えば、磁気テープや、磁気ディスク等の種々の磁気記録媒体を適用してもよい。
【0096】
また、上述した実施形態においては、高い保磁力Hcを有する磁気記録材料として、イプシロン酸化鉄粒子を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば、Srフェライト、Baフェライトなどの六方晶フェライト及びその金属置換体(複数金属置換も含む)、Coフェライト、マグネタイト、マンガン亜鉛フェライト、ニッケル亜鉛フェライト、銅亜鉛フェライトなどのスピネルファイライト及びその金属置換体(複数金属置換も含む)、イットリウム鉄ガーネットなどのガーネットフェライト及びその金属置換体(複数金属置換も含む)、FePt、CoPt、FePdなどの磁性合金及びその金属置換体(複数金属置換も含む)などを磁気記録材料として使用した磁気記録媒体を適用してもよい。
【0097】
なお、上述した実施形態においては、磁気記録媒体に対して、外部磁場の印加と、光の照射とを行う順番として、外部磁場を印加した後に光を集光器に照射する場合と、光を集光器に照射した後に外部磁場を印加する場合とについて説明したが、本発明はこれに限らず、外部磁場の印加と、光の照射とを同時に行ってもよい。
【0098】
上述した実施形態においては、30~300[GHz]のミリ波帯内の光L1を照射し、光L1をミリ波集光リング12で共振させて集光し、ミリ波集光リング12で光の磁場を増強させたミリ波磁場を、外部磁場とともに磁気記録媒体1に印加する場合について、主に説明したが、本発明はこれに限らず、光L1の周波数帯域については特に限定されない。本実施形態では、上述したように、光L1の共振周波数で磁場を増強できる大きさに集光リング12の大きさを選定すれば、当該光L1を集光リング12で共振させて集光し、集光リング12で光の磁場を増強させた増強磁場を、外部磁場とともに磁気記録媒体1に印加することができる。
【0099】
すなわち、20~30[GHz]の準ミリ波帯内の光であっても、当該光を集光リング12で共振させて集光し、集光リング12で光の磁場を増強させた増強磁場(準ミリ波磁場)を、外部磁場とともに磁気記録媒体1に印加することができる。また、300~1000[GHz]のサブテラヘルツ波帯内の光であっても、当該光を集光リング12で共振させて集光し、集光リング12で光の磁場を増強させた増強磁場(サブテラヘルツ波磁場)を、外部磁場とともに磁気記録媒体1に印加することができる。従って、以上のような周波数帯域の光を用いても、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0100】
1 磁気記録媒体
10 記録装置
11,31 外部磁場印加部
12,32 ミリ波集光リング、集光リング(集光器)
13 光照射部
34 集光器