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特許7309136HDL機能改善剤及びHDL機能改善食品組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-07
(45)【発行日】2023-07-18
(54)【発明の名称】HDL機能改善剤及びHDL機能改善食品組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/685 20060101AFI20230710BHJP
   A23L 33/115 20160101ALI20230710BHJP
   A61K 31/683 20060101ALI20230710BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230710BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230710BHJP
【FI】
A61K31/685
A23L33/115
A61K31/683
A61P9/10 101
A61P43/00 105
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017080648
(22)【出願日】2017-04-14
(65)【公開番号】P2018177711
(43)【公開日】2018-11-15
【審査請求日】2020-02-20
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第23回日本未病システム学会学術総会 事務局、第23回日本未病システム学会学術総会抄録集、平成28年10月15日発行 The 1st International Plasmalogen Symposium、平成28年11月7日開催
(73)【特許権者】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】前場 良太
(72)【発明者】
【氏名】原 博
(72)【発明者】
【氏名】西向 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 裕也
(72)【発明者】
【氏名】松田 梢
(72)【発明者】
【氏名】小池 誠治
【合議体】
【審判長】藤原 浩子
【審判官】中西 聡
【審判官】渕野 留香
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-53110(JP,A)
【文献】臨床化学,1981,Vol.10,No.1,p.17~29
【文献】Journal Of Lipid Research,2009,Vol.50,p.574~585
【文献】Chemistry and Physics of Lipids,1995,Vol.76,p.259~267
【文献】Tokyo Jikeikai Medical Journal,1985,Vol.100,p.151~157
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-35/768
A23L5/40-5/49,31/00-33/29
A61P1/00-43/00
CAplus/MEDLINE/REGISTRY/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1-アルキルエーテル型リン脂質を有効成分として含むことを特徴とする、高密度リポタンパク質のコレステロール引き抜き能改善剤。
【請求項2】
1-アルキルエーテル型リン脂質を有効成分として含むことを特徴とする、高密度リポタンパク質のコレステロール引き抜き能改善用食品組成物。
【請求項3】
1-アルキルエーテル型リン脂質を有効成分として含むことを特徴とする、高密度リポタンパク質のコレステロール引き抜き能改善用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度リポタンパク質機能改善剤並びに高密度リポタンパク質機能改善方法に関する。本発明によれば、経口摂取により、高密度リポタンパク質機能、特には高密度リポタンパク質のコレステロール引抜き能を改善することができる。
【背景技術】
【0002】
高密度リポタンパク質(以下、HDLと称することがある)は、体内に存在する余剰なコレステロールを回収して肝臓へ運搬する役割を担うほか、血管壁に沈着したコレステロールを回収してくれることから、動脈硬化の予防にも大きな役割を果たすことが知られている。血中HDLコレステロール値と動脈硬化のリスクは負の相関関係が見られることから、投薬によってHDLを高める検討が行われてきた。例えば、哺乳動物における血清高密度リポタンパク質(HDL)濃度を増大させるために、バイオフラボノイドまたはそれを含有する植物抽出物の使用することが開示されている(特許文献1)。また特許文献2には、システインプロテアーゼインヒビターを有効成分とする低HDL血症改善剤が開示されている。更に、特許文献3には、2-フェニルイミダゾ[1,2-a]ピリジン誘導体、若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とするHDL増加剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2003-501343号公報
【文献】WO2003/033023号パンフレット
【文献】特開2009-196901号公報
【文献】特開2013-53109号公報
【文献】特開2013-53110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、HDLの機能(例えば、コレステロール引抜き能)を向上させる方法については十分検討がなされていない。
従って、本発明の目的は、コレステロール引抜き能などのHDLの機能を改善する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、HDLの機能を改善する方法について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、1-アルキルエーテル型リン脂質の投与によりHDL機能が改善することを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
なお、本発明者らは、1-アルキルエーテル型リン脂質の経口摂取により、血液中のリン脂質結合型ドコサヘキサエン酸(DHA)を増加させることができること(特許文献4)、及び血液中のプラスマローゲンが増加すること(特許文献5)を報告している。しかし、1-アルキルエーテル型リン脂質の経口摂取と、HDL機能との関連は報告されていない。
従って、本発明は、
[1]1-アルキルエーテル型リン脂質を有効成分として含むことを特徴とする、高密度リポタンパク質機能改善剤、
[2]前記高密度リポタンパク質機能が、コレステロール引抜き能である、[1]に記載の高密度リポタンパク質機能改善剤、
[3]1-アルキルエーテル型リン脂質を有効成分として含むことを特徴とする、高密度リポタンパク質機能改善用食品組成物、
[4]前記HDL機能が、コレステロール引抜き能である、[3]に記載の高密度リポタンパク質機能改善用食品組成物、
[5]1-アルキルエーテル型リン脂質を有効成分として含むことを特徴とする、高密度リポタンパク質機能改善用医薬組成物、及び
[6]前記HDL機能が、コレステロール引抜き能である、[5]に記載の高密度リポタンパク質機能改善用医薬組成物、
に関する。
本明細書は、
[7]1-アルキルエーテル型リン脂質を有効量で投与することを含む、高密度リポタンパク質機能の改善方法、及び
[8]前記高密度リポタンパク質機能が、コレステロール引抜き能である[7]に記載の高密度リポタンパク質機能の改善方法、
を開示する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のHDL機能改善剤によれば、HDL機能、特にはHDLのコレステロールの引抜き能を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】1-アルキルエーテル型リン脂質の投与により、HDLのマクロファージからのコレステロール引抜き能が向上したことを示す図である。
図2】コリンプラスマローゲン又はエタノールアミンプラスマローゲンを添加した再構成HDLのコレステロール引抜き能を測定したグラフである。
図3】コリンプラスマローゲン又はエタノールアミンプラスマローゲンを添加したヒトの再構成HDL(PlsCho(1.316mM)付加ヒトHDL、PlsCho(0.658mM)付加ヒトHDL、PlsEtn(0.658mM)付加ヒトHDL)のコレステロール引抜き能を測定したグラフである。
図4】本発明のHDL機能改善剤を投与したラットの血液中の血液共役ジエン(酸化ストレスマーカー)の改善を示したグラフである。
図5】本発明のHDL機能改善剤を投与したラットの血液中の血中冠動脈障害マーカー(sICAM-1、von Willebrand factor)の改善を示したグラフである。
図6】本発明のHDL機能改善剤を投与したラットにおいて、リポポリサッカライド(LPS)により誘導される炎症が抑制されることを示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[1]HDL機能改善剤
本発明の高密度リポタンパク質機能改善剤は、1-アルキルエーテル型リン脂質を有効成分として含む。本発明の高密度リポタンパク質機能改善剤は、血液中の高密度リポタンパク質中のプラスマローゲン量を増加させることができる。本発明の高密度リポタンパク質機能改善剤は、高密度リポタンパク質の機能を向上させることができる。
【0009】
《高密度リポタンパク質》
高密度リポタンパク質とは、脂質とアポリポタンパク質とが結合したリポタンパク質のうち、高密度のリポタンパク質を意味する。高密度リポタンパク質の密度は、1.063~1.21g/mLである。
リポタンパク質は、比重の重さによって高密度リポタンパク質(HDL:高比重リポタンパク質)、低密度リポタンパク質(LDL:低比重リポタンパク質)、超低密度リポタンパク質(VLDL:超低比重リポタンパク)及びカイロミクロンに分けられる。高密度アポリポタンパク質は、アポリポタンパク質の割合が多い。
前記4種のリポタンパク質のうち、HDLがコレステロールを組織から肝臓に運び、そしてLDLがコレステロールを肝臓から組織に運んでいる。HDLに運ばれているコレステロールをHDLコレステロールと称し、LDLに運ばれているコレステロールをLDLコレステロールと称する。
【0010】
前記高密度リポタンパク質を構成するアポリポタンパク質としては、限定されるものではないが、アポリポプロテインA-I(以下、apoA-Iと称することがある)、及びアポリポプロテインA-II(以下、apoA-IIと称することがある)、アポリポプロテインA-VI、アポリポプロテインA-V、アポリポプロテインC-I、アポリポプロテインC-II、アポリポプロテインC-III、アポリポプロテインC-IV、アポリポプロテインC-II、アポリポプロテインC-III、アポリポプロテインC-IV、アポリポプロテインD、アポリポプロテインE、アポリポプロテインF、アポリポプロテインH、アポリポプロテインJ、アポリポプロテインL-I、及びアポリポプロテインMを挙げることができる。
高密度リポタンパク質を構成する脂質としては、ジアシル型リン脂質、プラスマローゲン、1-アルキルエーテル型リン脂質、コレステロール、コレステロールエステル、リゾレシチン(リゾホスファチジルコリン)、トリアシルグリセロール(中性脂肪)、ジアシルグリセロール、モノアシルグリセロール、スフィンゴミエリン、リゾスフィンゴ脂質、グリコスフィンゴ脂質、ガングリオシド、サルファタイド、及び遊離脂肪酸を挙げることができる。
【0011】
(HDL機能)
HDLの機能は、特に限定されるものではないが、例えばマクロファージからのコレステロール引抜き能、抗酸化能、抗炎症作用、又は内皮細胞を保護する作用を挙げることができる。
体内の過剰なコレステロールを肝臓に回収して胆汁として体外に排泄するまでの一連の流れをコレステロール逆転送系といい、HDLはこの系におけるコレステロールの運搬役として機能する。コレステロール逆転送系での最初で最重要なステップは、動脈硬化の要因となる過剰なコレステロールを溜め込んだマクロファージ細胞からのHDL粒子によるコレステロールの引抜きである。コレステロールの引渡しや受取りに関わる細胞側のトランスポーターについてはいろいろ研究が進んでいるが、HDL粒子の如何なる成分がコレステロールの引抜き能に影響を与えているかはまだよくわかっていないが、本発明の高密度リポタンパク質機能改善剤は、マクロファージ細胞からのHDL粒子によるコレステロールの引抜き能を向上させることができる。
【0012】
コレステロール引抜き能は、例えば、以下の方法によって測定することができる。
マウスマクロファージ様株化細胞J774.1を5%CO、37℃で16時間培養後、放射性トリチウム標識コレステロール([3H]-cholesterol;PerkinElmer)及びアシルコエンザイムA、コレステロールアシルトランスフェラーゼインヒビターを添加し、24時間培養する。ACATインヒビターを含むDMEM培地に交換後、検査されるHDLを添加し、4時間培養する。培養後の上清の一部を採取し、液体シンチレーションカウンターで放射活性を測定することによってHDLのコレステロール引抜き能(%CH efflux)を算出できる。
【0013】
HDLの抗酸化能は、活性酸素種(フリーラジカル)を消去することで低密度リポタンパク質(LDL)や細胞膜の酸化を防御する能力に加え、動脈硬化惹起性を有する酸化LDLから過酸化脂質(LOOH)を受け取り、これを還元して無毒のハイドロキシ体(LOH)に変換する能力などにより評価される。また、In vivoでは血中の酸化物の減少で抗酸化能を評価することもできる。
HDLの抗炎症作用は、接着因子(VCAM-1,ICAM-1,E-selectin)の発現阻止による血管内皮への単球の接着を抑制する能力、走化因子(MCP-1)の発現阻止による血管内皮下への単球の浸潤を抑制する能力、単球からの炎症性サイトカイン(TNFα,IL-1β,IL-6など)の分泌を抑制する能力などで評価される。また、In vivoではリポポリサッカライド(LPS)などの炎症惹起物質の投与により誘導される炎症をどの程度抑制できるかで評価することもできる。興味深いことに、HDLが示すこれらの抗炎症作用の主要なメカニズムは、HDLの細胞膜からのコレステロールなどの引抜きに基づくと考えられている。
HDLの細胞保護作用は、マクロファージと血管内皮細胞において認められ、酸化LDLや遊離コレステロール、TNFα、あるいは成長因子の枯渇などによって誘導される細胞の傷害やアポトーシスをHDLが阻止する能力などで評価される。マクロファージのアポトーシス阻止作用のメカニズムとして、細胞内に生じた酸化コレステロールをHDLが引き抜くことによると考えられている。また、HDLには血管内皮機能を保護する能力があり、これは血管弛緩因子合成酵素(eNOS)の発現を活性化することによる。また、In vivoでは血中の血管傷害マーカーの減少で評価することもできる。
以上、HDLが示す多様な抗動脈硬化作用の幾つかは、そのメカニズムにコレステロール引抜き作用が関係している。
【0014】
1-アルキルエーテル型リン脂質は、一般式(I)
【化1】
[式中、Rは、炭素数1から21の炭化水素基であり、Rは、炭素数1~26の脂肪酸残基、または水素原子であり、Rはコリン(-CHCHN(CH)、エタノールアミン(-CHCHNH)、セリン(-CH-CH(NH)-COOH)、グリセロール(-CH-CH(OH)-CHOH)、イノシトール(-CH-C(OH))、又は水素原子である]
で表される化合物である。
前記Rの炭化水素基は、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えばアルキル基、又はアルケニル基であり、具体的にはペンタデシル基、ヘプタデシル基、又はヘプタデセル鎖基を挙げることができる。なお、本明細書において、「sn-1位の脂肪酸残基」とは、脂肪酸からカルボキシル基(-COOH)を除いたものを意味し、具体的には一般式(1)のRとエーテル基の炭素を含む「-CH-R」を意味し、16:0、18:0、又は18:1(炭素数:不飽和結合数)などと表記する。
また、前記Rの肪酸残基としては、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えばパルミトイル基、オレイル基、アラキドイル基、又はドコサヘキサエノイル基等を挙げることができる。なお、本明細書において、sn-2位の脂肪酸残基とは、脂肪酸から-OHを除いたものを意味し、16:0、18:1、20:4、又は22:6(炭素数:不飽和結合数)などと表記する。また、本明細書において、「sn-2位のアシル基」とは、脂肪酸からカルボキシル基の水素原子(-H)を除いた基を意味する。
【0015】
(1-アルキルエーテル型リン脂質の化学合成)
本発明に用いることのできる1-アルキルエーテル型リン脂質は、グリセリンを1-アルキルエーテルグリセロールに変換し、エステル化やリン酸化を行うことにより、化学合成することも可能であり、化学合成の1-アルキルエーテル型リン脂質を用いることも可能である。
【0016】
(1-アルキルエーテル型リン脂質の製造原料)
本発明に用いることのできる1-アルキルエーテル型リン脂質は、天然物から抽出及び分離したものでもよい。天然物としては、エーテル型リン脂質中の1-アルキルエーテル型リン脂質含量が50%以上である天然物を使用することが好ましく、より好ましくは80%以上、更に好ましくは95%以上である天然物を使用することが好ましい。
【0017】
1-アルキルエーテル型リン脂質を抽出、分離する天然物としては、一般的に1-アルキルエーテル型リン脂質含量が高いことが知られている各種の動物、植物、微生物、例えば、マグロ、イワシなどの魚類、ホタテ、カキ、ムール貝などの貝類、タコ、イカなどの頭足類、エビ、フジツボ、オキアミ、カラヌスなどの甲殻類、ウシ、ブタ、ニワトリなどの家禽動物などの、その個体そのもの、その筋肉組織や、脂肪組織、あるいは脳などの神経組織、腸などの内臓組織、更にはその卵などを使用することができる。なかでも本発明では、エーテル型リン脂質中の1-アルキルエーテル型リン脂質含量が高くプラスマローゲン含量が極めて少ない、すなわち、エーテル型リン脂質中の1-アルキルエーテル型リン脂質含量比が高い天然物であること、更には、組織を分離することなく生体そのものを直接抽出源とすることができ、資源量が豊富であり、入手が容易であることに加え、更にはアスタキサンチンを含有することから保存安定性が良好であることから、オキアミを用いることが特に好ましい。
【0018】
(1-アルキルエーテル型リン脂質の抽出方法)
本発明のHDL機能改善剤では、これら各種動物、植物、微生物から、溶剤抽出などによって抽出された、エーテル型リン脂質含有脂質、更には、必要に応じて、前記脂質から液々抽出やカラムクロマトグラフィー、酵素処理などでリン脂質を分離した、リン脂質画分や、更にエーテル型リン脂質を濃縮した濃縮物、また、更に精製した、精製エーテル型リン脂質を使用することができる。
前記各種動物、植物、微生物等の組織からの抽出方法としては、Folch法(Folch et al.:J. Biol. Chem., 226, 497-505, 1957)、Bligh & Dyer法(Bligh et al.:Can. J. Biochem. Physiol., 37, 911-917, 1959)、あるいは安全性の高い有機溶媒であるヘキサンや低級アルコールを用いた混合溶媒を用いる方法(Hara et al.:Anal. Biochem., 90(1):420-6,1978、特開2005-179340)、また、安全性が高く、かつ液液抽出の界面分離性が優れるヘキサンとエタノールの混合溶媒を用いる方法(特開2009-227765)などがある。また、抽出効率を高めるために、前記動物組織を脱水処理したものを用いてもよい。
【0019】
また、前記分離方法としては、アセトン沈殿法(山川民夫監修:生化学実験講座3,脂質の化学(日本生化学会編),p.19-20,1963,東京化学同人)、カラムクロマトグラフィー法(James et al.:Lipids, 23, 1146-1149, 1988)等によるトリグリセリドや部分グリセリドを除去し、エーテル型リン脂質を含むリン脂質画分のみを分離精製することができる。
【0020】
更に、前記濃縮方法としては、弱アルカリ処理(Hanahan et al.:J. Biol. Chem. 236, 59-60, 1961)、あるいは哺乳動物膵臓由来リパーゼ又は微生物由来のホスホリパーゼA1処理によるジアシル型リン脂質の分解(Woelk et al.:Z Physiol. Chem. 354, 1265-70, 1973)の方法を用いて、エーテル型リン脂質以外のリン脂質を除去することでエーテル型リン脂質を濃縮することができる。
【0021】
ホスホリパーゼA1を用いて濃縮する場合、具体的には、エーテル型リン脂質含有脂質に対し、ホスホリパーゼA1、好ましくはActinomadura sp.由来のホスホリパーゼA1を添加し、好ましくは少量のジエチルエーテルと弱酸性緩衝液下で、分解反応させ、分解生成物を親水性溶媒と疎水性溶媒の混合溶媒、例えば、ヘキサン/エタノール混合溶媒により再抽出することで得ることができる。
【0022】
更に詳しく述べると、エーテル型リン脂質含有脂質1gにホスホリパーゼA1を0.1~2.0U、酢酸緩衝液pH5.0~6.0を2~20%、好ましくは5~10%添加し、30~60℃で、2~100時間、攪拌しながら分解反応させる。反応溶液にヘキサン/エタノール/水の混合溶媒、例えばヘキサン65~90に対し、エタノール5~20、水4~10、好ましくはヘキサン75~85、エタノール10~18、水5~8の比の混合溶媒を加えて再抽出することで、ホスホリパーゼA1反応で生じた1-リゾリン脂質は下層の水層に、エーテル型リン脂質は上層のヘキサン層に分離することができる。ここで、上層のヘキサン層を分取し、定法によりヘキサンを除去することで、エーテル型リン脂質以外のリン脂質を除去し、エーテル型リン脂質のみを濃縮することができる。
なお、前記エーテル型リン脂質の濃縮の前又は後、好ましくは後に、トリグリセリドに代表される中性脂質を分画除去し、エーテル型リン脂質含有リン脂質とすることが好ましい。この中性脂質の除去方法としては、アセトン沈殿法やカラムクロマトグラフィーなどの公知の方法を採ることができる。
【0023】
更には、シリカゲルクロマトグラフィーによってsn-3位の塩基の種類別に濃縮することも可能である。例えば、シリカゲルをヘキサン/エタノール混合溶媒、好ましくは95:5~60:40の混合溶媒で充填したカラムに、エーテル型リン脂質含有脂質やエーテル型リン脂質含有リン脂質を充填し、同溶媒をカラム体積の2~8倍量通液させて中性脂質を溶出させた後、ヘキサン/エタノール混合溶媒、好ましくは5:95~0:100、あるいはエタノール/水の混合溶媒、好ましくは100:0~95:5をカラム体積の6~15倍量通液させることにより、エタノールアミン型やホスファチジン酸型を分画することができ、続いてエタノール/水の混合溶媒、好ましくは90:10~70:30をカラム体積の8~20倍量通液させることにより、コリン型を分画することができる。
【0024】
また、本発明のHDL機能改善剤における1-アルキルエーテル型リン脂質含有量は、好ましくは2~100%、より好ましくは5~100%、更に好ましくは50~100%である。また、1-アルキルエーテル型リン脂質を有効成分として含有する本発明のHDL機能改善剤は、1-アルキルエーテル型リン脂質以外のリン脂質、例えばプラスマローゲンを含むこともできるが、プラスマローゲンは1-アルキルエーテル型リン脂質よりも酸化されやすく保存安定性が極めて低いため、本発明のHDL機能改善剤に含むことのできるエーテル型リン脂質の全量に対する1-アルキルエーテル型リン脂質の比率は、1-アルキルエーテル型リン脂質が60%以上であり、好ましくは80%以上であり、最も好ましくは90%以上である。
【0025】
(その他の脂質)
なお、前記エーテル型リン脂質含有脂質や前記エーテル型リン脂質含有リン脂質の、エーテル型リン脂質以外のその他の脂質はジアシル型リン脂質、糖脂質、スフィンゴ脂質、中性脂質などからなる。
【0026】
(その他の成分)
本発明のHDL機能改善剤では、前記以外のその他の成分を含有することができる。前記その他の成分としては、例えば、食用油脂、水、グリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤、ローカストビーンガム、カラギーナン、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、又は化工澱粉等の増粘安定剤、食塩、又は塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、又はグルコン酸等の酸味料、糖類又は糖アルコール類、ステビア、又はアスパルテーム等の甘味料、ベータカロチン、カラメル、又は紅麹色素等の着色料、トコフェロール、又は茶抽出物等の酸化防止剤、着香料、pH調整剤、食品保存料、又は日持ち向上剤等の食品素材や食品添加物を挙げることができる。また、各種ビタミンやコエンザイムQ、植物ステロール、又は乳脂坊球皮膜等の機能素材を含有させることも可能である。
これらのその他の成分の含有量は、本発明のHDL機能改善剤中、合計で好ましくは80質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは20質量%以下とする。
【0027】
また、本発明のHDL機能改善剤は、広範な各種飲食品や医薬組成物に配合・添加することができ、その摂取量としては、成人の場合、エーテル型リン脂質として1日あたり、好ましくは100mg~40g、より好ましくは200mg~20gを摂取することが望ましい。
【0028】
本発明の高密度リポタンパク質機能改善剤は、血液中のHDL中のプラスマローゲン量を増加させることによって、HDLの機能を改善することができる。
HDL中の脂質としては、前記の通りジアシル型リン脂質、プラスマローゲン、1-アルキルエーテル型リン脂質、及びコレステロールを挙げることができる。プラスマローゲンは一般式(II)
【化2】
[式中、Rは、炭素数1から20のアルキル基であり、Rは、炭素数6~26の脂肪酸残基であり、Xは、コリン、エタノールアミン、セリン、イノシトールから選択される極性基である]
で表される化合物である。
前記炭素数1から20のアルキル基としては、具体的には、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等を挙げることができる。また、前記炭素数6~26の脂肪酸残基としては、具体的には、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸等を挙げることができる。
【0029】
高密度リポタンパク質機能改善剤が増加させることのできるプラスマローゲンは、特に限定されるものではなく、コリン型プラスマローゲン、及びエタノールアミン型プラスマローゲンを挙げることができる。HDL中のコリン型プラスマローゲン量、及びエタノールアミン型プラスマローゲン量が増加することによって、HDLの機能、例えばコレステロール引抜き能を向上させることができる。
【0030】
本発明のHDL機能改善剤は、マクロファージからのコレステロール引抜き能を改善することができる
【0031】
[2]HDL機能改善用食品組成物
本発明のHDL機能改善用食品組成物は、1-アルキルエーテル型リン脂質を有効成分として含む。本発明のHDL機能改善用食品組成物に含まれる1-アルキルエーテル型リン脂質は、前記「HDL機能改善剤」の項に記載の1-アルキルエーテル型リン脂質を制限なく使用することができる。本発明のHDL機能改善用食品組成物は、前記「HDL機能改善剤」の項に記載の高密度リポタンパク質の機能を改善することができる。また、本発明のHDL機能改善用食品組成物は、前記「HDL機能改善剤」の項に記載のように、HDL中のプラスマローゲン量を増加させることができる。
【0032】
本発明の食品組成物は、1-アルキルエーテル型リン脂質を有効成分として含有する。また、本発明の食品組成物は、前記の1-アルキルエーテル型リン脂質を有効成分として含有するHDL機能改善剤を含有することもできる。
本発明の食品組成物における、1-アルキルエーテル型リン脂質の含有量は、使用する食品組成物により異なるが、成人の場合、1-アルキルエーテル型リン脂質として1日当たり100mg~40g、より好ましくは200mg~20g摂取できる量のHDL機能改善剤を飲食物中に含有できればよい。具体的には、食品組成物中0.1~100質量%であることが好ましい。
【0033】
なお、本発明における食品組成物としては、特に限定されるものではなく、例えば味噌、醤油、めんつゆ、たれ、だし、パスタソース、ドレッシング、マヨネーズ、トマトケチャップ、ウスターソース、とんかつソース、又はふりかけ等の調味料、お吸い物の素、カレールウ、ホワイトソース、お茶漬けの素、又はスープの素等の即席調理食品、味噌汁、お吸い物、コンソメスープ、又はポタージュスープ等のスープ類、焼肉、ハム、又はソーセージ等の畜産加工品、かまぼこ、干物、塩辛、佃煮、又は珍味等の水産加工品、漬物等の野菜加工品、ポテトチップス、又は煎餅等のスナック類、食パン、菓子パン、又はクッキー等のベーカリー食品類、煮物、揚げ物、焼き物、カレー、シチュー、グラタン、ごはん、おかゆ、又はおにぎり等の調理食品、パスタ、うどん、又はラーメン等の麺類食品、マーガリン、ショートニング、ファットスプレッド、又は風味ファットスプレッド等の油脂加工食品、フラワーペースト、又は餡等の製菓製パン用素材、パン用ミックス粉、ケーキ用ミックス粉、又はフライ食品用ミックス粉等のミックス粉、チョコレート、キャンディ、ゼリー、アイスクリーム、又はガム等の菓子類、饅頭、又はカステラ等の和菓子類、コーヒー、コーヒー牛乳、紅茶、ミルクティー、豆乳、栄養ドリンク、野菜飲料、食酢飲料、ジュース、コーラ、ミネラルウォーター、又はスポーツドリンク等の飲料、ビール、ワイン、カクテル、又はサワー等のアルコール飲料類、牛乳、ヨーグルト、又はチーズ等の乳や乳製品等が挙げられる。
【0034】
本発明のエーテル型リン脂質を含有する食品組成物は、1-アルキルエーテル型リン脂質を原料として含むこと以外は、公知の食品組成物の製造方法を用いて製造することができる。
【0035】
本発明の食品組成物は、1-アルキルエーテル型リン脂質を含有することにより、血液中のHDLの機能を改善させることが可能であり、機能性食品又は健康食品(飲料も含む)として用いることができる。また動物には、飼料として与えることができる。1-アルキルエーテル型リン脂質を有効成分として含有する本発明の食品組成物を、機能性食品又は健康食品として使用する場合、前記のHDL機能改善剤に記載のように、例えば、オキアミから分離した1-アルキルエーテル型リン脂質を含むことが好ましい。
【0036】
[3]HDL機能改善用医薬組成物
本発明のHDL機能改善用医薬組成物は、1-アルキルエーテル型リン脂質を有効成分として含む。本発明のHDL機能改善用医薬組成物に含まれる1-アルキルエーテル型リン脂質は、前記「HDL機能改善剤」の項に記載の1-アルキルエーテル型リン脂質を制限なく使用することができる。本発明のHDL機能改善用医薬組成物は、前記「HDL機能改善剤」の項に記載の高密度リポタンパク質の機能を改善することができる。また、本発明のHDL機能改善用医薬組成物は、前記「HDL機能改善剤」の項に記載のように、HDL中のプラスマローゲン量を増加させることができる。
【0037】
医薬組成物は、1-アルキルエーテル型リン脂質を有効成分として含有するため、血液中のHDLの機能を改善させることが可能である。前記の1-アルキルエーテル型リン脂質を有効成分として含有するHDL機能改善剤を使用することもできる。
医薬組成物における、本発明のHDL機能改善剤の含有量は、使用する医薬組成物により異なるが、成人の場合、1-アルキルエーテル型リン脂質として1日当たり100mg~40g、より好ましくは200mg~20g摂取できる量のHDL機能改善剤を医薬組成物中に含有できればよい。具体的には、1-アルキルエーテル型リン脂質は医薬組成物中、0.1~100質量%であることが好ましく、0.5~99質量%であることが好ましく、1~80質量%であることが最も好ましい。
医薬組成物は、1-アルキルエーテル型リン脂質を単独で、あるいは、好ましくは薬剤学的又は獣医学的に許容することができる通常の担体又は希釈剤とともに、HDL機能の低下又は消失に起因する疾患の治療及び/又は予防が必要な対象[例えば、動物、好ましくは哺乳動物(特にヒト)]に有効量で投与することができる。
医薬組成物は、HDL機能を改善させることのできる物質を含むこともできる。
【0038】
医薬組成物の投与剤型としては、特に限定がなく、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁剤、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、若しくは丸剤等の経口剤、又は注射剤、外用液剤、軟膏剤、坐剤、局所投与のクリーム、若しくは点眼剤などの非経口剤を挙げることができるが、経口剤が好ましい。
【0039】
経口剤は、例えば、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ブドウ糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリデン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、又は合成ケイ酸アルミニウムなどの賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、又は酸化防止剤等を用いて、常法に従って製造することができる。
【0040】
医薬組成物を用いる場合の投与量は、例えば、使用する有効成分の種類、病気の種類、患者の年齢、性別、体重、生上の程度、又は投与方法に応じて適宜決定することができ、経口的に又は非経口的に投与することが可能である。
更に、投与形態も医薬品に限定されるものではなく、種々の形態、例えば、機能性食品や健康食品(飲料も含む)、又は飼料として飲食物の形態で与えることも可能である。
本発明のHDL機能改善剤を含有する医薬組成物の製造方法は、前記にエーテル型リン脂質を有効成分として含むこと以外は、公知の医薬品の製造方法を用いて製造することができる。
【0041】
前記医薬組成物は、1-アルキルエーテル型リン脂質を含有することにより、血液中においてHDLの機能を改善することが可能である。なお、1-アルキルエーテル型リン脂質を有効成分として使用する場合、前記のように、例えば、オキアミから分離した1-アルキルエーテル型リン脂質を含むことが好ましい。
【実施例
【0042】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお、以下本実施例において、「1-アルキルエーテル型リン脂質」を単に「アルキルリン脂質」「アルキル型リン脂質」という場合がある。また、コレステロールを「CH」と略す場合がある。
【0043】
《製造例1:1-アルキルエーテル型リン脂質の製造》
ヘキサン/エタノール(60:40)の混合溶媒108Lに、冷凍ボイルオキアミの捏練品(オキアミCPM-MD、ADEKAファインフーズ)30kgを加えた。10分間攪拌後に、ろ液の上層(ヘキサン層)を脂質抽出液として回収した。さらに、ろ液下層及びろ過残渣にヘキサン65Lを加え、10分間攪拌後に、同様に脂質を含む抽出液を回収した。更に、同じ操作を繰り返して、脂質抽出液を回収した。得られた抽出液を混合し、エバポレーターを使用して溶媒を除去した。1-アルキルエーテル型リン脂質含有脂質として、1.1kgのオキアミ油を得た。
LecitaseUltra(Novozymes)50kUを、48mLのジエチルエーテル及び102.5mLの0.2M酢酸緩衝液(pH5.0)の混合液に混濁した。上記オキアミ油1kgに、前記混合液に混濁したLecitaseUltraを加え、40℃で70時間攪拌することにより反応させた。さらに48%NaOH水溶液2.1mLを添加して、30分反応させた。6N塩酸溶液を4mL添加して中和後、これに9Lのヘキサン/エタノール/水(80:14:6)の混合液を添加した。混合液を10分間攪拌し、上層を回収した。残った下層に、ヘキサン7Lを加え、10分間攪拌して、上層を回収した。更に、同様の操作を繰り返し、上層を回収した。得られた抽出液を合わせて、混合溶媒をエバポレーターによって除去し、975gの残渣を得た。
得られた残渣分200gを300mLのヘキサン/エタノール(80:20)の混合液に溶解した。同混合溶媒でけん濁したシリカゲル(Wakosil200)400gを充填したガラスカラム(100cm×3cm)に、前記溶解液を添加した。同混合溶媒を4L通液させて中性脂質を溶出した。その後、エタノール8Lを通液させてエタノールアミンリン脂質を溶出させた。次にエタノール/水(80:20)の混合溶媒11Lを通液させてコリンリン脂質を溶出させた。溶出液をエバポレーターで濃縮し、2.5gのアルキルエーテル型リン脂質含有脂質画分を得た。
(アルキルエーテル型リン脂質画分に含まれる1-アルキルエーテル型リン脂質:95質量%)
【0044】
《実施例1及び比較例1》
C57BL/6Jマウス(オス、6~8週齢)を2群(1群4匹)に分け、飼料及び水を自由に摂取させた。飼料はAIN93Gに準じた精製飼料(基本飼料:大豆油7%を含む)を用いた。なお、基本飼料は毎日交換した。前記条件で5日間飼育した後、対照群(比較例1)には基本飼料の自由摂取に加え、大豆油を1日に一回、100μLをゾンデで強制投与し、アルキル型リン脂質摂取群(実施例1)には、製造例1で作成したアルキル型リン脂質含有脂質を大豆油に4%対重量比で混合した油脂を同様に強制投与した。
2週間の投与後、マウスを炭酸ガス吸入により安楽死させ、速やかに開胸し下大静脈から全採血(約400uL)した。各マウスから採取した血液に凝固促進剤(コアグラントワコー;和光純薬工業(株))を加え、遠心分離により血清を採取した。
【0045】
得られた血清100μLに20% ポリエチレングリコール(PEG; average mol wt 8,000, Sigma-Aldrich)-200mMグリシンバッファー(pH7.4)を40μL加え室温で20分間放置後に、高速遠心(10,000rpm,30min,4℃)により上清を得た。この上清を微量透析モジュール(35KD cut-off)に入れ、PBSに対して4℃で十分に透析した。回収した内容物を滅菌フィルターでろ過し(場合によっては滅菌状態で4℃にて保存する)、コレステロール引抜き実験に使用した。
【0046】
《コレステロール引抜き試験》
継代培養(継代数10以下を使用)しているマウスマクロファージ様株化細胞J774.1を1×10cells/500μL-10%FBS-RPMI培地/well-24plateに蒔種し、5%CO、37℃で16時間培養後、培地を500μLの1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含む1%FBS-RPMI培地に交換し、これに放射性トリチウム標識コレステロール([3H]-cholesterol; PerkinElmer)1μCiとacyl-coenzyme A:cholesterol acyltransferase inhibitor(ACAT inhibitor; Sigma-Aldrich)1μgを添加し、同条件で24時間培養した。培養後、0.2%BSA-PBSで細胞を2回洗浄し、1μgのACATインヒビターを含む500μLのDMEM培地に交換後、マウスから得たHDLを7μL添加し、同条件で4時間培養した。また、同時に未添加のものを同様に培養した。これらの培養は各トリプリケート(3well)で実施した。培養後の上清の一部を採取し、液体シンチレーションカウンターで放射活性を測定した。また、培養上清を除いた後の細胞に400μLの0.3N NaOHを加え、溶解した細胞液の一部を採取し、液体シンチレーションカウンターで放射活性を測定した。これらの測定値から以下の式によりHDLのコレステロール引抜き能(%CH efflux)を算出した。
{[HDL添加の培地の放射活性]-[未添加の培地の放射活性]}/[培地と細胞を合わせた全放射活性]
図1に示すように、1-アルキルエーテル型リン脂質の投与により、HDLのマクロファージからのコレステロール引抜き能が向上した。
【0047】
《プラスナローゲン量の分析》
前記実施例1及び比較例1で得られたHDL中のプラスマローゲン量は、Bligh- Dyer法により抽出した脂質のLC-MS/MS分析により求めた。
表1に分析結果を示す。アルキルリン脂質を投与したマウス(実施例1)から採取したHDL中のエタノールアミン・プラスマローゲン(PlsEtn)およびエタノールアミン・アルキルリン脂質(PakEtn)量は、対照コントロール群として大豆油を投与したマウス(比較例1)から採取したHDLに比べて有意に増加した。
【0048】
【表1】
【0049】
《本発明のメカニズム》
HDLの主要アポリポタンパク質であるapo A1とリン脂質(PL)から成る再構成HDLを作成し、リン脂質組成とコレステロール引抜き能との関係を調べた。
再構成HDLのリン脂質として、1-パルミトイル-2-オレオイルコリンリン脂質(POPC)に、ウシ心臓由来コリンプラスマローゲン、又はウシ心臓由来エタノールアミンプラスマローゲンリン脂質を加えた場合の、コレステロール引抜き能への影響を検討した。
【0050】
《参考製造例1》
プラスマローゲンの含有比が高い動物組織として、ウシの心臓からプラスマローゲンを精製した。
ウシ心臓から筋肉部分1kg(水分含有量80質量%)を切り出し、ホモジナイザーを用いてペースト状にした組織に、ヘキサン:エタノール=60:40の混合溶媒4Lを加え、10分間攪拌した。その後、吸引濾過により得たろ液の上層であるヘキサン層を脂質抽出液として回収した。続いて、ろ液下層と濾過残渣を合わせ、それに新たにヘキサン2.4Lを加え、10分間攪拌して脂質画分を再抽出後、上記同様に抽出液を回収した。この操作を再度繰り返し、回収したすべての抽出液をエバポレーターを使用して溶媒を除去し、ウシ心臓抽出脂質30gを得た。
これにジエチルエーテル96mL及び0.2M酢酸緩衝液(pH5.0)3mLに混濁させたLecitaseUltra(Novozymes)100kUを添加し、40℃で6時間攪拌した。反応溶液にヘキサン/エタノール/水(80:14:6)270mLを添加し、10分攪拌混合後、上層を採取した。続いて、下層に新たにヘキサン2.16Lを加え、10分間攪拌して、同様に脂質画分を回収した。この操作を再度繰り返し、回収したすべての抽出液をエバポレーターを使用して溶媒を除去し、プラスマローゲン濃縮脂質28gを得た。
これをヘキサン/エタノール=80:20の混合溶媒300mLに溶解し、同混合溶媒でけん濁したシリカゲル(Wakosil200)200gを充填したガラスカラム(100cm×3cm)に添加した。同混合溶媒を2L通液させて中性脂質を溶出した後、エタノール4Lを通液させてエタノールアミンプラスマローゲンを主成分とするリン脂質を溶出させた。更にエタノール/水=80:20の混合溶媒6Lを通液させてコリンプラスマローゲンを主成分とするリン脂質を溶出させた。
得られた各溶出液をエバポレーターで溶剤を除去して、エタノールアミン型プラスマローゲン(PlsEtn)1.9g、およびコリンプラスマローゲン(PlsCho)3.1gを得た。
【0051】
得られた脂質の含量を測定した結果を表2に記載した。また、各脂質残基の組成について 1,2位それぞれ分析した割合を表3に記載した。(ただし、不飽和度はビニルエーテル基以外のものを示す)
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
《参考製造例2》
クロロホルムに溶解したPOPC(320nmol)およびコレステロール(CH:32nmol)をガラスミニバイアルに採取し、溶媒(クロロホルム)をNガスで蒸留後、500mM NaCl-01mM EDTA-Tris-HCl(pH8.0)50μLを加えて懸濁したら、氷中で1時間静置する。これに、Na-cholate640nmolを含む同緩衝液40μLを加え、10分ごとに透明になるまでボルテックスする。これに、apoA1(ペプロテック、Human Recombinant)8nmolを含む同緩衝液10μLを加えて、氷中で1時間インキュベートする。これを微量透析モジュール(35KD cut-off)に入れ、同緩衝液に対して4℃で十分に透析する。回収した内容物(100μL)を滅菌フィルターでろ過し、実験に使用する(場合によっては滅菌状態で4℃にて保存する)。以上の操作により、apo A1とPOPCから成る再構成HDLを作成した。
【0055】
《参考製造例3》
クロロホルムに溶解したPOPC(288nmol)、PlsCho(32nmol)およびCH(32nmol)をガラスミニバイアルに採取し、参考製造例2と同様の方法で、リン脂質の1割がPlsCho(残り9割はPOPC)から成る再構成HDLを作成した。
【0056】
《参考製造例4》
クロロホルムに溶解したPOPC(288nmol)、PlsEtn(32nmol)およびCH(32nmol)をガラスミニバイアルに採取し、参考製造例2と同様の方法で、リン脂質の1割がPlsEtn(残り9割はPOPC)から成る再構成HDLを作成した。
【0057】
《コレステロール引抜き試験》
参考製造例2~4で製造した再構成HDLを、前記コレステロール引抜き試験に従って、コレステロール引抜き能を測定した。再構成HDLは、3μL又は6μL添加した。結果を図2に示す。
再構成HDLのリン脂質としてプラスマローゲンを加えることで統計的有意にコレステロールの引抜き能(%CH efflux)が増加した。
【0058】
以下の参考製造例では、ヒトの再構成HDLを用いて、コレステロール引抜き能を測定した。
《参考製造例5》
健常者から採取した血清100μLに20%ポリエチレングリコール(PEG; average mol wt 8,000, Sigma-Aldrich)-200mMグリシンバッファー(pH7.4)を40μL加え室温で20分間放置後に、高速遠心(10,000rpm,30min,4℃)により上清を得た。この上清を微量透析モジュール(35KD cut-off)に入れ、PBSに対して4℃で十分に透析した。回収した内容物を滅菌フィルターでろ過し(場合によっては滅菌状態で4℃にて保存する)、コントロールヒトHDLとしてコレステロール引抜き実験に使用した。
【0059】
《参考製造例6》
クロロホルムに溶解したPlsCho(1316nmol)をガラスミニバイアルに採取し、溶媒(クロロホルム)をNガスで蒸留後、50μLのNa-cholate(2630nmol)を含む500mM NaCl-01mM EDTA-Tris-HCl(pH8.0)を加え、超音波処理(氷中、1分間)により脂質エマルジョンを調製した。健常者から採取した血清100μLに脂質エマルジョン5μLを加え混合後、これに40μLの20%PEG-200mMグリシンバッファー(pH7.4)を加え、室温で20分間放置した後に、高速遠心(10,000rpm,30min,4℃)により上清を得た。この上清を微量透析モジュール(35KD cut-off)に入れ、PBSに対して4℃で十分に透析した。回収した内容物を滅菌フィルターでろ過し(場合によっては滅菌状態で4℃にて保存する)、PlsCho(1.316mM)付加ヒトHDLとしてコレステロール引抜き実験に使用した。
【0060】
《参考製造例7》
クロロホルムに溶解した各658nmolのPlsChoとPOPCをガラスミニバイアルに採取し、参考製造例6と同様の方法によりPlsCho(0.658mM)付加ヒトHDLを調製し、コレステロール引抜き実験に使用した。
【0061】
《参考製造例8》
クロロホルムに溶解した各658nmolのPlsEtnとPOPCをガラスミニバイアルに採取し、参考製造例6と同様の方法によりPlsEtn(0.658mM)付加ヒトHDLを調製し、コレステロール引抜き実験に使用した。
【0062】
《コレステロール引抜き試験》
参考製造例5~8で製造した再構成ヒトHDLのコレステロール引抜き能を調べた。
参考製造例5の再構成ヒトHDL、製造例6のPlsCho(1.316mM)付加ヒトHDL、製造例7で調製したPlsCho(0.658mM)付加ヒトHDL、製造例8で調製したPlsEtn(0.658mM)付加ヒトHDLを、それぞれ14μL、添加し、5%CO、37℃で4時間培養し、前記のコレステロール引抜き試験に従って、コレステロール引抜き能を測定した。結果を図3に示す。ヒトHDL(健常者由来)にプラスマローゲンを加えることで統計的有意にコレステロールの引抜き能(%CH efflux)が増加した。
【0063】
《実施例2》
本実施例では、高密度リポタンパク質機能改善剤により、酸化ストレスマーカー、及び冠動脈障害マーカーが改善されるか否かを検討した。
Wistar STラット(オス、4週齢)を4群(1群8匹)に分け、飼料及び水を自由に摂取させた。飼料はAIN93Gに準じた精製飼料(基本飼料:大豆油7%を含む)を用いた。なお、基本飼料は毎日交換した。前記条件で5日間飼育した後、対照群には7v/v%の大豆油を含む基本飼料を自由摂取させた。アルキル型リン脂質摂取群(Alkyl0.05%群、Alkyl0.1%群、Alkyl0.2%群、)には、基本飼料に、製造例1で作成したアルキル型リン脂質含有脂質を添加した飼料(Alkyl0.05%群は大豆油6.5v/v%及びアルキル型リン脂質含有脂質0.5%;Alkyl0.1%群は大豆油6.0v/v%及びアルキル型リン脂質含有脂質1.0%;Alkyl0.1%群は大豆油5.1v/v%及びアルキル型リン脂質含有脂質1.9%)を自由摂取させた。
14日後及び28日後に、尾静脈採血し、そして42日後にペントバルビタール麻酔下、速やかに開胸し下大静脈から採血(約400uL)し、放血により安楽死させた。
【0064】
血漿共役ジエン(酸化ストレスマーカー)は、クロロホルム-メタノールで脂質抽出後ヘキサンに溶解して234nm吸光度により測定した。結果を図4に示す。Alkyl0.2%群は対照群と比較して、有意に血液共役ジエンが減少した。
また、血管内皮の細胞接着因子(炎症マーカー)であるsICAM-1、及び血管内皮傷害マーカーであるvon Willebrand factorを、それぞれマルチプレックス法(RAT VASCULAR INJURY MAGNETIC BEAD PANEL 2を用いたMILLIPLEXTM MAP Multiplex: Merck Millipore)を用いて測定した。結果を図5に示す。アルキル型リン脂質摂取群は、対照群と比較して、sICAM-1、及びvon Willebrand factorが有意に減少していた。
【0065】
《実施例3及び比較例2》
本実施例では、炎症惹起物質であるリポポリサッカライド(LPS)の投与により誘導される炎症をどの程度抑制できるか検討することにより、アルキルリン脂質摂取によるHDLの抗炎症作用の増強効果を間接的に評価した。
C57BL/6Jマウス(オス、9ヶ月齢)を3群(1群5匹)に分け、飼料及び水を自由に摂取させた。飼料はAIN93Gに準じた精製飼料(基本飼料:大豆油7%を含む)を用いた。なお、基本飼料は毎日交換した。前記条件で5日間飼育した後、対照群および炎症誘導群(比較例2)には基本飼料の自由摂取に加え、大豆油を1日に一回、100μLをゾンデで強制投与し、炎症誘導・アルキル型リン脂質摂取群(実施例3)には、製造例1で作成したアルキル型リン脂質含有脂質を大豆油に30%対重量比で混合した油脂を同様に強制投与し、12日間飼育した。
その翌日より、上記同様の強制投与を継続しながら、その投与後6時間後に、対照群には、リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)の100μLを、炎症誘導群(比較例2)および炎症誘導・アルキル型リン脂質摂取群(実施例3)には、リポポリサッカライド(E. coli055:B5由来(Sigma))水溶液の7.5μg分を含有する100μLを、腹腔内注射にて投与した。
1週間の連続投与後、マウスを炭酸ガス吸入により安楽死させ、速やかに開胸し下大静脈から全採血(約400uL)した。各マウスから採取した血液に凝固促進剤(コアグラントワコー;和光純薬工業(株))を加え、遠心分離により血清を採取した。
得られた血清にて、マウスアミロイドA ELISAキット(Life Diagnostics製)を用いて、全身炎症のマーカーであるアミロイドAを測定した。結果を図6に示す。アミロイドAは、対照群に対して炎症誘導群(比較例2)で大きく増大しているが、アルキル型リン脂質摂取群(実施例3)ではそれを抑制した。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の高密度リポタンパク質機能改善剤は、HDLのコレステロール引抜き能を改善することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6