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特許7321121アノード電極用触媒及び光アノード電極用助触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】アノード電極用触媒及び光アノード電極用助触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20230728BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20230728BHJP
   B01J 27/24 20060101ALI20230728BHJP
   B01J 23/889 20060101ALI20230728BHJP
   B01J 23/78 20060101ALI20230728BHJP
   C25B 9/17 20210101ALI20230728BHJP
【FI】
B01J35/02 J
B01J37/02 301Z
B01J27/24 M
B01J23/889 M
B01J23/78 M
C25B9/17
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020060205
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021154260
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-10-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513056835
【氏名又は名称】人工光合成化学プロセス技術研究組合
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐山 和弘
(72)【発明者】
【氏名】三石 雄悟
(72)【発明者】
【氏名】草間 仁
(72)【発明者】
【氏名】堂免 一成
(72)【発明者】
【氏名】山田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 豊
(72)【発明者】
【氏名】仮屋 伸子
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/031592(WO,A1)
【文献】特開2015-112509(JP,A)
【文献】国際公開第2018/110543(WO,A1)
【文献】特開2018-058065(JP,A)
【文献】HALEEM, Ashraf Abdel et al.,Enhanced Performance of Pristine Ta3N5 Photoanodes for Solar Water Splitting by Modification with Fe-Ni-Co Mixed-Oxide Catalysts,J. Phys. Chem. C,米国,American Chemical Society,2017年08月29日,Vol. 121,pp. 20093-20100,DOI: 10.1021/acs.jpcc.7b04403
【文献】ZHANG, Zailei et al.,Ni0.33Mn0.33Co0.33Fe2O4 nanoparticles anchored on oxidized carbon nanotubes as advanced anode materials in Li-ion batteries,RSC Adv.,英国,The Royal Society of Chemistry,2014年07月23日,Vol. 4,pp. 33769-33775,DOI: 10.2039/C4RA04483E
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
H01M 4/86-4/98
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe、Ni、Co、M及び酸素、を含むアノード電極用触媒。
但し前記MはK及びMnから選択される。
【請求項2】
前記Fe、Ni及びCoの合計重量に対する前記Mの重量比が、0.001以上3以下である、請求項1に記載のアノード電極用触媒。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアノード電極用触媒と光触媒と、を含む光電極。
【請求項4】
Fe、Ni、Co、M及び酸素、を含む光アノード電極用助触媒。
但し前記MはK及びMnから選択される。
【請求項5】
前記Fe、Ni及びCoの合計重量に対する前記Mの重量比が、0.001以上3以下である、請求項4に記載の光アノード電極用助触媒。
【請求項6】
Fe、Ni、Co、及びM、を含む非水溶性錯体を基体上に塗布する塗布ステップ、及び基体上に塗布した非水溶性錯体を加水分解する加水分解ステップ、を含む、アノード電極用触媒又は光アノード電極用助触媒の製造方法。
但し前記MはK及びMnから選択される。
【請求項7】
前記加水分解ステップにおける平均温度は200℃以下である、請求項6に記載のアノード電極用触媒又は光アノード電極用助触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を分解して酸素を発生させる装置に備えられるアノード電極用触媒、及び光アノード電極用助触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー資源の大半を占める化石燃料は有限であることから、光エネルギーを利用して、水を水素と酸素に分解することでエネルギー源とする研究が進められている。その際には光触媒が用いられることが通常である。
現在研究が進められている光触媒は、酸化物、酸窒化物、窒化物といった光半導体の表面に助触媒が担持され、助触媒を担持させることで光触媒の活性を向上させることができる。
【0003】
水分解に用いられる光触媒用の助触媒としては、一般的に酸素発生用助触媒と水素発生用助触媒に大別される。
酸素発生用助触媒としては、Ni、Fe、Co等の金属が用いられてきたが、近年、より一層の光分解能力を求めて研究が進み、助触媒としても、CoとNiの酸化物、FeとNiの酸化物、等が開発された。そして非特許文献1には、Fe、Co、Niの複合酸化物が優れた助触媒となることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Y.Naruta, J. Phys. Chem. C, 2017, 121, 20093
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、光触媒用の、新たな酸素生成用助触媒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、光触媒用の、新たな酸素生成用助触媒を提供すべく鋭意検討を重ねた結果、非特許文献1に開示された3元系の助触媒に、更にK(カリウム)及び/又はMn(マンガン)を添加することで、光触媒の性能が向上することを見出し、本発明を完成させた。
また、本発明者らは更に検討を進め、非特許文献1に開示された3元系の助触媒に、更にK(カリウム)及び/又はMn(マンガン)を添加した助触媒は、水の電気分解用のアノードと共に用いた場合には、それ自体が触媒として機能することも見出した。
本発明は以下の要旨を含む。
【0007】
(1)Fe、Ni、Co、M及び酸素、を含むアノード電極用触媒。
但し前記MはK及びMnから選択される。
(2)前記Fe、Ni及びCoの合計重量に対する前記Mの重量比が、0.001以上3以下である、(1)に記載のアノード電極用触媒。
(3)(1)又は(2)に記載のアノード電極用触媒と光触媒と、を含む光電極。
(4)Fe、Ni、Co、M及び酸素、を含む光アノード電極用助触媒。
但し前記MはK及びMnから選択される。
(5)前記Fe、Ni及びCoの合計重量に対する前記Mの重量比が、0.001以上3以下である、(4)に記載の光アノード電極用助触媒。
(6)Fe、Ni、Co、M及び酸素、を含む非水溶性錯体を基体上に塗布する塗布ステ
ップ、及び基体上に塗布した非水溶性錯体を加水分解する加水分解ステップ、を含む、アノード電極用触媒又は光アノード電極用助触媒の製造方法。
但し前記MはK及びMnから選択される。
(7)前記加水分解ステップにおける平均温度は200℃以下である、(6)に記載のアノード電極用触媒又は光アノード電極用助触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光触媒用の、新たな酸素生成用助触媒を提供することができる。当該助触媒は、水の電気分解用のアノードと共に用いた場合には、それ自体が触媒として機能する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明につき詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0010】
本発明に係る一実施形態は、光触媒を含むアノード電極用助触媒である。光アノード電極用助触媒とも称する。光アノード電極用助触媒は通常、光触媒に担持されることで、光触媒の酸素生成機能を飛躍的に向上することとなる。
本実施形態において光アノード電極用助触媒は、Fe、Ni、Co、M及び酸素、を含み、前記MはK及びMnから選択される。これら以外の成分を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
本実施形態の助触媒は、通常これらの金属を含む複合体である。ここで複合体とは、これらの金属との間で、例えば物理的又は化学的に何らかの結合が生じ、一体化しているものをいう。そのため、単なるこれらの金属の混合物は、ここでいう複合体には含まない。複合体とするためには、これらの金属を単に混合するのみではなく、熱処理、機械的処理、化学的処理等を施すことが必要となる。
【0011】
光アノード電極用助触媒は、Fe、Ni及びCoの合計重量に対する前記Mの重量比が、0.001以上3以下であることが好ましく、0.01以上1以下であることがより好ましい。特に、MがKの場合には、0.01以上0.4以下であることが好ましく、MがMnの場合には、0.01以上0.1以下であることが好ましい。上記範囲を充足することで、安定的に高い性能が得られる。光アノード電極用助触媒中のこれらの成分の重量はXRF、ICP法等を用いて測定することができる。
また、光アノード電極用助触媒中のFe、Ni、Coの重量比は特に限定されないが、Feに対し、Ni、Coがそれぞれ0.5以上2以下であってよく、0.8以上1.2以下であってよく、0.9以上1.1以下であってよい。
【0012】
本実施形態において、光アノード電極用助触媒はどのような形状であってもよく特に限定されないが、箔状であってよく、板状であってよく、粒子状であってよく、微粒子であってよい。微粒子である場合その粒子径は、光触媒への担持の容易性から通常1nm以上、好ましくは1.2nm以上、より好ましくは1.5nm以上である。また、通常25nm以下、好ましくは20nm以下である。
尚、本明細書において「粒子径」とは、定方向接線径(フェレ径)の平均値(平均粒子径)を意味し、XRD、TEM、SEM法等の公知の手段によって測定することができる。
【0013】
光アノード電極用助触媒の製造方法としては、一般にはドライプロセスとウェットプロセスがある。ドライプロセスの例としてはスパッタ法、真空蒸着法、CVD法等がある。ウェットプロセスとしては助触媒の前駆体を光触媒に含浸担持した後焼成する含浸法、助
触媒の前駆体を含む溶液に光触媒を浸漬し、これをマイクロウェーブ加熱して担持させるマイクロウェーブ法、助触媒の前駆体を含む溶液に光触媒を浸漬し、これに光を照射して助触媒を析出させる光電着法、助触媒の前駆体を含む溶液に光触媒を浸漬し、これに酸化剤若しくは還元剤を添加して助触媒を析出させるケミカルデポジション法、助触媒の前駆体を含む溶液に電極上に積層した光触媒を浸漬し、これに電位をかけて助触媒を析出させる電析法が例として挙げられる。通常、生産性を考慮すると、助触媒はウェットプロセスで調製されることが好ましい。また、前述の含浸法に類似するが、より均一な組成の粒子を得る観点から、金属の非水溶性錯体の溶液を光触媒に含浸し、これを加水分解して金属酸化物又は金属水酸化物を析出させる手法(以後、「加水分解法」と記載)が好ましい。
【0014】
これらの加水分解法のうち、具体的には、Fe、Ni、Co及びM、を含む非水溶性錯体を基体上に塗布する塗布ステップ、及び基体上に塗布した非水溶性錯体を加水分解する加水分解ステップ、を含む方法が好ましい。
Fe、Ni、Co及びMは、それぞれの成分を含む化合物を溶媒と混合し、必要に応じて撹拌することで、非水溶性錯体を含む塗布液を調製する。
非水溶性錯体は、加水分解中にその塩が水に溶解しない錯体であり、加水分解中の錯体の塩の水に対する溶解度が1%以下であり、0.5%以下であってよく、0.1%以下であってよい。
非水溶性錯体を添加する溶媒は特に限定されないが、有機溶媒であることが好ましく、トルエン又はN-ヘキサンであることがより好ましく、N-ヘキサンであることが更に好ましい。
【0015】
非水溶性錯体は、非水溶性の錯体であれば特に限定されず、典型的には非水溶性の金属錯体であり、有機酸の金属塩であることが好ましい。非水溶性錯体を構成する有機酸としてはカルボン酸が挙げられ、2-エチルヘキサン酸が好ましい。非水溶性錯体を構成する金属としてはFe、Ni、Co、Mn、Kが好ましい。
塗布液中の非水溶性錯体の濃度は特に限定されないが、塗布液としての作業性の観点から100重量ppm以上2000重量ppm以下であることが好ましい。
基体への塗布液の塗布方法は特に限定されず、ドロップキャスト、スプレー塗布、静電塗布、スピンコートのような方法を用いることができる。基体は、非水溶性錯体を保持できればよく、通常は助触媒を担持する光触媒である。
【0016】
非水溶性錯体の加水分解は、塗布液を塗布した基体を加熱することで行うことができる。加水分解時の平均温度は200℃以下で加熱して行うことが好ましい。非水溶性錯体がアモルファスである場合、200℃以下とすることで非水溶性錯体の結晶構造の変化を押さえることができる。下限は特に限定されないが、通常100℃以上であり、150℃以上であることが好ましい。加熱時間は通常10分以上、好ましくは20分以上であり、また通常1時間以下、好ましくは0.5時間以下である。
なお、加水分解時の平均温度とは、加水分解のための総加熱時間における平均温度である。
【0017】
本実施形態の、光触媒を含むアノード電極用助触媒は、酸素生成用の助触媒として使用され、光触媒に担持されることで、光アノード電極の酸素生成機能を飛躍的に向上させる。
光触媒として用いられる材料は、Ti、V、Nb及びTaからなる群から選ばれる1種以上の元素を含み、これらの元素のいずれかを含んだ酸化物、酸窒化物、窒化物、(オキシ)カルコゲナイド等が挙げられる。具体的には、TiO、CaTiO、SrTiO、SrTi、SrTi、KLaTi10、RbLaTi10、CsLaTi10、CsLaTiNbO10,LaTiO、LaTi、LaTi、LaTi:Ba、KaLaZr0.3Ti
0.7、LaCaTi、KTiNbO、NaTi13、BaTi、GdTi、YTi、(NaTi、KTi、KTi、CsTi、H-CsTi(H-CsはCsがHでイオン交換されていることを示す。以下同様)、CsTi11、CsTi13、H-CsTiNbO、H-CsTiNbO、SiO-pillared KTi、SiO-pillared KTi2.7Mn0.3、BaTiO、BaTi、AgLi1/3Ti2/3等のチタン含有酸化物;
LaTiON等のチタン含有酸窒化物;及び
LaTiCuS、LaTiAgS、SmTi等のチタン含有(オキシ)カルコゲナイド;等のチタン含有化合物:
BiVO、AgVO等のバナジウム含有酸化物;等のバナジウム含有化合物:
Nb17、RbNb17、CaNb、SrNb、BaNb15、NaCaNb10、ZnNb、CsNb11、LaNbO、H-KLaNb、H-RbLaNb、H-CsLaNb、H-KCaNb10、SiO-pillared KCaNb10(Chem.Mater.1996,8,2534.)、H-RbCaNb10、H-CsCaNb10、H-KSrNb10、H-KCaNaNb13)、PbBiNb等のニオブ含有酸化物;及び
CaNbON、BaNbON、SrNbON、LaNbON等のニオブ含有酸窒化物;等のニオブ含有化合物:
Ta、KPrTa15、KTaSi13、KTa12、LiTaO、NaTaO、KTaO、AgTaO、KTaO:Zr、NaTaO:La、NaTaO:Sr、NaTa、KTa(pyrochlore)、CaTa、SrTa、BaTa、NiTa、RbTa17、HLa2/3Ta、KSr1.5Ta10、LiCaTa10、KBaTa10、SrTa15、BaTa15、H1.8Sr0.81Bi0.19Ta、Mg-Ta oxide(Chem.Mater.2004 16, 4304-4310)、LaTaO、LaTaO等のタンタル含有酸化物;
Ta等のタンタル含有窒化物;及び
CaTaON、SrTaON、BaTaON、LaTaON、YTa、TaON等のタンタル含有酸窒化物;等のタンタル含有化合物:等が用いられる。
【0018】
太陽光を利用した光水分解反応をより効率的に生じさせる観点からは、上記各種光触媒材料のうち、可視光応答型の材料を用いることが好ましい。具体的には、TaON、LaTiON、BaTaON、SrNbONm、Ta等の金属(酸)窒化物が好ましい。上記の各種光触媒は、固相法、溶液法等の公知の合成方法によって容易に合成可能である。
【0019】
光触媒の形態(形状)については、上記説明した助触媒を担持して光触媒として機能し得るような形態であれば特に限定されるものではない。特に、水分解反応用光アノード電極とする場合は、典型的にはアノード電極上に膜状や箔状で存在すればよく、アノード電極の形状に応じて適宜その形状を設定できる。
【0020】
光触媒は、上記説明した助触媒に加えて、別の助触媒を共担持させてもよい。例えば、周期表第6族~第10族から選ばれる1つ以上の元素を含む化合物を助触媒として共担持させることができる。具体的には、酸素生成用助触媒として、Cr、Sb、Nb、Th、Mn、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Irの金属、これらの酸化物又は複合酸化物(ただし、Co及びMnを含む酸化物を除く)が挙げられる。
【0021】
光触媒への助触媒の担持量については、光触媒活性を向上可能な量であれば特に限定されるものではない。例えば、光触媒100質量部に対し、助触媒を0.008質量部以上20.0質量部以下担持することが好ましい。
【0022】
光アノード電極は、典型的には集電極、光触媒層及び助触媒を含み、通常集電極上に光触媒が層状に堆積され、該光触媒には本実施形態の助触媒が担持される。光励起によって生じた電子は集電極へ流れ、一方正孔(ホール)は助触媒へ異動して水を酸化し、酸素を発生させる。
集電極としては、通常導電性の高い金属若しくは透明電極が用いられるが、導電性を有する限り特に限定されない。例えばTa,Ti、Cu、Fe、Ni,Al等が用いられ、集電極が板状の場合には、その厚さが0.1mm以上10mm以下であってよく、0.2mm以上3mm以下であることが好ましい。透明電極としてはFTO、ITOなどが好ましい。
光触媒層としては、上記光触媒材料を用いることができる。板状の集電極上に堆積する場合には、その厚さが50nm以上20μm以下であってよく、500nm以上3μm以下であることが好ましい。
助触媒は、光触媒層に担持されていればよく、光触媒層上に膜状に堆積していてもよく、アイランド状に堆積してもよい。厚さも特に限定されないが、0.1nm以上100nm以下であってよい。
【0023】
光アノード電極の対電極となるカソード電極材料としては特に限定されず、例えば水素発生用電極である場合には、Pt、Au、Pd、Cなどがあげられ、Ptを用いることが好ましい。カソード電極に用いられる光触媒としては、CuO、CuO、CuBi、CIGS系、WS、p-Siなどが好ましく例示できる。
【0024】
本発明の別の実施形態は、Fe、Ni、Co、M及び酸素、を含むアノード電極用触媒である。上記MはK及びMnから選択される。本実施形態のアノード電極用触媒は、水の電気分解を行う際のアノード電極に担持されることで、水の電気分解反応を加速させる触媒として機能する。上記説明した光アノード電極用助触媒は、水の電気分解の際のアノード電極用触媒としても、使用することができる。
【0025】
本実施形態に係る水の電気分解の際に用いるアノード電極用触媒は、更に光触媒とともに用いられることで、光により酸素生成が可能な光電極として用いられ得る。光触媒としては、上記説明した光半導体に用いられる化合物を用いることができ、窒化物や酸窒化物であることが好ましい。
【0026】
光触媒を実際に水の分解に使用する場合における光触媒の形態については特に限定されるものではない。例えば、水中に光触媒粒子を分散させる形態、光触媒粒子を固めて成形体として当該成形体を水中に設置する形態、基材上に光触媒層を設けて積層体とし当該積層体を水中に設置する形態、集電体上に光触媒を固定化して水電解用電極(光触媒電極)とし対極とともに水中に設置する形態等が挙げられる。特に、光水分解反応を大規模にて行う場合、バイアスを付与して水分解反応を促進できる観点から、水電解用電極とするとよい。上記の成形体とする形態、及び、積層体とする形態においては、当該成形体又は当該積層体はシート状(光触媒シート)であってもよい。
【0027】
光アノード電極は公知の方法により作製可能である。例えば、所謂粒子転写法(Chem. Sci., 2013,4, 1120-1124)によって容易に作製可能である。即ち、ガラス等の第1の基材上に光触媒粒子を載せて、光触媒層と第1の基材層との積層体を得る。得られた積層体の光触媒層表面に蒸着等によって導電層(集電体)を設ける。ここで、光触媒層の導電層側表層にある光触媒粒子が導電層に固定化される。その後、導電層表面に第2の基材を接
着し、第1の基材層から導電層及び光触媒層を剥がす。光触媒粒子の一部は導電層の表面に固定化されているので、導電層とともに剥がされ、結果として、光触媒層と導電層と第2の基材層とを有する水電解用電極を得ることができる。
【0028】
或いは、光触媒粒子が分散されたスラリーを集電体の表面に塗布して乾燥させることで、水電解用電極を得てもよいし、光触媒粒子と集電体とを加圧成形等して一体化することで水電解用電極を得てもよい。また、光触媒粒子が分散されたスラリー中に集電体を浸漬し、電圧を印可して光触媒粒子を電気泳動により集電体上に集積してもよい。
助触媒の担持は、光触媒粒子を集電体上に固定する前に行ってもよいし固定した後であってもよい。例えば、上記した粒子転写法において、助触媒担持前の光触媒を用いて、同様の方法で積層体を得て、その後、光触媒層の表面に助触媒としての複合体を担持させることで、光アノード電極を得てもよい。
【0029】
上述したように、光触媒を水電解用電極に適用する場合、電極性能を向上させる観点から、光触媒において、光触媒100質量部に対して複合体が0.008質量部以上20質量部以下担持されていることが好ましい。或いは、同様の観点から、光触媒の表面の20%以上が当該複合体に覆われてなることが好ましい。光触媒表面における複合体の被覆率は、光触媒粒子を一方向から見た場合における光半導体が占める部分と複合体が占める部分とを、SEM-EDS等によって特定することで算出することができる。例えば、SEM写真図における光半導体部分の面積と複合体部分の面積とを特定し、(複合体部分の面積)/{(光半導体部分の面積)+(複合体部分の面積)}により被覆率を算出することができる。
【0030】
本実施形態においては、上記した光触媒、或いは、上記した水電解用電極を、水又は電解質水溶液に浸漬し、当該光触媒又は水電解用電極に光を照射して光水分解を行うことで、水素及び/又は酸素を製造することができる。
例えば、上述のように導電体で構成される集電体上に光触媒を固定化して水電解用電極を得る一方、対極として水素生成触媒を担持した導電体を使用し、液体状又は気体状の水を供給しながら光を照射し、水分解反応を進行させる。必要に応じて外部電力により電極間に電位差を設けることで、水分解反応を促進することができる。或いは、対極として水素生成触媒を担持した光触媒を使用してもよい。この場合、光触媒としては水素生成反応を触媒する公知の光触媒を用いることができる。
【0031】
一方、絶縁基材上に光触媒粒子を固定化した固定化物に、又は、光触媒粒子を加圧成形等した成形体に、水を供給しながら光を照射して水分解反応を進行させてもよい。或いは、光触媒粒子を水又は電解質水溶液に分散させて、ここに光を照射して水分解反応を進行させてもよい。この場合、必要に応じて攪拌することで、反応を促進することができる。
【実施例
【0032】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲が実施例のみに限定されないことはいうまでもない。
【0033】
(実施例1~5、比較例1)
下記式(1)で表されるトリス(2-エチルヘキサン酸)鉄(III)・ミネラルスピリット溶液(Fe:6%)(富士フイルム和光純薬)、下記式(2)で表される2-エチルヘキサン酸ニッケル(II)トルエン溶液(Ni:6%)(富士フイルム和光純薬)、下記式(3)で表される2-エチルヘキサン酸コバルト(II)・ミネラルスピリット溶液(Co:12%)(富士フイルム和光純薬)、下記式(4)で表される2-エチルヘキサン酸カリウム溶液(K:75%)(富士フイルム和光純薬)、下記式(5)で表される2-エチルヘキサン酸マンガン(II)・ミネラルスピリット溶液(Mn:8%)(富士
フイルム和光純薬)を個別にヘキサン(富士フイルム和光純薬)と混合し、各元素濃度が1.2重量%である5つの原料溶液を調製した。
【0034】
【化1】
【0035】
原料溶液を混合しヘキサンにて希釈して元素の組成を表1のように変えたアノード電極用触媒前駆体溶液30μLを、洗浄乾燥した1.2cm×2cm角のフッ素ドープ酸化スズ(FTO)導電性ガラス基板(日本板硝子)にマイクロピペットを用いて滴下した。自然乾燥後、140℃の乾燥機内に0.5時間保持し熱処理を行った。これらを実施例1~5及び、比較例1のアノード電極とした。
【0036】
HPO及びKOH(富士フイルム和光純薬)をイオン交換水に溶解し、pHメーター(東亜ディーケーケー、GST-2729C)を用いてpH13に調整した0.5MのKHPO電解質水溶液100mLを調製した。作製したアノード電極を電解質溶液中に入れ、Ag/AgCl参照極(ビー・エー・エス、RE-1B)、及びPt線対極を用いた三電極方式にて電気化学測定を行った。ポテンショスタット/ガルバノスタット装置(イーシーフロンティア、ECstat-301)を用い、-0.2~+1V(vs.Ag/AgCl)の範囲を速度50mV/sにて掃引し、ダーク電流を評価した。ポテンシャルの可逆水素電極(RHE)への補正は次式で行った:
ポテンシャル(vs.RHE)=ポテンシャル(vs.Ag/AgCl)+0.195V+0.059pH
表1に1.8V-RHEでの電流密度の測定結果を示した。
【0037】
【表1】

【0038】
表1から明らかなように、Fe、Ni及びCoと、第4の成分としてK又はMnとを選択した場合は、比較例に比べ顕著に大きな電流密度の値を示した。
【0039】
(実施例6~9、比較例2)
Taメタル基板上に成膜したTa光電極を、既報(Angewandte Chemie International Edition、第56巻、17号、4739~4743頁、2017年)に記載の方法に準じて作製した。
実施例1~5で用いた1.2重量%濃度の5つの原料溶液を混合し、ヘキサンにて希釈して元素の組成を表2のように変えた助触媒前駆体溶液を準備し、15μLを、1×1cm角のTa光電極へ滴下した。自然乾燥後、140℃の乾燥機内に0.5時間保持し熱処理を行った。これらを実施例6~9、及び比較例2の光アノード電極とした。
【0040】
インジウム(ニラコ)を用いて機器配線用ジュンフロン電線(潤工社、AF04A050)と接続し、アラルダイト(ニチバン、AR-R30)で接続部及び裏面を被覆した。画像解析により算出した助触媒担持Ta光電極の露出面積は0.4~0.6cmであった。
【0041】
HPO及びKOH(富士フイルム和光純薬)をイオン交換水に溶解し、pHメーター(東亜ディーケーケー、GST-2729C)を用いてpH13に調整した0.5MのKHPO電解質水溶液150mLを調製した。作製した助触媒担持Ta光電極を電解質水溶液中に入れ、Ag/AgCl参照極(ビー・エー・エス、RE-1B)、及びPt線対極を用いた三電極方式にて光電気化学測定を行った。電気化学アナライザー(ビー・エー・エス、ALSモデル627E)を用い、-0.9~+0.35V(vs.Ag/AgCl)の範囲を速度10mV/sにて掃引し、アノード電流を評価した。ポテンシャルの可逆水素電極(RHE)への補正は次式で行った:
ポテンシャル(vs.RHE)=ポテンシャル(vs.Ag/AgCl)+0.195V+0.059pH
ラジオメーターを用いてAM1.5に調整されたソーラーシミュレータ(三永電機製作所、XES-40S3)を光源とし、3s毎の光オンオフ切り替えにより光応答電流を評価した。表2に1.29V-RHEでの電流密度の測定結果を示した。
【0042】
【表2】
【0043】
表2から明らかなように、Fe、Ni、Coと、第4の成分としてK及びMnとを選択した場合、比較例に比べ顕著に大きな電流密度の値を示し、本実施形態の光アノード用助触媒によって、Ta光電極の性能が向上したことがわかる。