昭和55(ワ)577民事訴訟 意匠権
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裁判所 |
名古屋地方裁判所
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裁判年月日 |
昭和59年3月26日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
意匠権
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キーワード |
侵害9回 意匠権3回 実施2回 差止1回
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主文 |
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事件の概要 |
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判決文
主 文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事 実
第一 当事者の求めた裁判
(原告)
一 被告は、別紙目録(一)記載の「フルマークB型」豆腐製造用豆乳濾過装置
(以下、「イ号装置」という。)を製造、販売してはならない。
二 被告は、その本店、営業所および工場に存する前項記載の装置(完成品)なら
びにその半成品(前項の装置の構造を具備しているが、いまだ製品として完成に至
らないもの)、仕掛品を廃棄し、同装置の製造設備を除却せよ。
三 被告は、原告に対し六〇〇〇万円およびこれに対する昭和五五年三月二〇日か
ら支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
四 訴訟費用は、被告の負担とする。
五 仮執行の宣言
(被告)
主文一、二項と同旨
第二 当事者の主張
(原告の請求原因)
一 原告は、次の登録意匠(以下、「本件登録意匠」という。)の意匠権者であ
る。
出願 昭和四三年四月一一日(意願昭四三ー一〇三九四)
登録 昭和四七年一月二〇日
登録番号 第三四四二〇四号
意匠にかかる物品 豆乳仕上機
登録意匠 別紙本件意匠公報図面代用写真に示すとおりである。
二 本件登録意匠の特徴(要旨)は、次のとおりである。
1 一般に登録意匠の特徴は、当該登録意匠にかかる物品の出願当時の意匠水準に
照らして判断されるべきであるから、もし仮に当該意匠にかかる物品が出願当時極
めて斬新な製品であれば、その意匠の特徴はその基本的形態にあるというべきであ
り、反対に当該意匠にかかる物品が出願当時公知のものであれば、登録意匠中公知
の部分もしくは公知の物品の機能に由来する当然の形状はその意匠の特徴に含まれ
ず、その余の部分が意匠の特徴となると解される。
2 本件登録意匠は、前記のとおり、昭和四三年四月一一日に出願され、昭和四七
年一月二〇日に登録されたものであるが、右出願当時、本件登録意匠にかかる物品
である「豆乳仕上機」もしくは「みじん採取機」に関する物品で、本件登録意匠の
ごとき形態をしているものは全く存在しなかつた。
本件登録意匠にかかる物品は、「豆乳仕上機」ないし「みじん採取機」としては最
初の全く独創的な物品である。
3 以上によれば、本件登録意匠の特徴(要旨)は、次のとおりと解すべきであ
る。
すなわち、本件登録意匠の特徴は、「四隅に立設した」形の脚杆からなる脚台の
上側部に円筒形選別濾過網ドラムを軸架し、該ドラムの内部には螺旋状の羽根があ
り、該ドラムの上方部には半円形で蝶番を介して開閉しうる蓋板(上部タンク)を
被套し、該ドラムの下方部には半円形になる底板(下部タンク)を固定し、該底板
の一側端にはみじん(おから)の排出樋があり、該底板の一部には精製された豆乳
の落下口があり、該脚台の左右側部には該ドラムの回転に必要な伝動機構が設けら
れている形態にある。
三 被告は、現にイ号装置の製造、販売を行つており、イ号装置の意匠(以下「イ
号意匠」という。)を写真で表わすと、別紙目録(一)添付の写真(一)ないし
(七)のとおりである。
四 本件登録意匠とイ号意匠とを対比すると、次のとおりである。
1 イ号装置は、上方の「一次濾過筒装置部分」と、下方の「二次濾過筒装置部
分」とからなつているが、二次濾過筒装置部分は容易に着脱しうる構造となつてい
るから、イ号装置は二次濾過筒装置部分を取り除いて、一次濾過筒装置部分のみを
使用することが可能である。
しかして、右一次濾過筒部分は煮沸缶からくる原料豆乳(ゴ液)が最初に供給さ
れるので、「一次濾過筒装置部分」と称せられているが、右装置部分は、右ゴ液お
よび二次濾過筒装置部分から還流してくる微塵を含むゴ液を選別濾過して純良な豆
乳を抽出する目的、作用効果を有するから、本件登録意匠にかかる物品「豆乳仕上
機」と全く同一の物品である。
したがつて、本件登録意匠とイ号意匠との類否を検討する場合、本件登録意匠と
イ号意匠の一次濾過筒装置部分との類否を検討すべきである。
2 また仮にイ号装置の一次濾過筒装置部分と二次濾過筒装置部分とが一体不可分
に結合され、容易に分離できないものだとしても、イ号装置のうち一次濾過筒装置
部分は、まさに本件登録意匠にかかる物品「豆乳仕上機」に相当する物品であり、
その用途および機能も豆腐製造工程において独立したものを有しており、イ号装置
は一次濾過筒装置部分と二次濾過筒装置部分とに截然と区別しうるものであるか
ら、イ号意匠は本件登録意匠を利用したものである。
してみると、本件登録意匠とイ号意匠との類否を検討する場合、本件登録意匠と
イ号意匠の一次濾過筒装置部分の類否を判断すればよいことになる。
3 イ号装置から一次濾過筒装置部分だけを分離して取り出すと、別紙目録(二)
添付の写真(八)ないし(一四)のとおりとなる。
そして、右写真によると、一次濾過筒装置部分にかかる意匠の特徴(要旨)は、
「四本のL字形の脚杆から成る脚台の上側部に円筒形一次濾過筒を軸架し、該濾過
筒の内部には螺旋状の羽根があり、該濾過筒の上方部には半八角形で蝶番を介して
開閉しうる蓋板(上部タンク)を被套し、該濾過筒の下方部には半八角形に成る底
板(下部タンク)を固定し、該底板の一側端にはみじん(おから)の排出樋があ
り、該底板の一部には精製された豆乳の落下口があり該脚台の左右側部には該濾過
筒の回転に必要な伝導機構が設けられている。」ことにある。
4 そこでかかる一次濾過筒装置部分の意匠と本件登録意匠とを対比すると両意匠
は、意匠の要旨が全く同じであるから同一というべきである。
もつとも両意匠間には、脚杆の長さと位置、一次濾過筒を包囲する蓋板と底板の
形状、カバーの取手、駆動プーリー、スイツチボツクス、漏斗、パイプ、遮閉板
等、形状において多少の相違が存在しているが、かかる形状の差異は意匠全体から
みれば微差というべきものであり、また仮に微差とまでいえないとしても、両意匠
を類似の範囲から逸脱せしめるものではない。
五1 被告は、本件登録意匠を侵害するものであることを知りまたは過失により知
らないで、本件登録意匠と同一もしくは類似の意匠を有するイ号装置を、昭和四八
年一〇月一日ころから昭和五五年二月末日ころまでの間に少なくとも一〇〇〇台製
造、販売し、原告の有する本件意匠権を侵害した。
よつて、被告は原告に対し、右侵害行為によつて原告に加えた損害を賠償すべき
義務がある。
2 原告は、被告の右侵害行為によつて、少なくとも六〇〇〇万円の損害を蒙つ
た。
すなわち、被告は、前記期間中にイ号装置合計一〇〇〇台を一台当り六〇万円で
販売し、一台当り少なくとも六万円の利益をえたから、被告は右侵害行為により少
なくとも合計六〇〇〇万円の利益をえたことになるところ、被告のえた右利益は原
告の受けた損害と推定される(意匠法三九条一項)ので、原告は右同額の損害を蒙
つたことになる。
六 よつて、被告に対し、イ号装置の製造、販売の差止と、完成品、未完成品およ
びその製造装置の除却と、前記損害金六〇〇〇万円およびこれに対する本訴状送達
の日の翌日である昭和五五年三月二〇日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の
割合による遅延損害金の支払を求める。
(請求原因に対する被告の認否)
一 請求原因一項は認める。
二 同二項は争う。
三 同三項は認める。
四 同四項中、イ号装置が上方の一次濾過筒装置部分と下方の二次濾過筒装置部分
からなつていること、イ号装置の一次濾過筒装置部分の意匠が別紙目録(二)添付
の写真のとおりであることは認めるが、その余は争う。
五 同五項は争う。
(被告の主張)
一 被告製造のイ号装置は一次濾過筒装置部分と二次濾過筒装置部分とを完全に一
体化したものであるから、意匠侵害の成否は、本件登録意匠と被告のイ号装置全体
とを対比して判断されるべきところ、かかる観点からすればイ号装置が本件登録意
匠を侵害するものでないことは明らかである。
二 また仮に原告主張のとおり、本件登録意匠と一次濾過筒装置部分の意匠との類
否を判断すべきだとしても、一次濾過筒装置部分の意匠は本件登録意匠と類似では
ない。
このことは一次濾過筒装置部分の意匠の正面図と本件登録意匠の正面図を見るだ
けで明らかである。
すなわち、右両意匠には、次の各点の形状において顕著な差異が存在するからであ
る。
1 本件登録意匠においては、カバーが完全に円型をなしているのに対し、一次濾
過筒装置部分においては、カバーが八角型をなし、しかもその稜線が明確に形成さ
れている。
2 本件登録意匠においては、カバーの取手が大きく二個並列しており、正面に向
けて取付けられ、明確な強い外観上の印象を与えているのに対し、一次濾過筒装置
部分においては、取手が側方に張出して取付けられている。
3 本件登録意匠においては、駆動プーリーが傘歯輪であり、右脚上端側方に張り
出した支持杆上に正面を見せ円形に取付けられ、しかもこの支持杆が右脚上方の斜
杆により承持されているのに対し、一次濾過筒装置部分においては、駆動プーリー
は傘歯輪を使用せず、しかも本件登録意匠に比し九〇度角度を変更して左側に側面
を見せて取付けられ、さらにモーターに近接させられている。
4 一次濾過筒装置部分には右側にスイツチボツクスを張出して設けておるのに対
し、本件登録意匠にはこれがない。
5 本件登録意匠の左脚は左端に配置され、下方横梁杆下横梁杆の三分の二程の長
さで垂直に直立しているのに対し、一次濾過筒装置部分の左脚は、横梁杆より一・
五倍程長く横梁杆下方に垂直に直立していること、また本件登録意匠の右脚は左脚
と同長で梁杆の右端に取付けされ、カバー体よりカバー体長四分の一程間隔を取つ
て垂直に取付けられているのに対し、一次濾過筒装置部分の右脚は左脚と同長で下
梁杆の中央部より垂直に取付けられている。
第三 証拠(省略)
理 由
一 原告が本件登録意匠の意匠権者であること、被告が現在イ号装置を製造、販売
していること、イ号意匠が別紙目録(一)添付の写真(一)ないし(七)のとおり
であることはいずれも当事者間に争いがない。
二1 原告は、本件登録意匠とイ号意匠との類否を判断するに当つて、イ号装置は
上方の「一次濾過筒装置部分」と下方の「二次濾過筒装置部分」から成り立つてい
るが、二次濾過筒装置部分は容易に着脱しうる構造になつているから、イ号装置か
ら二次濾過筒装置部分を取り除いて、一次濾過筒装置部分の意匠と対比すべきであ
る旨主張する。
イ号装置が上方の一次濾過筒装置部分と下方の二次濾過筒装置部分から成り立つ
ていること、一次濾過筒装置部分が別紙目録(二)添付の写真(八)ないし(一
四)のとおりであることは当事者間に争いがなく、原告代表者本人尋問の結果およ
び当裁判所の検証の結果によれば、イ号装置から二次濾過筒装置部分を着脱するこ
とが可能であることを認めることができる。
しかしながら、意匠法における物品とは、登録された意匠に係る物品であつて
も、はたまた侵害していると主張される物品であつても、経済的に独立して取引の
対象とされるものをいうと解されるところ、成立につき争いのない甲四五、四六号
証によれば、イ号装置は通常の状態においては一次濾過筒装置部分と二次濾過筒装
置部分とが一体として備わつて初めて一個の物品として取引の対象となつており、
一次濾過筒装置部分のみもしくは二次濾過筒装置部分のみでもつて取引されるもの
ではないと認められるから、仮に原告主張のとおり、二次濾過筒装置部分の着脱が
容易で、かつ一次濾過筒装置部分のみによつても豆乳を抽出する目的、作用効果を
有するとしても、本件登録意匠と一次濾過筒装置部分の意匠の対比をもつて、本件
登録意匠とイ号意匠との対比に代えることはできない。
したがつて、原告の右主張は理由がない。
2 次に原告は、イ号装置のうち一次濾過筒装置部分は本件登録意匠に係る物品
「豆乳仕上機」に相当する物品であり、その用途および機能も豆腐製造工程におい
て独立したものを有しており、イ号装置は一次濾過筒装置部分と二次濾過筒装置部
分に截然と区別しうるから、イ号意匠は本件登録意匠を利用したものである旨主張
し、成立に争いのない甲五号証(鑑定書)中にもそれにそう記載がある。
しかしながら、意匠の利用とは、ある意匠がその構成要素中に他の登録意匠また
はこれに類似する意匠の全部をその特徴を破壊することなく、他の構成要素と区別
しうる態様において包含し、この部分と他の構成要素との結合により全体としては
他の登録意匠とは非類似の一個の意匠をなしているがこの意匠を実施すると必然的
に他の登録意匠を実施する関係にあるものと解するのが相当であり、したがつて、
また意匠の利用関係が成立するためには意匠中に他人の登録意匠がその特徴を破壊
されることなく、他の部分と区別しうる態様において存在することを要し、もしこ
れが混合一体となつて彼此区別できないときは利用関係の成立は否定されると解す
るのが相当であるところ、本件登録意匠と一次濾過筒装置部分の意匠とはその要部
である蓋板、底板、みじん排出樋、脚台(脚杆)の形状、外観において異なり、こ
れらを全体として観察してみても直ちに類似していると認定するのは困難であるの
みならず仮に原告主張のとおり、一次濾過筒装置部分の意匠が本件登録意匠に類似
しているとしても、別紙目録(一)添付の写真(一)ないし(七)(イ号装置)と
同(二)添付の写真(八)ないし(一四)(一次濾過筒装置部分)一次濾過筒装置
部分は外観上、二次濾過筒装置部分と一体化してイ号意匠をつくつているうえ一次
濾過筒装置部分は二次濾過筒装置部分と混然一体となり、彼此区別できない形状で
もつてイ号装置を構成していると認められるから、イ号意匠は本件登録意匠を利用
したものということはできない。
したがつて、原告の前記主張および前掲甲五号証記載の意見は理由がない。
三 以上によれば、原告はイ号装置が本件登録意匠を侵害すると主張する以上、本
件登録意匠とイ号意匠そのものを対比して、その類非を判断すべきところ、本件登
録意匠とイ号意匠が非類似の関係にあることは多言を要しないところであり、原告
もあえてこのことは争わないものと推認される。
四 してみると、原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく失当で
あるから棄却することとし、訴訟費用の負担については民訴法八九条を適用して主
文のとおり判決する。
(裁判官 加藤義則 澤田経夫 綿引穣)
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