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平成24(行ケ)10341審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成25年6月20日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官田村嘉章
原告
対象物 発電装置
法令 特許権
特許法49条2号2回
特許法49条2回
特許法36条5項1回
特許法29条1回
キーワード 審決33回
分割2回
特許権1回
実施1回
侵害1回
主文 原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は,特許出願拒絶審決の取消訴訟である。争点は,容易想到性の有無及び審 決の判断遺脱の有無である。

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判決文

平成25年6月20日判決言渡
平成24年(行ケ)第10341号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成25年5月14日
判 決
原 告 X
被 告 特 許 庁 長 官
指 定 代 理 人 槙 原 進
田 村 嘉 章
氏 原 康 宏
堀 内 仁 子
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 原告の求めた判決
特許庁が不服2012-3683号事件について平成24年8月20日にした審
決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,特許出願拒絶審決の取消訴訟である。争点は,容易想到性の有無及び審
決の判断遺脱の有無である。
1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成19年9月11日,発明の名称を「発電装置」とする発明につき特
許出願(特願2007-235248号。公開公報は特開2009-71927号
〔甲9〕)をしたが,平成23年11月9日付けの拒絶査定を受けた。原告は,平成
24年2月27日,これに対する不服の審判(不服2012-3683号)を請求
したところ,特許庁は,同年8月20日,「本件審判の請求は,成り立たない。」と
の審決をし,その謄本は同年9月9日,原告に送達された。
2 本願発明の要旨
特許請求の範囲の請求項1に係る本願発明の要旨は,以下のとおりである。
【請求項1】
「軸を下端にて揺動自在に支持させ,該軸には支持アームを介して重りを突設し,
該軸の上端を往復駆動手段に連結して往復動させることにより該軸を回転させ,該
軸の回転により発電機を作動させるようにしてなる発電装置。」
3 審決の理由の要点
本願発明は,引用例1(特開平11-243665号公報,甲1)に記載された
引用発明及び引用例3(特開2000-73934号公報,甲3)に記載された事
項,周知技術及び慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたも
のである。
(1) 引用例1には,次の引用発明が記載されていることが認められる。
「外部動力源Aにおいて動力発生部1が発生する動力で動力軸2を回転させ,該動
力軸2の回転により前記外部動力源Aからの動力を伝達する動力伝達機構15が発
電機10を回転駆動させるようにしてなる簡易型発電装置B。」
(2) 本願発明と引用発明との一致点と相違点は次のとおりである。
【一致点】
「軸を回転させ,該軸の回転により発電機を作動させるようにしてなる発電装置。」
【相違点】
軸を回転させることに関し,本願発明では,「軸を下端にて揺動自在に支持させ,
該軸には支持アームを介して重りを突設し,該軸の上端を往復駆動手段に連結して
往復動させることにより該軸を回転させ」るのに対して,引用発明では,
「外部動力
源Aにおいて動力発生部1が発生する動力で動力軸2を回転させ」るものであり,
そのような特定はされていない点。
(3) 相違点に関する判断は,概ね以下のとおりである。
引用例3には,
「斜軸2を下端にて揺動自在に支持させ,該斜軸2には支持棒9を
介して重り10を突設し,該斜軸2をレバー8が左右に往復して作動する手段に連
結して往復動させることにより該斜軸2を回転させる回転機。が記載されていると

ころ,引用例3の「斜軸2」「支持棒9」「重り10」「レバー8が左右に往復し
, , ,
て作動する手段」はそれぞれ本願発明の「軸」「支持アーム」「重り」「往復駆動
, , ,
手段」に相当するから,
「軸を下端にて揺動自在に支持させ,該軸には支持アームを
介して重りを突設し,該軸を往復駆動手段に連結して往復動させることにより該軸
を回転させる回転機」が記載されていると認められ,このものにおいて,軸の回転
運動による動力が何らかの負荷に伝達されることは明らかである。
そして,重りを設けた軸を揺動させることにより該軸を回転させる回転機におい
て,該軸の回転により発電機を作動させることは,本件出願前の慣用技術であるか
ら,引用発明に引用例3に記載の上記事項を適用することは当業者が容易に想到し
得るものと認められ,その際,引用発明の外部動力源Aにおいて動力発生部1が発
生する動力で動力軸2を回転させるところ,それに合わせて引用例2に記載がある
ように本件出願前に周知技術である回転運動を往復動運動に変換する機構を採用す
ることは,当業者が適宜なし得ることである。
また,軸を往復駆動手段に連結するにあたり,本願発明が連結箇所を軸の上端に
特定したことについて,支持アームを介して重りを突設した軸を回転させるのに連
結位置の最適化を図った程度のものといえ,格別な技術的意義を認めることができ
ず,引用例3に記載の上記事項においても往復駆動手段との連結位置の最適化は当
然に図られるものであり,その際,連結位置は支持アームを介して重りを突設した
軸を所望の状態で回転させるために必要な往復動の力,往復駆動手段のストローク
や駆動力,軸の寸法,装置の寸法等に応じて任意に設定されるものであるから,軸
の上端を往復駆動手段に連結することは当業者が適宜なし得ることである。
そして,上記相違点に係る本願発明の構成について,本願明細書中にはその技術
的意義を説明した記載は見当たらない。
また,上記相違点に係る本願発明の構成により,本願明細書の【0008】~【0
011】に記載された課題を達成し,また,
【0015】に記載された効果を奏する
ことができるものとも認められない。本願発明の全体構成により奏される作用効果
は,引用発明,引用例3に記載の事項,上記周知技術及び上記慣用技術から当業者
が予測し得る範囲内のものである。
第3 原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(引用発明及び引用例の認定について)
審決は,本願発明のクレームにならって,引用発明を恣意的に認定しており不当
である。特に,引用例3について,本願発明の請求項1と全く同じような言葉・語
句を同じような順序に並べ,請求項1と瓜二つの文言としたのは恣意的というより
ほかにない。
2 取消事由2(容易想到性判断の誤りについて)
本願発明では,往復駆動手段について特定していないのに対し,引用例3では回
転機自体の内部に往復駆動手段を一体的に設置しており,この点で異なるのに,審
決はこの違いについて認定判断していない。
したがって,このような違いがあるのに,引用発明に引用例3を適用して容易想
到とした審決の判断は誤りである。
3 取消事由3(判断の遺脱について)
原告は,2つの請求項を出願したのに,審決は請求項1についてしか判断をして
いない。これは,恣意的なものであり,特許法36条5項に違反して,出願人の権
利を侵害するものである。
第4 被告の反論
1 取消事由1に対し
審決における引用発明及び引用例3に記載の事項の認定は,それぞれ引用例1及
び引用例3の記載に基づいてなされたものであり,恣意的に認定したものではない。
2 取消事由2に対し
審決は,引用例3に記載された往復駆動手段 「レバー8が左右に往復して作動す

る手段」)が,本願発明の往復駆動手段のように,軸(斜軸2)の「上端」に連結さ
れたものでないことを踏まえて(その違いを認めた上で) 相違点の容易想到性につ

いて認定判断するものであるから,原告の主張に理由はない。
そして,審決で説示したとおり,軸に対する往復駆動手段の連結位置は,支持ア
ームを介して重りを突設した軸を所望の状態で回転させるために,必要な往復動の
力,往復駆動手段のストロークや駆動力,軸の寸法,装置の寸法等に応じて任意に
設定され得るものであるから,軸に対する往復駆動手段の連結位置を「上端」とす
ることは,当業者が適宜なし得ることと判断したものであり,その判断に誤りはな
い。
ところで,原告は,
「引用例3では回転機自体の内部に往復駆動手段を一体的に設
置している」と指摘するが,引用例3には,実施例として,回転機自体の内部に往
復駆動手段を一体的に設置することが記載されているとしても,軸に対する往復駆
動手段の連結位置は,軸を往復動させることにより該軸を回転させることのできる
任意な位置に設定される設計事項というべきものであるから,必ずしも回転機自体
の内部に往復駆動手段を一体的に設置させなければならないものではない。
また,審決の相違点,一致点の認定に誤りはなく,各種の動力源を採用可能とし
た引用発明の「外部動力源A」として,動力源として機能する引用例3に記載の事
項の「回転機」を採用することの動機付けは十分存在し,また,その適用に技術上
の支障がないことも,審決に示した慣用技術に照らして明らかである。すなわち,
重りを設けた軸の回転により発電機を作動させ得ることは慣用技術(甲6:特開平
9-209909号公報,甲7:特開平6-66249号公報及び甲8:特開20
02-285953号公報を参照。 であり,
) 引用発明に引用例3に記載の事項の適
用を妨げる事情のないことは当業者には明らかである。よって,本願発明は,引用
発明に引用例3に記載の事項を適用することにより,当業者が容易に発明をするこ
とができたものである。
よって,審決の認定判断に誤りはない。
3 取消事由3に対し
特許法49条は,「審査官は,特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは,
その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。と規定してい

るが,この規定によれば,一つの特許出願に複数の請求項に係る発明が含まれてい
る場合であっても,そのうちのいずれか一つでも特許法29条等の規定に基づき特
許をすることができないものであるときは,その特許出願全体を拒絶すべきことを
規定しているものと解すべきである。これを前提として,審決は,本願発明,すな
わち本件出願の請求項1に係る発明について,特許法29条2項の規定により特許
を受けることができないと判断しているのであるから,これによって特許出願が全
体として特許法49条2号に該当し,拒絶をすべきものとなることは明らかである。
仮に,審決が本件出願の請求項2に係る発明について具体的に判断をしたとしても,
本願発明,すなわち,本件出願の請求項1に係る発明が特許法49条2号に該当す
る以上,特許出願全体を拒絶すべきものであるという結論には影響しない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1について
引用例1の請求項1の記載,
【0006】【0009】ないし【0012】【00
, ,
19】【図1】の記載によれば,
, 「外部動力源Aにおいて動力発生部1が発生する動
力で動力軸2を回転させ,該動力軸2の回転により前記外部動力源Aからの動力を
伝達する動力伝達機構15が発電機10を回転駆動させるようにしてなる簡易型発
電装置B。 が記載されていると認められるから,
」 審決のした引用発明の認定に誤り
はない。
また,引用例3の請求項1の記載,
【0005】【0007】【要約】及び【図1】
, ,
の記載によれば,引用例3に「斜軸2を下端にて揺動自在に支持させ,該斜軸2に
は支持棒9を介して重り10を突設し,該斜軸2をレバー8が左右に往復して作動
する手段に連結して往復動させることにより該斜軸2を回転させる回転機。が記載

されていると認められるから,審決のした引用例3の認定に誤りはない。
原告は,審決が引用発明及び引用例3の記載事項の認定について本願発明の請求
項1と全く同じような語句を同じように並べ,瓜二つの文言としたことは恣意的で
あると主張する。しかし,主引用発明である引用発明(甲1)の認定は,本願発明
との対比判断を行う前提として行われるものであり,また,引用例3の記載事項の
認定についても,引用発明と本願発明との相違点を認定した上で当該相違点に係る
容易想到性判断を行う前提として行われる認定であることからすれば,引用発明及
び引用例3の記載事項の認定に際しては,各引用例の記載をふまえて,本願発明の
構成に対応する用語で文章化するのが相当である。この手法に従った審決の認定が
恣意的になされたものであるということはできない。
取消事由1は理由がない。
2 取消事由2について
原告は,本願発明では往復駆動手段について特定していないのに,引用例3では
回転機自体の内部に往復駆動手段を一体的に設置していて,この点が相違するのに,
引用発明に引用例3の記載事項を適用して容易想到としたのは誤りである旨主張し,
これを前提とした審決の対比・判断を争っている。
しかしながら,審決は,引用例1に記載された発明を主引用発明として,本願発
明との対比判断を行い,一致点及び相違点を明らかにした上で,当該相違点に引用
例3の記載事項等を適用することが容易想到であるか否かにつき検討しているので
ある。すなわち,引用例3の記載事項は上記に認定したとおり,
「斜軸2を下端にて
揺動自在に支持させ,該斜軸2には支持棒9を介して重り10を突設し,該斜軸2
をレバー8が左右に往復して作動する手段に連結して往復動させることにより該斜
軸2を回転させる回転機。」であるところ,これは,軸の回転運動による動力が何ら
かの負荷に伝達され,動力源として機能するというものであり,この点をもって,
審決は引用例3に記載事項と認定したものであって,この事項と審決認定の慣用技
術及び周知技術を踏まえて,引用発明からの容易想到性の結論を導いている。この
ように,審決は,引用例3の記載事項と本願発明との対比から出発しているもので
はないから,原告の主張は,審決の判断過程を正解しないものであって,採用でき
ない。
取消事由2は前提を欠き,理由がない。
3 取消事由3について
原告は,審決は請求項1に係る本願発明についてのみ判断し,請求項2に係る発
明について判断しておらず,違法,不当であると主張する。
しかしながら,特許法は,一つの特許出願に対し,一つの行政処分としての特許
査定又は特許審決がされ,これに基づいて一つの特許が付与され,一つの特許権が
発生するという基本構造を前提としており,請求項ごとに個別に特許が付与される
ものではない。このような構造に基づき,複数の請求項に係る特許出願であっても,
特許出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許
査定又は拒絶査定をするほかなく,一部の請求項に係る特許出願について特許査定
をし,他の請求項に係る特許出願について拒絶査定をするというような可分的な取
扱いは予定されていない。このことは,特許法49条,51条の文言や,特許出願
分割制度の存在自体に照らしても明らかであって(最高裁平成20年7月10日第
一小法廷判決・民集62巻7号1905頁参照) もとより同法36条5項に違反す

るものではない。また,請求項1に係る本願発明が容易想到と認められる以上,本
件出願を拒絶査定した処分を取り消す理由はないことから,請求項2についての判
断が不要となったにすぎず,請求項1のみを判断した審決が恣意的なものであると
いうこともできない。
したがって,審決が請求項2に係る発明について判断をしなかったとしても違法
ではなく,原告が主張する取消事由3は理由がない。
第6 結論
以上によれば,原告主張の取消事由はすべて理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
塩 月 秀 平
裁判官
中 村 恭
裁判官
中 武 由 紀

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