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平成25(行ケ)10023審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成25年6月20日
事件種別 民事
当事者 被告株式会社ウインライト中川直政
原告株式会社ナビ粟谷しのぶ
法令 商標権
商標法2条3項3号6回
商標法2条3項8号2回
商標法50条1回
キーワード 審決29回
商標権2回
実施1回
主文 原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は,原告が,後記1の原告の本件商標に係る登録商標に対する不使用を理由 とする当該登録の取消しを求める被告の後記2の本件審判請求について,特許庁が 同請求を認めた別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は後記3のとおり) には,後記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案であ る。

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判決文

平成25年6月20日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成25年(行ケ)第10023号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成25年5月30日
判 決
原 告 株 式 会 社 ナ ビ
同訴訟代理人弁護士 中 村 眞 一
粟 谷 し の ぶ
山 崎 岳 人
被 告 株式会社ウインライト
同訴訟代理人弁護士 原 秋 彦
中 川 直 政
同 弁理士 原 島 典 孝
板 垣 忠 文
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が取消2011-300679号事件について平成24年12月18日に
した審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,原告が,後記1の原告の本件商標に係る登録商標に対する不使用を理由
とする当該登録の取消しを求める被告の後記2の本件審判請求について,特許庁が
同請求を認めた別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は後記3のとおり)
には,後記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案であ
る。
1 本件商標
原告は,平成15年10月31日,「JanNavi」の欧文字と「ジャンナビ」
の片仮名文字を二段に横書きしてなる商標(以下「本件商標」という。)について,
第9類「業務用テレビゲーム機,家庭用テレビゲーム機,硬貨作動式機械用の始動
装置,ゲーム機(テレビジョン受像機専用のもの),コンピュータ用プログラムを
記憶させた記憶媒体」,第28類「マージャン用具,硬貨投入式麻雀卓」及び第4
1類「インターネットのネットワークを利用して対戦する麻雀ゲームの提供,通信
を用いて行う麻雀ゲームの提供,麻雀の教授,麻雀競技会の企画・運営又は開催,
麻雀荘の提供,麻雀大会の企画・運営又は開催,麻雀用具の貸与,娯楽の提供,娯
楽情報の提供,ゲームセンターの提供,会員制による教育・娯楽の提供」を指定商
品又は指定役務として,登録出願をし,平成16年9月17日,設定登録を受けた
(登録第4802600号商標。甲63,64)。
2 特許庁における手続の経緯
(1) 被告は,平成23年7月19日,継続して3年以上日本国内において商標権
者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが本件商標を指定商品中第9類「業
務用テレビゲーム機,家庭用テレビゲーム機,ゲーム機(テレビジョン受像機専用
のもの),コンピュータ用プログラムを記憶させた記憶媒体」(以下「本件指定商
品」という。)について使用した事実がないと主張して,取消審判を請求し,当該
請求は同年8月2日に登録された。
(2) 特許庁は,これを取消2011-300679号事件として審理し,平成2
4年12月18日,「本件商標の指定商品中,本件指定商品については,その登録
は取り消す。」旨の本件審決をし,同月28日にその謄本が原告に送達された。
3 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,要するに,原告は,本件審判の請求の登録前3年以内に日本
国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが本件指定商
品のいずれかについて,本件商標の使用をしていた事実を証明したものとは認めら
れないから,本件商標の登録は,商標法50条の規定により,本件指定商品につい
て取り消すべきである,というものである。
4 取消事由
本件商標の不使用に係る判断の誤り
第3 当事者の主張
〔原告の主張〕
1 「業務用テレビゲーム機」について
(1) ナビゲーションシステムを搭載した麻雀台「ジャンナビ」(以下「本件麻雀
台」という。)の「業務用テレビゲーム機」該当性について
本件審決は,本件麻雀台はゲームセンターやアミューズメントセンター向けの機
能である課金用のコイン投入口やカード挿入口等の特徴がないことなどから,「業
務用テレビゲーム機」に該当しないと判断した。
しかし,ゲームセンターや遊園地等のアミューズメントスポットでは,入口で接
触読み取り型カードを受け取り,それをゲーム機に取り付けてあるアンテナに接触
させ,出口で精算をするというシステムを採用しているところもあり,コイン投入
口やカード挿入口を備えていることは,必ずしも「業務用テレビゲーム機」として
の必須条件ではない。
他方,本件麻雀台は,ゲームセンターやアミューズメントセンター向けに製品化
された点棒を使用しない麻雀台であり,自動点数計算システム「ジャンナビ」は,
リーチをすると,中央の画面上にゲーム的なアクションが起こるなど,ゲームセン
ター向けの工夫が凝らされているものである。実際,原告は,平成16年2月,ア
ミューズメントセンターを運営する株式会社ランシステムに本件麻雀台の販売活動
を行い,また,平成22年頃には,ラスベガスのカジノ向けにデジタル化した麻雀
台の開発をしたいとの引き合いも受けている。
以上のとおり,本件麻雀台は,「業務用テレビゲーム機」として開発されたもの
であり,課金用のコイン投入口やカード挿入口の有無にかかわらず,その用途及び
機能において,「業務用テレビゲーム機」に該当するものである。
したがって,本件審決の判断は,誤りである。
(2) 本件商標を付した麻雀台について
ア 本件審決は,本件商標を付した麻雀台が要証期間(平成20年8月2日から
平成23年8月1日まで。以下「本件要証期間」という。)に存在した事実は認め
られず,そのような麻雀台が販売されたことを証明する証拠もないと判断した。
しかし,原告は,平成23年4月8日,原告のホームページのためにドメインを
取得し,同月11日には,あらかじめ制作していたWebデータを用いて,ホーム
ページを開設し,同ホームページ上で「ジャンナビ」と名付けた本件麻雀台を販売,
レンタルしており,その事実は A の陳述書(甲39)によって裏付けられている。
なお,本件審決は, A が原告と密接な関係にある人物であることをもって, A の
陳述書には信用性が認められないと判断した。
しかし, A は,平成23年4月9日から同年5月31日までの間,原告の代表取
締役であり,同年4月当時,ホームページを制作,開設した当事者でもある。その
当時, A と原告が密接な関係にあったことは当然であり,かかる事実をもって,同
人の陳述の信用性が否定されることにはならない。
イ また,有限会社LSコミュニケーションズ(以下「LSコミュニケーション
ズ」という。)のアミューズメント事業部長である B の陳述書(甲43)には,概
略,「弊社は,平成23年5月1日に,麻雀ゲームジャンナビを記憶させたCD-
Rを原告から受け取りました。その後,同年6月3日に,ソフトウェア製品の販売
に関する契約に合意し,旧車二輪専門店BANBAN(以下「BANBAN」とい
う。)に対し,ソフトを販売しました。BANBANのホームページには,平成2
4年6月から麻雀ゲームジャンナビが掲載しています。さらに,同月6日には,販
売代理店契約を原告との間で結び,全自動の麻雀台「ジャンナビ」を麻雀店ファー
ストワンに販売した。」との記載があるが,BANBANのホームページに麻雀ソ
フトジャンナビが掲載されたのは,「平成23年6月」の誤記である。したがって,
LSコミュニケーションズが麻雀店ファーストワンに麻雀台「ジャンナビ」を販売
したのは,本件要証期間内の平成23年6月6日である。
ウ 以上のとおり,本件要証期間には,本件商標を付した「業務用テレビゲーム
機」が存在し,これが販売されていたものであり,本件審決の判断は誤りである。
2 「コンピュータ用プログラムを記憶させた記憶媒体」について
(1) 本件審決は,原告が麻雀店すずめ(以下「すずめ」という。),株式会社A
IRCAST(以下「AIRCAST」という。)及びLSコミュニケーションズ
に対して,麻雀ゲームコンテンツ「ジャンナビ」のソフトウェア(以下「本件ソフ
トウェア」という。)を提供した行為は,商品の販売ではなく,商品の貸与又は役
務の提供に当たると判断した。
しかし,商標法2条3項3号ないし6号が規定する役務の「使用」の概念は,「役
務が無形の財であり,直接標章を付することができないため,有形物を介して「使
用」されることとなること,また,需要者の目に触れることにより自他役務の識別
商標として機能し得るものを「使用」とすべき」(特許庁編「工業所有権法逐条解
説」第16版,発明協会)との考え方に基づくものである。すなわち,CD-R等
の役務提供の用に供する物に標章を付する行為は,それ自体が商標法上の「使用」
に該当するのであり,原告が,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rに本件商標
を付する行為も「使用」(同項3号)に該当するものである。
また,原告が,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを,すずめ,AIRCA
ST及びLSコミュニケーションズに提供することによって役務を提供した行為も
「使用」(同項4号)に該当するものである。
さらに,原告は,ホームページの「ECショップ/販売・レンタル」欄に,本件
商標を付して,「麻雀ゲームジャンナビ(PC版)」「麻雀ゲームジャンナビ(携
帯版)」を掲載した。かかる行為は,本件商標の広告的使用(同項8号)に該当す
る。
(2) 原告とすずめとの間の取引について
本件審決は,甲22の物品受領書は原告とすずめとの間の取引書類とは認められ
ず,また,甲51の領収証(控)の信用性も認められないとして,原告がすずめに
対し,平成23年4月30日に本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを販売した
ことを認めることはできないと判断した。
しかし,次のとおり,本件審決の判断は誤りである。
ア 本件審決は,上記物品受領書の宛名や作成者欄の記載からすると,同物品受
領書は,すずめと株式会社正成との取引を示すものであって,原告とすずめとの間
の取引書類とは認められないと判断した。
しかし,上記物品受領書中,原告の名前が記載されるべきところに「すずめ」と
記載されたのは,納品書(控)・請求書・納品書・物品受領書が4枚綴りとなった
複写式のものにつき,納品書と物品受領書との間に厚紙を入れて,物品受領書の左
上に原告の記名をすべきところを,厚紙を入れ忘れたため,原告がすずめ宛てに交
付するために納品書用に記載した「すずめ」が物品受領書の左上にも記載され,そ
の訂正がされないまま,すずめから原告に交付されたことによる。上記物品受領書
の「すずめ」の記載は,事務上のミスにすぎない。
イ 本件審決は,上記領収証(控)の伝票番号及び品名が上記物品受領書と同一
でないとして,同領収証(控)の記載内容に信憑性があるものとは認められないと
判断した。
しかし,物品受領書と金銭の領収書は,異なる書類であり,それぞれの伝票番号
の記載方法が異なることは当然にあり得ることである。また,上記物品受領書の品
名の記載欄は小さいため,上記領収証(控)のように詳細な記載をすることができ
なかったものであり,これらの相違は,証拠の信用性を否定するほどの相違ではな
い。
ウ そして,上記物品受領書の品名に「麻雀ジャンナビソフト貸与 平成23年
5月~10月分」との記載があること,この記載が原告とすずめとの間のコンテン
ツの利用契約書(甲21)や上記領収証(控)の記載と合致することなどからする
と,原告とすずめの間では,本件要証期間に本件ソフトウェアの提供に係る取引が
あったと認められるべきである。
(3) 原告とAIRCASTとの間の取引について
本件審決は,甲53の領収証(控)は信用性が認められないなどとして,原告が
AIRCASTに対し,平成23年4月20日に本件ソフトウェアを記憶させたC
D-Rを販売したことを認めることはできないと判断した。
しかし,次のとおり,本件審決の判断は誤りである。
ア 本件審決は,原告とすずめとの間の取引に係る領収証(控)(甲51)と同
様の理由により,原告とAIRCASTとの間の取引に係る領収証(控)(甲53)
の記載内容にも信憑性があるとは認められないと判断した。
しかし,前記(2)と同様に,上記領収証(控)の信用性は認められるべきである。
イ 本件審決は,AIRCASTの代表取締役でもある A の陳述(甲39,50)
について, A が原告及びAIRCASTと密接な関係のある人物であることからす
ると,その陳述のみをもって,原告からAIRCASTに麻雀ゲームが販売された
と認めることはできないと判断した。
しかし, A が原告やAIRCASTと密接な関係にあることのみをもって,上記
各陳述書の信用性を否定することはできない。そして,原告とAIRCASTとの
間のコンテンツの利用契約書(甲35),物品受領書(甲36)は,原告とAIR
CASTとの取引の存在を裏付けるものである。
(4) 原告とLSコミュニケーションズとの間の取引について
本件審決は,原告とすずめとの間の取引に係る領収証(控)(甲51)と同様の
理由により,原告とLSコミュニケーションズとの間の取引に係る領収証(控)(甲
52)の記載内容にも信憑性があるとは認められないなどとして,原告がLSコミ
ュニケーションズに対し,平成23年5月1日に本件ソフトウェアを記憶させたC
D-Rを販売したことを認めることはできないと判断した。
しかし,前記(2)と同様に,上記領収証(控)の信用性は認められるべきであり,
本件審決の判断は誤りである。
(5) LSコミュニケーションズとBANBANとの間の取引について
本件審決は,本件要証期間に,LSコミュニケーションズがBANBANに対し
て本件ソフトウェアを販売したとは認められないと判断した。
しかし,平成23年6月にLSコミュニケーションズがBANBANに対して本
件ソフトウェアを販売した事実は,原告とLSコミュニケーションズとの間のソフ
トウェア製品の販売に関する契約書(甲30),販売報告書(甲44),領収証(控)
(甲47)等により裏付けられているのであり,本件審決の上記判断は誤りである。
なお,本件審決は,上記販売報告書には報告者の押印がなく,また,その内訳欄
には誤記があるとして,同販売報告書が真正に作成されたものとは認められないな
どと判断した。
しかし,上記販売報告書は,メールに添付してLSコミュニケーションズから原
告に送付されたものであり,報告の内容及びメール添付上の便宜からすれば,必ず
しも報告者の押印が求められるものではない。また,「単価」と記載すべき欄を誤
って「件数」と記載したのは,ごく軽微なミスにすぎず,このような誤記があるこ
とをもって証拠全体の信用性を否定するのは,偏向した判断であるといわざるを得
ない。
3 以上のとおり,本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において,原告
及びLSコミュニケーションズは,本件指定商品について本件商標を使用していた
ものであり,本件商標の不使用に係る本件審決の判断は誤りである。
〔被告の主張〕
1 「業務用テレビゲーム機」について
(1) 本件麻雀台の「業務用テレビゲーム機」該当性について
ア 原告は,本件麻雀台が「業務用テレビゲーム機」に該当すると主張する。
しかし,原告が本件麻雀台と称するものは,甲4及び5に掲載された「ジャンナ
ビ JN01 全自動ナビゲーションシステム台」及び「ジャンナビ JN02 手打ち台」であ
ると見受けられるところ,これらの商品は,いずれも4人で卓を囲んで実物の麻雀
牌等を用いて麻雀を行うための台(実機)であり,国際分類第28類に属する「麻
雀台」にほかならない。
他方,「業務用テレビゲーム機」とは,ゲームセンターやアミューズメント施設
などに設置される,いわゆるアーケードゲームを意味するものである。
したがって,本件麻雀台は,「業務用テレビゲーム機」に該当しない。
イ 原告は,コイン投入口やカード挿入口を備えていることは「業務用テレビゲ
ーム機」としての必須条件ではないとか,ラスベガスのカジノ向けにデジタル化し
た麻雀台を開発したいとの引き合いを受けたなどとして,本件麻雀台は,「業務用
テレビゲーム機」に該当するものであると主張する。
しかし,「業務用テレビゲーム機」は,①テレビモニターとコンピュータゲーム
機本体から構成され,コンピュータゲーム機本体でゲームソフトを実行して,テレ
ビモニターを見ながらゲームを楽しむための用途に使用されるものであり,②ゲー
ムセンターやアミューズメントセンターで使用されるため,課金用のコイン投入口
やカード挿入口等の機能を有するものである。
しかるに,本件麻雀台は,ゲームソフトを実行してモニターでゲームを楽しむも
のではない上,課金のための機能も有しないから,「業務用テレビゲーム機」に該
当しないことは明らかである。
また,ラスベガスのカジノ向けにデジタル化した麻雀台を開発したいとの引き合
いを受けたという事実は, A の陳述書(甲39)に記載されているのみであり,客
観的な証拠によって裏付けられたものではないから,そのような事実があったかど
うかも疑問である。仮に,そのような引き合いがあったとしても,販売先のいかん
によって,麻雀台が「業務用テレビゲーム機」に性質を変えるものではない。
したがって,原告の主張は失当である。
(2) 本件商標を付した麻雀台について
ア 仮に,本件麻雀台が「業務用テレビゲーム機」に該当するとしても,本件麻
雀台が本件要証期間に販売された事実はなく,また,本件麻雀台に本件商標が付さ
れていたことの客観的な証拠もない。
イ 原告は,平成23年4月11日に開設された原告のホームページにおいて,
本件麻雀台を販売した旨主張する。
しかし,本件麻雀台の販売が行われたことを裏付ける客観的な証拠はない。
そもそも,ドメインを取得しても,コンテンツを掲載していないウェブサイトは
いくらでもあり,ドメイン取得の事実を示すのみでは,ホームページの運用開始日
が証明されるものではない。
かえって,ホームページの「沿革」欄には,平成16年9月に「ネットワークを
利用して対戦する麻雀ゲームジャンナビの提供」と記載されているが,同年7月1
日から平成18年5月24日まで,原告は,休眠会社の状態にあったこと, A は,
被告に対する平成19年4月10日付け通知書において,原告がネットワークを利
用して対戦する麻雀ゲームの提供を行っていないことを認めていること,ドメイン
の取得時期は, A が原告の代表取締役に就任した時期とほぼ一致していることなど
からすると,原告のホームページは,本件審判請求がされた後に,本件商標の使用
の体裁を取り繕うために制作されたものであると強く推認される。
したがって,原告の主張は失当である。
(3) LSコミュニケーションズを介した本件麻雀台の販売について
原告は, B の陳述書(甲43)に記載されている本件麻雀台の販売日の記載は誤
記であり,正しい記載に基づけば,LSコミュニケーションズは,「平成23年6
月6日」にファーストワンに本件麻雀台を販売したものである旨主張する。
しかし,原告の主張を裏付ける客観的な証拠は存在しない。したがって,そのよ
うな事実があった旨述べる B の陳述には,信憑性がないといわざるを得ない。
2 「コンピュータ用プログラムを記憶させた記憶媒体」について
(1) 原告は,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rに本件商標を付してすずめ,
AIRCAST及びLSコミュニケーションズに提供したことをもって,本件商標
を「コンピュータ用プログラムを記憶させた記憶媒体」に使用した旨主張するよう
である。
しかし,原告が本件商標を付して提供した旨主張しているのは,国際分類第35
類に属する「販売促進策の企画・実施」という役務であり,本件審判請求の対象と
なっている指定商品である「コンピュータ用プログラムを記憶させた記憶媒体」に
ついての使用ではない。
また,甲4,5には,本件ソフトウェアについて,「販売価格:¥500,00
0」「レンタル(1ヶ月):¥5,000」と記載されているが,このように高額
なゲームソフトウェアが「ゲームプログラム」という商品として独立して商取引の
対象とされるとは考えられない。
したがって,原告が,「コンピュータ用プログラムを記憶させた記憶媒体」であ
る商品に本件商標を付して本件要証期間に販売した事実を認めることはできない。
(2) 原告は,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rに本件商標を付する行為は,
商標法2条3項3号の「使用」に該当するとか,本件ソフトウェアを記憶させたC
D-Rを,すずめ,AIRCAST及びLSコミュニケーションズに提供すること
によって役務を提供した行為も同項4号の「使用」に該当するなどと主張する。
しかし,商標法2条3項3号及び同項4号に基づく使用は,いずれも役務の提供
に際してのものを指すものである。
したがって,原告が本件ソフトウェアを商標法2条3項3号又は4号に基づき使
用したことをもって,本件商標を「コンピュータ用プログラムを記憶させた記憶媒
体」という商品に使用した旨主張するのは,主張自体失当である。
(3) 原告は,そのホームページに本件商標を付して麻雀ゲームを掲載した行為が
商標法2条3項8号の広告的使用に当たると主張する。
しかし,原告のホームページの開設時期は立証されておらず,本件要証期間に当
該ホームページが閲覧可能であったことの立証もない。
したがって,原告の主張は失当である。
(4) 原告とすずめとの間の取引について
ア 甲22の物品受領書は,その記載自体から,原告とすずめとの間の取引書類
とは認められない。同物品受領書は,文面上明らかにすずめと株式会社正成との間
の取引書類である。
また,上記物品受領書の品名欄の記載が,同日に作成されたはずの領収証(控)
(甲51)の但書欄の記載と一致していないことも不可解である。
さらに,上記領収証(控)の但書欄には,「麻雀ジャンナビソフトの提供及び記
憶媒体の貸与として」と記載されており,本件審判請求に係る指定商品の文言に殊
更に近似した表現が使用されているのは,極めて不自然である。
イ 原告は,原告とすずめとの間の平成23年4月30日付けコンテンツの利用
契約書(甲21)も,両者間で本件要証期間に本件ソフトウェアの提供に係る取引
があったことの根拠である旨主張する。
しかし,本件審判手続において,上記コンテンツの利用契約書が提出されたのは,
原告による答弁書の提出(平成23年10月24日)から約8か月半も経過した平
成24年7月9日であるから,同契約書は,原告が本件商標の使用実績を取り繕う
目的で本件審判手続開始後にバックデートで作成されたものと推認され,同契約書
に証拠価値は認められない。
(5) 原告とAIRCASTとの間の取引について
ア 前記(4)アで領収証(控)(甲51)について述べたのと同様の理由により,
甲53の領収証(控)についても,信憑性は認められない。
また,物品受領書(甲36)の品名欄の記載が,同日に作成されたはずの領収証
(控)(甲53)の但書欄の記載と一致していないことも不可解である。
さらに,上記物品受領書の品名からも明らかなように,これは本件ソフトウェア
の貸与に関する取引の徴憑である。貸与という役務は商品の取引とは区別されるか
ら,同物品受領書は,そもそも商品の取引に関する徴憑ではない。したがって,仮
に,原告が同物品受領書に記載された貸与行為を現実に行っていたとしても,本件
指定商品について本件商標を使用したことにはならない。また,同物品受領書に示
されている取引は,代表者が同一人( A )の会社間における取引である。したがっ
て,同物品受領書に示されている原告とAIRCASTとの取引は, A の指示又は
支配の下で作成されたものであることや,不使用取消しを免れる目的で名目的に使
用の外観を作出するために作り出した取引であることが強く推認される。
イ 原告は,原告とAIRCASTとの間の平成23年4月20日付けコンテン
ツの利用契約書(甲35)も,両者間で本件要証期間に本件ソフトウェアの提供に
係る取引があったことの根拠である旨主張する。
しかし,前記(4)イと同様に,本件審判手続において上記コンテンツの利用契約書
が提出されたのは,平成24年7月9日であるから,同契約書は,原告が本件商標
の使用実績を取り繕う目的で審判手続開始後にバックデートで作成されたものと推
認され,同契約書にも証拠価値は認められない。
(6) 原告とLSコミュニケーションズとの間の取引について
前記(4)アで領収証(控)(甲51)について述べたのと同様の理由により,甲5
2の領収証(控)についても,信憑性は認められない。
また,物品受領書(甲28)の品名欄の記載が,同日に作成されたはずの上記領
収証(控)の但書欄の記載と一致していないことも不可解である。
そして,物品受領書の品名からも明らかなように,これは本件ソフトウェアの貸
与に関する取引の徴憑である。したがって,原告が同物品受領書に記載された貸与
行為を現実に行ったものと仮定しても,本件指定商品について本件商標を使用した
ことにはならない。
さらに,LSコミュニケーションズは,教育事業,中古車事業及び建築事業を行
う会社であり,同社のホームページに麻雀ゲームソフトを設置しても,顧客獲得効
果は期待できない。営利を目的とする会社が実際の営利的効果が得られることを期
待できないものをわざわざ費用を払って設置することは,およそ考えにくい。
したがって,原告は,LSコミュニケーションズに依頼して本件商標の使用の体
裁を取り繕うために本件ソフトウェアを販売したにすぎないことが強く推認される。
このような商標の使用は,仮に,それが原告による本件商標の使用と評価できると
しても,不使用取消しを免れるに足りる「使用」ではあり得ない。
(7) LSコミュニケーションズとBANBANとの間の取引について
ア 前記(4)アで領収証(控)(甲51)について述べたのと同様の理由により,
甲47の領収書(控)についても,信憑性は認められない。
イ 原告は,販売報告書(甲44)の誤記は軽微なミスであり,これをもって証
拠全体の信用性を否定することは本件審決の偏向した判断である旨主張する。
しかし,契約当事者間において枢要な位置を占める販売報告書において,このよ
うな明白かつ重要な誤記が看過されたまま数か月にわたって放置されることは,常
識では考えられず,同販売報告書は,最近になって原告が捏造したものと推認され
る。
また,上記販売報告書の備考欄には,「平成23年6月3日付け「ソフトウェア
製品の販売に関する契約」に従い麻雀ゲームソフト「ジャンナビ」Web上の提供」
と記載されている。同契約は,LSコミュニケーションズが「麻雀ゲームソフト ジ
ャンナビを複製し,当該複製品をインターネット上のサイト,ホームページに組み
込み販売する」ことができるというものであるが(第1条),LSコミュニケーシ
ョンズが自社のサイトにゲームソフトを組み込むことは,原告とLSコミュニケー
ションズとの間のコンテンツの利用契約書(甲27)で定められているから,上記
ソフトウェア製品の販売に関する契約(甲30)にいう「インターネット上のサイ
ト,ホームページ」とは,第三者のサイトやホームページと解される。すなわち,
ソフトウェア製品の販売に関する契約は,LSコミュニケーションズが麻雀ゲーム
ソフトを複製し,当該複製品を第三者のサイトやホームページに組み込んだ態様で
販売することを定めたものである。
しかるに,上記販売報告書では,「Web上の提供」と記載されており,LSコ
ミュニケーションズが自社のサイトでゲームソフトを提供したことが表示されてい
る。仮に,自社サイトで提供したのではなく,第三者に販売したのであれば,販売
報告書における販売報告の対象を単に「Web上の提供」と記載するはずはないか
ら,当該販売報告書の備考欄の記載は,ソフトウェア製品の販売に関する契約内容
と整合性がないものである。
さらに,上記販売報告書には,報告者による押印もないことからすると,当該報
告書は,最近になって原告によって捏造されたものとみるのが自然である。
ウ 原告は,原告とLSコミュニケーションズとの間の平成23年6月3日付け
ソフトウェア製品の販売に関する契約書(甲30)も,本件要証期間にLSコミュ
ニケーションズを介してBANBANに対し本件ソフトウェアを提供したことの根
拠である旨主張する。
しかし,前記(4)イと同様に,本件審判手続において上記ソフトウェア製品の販売
に関する契約書が提出されたのは,平成24年7月9日であるから,同契約書は,
原告が本件商標の使用実績を取り繕う目的で審判手続開始後にバックデートで作成
されたものと推認され,同契約書にも証拠価値は認められない。
3 よって,本件商標の不使用に係る本件審決の判断に誤りはない。
第4 当裁判所の判断
1 「業務用テレビゲーム機」について
(1) 原告は,本件要証期間には,本件商標を付した「業務用テレビゲーム機」が
存在し,これが販売されていたなどと主張する。
しかしながら,原告のいう本件麻雀台とは,甲4及び5に記載された「ジャンナ
ビ JN01 全自動 ナビゲーションシステム台」を指すものと解されるところ,この麻
雀台は,台中央に小さなモニターが備え付けられ,かつ,役牌の判定や点数計算を
自動で行う機能を有するものであるとしても,麻雀そのものは遊戯者が実際に台を
囲んで行う形態のものであることが一見して明らかである。
これに対し,「業務用テレビゲーム機」は,テレビモニターとコンピュータゲー
ム機本体から構成され,コンピュータゲーム機でゲームソフトを実行して,テレビ
モニターを見ながらゲームを楽しむための用途に使用されるものと解されるから,
本件麻雀台は,「業務用テレビゲーム機」に該当するものではない。
また,本件麻雀台に本件商標が付されていることを認めるに足りる客観的な証拠
もない。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(2) 以上によれば,その余の点について検討するまでもなく,原告が,本件要証
期間に本件商標を「業務用テレビゲーム機」について使用したと認めることはでき
ない。
2 「コンピュータ用プログラムを記憶させた記憶媒体」について
(1) 原告は,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rに本件商標を付する行為は
商標法2条3項3号の使用に該当するとか,本件ソフトウェアを記憶させたCD-
Rを,すずめ,AIRCAST及びLSコミュニケーションズに提供することによ
って役務を提供した行為は,同項4号の使用に該当するなどと主張する。
しかしながら,商標法2条3項3号及び同項4号は,役務の提供に当たりその提
供を受ける者の利用に供する物に標章を付する行為(同項3号)又は利用に供する
物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為(同項4号)を標章の使用と定
めているのであって,いずれも役務の提供における標章の使用についての規定であ
るから,これらの規定に基づき,本件指定商品についての本件商標の使用を認定す
ることはできない。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(2) 原告は,ホームページにおいて,本件商標を付して「麻雀ゲームジャンナビ
(PC版)」「麻雀ゲームジャンナビ(携帯版)」を掲載した行為は,商標法2条
3項8号に規定する商標の広告的使用に当たると主張する。
しかし,原告のホームページ(甲4,5)には,「ジャンナビ」との標章が付さ
れたパソコン版又は携帯版の麻雀ゲームが掲載されているものの,これらの麻雀ゲ
ームは,パソコン上又は携帯電話の画面上でいわゆるオンラインゲームとして遊戯
するものであるから(甲4,5),いずれも本件指定商品である業務用テレビゲー
ム機,家庭用テレビゲーム機,ゲーム機(テレビジョン受像機専用のもの)又はコ
ンピュータ用プログラムを記憶させた記憶媒体に該当するものではない。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(3) 原告は,本件要証期間に,すずめ,AIRCAST及びLSコミュニケーシ
ョンズに対し,本件商標を付して,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを提供
した旨主張する(なお,原告は,本件審判手続において,上記すずめらに対するC
D-Rの提供は,販売であった旨主張している。)。
そこで,以下,順次検討する。
ア 原告とすずめとの間の取引について
(ア) 原告は,本件要証期間に,すずめに対し,本件商標を付して,本件ソフト
ウェアを記憶させたCD-Rを提供したことの証拠として,甲22,51等を挙げ
る。
しかしながら,甲22の物品受領書の品名欄には,「麻雀ジャンナビソフト貸与
平成23年5月~10月分」と記載されているところ,同物品受領書の左上部には
すずめの名称が記載され,右上部には株式会社正成の名称が記載されるとともに,
株式会社正成の押印がされていることが認められ,かかる体裁からすると,同物品
受領書は,株式会社正成がすずめに対し,ジャンナビソフトの貸与を受けたことを
記載して交付した書面であるといわざるを得ず,すずめが原告から物品を受領した
ことを裏付ける書面であるということはできない。
次に,甲51及び59は,原告が,すずめから,3万円を受領したことが記載さ
れた平成23年4月30日付けの領収証(控)であり,その但書欄には,「麻雀ジ
ャンナビソフトの提供及び記憶媒体の貸与として」との記載がある。
しかしながら,上記領収証(控)の但書欄において,本件ソフトウェアを記憶さ
せたCD-Rについて,本件指定商品の記載に合わせるかのように「記憶媒体」と
表記しているのは不自然であるし,そもそも,原告は,前記のとおり,本件審判手
続では,すずめに対し,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを販売したと主張
しているのであるから,領収証(控)の但書欄に「記憶媒体の貸与として」と記載
されているのも不自然である。
また,本件審判手続において,原告は,特許庁から平成24年5月21日付け審
理事項通知書(乙1)により,原告が「コンピュータ用プログラムを記憶させた記
憶媒体」の販売を行っていたとは認め難いとの暫定的な見解が示された後,同年7
月9日に上記物品受領書及び領収証(控)を提出している。原告は,平成23年1
0月24日,特許庁に対し,答弁書と共に本件指定商品に係る使用の証拠(甲1~
9)を提出しているところ,上記物品受領書及び領収証(控)は,それ以前の同年
4月30日に作成されていたというのであるから,上記答弁書等と共に特許庁に提
出することも可能であったのに,特許庁から上記のような暫定的見解が示された後
になって初めてこれを提出していることからすると,上記物品受領書及び領収証
(控)の内容の信用性には疑問を持たざるを得ない。
したがって,上記物品受領書及び領収証(控)の信用性は乏しいといわざるを得
ず,同物品受領書及び領収証(控)をもって,本件要証期間に原告がすずめに対し,
本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを提供した証拠と認めることはできない。
(イ) なお, A の陳述書(甲39)や,すずめの経営者である C の陳述書(甲
42)には,平成23年4月30日,原告が,すずめに対し,本件商標を付して,
本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを提供した旨の記載がある。
しかしながら,原告とすずめとの間で,そのような取引があったことを裏付ける
に足りる客観的な証拠がない以上,上記各陳述のみをもって,本件要証期間に原告
がすずめに対し,本件商標を付して,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを提
供したことを認めることはできないし,他にこれを認めるに足りる証拠もない。
イ 原告とAIRCASTとの間の取引について
(ア) 原告は,本件要証期間に,AIRCASTに対し,本件商標を付して,本
件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを提供したことの証拠として,甲36,53
等を挙げる。
しかしながら,甲36の物品受領書の品名欄には,「麻雀ジャンナビソフト貸与
平成23年4月20日から6ヶ月」と記載されているところ,同物品受領書の左上
部には原告の名称が記載され,右上部にはAIRCASTの名称が記載されるとと
もに,AIRCASTの押印がされていることが認められ,かかる体裁からすると,
同物品受領書は,AIRCASTが原告に対し,麻雀ジャンナビソフトの貸与を受
けたことを記載して交付した書面であるといわざるを得ず,原告が本件審判手続に
おいて主張したように,原告がAIRACASTに対し,本件ソフトウェアを記憶
させたCD-Rを販売したことを裏付ける書面であるということはできない。
次に,甲53は,原告が,AIRCASTから,3万円を受領したことが記載さ
れた平成23年4月20日付けの領収証(控)であり,その但書欄には,「麻雀ジ
ャンナビソフトの提供及び記憶媒体の貸与として」との記載がある。
しかしながら,上記領収証(控)の但書欄において,本件ソフトウェアを記憶さ
せたCD-Rについて,本件指定商品の記載に合わせるかのように「記憶媒体」と
表記しているのは不自然であるし,そもそも,原告は,前記のとおり,本件審判手
続では,AIRCASTに対し,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを販売し
たと主張しているのであるから,領収証(控)の但書欄に「記憶媒体の貸与として」
と記載されているのも不自然である。
また,上記物品受領書及び領収証(控)は,いずれも平成23年4月20日に作
成されたというのであるが,これが本件審判手続において本件商標の使用に係る証
拠として提出されたのは,特許庁から平成24年5月21日付け審理事項通知書に
より,原告が「コンピュータ用プログラムを記憶させた記憶媒体」の販売を行って
いたとは認め難いとの暫定的な見解が示された後であるから,前記(3)ア(ア)と同様
に,その内容の信用性には疑問を持たざるを得ない。
したがって,上記物品受領書及び領収証(控)の信用性は乏しいといわざるを得
ず,同物品受領書及び領収証(控)をもって,本件要証期間に原告がAIRACA
STに対し,本件商標を付して,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを提供し
た証拠と認めることはできない。
(イ) なお, A の陳述書(甲39,50)には,平成23年4月20日,原告が,
AIRCASTに対し,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを提供した旨の記
載がある。
しかしながら,原告とAIRCASTとの間で,そのような取引があったことを
裏付けるに足りる客観的な証拠がない以上,上記各陳述のみをもって,本件要証期
間に原告がAIRCASTに対し,本件商標を付して,本件ソフトウェアを記憶さ
せたCD-Rを提供したことを認めることはできないし,他にこれを認めるに足り
る証拠もない。
ウ 原告とLSコミュニケーションズとの間の取引について
(ア) 原告は,本件要証期間に,LSコミュニケーションズに対し,本件商標を
付して,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを提供したことの証拠として,甲
28,61等を挙げる。
しかしながら,甲28の物品受領書の品名欄には,「ジャンナビソフト貸与(平
成23年5月~10月末)」と記載されているところ,同物品受領書の左上部には
原告の名称が記載され,右上部にはLSコミュニケーションズの名称が記載される
とともに,LSコミュニケーションズの押印がされていることが認められ,かかる
体裁からすると,同物品受領書は,LSコミュニケーションズが原告に対し,ジャ
ンナビソフトの貸与を受けたことを記載して交付した書面であるといわざるを得ず,
原告が本件審判手続において主張したように,原告がLSコミュニケーションズに
対し,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを販売したことを裏付ける書面であ
るということはできない。
次に,甲61は,原告が,LSコミュニケーションズから,3万円を受領したこ
とが記載された平成23年5月1日付けの領収証(控)であり,その但書欄には,
「麻雀ジャンナビソフトの提供及び記憶媒体の貸与として」との記載がある。
しかしながら,上記領収証(控)の但書欄において,本件ソフトウェアを記憶さ
せたCD-Rについて,本件指定商品の記載に合わせるかのように「記憶媒体」と
表記しているのは不自然であるし,そもそも,原告は,本件審判手続では,LSコ
ミュニケーションズに対し,本件ソフトウェアを記憶させたCD-Rを販売したと
主張しているのであるから,領収証(控)の但書欄に「記憶媒体の貸与として」と
記載されているのも不自然である。
また,上記物品受領書及び領収証(控)は,平成23年5月1日に作成されたと
いうのであるが,これが本件審判手続において本件商標の使用に係る証拠として提
出されたのは,特許庁から平成24年5月21日付け審理事項通知書により,原告
が「コンピュータ用プログラムを記憶させた記憶媒体」の販売を行っていたとは認
め難いとの暫定的な見解が示された後であるから,前記ア(ア)と同様に,その内容
の信用性には疑問を持たざるを得ない。
したがって,上記物品受領書及び領収証(控)の信用性は乏しいといわざるを得
ず,同物品受領書及び領収証(控)をもって,本件要証期間に原告がLSコミュニ
ケーションズに対し,本件商標を付して,本件ソフトウェアを記憶させたCD-R
を提供した証拠と認めることはできない。
(イ) なお, A の陳述書(甲39)及び B の陳述書(甲43)には,平成23
年5月1日,原告が,LSコミュニケーションズに対し,本件ソフトウェアを記憶
させたCD-Rを提供した旨の記載がある。
しかしながら,原告とLSコミュニケーションズとの間で,そのような取引があ
ったことを裏付けるに足りる客観的な証拠がない以上,上記各陳述のみをもって,
本件要証期間に原告がLSコミュニケーションズに対し,本件商標を付して,本件
ソフトウェアを記憶させたCD-Rを提供したことを認めることはできないし,他
にこれを認めるに足りる証拠もない。
エ LSコミュニケーションズとBANBANとの間の取引について
原告は,平成23年6月6日,LSコミュニケーションズを介して,BANBA
Nに本件ソフトウェアを販売したと主張する。
しかしながら,LSコミュニケーションズがBANBANに対し,本件ソフトウ
ェアを販売したことを認めるに足りる客観的な証拠はないから,原告の主張は採用
することができない。
(4) 以上によれば,原告が,本件要証期間に本件商標を「コンピュータ用プログ
ラムを記憶させた記憶媒体」について使用したと認めることはできない。
3 結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由には理由がなく,原告の請求は棄却
されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 土 肥 章 大
裁判官 大 鷹 一 郎
裁判官 齋 藤 巌

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