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昭和42(行ツ)29行政訴訟 特許権

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裁判所 最高裁判所第一小法廷
裁判年月日 昭和50年7月10日
事件種別 民事
法令 特許権
キーワード 分割14回
実施6回
主文 本件上告を棄却する。上告費用は上告人の負担とする。理 由上告代理人鈴木茂、同城山鉄雄、同中本宏、同松家健一、同玉虫久五郎、同江口俊夫の上告理由第一点について。原判決を通読すれば、原審が、本願発明と引用発明との同一性につき、その特許請求の範囲記載の各構成要件のみを形式的に対比して判断したものではなく、その発明の詳細な説明に記載された事項をも勘案してこれを判断したものであることは明らかであり、所論の点に関する原審の認定判断が正当として首肯するに足りるものであることは、のちに論旨第二点及び第三点について説示するとおりである。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。同第二点について。原判決は、本願発明につき、その特許請求の範囲及び「この発明は多段的に多重時分割通信を行うように構成し、且つ同期信号はその一段にだけ挿入し、他の段の同期をこれを利用して行わせること及びそれらの同期信号に該当する位置に通信路を設けたことを特徴とする多重多段的時分割通信方式にかかるもので、その目的とするところは通信路得数を多くするこの種通信方式を得ることにある」こと、引用発明につき、その特許請求の範囲及び「この発明は多重通信を実施するに当り、周波数分割と時分割とを組合せて搬送波の利用率を大きくして多重化を急速に大きくすることを目的とするものである」こと、並びに、両発明が原判示のような基本的着想において一致すること、を確定したうえ、この基本的構想を具体化するにあたり、引用発明にあたつては、複数個の信号を適当個数の群に分け、その各群について時分割を施した後、各群毎に異なる副搬送波に托送し、更にその全部を主搬送波で伝送する多重多段時分割の通信方式にこれを適用したものであつて、それは必ず主搬送波を用いるものであるが、本願発明の場合は、同様に多重多段の時分割信号を伝送するものではあるけれども、その伝送手段及びその多重多段にする手段についてはなんらの限定もしていないものである(したがつて、主搬送波を必ず必要とするものでもない 、とし、両者を比較す。)れば、引用発明のものは、必ず主搬送波を用いるものであり、その当然の結果として各副搬送波は必ず互に周波数を異にするものでなければならないのに対し、本願発明のものは主搬送波を必ずしも必要とせず、かつ、各搬送波の周波数も必ずしも互に異なることを要しないものであつて、この意味において引用発明を拡張したものであり、したがつて、両発明は、その基本的着想を共通にするものではあるが、その着想を具体化した発明そのものとしては、各その構成要件を異にするものであつて、これを同一発明とみることはできない、としているのであり、その認定判断は、原判決挙示の証拠に照らし、すべて正当として是認するに足り、その過程に所論の違法はない。所論は、引用発明の要旨は「周波数分割多重通信の入力信号を時分割多重信号とした通信方式で同期信号を搬送波の一にのみ挿入したもの」となり、本願発明の要旨は「周波数分割多重通信の入力信号を時分割信号とし、同期信号は一チヤンネル(一段)に挿入したもの」と「時分割信号を有線的に多段に伝送し、同期信号を一チヤンネル(一段)に挿入したもの」の二通りに表わされることを前提とし、本願発明の相当に重要な部分である右「周波数分割多重通信の入力信号を時分割信号とし、同期信号は一チヤンネル(一段)に挿入したもの」という部分は引用発明と全く一致するから、結局、本願発明は引用発明を全く包含するものとなる、として、原審の前記の認定判断を非難するけれども、それは、引用発明のものが必ず主搬送波を用いるものであるのに対して、本願発明のものが必ずしも主搬送波を必要としないものであるとする原審の認定事実を無視した両発明の要旨の把握を前提とする議論であるから、失当というべきである。なお、所論は、引用発明の要旨の把握にあたり、その同期信号挿入位置は「主搬送波又は副搬送波の一にのみ」と択一的であつても発明としてみれば搬送波の一にのみ挿入した場合に帰するとし、本願発明は引用発明のように主搬送波に同期信号を挿入する場合を含まない意味においてこれを狭く限定したものであるとする原審の判断を非難するけれども、本願発明が主搬送波に同期信号を挿入する場合を含まないとする原審の認定判断は原判決挙示の証拠に照らして首肯しうるところであり、仮に所論のように同期信号を副搬送波の一に挿入したものも同期信号を主搬送波の一に挿入したものも発明としてみればともに同期信号を搬送波の一にのみ挿入したものとみるべきであるとしても、本願、引用両発明が既に前述の点においてその構成要件を異にするものである以上、それは原判決の結論に影響するものではない。なお、所論は、引用発明のものが同期信号を副搬送波に挿入した場合と、本願発明のものが主搬送波を使用した場合とにおいては、両発明がその実施の態様においてこれを区別できない場合のありうることは否定できないとした原審の判断は、両発明の構成要件の技術的解釈を誤つたため、実施の態様と構成要件とを誤認混同したものであるというけれども、この場合においても発明必須の構成要件としては両者間に差異があるとした原審の判断の正当であることは、既に述べたところから明らかである。論旨は、すべて採用することができない。同第三点について。引用発明と本願発明とは発明の構成要件を異にするものであり、ただその実施の態様において互に重複する場合がありうるにすぎないとする原審の判断が正当であることは、既に述べたところである。ところで、本件においては、引用発明のものは必ず主搬送波を用いるものであるのに、本願発明のものは必ずしも主搬送波を必要としないものであつて、その点において両発明がその構成要件を異にするのであるが、このように、先願発明に付された限定を不必要とする点において後願発明に別個の技術的思想を見出しうる場合にあつては、本願発明のものが主搬送波を使用したような場合を考えれば、両発明は常にその実施の態様において重複する場合がありうることとなるけれども、もとより、そのゆえに両発明が同一であるということになるものでもなく、また、旧特許法(大正一〇年法律第九六号)八条が、そのような場合にまで、実施の態様において重複する部分を除外しない以上同一発明として後願を拒絶すべきものとする趣旨の規定であると解することもできない。本願発明と引用発明とを同一発明ということはできないとした原審の判断は正当であり、論旨は採用することができない。よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。最高裁判所第一小法廷裁判長裁判官 団 藤 重 光裁判官 藤 林 益 三裁判官 下 田 武 三裁判官 岸 盛 一裁判官 岸 上 康 夫
事件の概要

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判決文

主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人鈴木茂、同城山鉄雄、同中本宏、同松家健一、同玉虫久五郎、同江口俊夫の上
告理由第一点について。
原判決を通読すれば、原審が、本願発明と引用発明との同一性につき、その特許請求の範
囲記載の各構成要件のみを形式的に対比して判断したものではなく、その発明の詳細な説明
に記載された事項をも勘案してこれを判断したものであることは明らかであり、所論の点に
関する原審の認定判断が正当として首肯するに足りるものであることは、のちに論旨第二点
及び第三点について説示するとおりである。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切で
ない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
同第二点について。
原判決は、本願発明につき、その特許請求の範囲及び「この発明は多段的に多重時分割通
信を行うように構成し、且つ同期信号はその一段にだけ挿入し、他の段の同期をこれを利用
して行わせること及びそれらの同期信号に該当する位置に通信路を設けたことを特徴とする
多重多段的時分割通信方式にかかるもので、その目的とするところは通信路得数を多くする
この種通信方式を得ることにある」こと、引用発明につき、その特許請求の範囲及び「この
発明は多重通信を実施するに当り、周波数分割と時分割とを組合せて搬送波の利用率を大き
くして多重化を急速に大きくすることを目的とするものである」こと、並びに、両発明が原
判示のような基本的着想において一致すること、を確定したうえ、この基本的構想を具体化
するにあたり、引用発明にあたつては、複数個の信号を適当個数の群に分け、その各群につ
いて時分割を施した後、各群毎に異なる副搬送波に托送し、更にその全部を主搬送波で伝送
する多重多段時分割の通信方式にこれを適用したものであつて、それは必ず主搬送波を用い
るものであるが、本願発明の場合は、同様に多重多段の時分割信号を伝送するものではある
けれども、その伝送手段及びその多重多段にする手段についてはなんらの限定もしていない
ものである(したがつて、主搬送波を必ず必要とするものでもない。 、とし、両者を比較す

れば、引用発明のものは、必ず主搬送波を用いるものであり、その当然の結果として各副搬
送波は必ず互に周波数を異にするものでなければならないのに対し、本願発明のものは主搬
送波を必ずしも必要とせず、かつ、各搬送波の周波数も必ずしも互に異なることを要しない
ものであつて、この意味において引用発明を拡張したものであり、したがつて、両発明は、
その基本的着想を共通にするものではあるが、その着想を具体化した発明そのものとしては、
各その構成要件を異にするものであつて、これを同一発明とみることはできない、としてい
るのであり、その認定判断は、原判決挙示の証拠に照らし、すべて正当として是認するに足
り、その過程に所論の違法はない。
所論は、引用発明の要旨は「周波数分割多重通信の入力信号を時分割多重信号とした通信
方式で同期信号を搬送波の一にのみ挿入したもの」となり、本願発明の要旨は「周波数分割
多重通信の入力信号を時分割信号とし、同期信号は一チヤンネル(一段)に挿入したもの」
と「時分割信号を有線的に多段に伝送し、同期信号を一チヤンネル(一段)に挿入したもの」
の二通りに表わされることを前提とし、本願発明の相当に重要な部分である右「周波数分割
多重通信の入力信号を時分割信号とし、同期信号は一チヤンネル(一段)に挿入したもの」
という部分は引用発明と全く一致するから、結局、本願発明は引用発明を全く包含するもの
となる、として、原審の前記の認定判断を非難するけれども、それは、引用発明のものが必
ず主搬送波を用いるものであるのに対して、本願発明のものが必ずしも主搬送波を必要とし
ないものであるとする原審の認定事実を無視した両発明の要旨の把握を前提とする議論であ
るから、失当というべきである。なお、所論は、引用発明の要旨の把握にあたり、その同期
信号挿入位置は「主搬送波又は副搬送波の一にのみ」と択一的であつても発明としてみれば
搬送波の一にのみ挿入した場合に帰するとし、本願発明は引用発明のように主搬送波に同期
信号を挿入する場合を含まない意味においてこれを狭く限定したものであるとする原審の判
断を非難するけれども、本願発明が主搬送波に同期信号を挿入する場合を含まないとする原
審の認定判断は原判決挙示の証拠に照らして首肯しうるところであり、仮に所論のように同
期信号を副搬送波の一に挿入したものも同期信号を主搬送波の一に挿入したものも発明とし
てみればともに同期信号を搬送波の一にのみ挿入したものとみるべきであるとしても、本願、
引用両発明が既に前述の点においてその構成要件を異にするものである以上、それは原判決
の結論に影響するものではない。なお、所論は、引用発明のものが同期信号を副搬送波に挿
入した場合と、本願発明のものが主搬送波を使用した場合とにおいては、両発明がその実施
の態様においてこれを区別できない場合のありうることは否定できないとした原審の判断は、
両発明の構成要件の技術的解釈を誤つたため、実施の態様と構成要件とを誤認混同したもの
であるというけれども、この場合においても発明必須の構成要件としては両者間に差異があ
るとした原審の判断の正当であることは、既に述べたところから明らかである。論旨は、す
べて採用することができない。
同第三点について。
引用発明と本願発明とは発明の構成要件を異にするものであり、ただその実施の態様にお
いて互に重複する場合がありうるにすぎないとする原審の判断が正当であることは、既に述
べたところである。ところで、本件においては、引用発明のものは必ず主搬送波を用いるも
のであるのに、本願発明のものは必ずしも主搬送波を必要としないものであつて、その点に
おいて両発明がその構成要件を異にするのであるが、このように、先願発明に付された限定
を不必要とする点において後願発明に別個の技術的思想を見出しうる場合にあつては、本願
発明のものが主搬送波を使用したような場合を考えれば、両発明は常にその実施の態様にお
いて重複する場合がありうることとなるけれども、もとより、そのゆえに両発明が同一であ
るということになるものでもなく、また、旧特許法(大正一〇年法律第九六号)八条が、そ
のような場合にまで、実施の態様において重複する部分を除外しない以上同一発明として後
願を拒絶すべきものとする趣旨の規定であると解することもできない。本願発明と引用発明
とを同一発明ということはできないとした原審の判断は正当であり、論旨は採用することが
できない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致
の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 団 藤 重 光
裁判官 藤 林 益 三
裁判官 下 田 武 三
裁判官 岸 盛 一
裁判官 岸 上 康 夫

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