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昭和44(行ケ)30行政訴訟 商標権

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裁判所 東京高等裁判所
裁判年月日 昭和45年2月17日
事件種別 民事
法令 商標権
キーワード 審決15回
無効1回
主文
事件の概要

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判決文

       主   文
特許庁が、昭和四十三年十月二十九日、同庁昭和四一年審判第四、六一五号事件に
ついてした審決は、取り消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めた。
第二 請求の原因
原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のとおり陳述した。
一 特許庁における手続の経緯
 原告は、昭和四十一年七月十四日、特許庁に対し、被告の有する別紙第一記載の
商標(以下「本件商標」という。)につき、登録無効の審判の請求し、同年審判第
四、六一五号事件として審理されたが、昭和四十三年十月二十九日、「請求人の申
立ては成り立たない」旨の審決があり、その謄本は同年十一月二十日原告に送達さ
れた(出訴のための附加期間三カ月)。
二 審決の理由の要旨
 本件審決は、本件商標と別紙第二記載の登録商標(以下「引用商標」という。)
とを比較し、両者は外観、称呼および観念のいずれの点においても類似していない
とし、その理由を次のとおり説明する。すなわち、本件商標は、星の図形に「Si
ngle」の欧文字を重画し、その下方に「Singlestar Brand」
の欧文字を配してなるもので、看者をしてこれら全部が結合してなる商標と理解さ
せるものであるが、引用商標は、角ゴシツク体の「SINGER」の欧文字のみか
らなるものであるから、両者は外観上相違するものとして認識されることはいうま
でもなく、仮りに、本件商標の構成中、「Single」の欧文字部分を抽出し
て、引用商標の「SINGER」なる欧文字と比較してみても、前者は図案化した
書体、後者は角ゴシツク体で、書体を異にするばかりでなく、綴字の数が共に六字
で、第四字までが同一文字であるにせよ、第五字及び第六字が、前者は「le」、
後者は「ER」と相違することが明らかであるから、両者は、文字全体の外観にお
いて非類似のものとするのが相当とすべく、さらに、本件商標は、その構成におい
て、「星の図形」を顕著に描画してあるので、この部分から「星」(STAR)の
イメージを惹起させ、
これに「一個の」「一つの」を意味する「Single」の欧文字を配し、さらに
その下方に「Singlestar Brand」なる欧文字が配置されているか
ら、「シングルスター」の称呼及び「一個の星」「一つの星」の観念を生じさせる
ものであるのに対し、引用商標は、「SINGER」の欧文字のみからなる構成で
あるから、容易に「シンガー」の称呼及び「歌手」の観念を生じさせるものであ
り、仮りに、本件商標の「Single」の部分が特に強い印象を与えるものとし
ても、その称呼「シングル」と引用商標の称呼「シンガー」とは、聴者をして識別
困難にさせるほど類似しているものではなく、また、それぞれ前記のように異なる
意味を有する語であることが明らかであるから、両商標は、称呼及び観念上も相紛
れるおそれはなく、非類似の商標であるとしている。
 さらに、本件審決は、本件商標は商品の誤認又は混同を生じさせるおそれがない
旨を次のとおり説明する。すなわち、本件商標と引用商標との各指定商品は同一又
は類似のものであり、引用商標が、わが国において、古くからアメリカ合衆国の
「ゼ・シンガー・カムパニー」の製造販売にかかる商品「ミシン」を表彰するもの
として広く知られているものであるが、「ミシン」の需要者は、購入に際し、当該
商品の機構性能の良否などについて厳密に吟味するものであり、附されている商標
についても、前記のような構成上の相違がある以上、本件商標を附した被告の製造
販売にかかる商品が、引用商標を附した原告会社の製造販売にかかる商品であるか
のように、商品の出所について混同を生じさせるおそれは皆無であり、したがつ
て、本件商標は、旧商標法(大正十年法律第九十九号)第二条第一項第十一号の規
定に違反して登録されたものでもないとしている。
三 審決を取り消すべき事由
 本件審決は、次のいずれの点においても判断を誤つた違法のもので、取り消され
るべきである。
(一)本件商標と引用商標とは、外観上類似の商標である。すなわち、本件商標の
構成は別紙第一記載のとおりであるが、そのうち下方に小さく横書きした「Sin
glestar Brand」の文字は附記的部分であり、商標の要部は、「Si
ngle」と大書した欧文字と星の図形の部分にあるとみるべきである。このよう
な文字と図形の結合からなる本件商標については、簡易迅速を尊ぶ商取引の実際に
おいて、文字及び図形のいずれからも称呼、観念が生じ、したがつて、「Sing
le」の文字が見る者の注意を引いて、それによつて称呼観念されることもあると
みるのが相当である。そこで、本件商標中の右「Single」の文字部分と引用
商標「SINGER」とを比較すると、両者は共にアルフアベツト六文字からな
り、前半の四字「SING」と語尾の二字のうち「E」とを共通にし、相違する文
字が語尾にある「L」と「R」にすぎないため、その相違はあまり明瞭に意識され
ず、取引者、需要者が両者を混同するおそれが多分にあり、両者は外観上類似する
ものというべきである。
(二)本件商標と引用商標とは、称呼上も類似の商標である。すなわち、前同様の
理由で、本件商標からは「シングル」の称呼を生ずるものというべきところ、引用
商標は「シンガー」の称呼で知られているが、「シンゲル」または「ジンゲル」の
称呼も生ずるものというべく、したがつて、「シングル」と「シンゲル」または
「ジンゲル」とを比較すると、両商標は称呼上も類似するものである。
(三)本件商標は、商品「ミシン」について、出所の混同を生じさせるおそれのあ
るものである。すなわち、本件審決の説くように、需要者等がミシンの購入にあた
り、常に商品を厳密に吟味するという必然性は少しもない。むしろ、ミシンが普及
すればするほど、商品性が一般化し、市場での競合が多くなるため、出所の混同の
おそれは増大するはずであり、本件審決はこの点の判断を誤つたものである。
第三 被告の不出頭
被告は、適式な呼出を受けながら、本件口頭弁論期日に出頭せず、かつ、答弁書そ
の他の準備書面も提出しない。
第四 証拠関係(省略)
       理   由
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯及び本件審決理由の要旨が原告主張の
とおりであり、本件商標と引用商標との各構成及び指定商品が、いずれも別紙第一
及び第二記載のとおりであることは、すべて被告の明らかに争わないところである
から、これを自白したものとみなされる。
(審決を取り消すべき事由の有無について)
二 本件審決は、まず、本件商標と引用商標とが外観上類似のものではないとして
いるが、すでにこの点において判断を誤つたものといわざるをえない。すなわち、
本件商標の構成は、前認定のとおり、細線で星の図形を描き、その図形の中央部を
横切つて「Single」の欧文字をやや図案化した筆記体で肉太に左横書きし、
さらに、その図形の下部に筆記体の「Singlestar Brand」の欧文
字を小さく横書きして成るものであるが、このような構成中、星の図形は細線で描
かれた極めてありふれたものであり、下方の「Singlestar Bran
d」は、他の部分に比し極めて小さく表示されていて、附記的部分というべきであ
るから、本件商標の中で、これを見る者に強い印象を与える部分は、肉太で中央部
に書かれた「Single」の文字部にあるものと解するのが相当である。よつ
て、本件商標の要部というべき右「Single」の文字部分と引用商標「SIN
GER」とを比較検討すると、両者は共に「S」から始まる欧文字六字から成り、
そのうち初めの四文字及び末尾部分二文字のうち「E」の一文字、計五文字を共通
にし、わずかに末尾部分二文字のうち「L」と「R」の一文字を異にするにすぎな
いものであることは、前掲両者の構成に徴し明らかである。この点について、両者
は構成上、本件商標がやや図案化した筆記体で第二字以下は小文字であるに対し、
引用商標はゴシツク体の大文字であるという相違はあるが、これらの文字は、いず
れも通常一般に見受けられる欧文字であり、その書体と共に、特異なものというに
は足りないものであるから、このような相違点は、両商標の外観上の類否を定める
うえで、特段の考慮に値するものということはできない。このように、全体として
六文字にすぎない欧文字のうち五文字を共通にし、しかも、初めの部分四文字を共
通にする二群の文字を、それぞれ別個に商標として使用するときは、各指定商品で
ある裁縫機械(通称ミシン)の需要者、取引者は、一般的にいつて、彼此混同し、
結局両者を同一視するおそれがあるものとみるのが相当である。けだし、実際の商
品取引において、この種商標の識別に当り、取引者、需要者は、ことに、それらが
いずれも欧文字から成るものであることもあつて、必ずしも、その綴字の全部にわ
たり、文字として仔細に検討して異同を吟味するようなことはせず、それら一群の
欧文字を全体として一個の標章として見、それぞれに対する全体的直観ないしは概
観的印象に頼つて異同を認識しやすいものであることは、経験則上明らかであり、
このような実際に鑑みれば、本件商標と引用商標とは、これをみる者に直観的に極
めて近似した印象を与え、その意味合いにおいて、極めて相紛わしいものであると
いわざるをえないからである。したがつて、本件商標と引用商標とは、外観上、互
いに類似の関係にあるものといわざるをえず、これをみるところを異にした本件審
決はこの点の判断を誤つたものというべきである。
(むすび)
三 以上説示のとおり、本件商標と引用商標とは、すでに外観において類似の関係
にあるものであるから、この点において両者を非類似と認定した本件審決は、さら
にその余の点について判断するまでもなく、違法として取消を免れない。
 よつて、その主張のような違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告
の本訴請求は、理由があるものということができるから、これを認容することと
し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八十九条を適用
して、主文のとおり判決する。
(裁判官 三宅正雄 石沢健 奈良次郎)
別紙第一
<11582-001>
別紙第二
<11582-002>

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