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【プロダクト・バイ・プロセス・クレーム 最高裁判例】平成24(受)2658特許権侵害差止請求事件

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裁判所 最高裁判所第二小法廷
裁判年月日 平成27年6月5日
事件種別 民事
原審 平成23(ネ)10057 (平成24年8月9日)
法令 特許権
特許法36条6項2号4回
特許法1条3回
特許法70条1回
特許法2条3項3号1回
特許法49条1回
特許法36条5項1回
特許法36条5項2号1回
特許法104条の31回
特許法134条の21回
特許法70条1項1回
キーワード 無効29回
新規性15回
侵害12回
特許権10回
進歩性10回
無効審判9回
審決2回
差止2回
実施1回
訂正審判1回
主文 原判決を破棄する。本件を知的財産高等裁判所に差し戻す。
事件の概要 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されているいわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームにおける発明の要旨の認定

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判決文

平成24年(受)第2658号 特許権侵害差止請求事件
平成27年6月5日 第二小法廷判決
主 文
原判決を破棄する。
本件を知的財産高等裁判所に差し戻す。
理 由
上告代理人上谷清ほかの上告受理申立て理由第一点ないし第四点について
1 本件は,特許が物の発明についてされている場合において,特許請求の範囲
にその物の製造方法の記載があるいわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレーム
に係る特許権を有する上告人が,被上告人の輸入販売に係る医薬品は上告人の特許
権を侵害しているとして,被上告人に対し,当該医薬品の輸入販売の差止め及びそ
の廃棄を求める事案である。被上告人は,上告人の特許は特許無効審判により無効
にされるべきものであるなどと主張しており,物の発明についての特許に係る特許
請求の範囲にその物の製造方法の記載がある場合における特許要件の審理の前提と
なる発明の要旨の認定の在り方が争われている。
2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) 本件特許
上告人は,発明の名称を「プラバスタチンラクトン及びエピプラバスタチンを実
質的に含まないプラバスタチンナトリウム,並びにそれを含む組成物」とする特許
(特許第3737801号。請求項の数は9である。以下「本件特許」という。)
に係る特許権を有している。
(2) 本件発明

本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1(以下「本件特許請求の範囲」とい
う。)の記載は,次のとおりである(以下,本件特許請求の範囲に係る発明を「本
件発明」という。)。
「次の段階:
a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成し,
b)そのアンモニウム塩としてプラバスタチンを沈殿し,
c)再結晶化によって当該アンモニウム塩を精製し,
d)当該アンモニウム塩をプラバスタチンナトリウムに置き換え,そして
e)プラバスタチンナトリウム単離すること,
を含んで成る方法によって製造される,プラバスタチンラクトンの混入量が0.
5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチ
ンナトリウム。」
(3) 無効審判請求及び訂正請求等
ア Aは,本件特許について,特許無効審判を請求し,特許庁に無効2008-
800055号事件として係属したところ,上告人は,平成20年7月,本件特許
請求の範囲について次のとおりの内容の訂正を請求した。
①「e)プラバスタチンナトリウム単離すること」を「e)プラバスタチンナト
リウムを単離すること」に,②「プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%
未満」を「プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満」に,③「エピプ
ラバの混入量が0.2重量%未満」を「エピプラバの混入量が0.1重量%未満」
にそれぞれ訂正する(以下,訂正後の本件特許請求の範囲に係る発明を「本件訂正
発明」という。)。

イ 特許庁は,上記の特許無効審判事件につき,平成21年8月,上記訂正を認
め,上記特許無効審判の請求が成り立たない旨の審決をしたため,同審決の取消し
を求める訴訟が本件とは別に係属中である。
(4) 被上告人製品
ア 被上告人は,医薬品のプラバスタチンナトリウム錠「陽進」10mg(以下
「被上告人製品」という。)の輸入販売をしている。
イ 被上告人製品は,プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であ
り,エピプラバの混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウムを含
有している。
3 原審は,次のとおり判断して,上告人の請求を棄却すべきものとした。
(1) 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法の記載
がある場合における特許法104条の3第1項に係る抗弁の判断の前提となる当該
発明の要旨は,当該物をその構造又は特性により直接特定することが出願時におい
て不可能又は困難であるとの事情が存在するときでない限り,特許請求の範囲に記
載された製造方法により製造される物に限定して認定されるべきである。
(2) 本件発明には上記(1)の事情が存在するとはいえないから,本件発明の要旨
は,当該製造方法により製造された物に限定して認定されるべきである。そして,
本件発明は,当業者が容易に想到し得たものであるから,本件発明に係る特許は特
許無効審判により無効にされるべきものであり,上記訂正の請求がされているとし
ても,本件訂正発明に係る特許も同様に特許無効審判により無効にされるべきもの
である。
4 しかしながら,原審の示した上記3(1)の基準は是認することができず,そ

うすると,それを前提とした上記3(2)の判断も是認することができない。その理
由は,次のとおりである。
(1) 願書に添付した特許請求の範囲の記載は,これに基づいて,特許発明の技
術的範囲が定められ(特許法70条1項),かつ,同法29条等所定の特許の要件
について審査する前提となる特許出願に係る発明の要旨が認定される(最高裁昭和
62年(行ツ)第3号平成3年3月8日第二小法廷判決・民集第45巻3号123
頁参照)という役割を有しているものである。そして,特許は,物の発明,方法の
発明又は物を生産する方法の発明についてされるところ,特許が物の発明について
されている場合には,その特許権の効力は,当該物と構造,特性等が同一である物
であれば,その製造方法にかかわらず及ぶこととなる。
したがって,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法
が記載されている場合であっても,その発明の要旨は,当該製造方法により製造さ
れた物と構造,特性等が同一である物として認定されるものと解するのが相当であ
る。
(2) ところで,特許法36条6項2号によれば,特許請求の範囲の記載は,
「発明が明確であること」という要件に適合するものでなければならない。特許制
度は,発明を公開した者に独占的な権利である特許権を付与することによって,特
許権者についてはその発明を保護し,一方で第三者については特許に係る発明の内
容を把握させることにより,その発明の利用を図ることを通じて,発明を奨励し,
もって産業の発達に寄与することを目的とするものであるところ(特許法1条参
照),同法36条6項2号が特許請求の範囲の記載において発明の明確性を要求し
ているのは,この目的を踏まえたものであると解することができる。この観点から

みると,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載
されているあらゆる場合に,その特許権の効力が当該製造方法により製造された物
と構造,特性等が同一である物に及ぶものとして発明の要旨を認定するとするなら
ば,これにより,第三者の利益が不当に害されることが生じかねず,問題がある。
すなわち,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲において,その製造方法
が記載されていると,一般的には,当該製造方法が当該物のどのような構造若しく
は特性を表しているのか,又は物の発明であってもその発明の要旨を当該製造方法
により製造された物に限定しているのかが不明であり,特許請求の範囲等の記載を
読む者において,当該発明の内容を明確に理解することができず,権利者がどの範
囲において独占権を有するのかについて予測可能性を奪うことになり,適当ではな
い。
他方,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲においては,通常,当該物
についてその構造又は特性を明記して直接特定することになるが,その具体的内
容,性質等によっては,出願時において当該物の構造又は特性を解析することが技
術的に不可能であったり,特許出願の性質上,迅速性等を必要とすることに鑑み
て,特定する作業を行うことに著しく過大な経済的支出や時間を要するなど,出願
人にこのような特定を要求することがおよそ実際的でない場合もあり得るところで
ある。そうすると,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造
方法を記載することを一切認めないとすべきではなく,上記のような事情がある場
合には,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として発
明の要旨を認定しても,第三者の利益を不当に害することがないというべきであ
る。

以上によれば,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方
法が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項
2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時
において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又
はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当であ
る(最高裁平成24年(受)第1204号平成27年6月5日第二小法廷判決・裁
判所時報1629号登載予定参照)。
5 以上と異なり,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製
造方法が記載されている場合において,そのような特許請求の範囲の記載を一般的
に許容しつつ,その発明の要旨は,原則として,特許請求の範囲に記載された製造
方法により製造された物に限定して認定されるべきものとした原審の判断には,判
決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は
破棄を免れない。そして,本判決の示すところに従い,本件発明の要旨を認定し,
更に本件特許請求の範囲の記載が上記4(2)の事情が存在するものとして「発明が
明確であること」という要件に適合し認められるものであるか否か等について審理
を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官千葉勝
美の補足意見,裁判官山本庸幸の意見がある。
裁判官千葉勝美の補足意見は,次のとおりである。
私は,いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレーム(以下,単に「PBPク
レーム」という。)における特許請求の範囲の捉え方について,次のとおり,多数
意見に付加して私見を述べておきたい。

1 まず,PBPクレームの解釈,処理の基本的な枠組みについては,次のよう
に考える。
(1) 平成16年の特許法の改正により同法104条の3が創設され,侵害訴訟
において特許無効の抗弁を主張することが可能となり,これにより,同条に係る無
効の抗弁の成否(当該発明の新規性・進歩性の有無)を判断する前提となる発明の
要旨認定をする場面と,侵害訴訟における請求原因として特許発明の技術的範囲を
確定する場面とが同一の訴訟手続において審理されることとなった。そうすると,
両場面におけるPBPクレームの解釈,処理の基本的な枠組みが異なることは不合
理であるから,これを統一的に捉えるべきであり,このことは我が国の特許法制上
当然のことであって,多数意見は,この見解を前提に,両場面ともいわゆる物同一
説により考えることにしているのである。
(2) ところで,米国においては,PBPクレームの解釈,処理については,プ
ロセス記載部分は出願審査の場面では特に問題とせず,特許の範囲が不明確でない
限り,物同一説で出願を認めているが,特許権侵害の有無の判断の際には,これが
クレームを限定する要素として作用するものと捉えるか否かの問題があった。周知
のとおり,連邦巡回区控訴裁判所は,かつて,これを否定する Scripps Clinic &
Research Foundation v. Genentech, Inc., 927 F.2d 1565 (Fed. Cir.1991) 事件
判決と,これを肯定する Atlantic Thermoplastics Co. v. Faytex Corp., 970
F.2d 834 (Fed.Cir.1992) 事件判決とで相反する判断を示していたが,Abott
Labs. v. Sandoz, Inc., 566 F.3d 1282 (Fed. Cir. 2009) 事件の全員法廷(en
banc)の判決において,後者の見解を採用するに至っており,PBPクレームの権
利範囲については,クレーム記載の製造方法で製造された物に限定されるとの判断

を示した。これは,侵害訴訟の場面では,PBPクレームの解釈について,記載さ
れた製法に限定されずに広く物同一説で考えるという見解は採用しないことを示し
たものである。同事件は,その後,米国連邦最高裁において,サーシオレイライが
退けられて確定している。
(3) このように,米国では,PBPクレームの解釈,処理については,多数意
見のいうような出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定すること
が不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的
事情」という。)を厳格に求めておらず,発明の要旨認定では物同一説によっては
いるが,結局,侵害の有無の場面すなわち特許発明の技術的範囲の確定において
は,特許請求の範囲に記載された製造方法に限定し,厳しく捉えるというものであ
る。今回,当審としては,発明の要旨認定の場面と特許発明の技術的範囲に属する
か否かを審理する場面とで共通の統一した判断枠組みを採用するため,米国の特許
制度の運用とは異なる面が生ずることとなるといわざるを得ない。もっとも,米国
での上記の運用は,侵害訴訟の場面になると,結局,PBPクレームは全てその範
囲を製造方法に限定したものと認定がされることになり,物の発明についての特許
としてPBPクレームという概念を認める意味が大きく減殺されることにもなり,
いわゆるダブルスタンダードとなるので,この運用が続く限り,法制の異なる我が
国や欧州各国との統一性を図ることはできないことになる。
(なお,米国連邦最高裁は,2014年6月2日に判決した Nautilus, Inc. v.
Biosig Instruments, Inc., 134 S. Ct. 2120 (2014) 事件判決において,特許請
求の範囲の記載要件の一つである明確性要件について,クレーム解釈ができない場
合又は解釈されたクレームが解決できないほど曖昧な場合にのみ不明確とすべきで

あるとした連邦巡回区控訴裁判所の判決について,クレームは,特許明細書及び出
願経過に照らし,当業者に対し,合理的な確からしさにより発明の範囲を伝えるこ
とができないのであれば不明確とすべきであるとし,連邦巡回区控訴裁判所の判断
は,明確性要件の果たす公示機能を損なうなどとしてこれを取り消し,事件を差し
戻しており,明確性の程度を厳しく要求する姿勢が見られる点が注目される。)
2 次に,現行の特許庁のPBPクレームについての審査基準については次のよ
うな点が指摘できる。
(1) 特許庁の特許・実用新案審査基準(第Ⅰ部第1章2.2.2.4(2),第Ⅱ
部第2章1.5.2(3))によれば,PBPクレームの審査基準は,現在も物同一
説により審査が行われており,その概要は,次のようなものである。
発明の対象となる物の構成を,製造方法とは無関係に,物性等(構造等)により
直接的に特定することが,不可能,困難,あるいは何らかの意味で不適切(例え
ば,不可能でも困難でもないものの,理解しにくくなる度合が大きい場合など)で
あるという事情(以下「不可能・困難・不適切事情」という。)が存在するとき
は,その製造方法によって物自体を特定することができる。また,請求項中に製造
方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合には,最終的に得られた生
産物自体を意味しているものと解する。
物同一説により新規性・進歩性の有無について審査することの前提として,請求
項が,製造方法によって物を特定しようとする表現を含む場合,明確性(特許法3
6条6項2号)の審査においては,審査の際の上記不可能・困難・不適切事情の有
無については出願人がその事情の存在を理由に出願していることから,改めてその
存否について実質的な審査はほとんどせず,出願人が上記のような請求項による出

願をするのであれば,特許庁は,その記載をもって不可能・困難・不適切事情があ
るものとして,PBPクレームとして物同一説により物自体の新規性・進歩性の有
無を審査している。
(2) しかしながら,物の発明についての特許は,本来,出願に際しては,特許
請求の範囲の記載において物自体の構造又は特性によって直接特定すべきところ,
製造方法により特定することを認める範囲を広げ過ぎると,権利範囲が当該製造方
法により製造された物と構造,特性等が同一である物にまで及ぶこととなり,公平
な競争を阻害し,多数意見が指摘するとおり第三者の利益を不当に害することにな
る。そのために,PBPクレームについては,例外的にこれを認めるものとし,P
BPクレームを認めるべき事情があるか否かは,厳格に考える必要があり,出願審
査も実質的にそれに対応してされるべきものであろう。
3 以上を踏まえ,PBPクレームを認める例外的事情の内容を検討する。
(1) 今回の当審判断(多数意見)は,この事情につき,発明の対象となる物の
特定が「不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するとき」と
している。その内容については多数意見で触れているところであるが,ここでいう
「不可能」とは,出願時に当業者において,発明対象となる物を,その構造又は特
性(発明の新規性・進歩性の判断において他とは異なるものであることを示すもの
として適切で意味のある特性をいう。)を解析し特定することが,主に技術的な観
点から不可能な場合をいい,「およそ実際的でない」とは,出願時に当業者におい
て,どちらかといえば技術的な観点というよりも,およそ特定する作業を行うこと
が採算的に実際的でない時間や費用が掛かり,そのような特定作業を要求すること
が,技術の急速な進展と国際規模での競争の激しい特許取得の場面においては余り

にも酷であるとされる場合などを想定している。特に,後者については,必ずしも
一義的でないため,実際上どのような場合がこれに当たるかは,結局,今後の裁判
例の集積により方向性が明確にされていくことになろう。
(2) 特許庁の現在の審査実務で採用されているとされている「不適切な場合」
という基準は,余りにも価値判断的な要素が強く,内容が明確でないため範囲が広
がり過ぎ,また,構造等でさほど困難なく特定できる場合であっても,単に発明の
構成を理解しやすくするために製法を記載することまで認める余地を残すこととな
り,いずれにしろ,PBPクレームの概念を認めた趣旨と齟齬しかねない面が生
じ,妥当とはいえないところである。
なお,発明の構成をより分かりやすくするためであれば,製造方法については,
特許請求の範囲にではなく,「発明の詳細な説明」に記載することで足り,そうす
べきである。
4 今後の特許実務と従前のPBPクレームの扱いは,次のようになろう。
(1) これまで,PBPクレームの出願時の審査においては,不可能・困難・不
適切事情を緩く解してこの点の実質的な審査をしないまま出願を認めてきている
が,今後は,審査の段階では,特許請求の範囲に製造方法が記載されている場合に
は,それがPBPクレームの出願である点を確認した上で,不可能・非実際的事情
の有無については,出願人に主張・立証を促し,それが十分にされない場合には拒
絶査定をすることになる。このような事態を避けたいのであれば,物を生産する方
法の発明についての特許(特許法2条3項3号)としても出願しておくことで対応
することとなろう。
(2) この点につき,原審と同旨である知財高裁大合議部の判決が示す基準によ

れば,特許庁の審査実務では物の発明の範囲を構造等で直接特定することが出願時
において不可能又は困難であるとの事情(以下「不可能・困難事情」という。)の
存否に関わりなく明確性要件違反とはならないことを前提とし,PBPクレームの
解釈について,発明の要旨認定の場面でも特許発明の技術的範囲の確定の場面で
も,原則として,不真正PBPクレームとして製法限定説によるが,不可能・困難
事情が存在する真正PBPクレームの場合に限り,物同一説によるという言わば二
分論を採用している。これは,特許法1条等の趣旨に照らし,その物の製造方法に
よって物を特定することも許され,同法36条6項2号にも違反しないとするもの
であり,同法の原則と特許庁の審査実務とを踏まえた現実的な対応を模索した苦心
の見解であろう。
しかしながら,この見解は,PBPクレームの解釈について物同一説を採用した
と解される当審判例(最高裁平成9年(行ツ)第120号同年9月9日第三小法廷
判決・公刊物未登載,最高裁平成9年(行ツ)第121号同年9月9日第三小法廷
判決・公刊物未登載,最高裁平成10年(オ)第1579号同年11月10日第三
小法廷判決・公刊物未登載)と齟齬する面があり,また,そもそも,当該PBPク
レームがこの真正,不真正のどちらに当たるかは裁判所の見解が示されない限り,
明確ではなく,真正か不真正かで特許請求の範囲は大きく異なることになり,出願
人の意図と齟齬する事態が生じかねない。また,第三者にとっても,当該発明が真
正か不真正かで権利の範囲が大きく異なるが,その点は明確ではなく,予測可能性
を奪うおそれが生ずる。このことは,結局,特許の範囲が不明確で特定されていな
いことによるものであり,特許法36条5項,6項2号等に反する事態であるとい
わざるを得ない。更に,この見解に従うと,審査実務においても,真正か不真正か

で特許発明の範囲等が異なるため,この点をしっかりと区別した上で特許出願を認
める必要が生ずることとなり,その結果,審査は慎重にならざるを得ず,その負担
が重くなり,審査の遅延を招くおそれも大きい。
(3) 多数意見は,原審が提起することとなった上記の問題点を踏まえ,PBP
クレームが認められる事情を本来の趣旨を踏まえて厳格に捉え,それに当たらず拒
絶されるおそれがある場合には,物を生産する方法の特許として出願させるという
実務を定着させる方向の後押しとなる解釈を示すものである。これは,特許出願の
際の審査が,PBPクレームを物質特許として認めるための要件を実質的にも審査
することになる点でこれまでとは変わることとなるが,出願人にとっては,従前
も,構造等で特定できる場合(不可能・非実際的事情が存在しない場合)であるの
に通常の物の特許ではなくPBPクレームであるとして出願することがどの程度広
く行われてきたかは疑問もあり,また,本当に「不可能であるか,又はおよそ実際
的でない」のであれば,この点は,出願人にとって主張立証することに大きな負担
となることはないであろう(例えば,生命科学の分野で,新しい遺伝子操作によっ
て作られた細胞等であれば,それを出願時において構造等で特定することに不可能
・非実際的事情が存在しないとして拒絶されるとはいえないであろう。)。また,
審査においても,出願人がこれを積極的かつ厳密に立証することは事柄の性質上限
界があるので,これを厳格に要求することはできず,合理的な疑問がない限り,こ
れを認める運用となる可能性が大きく,その意味では,さほど大きな懸念を抱かな
くても済む可能性が大きい。
(4) 次に,従前,出願審査の段階では原則として不可能・困難事情の存否を実
際上チェックしないまま既に認められ登録されてきたPBPクレームについて,今

後,無効審判請求や侵害訴訟の過程での特許無効の抗弁の提出がされることも予想
される。しかし,出願時において不可能・非実際的事情の存在を明らかにできない
のであれば(それは,構造等で特定できるのにそれをせず,安易に製法により特定
したPBPクレームとして出願したということになる。),それが無効とされても
止むを得ないところである。もっとも,この事態は,特許出願の審査が緩くPBP
クレームを認めてきたことに起因するものであり,このことは出願人のみの責任と
もいえないところであって,これを避けるためには,特許無効審判における訂正の
請求(特許法134条の2)や訂正審判の請求(同法126条)等を活用すること
も考えられ,それらが現実にどのように処理されるかは今後に残された問題であろ
う。
裁判官山本庸幸の意見は,次のとおりである。
私は,本件を原審に差し戻すことに賛成するが,その理由は多数意見とは異なる
ものである。以下,その理由を述べる。
1 特許請求の範囲に何を記載するかは,平成6年の特許法改正の経緯に鑑みれ
ば,基本的には特許出願人の自由な選択に委ねられていると解される。同改正前の
特許法36条5項2号は,特許請求の範囲は「特許を受けようとする発明の構成に
欠くことのできない事項のみ」を記載することとされていた。ところが工業所有権
審議会は,その答申において「(1)作用的・方法的クレームの許容の必要性 (中
略)基本的に『物』の発明における『発明の構成に欠くことができない事項』は
『物』で表現すべきものとされ,また,作用や方法は物の発明の構成に欠くことが
できない事項ではないと考えられているため,①請求項に記載された事項が単一の
技術的手段からなる場合において,その技術的手段が機能的又は作用的に記載され

ている場合,②物の発明において,技術的手段が方法的に記載されている場合のよ
うな作用的,方法的記載は認められていない。しかし,情報関連技術(電子,通
信,情報技術)等の発展に伴い,いわゆる技術のソフト化が進んだ結果,こうした
分野における装置の発明については,構成に欠くことができない事項として装置の
物理的な構造や具体的手段を記載するよりも,その装置の作用や動作方法などによ
って装置を定義する方が適切に発明を表現できる場合が多くなっている。(2)ク
レームの記載の尊重の必要性 (中略)何をクレームするかということは出願人が
自らの責任で決めるべきものであるから,クレーム記載の発明が発明の詳細な説明
に容易に実施可能に記載されており,また新規性・進歩性等の特許要件を満たして
いると判断される限り,審査官がクレームの範囲を変えるよう指示するということ
は不適当であり,(中略)しかし,現行法には『発明の構成に欠くことのできない
事項のみ記載』との規定が存置されているために,上記のように作用的・方法的記
載について拒絶理由が通知された場合,出願人は上位概念での記載(作用的・方法
的記載)を,より限定された具体的手段での記載に変更せざるを得ないことがある
など,結果としてクレームの限定を求めることになる場合がある。(以下略)」
(平成6年9月答申23頁から24頁まで)として,何をクレームするかは出願人
の責任で決めるべきものとした。このため,その趣旨を明らかにすべく,同条5項
は全面的に改められ,「事項のみ」のうち,「のみ」が削除され,出願人が自らの
意思で表現したクレームの記載を尊重するものとされた。この理は,いわゆる機能
的クレームだけでなく,製造方法によって生産物を特定しようとするクレーム(い
わゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレーム。以下,単に「PBPクレーム」と
いう。)にも当然に当てはまるものである。ちなみにこの特許実務は,特許制度の

国際調和の動向に沿い,また世界の主要特許庁の実務と基本的に相通ずるものであ
ると理解している。
2 では,その世界にも通ずる特許実務とはどのようなものであるか,私の理解
では,我が国の特許実務を基に説明すれば,次のようなものである。
この改正の結果,出願人自らの判断で記載した特許請求の範囲に対して,出願人
の意思にかかわらず,審査官がその発明を特定するために必要な事項の全てが記載
されているかを審査することは適当でないため,それ以前のようにこの規定を根拠
に拒絶理由等の対象にするようなことはされないような扱いになった。したがって
現行の特許法体系の下では,特許請求の範囲に作用その他のいわゆる機能的クレー
ムであろうと,PBPクレームであろうと,いかなる形のクレームの形式でもそれ
を記述して特許を受けようとする発明を特定することは出願人の自由である一方
で,そのように特定された発明が特許法49条各号(拒絶理由)に該当すれば特許
は成立せず,特許が成立した場合でも同法123条各号(無効理由)に該当すれば
特許は無効となる。したがって,平成6年法改正の趣旨からすると,出願人自らが
PBPクレームを選んだ以上,単に形式的にそれがPBPクレームであるか,又は
それがいかなる種類のPBPクレームであるかなどの言わば手続的事項を根拠にこ
れを不明確として拒絶・無効理由とすることには,極めて慎重な運用がなされてき
ているものと承知しているし,それは正しい法の解釈・運用であろうと考える。
ところで特許庁の審査基準によれば,PBPクレームは,次の2つの場合に拒絶
されることがあるものと承知している。
第1は,明確性の要件で,同法36条6項2号(同法49条4号及び同法123
条4号において引用)違反とするものである(審査基準第Ⅰ部第1章15頁②発明

が不明確となる類型)。すなわち,(i)製造方法(出発物や製造工程等)が理解で
きない結果,その発明が不明確となる場合,(ii)生産物の特徴(構造や性質等)が
理解できない結果,その発明が不明確となる場合(具体的には,明細書中に,その
製造方法によれば収率がよい,効率よく製造できる等の方法的特徴が記載されてい
るだけの場合)である。それらは,物の発明が特定されているとはいえないからで
ある。これら以外は,その発明が特定されているのであれば,審査官としてはこれ
をそのまま特許請求の範囲の記載として認めて,新規性・進歩性等の特許要件の判
断を行うという運用であり,たとえそれがクレームの記載としては蛇足であっても
同様である。これは世界的にも共通の運用であると承知している。
第2は,新規性の要件で,同法29条1項3号違反とするものである(審査基準
第Ⅱ部第2章8頁)。この場合(その末尾が「物」で終わることから物の特許出願
であることが明らかな出願中のPBPクレームで記載されている特許請求の範囲に
ついて),その記載は,最終的に得られた生産物自体を意味しているものと解す
る。したがって,請求項に記載された製造方法とは異なる方法によっても同一の生
産物を製造でき,その生産物が公知である場合は,当該請求項に係る発明は新規性
が否定される。
すなわち,第1(i)により,他の形式のクレームと同様に,PBPクレームにお
いても,その発明を特定するための事項が理解できないことでその発明が不明確と
なる場合には拒絶される。同じく(ii)により,収率がよいとか,効率よく製造でき
るという方法的特徴しかなく,物の特徴が不明な発明(本来は方法の発明としてク
レームされるべきものである)は,物の特許としては不明確であるから拒絶され
る。また,第2により,生産物自体が公知又は公知のものから容易に発明すること

ができるために新規性・進歩性はないような場合も拒絶される。
上記のように,特許請求の範囲の記載がいかに出願人の自由な記載に委ねられて
いるといっても,明確性要件と新規性要件の必要かつ十分な適用によって,本来拒
絶されるべきPBPクレームは審査において拒絶される。仮に誤って特許された場
合には,上記と同じ基準によって審判において無効とされ,これは同法104条の
3においても同様であるべきと考える。
3 ところが,この多数意見では,以上のような特許法の解釈及び特許実務の運
用を根底から覆す結果となる。それが正しい方向であるとすれば特に異論はない
が,私には決してそうとは思えない。すなわち多数意見(4(2))は,特許法1条
の目的及び同法36条6項2号の規定から物の発明についてPBPクレームのある
特許請求の範囲の記載は明確でなければならないとする。一般論としては,それは
正しい。しかしながら,物の発明につき特許請求の範囲がPBPクレーム形式で記
載されていないと,かえって明確でなくなる場合が多々ある。とりわけ新規性のあ
る物の発明では,出願人がどのような方法で作った物であるかを記述すれば非常に
分かりやすいのに,これを無理やりその物の構造や特性で記述しようとすると間違
いなくそれは複雑な概念や用語で表現することにならざるを得ない。それでは,出
願人としては無駄な時間や費用が掛かって出願する時期を失するおそれがあるだけ
でなく,そのような記述は審査官にとっても,また当業者にとってもかえって分か
りにくいものとなり,それこそ明確性の要件に反するものになってしまうのではな
いだろうか。例えば生命科学の分野で新規性のある細胞に関する特許請求の範囲
を,「いかなる細胞にどのような遺伝子をどうやって注入する方法により作成され
た細胞」としてPBPクレームで記述すれば当業者であれば極めて分かりやすい特

許請求の範囲となるのに,これをその出来た細胞の構造や特性に基づいて記述しな
ければならないとなると,それなりの時間や費用や労力をかければ必ずしも不可能
ではないのかもしれないが,そういう努力をしてやっと記述できた結果の当該細胞
についての特許請求の範囲の記載は,およそ無味乾燥で誰にも分からない不得要領
のものになることが多いのではないかと思われる。その結果,明確性の要件で拒絶
等されてしまうことが容易に看取される。これでは,発明の保護及びその一般の利
用との調和という特許法の理念からますます遠ざかる結果になると考える。
この点,多数意見は,「出願時において当該物の構造又は特性を解析することが
技術的に不可能であったり,特許出願の性質上,迅速性等を必要とすることに鑑み
て,特定する作業を行うことに著しく過大な経済的支出や時間を要するなど,出願
人にこのような特定を要求することがおよそ実際的でない場合もあり得るところで
ある」として,一見極めて限定的ながらPBPクレームを認めようとしているかの
ごとくであるが,結局のところ「法36条6項2号にいう『発明が明確であるこ
と』という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特
性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情
が存在するときに限られると解する」とする。しかしながらこれでは,ほとんどP
BPクレームが認められる余地はないのではなかろうか。
この点に関し思い起こされるのは,新しい遺伝子操作によって作られた幹細胞等
について出願される最近の生命科学の分野における重要な発明である。このような
発明を物の発明として出願するについては,その特許請求の範囲は,PBPクレー
ムで記載されることが大半であろうと思われる。そうすると,上記の多数意見を基
にすれば,出願人は,特許請求の範囲の記載に関し,PBPクレームであるがゆえ

に,それが拒絶又は無効理由となることを懸念して,まずは構造又は特性によりそ
の物を直接特定できないかを考慮することとなろう。しかし,それが「出願時にお
いて当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はお
よそ実際的でないという事情が存在するとき」(以下「不可能非実際的基準」とい
う。)という多数意見の基準に基づいて行う作業と立証は,決して容易なものでは
なく,むしろそのような作業や立証を考えること自体が現実的ではないように思え
てくるが,絶対にできないという確証もない。他方でそのようなことに時間をとら
れていては,先願主義の下で世界の他の出願人との熾烈な競争に後れを取ってしま
うので,特許出願が急がれる。そういうことで,構造や特性で当該物を表現でき
ず,さりとてこれでよいという確証もないまま,PBPクレームの形式で出願に踏
み切るものと思われる。そうすると次に,審査・審判段階で不可能非実際的基準が
拒絶・無効理由になるかどうかが審査等されることになる。しかし,この不可能非
実際的基準というものが,ともかく余りに曖昧で漠然とした掴みどころのないもの
であることから,私の見るところ,安定的かつ統一した運用・解釈は非常に難しい
のではないかと考える。しかも,「不可能であるか,又はおよそ実際的でない」と
いうのは,誰がどういう基準でいかに判定するかが全く明らかにされていない以上
は,限りなく「不可能」と同義ではないかと考える。その結果,PBPクレームを
含む特許請求の範囲がある物の特許出願のほとんどは,明確性の要件違反で拒絶さ
れるのではないかと懸念している。これでは,いわゆる萎縮効果が働いて,我が国
の特許出願から,本当に必要なPBPクレームまで駆逐されてしまい,発明の保護
にはつながらないのではないだろうか。さらに問題は,これが既存の特許の無効理
由になることから,これまで成立したPBPクレームで記述されている多数の特許

についても,その無効を争う訴訟が頻発するのではないかと懸念している。その特
許が成立したときには,不可能非実際的基準というものを意識する余地もなかった
わけであるから,そのような訴訟では,こうした事情もよくよく考慮に入れるべき
である。
4 もちろん,多数意見のいうように,第三者の利益が不当に害されることがな
いようにという観点も,発明の保護と並んで重要である。特許の本質は,この双方
の視点のバランスを図ることにあるといってよい。しかしながら,多数意見のいう
不可能非実際的基準では,発明の保護が全く図られないことにつながるおそれがあ
るというのが,私の最も懸念する点である。
現行の特許実務において,その特許出願の特許請求の範囲の個々の請求項(クレ
ーム)の記載が「・・・の方法」ではなく「・・・の物」で終わっている以上,P
BPクレームで記述されているものであっても,それは物の特許としての保護を求
めていることは明らかである。その上で,最終的に得られた生産物に新規性と進歩
性が認められない場合すなわち公知の物である場合には拒絶されるわけであるか
ら,これで第三者は新規の物に関する特許出願だけに注目すればよいことになるの
で,その注意する負担の程度は,かなり軽減される。つまり当業者が出願時の技術
常識を考慮しても当該製造方法で製造された具体的な物を想定できない場合等に
は,新規性あるいは進歩性の判断の前提として扱えばよいものと考える。それを多
数意見に従えば,不可能非実際的基準から外れるPBPクレームであるという理由
で,これを明確性の要件違反として一律に拒絶・無効理由とするのは,特許法36
条6項2号に関する従来の解釈の範囲からあまりに外れており,明らかに誤った解
釈であると考える。

5 特許庁が行う発明の要旨認定と裁判所が行う特許発明の技術的範囲の確定と
は,従来は別々にされていても訴訟としては別個であったことから,その結論がた
とえ食い違ったとしても,違和感はさほどなかったことは事実であろうと思われ
る。ところが,平成16年特許法改正により104条の3が設けられたために,同
一の訴訟中で無効の抗弁を主張できるようになったことで,同じクレーム解釈が別
異にされるというのはさすがにおかしいと考えられるようになったことから,今や
こういうダブルスタンダードは解消されつつある。これは正しい方向である。つま
り特許性判断における「発明の要旨」と侵害の判断における「特許発明の技術的範
囲」とは,クレーム解釈として本来は一致すべきものである。
しかし,そうであるからといって,「特許発明の技術的範囲」を出発点としてこ
れに一致させるために「発明の要旨」認定の場面において,不可能非実際的基準に
合致するかどうかという言わば手続的問題をもって,明確性の要件を発動して最初
からそもそも特許取得を認めないという解釈は行き過ぎである。平成6年特許法改
正の趣旨からすれば,特許出願人が自ら選択したクレームの内容で発明の特定がさ
れているのであれば,新規性・進歩性のある限り特許取得を認めるべきである。物
の特許出願の特許請求の範囲に,PBPクレームが含まれているかどうかを問わな
い。これが,発明の要旨認定という局面である。
その場合,PBPクレームについての特許法70条の解釈が問題とされることが
ある。これについては,物の発明(クレームの末尾が「物」で終わるもの)に係る
クレーム中の製造方法は,当該製造方法に限定する趣旨ではなく,その製法によっ
て作られる物自体を特定することを意味する記載ととらえるべきで,これもクレー
ム記載の文言を基準とする解釈そのものであると考える。つまり,物の発明におい

てあえて製造方法を記載することは,物自体についての発明として保護を求めてい
るものと解し,そう解することをむしろ原則とすべきである。
次に,PBPクレームについては,例外として,特許発明の技術的範囲の確定
が,特許無効の抗弁における発明の要旨認定と同様には考えられない場合も存在す
ることを認めるべきである。なぜなら,裁判所が行う侵害訴訟におけるクレームの
解釈は,既に成立した特許権の法的保護範囲を確定するために行うものである。こ
れに対して,特許庁が行う審査・審判におけるクレームの解釈は,審査ではその出
願された発明に特許を与えるかどうか,審判ではその成立した特許が本来特許され
るべきものであったかどうかをそれぞれ判断するために行うものである。そのよう
に両者における解釈の目的が異なるわけであるから,その結果,両者の解釈が相違
する場合があっても,それはやむを得ないものと考えられるからである。その意味
で,PBPクレームは,侵害訴訟における特許発明の技術的範囲の認定と発明の要
旨認定とが異なることもある例外の一つであると解すべきである。このように解す
ると,一部のPBPクレームについては,権利行使の局面で,発明の要旨認定と比
べて特許発明の技術的範囲の認定が狭くなるという結果もあり得るわけであるが,
それもまた出願人がこうしたPBPクレームを選択した結果であり,やむを得ない
ところであるといわざるを得ない。したがって,事案によっては現在もそうされて
いるように,必要に応じ,出願経緯禁反言の法理や意識的除外の法理など従来から
確立しているクレーム解釈の法理により,PBPクレームで表現された物の特許に
ついての特許発明の技術的範囲を実質的にその製法に限定されるように解釈するこ
とで,妥当な結論が導かれることになるものと考える。
6 ところで原審は,物の特許についてPBPクレームが記載されている場合に

おいて,そのような特許請求の範囲の記載を一般的に許容しつつ,その発明の要旨
は,原則として特許請求の範囲に記載された製造方法により製造された物に限定し
て認定されるべきものとしている。しかし,一般的に許容するといっても,これを
区分けする不可能又は困難という基準が極めて曖昧であり,多数意見の不可能非実
際的基準と全く同様の批判が当てはまる。これに加え,これが許容されない場合に
は特許請求の範囲に記載された製造方法により製造される物に限定して認定される
べきであるとするが,この点は多数意見のとおり,物の発明についての特許に係る
特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合には,その発明の要旨
は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として認定さ
れるべきものと考える。
上告人の本件特許に係る本件発明は,PBPクレームで表現された物(プラバス
タチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり,エピプラバの混入量が0.2
重量%未満であるプラバスタチンナトリウム)についてのものである。また,本件
特許に係る訂正後の本件特許請求の範囲に係る発明は,PBPクレームで表現され
た物(プラバスタチンラクトンの混入量が0.2重量%未満であり,エピプラバの
混入量が0.1重量%未満であるプラバスタチンナトリウム)についてのものであ
る。したがって,本件発明及び本件訂正発明の各要旨は,当該製造方法により製造
された物と構造,特性等が同一である物として認定されるものと解することを前提
として,本件特許が無効であるのか否か検討する必要があると考えられるものであ
るが,この点について審理を尽くさせるという意味で,本件を原審に差し戻すこと
に賛成するものである。
(裁判長裁判官 千葉勝美 裁判官 小貫芳信 裁判官 鬼丸かおる 裁判 官

山本庸幸)

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