平成13(行ヒ)7審決取消請求事件
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裁判所 |
最高裁判所第三小法廷
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裁判年月日 |
平成14年9月17日 |
事件種別 |
民事 |
原審 |
平成11(行ケ)366 (平成12年10月12日) |
法令 |
特許権
商標法51条1項4回 特許法153条1項2回 特許法153条2項2回 商標法56条1回
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キーワード |
審決10回 商標権4回 特許権2回 無効2回 損害賠償1回 差止1回
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主文 |
原判決を破棄する。 本件を東京高等裁判所に差し戻す。 |
判示事項 |
商標法56条1項において準用する特許法153条2項所定の手続を欠くという瑕疵が審決を取り消すべき違法に当たらない場合 |
事件の概要 |
商標法56条1項において準用する特許法153条2項所定の手続を欠くという瑕疵がある場合であっても,当事者の申し立てない理由について審理することが当事者にとって不意打ちにならないと認められる事情のあるときは,上記瑕疵は,審決を取り消すべき違法には当たらない。 |
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判決文
主 文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理 由
上告代理人牛木理一の上告受理申立て理由第一について
1 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 被上告人は,登録第1419427号の登録商標(昭和47年6月22日
商標登録出願,同55年5月30日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標
権者である。本件商標は,原判決別紙「本件商標」記載のとおり,左側に,外周上
に多数の小さな突起がある黒塗りの円形内に白抜きで「M」の欧文字を表示した図
形(以下「Mマーク」という。)を配し,その右側に,「mosrite」の欧文字を横
書きして成るものである。その指定商品は,商標法施行令(平成3年政令第299
号による改正前のもの)別表第24類「楽器,その他本類に属する商品」である。
(2) 上告人は,平成10年5月7日,本件商標の商標登録取消しの審判を請求
した(平成10年審判第30446号)。上告人が申し立てた審判請求の理由は,
次のとおりである。
ア 被上告人は,本件商標の指定商品であるエレキギターに,原判決別紙「原告
の使用商標」記載のとおり,本件商標の下方に筆記体の「of
California」の欧文字を付記した商標(以下「使用商標」という。)を使用してい
る。
イ 使用商標は,アメリカ合衆国カリフォルニア州所在のGインコーポレーテッ
ド(以下「G社」という。)が製作し,上告人が独占的に輸入して日本国内で販売
しているエレキギターに付された表示と同一である。また,使用商標は,アメリカ
合衆国のギター製作者であるHが,昭和27年にカリフォルニア州に工房を開設し
てエレキギターの製作を開始した時以来,同人又はその設立した会社が製作するエ
レキギターに使用されている表示とも同一である。被上告人は,Hが死去した後に
,本件商標にHのものと同一の筆記体表示を付記した使用商標の使用を開始したも
のである。
ウ 以上のとおり,被上告人は,故意に,本件商標の指定商品に,本件商標に類
似する使用商標を付して,その需要者に対し,アメリカ合衆国カリフォルニア産の
エレキギターの品質を有するとの誤認を生ずる行為,又はG社及び上告人の業務に
係るエレキギターとの混同を生ずる行為を現に行っているから,本件商標の商標登
録は,商標法51条1項の規定により取り消されるべきである。
(3) 特許庁は,平成11年9月8日,以下のとおり,本件商標の商標登録を取
り消すべき旨の審決(以下「本件審決」という。)をした。
ア Hは,昭和27年,カリフォルニア州に「Mosrite,
Inc.」という会社を創立して,エレキギターの製作を開始した。Hの製作したエレ
キギターには,「Mマーク」の右側に「mosrite」の欧文字を横書きし,その下方
に筆記体の「of
California」の欧文字を付記するという,使用商標と同様の表示が付されており,
この表示は,遅くとも昭和40年までに,我が国において,エレキギターを取り扱
う取引者,需要者に周知となった。そして,現在も,Hの製作したエレキギターは
,我が国において極めて高額で取引されている。
イ 被上告人は,昭和63年ないし平成元年初めころ,本件商標に類似する使用
商標の使用を開始した。被上告人が本件商標に「of
California」の欧文字を付記したのは,多数の顧客から,Hが製作したエレキギタ
ーのものと同一の書体で付記してほしいとの要望を受けたことによるものである。
また,被上告人は,その商品カタログに,「J(有)」という,H製作のエレキギ
ターに関連する会社であるかのような記載をしている。エレキギターの取引者,需
要者の中には,使用商標を付した被上告人製作のエレキギターについて,H製作の
エレキギターと同様の品質を有すると誤認する者がいる。
そうすると,被上告人がエレキギターに使用商標を付する行為は,Hが製作した
エレキギターと同様の品質であるかのように商品の品質について誤認を生じ,又は
H若しくは同人と何らかの関連のある者が製作したものではないかと商品の出所に
ついて混同を生ずるものということができる。また,被上告人は,Hの筆記に倣っ
て「of
California」の表示を行ったものであり,被上告人の製作するエレキギターにこの
表示を付することにより商品の品質誤認又は出所混同が生ずるとの認識があったと
認められる。
ウ 以上によれば,本件商標の商標権者である被上告人は,故意に,本件商標に
類似する使用商標について,商品の品質の誤認又は他人の業務に係る商品と混同を
生ずる使用をしたものというべきであるから,本件商標の商標登録は,商標法51
条1項の規定により,取消しを免れない。
2 本件は,被上告人が本件審決の取消しを求めた訴訟である。原審は,次のと
おり判示して,被上告人の請求を認容した。
(1) 本件審決は,被上告人が使用商標をエレキギターに使用する行為につき,
G社が製作し,上告人が独占的に輸入して我が国で販売するエレキギターとの間で
品質誤認又は出所混同を生ずるという上告人主張の審判請求の理由について審理す
ることなく,上告人が主張していないHが製作したエレキギターとの間で品質誤認
又は出所混同を生ずるという理由について審理したものである。したがって,本件
審決には,審判の請求人である上告人が申し立てた審判請求の理由以外の理由につ
いて審理した瑕疵がある。
(2) 被上告人は,G社が上告人から依頼を受けてエレキギターの製作を始めた
7,8年以上前から,使用商標をエレキギターに使用してきたのであるから,商標
法51条1項所定の「他人」であるG社及び上告人(上告人が審判で主張した「他
人」)の業務に係る商品と出所の混同が生ずることにつき,被上告人に同項所定の
「故意」があったと認めることはできない。
3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1) 商標法に基づく審判については,商標法56条において特許法152条,
153条が準用されており,職権による審理の原則が採られている。特許法153
条1項によれば,審判においては当事者の申し立てない理由についても審理するこ
とができる。これは,第三者に対する差止め,損害賠償等の請求の根拠となる特許
権や商標権の性質上,特許又は商標登録が有効に存続するかどうかは,当該審判の
当事者だけでなく,広く一般公衆の利害に関係するものであって,本来無効とされ
又は取り消されるべき特許又は商標登録が当事者による主張が不十分なものである
ために維持されるとしたのでは第三者の利益を害することになることから,当事者
が申し立てない理由についても職権により審理することができるとしたものである。
したがって,審判の請求人が申し立てなかった理由についての審理がされたとして
も,そのことによって審決が直ちに違法になるものではない。
他方,特許法153条2項は,審判において当事者が申し立てない理由について
審理したときは,審判長は,その審理の結果を当事者に通知し,相当の期間を指定
して,意見を申し立てる機会を与えなければならないと規定している。これは,当
事者の知らない間に不利な資料が集められて,何ら弁明の機会を与えられないうち
に心証が形成されるという不利益から当事者を救済するための手続を定めたもので
ある。殊に,特許権者又は商標権者にとっては,特許又は商標登録が無効とされ又
は取り消されたときにはその権利を失うという重大な不利益を受けることになるか
ら,当事者の申し立てない理由について審理されたときには,これに対して反論す
る機会が保障されなければならない。しかし,当事者の申し立てない理由を基礎付
ける事実関係が当事者の申し立てた理由に関するものと主要な部分において共通し
,しかも,職権により審理された理由が当事者の関与した審判の手続に現れていて
,これに対する反論の機会が実質的に与えられていたと評価し得るときなど,職権
による審理がされても当事者にとって不意打ちにならないと認められる事情のある
ときは,意見申立ての機会を与えなくても当事者に実質的な不利益は生じないとい
うことができる。したがって,【要旨】審判において特許法153条2項所定の手
続を欠くという瑕疵がある場合であっても,当事者の申し立てない理由について審
理することが当事者にとって不意打ちにならないと認められる事情のあるときは,
上記瑕疵は審決を取り消すべき違法には当たらないと解するのが相当である。
(2) 本件についてこれをみると,本件審決が上告人による申立てのない理由に
ついて審理したものであるとしても,審判において当事者の申し立てない理由につ
いて審理すること自体は,何ら違法でないから,上記2(1)の原審の判断は,商標
法56条において準用する特許法153条1項の規定に違反するといわざるを得な
い。また,同(2)の原審の判断も,本件の審判において商標法51条1項の規定に
いう「他人」として審理の対象となるのはG社及び上告人のみであるという同(1)
の判断を前提とするものであるから,これを是認することはできない。
さらに,上告人が申し立てた審判請求の理由と,本件審決が本件商標の商標登録
を取り消すべきものと判断した理由とを比較すると,両者は,H製作のエレキギタ
ーに付された表示が我が国の取引者,需要者の間に広く知られていたかどうかなど
,本件商標の商標登録を取り消すべきか否かの判断の基礎となる事実関係が主要な
部分において共通すると認められる。しかも,記録によれば,H又は同人と関連の
ある者の製作したエレキギターとの間で誤認混同が生ずるという理由は,上告人が
審判において提出した弁駁書に記載されており,この点に関して被上告人が審判手
続上立証活動をしていたことがうかがわれるのである。そうすると,本件において
は,上告人の申し立てない理由について審理した結果を被上告人に通知して意見申
立ての機会を与える手続が執られていなかったとしても,被上告人にとって不意打
ちにならないと認められる事情があったということができる。
4 以上によれば,被上告人の請求を認容した原審の判断には,判決に影響を及
ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は破棄を免れない。論旨は以上の趣
旨をいうものとして理由がある。そして,被上告人主張のその余の審決取消事由に
ついて更に審理させるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥田昌道 裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田
豊三)
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