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平成12(オ)929著作権確認等請求事件

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裁判所 最高裁判所第二小法廷
裁判年月日 平成13年6月8日
事件種別 民事
原審 平成11(ネ)1106 (平成12年3月16日)
法令 著作権
キーワード 許諾5回
侵害4回
損害賠償3回
差止2回
主文 原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。本件を東京地方裁判所に差し戻す。
判示事項 1 不法行為に基づく損害賠償請求訴訟につき民訴法の不法行為地の裁判籍の規定に依拠して我が国の裁判所の国際裁判管轄を肯定するために証明すべき事項   2 ある管轄原因により我が国の裁判所の国際裁判管轄が肯定される請求の当事者間における他の請求につき民訴法の併合請求の裁判籍の規定に依拠して我が国の裁判所の国際裁判管轄を肯定するための要件
事件の概要 1 我が国に住所等を有しない被告に対し提起された不法行為に基づく損害賠償請求訴訟につき,民訴法の不法行為地の裁判籍の規定に依拠して我が国の裁判所の国際裁判管轄を肯定するためには,原則として,被告が我が国においてした行為により原告の法益について損害が生じたとの客観的事実関係が証明されれば足りる。 2 ある管轄原因により我が国の裁判所の国際裁判管轄が肯定される請求の当事者間における他の請求につき,民訴法の併合請求の裁判籍の規定に依拠して我が国の裁判所の国際裁判管轄を肯定するためには,両請求間に密接な関係が認められることを要する。

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判決文

         主    文
       原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
       本件を東京地方裁判所に差し戻す。
         理    由
 第1 上告代理人又市義男の上告理由について
 民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは,民訴法312条
1項又は2項所定の場合に限られるところ,本件上告理由は,理由の不備をいうが
,その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって,上記各項に規
定する事由に該当しない。
 第2 上告代理人又市義男の上告受理申立て理由について
 1 記録によって認められる事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 上告人は,第1審判決別紙第二目録記載の各著作物(以下「本件著作物」
という。)の日本における著作権者であり,文学的及び美術的著作物の保護に関す
るベルヌ条約(以下「ベルヌ条約」という。)により,ベルヌ条約の同盟国である
タイ王国においても著作権を有する。上告人は,株式会社Dに対し,日本及び東南
アジア各国における本件著作物の利用を許諾している。被上告人は,タイ王国に在
住する自然人であって,日本において事務所等を設置しておらず,営業活動も行っ
ていない。
 (2) 第1審判決別紙第一目録添付の契約書(以下「本件契約書」という。)が
存在し,本件契約書には,Eエンタープライズ・カンパニー・リミテッド(代表者・
F)が,Gフィルム・カンパニー・リミテッド(以下「Gフィルム社」という。)
の社長である被上告人に対し,昭和51年3月4日付けで,日本を除くすべての国
において,期間の定めなく,独占的に本件著作物についての配給権,制作権,複製
権等を許諾する旨の記載がある。
 なお,タイ王国において,Hフィルム・リミテッド・パートナーシップとの名称
の法人は登録されているが,Gフィルム社は登録されていない。
 (3) 上告人は,平成8年7月ころ,被上告人に対し,Gフィルム社の社長であ
る被上告人が,本件契約書に従い,タイ王国を含む領域で,本件著作物の独占的利
用権を有していることを確認する趣旨の書簡(以下「本件書簡」という。)を送付
した。
 (4) 香港に所在するI法律事務所は,平成9年4月,Gフィルム社の代理人と
して,株式会社D及びその子会社並びに株式会社Dと合併交渉中であった株式会社
Jエンタープライゼスに対し,「Gフィルム社は,本件著作物の著作権を有し,又
は上告人から独占的に利用を許諾されているから,株式会社Dの香港,シンガポー
ル及びタイ王国における子会社が本件著作物を利用する行為は,Gフィルム社の独
占的利用権を侵害する」旨の警告書(以下「本件警告書」という。)を送付し,そ
のころ,本件警告書は,日本における上記各社の事務所に到達した。
 (5) 上告人は,本訴提起後の平成9年12月,タイ王国の裁判所に,被上告人
外3名を相手方として,被上告人は本件著作物についてタイ王国における著作権を
有しておらず,上告人から利用の許諾も得ていない,本件契約書は被上告人が偽造
したものであるなどと主張して,本件著作物についてタイ王国における被上告人外
3名の著作権侵害行為の差止め等を求める訴えを提起し,同訴訟は,刑事事件及び
刑事に関連する民事事件として同国裁判所に係属している(以下「タイ訴訟」とい
う。)。タイ訴訟において,被上告人は,本件著作物につきタイ王国における著作
権を上告人と共有している旨の主張をしている。
 2 本件は,上告人が,被上告人に対し,① 本件警告書が日本に送付されたこ
とにより上告人の業務が妨害されたことを理由とする不法行為に基づく損害賠償(
以下「本件請求①」という。以下同じ。),② 被上告人が日本において本件著作
物についての著作権を有しないことの確認,③ 本件契約書が真正に成立したもの
でないことの確認,④
上告人が本件著作物につきタイ王国において著作権を有することの確認,⑤ 被上
告人が本件著作物の利用権を有しないことの確認,並びに,⑥ 被上告人が,日本
国内において,第三者に対し,本件著作物につき被上告人が日本国外における独占
的利用権者である旨を告げること及び本件著作物の著作権に関して日本国外におい
て上告人と取引をすることは被上告人の独占的利用権を侵害することになる旨を告
げることの差止めを請求する事案である。
 3 第1審は,本件訴えを却下し,原審も,概要次のように判断して,本件訴え
を却下すべきものとした。
 (1) 我が国の裁判所に不法行為を根拠とする国際裁判管轄があるか否かを判断
するためには,その前提として,不法行為の存在を認定しなければならないが,原
告の主張のみによってこれを認めるべきではなく,管轄の決定に必要な範囲で一応
の証拠調べをし,不法行為の存在が一定程度以上の確かさをもって認められる事案
に限って,不法行為に基づく国際裁判管轄を肯定するのが相当である。
 本件契約書が真正に成立したものと推定されることに加えて,本件書簡の記載内
容等をも併せ考えると,被上告人は,上告人から,日本を除く地域における本件著
作物の独占的利用の許諾を受けていると一応認められ,被上告人が本件警告書を送
付した行為は,上告人との関係において,上告人と株式会社Dとの間の正当な契約
関係を不当に侵害するとか,上記契約関係に不法に介入しようとしているとはいえ
ない。すなわち,現段階における証拠による限り,被上告人の不法行為の存在を認
めることはできず,むしろ不存在である見込みが大きい。
 したがって,本件請求①について,我が国に不法行為に基づく国際裁判管轄があ
ると認めることはできない。
 (2) 本件請求②については,日本における著作権の所在地が日本国内であるこ
とは明らかであるから,我が国に財産所在地の国際裁判管轄がある。しかし,上告
人が本件請求②の確認の利益を基礎づける事実として主張するのは,タイ訴訟にお
いて,被上告人が本件著作物についての著作権を上告人と共有している旨の主張を
していることのみであり,これによって,日本国内における本件著作物の著作権の
帰属自体をめぐる紛争が,訴訟によって解決するに値するほどに成熟しているとは
いえない。したがって,本件請求②について確認の利益を認めることはできない。
 (3) 訴えの却下を免れない本件請求②に基づき,その余の請求につき我が国に
併合請求による国際裁判管轄を認めることは,不合理であって,許されない。
 (4) なお,仮に,本件請求のいずれかにつき我が国の国際裁判管轄を肯定でき
るとしても,上告人は,本件について権利保護の法的手段が保障され,現にタイ訴
訟において本件訴訟と同様の争点について争っているのであるから,日本国内に事
務所等を設置しておらず,営業活動も行っていない被上告人に対し,タイ訴訟とは
別に,我が国の裁判所において本件訴訟に応訴することを強いることは,被上告人
に著しく過大な負担を課すものであり,当事者間の公平,裁判の適正・迅速の理念
に反するので,我が国の国際裁判管轄を否定すべき特段の事情がある。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
 (1) 【要旨1】我が国に住所等を有しない被告に対し提起された不法行為に基
づく損害賠償請求訴訟につき,民訴法の不法行為地の裁判籍の規定(民訴法5条9
号,本件については旧民訴法15条)に依拠して我が国の裁判所の国際裁判管轄を
肯定するためには,原則として,被告が我が国においてした行為により原告の法益
について損害が生じたとの客観的事実関係が証明されれば足りると解するのが相当
である。けだし,この事実関係が存在するなら,通常,被告を本案につき応訴させ
ることに合理的な理由があり,国際社会における裁判機能の分配の観点からみても
,我が国の裁判権の行使を正当とするに十分な法的関連があるということができる
からである。
 本件請求①については,被上告人が本件警告書を我が国内において宛先各社に到
達させたことにより上告人の業務が妨害されたとの客観的事実関係は明らかである。
よって,本件請求①について,我が国の裁判所の国際裁判管轄を肯定すべきである。
 原審は,不法行為に基づく損害賠償請求について国際裁判管轄を肯定するには,
不法行為の存在が一応の証拠調べに基づく一定程度以上の確かさをもって証明され
ること(以下「一応の証明」という。)を要するとしたうえ,被上告人の上記行為
について違法性阻却事由が一応認められるとして,本件請求①につき我が国に不法
行為地の国際裁判管轄があることを否定した。これは,(ア) 民訴法の不法行為地
の裁判籍の規定に依拠して国際裁判管轄を肯定するためには,何らかの方法で,違
法性阻却事由等のないことを含め,不法行為の存在が認められる必要があることを
前提とし,(イ) その方法として,原告の主張のみによって不法行為の存在を認め
るのでは,我が国との間に何らの法的関連が実在しない事件についてまで被告に我
が国での応訴を強いる場合が生じ得ることになって,不当であり,(ウ) 逆に,不
法行為の存在について本案と同様の証明を要求するのでは,訴訟要件たる管轄の有
無の判断が本案審理を行う論理的前提であるという訴訟制度の基本構造に反するこ
とになると理解した上,(エ) この矛盾を解消するため,一応の証明によって不法
行為の存在を認める方法を採ったものと解される。しかしながら,この(イ)及び(ウ)
の理解は正当であるが,(ア)の前提が誤りであることは前記のとおりであるから,
あえて(エ)のような方法を採るべき理由はない。また,不法行為の存在又は不存在
を一応の証明によって判断するというのでは,その証明の程度の基準が不明確であ
って,本来の証明に比し,裁判所間において判断の基準が区々となりやすく,当事
者ことに外国にある被告がその結果を予測することも著しく困難となり,かえって
不相当である。結局,原審の上記判断には,法令の解釈適用を誤った違法があると
いわなければならない。 
 (2) 本件請求②は,請求の目的たる財産が我が国に存在するから,我が国の民
訴法の規定する財産所在地の裁判籍(民訴法5条4号,旧民訴法8条)が我が国内
にあることは明らかである。
 ところで,著作権は,ベルヌ条約により,同盟国において相互に保護されるもの
であるから,仮に,被上告人が本件著作物につきタイ王国における著作権を上告人
と共有しているとすれば,日本においても,被上告人のタイ王国における共有著作
権が保護されることになる。被上告人がタイ訴訟において本件著作物についてタイ
王国における著作権を共有していると主張している事実は,本件請求②の紛争とし
ての成熟性,ひいては確認の利益を基礎づけるのに十分であり,本件請求②の確認
の利益を否定した原判決には,法令の解釈適用を誤った違法がある。
 よって,本件請求②については,我が国の裁判所に国際裁判管轄があることを肯
定すべきである。
 (3) 本件請求③ないし⑥は,いずれも本件請求①及び②と併合されている。
 【要旨2】ある管轄原因により我が国の裁判所の国際裁判管轄が肯定される請求
の当事者間における他の請求につき,民訴法の併合請求の裁判籍の規定(民訴法7
条本文,旧民訴法21条)に依拠して我が国の裁判所の国際裁判管轄を肯定するた
めには,両請求間に密接な関係が認められることを要すると解するのが相当である。
けだし,同一当事者間のある請求について我が国の裁判所の国際裁判管轄が肯定さ
れるとしても,これと密接な関係のない請求を併合することは,国際社会における
裁判機能の合理的な分配の観点からみて相当ではなく,また,これにより裁判が複
雑長期化するおそれがあるからである。
 これを本件についてみると,本件請求③ないし⑥は,いずれも本件著作物の著作
権の帰属ないしその独占的利用権の有無をめぐる紛争として,本件請求①及び②と
実質的に争点を同じくし,密接な関係があるということができる。よって,本件請
求③ないし⑥についても,我が国の裁判所に国際裁判管轄があることを肯定すべき
である。
 (4) 本件訴訟とタイ訴訟の請求の内容は同一ではなく,訴訟物が異なるのであ
るから,タイ訴訟の争点の一つが本件著作物についての独占的利用権の有無であり
,これが本件訴訟の争点と共通するところがあるとしても,本件訴訟について被上
告人を我が国の裁判権に服させることが当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期す
るという理念に反するものということはできない。その他,本件訴訟について我が
国の裁判所の国際裁判管轄を否定すべき特段の事情があるとは認められない。
 5 結論
 以上に説示したとおり,本件各請求につき我が国の裁判所の国際裁判管轄を肯定
し,本件請求②については訴えの利益も肯定すべきである。これと異なる見解の下
に,上告人の本件訴えを却下すべきものとした原審及び第1審の判断には,いずれ
も判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,この趣旨をいう
ものとして理由がある。したがって,その余の点について判断するまでもなく,原
判決を破棄し,第1審判決を取り消し,本案について審理させるため,本件を第1
審裁判所に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 河合伸一 裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山
継夫 裁判官 梶谷 玄)

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