昭和62(行ツ)109審決取消
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裁判所 |
最高裁判所第三小法廷
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裁判年月日 |
平成3年3月19日 |
事件種別 |
民事 |
原審 |
昭和57(行ケ)205 (昭和62年4月30日) |
法令 |
特許権
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キーワード |
審決8回 訂正審判4回 実施1回
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主文 |
原判決を破棄する。本件を東京高等裁判所に差し戻す。 |
判示事項 |
特許請求の範囲の記載文言自体は訂正されていなくても発明の詳細な説明及び図面の訂正により特許請求の範囲の減縮があつたとされる場合 |
事件の概要 |
特許請求の範囲の記載文言自体は訂正されていない場合でも、特許請求の範囲に記載されている「固定部材」の技術的意義が一義的に明確とはいえず、発明の詳細な説明及び図面から接着剤(接着層)をもつて「固定部材」とする記載をすべて削除する訂正審決が確定したときは、特許請求の範囲に記載されている「固定部材」は、接着剤(接着層)を含まないものに減縮される。 |
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判決文
主 文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理 由
上告代理人久保田穰、同増井和夫、同岡部正夫、同加藤一男の上告理由について
一 原審は、本件特許出願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載が「目
的物Oと係合させられるように各々適合させられた複数の一緒に固定された取付け
具から成るクリップであって、該取付け具の各々が目的物貫通部分2と、拡大部分
4と、該両部分を結合している該貫通部分2から伸長した細長い区分材6と、該貫
通部分2を相互に平行的に間隔を置いて結合している切断されうる部材8、10と
から成るクリップにおいて、該拡大部分間に介在してそれらを結合している容易に
切断されうる固定部材22を備え、該固定部材は該切断されうる部材より隣接する
該拡大部分がねじり力により相互に手作業で分離されうる程充分に弱いことを特徴
とするクリップ」であること等を基礎として、右特許請求の範囲の記載どおりに本
件発明の要旨を認定した上で、(一) 本件明細書の発明の詳細な説明の項の記載を
参酌すると、固定部材は各取付部材の拡大部分間に介在してそれらを結合するもの
であるが、取付機具(ガン)を用いて目的物に取付具を取り付ける際の人の手によ
る一連の連続的動作によって生じるねじり力等の力によって容易に切断し得る程度
に弱いものを指すものと認められ、したがって、本件発明の特許請求の範囲にいう
固定部材の構成は叙上認定の趣旨に解すべきであり、そのほかには、その素材、形
状、寸法等についてこれを具体的に限定する記載はないから、右要件を具備するも
のであれば、すべて固定部材に包含される、(二) 本件明細書の発明の詳細な説明
の項及び図面には、固定部材として固化した接着剤(接着層)を使用した実施例に
関する記載がある、(三) 接着層の果たす作用効果は他の固定部材と差異がないと
して、本件発明の特許請求の範囲の「固定部材」との記載には固化した接着剤(接
着層)を含むものであると認定判断した。
二 ところで、上告代理人提出の特許庁昭和五八年審判第六九〇二号事件審決謄本
及び本件記録によれば、本件特許については、上告人の訂正審判請求に基づき、原
審口頭弁論終結後の昭和六二年三月三一日、本件明細書及び図面から接着層に関す
る第12図及び第13図を削除し、併せて発明の詳細な説明の右図面に関連する説
明部分を削除する旨の訂正を、特許法一二六条一項三号の明瞭でない記載の釈明と
して認める旨の審決がされ、右審決謄本が同年五月二〇日上告人に送達され、右審
決が確定したことが認められる。右審決には、明瞭でない記載の釈明に相当するも
のとして上告人の申立てを認める旨の記載があるが、上告人は明瞭でない記載の釈
明又は特許請求の範囲の減縮としての訂正審判を申し立てたものであり、また、右
審決も、同条一項一号の特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正審判請求を認める
ための要件である同条三項に規定する訂正後における特許請求の範囲に記載されて
いる事項により構成される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができる
ものであったか否かについても検討を加えた上で、上告人の本件訂正審判請求が右
要件を具備している旨の判断をもしている。
原審は、本件明細書の接着剤(接着層)に関する発明の詳細な説明の項の記載や
図面などを参酌して、固定部材には接着剤(接着層)が含まれるものと認定判断し
たものであり、原審の右認定判断は、特許請求の範囲の記載文言の技術的意義が一
義的に明確とはいえない場合の発明の要旨の認定の手法によったものとして首肯し
得るものであるが、訂正を認容する審決の確定により、特許請求の範囲の記載文言
自体が訂正されたものではないけれども、接着剤(接着層)に関する記載がすべて
明細書及び図面から削除されたことによって、出願時に遡って、本件明細書の特許
請求の範囲の固定部材に接着剤(接着層)が含まれると解釈して本件発明の要旨を
認定する余地はなくなったものと解するのが相当である。
三 したがって、本件特許につき訂正を認容する審決が確定したことにより、本件
発明の特許請求の範囲の固定部材の構成は、出願の当初に遡ってこれに接着剤(接
着層)を含まないものに減縮されたものと認められるから、原判決の基礎となった
行政処分は後の行政処分により変更されたものであり、原判決には民訴法四二〇条
一項八号所定の事由が存するといわなければならない。このような場合には、判決
に影響を及ぼすことの明らかな法令の違背があったものとして原判決を破棄し、更
に審理を尽くさせるため事件を原審に差し戻すのが相当である(最高裁昭和五八年
(行ツ)第一二四号同六〇年五月二八日第三小法廷判決・裁判集民事一四五号七三
頁参照)。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見
で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 坂 上 壽 夫
裁判官 貞 家 克 己
裁判官 園 部 逸 夫
裁判官 佐 藤 庄 市 郎
裁判官 可 部 恒 雄
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