昭和27(あ)3897薬事法違反、商標法違反
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裁判所 |
最高裁判所第一小法廷
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裁判年月日 |
昭和28年9月3日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
商標権
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キーワード |
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主文 |
第一審及び原審各判決中被告人に関する部分を破棄する。被告人を懲役六月に処する。押収に係る証拠物件(大阪地方検察庁昭和二六年検領第一二七六二号の一乃至二二)は全部これを没収する。訴訟費用中被告人の第一審及び当審における各国選弁護人に支給した分は被告人の負担とする。本件公訴事実中商標法違反の点(第一審判決の判示第三の事実)については被告人は無罪。 |
判示事項 |
他人の登録商標を類似商品に貼付して販売する目的で所持した場合と商標法第三四条第二号違反罪の成立 |
事件の概要 |
他人の登録商標と同一の商標を、類似の商品に貼付して、販売する目的で所持していたからといつて、商標法第三四条第二号違反をもつて論ずることはできない。 |
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判決文
主 文
第一審及び原審各判決中被告人に関する部分を破棄する。
被告人を懲役六月に処する。
押収に係る証拠物件(大阪地方検察庁昭和二六年検領第一二七六二号の
一乃至二二)は全部これを没収する。
訴訟費用中被告人の第一審及び当審における各国選弁護人に支給した分
は被告人の負担とする。
本件公訴事実中商標法違反の点(第一審判決の判示第三の事実)につい
ては被告人は無罪。
理 由
弁護人坂晋の上告趣意第一点は憲法違反をいうが、その実質は単なる法令違反の
主張に帰し、同第二点は法令違反、同第三点は量刑不当の主張であつて、いずれも、
刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
職権で調査すると、原判決の維持した第一審判決は、判示第三において、被告人
は相被告人A、同Bと共謀の上、昭和二六年八月二一日大阪市a区b町c丁目d番
地C方で、D製薬株式会社登録商標第三一五八三七号「E」商標と同一の商標であ
る「E」の文字の記載あるアルプル貼レツテル約三七〇〇枚を類似の商品である注
射液に貼付して販売する目的を以て所持していた旨の事実を認定し、これに商標法
三四条二号を適用処断している。そして、記録によると、右レツテルは被告人にお
いて出捐し、第一審相被告人AがF某の斡旋により、他より買求めたもので、被告
人等は自らこれを密造した注射液に貼用使用して売るつもりで所持していたもので
あることが明らかである。ところで、右商標法三四条二号の規定は、(一)他人の
登録商標と同一又は類似の商標を、他人をして同一若しくは類似の商品に使用せし
める目的をもつて、他人に交付し若しくは販売すること、又は(二)かかる商標を、
右のような目的をもつて、他人に交付、販売する目的で自己において所持すること
を犯罪とし処罰する規定である。しかるに、本件の場合、被告人の行為は、レツテ
ルの単なる所持であつて、未だこれを他に交付若しくは販売しているわけではない
から、前記(一)の犯罪をもつて問擬することができないのは勿論、また被告人が
該レツテルを他人をして使用せしめる目的をもつて他人に交付、販売する目的で自
己において所持したことは第一審判決の何等認定していないところであるから、前
記(二)の犯罪をもつて問擬することもできない。結局第一審の認定事実は、かか
る商標を「類似の商品である注射液に貼布して販売する目的を以て所持した」に過
ぎないのであるから、同三四条一号に規定する犯罪の未遂又は予備に当る行為と見
るべきである。そして、商標法においてはかゝる未遂又は予備の行為を所罰する規
定を設けていないから同判決及びこれを維持した原判決は、結局、罪とならない行
為に商標法三四条二号を適用処断した違法あるに帰し、刑訴四一一条一号によりこ
れを破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。
よつて、同四一三条但書に則り、当裁判所において自ら判決をすることとし、本
件公訴事実中右商標法違反の点については同四一四条四〇四条三三六条により被告
人に対し無罪の言渡を為し、第一審判決の確定したその余の事実に法律を適用する
と、被告人の同判示第二の所為は薬事法二六条一項五六条一項刑法六〇条に該当す
るので所定刑中懲役刑を選択し、その刑期範囲内で被告人を主文二項の刑に処し、
押収に係る主文三項掲記の物件は右薬事法違反行為の供用物件で犯人以外の者に属
しないので刑法一九条一項二号二項によりこれを没収し、訴訟費用中被告人の第一
審及び当審における各国選弁護人に支給した分は刑訴一八一条により被告人をして
これを負担せしむべきものとする。
よつて、主文のとおり判決する。
右は、裁判官全員一致の意見によるものである。
検察官 安平政吉出席
昭和二八年九月三日
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 斎 藤 悠 輔
裁判官 真 野 毅
裁判官 岩 松 三 郎
裁判官 入 江 俊 郎
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