昭和34(オ)856審決取消請求
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裁判所 |
最高裁判所第二小法廷
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裁判年月日 |
昭和36年6月23日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
商標権
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キーワード |
審決2回
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主文 |
本件上告を棄却する。上告費用は上告人の負担とする。 |
判示事項 |
一の商標から二つの称呼が生ずると認定することの可否。 |
事件の概要 |
一の商標から二つの称呼を生ずるものと認定しても差支えない。 |
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判決文
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人弁護士兼子一の上告理由第一について。
論旨は、原判決が本件出願商標及び引用商標から「D」なる称呼、観念が生ずる
旨を判示したのを非難するのであるが、現在、紋章等に関する知識が世人一般に薄
くなつたことが所論のとおりであつても、なお、右商標の図形をDを表わすものと
認める者も相当あるべく、右の原判示が所論のように経験則に反するものとはいえ
ない。論旨は理由がない。
同第二について。
しかし、商標の一部が圧倒的に重要であり他の部分が附加されているに過ぎない
ような場合は格別、本件出願商標のような図形においては、二つの称呼が出ること
も考えられないことではない。原判決が、右商標について、「E」の称呼、観念を
生ずるとともに、「D」の称呼、観念を生ずる旨を認定したことをもつて違法とす
べき理由はない。
同第三について。
同じ称呼または観念を生ずる商標を類似商標とするのは商品の出所について誤認、
混同を生ずる虞があることによることは論旨のとおりである。論旨は、本件の場合、
右の誤認、混同を生ずる危険は全く予想されない旨を主張するのであるが、原判決
はこの点について、誤認、混同を生じないのは、両家の競業の事情に通暁している
ものの間において、しかも現物取引の場合においてのみ言い得ることである旨を判
示しており、この判示は首肯することができる。論旨は理由がない。
同第四について。
しかし、原判決は所論のように出願商標の主要部を単にその大きさや面積のみに
よつて決定しているのではなく、全体的観察においても、D絞章表示の立方体の図
形を看過することができず、結局、「D」なる称呼、観念をも生ずる旨を判示して
いるのであつて、右判示は当審においても是認することができる。論旨は理由がな
い。
上告代理人弁護士細谷啓次郎、同川上隆の上告理由第一点について。
商標の類否を判断するについては、それぞれの商標を全体として観察しなければ
ならないことは所論のとおりである。本件出願商標と引用商標とは、その図形にお
いて同じではなく、ことに本件商標の中央部にEの図形があり、Dの図形は右Eに
よつて一部覆われその全部をあらわしていないのであるが、そのことによつて出願
商標からDの称呼、観念を生じないものとは断定し難く、原判決が出願商標は引用
商標とその称呼、観念において同じである旨を判示したのは正当であり、論旨は理
由がない。
同第二点について。
論旨は、原判決は、出願商標が商標法(大正一〇年法律第九九号)二条一項九号
に該当するかどうかについての判断の基準時を誤つた違法があるというのである。
原判決が右の基準時を出願時においていることは判文上明らかであるが、かりに所
論のように、その当時予測し得べきことは右の判断の資料とすべきものとしても、
その後審決時までに生じた事実をもつて直ちに予測可能な事実として右二条一項九
号に該当するかどうかを論議すべきものではない。のみならず、称呼、観念が同じ
であるかどうかについて、出願時と審決時とで判断が異るようなことは通例考えら
れないばかりではなく、原判決によれば、誤認、混同の事例がないというのは、両
家の競業の事情に通暁しているものの間において、しかも現物取引の場合において
のみ言い得るというのであつて、かかる事実も、基準時を何時とするかによつて異
るものとは考えられない。論旨は理由がない。
同第三点について。
論旨は多くの先例を援用して、原判決は商標の称呼、観念類否決定の基準を誤解
している旨を主張するのであるが、商標の類否判断は具体的場合に応じて判断せら
れるべき問題であるから、原判決が本件出願商標と引用商標とを類似するものと判
断したからといつて、所論の先例に反するものとはいえないのみならず、原判決が
右の判断の基準を誤つたものということもできない。論旨は理由がない。
同第四点について。
論旨は、原判決は重要な事項について理由を附せず、理由に齟齬があり、審理不
尽の違法があるというのである。よつて所論の点について按ずるに、
一、原判決は、出願商標の中央部のE形図形を考えなかつたのではなく、その図
形を十分に観察した上で、なお「D」の称呼、観念を生ずるとしているのであつて、
所論のように図形の一部を抽出分析して判断をしているのではない。
二、原判決は商標の特別顕著性は同法一条の問題であつて商標の二条一項九号に
該当するかどうかに関係がない旨を判示しており、右二条一項九号に該当する以上
特別顕著の有無の判断は必要がない。
三、原判決は商標の類否を上告人の主観的意図を考慮に入れて判断しているので
はない。所論のように、原判決の理由に前後矛盾するところはない。
四、原判決が出願商標について「E型元祖」なる称呼、観念を認めるとともに「
D」なる称呼、観念を認めたからといつて、元来一箇の商標から二つの称呼、観念
が生ずることがないとはいえないのであるから、所論のような矛盾はない。
五、上述第二点説明のとおりであつて理由がない。
六、掛紙の相違は商標の類否とは別の問題であつて、掛紙による商品の識別につ
いてまで判示する必要はない。
以上、要するに、原判決に、所論のような理由不備、理由齟齬、審理不尽、判断
遺脱等の違法はなく、論旨は理由がない。
同第五点について。
上告人と引用商標の権利者との関係が所論のとおりであつても、すでに引用商標
の登録があり、上告人の出願商標が右引用商標と類似するものと判断される以上、
上告人の出願が拒否されてもやむを得ないのであつて、論旨は採用することができ
ない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 藤 田 八 郎
裁判官 池 田 克
裁判官 河 村 大 助
裁判官 奥 野 健 一
裁判官 山 田 作 之 助
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