知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成26(ワ)25577 特許権侵害行為差止等請求事件

この記事をはてなブックマークに追加

平成26(ワ)25577特許権侵害行為差止等請求事件

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 請求棄却 東京地方裁判所
裁判年月日 平成27年8月27日
事件種別 民事
当事者 被告朝日インテック株式会社早川尚志
原告日本ライフライン株式会社高見憲
対象物 医療用ガイドワイヤ
法令 特許権
特許法100条1項1回
特許法36条6項1号1回
特許法102条2項1回
キーワード 特許権7回
無効5回
実施2回
侵害2回
無効審判2回
差止2回
損害賠償1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は,発明の名称を「医療用ガイドワイヤ」とする特許権を有する原告が, 被告による別紙物件目録記載の被告製品1及び被告製品2(以下,これらを総 称して「被告製品」という。)の製造,販売等は原告の特許権を侵害すると主 張して,被告に対し,特許法100条1項,2項に基づいて,被告製品の製造, 販売等の差止め及び被告製品等の廃棄を求めるとともに,不法行為に基づき, 損害賠償金3億円及びこれに対する不法行為後である平成26年10月8日 (訴状送達の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金 の支払を求める事案である。

▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 特許権に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

平成27年8月27日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成26年(ワ)第25577号 特許権侵害行為差止等請求事件
口頭弁論の終結の日 平成27年6月16日
判 決
東 京都品川区<以下略 >
原 告 日本ライフライン株式会社
同訴訟代理人弁護士 鮫 島 正 洋
高 見 憲
宅 間 仁 志
同訴訟復代理人弁護士 篠 田 淳 郎
名古屋市<以下略>
被 告 朝 日 イ ン テ ッ ク 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 三 木 浩 太 郎
早 川 尚 志
同訴訟代理人弁理士 吉 本 聡
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,別紙物件目録記載の製品の製造,販売及び販売の申出をしてはな
らない。
2 被告は,前項記載の製品及びその半製品並びに同製品の製造に用いる設備
を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,3億円及びこれに対する平成26年10月8日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,発明の名称を「医療用ガイドワイヤ」とする特許権を有する原告が,
被告による別紙物件目録記載の被告製品1及び被告製品2(以下,これらを総
称して「被告製品」という。)の製造,販売等は原告の特許権を侵害すると主
張して,被告に対し,特許法100条1項,2項に基づいて,被告製品の製造,
販売等の差止め及び被告製品等の廃棄を求めるとともに,不法行為に基づき,
損害賠償金3億円及 び こ れ に 対 す る 不 法 行 為 後 で あ る 平成26年10月8日
(訴状送達の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金
の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがない。)
(1) 本件特許権
原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,これに係る特許を「本
件特許」という。)を有している。
特許番号 第4354525号
発明の名称 医療用ガイドワイヤ
出 願 日 平成21年5月20日
登 録 日 平成21年8月7日
(2) 特許請求の範囲の記載
本件特許出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし4及び9
の記載は,本判決添付の特許公報の該当項記載のとおりである(以下,それ
ぞれの請求項の符号に従い 「本件発明1」のようにいい,これらを併せて
「本件発明」という。)。
(3) 本件発明の構成要件
本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した構
成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件1A」のようにいう。)。
ア 本件発明1
1A 遠位端側小径部と前記遠位端側小径部より外径の大きい近位端側大
径部とを有するコアワイヤと,
1B 前記コアワイヤの遠位端側小径部の外周に軸方向に沿って装着され,
先端側小径部と,前記先端側小径部よりコイル外径の大きい後端側
大径部と,前記先端側小径部と前記後端側大径部との間に位置する
テーパ部とを有し,少なくとも先端部および後端部において前記コ
アワイヤに固着されているコイルスプリングとを有し,
1C 前記コイルスプリングの先端側小径部の長さが5~100mm,コ
イル外径が0.012インチ以下であり,
1D 前記コイルスプリングの先端部は,Au-Sn系はんだにより,前
記コアワイヤに固着され,
1E Au-Sn系はんだによる先端硬直部分の長さが0.1~0.5m
mである
1F ことを特徴とする医療用ガイドワイヤ。
イ 本件発明2
2A 前記コイルスプリングの先端側小径部のコイル外径が0.010イ
ンチ以下である
2B ことを特徴とする請求項1に記載の医療用ガイドワイヤ。
ウ 本件発明3
3A 前記コアワイヤの近位端側大径部の外径および前記コイルスプリン
グの後端側大径部のコイル外径が,何れも0.014インチ以上で
ある
3B ことを特徴とする請求項2に記載の医療用ガイドワイヤ。
エ 本件発明4
4A 前記コイルスプリングの先端側小径部におけるコイルピッチが,コ
イル線径の1.0~1.8倍であり,
4B Au-Sn系はんだが,前記コイルスプリングの1~3ピッチに相
当する範囲においてコイル内部に浸透している
4C ことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の医療用ガ
イドワイヤ。
オ 本件発明9
9A 前記コアワイヤがステンレスからなること
9B を特徴とする請求項1乃至請求項8の何れかに記載の医療用ガイド
ワイヤ。
(4) 被告の行為
被告は,業として,被告製品の製造,販売及び販売の申出をしている。
(5) 被告製品の構成要件充足性
被告製品は,本件発明の構成要件1A,1C,1F,2A,3A,4A及
び9Aの技術的範囲に属する。
2 争点
(1) 被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか
(2) 本件発明に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認め
られるか
(3) 原告の損害額
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか)について
(原告の主張)
ア 被告製品の構成は,別紙「被告製品説明書」記載のとおりであり,本件
の争点は,被告製品のステンレススチールコアとスプリングコイルの先端
部が「Au-Sn系はんだ」によって固着されているか否かのみである。
本件発明における「Au-Sn系はんだ」は,Au及びSnを含むはん
だを意味し,Ag(銀)を含有してもよいし,AuSn4等の金属間化合
物を含有してもよいし,不均一な合金の組織態様を含んでもよいと解釈す
べきである。本件発明における「Au-Sn系はんだ」を,Ag-Sn系
はんだによって固着する場合と比較して2.5倍程度の固着力が得られる
ものや,コアワイヤとコイルスプリングを直接固着するものに限定解釈す
る理由はない。
イ 被告製品1のスプリングコイルの先端部の反射電子像は,別紙被告製品
説明書第1,5の写真のとおりであり,被 告 製 品2 の ス プ リ ン グ コ イル
の 先 端 部 の 反 射 電 子 像 は , 別紙被告製品説明書第3,5の写真のとおり
である。
各反射電子像から明らかなとおり,被告製品のスプリングコイルの先端
部は,白色部及び灰色部によって,コアワイヤであるステンレススチール
コアに固着されている。
被告製品の白色部及び灰色部を直径20μmの円形の測定スポットでの
X線マイクロアナライザ分析をしたところ,被告製品1の白色部1の組成
(定性分析対象部位(又は領域)のうちに占める割合。以下同じ。)は,
Auが約78質量%,Snが約22質量%であり,同灰色部1の組成は,
Auが約16質量%,Snが約81質量%,Agが約3質量%であり,被
告製品2の白色部2の組成は,Auが約78質量%,Snが約22質量%
であり,同灰色部2の組成は,Auが約25質量%,Snが約73質量%,
Agが約2質量%であったから,これらはいずれもAu及びSnを主成分
として含有するはんだである。被告は,灰色部において検出されたAuは
金属間化合物AuSn4であり,灰色部はAuとSnが均一に混じり合っ
ているものではないなどと主張するが,被告による被告製品の分析はデー
タ誤差が極めて大きく不適当である上,仮に被告の主張するとおりである
としても,本件発明における「Au-Sn系はんだ」の解釈は前記のとお
りであるので,灰色部も「Au-Sn系はんだ」であるといえる。
ウ また,被告の主張によっても,被告製品は,白色部において,ステンレ
ススチールコアと「Au-Sn系はんだ」が強く固着されており,この白
色部によって,ステンレススチールコアがスプリングコイルの先端側小径
部のはんだから引き抜かれなくなっているのであるから,「Au-Sn系
はんだ」である白色部によってスプリングコイルに固着されているといえ
る。実際にも,被告製品は,先端側硬直部分の長さが0.1~0.5㎜と
短いにもかかわらず,固着強度が十分に高いから,本件発明における「A
u-Sn系はんだ」の効果を利用しているものである。
エ したがって,被告製品のスプリングコイルは「Au-Sn系はんだ」に
よりステンレススチールコアに固着されているというべきであり,被告製
品は,本件発明の構成要件1B,1D,1E及び4Bの技術的範囲に属す
るから,2B,3B,4C及び9Bの技術的範囲にも属する。
(被告の主張)
ア 本件発明の「Au-Sn系はんだ」は,文言の通常の技術的用法及び本
件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の発
明の詳細な説明の記載内容に照らして,Au及びSnの2種類からなり,
かつAuの含有量がSnの含有量より優位なものであって,先端硬直部分
の長さを0.1~0.5㎜と短くすることができるとともに,コアワイヤ
に対するコイルスプリングの固着強度を十分に高いものとすることができ
るAu-Sn系はんだ,より具体的には,例えば,Au75~80質量%
と,Sn25~20質量%との合金からなる,Ag-Sn系はんだによっ
て固着する場合と比較して2.5倍程度の固着力(引張強度)が得られる
ものであることを要すると限定解釈すべきである。
イ 被告製品1のスプリングコイルの先端部の反射電子像(全体像と拡大像)
は次のとおりである。なお,拡大像の丸は直径20μmの円である。
白色部

イ 明灰色部


白色部 暗灰色部


コ ン
イ レ
ル ス コ
部 イ


被告製品は,被告が有する特許第5382953号の実施品であり,そ
の製造方法は,ステンレススチールコアの先端部に,スプリングコイルと
接触しないようにスプリングコイルの内径より外径の大きい金錫(Au8
0-Sn20)の玉(白色部)を形成した上,同白色部と,スプリングコ
イルを,銀錫(Sn96.5-Ag3.5)(灰色部)によりはんだ付け
するというものであり,ステンレススチールコアとスプリングコイルが金
錫(白色部)によって直接的に固着されているものではなく,また銀錫
(灰色部)は「Au-Sn系はんだ」ではない。
この点,灰色部には,いわゆる「金食われ」現象によって不可避的に形
成された針状組織を呈する金属間化合物AuSn4(明灰色部)が不可避
的に混入している。被告による被告製品の反射電子像及び直径1μmの円
形の測定スポットでのX線マイクロアナライザ分析によると,灰色部には,
組成が異なる暗灰色部と明灰色部があり,均一な組成ではなく,暗灰色部
の組成は,Snが77.1~99.1質量%,Agが0.9~22.9質
量%,Auが未検出であり,明灰色部の組成は,Snが64.6~67.
2質量%,Auが約32.6~34.6質量%,Agが0.2~0.8質
量%であった。この明灰色部は,被告によるTEM解析によると,金属間
化合物であるAuSn4であり,「Au-Sn」として存在するものでは
ない。そして,AuSn4又はAuSn4を含む銀錫(Sn96.5-A
g3.5)は,脆い性質を有し,固着強度を高める性質を有するものでは
ない。以上によれば,灰色部は,前記のとおり解釈すべき「Au-Sn系
はんだ」に該当しないことが明らかである。
ウ そして,被告製品は,前記製造方法から明らかなとおり,白色部によっ
てスプリングコイルの先端部とステンレススチールコアが直接固着されて
いるものではない。
なお,仮に白色部と灰色部が「Au-Sn系はんだ」に当たるとした場
合であっても,AuSn4を含む銀錫(灰色部)は固着強度を高める性質
を有するものではないから,スプリングコイルとステンレススチールコア
をかたくしっかりと保持することはなく,固着するとはいえない。
エ よって,被告製品は,少なくとも,構成要件1B,1Dを充足しないか
ら,構成要件2B,3B,4C及び9Bの各技術的範囲にも属しないこと
は明らかである。
(2) 争点(2)(本件発明に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきも
のと認められるか)について
(被告の主張)
前記(1)記載の原告の主張によれば,本件発明の「Au-Sn系はんだ」
は,Au及びSn以外の元素や,不均一な組織構造を有する金属間化合物等
を含む広い概念のはんだを意味すると理解することになるところ,本件明細
書の発明の詳細な説明や出願時の技術常識に基づいても,当業者は「Au-
Sn系はんだ」の具体的組成を理解することができず,本件発明は,本件発
明の課題,すなわち,先端硬直部の長さを0.1~0.5㎜と短くすること
ができるとともに,コアワイヤに対するコイルスプリングの固着強度を十分
に高いものとすることを解決することができるように記載されたものではな
いから,サポート要件(特許法36条6項1号)を満たさない。
(原告の主張)
本件明細書の段落【0017】,【0027】等の記載内容からすれば,
当業者であれば,本件明細書の発明の詳細な説明や特許請求の範囲の記載か
ら,どのように本件発明の課題を解決するのかを理解することができるので
あって,サポート要件違反の無効理由はない。
(3) 争点(3)(原告の損害額)について
(原告の主張)
本件特許権の登録日以降における被告製品1,2の売上げは,それぞれ,
2億4000万円,3億6000万円を下らず,被告製品の利益率は,少な
くとも50%であるから,原告の損害額は,特許法102条2項に基づき算
定される3億円を下回らない。
(被告の主張)
否認する。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか)について
(1) まず,被告製品の灰色部が本件発明の「Au-Sn系はんだ」に相当す
るかについて検討する。
ア 本件明細書(甲2)には以下の記載がある。
(ア) 「コイルスプリングの先端部および後端部をコアワイヤに固着する
ためのはんだとしては,融点が低くて取扱いが容易であることから,
Ag-Sn系はんだが使用されている。」(段落【0004】)
(イ) 「本発明の第1の目的は,コアワイヤに対するコイルスプリングの
固着強度が高く,しかも,従来のものと比較してシェイピング長さを
短くすることができる医療用ガイドワイヤを提供することにある 。」
(段落【0016】)
(ウ) 「請求項1~4に係る医療用ガイドワイヤによれば,コイルスプリ
ングの先端部をコアワイヤに固着するためのはんだとしてAu-Sn
系はんだが使用されているので,先端硬直部分の長さが0.1~0.
5㎜と短い(はんだによる固着領域が狭い)にも関わらず,コアワイ
ヤに対するコイルスプリングの固着強度を十分に高い(コアワイヤの
遠位端側小径部の破断強度より高い)ものとすることができ,コイル
スプリングに挿入されている状態のコアワイヤに引張力を作用しても,
コアワイヤが引き抜かれるようなことはない。」 (段落【0027】)
(エ) 「コイルスプリング20の先端部である先端側小径部21の先端部
分は,Au-Sn系はんだ31により,コアワイヤ10に固着されて
いる。すなわち,Au-Sn系はんだ31が,コイルスプリング20
の先端部(先端側小径部21の先端部分)の内部に浸透し,コアワイ
ヤ10(遠位端側小径部11)の外周と接触することにより,コイル
スプリング20の先端部がコアワイヤ10(遠位端側小径部11)に
固着されている。」(段落【0052】)
(オ) 「本発明の医療用ガイドワイヤは,コイルスプリングの先端側小径
部をコアワイヤに固着させるためのはんだとして,Au-Sn系はん
だを使用している点に特徴を有する。本発明で使用するAu-Sn系
はんだは,例えば,Au75~80質量%と,Sn25~20質量%
との合金からなる。」(段落【0057】)
(カ) 「ステンレスと,白金(合金)とをAu-Sn系はんだを使用して
固着することにより,Ag-Sn系はんだによって固着する場合と比
較して2.5倍程度の固着力(引張強度)が得られる。このため,先
端硬直部分の長さが0.1~0.5㎜と短い場合(はんだの浸透範囲
がコイルピッチの1~3倍で ある場合)であっても,コアワイヤ10
に対するコイルスプリング20の固着強度を十分高くすることができ,
具体的には,コアワイヤ10の遠位端側小径部11の引張破断強度よ
り高くすることができる。このため,コイルスプリング20と,コア
ワイヤ10との間に引張力を作用しても,コアワイヤ10が引き抜か
れるようなことを防止することができる。」(段落【0058】)
(キ) なお,実施例である「Au-Sn系はんだ」の固着性に係る試験結
果と比較例である「Ag-Sn系はんだ」の固着性に係る試験結果が
記載されているが,これらの 具体的な組成は記載されていない。(段
落【0078】ないし【0083】参照)
イ 「Au-Sn系はんだ」の解釈について
本件発明の構成要件1Dにおける「Au-Sn系はんだ」とは,その文
言及び証拠(甲7ないし9,乙4,5)によって認められる本件特許出願
時の技術常識に照らして,Au(金)及びSn(スズ)を主成分として含
むはんだである必要がある(ただし,これら以外のAg(銀)等の金属元
素やAuSn4等の金属間化合物を含有する態様でもよく,また不均一な
合金の組織態様を含んでもよい。)と解される。
そして,前記ア記載の本件明細書の発明の詳細な説明の記載内容を併せ
考慮すれば,本件発明における「Au-Sn系はんだ」は,Au75~8
0質量%とSn25~20質量%との合金からなるはんだを具体例とする,
従来の「Ag-Sn系はんだ」と比較して高い固着強度を有する,Au及
びSnを主成分とするはんだを意味すると解すべきである。
この点,原告は,「Au-Sn系はんだ」がAu及びSnを主成分とす
るはんだを意味するとしても,そのAu成分はAuSn4として存在する
ものであってもよいと主張しているとも解されるが,証拠(甲7,乙4,
5)によれば,本件特許出願時の技術常識として,Au-Sn系はんだ等
のAu基はんだにおいては,他の金属との間に脆い金属間化合物を形成し
やすいため脆い金属間化合物の形成を避ける必要があり,その脆い金属間
化合物の一例としてAuSn4が挙げられていることが認められるのであ
って,AuSn4は,Au-Sn系はんだにおいては,その固着強度を弱
めるものとしてむしろ避ける必要があるものであるから,AuSn4が含
まれることをもって,上記の「Au及びSnを主成分とするはんだ」に当
たるとは到底いえない。
ウ 被告製品について
証拠(乙6)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品の製造方法は,ステ
ンレススチールコアの先端部に,スプリングコイルと接触しないようにス
プリングコイルの内径より外径の大きい金錫(Au80-Sn20)の玉
(白色部)を形成した上,同白色部と,スプリングコイルを,金錫の融点
より低い設定温度で,銀錫(Sn96.5-Ag3.5)(灰色部)によ
りはんだ付けするというものであると認められる。
そして,原告による直径20μmの円形の測定スポットでのX線マイク
ロアナライザ分析(甲5)によれば,灰色部の組成にはAu(金)も含ま
れると認められるが,被告による被告製品の反射電子像及び直径1μmの
円形の測定スポットでのX線マイクロアナライザ分析(乙2の1,2の3
ないし2の16)によると,灰色部には,組成が異なる暗灰色部と明灰色
部があり,暗灰色部の組成は,Snが77.1~99.1質量%,Agが
0.9~22.9質量%,Auが未検出であり,明灰色部の組成は,Sn
が64.6~67.2質量%,Auが約32.6~34.6質量%,Ag
が0.2~0.8質量%であったと認められる。そして,証拠(乙3)に
よれば,この明灰色部から収束イオンビーム(FIB)にて試料を摘出し,
100nmまで薄片化してTEM解析を行い,AuSn4の標準サンプル
によるデータと比較したところによると,同試料は金属間化合物であるA
uSn4であると同定されたことが認められる。証拠(乙4,5,8の1
ないし8の13)によれば,このAuSn4は,いわゆる「金食われ」現
象によって,銀錫をはんだ付けした際に金錫に含まれるAuが溶出するこ
とによって針状組織を呈する金属間化合物AuSn4が不可避的に混入し
たものであると説明でき,前記認定に係る被告製品の製造方法と整合する。
この点,原告は,明灰色部にAgが検出されたこと並びに白色部及び暗灰
色部の組成が前記製造方法記載のAu80-Sn20ないしSn96.5
-Ag3.5とは異なることなどから,被告による被告製品のX線マイク
ロアナライザ分析及びTEM解析は不適当であると主張するが,証拠(乙
7の1ないし7の5)に照らして,これらの指摘は被告による被告製品の
分析及び解析の正確性に疑問を生じさせるようなものではない。
そうすると,被告製品の灰色部に含まれるAu成分が主としてAuとし
て存在することを認めるに足りる証拠はなく,かえって,これは主として
AuSn4として存在するものであるといえるから,前記イの解釈を踏ま
えれば,これが含まれるからといって,被告製品の灰色部がAu及びSn
を主成分とするはんだであるとは認められない。むしろ,被告製品の灰色
部は,AuSn4(明灰色部)を含む銀錫(「Ag-Sn系はんだ」)で
あると考えられ,これは,証拠(乙9ないし12)によれば,「Ag-S
n系はんだ」と比較して高い固着強度を有する「Au-Sn系はんだ」で
あるとは到底認められない。
エ よって,被告製品の灰色部は,本件発明の「Au-Sn系はんだ」に相
当するとはいえない。また,白色部と灰色部は,組成が異なる別のはんだ
であり,灰色部が「Au-Sn系はんだ」に相当しない以上,白色部と灰
色部を合わせて「Au-Sn系はんだ」に相当するということもできない。
(2) 次に,被告製品の白色部が本件発明の「Au-Sn系はんだ」に相当す
るとして,白色部によりスプリングコイルの先端部がステンレススチールコ
アに固着されているといえるかについて検討する。
被告製品は,前記(1)ウ記載の製造方法のとおり,スプリングコイルに接
しないようにステンレススチールコアに玉付けされた金錫(白色部)とスプ
リングコイルを,銀錫(灰色部)により,金錫の融点より低い設定温度では
んだ付けするというものであるから,金錫の玉付けされたステンレススチー
ルコアは,銀錫(灰色部)ではんだ付けされるまでの間はスプリングコイル
に固定されておらず可動性を有するといえ,白色部ないしステンレススチー
ルコアとスプリングコイルの先端部とが白色部によって固着されているとは
認められない。原告は,原告による被告製品の先端はんだ部引張強度試験の
結果(甲10)によれば,被告製品においては,先端側硬直部分の長さが0.
1~0.5㎜と短いにも関わらず固着強度が十分高いなどと主張するが,こ
の結果は,金錫(白色部)の玉がスプリングコイルに引っ掛かるためである
と考えられ,この結果によってステンレススチールコアが白色部によってス
プリングコイルと固着されているということにはならないというべきである。
(3) そうすると,被告製品の灰色部は,本件発明の「Au-Sn系はんだ」
に相当せず,被告製品の白色部は,「Au-Sn系はんだ」に相当するとし
てもこれによりスプリングコイルの先端部がステンレススチールコアに固着
されているとは認められないから,結局,被告製品は,少なくとも,構成要
件1Dの「コイルスプリングの先端部は,Au-Sn系はんだにより,前記
コアワイヤに固着され」を充足せず,また,これを引用する構成要件2B,
3B,4C及び9Bのいずれも充足しないことは明らかである。
2 結論
以上のとおり,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属するとは認められな
いため,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理
由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 沖 中 康 人
裁判官 廣 瀬 達 人
裁判官 宇 野 遥 子
(別紙)
物 件 目 録
⑴ 被告製品1
商品名 Guide Wire X-treme XT-A
⑵ 被告製品2
商品名 Guide Wire X-treme XT-R
以上
(別紙)
被告製品説明書
第1 被告製品1の構成の説明
被告製品1であるGuide Wire X-treme X T - Aに
ついて以下構成の説明を行う。
被 告 製 品 1 は カ テ ー テ ル な ど の 挿 入 , 留 置 の た め に 使 用 す る 医 療 用 のガ
イドワイヤであり,ステンレススチールコアのまわりに,螺旋状にワイヤ
を巻いた(スプリングコイル)ものである。
1 ステンレススチールコア
被 告 製 品 1 は , 被 告 製 品 1 の カ タ ロ グ に 以 下 の よ う に 示 さ れ て い る (甲
3の1)。
外径小さい(1)
外径大
き い
患者挿入側 (2)
甲3 の 1, 1 枚目 左 欄 上段 の 図( 上 記番 号 等 は原 告 が付 し た。 )
上 図 に 示 す よ う に , 被 告 製 品 1 に お い て は , ガ イ ド ワ イ ヤ の コ ア と なる
「 Stainless Steel Core」( 以 下「 ステ ンレ スス チ ール コ ア 」と いう 。)
が中心に配置され,当該ステンレススチールコアは患者に用いる遠位端側
の先端部分の外径の小さい部分(以下「遠位端側小径部」という。(1))
と,ガイドワイヤを患者に用いる施術者の手元側の外径の大きい部分(以
下「近位端側大径部」という。(2))とを有している。
当該ステンレススチールコアはステンレススチール 製である。
2 スプリングコイル
(3) (4) (5)
甲3 の 1, 1 枚目 左 欄 上段 の 図( 上 記番 号 等 は原 告 が付 し た。 )
被 告 製 品 1 に 係 る ガ イ ド ワ イ ヤ の 先 端 部 は , 上 図 に 示 す よ う に , 上 述し
た遠位端側小径部の外周にスプリングコイルが装着された部分(以下「先
端側小径部」という。(3))と,当該先端側小径部よりスプリングコイ
ルの外径の大きい部分(以下「後端側大径部」という。(5))と,スプ
リ ン グ コ イ ル が 先 細 り に な る テ ー パ ー 1部 分 ( 以 下 「 テ ー パ 部 」 と い う 。
(4))とを有している 2。
3 周囲のコイルとステンレススチールコアとの接着
被 告 製 品 1 の ガ イ ド ワ イ ヤ に お い て は , 次 頁 の 図 の よ う に ス プ リ ン グコ
イルが,先端側小径部の端(7)と後端側大径部の後端部(8)の両方で,
ステンレススチールコアに固着されている(甲3の1)。
1 テーパー(Taper)とは,円錐状に先細りになっていること。また,その先細りの勾配(甲
6) 。
2 ( 4) が テー パ 部で あ るこ と は, 上 図の 「 3 cm ( Tapered Coil Length) と の記 載 か

らも 明 らか で ある 。
(7)
(8)
甲3 の 1, 1 枚目 左 欄 上段 の 図の 部 分拡 大 図 (上 記 番号 等 は原 告 が 付し た 。)
4 スプリングコイルの径
被告製品1の先端部分は下図のようになっている(甲3の1)。
甲3 の 1, 1 枚目 左 欄 上段 の 図の 部 分拡 大 図
上 図 が 示 す よ う に , 先 端 側 小 径 部 の 長 さ は 2 c m で あ る 。 そ し て , 先端
側小径部の直径は,0.010インチである。
5 被告製品1の先端部分の構造
被 告 製 品 1 は , 「 3 」 で 述 べ た よ う に , 当 該 製 品 の 先 端 部 ( 7 ) に おい
て,はんだによって,スプリングコイルは,ステンレススチールコアに固
着されている。
先 端 側 小 径 部 の 先 端 部 ( 7 ) に お け る , 被 告 製 品 1 の , 長 手 方 向 と 平行
に形成した断面の反射電子像を示す(甲5)。
先端側
ステンレスス
白色部1
チールコア
はんだ
灰色部1
スプリング
コイル
後端側
甲5 , 4頁 写 真2
上 記 反 射 電 子 像 に 示 さ れ る よ う に , ス プ リ ン グ コ イ ル の 先 端 部 は , はん
だにより,ステンレススチールコアに固着されている。ここで,当該はん
だの組成はX線マイクロアナライザ分析によれば,以下のとおりである。
ま ず , は ん だ 中 の 明 る い 部 分 ( 以 下 「 白 色 部 1 」 と い う 。 ) の 組 成 は,
次頁の表のとおり,Au(金)が約78質量%,Sn(スズ)が約22質
量%である(甲5)。
甲5 , 7頁 表 2
な お , 上 記 の 表 は X 線 マ イ ク ロ ア ナ ラ イ ザ に よ っ て 白 色 部 1 の 原 子 組成
を分析し,当該結果から空気中の炭素,窒素等の不純物を除去し,当該は
んだの組成が100%となるように補正したものである。
つ ぎ に , は ん だ 中 の 暗 い 部 分 ( 以 下 「 灰 色 部 1 」 と い う 。 ) の 組 成 は,
以下の表のとおり,Au(金)が約16質量%,Sn(スズ)が約81質
量%,Ag(銀)が約3質量%である(甲5)。
甲5 , 10 頁 表4
なお,上記の表は,白色部1の組成と同様に補正をしたものである。
以 上 の よ う に , 被 告 製 品 1 に お い て , 径 の 細 い 先 端 部 分 に お い て ス テン
レススチールコア及びスプリングコイルを接着しているはんだは,主とし
てAu及びSnを含有するはんだである。
6 先端部分における硬直部分の長さ
被 告 製 品 1 に 係 る ガ イ ド ワ イ ヤ の 先 端 部 分 ( 7 ) に お い て は , ス テ ンレ
ススチールコア及びスプリングコイルが,上記はんだが浸透しコイル内に
充填されたことによって可撓性を失い,当該部分のコイルスプリングは曲
げることができない部分(以下「先端側硬直部分」という。)が存在する。
被告製品1の先端部分の反射電子像を以下に再掲する(甲5)。当該反
射電子像から,先端側硬直部分の長さを算出することができる。当該反射
電子像の下部の白いバー部分が,「100μm」であるから,当該硬直部
分の長さは300μm(0.3mm)である。
甲5 , 3頁 写 真1
7 コ ア ワ イ ヤ の 近 位 端 側 大 径 部 及 び コ イ ル ス プ リ ン グ の 後 端 側 大 径 部 の コイ
ル外径の大きさ
ま ず , 被 告 製 品 1 の コ ア ワ イ ヤ の 近 位 端 側 大 径 部 を 計 測 す る と , 以 下 のよ
うになる(甲5)。
甲5,10頁写真3
被告製品1の近位端側大径部の外径は,356μm(0.014インチ)であ
る。
つ ぎ に , 被 告 製 品 1 の 後 端 側 大 径 部 ( 5 ) の 大 き さ は , 下 図 ( 甲 3 の 1)
によれば0.014インチである。
(5)
甲3 の 1, 1 枚目 左 欄 上段 の 図( 上 記番 号 等 は原 告 が付 し た。 )
8 先端側小径部のコイルの構造
被 告 製 品 1 の 先 端 部 分 ( 7 ) の 構 造 は , 次 頁 の 反 射 電 子 像 の と お り で ある
(甲5)。
コイルピッチ
甲5,11頁写真4
ここでコイルピッチとは,コイルの中心から次のコイルの中心までを意味し,
これはコイルの先端から次のコイルの先端までの長さと同じである。また,コイ
ル線径とはコイルを構成する線材の直径を意味する。
被告製品1の先端側小径部のコイルピッチは,上記の反射電子像下部の白いバ
ー部分が「100μm」であることから,当該反射電子像より約65.0μmで
あり,コイルの直径は,約57.5μmであり,コイルピッチを算出するとコイ
ル線径の1.1倍となる。
9 コイルスプリング内部のはんだの浸透状態について
被告製品1の先端部分(7)の構造は,次頁の反射電子像のとおりである(甲
5)。
はんだのコイ
ル内部におけ
る浸透部分
甲5,12頁写真5
上記反射電子像から分かるように,先述したはんだは,コイル内部に浸透して
いる。当該反射電子像の矢印先端間の垂直距離(上図の浸透部分)は,先述した
ように当該反射電子像下部の白いバー部分が「100μm」であることから,約
115μmである。「8」で述べたようにコイルピッチが約65.0μmである
ことから,コイルスプリング内部に浸透した主と して Au 及 びSn を含 有す る
はんだの範囲は,コイルピッチの約1.76倍である。
よって,被告製品1において,主としてAu及びSnを含有するはん だ は,
コイルスプリングの1.8ピッチに相当する範囲に浸透している。
10 コアワイヤの素材
被告製品1のコアワイヤに用いられている材料は,ステンレスである(甲5)。
第2 被告製品1の構成要件との対比のための構成
以 上 の 構 成 を , 本 件 特 許 発 明 の 構 成 要 件 と の 対 比 の た め に 整 理 す る と,
以下のとおりとなる。
遠 位 端 側 小 径 部 ( 1 ) と , 近 位 端 側 大 径 部 ( 2 ) と を 有 す る ス テ ン レス
スチールコアと,
当 該 ス テ ン レ ス ス チ ー ル コ ア の 遠 位 端 側 小 径 部 ( 1 ) の 外 周 に 軸 方 向に
沿って装着され,先端側小径部(3)と,当該先端側小径部(3)よりス
プリングコイル外周の大きい後端側大径部(5)と,先端側小径部(3)
と後端側大径部(5)のあいだに位置するテーパ部(4)を有し,先端側
小径部の先端部(7)と後端側大径部の後端(8)の両方で,当該ステン
レススチールコアに固着されているスプリングコイルとを有し,
先 端 側 小 径 部 ( 3 ) の 長 さ が 2 c m ( 2 0 m m ) , コ イ ル 外 径 が , 0.
010インチであり,
コ イ ル ス プ リ ン グ 先 端 部 は 当 該 先 端 部 の 端 ( 7 ) に お い て 主 と し て Au
及びSnを含有するはんだによってステンレススチールコアに固着され,
主としてAu及びSnを含有するはんだによる先端側硬直部分の長さは,
300μm(0.3mm)である
ことを特徴とする医療用のガイドワイヤ。
こ こ で , コ イ ル ス プ リ ン グ の 先 端 側 小 径 部 の コ イ ル 外 径 は , 0 . 0 10
インチである。
また,前記コアワイヤの近位端側大径部の外径および前記コイルス プリ
ングの後端側大径部のコイル外径は,何れも0.014インチ である。
さらに,前 記 コ イ ル ス プ リ ン グ の 先 端 側 小 径 部 に お け る コ イ ル ピ ッ チ は ,
コイル線径の1.1 倍であり,
A u - S n 系 は ん だ が , 前 記 コ イ ル ス プ リ ン グ の 1 . 8 ピ ッ チ に 相 当す
る範囲においてコイル内部に浸透している。
さらに,前記コアワイヤは,ステンレスからなる。
第3 被告製品2の詳細な構成の説明
被告製品2であるGuide Wire X-treme X T - Rに
ついて以下構成の説明を行う。
被 告 製 品 2 は , 被 告 製 品 1 と 同 様 に , カ テ ー テ ル な ど の 挿 入 , 留 置 のた
めに使用する医療用のガイドワイヤであり,ステンレススチールコアのま
わりに,螺旋状にワイヤを巻いた(スプリングコイル)ものである。
1 ステンレススチールコア
被 告 製 品 2 は , 被 告 製 品 2 の カ タ ロ グ に 以 下 の よ う に 示 さ れ て い る (甲
4の1)。
外径大
外径小さい(1)
き い
(2)
患者挿入側
甲4 の 1, 4 枚目 の 図 (上 記 番号 等 は原 告 が 付し た 。)
上 図 に 示 す よ う に , 被 告 製 品 2 に お い て は , ガ イ ド ワ イ ヤ の コ ア と なる
「 Stainless Steel Core」 ( 以 下 「 ス テ ン レ ス ス チ ー ル コ ア 」 と い う 。 )
が中心に配置され,当該ステンレススチールコアは,患者に用いる遠位端
側の先端部分の外径の小さい部分(以下「遠位端側小径部」という。
(1))と,ガイドワイヤを患者に用いる施術者の手元側の外径の大きい
部分(以下「近位端側大径部」という。(2))とを有している。
当該ステンレススチールコアはステンレススチール製である。
2 スプリングコイル
(3) (4) (5)
甲4 の 1, 4 枚目 の 図 (上 記 番号 等 は原 告 が 付し た 。)
被 告 製 品 2 に 係 る ガ イ ド ワ イ ヤ の 先 端 部 は , 上 図 ( 甲 4 の 1 ) に 示 すよ
うに,上述した遠位端側小径部の外周にスプリングコイルが装着された部
分(以下「先端側小径部」という。(3))と,当該先端側小径部よりス
プリングコイルの外径の大きい部分(以下「後端側大径部」という。
( 5))と,スプ リ ング コイルが先細 り になるテーパー 3部分 (以下「テー
パ部」という。(4))とを有している 4。
3 周囲のコイルとステンレススチールコアとの接着
被 告 製 品 2 の ガ イ ド ワ イ ヤ に お い て は , 次 頁 の 図 の よ う に ス プ リ ン グコ
イルが,先端側小径部の先端部(7)と後端側大径部の後端部(8)の両
方で,ステンレススチールコアに固着されている(甲4の1)。
3 テーパー(Taper)とは,円錐状に先細りになっていること。また,その先細りの勾配(甲
6) 。
4 ( 4) が テー パ 部で あ るこ と は, 上 図の 「 3 cm ( Tapered Coil Length) と の記 載 か

らも 明 らか で ある 。
(7)
(8)
甲 4の 1 ,4 枚 目 の図 の 部分 拡 大図 ( 上 記番 号 等は 原 告が 付 し た。 )
4 スプリングコイルの径
被告製品2の先端部分は下図のようになっている(甲4の1)。
甲4 の 1, 4 枚目 の 図 の部 分 拡大 図
上 図 が 示 す よ う に , 先 端 側 小 径 部 の 長 さ は 2 c m で あ る 。 そ し て , 先端
側小径部の直径は,0.010インチである。
5 被告製品2の先端部分の構造
「 第 1 」 「 5 」 述 べ た よ う に , 被 告 製 品 2 に お い て も , 当 該 被 告 製 品2
の先端部分(7)は,Au-Sn系はんだによって固着されている。以下
詳細を述べる。
以 下 に , 先 端 側 小 径 部 の 先 端 部 ( 7 ) に お け る , 被 告 製 品 2 の 長 手 方向
と平行に形成した断面の反射電子像を示す(甲5)。
ステンレスス
先端側
チールコア
白色部2
はんだ スプリング
灰色部2
コイル
後端側
甲5 , 15 頁 写真 7
上 記 反 射 電 子 像 に 示 さ れ る よ う に , ス プ リ ン グ コ イ ル の 先 端 部 は , はん
だにより,ステンレススチールコアに固着されている。当該はんだの組成
はX線マイクロアナライザ分析によれば,以下のとおりである。
ま ず , は ん だ 中 の 明 る い 部 分 ( 以 下 「 白 色 部 2 」 と い う 。 ) の 組 成 は,
次頁の表のとおり,Au(金)が約78質量%,Sn(スズ)が約22質
量%である(甲5)。
甲5 , 18 頁 表6
な お , 上 記 の 表 は X 線 マ イ ク ロ ア ナ ラ イ ザ に よ っ て 白 色 部 2 の 原 子 組成
を分析し,当該結果から空気中の炭素,窒素等の不純物を除去し,当該は
んだの組成が100%となるように補正したものである。
つ ぎ に , は ん だ 中 の 暗 い 部 分 ( 以 下 「 灰 色 部 2 」 と い う 。 ) の 組 成 は,
以下の表のとおり,Au(金)が約25質量%,Sn(スズ)が約73質
量%,Ag(銀)が約2質量%である(甲5)。
甲5 , 20 頁 表8
なお,上記の表は,白色部2の組成と同様に補正したものである。
以 上 の よ う に , 被 告 製 品 2 に お い て , 径 の 細 い 先 端 部 分 に お い て ス テン
レススチールコア及びスプリングコイルを接着しているはんだは,主とし
てAu及びSnを含有するはんだである。
6 先端部分における硬直部分の長さ
被 告 製 品 2 に 係 る ガ イ ド ワ イ ヤ の 先 端 部 分 ( 7 ) に お い て は , ス テ ンレ
ススチールコア及びスプリングコイルが,はんだが浸透しコイル内に充填
されたことによって可撓性を失い,当該部分のコイルスプリングは曲げる
ことができない部分(以下「先端側硬直部分」という。)が存在する。
被 告 製 品 2 の 先 端 部 分 の 反 射 電 子 像 を 以 下 に 再 掲 す る ( 甲 5 ) 。 当 該反
射電子像から,先端側硬直部分の長さを算出することができる。当該反射
電子像の下部の白いバー部分が,「100μm」であるから,当該硬直部
分の長さは300μm(0.3mm)である。
甲5 , 14 頁 写真 6
7 コ ア ワ イ ヤ の 近 位 端 側 大 径 部 及 び コ イ ル ス プ リ ン グ の 後 端 側 大 径 部 の コイ
ル外径の大きさ
ま ず , 被 告 製 品 2 の コ ア ワ イ ヤ の 近 位 端 側 大 径 部 を 計 測 す る と , 次 頁 のよ
うになる(甲5)。
甲5 , 20 頁 表写 真 8
被告製品2の近位端側大径部の外径は,358μm(0.014インチ)であ
る。
つ ぎ に , 被 告 製 品 2 の 後 端 側 大 径 部 ( 5 ) の 大 き さ は , 下 図 ( 甲 4 の 1)
によれば0.014インチである。
(5)
甲4 の 1, 4 枚目 上 段 の図 ( 上記 番 号等 は 原 告が 付 した 。 )
8 先端側小径部のコイルの構造
被告製品2の先端側小径部の先端部(7)の構造は次頁の反射電子像のとおり
である(甲5)。
コイルピッチ
甲5 , 21 頁 写真 9
被告製品2のコイルピッチは上記反射電子像下部の白いバー部分が「100μ
m」であることから,当該反射電子像より約65.0μmであり,コイルの直径
は,約60.0μmであり,コイルピッチを算出するとコイル線径の1.1倍と
なる。
9 コイルスプリング内部のはんだの浸透状態について
被告製品2の先端部分(7)の構造は,次頁の反射電子像のとおりである(甲
5)。
ハンダのコイ
ル内部におけ
る浸透部分
甲5,22頁写真10
上記反射電子像から分かるように,先述したはんだはコイル内部に浸透してい
る。当該反射電子像の矢印先端間の垂直距離は,先述したように当該反射電子像
下部の白いバー部分が「100μm」であることから,約87.5μmである。
「8」で述べたようにコイルピッチが約65.0μmであることから,コイルス
プリング内部に浸透した主としてAu及びSnを含有するは んだ の範囲は,コ
イルピッチの約1.35倍である。
よって,被告製品2において,主としてAu及びSnを含有するはん だ は,
コイルスプリングの1.4ピッチに相当する範囲に浸透している。
10 コアワイヤの素材
被告製品2のコアワイヤに用いられている材料は,ステンレスである(甲5)。
第4 被告製品2の構成要件との対比のための構成
以 上 の 構 成 を , 本 件 特 許 発 明 の 構 成 要 件 と の 対 比 の た め に 整 理 す る と,
以下のとおりとなる。
遠 位 端 側 小 径 部 ( 1 ) と , 近 位 端 側 大 径 部 ( 2 ) と を 有 す る ス テ ン レス
スチールコアと,
当 該 ス テ ン レ ス ス チ ー ル コ ア の 遠 位 端 側 小 径 部 ( 1 ) の 外 周 に 軸 方 向に
沿って装着され,先端側小径部(3)と,当該先端側小径部(3)よりス
プリングコイル外周の大きい後端側大径部(5)と,先端側小径部(3)
と後端側大径部(5)のあいだに位置するテーパ部(4)を有し,先端側
小径部の先端部(7)と後端側大径部の後端(8)の両方で,当該ステン
レススチールコアに固着されているスプリングコイルとを有し,
先 端 側 小 径 部 ( 3 ) の 長 さ が 2 c m ( 2 0 m m ) , コ イ ル 外 径 が , 0.
010インチであり,
コ イ ル ス プ リ ン グ 先 端 部 は 当 該 先 端 部 の 端 ( 7 ) に お い て 主 と し て Au
及びSnを含有するはんだによってステンレススチールコアに固着され,
主としてAu及びSnを含有するはんだによる先端側硬直部分の長さは,
300μm(0.3mm)である
ことを特徴とする医療用のガイドワイヤ。
こ こ で , コ イ ル ス プ リ ン グ の 先 端 側 小 径 部 の コ イ ル 外 径 は , 0 . 0 10
インチである。
また,前記コアワイヤの近位端側大径部の外径および前記コイルス プリ
ングの後端側大径部のコイル外径は,何れも0.014インチ である。
さらに,前 記 コ イ ル ス プ リ ン グ の 先 端 側 小 径 部 に お け る コ イ ル ピ ッ チ は ,
コイル線径の1.1 倍であり,
A u - S n 系 は ん だ が , 前 記 コ イ ル ス プ リ ン グ の 1 . 4 ピ ッ チ に 相 当す
る範囲においてコイル内部に浸透している。
さらに,前記コアワイヤは,ステンレスからなる。
以 上
特許公報添付省略

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

今週の知財セミナー (2月24日~3月2日)

来週の知財セミナー (3月3日~3月9日)

3月4日(火) -

特許とAI

3月6日(木) - 東京 港区

研究開発と特許

3月7日(金) - 東京 港区

知りたかったインド特許の実務

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

オネスト国際特許事務所

東京都新宿区西新宿8-1-9 シンコービル 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

エムケー特許事務所(大阪・奈良・和歌山(全国対応))

大阪市天王寺区上本町六丁目9番10号 青山ビル本館3階 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

名東特許事務所

愛知県日進市岩崎町野田3-18 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング