平成26(ワ)27277損害賠償請求事件
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所
|
裁判年月日 |
平成27年10月14日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告株式会社カクヤス 原告AdaZERO株式会社
|
対象物 |
Web-POS方式 |
法令 |
特許権
特許法17条の22回 特許法36条6項1号2回 特許法102条3項2回
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キーワード |
特許権8回 侵害4回 実施3回 分割2回 損害賠償2回
|
主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 本件は,発明の名称を「Web-POS方式」とする特許第5097246
号の特許(以下「本件特許」といい,その願書に添付した明細書を「本件明細書」
という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が,被告に
対し,被告がインターネット上で運営するEC(電子商取引)サイトを管理するた
めに使用している制御方法(以下「被告方法」という。)が,本件特許の願書に添
付した特許請求の範囲(以下「本件特許請求の範囲」という。)の請求項1(以下
「本件請求項1」という。)記載の発明(以下「本件特許発明」という。)の技術
的範囲に属すると主張して,不法行為(特許権侵害)による損害賠償金1億円(特
許法102条3項により算定される損害額6億円の一部である9000万円と,弁
護士費用6000万円の一部である1000万円の合計)及びこれに対する平成2
6年10月26日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの民法所定年5分の割
合による遅延損害金の支払を求める事案である。 |
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判決文
平成27年10月14日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成26年(ワ)第27277号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成27年7月10日
判 決
東京都中央区<以下略>
原 告 Ada ZERO株式会社
同訴訟代理人弁護士 岩 瀬 吉 和
同訴訟代理人弁理士 金 山 賢 教
同訴訟代理人弁護士 山 内 真 之
同 﨑 地 康 文
同 並 木 重 伸
東京都北区<以下略>
被 告 株 式 会 社 カ ク ヤ ス
同訴訟代理人弁護士 大 野 聖 二
同 小 林 英 了
同訴訟代理人弁理士 津 田 理
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成26年10月26日から支払
済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,発明の名称を「Web-POS方式」とする特許第5097246
号の特許(以下「本件特許」といい,その願書に添付した明細書を「本件明細書」
という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が,被告に
対し,被告がインターネット上で運営するEC(電子商取引)サイトを管理するた
めに使用している制御方法(以下「被告方法」という。)が,本件特許の願書に添
付した特許請求の範囲(以下「本件特許請求の範囲」という。)の請求項1(以下
「本件請求項1」という。)記載の発明(以下「本件特許発明」という。)の技術
的範囲に属すると主張して,不法行為(特許権侵害)による損害賠償金1億円(特
許法102条3項により算定される損害額6億円の一部である9000万円と,弁
護士費用6000万円の一部である1000万円の合計)及びこれに対する平成2
6年10月26日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの民法所定年5分の割
合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(証拠等を付記しない事実は,当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告は,インターネットや電話等の通信手段を利用した情報提供サービスシ
ステムの企画,開発,販売及び管理等を目的とする株式会社である(記録上明らか
である。)。
イ 被告は,インターネットによる通信販売業等を営む株式会社である。
(2) 本件特許権
原告が有する本件特許権は,次の内容の本件特許に係るものである(甲1,2)。
特 許 番 号 第5097246号
発 明 の 名 称 Web-POS方式
原 出 願 日 平成10年1月9日
出 願 日 平成22年7月11日
出 願 番 号 特願2010-157382号
公 開 日 平成22年12月24日
公 開 番 号 特開2010-287243号
登 録 日 平成24年9月28日
特許請求の範囲 別紙特許公報の【特許請求の範囲】欄に記載のとおり
(3) 本件特許発明の構成要件の分説
本件特許発明(本件請求項1記載の発明)を構成要件に分説すると,次のとおり
である(以下,分説に係る各構成を符号に対応して「構成要件A」などという。ま
た,構成要件F1ないしF4を併せて「構成要件F」という。)。
A:汎用のコンピュータとインターネットを用い,HTTPに基づくHTMLリ
ソースの通信が行われるWebサーバ・クライアント・システムにおいて,
B:商品の販売時点における情報を管理するためのWeb-POSネットワーク
・システムの制御方法であって,
C:上記Webサーバ・システムが,取扱商品に関する基礎情報を管理する商品
(PLU)マスタDBを備え,該商品(PLU)マスタDBの管理,HTTP
メッセージに基づくプログラムの実行及び,HTMLリソースの生成及び供給
を行うサーバ装置からなる,Web-POSサーバ・システムであり,
D:上記Webクライアント装置が,タッチパネル,キーボード,マウス,電子
ペンからなる入力手段を有する表示装置とWebブラウザを備えた,Web-
POSクライアント装置であって,
E:上記Web-POSクライアント装置から,Webブラウザを介し,上記W
eb-POSサーバ・システムにアクセスすることにより,該Web-POS
サーバ・システムから該Web-POSクライアント装置に対し,該Web-
POSクライアント装置における商品の選択や発注に係るユーザ操作を受け付
けるHTMLリソースが供給されると共に,該Web-POSクライアント装
置におけるユーザ操作に基づく商品の売上情報が,該Web-POSサーバ・
システムによって管理されるWeb-POSネットワーク システムにおいて,
・
F1:上記Webブラウザによる処理が,少なくとも,
F2:1)カテゴリーの変更または入力(選択)に関する表示制御過程,すなわ
ち,上記Web-POSサーバ・システムから上記Web-POSクライアン
ト装置に該Web-POSサーバ・システムの商品(PLU)マスタDBにお
いて管理されている取扱商品に関する基礎情報に含まれたカテゴリーに対応す
るカテゴリーリストを含むHTMLリソースが供給され,該供給されたカテゴ
リーリストを含むHTMLリソースが上記Webブラウザにおいて処理される
ことで,該Web-POSクライアント装置の入力手段を有する表示装置に該
カテゴリーリストが表示され,ユーザが,該入力手段により,該表示されたカ
テゴリーリストからカテゴリーを変更または入力(選択)するごとに,該変更
または入力(選択)されたカテゴリーに対応する商品基礎情報を含むHTML
リソースを要求するHTTPメッセージが上記Web-POSサーバ・システ
ムに送信され,該要求のHTTPメッセージに基づき,該Web-POSサー
バ・システムの商品(PLU)マスタDBにおいて管理されている取扱商品に
関する基礎情報から該変更または入力(選択)されたカテゴリーに対応する商
品基礎情報が抽出され,該抽出された商品基礎情報を含むHTMLリソースが
生成されると共に,該Web-POSクライアント装置に送信され,該送信さ
れた商品基礎情報を含むHTMLリソースが該Webブラウザにおいて処理さ
れることで,該変更または入力(選択)されたカテゴリーに対応する商品基礎
情報からなる商品リストが該入力手段を有する表示装置に表示される,ユーザ
が所望するカテゴリーの商品(PLU)リストが表示される,カテゴリーの変
更または入力(選択)に関する表示制御過程,
F3:2)商品識別情報の入力(選択)のための表示制御過程,すなわち,上記
Web-POSクライアント装置の入力手段を有する表示装置に表示された上
記カテゴリーに対応する上記商品(PLU)リストにおいて,ユーザが,該入
力手段により,商品を特定するための商品識別情報を入力(選択)するごとに,
該入力(選択)された商品識別情報に対応する商品基礎情報が上記Web-P
OSサーバ・システムに問い合わされて取得され,該取得された商品基礎情報
に基づく商品の情報が該入力手段を有する表示装置に表示される,ユーザが所
望する商品の情報が表示される,商品識別情報の入力(選択)のための表示制
御過程,
F4:3)商品注文内容の表示制御過程,すなわち,上記Web-POSクライ
アント装置の入力手段を有する表示装置に表示された上記商品の情報について,
ユーザが,該入力手段により数量を入力(選択)すると,概数量に基づく計算
が行われると共に,前記入力(選択)された商品識別情報と該商品識別情報に
対応して取得された上記商品基礎情報に基づく商品の注文明細情報が該入力手
段を有する表示装置に表示されると共に,ユーザが,該入力手段によりオーダ
操作(オーダ・ボタンをクリック)を行うと,該商品の注文明細情報に対する
該数量入力(選択)に基づく計算結果の注文情報が該Web-POSサーバ・
システムにおいて取得(受信)されることになる,ユーザが所望する商品の注
文のための表示制御過程,を含み,
G:更に,上記Web-POSサーバ・システムにおいて,上記商品(PLU)
マスタDBの1レコードが1商品に対応し,該レコードに上記商品識別情報に
対応するフィールドが含まれることで,取扱商品に関する商品ごとの基礎情報
が,該商品識別情報に対応するフィールドを含むレコードによって管理される
ことで,上記Web-POSクライアント装置におけるユーザ操作に基づく商
品選択時点のPLU情報が,Webブラウザを介して,上記Web-POSサ
ーバ・システムから供給されると共に,該PLU情報に基づく商品ごとの注文
情報が,Webブラウザを介して,該Web-POSサーバ・システムにおい
てリアルタイムに取得される,Web-POSネットワーク・システムによる
POS管理(商品の販売時点における情報の管理)が実現され,
H:更にまた,上記Web-POSサーバ・システムにおいて,上記Web-P
OSクライアント装置からリアルタイムで取得(受信)した上記商品の注文情
報を売上管理DBに反映する売上管理DBへの登録過程を含むことで,上記W
eb-POSクライアント装置におけるユーザによる商品の注文操作が,We
bブラウザを介するだけで,該商品ごとの注文情報として上記Web-POS
サーバ・システムにおいて取得され,該取得された商品ごとの注文情報に基づ
く売上管理が実現されることを特徴とする
I:Web-POSネットワーク・システムの制御方法。
(4) 被告の行為等
被告は,業として,インターネット上に「なんでも酒や カクヤス」と題するE
C(電子商取引)サイト(以下「本件ECサイト」という。)を設置して,様々な
商品を販売している。被告が本件ECサイトを管理運営するシステム(以下「被告
システム」という。)において使用している制御方法(被告方法)の具体的構成に
ついては,当事者間に一部争いがある。
3 争点
(1) 被告システム及び被告方法の具体的構成(争点1)
(2) 被告方法が文言上,本件特許発明の技術的範囲に属するか(争点2)
(3) 被告方法が本件特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するか(争
点3)
(4) 損害額(争点4)
4 争点に対する当事者の主張
(1) 争点1(被告システム及び被告方法の具体的構成)について
(原告の主張)
被告システムの具体的構成及びこれを前提とした被告方法の具体的内容は,別紙
「イ号方法説明書」の第1に記載のとおりである。
(被告の主張)
被告システムの具体的構成及びこれを前提とした被告方法の具体的内容は,別紙
「被告システム説明書」に記載のとおりであり,原告の主張中,これに反する部分
は,否認する。
(2) 争点2(被告方法が文言上,本件特許発明の技術的範囲に属するか)につい
て
(原告の主張)
ア 被告システムを制御する方法である被告方法は,以下の理由により,文言上,
本件特許発明の構成要件をすべて充足するから,本件特許発明の技術的範囲に属す
る。
(ア) 構成要件A
構成要件Aにいう「Webサーバ・クライアント・システム」とは,インターネ
ット上でウェブサイトの公開,閲覧を実現するシステム(本件明細書の段落【00
28】),すなわち,ウェブサイトを提供する側(サーバ)と閲覧する側(クライ
アント)とをインターネットで接続したシステムである(同システムのうち,ウェ
ブサイトを公開して提供する側のシステムを「Webサーバ・システム」と呼び,
ウェブサイトを閲覧する側の装置を「クライアント装置」と呼ぶ。)。
被告システムは,インターネット上で本件ECサイトの公開,閲覧を実現するシ
ステムであるから,構成要件Aにいう「Webサーバ・クライアント・システム」
に該当する(ここで,本件ECサイトを利用する顧客〔以下「ユーザ」という。〕
が使用する端末〔以下「ユーザ端末」という。〕は,汎用のコンピュータであって,
「クライアント装置」に該当し,被告が管理するコンピュータによって構成される
本件ECサイトの公開,提供を行うシステム〔以下「被告サーバ・システム」とい
う。〕は,「Webサーバ・システム」に該当する。)。
そして,被告システムは,汎用のコンピュータであるユーザ端末,被告が管理す
るコンピュータである被告サーバ・システム及びインターネットを用いたシステム
であって,ユーザ端末に対し,本件ECサイトを構成する各種ウェブページを表示
するためのHTMLデータをHTTP(ハイパーテキスト転送プロトコル)を用い
て送信,供給しているから,構成要件Aにいう「汎用のコンピュータとインターネ
ットを用い,HTTPに基づくHTMLリソースの通信が行われるWebサーバ・
クライアント・システム」に該当する。
(イ) 構成要件B
構成要件Bにいう「Web-POSネットワーク・システム」とは,Webサー
バ・クライアント・システムを用いてPOS(販売時点情報管理。以下,単に「P
OS」という。)を実現するシステム,すなわち,POSを実現するために必要な
情報を送信する側(クライアント)とPOSを実行する側(サーバ)をインターネ
ットで接続したシステムである(同システムのうち,POSを実現するために必要
な情報を送信する装置を「Web-POSクライアント装置」と呼び,POSを実
行するシステムを「Web-POSサーバ・システム」と呼ぶ。)。
被告システムは,下記(コ)及び(サ)のとおり,Webサーバ・クライアント・シス
テムを用いて商品が販売された時点における情報を管理する仕組みを採用している
から(ユーザ端末は,「Web-POSクライアント装置」に,被告サーバ・シス
テムは,「Web-POSサーバ・システム」にそれぞれ該当する。),構成要件
Bにいう「商品の販売時点における情報を管理するためのWeb-POSネットワ
ーク・システム」に該当する。
(ウ) 構成要件C
構成要件Cにいう「商品(PLU)マスタDB」とは,取扱商品に関する基礎情
報(例えば,商品のカテゴリー,商品名,価格等の情報)を管理するデータベース
をいい,「Webサーバ・システム」に該当する被告サーバ・システムが備える商
品データベース(以下「商品DB」という。)は,「商品(PLU)マスタDB」
に該当するところ,被告サーバ・システムは,上記データベースの管理,ユーザ端
末からのHTTPリクエスト(「HTTPメッセージ」に該当する。)に応じたプ
ログラムの実行並びにHTMLデータ(「HTMLリソース」に該当する。)の生
成及び共有を行うサーバ装置を備えているから,構成要件Cにいう「取扱商品に関
する基礎情報を管理する商品(PLU)マスタDBを備え,該商品(PLU)マス
タDBの管理,HTTPメッセージに基づくプログラムの実行及び,HTMLリソ
ースの生成及び供給を行うサーバ装置からなる,Web-POSサーバ・システム」
に該当する。
(エ) 構成要件D
被告システムにおけるユーザ端末は,「Webクライアント装置」に該当すると
ころ,入力装置(接触操作型入力装置,文字入力装置,ポインティングデバイス又
はペン型入力装置),ディスプレイ及びウェブ閲覧機能を備えており,接触操作型
入力装置が構成要件Dにいう「タッチパネル」に,文字入力装置が同「キーボード」
に,ポインティングデバイスが同「マウス」に,ディスプレイが同「表示装置」に,
入力装置が同「入力手段」に,ウェブページ閲覧機能が同「Webブラウザ」に,
それぞれ該当するから,構成要件Dにいう「タッチパネル,キーボード,マウス,
電子ペンからなる入力手段を有する表示装置とWebブラウザを備えた,Web-
POSクライアント装置」に該当する。
(オ) 構成要件E
被告システムでは,ユーザ端末が備えるウェブページ閲覧機能(「Webブラウ
ザ」に該当する。)を介して被告サーバ・システムにアクセスすることにより,被
告サーバ・システムからユーザ端末に対し,ユーザ端末における商品の選択や発注
に係るユーザ操作を受け付けるウェブページを表示するためのHTMLデータ 「H
(
TMLリソース」に該当する。)が供給される。
被告システムでは,下記(コ)及び(サ)のとおり,ユーザ端末におけるユーザの操作
に基づいて,商品の売上げに関する情報が,被告サーバ・システムにおいて管理さ
れている。
そうすると,被告システムは,構成要件Eにいう「Web-POSネットワーク・
システム」の要件をすべて備えている。
(カ) 構成要件F1
被告システムでは,ユーザ端末において,ウェブページ閲覧機能(「Webブラ
ウザ」に該当する。)による処理が行われている。
(キ) 構成要件F2
a 被告システムでは,本件ECサイトでの取扱商品に関する情報は,商品DB
において管理されているところ,同情報の中には,商品の分類に関する情報(例え
ば,「ノンアルコール飲料」「ビール」のような情報)が含まれている(別紙「イ
号方法説明書」の第2の画面①〔以下,①,②等の番号に応じて「画面表示例①」
「画面表示例②」などという。〕参照)。
b 被告システムにおいて,ユーザが,ユーザ端末を用いて本件ECサイトにア
クセスすると,被告サーバ・システムからユーザ端末に,例えば,画面表示例①を
表示するためのHTMLデータ(「HTMLリソース」に該当する。)が供給され,
当該HTMLデータ(「HTMLリソース」に該当する。)がユーザ端末のウェブ
閲覧機能(「Webブラウザ」に該当する。)により処理されると,ユーザ端末の
ディスプレイ(「表示装置」に該当する。)には,商品DBにおいて管理されてい
る情報に含まれる分類に対応する分類リストが表示される。
ここで,被告方法によりユーザ端末に表示される分類リストは,構成要件F2に
いう「該Web-POSサーバ・システムの商品(PLU)マスタDBにおいて管
理されている取扱商品に関する基礎情報に含まれたカテゴリーに対応するカテゴリ
ーリスト」に該当する。
そうすると,被告サーバ・システムからユーザ端末に同画面を表示するためのH
TMLデータ(「HTMLリソース」に該当する。)が供給される上記過程は,構
成要件F2にいう「すなわち,上記Web-POSサーバ・システムから上記We
b-POSクライアント装置に…カテゴリーリストを含むHTMLリソースが供給
され」「該供給されたカテゴリーリストを含むHTMLリソースが上記Webブラ
ウザにおいて処理されることで,該Web-POSクライアント装置の入力手段を
有する表示装置に該カテゴリーリストが表示され,」に該当する。
c 次に,ユーザが,ユーザ端末の入力装置(「入力手段」に該当する。)を用
いて,ユーザ端末のディスプレイ(「表示装置」に該当する。)に表示された分類
リスト(「カテゴリーリスト」に該当する。)から分類(「カテゴリー」に該当す
る。)を変更又は入力(選択)するごとに,変更又は入力(選択)された分類(「カ
テゴリー」に該当する。)に対応する商品に関する情報(例えば,商品名,価格等
の情報)を含むウェブページを表示するためのHTMLデータ(「HTMLリソー
ス」に該当する。)を要求するHTTPリクエスト(「HTTPメッセージ」に該
当する。)がユーザ端末から被告サーバ・システムに送信される。当該HTTPリ
クエスト(「HTTPメッセージ」に該当する。)に基づき,商品DB(「商品(P
LU)マスタDB」に該当する。)において管理されている商品に関する情報から
変更又は入力(選択)された分類に対応する情報が抽出され,当該情報を含むHT
MLデータ(「HTMLリソース」に該当する。)が生成されると共に,被告サー
バ・システムからユーザ端末に送信され,当該HTMLデータ(「HTMLリソー
ス」に該当する。)がユーザ端末のウェブ閲覧機能(「Webブラウザ」に該当す
る。)により処理されると,ユーザ端末のディスプレイ(「表示装置」に該当する。)
には,ユーザが変更又は入力(選択)した分類(「カテゴリー」に該当する。)に
対応する商品に関する情報を含む商品のリストが表示される(例えば,画面表示例
①において選択した「ノンアルコール飲料」というカテゴリーに対応する商品に関
する情報を含む商品のリストが,画面表示例②において表示される。)。
ここで,商品に関する情報(例えば,商品名,価格等の情報)が,構成要件F2
にいう「取扱商品に関する基礎情報」及び「商品基礎情報」に該当する。
そうすると,上記過程は,構成要件F2にいう「ユーザが,該入力手段により,
該表示されたカテゴリーリストからカテゴリーを変更または入力(選択)するごと
に,…該抽出された商品基礎情報を含むHTMLリソースが生成されると共に,該
Web-POSクライアント装置に送信され」「該送信された商品基礎情報を含む
HTMLリソースが…商品リストが該入力手段を有する表示装置に表示される」に
該当する。
d 以上より,被告システムにおける上記b及びc記載の表示制御過程は,構成
要件F2の「表示制御過程」に該当する。
(ク) 構成要件F3
被告システムにおいて,ユーザが,上記(キ)cのとおりユーザ端末のディスプレイ
(「表示装置」に該当する。)に表示された商品のリストにおいて,入力装置(「入
力手段」)を用いて商品を特定するための情報(この,特定の商品に紐付けられた
情報が,構成要件F3にいう「商品識別情報」に該当する。)を入力(選択)する
と,その都度,入力(選択)された商品に関する情報(「商品基礎情報」に該当す
る。)が被告サーバ・システムに問い合わされて取得される。その後,取得された
商品の情報が,ユーザ端末のディスプレイ(「表示装置」に該当する。)に表示さ
れる(例えば,画面表示例②において,ユーザが,特定の商品に紐付けられた画像
やリンクをクリックするなどの方法により商品を選択すると,その都度,選択され
た商品に関する情報が被告サーバに問い合わせられて取得され,同商品の情報が,
画面表示例③において表示される。)。
そうすると,被告システムにおける上記表示制御過程は,構成要件F3の「表示
制御過程」に該当する。
(ケ) 構成要件F4
被告システムにおいて,ユーザが,上記(ク)のとおり,ユーザ端末のディスプレイ
(「表示装置」に該当する。)に表示された商品の情報について,入力装置(「入
力手段」に該当する。)により数量を入力(選択)すると,入力(選択)した数量
に基づく計算が行われ,被告サーバ・システムから取得された商品に関する価格等
の情報(「商品基礎情報」に該当する。)に基づく注文に関する情報がユーザ端末
のディスプレイ(「表示装置」に該当する。)に表示される(例えば,画面表示例
③において,ユーザが,数量を変更して「カートに追加」ボタンをクリックすると,
画面表示例④が表示される。)。
次に,ユーザが,「ご注文手続へ進む」ボタンをクリックし,その後,ログイン
ID及びパスワード,お届け日,連絡先,お届け時間帯並びに支払方法等の入力を
経ると,「ご注文内容の確認」という画面(画面表示例⑨)が表示される。ここで,
ユーザが,「この内容で注文する」ボタンをクリックすると,当該商品の注文明細
情報に対する上記数量入力(選択)に従った計算結果に基づき,最終的な注文に関
する情報が被告サーバ・システムにおいて取得(受信)され,「ご注文の完了」と
いう画面(画面表示例⑩)が表示される。ここで,「この内容で注文する」ボタン
をクリックする操作が構成要件F4にいう「オーダ操作」に,最終的な注文に関す
る情報が同「注文情報」に該当する。
そうすると,被告システムにおける上記表示制御過程は,構成要件F4の「表示
制御過程」に該当する。
(コ) 構成要件G
被告サーバ・システムにおいては,商品DB内のデータが各取扱商品に対して1
件ずつ割り当てられ,当該データには商品を識別するための情報(「商品識別情報」
に該当する。)に対応する項目が含まれる。これにより,本件ECサイトにおいて
取り扱われている各商品に関する価格等の情報(「商品基礎情報」に該当する。)
が,商品を識別する情報(「商品識別情報」に該当する。)に対応する項目を含む
データによって管理されている。ここで,データが構成要件Gにいう「レコード」
に,項目が同「フィールド」にそれぞれ該当する。
また,ユーザがユーザ端末を操作して特定の商品を選択すると,選択した時点に
おける当該商品に関する売上管理のための情報(例えば,商品名,価格等の情報)
が,ウェブ閲覧機能(「Webブラウザ」に該当する。)を介して,被告サーバ・
システムからユーザ端末に供給されると共に,当該情報に基づく商品ごとの最終的
な注文に関する情報が,ウェブ閲覧機能を介して,被告サーバ・システムによって
ユーザ端末からリアルタイムに取得され,被告システムによるPOS管理(商品の
販売時点における情報の管理)が実現される。ここで,最終的な注文に至る過程で
ユーザに提供される,価格を含む商品基礎情報が,構成要件Gにいう「PLU情報」
に該当する。
(サ) 構成要件H
被告サーバ・システムにおいては,ユーザ端末からリアルタイムで取得した注文
に関する情報を,売上を管理するためのデータベースに登録している。これにより,
ユーザ端末におけるユーザによる商品の注文に関する操作が,ウェブ閲覧機能 「W
(
ebブラウザ」に該当する。)を介するだけで,商品ごとの最終的な注文に関する
情報(「注文情報」に該当する。)として被告サーバ・システムにおいて取得され,
取得された商品ごとの最終的な注文に関する情報(「注文情報」に該当する。)に
基づく売上管理が実現されている。
(シ) 構成要件I
被告方法は,「Web-POSネットワーク・システム」である被告システムの
制御方法であるから,構成要件Iを充足する。
イ 被告の主張に対する反論
(ア) 「POS」に該当しないとの点について(構成要件BないしI)
被告は,POSシステムが,実店舗において小売業者がレジスター等のクライア
ント装置を操作するシステムに限られるとの解釈を前提としているが,POSとは
Point Of Salesの略であって「販売時点情報管理」を意味するとこ
ろ(本件明細書の段落【0002】),POSシステムとは,POSを実現するシ
ステム,すなわち,販売時点において商品の販売管理に必要な情報を取得するシス
テムであれば足り,小売店舗等において販売管理を行う場合に限定されるものでは
ない(甲7ないし9)。
本件明細書には,本件特許発明の技術的範囲を実店舗における販売管理に限定す
る趣旨の記載はない。本件明細書の段落【0002】は,単にPOSシステムが小
売店での販売管理に用いられてきたという本件特許発明の背景を説明したものにす
ぎない。また,同【0031】において「商品売上げ情報」と「商品注文情報」と
を書き分けていることをもって,本件特許発明がECサイトへの適用を排除してい
ると解釈することはできない。同【0131】は,本件特許発明の実施例として,
店頭販売時のPOSレジを使用した場合に関する記載であるが,同段落であえて「店
頭売り」との記載をしていることからすれば,本件特許発明が「ネット売り」のよ
うな他の販売形態を想定していることを読み取ることができる。
(イ) 「クライアント装置」を有しないとの点について(構成要件A,DないしH)
a 被告は,被告がユーザ端末の動作を制御しないことを理由に,被告システム
が「クライアント装置」の構成及び動作に関する各構成要件を有しない旨主張する。
しかしながら,本件特許発明は,Web-POSネットワーク・システムの制御
方法であり,構成要件F2ないしF4は,Web-POSクライアント端末がWe
bブラウザを解してWeb-POSサーバ・システムにアクセスした場合の表示制
御過程を規定するものである。これを被告システムに即して言えば,ユーザがパソ
コン等のコンピュータ(ユーザ端末)から本件ECサイトにアクセスすることによ
り本件ECサイトが表示され,ユーザの入力に応じてWebブラウザ上の表示内容
が遷移することになるが,このような表示制御過程が被告システムによって実現さ
れていることは明らかである。したがって,被告の主張には理由がない。
b 被告は,構成要件Dに関し,Webクライアント装置が少なくともタッチパ
ネル,キーボード,マウス及び電子ペンを備えていることが必要であると解釈して
いる。
しかしながら,構成要件Dには,「タッチパネル,キーボード,マウス,電子ペ
ン」と規定されているにとどまるから,同構成を解釈するには,本件明細書及び図
面を参酌する必要があるところ,本件明細書には,「本実施の形態においては,…
クライアント装置の表示装置に表示されるWebブラウザ画面上の商品選択リスト
と…,そのリストの項目を選択するタッチパネル(又はマウス)として実現される」
(本件明細書の段落【0032】),「入力媒体として,タッチパネルのほかに,
マウスや電子ペン等が使用されてもよい」(同【0135】),「本発明によれば,
…クライアント装置の表示装置に表示されるWebブラウザ画面上の商品選択フォ
ームと,それを操作するタッチパネル,マウス,電子ペン等のポインティングデバ
イスとして実現され」(同【0143】)等の記載があるほか,本件特許の出願人
である原告は,本件特許の出願手続において,「本願発明は,Webクライアント
装置がタッチパネル,キーボード,マウス,電子ペンまたはスキャナ装置からなる
入力手段を有する」と主張していることからすれば(乙4,5),構成要件Dにい
う「Web-POSクライアント装置が,タッチパネル,キーボード,マウス,電
子ペンからなる入力手段を有する」とは,Webクライアント装置が,タッチパネ
ル,キーボード,マウス又は電子ペンからなる入力手段を有するものと解釈される
べきである。
被告システムに接続されるユーザ端末は汎用コンピュータであり,タッチパネル,
キーボード,マウス又は電子ペンを入力手段として備えているから,被告方法は,
構成要件Dを充足するというべきである。
(ウ) 取扱商品に関するデータに商品のカテゴリーを示す情報が含まれていないと
の点について(構成要件F2)
被告システム説明書の記載によっても,被告システムでは,例えば「ノンアルコ
ール飲料・甘酒」というカテゴリーに対応する展示番号(DISP_NO)に関連
づけられた商品識別情報(GOODS_NO)を有する商品の情報がWebサーバ
の商品DBから読み出されるというのであるから(被告システム説明書「3」参照),
被告システムには,商品のカテゴリーに関する情報が保存されており,したがって,
被告方法は,構成要件F2を充足する。
この点,被告は,被告システム内に,商品に関する情報が記憶された商品基礎情
報テーブルのほか,商品の表示位置の名称に関する表示位置名称テーブル,商品の
表示位置を指定する商品表示テーブルなどが備えられており,商品基礎情報テーブ
ルには,商品ごとに,商品名や価格等のデータが記憶されてはいるが,商品のカテ
ゴリーを示す情報は記憶されていないなどと主張する。
そもそも,被告システムがこのような構成を取っていることを示す客観的な証拠
はないが,仮に被告の主張を前提としても,商品基礎情報テーブル,表示位置名称
テーブル及び商品表示テーブルを一体として観察すれば(データベースにおいては
複数のテーブルが関連づけられていることが通常であるから,これらのテーブルに
含まれた情報が完全に独立しているととらえることは相当でない。),商品ごとに
「GOODS_NO」,「DISP_NO」及び表示位置名称すなわち商品カテゴ
リーが関連づけられているのであるから,取扱商品に関する基礎情報にカテゴリー
の情報が含まれているということができる。
(エ) Webサーバが計算結果の注文情報を受け取っていないとの点について(構
成要件F4)
被告は,構成要件F4について,ユーザ端末側で数量に基づいた注文金額の計算
が行われることを要するとの解釈を前提としているが,構成要件F4は,「ユーザ
が,該入力手段により数量を入力(選択)すると,該数量に基づく計算が行われる」
とするのみで,計算が行われるのがWeb-POSクライアント装置側に限られる
との限定を付していないし,本件明細書にも「明細フォームの計算は必ずしもWe
b-POSクライアント装置側のみで行われる必要はなく,Web-POSサーバ
装置側で行われ,その結果がWeb-POSクライアント装置に通知されるように
構成されてもよい。」(本件明細書の段落【0137】)と記載されているから,
被告の上記解釈は誤りである。
また,構成要件F4の「計算結果の注文情報が該Web-POSサーバ・システ
ムにおいて取得(受信)される」にいう「計算結果の注文情報」とは,「計算結果
に対応した注文情報」と解釈されるべきであり,既にサーバ側で行われた計算結果
に対応した注文情報がサーバ側に送られる場合も,構成要件F4を充足するという
べきである。本件ECサイトでは,「この内容で注文する」がクリックされるまで
は注文内容が確定せず,商品や数量を変更することが可能であるから,同ボタンが
クリックされる時点で,数量入力(選択)に基づく計算結果に対応した内容で注文
を確定させる情報が被告サーバ・システムに送信されている。
(オ) 「PLU情報」をユーザ端末に送信しないとの点について(構成要件G)
被告は,構成要件Gについて,「PLU情報」が具体的に何を意味するのかは明
らかではないとした上で,本件特許の出願手続の経過を斟酌して,「PLU情報」
の意義を,「販売者や供給元(メーカー)との間で共通した識別情報」であって,
商品名,価格,個数といった情報は「PLU情報」に含まれないと主張する。
ここで,「PLU」とは,Price Look Upの略であり,販売時点情
報管理システムにおいて,商品の情報を読み取ることを意味する(甲16)。本件
明細書には,商品メーカコードや商品アイテムコードをキーとしてストアコンピュ
ータから対応する価格情報を取得する機能を「PLU機能」ということが記載され
ている(本件明細書の段落【0005】)。そして,本件明細書には「PLU情報
(商品ごとの価格などが含まれた基礎情報)」との記載があることや(同【002
1】),構成要件Gにおいて,PLU情報がWeb-POSサーバ・システムから
供給されるものと規定されていることからすれば,PLU情報は,少なくとも価格
を含む,商品基礎情報を意味するというべきである。本件請求項1において「PL
U情報」と「商品基礎情報」とが書き分けられているとしても,PLU情報は,商
品基礎情報のうちクライアント装置に送られる情報であるから,これら2つの情報
が書き分けられていることと,上記解釈を採用することとは何ら矛盾するものでは
ない。
被告の指摘する本件特許の出願手続における原告の主張は,本件特許発明によれ
ば,PLU情報に含まれる識別情報を用いて電子モール運営者が販売者や商品供給
元と情報管理を共通化し得ることを説明したにすぎず,識別情報こそがPLU情報
である旨の定義を記載したものではないし,まして,同識別情報が,出店者と供給
元との間で共通したものであることを求めているものでもない。
(カ) 商品ごとの注文情報を取得していないとの点について(構成要件G,H)
被告は,構成要件G及びHについて,注文情報が注文単位ではなく商品ごとにW
eb-POSサーバ・システムに送信されることが必要であるとの解釈を前提とす
るが,構成要件Gにいう「商品ごとの注文情報が…取得される」との文言のみから,
商品ごとに注文情報が取得されるものと解釈することはできないというべきである。
構成要件Gは,商品(PLU)マスタDBの1レコードが1商品に対応して管理さ
れることを規定したにすぎず,注文情報が商品ごとにWeb-POSサーバ・シス
テムに送信されることを要求するものではないから,被告の上記解釈は誤りである。
(キ) 注文情報をリアルタイムで売上管理DBに反映していないとの点について
(構成要件H)
被告は,構成要件Hについて,商品の注文情報が直ちに「売上管理DB」に反映
されることを要件とするとの解釈を前提とするが,構成要件Hは,「上記Web-
POSクライアント装置からリアルタイムで取得(受信)した上記商品の注文情報
を売上管理DBに反映する」と規定するにすぎず,注文情報の取得(受信)がリア
ルタイムであることを超えて,売上管理DBへ反映されることまでがリアルタイム
であることを要するとはしていないから,被告の上記解釈は誤りである。
(被告の主張)
ア 各構成要件充足性に対する認否は,次のとおりである。
(ア) 構成要件Aについて
否認する。被告システムは,Webサーバ,基幹サーバ及びこれらを連携する連
携サーバを備えるが,本件ECサイトに接続する個々のユーザ端末(クライアント
装置)は,本件ECサイトを利用するユーザによって管理され操作されるものであ
り,被告システムにより動作制御を行うものではないから,被告システムの一部を
構成するものではない。したがって,被告システムは,「Webサーバ・クライア
ント・システム」に該当しない。
(イ) 構成要件Bについて
否認する。本件ECサイトは,インターネットを介して商品の販売を行うサイト
であってPOSではないから,被告システムは,「Web-POSサーバ・システ
ム」に該当しない。
(ウ) 構成要件Cについて
否認する。上記(イ)のとおり,被告システムは,「Web-POSサーバ・システ
ム」に該当しない。
(エ) 構成要件Dについて
否認する。被告システムは,上記(ア)のとおり,被告システムの一部として動作制
御を行うクライアント装置を有するものではないし,上記(イ)のとおり,POSでは
ないから,「Web-POSクライアント装置」に該当するものは存在しない。
(オ) 構成要件Eについて
否認する。被告システムは,上記(イ)のとおり,被告システムはPOSではないか
ら,「Web-POSネットワーク・システム」,「Web-POSサーバ・シス
テム」,「Web-POSクライアント装置」に該当するものは存在しない。
(カ) 構成要件F1について
否認する。被告システムでは,クライアント装置におけるWebブラウザの処理
を制御していない。
(キ) 構成要件F2について
否認する。上記(ア)のとおり,被告システムは個々のユーザ端末を含んでおらず,
これらの動作を制御することもないから,「該供給されたカテゴリーリストを含む
HTMLリソースが上記Webブラウザにおいて処理されることで,該Web-P
OSクライアント装置の入力手段を有する表示装置に該カテゴリーリストが表示さ
れ」,「該送信された商品基礎情報を含むHTMLリソースが該Webブラウザに
おいて処理されることで,該変更または入力(変更)されたカテゴリーに対応する
商品基礎情報からなる商品リストが該入力手段を有する表示装置に表示される」の
要件を充足しないし,上記(イ)のとおり,被告システムはPOSではないから,「W
eb-POSサーバ・システム」,「Web-POSクライアント装置」に該当す
るものは存在しない。
また,被告システムでは,本件ECサイトでの取扱商品のデータには,商品のカ
テゴリーに関する情報は含まれていないから,「取扱商品に関する基礎情報に含ま
れたカテゴリーに対応するカテゴリーリスト」,「該変更または入力(選択)され
たカテゴリーに対応する商品基礎情報」が存在しない。
(ク) 構成要件F3について
否認する。上記(ア)のとおり,被告システムは個々のユーザ端末を含んでおらず,
これらの動作を制御することもないから,「該取得された商品基礎情報に基づく商
品の情報が該入力手段を有する表示装置に表示される」の要件を充足しないし,上
記(イ)のとおり,被告システムはPOSではないから,「Web-POSサーバ・シ
ステム」,「Web-POSクライアント装置」に該当するものは存在しない。
(ケ) 構成要件F4について
否認する。上記(ア)のとおり,被告システムは個々のユーザ端末を含んでおらず,
これらの動作を制御することもないから,「ユーザが,該入力手段により数量を入
力(選択)すると,該数量に基づく計算が行われると共に,前記入力(選択)され
た商品識別情報と該商品識別情報に対応して取得された上記商品基礎情報に基づく
商品の注文明細情報が該入力手段を有する表示装置に表示される」の要件を充足し
ないし,上記(イ)のとおり,被告システムはPOSではないから,「Web-POS
サーバ・システム」,「Web-POSクライアント装置」に該当するものは存在
しない。
また,被告システムでは,ユーザにより数量が入力されると,被告システム側で
入力された数量に基づく販売額の計算が行われるため,その後に「ご注文手続へ進
む」がクリックされた際に,数量入力に基づく計算結果の情報が被告システムに送
信されることはないから,被告方法は,「ユーザが,該入力手段によりオーダ操作
(オーダ・ボタンをクリック)を行うと,該商品の注文明細情報に対する概数量入
力(選択)に基づく計算結果の注文情報が該Web-POSサーバ・システムにお
いて取得(受信)される」の要件を充足しない。
(コ) 構成要件Gについて
否認する。上記(イ)のとおり,被告システムはPOSではないから,「Web-P
OSサーバ・システム」,「Web-POSクライアント装置」に該当するものは
存在しない。
また,本件特許発明における「PLU情報」とは,「販売者や供給元といった複
数者間で共通の識別情報」を意味するところ,本件ECサイトにおける商品識別情
報は,被告が独自に付している識別情報であるから,「PLU情報」に該当しない。
さらに,本件ECサイトでは,注文情報が,商品ごとではなく注文単位でユーザ
端末から被告システムに送信されるから,被告方法は,「商品ごとの注文情報が,
Webブラウザを介して,該Web-POSサーバ・システムにおいてリアルタイ
ムに取得される」の要件を充足しない。
(サ) 構成要件Hについて
否認する。上記(イ)のとおり,被告システムはPOSではないから,「Web-P
OSサーバ・システム」,「Web-POSクライアント装置」に該当するものは
存在しない。
また,上記(コ)のとおり,本件ECサイトでは,注文情報が,商品ごとではなく注
文単位でユーザ端末から被告システムに送信されるから,被告方法は,「該商品ご
との注文情報として上記Web-POSサーバ・システムにおいて取得され」の要
件を充足しない。
さらに,被告システムでは,ユーザ端末からの注文情報がリアルタイムで業務売
上DBに反映されるものではないから,被告方法は,「上記Web-POSクライ
アント装置からリアルタイムで取得(受信)した上記商品の注文情報を売上管理D
Bに反映する売上管理DBへの登録過程を含む」の要件を充足しない。
(シ) 構成要件Iについて
否認する。上記(イ)のとおり,被告システムはPOSではないから,「Web-P
OSサーバ・システム」に該当しない。
イ 個別の用語解釈又は構成について,次のとおり敷衍して説明する。
(ア) 被告システムが「POS」に該当しないこと(構成要件BないしI)
POSシステムとは,小売店等の店舗に対する販売管理を行うシステムとして使
用されるものである(乙2,9,10) 本件明細書上も,
。 「POS(Point Of Sales)
システムは,商品が小売店で売れたその時点でその商品に関する情報を取得し,リ
アルタイムな管理を可能とすることを目的として構築されるシステムであり,小売
業を中心として広く普及している。」(本件明細書の段落【0002】)と記載さ
れている。また,本件特許請求の範囲や本件明細書において,「商品売上げ情報」
と「商品注文情報」という語が書き分けられていること(構成要件E及びH,本件
明細書の段落【0031】)からすれば,本件特許の出願人である原告は,注文情
報のみならず売上情報がクライアント装置から送信されること,すなわち,本件特
許発明にいう「Web-POS」の対象を実店舗のみと想定していたことがうかが
われる。
これに対し,被告システムは,本件ECサイトを提供するシステムの一つであり,
利用者の使用するユーザ端末によって利用されるものであって,小売業者の端末に
より利用されるものではないから,「POS」には該当しない。
(イ) 被告システムは,「クライアント装置」を有しないこと(構成要件A,Dな
いしH)
a 本件特許発明は,クライアント装置をサーバ・システムを含むネットワーク・
システムの制御方法に関する発明であり,サーバ・システムの制御方法に関するも
のでない。
これに対し,被告システムは,Webサーバ,連携サーバ及び基幹システムから
構成されるが,被告システムとインターネットを介して接続される,本件ECサイ
トのユーザが有するコンピュータ(ユーザ端末)は,当該ユーザによって管理され
ており,被告はユーザの動作を制御しない(むしろ,ユーザ端末からサーバ・シス
テムにアクセスすることによって初めてサーバ・システムからHTMLリソースが
供給されることからすれば,少なくともHTMLリソースの送信処理過程は,ユー
ザ端末が制御しているというべきである。)。よって,被告方法は,「クライアン
ト装置」の構成及び動作に関する各構成要件を充足しない。
b 本件特許発明の構成要件Dでは,「上記Webクライアント装置が,タッチ
パネル,キーボード,マウス,電子ペンからなる入力手段を有する表示装置とWe
bブラウザを備えた」と規定されているところ,「からなる」とは,直前に列挙し
た要素によって構成されているという意味で用いるものであるから(乙3),「W
ebクライアント装置」は,少なくともタッチパネル,キーボード,マウス及び電
子ペンをその構成要素として含むことを意味するものである。
これに対し,被告システムに接続されるユーザ端末は汎用のコンピュータであっ
て,タッチパネル,キーボード,マウス及び電子ペンからなる入力手段を備えてい
ないから,被告方法は,構成要件Dを充足しない。
(ウ) 被告システムでは,取扱商品に関するデータに,商品のカテゴリーを示す情
報は含まれていないこと(構成要件F2)
本件特許発明の構成要件F2では,「上記Web-POSサーバ・システムから
上記Webクライアント装置に,…取扱商品に関する基礎情報に含まれたカテゴリ
ーに対応するカテゴリーリストを含むHTMLリソースが供給され」,「該変更ま
たは入力(選択)されたカテゴリーに対応する商品基礎情報を含むHTMLリソー
スが生成されると共に,該Web-POSクライアント装置に送信され」と規定さ
れているところ,これらは,取扱商品に関する基礎情報には商品カテゴリーの情報
が含まれていること,商品カテゴリーの情報を含む基礎情報のHTMLリソースが
クライアント装置に送信されることをそれぞれ意味するものである。
これに対し,被告システムでは,ユーザ端末に送信されるデータのうち,本件E
Cサイトで扱われる商品(展示商品)に関するデータには,商品名,価格,商品識
別情報の情報が含まれるが,展示商品のカテゴリーを示す情報を含まれない(別紙
被告システム説明書「2」参照)。具体的には,被告システム内には,商品に関す
る情報(「取扱商品に関する基礎情報」に該当する。)が記憶された商品基礎情報
テーブルのほか,商品の表示位置の名称に関する表示位置名称テーブル,商品の表
示位置を指定する商品表示テーブルなどが備えられているところ,商品基礎情報テ
ーブルには,商品ごとに,商品名や価格等のデータが,識別子である「GOODS
_NO」と関連づけて記憶されてはいるが,商品のカテゴリーを示す情報は記憶さ
れていない。商品カテゴリーの情報は,表示位置名称テーブルに,識別子である「D
ISP_NO」と関連づけて記憶されている。ここで,「GOODS_NO」と「D
ISP_NO」とは,商品表示テーブルにおいて互いに関連づけられているが,互
いに独立した情報である(乙11)。
したがって,被告システムでは,「取扱商品に関する基礎情報に含まれたカテゴ
リーに対応するカテゴリーリストを含むHTMLリソース」をユーザ端末に送信す
ることはないから,被告方法は,構成要件F2を充足しない。
(エ) 被告システムでは,Webサーバが計算結果の注文情報を受け取っていない
こと(構成要件F4)
本件特許発明の構成要件F4では,「ユーザが,該入力手段により数量を入力(選
択)すると,該数量に基づく計算が行われると共に」,「ユーザが,該入力手段に
よりオーダ操作(オーダ・ボタンをクリック)を行うと,該商品の注文明細情報に
対する該数量入力(選択)に基づく計算結果の注文情報が該Web-POSサーバ・
システムにおいて取得(受信)される」と規定されている。
ここで,構成要件F1が「上記Webブラウザによる処理が,少なくとも」と規
定し,これに引き続いて「1)カテゴリーの変更又は入力(選択)に関する表示制
御過程」(構成要件F2),「2)商品識別情報の入力(選択)のための表示制御
過程」(構成要件F3),「3)商品注文内容の表示制御過程」「を含み」(構成
要件F4)と規定されていることからすれば,構成要件F2ないしF4の内容は,
構成要件F1で定義された「Webブラウザによる処理」,すなわちユーザ端末に
おける処理を意味していることが明らかであり,構成要件F4にいう「該数量に基
づく計算」は,ユーザ端末において行われるものと解釈すべきである。仮に,「該
数量に基づく計算」がサーバ側で行われるとするならば,その後に引き続くオーダ
操作により,「該数量入力(選択)に基づく計算結果の注文情報が該Web-PO
Sサーバ・システムにおいて取得(受信)される」こととなり,既にサーバ側でさ
れた計算結果を再度サーバが受け取ることとなり,当該構成要件は無意味となって
しまう。
また,原告は,上記「計算結果の注文情報」には,「計算結果に対応した注文情
報」をも含むと主張するが,そのように解すべき根拠はなく,かえって,構成要件
F4には,「該商品の注文明細情報に対する該数量入力(選択)に基づく計算結果
の注文情報」と記載されているから,注文情報が計算結果の情報を意味することは
明らかであって,原告の解釈は誤りである。
これに対し,本件ECサイトにおいて,「ご注文手続へ進む」又は「この内容で
注文する」がクリックされても,ユーザ端末側では数量に基づいた注文金額の計算
は行われないし(数量の情報に基づく金額の計算は,Webサーバで行われる。 ,
)
数量等に基づく計算結果の情報がWebサーバに送信されることもない(別紙被告
システム説明書「4」参照)。
したがって,被告システムでは,Webサーバが数量入力(選択)に基づく計算
結果の注文情報を取得することはないから,被告方法は,構成要件F4を充足しな
い。
(オ) 被告システムは,「PLU情報」をユーザ端末に送信しないこと(構成要件
G)
本件特許発明の構成要件Gでは,「ユーザ操作に基づく商品選択時点でのPLU
情報が,Webブラウザを介して,上記Web-POSサーバ・システムから供給
され」と規定されているところ,原告は,最終的な注文に至る過程でユーザに提供
される商品に関する情報が「PLU情報」に該当すると主張する。
しかしながら,本件明細書は,「上述のような,商品メーカコードや商品アイテ
ムコードをキーとしてストアコンピュータから対応する価格情報を取得する機能は
PLU(Price Look Up)機能と呼ばれる」(本件明細書の段落【0005】)と記
載するにとどまり,「PLU情報」が具体的に何を意味するのかは本件明細書上明
らかではない。
この点,本件特許の出願人である原告は,本件特許の出願手続において,「ほと
んど全ての流通商品は,販売者や供給元(メーカーなど)との間で,共通した識別
情報に基づき管理されており,正しくこの識別情報こそが,本願発明に記載された
PLU情報である」旨主張しており,注文情報に商品名,価格,個数などが含まれ
るにとどまる場合には,供給元を判別することが困難になる旨を主張している(乙
4,5)。
以上によれば,本件特許発明にいう「PLU情報」とは,「販売者や供給元(メ
ーカーなど)との間で共通した識別情報」であって,商品名,価格,個数といった
情報はこれに含まれないというべきである。なお,本件特許請求の範囲において,
「PLU情報」と「商品基礎情報」とは明確に区別して用いられているから,原告
主張のように「PLU情報」を「価格を含む商品基礎情報」と解釈することは誤り
である。
これに対し,被告システムにおいてユーザ端末に送信される情報のうち,商品名,
価格といった情報を除いたものは,Webサーバにおいて独自に付された識別情報
であり,被告以外の者と共通して有する情報ではない(別紙被告システム説明書「2」
参照)。
したがって,被告システムは,「PLU情報」をユーザ端末に送信することはな
いから,被告方法は,構成要件Gを充足しない。
(カ) 被告システムでは,商品ごとの注文情報を取得していないこと(構成要件G,
H)
本件特許発明の構成要件Gでは,「商品ごとの注文情報が,Webブラウザを介
して,該Web-POSサーバ・システムにおいてリアルタイムに取得される」と
規定されており,これは,注文情報が,注文単位ではなく,商品ごとに,Web-
POSサーバに送信されることを規定したものである。
この点,本件特許の出願人である原告は,本件特許の出願手続において,本件特
許発明は,商品注文情報がバスケット単位(注文単位)でサーバに送信する引用例
記載の構成とは異なり,商品単位で注文情報をサーバに送信することが可能である
こと,これにより複数のユーザから同一商品に対する申込みがあった場合に注文が
可能となってしまうことを避けられることを明確にしている(乙5)。
これに対し,本件ECシステムにおいては,商品の注文は商品単位で行われる(別
紙被告システム説明書「6」参照)。
したがって,被告システムは,「商品ごとの注文情報が,Webブラウザを介し
て,該Web-POSサーバ・システムにおいてリアルタイムに取得される」もの
ではないから,被告方法は,構成要件Gを充足せず,同様の理由により,構成要件
Hも充足しない。
(キ) 被告システムは,注文情報をリアルタイムで売上管理DBに反映していない
こと(構成要件H)
本件特許発明の構成要件Hでは,「上記Web-POSクライアント装置からリ
アルタイムで取得(受信)した上記商品の注文情報を売上管理DBに反映する売上
管理DBへの登録過程を含む」と規定されている。
ここで,本件明細書は「POS(Point Of Sales)システムは,商品が小売店で
売れたその時点でその商品に関する情報を取得し,リアルタイムな管理を可能とす
ることを目的として構築されるシステムであり」と記載し(本件明細書の段落【0
002】),本件特許の出願人である原告は,本件特許の出願手続において,「P
OSシステムは,販売時点における情報(PLU情報や注文情報)がリアルタイム
に管理,取得されるものである」と主張していることからすれば(乙5),本件特
許発明は,商品の注文情報をリアルタイム,すなわち直ちに管理し,商品の注文情
報が直ちに「売上管理DB」に反映されることを要件とするものというべきである。
これに対し,被告システムでは,ユーザ端末から送信された注文情報は,一定時
間ごとに基幹システムの注文情報DBに保存され,その後に業務売上DBに保存さ
れるものであるから,リアルタイムに注文情報が業務売上DBに反映されるわけで
はない。また,出荷日の指定を含む注文データの場合は,当該出荷日に至るまで,
売上情報は業務売上DBに反映されない(別紙被告システム説明書「7」参照)。
(3) 争点3(被告方法が本件特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属す
るか)について
(原告の主張)
ア 「計算結果の注文情報」(構成要件F4)について
仮に,構成要件F4について,「該数量に基づく計算」が「Web-POSクラ
イアント装置」側で行われ,その計算結果が「Web-POSサーバ・システム」
に送信されるべきものと解釈され,そのために被告方法が文言上,本件特許発明の
技術的範囲に含まれないと判断されたとしても,被告方法は,次のとおり,本件特
許発明と均等なものとして,その技術的範囲に属するというべきである。
(ア) 均等の第1要件について
本件特許発明の課題は,「専用のPOS通信機能/POS専用線を必要とせず,
取扱商品の自由な変更が可能なPOSシステムを実現すること」及び「上記従来の
専用回線を用いた専用端末型POSシステムの欠点を排除し,汎用のパソコン及び
インターネットを用いて端末でのPOS処理を殆ど無くし,端末側の入力情報に基
づきサーバ側ですべてのPOS処理を受け持つことにより,非常に安価で簡便なP
OSシステムを構築する」ことであり(本件明細書の段落【0014】),本件特
許発明は,同課題を解決するため,「ハイパーテキスト転送プロトコル(HTTP)
を用いてハイパーテキストマークアップ言語(HTML)で記述されたHTMLリ
ソースを供給するサーバ装置(Web-POSサーバ装置)において,商品に関す
る基礎情報である商品基礎情報(PLUマスタDB)が管理され」 【0015】
(同 )
るなど「Webサーバー装置が全ての情報を保有・供給」(同【0024】)し,
「一般的なWebサーバ・クライアントシステム上でPOS機能が実現される」こ
ととして,これにより,「低価格なPOSシステムを実現することが可能となると
同時に,POS専用線を敷設することなくインターネット等の公衆ネットワークや
LANを用いてサーバ装置とクライアント装置を低コストで接続することが可能」
としたものである(同【0029】)。
そうすると,本件特許発明の本質的部分は,情報の管理をWebサーバに一元化
し,一般的なWebサーバ・クライアント・システム上でPOS機能を実現した点
にあるといえるから,ユーザの入力(選択)した数量に基づく計算が「Web-P
OSサーバ・システム」側で行われるか,「Web-POSクライアント装置」側
で行われるかは,本件特許発明の本質的部分に係る相違ではない。
したがって,均等の第1要件を充足する。
(イ) 均等の第2要件について
「ユーザの入力(選択)した数量に基づいてWeb-POSクライアント装置側
で計算が行われ,その計算結果をWeb-POSサーバ・システムが取得(受信)
する構成」を「ユーザの入力(選択)した数量をWeb-POSサーバ・システム
が取得(受信)し,Web-POSサーバ・システムで該数量に基づく計算が行わ
れる構成」に置き換えたとしても,システムの構成等の変更は特段必要なく(甲2
3,24),いずれの場合においても,POS通信機能やPOS専用線等を必要と
せず,一般的なWebサーバ・クライアント・システム上でPOSシステムを構築
可能とするという本件特許発明の目的を達することができ,売上管理という本件特
許発明の作用効果も同様に達成される(本件明細書の段落【0137】)。
したがって,均等の第2要件を充足する。
(ウ) 均等の第3要件について
「ユーザの入力(選択)した数量に基づいてWeb-POSクライアント装置側
で計算が行われ,その計算結果をWeb-POSサーバ・システムが取得(受信)
する構成」と「ユーザの入力(選択)した数量をWeb-POSサーバ・システム
が取得(受信)し,Web-POSサーバ・システムで該数量に基づく計算が行わ
れる構成」との違いは,計算という処理をクライアント側で行うかサーバ側で行う
かというコンピュータ・ネットワークにおける各コンピュータの情報処理分担の問
題にすぎず,被告システムの稼働時(平成22年3月)において,前者を後者に置
換することは,当業者であれば容易に想到することができた。
したがって,均等の第3要件を充足する。
(エ) 均等の第4要件について
被告方法は,本件特許の原出願日当時の公知技術と同一であるとか,公知技術か
ら容易に推考できたものではない。
したがって,均等の第4要件を充足する。
(オ) 均等の第5要件について
本件特許の出願手続において,被告方法が本件特許請求の範囲から意識的に除外
されたものにあたるなどの特段の事情は存在しない。
この点,被告は,本件特許の出願人である原告が,本件特許の出願手続において,
平成23年10月9日付け手続補正書(乙15)による補正(以下「第1手続補正」
という。)では,「該数量に基づく計算」をサーバ側で行う構成のみを本件特許請
求の範囲に付加しようとしていたが,同補正が却下された後にした平成24年7月
22日付け手続補正書(乙18)による補正(以下「第2手続補正」という。)で
は,「該数量に基づく計算」をクライアント側で行う構成としたという経緯がある
ことを理由として,原告が,第2手続補正により「該数量に基づく計算」をサーバ
側で行う構成を明確に認識しながら,これを意識的に除外した旨主張する。
しかし,第1手続補正は却下されているから(乙16),第1手続補正により発
明を限定したということはできない。
この点を措くとしても,第2手続補正のうち,構成要件F4に関する部分は,平
成23年8月11日付け拒絶理由通知(乙14)に記載された拒絶理由のうち,特
許法36条6項1号の拒絶理由を解消するため,すなわちサポート要件を満たすた
めに行われたものであるから,計算をサーバ側で行う構成を意識的に除外するもの
ではなく,外形的に,当該構成が本件特許発明の技術的範囲に属しないことを承認
したと解される行動と評価することはできないというべきである。
したがって,均等の第5要件を充足する。
イ 「タッチパネル,キーボード,マウス,電子ペン」(構成要件D)について
仮に,構成要件Dについて,Web-POSクライアント装置が「タッチパネル,
キーボード,マウス及び電子ペン」を入力手段として備えなければならないと解釈
され,そのために被告方法が文言上,本件特許発明の技術的範囲に含まれないと判
断されたとしても,被告方法は,次のとおり,本件特許発明と均等なものとして,
その技術的範囲に属するというべきである。
(ア) 均等の第1要件
前記ア(ア)のとおり,本件特許発明の本質的部分は,情報の管理をWebサーバに
一元化し,一般的なWebサーバ・クライアント・システム上でPOS機能を実現
した点にあるというべきところ,クライアント装置がいかなる入力手段を備えてい
るかという相違は,本件特許発明の本質的部分に係るものとはいえない。
したがって,均等の第1要件を充足する。
(イ) 相違点を置換しても特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を
有すること(均等の第2要件)
「タッチパネル,キーボード,マウス及び電子ペン」との構成を「タッチパネル,
キーボード,マウス又は電子ペン」との構成に置き換えたとしても,POS通信機
能やPOS専用線等を必要とせず,一般的なWebサーバ・クライアント・システ
ム上でPOSシステムを構築可能とするという本件特許発明の目的を達することが
でき,売上管理という本件特許発明の作用効果も同様に達成されるから,均等の第
2要件を充足する。
(ウ) 置換が容易であること(均等の第3要件)
被告システムの稼働時(平成22年3月)において,本件特許発明における「タ
ッチパネル,キーボード,マウス及び電子ペン」を備えるクライアント装置を「タ
ッチパネル,キーボード,マウス又は電子ペン」を備えるクライアント装置に置換
することは,当業者であれば容易に想到することができた。
したがって,均等の第3要件を充足する。
(エ) 均等の第4要件
被告方法は,本件特許の原出願日当時の公知技術と同一であるとか,公知技術か
ら容易に推考できたものではない。
したがって,均等の第4要件を充足する。
(オ) 均等の第5要件
本件特許の審査過程において,出願人である原告が本件特許請求の範囲から「タ
ッチパネル,キーボード,マウス又は電子ペン」を備える構成を意識的に除外した
などの特段の事情は存在しないから,均等の第5要件を充足する。
ウ 「POS」について
仮に,本件特許発明にいう「POS」が小売店等の実店舗において販売時点情報
管理を行うことを意味する解釈され,そのために被告方法が本件特許の文言上侵害
しないとされたとしても,被告方法は,次のとおり,本件特許請求の範囲に記載さ
れた構成と均等なものとして,その技術的範囲に属するというべきである。
(ア) 均等の第1要件について
前記ア(ア)のとおり,本件特許発明の本質的部分は,情報の管理をWebサーバに
一元化し,一般的なWebサーバ・クライアント・システム上でPOS機能を実現
した点にあるというべきところ,クライアント装置が実店舗にあるか,ECサイト
の消費者の手元にあるかという相違は,本件特許発明の本質的部分に係るものとは
いえないから,均等の第1要件を充足する。
(イ) 均等の第2要件について
本件特許発明において「店頭売り」(クライアント装置を実店舗に設置する場合)
を「ネット売り」(ユーザの手元に置いた場合)に置き換えたとしても,POS通
信機能やPOS専用線等を必要とせず,一般的なWebサーバ・クライアント・シ
ステム上でPOSシステムを構築可能とするという本件特許発明の目的を達するこ
とができ,売上管理という本件特許発明の作用効果も同様に達成される。
したがって,均等の第2要件を充足する。
(ウ) 均等の第3要件について
被告システムの稼働時(平成22年3月)において,本件特許発明をECサイト
での販売管理に利用すること,すなわち「店頭売り」を「ネット売り」に置換する
ことは,当業者であれば容易に想到することができた。
したがって,均等の第3要件を充足する。
(エ) 均等の第4要件について
被告方法は,本件特許の原出願日当時の公知技術と同一であるとか,公知技術か
ら容易に推考できたものではない。
したがって,均等の第4要件を充足する。
(オ) 均等の第5要件について
本件特許の出願手続において,被告方法が本件特許請求の範囲から意識的に除外
されたなどの特段の事情は存在しない。
したがって,均等の第5要件を充足する。
(被告の主張)
ア 「計算結果の注文情報」(構成要件F4)について
(ア) 均等の第1要件について
原告は,本件特許発明の本質的部分が,情報の管理をWebサーバに一元化し,
一般的なWebサーバ・クライアント・システム上でPOS機能を実現した点にあ
ると主張するが,かかる点は,本件特許の出願前から広く知られた周知技術であっ
て(甲5,乙19,20),本件特許発明の本質的部分,すなわち先行技術と対比
して確定されるべき課題の解決手段における特徴的原理に係る部分とは認められな
いから,原告の上記主張は失当である。
(イ) 均等の第2要件ないし第4要件について
争う。
(ウ) 均等の第5要件について
本件特許請求の範囲には,当初,計算をクライアント側とサーバ側のいずれで行
うかについて何らの限定も付されておらず,また,本件明細書の段落【0137】
には,「該数量に基づく計算」をサーバ側とクライアント側のいずれでも行うこと
ができることが明確に記載されていた。
本件特許の出願人である原告は,その後の第1手続補正(乙15)により,「該
数量に基づく計算」をサーバ側で行う構成のみを本件特許請求の範囲に含めたが,
同補正が却下された後にした第2手続補正(乙18)では,「該数量に基づく計算」
をクライアント側で行う構成に変更した(構成要件F4に対応する文言)。
そうすると,本件特許の出願人である原告は,第2手続補正により,「該数量に
基づく計算」をサーバ側で行う構成を明確に認識しながら,これを意識的に除外し,
同計算がクライアント側で行われることを明確にしたのであるから,均等の第5要
件を充足しない。
なお,手続補正により外形的に特許請求の範囲が限定された以上,当該手続補正
が拒絶理由を回避するために行われたか否かにかかわらず,均等の第5要件にいう
特段の事情があると認められるべきである。
イ 「タッチパネル,キーボード,マウス,電子ペン」(構成要件D)について
(ア) 均等の第1要件について
前記ア(ア)のとおり,原告が本質的部分であると主張するところの,情報の管理を
Webサーバに一元化し,一般的なWebサーバ・クライアント・システム上でP
OS機能を実現したとの点は,本件特許の出願前から広く知られた周知技術であっ
て,本件特許発明の本質的部分とは認められない。
(イ) 均等の第2要件及び第3要件について
争う。
(ウ) 均等の第5要件について
本件特許請求の範囲には,構成要件Dに関する部分に関して,「該Web-PO
Sクライアント装置においては,…タッチパネル,キーボード,マウス,電子ペン,
またはスキャナ装置からなる入力手段」と記載されていたが,本件特許の出願人で
ある原告は,第1手続補正(乙15)及び第2手続補正(乙18)により,当該部
分を「上記Web-POSクライアント装置が,タッチパネル,キーボード,マウ
ス,電子ペンからなる入力手段」と補正し,タッチパネル,キーボード,マウス及
び電子ペンのすべてを含む構成に限定した。
そうすると,本件特許の出願人である原告は,第2手続補正により,「Web-
POSクライアント装置」につき,タッチパネル,キーボード,マウス及び電子ペ
ンのすべてを含む構成に意識的に限定したというべきである。
したがって,均等の第5要件を充足しない。
ウ 「POS」について
(ア) 均等の第1要件との点について
前記ア(ア)に記載のとおり,原告が本質的部分であると主張するところの,情報の
管理をWebサーバに一元化し,一般的なWebサーバ・クライアント・システム
上でPOS機能を実現したとの点は,本件特許の出願前から広く知られた周知技術
であって,本件特許発明の本質的部分とは認められない。
(イ) 均等の第2要件及び第3要件について
争う。
(4) 争点4(損害額)について
(原告の主張)
本件特許権は,平成24年9月28日に設定登録されているところ,原告は,同
日以降,被告による被告方法の使用により,本件特許権を侵害されている。
被告は,平成24年9月28日から本件訴訟の提起日である平成26年10月1
6日までの間,本件ECサイトにおける各種商品の販売によって,少なくとも年間
100億円の売上をあげている。
そして,被告による本件特許発明の実施に対し,原告が受けるべき金銭の額(特
許法102条3項)は,上記各売上高の3パーセントを下らない。
したがって,被告による本件特許権の侵害によって,原告は,平成24年9月2
8日から平成26年10月16日までの間に,少なくとも6億円の損害を受けたと
いうべきである。
また,原告は,本件訴訟追行のための弁護士費用として,上記損害の10パーセ
ントに相当する6000万円の損害も受けた。
(被告の主張)
争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点2(被告方法が文言上,本件特許発明の技術的範囲に属するか)につい
て
(1) 事案に鑑み,まず,構成要件F4の充足性について検討する。
(2)ア 本件請求項1の記載によれば,本件特許発明は,「Webサーバ・クライ
アント・システム」(構成要件A)において実現される「Web-POSネットワ
ーク・システムの制御方法」(構成要件I)に関する発明であって,「Web-P
OSサーバ・システム」が備えるべき構成を構成要件Cにおいて規定し,「Web
-POSクライアント装置」が備えるべき構成を構成要件Dにおいて規定した上で,
「Web-POSサーバ・システム」と「Web-POSクライアント装置」との
基本的な関係について,「Web-POSクライアント装置」上の「Webブラウ
ザ」から「Web-POSサーバ・システム」にアクセスすると,「Web-PO
Sサーバ・システム」から「Web-POSクライアント装置」に対し,当該装置
において商品の選択や発注に係るユーザ操作を受け付ける「HTMLリソース」が
提供されること,当該ユーザ操作に基づく商品の売上情報が「Web-POSサー
バ・システム」において管理されることを構成要件Eにおいて規定し,さらに,「W
eb-POSクライアント装置」上の「Webブラウザ」による処理が,少なくと
も(構成要件F1),「カテゴリーの変更または入力(選択)に関する表示制御過
程」(構成要件F2),「商品識別情報の入力(選択)のための表示制御過程」(構
成要件F3)及び「商品注文内容の表示制御過程」(構成要件F4)を含むべきこ
とを構成要件Fにおいて規定していることが認められる。
これらのうち,「Web-POSクライアント装置」上の「Webブラウザ」に
よる処理について具体的にみると,まず,「カテゴリーの変更または入力(選択)
に関する表示制御過程」については,①「Web-POSサーバ・システム」から
「Web-POSクライアント装置」に取扱商品に関する基礎情報に含まれたカテ
ゴリーに対応する「カテゴリーリスト」を含む「HTMLリソース」が供給され,
「Web-POSクライアント装置」の「表示装置」に「カテゴリーリスト」が表
示されること,②ユーザが,「Web-POSクライアント装置」の「入力手段」
により,表示された上記①の「カテゴリーリスト」からカテゴリーを変更又は入力
(選択)するごとに,「Web-POSクライアント装置」が「Web-POSサ
ーバ・システム」に変更又は入力(選択)されたカテゴリーに対応する商品基礎情
報を含む「HTMLリソース」を要求する「HTTPメッセージ」を送信すること,
③「Web-POSサーバ・システム」が上記②で受信した「HTTPメッセージ」
に基づき,変更又は入力(選択)されたカテゴリーに対応する商品基礎情報を抽出
して,「Web-POSクライアント装置」に同情報を含む「HTMLリソース」
を送信し,「Web-POSクライアント装置」の「表示装置」に変更又は入力(選
択)されたカテゴリーに対応する商品基礎情報からなる商品リストが表示されるこ
とがそれぞれ規定されているものと認められる(以上につき,構成要件F2)。次
に,「商品識別情報の入力(選択)のための表示制御過程」においては,④ユーザ
が「Web-POSクライアント装置」の「入力手段」により,上記③のとおり表
示された商品リストにつき商品識別情報を入力(選択)するごとに,「Web-P
OSクライアント装置」が「Web-POSサーバ・システム」に同商品識別情報
に対応する商品基礎情報を問い合わせること,⑤「Web-POSサーバ・システ
ム」が「Web-POSクライアント装置」に上記④のとおり問い合わせられた商
品識別情報に対応する商品基礎情報を送信し,「Web-POSクライアント装置」
の「表示装置」に商品基礎情報に基づく商品の情報が表示されることがそれぞれ規
定されているものと認められる(以上につき,構成要件F3)。さらに,「商品注
文内容の表示制御過程」については,⑥上記⑤のとおり表示された商品の情報につ
いて,「ユーザが,該入力手段により数量を入力(選択)すると,該数量に基づく
計算が行われると共に,前記入力(選択)された商品識別情報と該商品識別情報に
対応して取得された上記商品基礎情報に基づく商品の注文明細情報が該入力手段を
有する表示装置に表示されると共に,ユーザが,該入力手段によりオーダ操作(オ
ーダ・ボタンをクリック)を行うと,該商品の注文明細情報に対する該数量入力(選
択)に基づく計算結果の注文情報が該Web-POSサーバ・システムにおいて取
得(受信)される」ことが規定されているものと認められる(構成要件F4)。
このように,本件特許発明は,「Web-POSクライアント装置」上の「We
bブラウザ」による処理について,その表示制御過程(上記①ないし⑥)を具体的
に規定しているところ,「Web-POSクライアント装置」上でされたユーザの
操作(例えば,上記②におけるカテゴリーの変更又は入力〔選択〕や,上記④にお
ける商品識別情報の入力〔選択〕)に対応して,「Web-POSサーバ・システ
ム」において何らかの処理が行われる場合には,その都度,「Web-POSクラ
イアント装置」から「Web-POSサーバ・システム」に何らかの要求が送信さ
れること(例えば,上記②における「HTMLリソース」を要求する「HTTPメ
ッセージ」の送信,上記④における商品識別情報に対応する商品基礎情報の問い合
わせ,上記⑥におけるユーザがオーダ操作に対応する計算結果の注文情報の送信
〔「Web-POSサーバー・システムにおいて取得(受信)」する以上,「We
b-POSクライアント装置」から送信されていることは,明らかである。〕など
がこれに該当する。)が明確に規定されているといえる。
しかるに,本件請求項1は,「ユーザが,該入力手段により数量を入力(選択)
する」操作が行われた場合に,構成要件F4にいう「該数量に基づく計算」を「W
eb-POSサーバ・システム」に行うよう要求することを規定していないのであ
るから,「該数量に基づく計算」は,専ら「Web-POSクライアント装置」に
おいて行われるものと解するのが相当である。
イ 上記アの解釈は,本件特許の出願手続からも裏付けられるところである。
すなわち,証拠(乙13ないし18)によれば,本件特許の出願人である原告は,
本件特許の出願手続において,当初(分割出願時)は,「数量に基づく計算」を「W
eb-POSクライアント装置」により行うか,「Web-POSサーバ・システ
ム」により行うかについて,本件特許請求の範囲により規定していなかったところ,
第1手続補正により,本件特許請求の範囲に「3)商品オーダ内容の操作に関する
表示制御,すなわち,上記Web-POSクライアント装置の入力手段を有する表
示装置に表示された上記商品の注文明細情報について,ユーザが,該入力手段によ
り,オーダ内容(数量)を入力(選択)すると,該オーダ内容に基づく計算が上記
Web-POSサーバ・システムにおいて行われると共に,その結果が上記Web
-POSクライアント装置に通知され,また,ユーザが,該入力装置により,オー
ダ操作(オーダ・ボタンをクリック)を行うと,該商品の注文明細情報に対する該
オーダ内容に基づく計算結果の販売情報または注文情報が該Web-POSサー
バ・システムにおいて取得(受信)されること」との構成を付加しようとしたこと,
特許庁審査官は,同構成を付加する補正は,願書に最初に添付された明細書,特許
請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでなく,特許法17
条の2第3項に違反するなどの理由により,第1手続補正を同法53条1項により
却下する旨の決定をしたこと,原告は,同却下決定を受けて,第2手続補正により,
本件特許請求の範囲に「ユーザが,該入力手段により数量を入力(選択)すると,
該数量に基づく計算が行われると共に,」との構成を付加したことが認められる。
上記手続に照らせば,原告は,第2手続補正により,「該数量に基づく計算」が
「Web-POSサーバ・システム」により行われ,その結果が「Web-POS
クライアント装置」に通知される構成を本件特許請求の範囲から除外したと解する
のが相当である(なお,本件明細書の段落【0137】の記載は,上記判断を左右
するものではない。)。
(3) 原告は,構成要件F4にいう「ユーザが,該入力手段により数量を入力(選
択)すると,該数量に基づく計算が行われる」とする「計算」について,同計算が
行われるのは「Web-POSクライアント装置」側に限定されるものではない旨
主張するが,上記説示したところに照らし,採用することができない。
(4) 以上の解釈を前提に,被告方法が構成要件F4を充足するか検討する。
証拠(乙1)によれば,被告方法においては,「(ユーザ端末の)表示画面上で,
商品の『数量』を入力して『カートに追加』がクリックされると,数量の情報がW
ebサーバに送られて金額の計算が行われ,計算結果が顧客のコンピュータに送ら
れて表示され・・・ユーザ端末において,入力した数量に基づく金額の計算が行わ
れることはない」(被告システム説明書「4」参照)と認められる(なお,この点
は,原告も否定していない。)。
そうすると,仮に,被告システムにおける「ユーザ端末」が本件特許発明にいう
「Web-POSクライアント装置」に該当するとしても,構成要件F4にいう「該
数量に基づく計算」は,当該ユーザ端末において行われないのであるから,被告方
法は,構成要件F4を充足しない。
(5) 以上によれば,構成要件F4以外の各構成要件の充足性につき検討するまで
もなく,被告方法が文言上,本件特許発明の技術的範囲に属するということはでき
ない。
2 争点3(被告方法が本件特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属す
るか)について
(1) 特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用いる
方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても,①同
部分が特許発明の本質的部分ではなく(第1要件),②同部分を対象製品等におけ
るものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏
するものであって(第2要件),③上記のように置き換えることに,当該発明の属
する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が,対象製品等の製造等
の時点において容易に想到することができたものであり(第3要件),④対象製品
等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願
時に容易に推考できたものではなく(第4要件),かつ,⑤対象製品等が特許発明
の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなど
の特段の事情もないとき(第5要件)は,同対象製品等は,特許請求の範囲に記載
された構成と均等なものとして,特許請求の技術的範囲に属するものと解するのが
相当である(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判
決・民集52巻1号113頁参照)。
(2) 事案に鑑み,まず,前記1において認定説示した本件特許発明と被告方法と
が相違する部分(構成要件F4と被告方法との相違部分)に関し,均等の第5要件
(上記(1)⑤)の成否を検討する。
前記1(3)において認定説示したとおり,本件特許の出願人である原告は,本件特
許の出願手続において,当初(分割出願時)は,「数量に基づく計算」を「Web
-POSクライアント装置」により行うか,「Web-POSサーバ・システム」
により行うかについて,本件特許請求の範囲により規定していなかったところ,第
1手続補正により,本件特許請求の範囲に「3)商品オーダ内容の操作に関する表
示制御,すなわち,上記Web-POSクライアント装置の入力手段を有する表示
装置に表示された上記商品の注文明細情報について,ユーザが,該入力手段により,
オーダ内容(数量)を入力(選択)すると,該オーダ内容に基づく計算が上記We
b-POSサーバ・システムにおいて行われると共に,その結果が上記Web-P
OSクライアント装置に通知され,また,ユーザが,該入力装置により,オーダ操
作(オーダ・ボタンをクリック)を行うと,該商品の注文明細情報に対する該オー
ダ内容に基づく計算結果の販売情報または注文情報が該Web-POSサーバ・シ
ステムにおいて取得(受信)されること」との構成を付加しようとしたこと,特許
庁審査官は,同構成を付加する補正は,願書に最初に添付された明細書,特許請求
の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでなく,特許法17条の
2第3項に違反するなどの理由により,第1手続補正を同法53条1項により却下
する旨の決定をしたこと,原告は,同却下決定を受けて,第2手続補正により,本
件特許請求の範囲に「ユーザが,該入力手段により数量を入力(選択)すると,該
数量に基づく計算が行われると共に, との構成を付加したことが認められ,
」 また,
同補正により,本件請求項1記載の発明は,「該数量に基づく計算」が「Web-
POSクライアント装置」により行われるものに限定されたと解すべきである。
そうすると,原告は,本件特許の出願手続において,被告方法のような「該数量
に基づく計算」が「Web-POSサーバ・システム」により行われ,その結果が
「Web-POSクライアント装置」に通知される構成について,これを明確に認
識しながら,あえて本件特許請求の範囲から除外したものと外形的に評価し得る行
動をとったものというべきである(なお,原告は,前記1において認定説示した本
件特許発明と被告方法とが相違する部分〔構成要件F4と被告方法との相違部分〕
以外については,被告方法が本件特許発明と同一であるか,少なくとも均等である
と主張しているのであるから,同主張を前提とする限り,被告方法は,客観的にみ
て,本件特許の出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものにあ
たることになるといえる。)。
この点,原告は,第1手続補正が却下されているとか,第2手続補正のうち,構
成要件F4に関する部分は,サポート要件(特許法36条6項1号)違反の拒絶理
由の解消を目的としたものであるなどと主張するが,第1手続補正が却下されたと
の事実は,出願人である原告が,被告方法のような「該数量に基づく計算」が「W
eb-POSサーバ・システム」により行われ,その結果が「Web-POSクラ
イアント装置」に通知される構成を明確に認識していたとの上記認定を左右するも
のではなく,また,原告が当該構成を明確に認識しており,第2手続補正により本
件請求項1記載の発明が「該数量に基づく計算」が「Web-POSクライアント
装置」により行われるものに限定されたと解される以上,第2手続補正のうち,構
成要件F4に関する部分についての補正の目的が原告主張のとおりであったとして
も,被告方法のような構成をあえて本件特許請求の範囲から除外したものと外形的
に評価し得る行動をとったとの上記認定判断が左右されるものではない。
したがって,均等の第5要件の成立は,これを認めることができない。
(3) 以上によれば,均等のその余の要件の成否,及び構成要件F4以外の各構成
要件の充足性(均等の成否を含む。)につき検討するまでもなく,被告方法が本件
特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するということはできない。
3 結論
よって,その余の争点につき検討するまでもなく,原告の本件請求は理由がない
から,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
嶋 末 和 秀
裁判官
笹 本 哲 朗
裁判官
天 野 研 司
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