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平成25(ワ)11486不正競争行為差止等請求事件

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裁判所 請求棄却 大阪地方裁判所 棄却
裁判年月日 平成27年10月29日
事件種別 民事
当事者 被告株式会社直村企画
原告P1 株式会社ADDHOME トータル・アイ株式会社
法令 不正競争
不正競争防止法2条1項3号7回
不正競争防止法4条2回
不正競争防止法5条2項1回
民事訴訟法61条1回
不正競争防止法19条1項5号1回
キーワード 損害賠償8回
許諾7回
侵害2回
特許権1回
差止1回
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告らの負担とする。
事件の概要 本件は,別紙原告商品目録記載の草刈機保護カバー(以下「原告商品」という。) を開発したとする原告P1,同商品の日本国内における独占販売権者であると する原告株式会社ADDHOME,さらにその独占販売権の再許諾を受けたと する原告トータル・アイ株式会社が,別紙被告商品目録記載の草刈機保護カバ ー(以下「被告商品」という。)は原告商品の形態を模倣した商品であり,これ を輸入販売する行為が不正競争防止法2条1項3号に該当すると主張して,被 告に対し,同法4条に基づき,損害賠償請求として原告らそれぞれに対して2 499万円及びこれに対する不法行為日の後である平成25年11月23日か ら支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案 である。

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判決文

平成27年10月29日判決言渡 同日判決原本領収 裁判所書記官
平成25年(ワ)第11486号 不正競争行為差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成27年8月27日
判 決
原 告 P1
原 告 株式会社ADDHOME
原 告 トータル・アイ株式会社
上記3名訴訟代理人弁護士 小 川 晶 露
被 告 株 式 会 社 直 村 企 画
同訴訟代理人弁護士 今 田 晋 一
同 高 橋 幸 平
同 松 本 健 男
主 文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は,原告らそれぞれに2499万円及びこれに対する平成25年11月
23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,別紙原告商品目録記載の草刈機保護カバー(以下「原告商品」という。)
を開発したとする原告P1,同商品の日本国内における独占販売権者であると
する原告株式会社ADDHOME,さらにその独占販売権の再許諾を受けたと
する原告トータル・アイ株式会社が,別紙被告商品目録記載の草刈機保護カバ
ー(以下「被告商品」という。)は原告商品の形態を模倣した商品であり,これ
を輸入販売する行為が不正競争防止法2条1項3号に該当すると主張して,被
告に対し,同法4条に基づき,損害賠償請求として原告らそれぞれに対して2
499万円及びこれに対する不法行為日の後である平成25年11月23日か
ら支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案
である。
1 判断の基礎となる事実(争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実)
(1) 当事者
ア 原告P1(以下「原告P1」という。)は,大韓民国(以下「韓国」と
いう。)において原告商品を製造販売していた者である。
イ 原告株式会社ADDHOME(以下「原告アッドホーム」という。)は,
平成23年7月12日,原告P1から,同人が製造販売している草刈機保
護カバーの日本国内での独占販売権を受けたものである(甲4)。
ウ 原告トータル・アイ株式会社(以下「原告トータル・アイ」という。)
は,平成25年5月,原告アッドホームから,同原告が上記イのとおり,
原告P1から許諾を受けた日本国内における草刈機保護カバーの独占販売
権の再許諾を受けた者である(甲1,6,16)。
エ 被告は,日常品,アイデア商品,日用雑貨等の製造販売等を業とする株
式会社である。
(2) 被告による原告商品の輸入販売等
ア 被告は,平成23年9月以降,原告アッドホームから原告商品の日本国
内における独占販売権の再許諾を受け,日本国内における輸入販売元とし
て,原告商品(ただし,平成24年6月頃までは商品名を「草刈名人かる
べぇ」)を輸入販売するようになり,平成25年5月までの間に合計4万
2600個を輸入販売した(甲10の1ないし8)。
イ 原告商品の形態は,別紙原告商品目録添付の「原告商品『草刈達人かる
べぇ』写真図」のとおりである。
(3) 被告による被告商品の製造販売等
ア 被告は,平成25年3月頃から,韓国の企業に被告商品を製造させ,こ
れを日本国内に輸入し販売し始めた。
イ 被告商品の形態は,別紙被告商品目録添付の「被告商品『新草刈達人か
るべぇ』」写真図」のとおりである。
2 争点
(1) 原告らは不正競争防止法4条に基づく損害賠償請求権の主体になり得るか
(争点1)
(2) 被告において原告商品は「他人の商品」か(争点2)
(3) 被告商品は原告商品の形態を模倣した商品か(争点3)
(4) 原告らの損害(争点4)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(原告らは不正競争防止法4条に基づく損害賠償請求権の主体にな
り得るか)について
(原告の主張)
ア 原告P1は,原告商品を開発した者であり,原告アッドホームは,原告
P1から原告商品を輸出して日本国内における独占的な販売権を許諾され
た者であり,原告トータル・アイは,原告アッドホームから原告商品の独
占的な販売権の再許諾を受けた者である。
各原告は,自己の利益を守るために,模倣による不正競争を阻止して先
行者の商品形態の独占を維持することが必要であり,商品形態の独占につ
いて強い利害を有する。
したがって,原告らは,「営業上の利益を侵害」(不正競争防止法4条)
された者に該当し得るので,被告の行為が同法2条1項3号の不正競争で
あることを理由とする損害賠償請求権の主体となり得る。
イ 原告P1は,平成21年10月6日,韓国において,草刈機保護カバー
の開発を目的として株式会社セロムを設立し,平成22年9月頃,初めて
略星状の形態を有する草刈機保護カバーを開発し,さらに同国において,
同年11月20日には原告P1を創作者として当該形態の意匠登録を出願
し,同日,特許出願を行うなどした上,同国で「セロミ」と称する草刈機
保護カバーの販売を開始した。そして,その後も原告P1は,改良を重ね,
平成23年には改良版「セロミ」を韓国で販売したところ,好評を博した。
原告アッドホームは,同年春頃,原告P1及び被告に対して草刈機保護
カバーを日本向けに輸出販売する提案を行い,これを受け,原告P1は,
同年6月末頃から日本向けの草刈機保護カバーの設計制作に着手し,金
型,その他の部品及び組立て等を手配し,被告が送付してきた包装パッケ
ージデザインを使用して,同年8月22日,サンプルを作成して被告宛に
送付し,同年9月5日には,原告商品1000個を日本に向けて輸出した。
このように,原告P1は,原告商品を開発,商品化した者である。
(被告の主張)
不正競争防止法2条1項3号の不正競争を理由とする損害賠償請求権の主
体となり得るのは,当該商品を自ら開発,商品化した者に限られる。
原告P1は,原告商品を開発,商品化した者ではなく,原告アッドホーム
も,単に輸出業者として,原告商品の流通に関与した者にすぎず,自ら開発,
商品化した者ではない。また原告トータル・アイについても,平成25年5
月に日本で登録された特許(甲1)に係る発明品について独占販売権の再許
諾を受けたようであるが,そもそも原告商品と関係ない商品名を「いしとば
ん」とする商品の販売に関与しているにすぎず,原告商品を自ら開発,商品
化した者ではない。
したがって,原告らは,被告の行為が不正競争防止法2条1項3号の不正
競争であることを理由とする損害賠償請求権の主体となり得ない。
(2) 争点2(被告において原告商品は「他人の商品」か)について
(原告の主張)
ア 原告商品は,前記(1)(原告の主張)イのとおり,原告商品の開発,商品
化については,原告P1がその費用,労力を投じて規格,構想,改良,仕
様変更,図面作成,金型製作,製造等の全てを行ってきたものであり,被
告は,単に「草刈名人かるべぇ」との商品名とパッケージデザインデータ
を提供したにすぎない。被告は,当初1000個しか買い入れず,広告も,
販売が始まった後の平成23年10月以降に行ったもので,被告が開発,
商品化したものとは到底いえない。
イ したがって,原告商品は,被告にとって「他人の商品」である。
(被告の主張)
ア 被告は,平成23年8月頃,原告P1が経営する株式会社セロムに対し,
日本向け商品として被告が企画し,それに基づいて開発した商品に被告が
発案した商品名(草刈名人かるべぇ)を付して販売を開始し,平成24年
6月頃,これに改良を加えた商品に新たな商品名(草刈達人かるべぇ)を
付して販売していた。
イ 被告は,原告アッドホームを通じ,日本向けの仕様を伝え,支持部材の
構成等を改良させるなど,原告商品の仕様変更,設計を行った。
また,5600万円以上の広告費をかけて,日本における販路を拡げる
努力をしてきたもので,原告商品が被告にとって「他人の」商品とはいえ
ない。
(3) 争点3(被告商品は原告商品の形態を模倣した商品か)について
(原告の主張)
ア 商品形態の実質的同一性
原告商品の形態と被告商品の形態は,以下のとおり,実質的に同一であ
る。
(ア) 原告商品の形態の特徴
原告商品の形態は次の特徴を有する。
A 回転式草刈機の円盤形カット刃の下部に位置するシルバー色(鉄・
アルミ合金製)の保護プレートであって,
B 上記Aの保護プレートは,12の突出部と12の溝部が円周方向に
沿って交互に形成された略星状形を有し,
C 上記Bの12の突出部のうち11の突出部の先端部には,何れも所
定の角度上方へ折り曲げられて形成した折曲部が設けられ,
D 他方,上記Cにおける残りの1の突出部には,円筒状の支持部材の
下端を係止し,
E 上記Dの支持部材の上端には,回転式草刈機のハンドル(竿)を挟
み込んで固定するための略U字形のハンドル固定部を設け,
F 上記Aの保護プレートの中央部には,同心円状に形成された谷部を
有し,同谷部の中央に低円柱状のベアリング部材が設けられている。
(イ) 被告商品の形態の特徴
被告商品の形態は次の特徴を有する。
a 回転式草刈機の円盤形カット刃の下部に位置するシルバー色(ステ
ンレス・鉄・アルミ合金製)の保護プレートであって,
b 上記aの保護プレートは,12の突出部と12の溝部が円周方向に
沿って交互に形成された略星状形を有し,
c 上記bの12の突出部のうち11の突出部の先端部には,何れも所
定の角度上方へ折り曲げられて形成した折曲部が設けられ,
d 他方,上記cにおける残りの1の突出部には,円筒状の支持部材の
下端を係止し,
e 上記dの支持部材の上端には,回転式草刈機のハンドル(竿)を挟
み込んで固定するための略U字形のハンドル固定部を設け,
f 上記aの保護プレートの中央部には,同心円状に形成された谷部を
有し,同谷部の中央に低円柱状のベアリング部材が設けられている。
(ウ) 商品形態の対比
被告商品の構成bないしfは,いずれも原告商品の構成BないしFを
充足する。被告商品の構成aは,原告商品の構成Aとは材質の点でやや
異なるが,その色彩は何れもシルバーであり,質感,光沢においても異
なる印象を需要者に与えるものではなく,したがって,被告商品の形態
は,原告商品の形態と実質的に同一である。
イ 依拠性
被告は,原告商品を輸入販売していた者であり,しかも草刈機保護カバ
ーは,様々な形態を取り得るもので,実際,他社の商品は全て原告商品と
形態の特徴が大きく異なるものばかりである。そうであるのに,被告商品
は原告商品に酷似しているのであるから,被告商品が原告商品の形態に依
拠して作り出されたことは明らかである。
ウ 被告主張に係る原告商品と被告商品の形態の相違点についての認否反論
保護プレートの形状の相違点について
① 被告主張①は全部否認する。原告商品も先端部は丸みを帯びている
し,最深部も直線的とまではいえない。このような違いは説明されな
ければ分からないほど些細なものである。
② 被告主張②の寸法の相違については,各寸法において10%にも満
たない僅かな違いにすぎず,需要者に認識されないものである。
③ 被告主張③につき,原告商品の保護プレートの突出部には,中央部
に凹部が形成されている点は否認し,被告商品の突出部では,幅約4
mmの凹状の溝が突出部の外縁に沿って形成され,突出部の中央に凸
部が形成されている点は認める。いずれにしても,指摘がなければ,
いずれの商品も外縁に沿って略三角形状の縞ないし筋模様があるとい
う共通の印象が持たれるものである。
④ 被告主張④については認める。ただし,指摘されて初めて気づく程
度の違いにすぎない。
⑤ 被告主張⑤の寸法は認め,作用効果の違いについては否認する。回
転刃の高さは,保護プレートの谷部の深さではなく,中央に設置され
るベアリング上部の高さによるもので,原告商品は24mmであり,
被告商品は22mmであり,その差はほとんどなく,作用効果に違い
はない。むしろ,需要者が通常の用法に従って使用した場合,知覚に
よって異なる商品であると認識できる形状の差異とは言い難い。
⑥ 被告主張⑥は認める。しかし,余りに些細な差異である。
⑦ 被告主張⑦は認めるが,そのような差異は指摘されなければ全く気
付かない程度のものである。
(イ) 保護プレート支持部材の相違点について
① 被告主張①につき,原告商品の円筒状部材が半透明である点,略U
字形のハンドル固定部材が一定角度を保持する点は否認し,その余は
認める。原告商品の円筒状部材はグレー色であり,ハンドル固定部材
は,一定角度に固定されるわけではなく,円筒状部材内部のスプリン
グにより草刈機のハンドル(竿)に装着して使用する際に角度が柔軟に
変更調整される。
いずれにしても,大きさ,長さがほぼ同一の円筒状の部材が下端に
おいて保護プレート突出部の1つに連結され,上端においても,寸法,
構造がほぼ同一の略U字形のハンドル固定部材が当接される点で共通
しており,上記些細な違いがあったとしても,需要者に異なる商品と
して認識させるものではない。
② 被告主張③については,指摘されなければ容易に認識できないもの
である。
(ウ) 保護プレート底部の形状の相違点について
被告が主張する相違点については,いずれも指摘されなければ気が付
かない程度の僅かな違いばかりであって,需要者が商品選択を行う際,
使用時の状況を想定して購入するものである以上,何れも認識されない
ものばかりである。
(エ) ベアリング部の相違点について
被告主張の寸法は認めるが,2mmの差異は認識できないものである。
(オ) 底面保護カバーの形態の相違点について
被告の主張は認めるが,そもそも保護プレート中央下面は通常の使用
である草刈りの際には見えないし,草刈機に装着する際,唯一見る機会
があるとしても,需要者が異なる商品と認識できる程度の形状の差異と
は言い難い。
(カ) まとめ
被告の主張する点は,いずれも需要者が商品選択を行う際に,意識や
注目することのない極めて些細な違いにすぎず,むしろ被告商品が原告
商品に酷似している以上,実質的同一性は肯定される。
エ 原告主張に係る商品形態が,「当該商品の機能を確保するために不可欠
な形態」であり,ありふれたものであるとの被告主張に対する反論
被告が主張する①ないし⑦の形状は,他にあらゆる形態選択の可能性が
あった。たとえば,支持部材のある突出部を幅広に構成する形態,支持部
材のある突出部を二股に分ける形態,各突出部先端を折曲するのではなく
保護プレート全体を上方へ傾斜させる形態,そもそも支持部材を設けない
形態,厚太のプラスティック製とし各突出部を半月形とする形態等,草刈
機保護カバーの形態には,無限の選択の可能性があったものである。そう
であれば,被告商品において,あえて,原告商品とデッドコピーというべ
き程までに酷似した形態を選択せずとも,他に草刈機保護カバーとしての
機能,用途を同様に達成できる形態を選択できたのだから,そのうち1つ
の形態にすぎない原告商品の形態が機能確保に不可欠だとか,通常ありふ
れた形態であるとの被告の主張は失当である。
(被告の主張)
ア 原告商品と被告商品の形態の相違点
原告商品と被告商品の形態は,以下の点で相違し,実質的に同一である
とはいえない。
(ア) 保護プレートの形状の相違点
① 保護プレートの円周方向に沿って交互に形成された12の突出部の
先端部及び各溝部の最深部の形状が,原告商品は直線的であるのに対
し,被告商品では丸みを帯びている。
② 原告商品の保護プレートの突出部は,最深部から突出部の先端まで
の長さが約67mm,最深部の幅が約37mm,折曲部を除いた最浅
部の幅が約12mmである。これに対し,被告商品の保護プレートの
突出部は,最深部から突出部の先端までの長さが約60mm,最深部
の幅が約45mm,折曲部を除いた最浅部の幅が約15mmであり,
原告商品に比べて突出部の長さは短く,幅は広い。
③ 原告商品の保護プレートの突出部には,中央部に凹部が形成されて
いる。これに対し,被告商品の突出部では,幅約4mmの凹状の溝が
突出部の外縁に沿って形成され,突出部の中央に凸部が形成されてい
る。
④ 原告商品の各突出部の中央に形成された凹部は,各突出部から延長
されて,保護プレートに同心円状に形成された谷部の外周側面に至る
まで形成されている。これに対し,被告商品の各突出部の中央に形成
された凸部は,各突出部から延長されて,谷部の外周側面,底面を経
由し,谷部の内周側面の最上部に至るまで形成されている。
⑤ 保護プレートの谷部の深さ(谷部の最下部から各突出部の最深部ま
での高さ)を比較すると,原告商品は約20mmであるのに対し,被
告商品は約13mmしかない。なお,保護プレートの谷部の深さは,
草刈機を地面に接地させた際の保護プレート及び回転刃の高さを決定
するため,草刈機保護カバーの作用効果に大きく影響する。
⑥ 被告商品では,支持部材が連結されている突出部と,その左右二つ
の突出部との間に,それぞれ台形状に隆起した凸部が存在するが,原
告商品には存在しない。
⑦ 被告商品では,支持部材が連結されている突出部の中央に形成され
た凸部の高さは,他の突出部の中央に形成された凸部と同様の高さと
なっている。これに対し,原告商品では,支持部材が連結されている
突出部の中央に形成された凹部は,他の突出部の中央に形成された凹
部よりも深い。
(イ) 保護プレート支持部材の相違点
① 原告商品の支持部材は,その構成の一つである円筒状部材が半透明
のポリカーボネート製であり,その上端は,同部材の長手方向に対し
て垂直面ではなく,所定角度を有する切断面になるよう形成されてい
る。また,円筒状部材の中空に留置された弾性部材の一端に連結され
た,略U字形で,略U字形内部に回転式草刈機のハンドル(竿)を挟
み込んで螺子で固定するオレンジ色のハンドル固定部材(鉄をゴムで
コーティングした部材)が,上記円筒状部材の上端の切断面に当接さ
れ,支持部材がハンドルに対して一定角度を保持する形態となってい
る。
原告商品は,パッケージに梱包された状態では,支持部のフックを,
平行に位置した2本の連結孔の保護プレート中央部側の端に寄せ,保
護プレートに対して垂直な部分に位置させて,支持部全体を内側(保
護プレート中心側)に倒した状態で格納されている。原告商品をパッ
ケージから取り出し,支持部のフックを上記連結孔の突出部先端側の
端まで移動させると,円筒状部材の一端が突出部に当接して,支持部
全体が保護プレート突出部先端に,所定の角度(略直角)をもって自立
し,上記のとおり,支持部上端の略U字形状のハンドル固定部は円筒
状部材に当接して,所定の角度(ハンドルの角度と同じ)を保持してい
る。
これに対し,被告商品では,円筒状部材はシルバー色のアルミ製で
あり,その上端は長手方向に対して垂直面が形成され,円筒状部材の
中空に留置された弾性部材の一端に連結された,略U字形で,略U字
形内部に回転式草刈機のハンドル(竿)を挟み込んで固定する銀色ア
ルミ製のハンドル固定部材が,上記円筒状部材の上端垂直切断面に当
接されており,支持部材がハンドルに対して角度自由に支持される形
態である。装着前の保護プレートと支持部の連結部は,回転自在であ
り,原告商品のように,円筒状部材が保護プレートに当接したり,円
筒状部材が自立したりする構造ではない。
② 保護プレートと支持部材の連結部について,原告商品では,保護プ
レートの一の突出部の端部に,連設された直線状の2本の連結孔が設
けられ,同各連結孔に,円筒状部材の中空に留置された弾性部材の一
端に係止された略角丸長方形に形成されたフックが連結されている。
これに対し,被告商品では,円筒状部材の中空に留置された弾性部
材の一端には,同円筒状部材の直径より相対的に大きく,略環状に形
成されており,円筒状部材の下端から突出するように配置されたフッ
クが係止されており,同フックが,保護プレートの一の突出部の端部
に設けられた円状の連結孔に連結されている。
③ 被告商品は,前記①の銀色アルミ製ハンドル固定部材の略U字内側
面に黒色ゴム製の保護材を接着させているのに対し,原告商品では,
そのような保護材は接着されていない。
(ウ) 保護プレート底部の形状の相違点
① 原告商品は,保護プレートの中央の回転軸を受ける部分を残して,
ベアリング装着部は,円形に凹んでおり,凹みの周囲は平面であり,
平面上に4つの穴があり,螺子が装着されている。これに対し,被告
商品では保護プレートの中央の回転軸を受ける部分の中央は凹んでお
り,その周囲には環状の凸部があり,同部材の周囲には環状の黒色ゴ
ム製部材があり,さらにその外側に環状の凸部と平面がある。平面上
には8つの穴があり,うち4つの穴に螺子が装着されている。
そのため,底面からみると,原告商品のベアリング取付部は凹んで
いるのに対し,被告商品には二重の同心円状の凸部がある。
② 原告商品は,その周囲に完全な円環(ドーナツ)状の凸部がきれいに
浮き出ており,同円環状の部分の外周から,各突出部に羽状の凸部が
浮きだし,突出部先端まで届いている。凸部は同心円状,突出部には
1重の羽状の模様が浮き出ている。これに対し,被告商品では,その
周囲には,略円環状の凸部が浮き出しているが,凸部に凹凸があり,
筋模様となっており,メカニカル(機械的)な印象を与える。また,そ
の凹部は突出部の先端へ続く羽状の凹みの一部をなしている。保護板
の外縁に沿った線と突出部に略三角形(又は羽状)の線の二重の線,
縞模様が,略円環状の凸部には略同心円に縞の入った数珠様の模様が
浮き出ている。
③ 原告商品は,支持部を取り付けた突出の先端に2本の平行する直線
状の孔からなる連結孔(以下「平行連結孔」という。)があるのに対し,
被告商品では,支持部を取り付ける突出部の先端には小さな一つの孔
があるだけである。
(エ) ベアリング部の相違点
原告商品ではベアリング部の直径が約52mmであるのに対し,被告
商品では約55mmである。
(オ) 底面保護カバーの相違点
原告商品では,保護プレート中央部下面の貫通孔に嵌挿するゴム製の
異物遮断材を備える。これに対し,被告商品では,保護プレートの中央
部下面に,4本の螺子で固定する,ステンレス製,略半球状で縁部に保
護プレートとの接着面を備えた異物遮断材を備える。
イ 依拠性について
被告は,ドンミョン(東明)産業株式会社が平成23年頃から韓国で販
売していた草刈機保護カバー「トルトリ」(以下「東明産業版トルトリ」
という。)を改良したものをベースに,日本向けに保護盤を小さくするな
どの軽量化を図り,保護プレートに模様をつけて強度を増す等の改良をさ
せ,被告商品として輸入し,販売を開始したものである。原告商品と被告
商品との類似点のうち,突出部,溝部の数が12である点を除く全部及び
被告の主張する相違点の全ては,遡れば東明産業版トルトリの形態,材質
に由来するものであり,被告商品は,原告商品に依拠していない。
原告P1は突出部,溝部の数が14のデザイン(意匠)を韓国において
登録しており,また韓国において原告P1から東明産業株式会社に対して
特許権侵害の仮処分申立事件があったことから,被告による日本国内にお
ける原告商品の販売開始に際し,紛争回避のため突出部,溝部の数を12
に変更したものである。
ウ 原告主張に係る商品形態の実質的同一性についての認否反論
(ア) 原告主張に係る原告商品の形態について
構成Bのうち「略星状形」が三角形状の突起が円周上に並ぶ形状一般
をいうが,このような言葉は曖昧かつ広範であり,これを主要な特徴と
する原告商品の形態の特徴は,あいまいかつ広範であり,この要件の充
足により実質的同一性の主張とすることはできない。その余は認める。
構成C,D及びEについては認める。
構成Fについては,「同心円状に形成された谷部を有し」という部分
については,谷部の内側の部分は「円」ではあるが,外側の部分は,突
出部の模様が存在するために「円」ということはできない。正確には,
「上記Aの保護プレートの中央部上面には,低円柱状のベアリング部材
を中心とする略二重の同心円状の内側円と外側の略円に挟まれた谷部を
有する」となる。
(イ) 原告主張に係る被告商品の形態について
構成bのうち,「略星状形」については,上記(ア)記載のとおりである
が,その余は認める。
構成fについては,「同心円状に形成された谷部を有し」という部分
について,突出部からベアリング部まで続く模様があり,谷部の内側の
部分,外側の部分とも「円」ということはできない。正確には,「上記
aの保護プレートの中央部上面には,低円柱状のベアリング部材を中心
とする略二重の同心円状の内側の略円と外側の略円に挟まれた谷部を有
する」となる。また原告商品の構成Fにおいては,内側の部分は円であ
るのに対し,被告商品の構成fでは内側の部分も円とはいえないため,
被告商品の構成fは原告商品の構成Fを充足しない。
エ 原告主張に係る商品形態が,「当該商品の機能を確保するために不可欠
な形態」であり,ありふれたものであること
(ア) 原告商品及び被告商品と同種商品の形態において,その用途,機能を
満たすためには,以下の形態をとる必要がある。
① 保護プレートを回転刃の下側に装着することから,保護プレートが
回転刃の回転を妨げないようにし,かつ,保護プレート自体が回転す
ると草が刈れないので,回転刃ないし回転軸の回転がそのまま保護プ
レートに伝わることを抑制するため,保護プレートと回転軸の接合部
にはベアリングが設置される。
② ベアリングだけでは保護プレートの回転を阻止できないので,保護
プレートの回転を阻止する構成が採用される。
③ 保護プレートは,回転刃の刃先を保護するために,回転刃の回転半
径よりも外側に突き出した部分(突出部)が不可欠であり,かつ刈るべ
き草を回転刃に当てる部分(溝部)がある。
④ 突出部の先端には回転刃の先を保護するために,折曲部が設けられ
ることが多い。
⑤ ③の形状として,突出部と溝部が交互に形成されることが多い。
⑥ 韓国で販売されている草刈機に用いられている刃は,長い楕円形の
長手方向の両端を断ち切った形状,あるいは長方形の長手方向の中央
部をふくらませた形状の両刃であり,該突出部の縁部と回転刃で,鋏
のように草を挟む(打撃する)ことで草を刈り取るところ,刃の有効
部分(草に当たる部分)を大きくして多くの草を刈り取れるよう,溝部
は深く形成される。
⑦ 強度の点から保護プレートを金属製にした場合,さび防止の観点か
らステンレスやアルミ合金などが用いられることが多いので,その場
合,色彩はシルバー又は灰色となる。
(イ) そうすると,原告が原告商品と被告商品の形態の実質的同一性の根拠
とする商品形態は,突出部,溝部の数以外,草刈機の回転刃の下側(地
面側)に装着する保護プレートという商品形態において,その機能を確
保するために不可欠な形態ないし通常有するありふれた形態であり,こ
の種の商品が広範に該当するものとなっているといえる。
したがって,商品の形態の実質的同一性に係る原告主張は,不公正な
競争行為としての形態摸倣に該当するか否かを判断する枠組として曖昧
かつ広範にすぎ,失当である。
(4) 争点4(原告らの損害)について
(原告の主張)
ア 被告は,平成25年3月から本件訴訟を提起した同年11月8日まで,
被告商品を少なくとも3万個は輸入して販売した。また,被告商品の小売
価格は,4980円であるが,その製造原材料費その他の原価は5割弱と
推測されるから,被告は被告商品1個当たり2500円の利益を得た。
そうすると,被告は,7500万円程度の利益をこれまでに得たものであ
るから,不正競争防止法5条2項により,同額が原告ら全体に発生した因
果関係ある損害であるといえる。そして,原告らのこれまでの実績では,
原告商品1個あたりの利益をそれぞれ3分の1ずつ取得するというおおよ
その関係があったことから,各原告に発生した損害は,各原告につきそれ
ぞれ2499万円となる。
イ 不正競争防止法19条1項5号イは,文言上明確に「日本国内において」
最初に販売された日から起算することを明言するところであるから,本件
において同法2条 1 項3号該当の不正競争を理由とする損害賠償請求権
は,原告商品の販売が開始された平成23年9月から3年を経過する日ま
での期間を対象として認められる。これと異なる被告の主張は失当である。
(被告の主張)
ア 原告の主張は争う。
イ 株式会社セロミは平成22年3月頃からホームページ上で原告商品を販
売しているところ,インターネットを使えばその時点で日本国内でも原告
商品を購入できたから,同月頃をもって原告商品が「日本国内において最
初に販売された日」と解すべきである。
したがって,それから3年を経過した後に開始された被告商品の販売を
対象とする原告の不正競争防止法2条1項3号該当を理由とする損害賠
償請求は失当である。
第3 当裁判所の判断
1 争点(3)について
(1) 不正競争防止法2条1項3号は,他人の商品の形態を模倣した商品の譲渡
等を不正競争と定めるところ,「商品の形態」とは,需要者が通常の用法に
従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部
の形状並びにその形状に結合した模様,色彩,光沢及び質感をいい(同条4
項),「模倣する」とは,他人の商品の形態に依拠して,これと実質的に同
一の形態の商品を作り出すことをいうとされる(同条5項)。保護を求める
商品の形態と,相手方の商品の形態とが実質的に同一といえるためには,両
者の形態を対比し,全体としての形態が同一といえるか,または実質的に同
一であるといえる程度に酷似していることが必要であるが,その酷似の判断
は,形態の相違点をもたらす改変の着想の難易,改変の内容,程度,形態に
よる効果等を総合的に判断してなされるべきであり,当該改変によって形態
の特徴に相違がもたらされ,既に存在する他人の商品の形態と酷似している
と評価できない場合には,実質的に同一の形態とはいえないものというべき
である。
(2)ア 原告は,原告商品の形態の特徴を次のAないしFのとおり,被告商品の
形態の特徴をaないしfのとおりであるとして,これをもって被告商品の
形態は原告商品の形態と実質的に同一であると主張するところ,各商品が,
いずれも原告主張のとおりの形態を有することは優に認められる(別紙「原
告商品『草刈り達人かるべぇ』写真図」及び「被告商品『新草刈り達人か
るべぇ』写真図」)。
(ア) 原告商品の形態の特徴
A 回転式草刈機の円盤形カット刃の下部に位置するシルバー色(鉄・
アルミ合金製)の保護プレートであって,
B 上記Aの保護プレートは,12の突出部と12の溝部が円周方向に
沿って交互に形成された略星状形を有し,
C 上記Bの12の突出部のうち11の突出部の先端部には,何れも所
定の角度上方へ折り曲げられて形成した折曲部が設けられ,
D 他方,上記Cにおける残りの1の突出部には,円筒状の支持部材の
下端を係止し,
E 上記Dの支持部材の上端には,回転式草刈機のハンドル(竿)を挟
み込んで固定するための略U字形のハンドル固定部を設け,
F 上記Aの保護プレートの中央部には,同心円状に形成された谷部を
有し,同谷部の中央に低円柱状のベアリング部材が設けられている。
(イ) 被告商品の形態の特徴
a 回転式草刈機の円盤形カット刃の下部に位置するシルバー色(ステ
ンレス・鉄・アルミ合金製)の保護プレートであって,
b 上記aの保護プレートは,12の突出部と12の溝部が円周方向に
沿って交互に形成された略星状形を有し,
c 上記bの12の突出部のうち11の突出部の先端部には,何れも所
定の角度上方へ折り曲げられて形成した折曲部が設けられ,
d 他方,上記cにおける残りの1の突出部には,円筒状の支持部材の
下端を係止し,
e 上記dの支持部材の上端には,回転式草刈機のハンドル(竿)を挟
み込んで固定するための略U字形のハンドル固定部を設け,
f 上記aの保護プレートの中央部には,同心円状に形成された谷部を
有し,同谷部の中央に低円柱状のベアリング部材が設けられている,
特徴を有する。
イ そして,以上を前提に両商品の形態の特徴を対比すると,各構成要素は
A及びaの材質の点を除き一致しているといえ,また材質の点も形態の特
徴という点では実質的に同じものといって差し支えないものである。
(3) しかし,上記(2)において対比対象とされている形態の特徴は概括的なも
のであって,両商品の基本的構成をいっているにすぎないといえる。不正競
争防止法2条1項3号にいう「模倣」の要件である商品形態の酷似をいうた
めには,さらに商品形態の具体的構成に及んで対比観察を行う必要があると
いうべきである。
そこで,そのような観点から,原告商品及び被告商品の形態につき,その
具体的構成を,保護プレート及び保護プレート支持部材に分けて認定すると,
それぞれ次のとおりである(甲15の1,乙10ないし16及び別紙添付の
「原告商品『草刈り達人かるべぇ』写真図」及び「被告商品『新草刈り達人
かるべぇ』写真図」,争いのない事実を含む。)。
ア 原告商品
(ア) 保護プレートの形状
① 保護プレートの突出部は12本の放射状に形成され,そのうち11
本の最深部から突出部の先端までの長さは約67mm,最深部の幅は
約37mm,折曲部を除いた最浅部の幅は約12mmである。
② 支持部を取り付けた突出部は他の突出部より大振りであり,その先
端に平行連結孔がある。
③ 底部は,保護プレートの中央の回転軸を受ける部分を残して,ベア
リング装着部は,円形に凹んでおり,凹みの周囲は平面であり,平面
上に4つの穴があり,螺子が装着されている。
④ ③の周囲に完全な円環(ドーナツ)状の凸部がきれいに浮き出てお
り,同円環状の部分の外周から,各突出部に羽状の凸部が浮きだし,
突出部先端まで届いている。
⑤ 保護プレート底面中央部には,凹部に嵌挿するゴム製の保護カバー
(異物遮断材)を備えている。
⑥ 保護プレートの谷部の深さ(谷部の最下部から各突出部の最深部ま
での高さ)は約20mmで,保護プレートを横から見た形状は厚みの
ある台形となっている。
(イ) 保護プレート支持部材
① 原告商品の支持部材は,強化プラスティック製の円筒状部材の中に
スプリングが配されている。
② 支持部材の上端は,同部材の長手方向に対して垂直面ではなく,所
定角度を有する切断面になるよう形成されており,スプリングの一端
に連結された略U字形で,回転式草刈機のハンドル(竿)を挟み込ん
で螺子で固定するオレンジ色のハンドル固定部材が,上記円筒状部材
の上端の切断面に当接され,支持部材が草刈機ハンドルに対して一定
角度を保持する形態となっている。
③ 支持部材の下端には円筒状部材の中に配されたスプリングの一端に
係止された略角丸長方形に形成されたフックが,保護プレートの一の
突出部の端部にある平行連結孔に連結されているため,支持部材によ
り本体を支持することが可能である。
イ 被告商品
(ア) 保護プレートの形状等
① 保護プレートの突出部は12本の放射状に形成され,そのうち11
本の最深部から突出部の先端までの長さは約60mm,最深部の幅は
約45mm,折曲部を除いた最浅部の幅は約15mmである。
② 被告商品は,支持部を取り付ける突出部が多少大振りとなっており,
その先端には小さな一つの孔がある。被告商品では,支持部材が連結
されている突出部と,その左右二つの突出部との間に,それぞれ台形
状に隆起した部分が存在する。
③ 保護プレート底部の中央は凹んでおり,その周囲には二重の同心円
状の細い凸部に囲まれた環状の黒色ゴム製部材があり,さらにその外
側に環状の平面があり,平面上には8つの穴があり,うち4つの穴に
螺子が装着されている。
④ ③の周囲に,略円環状の凸部が浮き出しているが,同凸部には凹凸
があり,筋模様となっている。その凹部は突出部の先端へ続く羽状の
凹みの一部をなしている。保護プレートの外縁に沿った線と突出部に
羽状の線の二重の線,縞模様が,上記円環状の凸部の模様となってい
る。
⑤ 保護プレート底面中央部には,4本の螺子で固定する,ステンレス
製,略半球状で縁部に保護プレートとの接着面を備えた保護カバー(異
物遮断材)を備えている。
⑥ 保護プレートの谷部の深さは約13mmであり,保護プレートを横
から見た形状は,中央部と外周部が多少もりあがった薄い形状となっ
ている。
(イ) 保護プレート支持部材
① 被告商品の支持部材は,円筒状部材はシルバー色のアルミ製である。
② 支持部材の上端は長手方向に対して垂直面が形成され,円筒状部材
の中に配された弾性部材の一端に連結された,略U字形で,略U字形
内部に回転式草刈機のハンドル(竿)を挟み込んで固定する銀色アル
ミ製のハンドル固定部材が,上記円筒状部材の上端垂直切断面に当接
されており,支持部材がハンドルに対して角度自由に支持される形態
である。
③ 上記弾性部材の他端には,円筒状部材の下端から突出するように配
置されたリング状の留具が係止されており,同留具が,保護プレート
の一の突出部の端部に設けられた小さな一つの孔に連結されている
が,当該留具は孔に通してあるだけであるため、支持部材により本体
を保持することができない。
(4) そして,以上認定した具体的構成を前提に,両商品の形態を対比すると,
以下のような共通点,相違点が存することが認められる。
ア 保護プレートの形状について
保護プレートは突出部が12本放射状に形成され,うち1本が草刈機の
ハンドル(竿)部分と固定するための支持部材と連結するために他と異な
り大振りとなっているという点でほぼ同一であるが,保護プレートは,全
体として原告商品の方が被告商品に比して多少突出部が長く幅が狭くな
っており,保護プレートの形態を特徴付ける凸部の形状については,以下
のような少なからぬ相違点がある。
すなわち,原告商品の保護プレートにおいては,中央のベアリング装着
部は,底面が円形に凹んでおり,凹みの周囲は平面で,その周囲には,完
全な円環(ドーナツ)状の凸部がきれいに浮き出ており,同円環状の部分の
外周から,各突出部に羽状の凸部が浮きだして突出部先端まで届いており,
底面から見た場合に簡単な構造が見て取れるものである。これに対し,被
告商品の保護プレートにおいては,その中央底面は,環状の黒色ゴム製部
材を挟んだ二重の同心円状の細い凸部があり,その周囲の平面の外側に,
円環状の太い凸部が浮き出しているが,12本の突出部の縁に沿って凸部
を形成し,原告商品では凸状になっている突出部中心部分が逆に凹状にな
っている上,その凹状の構造は,円環状となる太い凸部に及び,凹凸の縞
模様が浮き出ており,そのため被告商品の上記円環状部分は原告商品のそ
れとは明らかに異なる視覚効果を与えている。
また,保護プレートを横から見た形状は,原告商品が厚みのある台形で
あるのに対し,被告商品は中央部と円周部が多少出ているものの原告商品
より相当薄い形状となっており,需要者に異なる印象を与えている。
さらに,原告商品の保護プレートは,中央底部の貫通孔に嵌めこむゴム
製のカバー(異物遮断材)を備えるのに対し,被告商品の保護プレートは,
中央底部に,4本の螺子で固定する,ステンレス製,略半球状で縁部に保
護プレートとの接着面を備えたカバー(異物遮断材)を備えているところ,
底部の保護カバーは,保護プレートを装着する際必ず見る部分であるか
ら,形態はもちろん,素材,取り付け方法も全く異なる両者は,需要者に
両商品が異なる構造であることを看取させるものである。
イ 保護プレート支持部材について
原告商品の支持部材は,上記保護プレートの大振りの突出部に支持部材
の内部にあるスプリングの先端にあるフック状のもので平行連結孔に掛
けて繋がれているが,被告商品の支持部材は,保護プレートの大振りの突
出部の一端の小さな一つの孔とリング状の部材を用いて連結されており,
また静止状態で比較しても視覚的にも微細とはいえない形態の相違をも
たらしている。
その上,両商品を実際に対比したときには,支持部材部分によって,原
告商品については商品全体の姿勢を保持することを可能としているのに
対し,リングで支持部材が連結されているにすぎない被告商品は,同部分
で商品の姿勢を保持することはできないから,相違の程度には著しいもの
があるといえる。
(5) 以上のとおり,被告商品の形態と原告商品の形態とを具体的構成に及んで
対比すると,特に保護プレートにおいて被告商品の形態は原告商品の形態に
比して視覚的に複雑化しているし,また保護プレート及び保護プレート支持
部材とも,その形態から想定される製造工程は被告商品の方が原告商品より
複雑化していることも看取できる。そして,これらからすると,その形態の
改変の着想は容易なものではないといえるし,また改変の程度は大であると
いうことができるから,被告商品において採用された形態により,原告商品
との間で形態の特徴に相違がもたらされているということができ,したがっ
て,被告商品は原告商品の形態と酷似していると評価できないというべきで
ある。
(6)ア これに対して原告は,上記のような原告商品と被告商品の形態の特徴の
相違は,些細なもの,あるいは僅かな違いであるなどとし,原告主張に係
る形態の対比だけで商品形態の実質的同一性の判断に十分なように主張す
るところ,確かに両商品を対比して観察すると,原告主張に係る形態の特
徴が共通することから,一見してよく似ているとの印象が与えられ,それ
に比較すると,上記(5)で認定した相違点は微細なものであるように思えな
いではない。
イ しかし,証拠(乙9,18,甲60)によれば,回転式草刈機の刃の下
側に装着することを特徴とする刃の保護カバーは,原告商品の日本国内販
売開始当時,日本国内においてはほとんど存しなかったものの,韓国にお
いては一般的であったものと認められ,そして,それらの保護カバーにお
いては,以下①ないし④の形態の特徴が認められるものが多く,またそれ
らは,この種の商品において機能を発揮するための構造であるとも認めら
れる。
① 保護プレートが回転式草刈機の円盤形カット刃の下部に位置する。
② 保護プレートは,複数の突出部と溝部が円周方向に沿って交互に形成
された放射形状となっている。
③ 上記放射形状の突出部の一部は,他に比して大きく,同所に回転式草
刈機(竿)のハンドルと固定する支持部材の下端が連続している。
④ 上記支持部材の上端には,回転式草刈機のハンドル(竿)を挟み込ん
で固定するための固定部が設けられている。
ウ そして,これらの点を踏まえて,改めて原告主張に係る原告商品及び被
告商品の形態の特徴を検討すると,原告商品及び被告商品を一見して似て
いると感じさせる上記AないしF及びaないしfの形態の特徴は,韓国に
おいて同種商品に多く見られる上記①ないし④の形態の特徴に,機能部分
として突出部の折曲(C,c)や,保護カバー中心部に付加した形態的特
徴(F,f)が加わったものにすぎないといえ,これらからすると,原告
商品と被告商品との形態が似ているとの印象を与える原告主張に係る両
商品の形態の特徴の共通点は,少なくとも韓国においては,同種商品の間
において,よく見られた形態の一態様にすぎないものであったと認められ
る。
そうすると,上記形態の特徴の共通点が被告主張のように「当該商品の
機能を確保するための不可欠な形態」とまではいえないとしても,原告商
品及び被告商品がいずれも韓国で開発製造され日本国内に輸入された商
品であることを考慮するならば,先行開発者の開発利益を保護するという
不正競争防止法2条1項3号の趣旨に照らし,そのような形態の特徴の共
通性に重きをおいて両商品の形態が酷似していると評価して原告商品の
形態に保護を与えることは相当ではないというべきである。
したがって上記(5)で認定した商品形態の具体的構成の相違をもって微
細なものにすぎないという原告の主張は失当であり,むしろその相違点の
存在によって両商品の形態は酷似していると評価できず,実質的に同一で
あるとはいえないというべきであるから,被告商品は,原告商品の形態を
模倣したものとは認められない。
2 よって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなくいずれも理
由がないから,これらを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法
61条,65条1項本文を適用し,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 森 崎 英 二
裁判官 田 原 美 奈 子
裁判官 大 川 潤 子
別 紙
原告商品目録
商品名:刈払機安全補助用具「草刈名人かるべぇ」,但し,平成24年6月以
降は,「草刈達人かるべぇ」
商 品:添付の「原告商品『草刈達人かるべぇ』図面」,「原告商品『草刈達
人かるべぇ』写真図」,に記載の形状を有する商品
別 紙
被告商品目録
商品名:刈払機安全補助用具「新草刈達人かるべぇ」
商 品:添付の「被告商品『新草刈達人かるべぇ』図面」,「被告商品『新草
刈達人かるべぇ』写真図」,に記載の形状を有する商品

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