平成26(ワ)23926損害賠償
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所
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裁判年月日 |
平成27年12月11日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告ソニー株式会社 原告エイディシーテクノロジー株式会社
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対象物 |
記録再生装置及び再生システム |
法令 |
特許権
特許法102条3項1回 特許法29条の21回 特許法70条1回 特許法104条の31回
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キーワード |
侵害11回 実施9回 特許権8回 無効5回 新規性3回 無効審判2回 優先権1回 損害賠償1回
|
主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 本件は,発明の名称を「記録再生装置及び再生システム」とする特許権(第
4795911号)を有する原告が,被告の製造・販売等する別紙被告製品目
録記載の各製品が,上記特許の請求項8及び11の発明の技術的範囲に属する
と主張して,被告に対し,民法709条及び特許法102条3項に基づく損害
金の一部として3000万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成2
6年6月21日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の
割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 |
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判決文
平成27年12月11日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成26年(ワ)第23926号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成27年10月16日
判 決
名古屋市<以下略>
原 告 エイディ シ ー テ ク ノ ロ ジ ー 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 高 橋 恭 司
同 補 佐人 弁 理 士 衛 藤 寛 啓
東京都港区<以下略>
被 告 ソ ニ ー 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 熊 倉 禎 男
同 飯 田 圭
同 小 林 正 和
同 補 佐人 弁 理 士 谷 口 信 行
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,原告に対し,3000万円及びこれに対する平成26年6月21日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 本件は,発明の名称を「記録再生装置及び再生システム」とする特許権(第
4795911号)を有する原告が,被告の製造・販売等する別紙被告製品目
録記載の各製品が,上記特許の請求項8及び11の発明の技術的範囲に属する
と主張して,被告に対し,民法709条及び特許法102条3項に基づく損害
金の一部として3000万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成2
6年6月21日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の
割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(証拠等を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告
原告は,コンピュータソフトウェア,コンピュータ及びコンピュータ関
連機器の開発及び販売等を目的とする株式会社である。(乙1,弁論の全
趣旨)
イ 被告
被告は,電子・電気機械器具の製造・販売等を業とする株式会社である。
(2) 原告の有する特許権
原告は,以下の特許権(請求項の数11。以下「本件特許権」又は「本件
特許」といい,特許請求の範囲請求項8にかかる発明を「本件発明1」,同
請求項11にかかる発明を「本件発明2」といい,これらを併せて「本件各
発明」という。また本件特許に係る明細書及び図面〔甲2〕を「本件明細書
等」という。本件特許の特許公報を末尾に添付する。)を有している。
特許番号 第4795911号
発明の名称 記録再生装置及び再生システム
出 願 日 平成18年10月23日
優 先 日 平成18年1月16日
登 録 日 平成23年8月5日
(3) 本件各発明の構成要件
本件発明1及び2の特許請求の範囲は,別紙「特許公報」記載のとおりで
ある。本件発明1及び2を構成要件に分説すると,次のとおりである。
ア 本件発明1
A1 動画情報が記憶された第 1 の記憶媒体からその動画情報を読み出す
とともに,読み出した動画情報が表す映像及び音声を出力する再生動
作を実行する再生手段と,
B1 外部の機器と通信を行うための通信インターフェイスと,
C1 を備えた記録再生装置と,
D1 前記記録再生装置と通信可能な通信端末とからなる再生システムで
あって,
E1 前記記録再生装置は,前記再生手段の前記再生動作を停止させる第
1の禁止手段と,
F1 前記第1の禁止手段により前記再生動作が停止されると,前記第1
の記憶媒体における動画情報の読み出し停止位置を検出する検出手段
と,前記検出手段により検出された読み出し停止位置の情報(以下「停
止位置情報」という。)を第2の記憶媒体に記録する記録手段と,
G1 前記第1の禁止手段により前記再生動作が停止された際,前記第1
の記憶媒体に記憶された動画情報のうち,前記第2の記憶媒体に記憶
された前記停止位置情報が表す停止位置から再生されるべき動画情報
をその第1の記憶媒体から読み出して第3の記憶媒体に記憶させる追
加手段と,
H1 前記追加手段により前記第3の記憶媒体に記憶された動画情報を,
前記通信インターフェイスを介して前記通信端末に送信する通信制御
手段とを備え,
I1 前記通信端末は,前記記録再生装置から受信した動画情報を記憶す
る受信情報記憶手段と,
J1 前記受信情報記憶手段に記憶された動画情報が表す映像及び音声を
出力する端末側再生手段とを備えている
K1 ことを特徴とする再生システム。
イ 本件発明2
A2 動画情報を受信するとその動画情報が表す映像及び音声を出力する
ように構成された通信端末と通信可能に接続される記録再生装置であ
って,
B2 動画情報が記憶された第1の記憶媒体からその動画情報を読み出す
とともに,読み出した動画情報が表す映像及び音声を出力する再生動
作を実行する再生手段と,
C2 前記再生手段の前記再生動作を停止させる第1の禁止手段と,
D2 前記第1の禁止手段により前記再生動作が停止されると,前記第1
の記憶媒体における動画情報の読み出し停止位置を検出する検出手段
と,
E2 前記検出手段により検出された読み出し停止位置の情報(停止位置
情報)を第2の記憶媒体に記録する記録手段と,
F2 前記第1の禁止手段により前記再生動作が停止された際,前記第1
の記憶媒体に記憶された動画情報のうち,前記第2の記憶媒体に記憶
された前記停止位置情報が表す停止位置から再生されるべき動画情報
をその第1の記憶媒体から読み出して第3の記憶媒体に記憶させる追
加手段と,
G2 前記追加手段により前記第3の記憶媒体に記憶された動画情報を,
前記通信端末との間で通信を行うための通信インターフェイスを介し
て前記通信端末に送信する通信制御手段
H2 とを備えていることを特徴とする記録再生装置。
(4) 被告の製品
被告は,別紙被告製品目録記載の各製品(以下,同目録記載の各製品をそ
の冒頭の表記どおり,それぞれ「イ号製品」ないし「ワ号製品」といい,こ
れらを総称して「被告各製品」という。なお,そのうち,イないしホ号製品
を併せて「被告製品(イ~ホ)」ということがある。)のうち,被告製品(イ
~ホ)及びワ号製品を製造し,販売し又は販売の申出を行っている。
(5) 本件特許出願前の先行文献の存在
ア 本件特許の優先日(平成18年1月16日)の前である平成17年(2
005年)6月27日を優先日とし,国際公開日を本件特許の出願後であ
る平成19年1月4日とする国際出願PCT/JP2006/31262
5号に係る国際公開(乙26。以下,同国際公開に記載された発明を「乙
26発明」といい,同国際公開を「乙26文献」という。)。
イ 本件特許の出願前である平成15年3月7日に公開された公開特許公報
(特開2003-69956。乙21。以下,同公報記載の発明を「乙2
1発明」という。)。
ウ 平成17年6月27日に出願されたとする特許願(特願2005-18
6398。乙22。以下,同文献に記載された発明を「乙22発明」とい
う。)。
3 争点
(1) 被告各製品が本件各発明の技術的範囲に属するか
ア 「記録再生装置と通信可能な通信端末とからなる再生システム」の充足
性〔構成要件D1,I1,J1及びK1〕
イ 「追加手段」の充足性〔構成要件G1及びF2〕
ウ 被告製品(イ~ホ)につき「通信インターフェイス」の充足性〔構成要
件B1,C1,H1,G2及びH2〕
エ 「停止位置から再生される動画情報」の充足性〔構成要件G1,H1,
F2及びG2〕
オ 転送用動画情報の作成方法の充足性〔構成要件G1,H1,F2及びG
2の充足性〕
カ 均等侵害の成否(上記エ及びオにおいて文言非侵害である場合)
(2) 本件特許権が特許無効審判により無効にされるべきものか否か(乙26文
献による新規性欠如)
(3) 損害発生の有無及びその額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)ア(「記録再生装置と通信可能な通信端末とからなる再生システム」
の充足性)について
〔原告の主張〕
本件発明1は,記録再生装置が,構成要件A1ないしC1及びE1ないしH
1を備え,通信端末が構成要件I1及びJ1を備え,記録再生装置と通信端末
とが通信可能であれば,当該記録再生装置と通信端末を併せて再生システムと
するものである。
これを被告各製品についてみると,被告製品(イ~ホ)は,ヘないしワ号製
品に対し,動画情報を転送して再生することを可能とする「おでかけ転送」機
能を有しており,これが,本件特許権に関係する機能である。そして,被告製
品(イ~ホ)が本件発明1の記録再生装置に当たり,ヘないしワ号製品が通信
端末に当たり,被告製品(イ~ホ)とへないしワ号製品は通信可能である。
被告が,被告製品(イ~ホ)及びワ号製品を「製造し,販売し,譲渡の申出
を行っている」ことは当事者間に争いがないところ,被告がこれをもって本件
発明1を実施していることは明らかであり,記録再生装置と通信端末が別個の
製品として製造 販売されていることは,
・ 構成要件該当性に影響を及ぼさない。
したがって,被告製品(イ~ホ)のいずれかと,へないしワ号製品のいずれ
かにより,構成要件D1,I1,J1及びK1を充足する。
〔被告の主張〕
本件発明1は,記録再生装置と,「前記記録再生装置と通信可能な通信端末
とからなる再生システムであって,…前記通信端末は,…受信情報記憶手段と,
…端末側再生手段とを備えていることを特徴する再生システム」(構成要件D
l,Il,Jl及びKl)として規定されている。ところが,被告製品(イ~
ホ)は,「ブルーレイディスク/DVDレコーダー」であって,本件発明1に
おける「記録再生装置」に対応するものであるものの,本件発明1における「通
信端末」に対応する構成を有していない。
原告は,被告製品(イ~ホ)が「記録再生装置」に当たり,ヘないしヲ号製
品又はワ号製品が「通信端末」に当たると主張するが,被告製品(イ~ホ)は,
被告がブルーレイディスク/DVDレコーダーとして製造・販売しているもの
であるのに対し,へないしヲ号製品は,訴外株式会社ソニー・コンピュータエ
ンタテインメント(以下「ソニー・コンピュータエンタテインメント」という。)
が,携帯型ゲーム機「PSP®(PlayStation®Portable)」
ないし「PlayStation®Vita」として製造・販売しているもので
あって,被告が製造・販売しているものではなく,また,ワ号製品は,被告が
デジタルメディアプレーヤー「WALKMAN ウォークマン®」として製造・
販売しているものではあるが被告製品(イ~ホ)とは別個独立の製品である。
したがって,被告各製品は,いずれも,被告において「製造し,販売し,販
売の申し出を行っている」「記録再生装置と通信可能な通信端末とからなる再
生システム」に当たらないから,構成要件D1,I1,J1及びK1を充足し
ない。
2 争点(1)イ(「追加手段」の充足性)について
〔原告の主張〕
(1) 被告製品(イ~ホ)は,被告製品(イ~ホ)内に記憶された動画全体の情
報と,再生停止位置情報から,再生停止位置以降の動画情報(以下「転送用
動画情報」という。)を生成し,転送用動画情報を被告製品(イ~ホ)内に
記憶した後に,記憶された転送用動画情報を,通信端末に送信する。よって,
再生停止位置以降の動画情報(転送用動画情報)を生成し,この転送用動画
情報を被告製品(イ~ホ)に記憶する手段が,「前記第1の禁止手段により
前記再生動作が停止された際,前記第1の記憶媒体に記憶された動画情報の
うち,前記第2の記憶媒体に記憶された前記停止位置情報が表す停止位置か
ら再生されるべき動画情報をその第1の記憶媒体から読み出して第3の記憶
媒体に記憶させる追加手段」に該当するから,被告製品(イ~ホ)は,構成
要件G1及びF2を充足する。
(2) 被告の主張に対する反論
被告は,「追加手段」に関し,「停止」処理の後に「読み出し」及び「記
憶」処理を実行するかどうかについてユーザーの行為が介在する場合は除外
されているものと解釈するのが合理的であるなどと主張する。
しかし,本件明細書等の段落【0081】には,「例えば,上記実施形態
においては,レジューム機能をCPU15(b)が判断することとしていた
が,表示パネル52にて,外部操作により手動で設定されてもよい。」と記
載されているところ,レジューム機能に,追加手段の処理を含むことは本件
明細書等の記載上明らかであり,「追加手段」における「読み出し」処理及
び「記憶」処理について,ユーザーの行為が介在することが許容されている
といえるから,被告の上記主張は失当である。
〔被告の主張〕
本件各発明は,いずれも,「前記第1の禁止手段により前記再生動作が停止
された際,…読み出して…記憶させる追加手段」が規定されている(構成要件
Gl及びF2)ところ,「読み出し」及び「記憶」処理は,第1の禁止手段に
よる再生動作の「停止」処理を時機として即座に実行されるものであって,「停
止」処理の後に「読み出し」及び「記憶」処理を実行するかどうかについてユ
ーザーの行為が介在する場合などは除外されているものと解釈するのが合理的
である。
そして,このような解釈は,本件明細書等において,段落【0008】,【0
061】,【0062】及び【0063】並びに図3のS210ないしS24
0に記載されているように,「読み出し」及び「記憶」処理が第 1 の禁止手段
による再生動作の「停止」処理を時機として即座に実行される構成態様しか開
示されていないことからも相当といえる。
他方,被告製品(イ~ホ)では,第 1 の禁止手段により再生動作が停止され
た後,6回ものユーザーの介在行為があって初めて転送が開始されるから,構
成要件G1及びF2を充足しない。
3 争点(1)ウ(被告製品(イ~ホ)につき「通信インターフェイス」の充足性)
について
〔原告の主張〕
(1) 被告製品(イ~ホ)は,USBケーブルを用いて,ヘないしワ号製品に対
して動画情報を転送することができるから,動画情報を送受信するための通
信インターフェイスを有している。
(2) 被告の主張に対する反論
この点に関し被告は,本件各発明における「通信インターフェイス」には
USBインターフェイスを含まないと主張する。
しかし,本件発明1の構成要件をみると,通信インターフェイスについて,
「外部の機器と通信を行うための通信インターフェイス」(B1)とされて
おり,記録再生装置と通信端末との関係については「前記記録再生装置と通
信可能な通信端末とからなる再生システム」(D1)とされているから,本
件発明1における「通信」とは,「記録再生装置」と「通信端末」が単に接
続されていれば足りるのであって,LAN等のネットワーク網を経由して両
者が接続される必要はない。また,通信の内容としても,「前記追加手段に
より前記第3の記憶媒体に記憶された動画情報を,前記通信インターフェイ
スを介して前記通信端末に送信する通信制御手段とを備え」(H1),「前
記通信端末は,前記記録再生装置から受信した動画情報を記憶する受信情報
記憶手段」(I1)と記載されていて,動画情報を送受信することのみが規
定されており,ネットワーク網を介して送受信されることは要件とされてい
ない。
また,本件各発明は,従来技術としてレジューム再生機能(停止位置から
再生する機能)が存在することを前提として,当該停止処理を行った装置以
外の装置においても,当該停止位置から動画を再生することを目的とした発
明である。本件明細書等には,「近年においては,上記レジューム機能を備
えた動画情報を再生するための記録再生装置が知られている。このレジュー
ム機能とは,動画情報の再生動作中に,視聴者が一旦再生を停止したときに,
次の再生動作時に前回の再生停止状態から継続的に動画情報を再生開始する
ように制御する機能である。」(段落【0002】),「ところで別途備え
た上記記録再生装置以外の装置にて,再生停止箇所からの動画情報が再生さ
れることができれば,この記録再生装置が設置された場所以外で,動画情報
の続きを視聴することを望む視聴者にとっては,都合が良い。」(段落【0
005】),「そこで,本発明は,こうした問題に鑑みなされたものであり,
別途備えた上記記録再生装置以外の装置にて,再生停止箇所からの動画情報
が再生されるための記録再生装置及び再生システムを提供する。 (段落
」 【0
006】)と記載されており,かかる本件発明の目的に鑑みれば,「再生停
止処理を行った記録再生装置」と「上記記録再生装置以外の装置」との通信
手段を制限する理由はなく,通信インターフェイスとは,「再生停止処理を
行った記録再生装置」と「上記記録再生装置以外の装置」との間で動画情報
等を伝達する装置を包括的に記載したものであると解すべきものである。
さらに,本件明細書等において,本件発明1の説明である段落【0024】
ないし【0028】には,通信インターフェイスを限定する記載は一切存在
しない。
そして,被告の指摘する本件明細書等の記載は,本件明細書等の図1を説
明する部分であるところ,図1に示された具体的構成においては,有線LA
Nモデムを経由して携帯電話等と通信をする構成になっているため,あえて
更にUSBポートを介して携帯電話等と重複して通信をする構成となってお
らず,USBポートには何も接続されていない。そのため,図1において,
当該USBポートが通信インターフェイスとして機能していないことから,
本件明細書等の記載においても,USBインターフェイスについて「通信イ
ンターフェイスに相当し」との記載をしなかったにすぎず,図1の具体的構
成を離れた請求項の文言の説明として「USBインターフェイスが通信イン
ターフェイスに該当しない」という趣旨で記載されたものではない。
したがって,被告の上記主張は失当である。
〔被告の主張〕
本件発明1は,「外部の機器と通信を行うための通信インターフェイスと,
を備えた記録再生装置と,…前記記録再生装置は,…前記追加手段により前記
第3の記憶媒体に記憶された動画情報を,前記通信インターフェイスを介して
前記通信端末に送信する通信制御手段とを備え」ていることが規定されており
(構成要件Bl,Cl及びHl),また,本件発明2は,「前記追加手段によ
り前記第3の記憶媒体に記憶された動画情報を,前記通信端末との間で通信を
行うための通信インターフェイスを介して前記通信端末に送信する通信制御手
段とを備えていることを特徴とする記録再生装置」と規定されている(構成要
件G2及びH2)。
そして,本件明細書等の【発明の詳細な説明】をみると,図1における同じ
「DVDレコーダ1」の各構成態様として(段落【0040】),「USBポ
ート41を介して接続される外部の機器と各種信号をやり取りするためのイン
ターフェイスである」「USBインターフェイス40」(段落【0045】)
と,「外部のネットワーク網と接続するためのモデムである」「無線LANモ
デム60」であって,「DVDレコーダ1は,この無線LANモデム60を介
してネットワーク網に接続されるとともに,FTPサーバー3(a),及び通
信局3(b)を介して,DVDレコーダ4,携帯電話5,及びパーソナルコン
ピュータ6と通信可能なように構成されて(おり)」(段落【0047】),
「動画情報を,DVDレコーダ1とパーソナルコンピュータ6もしくは上記D
VDレコーダ4または携帯電話5と通信させることでそのパーソナルコンピュ
一夕6,DVDレコーダ4,或いは携帯電話5に送信する」こと(段落【00
64】)とが,明確に区別されて説明されたうえで,「…無線LANモデム6
0が通信インターフェイスに相当し,…」(段落【0076】)と明記される
一方,
「USBインターフェイス40」については同様には記載されていない。
すなわち,本件明細書等において,本件発明1及び2にいう「動画情報を…
通信端末に送信する」「通信インターフェイス」は,ネットワーク網と接続す
るための無線LANモデム等であると定義されている。
このように,本件各発明において,「通信インターフェイス」は,ネットワ
ーク網と接続するための無線LANモデム等と定義されており,少なくとも,
本件明細書等の【発明の詳細な説明】に明記されている他のインターフェイス
であるUSBインターフェイスは,「通信インターフェイス」から除外されて
いる。
そして,このような解釈は,「通信インターフェイス」の語が,一般に,「ネ
ットワークに接続するための装置,または装置や接続手順などを定めた規格や
仕様そのもののこと」という意味を有することにも合致する。
ところが,被告製品(イ~ホ)は,USBインターフェイスからUSBケー
ブルを用いて動画データを通信端末に送信するものである。
したがって,被告製品(イ~ホ)は,本件発明1の構成要件Bl,Cl及び
Hl並びに本件発明2の構成要件G2及びH2を充足しない。
4 争点(1)エ(「停止位置から再生される動画情報」の充足性)について
〔原告の主張〕
本件各発明は,記録再生装置以外の通信端末において,記録再生装置におけ
る再生停止位置からのレジューム再生を行うことを発明の課題とする。そして,
本件各発明は,上記発明の課題を達成するために,停止位置情報のみを通信端
末に送信してこれを受信した通信端末において再生開始位置を特定してレジュ
ーム再生を行うのではなく,レジューム再生される停止位置以降の動画情報を
通信端末に送信し通信端末において受信した停止位置以降の動画情報を再生す
ることによりレジューム再生を可能とする発明である。
ところで,被告製品(イ~ホ)の「おでかけ転送」機能では,停止位置以降
の動画情報ではなく,停止位置の10秒前以降の動画情報が再生されるが,
「1
0秒間」という差異の幅及び量は,視聴される動画情報である映画やテレビ番
組の長さに比べれば圧倒的に短く,差異の程度は微々たるものである。また,
その差異は「10秒間」という固定の幅であるため,転送される動画情報の転
送開始位置は,記録再生装置における停止処理が行われれば自動的に決まるも
のであって,被告製品(イ~ホ)において,停止位置の10秒前の位置からの
動画情報を転送する処理と停止位置以降の動画情報を転送する処理との問には
質的差異もほとんどない。さらに,被告製品(イ~ホ)において送信する動画
について「再生停止位置から10秒戻した位置からの動画を送信する」との処
理を行っている理由は,おそらく,通信端末におけるレジューム再生が記録再
生装置における停止処理から一定時間経過してからなされることに鑑み,レジ
ューム再生において停止位置以前の動画視聴記憶をより鮮明に思い起こし,レ
ジューム再生を快適にするためのものであると思われるが,仮にそのような「停
止処理からレジューム再生開始までにおける視聴記憶の曖昧化」に対応するの
であれば,例えば,レジューム再生までの時間的感覚に応じて,停止位置以前
の動画情報をダイジェスト再生する技術(甲22 特開平11-273227)
:
や,戻り時間を可変として再生位置を最大3分まで戻した上でレジューム再生
する技術(甲23:特開2006-018971)等の技術が,被告製品(イ
~ホ)の発売前に公知であったのであるから,それにもかかわらず,僅か10
秒間の固定時間を戻すにすぎない被告製品(イ~ホ)における「10秒戻し」
は特段の作用効果を付するものではない。
以上の点に鑑みれば,被告製品(イ~ホ)における10秒戻しの処理は,な
お,停止位置以降の動画情報の送信によるレジューム再生に含まれると評価す
べきである。
〔被告の主張〕
(1) 本件各発明においては,明示的に,「前記検出手段により検出された読み
出し停止位置の情報(以下,停止位置情報という)を第2の記憶媒体に記録
する…前記第2の記憶媒体に記録された前記停止位置情報が表す停止位置か
ら再生されるべき動画情報を…読み出」すと規定されている(構成要件Gl
及びF2)。
ところが,被告製品(イ~ホ)は,停止位置情報が表す停止位置の約10
秒前から再生される動画情報を読み出している。
(2) また,構成要件Hl及びG2における「通信制御手段」は,「前記追加手
段により前記第3の記憶媒体に記憶された動画情報」,すなわち,構成要件
Gl及びF2における「前記第1の記憶媒体に記憶された動画情報のうち,
前記第2の記憶媒体に記憶された前記停止位置情報が表す停止位置から再生
されるべき動画情報」を「通信端末に送信する」ものであり,「前記第2の
記憶媒体に記憶された前記停止位置情報が表す停止位置から再生されるべき
動画情報」とは,再生停止位置からの続きの動画情報を意味するものである。
ところが,被告製品(イ~ホ)は,転送用動画情報の全部から再生停止位
置より10秒前以降の転送用動画情報の部分を読み出して携帯機器に送信す
るものである。
(3) したがって,被告製品(イ~ホ)は,本件発明1の構成要件Gl及びH1
並びに本件発明2の構成要件F2及びG2を充足しない。
5 争点(1)オ(転送用動画情報の作成方法の充足性)について
〔原告の主張〕
(1) 被告製品(イ~ホ)は,内蔵HDD(第1の記憶媒体)に記憶された動画
情報と再生停止位置情報から,再生停止位置以降の動画情報(転送用動画情
報)を生成し,この転送用動画情報を当該被告製品の内蔵HDD(第3の記
憶媒体)に記憶した後に,記憶された転送用動画情報をヘないしワ号製品(通
信端末)に送信しているから,構成要件G1,H1,F2及びG2を充足す
る。
(2) 被告の主張に対する反論
この点に関し被告は,被告製品(イ~ホ)においては,内蔵HDD(第1
の記憶媒体)に録画されたM2TSファイルの動画情報の全部をMP4ファ
イルに変換して転送用動画情報全部を別途作成し,同転送用動画情報全部を
当該被告製品の内蔵HDD(第3の記憶媒体)に別途記録し,記録された転
送用動画情報全部から再生停止位置の10秒前以降の部分を切り出して読み
出し,切り出して読み出した再生停止位置より10秒前以降の転送用動画情
報部分を,携帯機器に送信するという処理を行っている点において,構成要
件H1及びG2を充足しないと主張する。
しかし,構成要件G1は,第1の記憶媒体に記憶されている情報と第3の
記憶媒体に記憶される情報のいずれについても,「動画情報」とだけ定義し
ており,ファイル形式に関する限定をしておらず,ファイル形式が異なって
いても,当該ファイルに記録されている動画の内容が同じであれば,「動画
情報」としての同一性は失われない。
したがって,被告の上記主張は失当である。
〔被告の主張〕
(1) 本件各発明においては,「前記第1の記憶媒体に記憶された動画情報のう
ち,前記第2の記憶媒体に記憶された前記停止位置情報が表す停止位置から
再生されるべき動画情報をその第1の記憶媒体から読み出して第3の記憶媒
体に記憶させる追加手段」(構成要件Gl及びF2)及び「前記追加手段に
より前記第3の記憶媒体に記憶された動画情報を…前記通信端末に送信する
通信制御手段」(構成要件Hl及びG2)が規定されている。このような規
定文言それ自体により,構成要件Gl及びF2における「追加手段」が「そ
の第1の記憶媒体から読み出して第3の記憶媒体に記憶させる」対象は,
「前
記第1の記憶媒体に記憶された動画情報のうち,前記第2の記憶媒体に記憶
された前記停止位置情報が表す停止位置から再生されるべき動画情報」とい
う第1の記憶媒体に記憶された動画情報そのものの一部であること,構成要
件Gl及びF2における「追加手段」が「停止位置から再生されるべき動画
情報」を「読み出(す)」対象は,「前記第1の記憶媒体に記憶された動画
情報」を記憶した「第1の記憶媒体から」であること,並びに,構成要件H
l及びG2における「通信制御手段」 「前記通信端末に送信する」
が 対象は,
「前記追加手段により前記第3の記憶媒体に記憶された動画情報」であるこ
とは,いずれも,一義的に明確であり,他の解釈の余地はない。
(2) そして,構成要件Gl及びF2における「追加手段」並びに構成要件Hl
及びG2における「通信制御手段」に係る上記各規定文言は,本件明細書等
の【課題を解決するための手段】の記載に合致している。
すなわち,特許請求の範囲請求項1におけるのと同様の「追加手段」及び
「通信制御手段」に係るものとして,「追加手段は,禁止手段が,上記禁止
した場合,読出位置情報に基づき,この読出位置からの動画情報を生成し,
静止した上記動画情報を,第3の記憶媒体に追加する。 (段落
」 【0008】)
旨,「通信制御手段は,…第3の記憶媒体に記憶された情報に基づき,…通
信端末との間で通信を行う。」(段落【0009】)旨,及び,「このため,
本発明の記録再生装置によれば,再生を停止した位置からの動画情報を,別
途用意した通信端末と通信が可能である。」(段落【0010】)旨が明記
されている。
また,特許請求の範囲請求項8(本件発明1)における「追加手段」及び
「通信制御手段」に係るものとしても,本件明細書等の段落【0026】に
おいて,上記規定文言と同一の説明が繰り返された上で,さらに,「このよ
うな請求項8の再生システムによれば,記録再生装置において,映像及び音
声の出力(以下,再生とも記載する)が停止されても,その停止位置からの
続きの動画情報が通信端末に送信され,その通信端末で再生されるようにす
ることができる。」(【0028】)旨が明記されている。
さらに,特許請求の範囲請求項11(本件発明2)における「追加手段」
及び「通信制御手段」に係るものとしても,本件明細書等の段落【0037】
において,上記規定文言と同一の説明が繰り返された上で,さらに,「この
ような記録再生装置によれば,請求項8について述べたような効果と同じ効
果を得ることができる。」(段落【0038】)旨が明記されている。
念のため,本件明細書等の【発明を実施するための最良の形態】の記載及
び図1ないし図6を参酌しても,構成要件Gl及びF2における「追加手段」
並びに構成要件Hl及びG2における「通信制御手段」に係る上記各規定文
言に合致する記載(段落【0063】等)こそあれ,矛盾する記載はない。
(3) 他方,被告製品(イ~ホ)においては,内蔵HDD(第1の記憶媒体)に
録画されたM2TSファイルの動画情報全部をMP4ファイルに変換して転
送用動画情報全部を別途作成し,同転送用動画情報全部を当該被告製品の内
蔵HDD(第3の記憶媒体)に別途記録し,記録された転送用動画情報全部
から再生停止位置の10秒前以降の部分を切り出して読み出し,切り出して
読み出した再生停止位置より10秒前以降の転送用動画情報部分を,携帯機
器に送信するという処理を行っている。そうすると,被告製品(イ~ホ)は,
①第3の記憶媒体に記憶されるものが,第1の記憶媒体に記憶された動画情
報そのものの一部ではなく,第1の記憶媒体に記憶された動画情報全部を変
換したものの全部であることにおいて,構成要件G1及びF2を充足せず,
また,②内蔵HDD(第3の記憶媒体)に記憶された動画情報そのものでは
なく,内蔵HDD(第3の記憶媒体)に記憶された動画情報の一部を切り出
して読み出し,ヘないしワ号製品等(通信端末)に送信する点において,構
成要件H1及びG2を充足しない。
したがって,被告製品(イ~ホ)は,本件発明1の構成要件Gl及びHl
並びに本件発明2の構成要件F2及びG2を充足しない。
6 争点(1)カ(均等侵害の成否)について
〔原告の主張〕
(1) 仮に争点(1)エ,オに関し,文言侵害が認められないとした場合,本件各発
明と被告製品(イ~ホ)との間には,①第3の記憶媒体に記憶される動画情
報が,停止位置以降の動画情報ではなく,動画全体の情報であるという相違
点(以下「相違点 1」という。)があり,また,②通信端末に送信される動
画情報が,停止位置以降の動画情報ではなく,停止位置より約10秒前の位
置以降の動画情報であるという相違点(以下「相違点2」という。)がある
が,下記(2)ないし(5)のとおり,均等侵害が認められる。
(2) 第1要件(非本質的部分)
ア 本件各発明の本質的部分について
本件明細書等の【発明が解決しようとする課題】(段落【0005】及
び【0006】)に照らせば,本件各発明の課題は,記録再生装置以外の
装置(通信端末)において,記録再生装置における再生停止箇所からの動
画情報を再生する点にある。そして,本件各発明は,再生停止位置以降の
動画情報を通信端末に通信(または送信)し,通信端末において当該再生
停止位置以降の動画情報を再生することによって,記録再生装置以外の装
置(通信端末)におけるレジューム再生を可能とする方法により,上記課
題を解決しようとしている。そうすると,本件明細書等の記載からは,本
件各発明の本質的部分は, 記録再生装置における再生停止位置以降の動
画情報を,通信端末に送信して, 通信端末において受信した動画情報を
再生することによって,記録再生装置における停止位置以降の動画を再生
する部分と考えられる。
この点に関し被告は,上記本質的部分について,乙21発明や乙22発
明に照らして,特徴的ではないと主張する。
しかし,乙21発明では,再生停止位置以降の動画情報の通信端末への
送信について,「遠隔再生機器からの再生要求を受信することによって初
めて動画情報が送信される」ことが要求されているのに対し,本件各発明
においては,通信端末(乙21発明における「遠隔再生機器」)からの要
求にかかわらず,予め停止位置以降の動画情報を通信端末に送信し,通信
端末において再生要求を行った際には予め受信した動画情報を再生する点
において明らかな違いがある。また,乙22発明は,再生停止位置以降の
動画情報を通信端末へ送信するのではなく,再生停止位置情報のみを通信
端末に送信するものであるから,本件各発明の本質的部分の解釈に影響を
与えるものではない。
’記録再生装置にお
いて,再生停止位置以降の動画情報を,通信端末からの再生要求を契機と
せずに,予め生成して通信端末に送信し, ’これを受信した通信端末に
おいて,再生要求を行うと同時に,改めて記録再生装置から動画情報を受
信することなく,予め受信した停止位置以降の動画情報を再生することに
よってレジューム再生を可能とするものと構成される。
イ 相違点1について
前述のとおり,本件各発明の本質的部分のうち記録再生装置における処
’記録再生装置において再生停止位置以降の動画情報を,通信端
末からの再生要求を契機とせずに,予め生成して通信端末に送信し,との
部分であり,第3の記憶媒体に再生停止位置以降の動画情報を追加する点
’の前段階の処理として選択された処理にすぎず,か
つ,被告製品(イ~ホ)においても,通信端末に送信する動画情報を第1
の記憶媒体に記憶された動画情報から生成するものであるから,相違点1
は非本質的部分における相違である。
ウ 相違点2について
’は再生停止位置以降の動画情報を通信端末に送信す
るというものである。そして,「再生停止位置の動画情報」と「再生停止
位置より約10秒前の位置以降の動画情報」が同義ではないとしても,こ
れは,非本質的部分における相違にすぎない。
(3) 第2要件(置換可能性)
ア 相違点1について
相違点1は,記録再生装置における転送用動画情報の生成処理の違いで
あって,作用効果として「再生停止位置以降の動画情報を通信端末に送信
し,通信端末における再生停止位置以降の動画情報の再生を可能とする」
点において,何ら異なるものではない。
イ 相違点2について
作用効果として少なくとも「再生停止位置以降の動画情報を通信端末に
送信し,通信端末における再生停止位置以降の動画情報の再生を可能とす
る」点において,何ら異なるものではない。
なお,相違点2については,約10秒間多く動画情報が転送され再生さ
れるとの効果が生じるが,第2要件における作用効果の同一性とは課題解
決原理と直接結びついた作用効果であり,課題解決原理と直接に関係のな
い付随的な作用効果を異にするからといって,作用効果の同一性がないと
するべきではない。
本件各発明における課題の解決原理は,停止位置以降の動画情報を通信
端末に予め転送することにより,通信端末において再生要求を行った際に
直ちにレジューム再生ができるようにした点にある。そのため,再生停止
位置から固定的に(再生停止動作からレジューム再生までの間隔がどれだ
け空いたか等に全く関係なく)かつごく僅かな時間(10秒間)戻すこと
により得られる効果は,前述の課題解決原理に付随する効果にすぎないた
め,なお,均等論との関係においては,置き換えによる作用効果は同一で
あるというべきである。
(4) 第3要件(容易想到性)
ア 相違点 1 について
本件各発明は動画のファイル形式を特定しない発明であるが,動画のフ
ァイル形式の変換は公知の技術であり,かつ,動画ファイルの転送にあた
りファイル形式を変更して動画容量を圧縮する技術も公知であるから,動
画ファイルの転送に際して動画ファイルの形式を変換する技術を採用する
ことは当業者であれば容易に想到できるものである。また,被告製品(イ
~ホ)においては変換後の動画ファイル形式としてMP4ファイルを採用
しているが,MP4ファイルは動画ファイルの形式として広く浸透した方
式であるので(MPEG-4規格は平成11年〔1999年〕以降順次パ
ートを加えつつ標準化されている。),MP4ファイル形式への変換も当
業者であれば容易に想到できるものである。
さらに,MP4ファイルの特性として,現に被告製品(イ~ホ)におい
て行われていると被告が主張しているように,特定の位置以降の動画ファ
イルを転送する場合に当該位置以降の動画ファイルを別途作成することな
く転送が可能である以上,第3の記憶媒体に追加された転送用MP4ファ
イルから,別途停止位置以降の動画情報たるMP4ファイルを作成するこ
となく,停止位置以降の動画ファイルを通信端末に転送する技術に置換す
ることも,当業者であれば容易に想到できるものである。
イ 相違点2について
動画情報のレジューム再生を行う際に,再生停止位置からの再生を行う
のではなく,再生停止位置から遡った位置から再生をする技術については,
例えば,特開2006-18971(甲23)に開示されている。
すなわち,レジューム再生に付随して,レジューム再生を行う際に固定
時間(10秒)遡った位置から再生する技術は公知の技術であり,本件各
発明を実施するにあたり,転送する動画情報を再生停止位置から10秒遡
った動画情報に置換することは,当業者であれば容易に想到できる。
(5) 第4要件及び第5要件
被告各製品は,本件各発明の出願時における公知技術と同一または当業者
が容易に想到できたものではなく,また,被告各製品が出願手続において意
識的に除外されたとの事情も存在しない。
〔被告の主張〕
原告の主張する相違点1及び2について,以下に述べるとおり,少なくとも
第1,第3及び第5要件により,均等侵害は成立しない
(1) 第 1 要件について
原告は,本件各発明の課題解決方法における本質的部分は 記憶再生装
置における再生停止位置以降の動画情報を,通信端末に送信して, 通信端
末において, において受信した動画情報を再生することによって,記録再
生装置における停止位置以降の動画を再生するとの部分である旨主張した上
で,被告製品(イ~ホ)の構成が第 1 要件を充足すると主張する。
しかし,そもそも,第 1 要件に係る特許発明の本質的部分とは,「当該特
許発明特有の課題解決手段を基礎付ける特徴的な部分」を意味し,「特許発
明を特許出願時における先行技術と対比して課題の解決手段における特徴的
原理を確定した上で,対象製品の備える解決手段が特許発明における解決手
段の原理と実質的に同一の原理に属するものか,それともこれとは異なる原
理に属するものかという点から判断すべきものである」。しかして,原告が
主張するような抽象的なものを問題とするのであれば,本件特許出願時にお
いて,乙21発明や乙22発明等,同一の先行例が数多く存在している。そ
うすると,原告の上記主張のように本件各発明の本質的部分を認定すること
はできないことが明らかである。
また,原告は,被告の上記反論を受けた後,乙21発明及び乙22発明を
考慮して,本件各発明の本質的部分を ’記録再生装置において,再生
停止位置以降の動画情報を,通信端末からの再生要求を契機とせずに,予め
生成して通信端末に送信し, ’これを受信した通信端末において,再生要
求を行うと同時に,改めて記録再生装置から動画情報を受信することなく,
予め受信した停止位置以降の動画情報を再生することによってレジューム再
生を可能とするもの」と解釈する旨の主張もしているが,均等侵害の第1要
件における本質的部分は,対象製品が特許発明の技術的範囲に含まれるか否
かの要件に係わるものであり,特許法70条に定めるとおり,特許請求の範
囲に基づき,明細書の記載を考慮して,その内容が定まるものであるから,
特許請求の範囲の記載から離れて同記載にない限定要素を殊更に付加して先
行技術と相違する特許発明の本質的部分と主張することは許されない。さら
に,原告の主張する乙21発明と本件各発明の相違点は,本件各発明の解決
課題を解決するものではなく,本件発明特有の課題解決手段を基礎づける特
徴的な部分ではないし,乙22発明は,再生停止位置情報のみを通信端末に
送信するもののみならず,再生停止位置以降の動画情報を通信端末に送信す
るものを含む(乙22【0096】参照)から,原告の上記主張は明らかな
誤りである。
(2) 第3要件について
原告は,「当業者にとって周知な技術」により直ちに被告製品(イ~ホ)
の構成が第3要件を充足する旨主張する。しかし,原告は,「当業者にとっ
て周知な技術」について,何ら客観的かつ具体的な立証をしていない。
また,第3要件に係る「容易」「想到」性の判断方法については,裁判例
上,対象製品の具体的な構成態様について判断が行われるべきものとされて
おり,また,対象製品の置換構成による付加的な作用効果をも考慮すべきも
のとされている。しかして,「第3の記憶媒体に記憶される動画情報が停止
位置以降の動画情報であると解釈される」場合について第3要件の充足性が
検討されるべき被告製品(イ~ホ)の具体的な構成態様は,A)内蔵HDD
に録画されたM2TSファイルの動画情報全部をMP4ファイルに変換して
転送用動画情報全部を別途作成し,内蔵HDDに別途記録し,B)内蔵HD
Dに別途記録されたMP4ファイルの転送用動画情報全部から再生停止位置
より10秒前以降の転送用動画情報部分を切り出して読み出し,USBイン
ターフェイスを介して携帯機器に送信する,という全体的かつ有機的に一体
の構成態様である。そして,このような全体的かつ有機的に一体の構成態様
により,以下のような様々な顕著な付加的作用効果が一体的に奏されるもの
である。
a 転送用動画情報全部を,動画録画時に自動的に別途作成し,内蔵HD
Dに別途記録でき,録画動画再生停止直後でも,転送用動画情報作成
の時間を待つことなく,携帯機器へ送信しうる。
b 別途作成し,内蔵HDDに別途記録した転送用動画情報全部を今回の
続きから転送のみならず次回以降の続きから転送その他のおでかけ転
送にも再度活用し,転送用動画情報を再度作成する時間等を節約しう
る。
c M2TSファイルからMP4ファイルへのファイル変換により,被告
製品(イ~ホ)で高品質の動画を視聴し,携帯機器へ高速送信し,携
帯機器で,メモリ消費を節減しつつ,高品質の動画を視聴しうる。
d 転送用動画情報全部ではなく,転送用動画情報部分を切り出して読み
出し,送信することにより,携帯機器へ更に高速送信し,携帯機器で
メモリ消費を更に節減しうる。
e 再生停止位置より10秒前以降の転送用動画情報部分を切り出して
読み出し,送信することにより,携帯機器でのレジューム再生効果を
高めうる。
f 最も普及した汎用かつ高速のインターフェイス規格であるUSBイ
ンターフェイスを用いることにより,様々な携帯機器に高速送信しう
る。
しかも,第3要件に係る「当業者」及び「容易」「想到」性の各意義につ
いては,裁判例上,当業者であれば誰もが,特許請求の範囲に明記されてい
るのと同じように認識できる程度の容易さ,とされている。
以上によれば,前述のように様々な顕著な付加的作用効果を一体的に奏す
ることができる被告製品(イ~ホ)における全体的かつ有機的に一体の構成
態様について,当業者であれば誰もが,特許請求の範囲に明記されているの
と同じように認識できるなどとは,到底いうことができないことが明らかで
ある。
(3) 第5要件について
原告は,被告製品(イ~ホ)の構成が,本件各発明の「技術的範囲に属し
ないことを承認」したものと「外形的に・‥解されるような行動をとった」
ものであり,「後にこれと反する主張をすることは,禁反言の法理に照らし
許されない」から,ボールスプライン事件に係る最高裁判所平成10年2月
24日判決(民集52巻1号113頁)の判示に従い,第5要件に係る「特
段の事情」が肯認される。
原告は,本件訴訟において原告が本件特許権行使の対象とする「おでかけ
転送」の「続きから転送」機能を搭載し,先に発売ないし大々的に一般市場
で販売された公然実施品(デジタルハイビジョンチューナー内蔵ハードディ
スク搭載DVDプレーヤー「RDZ-D97A」「RDZ-D77A」)を
知ったうえで,それをカバーすることを企図して,あえて,全体の動画情報
を生成し,第3の記憶媒体に追加し,通信端末と通信することを開示してい
ない,より先の基礎出願に係る優先権主張を伴うものとして,本件特許出願
を行ったうえで,「停止位置から再生されるべき動画情報」との記載を追記
したものと推認される。そうであるとすれば,上記記載は,「続きから転送」
機能を含まないとクレーム解釈せざるを得ない(そうでなければ,新規事項
追加により本件特許の出願日は,優先日ではなく現実の出願日とされること
になるから,本件特許は,上記公然実施品をもって新規性を欠如するとして,
無効とされるべきものとなる。)。
そうすると,原告の企図は客観的かつ結果的に失敗したのであって,この
ような失敗により,外形的には,原告は,「続きから転送」機能が本件各「特
許発明の技術的範囲に属しないことを承認」したものと「解されるような行
動をとった」というほかない。
7 争点(2)(乙26文献による新規性欠如)について
〔被告の主張〕
(1) 以下のとおり,本件各発明は,拡大先願である乙26発明と実質的に同一
であるから,本件各発明は特許法29条の2の規定により特許を受けること
ができない。
そうすると,本件特許権は,特許無効審判により無効にされるべきものと
認められるから,特許法104条の3第1項により,原告は被告に対し権利
を行使することができない。
(2) 乙26発明との対比
ア 本件各発明と乙26発明とを対比すると,乙26発明の「映像情報」,
「コンテンツ記憶部110」,「コンテンツ再生部150」,「他のコン
テンツ再生装置」,「通信部130」,「コンテンツ再生装置」,「コン
テンツ再生システム」,「再生停止時の位置」,「抽出」,「再生開始位
置情報更新部103」,「再生位置情報」,「再生開始位置情報記憶部1
20」,「再生開始位置情報更新部103」,「前記作成された動画情報
を,前記通信部130を介して前記他のコンテンツ再生装置に送信する手
段」,「他のコンテンツ再生装置のコンテンツ記憶部」,「他のコンテン
ツ再生装置の再生制御部」は,それぞれ,本件各発明の「動画情報」,「第
1の記憶媒体」,「再生手段」,「外部の機器」及び「記録再生装置と通
信可能な通信端末」,「通信インターフェイス」,「記録再生装置」,「再
生システム」,「読み出し停止位置」,「検出」,「第1の禁止手段」及
び「検出手段」及び「記録手段」,「停止位置情報」,「第2の記憶媒体」,
「通信制御手段」,「受信情報記憶手段」,「端末側再生手段」に相当す
る。
イ そして,本件各発明と乙26発明は,次の点において一致する。
「Al.動画情報が記憶された第1の記憶媒体からその動画情報を読み出
すとともに,読み出した動画情報が表す映像及び音声を出力する再生
動作を実行する再生手段と,
Bl.外部の機器と通信を行うための通信インターフェイスと,
C1.を備えた記録再生装置と,
Dl.前記記録再生装置と通信可能な通信端末とからなる再生システム
であって,
El.前記記録再生装置は,前記再生手段の前記再生動作を停止させる
第1の禁止手段と,
Fl.前記第1の禁止手段により前記再生動作が停止されると,前記第
1の記憶媒体における動画情報の読み出し停止位置を検出する検出手
段と,前記検出手段により検出された読み出し停止位置の情報(停止
位置情報)を第2の記憶媒体に記録する記録手段と,
Gl’.前記第1の禁止手段により前記再生動作が停止された際,前記
第1の記憶媒体に記憶された動画情報のうち,前記第2の記憶媒体に
記憶された前記停止位置情報が表す停止位置から再生されるべき動画
情報を作成する手段と,
Hl’.前記作成された動画情報を,前記通信インターフェイスを介し
て前記通信端末に送信する通信制御手段とを備え,
Il.前記通信端末は,前記記録再生装置から受信した動画情報を記憶
する受信情報記憶手段と,
Jl.前記受信情報記憶手段に記憶された動画情報が表す映像及び音声
を出力する端末側再生手段とを備えている
Kl.ことを特徴とする再生システム。」
「A2.動画情報を受信するとその動画情報が表す映像及び音声を出力す
るように構成された通信端末と通信可能に接続される記録再生装置で
あって,
B2.動画情報が記憶された第1の記憶媒体からその動画情報を読み出
すとともに,読み出した動画情報が表す映像及び音声を出力する再生
動作を実行する再生手段と,
C2.前記再生手段の前記再生動作を停止させる第1の禁止手段と,
D2.前記第1の禁止手段により前記再生動作が停止されると,前記第
1の記憶媒体における動画情報の読み出し停止位置を検出する検出手
段と,
E2.前記検出手段により検出された読み出し停止位置の情報(停止位
置情報)を第2の記憶媒体に記録する記録手段と,
F2’.前記第1の禁止手段により前記再生動作が停止された際,前記
第1の記憶媒体に記憶された動画情報のうち,前記第2の記憶媒体に
記憶された前記停止位置情報が表す停止位置から再生されるべき動画
情報を作成する手段と,
G2’.前記作成された動画情報を,前記通信インターフェイスを介し
て前記通信端末に送信する通信制御手段
H2.とを備えていることを特徴とする記録再生装置。」
ウ 他方,本件各発明では,第1の記憶媒体に記憶された動画情報のうち,
第2の記憶媒体に記憶された前記停止位置情報が表す停止位置から再生さ
れるべき動画情報を第3の記憶媒体に記憶させる追加手段が備えられ,通
信端末に送信する動画情報が前記追加手段により第3の記憶媒体に記憶さ
れたものであるのに対し,乙26文献には,そのような記載がない点で一
応相違する。
(3) この点,記憶媒体に記憶された画像情報を外部の機器に送信する際に,そ
の画像情報をその記憶媒体から読み出して,バッファに記憶させ,バッファ
に記憶された画像情報を外部の機器に送信することは周知慣用技術である
(乙27ないし32)。
そうすると,本件各発明における「第3の記憶媒体」がバッファ一般を含
むと客観的にクレーム解釈される場合には,乙26発明において,「前記第
1の記憶媒体に記憶された動画情報のうち,前記第2の記憶媒体に記憶され
た前記停止位置情報が表す停止位置から再生されるべき動画情報をその第1
の記憶媒体から読み出して第3の記憶媒体に記憶させる追加手段」が備えら
れ,「前記通信端末に送信する」「動画情報」が「前記追加手段により前記
第3の記憶媒体に記憶された」ものである構成とすることは,単なる周知慣
用技術の付加にすぎないものであり,これにより新たな効果を奏するもので
はない。
したがって,本件各発明は,先願発明と実質的に同一である。
〔原告の主張〕
被告の主張によっても,乙26発明は,第3の記憶媒体に動画情報を追加す
る追加手段がない点において,本件各発明と相違する。
したがって,被告の上記主張は失当である。
8 争点(3)(損害発生の有無及びその額)について
〔原告の主張〕
被告製品(イ~ホ)の工場出荷価格は,一台当たり6万円を下るものではな
く,被告製品(イ~ホ)の現在までの販売台数は1万台を下らない。そして,
本件各発明の実施料率は,製品販売価格の5%を下回らない。
よって,特許法第102条3項により,原告の損害額は3000万円〔=6
万円×1万台×5%〕を下らない。本件では,一部請求として,3000万円
を請求する。
〔被告の主張〕
否認ないし争う。
第4 当裁判所の判断
1 本件各発明の意義
(1) 本件明細書等の段落【0001】,【0002】,【0005】,【00
06】等の記載によれば,記録再生装置においては,従来からレジューム再
生機能(動画情報の再生動作中に視聴者が一旦再生を停止したときに,次の
再生動作時に前回の再生停止状態から継続的に動画情報を再生開始するよう
に制御する機能)を備えた動画情報を再生するための記録再生装置が知られ
ていたが,それらは記録再生装置が設置された場所以外では上記動画情報を
再生することができないものであったところ,上記記録再生装置以外の装置
にて,再生停止箇所からの動画情報が再生されることができれば,この記録
再生装置が設置された場所以外で,動画情報の続きを視聴することを望む視
聴者にとっては都合が良いことから,本件各発明は,別途備えた上記記録再
生装置以外の装置にて,再生停止箇所からの動画情報が再生されるための記
録再生装置及び再生システムを提供することを目的とし,上記発明の課題を
達成するために,停止位置情報のみを通信端末に送信し,これを受信した通
信端末において再生開始位置を特定してレジューム再生を行うのではなく,
レジューム再生される停止位置以降の動画情報を通信端末に送信し,通信端
末において受信した停止位置以降の動画情報を再生することによりレジュー
ム再生を可能とする構成とした発明である,と認められる。
(2) また,本件明細書等の段落【0024】,【0025】,【0027】,
【0028】等の記載によれば,本件発明1は,次のような構成を有するも
のである。
すなわち,動画情報が記憶された第1の記憶媒体からその動画情報を読み
出すとともに,読み出した動画情報が表す映像及び音声を出力する再生動作
を実行する再生手段と,外部の機器と通信を行うための通信インターフェイ
スとを備えた記録再生装置と,記録再生装置と通信可能な通信端末とからな
る再生システムであって,記録再生装置は,視聴者の入力に基づいて再生手
段の再生動作を停止させる第1の禁止手段と,第1の禁止手段により再生動
作が停止されると,第1の記憶媒体における動画情報の読み出し停止位置を
検出する検出手段と,検出手段により検出された読み出し停止位置の情報(停
止位置情報)を第2の記憶媒体に記録する記録手段とを備えており,また,
第1の禁止手段により再生動作が停止された際,第1の記憶媒体に記憶され
た動画情報のうち,第2の記憶媒体に記憶された停止位置情報が表す停止位
置から再生されるべき動画情報をその第1の記憶媒体から読み出して第3の
記憶媒体に記憶させる追加手段と,追加手段により第3の記憶媒体に記憶さ
れた動画情報を,通信インターフェイスを介して通信端末に送信する通信制
御手段とを備えている。
一方,通信端末は,記録再生装置から受信した動画情報を記憶する受信情
報記憶手段と,受信情報記憶手段に記憶された動画情報が表す映像及び音声
を出力する端末側再生手段とを備えている。
視聴者は,記録再生装置にて視聴していた動画情報の続きを,通信端末で
視聴できるようになり,通信端末が携帯可能であれば,記録再生装置にて視
聴していた動画の続きをどのような場所でも視聴することができる。
(3) さらに,本件明細書等の段落【0037】,【0038】等の記載によれ
ば,本件発明2は,次のような構成を有するものである。
すなわち,動画情報を受信するとその動画情報が表す映像及び音声を出力
するように構成された通信端末と通信可能に接続される記録再生装置であっ
て,動画情報が記憶された第1の記憶媒体からその動画情報を読み出すとと
もに,読み出した動画情報が表す映像及び音声を出力する再生動作を実行す
る再生手段と,再生手段の前記再生動作を停止させる第1の禁止手段と,第
1の禁止手段により再生動作が停止されると,第1の記憶媒体における動画
情報の読み出し停止位置を検出する検出手段と,検出手段により検出された
読み出し停止位置の情報(停止位置情報)を第2の記憶媒体に記録する記録
手段と,第1の禁止手段により再生動作が停止された際,第1の記憶媒体に
記憶された動画情報のうち,第2の記憶媒体に記憶された停止位置情報が表
す停止位置から再生されるべき動画情報をその第1の記憶媒体から読み出し
て第3の記憶媒体に記憶させる追加手段と,追加手段により第3の記憶媒体
に記憶された動画情報を,通信端末との間で通信を行うための通信インター
フェイスを介して通信端末に送信する通信制御手段とを備えている記録再生
装置であり,本件発明1と同じ効果が得られるものである。
2 被告各製品の構成等
(1) 被告各製品
ア 被告製品(イ~ホ)
被告が製造・販売等しているデジタルハイビジョンチューナー内蔵,ハ
ードディスク搭載の「ブルーレイディスク/DVDレコーダー」であり,
「おでかけ転送」機能を有するものである。(甲3)
イ ヘないしヲ号製品
ソニー・コンピュータエンターテインメントが製造・販売等するもので
あり,へないしリ号製品は,プレイステーションポータブル(PSP),
ヌないしヲ号製品は,プレイステーションヴィータ(PlayStation Vita)
である。(甲3,16,弁論の全趣旨)
ウ ワ号製品
被告が製造・販売等しているデジタルメディアプレーヤーウォークマン
(WALKMAN)である。(甲20)
(2) 被告各製品の構成
証拠(甲3,5の2,甲6ないし8,16,18ないし20,乙14,1
5)及び弁論の全趣旨によれば,被告各製品の構成は次のとおりと認められ
る。
a1 被告製品(イ~ホ)は,動画情報を内蔵HDDに記録し,また,内蔵
HDDに記録された動画情報を記憶媒体から読み出してテレビジョン等に
出力する装置である。
b1 被告製品(イ~ホ)には,「おでかけ転送」と称する機能が備わって
おり,被告製品(イ~ホ)とヘないしワ号製品等の携帯機器をUSBケー
ブルで接続して,被告製品(イ~ホ)からへないしワ号製品等に対し,動
画情報を転送することができる。
e1 被告製品(イ~ホ)は,動画情報の再生において,再生途中で再生を
停止することができる。
f1 被告製品(イ~ホ)において,再生途中で再生が停止されたときは,
再生停止位置が記録される。
g1 被告製品(イ~ホ)からヘないしワ号製品に転送する動画情報につい
て,利用者の選択により,動画情報(番組)の全部または再生停止位置の
10秒前から後の部分を転送(以下,後者を「続きから転送」ともいう。)
することができる。被告製品(イ~ホ)は,内蔵HDDに記録された動画
情報(M2TSファイル)の再生停止後,利用者の操作により,動画情報
(M2TSファイル)全部をMP4ファイルに変換して転送用動画情報を
作成し,作成された転送用動画情報(MP4ファイル)を被告製品(イ~
ホ)の内蔵HDDに別途記録し,利用者の選択に従って,記録された転送
用動画情報(MP4ファイル)の全部又は一部(再生停止位置の10秒前
から後の部分)をヘないしワ号製品に送信するという処理を行っている。
h1 被告製品(イ~ホ)に,USBケーブルを使って,ヘないしワ号製品
を接続し,g1で記録された転送用動画情報の全部又は一部を,ヘないし
ワ号製品に送信することができる。
i1 ヘないしワ号製品は,h1で被告製品(イ~ホ)から転送された動画
情報(転送用動画情報の全部又は一部)を,記憶する。
j1 ヘないしワ号製品は,ディスプレイを備えており,被告製品(イ~ホ)
から転送された動画情報(転送用動画情報)を再生することができる。
3 争点(1)ア(「記録再生装置と通信可能な通信端末とからなる再生システム」
の充足性)について
前記第2,2(3)アのとおり,本件発明1は,記録再生装置及び記録再生装
置と通信可能な通信端末とからなる再生システムである。
そして,原告は,被告製品(イ~ホ)が上記記録再生装置に当たり,へな
いしワ号製品が,上記通信端末に当たり,これらを組み合わせたものが上記
「再生システム」に当たると主張している。
ところで,証拠(甲3,16,20)及び弁論の全趣旨によれば,被告製
品(イ~ホ)は,ブルーレイディスク/DVDレコーダーとして,ヘないし
ヲ号製品は,プレイステーションポータブル(PSP)又はプレイステーシ
ョンヴィータ(PlayStation Vita)として,ワ号製品は,デジタルメディア
プレーヤーウォークマンとして,それぞれ別個の独立した製品として販売さ
れていること,また,ヘないしヲ号製品に至っては,ソニー・コンピュータ
エンターテインメントが製造・販売等するものであることが認められ,さら
には,被告が上記別個独立に製造・販売等された製品を1つのまとまったシ
ステムとして構成して製造・販売等していることをうかがわせる事情は認め
られない。そうすると,被告が,被告各製品を「記録再生装置と通信可能な
通信端末とからなる再生システム」として,製造・販売等をしていると認め
ることができない。
この点に関して原告は,被告が,被告製品(イ~ホ)及びワ号製品を製造・
販売等したことで本件発明1を実施した旨主張するが,原告は,被告製品(イ
~ホ)及びワ号製品が,それぞれ構成要件の一部を充足する旨の主張をして
いるにすぎず,被告がこれらを別個に製造・販売したことをもって,「記録
再生装置と通信可能な通信端末とからなる再生システム」を製造・販売等し
たと評価すべき根拠となる具体的な事情を何ら主張していない上,被告が,
ソニー・コンピュータエンターテインメントが製造・販売等するヘないしヲ
号製品を「記録再生装置と通信可能な通信端末とからなる再生システム」と
して製造・販売等したと評価すべき旨の主張もしておらず,また,そのよう
に評価すべき具体的な事情を認めるに足りる証拠もない。
そうすると,被告各製品が「記録再生装置と通信可能な通信端末とからな
る再生システム」に当たるということができないから,被告各製品は,構成
要件D1,I1,J1及びK1を充足しない。
4 争点(1)ウ(被告製品(イ~ホ)につき「通信インターフェイス」の充足性)
について
(1) 本件各発明においては,記録再生装置が通信インターフェイスを備えてお
り,当該通信インターフェイスを介して,通信端末に対し,動画情報を送信
するものとされている(構成要件B1,C1,H1,G2及びH2)。
ところで,前記2のとおり,被告製品(イ~ホ)のいずれかとヘないしワ
号製品のいずれかをUSBケーブルを用いて接続し,被告製品(イ~ホ)か
らヘないしワ号製品に対して動画情報を転送することが可能であることから,
被告製品(イ~ホ)は,USBインターフェイスを有しており,USBイン
ターフェイスを介して,ヘないしワ号製品と情報のやり取りをすることがで
きると認められる。
そこで,被告製品(イ~ホ)が備えるUSBインターフェイスが,本件各
発明における「通信インターフェイス」を充足するかについて,以下検討す
る。
(2) 「通信インターフェイス」の意義
本件明細書等をみると,本件各発明が適用される第1実施形態を説明する
図1には,記憶再生装置に当たる「DVDレコーダ1」に「USB I/F」
が具備されているものと図示されており,これについて「USBインターフ
ェイス40は,USBポート41を介して接続される外部の機器と各種信号
をやり取りするためのインターフェイスである。」(段落【0045】)と
説明されている。そして,図1の「DVDレコーダ1」には,上記「USB
I/F」とは別に,「無線LANモデム」が図示されており,これについて,
「無線LANモデム60は,外部のネットワーク網と接続するためのモデム
であ」り,「DVDレコーダ1は,この無線LANモデム60を介してネッ
トワーク網に接続されるとともに,FTPサーバー3(a),及び通信局3
(b)を介して,DVDレコーダ4,携帯電話5,及びパーソナルコンピュ
ータ6と通信可能なように構成されて」おり(段落【0047】),「無線
LANモデム60が通信インターフェイスに相当」する(段落【0076】)
と説明されている。そして,本件明細書等の図1には,第3の記憶媒体が,
「DVDレコーダ1」(記憶再生装置)に内蔵された「HDD21~HDD
23」である場合と,無線LANモデム及び外部ネットワークを介して接続
される「FTPサーバー3(a)」である場合の両方が図示されているにもか
かわらず,通信インターフェイスについては,ネットワーク網に接続する無
線LANモデムのみが記載されていること,本件各発明においては,記憶再
生装置から動画情報を送信する先の端末が「通信端末」と呼称されており,
ネットワーク網を経由した通信機能を有した端末であることが示唆されてい
ると考えられ,ネットワーク網を経由した通信を想定していることがうかが
えること,本件明細書等を精査しても,USBインターフェイスが通信イン
ターフェイスに当たる場合があることを示唆する記載がないことなどからす
ると,本件明細書等は,通信インターフェイスからUSBインターフェイス
を除外していると解するのが相当である。
したがって,本件各発明における「通信インターフェイス」には,「US
Bインターフェイス」は含まれないというべきである。
(3) 以上によれば,USBインターフェイスを有しているにすぎない被告製品
(イ~ホ)は,構成要件B1,C1,H1,G2及びH2を充足しない。
5 争点(1)オ(転送用動画情報の作成方法の充足性)について
本件各発明では,記録再生装置が,第 1 の記憶媒体に記憶された動画情報の
一部(転送用動画情報)を読み出して,第3の記憶媒体に記憶させ(構成要件
G1,F2),第3の記憶媒体に記憶された転送用動画情報を,通信端末に送
信するものとされている(構成要件H1,G2)。
これに対し,被告製品(イ~ホ)は,その内蔵HDDに記憶された動画情報
(M2TSファイル)の全部をMP4ファイルに変換して転送用動画情報を作
成して内蔵HDDに別途記憶し,記憶した転送用動画情報から一部(再生停止
位置の10秒前から後の部分)を切り出して,へないしワ号製品等の通信端末
に送信するものである。
そうすると,本件各発明では,第3の記憶媒体に記憶される転送用動画情報
が, 1 の記憶媒体に記憶された動画情報の一部であるのに対し,
第 被告製品(イ
~ホ)では,第3の記憶媒体に相当する内蔵HDDに記憶される転送用動画情
報は,第1の記憶媒体に記憶された動画情報の全部を変換したものであるとい
う差異がある。また,本件各発明においては,通信端末に送信される情報が「第
3の記憶媒体に記憶された転送用動画情報」そのものであるのに対し,被告製
品(イ~ホ)では,ヘないしワ号製品等の端末に送信する情報は,第3の記憶
媒体に当たる内蔵HDDに記憶された動画情報そのものではなく,その一部(再
生停止位置の10秒前から後の部分)を切り出したものであるという差異があ
る。なお,原告は,前者の差異のうちの動画情報の変換に係る部分及び後者の
差異について,本件各発明と均等である旨の主張を具体的にしていない。
したがって,被告製品(イ~ホ)は,構成要件G1,H1,F2及びG2を
充足しない。
6 争点(1)カ(均等侵害の成否)について
原告の主張する均等侵害は争点(1)エ及びオに関し文言侵害が認められない
場合の予備的主張であるところ,前記3及び4のとおり,本件では,その他の
構成要件において文言非充足であるから,原告の主張する均等侵害は理由がな
い。
7 結論
以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,被告各製品は,本件
各発明の技術的範囲に属しない。
したがって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文
のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
東 海 林 保
裁判官
瀬 孝
裁判官
勝 又 来 未 子
別紙
被告製品目録
イ号製品 ブルーレイディスク/DVDレコーダー
(製品番号 BDZ-AX2700T)
ロ号製品 ブルーレイディスク/DVDレコーダー
(製品番号 BDZ-AT970T)
ハ号製品 ブルーレイディスク/DVDレコーダー
(製品番号 BDZ-AT770T)
ニ号製品 ブルーレイディスク/DVDレコーダー
(製品番号 BDZ-AT950W)
ホ号製品 ブルーレイディスク/DVDレコーダー
(製品番号 BDZ-AT750W)
へ号製品 PSP-1000
ト号製品 PSP-2000
チ号製品 PSP-3000
リ号製品 PSP-N1000
ヌ号製品 PCH-1000
ル号製品 PCH-1100
ヲ号製品 PCH-2000
ワ号製品 NW-S764 (ウォークマン)
別紙特許公報省略
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