平成26(ワ)11576意匠権侵害差止等請求事件
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裁判所 |
請求棄却 大阪地方裁判所
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裁判年月日 |
平成27年12月22日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告株式会社ネットランドジャパン 原告P1
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法令 |
意匠権
意匠法24条1項3回 意匠法3条1項2回 意匠法6条1項1回 意匠法6条2項1回 特許法104条の31回 意匠法24条2項1回 意匠法39条2項1回 意匠法3条1項3号1回 意匠法37条1項1回 民事訴訟法61条1回
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キーワード |
意匠権11回 無効8回 侵害4回 無効審判3回 新規性3回 差止2回 許諾1回 損害賠償1回
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主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,意匠に係る物品をカラーコンタクトレンズとする後記本件意匠権を
有する原告が,被告に対し,被告による別紙物件目録1記載の製品(以下「イ
号製品」という。)及び同2記載の製品(以下「ロ号製品」といい,これら2
つの製品を併せて「被告製品」という。)の製造,輸入,販売又は販売の申出
(以下「販売等」という。)が,本件意匠権を侵害すると主張して,意匠法3
7条1項に基づく被告製品の販売等の差止め,同条2項に基づく被告製品の廃
棄,意匠権侵害の不法行為に基づく損害賠償として645万円及びこれに対す
る不法行為日の後である平成26年12月6日から支払済みまで民法所定の年
5分の割合による遅延損害金の支払いを求める事案である。 |
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判決文
平成27年12月22日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成26年(ワ)第11576号 意匠権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成27年10月27日
判 決
原 告 P1
同訴訟代理人弁護士 冨 宅 恵
同 西 村 啓
同補佐人弁理士 髙 山 嘉 成
被 告 株式会社ネットランドジャパン
同訴訟代理人弁護士 堀 籠 佳 典
同 牧 野 知 彦
同訴訟代理人弁理士 原 島 典 孝
同 谷 﨑 政 剛
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,別紙物件目録1記載の製品及び同2記載の製品を,それぞれ製造,
輸入,販売又は販売の申出をしてはならない。
2 被告は,前項の製品を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,645万円及びこれに対する平成26年12月6日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
本件は,意匠に係る物品をカラーコンタクトレンズとする後記本件意匠権を
有する原告が,被告に対し,被告による別紙物件目録1記載の製品(以下「イ
号製品」という。)及び同2記載の製品(以下「ロ号製品」といい,これら2
つの製品を併せて「被告製品」という。)の製造,輸入,販売又は販売の申出
(以下「販売等」という。)が,本件意匠権を侵害すると主張して,意匠法3
7条1項に基づく被告製品の販売等の差止め,同条2項に基づく被告製品の廃
棄,意匠権侵害の不法行為に基づく損害賠償として645万円及びこれに対す
る不法行為日の後である平成26年12月6日から支払済みまで民法所定の年
5分の割合による遅延損害金の支払いを求める事案である。
1 判断の基礎となる事実(認定に用いた証拠は末尾に掲記する。その余は当事
者間に争いがない。)
(1) 当事者
原告は,後記本件意匠権を有し,自らが代表取締役を務める株式会社El
Dorado及び株式会社Lcodeに対してのみ,後記本件意匠に係るカ
ラーコンタクトレンズの製造,輸入,販売及び販売のための展示を許諾して
いる。
被告は,医療機器の販売等を目的とする株式会社である。
(2) 本件意匠権
原告は,以下の内容の意匠権(以下「本件意匠権」といい,本件意匠権に
係る意匠を「本件意匠」,その登録を「本件意匠登録」という。)を有して
いる(甲2,乙1)。
登録番号 第1470103号
出願日 平成24年10月30日
登録日 平成25年4月19日
意匠に係る物品 カラーコンタクトレンズ
登録意匠 別紙意匠公報のとおり(同公報に掲載された本件意匠の
願書添付の写真を「本件願書添付写真」という。)
(3) 被告の行為
被告は,平成26年7月以降,被告製品の製造,輸入,販売及び販売の申
出を行っている。
被告製品は,いずれもカラーコンタクトレンズであり,その意匠は,イ号
製品については別紙イ号意匠説明図のとおりであり,ロ号製品については別
紙ロ号意匠説明図のとおりである(以下,イ号製品の意匠を「イ号意匠」と
いい,ロ号製品の意匠を「ロ号意匠」という。)。
2 争点
(1) 本件意匠の構成態様
(2) イ号意匠及びロ号意匠は本件意匠と類似するか
(3) 本件意匠登録は無効審判により無効にされるべきものか
(4) 損害額
3 争点についての当事者の主張
(1) 争点(1)(本件意匠の構成態様)について
(原告の主張)
ア 本件意匠は,本件願書添付写真のとおりであり,その構成態様は,別紙
本件意匠構成態様対照表の「原告主張の本件意匠」欄に記載のとおりであ
る(各構成部位の名称については別紙本件意匠構成部位説明図,本件意匠
の比率寸法については別紙本件意匠比率寸法説明図,本件意匠黒色線状模
様の本数については別紙本件意匠黒色線状模様本数説明図,本件意匠黒色
線状模様突出部分については別紙本件意匠黒色線状模様突出部分説明図
のとおりである。)。
イ 被告は,本件意匠に係るカラーコンタクトレンズの「中央部」,「内周
部」及び「外周部」(平面によって切り取られた球面体の一部である本件
意匠の中心からずれた位置)に円環状のぼかしたような灰色の模様(以下
「ぼかし模様」という。)が存在し,これが本件意匠の構成に含まれる旨
主張する。
しかし,被告が指摘するぼかし模様は,本件意匠に係るカラーコンタク
トレンズに施された「模様」,「色彩」のいずれでもない。すなわち本件
願書添付写真は,アクリル板上に本件意匠が施されたカラーコンタクトレ
ンズを置いた上で撮影されたものであるが,ぼかし模様は,【斜視図】,
【平面図】及び【底面図】を撮影する際にアクリル板上に映ったカラーコ
ンタクトレンズに施された本件意匠の影が写り込んだものにすぎない。
登録意匠の範囲は,願書の記載及び願書に添付した図面に記載され又は
願書に添付した写真等により現された意匠に基づいて定めなければなら
ないが(意匠法24条1項),それぞれの図面において整合性がとれない
場合には当業者を基準として,図面より把握することができる意匠を定
め,当該意匠を基準に登録意匠の範囲が決せられるべきである。
本件意匠においては,前記の影が意匠の構成であるとすると,影が写り
込んだ【斜視図】,【平面図】及び【底面図】と,影が写り込んでいない
【正面図】,【背面図】,【右側面図】及び【左側面図】との間で整合性
がとれていないことになるのであり,したがって,当業者であれば,【斜
視図】,【平面図】及び【底面図】に写し出されている中央部影は,本件
意匠を構成する模様及び色彩ではないことを,容易に理解することができ
る。
また,そもそも,カラーコンタクトレンズ中央部は,これを装着する者
の視界を妨げることがないように透明でなければならないものであり,本
件意匠においても,被告主張のぼかし模様は存在しないものと理解するこ
とができるから,そのような意匠として把握しなければならない。
ウ 仮にぼかし模様に関する原告の主張が認められず,これが意匠の構成で
あるとするのであれば,本件意匠の具体的構成態様について,以下の内容
を付加するとおりである。
すなわち,【斜視図】につき,中央部の約60%の領域において,まだ
ら模様部に施された色彩を遥かに薄くした色彩によって構成された模様
が,右斜め2時方向,上方45度の角度からライトを照射したことによっ
て,まだら模様部が反射性を有する床面に投射された様の模様及び色彩が
存在する。
また,【平面図】につき,中央部の約30%の領域において,まだら模
様部に施された色彩を遥かに薄くした色彩によって構成された模様が,右
斜め2時方向,上方45度の角度からライトを照射したことによって,ま
だら模様部が反射性を有する床面に投射された様の模様及び色彩が存在
する。
さらに,【底面図】につき,中央部の約20%の領域において,まだら
模様部に施された色彩を遥かに薄くした色彩によって構成された模様が,
右斜め2時方向,上方45度の角度からライトを照射したことによって,
まだら模様部が反射性を有する床面に投射された様の模様及び色彩が存
在する。
(被告の主張)
ア(ア) 本件意匠は,本件願書添付写真のとおりであり,その構成態様は,別
紙本件意匠構成態様対照表の「被告主張の本件意匠」欄記載のとおりで
ある。
(イ) 本件意匠の構成に関する原告の主張は,本件意匠の中央部,内周部及
び外周部の一部に存在するぼかし模様が本件意匠を構成せず存在しない
ものとしており,本件願書添付写真に基づかないものであって,失当で
ある。
そもそも意匠登録出願の願書には,意匠登録を受けようとする意匠を
記載した図面を添付するのが原則であり(意匠法6条1項),写真によ
り意匠が明瞭に現され,しかも意匠を構成しないものが入らないなどの
所定の要件を満たす場合に限り,出願人は図面に代えて写真を意匠登録
出願の願書に添付することを認められているにすぎない(同条2項,3
項,意匠法施行規則4条1項,意匠法施行規則様式第7備考1)。そし
て,特許庁の「意匠登録出願の願書及び図面等の記載の手引き(平成2
0年3月)」も,図面に代えて写真を添付する場合には,その写真(図
面代用写真)には,物品の影など意匠を構成しないものが写らないこと
が必要であることを指摘するとともに,意匠を構成しないものを消去す
る等の操作を加えたものも写真とすることを認めている。
写真に意匠を構成しないものが入らないものとされていることは,登
録意匠の範囲は意匠図面や写真等に現された意匠に基づいて定められる
とする意匠法24条1項と表裏の関係にあり,意匠図面ないしは図面代
用写真を含む意匠登録願は,出願人により提出されるものであり,意匠
公報に掲載されて,権利範囲を公示するからである。
(ウ) 原告は,本件意匠の出願において,これらの定めに従うものとして,
図面に代えて本件願書添付写真を意匠登録出願の願書に添付したのであ
るから,意匠登録後において,本件願書添付写真に現れているものが影
であり,意匠を構成しないと主張することは許されないというべきであ
る。
なお,原告は,カラーコンタクトレンズ中央部は,これを装着する者
の視界を妨げることがないように透明でなければならないから,ぼかし
模様は存在しないものと理解することができる旨主張するが,カラーコ
ンタクトレンズの中央部に模様や色彩を施した商品は存在するし,中央
部に模様や色彩を施したカラーコンタクトレンズの意匠登録が認められ
ないというものでもないから,原告の主張は失当である。
仮に,【平面図】や【底面図】のぼかし模様が影であり,本件意匠を
構成しないとすると,影(ぼかし模様)と原告のいう「まだら模様部」
における「薄墨色の斑点」は,色彩がほぼ同じであり,かつ,相互に混
じり合っているのであるから,【平面図】や【底面図】から,影の部分
のみを除去した画像を認識することは不可能である。すなわち,ぼかし
模様が本件意匠を構成しないとする原告の主張を前提とすれば,本件意
匠登録には,対象とする意匠が明確でないという無効理由(意匠法3条
1項柱書違反,48条1項1号)があることとなる。
イ その他の点についても,本件意匠の構成は,以下のとおり,正確に特定
されるべきである。
(ア) 別紙本件意匠構成態様対照表の原告主張の本件意匠欄の具体的構成態
様欄②bについて
原告は,「薄茶色の斑点模様は,外周部近辺に近づくにつれて,配置
密度が小さくなるように施されている。」とする。
しかし,本件意匠では,内周部において,赤みを帯びた薄茶色のドッ
トは,外周に向けて放射状に延びる線状領域からなる縞模様を形成する
ように配されており,外周部に向けての密度の変化はなく,「薄茶色の
斑点模様は,外周部近辺に近づくにつれて,配置密度が小さくなるよう
に施されている。」とはいえない(下図1-1ないし1-3参照)。
【図1-1】本件意匠の平面図
【図1-2】 【図1-3】
(図1-2が,本件意匠の【平面図】の赤みを帯びた薄茶色のドット
がある領域を赤線で囲ったもの,図1-3が,本件意匠の【平面図】か
ら,赤みを帯びた薄茶色のドットを抽出したもの)
(イ) 同②bについて
原告は,「薄茶色の斑点模様は,外周部の略半分程度まで,重なって
施されているが,重なって施されている部分の薄茶色の斑点模様の密度
は,小さい。当該重なり部分では,薄茶色の斑点模様は,所々先細りの
模様となっている。」とする。
しかし,本件意匠では,赤みを帯びた薄茶色のドットが,「外周部の
略半分程度まで,重なって施されている」ことは認められるが,重なっ
て施されている部分の赤みを帯びた薄茶色のドットの密度が内周部のそ
れと比べて小さいことや,赤みを帯びた薄茶色のドットが所々先細りの
模様となっていることは本件願書添付写真からは知覚することはできな
い。本件願書添付写真から知覚できない事項を本件意匠の構成態様とし
て記載すべきではない。
(ウ) 同②cについて
原告は,「まだら模様部の幅をzとした場合,まだら模様部の全体に
占める割合z/xは,約14%である。」とする。
しかし,内周部(原告のいう「まだら模様部」)の赤みを帯びた薄茶
色のドット及び灰色のドットと,外周部の黒色線は,一部重なって配さ
れており,内周部と外周部の明確な境界線は存在しない。したがって,
本件願書添付写真から,内周部の全体に占める割合が約14%であると
いうことはできず,これを本件意匠の構成態様として記載すべきではな
い。
(エ) 同③b,c,dについて
本件意匠では,内周部と外周部の明確な境界線や,外周部の明確な外
縁線は存在しないので,「縁部分に向けて突出している黒色線状模様」
や「まだら模様部に向けて突出している黒い線状模様」は,「突出」方
向を決める基準をどこにするかで,その数は大きく変わってくる。そう
すると,本件願書添付写真から,これらの数が原告の主張どおりである
ということはできない。同様の理由で,本件願書添付写真から,「外周
部の全体に占める割合」や「黒色線状模様の太さ」が原告の主張どおり
であるということはできない。
したがって,これらの事項を本件意匠の構成態様として記載すべきで
はない。
(2) 争点(2)(イ号意匠及びロ号意匠は本件意匠と類似するか)について
(原告の主張)
ア イ号意匠について
(ア) イ号意匠の構成態様
イ号意匠は,別紙イ号意匠説明図のとおりであり,イ号意匠の構成態
様は,別紙本件意匠・イ号意匠対比表(原告主張)の「イ号意匠」欄記
載のとおりである(各構成部位の名称については別紙イ号意匠構成部位
説明図,イ号意匠の比率寸法については別紙イ号意匠比率寸法説明図,
イ号意匠黒色線状模様の本数については別紙イ号意匠黒色線状模様本
数説明図,イ号意匠黒色線状模様突出部分については別紙イ号意匠黒色
線状模様突出部分説明図のとおりである。)。
(イ) 本件意匠とイ号意匠の類似性
基本的構成態様は,全て同一であるが,具体的構成態様において,次
の差異点が存する。
① 中央部の全体に占める割合
本件意匠においては約47%であるのに対し,イ号意匠では約38
%である。
② まだら模様部
a 薄墨色の斑点模様
同一である。
b 薄茶色の斑点模様
本件意匠においては「薄茶色の斑点模様は,外周部の略半分程度
まで,重なって施されているが,重なって施されている部分の薄茶
色の斑点模様の密度は,小さい。当該重なり部分では」であるのに
対し,イ号意匠においては「薄茶色の斑点模様の内,約11の領域
では,外周部の一部にまで重なって施されている。重なって施され
ている部分において」という構成態様となっている点で差異点が存
在するものの,その余は,全て同一である。
c まだら模様部の全体に占める割合
本件意匠においては約14%であるのに対し,イ号意匠では約1
7%である。
③ 外周部
a 黒色線状模様の本数
本件意匠の黒色線状模様の本数は211本であるのに対し,イ号
意匠の本数は205本である。
b 黒色線状模様の配置
本件意匠の縁部分に向けて突出している黒色線状模様は57本で
あるのに対し,イ号意匠は58本である。
また,本件意匠のまだら模様部に向けて突出している黒色線状模
様は64本であるのに対し,イ号意匠は72本である。
その余は,全て同一である。
c 外周部の全体に占める割合
本件意匠の外周部の全体に占める割合は約11%であるのに対
し,イ号意匠は約12%である。
d 黒色線状模様の太さ
本件意匠の外周部の幅を基準とした黒色線状模様の太さの割合は
約11%であるのに対し,イ号意匠は約10%である。
以上のとおり,本件意匠とイ号意匠との差異点は,中央部の全体に占
める割合及び薄茶色の斑点模様と外周部との関係を除き,いずれも透明
のコンタクトレンズに模様を印刷するにあたっての誤差の範囲を脱して
おらず,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に影響を及ぼすことはな
い。また,中央部の全体に占める割合及び薄茶色の斑点模様と外周部と
の関係に関する差異点は,本件意匠とイ号意匠の共通点(前記の印刷上
の誤差と評価し得るものを含める。)を凌駕するものではなく,需要者
に異なる美感を抱かせるものではない。
したがって,本件意匠とイ号意匠とは類似する。
イ ロ号意匠について
(ア) ロ号意匠の構成態様
ロ号意匠は,別紙ロ号意匠説明図のとおりであり,ロ号意匠の構成態
様は,別紙本件意匠・ロ号意匠対比表(原告主張)の「ロ号意匠」欄記
載のとおりである(各構成部位の名称については別紙ロ号意匠構成部位
説明図,ロ号意匠の比率寸法については別紙ロ号意匠比率寸法説明図,
ロ号意匠黒色線状模様の本数については別紙ロ号意匠黒色線状模様本
数説明図,ロ号意匠黒色線状模様突出部分については別紙ロ号意匠黒色
線状模様突出部分説明図のとおりである。)。
(イ) 本件意匠とロ号意匠の類似性
基本的構成態様は,本件意匠のまだら模様部が薄茶色及び薄墨色から
構成されているのに対し,ロ号意匠が茶色及び薄茶色から構成されてい
る(色違い)との差異点が存する点を除き,全て同一であり,具体的構
成態様については,次の差異点が存する。
① 中央部の全体に占める割合
本件意匠においては約47%であるのに対し,ロ号意匠では約38
%である。
② まだら模様部
a 薄墨色の斑点模様
本件意匠の斑点模様は薄墨色であるのに対し,ロ号意匠では薄茶
色である(色違い)との差異点が存在する点を除き,全て同一であ
る。
b 薄茶色の斑点模様
本件意匠において斑点模様は薄茶色であるのに対し,ロ号意匠で
は茶色である点,本件意匠においては「薄茶色の斑点模様は,外周
部の略半分程度まで,重なって施されているが,重なって施されて
いる部分の薄茶色の斑点模様の密度は,小さい。当該重なり部分で
は」であるのに対し,ロ号意匠においては「茶色の斑点模様の内,
約11の領域では,外周部の一部にまで重なって施されている。重
なって施されている部分において」という構成態様となっている点
で差異点が存在するものの,その余は,全て同一である。
c まだら模様部の全体に占める割合
本件意匠においては約14%であるのに対し,ロ号意匠では約1
7%である。
③ 外周部
a 黒色線状模様の本数
本件意匠の黒色線状模様の本数は211本であるのに対し,ロ号
意匠の本数は205本である。
b 黒色線状模様の配置
本件意匠の縁部分に向けて突出している黒色線状模様は57本で
あるのに対し,ロ号意匠は58本である。
また,本件意匠のまだら模様部に向けて突出している黒色線状模
様は64本であるのに対し,ロ号意匠は72本である。
その余は,全て同一である。
c 外周部の全体に占める割合
本件意匠の外周部の全体に占める割合は約11%であるのに対
し,ロ号意匠は約12%である。
d 黒色線状模様の太さ
本件意匠の外周部の幅を基準とした黒色線状模様の太さの割合は
約11%であるのに対し,ロ号意匠は約10%である。
以上のとおり,本件意匠とロ号意匠との差異点は,中央部の全体に占
める割合及び薄茶色の斑点模様と外周部との関係を除き,いずれも透明
のコンタクトレンズに模様を印刷するに当たっての誤差の範囲を脱して
おらず,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に影響を及ぼすことはな
い。また,基本的構成態様のまだら模様部,具体的構成態様の薄墨色の
斑点模様及び薄茶色の斑点模様の色違いは,需要者に異なる美感を起こ
させるものではない。さらに,中央部の全体に占める割合及び薄茶色の
斑点模様と外周部との関係に関する差異点は,本件意匠とロ号意匠の共
通点(前記の印刷上の誤差と評価し得るものを含める。)を凌駕するも
のではなく,需要者に異なる美感を抱かせるものではない。
したがって,本件意匠とロ号意匠とは類似する。
ウ なお,仮に本件意匠の構成態様に前記(1)(原告の主張)欄ウ記載のぼかし
模様に関する構成態様を付加すべきとしても,そもそも,本件意匠に係る
物品であるカラーコンタクトレンズの需要者は,まだら模様部及び外周部
の模様並びに色彩に着目して商品選択をしていることから,中央部の模様
や色彩が意匠の類否判断に与える影響は少ない。そして,【斜視図】,【平
面図】及び【底面図】にそれぞれ存在する前記各模様及び色彩は,全体的
に曲面体縁部分の色彩より薄く,模様が有意の構成をなしていないため,
意匠を構成する色彩と評価し得るものであって,その差異は意匠の類否判
断に影響を全く与えない。また,中央部無模様,無着色部との区別が明確
ではなく,その占める割合も【平面図】においては約30%,【底面図】
においては約20%にすぎず,法的には色彩と評価し得るものであること
も考慮するならば,カラーコンタクトレンズにおいてぼかし模様の存在が
異なる美感を生じさせることもあり得ない。
したがって,本件意匠の構成に前記(1)(原告の主張)欄ウ記載のぼかし
模様に関する構成態様を付加し,【斜視図】,【平面図】及び【底面図】
にそれぞれ存在する前記各模様及び色彩が本件意匠を構成するものであ
ると認めたところで,本件意匠とイ号意匠及びロ号意匠の類否判断に影響
を及ぼさない。
(被告の主張)
ア イ号意匠について
(ア) イ号意匠の構成態様
イ号意匠の構成態様は,別紙本件意匠・イ号意匠対比表(被告主張)
の「イ号意匠」欄記載のとおりである。
(イ) 本件意匠とイ号意匠の類否
イ号意匠と本件意匠は,基本的構成態様は共通するが,具体的構成態
様に関して次の共通点,差異点がある。
a 共通点
・内周部には,2色のドットが配されている点
・外周部には,径方向に多数の黒色線が配されており,その数は全部
で205ないし211本である点
b 差異点
イ号意匠は,
・中央部の全体に占める割合が,約38%であるのに対し,本件意匠
では約47%であり,
・中央部に灰色のぼかし模様が施された部分は存在しないのに対し,
本件意匠では,中央部の約3分の1の三日月形の部分に灰色のぼかし
模様が施されており,
・内周部に配されたドットが,オレンジ色のドットと灰色のドットで
あるのに対し,本件意匠では,赤みを帯びた薄茶色のドットと灰色の
ドットであり,
・内周部に灰色のぼかし模様が施された部分は存在しないのに対し,
本件意匠では,内周部の約3分の2の領域(平面図において左下の領
域以外の領域)には,灰色のぼかし模様が配されており,
・内周部の灰色のドットの密度は,内周部の内縁において一番まばら
であり,そこから外周方向に行くに従って徐々に密になっていくのに
対し,本件意匠では,内周部の約3分の1の領域(平面図において左
下の領域)に配された灰色のドットの密度は,外周部に向けての変化
はなく,
・内周部のオレンジ色のドットが,内周部の内縁において一番密度が
密であり,そこから外周方向に行くにしたがって徐々にまばらになり,
全体として,フレアー模様を形成するように配されているのに対し(後
掲の図参照),本件意匠では,赤みを帯びた薄茶色のドットは,外周
に向けて放射状に延びる線状領域からなる縞模様を形成するように配
されており,外周部に向けての密度の変化はなく,
・内周部にみられるオレンジ色のドットは,外周部にはほとんど配さ
れていないのに対し,本件意匠では,内周部にみられる赤みを帯びた
薄茶色のドットは,外周部の略半分程度まで,重なって施されており,
・外周部には灰色のぼかし模様が施された部分は存在しないのに対し,
本件意匠では,外周部の約半分の領域に灰色のぼかし模様が施されて
いる
点で本件意匠と異なっている。
【図2-1】イ号製品のデザイン
【図2-2】 【図2-3】
(図2-2はイ号製品に付されている模様のオレンジ色のドットがあ
る領域を赤線で囲ったもの,図2-3はイ号製品に付されている模様
からオレンジ色のドットを抽出したもの)
c 類否の検討
前記のとおり,イ号意匠と本件意匠は,基本的構成態様は共通する
が,これらの点は,本件意匠の出願日以前からカラーコンタクトレン
ズ一般にみられるものであり,本件意匠に特有な構成ではない。
また,イ号意匠と本件意匠の具体的構成態様における前記共通点も,
先行意匠にもみられることであり,本件意匠に特有な構成ではない。
具体的構成態様の差異点について見るに,一般に,カラーコンタク
トレンズは,眼に装着することにより,様々な色やデザインを楽しみ
ながら自分好みのお洒落な目元を演出するものであるから,装着時に,
瞳(瞳孔)や虹彩に重なる中央部や内周部の色やデザインは,看者(需
要者)が最も注目する部分である。
そして,イ号意匠と本件意匠とは,中央部から外周部に及ぶぼかし
模様が存在するかという点において異なっているほか,イ号意匠では,
①中央部は比較的小さく,②オレンジ色のフレアー模様,灰色の背景
及び黒の外周の3つが比較的セパレートされた略3層構造で,オレン
ジ色のフレアー模様により瞳の縁取りを強調したデザインとなってい
るのに対し,本件意匠では,①中央部が比較的大きく,②赤みを帯び
た薄茶色の放射状の縞模様及び黒の外周との略2層構造とぼかし模様
を組み合わせ,かつ,それぞれが重なり合った構成で,瞳の縁取りを
強調しない,雑然としたデザインとなっている。
このように,イ号意匠と本件意匠とでは,全体的な色彩もデザイン
も異なるのである。
以上から,イ号意匠が本件意匠に類似しないことは明らかであり,
被告が本件意匠権を侵害しているという原告の主張は失当である。
イ ロ号意匠について
(ア) ロ号意匠の構成態様
ロ号意匠の構成態様は,別紙本件意匠・ロ号意匠対比表(被告主張)
の「ロ号意匠」欄記載のとおりである。
(イ) 本件意匠とロ号意匠の類否
ロ号意匠と本件意匠の差異点は,基本的に,イ号意匠と本件意匠の差
異点と同じであるが,色彩に関しては,ロ号意匠では,内周部に配され
ているのがオレンジ色のドットと黄色のドットであるのに対し,本件意
匠では,赤みを帯びた薄茶色のドットと灰色のドットである点も差異点
となる。したがって,ロ号意匠と本件意匠とでは,全体的な色彩もデザ
インも異なり,ロ号意匠は本件意匠に類似しないことは明らかである。
ウ 原告は,ぼかし模様が本件意匠の構成態様に含まれないことを前提にイ
号意匠及びロ号意匠との非類似を主張し,さらに仮に含まれるとしても,
カラーコンタクトレンズの需要者は,商品選択の際に,内周部(まだら模
様部)及び外周部の模様並びに色彩に着目して選択を行うから,ぼかし模
様の存在が類否判断に影響しないように主張する。
しかしながら,需要者は,その商品選択時にカラーコンタクトレンズを
正面(本件願書添付写真の【平面図】)から観察し,必然的に,正面の中
央付近の広い範囲に及んで施されているぼかし模様に着目するのである
から,ぼかし模様が本件意匠の要部を構成し,その存在が意匠の類否判断
に影響を与えることは明らかである。
また,原告は,ぼかし模様は意匠を構成する模様ではなく,色彩である
とも主張しているが,ぼかし模様は,その色合いや濃さが内周部の灰色の
ドットとほぼ同じであり,とくに中央部において,ぼかし模様の輪郭(境
界)は明瞭であるから,これが単なる色彩ではなく模様であることは明ら
かである。原告が中央部全体に対するぼかし模様の面積割合を20%ある
いは30%と具体的な数値で主張していること自体,ぼかし模様の輪郭
(境界)が明瞭であることの証左である。
したがって,原告の主張は採用できず,本件意匠のぼかし模様が美感に
影響を与えることは明らかであり,イ号意匠及びロ号意匠は,ぼかし模様
が存在しない点においても,本件意匠と美感を異にするのであって,イ号
意匠及びロ号意匠は本件意匠と類似しない。
(3) 争点(3)(本件意匠登録は無効審判により無効にされるべきものか)につい
て
(被告の主張)
ア 原告の主張を前提とすると,本件意匠は,先行して販売されていた他社
のコンタクトレンズ(乙13の1,2)の意匠により新規性を欠如するか,
少なくともこれに基づいて容易に創作できたものといえるから,意匠法3
条1項3号,2項により意匠登録を受けることができないものであり,本
件意匠登録は,同法48条1項1号に該当し無効審判により無効とされる
べきである。したがって,原告において,本件意匠権に基づく権利の行使
をすることができない(同法41条,特許法104条の3第1項)。なお,
以下においては,本件意匠並びにイ号意匠及びロ号意匠の構成態様を原告
主張に係る構成態様に基づいて,本件意匠と先行して販売されていた他社
のコンタクトレンズ(乙13の1,2)の意匠の対比を行う。
イ 乙13の1,2に記載された意匠
POLY TOUCH社は,ソフトコンタクトレンズ及びそのケア製品
を製造する会社(韓国)であり,本件意匠の出願前の2010年(平成2
2年)12月19日頃の同社のウェブサイトには,以下のコンタクトレン
ズの意匠(以下,左図の意匠を「乙13グレー意匠」,右図の意匠を「乙
13ブラウン意匠」といい,あわせて「乙13意匠」という。)が掲載さ
れていた。
なお,乙13グレー意匠は,内周部の内縁部におけるブラウンのドット
の密度がまばらである点等において,イ号意匠と差異があるが,その他は
ほぼ同じである。
ウ 乙13グレー意匠について
(ア) 本件意匠並びにイ号意匠及びロ号意匠についての原告の主張を前提に
すると,乙13グレー意匠は,別紙本件意匠・乙13グレー意匠対比表
(被告主張)の「乙13グレー意匠」欄記載のとおりとなる。
(イ) 本件意匠と乙13グレー意匠との対比
乙13グレー意匠の物品はカラーコンタクトレンズであり,本件意匠
の意匠に係る物品と同一である。また,本件意匠と乙13グレー意匠は,
以下のとおり,類似する。
基本的構成態様は,全て同一であり,具体的構成態様については,次
のとおりとなる。
① 中央部の全体に占める割合
本件意匠においては約47%であるのに対し,乙13グレー意匠で
は約35%である。
② まだら模様部
a 薄墨色の斑点模様
同一である。
b 薄茶色の斑点模様
本件意匠においては「薄茶色の斑点模様は,外周部の略半分程度
まで,重なって施されているが,重なって施されている部分の薄茶
色の斑点模様の密度は, 小さい。当該重なり部分では」であるのに
対し,乙13グレー意匠においては「薄茶色の斑点模様の内,約1
2の領域では,外周部の一部にまで重なって施されている。重なっ
て施されている部分において」という構成態様となっている点で差
異点が存在するものの,その余は,全て同一である。
c まだら模様部の全体に占める割合
本件意匠においては約14%であるのに対し,乙13グレー意匠
では約15%である。
③ 外周部
a 黒色線状模様の本数
本件意匠の黒色線状模様の本数は211本であるのに対し,乙1
3グレー意匠の本数は約200本程度である。
b 黒色線状模様の配置
本件意匠の縁部分に向けて突出している黒色線状模様は57本で
あるのに対し,乙13グレー意匠は60ないし70本程度である。
また,本件意匠のまだら模様部に向けて突出している黒色線状模
様は64本であるのに対し,乙13グレー意匠は60ないし70本
程度である。
その余は,全て同一である。
c 外周部の全体に占める割合
同一である(いずれも約11%)。
d 黒色線状模様の太さ
同一である(いずれも約11%)。
(ウ) 類否
本件意匠と乙13グレー意匠との差異点は,中央部の全体に占める割
合及び薄茶色の斑点模様と外周部との関係を除き,いずれも透明のコン
タクトレンズに模様を印刷するに当たっての誤差の範囲を脱しておら
ず,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に影響を及ぼすことはない。
また,中央部の全体に占める割合及び薄茶色の斑点模様と外周部との
関係に関する差異点は, 本件意匠と乙13グレー意匠の共通点(前記の
印刷上の誤差と評価し得るものを含める。)を凌駕するものではなく,
需要者に異なる美感を抱かせるものではない。
したがって,本件意匠と乙13グレー意匠とは類似し,これにより新
規性を欠如する(少なくともこれに基づいて容易に創作できた)ことと
なる。
エ 乙13ブラウン意匠について
(ア) 本件意匠並びにイ号意匠及びロ号意匠についての原告の主張を前提に
すると,乙13ブラウン意匠は,別紙本件意匠・乙13ブラウン意匠対
比表(被告主張)の「乙13ブラウン意匠」欄記載のとおりとなる。
(イ) 本件意匠と乙13ブラウン意匠との対比
乙13ブラウン意匠の物品はカラーコンタクトレンズであり,本件意
匠の意匠に係る物品と同一である。また,本件意匠と乙13ブラウン意
匠は,以下のとおり,類似する。
基本的構成態様は,全て同一であり,具体的構成態様については,前
記ウ(イ)
(②を除く)と同様であり,②まだら模様部は次のとおりとなる。
② まだら模様部
a 薄墨色の斑点模様
本件意匠の斑点模様は薄墨色であるのに対し,乙13ブラウン意
匠では薄茶色である(色違い)との差異点が存在する点を除き,全
て同一である。
b 薄茶色の斑点模様
本件意匠においては斑点模様が薄茶色であるのに対し,乙13ブ
ラウン意匠では茶色である点,本件意匠においては「薄茶色の斑点
模様は,外周部の略半分程度まで,重なって施されているが,重な
って施されている部分の薄茶色の斑点模様の密度は,小さい。当該
重なり部分では」であるのに対し,乙13ブラウン意匠においては
「茶色の斑点模様の内,約12の領域では,外周部の一部にまで重
なって施されている。重なって施されている部分において」という
構成態様となっている点で差異点が存在するものの,その余は,全
て同一である。
c まだら模様部の全体に占める割合
本件意匠においては約14%であるのに対し,乙13ブラウン意
匠では約15%である。
(ウ) 類否
本件意匠と乙13ブラウン意匠との差異点は,中央部の全体に占める
割合及び薄茶色の斑点模様と外周部との関係を除き,いずれも透明のコ
ンタクトレンズに模様を印刷するにあたっての誤差の範囲を脱しておら
ず,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に影響を及ぼすことはない。
また,中央部の全体に占める割合及び薄茶色の斑点模様と外周部との
関係に関する差異点は, 本件意匠と乙13ブラウン意匠の共通点(前記
の印刷上の誤差と評価し得るものを含める。 を凌駕するものではなく,
)
需要者に異なる美感を抱かせるものではない。
したがって,本件意匠と乙13ブラウン意匠とは類似し,これにより
新規性を欠如する(少なくともこれに基づいて容易に創作できた)こと
となる。
(原告の主張)
ア 公開日について
被告は,「The Wayback Machine」(以下「ウェ
イバックマシーン」という。)による「INTERNET ARCHIV
E」に基づき,乙13の1に示された画像データが2010年(平成22
年)12月19日頃に公開されており,同日頃には,乙13グレー意匠及
び乙13ブラウン意匠のいずれもが「電気通信回線を通じて公衆に利用可
能となった」旨主張する。
しかし,乙13の2に記載された日付けは信憑性が低いものとして裁判
例において取り扱われており,また,原告の確認したところでは乙13の
1の元データにあたる甲20に示されたデータが平2015年(成27
年)5月20日に保存されていること(甲20ないし25),保存日と保
存されたウェブページの内容について齟齬が認められること(甲26ない
し30)からすれば,ウェイバックマシーンによる保存内容の信憑性その
ものが欠如している。また,平成22年12月に乙13意匠に係るカラー
コンタクトレンズをウェブサイトに掲載したとするPOLY TOUC
H社からのメールについても,同様の内容のウェイバックマシーンの信憑
性が欠如しているゆえに信憑性を欠く。したがって,乙13の1に示され
た画像データが同月19日頃にインターネット上において公開されてい
たと認めることはできない。
イ 本件意匠と乙13意匠との非類似性
(ア) 本件意匠と乙13意匠の対比
乙13意匠は,前記(被告の主張)イの掲載図のとおりである。乙1
3グレー意匠の構成態様は別紙本件意匠・乙13グレー意匠対比表(原
告主張)の「乙13グレー意匠」欄記載のとおりであり,本件意匠との
対比は,同別紙のとおりである。乙13ブラウン意匠の構成態様は,別
紙本件意匠・乙13ブラウン意匠対比表(原告主張)の「乙13ブラウ
ン意匠」欄記載のとおりであり,本件意匠との対比は,同別紙のとおり
である。
(イ) 本件意匠と乙13意匠の差異点
a 本件意匠と乙13グレー意匠との差異点
本件意匠の基本的構成態様であり,かつ本件意匠の要部である「外
周部」は「多数の黒色線状模様によって,まだら模様部の周囲を囲む」
であるのに対し,乙13グレー意匠の「外周部」は,公知意匠におい
ても多く採用されている「黒色ドットによって球面体を黒く縁取った」
ものとなった点に差異がある。また,本件意匠と乙13グレー意匠と
は,具体的構成態様の全てにおいて差異点が存在し,特に「まだら模
様部」及び「外周部」の差異が顕著である。
b 本件意匠と乙13ブラウン意匠との差異点
本件意匠の基本的構成態様であり,かつ本件意匠の要部である「外
周部」は「多数の黒色線状模様によって,まだら模様部の周囲を囲む」
であるのに対し,乙13ブラウン意匠の「外周部」は,公知意匠にお
いても多く採用されている「黒色ドットによって球面体を黒く縁取っ
た」ものとなった点に差異がある。また,本件意匠と乙13ブラウン
意匠とは,具体的構成態様の全てにおいて差異点が存在し,特に「ま
だら模様部」及び「外周部」の差異が顕著である。
(ウ) 類否判断
本件意匠と乙13意匠とは,本件意匠の基本的構成態様であり,かつ
本件意匠の要部である「外周部」において差異点があり,具体的構成態
様においても,「まだら模様部」及び「外周部」には顕著な差異点が存
在する上に,他の具体的構成態様にも差異点が存在するため,需要者に
異なる美感を与える。
したがって,本件意匠と乙13意匠とは,いずれも類似しない。
(4) 争点(4)(損害額)について
(原告の主張)
被告製品の販売単価は1500円であり,被告による被告製品の一月当た
りの販売数は合計2000個であるところ,被告製品の利益率は43%であ
るから,被告は,平成26年7月から同年11月までの間の被告製品販売に
より645万円の利益を得た。
したがって,意匠法39条2項に基づき,原告の損害額は前記利益額であ
る645万円と推定される。
(被告の主張)
争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件意匠の構成態様)について
(1) 原告は,本件願書添付写真には整合性がなく,そのため本件願書添付写真
を見た当業者であれば,ぼかし模様が本件意匠を構成する模様及び色彩では
なく影であることを容易に理解することができるから,影に由来するぼかし
模様は意匠を構成しないとして,当業者を基準として,ぼかし模様を除いて
本件添付写真より把握することができる意匠を定め,当該意匠を基準に登録
意匠の範囲が決せられるべきであるとして,本件意匠の構成を主張している。
(2) 確かに本件願書添付写真には,【平面図】,【底面図】及び【斜視図】に,
平面によって切り取られた球面体の一部である本件意匠の中心からずれた位
置に円環状の灰色のぼかし模様が明らかに認められるが,証拠(甲12ない
し14,乙1)によれば,これは,模様として付されたものではなく,写真
撮影の際に台として使用されたアクリル板に他の模様が映った影であること
が認められる。
(3) しかし,登録意匠の範囲は,願書に写真を添付した場合,願書の記載及び
願書に添付した写真により現された意匠に基づいて定められるべきであるか
ら(意匠法24条1項),ぼかし模様も写真により現されている以上,本件
意匠を構成すると解すべきである。
この点,原告は,当業者であれば六面図間の不整合からぼかし模様が影で
あることが容易に分かることを前提に,ぼかし模様を除くべきように前記主
張をしているところであるが,そもそも一見したところでは,本件願書添付
写真上に看取されるぼかし模様の図面ごとのコンタクトレンズ上の位置関係
の整合性が欠けているものと認識できるわけではない。また,仮に当業者が
微細な点に注意して見たとしても,ぼかし模様は,【平面図】で正面から見
た場合,球面体の一部で現された本件意匠の中央頂点の中心からずれた位置
の円環状の模様であるため,見る角度によってその現れる位置が異なってく
ると想定され,そのため,【平面図】,【底面図】及び【斜視図】との間に
整合性がない部分が仮にあったとしても,それが図面間の不整合に由来する
のか,見る角度の違いに由来するのかを識別判断することは極めて困難なこ
とと考えられる。なお,本件願書添付写真のうち,【正面図】,【右側面図】,
【左側面図】及び【背面図】からは,ぼかし模様の存在を明確に認識するこ
とはできないが,これらの側方から撮影した写真は,撮影時における手前側
の模様等と反対側の模様等とが重なっていることから,そのことが原因とな
ってぼかし模様が見にくいものと理解される余地が多分にあるし,そうでな
くとも中央部の上部には影のような部分があることが認められ,これがぼか
し模様に由来するものであるとの認識を生じさせるということができるか
ら,図間に整合性がない部分があったとしても,そのことを認識することは
極めて困難であるといわざるを得ない。
(4) したがって,六面図の不整合から,本件願書添付写真上に看取されるぼか
し模様が影であることが認識されることを前提として,特殊な意匠の範囲の
定め方をすべきようにいう原告の主張は失当である。
(5) なお,ぼかし模様が本件意匠の構成態様に含まれるとすると,本件意匠の
範囲は,原告の意図とは異なったものになるが,証拠(甲12ないし14)
及び弁論の全趣旨によれば,ライティングを工夫すればそのような影が生じ
ないように写真撮影をすることは技術的に可能であったことがうかがえる
し,そもそも原告は,写真によらずに図面を願書に添付して出願することが
可能だったはずである。そして何より,本件願書添付写真が,意匠を現した
以外の画像を含み,そのため図面代用写真の要件を定めた意匠法6条2項,
意匠法施行規則4条1項,2項の要件を満たさないものであり,そのため登
録意匠の範囲を定めるにつき不利益が生じるかもしれないことは,本件意匠
の出願時において原告には明らかであったはずであるから,そのような写真
を図面代用写真で用いた不利益は原告において甘受するほかないというべき
である。
またさらに,ぼかし模様が本件意匠を構成しないと仮定して検討するとし
ても,その場合,本件意匠は,本件願書添付写真からぼかし模様を除去した
画像を想定して,その範囲を定めなければならないことになるが,原告の主
張する「まだら模様部」にある灰色の斑点模様と灰色のぼかし模様との境は
明確に区別できるものとは認められないから,そもそもぼかし模様だけを除
いた灰色の斑点模様を認識することはできず,そのため本件意匠は不明確な
部分を含むという問題が生じてしまうことになる。すなわち,ぼかし模様を
除去して本件意匠の範囲を定めるように求める原告の主張は,本件意匠登録
には,対象とする意匠が明確でないという無効理由(意匠法3条1項柱書,
48条1項1号)があることの認定を積極的に求めると同様にならざるを得
ないのであって,したがって,この点で原告主張はやはり採用することがで
きないといわざるを得ない。
(6) 本件意匠の構成
以上を前提とすると,本件意匠の範囲は,原則どおり,ぼかし模様を含ん
だものとして,本件願書添付写真に基づき定められるべきであり,その基本
的構成及び具体的構成は,別紙本件意匠・イ号意匠対比表(裁判所認定)及
び別紙本件意匠・ロ号意匠対比表(裁判所認定)の「本件意匠」欄記載のと
おりと認められる(甲2,乙1)。
2 争点(2)(イ号意匠及びロ号意匠は本件意匠と類似するか)について
(1) 登録意匠とそれ以外の意匠の類否の判断は,需要者の視点を通じて起こさ
せる美感に基づいて行うとされているところ(意匠法24条2項),その判
断に当たっては,両意匠を全体的観察により対比し,当該意匠に係る物品の
性質,用途,使用態様,さらには登録意匠における公知意匠にない新規な創
作部分の存否等を参酌して,登録意匠について需要者が視覚を通じて注意を
惹きやすい特徴的部分(要部)を把握し,この特徴的部分を中心に両意匠を
対比した上で,両意匠が全体的な美感を共通にするか否かによって類否を決
するのが相当である。
(2) 各意匠の形態
ア 本件意匠の形態
本件意匠はカラーコンタクトレンズに係る意匠であり,その形態は,本
件願書添付写真のとおりであり,その基本的構成態様及び具体的構成態様
は前記1(6)で認定したとおりである。
イ イ号意匠及びロ号意匠の構成(甲3及び4(各枝番を含む。),10,
弁論の全趣旨)
イ号意匠及びロ号意匠は,いずれもカラーコンタクトレンズに係る意匠
であり,それぞれ別紙イ号意匠説明図及び同ロ号意匠説明図のとおりであ
る。その構成態様は,それぞれ別紙本件意匠・イ号意匠対比表(裁判所認
定)及び別紙本件意匠・ロ号意匠対比表(裁判所認定)の「イ号意匠」及
び「ロ号意匠」欄記載のとおりである。
(3) 本件意匠の特徴的部分(要部)の認定
ア カラーコンタクトレンズの性質,用途,使用態様
カラーコンタクトレンズは,人の眼に装着して使用されるものであり,
色彩,模様が付されるが,一般的には自然な目元でありながら需要者が希
望する目元の印象を得るために使用されるものであることからすると,そ
の基本的構成態様は,必然的に自然な瞳の構造に沿い,使用時に眼の瞳孔
部分に対応する円形状の中心部と,虹彩部に対応する内周部と,強膜との
境界を形作る虹彩部の周囲に対応する外周部とからなることになる(弁論
の全趣旨)。
イ 公知意匠
本件意匠の出願日(平成24年10月30日)より前に公開された韓国
の意匠公報(乙2,3)には,意匠に係る物品がコンタクトレンズで,球
面体の一部を平面により切り取った曲面体の中央部に小円形状の中央部
と,その周囲を囲む色の付いた多数の点による模様のある内周部と,球面
体の中心点からみて放射状に延びる黒色線が多数配された外周部とから
なる意匠が示されており,当該黒色線は,内周部方向の端部の長さが不規
則となっている。
また,本件意匠の出願日前に販売されていたカラーコンタクトレンズ(乙
13の1,2)には,外周部が中心点からみて放射状に延びる多数の黒色
線よりなり,その線の長さが不均一で,黒色線の両端は,内周部及び球面
体の外側に対し不規則に配置されている意匠が示されている(乙13の
1,2,4,5)。
なお,原告は,乙13意匠については,その公知性の根拠として主張さ
れる乙13の1のウェブページの公開日が信用できない旨主張し,ウェイ
バックマシーンによるウェブページの保存内容と保存日時との間には時
間的な齟齬があること等を指摘する。しかし,ウェイバックマシーンによ
る保存内容の信用性はさておくとしても,証拠(乙13の5)によれば,
乙13意匠の物品を製造販売しているPOLY TOUCH社が,被告か
らの問い合わせに対し,同物品を2010年(平成22年)前半に製造を
開始し,同年12月にウェブサイトに掲載したとの回答をしていることが
認められる。そして,そのPOLY TOUCH社による回答の信用性を
疑わせる特段の事情は認められないのであるから,同社による回答に基づ
き,本件意匠出願日(平成24年10月30日)より約2年前には乙13
意匠に係るカラーコンタクトレンズは製造され,したがってその意匠が公
然知られることになっていたものと認めるのが相当である。すなわち,そ
の公知性を争う上記原告主張は採用できない。
ウ 検討
前記アによれば,カラーコンタクトレンズにおいては,使用時において人
の眼の瞳孔部分に対応する円形状の中心部と,虹彩部に対応する内周部と,
強膜との境界を形作る虹彩部の周囲に対応する外周部とからなる基本的構成
態様を有する意匠は周知であったものと認められるが,これを前提に商品選
択をする需要者の使用に関する希望からすると,需要者は,目元の印象を決
める要素であるところの虹彩部に対応する内周部にどの程度どのような模様
を付され,色付けされているのか,また,強膜と虹彩部の境界を形作る部分
に対応する外周部にどのような色彩でどの程度の強弱を付けられているのか
という要素を重視して商品を選択するものと認められる。
他方,前記イのとおり,前記基本的構成態様を備えたカラーコンタクトレ
ンズのうち,内周部が点状の模様で構成されること,外周部に放射線状に不
規則に配置された長さが不均一な黒色線が用いられることは公知であったと
いえる。
したがって,本件意匠において需要者の注意を惹きやすい特徴的部分(要
部)は,その虹彩部に対応する内周部及び外周部の色彩,模様のデザインの
うち,内周部の点状の模様の色彩及び形状,黒色線の形状,配置等の細かな
具体的構成態様そのものであり,加えて,本件意匠においては通常は透明で
あるべき瞳孔部分に対応する中心部に及んだぼかし模様が施されている点も
需要者の注意を惹きやすい特徴的部分(要部)であるものと認められる。
(4) 本件意匠とイ号意匠の対比検討
ア 意匠に係る物品
本件意匠に係る物品及びイ号意匠に係る被告製品は,いずれもカラーコ
ンタクトレンズであって同一である。
イ 基本的構成態様について
本件意匠とイ号意匠は,基本的構成態様において共通する。
ウ 具体的構成態様について
(ア) 共通点
内周部に灰色の斑点と赤みを帯びた薄茶色の斑点とが,全体に及んで
配されている点,外周部には,球面体の中心点からみて放射状に延びる
黒色線が200本程度配されており,その長さは不均一であり,その両
端は,内周部及び球面体の外側に対し不規則に配置されている点が共通
する。
(イ) 差異点
① 中央部
a 中央部の全体に占める割合は,本件意匠が約47%であるのに対
し,イ号意匠は約38%である。
b 本件意匠には中央部に三日月状の灰色のぼかし模様があるのに対
し,イ号意匠は全て透明である。
② 内周部
a 本件意匠には【平面図】においてその約3分の2の領域に灰色の
ぼかし模様があるのに対し,イ号意匠にはそれが存在しない。
b 本件意匠においては,赤みを帯びた薄茶色の斑点状の模様は外周
に向けて放射状に延びる幅のある棒状形状となっており,その太さ
や長さは一様ではないのに対し,イ号意匠においては,内周部の内
縁から外周部に向かってフレアー状の形態を形成するように配され
ている。
c 本件意匠においては,赤みを帯びた薄茶色の斑点状の模様は,外
周部に一部,重なって施されているのに対し,イ号意匠においては,
外周部にはほとんど重なっていない。
エ 検討
(ア) 基本的構成態様の共通点について
本件意匠とイ号意匠とは,全ての点で共通する。
(イ) 具体的構成態様の共通点及び差異点について
本件意匠とイ号意匠とは,内周部に灰色の斑点と赤みを帯びた薄茶色
の斑点とが,全体に及んで配されている点,外周部には,球面体の中心
点からみて放射状に延びる黒色線が200本程度配されており,その長
さが不均一であり,その両端が内周部及び球面体の外側に対し不規則に
配置されている点で共通する。
しかし,本件意匠の内周部の模様は,赤みを帯びた薄茶色の斑点状の
模様が外周に向けて放射状に延びる幅のある棒状形状で,灰色斑点模様
に混ざり合うような形状となっていることから,虹彩部分には自然に明
るい雰囲気を作るのに対し,イ号意匠のそれにおいては,本件意匠に比
して狭い中央部を囲む内周部の内側から赤みを帯びた薄茶色の模様が周
囲にフレアー状になるように配されていることから,虹彩部において中
心部から相当程度赤色の色味が強く看取できることが特徴的となってい
る。
さらに,本件意匠は,中央部の全体に占める割合が広く,その中央部
には三日月状のぼかし模様があるのに対し,イ号意匠は中央部が本件意
匠に比して狭く,中央部は全て透明となっている点で異なっている。ま
た,内周部の模様にも,本件意匠には灰色の斑点状の模様だけでなく約
3分の2に及んでぼかし模様が存在する点で異なっている。
(ウ) 類否
前記(3)認定のとおり,本件意匠において,需要者の注意を惹きやすい
特徴的部分(要部)は,その虹彩部に対応する内周部及び外周部の色彩,
模様のデザインのうち,内周部の点状の模様の色彩及び形状,黒色線の
形状,配置等の細かな具体的構成態様そのものと,通常は透明であるべ
き瞳孔部分に対応する中心部に及んで施されたぼかし模様である。
そうすると,イ号意匠は,本件意匠の要部である黒色線の形状,配置
等を備えているが,内周部の点状の模様の色彩及び形状の具体的構成態
様で相当異なるのみならず,中心部に及んだぼかし模様が施されていな
いという点でも異なっていることから全体的に需要者に異なる美感を与
えるものというべきであって類似しているとはいえない。
なお,原告は,両意匠の共通点と認定した黒色線状の形状,配置等に
つき,外周部を黒色線状により表現し,外周部の外縁を不規則(シャギ
ー状)とすることで使用時の自然さを表現することを意識した点が,公
知意匠にない最も特徴的な部位であるから,この点が同じイ号意匠は,
本件意匠に類似する旨主張する。しかし,前記のとおり,黒色線が不規
則に配置されている意匠は公知意匠にも存するのであるし,仮に公知意
匠にないとしても,本件意匠とイ号意匠は内周部の点状の模様の色彩及
び形状の具体的構成態様で相当異なるのみならず,中心部に及んだぼか
し模様が施されていないという点でも異なっているのであるから,特徴
的部分の一部が共通するからといって,それだけで両意匠を類似してい
るということはできない。
オ 結論
したがって,本件意匠とイ号意匠とは類似しているということはできな
い。
(5) 本件意匠とロ号意匠の対比検討
ア 意匠に係る物品
本件意匠に係る物品及びロ号意匠に係る被告製品は,いずれもカラーコ
ンタクトレンズであって同一である。
イ 基本的構成態様について
本件意匠とロ号意匠は,基本的構成態様において共通する。
ウ 具体的構成態様について
(ア) 共通点
外周部に,球面体の中心点からみて放射状に延びる黒色線が200本
程度配されており,その長さは不均一であり,その両端は,内周部及び
球面体の外側に対し不規則に配置されている点が共通する。
(イ) 差異点
① 中央部
a 中央部の全体に占める割合は,本件意匠が約47%であるのに対
し,ロ号意匠は約38%である。
b 本件意匠には中央部に三日月状の灰色のぼかし模様があるのに対
し,ロ号意匠は全て透明である。
② 内周部
a 本件意匠には【平面図】においてその約3分の2の領域に灰色の
ぼかし模様があり,灰色の斑点状の模様が全体にあるのに対し,ロ
号意匠にはぼかし模様がなく,黄色の斑点状の模様が配されている。
b 本件意匠においては,赤みを帯びた薄茶色の斑点状の模様は,外
周に向けて放射状に延びる幅のある棒状形状となっており,その太
さや長さは一様ではないのに対し,ロ号意匠においては,オレンジ
色の斑点状の模様が,内周部の内縁から外周部に向かってフレアー
状の形態を形成するように配されている。
c 本件意匠においては,赤みを帯びた薄茶色の斑点状の模様は,外
周部に一部,重なって施されているのに対し,ロ号意匠においては,
オレンジ色の斑点状の模様が外周部にはほとんど重なっていない。
エ 検討
(ア) 基本的構成態様の共通点について
本件意匠とロ号意匠とは,全ての点で共通する。
(イ) 具体的構成態様の共通点及び差異点について
本件意匠とロ号意匠とは,外周部には,球面体の中心点からみて放射
状に延びる黒色線が200本程度配されており,その長さが不均一であ
り,その両端が内周部及び球面体の外側に対し不規則に配置されている
点で共通する。
しかし,本件意匠の内周部の模様は,赤みを帯びた薄茶色の斑点状の
模様が外周に向けて放射状に延びる幅のある棒状形状で,灰色斑点模様
に混ざり合うような形状となっていることから,虹彩部分には自然に明
るい雰囲気を作るのに対し,ロ号意匠のそれにおいては,本件意匠に比
して狭い中央部を囲む内周部の内側からオレンジ色の模様が周囲にフレ
アー状になるように配されていることから,虹彩部において中心部から
相当程度オレンジ色の色味が強く看取できることが特徴的となってい
る。
さらに,本件意匠は,中央部の全体に占める割合が広く,その中央部
には三日月状のぼかし模様があるのに対し,ロ号意匠は中央部が本件意
匠に比して狭く,中央部は全て透明となっている点で異なっている。ま
た,内周部の模様にも,本件意匠には灰色の斑点状の模様だけでなく約
3分の2に及んでぼかし模様が存在する点で異なっており,さらに,斑
点状の模様については,その色彩も異なっている。
(ウ) 類否
ロ号意匠が,本件意匠の要部である黒色線の形状,配置等を備えてい
るが,内周部の点状の模様の色彩及び形状の具体的構成態様で相当異な
るのみならず,中心部に及んだぼかし模様が施されていないという点で
も異なっていることから全体的に需要者に異なる美感を与えるものとい
うべきであって類似しているとはいえないことは,イ号意匠について判
断したところと同じである。
また,本件意匠の黒色線状の形状,配置等に公知意匠にない最も特徴
的な部位があるとの原告の主張についても,要部認定に用いた公知意匠
がないとした上でも,本件意匠とロ号意匠は内周部の点状の模様の色彩
及び形状の具体的構成態様で相当異なるのみならず,中心部に及んだぼ
かし模様が施されていないという点でも異なっていることから類似とい
えないとすることも,イ号意匠について判断したところと同じである。
オ 結論
したがって,本件意匠とロ号意匠とは類似しているということはできな
い。
3 結論
以上のとおり,本件意匠とイ号意匠及びロ号意匠は類似しないから,原告の
請求は,その余の点を判断するまでもなくいずれも理由がないことになる。
よって,原告の被告に対する請求をいずれも棄却することとし,訴訟費用の
負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 森 崎 英 二
裁判官 田 原 美 奈 子
裁判官 林 啓 治 郎
別紙意匠公報,同イ号意匠説明図及び同ロ号意匠説明図添付
その余の別紙は掲載省略
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