平成26(ワ)12198損害賠償請求事件
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所
|
裁判年月日 |
平成27年12月24日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告AppleJapan合同会社 原告アダプティックスインコーポレイテッド
|
対象物 |
適応サブキャリア-クラスタ構成及び選択的ローディングを備えたOFDMA |
法令 |
特許権
特許法101条5号2回 特許法102条3項1回
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キーワード |
特許権11回 分割11回 侵害8回 実施7回 進歩性4回 間接侵害4回 損害賠償3回 無効3回 優先権1回 審決1回 新規性1回
|
主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 |
事件の概要 |
本件は,発明の名称を「適応サブキャリア-クラスタ構成及び選択的ローデ
ィングを備えたOFDMA」とする特許権を有する原告が,携帯電話端末及び
タブレットの輸入及び販売をする被告に対し,これらの行為が上記特許権を侵
害する旨主張して,不法行為による損害賠償請求権に基づき,一部請求として,
損害賠償金1億円,及びうち5000万円に対する不法行為後である平成26
年5月30日(訴状送達日の翌日)から,うち残金5000万円に対する不法
行為後である平成27年3月17日(訴え変更申立書送達日の翌日)から,そ
れぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める
事案である。 |
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判決文
平成27年12月24日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成26年(ワ)第12198号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成27年10月29日
判 決
原 告 アダプティックス インコーポレイテッド
同訴訟代理人弁護士 飯 田 秀 郷
同 隈 部 泰 正
同 森 山 航 洋
同訴訟代理人弁理士 黒 田 博 道
同 北 口 智 英
被 告 Apple Japan合同会社
同訴訟代理人弁護士 片 山 英 二
同 北 原 潤 一
同 岡 本 尚 美
同 岩 間 智 女
同訴訟代理人弁理士 大 塚 康 徳
同 補 佐人 弁 理 士 大 塚 康 弘
同 坂 田 恭 弘
同 江 嶋 清 仁
同 前 田 浩 次
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は,原告に対し,1億円及びうち5000万円に対する平成26年5月
30日から,うち5000万円に対する平成27年3月17日から,それぞれ
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,発明の名称を「適応サブキャリア-クラスタ構成及び選択的ローデ
ィングを備えたOFDMA」とする特許権を有する原告が,携帯電話端末及び
タブレットの輸入及び販売をする被告に対し,これらの行為が上記特許権を侵
害する旨主張して,不法行為による損害賠償請求権に基づき,一部請求として,
損害賠償金1億円,及びうち5000万円に対する不法行為後である平成26
年5月30日(訴状送達日の翌日)から,うち残金5000万円に対する不法
行為後である平成27年3月17日(訴え変更申立書送達日の翌日)から,そ
れぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める
事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告は,上記特許権を有するアメリカ合衆国の法人である。
イ 被告は,アメリカ合衆国カリフォルニア州に本社を置く,インターネッ
ト,デジタル家電製品等を開発販売するアップルインコーポレイテッドの
日本法人である。
(2) 原告の特許権
原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,この特許を「本件特
許」という。)を有している。なお,平成26年12月9日に訂正審決がさ
れ,請求項16が訂正された(後記(3)イの下線部分)。
ア 特許番号 特許第5119070号
イ 発明の名称 適応サブキャリア-クラスタ構成及び選択的ローディング
を備えたOFDMA
ウ 出願日 平成20年7月14日
エ 優先日 平成12年12月15日
オ 優先権主張国 米国
カ 登録日 平成24年10月26日
(3) 特許請求の範囲の記載
ア 本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」とい
う。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,
同請求項に係る発明を「本件特許発明1」という。)。
「直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)を採用しているシステム
のためのサブキャリア選択の方法において,加入者装置が,基地局から
受信したパイロット記号に基づいて,複数のサブキャリアについてチャ
ネル及び干渉情報を測定する段階と,前記加入者装置が,候補サブキャ
リアのセットを選択する段階と,前記加入者装置が,前記候補サブキャ
リアのセットに関するフィードバック情報を前記基地局に提供する段階
と,前記加入者装置が,前記加入者装置用として前記基地局により選択
された前記サブキャリアのセットのサブキャリアの表示を受信する段階
と,から成り,前記加入者装置は,割り当てられるべき前記サブキャリ
アのセットを割り当てられた後,更新されたサブキャリアのセットを受
けるために,更新されたフィードバック情報を提出する段階と,その後,
前記加入者装置が,前記更新されたサブキャリアのセットの別の表示を
受信する段階とを更に含んでいることを特徴とする方法。」
イ 本件明細書の特許請求の範囲の請求項16の記載は,次のとおりである
(ただし,下線部分は事後的に訂正された部分である。)(以下,同請求
項に係る発明を「本件特許発明16」といい,本件特許発明1と併せて
「本件特許発明」と総称する。)。
「複数の加入者装置が使用を望んでいるサブキャリアのクラスタを表示
するフィードバック情報を生成することができる,第1セル内の複数の
加入者装置と,前記複数の加入者装置に対して,クラスタ内のOFDM
Aサブキャリアを割り当てることができる,前記第1セル内の第1基地
局と,を備えており,前記複数の加入者装置は,それぞれ,前記第1基
地局から受信したパイロット記号に基づいて前記複数のサブキャリアに
関するチャネル及び干渉情報を測定し,前記複数の加入者装置のうちの
少なくとも1つは,前記複数のサブキャリアから候補サブキャリアのセ
ットを選択し,前記少なくとも1つの加入者装置は,前記候補サブキャ
リアのセットに関するフィードバック情報を前記基地局に提供して,前
記少なくとも1つの加入者装置が使用するように前記第1基地局が前記
サブキャリアのセットから選択したサブキャリアの表示を受信するよう
になっており,前記加入者装置は,前記サブキャリアのセットを割り当
てられた後,更新されたサブキャリアのセットを受信するために,更新
されたフィードバック情報を提出し,その後,前記更新されたサブキャ
リアのセットの別の表示を受信することを特徴とする装置。」
(4) 本件特許発明の構成要件
ア 本件特許発明1を構成要件に分説すると,以下のとおりである(以下,
分説した構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件1A」などとい
う。)。
1A 直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)を採用しているシス
テムのためのサブキャリア選択の方法において,
1B 加入者装置が,基地局から受信したパイロット記号に基づいて,
複数のサブキャリアについてチャネル及び干渉情報を測定する段階
と,
1C 前記加入者装置が,候補サブキャリアのセットを選択する段階と,
1D 前記加入者装置が,前記候補サブキャリアのセットに関するフィ
ードバック情報を前記基地局に提供する段階と,
1E 前記加入者装置が,前記加入者装置用として前記基地局により選
択された前記サブキャリアのセットのサブキャリアの表示を受信す
る段階と,から成り,
1F 前記加入者装置は,割り当てられるべき前記サブキャリアのセッ
トを割り当てられた後,更新されたサブキャリアのセットを受ける
ために,更新されたフィードバック情報を提出する段階と,
1G その後,前記加入者装置が,前記更新されたサブキャリアのセッ
トの別の表示を受信する段階とを更に含んでいる
1H ことを特徴とする方法。
イ 本件特許発明16を構成要件に分説すると,以下のとおりである(以下,
分説した構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件16A」などとい
う。)。
16A 複数の加入者装置が使用を望んでいるサブキャリアのクラスタ
を表示するフィードバック情報を生成することができる,第1セ
ル内の複数の加入者装置と,
16B 前記複数の加入者装置に対して,クラスタ内のOFDMAサブ
キャリアを割り当てることができる,前記第1セル内の第1基地
局と,を備えており,
16C 前記複数の加入者装置は,それぞれ,前記第1基地局から受信
したパイロット記号に基づいて前記複数のサブキャリアに関する
チャネル及び干渉情報を測定し,
16D 前記複数の加入者装置のうちの少なくとも1つは,前記複数の
サブキャリアから候補サブキャリアのセットを選択し,前記少な
くとも1つの加入者装置は,前記候補サブキャリアのセットに関
するフィードバック情報を前記基地局に提供して,前記少なくと
も1つの加入者装置が使用するように前記第1基地局が前記サブ
キャリアのセットから選択したサブキャリアの表示を受信するよ
うになっており,
16E 前記加入者装置は,前記サブキャリアのセットを割り当てられ
た後,更新されたサブキャリアのセットを受信するために,更新
されたフィードバック情報を提出し,
16F その後,前記更新されたサブキャリアのセットの別の表示を受
信する
16G ことを特徴とする装置。
(5) 被告の行為
ア 被告は,業として,別紙物件目録記載1ないし3,8,9の携帯電話端
末及び同目録記載4ないし7,10,11のタブレット(以下,これらを
「被告製品」と総称する。)を販売している。
イ 被告製品は,いずれも第3世代移動通信システムの標準化組織である3
GPPが定めた第3世代(3G)移動通信システムの長期的高度化システ
ムであるLTE(Long Term Evolution)の規格(以下「LTE規格」と
いう。)のリリース8又は10に準拠している(具体的には,被告製品の
うち別紙物件目録記載1ないし7の製品はリリース8に,同目録記載8な
いし11の製品はリリース8又は10に,それぞれ準拠している。)。
2 争点
原告は,「被告製品はLTE規格に準拠したものであるから,被告製品が用
いられる通信システム方法(以下「本件通信システム方法」という。)は少な
くとも別紙「本件通信システム方法の特徴」のとおりの構成を有し,被告製品
により構築される通信システム(以下「本件通信システム」という。)は別紙
「本件通信システムの特徴」のとおりの構成を有するものであるところ,本件
通信システム方法は本件特許発明1の,本件通信システムは本件特許発明16
の技術的範囲にそれぞれ属するから,特許法101条5号又は2号により,被
告製品の販売は本件特許権の侵害行為とみなされる」旨主張する。
また,LTE規格通信においては,チャネル品質インディケータ(以下「C
QI」という。)の基地局への報告は複数の態様で行われるが,原告は,本訴
において,非周期的CQIレポートのうち高次階層設定サブバンドフィードバ
ックモードのみを問題としている。
本件の争点は以下のとおりである。
(1) 本件通信システム方法の本件特許発明1の技術的範囲への属否
(構成要件1A,1G,1Hの充足につき争いがない)
(2) 本件通信システムの本件特許発明16の技術的範囲への属否
(構成要件16F,16Gの充足につき争いがない)
(3) 本件特許権の間接侵害の成否
(4) 本件特許の無効理由の有無
(5) 原告が被った損害額
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(本件通信システム方法の本件特許発明1の技術的範囲への属
否)について
ア 原告の主張
(ア) 構成要件1B
本件通信システム方法において,基地局はユーザ端末に向けて,リフ
ァレンス信号を送信し,被告製品はこれを受信する。リファレンス信号
は,既知の振幅,位相等を備えるもので,周期的に送信されるから,構
成要件1Bのパイロット記号に相当する。
また,本件通信システム方法において,リファレンス信号を受信した
被告製品は,CQIを得るための基礎情報を得るため,リファレンス信
号を乗せたサブキャリアに関するチャネル応答及び干渉(雑音を含む)
に関するチャネル品質を測定する。したがって,被告製品がCQIを得
るためにリファレンス信号を測定して基礎情報を取得することは,複数
のサブキャリアについてチャネル及び干渉情報を測定することに相当す
る。
なお,本件通信システム方法において,リファレンス信号を受信した
ユーザ端末は,受信信号からSINRを測定し,これを4ビットで量子
化したCQIを得る。そして,SINR及びCQIは,構成要件1Bの
チャネル及び干渉情報に相当する(構成要件16Cも同じ)。もっとも,
特許請求の範囲では,「チャネル及び干渉情報」について「SINR」
に限定されてはいない。
(イ) 構成要件1C
a LTE規格におけるリソース・ブロックは,本件特許発明1のサブ
キャリアのセットに相当するところ,所定数のリソース・ブロックは
サブバンドに組織されており,サブバンドを選択することは,これを
構成するリソース・ブロックが当然に特定される関係にあるから,リ
ソース・ブロックの選択に相当する。
そして,本件通信システム方法において,高次階層設定サブバンド
フィードバックモードが選択されたときは,被告製品はこれに応じて
全部のサブバンドを選択するところ,これは,各サブバンドを構成す
るリソース・ブロックの全部を選択することに相当する(以下,この
立場を「見解1」という。)。
なお,情報処理技術分野における用語法において,「全部の選択」
等の用語の用い方はごく一般的なものである。そして,本件特許発明
1は,コンピュータによる情報処理技術に関するものとしてアルゴリ
ズムが記載されているから,同発明の「選択」の技術的意義を解釈す
る場合には,単なる日本語の語義に基づくことは誤りである。
b また,被告製品は,基地局からのリファレンス信号を測定して,C
QI報告のための基礎情報を獲得し,これに基づき,各リソース・ブ
ロックのCQI及び所定数のリソース・ブロックから構成される各サ
ブバンドのCQIを得る。同時に,被告製品は,全帯域の平均CQI
(ワイドバンドCQI)を得るところ,前記各サブバンドCQIとワ
イドバンドCQIの差分をとって差分CQIを計算する。
そして,サブバンド差分CQI値の「0」,「1」及び「2」は,
ワイドバンドCQI以上であることを示し,サブバンド差分CQI値
の「3」は,ワイドバンドCQI以下であることを示す。
差分CQIが3になるようなサブバンドCQIは,ワイドバンドC
QIよりチャネル品質が劣っているものであり,基地局に対して差分
CQIの3を付して報告した場合,これは,通信に不適なものである
と被告製品が判断していることを示す。
そのため,差分CQIの3以外の差分CQIである0,1又は2を
付してサブバンドの差分CQIを報告することは,これら差分CQI
が付されたサブバンドに属するリソース・ブロックを選択したことを
意味する(以下,この立場を「見解2」という。)。
以上のとおり,被告製品は,基地局から高次階層設定サブバンドフ
ィードバックモードによる非周期的CQI報告を求められると,差分
CQIの0,1又は2を付してサブバンドを選択することにより,こ
れを構成するリソース・ブロックを選択する。
なお,全部のサブバンドの差分CQIを伝送する方が,「選択」し
た一部のサブバンドの差分CQIを伝送するよりも情報量を低減化で
きるものである。
c 以上のように,見解1,2のいずれを採った場合でも,本件通信シ
ステム方法は,構成要件1Cを充足する。
(ウ) 構成要件1D
本件通信システム方法においては,被告製品が基地局から高次階層設
定サブバンドフィードバックモードによるCQI報告を求められると,
サブバンドCQIに関するCQI情報を基地局に提供するところ,これ
はサブバンドに属するリソース・ブロックに関するフィードバック情報
を基地局に提供することに相当する。
そして,見解1又は2のいずれに基づいても,上記選択した候補サブ
バンドに関するフィードバック情報は,各サブバンドを構成する候補リ
ソース・ブロックに関するフィードバック情報に相当する。
このように,本件通信システム方法は,構成要件1Dを充足する。
(エ) 構成要件1E
a 本件通信システム方法においては,基地局は,リソース・ブロック
の集合を特定してDCIフォーマットにより被告製品に通知するとこ
ろ,同DCIメッセージは,選択したサブキャリアの表示に相当する。
そして,被告製品の通信に関する測定結果(甲36ないし39)は,
基地局が割り当てたリソース・ブロックがいずれも差分CQIの0,
1又は2が付されたサブバンドに属するリソース・ブロックであるこ
とを証明している。この点に関し,見解1からすれば,この測定結果
が示す基地局が割り当てたリソース・ブロックは,全帯域のリソー
ス・ブロックに属するから,候補リソース・ブロックの中から基地局
が選択したリソース・ブロックをDCIメッセージで特定し,これが
被告製品に通知され,被告製品はこれを受信することになる。
また,見解2からすれば,この測定結果が示す基地局が割り当てた
リソース・ブロックは,いずれも差分CQIの0,1又は2を付した
サブバンドを構成する候補リソース・ブロックに属するから,候補リ
ソース・ブロックの中から基地局が選択したリソース・ブロックをD
CIメッセージで特定し,これが被告製品に通知され,被告製品はこ
れを受信することになる。
このように,本件通信システム方法は,構成要件1Eを充足する。
b なお,基地局が,加入者装置が差分CQIの0,1又は2を付した
サブバンドに属するリソース・ブロックのみを割り当てている場合
(甲36ないし39参照)は,構成要件1Eを充足することは明らか
である(構成要件16Dも同様)。
また,仮に基地局が,加入者装置が差分CQIとして0,1又は2
を付したサブバンドに属するリソース・ブロックに付加して差分CQ
Iとして3を付したサブバンドに属するリソース・ブロックを割り当
てる場合であっても,加入者装置が差分CQIの0,1又は2を付し
たサブバンドに属するリソース・ブロックを割り当てる以上,構成要
件1Eの充足性を否定することはできない(構成要件16Dも同様)。
そして,本件特許発明1の作用効果は「帯域幅コストと統合最適化
のための計算費用」の低減化と統合最適化オペレーションの継続・維
持であるところ,同作用効果は,差分CQIの0,1又は2を付した
サブバンドに属するリソース・ブロックのみを割り当てなければ得ら
れないということはないから,差分CQIの0,1又は2を付したサ
ブバンドに属するリソース・ブロックのみを割り当てなければならな
いとの限定解釈をすべき理由はない。
いずれにしても,基地局が,加入者装置が差分CQIとして0,1
又は2を付したサブバンドに属するリソース・ブロックに付加して差
分CQIとして3を付したサブバンドに属するリソース・ブロックを
割り当てることがあるとする立証はされていない。
(オ) 構成要件1F
被告製品の通信に関する測定結果(甲36ないし39)によれば,高
次階層設定サブバンドフィードバックモードによるフィードバックを受
けた基地局が,被告製品に対してDCIフォーマット情報により,割り
当てるべきリソース・ブロックを特定して通知した後,改めて,非周期
的CQI報告を被告製品に求め,被告製品はこれに応じて,高次階層設
定サブバンドフィードバックモードによるフィードバック情報を基地局
に提供していることが立証された。このフィードバック情報は,更新さ
れたフィードバックモード情報に相当するから,本件通信システム方法
は構成要件1Fを充足する。
イ 被告の主張
(ア) 構成要件1B
LTE規格には,ユーザ端末が基地局から受信したリファレンス信号
に基づいてSINRを測定する旨の記載はないため,被告製品が基地局
から受信したリファレンス信号に基づいてSINRの測定を行っている
とはいえない。
また,CQIとSINRとは異なるものであり,CQIはSINRを
指標化したものではない。
(イ) 構成要件1C
a 「選択」とは,二つ以上のものの中から,何らかの選択基準に適う
ものを抜き取ることを意味するところ,非周期的CQI報告の高次階
層設定サブバンドフィードバックモードにおいては,加入者装置は,
常に全てのサブバンドについてサブバンド差分CQIをフィードバッ
クするのであって,そこには,何らかの選択基準に適うものを抜き取
るプロセスは存在しない。
また,一般論として,「選択」を行った結果としての全部選択とい
うことはあり得るとしても,同モードにおいては,常に全てのサブバ
ンドを対象としてフィードバックを行うことが,LTE規格上定まっ
ているのであるから,加入者装置には,そもそもサブバンドの「選
択」の余地はない。
以上からすれば,同モードにおいては,いかなるサブキャリアのセ
ットも「選択」されていない(構成要件16Dも同様)。
仮に,「全サブバンド」についてサブバンド差分CQIのフィード
バックを行うことに情報量の低減効果があったとしても,そのことと,
サブバンドの「選択」の有無とは無関係である。
b 本件特許発明1において,加入者装置が選択する単位,加入者装置
によるフィードバック情報の提供単位,及び基地局が割り当てる単位
は全て「サブキャリアのセット」と解すべきである。
そして,「サブバンド」は,「リソース・ブロックの集合」である
から,「サブバンド」を選択することは「リソース・ブロックの集
合」を選択することに相当はしても,「単一のリソース・ブロック」
の選択には相当しない。
このように,被告製品は,「単一のリソース・ブロック」を単位と
して「選択」を含め何の処理も行っていない。
c サブバンド差分CQIは,ワイドバンドCQIに対する各々のサブ
バンドの相対的なチャネル品質の良し悪し(評価)を示すにすぎず,
「割り当てには適さない」などという絶対的評価を下すものではない。
また,サブバンド差分CQIが3であるサブバンドに属するリソー
ス・ブロック(・グループ)が割当ての対象となり得ることについて
は,原告自身も認めるところである。
(ウ) 構成要件1D
LTE規格には,加入者が高次階層設定サブバンドフィードバックモ
ードにおいて,「サブバンド」に関するフィードバック情報であるワイ
ドバンドCQIとサブバンド差分CQIを基地局に送信する旨は記載さ
れているが,加入者が「単一のリソース・ブロック」に関するフィード
バック情報を送信する旨の記載はない。
そして,上記サブバンドの「CQI」情報からは,サブバンドを構成
する所定数の「リソース・ブロック」に関するチャネル品質情報は判明
し得ない。
以上のとおり,被告製品が「単一のリソース・ブロックに関するフィ
ードバック情報」を提供しない以上,かかるフィードバック情報の提供
がされることを前提とした原告の主張は成り立たない。
(エ) 構成要件1E
特許請求の範囲において,「前記」等の限定が付されていることから
すれば,基地局は,加入者装置が選択した候補サブキャリアのセットの
中からサブキャリアのセットを選択する必要があり,候補サブキャリア
のセット以外のものを基地局が選択することは許容されていない。そし
て,この解釈は,明細書の記載や本件特許発明1の目的にも合致する。
しかるに,本件通信システム方法において,基地局が,サブバンド差
分CQIが0,1又は2のサブバンドの中からユーザ端末に割り当てる
リソース・ブロック・グループを選択しているという事実は立証されて
いない。
結局,基地局が,サブバンド差分CQIが0,1又は2のサブバンド
の中からではなく,全周波数帯域中の全サブバンドの中から,総合的な
判断に基づき,割当てのためのリソース・ブロック・グループを選択し
ているとすると,基地局は,候補サブキャリアのセットの中から選択し
ているとはいえず,本件通信システム方法は,構成要件1Eを充足しな
い。
(オ) 構成要件1F
前記(イ)ないし(エ)と同様の理由により,充足性を否認ないし争う。
(2) 争点(2)(本件通信システムの本件特許発明16の技術的範囲への属否)
について
ア 原告の主張
(ア) 構成要件16A
本件通信システムにおいて,各ユーザ端末(被告製品を含む。)は,
いずれも非周期的CQI報告による高次階層設定サブバンドフィードバ
ックモードにおける全部のサブバンド又は差分CQIの0,1又は2を
付したサブバンドを特定しながらそのチャネル品質をフィードバック情
報として基地局に提供する機能を備えている。フィードバック情報を基
地局に提供するということは,当該フィードバック情報を生成する機能
を備えていることを意味する。
また,本件通信システムは,セルラーシステムであり,OFDMA通
信を行うものであるから,システムは複数のセルに分割され,各セル内
には複数のユーザ端末が存在し,セル内の基地局は当該セル内の複数の
ユーザ端末(被告製品を含む。)との間で,OFDMAによる多元接続
を行う。
以上からすれば,本件通信システムは,構成要件16Aを充足する。
(イ) 構成要件16B
本件通信システムにおいては,少なくとも下りリンクにおいて,OF
DMAシステムが採用されている。OFDMAは,多元接続をする通信
方式であるから,本件通信システムの基地局は複数のユーザ端末に対し
てリソース・ブロックを割り当てることができる。リソース・ブロック
は,複数のOFDMAサブキャリアから構成されたクラスタに相当する
ため,リソース・ブロックが特定されると当然にこれを構成するOFD
MAサブキャリアが特定される関係にあるから,基地局は,リソース・
ブロックを特定してOFDMAサブキャリアを割り当てるといえる。
以上からすれば,本件通信システムは,構成要件16Bを充足する。
(ウ) 構成要件16C
前記(1)ア(ア)同様,本件通信システムは,構成要件16Cを充足す
る。
(エ) 構成要件16D
前記(1)ア(イ)ないし(エ)同様,本件通信システムは,構成要件16
Dを充足する。
(オ) 構成要件16E
前記(1)ア(オ)同様,本件通信システムは,構成要件16Eを充足す
る。
イ 被告の主張
(ア) 構成要件16A
ユーザ端末は,「使用を望んでいる」サブキャリアからなる複数のリ
ソース・ブロックからなるサブバンドを表示するフィードバック情報を
生成するわけではない。
(イ) 構成要件16B
構成要件16Bでは「クラスタ内のOFDMAサブキャリア」と規定
されており,ここでの「クラスタ」は構成要件16Aの「加入者装置が
使用を望んでいるサブキャリアのクラスタ」を指す以上,基地局による
割当ての対象となるOFDMAサブキャリアのセットは,候補クラスタ
内から選択されるものである。
(ウ) 構成要件16C
前記(1)イ(ア)同様,争う。
(エ) 構成要件16D
前記(1)イ(イ)ないし(エ)同様,争う。
(オ) 構成要件16E
前記(1)イ(オ)同様,争う。
(3) 争点(3)(本件特許権の間接侵害の成否)について
ア 原告の主張
被告製品は,LTE規格通信システムネットワークに用いられる携帯電
話端末装置であり,LTE規格通信システム(ネットワーク)において本
件特許発明1及び16の課題解決に不可欠なものである。
そして,被告製品は,基地局から非周期的CQI報告を求められると,
これに応じて高次階層設定サブバンドフィードバックモードに基づくCQ
I報告をしている(甲36ないし39)。つまり,本件通信システム方法
において,非周期的CQI報告の高次階層設定サブバンドフィードバック
モードが実際に使用されていること,すなわち本件特許発明1が直接侵害
されていることが証明された。
同様に,被告製品が基地局と無線接続されたネットワークが非周期的C
QI報告の高次階層設定サブバンドフィードバックモードを使用すること,
すなわち,生産されたネットワークが本件特許発明16の機能を備え,実
際に同機能が発揮されていることが証明された(甲36ないし39)。
そして,被告は,通信事業者として被告製品を市場に導入するに当たり,
LTE規格の詳細及び被告製品に関連する知的財産権を調査確認して参入
したものであるから,本件特許発明につき十分に認識していたというべき
である。仮にそうでないとしても,遅くとも本件訴えの提起により,本件
特許発明が特許発明であること,及び,本件通信システム方法と本件通信
システムがそれぞれ本件特許発明1,16の構成要件を充足することを承
知している。したがって,被告が主観的要件を充足することは明らかであ
る。
以上からすれば,被告の行為は,特許法101条5号,2号により,そ
れぞれ本件特許発明1,16を侵害するものとみなされる。
イ 被告の主張
争う。LTE規格通信システムは本件特許発明1,16の構成要件を充
足せず,この点だけからも,間接侵害が成立しないことは明らかである。
(4) 争点(4)(本件特許の無効理由の有無)について
ア 被告の主張
本件特許発明1及び16に係る特許は,以下の各理由により無効とされ
るべきものであるから,原告による本件特許権の行使は認められない。
(ア) 本件特許発明1及び16は,平成11年(1999年)7月29日
にドイツ連邦共和国特許庁によって発行された同国特許第198009
53号公報(乙12)に記載された発明(以下「乙12発明」とい
う。)と同一であるから,新規性を欠く。また,仮に「サブキャリアの
セットの割当てを更新する」構成が乙12発明にはないとしても,この
点は,乙12発明に乙13記載事項を適用すれば容易想到であるから,
本件特許発明1及び16は進歩性を欠く。
(イ) 本件特許発明1は,平成11年(1999年)に米国電気電子学会
によって発行されたChuang及びSollenberger著「Wideband Wireless
Data Access Based on OFDM And Dynamic Packet Assignment」(乙1
3)に記載された発明(以下「乙13発明」という。)とは,乙13発
明(方法発明)において「加入者装置が候補サブキャリアを選択する」
か否かが不明である点において異なるが,この点は乙12記載事項を適
用することにより容易想到であるから,進歩性を欠く。
また,本件特許発明16は,乙13発明とは,乙13発明(装置発
明)において「加入者装置が,使用を望んでいるサブキャリアのフィー
ドバック情報を生成することができる」か否か不明である点,及び「複
数のサブキャリアから候補サブキャリアのセットを選択する」か否かが
不明である点において異なるが,これらの点は,乙12記載事項を適用
することにより容易想到であるから,進歩性を欠く。
(ウ) 本件特許発明1及び16は,平成10年(1998年)8月13日
に公開された国際公開WO98/35463号(乙16)に記載された
発明(以下「乙16発明」という。)とは,乙16発明においては「端
末が一度チャネルを割り当てられた後に,再びチャネルの品質を測定し
て基地局にフィードバックし,再びチャネルの割当てを受けること」が
明示されていない点において異なるものの,この点は乙13にも記載さ
れているとおり常套手段であるから,本件特許発明1及び16は乙16
発明に基づき容易想到であって,進歩性を欠く。
イ 原告の主張
いずれも争う。
(5) 争点(5)(原告が被った損害額)について
ア 原告の主張
被告は,被告製品のうち別紙物件目録記載1ないし7の製品につき,同
目録の「発売年月」欄記載の各時期から訴え提起日である平成26年5月
16日までの間に,少なくとも3555万台を,同目録記載8ないし11
の製品につき,同目録の「発売年月」欄記載の各時期から「訴えの追加的
変更申立書」提出日である平成27年3月16日までの間に,少なくとも
1200万台を,それぞれ販売した。被告製品の実施料相当額は少なくと
も1台当たり50円であるから,特許法102条3項所定の「その特許発
明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」は,被告製品1ないし
7については17億円,同8ないし11については6億円を,それぞれ下
ることはなく,合計23億円が原告の受けた損害額となる(特許法102
条3項)。
イ 被告の主張
争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件通信システム方法の本件特許発明1の技術的範囲への属否)
及び争点(2)(本件通信システムの本件特許発明16の技術的範囲への属否)
について
原告は,構成要件1C,1D,1E,16D充足性につき,見解1及び2を
主張して,いずれの見解によっても上記各構成要件を充足すると主張する。し
かしながら,当裁判所は,各構成要件に係る特許請求の範囲の記載及び本件明
細書の記載等に照らして,本件通信システム方法は,原告の主張する見解1を
採用すると,少なくとも構成要件1C,1D,1Eを充足せず,原告の主張す
る見解2を採用すると,少なくとも構成要件1Eを充足しないし,本件通信シ
ステムは,いずれの見解によっても,少なくとも構成要件16Dを充足しない
から,結局,本件通信システム方法及び本件通信システムが本件特許発明の技
術的範囲に属するとは認められないと判断する。その理由は,以下のとおりで
ある。
(1) 本件明細書の「発明の詳細な説明」には,以下の記載がある(甲4)。
ア 技術分野(段落【0001】)
(略)本発明は,直交周波数分割多重化(OFDM)を使っている多重
セル多重加入者無線システムに関する。
イ 背景技術
(ア) 多数の加入者のための多重アクセスをサポートするためにOFDM
を使用する1つのやり方として,(中略)時分割多重アクセス(TDM
A)がある。直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)は,OFDM
の基本的フォーマットを使用した多重アクセスの別の方法である。OF
DMAでは,多数の加入者が,周波数分割多重アクセス(FDMA)に
類似した様式で,異なるサブキャリアを同時に使用する。(以下略)
(段落【0003】)
(イ) (略)OFDMAシステムでは,各加入者が高チャネルゲインを享
受できるように,サブキャリアを加入者に適応させて割り当てれば好都
合である。(以下略)(段落【0004】)
(ウ) (略)積極的な周波数再使用プラン,例えば同一スペクトルを多数
の隣接するセルで使用する場合,セル間干渉の問題が発生する。OFD
MAシステムにおけるセル間干渉も周波数選択性であるのは明らかで,
サブキャリアの適応割り当てを行ってセル間干渉の影響を緩和するのは,
有用なことである。(段落【0005】)
ウ 発明が解決しようとする課題(段落【0006】)
OFDMAに関してサブキャリア割当を行うという1つのアプローチは,
統合最適化オペレーションであるが,これは,全セル内の全加入者の行動
とチャネルに関する知識が必要なばかりでなく,現在の加入者がネットワ
ークを抜けたり新しい加入者がネットワークに加わったりした場合,その
度毎に周波数の再調整が必要になる。これは,主に,加入者情報を更新す
るための帯域幅コストと統合最適化のための計算費用のせいで,実際の無
線システムでは非実用的である場合が多い。
エ 課題を解決するための手段(段落【0007】)
システムのためにサブキャリア選択を行う方法及び装置が記述されてい
る。或る実施形態では,システムは,直交周波数分割多重アクセス(OF
DMA)を採用している。或る実施形態では,サブキャリア選択のための
方法は,加入者が,基地局から受信したパイロット記号に基づいてサブキ
ャリア毎にチャネル及び干渉情報を測定する段階と,加入者が候補サブキ
ャリアのセットを選択する段階と,候補サブキャリアのセットに関するフ
ィードバック情報を基地局に提供する段階と,加入者が使用するように基
地局が選択したサブキャリアのセットの内のサブキャリアの表示を受信す
る段階と,を備えている。
オ 発明を実施するための最良の形態
(ア) ダウンリンクチャネルに関しては,各加入者は最初に全てのサブキ
ャリアについてチャネルと干渉の情報を測定し,性能の良い(中略)複
数のサブキャリアを選択して,それら候補サブキャリアに関する情報を
基地局にフィードバックする。このフィードバックには,全てのサブキ
ャリアについて又は一部のサブキャリアだけについてのチャネルと干渉
の情報(中略)が含まれる。(以下略)(段落【0010】)
(イ) 加入者からこの情報を受信すると,基地局は,基地局で入手可能な
追加情報(中略)を利用して,候補の中からサブキャリアを更に選択す
る。(以下略)(段落【0011】)
(ウ) (略)この情報に基づいて,各加入者は,相対的に性能が良好な
(中略)1つ又は複数のクラスタを選択して,これらの候補クラスタに
関する情報を所定のアップリンクアクセスチャネルを通して基地局にフ
ィードバックする(処理ブロック103)。(以下略)(段落【002
6】)
(エ) 加入者からフィードバックを受信すると,基地局は,次に,候補の
中から加入者用に1つ又は複数のクラスタを選択する(処理ブロック1
04)。基地局は,基地局で入手可能な追加情報(中略)を利用する。
(中略)基地局は,この情報をサブキャリア割当に使用して,セル間干
渉を低減する。(段落【0029】)
(2) LTE規格(リリース8に対応するもの)に関する仕様書(「3GPP TS
36.213 V8.8.0(2009-09)」と題するもの)(甲10の3)には,以下の記載
がある。なお,記載中の「UE」とは「ユーザ端末」を意味する。
・ 「高次階層設定サブバンドフィードバック」
○モード3-0の説明:
・UEはまた,各Sサブバンドセットについて1つのサブバンドCQI
値を報告しなければならない。サブバンドCQI値はそのサブバンドの
みで伝送するとの仮定で計算される。
○モード3-1の説明:
・UEは,各Sサブバンドセットについてのコードワードにつき1つの
サブバンドCQI値(全てのサブバンドについて単一のプリコーディン
グ行列を使用するとの仮定,及び,対応するサブバンドで伝送がなされ
るとの仮定で計算される)を報告しなければならない。
○サブバンドCQI値は各コードワードごとにそれぞれ対応したワイドバ
ンドCQIに対する差分が次のように定義された2ビットを用いて符号
化される。
・サブバンド差分CQIオフセットレベル
=サブバンドCQIインデックス-ワイドバンドCQIインデックス
2ビット差分CQI値からオフセットレベルへのマッピングは表
7.2.1-2に示されている。
表7.2.1-2
サブバンド差分CQI値 オフセットレベル
0 0
1 1
2 ≧2
3 ≦-1
(3) 構成要件1Cの「選択」及び構成要件1Dの「情報提供」について
ア 本件特許発明1は,直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)を採用
しているシステムのためのサブキャリア選択の方法に関するものであり
(構成要件1A),加入者装置が,①基地局から受信したパイロット記号
に基づいて,複数のサブキャリアについてチャネル及び干渉情報を測定す
る段階(構成要件1B),②候補サブキャリアのセットを選択する段階
(構成要件1C),③候補サブキャリアのセットに関するフィードバック
情報を基地局に提供する段階(構成要件1D),④加入者装置用として基
地局により選択されたサブキャリアのセットのサブキャリアの表示を受信
する段階(構成要件1E)等を含むことを特徴とする。
このように,本件特許発明1において,加入者装置は,構成要件1Cで
「候補サブキャリアのセット」の「選択」を行い,構成要件1Dで,上記
「選択」した「候補サブキャリアのセット」に関して情報提供を基地局に
行うものである。
一方,LTE規格の非周期的CQIレポートの高次階層設定サブバンド
フィードバックモードにおいては,加入者装置(ユーザ端末)は,N個の
サブバンドで構成されている全帯域の「N個のサブバンド全部」について,
サブバンド差分CQI値を報告することとされている(当事者間に争いが
ない。また,前記(2)のとおり,LTE規格の仕様書には,高次階層設定
サブバンドフィードバックの欄に,ユーザ端末が,各サブバンドセットに
ついて1つのサブバンドCQI値を報告しなければならない旨の記載があ
る。)。
イ 原告は,本件通信システム方法において全部のサブバンドが選択されて
いる旨主張するが(見解1),このように,LTE規格の上記モードにお
いて,全てのサブバンドについて情報提供が義務付けられているとすれば,
これは本件特許発明1の特徴である「選択したものについて情報提供を行
う」との処理とは異なるものであって,構成要件1Cでいう「選択」や,
それに引き続く構成要件1Dの「情報提供」があるとはいえない。
広辞苑第6版(乙3)によれば,「選択」とは,「えらぶこと。適当な
ものをえらびだすこと。良いものをとり,悪いものをすてること。」を意
味するとされており,「選択」とは,何らかの基準を充たすものを選び出
すことを意味すると解すべきである。
なお,前記(1)オ(ア)のとおり,本件明細書には,「各加入者は(中
略)性能の良い(中略)複数のサブキャリアを選択して,それら候補サブ
キャリアに関する情報を基地局にフィードバックする。」と記載されてお
り(甲4),これは実施例に関する記載ではあるが,各加入者が性能の良
いものを選び出し,その選択したサブキャリアに関する情報を提供すると
いう過程が記載されており,上記解釈を裏付けるものである。
また,選択を行う者が,何らかの基準に従って対象物につき選択を行っ
た結果,全てが選ばれる場合も想定し得るが,上記のとおり,非周期的C
QIレポートの高次階層設定サブバンドフィードバックモードにおいては,
加入者装置(ユーザ端末)は,常に全てのサブバンドについてのサブバン
ド差分CQI値を報告することとされており,このような場合には「選
択」の余地はないというべきである。
なお,前記(1)オ(ア)のとおり,本件明細書には「このフィードバック
には,全てのサブキャリアについて又は一部のサブキャリアだけについて
のチャネルと干渉の情報(中略)が含まれる」(段落【0010】)との
記載があるが(甲4),これはあくまで,結果的に「全てのサブキャリ
ア」が選択されることもあり得ることを前提とした記載というべきであっ
て,常に「全てのサブキャリア」が選択されることを前提とした記載では
ない。
原告は,情報処理技術分野においては,「全部の選択」等の用語の用い
方はごく一般的であり,本件特許発明の「選択」の技術的意義については,
単なる日本語の語義に基づくことは誤りであるとも主張する。しかし,本
件特許の関連技術分野全てにおいて「選択」との文言が上記のように用い
られることが通常であることを認めるに足りる証拠はないし,本件明細書
においても,「選択」との文言の意義につき特段の説明はないから(甲
4),原告の上記主張は採用できない。
このほか,原告は,全サブバンドについてサブバンド差分CQIのフィ
ードバックを行うことによって,情報量の低減効果があるとも主張するが,
情報量の低減効果の有無と,サブバンドの「選択」の有無とは,直接関係
がないことである。
ウ 以上のとおり,本件通信システム方法において全部のサブバンドが選択
されているとの原告の主張(見解1)を前提にすると,本件通信システム
方法では,加入者装置(ユーザ端末)において本件特許発明1の規定する
「選択」をしていないから,構成要件1Cを充足せず,更に,選択したも
のについて「情報提供」をしているともいえないから,構成要件1Dも充
足しない。
(4) 構成要件1Eの「選択」について
ア 構成要件1Eの「選択」は基地局が行うものであるところ,同構成要件
の「選択」の対象が「前記サブキャリアのセット」として,構成要件1C
や1Dの「候補サブキャリアのセット」を受けていることからすれば,構
成要件1Eの「前記サブキャリアのセット」は,加入者装置(ユーザ端
末)が選択した「候補サブキャリアのセット」を意味すると解すべきであ
る。
この解釈は,本件特許発明1の目的からも裏付けられる。すなわち,前
記(1)のとおり,本件特許発明1は,直交周波数分割多重化(OFDM)
を用いた多重セル多重加入者無線システムにおいて,個々の加入者装置へ
のサブキャリアの割当ての最適化を行うためには,統合最適化オペレーシ
ョンでは全てのセル(地域)内の全てのユーザ端末の行動とチャネルの知
識が必要なために現実的ではないことから,基地局と個々の加入者装置と
の間のサブキャリアに関する情報のやりとりにより,役割の分散と複雑性
の低減を図ることを目的とするものである。しかるに,加入者装置が情報
提供した候補サブキャリアのセット以外のものを基地局が選択できるよう
に構成することは,基地局の負担を増大させるとともに,加入者装置が候
補を挙げることの意味を失わせ,本件特許発明1の目的に反することにな
るから,この観点からも,上記解釈が裏付けられるものである。
また,前記(1)オ(エ)のとおり,本件明細書上も,「基地局は,次に,
候補の中から加入者用に1つ又は複数のクラスタを選択する」と記載され
ており,これは実施例に関する記載ではあるが,上記解釈を裏付けるもの
といえる。
そして,前記(3)のとおり,本件通信システム方法において全部のサブ
バンドが選択されているとの原告の主張(見解1)を前提にすると,本件
通信システム方法においては,本件特許発明1の規定する加入者装置(ユ
ーザ端末)が選択した「候補サブキャリアのセット」はないから,構成要
件1Eの「前記サブキャリアのセット」自体が存在せず,その余について
考慮するまでもなく,同構成要件を充足しない。
イ 原告は,加入者装置(ユーザ端末)がサブバンドについてサブバンド差
分CQIとして0,1又は2を付すことは,これらの値を付したサブバン
ドを「選択」したことに相当するとも主張する(見解2)。
しかし,仮に,加入者装置(ユーザ端末)が,サブバンド差分CQIと
して0,1又は2を付したサブバンドを「選択」したと解しても,LTE
規格において,基地局が,加入者装置(ユーザ端末)がサブバンド差分C
QIとして0,1又は2を付したサブバンドの中から,同加入者装置(ユ
ーザ端末)に割り当てるサブバンドを選択する旨の定めがあるとは認めら
れない。
この点に関して,原告は,被告製品について行われた測定結果(甲36
ないし39)を提出し,本件通信システム方法において,基地局は,加入
者装置(ユーザ端末)がサブバンド差分CQIとして0,1又は2を付し
たサブバンドを,同加入者装置(ユーザ端末)用として選択していること
が立証されたと主張する。
しかし,上記測定において,サブバンド差分CQIとして0,1又は2
が付されたサブバンドが加入者装置(ユーザ端末)に割り当てられている
としても,これは,原告が選択した特定の日時・基地局において,結果的
にそのような割当てが行われたことを意味するにすぎず,これをもって本
件通信システム方法全般について原告の主張するような事実が立証された
とはいえない。
また,原告も,いったんは,基地局の総合的な判断に基づき,サブバン
ド差分CQIが3であるサブバンドに属するリソース・ブロックが割当て
の対象となり得ることにつき認めていたものである(原告準備書面(4)の
36頁注1参照)。
そして,服部武編著「OFDM/OFDMA教科書」(甲13の2)の第9章
「携帯電話:LTEおよびIMT-Advanced(4G)とOFDM/OFDMA(その2)」に
は「実際には,スケジューリングによる各ユーザー端末へのPDSCHの無線
リソース割り当ては,各ユーザー端末の以下の情報を基に総合的に決定さ
れます。」との記載(307頁参照)があり,「以下の情報」として(1)
から(6)までの各種情報(そのうち(6)が「各RB(リソース・ブロック)
のCQI(チャネル品質)」)が記載されている。
以上からすれば,LTE規格において,基地局は,サブバンド差分CQ
Iも含め,様々な情報に基づく総合的な判断によって,ユーザ端末に割り
当てるリソース・ブロックを決定しているものと認められ,基地局が,サ
ブバンド差分CQIのみに基づく「選択」を行っているとは認められない。
ウ このほか,原告は,基地局が加入者装置(ユーザ端末)に対し,サブバ
ンド差分CQIとして0,1又は2が付されたサブバンドに属するリソー
ス・ブロックを一部でも割り当ててさえいれば,基地局は,加入者装置
(ユーザ端末)が選択した「サブキャリアのセット」の中から割り当てた
ことになり,仮に,そのほかに加入者装置(ユーザ端末)がサブバンド差
分CQIとして3を付したサブバンドに属するリソース・ブロックをも割
り当てたとしても,前記「サブキャリアのセット」から割当てが行われた
事実に変わりはないとする。
しかし,前記アのとおり,本件特許発明1においては,基地局の負担の
増大を防ぐために,基地局は,加入者装置が選択した候補サブキャリアの
セットの中から,加入者装置に割り当てるべきサブキャリアのセットを選
択するものとされているところ,加入者装置が選択していないサブキャリ
アのセットを割り当てた場合には,基地局の負担が増大し,このような事
態は本件特許発明1の目的に反するものであるから,原告の上記主張は採
用できない。
エ 以上からすれば,見解1,2のいずれを採用しても,本件通信システム
方法は,基地局において「前記サブキャリアのセット」から「サブキャリ
ア(のセット)」を「選択」しているとはいえず,構成要件1Eを充足し
ない。
(5) 構成要件16Dの「選択」及び「情報提供」について
ア 本件特許発明16は,加入者装置が,①基地局から受信したパイロット
記号に基づいて複数のサブキャリアに関するチャネル及び干渉情報を測定
すること(構成要件16C),②候補サブキャリアのセットを選択するこ
と(構成要件16D),③候補サブキャリアのセットに関するフィードバ
ック情報を基地局に提供すること(同構成要件),④加入者装置が使用す
るように基地局がサブキャリアのセットから選択したサブキャリアの表示
を受信すること(同構成要件)などを含むことを特徴とする装置に関する
ものであり,本件特許発明1と基本的に同様の技術思想に基づいてOFD
MAのサブキャリアの割当てを行うものである。また,本件特許発明16
に係る発明の詳細な説明の記載は,本件特許発明1と共通しているから,
構成要件16Dのうち加入者装置及び基地局による各選択(上記②及び
④),並びに加入者装置による情報提供(上記③)に関しては,本件特許
発明1の構成要件1C,1E,1Dについて論じたところと同様に解する
のが相当である。
なお,本件特許発明16の特許請求の範囲の記載が「基地局が前記サブ
キャリアのセットから選択したサブキャリアの表示」となっている点は,
本件特許発明1の「基地局により選択された前記サブキャリアのセットの
サブキャリアの表示」との記載と異なるが,本件特許発明16において基
地局が選択して割り当てるのがサブキャリアではなくサブキャリアのセッ
トであることは,特許請求の範囲の記載からも明らかであり(訂正後の構
成要件16E参照),この点は上記解釈に影響を及ぼすものではない。
イ 以上からすると,前記(3)と同様の理由により,本件通信システムにお
いて,加入者装置(ユーザ端末)が「複数のサブキャリアから候補サブキ
ャリアのセットを選択し」ているとはいえず,同「候補サブキャリアのセ
ットに関するフィードバック情報」を基地局に提供しているともいえず,
または,前記(4)と同様に,本件通信システムにおいて,第1基地局が
「前記サブキャリアのセット」からサブキャリアのセットを「選択」した
とはいえないから,いずれにしても,構成要件16Dを充足しない。
2 結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,本件通信システム
方法及び本件通信システムは,それぞれ本件特許発明1及び16の技術的範囲
に属さないから,ひいては,被告製品の販売が本件特許権の間接侵害に当たる
こともない。
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとお
り判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 沖 中 康 人
裁判官 矢 口 俊 哉
裁判官 宇 野 遥 子
(別紙)
物 件 目 録
商品名 発売年月
1 iPhone5S H25.9.20
2 iPhone5C H25.9.20
3 iPhone5 H24.9.21
4 iPad Air H25.11.1
5 iPad mini Retina ディスプレイモデル H25.11.14
6 iPad Retinaディスプレイモデル(第4世代) H24.11.30
7 iPad mini H24.11.30
8 iPhone6 H26.9
9 iPhone6 plus H26.9
10 iPad Air 2 (Wi-Fi+Cellular) H26.10
11 iPad mini 3 (Wi-Fi+Cellular) H26.10
(別紙)
本件通信システム方法の特徴
1a 直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)を採用しているシステムのダ
ウンリンクのためのサブキャリアの選択の方法である。
1b ユーザ端末は,基地局から受信したリファレンス信号に基づいて,複数の
サブキャリアについてチャネル及び干渉情報を測定する。
1c ユーザ端末は,サブバンドに差分CQI「0」,「1」又は「2」を付し
て候補となるリソース・ブロックを選択する。
1d ユーザ端末は,候補としたリソース・ブロックに関するCQI情報を基地
局に提供する。
1e ユーザ端末は,ユーザ端末用として基地局により選択された前記リソー
ス・ブロックを特定するDCIフォーマット情報を受信する。
1f ユーザ端末は,DCIフォーマット情報により特定された割り当てられる
べき前記リソース・ブロックを割り当てられた後,更新されたリソース・ブ
ロックの割り当てを基地局から受けるために,更新されたCQI情報を基地
局に提出する。
1g その後,ユーザ端末は,基地局により前記更新されたリソース・ブロック
を特定する別のDCIフォーマット情報を受信する。
1h LTE規格通信システムにおけるダウンリンクにおけるサブキャリアの
選択方法である。
以上
(別紙)
本件通信システムの特徴
16a ユーザ端末1及びユーザ端末2が使用を望んでいるサブバンドに差分C
QI「0」,「1」又は「2」を付して表示して,当該サブバンドに関す
るCQIを生成することができる,第1セル内の複数のユーザ端末装置が
存在する。
16b ユーザ端末1及びユーザ端末2に対して,サブバンド内のOFDMAサ
ブキャリアを割り当てることができる,前記第1セル内の第1基地局が存
在する。
16c ユーザ端末1及びユーザ端末2は,それぞれ,前記第1基地局から受信
したリファレンス信号に基づいて複数のサブキャリアに関するチャネル及
び干渉情報を測定する。
16d ユーザ端末1は,サブバンドに差分CQI「0」,「1」又は「2」を
付して候補となるリソース・ブロックを選択し,候補としたリソース・ブ
ロックに関するCQI情報を前記第1基地局に提供して,ユーザ端末1が
使用するように前記第1基地局により選択された前記リソース・ブロック
を特定するDCIフォーマット情報を受信する。
16e ユーザ端末1は,前記リソース・ブロックを割り当てられた後,更新さ
れたリソース・ブロックを受信するために,更新されたCQI情報を第1
基地局に提出する。
16f その後,ユーザ端末1は,前記更新されたリソース・ブロックを特定す
る別のDCIフォーマット情報を受信する。
16g LTE規格通信システムネットワークである。
以上
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