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平成27(行ケ)10181審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成28年1月21日
事件種別 民事
当事者 被告合名会社伊藤商店
原告X1 X2 ら訴訟代理人弁護士大島真人 ら訴訟代理人弁理士横井俊之
法令 商標権
商標法50条2項3回
商標法50条1項2回
キーワード 許諾54回
商標権36回
審決15回
侵害7回
差止4回
損害賠償2回
無効1回
主文 1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等 (1) 原告らは,以下の商標(商標登録第3318334号。以下「本件商標」と いい,その商標権を「本件商標権」という。)の商標権者である(甲71,7 3)。 (本件商標) 登録出願日 平成6年12月2日 設定登録日 平成9年6月6日 指定商品 第30類「調味料,香辛料」 (2) 被告は,平成25年10月1日,特許庁に対し,本件商標は,その指定商 品について,継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又 は通常使用権者のいずれもが使用した事実がないから,商標法50条1項の 規定により本件商標の商標登録は取り消されるべきであるとして,本件商標 の商標登録の取消審判を請求し(以下,この請求を「本件審判請求」とい う。),同月21日,本件審判請求の登録がされた(甲68の1,73)。 特許庁は,本件審判請求を取消2013-300826号事件として審理

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判決文

平成28年1月21日判決言渡
平成27年(行ケ)第10181号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成27年12月9日
判 決
原 告 X1
原 告 X2
原告ら訴訟代理人弁護士 大 島 真 人
同 多 田 克 也
同 鈴 木 弘 子
同 古 田 宜 行
原告ら訴訟代理人弁理士 横 井 俊 之
被 告 合 名 会 社 伊 藤 商 店
訴訟代理人弁護士 串 田 正 克
同 野 口 洋 高
同 熊 田 圭 祐
同 吉 川 徹
訴訟代理人弁理士 飯 田 昭 夫
同 江 間 路 子
主 文
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が取消2013-300826号事件について平成27年8月3日
にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
(1) 原告らは,以下の商標(商標登録第3318334号。 「本件商標」
以下 と
いい,その商標権を「本件商標権」という。)の商標権者である(甲71,7
3)。
(本件商標)
登録出願日 平成6年12月2日
設定登録日 平成9年6月6日
指定商品 第30類「調味料,香辛料」
(2) 被告は,平成25年10月1日,特許庁に対し,本件商標は,その指定商
品について,継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又
は通常使用権者のいずれもが使用した事実がないから,商標法50条1項の
規定により本件商標の商標登録は取り消されるべきであるとして,本件商標
の商標登録の取消審判を請求し(以下,この請求を「本件審判請求」とい
う。),同月21日,本件審判請求の登録がされた(甲68の1,73)。
特許庁は,本件審判請求を取消2013-300826号事件として審理
し,平成27年8月3日,「登録第3318334号商標の商標登録は取り
消す。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月1
3日,原告らに送達された。
(3) 原告らは,平成27年9月11日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を
提起した。
2 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりであり,その要旨は,以
下のとおりである。
(1) 原告(被請求人)らは,本件審判請求の登録前3年以内の期間である平成
22年10月21日から平成25年10月20日までの間(以下「要証期
間」という。)に,日本国内において,本件商標の指定商品に属する「しょ
うゆ,みそ」について,①通常使用権者の被告(請求人)が本件商標を使用
した,②被告による本件商標の使用は,その従業員の原告X1(以下「原告
X1」という。)の使用と同視できるから,商標権者の原告X1が本件商標
を使用した,③商標権者の原告X2(以下「原告X2」という。)が本件商
標を使用した,④通常使用権者の株式会社メビコラボ(以下「メビコラボ」と
いう。)が本件商標を使用した旨主張する。
しかしながら,①被告が要証期間内に本件商標の通常使用権者であったも
のと認められない,②被告による本件商標の使用は,被告の従業員である原
告X1の使用とはいえないし,原告X1が要証期間内に本件商標を使用した
ことの証明はない,③原告X2が要証期間内に本件商標を使用したことの証
明はない,④メビコラボが要証期間内に本件商標を使用したことの証明はな
い。
したがって,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者が要証期間内に本
件商標を使用していたものとはいえない。
(2) 原告らは,平成23年以降,原告らが本件商標を自ら使用しないようにし
てきたのは,平成6年以降平成22年までの間の原告らと被告の協調関係や
原告X1と被告代表者が親子であることから,市場の混乱等を招かないよう
に努めてきたからであって,商標法50条2項の「正当な理由」に基づくも
のである旨主張する。
しかしながら,商標法50条2項にいう「正当な理由」とは,地震,水害
等の不可抗力,放火,破損等の第三者の故意又は過失による事由,法令によ
る禁止等の公権力の発動に係る事由等,商標権者,専用使用権者又は通常使
用権者の責に帰することができない事由が発生したために,商標権者等にお
いて,登録商標をその指定商品又は指定役務について使用をすることができ
なかった場合をいうと解すべきところ,原告らの主張は,同項にいう「正当
な理由」に該当するものではない。
(3) 以上のとおり,原告らは,要証期間内に,日本国内において,商標権者,専
用使用権者又は通常使用権者のいずれかが,本件審判請求に係る指定商品に
ついて本件商標を使用していたことを証明し得なかったのみならず,使用を
していないことについて正当な理由があることも明らかにしていないか
ら,本件商標の商標登録は,商標法50条1項の規定により取り消すべきも
のである。
3 被告による本件商標の使用
被告は,要証期間内に,日本国内において,本件商標の指定商品について本
件商標を使用した(争いがない。)。
第3 当事者の主張
1 原告らの主張
(1) 取消事由1(本件商標の使用の事実の判断の誤り)
本件審決は,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者が要証期間内に本
件商標を使用していたものとはいえない旨判断したが,以下のとおり,商標
権者の原告ら及び通常使用権者の被告が,要証期間内に,日本国内におい
て,本件商標の指定商品について本件商標を使用した事実が存在するから,本
件審決の上記判断は誤りである。
ア 原告らによる本件商標の使用
(ア) 原告X2による使用
原告X2は,要証期間内の平成25年2月4日までに,本件商標を付
した指定商品についてインターネット販売を行うことにより,本件商標
を使用した。
(イ) 原告X1による使用
原告X1は,被告代表者(Y)及びその妻Aの長女であり,上記3名
は,いずれも,合名会社である被告の社員である。
被告は,上記3名を無限責任社員とする個人企業ないし組合の性格を
有する法人であること,原告X1は,被告の社員の一人であり,かつ,被
告の従業員でもあることからすると,被告による要証期間内の本件商標
の使用は,原告X1と被告との共同使用に当たるというべきである。
イ 通常使用権者の被告による本件商標の使用
原告らは,被告が要証期間内に本件商標を使用することを許諾していた
から,被告による要証期間内の本件商標の使用は,通常使用権者による使
用に当たる。
(ア) 原告X2の使用許諾
原告X2は,原告らが本件商標の商標登録出願をしたのとほぼ同時期
の平成6年末ころ,被告との間で,本件商標の使用許諾契約を口頭で締
結し,上記使用許諾契約は,要証期間内においても存続していた。
このことは,①原告X2と被告は,平成6年1月ころ,被告が原告X
2に対し,本件商標を付した,被告の製造する商品の販売を委託する旨
の販売委託契約を口頭で締結し,平成22年8月までの間,本件商標を
付した上記商品を共同して販売していたこと,②被告は,原告らが平成
6年末ころ本件商標の商標登録出願をし,その後,本件商標の商標登録
を受けたことを知っていたこと,③被告が要証期間前に原告X2に対し
て本件商標の使用料を支払っていたこと(甲3),④原告X2は,原告
X2及び被告間の和解契約書(甲10の1)の4条において,被告が本
件商標を「従来のみならず今後無償にて使用すること」を認めているこ
となどの諸事情から明らかである。
もっとも,被告は,原告X2に対し,平成22年8月20日付けで上
記販売委託契約を解除する旨の通知(甲11)をしているが,上記通知
は,本件商標の上記使用許諾契約の解除の意思表示を含むものではない
から,上記使用許諾契約の存否に何らの影響を及ぼすものではない。
したがって,被告による要証期間内の本件商標の使用は,上記使用許
諾契約に係る原告X2の使用許諾に基づくものである。
(イ) 原告X1の使用許諾
原告X1は,原告X1が被告に出資して被告の社員となったのとほぼ
同時期の平成6年末ころ,被告との間で,本件商標の使用許諾契約を口
頭で締結し,上記使用許諾契約は,要証期間内においても存続していた。
このことは,①被告が,要証期間内の平成23年4月まで,原告X1
に対し,本件商標の使用許諾の対価として賃金(甲8の3)と社員報酬
(甲9の5)を支払っていたこと,②被告が,原告らを相手として,原
告X1が本件商標権を有することを認めた上で,本件商標権の移転登録
手続等を求める旨の調停(半田簡易裁判所平成24年(ノ)第34号商
標権移転登録手続等申立事件。以下「別件調停」という。)の申立て及
び別件訴訟(名古屋地方裁判所半田支部平成24年(ワ)第307号商
標権移転登録手続等請求事件。以下「別件訴訟(307号事件)」とい
う。)の提起をしていること(甲19,20)などの諸事情から明らか
である。
また,原告X1が被告に出資して加入したことと本件商標の上記使用
許諾契約に係る使用許諾は同時に行われたものであって,事実上一体の
ものであるから,原告X1が被告の社員である限り,被告による本件商
標の使用は原告X1の使用許諾に基づくものといえる。
そして,原告X1は要証期間内において被告の社員であったから,要
証期間内においても上記使用許諾契約が存続していた。なお,原告X1
が平成22年12月3日に被告を退社した旨の登記がされているが,原
告X1が被告を退社した事実は存在せず,上記退社の登記手続は,偽造
文書を用いて原告X1に無断でされたものであるから,上記登記は無効
である。
したがって,被告による要証期間内の本件商標の使用は,上記使用許
諾契約に係る原告X1の使用許諾に基づくものである。
ウ 小括
以上のとおり,商標権者の原告ら及び通常使用権者の被告は,要証期間
内に,本件商標の指定商品について本件商標を使用していたから,商標権
者又は通常使用権者が要証期間内に本件商標を使用をしていたものとはい
えないとした本件審決の判断は誤りである。
(2) 取消事由2(正当な理由の判断の誤り)
商標の不使用の理由が「正当な理由」(商標法50条2項ただし書)であ
るというためには,①不使用の理由が,現に商標権者,専用使用権者又は通
常使用権者に係る事情であること,②不使用の理由が,商標権者等の責に帰
すことができない事情であって,予見することが困難なものが生じなかった
ならば,商標権者等が登録商標の使用をすることができたと認められるもの
であることの各要件を充足すれば足りる。
そして,原告らは,漫然と本件商標の不使用を継続していたものではな
く,原告らが,被告を相手として,本件商標権に基づいて本件商標の使用の
差止め等を求める旨の別件訴訟(名古屋地方裁判所半田支部平成25年
(ワ)第6号商標権侵害差止請求事件。以下「別件訴訟(6号事件)」とい
う。甲21)を提起し,第三者に対し訴訟告知をする一方で,原告らが本件
商標を使用することにより,市場の混乱を招かないようにするために本件商
標の使用を控えたものであり,このような事情は,上記各要件を充足するも
のといえるから,本件商標の不使用についての「正当な理由」に該当すると
いうべきである。
したがって,本件商標の不使用について「正当な理由」があるものと認め
られないとした本件審決の判断は誤りである。
2 被告の主張
(1) 取消事由1(本件商標の使用の事実の判断の誤り)に対し
ア 原告らが要証期間内に本件商標の指定商品について本件商標を使用した
事実はない。
また,被告は,原告X1とは別個の法人格を有する合名会社であるか
ら,被告による本件商標の使用を,原告X1による本件商標の使用と同視
することはできない。
イ 通常使用権者の被告による本件商標の使用の主張に対し
被告が原告X2又は原告X1との間で本件商標の使用許諾契約を締結し
た事実はなく,また,被告が原告らに対し本件商標の使用料を支払った事
実もない。
したがって,原告らが被告に対し被告が要証期間内に本件商標を使用す
ることを許諾した事実はない。
このことは,原告らが,別件訴訟(6号事件)において,被告が平成2
2年9月以降現在に至るまで(要証期間を含む。),何らの権限もなく本
件商標を使用し,本件商標権を侵害している旨主張して,被告に対し,本
件商標の使用の差止めを求めていることからも明らかである。
ウ 以上によれば,被告による要証期間内の本件商標の使用は,原告らの使
用許諾に基づくものとはいえないから,原告主張の取消事由1は理由がな
い。
(2) 取消事由2(正当な理由の判断の誤り)に対し
原告らが主張する事情は本件商標の不使用についての「正当な理由」に当
たらないから,原告主張の取消事由2は理由がない。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(本件商標の使用の事実の判断の誤り)について
(1) 認定事実
前記第2の1及び3の事実と証拠(甲1,2,10,11,17,19な
いし21,25,26(枝番のあるものは枝番を含む。))及び弁論の全趣
旨によれば,次の事実が認められる。
ア 被告は,昭和11年4月6日に設立された,味噌,溜,醤油の醸造販売
等を業とする合名会社である。
原告X1は,被告代表者であるY及びその妻Aの長女であり,平成6年
11月30日,被告の社員となった。その当時の被告の社員は,Y(代表
社員),A及び原告X1の3名である。
その後,原告X1が平成22年12月3日に被告を退社した旨の登記が
されている。
イ 被告は,遅くとも平成6年12月ころから,被告が製造する商品(醤油
等)に本件商標を付して販売していた。
また,原告X2は,平成6年当時,被告の委託を受けて,本件商標が付
された被告の製造する商品を販売し,少なくとも平成22年8月までは上
記販売を継続していた。
ウ 原告らは,平成6年12月2日,本件商標の商標登録出願をし,平成9
年6月6日,その設定登録を受けた。
エ 被告代理人の串田正克弁護士らは,原告X2に対し,平成22年8月2
0日付けの内容証明郵便で,同月末日をもって原告X2に対する業務委託
を解約し,同年9月以降,業務委託料を支払わない旨を通知(甲11)し
た。
その後,被告代理人の串田正克弁護士らは,原告X2に対し,平成23
年7月11日ころ,「聞くところによれば,貴殿は,昨年,X1氏を交え
てB氏と話し合いをされ,合名会社伊藤商店との間で本書面に同封した和
解契約書の内容をほぼ了解されたとのことです。就きましては,既に,同
封の和解契約書を送付済とは思いますが,改めて同封致しましたので,ご
署名ご捺印の上1通をご返送頂きたくお願い致します。なお,本書面到達
後10日以内に,上記和解契約書をご返送頂きたく,万一,右期限内にご
返送なき場合は,やむを得ず損害賠償請求等の法的手続を検討せざるを得
ませんので,悪しからずご了承下さい。」と記載した平成23年7月11
日付けの「ご連絡」と題する書面(甲10の2)及び「和解契約書」と題
する書面(甲10の1)を送付した。上記「和解契約書」と題する書面に
は,原告X2が有する被告の製品に関する一切の商標権につき,被告が従
来のみならず今後無償で使用することを原告X2が認める旨の条項(4
条)がある。
オ 被告は,原告らを相手として,平成24年7月24日付けで,本件商標
権の移転登録手続等を求める旨の別件調停の申立てをし,調停不成立とな
った後の同年10月29日,その旨の別件訴訟(307号事件)を提起し
た。
カ 原告らは,被告を相手として,平成25年1月11日,本件商標権侵害
の不法行為に基づく損害賠償等を求める旨の別件訴訟(6号事件)を提起
した。別件訴訟(6号事件)の訴状(甲21)には,被告が,平成22年
9月以降,現在に至るまで,何らの権限もなく本件商標を使用し,本件商
標権を侵害している旨の記載がある。
また,原告ら代理人の大島真人弁護士らは,本件商標を付した醤油等を
販売している武豊商工会ほか4社に対し,平成25年7月13日又は同月
14日到達の内容証明郵便で,武豊商工会ほか4社による本件商標の使用
が本件商標権を侵害する行為である旨を通知(甲25の1ないし5)した。
さらに,原告らは,上記4社のうちの3社に対し,同年10月18日付
けの訴訟告知書(甲26)により,別件訴訟(307号事件)及び別件訴
訟(6号事件)について訴訟告知をした。上記訴訟告知書には,上記3社
が,平成22年8月20日以降,原告らに無断で本件商標を使用している
などの記載がある。
(2) 原告らによる本件商標の使用について
ア 原告X2による使用について
原告らは,原告X2は,要証期間内の平成25年2月4日までに,本件
商標を付した指定商品についてインターネット販売を行うことにより,本
件商標を使用した旨主張する。
しかしながら,原告らが上記使用の証拠として提出した甲45(フレッ
ツ光・ひかり電話申込書)は,原告X2が平成22年9月3日付けでイン
ターネット接続サービスの「フレッツ光」を申し込んだことを示すものに
すぎず,甲45をもって,原告X2が,要証期間内に,本件商標を付した
指定商品についてインターネット販売を行った事実を認めることはできな
い。他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告らの上記主張は理由がない。
イ 原告X1による使用について
原告らは,原告X1は,被告代表者(Y)及びその妻Aの長女であり,上
記3名は,いずれも,合名会社である被告の社員であること,被告は,上
記3名を無限責任社員とする個人企業ないし組合の性格を有する法人であ
ること,原告X1は,被告の社員の一人であり,かつ,被告の従業員でも
あることからすると,被告による要証期間内の本件商標の使用は,原告X
1と被告との共同使用に当たる旨主張する。
しかしながら,被告は,合名会社であり,その社員である原告X1とは
別個の法人格を有することに照らすと,原告X1が,被告の社員の一人で
あり,かつ,被告の従業員でもあるからといって直ちに被告による本件商
標の使用が原告X1による本件商標の使用にも当たるものと評価すること
はできず,原告X1と被告との共同使用に当たるということもできない。
したがって,原告らの上記主張は理由がない。
(3) 通常使用権者の被告による本件商標の使用について
原告らは,被告が要証期間内に本件商標を使用することを許諾していたか
ら,被告による要証期間内の本件商標の使用は,通常使用権者による使用に
当たる旨主張するので,以下において判断する。
ア 原告X2の使用許諾について
原告らは,①原告X2と被告は,平成6年1月ころ,被告が原告X2に
対し,本件商標を付した,被告の製造する商品の販売を委託する旨の販売
委託契約を口頭で締結し,平成22年8月までの間,本件商標を付した上
記商品を共同して販売していたこと,②被告は,原告らが平成6年末ころ
本件商標の商標登録出願をし,その後,本件商標の商標登録を受けたこと
を知っていたこと,③被告が要証期間前に原告X2に対して本件商標の使
用料を支払っていたこと(甲3),④原告X2は,原告X2及び被告間の
和解契約書(甲10の1)の4条において,被告が本件商標を「従来のみ
ならず今後無償にて使用すること」を認めていることなどを根拠として挙
げて,原告X2は,原告らが本件商標の商標登録出願をしたのとほぼ同時
期の平成6年末ころ,被告との間で,本件商標の使用許諾契約を口頭で締
結し,上記使用許諾契約は,要証期間内においても存続していたから,被
告による要証期間内の本件商標の使用は,上記使用許諾契約に係る原告X
2の使用許諾に基づくものである旨主張する。
しかしながら,原告らの主張を前提としても,原告X2と被告との間に
締結されたとされる本件商標の使用許諾契約の具体的な内容は明らかでは
なく,使用の対価に関する取決めも明らかではない。
原告ら主張の①の点については,原告ら主張に係る原告X2と被告との
間の販売委託契約について,平成22年8月20日に上記販売委託契約が
解除されたかどうかの点をおくとしても,上記販売委託契約が本件商標の
使用を許諾することを含むものかどうかも含め,原告らの主張自体,その
具体的内容は明らかではなく,要証期間内に,原告X2が被告に対し本件
商標の使用を許諾していたことの根拠とすることはできない。
原告ら主張の③の点については,原告らは,被告が原告X2に対して本
件商標の使用の対価として使用料を支払っていた証拠として,
「集計表」と
題する書面(甲3)を提出するが,上記書面の記載からは何を集計した表
であるのか明らかではないし,仮に上記書面が被告から原告X2に対する
何らかの金銭の支払があった事実を示すものであるとしても,その支払が
本件商標の使用料であることを認めるに足りる証拠はない。
さらに,原告ら主張の④の点についても,「和解契約書」と題する書面
(甲10の1)の4条には原告らの主張する内容の条項が記載されている
ものの,上記書面には,原告X2の署名押印も被告の代表社員の押印も存
在しないから,原告X2と被告との間に上記書面に記載された内容の和解
契約が成立したものとは認められない。
かえって,前記(1)オのとおり,被告が,原告らを相手として,本件商標
権の移転登録手続等を求める旨の別件調停の申立て及び別件訴訟(307
号事件)の提起をし,また,前記(1)カのとおり,原告らが,被告を相手に
提起した別件訴訟(6号事件)において,被告が平成22年9月以降現在
に至るまで,何らの権限もなく本件商標を使用し,本件商標権を侵害して
いる旨を主張していることに照らすと,原告ら主張の①,③及び④の諸点
は,原告X2と被告が,本件商標の使用許諾契約を締結したことや,上記
使用許諾契約が要証期間内にも存続していたことの裏付けとなるものでは
ないことは明らかである。
以上の検討によれば,原告ら主張の②の点についても,そのことのみを
もって直ちに,要証期間内に,原告X2と被告との間に本件商標の使用許
諾契約が存在していたことの裏付けとなるものではない。
他に,要証期間内に,原告X2が,被告に対し,本件商標の使用を許諾
していたことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告らの上記主張は理由がない。
イ 原告X1の使用許諾について
原告らは,①被告が,要証期間内の平成23年4月まで,原告X1に対
し,本件商標の使用許諾の対価として賃金と社員報酬を支払っていたこ
と,②被告が,原告らを相手として,原告X1が本件商標権を有すること
を認めた上で,本件商標権の移転登録手続を求める旨の別件調停の申立て
及び別件訴訟(307号事件)の提起をしていることなどを根拠として挙
げて,原告X1は,原告X1が被告に出資して被告の社員となったのとほ
ぼ同時期の平成6年末ころ,被告との間で,本件商標の使用許諾契約を口
頭で締結し,上記使用許諾契約は,要証期間内においても存続していたこ
と,③原告X1が被告に出資して加入したことと本件商標の上記使用許諾
契約に係る使用許諾は同時に行われたものであって,事実上一体のもので
あるから,原告X1が被告の社員である限り,被告による本件商標の使用
は原告X1の使用許諾に基づくものといえるが,原告X1は要証期間内に
おいて被告の社員であったから,要証期間内においても上記使用許諾契約
が存続していたことからすると,被告による要証期間内の本件商標の使用
は,上記使用許諾契約に係る原告X1の使用許諾に基づくものである旨主
張する。
しかしながら,原告らの主張を前提としても,原告X1と被告との間で
締結されたとされる本件商標の使用許諾契約の具体的な内容は明らかでは
なく,使用の対価に関する取決めも明らかではない。
原告ら主張の①の点については,甲8の1ないし6,9の1ないし5に
よれば,被告は,原告X1に対し,平成18年1月から平成23年4月ま
での間に給与ないし役員給与を支払っていたことが認められるものの,上
記書証には,上記給与ないし役員給与に本件商標の使用許諾の対価が含ま
れることをうかがわせる記載はない。他に上記給与ないし役員給与が本件
商標の使用許諾の対価を含むことを示す的確な証拠もない。したがって,上
記給与ないし役員給与の支払の事実から,上記給与ないし役員給与に本件
商標の使用許諾の対価が含まれることを認めることはできない。
原告ら主張の②の点については,本件商標の使用許諾と原告X1の被告
への加入は,それぞれが当然に関連するものではないし,これらが原告ら
の主張するように一体のものであることを基礎付ける具体的な事情の主張
立証もないから,原告X1が被告に加入した事実から直ちに,原告X1と
被告の間で本件商標の使用許諾契約が締結されたことを認めることはでき
ない。
また,被告による別件調停の申立て及び別件訴訟(307号事件)の提
起の事実は,原告X1と被告との間で,要証期間内に本件商標の使用許諾
契約が存在していたことの裏付けとなるものではない。
かえって,前記(1)カのとおり,原告らが,被告を相手に提起した別件訴
訟(6号事件)において,被告が,平成22年9月以降,現在に至るまで,何
らの権限もなく本件商標を使用し,本件商標権を侵害している旨を主張し
ていることなどに照らすと,原告X1が被告の社員であることや上記給与
ないし役員給与の支払の事実が,要証期間内に原告X1と被告との間に本
件商標の使用許諾契約が存在していたことの裏付けとなるものでないこと
は明らかである。
以上の検討によれば,原告X1と被告との間で,本件商標の使用許諾契
約が締結されていたことを認めることはできないから,原告ら主張の③
は,その前提を欠くものといえる。
他に,要証期間内に,原告X1が,被告に対し,本件商標の使用を許諾
していたことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告らの上記主張は理由がない。
(4) 小括
以上によれば,原告らは,要証期間内に日本国内において,商標権者,専
用使用権者又は通常使用権者のいずれかが,本件審判請求に係る指定商品に
ついて,本件商標の使用をしていたことを証明し得なかったとした本件審決
の判断に誤りはないから,原告ら主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(正当な理由の判断の誤り)について
(1) 原告らは,原告らが,漫然と本件商標の不使用を継続していたものではな
く,原告らが,被告を相手として,本件商標権に基づいて本件商標の使用の
差止め等を求める旨の別件訴訟(6号事件)を提起し,第三者に対し訴訟告
知をする一方で,原告らが本件商標を使用することにより,市場の混乱を招
かないようにするために本件商標の使用を控えたものであり,このような事
情は,本件商標の不使用についての「正当な理由」に該当する旨主張する。
しかしながら,原告らが「正当な理由」として主張する事由は,要するに,原
告らが本件商標を使用することにより市場の混乱を招かないようにするため
に本件商標の使用を自主的に控えたというものであるが,原告らが要証期間
に本件商標を使用した場合に市場の混乱を来す具体的なおそれがあったこと
を認めるに足りる証拠はないから,原告らの本件商標の不使用が原告らの責
に帰すことができないやむを得ない事由によるものと認めることはできない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
(2) 以上によれば,原告らについて本件商標の不使用について正当な理由があ
ることが認められないとした本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の
取消事由2は理由がない。
3 結論
以上の次第であるから,原告ら主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件
審決にこれを取り消すべき違法は認められない。したがって,原告らの請求は
棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 大 鷹 一 郎
裁判官 大 西 勝 滋
裁判官 神 谷 厚 毅

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