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平成26(行ケ)10272行政訴訟 特許権

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裁判所 審決取消 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成28年2月17日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官松浦新司
原告アッヴィ・ドイチュラント・ゲー・エム・
対象物 自己乳化性の活性物質配合物およびこの配合物の使用
法令 特許権
特許法159条2項4回
特許法29条1項3号2回
特許法17条の21回
特許法126条5項1回
特許法50条1回
キーワード 実施87回
審決71回
進歩性11回
拒絶査定不服審判4回
新規性3回
刊行物1回
特許権1回
優先権1回
主文 1 特許庁が不服2012-17374号事件について平成26年7月30日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事件の概要 本件は,特許出願に対する拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟 である。争点は,進歩性判断の当否(①相違点の看過,②相違点判断の誤り)及び ③手続違反の有無である。

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判決文

平成28年2月17日判決言渡
平成26年(行ケ)第10272号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成28年1月27日
判 決


原 告 アッヴィ・ドイチュラント・ゲー・エム・
ベー・ハー・ウント・コー・カー・ゲー


訴 訟 代 理 人 弁 理 士 平 木 祐 輔
藤 田 節
菊 田 尚 子
小 原 淳 史
和 田 洋 子

被 告 特許庁長官
指 定 代 理 人 関 美 祝
松 浦 新 司
板 谷 一 弘
田 中 敬 規

主 文
1 特許庁が不服2012-17374号事件について平成26年7月30日に
した審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事 実 及 び 理 由
第1 原告の求めた裁判
主文同旨。

第2 事案の概要
本件は,特許出願に対する拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟
である。争点は,進歩性判断の当否(①相違点の看過,②相違点判断の誤り)及び
③手続違反の有無である。
1 特許庁における手続の経緯
アボット ゲーエムベーハー ウント カンパニー カーゲー(所在地:ドイツ連邦
共和国 65205 ヴィースバーデン,マックス-プランク-リング 2)は,平成
13年5月29日,発明の名称を「自己乳化性の活性物質配合物およびこの配合物
の使用」とする特許出願をした(特願2001-587743号,特表2003-
534369号,WO01/91727。パリ条約による優先権主張:平成12年
5月30日(本件優先日),ドイツ連邦共和国。甲1)が,平成24年5月2日付
けの拒絶査定を受け(本件拒絶査定。甲19),同年9月6日,審判請求するとと
もに(不服2012-17374号。甲9),手続補正をした(本件補正。甲2)。
特許庁は,平成26年7月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との
審決をし,同審決謄本は,同年8月12日に上記アボット社に送達された(附加期
間90日)。
なお,上記アボット社は,平成24年11月1日,本願に係る特許権(出願人た
る地位)を原告に譲渡した(平成26年10月15日に名義変更。以下,出願人と
原告を特に区別して表記する必要がない限り,単に「原告」という。)。
2 本願発明の要旨
本件補正後の特許請求の範囲請求項1に記載された発明(補正発明)の要旨は,

次のとおりである(下線部分が本件補正により付加された部分である。 。

「ⅰ)0.1~50重量%の,少なくとも1種の活性物質を含む活性成分,
ⅱ)6~60重量%の,少なくとも1種の脂質を含み,50℃を超えない融点を
有する脂質成分,
および
ⅲ)20~93.9重量%の,ポリビニルピロリドン,ビニルピロリドン/ビニ
ルアセテートコポリマー,ヒドロキシアルキルセルロース,ヒドロキシアルキルア
ルキルセルロース,セルロースフタレートおよび(メタ)アクリル樹脂から選択され
る少なくとも1種の結合剤を含む結合剤成分,
を含む自己乳化性固形配合物であって,
前記脂質成分が,12を超えないHLBを有し,
前記脂質成分の含有量が,前記結合剤成分を基準にして,40重量%を超えず,
前記配合物が,前記脂質成分および前記結合剤成分を含む分子分散体を含み,
前記配合物が,本質的に前記活性物質の結晶を含まない,
前記配合物。」
3 審決の理由の要旨(争点と関係の薄い部分はフォントを小さく表記する。)
審決は,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前
の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「特許法」という。)17条
の2第4項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するが,補
正発明は,引用文献1(国際公開第00/000179号公報。甲3)に記載され
た発明(引用発明)及び周知技術に基づいて,本件優先日前に当業者が容易に発明
をすることができ,独立特許要件を満たさないから,同法159条1項において読
み替えて準用する同法53条1項により本件補正を却下し,本件補正前の請求項1
に記載された発明(補正前発明)についても,補正発明と同様の理由により進歩性
を欠き,特許を受けることができないから,本件審判請求は成り立たないと判断し
た。

その理由の要旨は次のとおりである。
(1) 引用発明の認定
「オイル,脂肪酸またはそれらの混合物に薬物を溶解または分散させ,水溶性ポ
リマーマトリックスに該溶液または分散物を混合し,混合物を乾燥させた,水難溶
性薬物の固体分散製剤において,
脂肪酸が,オレイン酸,リノレン酸,イソプロピルミリスチン酸塩からなる群か
ら選択され,
水溶性マトリックスが,ポリエチレングリコール(PEG),ワックス,ポリビニ
ルピロリドン(PVP)からなる群から選択される,
固体分散製剤。」
(2) 補正発明と引用発明の対比
(一致点)
「ⅰ)少なくとも 1 種の活性物質を含む活性成分,
ⅱ)少なくとも 1 種の脂質を含む脂質成分,
および
ⅲ)ポリビニルピロリドン,ビニルピロリドン/ビニルアセテートコポリマー,ヒ
ドロキシアルキルセルロース,ヒドロキシアルキルアルキルセルロース,セルロー
スフタレートおよび(メタ)アクリル樹脂から選択される少なくとも 1 種の結合剤を
含む結合剤成分,
を含む固形配合物であって,
前記配合物が,本質的に前記活性物質の結晶を含まない,
前記配合物。」
(相違点)
相違点1:補正発明は,各成分の含有量に関し,「ⅰ)0.1~50重量%」の活性成分,「ⅱ)
6~60重量%」の脂質成分,および「ⅲ)20~93.9重量%」の結合剤成分とし,さらに,
「前記脂質成分の含有量が,前記結合剤成分を基準にして,40重量%を超えず」と特定してい


るのに対し,引用発明は上記特定をしていない点。
相違点2:補正発明は,脂質成分に関して,「50℃を超えない融点を有する」とし,かつ,
「12を超えないHLBを有し」と特定しているのに対し,引用発明は上記特定をしていない
点。
相違点3:補正発明は,配合物を「前記脂質成分および前記結合剤成分を含む分子分散体を
含み」と特定しているのに対し,引用発明は,上記特定をしていない点。
相違点4:補正発明は,固形配合物を「自己乳化性」と特定しているのに対し,引用発明は,
上記特定をしていない点。
(3) 判断
ア 相違点1
引用文献1の実施例22におけるオレイン酸5g(5.3%)の含有割合は,P
VPを基準にして6.25%である。また,ケトコナゾール,オレイン酸,PVP
は,それぞれ補正発明における活性成分,脂質成分,結合剤である。そして,引用
文献1に,固体製剤にオレイン酸を用いることで水難溶性薬剤の溶解性の向上をな
し得た旨の記載があることからすると,オレイン酸の含有割合を実施例で行ってい
る5.3重量%の近傍である6重量%程度とした上で,上記含有成分の好適配合割
合を見出すことは,当業者の通常の創作能力の範囲内であり,容易になし得ること
である。また,オレイン酸を6重量%程度用いた場合の効果が,引用文献1に記載
されたオレイン酸を5.3重量%用いた場合に比べて格段優れることが本願明細書
(甲1)から確認できない。
イ 相違点2
引用発明における「脂肪酸」には,「オレイン酸」が含まれている。オレイン酸
の融点は「12~16℃」であり,HLBは「1」であることからすると,引用発
明は,補正発明における「少なくとも1種の脂質を含み,50℃を超えない融点を
有する脂質成分である」との事項,「前記脂質成分が,12を超えないHLBを有
する」との事項を備えており,この点は実質的な相違点とはならない。

ウ 相違点3
引用発明は,引用文献1の実施例22の記載によれば,PVPマトリックス中に
オレイン酸とケトコナゾールとが分散された固体分散製剤であるといえる。このよ
うな固体分散製剤において,水難溶性薬剤成分を分子レベルで分散させた「分子分
散体」とすることは,溶解性を高め,ひいては生物学的利用能をも高めるため,よ
り好ましいものであること,及び,そのような製剤を得るためには,例えば,溶融
ポリマーと薬剤とを混合し押出しするといった方法によればいいことは,ともに,
本件優先日当時において,当業者にとって周知の事項であった(特表平11-51
4979号公報(甲6)・請求項23,18~20頁;特開2000-95708
号公報(甲7)・段落【0005】~【0014】,実施例;特表平10-501
000号公報(甲8)・3~5,9頁参照)。
そうすると,溶融混合により製造されている引用発明に係る固体分散製剤に対し
て,更に溶解度を高め,ひいては生物学的利用能をも高めるために,例えば,より
混合度合いを高めてその後に押出しするといった成形手法を適用することは当業者
が容易になし得ることといえる。そして,引用発明の具体例である実施例22に対
して,上記手法を適用した結果得られる製剤は,PVP中にケトコナゾールと共に
脂質成分であるオレイン酸についても分子分散された固体分散製剤であると当然に
解される。
なお,補正発明は,活性物質の態様を特定していないが,本願明細書【0045】
には,「他の特定の実施形態では,活性物質成分の少なくとも一部分が分子分散の
形態をとる。」と記載されていることから,補正発明において,脂質成分が活性物
質と共に分子分散されている場合も,その一態様として含まれるものと解される。
また,補正発明において,特に「脂質成分」が分子分散されていることにより,格
別特有の効果が奏されることが,本願明細書において技術的な裏付けをもって示さ
れているものでもない。
したがって,相違点3に関しては,当業者が容易になし得るものとすべきもので

ある。
エ 相違点4
本願明細書の【0001】の記載「本発明は,・・・可塑性混合物を形成するよ
うに配合成分を混合することにより自己乳化性配合物を調製する方法,・・・につ
いて記述したものである。」及び【0098】の記載「可塑性混合物の形成は,溶
融により行うか,あるいは,機械的エネルギー・・・の追加供給で,混合物の融点
未満で溶融する。」によれば,配合成分の混合に際し,「溶融により行うか,ある
いは,機械的エネルギーの追加供給」といった手法を採用することにより,「自己
乳化性」という性質が備わるものと解せられる。
そして,ここでいう「溶融により行うか,あるいは,機械的エネルギーの追加供
給」というのは,
(a)引用発明でも,溶融混合しており,それに伴って「自己乳化性」なる性質が
備わっているか,又は,
(b)仮に,引用発明の溶融混合では「自己乳化性」なる性質が備わらないとして
も,少なくとも,上記相違点3について説示した周知技術は,本願明細書でいう「機
械的エネルギーの追加供給」に該当するといえるから,「自己乳化性」なる性質が
備わる。この場合,引用発明に対して,上記周知技術の適用は,当業者にとって容
易になし得ることである。
したがって,相違点4に関しては,実質的に差異がないといえるか,又は,当業
者が容易になし得るものである。
(4) 補正前発明について
補正前発明は,補正発明を包含するから,補正発明について述べたのと同様の理
由で,本件優先日において,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第3 原告の主張
1 取消事由1(相違点看過)

(1) 審決は,引用文献1の日本語訳として,「水溶性ポリオールマトリックス」
とすべきところを「水溶性ポリマーマトリックス」と,「カルボワックス」とすべ
きところを「ワックス」とした誤りがある。ただし,請求項1を引用する請求項9
には「水溶性ポリマーマトリックスが,ポリエチレングリコール(PEG)・・・」
と記載されているから,請求項1における「水溶性ポリオールマトリックス」 「水

溶性ポリマーマトリックス」の誤記と考えられる。結局,引用発明は,次のように
認定されるべきである。
「オイル,脂肪酸またはそれらの混合物に薬剤を溶解または分散させ,水溶性ポ
リマーマトリックスに該溶液または分散物を混合し,混合物を乾燥させることによ
り調製された,水難溶性薬剤の固体分散製剤において,
脂肪酸が,オレイン酸,リノレン酸,ミリスチン酸イソプロピルからなる群から
選択され,
水溶性ポリマーマトリックスが,ポリエチレングリコール(PEG),カルボワ
ックス,ポリビニルピロリドン(PVP)からなる群から選択される,
固体分散製剤。」
(2) 以上を前提に,補正発明と引用発明を対比すると,補正発明では,「配合
物が,本質的に前記活性物質の結晶を含まない」旨特定しているのに対し,引用発
明にはそのような特定はないから,審決の認定した相違点1~4に加え,相違点5
として,「補正発明は,「配合物が,本質的に前記活性物質の結晶を含まない」旨
特定しているのに対し,引用発明は上記特定をしていない点。」が認定されるべき
である。
(3) 審決は,引用発明における「オイル,脂肪酸またはそれらの混合物に薬物
を溶解または分散させ」において,薬物を溶解させている場合は薬物の結晶を含ま
ないことは明らかであるから,補正発明における「本質的に前記活性物質の結晶を
含まない」に相当すると判断した。
しかしながら,引用文献1において,薬剤を溶解させる旨が特定されているから

といって,そのことが直ちに固体分散製剤中に薬剤の結晶が含まれないことを意味
するものではない。製造工程のある時点において,薬剤が脂肪酸等に溶解されたと
しても,その後に混合物を乾燥させるという必須工程を経る場合,最終的に得られ
る固体分散製剤中に薬剤が結晶形態で存在しないとは,通常,いえない。引用文献
1の「固体分散製剤」の形態の解釈に当たり,「微結晶が含まれるもの」ではなく
「固溶体」を意味すると解釈する根拠はない。
また,引用文献1には,用いたPVPの種類や量が開示されていないが,PVP
溶融物は非常に粘性が高く,オレイン酸/薬物分散物と混合するために撹拌するこ
とは複雑な工程となるから,最終的に得られる製剤の具体的な構造について結論を
出すのは困難である。引用文献1における実施例1及び22では,脂肪酸としてオ
レイン酸が使用されているが,水難溶性の薬剤であるアセクロフェナク
(Aceclofenac)のオレイン酸に対する溶解度は,4.59(mg/mP)と非常に
小さく(表7),薬剤をオレイン酸と混合させた場合,薬剤はほとんど溶解するこ
となく,結晶形態で存在するものと考えられる。引用文献1においても,実施例1
及び22については,オレイン酸中に分散することについての記載しかない。しか
も,これらの実施例では,脂肪酸等に薬剤を分散又は溶解させる場合に加えた方が
よい界面活性剤の添加はない。したがって,最終的に得られる固体分散製剤中には,
薬剤が結晶形態で存在すると考えられる。
これらのことは,A博士の再現実験に基づく調整物の評価に関する宣誓書(A宣
誓書。甲17)からも裏付けられる。
(4) そして,活性物質の結晶が含まれるか否かは,配合成分の均質化の程度,
すなわち,発明に係る自己乳化性配合物の微細形態(モルホロジー)に関わる要素
であり,自己乳化性配合物を摂取した際の胃腸管等に対する活性物質の吸収性を大
きく左右する。したがって,相違点5の看過は,補正発明の効果の顕著性の判断に
重大な影響を与えるものである。
2 取消事由2(相違点に関する判断の誤り)

(1) 相違点3
ア 補正発明における「分子分散体」について
補正発明における「分子分散体」とは,脂質成分,結合剤成分及び活性成分の混
合物が,最大限に均質化され,それらの間に境界面を有しない状態をいう。発明者
らは,補正発明に係る配合物において,「50℃を超えない融点を有し,かつ12
を超えないHLBを有する脂質成分」を含む特定の成分を,特定の含有量で用い,
更に適切な可塑化条件を採用することによって,上述のような「分子分散体」が得
られることを見出した。
従来,製薬技術分野において低い溶解度の活性物質を製剤化する場合には,高い
HLB値を有する界面活性剤が用いられてきた。他方,「50℃を超えない融点を
有し,かつ12を超えないHLBを有する脂質成分」を加えることについては,阻
害要因が存在していた。補正発明における「分子分散体」は,従来技術の教示に反
し「50℃を超えない融点を有し,かつ12を超えないHLBを有する脂質成分」
を採用した上で,その配合量を最適化するとともに,適切な条件下で可塑化を行う
ことによって初めて得られるものであり,任意の成分を混合し押出しすれば容易に
得ることができるというものではない。
イ 容易想到性
引用発明では,水難溶性薬剤を,オイル,脂肪酸又はそれらの混合物に溶解又は
分散させ,その後に,得られた溶液又は分散物をポリマーと混合し,乾燥させてい
る。引用文献1の実施例22では,ケトコナゾールがオレイン酸中に混合,分散さ
れ,次いで溶融PVPに添加されている。上記の各工程を経て得られた固体分散製
剤は,溶融PVP(水溶性ポリマーマトリックス)中に組み込まれ又は捕捉された
オレイン酸(脂肪酸)の小滴を含み,オレイン酸の小滴中において薬剤が溶解又は
分散された微細形態(モルホロジー)を有しているものと推測され,オレイン酸の
ような低いHLB値を有する脂質を用いた場合,溶解する薬剤は一部のみで,残り
の大部分は固体結晶として小滴中に分散しているものと認識される。A宣誓書でも,

引用文献1の固体分散製剤が,活性物質の結晶を含み,分子分散体が形成されてい
ないことが,実証されている。
薬剤を脂肪酸に分散させた後に,その分散物をポリマーと混合し乾燥させること
で得られ,それによって薬剤が脂肪酸の小滴中に結晶として存在するものと推測さ
れる引用文献1の固体分散製剤に対して,溶融ポリマーと薬剤とを混合し押出しす
る周知技術の方法をいかにして適用させるのか(引用文献1の固体分散製剤の製造
工程のどの部分に対し,周知技術の付加・置換を行うのか)不明であり,かつ,適
用困難である。また,補正発明のような「分子分散体」を得るために必要な成分の
含有量,可塑化条件に関する手がかりを,周知技術から得ることはできないから,
仮に周知技術を適用するとしても,補正発明における「分子分散体」を形成するこ
とは不可能である。
そもそも,引用文献1には,各成分の結晶状態について言及がなく,成分の結晶
状態が制御されているとはいえないから,当業者が,周知技術として甲6~8の溶
融押出しに関する記述を参照しても,引用文献1で「分子分散体」を得るために必
要な成分の含有量,可塑化条件に関する手がかりを得ることは不可能である。引用
文献1では,薬剤を脂質成分に溶解又は分散させる工程を有するため,溶融押出し
をすると,薬剤は脂質成分中に結晶として残存することになると考えられ,甲6~
8の帰するような「分子分散体」が得られるとは考えにくい。
引用文献1におけるポリマーの役割は,オイル,脂肪酸又はそれらの混合物中の
水難溶性薬剤の分散物又は溶液を「固体化すること」だけであると当業者は認識す
る。すなわち,引用文献1には,ポリマー内における薬剤又は脂質の分散状態を制
御したり,ポリマーによって薬剤のアモルファス状態を安定化させたりするといっ
た,ポリマーと薬剤,又はポリマーと脂質の相互作用に関する示唆はない。
したがって,相違点3に係る構成について,引用発明及び周知技術に基づいて,
当業者が容易に想到し得たものではない。
(2) 相違点4

ア 補正発明における「自己乳化性」について
補正発明に係る配合物は,自己乳化性固形配合物であり,可塑性混合物を形成す
るように配合成分を混合することにより調製されるものである。エマルジョンの自
発的な生成,すなわち,自己乳化性の付与には,補正発明のように配合物が「分子
分散体」の状態であることが大きく関わっている。分子分散体が水性媒質に接触し
たとき,非常に小さい粒子径,及び,狭い粒子径分布を持つエマルジョンを形成す
るものと考えられ,その二つがエマルジョンの安定性と吸収特性に有利に働く。
イ 容易想到性
溶融法により得られた固体分散製剤の形態として,薬物の微結晶が含まれるもの,
固溶体であるもの等,多種多様な形態があり得るから,引用文献1の固体分散製剤
が固溶体であるとする理由はない。引用文献1の固体分散製剤は,溶融PVPに組
み込まれたオレイン酸の小滴中に,薬剤(の大部分)が固体結晶として分散してい
る状態にあり,PVP,オレイン酸及び薬剤の各成分の間には境界面が存在し,「分
子分散体」の状態にはない。したがって,引用文献1の固体分散製剤は,「自己乳
化性」の性質を有しないか,少なくとも「自己乳化性」の性質が自然に発生する状
態にはない。
薬剤を脂肪酸に分散させた後に,その分散物をポリマーと混合し乾燥させること
で得られ,それによって薬剤が脂肪酸の小滴中に結晶として存在するであろう引用
文献1の固体分散製剤に対して,溶融ポリマーと薬剤とを混合し押出しする周知技
術の方法をいかにして適用させるのか(引用文献1の固体分散製剤の製造工程のど
の部分に対し,周知技術の付加・置換を行うのか)不明であり,かつ,適用困難で
ある。また,補正発明のような「自己乳化性」を得るために必要な成分の含有量,
可塑化条件に関する手がかりを,甲6~8に記載された溶融押出しについての周知
技術から得ることはできないから,仮に周知技術を適用するとしても,補正発明に
おける「自己乳化性」を形成することは不可能である。
(3) 相違点1

補正発明と引用文献1の実施例22におけるオレイン酸の含有量は,完全に異な
っている。そして,引用文献1には,オレイン酸の量を「5.3%」から「6重量%」
へと増加させる動機付けとなるような記載は一切ない。引用発明において,薬剤の
大部分はオレイン酸に溶解しておらず,固体結晶として分散した状態であり,その
状態で引用発明の課題は既に解決されているから,薬剤に対する溶解度がごく小さ
いオレイン酸を6重量%まで増加させる理由はない。引用文献1には,オレイン酸
の添加量と薬剤の溶解性との相関関係についての示唆はない。両値が近いかどうか
は,動機付けとは関係ない。
引用文献1における,オレイン酸の使用による水難溶性薬剤(当事者の主張に合
わせて,本判決では,「難水溶性」ではなく「水難溶性」という用語を用いる。)
の溶解性向上で問題にしているのは,最終的に得られた固体分散製剤を人工腸液等
に接触させた場合の「溶解性」の意味であって,固体分散製剤を製造する際の脂肪
酸に対する薬剤の「溶解性」とは全く無関係である。
なお,補正発明のように,引用発明とは異なる構成を備えている点で進歩性を有
している場合には,数値限定は補足的ないし第二義的な事項にすぎず,数値に臨界
的意義は不要である。したがって,進歩性の判断において,「6重量%」が「5.
3重量%」に比べて格段優れることが,本願明細書において確認される必要はない。
(4) 相違点2
審決が指摘するとおり,「オレイン酸」は,「50℃を超えない融点を有し,1
2を超えないHLBを有する」ものに該当するが,
「50℃を超えない融点を有し,
12を超えないHLBを有する」との発明特定事項が,引用文献1に記載されてい
るか否かは,引用文献1の記載から当業者が把握できるか否かにより決せられるべ
きである。オレイン酸が,他の物質と共に選択肢の1つとして引用文献1に記載さ
れている場合は,当該選択肢の中からオレイン酸のみを発明特定事項とした発明を
当業者が把握することができるか否かについて検討しなければならない。しかしな
がら,引用文献1では,HLBが15.0である「Tween80」等の従来の乳

化剤を添加している例も数多く存在し(実施例2,6),オレイン酸は,油,脂肪
酸又はその混合物として,列挙されている多数の具体例の 1 つにすぎず,さまざま
な融点及びHLBを有するものの中からオレイン酸のみに関する「50℃を超えな
い融点を有し,12を超えないHLBを有する」との発明特定事項を当業者が把握
することはできない。
したがって,「50℃を超えない融点を有し,12を超えないHLBを有する」
との事項が実質的な相違点とはならないとの審決の判断は誤りであり,相違点2は,
引用文献に基づき当業者が容易に想到し得たものではない。
3 取消事由3(手続違背)
(1) 審決は,新たに拒絶理由を通知して原告に反論及び補正の機会を与えるこ
となく,拒絶査定における査定の理由と異なる理由をもって,補正発明は進歩性が
ないと判断した。したがって,審決は,特許法159条2項及び163条2項で準
用する同法50条に反する違法な手続に基づいてなされたものであり,取消しを免
れない。
(2) 審決と拒絶査定における理由の異同
ア 審決の理由
審決は,相違点3及び4について,引用発明に周知技術を適用することで当業者
であれば補正発明を容易に想到できたものと判断し,この周知技術を示すものとし
て,甲6~8の各文献を列挙した。
イ 本件拒絶査定における理由
本件拒絶査定(甲19)の理由は,平成23年2月28日付け拒絶理由通知書(本
件通知書。甲20)に記載した理由とされているところ,同通知書には,「引用例
1-7の何れかに記載乃至示唆された発明である」と記載されているにすぎない。
そして,引用例5は引用文献であり,引用例1~4,6及び7は,いずれも,審決
が「周知技術」を示すものとして列挙した甲6~8とは異なる文献である。
また,本件拒絶査定では,補正発明について,特許を受けることができない理由

として,「引用例1,2,5の記載に基づいて容易に想到し得たものである」と記
載されているにすぎず,引用発明に「周知技術」を適用することにより当業者であ
れば補正発明を容易に想到できたものとは判断されていない。また,審尋(甲22)
において引用される前置報告書においても,引用文献1の実施例22では,分子分
散体を形成しているものと認められるから,オレイン酸の含量を補正発明の範囲と
することは当業者が適宜設定し得る事項であるし,上記数値範囲に臨界的意義は認
められないと記載されているだけで,引用発明単独の教示から補正発明の容易想到
性を導き出しており,引用発明に「周知技術」を適用することで容易想到性を否定
する判断をしていない。
ウ 審決の理由と本件拒絶査定の理由が異なっており,原告への手続保障が
尽くされていないこと
審決と本件拒絶査定及び審尋とでは,引用発明に「周知技術」を適用することに
より容易想到であることを問題とするのか,引用文献1単独の教示から容易想到で
あることを問題とするのかの点において,全く理由付けが異なるものである。
しかも,「周知技術」を示すものとして列挙した甲6~8は,審決において初め
て引用されたものである。
このように,本件審判請求の審判官は,本件において重要な事項について本件拒
絶査定と異なる理由で審決しようとしたにもかかわらず,新たな拒絶理由を通知せ
ず,原告の反論・補正の機会を奪ったものであり,このような本件審判請求の手続
は,拒絶理由通知制度が要請する手続適正保障の観点からして,特許法159条2
項及び163条2項で準用する同法50条に反することは明らかである。東京高裁
平成4年5月26日判決(平成2年(行ケ)第228号)が,審判段階での手続が
特許法159条2項で準用する同法50条に違反するかどうかの指標は,「査定の
理由と異なる拒絶の理由を発見した場合として再度の拒絶理由通知を要するかどう
かであって,当該周知事項とされたものが客観的にみて当時の周知技術であつたか
どうかに左右されるものではない」と判示しているところである。

審決が,相違点3及び4に関して適用したのは,あくまで「周知技術」であるか
ら,仮に当業者が引用発明に対して可塑化により分子分散体を形成させる動機付け
が得られたとしても,少なくとも,補正発明の課題の性質上,補正発明の配合物に
含まれるような分子分散体を得るために必要な可塑化条件を選択する手がかりを周
知技術から得ることは不可能又は困難といえる技術的根拠が存在する可能性が高い
ことについては,原告に反論の機会を与えるべきであった。

第4 被告の反論
1 前提とすべき技術常識
経口投与製剤の場合には,薬物のバイオアベイラビリティー(消化管からの吸収
率)を高めることが求められるところ,溶解速度が小さいため吸収が悪い難溶性薬
物の溶解性及び吸収性の改善は,最も重要な解決すべき課題の1つである(甲6~
8,乙1)。このことは,補正発明及び引用発明に共通する。
そして,難溶性薬物のバイオアベイラビリティーを高めるために,難溶性薬物の
溶解性を改善する手段の1つとして,水溶性高分子を利用した固体分散体とする手
段が知られていた(乙1)。引用発明は,水難溶性薬物を水溶性ポリマーマトリック
スと混合した固体分散製剤であるから,固体分散体の一種であるが,固体分散体は,
薬物の微結晶が含まれるものと,薬物と担体が均質又は均一な状態の固溶体が含ま
れること,固溶体である場合に最も溶解性が改善されることは,当業者の技術常識
である(乙1,2)。
固体分散体の製造方法として,溶融法,溶媒法などが知られているが,溶融法,
中でも溶融押出しによると,融点より低い温度でも固体分散体が製造できることは,
当業者の技術常識であった(乙1,2)。
溶融押出しで固体分散体を製造する際に,薬物と担体に加えて,他の添加剤を同
時に配合できることは,甲8,乙2及び3にもみられるように,当業者に共通の認
識であった。溶融押出しにより固体分散体を製造する場合に,用いる成分に求めら

れる要件は,溶融温度における熱安定性であって,それが満たされれば,脂肪酸(脂
質)であっても,溶融押出しの前に溶融物に添加できることは,当業者に共通する
認識であった。その上,脂肪酸は可塑剤や流動性調整剤として添加できるものであ
り,可塑剤は溶融温度を下げるという利点があることも知られている。
したがって,脂質成分の添加は溶融押出しを回避する理由とはならず,むしろ可
塑剤としての働きにより溶融温度を低下させ,熱安定性の影響を少なくして均一な
溶融混合物を得ることにより,分子分散体を製造することに資すると考えるのが,
当業者の理解するところである。
経口投与された固体分散体は,消化管で水溶性高分子担体と難溶性薬物が溶けて
分散状態,すなわち乳液の状態となる。このとき,水溶性高分子が薬物の濡れ性を
改善するため,分散安定性が向上することも知られている。
2 取消事由1に対し
(1) 原告は,製造工程のある時点で薬物が脂肪酸等に溶解されたとしても,そ
の後に混合物を乾燥させる工程を経る場合には,最終的に得られる固体分散製剤中
に薬物が結晶形態で存在しないとは通常いえないと主張する。
しかしながら,固体分散体の製造方法として,溶融押出しが知られており,この
ようにして製造された場合,室温への冷却後に再び結晶化しないことも知られてい
るが,更に乾燥した場合には結晶化するという技術常識は示されていないから,原
告の主張するような技術常識はない。
(2) 原告は,引用文献1の実施例22等の固体分散製剤では,薬物が結晶形態
で存在している蓋然性が高いと認識するものと考えられると主張する。
しかしながら,審決は,引用文献1の実施例22を引用発明と認定したのではな
いから,実施例22で得られた固体分散製剤の状態のみを根拠として審決の誤りを
いう原告の主張は失当である。
また,実施例22で得られた固体分散製剤が,薬物の結晶を含むものということ
もできない。実施例22について,引用文献1には,薬物と水溶性ポリマーマトリ

ックスとを複雑な工程で撹拌するとは記載されていないし,最終製剤に結晶が分散
しているとも記載されていない。実施例22の最終製剤に関する記載は「固体分散
製剤が得られる」というものであるが,
「分散」と表現されていることは,結晶形態
で分散していることの根拠とはなり得ない。表7は,実施例22のケトコナゾール
に関する溶解度を調べたものではないし,溶融PVPと混合された後の状態に関す
るものでもないから,オレイン酸に対する溶解度の低さは,引用発明の固体分散製
剤が結晶を含むか否かと関係ない。実施例1及び22について,オレイン酸中に「分
散」としか記載されていないとしても,結晶を含むか否かは,最終的に得られる固
体分散製剤に関連するから,この記載から,固体分散製剤に結晶が含まれていると
認識するとはいえない。引用文献1には,界面活性剤が存在しない場合は,薬物が
結晶形態で存在することをうかがわせる記載もない。
(3) 原告は,引用文献1の教示に従って得られる固体分散製剤には,実際に活
性物質の結晶が含まれていることを証明するために再現実験を行った結果として,
甲17を提出する。
しかしながら,甲17に示された実験は,ケトコナゾールとオレイン酸とを,溶
融させていないPVPと混ぜることから始める方法で行われたものであって,引用
文献1の実施例22と製造方法が異なるから,再現実験になっていない。
したがって,甲17は,引用文献1の実施例22で得られた固体分散製剤に活性
物質の結晶が含まれていることの証明にならない。
(4) 引用文献1は,固体分散製剤について,微結晶が含まれるものと,薬物と
担体が均質又は均一な状態の固溶体が含まれるもののいずれか一方のみを特定する
ものではない。審決は,後者の固溶体,すなわち結晶を含まない場合を一致点とし
て認定したにすぎない。
仮に,審決の対比判断において,相違点5の看過があるとしても,この点は,引
用発明を固溶体とすることが容易想到であるとの相違点3についての判断で,実質
的に判断されている。したがって,この点は,審決の結論に影響を及ぼすものでは

ない。
(5) 審決は,相違点1~4の判断に際し,分子分散体とする点も,自己乳化性
を備える点も検討しており,特に,溶解性を高め,ひいては,生物学的利用能をも
高める点を考慮しているから,胃腸管等における吸収性を効果として検討していな
いとの批判は当たらない。
仮に,原告が顕著な効果として,胃腸管での吸収性についての効果を主張する趣
旨であるとすれば,本願明細書には,胃腸管での吸収性について確認した結果は示
されておらず,その主張は前提を欠く。
3 取消事由2に対し
(1) 相違点3
ア 補正発明における「分子分散体」とは,脂質成分,結合剤成分及び活性
成分の混合物が,最大限に均質化され,それらの間に境界面を有しない状態をいう
ことは,認める。
イ しかしながら,引用文献1には,界面活性剤が存在しない場合は薬物が
結晶形態で存在することをうかがわせる記載はないし,任意成分である界面活性剤
についてHLB値が12を大きく下回るものの使用も示唆しているから,界面活性
剤の添加がないことは,周知技術を適用する阻害要因とはならない。
ウ 原告は,分子分散体は,任意の成分を混合し押出しすれば容易に得るこ
とができるものではないと主張するが,引用発明は,補正発明の脂質成分に相当す
る成分を用い,他の成分についても,補正発明の活性成分及び結合剤成分に相当す
る成分を用いているのであるから,原告の主張は失当である。
また,原告は,引用文献1の実施例22における結晶の存否に関して,
「溶解して
いる薬剤は一部のみであって,残りの大部分は固体結晶として(オレイン酸の)小
滴中に分散している」と主張するが,審決は,引用文献1の実施例22を引用発明
と認定したわけではないし,実施例22に薬物の結晶が存在すると認識されるもの
でも,実証されているものでもないことは,上記2(2)で述べたとおりであって,上

記原告の主張は,推測の域を出ないというべきである。むしろ,実施例22は,い
わゆる溶融法により得られた固体分散製剤であるから,薬物の結晶を含まないもの
となっているというべきである。
エ 仮に,実施例22の固体分散製剤が一部結晶を含むと解されるとしても,
引用発明において,分子分散体(結晶を含まないもの)とすることは容易であるこ
とは,審決が説示したとおりである。
固体分散体の製造方法として溶融法が知られており,これは薬物と担体(水溶性
高分子)との混合物を加熱溶融させた後,冷却固化して得る方法であり,溶剤を使
用しないという利点を有することも知られている。そして,引用発明は,水難溶性
薬物の固体分散製剤であって,薬物と水溶性ポリマーマトリックスとの混合物を用
いるものであるところ,引用発明の具体例の1つとして示した実施例22では,オ
レイン酸とケトコナゾールを均質に混合,分散させ,溶融PVPに加え,室温まで
急冷することが示されている。引用文献1には,有機溶媒を用いることなく製造で
きる利点も指摘されている。当業者であれば,薬物,脂肪酸及び水溶性ポリマーマ
トリックスを溶融混合物として,押し出せばよいことは,直ちに理解できるという
べきであって,どの部分で適用できるか不明などということはない。
引用文献1では,活性成分等の各成分の結晶状態について何ら言及がなく,ポリ
マーの役割も明らかにされていないが,固体分散体は,担体(水溶性高分子)を用
いることにより,薬物の溶解性を向上し,バイオアベイラビリティーを改善するた
めのものであり,薬物は胃腸管内で溶解して吸収されるが,難溶性薬物が結晶であ
ると溶解性が劣ることも知られている。
したがって,引用文献1に結晶状態に関する言及がなくても,当業者であれば固
体分散製剤における薬物の状態(結晶化の有無)を考慮することは,記載するまで
もない当然の前提技術というべきものである。
(2) 相違点4
ア 補正発明の「自己乳化性」は,固形の配合物を水等に接触させたときに

エマルジョン(乳液)に変化する性質を意味し,エマルジョンの自発的な生成,す
なわち,自己乳化性の付与には,「分子分散体」の状態であることが大きく関わり,
分子分散体が水性媒質に接触したとき,非常に小さい粒子径及び狭い粒子径分布を
持つエマルジョンを形成するものと考えられ,その2つがエマルジョンの安定性と
吸収特性に有利に働くことについては認める。
イ しかしながら,固体分散体が結晶を含まない分子分散体であれば,薬物
は分子レベルで分散しているため,溶解後に非常に小さい粒子径及び狭い粒子径分
布を持つエマルジョンを形成し,水溶性高分子の存在により分散安定性にも優れた
ものとなる自己乳化性なる性質を備えることは,当業者が理解するところである。
したがって,溶融法で製造されたと解される,引用発明の固体分散製剤も,経口投
与後に消化管で溶解しエマルジョン(乳液)となる,自己乳化性なる性質は備わっ
ている。
ウ 仮に,引用発明に自己乳化性なる性質が備わっていないとしても,引用
発明の固体分散製剤について,より溶解性及びバイオアベイラビリティーが改善さ
れることが周知である分子分散体とするために,溶融押出しにより製造することは
容易であるから,このような分子分散体とすることで,補正発明の「自己乳化性」
なる,非常に小さい粒子径及び狭い粒子径分布を持つエマルジョンを形成し,エマ
ルジョンの安定性と吸収特性に有利に働くという性質を備えた固体分散製剤とする
ことは,容易になし得ることである。
上記1で述べた技術常識のとおり,脂質の添加は,溶融押出しを回避する理由と
はならず,むしろ可塑剤としての働きにより溶融温度を低下させ,熱安定性の影響
を少なくして均一な溶融混合物を得ることにより,分子分散体を製造できると考え
るのが,当業者の理解するところであるから,脂質の有無は,溶融押出しの適用の
可否に影響しない。
(3) 相違点1
引用文献1では,そもそもオレイン酸を添加することにより,水難溶性薬剤の(胃

腸管での)溶解性の向上をなし得た旨記載されており,しかも,通常,そのような
効果は,一定の範囲内の配合量において,多少の程度の差こそあれ共通に得られる
ものと解されるから,当業者であれば,実施例22における配合量が5.3%であ
るからといって,この配合量に必要以上に拘泥することなく,その前後の近傍範囲
においても,概ね同様な効果が得られるものと理解する。
したがって,引用文献1の「5.3%」という記載に基づいて,その近傍であり,
補正発明の下限値である6%という配合量とすることは,当業者が容易になし得る
ことというべきである。
なお,審決で説示した,引用発明における「溶解性の向上」は,経口投与後の薬
物の溶解性の向上にほかならず,審決が溶解性についての理解を誤っているとの原
告の主張は,審決を正しく理解していない。
(4) 相違点2
引用文献1には,具体例としてオレイン酸を配合した固体分散製剤が記載されて
いるから,審決が,補正発明における「50℃を超えない融点を有し,12を超え
ないHLBを有する」という発明特定事項につき,実質的な相違点ではないと判断
した点に,誤りはない。
4 取消事由3に対し
(1) 本件補正が,特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項
に適合するかの判断については,同法159条2項により,同法50条は,直接適
用されない。したがって,審決が,補正発明について,本件拒絶査定の理由とは異
なる理由で判断したことは,そもそも審決の取消事由とはならない。
(2) 審決も本件拒絶査定も,補正発明は,引用文献1単独で容易に想到できた
ものと判断していると解され,審決の判断は,本件拒絶査定と理由の骨子を同じく
するもので差異はないから,原告に対する手続保障は十分尽くされていたといえる。
審決は,溶融法を用いて製剤化された固体分散体は,難溶性薬物のバイオアベイ
ラビリティーを改善する手段の1つであること,そして,固体分散体の中でも固溶

体(分子分散体)は最も溶解性が改善されるものであることが,当業者の技術常識
であることを前提に,周知例(甲6~8)を挙げてより丁寧に説示しただけであっ
て,新たな副引用例を用いることなく,引用文献1単独から容易想到と判断したも
のである。
審決は,技術常識を踏まえれば,引用発明の固体分散製剤に分子分散体が含まれ
得ると認識されるが,分子分散体が含まれるとは明記されていないため,念のため
に相違点3として摘示した上で,また,自己乳化性についても,引用発明において
も備わっている性質であると判断されるが,相違点4として摘示した上で,周知技
術に基づいて丁寧に説示したにすぎない。
本願明細書には,脂質成分が慣用の可塑剤の特性を有することについて記載され
ているだけで,可塑化により分子分散体が得られることは記載されていないから,
この点が,審査段階で重要な論点であったとはいえず,原告に対して手続保障を与
える対象ではない。

第5 当裁判所の判断
1 前提事実
(1) 補正発明
補正発明は,上記第2の2に記載のとおりである。この点は当事者間に争いがな
い。
ア 本願明細書(甲1)には,次のとおりの記載がある。
(ア) 本願発明の属する技術分野における従来技術
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は,活性物質成分と,脂質成分および結合剤成分を有する配合基剤と,を
ベースとする自己乳化性配合物,ならびに生命科学分野における剤形としてのこの
配合物の使用に関するものである。本発明はまた,可塑性混合物を形成するように

配合成分を混合することにより自己乳化性配合物を調製する方法,しかるべき場合
には剤形として該配合物を製造する方法,ならびに生命科学分野において少なくと
も 1 種の活性物質を適用する際の配合基剤の使用について記述したものである。
【0002】
乳化された形態で活性物質を利用できることがしばしば望まれる。したがって,
製薬技術分野では,活性物質が胃腸管などに適切に吸収されるようにするために低
い溶解度の活性物質を所定の添加剤と共に製剤化する。こうした添加剤は,通常,
きわめて高い HLB 値を有するノニオン界面活性剤,たとえば,Cremophor(登録商標),
Tween(登録商標)などを含む。このことは,作物保護分野の場合と同じように製剤分
野にもよくあてはまる。
【0003】
たとえば,WO 00/00179(注:引用文献1)では,従来の乳化剤を添加することに
より油または脂肪を乳化または微小乳化し,次に,これらのエマルジョンまたはマ
イクロエマルジョンに水への溶解度の低い活性物質を配合している。
【0004】
これらの添加剤は,通常,化学的には不活性であるとみなされているが,特に高
用量で局所的および/または全身的毒性により顕在化するおそれのある欠点を抱え
ていることが知られている。
【0005】
局所刺激があるうえに,生物によるこれらの可溶化剤の取り込みによって生じる
これらの物質の望ましくない副作用を取り除くこともできない。
【0006】
たとえば,非経口投与のためのエマルジョンでは,通常,乳化性のリン脂質,特
にレシチンが使用される。しかしながら,リン脂質の不適当な化学的安定性が原因
で,これらのエマルジョンには,かなり大きな保存安定性の問題がつきまとう可能
性がある。そのうえ,そのようなエマルジョンの調製は複雑である。すなわち,高

圧下,すなわち数 100 バールの圧力下で,脂質や脂質誘導体などの他のエマルジョ
ン成分と共にリン脂質を水中に均質化することが必要になる。
【0007】
上記の液体エマルジョンのほかに,
「固体」エマルジョンも知られている。これら
の配合物は,水性系に溶解してエマルジョンを形成するので,一般に自己乳化性系
と呼ばれている(M.O. Bachynsky et al., 「自己乳化性経口送達系の効率を左右す
る因子」 Drug Development and Industrial Pharmacy, 23 (8), (1997) 809-816; US
5,858,401 を参照されたい)。冒頭で述べた可溶化促進性添加剤は,これらの場合に
も主として使用されるが,公知の欠点を伴う。Tween(登録商標)などの低分子量界面
活性剤が特に使用されるが,そのほかに,高分子グリセリド界面活性剤をベースと
する自己乳化性系についても記載されている(A.T.M. Serajuddin, 「界面活性およ
び自己乳化性のビヒクル中への固体分散による低水溶性薬物の生物学的利用能の増
強」, Bulletin Technique Gattefosse, No.90, (1997), pp. 43-50)。これらの高
分子グリセリドは,HLB 値が大きいので界面活性剤として作用する可能性がある(た
とえば,Gelucire(登録商標)44/14 の HLB は 14 である)。これらの配合物の多くは,
半固体のコンシステンシーをもつため,ゼラチンカプセル中に充填しなければなら
ない。このことは,特に,通常低融点であるグリセリド界面活性剤を使用する場合
にあてはまる。
(イ) 本願発明の課題解決のための構成
【0008】
自己乳化性の剤形を提供するという本発明の基本的な目的は,驚くべきことに,
配合基剤が脂質成分と結合剤成分とを含む配合物により達成される。
【0009】
したがって,本発明は, i)少なくとも 1 種の活性物質と, ii)脂質成分, iii)
結合剤成分,および iv)適切な場合には,他の添加剤,を含む配合基剤と,をベー
スとする自己乳化性配合物に関する。

【0010】
「配合物」という用語は,本発明の枠内で,成分 i),ii),iii)および適切な場
合には iv)から構成された混合物を意味する。
(ウ) 活性物質成分について
【0011】
活性物質とは,本発明の目的では,生理学的作用を有するすべての物質を意味す
る。それらは,特に,活性医薬成分(人間医学および獣医学の分野においてヒトおよ
び動物を対象として),植物処理用の活性物質,殺虫剤,ヒトおよび動物の食物用の
活性物質,芳香剤,着香剤ならびに香油である。投与単位あたりの活性物質の量お
よび濃度は,活性および放出速度に依存して,広い範囲内で変化させうる。一つの
条件は,それらが所望の効果を達成するのに十分であるということである。
【0012】
本発明の目的に合った活性物質しては,このほかに,ビタミンおよびミネラルが
挙げられる。…本発明の目的に合った活性物質としてはまた,治療用ペプチドが挙
げられる。植物処理剤としては,たとえば,ビンクロゾリン,エポキシコナゾール
およびキンメラックが挙げられる。
【0013】
活性医薬成分としては,たとえば,アセブトロール…が挙げられる。
【0014】
本発明に従って使用することのできる活性物質としては,このほかに,…,オレ
ンジ油,…のような多くの精油(aetheroleum)が挙げられる。
【0022】
本発明の配合物は,水性媒質に配合物を溶解させたときに得られるエマルジョン
の可溶化特性の恩恵を受ける活性物質に特に有利である。これらは,特に,低い溶
解度の活性物質,中でも,1 部の活性物質を溶解するのに,少なくとも 100 部,特
に少なくとも 1,000 部,好ましくは少なくとも 10,000 部の水が必要である活性物質,

さらには,水に自由に溶解するが特定の投与形態では不十分な結果しか得られない
活性物質である。
【0023】
活性物質成分 i)は,通常,配合物の 0.1~50 重量%,好ましくは 1~30 重量%,特
に 5~20 重量%を構成する。重量%のデータは,別段の記載がないかぎり,配合物の
全重量を基準にしたものである。
(エ) 脂質成分について
【0025】
本発明の固形配合物の脂質成分は,少なくとも 1 種の脂質を含む。この脂質は,
脂質誘導体および脂質含有混合物をも意味するものである。
【0026】
脂質という用語は,脂肪および脂肪様物質に対する総称である。脂肪との類似性
は,特に,溶解特性により規定される。したがって,脂肪様物質は,脂肪そのもの
と同様に,たとえば,実際上水に不溶である。…それらはまた,親油性または疎水
性であるとも記される。
【0028】
特に,医薬用途の枠内では,脂質成分中の少なくとも 1 種の脂質は,好ましくは
内因性脂質から選択される。内因性脂質としては,特に,偶数個の炭素原子を有す
る脂肪酸をベースとする脂質,中でも,対応するグリセリド,および脂肪酸または
それらの誘導体が挙げられる。
【0029】
脂肪酸という用語は,脂肪族飽和もしくは不飽和カルボン酸のグループを意味す
る。…
【0030】
単不飽和または多不飽和の脂肪酸,特に,オレイン酸,パルミトレイン酸,エル
カ酸,リノール酸,リノレン酸が好ましい。

【0031】
グリセリドという用語は,グリセロールのエステルを意味する。…
【0032】
好ましいのは,不飽和脂肪酸残基,特に,本発明に従って好適に使用することの
できる脂肪酸残基を有するモノ,ジおよびトリグリセリド,中でも,グリセロール
モノオレエート,グリセロールジオレエート,グリセロールトリオレエートである。

【0037】
本発明に従って使用することのできる脂質としては,このほかに,脂質に加えて
他の成分をも含有しうる脂質含有天然物抽出物が挙げられる。ここで特筆すべきも
のとしては,…たとえば,オリーブ油,ヒマシ油,ゴマ油,ピーナッツ油,アーモ
ンド油,アマニ油,カカオ脂,ヒマワリ油,中鎖長トリグリセリド…,グリセロー
ルモノステアレート,中鎖長の部分グリセリド…,より長鎖の部分グリセリド…な
どの植物油または動物脂が挙げられる。…
【0039】
特定の実施形態では,脂質成分 ii)…は,12 を超えない,好ましくは 8 を超えな
い,特に 5 を超えない HLB を有する。HLB 系(親水性親油性バランス系)は,界面活
性物質に数値を割り当てるものであり,親油性物質の HLB 値は低く,親水性物質の
HLB 値 は よ り 高 い (Fiedler, H.B., Lexikon der Hilfsstoffe fur Pharmazie,
Kosmetik, und angrenzende Gebiete, 4th edition, Aulendorf:
ECV-Editio-Cantor-Verlag (1996))。…
【0040】
他の好ましい実施形態では,脂質成分 ii)…は,50℃を超えない,好ましくは 40℃
を超えない,特に 30℃よりも低い融点を有する。したがって,この実施形態は,…,
オレイン酸,パルミトレイン酸,リノール酸,リノレン酸,アラキドン酸,クルパ
ノドン酸およびドコサヘキサエン酸のような脂肪酸,ならびにグリセロールモノラ

ウレート,…のようなグリセリドを用いて,また前述の精油を用いて,特に実現す
ることができる。
(オ) 脂質成分及び活性物質成分の分子分散について
【0041】
脂質成分 ii)…の少なくとも一部分および結合剤成分の少なくとも一部分は,本
発明の配合物中で分子分散を形成することが特に好ましい。脂質含有量が結合剤含
有量よりも多い場合,脂質中の結合剤の分子分散であると言われる。脂質含有量は
好ましくは結合剤含有量よりも少なく,この場合には,結合剤中の脂質の分子分散
であると言われる。
【0042】
「分子分散」という用語は,当業者には公知であり,物質が,本発明の場合には
脂質成分または結合剤成分の少なくとも一部分,好ましくは大部分が,溶媒中に均
一に分散されている系を本質的に記述する。そのような場合,溶媒は,通常,マト
リックスを形成する。本発明によれば,マトリックスは,結合剤成分または脂質成
分によりあるいは少なくとも結合剤成分または脂質成分の大部分により形成される。
本発明の配合物中の脂質結晶の含有量は,通常 12%未満,特に 5%未満である。結晶
の含有量に関する記述は,各成分の合計量を基準とする。
【0043】
特定の実施形態では,分子分散系は固体であり,その場合,それらは固溶体と呼
ばれる。
【0044】
本質的に脂質結晶を含まない本発明の配合物は,本発明に係る特定の実施形態を
なす。この状態は,マトリックス中の脂質または結合剤の最大の可能な均質化に相
当する。分子分散系には境界面は存在しない。
【0045】
他の特定の実施形態では,活性物質成分の少なくとも一部分が分子分散の形態を

とる。本発明の配合物中の活性物質結晶の含有量は,通常 12 未満%,特に 5 未満%
である。こうした配合物としては,特に,本質的に活性物質結晶を含まない配合物
が挙げられる。この状態は,配合基剤中の活性物質の最大の可能な均質化に相当す
る。
【0046】
本質的に脂質および活性物質の結晶を含まない本発明の配合物,特に,いかなる
構成成分についても本質的に結晶性部分が含まれない本発明の配合物(本質的に非
晶質のまたは結晶不含の配合物)は,本発明に係る他の特定の実施形態をなす。この
状態は,配合成分の最大限可能な均質化に相当する。分子分散である配合物には境
界面は存在しない。
【0047】
そのような分子分散,特に固溶体の状態を調べるために,示差走査熱量測定(DSC)
や広角 X 線散乱測定(WAXS 測定)などの既知の分析法を使用することができる。分子
分散の DSC 分析測定では,結晶性純物質のときに生じる通常吸熱性の溶融ピークは
観測されない。分子分散の同定を可能にする他の状態は,WAXS 分析において典型的
な X 線回折シグナルの強度が減少することおよび/または該シグナルが存在しない
ことである。
【0048】
配合物中の脂質成分の含有量は,通常 6~60 重量%,好ましくは 11~40 重量%,特
に 16~25 重量%である。
【0049】
脂質の最適量を確定するための判定基準の 1 つは,溶融体における本発明の配合
物の均一性である。特に上限に関して,相分離を起こすことなく溶融体中に脂質を
均一に取り込めることが保証されなければならない。
【0050】
本発明の特定の実施形態では,脂質成分 ii)…は,結合剤成分を基準にして,40

重量%以下,好ましくは 30 重量%以下,特に 25 重量%以下である。
(カ) 結合剤成分について
【0051】
本発明の配合物中の結合剤成分は,結合剤マトリックス,特にポリマーマトリッ
クスを少なくとも部分的に形成する結合剤と考えることもできる。本発明の目的に
合った結合剤は,固体の溶融可能な溶媒である。結合剤マトリックスは,脂質成分
ii)…の少なくとも一部分を特に取り込んでしかも特に溶解させる役割を担う。これ
は,好ましくは,分子分散の形成に結びつく。この点に関しては,脂質成分に関連
した上記の記述を参照されたい。
【0052】
結合剤成分は,便宜上使用条件下で,すなわち,特に生理学的条件下で,水性媒
質中に好ましくは少なくとも部分的に溶解可能または膨潤可能である。
【0053】
水性媒質としては,本発明の説明の枠内で,水が挙げられるほか,少なくとも 50
重量%…の水を含有する水と他の成分との混合物が挙げられる。水性媒質としては,
特に,胃液や腸液などの消化管中の流体…が挙げられる。
【0054】
膨潤とは,本質的には,本発明の固形配合物などの固形体の体積および/または形
状が液体,蒸気およびガスへの暴露により変化する過程を意味する。膨潤可能また
は溶解可能とは,少なくとも表面上に水を蓄積することおよび/または主に吸収によ
りポリマー鎖間に水を取り込むことのできる親水性ポリマーに対して特に用いられ
る用語である。有限膨潤が起こると,通常,ゲルが形成される。このため,有限膨
潤の可能なかつ本発明に従って使用可能なポリマーは,ゲル形成剤として一般に知
られるポリマーから選択することができる。無制限膨潤が起こると,通常,溶液ま
たはコロイド溶液が形成される。このため,無制限膨潤の可能なかつ本発明に従っ
て使用可能なポリマーは,それぞれの水性媒質中で少なくともコロイド溶液を形成

するポリマーから選択することができる。医薬用途では,特に体液,たとえば胃腸
管の体液に関しては,生理学的条件,特に pH の局所的差異が存在する可能性のある
ことを考慮に入れなければならない。…
【0055】
特定の実施形態では,結合剤成分 iii)は,配合物の使用条件下でミセルを形成し
ない。CMC(臨界ミセル濃度)に到達することがない。
【0056】
当該方法に技術的に有利な結合剤成分は,溶融加工性のものである。
【0058】
本発明の 1 実施形態では,結合剤成分中の少なくとも 1 種の結合剤は,変性天然
ポリマーおよび特に合成ポリマーから選択される。本発明の他の実施形態では,結
合剤成分中の少なくとも 1 種の結合剤は,糖アルコールまたはデンプン糖化生成物
から選択される。
【0059】
結合剤成分中の少なくとも 1 種のポリマーは,次の中から選択することが特に好
ましい。ポリビニルピロリドン,ビニルピロリドン/ビニルアセテートコポリマー,
ヒドロキシアルキルセルロース,ヒドロキシアルキルアルキルセルロース,セルロ
ースフタレート,ポリアルキレングリコール,(メタ)アクリル樹脂,…。
【0065】
本発明の配合物中の結合剤成分の含有量は,通常 20~93.9 重量%,好ましくは 30
~90 重量%,特に 40~80 重量%である。
【0066】
医薬製剤分野では,特に,本発明の配合物中の結合剤成分の含有量は,20~80 重
量%,好ましくは 30~60 重量%,特に 40~50 重量%である。
(キ) 添加剤について
【0067】

本発明の配合物は,脂質成分 ii・・・および結合剤成分 iii)のほかに,添加剤,
たとえば,医薬用および化粧用として許容される添加剤(添加剤成分 iv)をさらに含
有していてもよい。そのような添加剤により,配合物の調製の容易化および/または
その性質の調節を行いうる。性質および量は,有利には,本発明の配合物の特別な
性質の発現および分子分散の形成,特に,しかるべき場合に存在しうる固溶体の形
成を阻害したり,この系の不安定化に寄与したりすることがないように選択される。
【0068】
添加剤は,たとえば,従来の医薬用添加剤であり,その合計量は,結合剤成分を
基準にして 100 重量%まで許容される。以下のような例が挙げられる。
充填剤,たとえば,上記の糖アルコール,…;
滑沢剤,滑剤および離型剤,たとえば,…動物性または植物性の脂肪,特に,水
素化された形態のものおよび室温で固体であるもの。これらの脂肪は,好ましくは
30℃以上の融点を有する。溶融押出法に関連して技術的に好ましいのは,DE 197 31
277 に記載されている C12,C14,C16 および C18 脂肪酸のトリグリセリド,または加工
性を改良するうえで,DE 195 36 394 にイソマルト含有ポリマー/活性物質溶融体の
押出と関連して記載されているレシチンである。カルナウバワックスのようなワッ
クスを使用することも可能である。…本発明に従って存在する脂質は,通常,これ
らの添加剤の機能を担うので,結果として,滑沢剤,滑剤および離型剤は,添加剤
として配合物にごく少量添加され,有利にはまったく添加されない。存在する場合,
滑沢剤および離型剤の形態の添加剤の合計量は,混合物の全重量を基準にして,好
ましくは 0.1~10 重量%,特に 0.1~1 重量%である;
流動調節剤,例えば,珪藻土…。存在する場合,量は,特に,混合物の全重量を
基準にして 0.1~5 重量%である;

可塑剤,特に,以下に記載のもの。
【0069】

また,湿潤剤,保存剤,崩壊剤,吸着剤および離型剤,ならびに界面活性剤,特
に,アニオン性およびノニオン性のもの,たとえば,石鹸および石鹸様界面活性剤,
アルキルスルフェートおよびアルキルスルホネート,…Tween(エトキシル化ソルビ
タン脂肪酸エステル)を添加することも可能である…。本発明の配合物は水または水
性溶媒に接触させるとエマルジョンを形成するので,界面活性添加剤,特に, HLB

値,中でも 8,10 を超える HLB 値,特に 15 を超える HLB 値を有する物質を,少量,
通常 1 重量%未満の量に抑えることが可能である。そのような添加剤なしですますこ
とが可能でありかつ有利である。
【0080】
本発明の配合物は,好ましくは 5 重量%未満,特に 1 重量%未満の水を含有する。
特定の実施形態は,本質的に無水の配合物により構成される。
(ク) 「固体」について
【0081】
本発明の配合物は,好ましくは,固体のコンシステンシーを有する。これに関連
して,
「固体」という用語は,医薬品に関する適切な薬局方で規定される意味を有す
る。本発明の配合物はまた,半固体または粘稠液体のコンシステンシーをもつもの
であってもよい。…
(ケ) 製造方法について
【0097】
本発明はまた,成分 i),ii),iii)および適切な場合には iv)を混合して可塑性混
合物を形成させることによる,本発明の配合物の製造方法に関する。この場合,可
塑性混合物を形成させるには,少なくとも 2 つの処理が必要である。一方の処理は,
各成分を混合して混合物を形成させることであり,他方の処理は,それを可塑化さ
せること,すなわち,それを塑性状態に加工することである。これらの処理は,1
種以上の成分または成分の一部分に対して,連続的に,連続交互的に,交互的にま
たは他の方式で行うことが可能である。…

【0098】
可塑性混合物の形成は,溶融により行うか,あるいは,機械的エネルギー(例え
ば,混練,混合または均質化による)の追加供給で,混合物の融点未満で溶融する。
可塑性混合物は,好ましくは,220℃未満の温度で形成される。可塑性混合物の形成
は,通常,1 種以上の成分をペーストに加工したりまたは液体または溶媒を用いて
部分的に溶解させたりして行うのではなく,主としてまたはもっぱら成分(1 種もし
くは複数種)に熱的作用または熱的/機械的作用を加えることにより,すなわち,熱
的可塑化により行われる。可塑性混合物は,好ましくは押出により,特に好ましく
は溶融押出により形成される。可塑化プロセスステップは,たとえば,EP-A-0 240 904,
EP-A-0 337 256,EP-A-0358 108,WO 97/15290 および WO 97/15291 に記載されてい
るようなそれ自体公知の方法で行うことができる。これらの刊行物の内容および,
特にそこに示されている溶融押出に関する記述は,参照により本明細書に組み入れ
られるものとする。
【0099】
結合剤成分は,すべての成分の完全混合物の状態で,30~200℃,好ましくは 40
~170℃の範囲で塑性状態に加工されなければならない。したがって,混合物のガラ
ス転移温度は,220℃未満,好ましくは 180℃未満でなければならない。所要により,
転移温度は薬理学的に許容される慣用の可塑化添加剤を用いて低下させる。
【0100】
そのような可塑剤の例は次のとおりである。…グリセロールモノ,ジもしくはト
リアセテートのような脂肪酸エステルあるいはジエチルスルホコハク酸ナトリウム。
可塑剤の濃度は,存在する場合,ポリマーおよび可塑剤の全重量を基準にして,一
般的には 0.5~30,好ましくは 0.5~10 重量%である。
【0101】
…本発明に従って存在する脂質成分は可塑化特性を有するので,可塑化を目的と
して可塑剤を添加することは通常必要ではない。

【0102】
本発明のこの方法は,有利には 200℃未満,好ましくは 170℃未満,かつ室温(25℃)
を超える,好ましくは 40℃を超える温度で行なうことができる。特に,この方法は,
本成分の混合物の軟化点から高温側または低温側に 40℃,好ましくは 30℃,特に
20℃までの温度範囲で行われる。
【0103】
場合によっては,溶媒中の溶液または懸濁液として,成分または成分の一部分を
添加することが有利なこともある。…本発明に従って使用される成分は,少量の溶
媒を含有していてもよい。…可塑性混合物は,好ましくは,溶媒を添加することな
く,すなわち,特に無溶媒溶融押出により,形成される。
【0104】
本成分,すなわち,活性物質,脂質および結合剤ならびに適切な場合には他の添
加剤は,最初に混合し,次に塑性状態に加工し,そして均質化させることができる。
しかしながら,特に,感受性の高い活性物質を使用する場合,結合剤成分の少なく
とも一部分および脂質成分の少なくとも一部分を適切な場合には他の添加剤と一緒
に,最初に塑性状態に加工することが有利であることが判明した。これは,攪拌型
容器,撹拌機,固体混合機などのような装置を交互に操作することにより行うこと
ができる。感受性の高い活性物質はその後,好ましくは,塑性相にある滞留時間が
非常に短い「強力混合機」を用いて混ぜ合わす(均質化させる)ことができる。活性
物質(1種もしくは複数種)は,そのままで,すなわち,固形,半固形または液状の
形態で,あるいは溶液,懸濁液または分散液として用いてもよい。
【0105】
本発明の方法の特定の実施形態では,最初に結合剤と活性物質と,適切な場合に
は添加剤との可塑性混合物を形成させ,そしてこの混合物に脂質を添加することが
有利なこともある。この手順は,特に活性物質が可塑剤的性質を有している場合に
有利であろう。それにより全体的なプロセス温度の低下を達成できるので望ましい

ことである。
【0106】
本発明の方法の特定の実施形態では,最初に活性物質と脂質とを混合し,次に可
塑化された結合剤に添加することが有利なこともある。この手順は,特に活性物質
および/または脂質が熱的に不安定な場合に有利であろう。
【0107】
可塑化,溶融および/または混合は,この目的で慣用される装置により行われる。
押出機または攪拌機を備えた加熱可能な容器,たとえば,混練機(以下に記載のタイ
プのもののような混練機)は,特に好適である。
【0108】
またプラスチック加工技術において混合に利用される装置を混合装置として使用
することも可能である。…
【0109】
感受性の高い活性物質の場合,最初に,結合剤成分および脂質成分を,例えば押
出機などを用いて塑性状態に加工し,次に活性物質を混合機/混練機反応器を用いて
混合することが好ましい。一方,それほど感受性の高くない活性物質の場合,回転
子/固定子システムを用いて活性物質を激しく分散させることができる。
【0110】
混合および可塑化のプロセスステップ,すなわち特に溶融は,同じ装置を用いる
かまたは互いに別々に運転されている 2 つ以上の装置を用いて行うことができる。
プレミックスの調製は,先に記載した特に顆粒化に通常使用される混合装置のうち
の 1 つを用いて行うことができる。そのようなプレミックスは次にたとえば押出機
に直接供給し,その後,適切な場合には他の成分を添加して押出すことができる。
【0111】
本発明の方法では,1 軸スクリュー機械,噛合型スクリュー機械あるいは多軸ス
クリュー押出機,特に 2 軸スクリュー押出機(同方向回転式または異方向回転式が

あり,適切な場合には混練ディスクを備えている)を押出機として用いることがで
きる。押出時に溶媒を蒸発させる必要がある場合,通常押出機に蒸発セクションを
設ける。使用することのできる押出機の例は,Werner & Pfleiderer 製の ZSK シリ
ーズである。
【0112】
混合装置への仕込みは,装置デザインに依存して連続方式またはバッチ方式で従
来の方法により行われる。粉末状成分は,たとえば秤量供給装置を介して,自由供
給により導入することができる。塑性組成物は,押出機から直接供給するかまたは
ギヤーポンプを介して供給することができる。これは粘度および圧力が高い場合に
特に有利である。液状媒体は,適切なポンプユニットにより計量投入することがで
きる。
【0113】
脂質成分は,上述したように,連続方式またはバッチ方式で配合物に組み込むこ
とができる。したがって,最初に,結合剤成分(マトリックス)の少なくとも一部分
を脂質成分の少なくとも一部分の担体として使用し,次に,可能な場合には他の成
分を添加して,好ましくは押出により,本発明に従ってプレミックスとして配合し,
可塑性混合物を形成させることができる。脂質成分の少なくとも一部分を可塑性混
合物に連続的に添加することが好ましい。これは,本発明に従って使用される脂質
を半固形または液状の形態で処理できる場合に特に好ましい。したがって,プロセ
スの技術的理由からも,先に記載した比較的低融点を有する脂質が好ましく,そし
てこれらの中でも,室温すなわち約 20~30℃で半固体(蝋状),好ましくは液体(油
状)の性状をもつ脂質が好ましい。これらは,混合装置,特に押出機に直接計量供給
することが好ましい。これにより,別に行なわれる顆粒化ステップを省略すること
が可能である。好ましくは押出機を用いて,脂質様活性物質,すなわち特に精油を
適切な結合剤マトリックス中に連続方式で組み込むことが特に有利である。これは,
結合剤混合物を有する押出機中に上記油を連続方式で供給し,そして得られた配合

物を可塑性混合物として押出すことにより行われる。
【0114】
結合剤成分,活性物質成分,脂質成分および適切な場合には他の添加剤を混合し
て塑性状態に加工することにより得られる混合物は,ペースト状,高粘度または低
粘度の状態(熱可塑性)であり,したがって,押出すこともできる。混合物のガラス
転移温度は,有利には,混合物中に存在するどの成分の分解温度よりも低い。
【0115】
本発明の配合物は,(適切な場合には冷却または固化させた後)可塑性混合物とし
て,特に押出物として,従来の剤形を製造する従来法のいずれにも適合しうる。
【0130】
本発明はさらに,生命科学分野,すなわち,特に,医薬品,化粧品,作物保護,
食料品の分野,ならびに洗濯,洗浄,および衛生の分野の少なくとも 1 種の活性物
質の使用における本発明の配合基剤の使用に関する。
【0131】
この使用の目的は,特に,活性物質成分の効果を改良することである。したがっ
て,この使用は,本発明の配合基剤を用いて生命科学分野の少なくとも 1 種の活性
物質の使用時の活性物質成分の効果を改良する方法を特に含む。このためには,好
ましくは以上に記載の方法のうちの 1 つを用いて,少なくとも 1 種の活性物質をこ
の配合基剤中に導入することが必要である。特に,配合基剤の結合剤マトリックス
は,本発明の固形配合物の製造時に少なくとも 1 種の脂質を収容して活性物質成分
の効果を改良する役割を果たす。
【0132】
結合剤マトリックスは,以上に記載の結合剤成分または少なくともその一部分に
より形成される。以上に記載の脂質成分および/または活性物質成分の構成成分であ
る少なくとも 1 種の脂質は,この結合剤マトリックス中に取り込まれる。結合剤マ
トリックス中に脂質が本質的に分子分散されるように取り込むことが特に好ましい。

特に,脂質の活性物質促進性に関連して,マトリックス中に脂質を均一に分布させ
ることが有利である。これらの利点は,活性物質が分子分散状態でない場合でさえ
も達成することができる。活性物質の薬理学的効果を改良するために使用すること
のできる脂質は,特に吸収促進剤として当業者に公知である。当業者は,たとえば
それらの中から脂質成分の少なくとも一部分を選択することができる。さらに,脂
質成分の説明に関連した以上の記述が参考になる。
【0133】
脂質の同時投与により活性物質促進効果を引き起こすことができるような方法で
活性物質を使用する場合には常に,本発明に係る使用は,特に有利である。これは,
薬学分野において,特に,胃腸管を含む投与経路,すなわち,特に腸内投与,中で
も直腸内投与および好ましくは経口投与に関係がある。少なくとも 1 種の脂質の添
加のような適切な処理を施さないかぎり,投与される活性医薬成分をこの経路によ
り適切に使用することができない場合,本発明に係る使用はとりわけ有利である。
【0138】
本発明の配合物は,自己乳化性の系を形成する。配合物が水性媒質に接触すると,
エマルジョンが形成される。したがって,本発明はまた,エマルジョンの製造方法
に関する。これらのエマルジョンは,通常,特に本発明の配合物の使用条件下で安
定である。したがって,配合物は,通常,90℃未満の温度でさえも安定なエマルジ
ョンを形成する。安定なエマルジョンを形成させるのに好ましい温度範囲は,5~
60℃,特に 10~40℃である。これらは,大部分の粒子の直径が 100μm 未満,好ま
しくは 50μm 未満,特に 20μm 未満である微粒子エマルジョンであることが有利で
ある。水性媒質との接触によりエマルジョンを形成し,粒子直径の少なくとも 50%
が 100~20,000nm,好ましくは 10~5,000nm,特に 300~2,000nm の範囲にある配合
物は,好ましい実施形態である
【0139】
使用条件下では,エマルジョンは,通常,自発的に生成する。特に,機械的エネ

ルギー,たとえば,攪拌および/または剪断エネルギーの投入は,ほとんど必要ない。
したがって,本発明の配合物は,最初に溶媒の不在下で製造することができる。次
に,投与前に適切な剤形を製造してまたは投与後に適切な体液に接触させて,薬物
形態分野における水性媒質との接触が起こる使用に依存してエマルジョンの形成が
行われる。
【0140】
微粒子エマルジョンの形成は,分子分散の状態および特に固溶体の状態で存在す
る本発明の配合物により特に支援される。
【0141】
したがって,脂質エマルジョンが活性物質の使用に好ましい場合,本発明の配合
基剤は特に好ましい。これは特に,低い溶解度の活性物質;容易に溶解しうるが腸
内投与に対して不適当な効果しか示さない活性物質 ならびに/あるいは局所刺激お

よび/または他の望ましくない副作用を惹起する活性物質に関係する。・・・
【0142】
特に前述の結合剤の使用は,エマルジョンの形成に効果がある。これらの結合剤,
特に高分子結合剤は,可溶化剤として作用することができるので,脂質の乳化に関
連して乳化剤の機能を担う。したがって,本発明のさらなる態様は,脂質成分を乳
化するための結合剤成分の使用である。
(コ) 実施例
【0143】
次に,以下の実施例により本発明について具体的に説明するが,これらに限定さ
れるものではない。
【0144】
実施例 1: 等重量部のヒドロキシプロピルセルロース(Klucel EF, Agualon)とオ
レイン酸との混合物を計量混練機(Rheomix, Haake 製)により 120℃で処理して均一
なゴム状溶融体にした。冷却させたところ,水に溶解してエマルジョンを形成する

透明な固形塊が得られた。
【0145】
実施例 2: 実施例 1 と同様にして実験を行ったが,ただし,5 分間にわたり 100℃
の温度で 60 重量%の Kollidon VA-64(BASF)と 40 重量%のオレイン酸との混合物を処
理した。清澄透明な低粘度の溶融体が得られた。またこの溶融体は,室温まで冷却
した後(および室温で 12 ヶ月間保存した後でさえも),清澄透明であり,しかも依然
として塑性変形可能であった。冷却された溶融体は,容易に水中に溶解してエマル
ジョンを形成した。Mastersizer 計器(Malvern, UK から入手)を用いて,この調製物
のエマルジョン液滴のサイズを測定した。粒子の 90%は 35μm 未満のサイズを有し,
粒子の 50%は 2μm 未満であった。
【0151】
実施例 8: 穏やかに混練しながら,1 重量部のオレイン酸を 7 重量部の Kollidon
VA-64(BASF)に添加した。数分間混練したところ,わずかに発熱を伴って均一な顆粒
が得られた。これを 2 重量部の活性物質エスプロンと混合した。次に,この顆粒状
の混合物に 1 重量%の高分散シリカ(Aerosil 200)を添加し,次に,この混合物を 2
軸スクリュー押出機(スクリュー直径 16mm)に秤量供給装置を介して計量供給し,そ
して 110℃の温度で押出した。冷却後,生成した清澄な溶融体を水に溶解させてエ
マルジョンを形成させることができた。
【0152】
実施例 9: 実施例 8 と同様にして実験を行ったが,ただし, 重量部のパラセタモ
ールを 7 重量部の Kollidon VA-64(BASF)と 1 重量部のオレイン酸とのあらかじめ顆
粒化した混合物と混練した。押出する前に,1 重量%の Aerosil 200 を同様に混合し
ながら全混合物に添加した。125℃の温度で押出を行い,冷却した溶融体を水に溶解
させて微粒子エマルジョンを形成させた。
イ 以上によれば,補正発明は,次のとおりの発明であると認められる。
すなわち,補正発明は,活性(物質)成分と,脂質成分及び結合剤成分を有する

配合基材とをベースとする自己乳化性配合物に関するものである(【0001】。

本件優先日において,乳化された形態で活性物質を利用できることが望まれてい
たが,製薬技術分野において,活性物質が胃腸管などに適切に吸収されるように低
い溶解度の活性物質を製剤化するために用いた,極めて高いHLB値を有するノニ
オン界面活性剤などの添加剤は,特に高用量では毒性により顕在化するおそれのあ
る欠点を抱えていることが知られており(【0002】~【0006】 ,また,自己

乳化性系と呼ばれている「固体」エマルジョンに用いられる添加剤も,低分子量界
面活性剤や高分子グリセリドなどのいずれもHLB値が大きいものであり,これら
の配合物の多くは,半固体のコンシステンシーを持つため,ゼラチンカプセル中に
充填しなければならない(【0007】。

そこで,補正発明は,固体の自己乳化性の剤形を提供することを課題とし(【00
08】【0069】,当該課題を解決するための具体的手段として,50℃を超え
, )
ない融点を有し,かつ,12を超えないHLBを有する脂質成分6~60重量%と,
ポリビニルピロリドン等から選択される少なくとも1種の結合剤成分20~93.
9重量%と,活性成分0.1~50重量%を含む配合物を用い,前記脂質成分の含
有量が前記結合剤成分を基準にして40重量%を超えず,前記脂質成分及び前記結
合剤成分を含む分子分散体を含み,本質的に前記活性物質の結晶を含まない,自己
乳化性固形配合物を採用するものである(【請求項1】。

そして,補正発明における各成分は,次のようなものである。
① 自己乳化性固形配合物
補正発明に係る自己乳化性固形配合物とは,水性媒質に接触する前は固形である
が,水性媒質に接触すると,撹拌等の機械的エネルギーを必要とせずに自発的にエ
マルジョンが形成される配合物をいい,大部分の直径が100μm未満,特に20
μm未満である微粒子エマルジョンの形成は,分子分散の状態,特に固溶体の状態
で存在する配合物により,特に支援される(【0138】~【0140】。

補正発明は,脂質及び活性物質の結晶を含まず,それらが結合剤成分に分子分散

した境界面のないものであり,これは固溶体と呼ばれる【0043】 【0046】。
( ~ )
② 脂質成分
補正発明の「50℃を超えない融点を有し,かつ,12を超えないHLBを有す
る脂質成分」は,脂肪及び脂肪様物質であり,実際上,水に不溶であり親油性又は
疎水性である。具体的には,オレイン酸などの脂肪酸,グリセロールモノラウレー
トなどのグリセリド,あるいは,精油などを用いることができる。脂質含有量が結
合剤含有量よりも少ない(脂質成分の含有量は,前記結合剤成分を基準にして,4
0重量%を超えない)ので,前記脂質成分および前記結合剤成分を含む分子分散体」

とは,結合剤中に脂質が「分子分散」していることを意味する。この「分子分散」
とは,脂質成分が,結合剤(マトリックス)中に均一に分散されている系を本質的
に記述し,分子分散系には,境界面は存在しない(【0026】【0028】~【0

032】【0037】【0039】~【0044】【0050】 。
, , , )
配合物中の脂質成分の含有量は,6~60重量%であり,脂質の最適量を確定す
るための判断基準の1つは,溶融体における配合物の均一性であり,相分離を起こ
すことなく,溶融体中に脂質を均一に取り込めることが保証されなければならない
(【0048】【0049】。
, )
③ 活性(物質)成分
補正発明の活性物質とは,生理学的作用を有するすべての物質を意味する 【00

11】~【0014】。活性物質成分の含有量は,0.1~50重量%である(
) 【0
023】。補正発明では,配合物中,本質的に活性物質結晶を含まず,活性物質は

分子分散の形体をとるが,この状態は,配合基剤中の活性物質の最大の可能な均質
化に相当する(【0045】~【0047】 。

④ 結合剤成分
補正発明の結合剤成分は,「ポリビニルピロリドン,ビニルピロリドン/ビニルア
セテートコポリマー,ヒドロキシアルキルセルロース,ヒドロキシアルキルアルキ
ルセルロース,セルロースフタレートおよび(メタ)アクリル樹脂から選択される少

なくとも 1 種」を含むものであり,脂質成分を溶解させる役割を担い,分子分散の
形成に結び付くものであり,使用条件下では,水性媒体中に少なくとも部分的に溶
解可能又は膨潤可能である(【0051】【0052】。結合剤成分の含有量は,2
, )
0~93.9重量%である(【0065】。そして,高分子結合剤は,可溶化剤とし

て作用することができるので,脂質の乳化に関連して乳化剤の機能を担う 【014

2】。

⑤ 製造方法
補正発明の配合物は,活性(物質)成分,脂質成分及び結合剤成分を混合して可
塑性混合物を形成させて製造するが,可塑性混合物の形成は,溶融により行うか,
あるいは,機械的エネルギー(混練,混合又は均質化による)の追加供給で,混合
物の融点未満で溶融させることにより製造する。特に好ましくは,溶融押出しによ
り形成される。脂質成分は可塑化特性を有するので,可塑剤を添加することは,必
須ではない(【0097】~【0115】 。

(2) 引用発明について
ア 引用文献1(甲3,乙5)には,次のとおりの記載がある。
(ア) 請求の範囲
「1.オイル,脂肪酸またはそれらの混合物に薬剤を溶解または分散させ,水溶
性ポリオールマトリックスに該溶液または分散物を混合し,混合物を乾燥させるこ
とにより調製された,水難溶性薬剤の固体分散製剤。
・・・
5.オイルが、α-ビサボロール、ステアリルグリセルヘティネート、サリチル
酸、酢酸トコフェロール、ヒアルロン酸ナトリウム、パンテノール、プロピレング
リコール及びリンゴ(Pirus Malus) プロピレングリコール及びパイナ

ップル、セイヨウキヅタ(Hedera halix)抽出物及び1,3-B.G、
モモ(Prums persica)葉抽出物、加水分解ダイズ粉、コムギ(Tr
iticum Vulgare)タンパク質、カバノキ(Betula alba)

抽出物及び1,3-B.G、ゴボウ(Arctium majus)抽出物及び1,
3-B.G、リポソーム、ホスファチジルコリン、ステアリン酸グリセリル、トリ
(カプチル酸/カプリン酸)グリセリル、セチルオクタノレート、ミリスチン酸イ
ソプロピル、2-エチレンイソペラゴネート、ジ-C12~13リンゴ酸アルキル、
オクタン酸セテアチル、ジカプチル酸/ジカプリン酸ブチレングリコール、イソス
テアリン酸イソノニル、イソステアリン酸イソステアリル、カプチル酸/カプリン
酸ヤシアルキル、オクタン酸セチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、セチルエス
テル、C10~30コレステロール/ラノステロールエステル、水素化ヒマシ油、
モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、ミツロウ、カノウバロウ、ジス
テアリン酸スクトース、PEG-8ミツロウ、セレシン、オゾケライト、マカダミ
アナッツオイル、水素化高エルカ酸菜種油、オリーブオイル、ホホバオイル、ハイ
ブリッドヒマワリ(Helian thus annuus)油、及びドッグロー
ズ(rosa canina)リップオイルを含む群から選択される、請求項1に
記載の固体分散製剤。
6.オイルが、ミネラルオイル、スクアレン、スクアラン、モノグリセリド、ジ
グリセリド、トリグリセリド、中鎖グリセリド、ミグリオール、クレモフォール、
水素化ヒマシ油、コーンオイル、エゴマ油、綿実油及び脂溶性ビタミンを含む群か
ら選択される、請求項5に記載の固体分散製剤。
・・・
8.脂肪酸が,オレイン酸,リノレン酸(注:
「リノール酸」の誤訳と解される。)
及びミリスチン酸イソプロピルからなる群から選択される,請求項7に記載の固体
分散製剤。
9.水溶性ポリマーマトリックスが,ポリエチレングリコール(PEG),カルボ
ワックス及びポリビニルピロリドン(PVP)からなる群から選択される,請求項
1に記載の固体分散製剤。
10.界面活性剤の存在下において,水難溶性薬剤をオイル,脂肪酸又はそれら

の混合物に溶解し分散させた,請求項1に記載の固体分散製剤。(訳文33~34

頁)
(イ) オイル,脂肪酸又はそれらの混合物を含有する水難溶性薬剤の固体分
散製剤の発明の背景及び発明の概要
「発明の背景

技術分野
本発明は,水難溶性薬剤又は生物学的に活性な物質の固体分散製剤に関する。よ
り具体的には,本発明は,胃腸経路において水難溶性薬剤の吸収効率を上昇させ,
医薬製剤において用いられるために都合のよい固体分散製剤に関する。
従来技術
良好な多くの薬剤は,水に難溶性である。体に投与される際に,これらの水難溶
性薬剤の溶解性はきわめて低く,吸収の遅れに応じて,消化液における放出量はき
わめて少なく,バイオアベイラビリティの低下を引き起こす。この問題を解決する
ために,これらの水難溶性薬剤を可溶化し,放出量を増加させる目的で,様々な調
製方法が開発されている。例えば,微粒子化,界面活性剤を使用することによるミ
セル形成,溶媒析出,乾燥エリキシル剤の利用,不活性水溶性担体を使用すること
による共沈殿,固体分散及びシクロデキストリンを使用した包含複合体の形成を含
む,薬剤のバイオアベイラビリティを改善するための,多くの方法が報告されてい
る。しかし,これらの方法を実施する際に,投与される薬剤は,溶解性において一
定の上昇を示さない。したがって,これらは,調製,商業化及び効率の観点から問
題がある。
体内でも吸収されにくい水難溶性薬剤に関しては,投与下にバイオアベイラビリ
ティを上昇させようとする試みがなされている。しかし,これまで開発された剤形
は,半固体又は液体形態であり,薬剤学に関して,特に製剤化,成形及び加工に関
して欠点が示されている。

発明の概要

我々,つまり本発明者らは,水難溶性薬剤の製剤化について徹底的且つ綿密な研
究を行って,投与した際に薬剤のバイオアベイラビリティを改善した。結果として,
我々は,水難溶性薬剤をオイル,脂肪酸又はそれらの混合物に分散又は溶解させ,
続いて水溶性ポリマーマトリックスと混合させると,胃腸管において薬剤を効率的
に放出させることができ,そして混合物は,固体形態へと形成されることができる
ことを見出した。
したがって,本発明の目的は,胃腸管における薬剤の放出を向上させることによ
り,水難溶性薬剤のバイオアベイラビリティを改善する,固体分散製剤を提供する
ことである。
本発明の別の目的は,簡潔,且つ経済的な利点があり都合のよいプロセスにより
調製できる固体分散製剤を提供することである。
本発明によれば,水難溶性薬剤の固体分散製剤は,オイル,脂肪酸又はそれらの
混合物に薬剤を溶解又は分散させ,水溶性ポリオールマトリックスに溶液又は分散
物を混合し,混合物を乾燥させることにより調製される。(訳文1頁2行~2頁7

行)
(ウ) 発明の詳細な説明
「本発明の詳細を以下に記載する。
本発明によれば,オイル,脂肪酸又はそれらの混合物に薬剤を分散又は溶解させ,
分散物又は溶液を水溶性ポリマーマトリックスに組み込み,この混合物を乾燥させ
ることにより調製された,水難溶性薬剤の固体分散製剤が提供される。(訳文2頁

下から6~3行)
「その際に,オイル,脂肪酸又はそれらの混合物は,単独で,又はそれ自体を含
めたエマルジョン若しくはマイクロエマルジョンの形態で使用できる。水難溶性薬

剤をオイル,脂肪酸又はそれらの混合物に分散,又は溶解させる際,界面活性剤を
共に加えることができる。さらに,水溶性ポリマーマトリックスは,単独で,又は
別の水溶性マトリックスと組み合わせて使用できる。
本発明の製剤に使用できるオイルの例示的な例は、脂質添加剤、例えばα-ビサ
ボロール、ステアリルグリセルヘティネート、サリチル酸、酢酸トコフェロール、
水、アルコール及びエゴマ抽出物の混合物、ヒアルロン酸ナトリウム、パンテノー
ル、プロピレングリコール及びリンゴ(Pirus Malus)、プロピレングリ
コール及びパイナップル、セイヨウキヅタ(Hedera halix)抽出物及
び1,3-B.G、モモ(Prums persica)葉抽出物、加水分解ダイ
ズ粉、コムギ(Triticum Vulgare)タンパク質、カバノキ(Be
tula alba)抽出物及び1,3-B.G、ゴボウ(Arctium ma
jus)抽出物及び1,3-B.G、リポソーム;ホスファチジルコリン;エステ
ル、例えばステアリン酸グリセリル、トリ(カプチル酸/カプリン酸)グリセリル、
セチルオクタノレート、ミリスチン酸イソプロピル、2-エチレンイソペラゴネー
ト、ジ-C12~13リンゴ酸アルキル、オクタン酸セテアチル、ジカプチル酸/
ジカプリン酸ブチレングリコール、イソステアリン酸イソノニル、イソステアリン
酸イソステアリル、カプチル酸/カプリン酸ヤシアルキル、オクタン酸セチル、ミ
リスチン酸オクチルドデシル、セチルエステル、C10~30コレステロール/ラ
ノステロールエステル、水素化ヒマシ油、モノグリセリド、ジグリセリド、及びト
リグリセリド;炭化水素、例えばミツロウ、カノウバロウ、ジステアリン酸スクト
ース、PEG-8ミツロウ及びキャンデリラ(euphorbia ceifer
a)ロウ;ミネラルオイル、例えばセレシン及びオゾケライト;植物油、例えばマ
カダミアナッツ(macadamia ternifolia)オイル、水素化高
エルカ酸菜種油、オリーブオイル、ホホバオイル、ハイブリッドヒマワリ(Hel
ian thus annuus)油、インドセンダン(melia azadi
rachta)種子油、ドッグローズ(rosa canina)リップオイルを

含み、ミネラルオイル、スクアレン、スクアラン、モノグリセリド、ジグリセリド、
トリグリセリド、中鎖グリセリド、ミグリオール、クレモフォール(cremop
hor)、水素化ヒマシ油、コーンオイル、エゴマ油、綿実油及び脂溶性ビタミンが
優先される。
脂肪酸に関しては,オレイン酸,セチルアルコール,ステアリルアルコール,ス
テアリン酸,ミリスチン酸,リノール酸又はラウリン酸を使用することが好ましい。
オレイン酸,リノール酸又はミリスチン酸イソプロピルを使用することがより好ま
しい。
水溶性マトリックスとして,ポリエチレングリコール(PEG),カルボワックス
又はポリビニルピロリドン(PVP)が利用できる。・・・
水難溶性薬剤のオイル,脂肪酸又はそれらの混合物における分散,又は溶解を向
上させるために,ステアリン酸グリセリル,…及びココアミドプロピルベタインを
含む群から選択される界面活性剤を加えてもよい。
本発明の固体分散製剤は,あらゆる水難溶性薬剤に加えることができ,好ましく
はケトコナゾール,イトラコナゾール及びその誘導体,…に加えることができる。
本発明は,従来の方法に対し,固体分散製剤を容易に調製でき,高い吸収及び放
出効率を示すという利点を有する。
まず,水難溶性薬剤はオイル,脂肪酸またはそれらの混合物に均一に混合,分散
され,そして,室温または約60~80℃の温度で溶融された水溶性ポリマーマト
リックスに加えられる。その後,得られた混合物は室温まで急速に冷却され,12
時間以上オーブン中で乾燥される。乾燥させたペレットは乳鉢で粉末化され,均一
なサイズの粉末を得るためにふるいにかけられる。前述のように,オイル,脂肪酸
又はそれらの混合物中に薬剤を分散又は溶解させる際,当該オイル,脂肪酸又はそ
れらの混合物は乳化又はマイクロエマルジョンの状態とされていても良い。この場
合,界面活性剤を溶液に加えることができる。
あるいは,約60~80℃で溶融された水溶性ポリマーマトリックスに加えられ

た水難溶性薬剤を均一に分散させた後で,医薬として許容できる中核部に噴霧して,
顆粒を得ることができる。
蒸留水,人工腸液及び人工胃液への固体分散製剤の溶解性について行った試験の
結果として,固体分散製剤の溶解性は,水難溶性薬剤自体の溶解性に比較して高い
ことが明らかである。とりわけ,水難溶性薬剤がオレイン酸または微細乳化したオ
レイン酸を含んだ固体分散製剤に組み込まれることで,該薬剤の溶解性に関して多
大な進展がもたらされた。
本発明の固体分散製剤を人工胃液及び人工腸液に溶出させる実験から得られるデ
ータから,本発明の固体分散製剤は,放出量に関して,水難溶性薬剤そのものより
優れていることが示される。オレイン酸又は微細乳化したオレイン酸を含有する固
体分散製剤が使用される場合,放出量の著しい改善が観察された。人工胃液よりも,
薬剤の溶解に関しより厳しい条件である人工腸液において,固体分散製剤による放
出量の改善は一層明らかとなる。
水難溶性薬剤の胃腸管における吸収効率の試験を実施する実験を通して,本発明
による固体分散製剤の優位性も実証される。水溶性マトリックスのみを使用する場
合でさえ,薬剤の吸収効率は微増する。特に,胃腸管における薬剤の摂取効率は,
薬剤が,オレイン酸含有マイクロエマルジョンを用いた固体分散製剤中に組み込ま
れる場合に顕著に向上する。(訳文3頁12行~6頁17行)

(エ) 実施例等
「比較例I
約70℃で溶融させた後で,90gのPEG6000を10gのケトコナゾール
に加え,室温に急速に冷却し,12時間以上オーブンで乾燥させた。乾燥した固体
分散製剤を乳鉢で粉砕し,均一な粒径の粉末を得るためにふるいにかけた。
実施例1
10gのケトコナゾールが5gのオレイン酸中に均一に混合,分散され,その後,
約70℃で溶融している85gのPEG6000に加えられた。室温まで急速に冷

却された後,12時間以上オーブンで乾燥され,乾燥した固体分散製剤は乳鉢で粉
砕され,特定の均一のサイズの粉末を得るためにふるいにかけられた。
実施例2
5gのオレイン酸及び5gのツイーン80中に,10gのケトコナゾールを均一
に混合,分散させ,それから,約70℃で溶融している80gのPEG6000に
加えた。この混合物を使用することにより,実施例1と同様の手順により分散粉末
製剤が得られた。(訳文13頁1~17行)

「実施例22
5gのオレイン酸中に,10gのケトコナゾールを均一に混合,分散させ,それ
から,80gの溶融PVPに加えた。この混合物を使用することにより,実施例1
と同様の手順により分散粉末製剤が得られた。(訳文16頁下から4行~末行)

(オ) 実験結果
「実験I:水及び人工腸液における固体分散製剤の薬剤溶解性
この実験では,比較例及び実施例で得られる固体製剤に対する,水及び人工腸液
における水難溶性薬剤の溶解性を調査した。その際,水又は人工腸液中における本
発明の固体分散製剤2gの懸濁液を0.2μmの濾紙(ミリポア,ウォーターズ,
ミルフォード,MA,アメリカ合衆国(Millipore,Waters,Mi
lford,MA,USA))に通して濾過し,薬剤を簡便に定量するために濾液を
希釈した。溶解性の結果を表1に示す。


表1

蒸留水及び人工腸液へのケトコナゾールの溶解性
溶解性
固体分散製剤 DI-水 人口腸液
ケトコナゾール粉末
比較例
実施例 1
実施例 2
実施例 3
実施例 4
実施例 5
実施例 6
実施例 7
実施例 8
実施例 9
実施例 10
表1のデータから明らかなように,蒸留水における薬剤の溶解性は,オレイン酸
を含有する固体分散製剤に組み込まれる場合に,著しく改善した。特に,オレイン
酸を含有するマイクロエマルジョンから調製される固体分散製剤における薬剤は,
水並びに人工腸液における溶解性に関して,大幅な進歩を示した。(訳文19頁1

4行~20頁6行)
「実験V:様々なビヒクルにおけるアセクロフェナクの溶解性

過量のアセクロフェナクを試験管中の5mlのビヒクルに加え,それから薬剤が
さらに溶解しない程度にボルテックスし,水浴にて,37℃で3日間インキュベー
トした。生じた溶液を,0.2μm濾紙(ミリポア,ウォーターズ,ミルフォード,
MA,アメリカ合衆国)を通して濾過し,薬剤を簡便に定量するために濾液を希釈
した。溶解性の結果を表7に示す。

表7
ビヒクル中のアセクロフェナクの溶解度
ビヒクル 溶解度
(mg/mP)
トランスクトール 149.34
ラブラソール 114.83
ツイーン80 98.70
ツイーン20 85.71
クレモフォールEL 40.92
クレモフォールRH40 23.34
オレイン酸 4.59
リノール酸 5.44
トリアセチン 18.01
ヒマシ油 13.21
ごま油 2.83
コーンオイル 2.20
ミネラルオイル 0.34

表7のデータから明らかなように,脂肪酸,トリアセチン,ヒマシ油及びクレモ
フォール中のアセクロフェナクの溶解性において高い値が見出された。特に,トラ
ンスクトール,ラブラソール及びツイーン中で,薬剤が多量に溶解した。(訳文2

6頁下から6行~27頁4行)
(カ) まとめ
「以上の通り,胃腸管における水難溶性薬剤の溶解性,特に,胃液及び腸液への

薬剤の放出に関して,本発明の固体分散製剤は改善されており,薬剤のバイオアベ
イラビリティに関して大幅な上昇が引き起こされる。さらに,本発明の固体分散製
剤は,従来の半固体又は液体製剤が抱える問題に対する医薬的解決法を示し,薬物
として有効な水難溶性化合物を,迅速に,経済的に有利な手段で,いかなる有機溶
媒も使用せずに製剤化,成形及び加工できるようにする。
本発明は,例示的手段として記載されており,使用される専門用語は,限定では
なく説明の性質を持つように意図されていることは,理解されるべきである。本発
明の多くの改変及び変化は,上記の教示を参照して実施し得る。したがって,下記
特許請求の範囲内において,本発明は具体的に記載されている方法以外の方法で実
施され得ることが理解される。(訳文32頁下から11行~末行)

イ 以上によれば,引用発明は,次のとおりの発明であると認められる。
すなわち,引用発明は,水難溶性薬剤の固体分散製剤に関するものであり,従来,
水難溶性薬剤を可溶化し消化液における放出量を増加させる目的で採用された方法,
例えば,界面活性剤を使用することによるミセル形成,不活性水溶性担体を使用す
ることによる共沈殿,固体分散などの方法は,溶解性において一定の上昇を示さな
い,あるいは,半固体又は液体であることから製剤化等に関する欠点が示されてい
たことから,胃腸管における薬剤の放出を向上させることにより,水難溶性薬剤の
バイオアベイラビリティーを改善する固体分散製剤を提供することを目的とし,そ
の具体的手段として,水難溶性薬剤を,オイル,脂肪酸又はそれらの混合物に分散
又は溶解させ,続いて水溶性ポリマーマトリックスと混合させて乾燥させて固体分
散製剤を調製したものであり,半固体又は液性製剤が抱える問題を解決し,薬物の
バイオアベイラビリティーを上昇させるという効果を奏するものである。また,上
記具体的手段における脂肪酸は,オレイン酸,リノール酸、イソプロピルミリスチ
ン酸塩(注:「ミリスチン酸イソプロピル」と同義。)からなる群から選択されるも
のであり,水溶性ポリマーマトリックスは,ポリエチレングリコール(PEG),カル
ボワックス,ポリビニルピロリドン(PVP)からなる群から選択されるものである。

したがって,引用発明は,
「オイル,脂肪酸またはそれらの混合物に薬物を溶解ま
たは分散させ,水溶性ポリマーマトリックスに該溶液または分散物を混合し,混合
物を乾燥させた,水難溶性薬物の固体分散製剤において,脂肪酸は,オレイン酸,
リノール酸,ミリスチン酸イソプロピルからなる群から選択され,水溶性ポリマー
マトリックスが,ポリエチレングリコール(PEG),カルボワックスまたはポリビニ
ルピロリドン(PVP)からなる群から選択される,固体分散製剤。」であると認めら
れる。
なお,審決の引用発明の認定は,
「水溶性ポリマーマトリックス」を「水溶性マト
リックス」と,「カルボワックス」を「ワックス」と,「リノール酸」を「リノレン
酸」とした誤りがある(ただし,この点は,審決の結論に影響するものではない。 。

(3) 対比
以上を前提に補正発明と引用発明を対比すると,少なくとも,審決の認定した相
違点1~4(上記第2の3(2))が認められる。この点も当事者間に争いがない。
2 取消事由1(相違点の看過)について
(1) 審決が,引用発明では薬物を溶解させているから,
「本質的に活性物質の結
晶を含まない」点を,補正発明との一致点とした判断につき,原告は,活性物質の
結晶の有無という相違点5を看過したものと主張する。そこで,引用文献1におけ
る活性物質の状態を理解する前提となる本件優先日当時の技術常識について,検討
する。
ア 本件各証拠には,次のとおりの記載がある。
(ア) 橋田 充編「経口投与製剤の設計と評価」(乙1)
「薬物の溶解性と吸収性の改善
1.はじめに
・・・
通常の経口製剤の場合には,その医薬品としての有効性と安全性を保証するため
に薬物のバイオアベイラビリティーを考慮しなければならない。すなわち,消化管

から薬物が製剤設計通りに吸収され,また製剤各個別およびロット間で,その吸収
性に差がないことを保証する必要がある。また,多くの場合,できる限り高い吸収
率となるような製剤設計が要求される。(167頁2~9行)

「ミクロンサイズ以下の超微粒子の状態でも消化管膜を透過し吸収されることも
わかっているが,量的にはわずかであり,大部分の薬物は溶解後吸収されると考え
られている。(167頁12~14行)

「溶解速度が小さいため吸収が悪い難溶性薬物の溶解性および吸収性の改善は,
製剤設計者が直面する最も重要な解決課題の1つである。(168頁2~3行)

「3.薬物/製剤添加物系での溶解性改善
1)担体を用いた薬物微細化
薬物単一系では,
・・・粒子の凝集や凝結による有効表面積の低下や,機械的微細
化に限界があるため,溶解性を大きく改善できないことが多い。そこで,これらの
問題点を解決するため,薬物以外の生理的に不活性な物質(製剤添加物)を,微細
化された薬物の担体(キャリアー)や微細化能力を上げるための助剤として利用す
ることが製剤化手段として採られる。このような担体としては水溶性高分子や多孔
性粉体があげられ,薬物単一系では達成不可能なほどに薬物を微細化でき,場合に
よっては分子状に分散させた状態での保持も可能となる。その結果,溶解性も飛躍
的に改善されることが期待できる。これら製剤的手段としては(1)固体分散体,
(2)混合粉砕,(3)Solvent Deposition,(4)Ordered Mixture などが用いら
れる。
(1)固体分散体
・・・
固体分散体は,Chiou と Riegelman により,
「溶融法,溶媒法,または溶融-溶媒
法により調製された,固体状態で不活性な担体またはそのマトリックス中に,1種
またはそれ以上の活性成分が分散したもの」と定義されている。 すなわち,薬物と
担体の両方を溶融または溶解させることにより均一の液相を形成させ,その後固化

させるという操作により得られる固体混合物で,薬物は担体マトリックス中に微結
晶,または分子サイズで均一に分散している。
このようにして得られる固体分散体には,
i 共融混合物(薬物と担体を含む溶液から同時に析出する微結晶混合物)
ii 固溶体(薬物と担体がたがいに均一に溶けあった固相)
iii ガラス担体中に薬物が溶解または懸濁状に分散したもの
iv 結晶担体中に薬物が非晶質状態で分散したもの
v 薬物と担体の複合体
vi i~viの混合物
が含まれる。
固体分散体による薬物の溶解性改善は,基本的には粒子径の減少に伴う比表面積
の増大によるものである。さらに,微細化の極限である分子サイズにまで分散させ
る(非晶質化)ことにより薬物の溶解度自体を最大に増加させることができる。し
たがって,薬物を非晶質化できるような担体と薬物の組み合わせを選択することが,
最も溶解性を改善するために有効である。(172頁4行~173頁10行)

「①調製法
a.溶融法:薬物と担体との混合物を加熱溶融させた後,冷却固化して得る方法で
ある。本法は操作が単純であること,溶媒を使用しないなどの利点がある。
・・・溶
融法では薬物と担体が溶融状態で完全に混和するか,溶融した担体に薬物が溶解し
なければならない。担体中への薬物の溶解性により,共融混合物,固溶体,または
ガラス体などが得られる。
共融混合物では固化温度と冷却速度が結晶化速度に影響を与えることから,通常
急冷することによりマトリックス中の薬物粒子をできるだけ微細化させるようにし
て調製される・・・
b.溶媒法:薬物と担体を溶媒に溶解した後,その溶媒を留去することにより固体
分散体を得る方法である。・・・

c.その他の調製方法:溶融法,溶媒法とも欠点を持つため,その改良法として新
しい調製法が開発されている。
溶融法では,薬物の融点が高くて担体と共融混合物を形成しない場合や,溶融し
た担体と混和しない場合がある。そこで,より低温で調製ができる薬物と担体を混
和溶解する手段として,溶融した担体さらに溶媒を添加する溶融-溶媒法が試みら
れている。・・・
一方,溶媒法では大量の有機溶媒を用いることが環境衛生上問題となることが考
えられることから,溶融法も見直されている。加熱するとともに機械的圧力を加え
た,温度+メカノケミカルの相乗効果により,融点よりも低い温度で固体分散体が
調製できることが報告されている。ニフェジピンとヒドロキシプロピルメチルセル
ロースフタレートを,2軸スクリュー押し出し機を用い,融点より低い温度で押し
出すことにより固体分散体が調製できる。また,PVPやN-ビニルピロリドンと
酢酸ビニルの共重合体を担体に用いても,同様な方法でテオフィリン
(theophylline)など種々の薬物の固体分散体が調製できる。(173頁12行~

174頁25行)
「②製剤化検討
a.担体の選択 :
・・・
b.薬物/担体比 :
・・・
今まで述べたように,高い溶解性改善効果を得るためには,一般に薬物に対して
担体が数倍以上必要とされるため,固体分散体を高投与量の薬物には応用しにくい。
そこで界面活性剤を添加し,薬物含量の高い固体分散体を得る手法が開発されてい
る。これは,界面活性剤により,担体中への薬物溶解性を増加するとともに,濡れ
を改善する効果による。さらに溶出液中での界面活性剤の可溶化効果も期待で
き・・・る。また,リン脂質自体を担体として利用することにより,薬物含量の高

い,溶解性の良好な固体分散体が得られる。・・・
c.製造法 :
・・・
d.安定性 :多くの固体分散体では,粒子の表面エネルギーが高いため物理的に
不安定である。薬物は非晶質化されていることが多く,熱力学的に高エネルギーな
準安定系であり,安定な結晶形に転移しやすい。・
・ ・インドメタシン(indomethacin)
/PEG 固体分散体は経時的に薬物の結晶化が起こり,溶出速度の低下,錠剤硬度の
上昇,および分解による着色が認められている。(174頁26行~178頁30

行)
「 2)溶解性改善剤
1)項では,主に微細化した薬物を担体中に安定に保持させる製剤的手段につい
て述べてきた。ここでは,薬物の溶解性を改善させるために用いられる製剤添加剤
の種類と応用について紹介する。これら添加剤には複合体形成剤と湿潤剤があげら
れる。
(1)複合体形成剤
・・・
(2)湿潤剤(濡れの改善)
疎水性の薬物紛体を水に入れると,粉末は容易に濡れず水の上に浮かんで水中に
うまく分散しない。微粉末であるほど空気を取り込んでいるので濡れにくい。この
ような場合,水の中に少量の界面活性剤を溶かしておくと濡れやすくなり,容易に
水と混ざり分散する。…
このような濡れを改善させる物質は湿潤剤と呼ばれ,界面活性剤以外にも水溶性
高分子などがあげられる。
・・・また,湿潤剤の吸着は溶液中で分散した粉体を安定に保ち再凝集を防ぐ効果もあ
る。
多くの固形製剤は,水溶性高分子の溶液を結合剤として用い造粒されて製造され

ることから,造粒工程を経ることにより濡れが改善されることが多い。(184頁

7行~187頁6行)
(イ) 特表平11-509238号公報(乙2)
「【特許請求の範囲】
1.
(a)イトラコナゾールあるいはその立体異性体の1つ又はその立体異性体の2
つもしくは3つもしくは4つの混合物,ならびに
(b)1種又はそれ以上の製薬学的に許容され得る水溶性ポリマーを含む固体分散
体(solid dispersion)からなる粒子。」
「「固体分散体」という用語は,少なくとも2つの成分を含み,1つの成分が単数
又は複数の他の成分全体にいくぶん均等に分散されている固体状態(液体又は気体
状態に対して)にある系を定義するものである。成分の該分散体が,系が全体にわ
たって化学的に及び物理的に均質又は均一であるようなものであるか,あるいは熱
力学において定義される1相から成るような場合,そのような固体分散体は下記に
おいて「固溶体」“solid
( solution”)と呼ばれるであろう。固溶体
は好ましい物理的系であり,それは通常その中の成分がそれらが投与される生物に
とって容易に生物学的利用可能であるからである。
・・・溶解の容易さは少なくとも
部分的に,固溶体からの成分の溶解に必要なエネルギーが結晶性又は微結晶性固体
相からの成分の溶解に必要なエネルギーより小さいという事実に帰することができ
る。
「固体分散体」という用語は,全体にわたって固溶体より均一性が低い分散体も
含む。そのような分散体は全体にわたって化学的及び物理的に均一でないか又は1
つより多い相を含む。例えば「固体分散体」という用語は非晶質,微結晶性もしく
は結晶性の(a)又は非晶質,微結晶性もしくは結晶性の(b)又は両方が(b)
又は(a)を含む他の相あるいは(a)及び(b)を含む固溶体中にいくぶん均等
に分散されているドメイン又は小領域を有する粒子にも関する。(11頁9~28

行)
「固体分散体の調製のために溶融-押し出し,噴霧-乾燥及び溶液-蒸発を含む

種々の方法が存在し,溶融-押し出しが好ましい。
溶融-押し出し法は以下の段階を含む:
a)成分(a)及び(b)を混合し,
b)かくして得られる混合物と場合により添加剤をブレンドし,
c)かくして得られるブレンド物を均一な溶融体が得られるまで加熱し,
d)かくして得られる溶融体を1つ又はそれ以上のノズルを介して押し出し;
e)溶融体をそれが固化するまで冷却する。
・・・
当該技術分野における熟練者は上記の範囲内で溶融押し出し法のパラメーターを
最適化することができることがわかるであろう。(12頁6行~13頁5行)

「好ましい粒子は成分を溶融-押し出しし,摩砕し,場合によりふるうことによ
り得られ得る粒子である。
・・・上記に記載された粒子はさらに1種又はそれ以上の
製薬学的に許容され得る賦形剤,例えば可塑剤,風味料,着色剤,防腐剤などを含
むことができる。該賦形剤は熱に感受性であってはならず,言い換えるとそれらは
溶融-押し出しの作業温度で認識され得る崩壊又は分解を示してはならない。
・・・
しかし他の水溶性ポリマーの場合,可塑剤を・・もっと多量で用いることができ,
それは下記に挙げられるような可塑剤が(a)(b)及び可塑剤の溶融体が形成さ

れる温度を下げ,この融点の低下はポリマーが限られた熱的安定性を有している場
合に有利だからである。適した可塑剤は製薬学的に許容され得,低分子量ポリアル
コール類,・・・が好ましい。(17頁14行~18頁18行)

(ウ) 特表平10-513477号公報(乙3)
「【特許請求の範囲】
1.固体の製剤において,
A)1種または数種の作用物質,
B)次のものからなる混合物:
B1)少なくとも1種の熱可塑的に加工できる水溶性ポリマー10~90重量%,

B2)低置換の水不溶性ヒドロキシプロピルセルロース10~90重量%。および
C)製剤の全量に対して,1種または数種の製剤学的補助物質0~50重量%,
の複合溶融押出により得られることを特徴とする,固体の製剤。」
「有利には作用物質はいわゆる「固溶体」の形,つまりマトリックス中に分子分
散で,または固体の分散形で存在する。(6頁25~26行)

「本発明による製剤は成分C)として通例の製薬学的補助物質,例えば増量剤,
滑剤,離型剤,流動性調整剤,軟化剤,着色剤,および安定剤を約50重量%まで
の量で含有することができる。
・・・流動性調整剤として例えば長鎖脂肪酸のモノグ
リセリド,ジグリセリド,およびトリグリセリド,例えばC12,C14,C 16およ
びC18の脂肪酸,ワックス,例えばカルナウバロウ,ならびにレシチンが挙げられ,
この場合その量は約0.1~30,有利には0.1~5重量%である。(8頁15

~27行)
「補助物質を作用物質およびポリマーBからなる溶融物または溶液に混合するこ
とも可能である。さらに補助物質を作用物質と一緒にポリマー溶融物に配合するこ
とも可能である。さらに補助物質,作用物質,およびポリマーBからなる混合物を
直接溶融することもできる。一般に補助物質,作用物質,およびポリマーBからな
る物理的混合物を一緒に溶融することは通例である。(9頁25行~10頁1行)

(エ) 特表平11-514979号公報(甲6)
「【特許請求の範囲】
1.生体系に生体作用薬剤をデリバリーするための組成物であって,上記薬剤と混
和可能で約0℃から約 200 ℃のガラス転移温度を有する水溶性ポリマー中で増加エ
ネルギー状態にあり,それにより上記薬剤が水性環境でバイオ・アベイラブルとな
っている,上記生体作用薬剤の固体分散体を含む組成物。
・・・
23.上記生体作用薬剤が上記水溶性ポリマーに分子レベルで分散している,請求
項1の組成物。」

「本発明の組成物は生体作用薬剤を,少なくとも実質的に均一な又はアモルファ
ス固体分散として含む。上記固体分散体全体に分散するナノパーティクルの形で生
体作用薬剤が存在するのが好ましい。そのナノパーティクルは約 1000nm より小さい
平均粒子サイズを有することがさらに好ましい。そのナノパーティクルの平均粒子
サイズが約 400nm より小さいことが更にまた好ましい。上記生体作用薬剤は水溶性
ポリマー中で分子レベルで分散しうる。(13頁10~15行)

「本発明の固体分散体は薬剤とポリマーを,急冷する間に薬剤を転換および固定
するのに充分な時間押出し混合することにより供給することができる,ということ
が見いだされた。
・・・溶解速度の増加は複数の効果,最も重要なのは,従来の破砕
方法では達成されない程度に粒子サイズが小さくなることである」20頁7~15

行)
「本発明は,活性成分を混和可能なポリマー(および他の賦形剤)とを融解した
形で組み合わせ,急冷に際して活性成分が増大エネルギー状態で捕捉され得るよう
にすることを含む。そのようにして,生体作用薬剤は基質又はポリマー中に可溶化
され,自身の結晶領域へと分離しない。その薬剤は増大エネルギー状態で急冷され
る結果,担体中で非常に細かい結晶(ナノパーティクル)を形成することがあり,
そのような結晶は大きく増加した溶解度および/または分散性を有している。本発
明において,担体自身は優れた水溶解度を有している。本明細書に記載したシステ
ムの結果として,担体が溶けると,溶けにくい薬剤は固溶体または分散体からナノ
パーティクルとして遊離する。in vivoでバイオ・アベイラビリティを増強
するのは微小粒子分散体である。(28頁21行~29頁2行)

「実施例7-押出し混合・・・生じた押出し物を仮想的な胃液(無ペプシン)中
で顕微鏡観察すると,1μmより小さなサイズを持つかなりの数の非常に細かい粒
子が放出されることが明らかになった。この押出し物は乳白色の分散体を後に残し
て完全に消失した。(35頁25行~36頁6行)

(オ) 特開2000-95708号公報(甲7)

「【請求項1】 安定なアモルファス状の治療活性化合物,及び約80,000D
超の分子量を有し,且つ約50℃以上のガラス転移温度を有する水不溶性イオン性
ポリマーの水不溶性複合体,並びに担体を含んで成る薬理組成物。」
「【0001】本発明はイオン性ポリマーの中に分散されたアモルファス状の治療
活性化合物(例えば薬物)から成る安定な水不溶性複合体を含んで成る薬理組成物
を提供する。本発明に係る複合体は低溶性を治療活性化合物の生物有用度の有意な
向上を提供する。
【0002】治療活性化合物の生物有用度は一般に(i)当該化合物の溶解度/
溶解速度及び(ii)被検体の胃腸膜を通じての当該化合物の分配係数/透過度に
より左右される。治療活性化合物の低い生物有用度の主たる原因はその化合物の低
い溶解度/溶解速度にある。・・・」
「【0003】低溶性の治療活性化合物の生物有用度を高めるためにいくつかの技
術が利用されている。これらの技術を以下にまとめる。
【0004】1.粒子サイズ(粒径)の縮小:
・・・
【0005】2.固体分散体
2.1 融合法:この技術に従うと,治療活性化合物は非イオン性ポリマーの中に
分散され,固体分散体を形成する。典型的には,この非イオン性ポリマー(例えば
Pluronic(登録商標)及びポリエチレングリコール)をその融点より高い
温度に溶融させ,そしてこの治療活性化合物を撹拌しながら溶融ポリマーの中に溶
解する。・・・得られる溶融塊を次いで室温にまで冷却する。・・・
【0006】2.2 共沈殿:
・・・
【0007】3.自己乳化性ドラッグデリバリーシステム(SEDDS)
:このシス
テムにおいては,治療活性化合物は適当な油と乳化剤との混合物の中に溶解される。
得られる脂質製剤は,胃腸内流体に対する曝露により,非常に微細なエマルション

又はマイクロエマルションを形成する。油性小滴の大きな表面積により,かかる油
の 中 に 溶 解 し た 低 溶 性 治 療 活 性 化 合 物 の 生 物 有 用 度 は 有 意 に 上 昇 す る 。 P.
P.Constantinides, Pharm. Res. 12 (11) : 1561-1572 (1995)参照。このシステム
の利用についての重要な要件はこの治療活性化合物が油の中で可溶性であり,そし
て油に一旦溶けたら,溶液中で安定な状態であり続けなくてはならないことにある。
従って,SEDDSはほとんどの治療活性化合物の油性溶液内での限られた溶解度
及び不満足なる安定性に基づきそれらの化合物にとって有用な代替物ではない。
【0008】我々は低溶性治療活性化合物(一般には結晶状態にあるとき)が約8
0,000D超の分子量を有し且つ約50℃又はそれより高いガラス転移温度を有
する水不溶性イオン性ポリマーの中に分子的に分散されると,その化合物(アモル
ファス状態となっている)の物理的安定性は高温及び高温保存条件下でさえも長期
間維持されることを驚くべきことに見い出した。・・・」
(カ) 特表平10-501000号公報(甲8)
「【請求の範囲】
1.重合体マトリックス中の作用物質の固溶体の形の作用物質調剤を製造する方法
において,非イオンの形の作用物質を重合体及び塩とともに溶融押出することを特
徴とする,重合体マトリックス中の作用物質の固溶体の形の作用物質調剤の製法。」
「【発明の詳細な説明】
重合体マトリックス中の作用物質の固溶体の形の作用物質調剤の製法及び該製法に
より製造された作用物質調剤
本発明には,作用物質が分子分散した分布で重合体マトリックス中に存在してい
る作用物質調剤の製法及び該製法により製造された作用物質調剤が記載されている。
医薬品形(タブレット,ペレット,グラニュール)の製造のための溶融押出方法
は,文献に記載されている。
・・・熱による加工プロセスによって,押出の際に,作
用物質の溶融によって該作用物質を分子分散した形で,同様に溶融された重合体溶
融物中に混入することができることが,記載されている。
・・・殆どの場合にこの材

料の室温への冷却後にも再び再結晶せず,その分子分散した分布が維持されること
によって明らかである。
上記の製剤は,通常「固溶体」と呼称され,かつ文献中にそれ自体,数多く記載
されている」(3頁1~19行)
「殊に難溶性作用物質の場合には,経口投与後に胃腸域から吸収することができ
ないかもしくは著しく僅かな程度でしか吸収することができず,それというのも,
作用物質の溶解速度が遅すぎるためであった。しかも,
(水性媒体中で)溶解された
作用物質だけが,吸収されることができる。(3頁28行~4頁3行)

「しかしながら,全ての作用物質の場合に「固溶体」の製造が可能なのではない。
熱による方法,例えば押出による「固溶体」の形成(有機溶剤を介して常用され
る方法と異なる)は,次のとおりの種々の前提条件に結合しており,この前提条件
は,少なくとも部分的に満たされなければならない:・・・
従って本発明の課題は,製造の際に有機溶剤を使用する必要がなく,作用物質調
剤を著しく良好に吸収可能な作用物質を用いて得,この場合,作用物質は,一方で
は塩の形で存在しかつ他方では分子分散した分布で存在する,連続的に行なわれる
一段階の,作用物質調剤の製法を提供することであった。
上記課題は,非イオンの形の作用物質を重合体及び塩とともに溶融押出すること
を特徴とする,本発明による,重合体マトリックス中の作用物質の固溶体の形の作
用物質調剤の製法によって解決される。(4頁13行~5頁23行)

「本発明による方法は,有利に,塩を形成することができる作用物質に使用する
ことができるが,しかし,これまでの公知である押出方法下で作用物質の分子分散
した分布を有している製剤を製造することができなかった程度の高さの融点をその
有利に使用される塩の形で示す。通常の押出温度は,60~160℃,特に80~
140℃の範囲内である。従って作用物質は,非イオンの形で,有利に最大140℃
である融点を示している。顕著に低い融点は,可能であり; 室温の場合にも液状
もしくは油状である作用物質は,使用することができる。(9頁5~11行)


「例えば加工可能性もしくは他の性質に意図的に影響を及ぼすために,本発明に
よる製剤に種々のさらなる医薬品に常用の助剤は,添加することができる。このよ
うな助剤には,例えば・・・滑剤(例えばモノグリセリド,ジグリセリド及びトリ
グリセリド並びに脂肪酸の塩) 離型剤
, (例えばレシチン) 可塑剤
, (例えば脂肪酸,
脂肪アルコールもしくはトリエチルシトレート)・・・が含まれる。これら助剤の

選択のための重要な前提条件は,選択された加工プロセス(押出)の場合の十分な
(熱)安定性である。さらに,さらなる助剤の存在によって,作用物質の可溶化に
最小限必要とされる重合体量を下回らないことが保証されていなければならず,そ
れというのも,そうでなければ,混濁によって確認することができる,マトリック
ス中での作用物質の再結晶が生じるからである。(10頁1~15行)

イ 本件優先日当時の技術常識
以上によれば,本件優先日当時の水難溶性薬物の溶解性,吸収性改善のための製
法に関する技術常識は,次のとおりであると認められる。
(ア) 水性媒体に対する溶解速度が小さいため吸収性が悪い水難溶性薬物の
溶解性を改善して,消化管への吸収性を高める(バイオアベイラビリティーを改善
する)ための製剤設計として,①固体分散体,②自己乳化性ドラッグデリバリーシ
ステム(自己乳化性製剤),③粒子サイズ(粒径)の縮小などの手段がある(乙1,
甲7)。
(イ) 固体分散体について
固体分散体とは,
「溶融法,溶媒法,または溶融-溶媒法により調製された,固体
状態で不活性な担体またはそのマトリックス中に,1種またはそれ以上の活性成分
が分散したもの」と定義される。すなわち,薬物と担体の両者を溶融又は溶解させ
ることにより均一の液相を形成させ,その後固化させるという操作により得られる
固体混合物で,薬物は,担体マトリックス中に,微結晶,又は分子サイズで均一に
分散している。固体分散体による薬物の溶解性改善は,基本的には粒子径の減少に
伴う比表面積の増大によるものであり,微細化の極限である分子サイズにまで分散

させる(非晶質化)ことにより,薬物の溶解度自体を最大に増加させることができ
る。したがって,薬物を非晶質化できるような担体と薬物の組合せを選択すること
が,溶解性を改善するために最も有効である。
固体分散体には,共融混合物,固溶体,ガラス担体中に薬物が溶解又は懸濁状に
分散したもの,結晶体担体中に薬物が非晶質状態で分散したもの等が含まれるが,
このうち,「固溶体」とは,「薬物と担体がたがいに均一に溶け合った固相」を意味
し,薬物が分子サイズで均一に分散しているものをいう。
固体分散体の製造方法のうち,溶融法は,薬物と担体との混合物を加熱溶融させ
た後,冷却固化して得る方法であり,担体中への薬物の溶解性により,共融混合物,
固溶体又はガラス体などが得られる。溶融法が見直され,2軸スクリュー押出機な
どを用いて加熱と機械的圧力を加えることにより,融点よりも低い温度で固体分散
体を調製すること(溶融押出法)も行われている。
具体的には,固体分散体は,担体として,水溶性が高く種々の溶媒にも溶けやす
い,水溶性高分子セルロース誘導体,ポリエチレングリコール(PEG),ポリビニ
ルピロリドン(PVP)等が用いられている(乙1)。
担体と薬物以外にも,界面活性剤(乙1),可塑剤(低分子量ポリアルコール,脂
肪酸など)(乙2,甲8),流動性調整剤(長鎖脂肪酸のモノグリセリド,ジグリセ
リド及びトリグリセリド,脂肪酸,カルナバロウなど)(乙3),滑材(モノグリセ
リド,ジグリセリド及びトリグリセリドなど)
(甲8)のような他の添加剤を使用で
きる。
薬物が非晶質化された固体分散体は,熱力学的に高エネルギーな準安定系であり,
安定な結晶形に転移しやく,経時的に薬物の結晶化が起ることがある。
(乙1,甲8)
(ウ) 固体分散製剤(固体分散体)と自己乳化性製剤の違いについて
液相にそれと混和しない液体の粒子が散在している系をエマルジョン(エマルシ
ョン,乳濁液)といい,液相に固体の粒子が散在している系をサスペンション(懸
濁液)という。

自己乳化性製剤は,治療活性化合物を,適当な油と乳化剤との混合物の中に溶解
した脂質製剤であり,胃腸内流体等の水性媒体に接した際に,攪拌などの機械的エ
ネルギーを加えなくとも乳化してエマルジョンを形成する剤であり,このエマルジ
ョンは,薬物(治療活性化合物)が溶解した油性溶液の液滴が,乳化剤の作用によ
り,水性媒体に散在した状態となるものである(甲7)。
他方,水溶性ポリマーマトリックス中に薬剤が微結晶あるいは分子サイズで均一
に分散したものである固体分散製剤は,水性媒体に接した際には,水溶性ポリマー
が溶けて,溶けにくい薬剤は固体分散製剤から非常に細かい結晶(ナノパーティク
ル;例えば,1μmより小さい非常に細かい粒子)として放出されるものであり,こ
の状態は,一般にエマルジョンと称されるものではない(甲6)。
したがって,固体分散製剤と自己乳化性製剤は,一般的には,水性媒体に接した
際に異なる状態となる製剤として認識されていると認められる。
(2) 取消事由1(相違点の看過)についての検討
ア そこで,検討するに,上記のとおり,固体分散体(固体分散製剤)には,
薬物の微結晶を含むものと,薬物が分子サイズで均一に分散(非晶質化・分子分散)
しているもの(固溶体)の両方があるから,引用発明が,固体分散製剤であるから
といって,直ちに,薬物の結晶を含まないということはできない。
そして,引用発明のうち,薬物を脂肪酸等に「溶解させた溶液」を用いる場合に
ついて検討すると,薬物を脂肪酸等に溶解させた溶液の段階では,薬物が脂肪酸等
の中に分子分散され,結晶を含まない状態といえるが,それを,
(溶融した)水溶性
ポリマーマトリックスに混合し,冷却した後,乾燥工程(具体的には,12時間以
上オーブン中で乾燥する工程)を経た後においても,薬物の結晶を含まない状態が
維持されるか否かについての技術常識は存在せず,乾燥工程後の状態として薬物の
結晶を含まないことについて,具体的な技術的根拠があるとはいえない。一般的に,
薬物が非晶質化された固体分散体は,熱力学的に高エネルギーな準安定系であり,
安定な結晶形に転移しやく経時的に薬物の結晶化が起こり得るという上記技術常識

に照らすと,
(溶融した)水溶性ポリマーマトリックスと混合する工程,及び(12
時間以上のオーブン中での)乾燥工程において,薬物が結晶化する可能性は否定で
きない。
したがって,引用発明のうち,薬物を脂肪酸等に「溶解させた溶液」を用いた発
明は,当該「溶解させた溶液」を用いることのみを理由としては,薬物の結晶を実
質的に含まないものと認めることはできない。
他方,引用発明のうち,薬物を脂肪酸等に「分散させた溶液」を用いる場合につ
いて検討すると,薬物を脂肪酸等に分散させた溶液では,薬物は,溶解することな
く,ある程度の大きさの結晶で存在している状態の場合もあり得ると認められる。
そうすると,それを水溶性ポリマーマトリックスに混合し,冷却した後,乾燥工程
を経た後で,結晶を含まない状態となることについて,具体的な技術的根拠がある
とはいえない。
イ 以上によれば,引用発明は,
「本質的に活性物質の結晶を含まない」もの
であるとはいえず,審決が,この点を補正発明と引用発明の一致点とし,相違点5
として認定しなかった判断には誤りがあるというべきである。
ウ なお,上記認定判断は,A博士の再現実験に基づくA宣誓書(甲17)
の内容に基づくものではない。上記実験は,引用文献1の実施例の正確な再現実験
とはいえないから,同実験で,活性成分の結晶が見られるからといって,引用文献
1における活性成分の結晶の存在は,当然には認められない。しかしながら,上記
実験の再現性の有無は,上記認定判断を左右するものではない。

(3) 被告の主張について
被告は,引用文献1は,固体分散製剤について,微結晶が含まれるものと固溶体
のいずれかの一方のみを特定するものではなく,引用発明においても,薬物を溶解
した後,乾燥させた固体分散製剤には,薬物の微結晶が含まれるものと,薬物と水
溶性ポリマーマトリックスが均質又は均一な状態の固溶体の双方が含まれると認識

されるから,審決は,後者の固溶体,すなわち,結晶を含まない場合を一致点とし
て認定したものと解されるべきであり,相違点の看過はない旨主張する。
しかしながら,固体分散製剤には,微結晶が含まれるものと固溶体の両方の形態
があることが技術常識としても,いずれの形態となるかは,製造方法や各成分の組
合せなどによって影響を受けると考えられるところ,少なくとも,一旦薬物を溶解
した後の工程を経た場合,なお結晶化せずに固溶体のままの状態の方が,結晶が析
出する状態と比して,より実現が制約されると解されるから,引用発明の固体分散
製剤が,固溶体となり得ることを,当然の前提とすることはできない。
したがって,被告の主張は,その前提において誤りがある。
(4) 以上のとおり,審決には相違点5を看過した誤りがあるが,他方,審決は,
相違点3の検討において,水難溶性薬剤成分を分子レベルで分散させた「分子分散
体」とすることについての容易想到性を判断している。固体分散製剤において,薬
剤を分子レベルで分散させた「分子分散体」であるとすれば,薬剤の結晶を実質的
に含まないことになるから,看過された相違点5の容易想到性の判断は,実質的に
は,相違点3に関する容易想到性の判断と重なり合うことになる。そこで,この点
が審決の違法性を基礎付ける取消事由となるかについては,相違点3の判断の当否
の点において,改めて検討することとする。
3 取消事由2(相違点判断の誤り)について
(1) 相違点4
まず,審決は,本願明細書の【0001】 【0098】の記載から,配合成分の

混合に際し,
「溶融により行う」といった手法を採用することにより,
「自己乳化性」
なる性質は当然に備わると判断し,相違点4は実質的な相違点ではないとした。
しかしながら,上記2(1)で説示したとおり,本件優先日当時,一般には,固体分
散製剤と自己乳化性製剤は,水性媒体に接した際に異なる状態となる,別の剤とし
て認識されており,固体分散製剤を溶融混合(溶融法)により製造すれば,自己乳
化性製剤となると理解されているわけではない。本願明細書には,自己乳化性固形

配合物を製造する方法として,
「溶融により行う」ことが記載されているが,固体分
散製剤を溶融して製造すれば,必ず自己乳化性を示すと記載されているわけではな
いのも,同様の認識を示すものと解される。引用文献1の実験Iでも,
「水又は人工
腸液中における実施例1~10の固体分散製剤2gの懸濁液」と記載されていると
ころ,実施例1~10は,いずれも,薬剤を脂質成分に混合し,溶解又は分散させ
た後,溶融した水溶性ポリマーマトリックスに組み込み,その後,乾燥させて固体
分散製剤を製造しているが,これらの固体分散製剤は,水性媒体に接した際には「懸
濁液」となっているのであって,水性媒体に接触すると機械的なエネルギーを付与
しなくともエマルジョンとなる自己乳化性製剤ではない。
したがって,固体分散製剤であることと,自己乳化性製剤であることを同視した
上記審決の判断は誤りであり,相違点4は実質的な相違点であると認められる。よ
って,この点に関する審決の容易想到性の判断の当否について,更に検討する必要
がある。
(2) 相違点1~4
ア 審決は,脂質成分の選択(相違点2),選択された脂質成分の含有量(相
違点1),製剤中の脂質成分及び結合剤成分の物理的状態(相違点3)と製剤の自己
乳化性の有無(相違点4)という4つの点を独立の相違点と評価した上で,引用文
献において実施例22でオレイン酸が選択されていることを理由に相違点2を実質
的な相違点と認めず,相違点1については,引用文献1における実施例で使用した
量と補正発明の相違点に係る量との近さを理由に,相違点3及び4と関連付けるこ
となく容易想到性を肯定し,相違点3についても,溶融押出しを使用すれば水難溶
性薬剤成分を分子分散体とでき,その結果得られた製剤は当然に自己乳化性を有す
るから,相違点4の構成についても想到することができると判断した。
しかしながら,脂質成分の選択及び選択された脂質成分の含有量は,活性物質を
十分に溶融させ,最終的にできた製剤中において結晶状態とならないか,他の脂質
成分や結合剤成分が分子分散状態で存在できるか否かという点に影響を与える重要

な要素と考えられるから,相違点1及び2は,相違点3及び5と無関係に設定でき
るものではないというべきである。
また,弁論の全趣旨によれば,最終的にできた製剤が分子分散体であるからとい
って,当然に自己乳化性を示すとは限らず,また,溶融法,溶融押出法のいずれの
製法においても,一般的に,溶融時点において分子分散体となっていたからといっ
て,乾燥工程を経て得られた製剤の状態で,なお活性物質が結晶を含まない状態が
維持されているとは限らないのであって,その場合には,採用する具体的な条件(成
分の種類や含有量,溶融や乾燥の時間,温度等)によって,補正発明の構成に想到
できるか否か左右されることになる。そうすると,補正発明の相違点3に係る構成
に想到できる条件と相違点4に係る構成に想到できる条件が重なり合うとは限らず,
独立に容易想到性を判断すると,ある特定の相違点の構成に想到する条件では,他
の相違点の構成に想到できない場合も考えられることになる。
したがって,相違点1~4及び看過した相違点5を同時に達成することが容易に
想到できるか否かを検討する必要があるというべきであり,以下,まとめて検討す
る(上記2で述べたとおり,相違点3と相違点5の容易想到性の判断は重複する。。

イ 補正発明は,製薬技術分野において,活性物質を胃腸管での吸収性を向
上させるという一般的な課題に基づき(【0002】,最終的には,固体の自己乳化

性の剤形(相違点4)を提供することを目的とするものであり(【0008】,配合

基剤として,融点が50℃を超えずHLBが12を超えない脂質成分(相違点2)
と結合剤成分を含む配合物を選択して,脂肪酸の含有量が「6~60重量%」であ
り,かつ,「結合剤成分を基準にして40重量%を超え」ない量(相違点1)とし,
「前記脂質成分及び前記結合剤成分を含む分子分散体を含」む(相違点3)とした
上で,「活性物質の結晶を含まない」(相違点5)ようにしたことは,上記目的を達
成するための手段といえる。そして,この場合,固体分散製剤が当然に自己乳化性
を示さない以上,引用発明が,相違点1~3及び5の構成を備えれば,当然に相違
点4の構成を備えたことになるわけでもない。したがって,相違点1~5の容易想

到性については,少なくとも,相違点4に係る構成の容易想到性が肯定されなけれ
ば,補正発明の容易想到性を導き出すことができない。
そこで,検討するに,確かに,補正発明の胃腸管での活性物質の吸収性向上とい
う課題は,製薬技術分野において当然の課題であったというべきであり,この点に
おいて,補正発明と引用発明は共通するといえるが,活性物質の吸収を高めるため
の方法としては,本件優先日において,活性成分の粒子自体を小さくする方法に加
え,自己乳化性製剤以外に固体分散製剤などの方法があり,吸収性以外の作成難易
度等の諸事情を総合的に判断すると,自己乳化性製剤が常に最適であると考えられ
ていたわけではなく,固体分散製剤よりも自己乳化性製剤の方が好ましい等の技術
常識はない以上,上記一般的課題から常に補正発明の構成である自己乳化性の剤形
を目指すことはできず,何らかの動機付けや示唆がなければ,当業者にとって容易
に想到できるものではない。しかるに,引用文献1には,自己乳化性製剤とするこ
とについて記載も示唆もない。
したがって,当業者が,固体分散製剤である引用発明において,脂質成分の選択
(相違点2),選択された脂質成分の含有量(相違点1)を設定し,その物理的状態
の特定(相違点3,5)を行って,自己乳化性を示す製剤(相違点4)とすること
は,容易に想到できる事項とはいえない。
ウ(ア) 審決は,相違点1に関し,引用文献1の実施例22のオレイン酸の5.
3重量%の近傍である6重量%程度とした上で,その他の含有成分の好適配合割合
を見出すことは当業者が容易になし得ることであり,オレイン酸を6重量%程度用
いた場合の効果が,5.3重量%用いた場合に比べて格段優れることは本願明細書
から確認できないと判断した。
しかしながら,上述したように,補正発明は,自己乳化性固形配合物とするため
に必要な事項として,配合基剤として脂質成分と結合剤成分を含む配合物を選択し,
脂肪酸の含有量が「6~60重量%」であり,かつ,
「結合剤成分を基準にして40
重量%を超え」ない範囲としているのであって,単に,引用文献1の実施例22の

5.3重量%と補正発明の脂質成分の下限値である6重量%が近傍の数値であるか
らといって,自己乳化性とするという課題なしに,脂肪酸の含有量を増やす動機付
けはないというべきであるし,最終的な結合剤成分との成分比を検討せずに脂肪酸
の含有量を増やした場合には,製剤の自己乳化性や,脂質成分や結合剤成分の分子
分散体該当性といった性質が変わってくる可能性もあるから,相違点1に係る補正
発明の成分の含有量とすることが容易であったと判断することはできない。
(イ) また,審決は,相違点2に関し,引用発明の「オイル,脂肪酸または
それらの混合物」のうち,
「脂肪酸」は,補正発明の「少なくとも1種の脂質を含む
脂質成分」に相当するとしてこれを一致点とし,相違点2の認定において引用発明
の「オイル」については言及せず,相違点2の判断において,脂肪酸として例示さ
れている複数の選択肢のうちの1つである「オレイン酸」のみを取り上げ,他の選
択肢には言及せずに,オレイン酸は,相違点2に係る融点とHLBを満たすとして,
実質的な相違点とはならないと判断した。
しかしながら,引用発明として,複数の選択肢を例示したものを認定した場合,
そのうちの1つの選択肢が補正発明と一致するからといって,他の選択肢の存在を
無視して一致点とすべきではない(なお,引用発明として,当該選択肢に限定した
具体例を認定することも可能であるが,その場合は,当該選択肢に基づく引用発明
を前提として,更に一致点及び相違点の認定をすべきところ,本件の審決はそのよ
うな認定をするものではなく,被告もまたそのような主張をしていない。)から,オ
レイン酸以外の選択肢である「リノール酸」と「ミリスチン酸イソプロピル」,そし
て,
「オイル」についても考慮して,相違点2についての判断をする必要があるもの
と認められる。
そこで,引用発明のオレイン酸,リノール酸、ミリスチン酸イソプロピルからな
る群から選択される脂肪酸について検討するに,オレイン酸は,融点が12~16℃
であること,HLBが1であることからすると,補正発明の「50℃を超えない融
点」及び「12を超えないHLB」を有するという事項を備えているといえる。

また,リノール酸,ミリスチン酸イソプロピルの融点は,技術常識上,それぞれ,
-35℃,9℃未満であり,その構造からみてHLBは12を超えないものと認め
られるから,
「50℃を超えない融点」及び「12を超えないHLB」を有するもの
と認められる。
次に,引用発明のオイルについて検討するに,引用文献1には,オイルの具体例
として,
「水,アルコール及びエゴマ抽出物の混合物」 「ヒアルロン酸ナトリウム」

のように,明らかに補正発明の「脂質成分」に相当しない親水性の高いものが記載
されているものの,「コーンオイル」や「オリーブオイル」のように,「脂質成分」
に相当し,かつ,室温で液状であり構造からみてHLBが12を超えないことが明
らかなものが,多数例示列挙されている。引用文献1におけるオイルの役割は,水
難溶性薬剤を溶解又は分散させるものと考えられるから,親水性の高いものを積極
的に選択すべき技術的根拠は乏しく,室温で液状であり親油性が高いオイルを選択
することは,当業者の通常の行動といえる。そして,この場合のオイルについては,
「50℃を超えない融点」「12を超えないHLB」の条件を満たすことが多いと

考えられる。
もっとも,引用発明において示されたオイルが,すべて「50℃を超えない融点」,
「12を超えないHLB」の条件を満たすわけでないし,選択されたオイル又は脂
肪酸等は,その含有量によって,製剤中の脂質成分及び結合剤の成分の状態や製剤
の自己乳化性の有無に影響を与えると考えられるから,他の相違点との関連性を考
慮せずに,その選択及び含有量の設定が容易想到であるということはできない。
(ウ) さらに,審決は,相違点3及び4については,甲6~8に表れた①
水難溶性薬剤成分を分子レベルで分散させた「分子分散体」とすることは,溶解性
を高めひいては生物学的利用能をも高めるために,より好ましいものであること,
②そのような製剤を得るためには,例えば,溶融ポリマーと薬剤とを混合し押出し
するといった方法によればいいことという2つの周知技術を用いれば,当業者が容
易になし得たと判断した。

しかしながら,本件優先日当時,固体分散体を製造する方法として,溶融法,あ
るいは溶融法を見直して改良した溶融押出法などが周知であったものの,溶融押出

法」を適用して固体分散体を製造すると,常に薬剤が分子分散し結晶を含まない状
態となるとの技術常識の存在は,証拠上うかがわれない。しかも,甲6~8は,脂
質成分を含まない2成分系に関する文献であるところ,これらの技術を脂質成分を
含んだ3成分系に用いた場合に,同様の効果が生じるという技術的な裏付けもない。
したがって,引用発明において,薬物の溶解性を向上させるために,薬剤を分子
分散させて結晶を含まない状態とすることを目的として,周知の固体分散体の製造
方法である「溶融押出法」を,
「溶融法」に代えて適用しても,採用する具体的な条
件(成分の種類や含有量,溶融押出しの温度や時間等)によっては,薬物が分子分
散し結晶を含まない状態が達成できるとは限らないし,オイルや脂肪酸についても,
分子分散するという具体的な技術的根拠もない。
そうすると,引用発明の薬物の溶解性を向上させようした当業者が,薬物を分子
分散させることを目的として,周知の「溶融押出法」を適用したとしても,必ず,
薬物とオイルや脂肪酸とが水溶性ポリマーマトリックスに分子分散し,薬剤の結晶
を含まない状態となるとはいえず,まして,自己乳化性を示すようになるとは断言
できないから,相違点3及び4に係る構成を,当業者が容易に想到することができ
たとはいえない。
エ 被告の主張について
(ア) 被告は,経口投与された固体分散体は,消化管で水溶性高分子担体と
難溶性薬物が溶けて分散状態,すなわち,乳液の状態となり(甲6),このとき,水
溶性高分子が薬物の濡れ性を改善するために,分散安定性が向上するという技術常
識があるところ(乙1),補正発明の配合物の「自己乳化性」なる性質は,分子分散
体が消化管で溶解して安定なエマルジョン(乳液)となることを意味しており,薬
物が分子レベルで分散しているため,溶解後に非常に小さい粒子径及び狭い粒子径
分布を持つエマルジョンを形成し,水溶性高分子の存在により分散安定性にも優れ

たものとなる自己乳化性なる性質を備えることも,当業者が理解するところである
から,溶融法で製造されたと解される,引用発明の固体分散製剤も,経口投与後に
消化管で溶解しエマルジョンとなるという自己乳化性が備わっていると主張する。
しかしながら,甲6には,経口投与された固体分散体は,乳液の状態となるとは
記載されていない。すなわち,甲6には,
「実施例7-押出し混合・・・生じた押出
し物を仮想的な胃液(無ペプシン)中で顕微鏡観察すると,1μmより小さなサイ
ズを持つかなりの数の非常に細かい粒子が放出されることが明らかになった。この
押出し物は乳白色の分散体を後に残して完全に消失した。 と記載されているが
」 (3
5頁25行~36頁6行),ここでいう「乳白色の分散体」は,具体的に何が分散さ
れた物であるのか特定されておらず,エマルジョン(乳濁液)であるとは必ずしも
いえない。むしろ,甲6には,
「担体が溶けると,溶けにくい薬剤は固溶体または分
散体からナノパーティクルとして遊離する。in vivoでバイオ・アベイラビ
リティを増強するのは微小粒子分散体である。 と記載されているところ
」 (28頁2
8行~29頁2行),ここでいう「ナノパーティクル」は,担体中で形成された非常
に細かい結晶を意味し,固体の結晶が微粒子分散体となったものは,一般に,
「懸濁
液」と表記されるものであって,液体の小滴がそれを溶かさない液体に分散した系
をいう「エマルジョン(乳濁液)」とは異なるものである。
したがって,被告の主張するような「固体分散体は乳液の状態となる」との技術
常識をうかがわせる証拠はなく,被告の主張はその前提において誤りがある。
なお,仮に,被告の主張が,脂肪酸等の存在やその含有量に関係なく,一般に,
水溶性高分子(水溶性ポリマー)を用いた固体分散体のうち,薬物が分子分散した
固溶体は,そもそも自己乳化性なる性質を備えることを前提とするのであれば,そ
のような前提は,水性媒体に接触した際の性状が固体分散製剤と自己乳化性製剤と
では異なるという当業者の一般的な認識とは異なるものである。
(イ) 被告は,仮に,引用発明に自己乳化性なる性質が備わっていないとし
ても,溶解性が改善されることが周知とされている分子分散体の状態とするべく,

固体分散体を溶融押出しにより製造することは容易だから,このような分子分散体
とすることで,
「自己乳化性」なる性質を備えた固体分散製剤とすることは,容易に
なし得ることであると主張する。
しかしながら,補正発明は,薬物を分子分散させたことのみで自己乳化性を示す
ものではないし,脂質成分等の含有量や,配合物における脂質成分と結合剤成分の
微細形態によっては自己乳化性が常に示されるとは限らない。また,固体分散製剤
において,薬剤を分子分散させれば,自己乳化性を示す製剤となるとの技術常識が
存在するとも認められない。そして,本件優先日当時において,胃腸管での吸収性
の向上のために,自己乳化性を示す製剤が最適であると考えられていたとは認めら
れないから,当業者が,何らの動機付けなくして,自己乳化性を具備する構成へ容
易に想到することはできない。
したがって,薬剤を分子分散させるために,溶融押出しという周知技術を適用し
て製造すれば,自己乳化性なる性質を備えることとなる旨の被告の主張は,採用す
ることができない。
(3) 小括
以上によれば,審決の相違点1~4に関する判断には,いずれも誤りがあり,取
消事由2には理由がある(したがって,取消事由1も審決の結論に影響を及ぼす違
法なものであり,取消事由として理由がある。。

4 取消事由3(手続違背)について
(1) 審査官・審判合議体が拒絶理由等で示した判断
ア 本件通知書(甲20)の記載
本件通知書には,次のとおりの記載がある。
「A.請求項1-15について/理由1,2(注:理由1が特許法29条1項3号
該当,理由2が特許法29条2項該当)/引用例1-7
・・・・
引用例5(特に,CLAIMS,第2頁16-25行,第6頁第1-7行,第7

頁第12-27行,EXAMPLE XI,XVII,XXII)には,水難溶性の
活性物質,オレイン酸等の脂質成分,PVPやPEG等の水溶性ポリマーマトリッ
クスを含む固体分散体であって,マイクロエマルジョンを形成するものが記載され
ている。
・・・
同項に係る発明は引用例1-7の何れかに記載乃至示唆された発明である。
また,引用例1-7において,請求項7のオレイン酸等は周知の油状成分である
し,請求項8,9の配合量に関しても,医薬品製剤において,各成分の含有割合等
を,当業者がその目的に応じて適宜選択決定することは,一般的に行われているこ
とであって,当業者の容易になし得るものと認められる。
そして,明細書の記載からみて,本願発明により奏される効果に当業者の予測を
超える顕著なものがあるとも認められない。
・・・
引 用 文 献 等 一 覧
1.特表平07-501259号公報
2.独国特許出願公開第19531277号明細書
3.特開平06-048920号公報
4.特表平08-506081号公報
5.国際公開第00/000179号(注:引用文献1,甲3)
6.独国特許出願公開第19536387号明細書
7.特開昭61-243012号公報 」
このように,本件通知書において,新規性,進歩性が否定されるべき理由として
は,請求項1~15に係る発明は,引用例1~7のいずれかに記載ないし示唆され
た発明であるとされているだけである。ここでいう請求項1は,本件補正前の本願
発明であり,補正発明における「前記脂質成分が,12を超えないHLBを有し,」
という発明特定事項を含まないものであるから,上記判断は,引用発明が,請求項

1の成分と同様な成分を有する配合物であることを根拠に,自己乳化性を示すとい
う立場に立った上で,「前記脂質成分および前記結合剤成分を含む分子分散体を含」
むこと,
「本質的に前記活性物質の結晶を含まない」ことは,一致点であることを前
提とするものである。
イ 本件拒絶査定(甲19)の記載
本件拒絶査定には,
「この出願については,平成23年2月28日付け拒絶理由通
知書に記載した理由1~4によって拒絶すべきものです。 と記載され,
」 本件出願を
拒絶すべき理由は,上記通知書記載の理由1~4のとおりとされている。
そして,原告の平成23年10月26日付け意見書(甲21) 「引用文献5にお

いては,結晶性のポリマーであり,脂質と分子分散体を形成することのない PEG 6000
が使用されている(実施例 XI および XVII 参照)。よって,PEG 6000 が油と混合され
ると,生成物は少なくとも2相を形成すると考えられ,1相は PEG 6000 の相であり,
他の相は油相である。このような配合物は自己乳化性でないと考えられる。さらに,
引用文献5は,油と薬物を水溶性ポリマーと単純に混合しているにすぎず,油とポ
リマーを溶解させて分子分散体を形成させる意図はないと考えられる。
・・・以上よ
り,本願新請求項1に記載の発明は引用文献1-7のいずれにも記載も示唆もされ
ていない。また,当業者が,引用文献1-7の記載に基づき,本願新請求項1に記
載されるような特定の含有量で各成分を配合することにより自己乳化性の固形配合
物を得ることに想到することは,不可能である。そして,本願新請求項1に記載の
配合物が自己乳化性であることは本願実施例において実証されている。 )に記載さ

れた意見に対しては,次のとおりの記載がある。
「引用例5には,結晶性のポリマーであり,脂質と分子分散体を形成することの
ない PEG 6000 が使用されており(実施例 XI および XVII 参照),PEG 6000 が油と混
合されると,生成物は少なくとも2相を形成すると考えられ,1相は PEG 6000 の相
であり,他の相は油相であって,このような配合物は自己乳化性でないと考えられ
る旨,それぞれ主張する。

・・・
また,引用例5には,本願請求項の成分と同様の成分を含有する配合物が記載さ
れ,さらに,PEG6000 が含まれることにより自己乳化性を示さないという点に関し
ても,本願明細書【0057】-【0059】には,本願発明の自己乳化性を示す
配合物に用いられる結合剤として,ポリビニルピロリドンと同様の作用を有する結
合剤としてポリエチレングリコール 6000 等のポリアルキレングリコールが記載さ
れていることから,PEG6000 が含まれることにより自己乳化性を示されないという
主張は認められない。
したがって,請求項1-11に係る発明は,引用例1,2,5に記載された発明
であるし,引用例1,2,5の記載に基づいて容易に想到し得たものであるから,
第29条第1項第3号及び第29条第2項の規定により特許を受けることができな
い。」
このように,本件拒絶査定では,本件通知書で示した前提事項に変更はない。
ウ 平成25年11月12日付け審尋書(甲22)の記載
甲22には,次のとおりの記載がある。
「 <特許査定できない理由>
A.請求項1/第29条第1項第3号,第29条第2項/引用例1,2,5
B.請求項1/第36条第4項,第36条第6項第1号
平成24年 9月 6日付け手続補正書による補正の請求項1は,平成23年1
0月26日付け手続補正書の請求項4の記載に基づき,前記脂質成分に関し,「12
を超えない HLB を有」するものに特定したものである。
当該補正は,特許請求の範囲の減縮であって,補正前の請求項に記載された発明
の発明特定事項の限定であり,補正前と補正後の発明の解決しようとする課題が同
一であることから,限定的減縮に相当するものである。
A.
出願人は,平成24年 9月 6日付け審判請求書にて,・・・(3)引用例5に

ついて,ポリアルキレングリコールは,新請求項1に記載される結合剤として特定
される物質には含まれないことから,引用例5の配合物は自己乳化性でないと主張
する。
上記点に関し,以下に検討する。
・・・
(3)ポリアルキレングリコールが本願請求項1に記載の結合剤とは異なるもので
あったとしても,拒絶査定で指摘したように本願明細書には,本願発明の自己乳化
性を示す配合物に用いられる結合剤として,ポリビニルピロリドンと同等の作用を
有するポリアルキレングリコールが記載されていることから,ポリアルキレングリ
コールはPVPと同様の効果を有すると認められる。さらに,本願請求項1におい
てポリアルキレングリコールが含まれることは除外されていない。また,引用例5
のEXAMPLE XXIIには,液体状態のオレイン酸(融点:16.3℃) (5.
5g
3%)にケトコナゾール10g(10.5%)を分散させ,融解したPVP80g
(84.2%)を添加していることから,分子分散体を形成しているものと認めら
れる。ここで,オレイン酸の含量を本願請求項1に記載の程度とすることは当業者
が適宜設定しうる事項であるし,請求項1の数値範囲に臨界的意義は認められない。
また,出願人は,参考資料を添付して,12 を超えない HLB を有する脂質成分を含
有する点に阻害要因が存在する旨主張するが,引用例5にはオレイン酸等が記載さ
れているのであるから,オレイン酸等を用いることは当業者が容易に想到しうるこ
とである。
よって,出願人の主張は認められない。」
このように,審尋書に添付された審査官の前置報告書において,特許査定できな
い理由として示された理由のうち,特許法29条1項3号,29条2項関係の理由
は,上記引用例1,2及び引用文献1を根拠とするものであり,ここでいう請求項
1は,補正発明である。審判合議体は,補正で追加したHLBの数値について,引
用文献1を理由に容易想到性があるとしただけであり,改めて相違点の指摘はして

いないから,ここでも本件通知書で示した前提事項に変更はないと解される。
エ 審決の記載
審決は,補正発明について,上記各相違点を認定した上で,相違点3(脂質が分
子分散している点)について,甲6~8(特表平11-514979号公報,特開
2000-95708号公報,特表平10-501000号公報参照)を用いて「薬
剤成分の分子分散」と「溶融押出法」に関する周知技術を認定し,引用発明に当該
周知技術を適用することは容易に想到し得たものであり,例えば,引用発明の具体
例である実施例22に対して当該周知の成形手段を適用した結果得られる製剤は,
薬剤であるケトコナゾールだけでなく,脂質成分であるオレイン酸も,PVP中に
分子分散されたものとなると当然に解されると判断し,また,相違点4(自己乳化
性である点)についても,仮に,引用発明が自己乳化性なる性質が備わらないとし
ても,当該周知技術の溶融押出法を用いれば,自己乳化性なる性質が備わると判断
して,補正発明は,独立特許要件(進歩性)を欠くと判断した。
このように,審決は,拒絶査定においては,成分の観点から一致点としていた「前
記脂質成分および前記結合剤成分を含む分子分散体を含」む点,及び「自己乳化性」
である点について,初めて相違点3,4を認定し,これらの相違点について,拒絶
査定においては全く検討していなかった「薬剤成分の分子分散」と「溶融押出法」
に関する周知技術を適用することによって,補正発明は,引用発明及び周知技術か
ら,当業者が容易に想到することができた旨を判断している。しかも,上記周知技
術に関する文献は,審決時に初めて示されたものである。
(2) 手続の適否
ア 審決は,補正発明は,平成18年法律第55号改正附則3条1項により
なお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項の規定に
より準用する特許法126条5項の規定(独立特許要件)に違反するので,特許法
159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべき
ものと判断した。特許法159条2項により読み替えて準用する同法50条ただし

書には,
「ただし・・・第53条第1項の規定による却下の決定をするときは,この
限りでない。」とあり,53条1項の規定により補正却下の決定をするときは,拒絶
の理由を通知することとはされていない。
そこで,検討するに,平成18年法律第55号による改正前の特許法50条本文
は,拒絶査定をしようとする場合は,出願人に対し拒絶の理由を通知し,相当の期
間を指定して意見書を提出する機会を与えなければならないと規定し,同法17条
の2第1項1号に基づき,出願人には指定された期間内に補正をする機会が与えら
れ,これらの規定は,同法159条2項により,拒絶査定不服審判において査定の
理由と異なる拒絶の理由を発見した場合にも準用される。この準用の趣旨は,審査
段階で示されなかった拒絶理由に基づいて直ちに請求不成立の審決を行うことは,
審査段階と異なりその後の補正の機会も設けられていない(もとより審決取消訴訟
においては補正をする余地はない。 以上,
) 出願人である審判請求人にとって不意打
ちとなり,過酷であるからである。そこで,手続保障の観点から,出願人に意見書
の提出の機会を与えて適正な審判の実現を図るとともに,補正の機会を与えること
により,出願された特許発明の保護を図ったものと理解される。この適正な審判の
実現と特許発明の保護との調和は,拒絶査定不服審判において審判請求時の補正が
行われ,補正後の特許請求の範囲の記載について拒絶査定の理由と異なる拒絶の理
由を発見した場合にも当然妥当するものであって,その後の補正の機会のない審判
請求人の手続保障は,同様に重視されるべきものといえる。
以上の点を考慮すると,拒絶査定不服審判において,本件のように審判請求時の
補正として限定的減縮がなされ独立特許要件が判断される場合に,仮に査定の理由
と全く異なる拒絶の理由を発見したときには,審判請求人に対し拒絶の理由を通知
し,意見書の提出及び補正をする機会を与えなければならないと解される。
イ そこで,検討するに,本件拒絶査定の理由は,補正前発明は,当業者が
引用文献1に記載した発明であるというものであるのに対し,審決は,補正発明は,
引用文献1に記載された発明に周知技術を適用して容易に発明をすることができた

というものであり,両者の違いは,審決では,引用発明における脂質成分及び結合
剤成分が分子分散体を形成しているか否かは特定されていないとして,補正発明と
の相違点であると認定した上で,分子分散体を形成するための技術は周知であると
して,これを引用文献1に記載された発明に適用することによって,相違点に係る
構成に想到できると判断した点にある。
そして,分子分散体を形成するための溶融押出し等の技術が本件優先日当時に周
知であったことは,審決の説示したとおりである。しかしながら,本願発明は,本
件補正前後を問わず,発明の効果を奏する上で,自己乳化性を具備することが特に
重要であるところ,少なくとも,補正発明においては,自己乳化性の有無に関し,
脂質成分及び結合剤成分が分子分散体を形成するか否かが一定の影響を与える前提
に立っているから,相違点3及び4に係る構成,特に相違点4に係る構成を具備す
るために適用する必要がある技術の有無やその具体的内容は,補正発明の進歩性判
断を左右する重要な技術事項というべきである。しかも,結果的にみれば,上記周
知技術に関する甲6~8の文献は,あくまでも,脂質成分のない水溶性ポリマーと
活性成分の2成分系に関するものであって,そこで示された技術を,水溶性ポリマ
ーと脂質成分を含む場合に利用すれば,当然に全体が分子分散体を形成する効果を
奏するか否かは明らかではなく,適用すれば,試行錯誤なしに相違点に係る構成に
想到できる技術とはいえない。本願明細書に記載された脂質成分が一般的な添加剤
であることは,被告が指摘するとおりであるが,溶融押出しにおいて脂質成分を添
加した場合に,最終的な製剤において,水難溶性薬物の結晶を含まず,自己乳化性
を帯びやすいと,当然にはいえない。そうすると,上記各文献は,溶融押出しとい
う製剤化手段に関する周知な技術に関するものではあるが,当業者にとって引用発
明に適用すれば,試行錯誤なしに相違点3及び4の構成を具備できるような技術と
いえない以上,審決が,審判手続において,相違点3及び4の存在を指摘せず,溶
融押出しの技術に関する上記各文献を示すこともなく,判断を示すに至って,初め
て相違点3及び4の存在を認定し,それに当該技術を適用して,不成立という結論

を示すのは,実質的には,査定の理由とは全く異なる理由に基づいて判断したに等
しく,当該技術の周知性や適用可能性の有無,これらに対応した手続補正等につい
て,特許出願人に何らの主張の機会を与えないものといわざるを得ず,特許出願人
に対する手続保障から許されないというべきである。
ウ なお,原告は,平成26年5月19日付け回答書(甲23)において,
「熱的に可塑化した混合物又は熱的/機械的に可塑化した混合物を含む」との発明
特定事項を加えた補正案を提示し,
「熱的/機械的に可塑化」すること(溶融押出法
に相当)について,
「引用例1,2及び5のいずれにも,上記補正案の請求項1に記
載するような活性成分,脂質成分及び結合剤成分を含む,熱的に可塑化した混合物
又は熱的/機械的に可塑化した混合物を含む自己乳化性固形配合物は記載も示唆も
されておらず,本願の請求項1とそれに従属する請求項2~10に係る発明は,引
用例1,2及び5に対して新規性及び進歩性を有しているものと思料致します。 と

し,特に引用文献1との関係については,
「引用例5にも,可塑化した混合物につい
て記載も示唆もされていません。脂質成分との溶融物を形成する代わりに,引用例
5では活性成分と脂質との混合物を溶融PVPに加えています。引用例5には,活
性成分もしくは脂質成分が可塑化されることについては何も示唆されていません。
また,上記補正案の請求項1に示すように,本願発明は,配合物が,本質的に活性
成分の結晶を含まないことを特徴とします。可塑化を行うことなく,活性成分と脂
質成分の混合物を溶融PVPに加えただけでは,少なくとも必然的には,本願請求
項に規定する分子分散体は得られません。引用例5に記載されたプロセスにより製
造される物が,本願の請求項に記載した範囲に含まれ得る根拠は何も示されておら
ず,このような引用例5に基づいて本願発明の新規性及び進歩性は否定されないも
のと資料致します。また,前置報告書において指摘されている通り,引用例5には,
オレイン酸5g(5.3%)にケトコナゾール10g(10.5%)を分散させ,
融解したPVP80g(84.2%)を添加する旨が開示されていますが,このオ
レイン酸の量(5.3%)は本願発明の脂質成分の量(6~60重量%)に対して

極端に小さく,両者は技術思想としては異なるので「6~60重量%」の範囲が当
業者が適宜設定し得る事項とはいえないものと思料致します。よって,引用例5に
基づいて当業者が本願発明の構成に想到することは困難であるものと思料致しま
す。」という意見を述べている。
しかしながら,この回答書における意見は,引用例1,2及び引用文献1との相
違点の有無と相違点1についての容易想到性が言及の中心であって,引用発明にお

いて,薬剤成分を分子分散とするために溶融押出法を適用すれば,自ずと,脂質成
分も分子分散され,その結果,自己乳化性を示す製剤となるか否か」という,相違
点3(脂質成分の分子分散)と相違点4(自己乳化性)の容易想到性については言
及がなく,補正発明の進歩性に関する重要な事項について,原告に十分な防御の機
会があったと認めるには足りず,上記判断を左右しない。
エ この点,被告は,引用発明の固体分散製剤に分子分散体が含まれること
は,本願優先日における技術常識であり,自己乳化性は,引用発明においても備わ
っている性質であると判断されるから,この点は,補正発明との実質的な相違点で
はないが,念のために周知例として甲6~8を列挙して丁寧に説示しただけである
と主張する。
しかしながら,引用発明の固体分散製剤が当然には分子分散体とはいえないこと,
当然には自己乳化性を有しないことは,上記3(1),(2)で説示したとおりであり,
相違点3,4は実質的な相違点でないとはいえないから,被告の主張は前提におい
て失当である。
(3) 小括
したがって,本件の審判手続には違法があり,取消事由3には理由がある。

第6 結論
以上のとおり,取消事由1~3にはいずれも理由があるから,原告の請求は理由
がある。

よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部


裁判長裁判官
清 水 節


裁判官
片 岡 早 苗


裁判官
新 谷 貴 昭

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