平成27(ワ)14871損害賠償請求事件
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所
|
裁判年月日 |
平成28年4月20日 |
事件種別 |
民事 |
対象物 |
画像補正データ生成システム,画像データ生成方法及び画像補正回路 |
法令 |
特許権
特許法102条2項2回
|
キーワード |
特許権25回 侵害15回 損害賠償8回 実施1回
|
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 本件は,発明の名称を「画像補正データ生成システム,画像データ生成方法
及び画像補正回路」とする特許第4681033号(出願日:平成20年9月4日
〔優先日:同年7月31日〕,登録日:平成23年2月10日)の特許権(以下
「本件特許権1」といい,同特許権に係る特許を「本件特許1」といい,その願
書に添付した明細書を「本件明細書1」という。)並びに発明の名称を「画質調整
装置及び画像補正データ生成プログラム」とする特許第5362753号(出願
日:平成23年2月2日〔原出願日:平成20年9月4日,優先日:同年7月31
日〕,登録日:平成25年9月13日)の特許権(以下「本件特許権2」といい,
同特許権に係る特許を「本件特許2」といい,その願書に添付した明細書を「本
件明細書2」という。また,本件特許権1と本件特許権2を併せて「本件各特許
権」といい,本件特許1と本件特許2を併せて「本件各特許」といい,本件明細
書1と本件明細書2を併せて「本件各明細書」という。)を有する原告が,被告は
平成23年6月頃から別紙被告物件目録記載の物件(以下「本件対象物件」とい
う。)の製造,販売,輸出及び販売の申出をしており,本件対象物件は①本件特許
1の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件発明1-1」という。)及 |
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判決文
平成28年4月20日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成27年(ワ)第14871号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成28年2月10日
判 決
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は,原告に対し,2億円及びこれに対する平成27年6月12日から支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,発明の名称を「画像補正データ生成システム,画像データ生成方法
及び画像補正回路」とする特許第4681033号(出願日:平成20年9月4日
〔優先日:同年7月31日〕,登録日:平成23年2月10日) の特許権(以下
「本件特許権1」といい,同特許権に係る特許を「本件特許1」といい,その願
書に添付した明細書を「本件明細書1」という。)並びに発明の名称を「画質調整
装置及び画像補正データ生成プログラム」とする特許第5362753号 (出願
日:平成23年2月2日〔原出願日:平成20年9月4日,優先日:同年7月31
日〕,登録日:平成25年9月13日)の特許権(以下「本件特許権2」といい,
同特許権に係る特許を「本件特許2」といい,その願書に添付した明細書を「本
件明細書2」という。また,本件特許権1と本件特許権2を併せて「本件各特許
権」といい,本件特許1と本件特許2を併せて「本件各特許」といい,本件明細
書1と本件明細書2を併せて「本件各明細書」という。)を有する原告が,被告は
平成23年6月頃から別紙被告物件目録記載の物件(以下「本件対象物件」とい
う。)の製造,販売,輸出及び販売の申出をしており,本件対象物件は①本件特許
1の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件発明1-1」という。)及
び②同請求項2に係る発明(以下「本件発明1-2」という。)並びに③本件特許
2の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件発明2-1」という。),
④同請求項2に係る発明(以下「本件発明2-2」という。),⑤同請求項3に係
る発明(以下「本件発明2-3」という。)及び⑥同請求項5に係る発明(以下
「本件発明2-5」という。また,これら6つの発明を併せて「本件各発明」と
いう。)の技術的範囲に属する旨主張して,被告に対し,第一次的に,平成23年
6月1日から平成27年5月31日までの間に本件特許権1を侵害した不法行為に
基づく損害賠償金2億1000万円の一部である2億円及びこれに対する不法行為
の後である同年6月12日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの民法所定年
5分の割合による遅延損害金の支払,第二次的に,平成25年9月13日から平成
27年5月31日までの間に本件特許権2を侵害した不法行為に基づく損害賠償金
9004万1096円の一部である9000万円及びこれに対する不法行為の後で
ある同年6月12日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの民法所定年5分の
割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実,当裁判所に顕著な事実並びに各項末
尾の括弧内に掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお,書
証番号は,特記しない限り枝番の記載を省略する。)
(1) 当事者
ア 原告は,コンピュータ及びその周辺機器・関連機器(半導体,製造機器等)
並びに電気電子機器,その関連機器及びそのソフトウェアの設計,製造,販売及び
輸出入業務等を目的とする株式会社である。
イ 被告は,映像表示装置及びその周辺機器の設計,製造,販売等を目的とする
特例有限会社(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律3条2項)であ
る。
(2) 本件各特許権及び本件各発明
原告は,本件特許権1を,平成23年2月10日の設定登録以来保有し,本件特
許権2を,平成25年9月13日の設定登録以来保有している(甲1,3)。
本件特許1の特許請求の範囲は,別紙特許第4681033号公報(甲2)の
【特許請求の範囲】記載のとおりであり,本件特許2の特許請求の範囲は,別紙特
許第5362753号公報(甲4)の【特許請求の範囲】記載のとおりである。本
件各発明を構成要件に分説すると,以下のとおりである。
ア 本件発明1-1(本件特許1の特許請求の範囲の請求項1に係る発明)を構
成要件に分説すると,次のとおりである。
A1 画像を出力 す るための信号を表示 パネルに供給する信 号発生手段
と,前記表示パネルにおいて表示された出力画像を撮影する撮像手段
と,前記信号発生手段及び前記撮像手段に接続される制御手段と,を備
えた画像補正データ生成システムであって,
B 前記制御手段が,前記信号発生手段に対して,表示パネルの全面に共
通する信号値の供給指示を出力する指示手段と,
C 前記撮像手段から,出力画像データを取得する画像取得手段と,
D1 前記出力画像データに対し中間的な周波数成分のみを分離するバン
ドパスフィルタリングを行なうことによって,同出力画像データから高
周波成分及び低周波成分を除いたバンドパスデータを算出するバンドパ
スフィルタ手段と,
E 前記バンドパスデータに対応した画像補正テーブルを出力する補正
データ生成手段と
F1 を備えたことを特徴とする画像補正データ生成システム。
イ 本件発明1-2(本件特許1の特許請求の範囲の請求項2に係る発明)を構
成要件に分説すると,次のとおりである。なお,構成要件F 2 は,更に前記アの構
成要件A 1 ないしF 1 (引用に係る請求項1に係る発明の構成要件)のとおり分説
される。
G1 前記指示手段は,階調毎に表示パネルの全面に共通する信号値の供
給指示を出力し,
H1 前記画像取得手段は,階調毎に出力画像データを取得し,
I1 前記補正データ生成手段は,階調毎に画像補正テーブルを出力する
F2 ことを特徴とする請求項1に記載の画像補正データ生成システム。
ウ 本件発明2-1(本件特許2の特許請求の範囲の請求項1に係る発明)を構
成要件に分説すると,次のとおりである。
A2 表示パネルに画像を出力するための信号を表示パネルに供給する信
号発生手段と,前記表示パネルにおいて表示された出力画像を撮影する
撮像手段とに接続される制御手段を備えた画質調整装置であって,
B 前記制御手段が,前記信号発生手段に対して,表示パネルの全面に共
通する信号値の供給指示を出力する指示手段と,
C 前記撮像手段から,出力画像データを取得する画像取得手段と,
D2 前記出力画像データに対し中間的な周波数成分のみを分離するバン
ドパスフィルタリングを行なうことによって,同出力画像データから高
周波成分及び低周波成分を除いたバンドパスデータを算出する手段と,
E 前記バンドパスデータに対応した画像補正テーブルを出力する補正
データ生成手段とを備え,
J1 前記バンドパスデータに対応した画像補正テーブルは,輝度むらの
補正を行うためのテーブルである
F3 ことを特徴とする画質調整装置。
エ 本件発明2-2(本件特許2の特許請求の範囲の請求項2に係る発明)を構
成要件に分説すると,次のとおりである。
A2 表示パネルに画像を出力するための信号を表示パネルに供給する信
号発生手段と,前記表示パネルにおいて表示された出力画像を撮影する
撮像手段とに接続される制御手段を備えた画質調整装置であって,
B 前記制御手段が,前記信号発生手段に対して,表示パネルの全面に共
通する信号値の供給指示を出力する指示手段と,
C 前記撮像手段から,出力画像データを取得する画像取得手段と,
D2 前記出力画像データに対し中間的な周波数成分のみを分離するバン
ドパスフィルタリングを行なうことによって,同出力画像データから高
周波成分及び低周波成分を除いたバンドパスデータを算出する手段と,
E 前記バンドパスデータに対応した画像補正テーブルを出力する補正
データ生成手段とを備え,
J2 前記バンドパスデータに対応した画像補正テーブルは,色むらの補
正を行うためのテーブルである
F3 ことを特徴とする画質調整装置。
オ 本件発明2-3(本件特許2の特許請求の範囲の請求項3に係る発明)を構
成要件に分説すると,次のとおりである。
A2 表示パネルに画像を出力するための信号を表示パネルに供給する信
号発生手段と,前記表示パネルにおいて表示された出力画像を撮影する
撮像手段とに接続される制御手段を備えた画質調整装置であって,
B 前記制御手段が,前記信号発生手段に対して,表示パネルの全面に共
通する信号値の供給指示を出力する指示手段と,
C 前記撮像手段から,出力画像データを取得する画像取得手段と,
D2 前記出力画像データに対し中間的な周波数成分のみを分離するバン
ドパスフィルタリングを行なうことによって,同出力画像データから高
周波成分及び低周波成分を除いたバンドパスデータを算出する手段と,
E 前記バンドパスデータに対応した画像補正テーブルを出力する補正
データ生成手段とを備え,
J3 前記バンドパスデータに対応した画像補正テーブルは,輝度むら及
び色むらの補正を行うためのテーブルである
F3 ことを特徴とする画質調整装置。
カ 本件発明2-5(本件特許2の特許請求の範囲の請求項5に係る発明)を
構成要件に分説すると,次のとおりである。なお,構成要件F 4 は,更に前記ウの
構成要件A2ないしF3(J1を含む。引用に係る請求項1に係る発明の構成要
件),前記エの構成要件A 2 ないしF 3 (J 2 を含む。引用に係る請求項2に係る発
明の構成要件),前記オの構成要件A 2 ないしF 3 (J 3 を含む。引用に係る請求項
3に係る発明の構成要件)又は前記ウないしオのいずれかに記載の構成要件A 2 な
いしF 3 (うちJ 1 ,J 2 ,J 3 についてはいずれか。)及び「前記画像補正テーブ
ルには,調整を行った基準階調を特定するための識別子が関連付けられているこ
と」との構成要件(引用に係る請求項4に係る発明の構成要件)のとおり分説され
る。
G2 前記指示手段は,基準階調毎に表示パネルの全面に共通する信号値
の供給指示を出力し,
H2 前記画像取得手段は,基準階調毎に出力画像データを取得し,
I2 前記補正データ生成手段は,基準階調毎に画像補正テーブルを出力
する
F4 ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の画質調整
装置。
(3) 被告のむら補正システム等
ア 被告は,むら補正システムないしむら消し装置を含む画像処理装置の製造,
販売,輸出又は販売の申出をしている(弁論の全趣旨)。
イ 被告は,ウェブサイト等において,「CV-CH2000」との型番で特定
されるむら補正システム(以下「本件型番システム」という。)について,顧客か
ら注文があれば製造可能である旨表明している。本件型番システムは,FPD(フ
ラットパネルディスプレイ)の色むら/輝度むら調整を用途とするもので,顧客の
FPD製品の生産ライン用のシステムとして設計されるものである(甲5,弁論の
全趣旨)。
ウ 被告が作成した顧客(潜在的顧客)用プレゼンテーション資料(甲6。以下
「本件資料」という。)には,液晶パネル上に生じるむらの補正方法や補正例が記
載されている(以下,本件資料に記載されているむら補正方法や補正例が前提とす
るむら補正システムを「本件システム」という。)(甲6,弁論の全趣旨)。
(4) 本件訴訟の経緯等
ア 原告は,平成27年6月1日,被告を相手取って本件訴訟を当庁に提起した
が,この段階では,訴訟における審理の対象となる物件を本件型番システムと特定
し,「被告が,平成23年6月頃から,本件各発明の技術的範囲に属する本件型番
システムの製造,販売及び輸出をしていること」が本件各特許権を侵害するとし
て,これによる損害賠償を請求していた(顕著な事実)。
イ ところが,原告は,平成28年2月に至って,本件訴訟における審理の対象
となる物件につき,型番による特定(本件型番システム)から構成による特定(本
件対象物件)に特定方法を変更し,さらに被告の行為として「販売の申出」を追加
する旨の訴えの変更を申し立て,同月10日の第4回弁論準備手続期日において,
これを記載した準備書面(4)を陳述した。本件対象物件の構成は,本件発明1-1
の構成要件(A 1 ,B,C,D 1 ,E及びF 1 。ただし,文言上は,構成要件D 1 よ
りも構成要件D 2 の方が更に同一に近い。)をほぼ引き写したものである(顕著な
事実)。
3 主要な争点
原告は,本件対象物件を,上記のとおり本件発明1-1の構成要件をそのまま充
足する構成を有するものとして特定し,その余の発明も含めて本件各発明の技術的
範囲に属するものとして主張しているところ,本訴請求に係る被告の損害賠償責任
の有無に関しては,「被告が平成23年6月1日から平成27年5月31日までの
間に本件対象物件を販売又は輸出したか。」が主要な争点となる。
そして,原告は,本件対象物件に当たるものとして本件型番システム及び本件シ
ステムを取り上げて主張している(本件型番システムと本件システムはいずれも本
件対象物件の構成を満たす共通の構成を有するものとして主張している)ところ,
当事者間では,上記争点をめぐって,具体的には,被告が本件型番システムないし
本件システムを製造,販売又は輸出したことがあるか,本件型番システムないし本
件システムが構成要件D 1 及びD 2 を充足するか,が最も争われている。
4 当事者の主張
【原告の主張】
(1) 侵害論について
被告は,平成23年6月1日から平成27年5月31日までの間,本件対象物件
を販売又は輸出し,これにより本件特許権1を侵害した。また,被告は,少なくと
も平成25年9月13日から平成27年5月31日までの間に本件対象物件を販売
又は輸出し,これにより本件特許権2を侵害した。
ア 被告は,平成23年6月1日以降,少なくとも次の(ア)及び(イ)のとおり,本
件型番システムないし本件システムの製造,販売,輸出及び販売の申出をした。
(ア) ●(省略)●から原告に提供された情報や,当時の原告の顧問の一人から原
告に提供された情報などに照らすと,被告は,平成25年頃,台湾の大手パネル
メーカーである友達光電股份有限公司(以下「AUO」という。)に対し,AUO
製のパネル向けに本件型番システムないし本件システムを少なくとも十数台販売
し,これを製造して台湾に輸出していたことが推認される。
(イ) 香港・台湾の大手EMSメーカー(電子機器の受託生産メーカー)である嘉
捷科技企業股份有限公司(以下「TPV」という。)の暗室において●(省略)●
が撮影した写真などに照らすと,被告は,平成26年頃,TPVに対し,TPV製
のパネル向けに本件型番システムないし本件システムを製造して台湾に輸出し,貸
し渡していたことが推認される。
イ 本件型番システムないし本件システムは,次の(ア)ないし(キ)のとおり本件各
発明の構成要件を充足し,本件各発明の技術的範囲に属する。
(ア) 構成要件A 1 ,A 2 ,F 1 ,F 2 ,F 3 及びF 4 の充足性
本件型番システムは,表示パネル(FPD)に画像を表示させ,この表示画像を
高感度CCDカメラで撮影し,その情報を分析して色むら/輝度むらを改善させる
補正データを作成するためのものであるから,「画像を出力するための信号を表示
パネルに供給する信号発生手段と,表示パネルにおいて表示された出力画像を撮影
する撮像手段と,信号発生手段及び撮像手段に接続される制御手段とを備えた画像
補正データ生成システム」であるといえる。そして,本件型番システムの一部であ
る画質調整装置は,上記信号発生手段及び撮像手段に接続される「制御手段」を備
えたものといえる。したがって,本件型番システムないし本件システムは構成要件
A 1 ,F 1 及びF 2 を充足し,その一部である画質調整装置は構成要件A 2 ,F 3 及び
F 4 を充足する。
(イ) 構成要件B及びCの充足性
本件システムは,最大輝度の70%の階調となるように表示パネルの全面に共通
する信号値を供給し,これをカメラで撮影して画像を取り込むから,「前記制御手
段が,前記信号発生手段に対して,表示パネルの全面に共通する信号値の供給指示
を出力する指示手段と,前記撮像手段から出力画像データを取得する画像取得手段
とを備えている」といえる。したがって,本件型番システムないし本件システム及
びその一部である画質調整装置は,構成要件B及びCを充足する。
(ウ) 構成要件D 1 及びD 2 の充足性
a 本件資 料 の ス ライド におい て, 「 Gray 70%」,「Gray 30%」及び 「 Gray
10%」のそれぞれについて「Original」(補正前)の写真と「After correction」(補
正後)の写真とを比べると,補正後の画像の中心部のむらは補正前よりも低減して
いるが,画像の周辺部には補正後も暗さが残っており,周辺部のむら(表示パネル
のバックライトの周辺部の減光により生じているむら)は十分補正されていないも
のとみられる。このことに照らすと,前記制御手段は,出力画像データの低周波成
分について補正を行っていない,すなわち補正データの生成前に出力画像データか
ら低周波成分を除く処理を行う構成を有していると考えられる。
b 本件資料の記載によれば,本件システムにおいては,補正データの容量を圧
縮するためにピクセルが所定数ごとにブロック化(撮像素子のピクセルごとに輝度
情報を得るのではなく,複数のピクセルごとに輝度情報をサンプリングする方法を
いう。)されて補正されている。このことに照らすと,前記制御手段は,出力画像
データの高周波成分について補正を行っていない,すなわち補正データの生成前に
出力画像データから高周波成分を除く処理を行う構成を有していると考えられる。
(a) この点敷衍すると,例えば,8ピクセルが1mmに相当する場合,(α)1
ピクセル(0.125mm)ごとに輝度情報を得るには,最短の周期が2ピクセル
(0.25mm),最大の周波数が1/0.25=4となるのに対し,(β)8×
8ピクセルごとにブロック化すると,横軸・縦軸いずれの方向についても,8ピク
セル(1mm)ごとに輝度情報をサンプリングすることになって,最短の周期が1
6ピクセル(2mm),最大の周波数が1/2=0.5となり,上記(α)の場合
の最大周波数の8分の1となる。このように,8×8ピクセルごとのブロック化を
することによって,高周波成分を除去することができるから,ブロック化は,構成
要件D 1 及びD 2 に規定する「出力画像データから高周波成分…を除」くことと技
術的に同義になるというべきである。
(b) なお,本件明細書1の段落【0031】【0032】及び本件明細書2の段
落【0030】【0031】の記載は,バンドパスフィルタリングにおける高周波
成分の除去方法として,ブロック化を除く趣旨ではない。プロセス管理手段211
がブロック化をして高周波成分の除去を行った上で,バンドパスフィルタ手段21
2が更なる高周波成分の除去を行っているものとみられる。
c 以上によると,本件システムにおいて,前記制御手段は,「出力画像データ
に対し中間的な周波数成分のみを分離するバンドパスフィルタリングを行なうこと
によって,同出力画像データから高周波成分及び低周波成分を除いたバンドパス
データを算出する手段」を備えていると考えられる。したがって,本件型番システ
ムないし本件システムは構成要件D 1 を充足し,その一部である画質調整装置は構
成要件D 2 を充足する。
(エ) 構成要件Eの充足性
本件資料の記載に照らすと,本件システムにおいて,前記制御手段は,「バンド
パスデータに対応した画像補正テーブルを出力する補正データ生成手段」を備えて
いるといえる。したがって,本件型番システムないし本件システム及びその一部で
ある画質調整装置は,構成要件Eを充足する。
(オ) 構成要件G 1 ,G 2 ,H 1 及びH 2 の充足性
本件システムは,①最大輝度の70%の階調となるように表示パネルの全面に共
通する信号値を供給し,これをカメラで撮影して画像を取り込むほか,②最大輝度
の30%が階調となるように表示パネルの全面に共通する信号値を供給し,これを
カメラで撮影して画像を取り込むとともに,③最大輝度の10%が階調となるよう
に表示パネルの全面に共通する信号値を供給し,これをカメラで撮影して画像を取
り込むから,「前記指示手段は,最大輝度の70%,30%,10%の階調毎に表
示パネルの全面に共通する信号値の供給指示を出力し,前記画像取得手段は,最大
輝度の70%,30%,10%の階調毎に出力画像データを取得する」といえる。
したがって,本件型番システムないし本件システムは 構成要件G 1 及びH 1 を充足
し,その一部である画質調整装置は構成要件G 2 及びH 2 を充足する。
(カ) 構成要件I 1 及びI 2 の充足性
本件資料の記載に照らすと,本件システムにおいて,前記補正データ生成手段
は,「最大輝度の70%,30%,10%の階調毎に前記画像補正テーブルを出力
する」といえる。したがって,本件型番システムないし本件システムは構成要件I
1 を充足し,その一部である画質調整装置は構成要件I 2 を充足する。
(キ) 構成要件J 1 ,J 2 及びJ 3 の充足性
色むら/輝度むら補正システムである本件型番システムにおいて,「前記画像補
正テーブルが色むら及び輝度むらの補正を行うためのテーブルである」ことはいう
までもない。したがって,本件型番システムないし本件システムは,構成要件J
1 ,J 2 及びJ 3 を充足する。
ウ 前記イ(ア)ないし(エ)に照らすと,本件型番システムないし本件システムは,
本件対象物件に当たる。
したがって,被告は,平成23年6月1日以降,本件各発明の技術的範囲に属す
る本件対象物件の製造,販売,輸出及び販売の申出をしたものである。
(2) 損害論について
ア 原告は,被告が平成23年6月1日から平成27年5月31日までの間に本
件対象物件を販売又は輸出し て本件特許権1を侵害したことにより, 損害を被っ
た。
被告には,平成23年から現在まで毎年約1億5000万円の売上げがあり,こ
の売上げは,専ら本件対象物件の販売又は輸出によるものと考えられる。本件対象
物件の利益率は35%を下らず,被告の利益は毎年5250万円を下らないから,
被告は,上記特許権侵害行為により,平成23年に3078万0822円,平成2
4年ないし平成26年に各5250万円,平成27年に2171万9178円,合
計2億1000万円の利益を受けた。したがって,原告が被った上記損害の額は,
特許法102条2項により,2億1000万円と推定される。
イ また,仮に特許権1の侵害が認められない場合であっても,原告は,被告が
平成25年9月13日から平成27年5月31日までの間に本件対象物件を販売又
は輸出して本件特許権2を侵害したことにより,損害を被った。
被告は,上記特許権侵害行為により,平成25年に1582万1918円,平成
26年に5250万円,平成27年に2171万9178円,合計9004万10
96円の利益を受けた。したがって,原告が被った上記損害の額は,特許法102
条2項により,9004万1096円と推定される。
ウ よって,原告は,被告に対し,第一次的に,平成23年6月1日から平成2
7年5月31日まで の間の不法行為に基づく損害賠償 金2億1000万円 (上記
ア)の一部である2億円及びこれに対する不法行為の後である同年6月12日から
支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払,第二次的に,平成
25年9月13日から平成27年5月31日までの間の不法行為に基づく損害賠償
金9004万1096円(上記イ)の一部である9000万円及びこれに対する不
法行為の後である同年6月12日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による
遅延損害金の支払を求める。
【被告の主張】
(1) 侵害論について
被告は,平成23年6月1日から平成27年5月31日までの間,本件対象物件
を販売又は輸出しておらず,本件各特許権を侵害したことはない。
ア 被告は,平成23年6月1日以降,本件型番システムないし本件システムの
製造,販売又は輸出をしたことはない。
本件型番システムないし本件システムは,事前に顧客からの詳細な相談を経て具
体的な仕様が決定されてから初めて製造されるものであるところ,本件型番システ
ムないし本件システムについて,被告が顧客から注文を受けたことはこれまでに一
度もない(本件資料は,むら補正に関する被告の技術等を潜在的顧客へ個別に紹介
したプレゼンテーション資料にすぎず,そのようなプレゼンテーションの後に, 被
告が,当該潜在的顧客又はその他の顧客等から本件型番システムないし本件システ
ムについて注文を受けたこともない。)。
被告が,AUO又はTPVに対し本件型番システムないし本件システムを納入し
たこともない。
イ 本件型番システムないし本件システムは,本件各発明の技術的範囲に属しな
い。
(ア) 構成要件D 1 及びD 2 の非充足性
a 本件各明細書の記載に照らすと,本件各発明における「バンドパスフィルタ
リング」とは,撮像手段から取得した出力画像データにおける空間周波数から,な
だらかな変化成分(低周波成分)と細かい変化成分(高周波成分)とを分離するこ
とを意味するものと解され,本件各発明は,低周波成分及び高周波成分について上
記出力画像データから敢えて除去し(「バンドパスフィルタリング」を行い),こ
れにより中間的な周波数のみを抽出したバンドパスフィルタリングを生成し,当該
バンドパスデータを反転させて,画像補正テーブルを生成するものである。
これに対し,本件型番システムにおいて用いられているむら補正の手法は,目標
となる輝度及び色の数値をあらかじめ定めておき,CCDカメラにより撮影して得
られた出力画像データそのものと当該目標値との差分を計測し,当該差分を補うよ
うな補正データを生成することにより,輝度むら及び色むらを補正する,というも
のである。すなわち,本件型番システムにおけるむら補正の手法では,「出力画像
データに対し中間的な周波数成分のみを分離するバンドパスフィルタリングを行な
うこと」や,「同出力画像データから高周波成分及び低周波成分を除いたバンドパ
スデータを算出する」といった処理は一切行われていない。
b 本件資料のスライドにおける「Gray 10%」の輝度変化を見ると,少なくとも
画像両端部分の輝度が大きく補正されていることがはっきりと示されている。 仮
に,原告の主張する「バンドパスフィルタリング」により低周波成分が除去されて
いるのであれば,このような補正がされることはないはずである。
c 本件明細書1の段落【0031】及び本件明細書2の段落【0030】の記
載に照らすと,本件各明細書においては,一定数のピクセルによるブロック化の過
程と,バンドパスフィルタ手段における高周波成分除去の過程とは,明確に区別さ
れて記載されている。したがって,ブロック化により出力画像データの高周波成分
を除去することが,構成要件D 1 及びD 2 に規定する「出力画像データから高周波
成分…を除」くことと同義であるとの原告の主張は,明細書の記載から離れた裏付
けのない解釈に基づくものにすぎず,失当である。
d 以上によると,本件型番システムないし本件システムは構成要件D 1 を充足
せず,本件型番システムないし本件システムに係る画質調整装置が構成要件D 2 を
充足するということもない。
(イ) その他の構成要件について
前記(ア)のとおり,本件型番システムないし本件システムが構成要件D 1 及びD 2
を満たさない結果,これを前提とする構成要件E,J 1 ,J 2 及びJ 3 並びにF 2 及
びF 4 をも充足しない。
ウ 前記イに照らすと,本件型番システムないし本件システムは,本件対象物件
に当たらない。
(2) 損害論について
原告の損害の発生及びその額に関する主張は争う。
第3 当裁判所の判断
1 本件型番システムないし本件システムの構成要件D 1 及びD 2 充足性につい
て
(1) 本件発明1-1及び本件発明1-2については,画像補正データ生成システ
ムが備えた制御手段が,「前記出力画像データに対し中間的な周波数成分のみを分
離するバンドパスフィルタリングを行なうことによって,同出力画像データから高
周波成分及び低周波成分を除いたバンドパスデータを算出するバンドパスフィルタ
手段」(構成要件D 1 )を備えていることが構成要件となっている。
また,本件発明2-1,本件発明2-2,本件発明2-3及び本件発明2-4に
ついては,画質調整装置が備えた制御手段が,「前記出力画像データに対し中間的
な周波数成分のみを分離するバンドパスフィルタリングを行なうことによって,同
出力画像データから高周波成分及び低周波成分を除いたバンドパスデータを算出す
る手段」(構成要件D 2 )を備えていることが構成要件となっている。
これらの構成要件については,本件各特許に係る特許請求の範囲の記載及び本件
各明細書の記載に照らすと,次の各点を指摘することができる。
ア 構成要件D 1 及びD 2 においては,「中間的な周波数成分のみを分離するバ
ンドパスフィルタリングを行なうことによって,同出力画像データから高周波成分
及び低周波成分を除いたバンドパスデータを算出する」手段ないしバンドパスフィ
ルタ手段と規定されており(下線は引用の際に付した。),この特許請求の範囲の
文言,とりわけ上記下線部の文言に照らすと,前記制御手段が備えているべき上記
手段は,「中間的な周波数成分」(空間周波数すなわち画像における濃度値ないし
輝度の変化の空間に対する振動回数〔甲21〕が,高くも低くもない,それらの中
間の数値である部分)を分離してそれにより「高周波成分」(空間周波数が高い部
分すなわち細かい間隔で輝度が変化している部分)と「低周波成分」(空間周波数
が低い部分すなわち輝度の変化が緩やかな部分)が共に除去される手段でなければ
ならないものと解される。
イ また,本件各明細書(甲2,4)の発明の詳細な説明の記載によると,①液
晶パネル等のディスプレイについて,画面全体のなだらかな光量変化は人間の眼に
は検知され難いから,輝度の変化が緩やかな部分(低周波成分とされる部分)のむ
らを補正しなくても,見かけ上は画質にほとんど影響がない一方,仮に低周波成分
の除去(ローカット)を行わないで補正した場合,液晶パネルにおける周辺減光の
影響を受けて,中心部付近の輝度を低下させてしまうことになること(本件明細書
1の段落【0040】及び【0041】並びに本件明細書2の段落【0039】及
び【0040】),②非常に細かいむら(非常に細かい間隔の輝度の変化によるむ
ら,すなわち空間周波数の高い成分)も人間の眼に検知され難い上,そのような表
示むらを補正するには,正確に測定画像と液晶のピクセル位置の相関を取る必要が
あり,僅かでもずれるとかえって表示むらを作りこむことになるから,高周波成分
の除去(ハイカット)すなわち上記のような部分のむらを補正対象から除く処理を
行うことにより,簡易かつ効率的に画像補正テーブルを生成することができること
(本件明細書1の段落【0042】及び本件明細書2の段落【0041】),③こ
のように,表示むらを画一的に除去したのでは不都合が生じることがあり,また,
個々のディスプレイ毎に補正を行なう場合にはできるだけ効率的に補正できること
が望ましいという課題があったところ,本件各発明は,これらの課題を解決するた
めの 手 段 とし て , 構 成要 件 D 1 及 びD 2 の規 定 す る 前 記 構 成 を採 る こ とに よ り ,
「変化の緩やかな表示むら」(低周波成分とされる部分)及び「細かい表示むら」
(高周波成分とされる部分)が補正され ず,したがって,周辺減光の影響を排除
し,簡易かつ効率的に表示むらの低減を図ることができるという作用効果を生じる
ものであること(本件明細書1の段落【0005】ないし【0007】及び【00
12】並びに本件明細書2の段落【0006】ないし【0008】及び【001
2】)が認められる。
上記②及び③に照らすと,本件各発明は,表示パネルの画像中,空間周波数が一
定の周波数以上である部分といった何らかの定義による「高周波成分」があるとい
う前提の下に,その部分(画像領域)をむら補正の対象から除外する ものであっ
て,構成要件D 1 及びD 2 を満たすといえるためには,「バンドパスフィルタリン
グ」がされなければ補正の対象となった高周波成分が,「バンドパスフィルタリン
グ」がされることにより補正の対象とならなくなることが必要であると解される。
ウ なお,本件明細書1(甲2)の段落【0031】【0032】及び本件明細
書2(甲4)の段落【0030】【0031】には,本件各発明の実施例の補正
データ生成処理を順にステップを追って説明する中で,「画質調整装置20の制御
部21は,出力画像の取得処理を実行する(ステップS2)。具体的には,制御部
21のプロセス管理手段211は,液晶パネル10を撮影した出力画像データを撮
影カメラ30から取り込む。そして,プロセス管理手段211は,この出力画像
データを,8×8ピクセルから構成されたブロック毎の輝度分布に変換し,バンド
パスフィルタ手段212に供給する。」,「次に,画質調整装置20の制御部21
は,バンドパスフィルタリング処理を実行する(ステップS3)。具体的には,制
御部21のバンドパスフィルタ手段212は,取得した出力画像データに対してバ
ンドパスフィルタリングを行なうことにより,バンドパスデータを算出する。この
バンドパスデータは,液晶パネル10の面内の輝度分布に応じて,高周波成分及び
低周波成分を除いた分布から構成される。そして,バンドパスフィルタ手段212
は,生成したバンドパスデータをプロセス管理手段211に供給する。」と記載さ
れており(下線は引用の際に付した。),「8×8ピクセルから構成されたブロッ
ク毎の輝度分布に変換」することと,「バンドパスフィルタリング」を行なうこと
により「高周波成分及び低周波成分を除いた分布から構成される」「バンドパス
データ」を算出することとは,別のステップとして区別して記載されている。
そして,本件各明細書には,上記の「変換」が,「バンドパスフィルタリングを
行なうことにより」高周波成分を除いた分布から構成されるバンドパスデータを算
出することに当たる旨を示唆するような記載は全くない。
(2) 以上を前提に,本件型番システムないし本件システムが上記 構成要件D 1 を
充足し,本件型番システムないし本件システムに係る画質調整装置が上記構成要件
D 2 を充足するか否かについて検討する。
原告は,上記構成要件のうち高周波成分の除去 (ハイカット)に係る点につい
て,「ピクセルを所定数ごとにブロック化して補正すること」を根拠として,本件
型番システムないし本件システムが備えた制御手段が,補正データの生成前に出力
画像データから高周波成分を除く処理を行う構成を有しており,したがって「出力
画像データに対し中間的な周波数成分のみを分離するバンドパスフィルタリングを
行なうことによって,同出力画像データから高周波成分…を除いたバンドパスデー
タを算出する」手段を有している旨主張し,上記構成要件が充足される旨の主張を
する(前記4【原告の主張】(1)イ(ウ)b,c)。
しかしながら,以下の理由により,原告の上記主張は採用することができない。
ア まず,原告の上記主張が根拠とするところは,本件資料に記載されている
「ブロック化」によって,最大周波数が低くなる(8×8ピクセルごとのブロック
化であれば,最大周波数が8分の1となる。)ということである(前記4【原告の
主張】(1)イ(ウ)b(a))。しかし,仮にこれを「バンドパスフィルタリング」による
高周波成分の除去と捉えたとしても,これは,周波数を低くシフトさせる操作でし
かないから,これにより低周波成分を除去することができないことは 明らかであ
る。そうすると,前記(1)アのとおり,構成要件D 1 及びD 2 において制御手段が備
えていることが要求される手段は,「中間的な周波数成分」を分離してそれにより
「高周波成分」と「低周波成分」が共に除去される手段でなければならないものと
解されるところ,上記「ブロック化」は,「中間的な周波数成分」を分離するもの
ではなく,単に「高周波成分」を高周波成分でなくするのみであって,これと共に
「低周波成分」を除去するものではないから,上記構成要件中,「高周波成分…を
除いた」という部分を仮に満たしたとしても,「中間的な周波数成分のみを分離す
るバンドパスフィルタリングを行なうことによって」という部分並びに「…及び低
周波成分を除いた」という部分を満たさないというほかはない。
イ また,ピクセルが所定数ごとにブロック化された場合, 高周波成分がなく
なったように見えても,前記操作をした結果,高周波成分が中間的周波数成分等に
変わった上でその画像領域も含めて補正処理されるだけであって,もともと高周波
成分であった部分(細かい間隔で輝度が変化していると見られた画像領域)が補正
処理の対象から除かれるわけではない。しかし,前記(1)アのとおり,構成要件D 1
及びD 2 は,高周波成分を除く方法として「中間的な周波数成分のみを分離する」
方法によらなければならないとしているところ,前記の周波数を低くシフトさせる
操作は,これとは高周波成分の除去方法において異なることになるし,また,この
点 を 措 く と し て も , 前 記 (1)イ の と お り , 上 記 構 成 要 件 を 満 た す と い え る た め に
は,高周波成分であった部分(「バンドパスフィルタリング」がされなければ補正
の対象となった部分)が,「バンドパスフィルタリング」がされることにより補正
の対象とならなくなることが必要であると解されるところ,「ブロック化」によっ
ては,高周波成分であった当該部分が補正の対象から除かれないのであるから,上
記要件を満たさないというべきである。
ウ さらに,仮に,「ブロック化」(本件明細書1の段落【0031】及び本件
明細書2の段落【0030】に記載されている「8×8ピクセルから構成されたブ
ロック毎の輝度分布に変換」)が「高周波成分の除去」に当たるとしてしまうと,
前記(1)ウに摘示した本件各明細書の記載と整合しなくなる。
この点に関し,原告は,本件各明細書の上記記載は,バンドパスフィルタリング
における高周波成分の除去方法として,ブロック化を除く趣旨ではなく,プロセス
管理手段がブロック化をして高周波成分の除去を行った上で,バンドパスフィルタ
手段が「更なる高周波成分の除去」を行っているものとみられる旨主張するが( 前
記4【原告の主張】(1)イ(ウ)b(b)),「高周波成分の除去」の後にまた「高周波成
分の除去」を行うという説明はいかにも不自然であり,本件各明細書を 精査して
も,それを示唆するような記載は全くないから,原告の説明は,構成要件D 1 及び
D 2 の「バンドパスフィルタリング」における高周波成分の除去について本件各明
細書で想定されているところと齟齬を来しているといわざるを得ない。
(3) 以上によれば,原告の主張する「ブロック化」に関する点をもって,本件型
番システムないし本件システムないしこれに係る画質調整装置が構成要件D 1 及び
D 2 を充足するということは到底できない。そして,上記「ブロック化」に関する
点の他に,本件型番システムないし本件システムないしこれに係る画質調整装置が
構成要件D 1 及びD 2 を充足するとする根拠は何ら見当たらない。
そうすると,本件型番システムないし本件システムは,構成要件D 1 及びD 2 を
充足しないというほかはない(なお,以上は,構成要件D 1 及びD 2 のうち,高周
波成分の除去に係る点に主に着目したものであるが, 低周波成分の除去について
も,原告の主張するとおり補正後に画像の周辺部に暗さが残っているとしても,果
たしてそれが「中間的な周波数成分のみを分離するバンドパスフィルタリングを行
なうことによって…低周波成分を除いた」ことによってそうなったのか,別の処理
によってそうなったのかは,明らかでない。もっとも,この点について判断するま
でもなく,上記構成要件の非充足が明らかとなっているのである。)。
したがって,本件型番システムないし本件システムは,本件各発明の技術的範囲
に属しない。
2 被告による本件対象物件の販売等(本件各特許権侵害)の有無について
(1) 上記1のとおり,本件型番システムないし本件システムは,本件各発明の技
術的範囲に属しないところ,他に,被告が製造,販売,輸出又は販売の申出をした
むら補正システムが構成要件D 1 及びD 2 を充足する構成を採っていると認める根
拠はない。
(2) 本件対象物件は,別紙被告物件目録記載のとおり,「…制御手段と,を備え
た画像補正データ生成システムであって,制御手段が,…出力画像データに対し中
間的な周波数成分のみを分離するバンドパスフィルタリングを行なうことによっ
て,同出力画像データから高周波成分及び低周波成分を除いたバンドパスデータを
算出する手段と…を備える画像補正データ生成システム」と定義され,本件各発明
の構 成 要 件D 1 及 び D 2 を充 足 す る構 成 を有 す る もの と し て 主張 さ れ てい る と こ
ろ,上記(1)に照らすと,被告が本件対象物件を販売又は輸出したと は認められな
い。
(3) なお,原告は,平成28年2月1日付けで,被告が本件対象物件を販売等し
たことを証明するため,文書の表示を「台湾のAUOが被告に呈示した要求仕様書
又はこれに類する文書」,文書の趣旨を「被告システムに対してAUOが求める仕
様等」,文書の所持者を「●(省略)●」として,文書提出命令の申立てをした。
しかしながら,●(省略)●が所持しているという文書が,被告がAUOに対して
販売等したむら補正システムの仕様等を記載したものなのかどうかも不明であり,
関連性が十分に明らかにされているとはいえない。その上,いずれにせよ,既に説
示したところに照らせば,被告がAUOに対して販売等したと原告が主張している
本件型番システムないし本件システムは,原告の主張に係る具体的態様(なお,被
告は,これを否認するに当たり,別異の具体的態様を主張している。)を前提とし
ても,構成要件D 1 及びD 2 を到底充足しないといえるのであるから,本件におい
ては,そもそも,被告が本件対象物件を販売又は輸出したという合理的な疑いすら
認められないといわざるを得ない。したがって,原告の上記申立ては,証拠調べの
必要性を欠くため,当裁判所は口頭弁論終結の際にこれを却下した。
(4) 以上の次第で,被告が本件対象物件の販売又は輸出により本件各特許権を侵
害したとは認められず,被告が原告に対して本訴請求に係る損害賠償責任を負うと
いうことはできない(なお,本件対象物件の製造又は販売の申出のみによって,原
告の主張に係る損害が発生するとはいえないが,上記説示したところによれば,被
告が本件対象物件の製造又は販売の申出をしたと認めることもできない。)。
第4 結論
よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由が
ないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
嶋 末 和 秀
裁判官
鈴 木 千 帆
裁判官
笹 本 哲 朗
(別紙)
当事者目録
原 告 株 式 会 社 イ ク ス
同訴訟代理人弁護士 松 田 純 一
同 岩 月 泰 頼
同 西 村 公 芳
同訴訟代理人弁理士 飯 村 重 樹
被 告 有限会社クレモビジョン
同訴訟代理人弁護士 塩 月 秀 平
同 岡 田 誠
同 津 城 尚 子
同訴訟復代理人弁護士 稲 葉 大 輔
同 補 佐 人 弁 理 士 塩 谷 英 明
(別紙)
被告物件目録
下記の構成で特定されるむら補正システム
記
画像を出力するための信号を表示パネルに供給する信号発生手段と,表示パネル
において表示された出力画像を撮影する撮像手段と,信号発生手段及び撮像手段に
接続される制御手段と,を備えた画像補正データ生成システムであって,
制御手段が,信号発生手段に対して,表示パネルの全面に共通する信号値の供給
指示を出力する指示手段と,
撮像手段から,出力画像データを取得する画像取得手段と,
出力画像データに対し中間的な周波数成分のみを分離するバンドパスフィルタリ
ングを行なうことによって,同出力画像データから高周波成分及び低周波成分を除
いたバンドパスデータを算出する手段と,
バンドパスデータに対応した画像補正テーブルを出力する補正データ生成手段と
を備える
画像補正データ生成システム。
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