平成27(ワ)2505等不正競争行為差止等請求事件(第1事件)不正競争行為差止請求事件(第2事件)
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裁判所 |
大阪地方裁判所
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裁判年月日 |
平成28年7月21日 |
事件種別 |
民事 |
法令 |
不正競争
不正競争防止法2条1項1号12回 不正競争防止法2条1項13号4回 不正競争防止法2条2回 民事訴訟法61条1回 不正競争防止法2条1項1回
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キーワード |
差止25回 許諾11回 損害賠償1回
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主文 |
1 第 1 事 件 原 告 の 請 求 を い ず れ も 棄 却 す る 。
2 第 1 事 件 被 告 ・ 第 2 事 件 原 告 ら の 請 求 を い ず れ も 棄 却す る 。
3 訴 訟 費 用 は , 第 1 事 件 に つ い て は , 第 1 事 件 原 告 の 負担 と し , 第 2 事 件 に つ い て は , 第 1 事 件 被 告 ・ 第 2 事 件原 告 ら の 負 担 と す る 。 |
事件の概要 |
|
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判決文
平成28年7月21日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成27年 ワ) 2505号
( 第 不正競争行為差止等請求事件 第1事件)
(
平成27年(ワ)第6189号 不正競争行為差止請求事件(第2事件)
口頭弁論終結の日 平成28年5月31日
判 決
第1事件原告 全 秦 通 商 株 式 会 社
第2事件被告 株式会社ワードシステム
第2事件被告 株式会社サンエステート
第2事件被告 株 式 会 社 ゼ ン シ ン
上記4名訴訟代理人弁護士 今 中 利 昭
同 田 上 洋 平
同 加 藤 明 俊
第1事件被告・第2事件原告 株 式 会 社 ソ フ ィ ア
第1事件被告・第2事件原告 全本金属興業株式会社
第1事件被告・第2事件原告 株 式 会 社 全 本
第1事件被告・第2事件原告 日 新 開 発 株 式 会 社
上記4名訴訟代理人弁護士 生 沼 寿 彦
同 平 野 悠 之 介
主 文
1 第 1 事件原告の請求をいずれも棄却する。
2 第1事件被告・第2事件原告らの請求をいずれも棄却
する。
3 訴訟費用は,第1事件については,第 1 事件原告の負
担とし,第2事件については,第1事件被告・第2事件
原告らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 第1事件
(1) 第 1 事 件 被 告 ・ 第 2 事 件 原 告 ら は , そ の 営 業 上 の 施 設 又 は 活 動 に ,
別紙被告ら標章目録記載の標章を使用してはならない。
(2) 第 1 事 件 被 告 ・ 第 2 事 件 原 告 ら は , 前 項 記 載 の 標 章 を 付 し た 看 板 ,
広告,インターネット上のウェブサイト,パンフレット,名刺,請求書,
領収書,封筒,便箋その他の営業表示物件を廃棄せよ。
(3) 第 1 事 件 被 告 ・ 第 2 事 件 原 告 ら は , zenshin.gr.jp 」 の ド メ イ ン 名 を
「
使用してはならない。
(4) 第 1 事 件 被 告 ・ 第 2 事 件 原 告 ら は , イ ン タ ー ネ ッ ト 上 の ア ド レ ス
「 http://www.zenshin.gr.jp 」 に お い て 開 設 す る ウ ェ ブ サ イ ト か ら , 別 紙 被 告
ら標章目録記載1,3,4及び6の各標章を抹消せよ。
2 第2事件
第2事件被告らは,その営業上の施設又は活動に,別紙営業表示目録記
載1,2,4及び5の標章を使用してはならない。
第2 事案の概要
別 紙 営 業 表 示 目 録 記 載 の 各 標 章( 以 下「 本 件 各 表 示 」と い う 。)は ,特 定
の営業主体を表示するものとして周知になっていることは当事者間に争い
が な い と こ ろ , 第 1 事 件 は , 第 1 事 件 原 告 (以 下 「 原 告 」 と い う 。 )が , 本
件各表示と同一又は類似する標章及びドメイン名を使用する第1事件被
告 ・ 第 2 事 件 原 告 (以 下 「 被 告 」 と い う 。 )ら に 対 し , 本 件 各 表 示 の 主 体 は
原告のみであると主張して,不正競争防止法2条1項1号(ドメイン名使
用については同項13号との選択的主張),3 条 に 基 づ き ,そ の 使 用 の 差 止
め,廃棄を求めた事案であり,第2事件は,被告らが,第2事件被告らに
対し,第2事件被告らが使用する本件各表示の主体は原告及び被告らであ
ると主張して,同法2条1項1号,3条に基づき,その使用の差止めを求
めた事案である。
1 前提事実(争いのない事実,並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実。以下,特に摘示しない限り,第1事件におけ
る証拠を示し,第1事件及び第2事件の証拠として示すものは,いずれも
併合前のものである。)
(1) 当 事 者
ア 原告及び第2事件被告ら
(ア) 原 告 は , パ チ ン コ 店 , 書 店 の 経 営 等 を 主 た る 目 的 と す る 株 式 会 社 で
ある。
(イ) 第 2 事 件 被 告 株 式 会 社 ワ ー ド シ ス テ ム ( 以 下 「 第 2 事 件 被 告 ワ ー ド
シ ス テ ム 」と い う 。)は ,平 成 1 0 年 に 設 立 さ れ た コ ン ピ ュ ー タ の ソ フ ト ウ
ェアの設計・開発及び製造等を業とする株式会社である。
(ウ) 第 2 事 件 被 告 株 式 会 社 サ ン エ ス テ ー ト ( 以 下 「 第 2 事 件 被 告 サ ン エ
ス テ ー ト 」と い う 。)は ,平 成 1 3 年 に 設 立 さ れ た 不 動 産 の 売 買 ,賃 貸 ,仲
介及び管理等を業とする株式会社である。
(エ) 第 2 事 件 被 告 株 式 会 社 ゼ ン シ ン ( 以 下 「 第 2 事 件 被 告 ゼ ン シ ン 」 と
いう。)は ,平 成 1 3 年 に ,相 続 税 対 策 を 目 的 と し て 原 告 の 株 式 を 保 有 す る
ために設立された株式会社である。
イ 被告ら
(ア) 被 告 株 式 会 社 ソ フ ィ ア( 以 下「 被 告 ソ フ ィ ア 」と い う 。)は 昭 和 6 0
年に設立されたシステム開発等を業とする株式会社である。
(イ) 被 告 全 本 金 属 興 業 株 式 会 社( 以 下「 被 告 全 本 金 属 」と い う 。)は ,昭
和40年に創業した事業を昭和61年に法人化して設立された自動車解
体,非鉄金属処理加工等を業とする株式会社である。
(ウ) 被 告 株 式 会 社 全 本( 以 下「 被 告 全 本 」と い う 。)は ,昭 和 6 3 年 に 設
立された不動産管理等を業とする株式会社である。
(エ) 被 告 日 新 開 発 株 式 会 社( 以 下「 被 告 日 新 開 発 」と い う 。)は ,平 成 元
年に設立された不動産仲介等を業とする株式会社である。
(2) 原告と被告らの関係の変遷
ア 平成3年当時,原告及び被告らの代表取締役であったP1は,原告
及 び 被 告 ら を「 全 秦 グ ル ー プ 」と し て V I( ヴ ィ ジ ュ ア ル ・ ア イ デ ン テ ィ テ
ィ ー )シ ス テ ム を 導 入 す る 方 針 を 打 ち 出 し( 甲 3 ,4 ),同 年 7 月 ,別 紙 営
業表示目録記載5の標章(以下,同目録記載の各標章をそれぞれ「本件表
示 1 」 「 本 件 表 示 2 」な ど と い う 。
, )で あ る「 全 秦 グ ル ー プ 」の シ ン ボ ル マ
ークが新しくなったとして, 人・夢・ネットワーク」 本件表示3)のス
「 (
ロ ー ガ ン の 下 , 全 秦 の 「 Z」 を デ ザ イ ン 化 し て 制 作 さ れ た 本 件 表 示 1 や グ
ル ー プ 名 の ロ ゴ タ イ プ で あ る 本 件 表 示 2 を 発 表 す る と 同 時 に , 同 じ く 「 Z」
をデザイン化した本件表示1の色違いの標章を原告及び被告らのマーク
(コーポレートマーク)として同じロゴタイプを使用した社名や本件表示
3に類する各社のスローガン(コーポレートスローガン)と共に列挙する
新聞広告を山陽新聞,津山朝日新聞,日本海新聞の各紙面上に掲載した。
イ その後,本件各表示は,平成24年1月頃まで,原告及び被告らを
「全秦グループ」とする広告,テレビCMにおいて用いられ,またパンフ
レット,社章,名刺,請求書,領収書等に共通して使用され,その当時,
上記宣伝広告活動がされる岡山県,鳥取県,島根県で周知の営業表示とな
っていた。
なおこれらの宣伝広告活動費用は,原告が負担していたもので,その額
は平成3年から平成24年1月1日までで少なくとも1億7000万円強
である(甲1ないし甲29の2及び甲32ないし甲34)。
ウ 平成24年2月9日当時,原告の株式全てを保有する持ち株会社で
あ る 第 2 事 件 被 告 ゼ ン シ ン の 株 式 は ,P 1 と そ の 弟 で あ る P 2( 次 男 ),P
3( 三 男 )及 び P 4( 四 男 ,以 下 ,こ の 4 名 を「 兄 弟 4 人 」 P 1 を 除 い た
,
3 名 を「 弟 3 人 」な ど と い い ,ま た 兄 弟 4 人 に そ の 家 族 を 加 え た 一 族 を「 P
家 」と も い う 。)の 家 族 名 義 で あ り ,そ の 保 有 比 率 は ,P 1 の 家 族 名 義 が 4
0%,弟3人の家族名義が残りの60%であった(具体的な株主名義及び
その持ち株数については,別紙株主一覧1及び同2のとおりである。。な
)
お,その構成は,P1が原告の代表取締役を退任した後も変わりはない。
エ 被告らの代表取締役であるP1は,平成24年2月10日,原告の
取締役を解任されて原告の代表取締役としての地位を失い,同日,P3が
原告の代表取締役に選任された。そして,その後間もなく,被告らの取締
役を兼ねていた弟3人及びその家族は,被告らの取締役を解任され,その
結果,P1が原告の代表取締役の地位を失って2か月以内に,原告と被告
らとの双方の取締役を兼ねる者はいなくなった。
オ また原告と被告らを「全秦グループ」とする上記イのような宣伝広
告活動は,平成24年2月10日以降なされなくなった。
カ し か し ,原 告 は ,そ の 頃 以 降 も , 全 秦 グ ル ー プ 」と し て の 宣 伝 広 告
「
をしており,他方,被告らも,別紙被告ら標章目録記載1ないし7の標章
( 以 下 ,各 標 章 を「 被 告 標 章 1 」 「 被 告 標 章 2 」な ど と い う 。
, )を 営 業 上 の
活動や施設に使用している。
な お , 被 告 標 章 1 は 本 件 表 示 1 と ,被 告 標 章 3 は 本 件 表 示 2 と ,被 告 標
章4は本件表示3と,被告標章6は本件表示4と,被告標章7は本件表示
5とそれぞれ同一であり,被告標章2は本件表示1と本件表示2と同一の
標章を結合したもので全体として本件表示2に類似し,被告標章5は,被
告 標 章 2 か ら「 GROUP」の 文 字 を 外 し た に す ぎ な い も の で や は り 全 体 と し
て本件表示2に類似している。
キ 第2事件被告らは,平成24年11月頃から,ビル外壁に本件表示
1をかたどった看板が掲示されている原告の本社ビル(以下「全秦通商本
社ビル」 いう。において事業を行っている 第2事件甲6の1ないし4)
と ) ( 。
また平成24年12月1日発行の山陽新聞には,原告,第2事件被告ワ
ードシステム及び同サンエステートを表示し,本件表示1ないし3及び5
を記載した新聞広告が掲載され,平成27年1月1日に発行された津山朝
日新聞及び同月5日に発行された山陽新聞には,原告及び第2事件被告ら
を表示し,本件表示1ないし5を記載した新聞広告が掲載された(第2事
件甲7の1ないし3)。
ク 被 告 ら は , 遅 く と も 平 成 2 6 年 1 0 月 頃 か ら , zenshin.gr.jp 」 の ド
「
メ イ ン 名( 以 下「 本 件 ド メ イ ン 名 」と い う 。)を 使 用 し ,同 ド メ イ ン 名 下 に
開設されたウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。 において,
)
被告標章1,3,4及び6を掲示すると共に,被告ソフィアを除く被告ら
の事業内容等を掲載している(被告ソフィアについては,別ドメイン名の
同 被 告 の URL へ の リ ン ク と な っ て い る 。 ( 甲 4 1 )
) 。
(3) 別 件 訴 訟
ア 原告は,平成24年,岡山地方裁判所津山支部において,本件各表
示,原告及び被告らのコーポレートマーク及びコーポレートスローガンが
原告の営業表示であることを前提に,P1が設立した株式会社全功(以下
「全功」という。その当時の商号「株式会社全秦」)が本件各表示を含む
。
複数の原告の営業表示と同一あるいは類似する標章を使用すること,及び
被告らが各社のコーポレートマーク及びコーポレートスローガンを使用す
ることが,いずれも不正競争防止法2条1項1号の不正競争であると主張
し,全功及び被告らに対して,その使用する標章の使用差止め及び廃棄を
求める不正競争行為差止等請求事件(岡山地方裁判所津山支部平成24年
(ワ)第99号)を提起した。
岡山地方裁判所津山支部は,平成25年12月25日,上記訴訟事件に
ついて,全功に対する請求は,全部認容したが,被告らに対する請求は,
各社のコーポレートマークやコーポレートスローガンが原告を識別させる
ものとはいえないなどとして,いずれも棄却した(甲42の1)。
上記判決に対し,原告は控訴せず,全功だけが広島高等裁判所岡山支部
に 対 し て 控 訴 し た が( 同 支 部 平 成 2 6 年( ネ )第 3 3 号 ),平 成 2 6 年 6 月
19日,同裁判所は,一部使用していなかった標章の廃棄請求を除いたほ
か,一審の判決を維持して控訴を棄却した(甲42の2)。
イ 被告らは,平成27年2月23日,岡山地方裁判所津山支部におい
て,第2事件被告らに対して第2事件を提起し,同事件は岡山地方裁判所
に回付され,同年4月25日頃に訴状が第2事件被告らに送達され,その
後,同事件は,当裁判所に移送された。
原告は,同年3月16日,当庁において,被告らに対して第1事件を提
起すると同時に,全功に対し,前記アの訴訟事件において認められた不正
競争による損害賠償を求めると共に,本件表示2を含む「全秦グループ」
の標章の使用差止めを求める訴えを提起した(当庁平成27年(ワ)第2
504号不正競争行為差止等請求事件。当裁判所に顕著)。
2 争点
(1) 本 件 各 表 示 の 主 体 ( 争 点 1 。 第 1 事 件 , 第 2 事 件 共 通 )
(2) 被 告 ら に よ る 被 告 標 章 8 の 使 用 の お そ れ の 有 無 及 び 本 件 表 示 1 と 被
告標章8の類否(争点2。第1事件)
(3) 被 告 ら に よ る ド メ イ ン 名「 zenshin.gr.jp 」使 用 に よ る 不 正 競 争 の 成 否
(争点3。第1事件)
(4) 第 2 事 件 被 告 ら に よ る 本 件 各 表 示 の 使 用 の 有 無 争 点 4 。 2 事 件 )
( 第
(5) 第 1 事 件 の 差 止 請 求 及 び 廃 棄 請 求 (以 下 「 差 止 請 求 等 」 と い う 。 )の
成否(争点5。第1事件)
(6) 第 2 事 件 の 差 止 請 求 の 成 否 ( 争 点 6 。 第 2 事 件 )
3 争点についての当事者の主張
(1) 争 点 1 ( 本 件 各 表 示 の 主 体 )
(原告及び第2事件被告らの主張)
ア 本 件 各 表 示 は , 全 秦 グ ル ー プ 」を 構 成 す る 企 業 の 中 心 企 業 で あ る 原
「
告のみを主体とする周知営業表示である。
「全秦グループ」とは,原告を中心とした,代表取締役を共通にすると
共に,取締役及び株主の大多数を共通にする企業グループを意味するもの
であるから,P1が原告の取締役の地位を失い,そのため原告と被告らと
の間で代表取締役を異にすることとなった以上,被告らは,全秦グループ
から脱退したというべきである。
したがって,被告らも本件各表示の主体であることを前提とする,第1
事件における原告の被告らに対する主張に対する反論,及び第2事件にお
ける第2事件被告らの本件各表示の使用が不正競争である旨の主張は失当
である。
イ 原告のみが本件各表示の主体であることは以下のとおり明らかであ
る。
(ア) 本 件 表 示 2 , 4 及 び 5 は い ず れ も 「 ゼ ン シ ン 」 と の 称 呼 を 生 じ る も
のであるところ, 全秦」との商号を有するのは原告のみである。そして,
「
「ゼンシン」の称呼を含まない本件表示1及び3であっても単体で用いら
れることはまれで本件表示2と結合して用いられることが基本であるから,
「ゼンシン」の称呼と関連付けられている。
そして,被告らは,一般消費者等の需要者と接点を持っておらず,持っ
ているのは原告のみであるから,需要者は,本件各表示から原告のパチン
コ店やブックセンター等に用いられる原告の営業表示という認識を有して
いるのである。
(イ) 原 告 は ,本 件 各 表 示 の 開 発 費( デ ザ イ ン 費 ),ロ ゴ 製 作 費 等 ,本 件 各
表示に係る費用を支払っており,被告らの貢献はない。
(ウ) 原 告 は , 平 成 2 4 年 1 月 当 時 の 「 全 秦 グ ル ー プ 」 の 中 で , 売 上 げ ,
利 益 ,従 業 員 数 ,店 舗 数 等 の 企 業 規 模 に お い て 圧 倒 的 に 大 き く , 全 秦 グ ル
「
ープ」の中核企業とされていた。そのことは,その組織図において原告が
中心に記載されていることからも明らかである(なお,平成24年当時の
売上げは,原告が約224億円,被告全本金属が約6億円,被告ソフィア
が18億円弱, 告全本は約3億円, 告日新開発は約72万円であった。。
被 被 )
(エ) P 1 は , 平 成 2 4 年 2 月 9 日 , 本 件 各 表 示 を 原 告 か ら 全 功 に 対 し て
譲 渡 す る 旨 の「 VI 移 譲 と 商 標 使 用 許 諾 に 関 す る 契 約 書 」を 作 成 し た が ,譲
渡主体を被告らを含めない原告のみとしていることから,被告らの代表者
であるP1自身においても,本件各表示の主体が原告との認識しかなかっ
たことが認められる。
ウ 仮に,本件各表示の主体が原告のみと認められないとしても,被告
らの使用は,原告の使用許諾に基づくものにすぎない。そして,原告と被
告らとの間には,本件各表示の使用許諾につき,被告らが原告とのグルー
プ関係を解消することを解除条件とする黙示の附款ないし合意が成立して
いたから,被告らが「全秦グループ」を脱退した以上,被告らによる本件
各表示の使用及びその主体となっての権利行使は許されない。
(被告らの主張)
ア 本 件 各 表 示 は , 全 秦 グ ル ー プ 」と い う 企 業 の グ ル ー プ を 表 す も の で
「
あ っ て ,そ の 主 体 は 原 告 の み で は な く , 全 秦 グ ル ー プ 」を 構 成 す る 原 告 及
「
び被告らである。
したがって,本件各表示の主体が原告のみであることを前提とする,原
告の被告らに対する不正競争防止法に基づく請求には理由がない一方,本
件各表示の主体が原告及び被告らであることを前提とする被告らの第2事
件被告らに対する不正競争防止法に基づく請求には理由がある。
イ 被告らも本件各表示の主体であることは以下のとおりである。
(ア) 「 全 秦 グ ル ー プ 」 の 名 称 は , P 1 の 姓 で あ る 「 P 」 の 「 ● 」 と 名 の
一部である「●」と同じ読みの「●」とを併せて考えられたもので,昭和
52年にP1の個人事業であるパチンコ業の屋号として「全秦観光」とい
う名称を初めて使用して以来,P1の個人事業を示す屋号として「全秦」
との標章が使用されてきたことに由来し,原告の商号に由来して「全秦グ
ループ」と称されたわけではない。
(イ) そ し て , 全 秦 グ ル ー プ 」で あ る 原 告 及 び 被 告 ら は ,い ず れ も P 1 が
「
経営するP家の家業として,P1が掲げる経営理念に基づいて,あたかも
一つの法人の各部門のような形で経営されてきたもので,各会社間で株式
を相互保有しているわけでもなく,法的にも経済的にも特別な結び付きが
あるものではなく,それぞれが並列的で対等な別個独立の法人であって原
告が中核企業というわけではない。
すなわち,原告は,パチンコ店経営を主たる業務としている株式会社で
あるが,被告ソフィアがソフトウェア開発,被告全本金属が資源再利用,
被告全本及び被告日新開発が不動産仲介により,それぞれの分野で活動実
績 を 上 げ る こ と で , 全 秦 グ ル ー プ 」が 地 域 社 会 に 貢 献 し て い る 企 業 グ ル ー
「
プであると需要者に認識されてきたものであり,仮に,原告が「全秦グル
ープ」の中核企業であると認められる場合でも,そのグループを構成する
被告らも当該周知営業表示の主体であるというべきである。
(ウ) 原 告 は , 平 成 2 4 年 2 月 1 0 日 で , 被 告 ら が 「 全 秦 グ ル ― プ 」 か ら
脱退したように主張するが,同日前後において,原告と被告らとも,P家
の者で株式を保有していることに変わりがなく,唯一の変動は,同日にP
1が原告の取締役を解任され代表取締役の地位を失っただけであるから,
被告らが「全秦グループ」から脱退したわけではない。
(エ) 原 告 及 び 第 2 事 件 被 告 ら は , 本 件 各 表 示 の 主 体 が 原 告 の み で な い と
しても,被告らによる本件各表示の使用は,原告の使用許諾に基づくもの
であり,その使用許諾は「全秦グループ」の解消により終了したように主
張する。
しかし,遅くとも昭和52年12月から「全秦観光」の屋号でパチンコ
業を営んできたP1が,昭和60年4月の原告設立に際して原告に対し,
「全秦」という商号の使用許諾を与えたと解釈するのであればともかく,
原告よりも早く法人化された被告全本金属を含む被告らに対し,原告が使
用許諾を与えたと解釈する余地はない。
(2) 争 点 2 ( 被 告 ら に よ る 被 告 標 章 8 の 使 用 の お そ れ の 有 無 及 び 本 件 表
示1と被告標章8の類否)
(原告の主張)
ア 被告標章8は,被告らと代表取締役を同一にする全功が使用してお
り,同社も被告標章1ないし7を営業上の施設又は活動に使用しているか
ら,被告らも被告標章8を使用する具体的なおそれがある。
イ 被 告 標 章 8 は ,本 件 表 示 1 と 外 観 に お い て 類 似 す る た め ,両 標 章 は 類
似する。すなわち,本件表示1は,その上下に2本の直線を追加するとZ
との文字が浮かび上がるものであるが,被告標章8は,本件表示1を構成
する2つの三角形状の図形にそれぞれ3本の白線を追加したものにすぎな
いものである。
(被 告 ら の 主 張 )
ア 被告らが被告標章8を使用するおそれがある旨の主張は争う。全功
は,既に本店を移し,被告らとは事業を別にしている。全功が被告標章1
ないし7を使用しているからといって,被告らが被告標章8を使用するお
それがあるとする主張は論理が飛躍している。
イ 本件表示2と被告標章8が類似する旨の主張は争う。
(3) 争 点 3( 被 告 ら に よ る ド メ イ ン 名「 zenshin.gr.jp 」使 用 に よ る 不 正 競
争の成否)
(原告の主張)
ア 不正競争防止法2条 1 項 1 号の不正競争
被 告 ら が 使 用 す る 本 件 ド メ イ ン 名 の う ち , zenshin 」 は 「 gr.jp 」 の 部 分
「
と切り離し, れ自体で商品又は営業表示となり得るものである。 して,
そ そ
本件ドメイン名下に開設された本件ウェブサイトにおいて,被告ソフィア
を除く被告らの業務内容等が掲載されており(被告ソフィアは,同被告の
ド メ イ ン 名 の URL へ の リ ン ク と な っ て い る 。 , 件 ド メ イ ン 名 が 被 告 ら 各
)本
自の営業を表示するものとして用いられているといえるから,このような
本件ドメイン名の使用も,不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表
示」の使用に該当するといえる。
そ し て 「 zenshin」 と の 表 記 は , 被 告 標 章 3 と 大 文 字 , 小 文 字 の 違 い は あ
る も の「 GROUP」と の 文 字 を 外 し た も の と 同 一 で あ り ,本 件 表 示 2 と 類 似
している。 た原告と, 告らとの業務内容は, 式的には競合しないが,
ま 被 形
広義の混同のおそれがある。
し た が っ て ,被 告 ら の 本 件 ド メ イ ン 名 の 使 用 は ,不 正 競 争 防 止 法 2 条 1
項1号の不正競争に該当する。
イ 不正競争防止法2条1項13号の不正競争
被告らが,本件ドメイン名を使用して開設した本件ウェブサイト上で,
周知である本件各表示と同一又は類似する標章を用いていることからすれ
ば,被告らが,本件各表示が有する顧客吸引力にフリーライドして,不正
の利益を得る目的ないし原告に損害を与える目的があることは明らかであ
る。
したがって,被告らによる本件ドメイン名の使用は,不正競争防止法2
条1項13号の不正競争に該当する。
(被告らの主張)
ア 不正競争防止法2条 1 項 1 号の不正競争
原告の主張は争う。
本 件 ド メ イ ン 名 の う ち 「 zenshin 」 は そ れ 自 体 で 全 秦 グ ル ー プ の 商 品 又
は 営 業 表 示 と は な り 得 ず , gr」の 部 分 と 相 ま っ て「 全 秦 グ ル ー プ 」の 商 品
「
又は営業を表示する機能を有するものである。
本件ドメイン名が,本件表示2と類似していることは認めるが,被告ら
も,本件各表示の表示主体であるから,本件ドメイン名の使用は不正競争
とはならない。
イ 不正競争防止法2条1項13号の不正競争
原告の主張は争う。
(4) 争 点 4 ( 第 2 事 件 被 告 ら に よ る 本 件 各 表 示 の 使 用 の 有 無 )
(被告らの主張)
ア 第2事件被告らは,平成24年11月頃から,本件表示1の看板が
ある全秦通商本社ビルにおいて事業を行っているから,同標章を自己の営
業上の活動に使用しているといえる。
イ 第2事件被告らは,本件表示1,2,4及び5を掲載した新聞広告
を平成24年12月1日及び平成27年1月5日発行の山陽新聞の新聞広
告に掲載し,同年1月1日発行の津山朝日新聞にそれぞれ掲載し,もって
それぞれ同表示を,自己の営業上の活動に使用した(ただし,第2事件被
告ゼンシンは平成24年12月1日付けのものを除く。。
)
(第2事件被告らの主張)
ア 全秦通商本社ビルは,原告が所有しており,被告らが指摘する本件
表示1の使用は,原告の行為であって,第2事件被告らの行為ではない。
イ 第2事件被告ゼンシンが本件表示1,2,4及び5を新聞広告に掲
載することにより営業上の活動に使用している事実は認めるが,他の第2
事件被告らの使用は否認する。
(5) 争 点 5 (第 1 事 件 の 差 止 請 求 等 の 成 否 )
(原告の主張)
被告らは,被告標章1ないし7を使用しており,また被告標章8を使用
するおそれがある。
そして,原告と被告らとの業務内容は形式的には競合しないが,被告ら
が「全秦グループ」を脱退した後も各被告標章を使用することで,一般消
費者等が被告らと原告との間に緊密な営業上の関係等が存すると誤信する
という広義の混同のおそれがあるから,被告らの行為は,不正競争防止法
2条1項1号の不正競争に該当し,原告の差止請求等は理由がある。
また,被告らは,周知である原告の営業表示と同一又は類似する本件ド
メイン名を使用しているが,これは本件各表示が有する顧客吸引力にフリ
ーライドして不正の利益を得る目的ないし原告に損害を与える目的がある
ことは明らかであるから,本件ドメイン名の使用は,不正競争防止法2条
1項13号の不正競争に該当し,原告の差止請求等には理由がある。
(被告らの主張)
被告らが被告標章1ないし7を継続的に使用していることは認めるが,
被告標章8については否認する。
被告標章1ないし8のほか,本件ドメイン名の使用が不正競争に該当す
ることは争う。
(6) 争 点 6 ( 第 2 事 件 の 差 止 請 求 の 成 否 )
(被告らの主張)
第2事件被告らは,本件表示1,2,4及び5を使用し,被告らと第2
事件被告らとの間に緊密な営業上の関係等が存するとの広義の混同を生じ
させている。 らに, 告ソフィアと第2事件被告ワードシステムとの間,
さ 被
被告全本及び被告日新開発と第2事件被告サンエステートとの間には,い
わゆる狭義の混同が生じ,あるいは生じるおそれが高い。
したがって,第2事件被告らの行為は,不正競争防止法2条1項1号の
不正競争に該当し,被告らの差止請求には理由がある。
(第2事件被告らの主張)
否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 第2の1記載の各前提事実に,後掲証拠及び弁論の全趣旨により認
められる事実を総合すると,次のとおりである(証拠は特に記載のない場
合は,枝番を全て含む。。
)
(1) 原 告 , 被 告 ら 及 び 第 2 事 件 被 告 ら の 成 り 立 ち , 業 務 内 容 等
ア 原告
原告は,P1が昭和50年12月から個人営業として順次拡大していっ
たパチンコ店経営事業の一部を昭和60年4月法人化して設立された資本
金が9960万円の株式会社である。
平成24年当時で中国地方及び四国地方で20店舗のパチンコ店を経営
し,ブックセンター4店舗,バッティングセンター,山陽ゴルフクラブも
経営しており,従業員数は600名程度であり,平成23年3月31日決
算時の売上規模は224億円である(甲8,11,第2事件甲18)。
イ 被告全本金属
被告全本金属は,P1やP2が廃品回収の行商を行っていたことから,
P1が昭和40年7月に創業し,昭和61年に同事業を法人化して設立さ
れた資本金が9960万円の株式会社である(甲8)。
同被告は,整備工場や自動車ディーラーから不要となった自動車を廃棄
費用にて引き取り,産業廃棄物処理法や自動車リサイクル法などの各種行
政法規に則り自動車を解体し,中古部品として再利用できるものは部品と
して販売し,その他のくず鉄等は製鉄会社に販売するなどを主な業務内容
としており,従業員は14名ないし16名前後であり,平成24年当時の
売上規模は6億円である。
ウ 被告ソフィア
被告ソフィアは,昭和60年2月に設立された資本金が9960万円の
株式会社である。
業務内容は,ソフトウェア開発であるが,大手ソフトウェア会社の下請
け業務だけでなく,エンドユーザーとの直接取引も行っており,岡山県津
山市,鳥取県,東京都,京都府に拠点を持ち,従業員数は200人程度で
あり,平成24年当時の売上高は18億円弱である。
エ 被告全本
被告全本は,P1,P2及びP4が個人事業として運営していたパチン
コ店店舗ないし駐車場の土地・建物を所有・管理するための資産管理会社
として昭和63年9月に設立された資本金が9800万円の株式会社であ
る。
事 業 内 容 は ,土 地 ,家 屋 な ど 不 動 産 の 管 理 業 務 で あ る 。平 成 2 4 年 当 時 ,
従業員はいないが,役員が業務を執行したり,被告ソフィアに業務委託し
たりすることで運営がなされており,現在においても,P1の個人事業で
あるラスベガス鳥取店,スリーバー鳥取店,P2の個人事業であるローマ
鳥取店,P4の個人事業であるラスベガス浜坂店に所有物件を賃貸してい
ると共に,グループ以外の第三者への不動産の賃貸も行っていて,平成2
4年当時の年間売上規模は約3億円である。
オ 被告日新開発
被告日新開発は平成元年7月に創立された資本金が4800万円の株式
会社である。
事業内容は,不動産賃貸,売買,仲介など不動産関連全般業務を行って
いるが,パチンコ店運営業とは関係なく,居住用家屋を所有し,居住用家
屋の賃貸業をしている。従業員はおらず,一時は賃料収入が1200万円
ほどの時期もあったが,平成24年当時で売上規模は72万円である。
カ 第2事件被告ワードシステムは,平成10年に設立されたコンピュ
ータのソフトウェアの設計・開発及び製造等を業とする資本金が1000
万円の株式会社である。
キ 第2事件被告サンエステートは,平成13年に設立された不動産の
売買,賃貸,仲介及び管理等を業とする資本金が1000万円の株式会社
である。
ク 第2事件被告ゼンシンは,平成13年に,相続税対策を目的として
原告の株式を保有するために設立された株式会社であり,対外的な事業は
しておらず,原告の株式を100%保有しているだけである。
(2) 原 告 , 被 告 ら 及 び 第 2 事 件 被 告 ら の 役 員 , 株 主 等
ア 原 告 ,被 告 ら 及 び 第 2 事 件 被 告 ら の 株 主 名 義 (親 族 関 係 は ,別 紙 親 族
関 係 図 参 照 )は ,平 成 2 4 年 2 月 1 0 日 当 時 は 別 紙 株 主 一 覧 1 ,平 成 2 6 年
11月5日当時は別紙株主一覧2のとおりである。
原告は,設立された当初,P1やその家族名義で過半の株式が保有され
ていたが,平成13年に税金対策のための持ち株会社である第2事件被告
ゼンシンが設立され,同社が原告の全株式を保有するところとなった。第
2事件被告ゼンシンの株主の割合は,P1の家族名義が40%,P2の家
族名義が20%,P3の家族名義が30%,P4の家族名義が10%であ
り, の割合は, 1が原告の取締役を解任される前後で変わりはない 第
そ P (
2事件甲18)。
イ 原告及び被告らのいずれにおいても,P1が代表取締役を務め,弟
3 人 を 含 め 兄 弟 4 人 の 家 族 等 が 役 員 を 務 め て い た が , 記 (4)ア 記 載 の 経 緯
後
から,平成24年2月10日以降,原告及び第2事件被告らは弟3人がそ
の経営を支配し,被告らはP1がその経営を支配するところとなった(第
2事件甲18)。
ウ 第2事件被告ワードシステムは,同サンエステートによって全株式
が保有されており,同サンエステートの株式は,原告の代表取締役である
P3の家族名義で全株式が保有されている。
(3) 「 全 秦 グ ル ー プ 」 の 成 立 過 程
ア P 1 は ,姓 で あ る「 P 」の「 ● 」と , P 1 」か ら 生 じ る「 ● 」と 同
「
じ読みの「●」という字を合わせて「全秦」という名称を考え,昭和52
年12月,同人の個人事業であるパチンコ業(ローマ津山店)の屋号とし
て「全秦観光」という名称を初めて使用し,以後,P1の個人事業を示す
屋号として「全秦」との標章を使用してきた(第2事件甲18)。
イ P1は,昭和60年4月,P1個人が経営していたパチンコ店数店
舗のうち2店舗の事業を法人化して,全秦観光」 屋号の一部を用いた 全
「 の 「
秦通商」を商号に含む原告を設立した(第2事件甲18)。
ウ P1は,その後,パチンコ店事業を開始する前から行っていた廃品
回収業を法人化して被告全本金属を設立して自ら代表取締役を務め,その
後 ,順 次 ,そ の 余 の 被 告 ら を 設 立 し て 事 業 範 囲 を 拡 大 し て い っ た 。そ し て ,
平成3年2月頃,代表取締役を務めていた原告及び被告らにつき,これら
を「 全 秦 グ ル ー プ 」と 称 し て イ メ ー ジ 統 一 を 図 る た め , 全 秦 グ ル ー プ 」の
「
デ ザ イ ン マ ニ ュ ア ル と し て , 全 秦 グ ル ー プ 」と そ れ を 構 成 す る 原 告 及 び 被
「
告 ら の VI シ ス テ ム の 中 で , 全 秦 グ ル ー プ と し て の マ ー ク , ロ ゴ タ イ プ 及
びスローガン,並びに各社のコーポレートマーク,社名のロゴタイプ,ス
ロ ー ガ ン 等 の 制 作 を 行 い ,制 作 費 を ,原 告 に お い て 支 払 っ た( 甲 1 ,甲 3 ,
第2事件甲18)。
そ し て , 全 秦 グ ル ー プ 」 の マ ー ク と し て 全 秦 の 頭 文 字 で あ る 「 Z」 を モ
「
チーフにしたデザインの本件表示1,グループ名のロゴタイプとして本件
表示2,グループスローガンとして本件表示3が,また,グループシグネ
チュアとして,本件表示1と本件表示2を組み合わせたもの(以下「グル
ー プ シ グ ネ チ ュ ア 1 」と い う 。)と ,本 件 表 示 1 な い し 3 を 組 み 合 わ せ た も
の(以下「グループシグネチュア2」という。 が制作された。
)
また,これと同時に,原告及び被告らのコーポレートマークとして本件
表示1と同じデザインであるが色違いのマーク,統一したロゴタイプを使
った社名であるコーポレートロゴタイプ,本件表示3とは異なる各社のコ
ーポレートスローガン等が制作された。そのほか,コーポレートシグネチ
ュアとして,コーポレートマーク,コーポレートスローガン,コーポレー
トロゴタイプを組み合わせたものと,コーポレートマークとコーポレート
ロゴタイプを組み合わせたものが制作された(以下,前者を「コーポレー
トシグネチュア」という。,甲3,第2事件甲18)
) 。
エ 平 成 3 年 7 月 1 8 日 以 降 , 制 作 さ れ た VI シ ス テ ム を 使 用 し て こ れ
らを紹介する新聞広告の掲載が始められた。
すなわち,同日の津山朝日新聞の約半面の広告においては,広告の左半
分 に ,大 き な サ イ ズ の グ ル ー プ シ グ ネ チ ュ ア 1 と 共 に , 今 日 か ら ,全 秦 グ
「
ループのシンボルマークが,新しくなります。 として, 全秦グループ」
」 「
の頭文字 Z をデザイン化したものであることや本件表示3のスローガンが
紹介され,右半分には,P1の写真と挨拶文,並びに原告及び被告らの各
コ ー ポ レ ー ト シ グ ネ チ ュ ア が 同 じ 大 き さ で 記 載 さ れ て い た( 甲 4 )。そ の 頃
取引先に配布されたパンフレットにも, 件表示3及び本件表示2と共に,
本
本 件 表 示 1 が 記 載 さ れ た 頁( 頁 の 左 側 一 部 に は P 1 の 写 真 と 共 に「 情 報 」
「 ,
「 ラ イ フ ス タ イ ル 」を ビ ジ ネ ス す る 時 代 へ 」と し て , 環 境 と 情 報 と レ ジ ャ
「
ースタイル,余暇文化をクリエイトする多角的な事業を展開してまいりま
した。 などとの記載がある。 があり,別の頁には,左半分に大きなグル
」 )
ー プ シ グ ネ チ ュ ア 1 と 共 に 新 し い シ ン ボ ル マ ー ク で あ る こ と や , 環 境・情
「
報・レジャー産業を通じ,豊かな時間とサービスを届ける・・・地域の皆
さ ま に も っ と も っ と 貢 献 し た い ・・・ 」と い っ た 記 載 が あ り ,右 半 分 に は ,
原告及び被告らの各コーポレートシグネチュアが同じ大きさで記載されて
いた(甲5の3)。
オ また,全秦グループの会社案内では,表紙には本件表示2があり,
P1の写真と共に,全秦グループがレジャー・情報・環境の各分野でアク
ティブな事業活動を展開している旨の挨拶文や,グループとして豊かな地
域社会づくりに貢献する旨の記載があり,原告及び被告らの業務内容の案
内と共にその上部に各コーポレートシグネチュアが記載されるなどしてい
た(甲8)。
カ その後,平成12年から平成24年まで津山朝日新聞において,ま
た,平成13年から平成23年まで日本海新聞において,グループシグネ
チ ュ ア 2( 本 件 表 示 3 が な い 場 合 も あ る 。)と 共 に ,原 告 及 び 被 告 ら に 加 え
て株式会社エアテックの各コーポレートシグネチュア(コーポレートスロ
ーガンがない場合もある。)が 記 載 さ れ た 新 聞 広 告 が 掲 載 さ れ( 甲 1 5 ,甲
18) 平成17年から平成23年まで山陽新聞においても,同様の広告,
,
また,本件表示1及び2が記載されたもの,原告及び被告らの各コーポレ
ー ト シ グ ネ チ ュ ア( コ ー ポ レ ー ト ス ロ ー ガ ン を 除 く 。)が 記 載 さ れ た も の 等
が 出 さ れ た( 甲 1 7 )。日 本 海 新 聞 の お も し ろ テ レ ビ ガ イ ド に は ,平 成 1 6
年から平成23年まで,全秦グループの全面広告において,原告のコーポ
レートシグネチュアが一番上で被告らのコーポレートシグネチュアよりも
大 き な フ ォ ン ト で 掲 載 さ れ た も の が 掲 載 さ れ た( 甲 1 6 )。ま た ,平 成 1 8
年の全秦グループ会社案内においては,原告を中心とした図などが記載さ
れ,各会社の案内も原告が他社より枚数が多く割かれていた(甲10,1
1)。ま た ,山 陽 放 送 や 日 本 海 テ レ ビ ジ ョ ン 等 で 平 成 1 8 年 か ら 平 成 2 0 年
にかけて全秦グループの多くのコマーシャルを流したり,津山市等のイベ
ント広告等を行ったりして,本件各表示を使用した(甲12ないし14,
甲19ないし28)。
キ このような新聞広告やテレビコマーシャル等の費用も,原告が負担
した(甲12ないし14,第2事件甲18)。
ク なお,本件各表示は,P1だけでなく,P2及びP4が個人的に経
営するパチンコ店等においても使用されていた。
(4) P 1 の 原 告 代 表 取 締 役 の 地 位 の 喪 失 前 後 の 状 況
ア 被告らの代表取締役であるP1は,平成23年2月16日,全功を
設立し,同社において島根県の隠岐の島において,パチンコ店の経営を開
始した。その結果,P1は,弟3人と対立し,同年2月10日,上記行為
が競業避止義務違反であることを理由に原告の取締役を解任されて原告の
代表取締役としての地位を失い,同日,P3が原告の代表取締役に選任さ
れた。また,同日,P1の長男は,第2事件被告ゼンシンの代表取締役を
解任され,その後日,取締役も解任された。
その後の同年4月11日には,弟3人が被告らの取締役を解任され(た
だし,P3は被告ソフィアの取締役をそれ以前に退任していた。,また被
)
告らの株式は,P1及びその家族名義で全て保有されるところとなり,そ
の結果,P1が原告の代表取締役の地位を失って約2カ月の間に,原告及
び第2事件被告らと被告らの経営を支配する者は,原告及び第2事件被告
らについては弟3人に, 告らについてはP1に分かれることになった 第
被 (
2事件甲18)。し か し ,P 1 は ,平 成 2 5 年 6 月 当 時 に お い て も ,原 告 の
約47億円の借入金の約72%を個人保証したままであった(第2事件甲
18)。
イ P1は,原告の取締役を解任される前日である平成24年2月9日
付けで,原告と全功双方の代表者として,原告から全功に対し,原告及び
原 告 が 所 属 す る 「 ゼ ン シ ン グ ル ー プ が 所 有 す る 企 業 VI の 一 部 」 本 件 表 示
(
1及び2,グループシグネチュア1,被告らのコーポレートマーク,コー
ポレートスローガン及びコーポレートシグネチュア)と「経営理念」「社
,
是」を移譲し,全功が使用権限を所有し営業活動においてこれを使用する
ことなどに合意し,その対価として全功が原告に対し,100万円を支払
う 旨 を 合 意 内 容 と す る「 VI 移 譲 と 商 標 使 用 許 諾 に 関 す る 契 約 書 」を 作 成 し
ていた(甲2)。
ウ 原 告 と 被 告 ら を「 全 秦 グ ル ー プ 」と す る 上 記 (3)記 載 の 宣 伝 広 告 活 動
は,平成24年2月10日以降なされなくなったが,原告は,その頃以降
も ,被 告 ら を 除 い て「 全 秦 グ ル ー プ 」と し て の 宣 伝 広 告 を し て お り ,他 方 ,
被 告 ら も ,従 前 ど お り の 営 業 を 続 け , 全 秦 グ ル ー プ 」を 名 乗 っ た 宣 伝 広 告
「
とすると共に被告標章1ないし7を営業上の活動や施設に使用している。
エ 第2事件被告らは,平成24年11月頃から,全秦通商本社ビルに
おいて事業を行っているが,同ビルの外壁には,本件表示1をかたどった
看板が掲示されている(第2事件甲6の1ないし4)。
オ 平成24年12月1日発行の山陽新聞の下段約半面の広告におい
て,左側に本件表示1及び2を掲げた全秦通商本社ビルの写真を,本件表
示2及び本件表示3を右肩に小さく記載し,大きなフォントで「これまで
も , こ れ か ら も 。 変 わ る こ と な く ZEINSHIN し ま す 。 と し , そ れ に 続 く
」
本 文 で「 ・・・ こ れ ま で 皆 様 に お 届 け し て き た 全 秦 グ ル ー プ 。 ・・ 」な ど
・
と本件表示5を含む記載をし,代表取締役会長としてP2,代表取締役社
長としてP3及び専務取締役としてP4の氏名を記載し,その下に,原告
のコーポレートシグネチュアを大きなフォントで,その下に小さなフォン
トで原告の店舗等と共に第2事件被告ワードシステム及び同サンエステー
トの社名,並びに山陽ゴルフ倶楽部の名称等を記載した新聞広告が掲載さ
れた(第2事件甲7の1)。
カ 原告が提起した別件訴訟の控訴審判決が平成26年6月19日に言
い 渡 さ れ た こ と を 受 け , 全 功 は ,同 月 2 5 日 ,商 号 を「 株 式 会 社 全 秦 」か
ら「株式会社全功」に変更し,また,その後,自社の営業活動において用
いる標章を被告標章8とするようになった(甲40,43)。
キ ま た ,被 告 ら は ,遅 く と も 平 成 2 6 年 1 0 月 頃 か ら , zenshin.gr.jp 」
「
という本件ドメイン名を使用しており,同ドメイン名下に開設された本件
ウェブサイトにおいて,被告標章1,3,4及び6を掲示すると共に,被
告ソフィアを除く被告らの事業内容等を掲載している(被告ソフィアにつ
い て は , 同 被 告 の URL へ の リ ン ク と な っ て い る 。 ( 甲 4 1 )
) 。
ク 平成27年1月1日発行の津山朝日新聞及び同月5日発行の山陽新
聞の下段約半面の広告の2回にわたり, 側に全秦通商本社ビルの写真を,
左
右肩にはグループシグネチュア1(本件表示1ないし3の結合)を記載し
て新年の挨拶文に「ゼンシングループは関連企業とともに,さらなる飛躍
を目指します。, ・
」「・ ・こ れ ま で 皆 様 に お 届 け し て き た 全 秦 グ ル ー プ 。 ・
・ ・」
などと本件表示4及び5を含む記載をし,その下にはP2,P3及びP4
の氏名を,さらにその下には,大きく本件表示1とその右横に第2事件被
告ゼンシンの社名と,原告のコーポレートシグネチュアが記載され,その
右側に少し小さく第2事件被告ワードシステムと同サンエステートの社
名, びに山陽ゴルフ倶楽部の名称等を記載した新聞広告が掲載された 第
並 (
2事件甲7の2及び3)。
2 検討
(1) 争 点 1 ( 本 件 各 表 示 の 表 示 主 体 )
ア 原告及び第2事件被告らは,本件各表示は,原告のみの営業表示と
して周知のものであり,被告らにとっては「他人の」営業表示である旨主
張 す る の に 対 し ,被 告 ら は , 全 秦 グ ル ー プ 」を 構 成 す る 原 告 及 び 被 告 ら の
「
営業表示である旨主張する。
イ 不 正 競 争 防 止 法 2 条 1 項 1 号 に お い て , 他 人 の 」周 知 営 業 表 示 と 同
「
一又は類似の表示を使用する行為を不正競争と規定するのは,営業主体の
信用が化体した周知営業表示を第三者が使用することにより,その信用に
フリーライドすることを防止する趣旨である。そして,同号の「他人」に
は,周知営業表示の持つ出所識別機能,品質保証機能及び顧客吸引力を保
護発展させるという共通の目的のもとに結束しているものと評価すること
ができるようなグループも含まれるものと解される(最高裁昭和59年5
月29日判決・昭和56年(オ)第1166号参照)。
ウ 本件について見ると,昭和50年にP1が始めたパチンコ店事業を
昭和60年に法人化して設立された原告,昭和40年に創業され昭和61
年に法人化して設立された被告全本金属,昭和60年代に設立された被告
ソフィア,被告全本及び被告日新開発は,いずれの会社も兄弟4人及びそ
の家族を株主あるいは実質的な株主とし,これらの兄弟4人及びその家族
の一族からなるP家で実質的に支配されている会社であり,しかもP1が
原告の取締役を解任されてその代表取締役の地位を失った平成24年2月
10日までは,兄弟4人の長男であるP1が全ての会社の代表取締役を務
め,弟3人やP1の家族がそれぞれに役員を務めるなどしていたというの
であるから,会社相互の事業の関連性や法人同士の株式の相互保有による
資本関係はないものの,社会通念上,グループとして捉えられる一体的な
関係があったといえる。
そ し て ,前 記 1 (3)ウ な い し カ 認 定 の と お り ,平 成 3 年 に は ,P 1 が ,そ
のような関係にある原告及び被告らを「全秦グループ」と称して,これを
表 す VI シ ス テ ム を 導 入 し , 本 件 各 表 示 を , 岡 山 県 , 鳥 取 県 及 び 島 根 県 に
おける新聞やテレビにおける広告で使用してきたことにより,遅くとも平
成24年1月頃までには,岡山県,鳥取県及び島根県の一般消費者間にお
いて,原告及び被告らが「全秦グループ」を構成する会社として広く認識
されていくと共に,それらの会社の宣伝広告,店舗あるいは社屋自体で使
用される本件各表示が原告及び被告らで構成される「全秦グループ」を表
示するものとしても,広く認識されていたものと認められる。
なお,原告及び被告らが事業上の関係がなく,また顧客となる需要者も
共通しているわけではないのに,このような一体となった宣伝広告活動を
してきたのは,前記認定の広告や会社案内にも記載されているように,原
告の事業であるパチンコ店等のレジャー産業だけでなく, 全秦グループ」
「
を 構 成 す る 他 の 事 業 等 を 含 め , 全 秦 グ ル ー プ 」と し て の 事 業 活 動 は 様 々 な
「
分野に及び,そのことを通じて地域社会に貢献しているとのイメージを前
面に打ち出すことによって,P家の支配する会社全体のイメージを上げよ
うとしたからであると認められるから,原告及び被告らそれぞれの事業規
模に大きな差があり,また周知性獲得の貢献についても同様であるとして
も ,上 記 の よ う な 意 味 に お い て , 全 秦 グ ル ー プ 」は ,周 知 営 業 表 示 の 持 つ
「
出所識別機能,品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通
の目的のもとに結束していたものとして評価できる。
したがって,上記認定した平成24年1月頃までに周知となったと認め
られる本件各表示は,その当時においては,原告のみならず被告らも並ん
で,その主体であると認めるのが相当である。
エ (ア) こ れ に 対 し て 原 告 及 び 第 2 事 件 被 告 ら は , 本 件 各 表 示 に よ る 宣 伝
広 告 活 動 の 費 用 負 担 を し た の が 原 告 で あ る こ と , ゼ ン シ ン 」と い う 称 呼 を
「
含む商号を有するのは原告のみであることや, の企業規模などの点で 全
そ 「
秦グループ」内では原告が中核企業であることから,本件各表示の主体は
原告のみであるように主張するが,本件各表示の周知性が上記のような経
緯 で 形 成 さ れ た 以 上 ,平 成 2 4 年 1 月 当 時 の 主 体 は , 全 秦 グ ル ー プ 」を 構
「
成する被告らを含む各社全てであるというべきである。
(イ) ま た , 原 告 及 び 第 2 事 件 被 告 ら は , P 1 が 作 成 さ せ た 平 成 2 4 年 2
月 9 日 付 け の「 VI 移 譲 と 商 標 使 用 許 諾 に 関 す る 契 約 書 」に お い て ,本 件 各
表示等が原告から全功へ移譲する旨が契約目的となっていたことから,P
1には本件各表示が原告のみに帰属する認識があったことを問題にする
が,同契約書は,本件各表示だけでなく,原告が制作費用を負担したとは
いえ,被告らが各別に主体として認識されなければならない被告らそれぞ
れのコーポレートマーク,コーポレートスローガン及びコーポレートシグ
ネチュアさえも原告の資産として譲渡の対象としているというのであるか
ら,本件各表示の権利者を原告とするP1の認識は,制作費用を負担した
者にその成果物の財産権が帰属するという単純な理解で作成されているこ
とが明らかであって,上記認定判断を左右するものではない。
オ 他方,平成24年2月以降については,P1が原告の代表取締役の
地位を失っただけでなく,被告らの取締役からは弟3人もいなくなったこ
と で , 全 秦 グ ル ー プ 」と さ れ て い た 企 業 グ ル ー プ は ,P 1 が 経 営 権 を 掌 握
「
している会社と弟3人が経営権を掌握している会社に分かれ,全秦グルー
「
プ」としてのイメージアップを図る宣伝広告活動も原告と被告ら共同でな
されなくなったというのであるから,原告と被告らの関係は,上記目的で
結束していた「全秦グループ」としての一体性が失われ,原告と被告らが
「全秦グループ」としての営業表示の周知性を獲得してきた基礎事情は,
崩れてしまったものといえる。
そ し て ,「 全 秦 グ ル ー プ 」 を 構 成 し て い た 会 社 の う ち 原 告 が , 事 業 規 模 ,
売 上 規 模 と も に 最 も 大 き く ,ま た 最 も 需 要 者 が 多 い こ と か ら す れ ば , 全 秦
「
グループ」の中核的な会社であり,また需要者からも,そのように認識さ
れ て き て い た も の と 認 定 す る の が 合 理 的 で あ る か ら , 全 秦 グ ル ー プ 」と し
「
ての一体性が失われた平成24年2月以降,事業規模等に優る原告におい
て被告らを除外した「全秦グループ」としての宣伝広告活動がされるよう
になった以上,被告らが,本件各表示につき,平成24年1月当時と同様
の立場で,原告と並ぶ主体であることを対外的に主張することはもはやで
きないというべきである。
カ た だ ,原 告 と 被 告 ら が , 全 秦 グ ル ー プ 」と し て の 一 体 性 が 失 わ れ た
「
といっても,その実態は,グループを構成する各会社をP家が支配してい
る関係に変化がない中で,かつてグループ全体の実権を掌握していたP1
が兄弟間の対立で原告の代表取締役としての立場を追われたため,対外的
に一体のグループと称して原告が行っていた宣伝広告活動から,被告らが
除かれ,そのため被告らにおいて別途「全秦グループ」としての広告を行
っ て い る (甲 3 9 )と い う だ け の こ と で あ り , そ の 点 を 除 け ば , 原 告 と 被 告
らがもともと区々に行っている本来的な事業活動の上では何ら変化がな
く,またそれぞれの需要者に対して提供するサービスの内容に何らかの変
化があったことが認められるわけではなく,ましてや原告と被告らの上記
のような対立状況が,原告と被告らを「全秦グループ」として認識してい
た一般消費者間で広く知られたことを認めるに足りる証拠もないから,一
般 消 費 者 か ら す れ ば ,平 成 2 4 年 2 月 以 降 の 事 実 関 係 の 変 化 だ け か ら , 全
「
秦グループ」として,それ以前に形成されてきた上記ウで認定した被告ら
も本件各表示の主体であるとの認識が全く失われてしまったと認めるには
足りないというべきである。
そして,本件各表示が周知となった実態からすると,多方面の事業を営
む「全秦グループ」としてのイメージアップに貢献するという意味で,本
件各表示が周知営業表示となる過程において,被告らも一定程度の貢献を
してきたものであり,また,その結果,上記のとおりの一般消費者との関
係での被告らが本件各表示の主体であるとの認識がなお残っているものと
い え る か ら , 全 秦 グ ル ー プ 」を 構 成 す る 各 社 の 経 営 陣 の 対 立 を 理 由 に 原 告
「
が被告らを「全秦グループ」としてする宣伝広告活動から除く扱いをして
いるとしても,被告らの事業内容に変わりがなく,また従前どおりの事業
活動において本件各表示を使用しているだけであるのに,これを原告との
関係で不正競争であるとするのは相当ではないというべきである。
なお,原告及び第2事件被告らは,被告らの本件各表示の使用が,原告
からの使用許諾に基づくことを前提としてその終了も主張しているが,被
告らにおける本件各表示の使用は共通する代表取締役であるP1の意向に
すぎないものであり,そこに,主張に係るような法的な使用許諾関係があ
ったとは認められないから,原告の上記主張は採用できない。
キ したがって,現時点においては,被告らは,平成24年1月当時と
同様の意味で原告と並ぶ本件各表示の主体であるいうことはできないけれ
ども,その事業活動及び本件各表示の使用態様が,平成24年1月当時と
同様の範囲のものであるならば, 告に対する関係では, 件各表示は 他
原 本 「
人の」営業表示ではなく,その使用はなお不正競争を構成しないというべ
きである(他方,被告らの本件各表示の主体性は上記の限度のものである
から,被告らから原告に対してはもとより,原告と実質的に同視できる第
三者に対して,本件各表示が「他人の」営業表示であることを主張して,
不正競争防止法上の権利行使を積極的にすることはできないというべきで
ある。。
)
(2) 争 点 2 ( 被 告 ら に よ る 被 告 標 章 8 の 使 用 の お そ れ の 有 無 及 び 本 件 表
示1と被告標章8の類否)
証拠(甲40)及び弁論の全趣旨によれば,被告標章8は,別件訴訟で
敗 訴 し て 本 件 表 示 1 (被 告 標 章 1 )の 使 用 を 差 し 止 め ら れ た 全 功 が , の 後 ,
そ
同表示に代わるものとして使用している標章であると認められる。
原告は,全功と被告らが,P1を代表取締役として共通するグループで
あり,原告と対立関係にあることを踏まえ,全功が被告標章8を使用して
いる以上,被告らも,将来,被告標章8を使用するおそれがあると主張し
ているものである。
しかしながら,被告らが,現時点において被告標章8を使用している事
実は認められず,さらに本判決において,被告らの本件各表示の使用に対
する原告の差止請求には理由がない,すなわち被告らによる被告標章1な
いし7の継続使用が許されると判断する以上,被告らが新たに被告標章8
を使用するおそれがあるといえないことは明らかである。
(3) 争 点 3( 被 告 ら に よ る ド メ イ ン 名「 zenshin.gr.jp 」使 用 に よ る 不 正 競
争の成否)
原告は,被告らの本件ドメイン名の使用が,不正競争防止法2条1項 1
号又は同条13号の不正競争に該当する旨主張する。
証拠(甲41,第2事件乙5)によれば,本件ドメイン名下に開設され
た本件ウェブサイトにおいて,被告ら各社は「ゼンシングループ」を構成
する会社として記載され,被告ソフィアを除く被告らの事業内容が紹介さ
れ る と と も に , 被 告 ソ フ ィ ア に つ い て は , 同 被 告 の URL
「 http://www.sophia -inc.co.jp/ 」 へ の リ ン ク と な っ て い る こ と が 認 め ら れ る
か ら ,被 告 ら は , ゼ ン シ ン 」と の 称 呼 を 含 む 本 件 ド メ イ ン 名 を「 全 秦 グ ル
「
ープ」と関連付けて使用していることが認められる。
しかし,上記1で説示したとおり,被告らは,現時点においても,原告
と「全秦グループ」としての一体性があった当時の事業活動の範囲で,従
前の使用態様の範囲内で本件各表示を使用することにつき,原告との関係
で本件各表示についての主体性を未だ失っていないであるから,従来の事
業活動の延長上で広告媒体としてのウェブページを利用したにすぎない本
件ドメイン名の使用は,原告との関係では不正競争と評価される関係には
ないとういうべきである。
(4) 争 点 5 ( 第 1 事 件 の 差 止 請 求 等 の 成 否 )
ア 被告標章の使用について
被告らは,本件各表示とそれぞれ同一ないし類似の被告標章1ないし7
を使用しているが,被告らの事業内容や被告標章の使用態様も平成24年
1月当時と変わりないのであるから,原告に対する関係で「他人の」営業
表示を使用したということはできず,原告の被告らに対する同標章の使用
を対象とする不正競争防止法2条1項1号該当を理由とする差止請求等に
は理由がない。
また被告らは,そもそも被告標章8を使用するおそれがないから,原告
の被告らに対する同標章の使用を対象とする不正競争防止法2条1項1号
該当を理由とする差止請求等にも理由がない。
イ 本件ドメイン名の使用について
上 記 (3)に 説 示 し た と こ ろ に よ れ ば , 告 ら に よ る 本 件 ド メ イ ン 名 の 使 用
被
が不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当する旨の原告主張には理
由がないから,同号該当を理由とする差止請求等には理由がない。
また,被告らによる本件ドメイン名の使用が上記のとおりである以上,
被告らに「不正の利益を得る目的」あるいは「他人に損害を加える目的」
があるとはいえないから,被告らによる本件ドメイン名の使用が同条同項
13号に該当するとはいえず,同号該当を理由とする差止請求等にも理由
がない。
(5) 争 点 4 ( 第 2 事 件 被 告 ら に よ る 本 件 各 表 示 の 使 用 の 有 無 )
ア 全秦通商本社ビルに掲げられた本件表示1の看板について
前記のとおり,原告は,本件各表示の主体であるから,原告が所有し,
原告が事業を行う全秦通商本社ビルに本件表示1が看板として壁面に掲げ
られていることは当然のことであり,社会通念上も,ビル所有者であり同
ビルに本社を置く原告の看板であると理解されるものである。
他方,第2事件被告らは同ビルに事務所を置いて事業を行っているが,
同ビルの所有者ではないから,同ビルの外壁に掲げられた本件表示1は,
社会通念上,第2事件被告らが看板を掲げているとは理解されず,したが
って,上記看板の存在によって本件表示1が第2事件被告らによって使用
されているとはいえないというべきである。
イ 新聞広告について
被告らが,第2事件被告らによって本件表示1,2,4及び5が使用さ
れ た と 主 張 す る 新 聞 広 告 の 掲 載 内 容 は , 記 1 (4)オ , の と お り で あ る が ,
上 ク
これらの新聞広告はいずれも,原告ないしは原告及び第2事件被告ゼンシ
ンを主要部分に大きく表示し,第2事件被告ワードシステム及び同サンエ
ステートのほか,訴外山陽ゴルフ倶楽部を小さなフォントで副次的に掲載
したものにすぎないものである。
ところで, 告と被告らが対立する前の全秦グループの新聞広告の場合,
原
原告及び被告らが同じフォントサイズで列挙され掲載されていた場合がほ
とんどであったから(甲15,甲17の1及び4,甲18ないし甲21,
甲27(特に記載のないものは枝番号を全て含む。) これを見る読者は,
),
これら掲載されている各社が共同して新聞広告を掲載しているものと認識
し,したがって各社がその掲載されている表示を共同使用していたものと
認めることができる。
しかし,被告らが問題とする上記新聞広告は,上記のとおり掲載各社の
表示方法に差があるから,これを見た読者は,広告の主体は,大きなフォ
ントで社名が記載された原告(平成24年12月1日発行の山陽新聞)あ
るいは原告及び第2事件被告ゼンシン(平成27年1月1日発行の津山朝
日新聞及び同月5日発行の山陽新聞)であり,第2事件被告ワードシステ
ム及び同サンエステートは,これらの社のグループとなる関連会社として
参考程度に紹介されているというものと理解するものと考えられる。すな
わち,読者は,その新聞広告に掲載されている本件表示1,2,4及び5
の主体は,原告あるいは原告及び第2事件被告ゼンシンと認識するものと
認められるから,第2事件被告ワードシステムあるいは同サンエステート
が,上記本件表示を使用しているとは認めることはできない。
(6) 争 点 6 ( 第 2 事 件 の 差 止 請 求 の 成 否 )
ア 被 告 ゼ ン シ ン を 除 く 第 2 事 件 被 告 ら は ,上 記 (5)の と お り ,本 件 表 示
1,2 ,4 及 び 5 を 使 用 し て い る と は 認 め ら れ な い か ら ,被 告 ら に よ る こ れ
ら第2事件被告らに対する不正競争防止法2条1項1号該当を理由とする
差止請求には理由がない。
イ 他 方 ,第 2 事 件 被 告 ゼ ン シ ン は ,新 聞 広 告 に お い て 本 件 表 示 1 ,2 ,
4及び5を使用したことを認めているが,第2事件被告ゼンシンが自らは
対外的な事業をなさない相続税対策のため設立された原告の持ち株会社で
あ っ て 原 告 と は 実 質 的 に 同 一 の 存 在 で あ る と い え る 。そ う す る と ,上 記 (1)
キで説示したとおり,被告らは本件各表示の主体として,原告だけでなく
原告と同視できる第三者との関係においては,本件各表示が「他人の」営
業表示であるとはいえないから,被告らの第2事件ゼンシンに対する不正
競争防止法2条1項1号該当を理由とする差止請求にも理由がない。
3 結論
よって,原告の請求及び被告らの請求はいずれも理由がないから,すべ
て棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,65条1
項本文を適用し,主文のとおり判断する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 森 崎 英 二
裁判官 田 原 美 奈 子
裁判官 林 啓 治 郎
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