平成26(ワ)11244特許権侵害差止等請求事件
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裁判所 |
請求棄却 大阪地方裁判所
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裁判年月日 |
平成28年6月30日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告株式会社G.Eプランニング
田井精機株式会社
P1
P2 原告日東精工株式会社
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法令 |
特許権
民法709条2回 特許法134条の21回 特許法100条1項1回 民法644条1回 特許法102条1項1回 特許法29条2項1回 民事訴訟法61条1回 特許法123条1項2号1回
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キーワード |
無効23回 特許権20回 進歩性15回 侵害11回 実施9回 損害賠償3回 審決3回 無効審判3回 差止2回 刊行物1回
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主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,後記本件特許権を有する原告が,被告G.Eプランニング及び被告田井
精機株式会社に対し,同被告らの製造又は販売する別紙イ号物件目録記載の製品(以
下「イ号物件」という。)は本件特許権の特許発明の技術的範囲に属すると主張し
て,特許法100条1項に基づき同製品の製造,販売等の差止め,同条2項に基づ
き同製品の廃棄を求めるほか,本件特許権侵害の不法行為に基づき損害賠償を求め
るとともに,その余の被告らについては,被告P1に対しては任務懈怠につき重過
失があるとして会社法429条1項又は不法行為に基づき,被告P2に対しては任
務懈怠につき重過失があるとして同項の類推又は不法行為に基づき,それぞれ損害
賠償を求めた事案である(損害賠償請求は被告ら4名の共同不法行為として連帯請
求)。 |
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判決文
平成28年6月30日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官
平成26年(ワ)第11244号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成28年4月19日
判 決
原 告 日 東 精 工 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 藤 本 英 二
同 富 永 夕 子
同訴訟復代理人弁護士 金 順 雅
同補佐人弁理士 藤 本 英 夫
同 西 村 幸 城
被 告 株式会社G.Eプランニング
被 告 田 井 精 機 株 式 会 社
被 告 P1
被 告 P2
上記4名訴訟代理人弁護士 石 川 隆
同補佐人弁理士 戸 島 省 四 郎
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告株式会社G.Eプランニング及び被告田井精機株式会社は,別紙イ号物
件目録記載の製品を製造し,販売し,又は販売の申出をしてはならない。
2 被告株式会社G.Eプランニング及び被告田井精機株式会社は,別紙イ号物
件目録記載の製品を廃棄せよ。
3 被告らは,原告に対し,連帯して8860万5000円及びこれに対する被
告株式会社G.Eプランニングについては平成26年12月5日から,被告田井精
機株式会社,被告P1及び被告P2については同月4日から,それぞれ支払済みま
で年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,後記本件特許権を有する原告が,被告G.Eプランニング及び被告田井
精機株式会社に対し,同被告らの製造又は販売する別紙イ号物件目録記載の製品(以
下「イ号物件」という。)は本件特許権の特許発明の技術的範囲に属すると主張し
て,特許法100条1項に基づき同製品の製造,販売等の差止め,同条2項に基づ
き同製品の廃棄を求めるほか,本件特許権侵害の不法行為に基づき損害賠償を求め
るとともに,その余の被告らについては,被告P1に対しては任務懈怠につき重過
失があるとして会社法429条1項又は不法行為に基づき,被告P2に対しては任
務懈怠につき重過失があるとして同項の類推又は不法行為に基づき,それぞれ損害
賠償を求めた事案である(損害賠償請求は被告ら4名の共同不法行為として連帯請
求)。
1 前提事実(争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認
められる事実)
(1) 当事者
ア 原告は,流量計,測定検査機器,医療用機械器具など精密機械器具等の製造
販売等を業とする株式会社である。
イ 被告株式会社G.Eプランニング(以下「被告G.E」という。)は,建設
産業機械及びその部品の製造販売並びにその輸出入等を業とする株式会社であり,
平成17年3月に事実上倒産した株式会社アイティーエムの事業の全部又は一部を
承継している。
ウ 被告田井精機株式会社(以下「被告田井精機」という。)は,ドリル及び鉱
山工具の機械加工等を業とする株式会社である。
エ 被告P1は,被告G.Eが設立された平成19年12月13日から被告G.
Eの代表取締役を務めている者である。
オ 被告P2は,かつて,株式会社アイティーエムの代表取締役を務めていた者
であり,現在,被告G.Eの営業顧問なる立場の者である。
(2) 原告の特許権
原告は,以下の特許権の特許権者である(以下「本件特許権」といい,本件特許
権に係る特許を「本件特許」,本件特許に係る発明を「本件発明」,特許請求の範
囲の請求項1,請求項2に係る発明をそれぞれ「本件発明1」,「本件発明2」と
い,その願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。
発明の名称 スクリューポイント
特許番号 第3365722号
出願日 平成9年3月31日(特願平9-98288)
公開日 平成10年10月20日(特開平10-280377)
登録日 平成14年11月1日
特許請求の範囲
【請求項1】
地質の調査を行う試験に際して所定の長さのロッド部材先端に取り付けられ,所
定の荷重と,必要に応じて付与される回転とによってロッド部材と一体に地中に貫
入されるスクリューポイントであって,先端尖鋭な本体部を有し,この本体部の基
端部にめねじを形成し,このめねじに無頭ねじ部品を一端が突出するように螺合し,
この無頭ねじ部品をロッド部材に設けためねじに螺合して連結するように構成した
ことを特徴とするスクリューポイント。
【請求項2】
本体部は硬度が高くなるよう構成し,また無頭ねじ部品は高い靭性を有するよう
に構成したことを特徴とする請求項1に記載のスクリューポイント。
(3) 構成要件の分説
本件発明1及び2を構成要件に分説すると,別紙対比表1「本件発明1の分説」
及び「本件発明2の分説」欄にそれぞれ記載のとおりである。
(4) イ号物件の構成
イ号物件の構成は,別紙対比表1「イ号物件の構成」欄記載のとおりであり,本
件発明1及び2の技術的範囲に属する。
(5) 被告らの行為
被告田井精機は,平成20年11月16日以降,業として,イ号物件を製造し,
これを被告G.Eに対して販売し,同被告はこれを業として仕入れて販売している。
(6) 本件発明の訂正請求
ア 原告は,平成27年10月21日付けで,本件特許についての特許無効審判
請求(無効2015-800018)において,請求項1及び2の訂正請求を行っ
た(甲26,以下「本件訂正請求」といい,その訂正を「本件訂正」,訂正後の発
明をそれぞれ「本件訂正発明1」,「本件訂正発明2」といい,併せて「本件訂正
発明」という。)。
イ 本件訂正請求における訂正後の請求項1及び2の特許請求の範囲の記載は次
のとおりである。
【請求項1】
スウェーデン式サウンディング試験に際して,一端に有底のめねじ,他端におね
じが一体成形された所定の長さのロッド部材のめねじに取り付けられ,ロッド部材
のおねじに他のロッド部材のめねじを連結して延長可能に構成され,所定の荷重と,
必要に応じて付与される回転とによってロッド部材と一体に地中に貫入されるスク
リューポイントであって, 先端尖鋭な本体部を有し,この本体部の基端部にめねじ
を形成し,このめねじに無頭ねじ部品を一端が突出するように螺合し,この無頭ね
じ部品をロッド部材のめねじに螺合して連結するように構成したことを特徴とする
スクリューポイント。
【請求項2】
本体部は無頭ねじ部品に対して硬度が高くなるよう構成し,また無頭ねじ部品は
本体部に対して高い靭性を有するように構成したことを特徴とする請求項1に記載
のスクリューポイント。
ウ 本件訂正発明1及び本件訂正発明2を構成要件に分説すると,別紙対比表2
の「本件訂正発明1の分説」及び「本件訂正発明2の分説」欄にそれぞれ記載のと
おりであるが,イ号物件は,本件訂正発明1及び2の技術的範囲にも属する。
(7) 特許無効審判
本件特許については,平成27年12月25日付けで,無効とする旨の審決が出
されたが,これに対して提起された審決取消訴訟が,現在,係属中であり,同審決
は確定していない(乙21)。
2 争点
(1) 本件発明1は進歩性を欠くか。
(2) 本件発明2は進歩性を欠くか。
(3) 上記(1),(2)に対する訂正の再抗弁の成否
(4) 被告P1及び同P2は会社法429条1項又は不法行為に基づく責任がある
か。
(5) 原告の損害額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(本件発明1は進歩性を欠くか。)
【被告らの主張】
本件発明1は,後記インド規格又は実開平3-50624号のマイクロフィルム
(以下「乙2公報」という。)を主引例とし,これに公知技術ないし周知技術等を
組み合わせることにより容易に想到できたものであるから,進歩性を欠く。
(1) 無効理由1(インド規格を主引例とする無効事由)
ア インド規格(IS:4968(パートⅡ))
「土と基礎」昭和57年6月号(乙8,以下「乙8文献」という。)及び「イン
ド規格」(乙11,以下「乙11文献」という。)は,本件発明の出願日(平成9
年3月31日)の前に日本又は外国において頒布された刊行物である。これらの文
献に掲載されているインド規格(IS:4968(パートⅡ),以下単に「インド
規格」という。)は,下端に雌ねじを形成したロッドと基端部に雌ねじを設けた貫
入試験の先端部のコーンとが,上下端部に雄ねじを設けた無頭ねじを介して螺合で
連結された貫入試験仕様の構造となっている。
イ 本件発明1とインド規格との対比
本件発明1とインド規格との実質的な相違点は,貫入試験の先端部がコーンであ
るかスクリューポイントであるかのみで,その他の構成において両者は共通する。
ウ 容易想到性
動的コーン貫入試験であれ,スウェーデン式サウンディング試験であれ,土質検
査としての試験方法であることは共通しているし,日本では,以前はJIS規格の
地中地質調査では先端部にコーンが使用されていたが,平成7年から,先端部がス
クリューポイントに変更されたというのであるから(「JIS」,乙12,以下「乙
12文献」という。),インド規格のコーンをスクリューポイントに変更すること
は自然な方向である。
そして,本件特許の出願前に頒布された「貫入試験と地盤調査」(乙1,以下「乙
1文献」という。)及び平乙2公報により,基端部に雌ねじを有するスクリューポ
イントは本件発明の出願前に公知であるから,土質貫入試験に関与する当業者にと
って,インド規格のコーンをスクリューポイントに置き換え,乙2公報に開示され
ている基端部に雌ねじを設けることに容易に想到し得る。
エ したがって,インド規格を主引例とし,乙1文献,乙2公報及び乙12文献を
組み合わせることにより,本件発明1は出願前の公知技術から容易に想到すること
ができたものとして進歩性を欠く。
(2) 無効理由2(乙2公報を主引例とする無効事由)
ア 乙2公報に開示された発明
乙2公報には,土質貫入試験での貫入の先端部にあるスクリューポイントの基端
部に雌ねじがあり,ロッドに設けた雄ねじと直接の螺合連結する構成の発明(以下
「乙2発明」という。)が開示されている。
イ 本件発明1と乙2発明との対比
本件発明1と乙2発明とは,スクリューポイントの基端部に雌ねじを設けた構成
において共通するが,ロッドとの連結方法において相違する。すなわち,本件発明
1では,雌ねじのあるスクリューポイントと雌ねじのあるロッドを無頭ねじで螺合
連結するのに対し,乙2発明では,雌ねじのあるスクリューポイントとロッドの先
に設けられた雄ねじにより直接螺合して連結している点で異なる。
ウ 容易想到性
(ア) インド規格の組合せ
インド規格は,地質の貫入部分であるコーンとロッドとの連結を,無頭ねじを介
して螺合連結することを開示しており公知である。そして,乙2発明とインド規格
は,土質調査の試験装置として共通しているから,乙2発明のロッドとスクリュー
ポイントの直接螺合連結に代えて,インド規格による無頭ねじを介してロッドとス
クリューポイントの螺合連結とすることは,貫入試験の当業者であれば,容易に想
到することができたものである。
(イ) 公知技術又は周知技術の組合せ
乙2発明において,ロッドに雌ねじを設けて無頭ねじで螺合連結すれば,ロッド
に雄ねじを設けたのと同じ構成となり,それをスクリューポイントの雌ねじと螺合
すれば,本件発明1と同じ構成になるが,以下のとおり,無頭ねじを用いた螺合連
結は,本件特許の出願前の公知技術あるいは周知技術である。
(公知技術)
a 標準貫入試験装置でロッドを連結するのにロッドカプリングで連結している
が,ロッドカプリングは無頭ねじであること(「図解ボーリング便覧」,乙16,
以下「乙16文献」という。)
b 土壌などの棒入度試験装置におけるロッドと構成部品の連結に無頭ねじが使
用されていること(米国特許第4332160号,乙9の101から108頁,乙
10の17,18頁)
(周知技術)
以下のとおり,一般的に継手手段として無頭ねじ部品を用いることは,本件特許
出願前から周知である。
a 鉄筋の連結で,無頭ねじが使われていること(特開平7-1336649号
公報,乙3,以下「乙3公報」という。)
b ワイヤー継手として無頭ねじが使用されていること(特開昭58-5034
4号公報,乙4,以下「乙4公報」という。)
c 鉄筋と継手の連結強度を高めるための無頭ねじが使用されていること(特開
平8-86047号公報,乙5,以下「乙5公報」という。)
d 炭素電極に炭素又は黒鉛の部材で電極継手を無頭ねじで連結していること
(特開平7-161472号公報,乙7,以下「乙7公報」という。)
e テーパー付外部ねじをテーパー付内部ねじで連結した管状カップリングで無
頭ねじが使用されていること(特表昭62-501515号公報,乙17,以下「乙
17公報」という。)
乙2公報には,スクリューポイントに雄ねじを設けロッドを雌ねじとして螺合し
ていた従来技術が開示されているが,ロッドの雌ねじをそのままとし,同じく雌ね
じのスクリューポイントを螺合連結する,すなわち,雌ねじ同士を連結するために
無頭ねじを使用することは前記のとおり公知あるいは周知の技術である。そうする
と,乙2発明のロッドの雄ねじについて,当該公知あるいは周知技術を適用するこ
とにより,ロッドに雌ねじを設け,これに両端が雄ねじの無頭ねじを螺合連結する
ことは貫入試験の当業者であれば容易に想到できる。
(ウ) その他の文献
有限会社協同技販作成の「スクリューポイントの件」と題する書面(乙6の2)
の参考資料1図1及び乙7公報にはロッドとコーンを無頭ねじで連結することが開
示され,第3025256号登録実用新案公報(乙18,以下「乙18公報」とい
う。)にはロッドとコーンを中間部材で連結することが開示されているところ,コ
ーンは土質試験を行うことで地中に貫入するロッドの先端に取り付けられた部材と
して本件特許のスクリューポイントと共通することから,当業者であれば,ロッド
とスクリューポイントとを無頭ねじ部品や中間部材で連結することは容易に想到で
きる。
エ したがって,本件発明1は,乙2発明に,上記ウ(ア)ないし(ウ)に記載の技術
あるいは発明を適用することにより,当業者であれば容易に想到することができた
ものとして進歩性を欠く。
【原告の主張】
(1) 被告ら主張の無効理由は,主引例又は副引例に適格性がないこと
ア サウンディングとは,ロッドに付けた抵抗体を地中に挿入し,貫入,回転,
引抜き等の抵抗から土層の性状を探査することであり,地下の土質性状としての硬
さや締り具合を連続的に調査するものであるが,多くの種類があり,対象とする地
盤の条件,調査目的,段階等により適切なものが選定される。また,サウンディン
グには,おもりや油圧等の荷重によって貫入させる静的なものと,衝撃によって貫
入させる動的なものとがある。
乙2公報に開示されている装置,部材は,静的サウンディングのうちのスウェー
デン式サウンディング試験に用いられる装置,部材であるが,インド規格について
は,動的コーン貫入試験方法という,コーンが使用され,スクリューポイントは使
用されない試験に用いられるものであるから,乙2公報を主引例とした場合,何ら
の課題も示唆されていないインド規格を副引例として適用するための動機付けとな
る基礎付け事情は認められない。すなわち,インド規格に副引例としても適格性は
ない。
イ 同様に,乙1文献は,スウェーデン式サウンディング試験の部材の記載はあ
るが,スクリューポイントの接続部付近の破損の問題や,各部材に要求される性質
等についての記載はなく,乙3ないし5及び乙7文献は,いずれも本件発明と技術
分野が全く異なり,本件発明の課題や乙2公報における課題とも異なるもので,こ
れら発明を乙2発明に適用する動機付けはない。
乙16文献及び乙17公報における装置と部材も,乙16文献におけるものは,
スクリューポイントを用いない標準貫入試験に用いるものであり,乙17公報にお
けるものは技術分野が異なるものであり,仮に構成に共通するものがあるとしても,
いずれの文献にも本件発明と同様の課題や目的に関する記載はされていない。
ウ 構成が一部共通することをもって引例の適格性を認めようとする原告の主張
は,事後分析的判断にほかならず許されないもので,いずれの引例も適格性がない。
(2) 被告ら主張に係る無効理由1について
ア 平成7年に日本の貫入試験のJIS規格において貫入試験で用いられる装置
の先端部がコーンからスクリューポイントに変更された旨の主張は否認する。日本
においては,貫入試験方法のJIS規格は,1種類だけでなく,複数存在し,しか
も,用いられる装置や部材は試験方法によってそれぞれ異なり,スウェーデン式サ
ウンディング試験方法のJIS規格は,昭和51年制定当初からスクリューポイン
トであって,コーンが記載されていたことはない。
イ また,インド規格は,本件発明1における構成要件Aが開示されておらず,
少なくとも①スクリューポイントでなくコーンを用いる点(相違点①),②動的コ
ーン貫入試験に適用されるものであり,荷重と回転力とによってロッド部材等を地
中に貫入する試験(静的貫入試験)に適用されるものではない点(相違点②)で異
なっている。
インド規格は,ハンマーの自由落下を利用してコーンを打ち込むもので,コーン
の外面が円錐状であることにより,打込み時にコーンが地中から受ける抵抗を可及
的に小さくしているものである。このような動的コーン貫入試験を前提とするイン
ド規格において,円錐状のコーンを乙1文献や乙2公報にあるドリル状のスクリュ
ーポイントに置換することは,地中から受ける抵抗が増大し,試験に支障を来すの
は明らかであるから,技術的に全く理にかなっていない。
その上,インド規格は,ベントナイトスラリーを循環させ,そのためコーンには
流路となる貫通孔が設けられているが,乙1文献及び乙2公報のスクリューポイン
トにはこのような貫通孔はない。インド規格のコーンをスクリューポイントに置換
すると,ベントナイトスラリーはスクリューポイントの上側にまでしか流れなくな
ってしまうことから,置換には阻害要因がある。
ウ コーンをスクリューポイントに置換することについては上記イのとおり動機
付けもなく却って阻害要因があるが,仮に置換することができたとしても,なお上
記イ②の点で相違する。
(3) 被告ら主張に係る無効理由2について
ア 本件発明1と乙2発明との相違点
本件発明1と乙2発明は,以下の3点において相違する。
(ア) 相違点1
本件発明1は,「(本体部の基端部に形成した)めねじに無頭ねじ部品を一端が
突合するように螺合し,この無頭ねじ部品をロッド部材に設けためねじに螺合して
連結するように構成した」のに対し,乙2発明は,「雌ねじ部21に継手ロッド3
に設けた雄ねじ部31が螺合して連結するように構成した」ものである点。
(イ) 相違点2
本件発明1の「無頭ねじ部品」は「ロッド部材」とは別体であるのに対し,乙2
発明の「雄ねじ部31」は「ロッド部材」の一部であって「ロッド部材」と別体の
部品でない点。
(ウ) 相違点3
本件発明1の「スクリューポイント」は,「ロッド部材」先端に取り付けられる
ことを前提とするものであって,「本体部」と(「本体部」と「ロッド部材」を連
結する)「無頭ねじ部品」を含めたものであるのに対して,乙2発明の「雄ねじ部
31」は,既に「ロッド部材」に設けられていて「ロッド部材」先端に取り付けら
れることを前提としていないのであるから,「スクリューポイント」には含まれな
い点。
イ 本件発明1と乙2発明の課題及び効果の相違
本件発明1と乙2発明とは,従来の技術として雄ねじ部を有するスクリューポイ
ントを挙げている点では共通しているが,その目的と効果は異なる。
本件発明1は,あくまでも「おねじ部を有するスクリューポイント」であること
を前提に,このスクリューポイントを本体部と「おねじ部」を司る無頭ねじ部品と
に分け,各部に異なった性質を備えることを目的(課題)として,効果を奏するも
のである。これに対して,乙2発明は,「雄ねじ部を有するスクリューポイント」
を用いるのをやめ,その代わりに「雌ねじ部を有するスクリューポイント」を用い
るようにしたものであって,この「雌ねじ部を有するスクリューポイント」におい
て,各部で異なった性質を備えるようにするといったことは,乙2に一切開示,示
唆されていない。
ウ 乙2発明は,従来技術の雄ねじを有するスクリューポイントと雌ねじを有す
るロッド雄ねじの雌雄を逆にしたものであり,このうち雌ねじのスクリューポイン
トをそのままにして,従来の雌ねじを有するロッドにわざわざ戻し,両者の直接の
連結を不可能にするというような動機付けは,乙2公報からは得られないのは明ら
かである。本件特許の出願に対する平成14年5月21日付け(発送日)の拒絶理
由通知書(甲25の3)における理由1(適用条文:特許法29条2項)は,乙2
発明を理由とするものであるが,原告が,乙2発明は,継手ロッドの下部に雄ねじ
部が一体的に形成されている点を開示するにとどまり,雄ねじ部に代えて無頭ねじ
部品とすることについては,何らの記載も示唆もない旨主張したところ,特許査定
がされたものである。
エ そうすると,乙2発明に接した当業者が,乙2発明における互いに連結され
る雄ねじと雌ねじの構造の一部を,あえて,被告らが主張するような連結に変更す
る動機付けはなく,当然に試みることでもない。
したがって,乙2公報を主引例とし,乙11文献及び乙8文献に記載されたイン
ド規格を適用しても,本件発明1に容易に想到し得るとはいえない。
また,被告らは,地質試験装置における継手手段として無頭ねじ部品を用いるこ
とは公知(乙16)であり,また周知(乙3ないし5,乙7)とするが,無頭ねじ
部品は,あくまで雌ねじと雌ねじとを連結するために用いられるものとして公知な
いし周知であるにすぎず,乙2発明においてその連結部分をあえて異なる連結技術
に変更する動機付けはない。
さらに,被告らは,ロッドとコーンを無頭ねじで連結することが開示されている
旨主張するが(乙6,7),そのような記載はない。また,乙18公報は,いわゆ
るスウェーデン式サウンディング試験を行うものではなく,また,本件発明と同様
の課題について何らの示唆もない。
オ いずれにしても,被告らの主張する乙2発明を主引例とした場合でも,被告
らの主張するいずれの文献によっても,相違点1ないし3に係る構成に当業者が容
易に想到し得たものではない。
2 争点(2)(本件発明2は進歩性を欠くか。)
【被告らの主張】
本件発明2は,前記1に加え,乙2公報を主引例として,これに後記乙19文献
を組み合わせることにより容易に想到できたものであるから,進歩性を欠く。
(1) 本件発明2と乙2発明と対比
本件発明2と乙2発明との相違点は,上記1【被告らの主張】(2)イに記載の本件
発明1との相違点に加え,本件発明2は,スクリューポイント本体部につき硬度が
高くなるように構成し,無頭ねじ部品は高い靭性を有するような構成であるのに対
し,乙2発明は,スクリューポイント本体部はクロムモリブデン鋼,セラミック等
の固い材料からなり,継手ロッドはS45C,SS41等の鋼材であると記載され
ている点で異なる。
(2) 容易想到性
乙2発明は,スクリューポイントが固い材料で作られているため,スクリューポ
イントの雄ねじ部分が根元から折れてしまうので,これを解決するため,スクリュ
ーポイントと雄ねじを分離したものである。このように,折損しないために雄ねじ
を分離したことは,雄ねじに靭性の高い材質を用いることを示唆しているといえる。
「土と基礎」(昭和39年7月号)(乙19,以下「乙19文献」という。)に
は,スウェーデン式サウンディング試験に用いられる試験用具において,ロッドの
連結部分に強ジン特殊鋼を用いることが開示されているところ,同金属は,靭性の
高い材質であることは技術常識といえることから,スウェーデン式サウンディング
試験用具の連結部に高い靭性の材料を用いることは本件特許出願前から知られてい
たことである。
そうすると,乙2発明に乙19文献に記載の技術を適用することで,当業者であ
れば,本件発明2に容易に想到することができたものである。
したがって,本件発明2も,進歩性を欠く。
【原告の主張】
争う。
被告ら主張に対する反論は,前記1【原告の主張】欄に記載したとおりである。
すなわち,乙2発明において,無頭ねじ部品を有していない点で異なることに変わ
りはない。
(1) 被告らは,乙2公報において,折損しないために雄ねじを分離したことは,
雄ねじに靱性の高い材質を用いることを示唆しているといえる旨主張するが,その
根拠が不明である。
(2) 乙19文献(26頁右下欄の「2.2ロッド」欄)においては,ロッドの連
結部に強ジン特殊鋼を用いていると断定しているのではなく,その「試みがなされ
ている」ことを示しているにすぎず,この試みが成功したのか否か,そもそもこの
試みを行うこと自体が合理的であったのか否かといったことは不明であり,また,
同記載が直ちに,ロッドの連結部以外のスウェーデン式サウンディング試験用具の
連結部においても高い靱性を有する材料を用いることを示唆している,と拡張して
解釈されるべき理由はない。
さらに,上記記載において,強ジン特殊鋼を用いることを試みているロッドの連
結部とは,具体的にどの部分を指すのかが不明であり,例えば,ロッドの連結部と
して雄ねじ部付近を考えた場合でも,この連結部が具体的にどの範囲までを含むの
かを,例えば,ねじ山部分のみを指すのか,本体部から突出している部分全体を指
すのか,明確に理解することはできない。しかも,いずれのように解した場合でも,
強ジン特殊鋼を用いた部分とそうでない部分との境界で折損等しやすくなるという
デメリットがある。
そもそも,乙19文献には,乙2と同じく,無頭ねじ部品を用いることは開示も
示唆もされていない。
以上のとおり,本件発明2は,独自の構成よりなるもので,これらの文献から本
件発明2に想到するための動機付けは得られない。
3 争点(3)(上記(1),(2)に対する訂正の再抗弁の成否)
【原告の主張】
(1) 原告は,本件特許の特許請求の範囲の記載につき前記第2の1(6)イの【請求
項1】及び【請求項2】のとおりとする本件訂正請求を行ったのであるから,仮に
本件特許に被告らが主張する無効理由が存するとしても,その無効理由は解消して
いる。
(2) 訂正要件の充足
本件訂正は,特許請求の範囲の減縮あるいは明瞭でない記載の釈明(特許法13
4条の2第1項ただし書1号,3号)を目的とするものであり,実質上特許請求の
範囲を拡張し又は変更するものでもなく,願書に添付した明細書,特許請求の範囲
又は図面に記載した事項の範囲の訂正である(同法134条の2第9項で準用する
126条6項,5項)。
したがって,本件訂正は特許法上の訂正要件を充足している。
(3) 本件訂正発明1及び本件訂正発明2の進歩性
ア 本件訂正発明1について
(ア) 被告らが主張する主引例及び副引例は,前記1【被告らの主張】のとおりで
あるが,同【原告の主張】(1)において主張するとおり,本件訂正発明1及び2につ
いても,それらの先行技術には主引例又は副引例としての適格性がない。
(イ) インド規格を主引例とする無効事由
本件訂正発明1とインド規格との相違点は,前記1【原告の主張】(2)イ記載の本
件発明1に係る相違点①及び②と同様の相違点に加え,本件訂正発明1のスクリュ
ーポイントは,「一端に有底のめねじ,他端におねじが一体形成された所定の長さ
のロッド部材」の雌ねじに取り付けられるのに対し,インド規格のコーンは,「ベ
ントナイトスラリーを循環させるための貫通孔が設けられたロッド部材」に取り付
けられる点 (相違点③)において相違する。
そして,少なくとも相違点③については,乙11文献記載の構成はベントナイト
スラリーを循環させることが必要不可欠であるから,本件訂正発明1の,「一端に
有底のめねじ,他端におねじが一体形成された所定の長さのロッド部材」の雌ねじ
に取り付けることに,阻害事由があることは明らかである。
(ウ) 乙2発明を主引例とする無効理由
本件訂正発明1と乙2発明との相違点は,前記1【原告の主張】(3)ア記載の3点
に加え,本件訂正発明1のスクリューポイントは,ロッド部材の雌ねじに取り付け
られ,ロッド部材の雄ねじに他のロッド部材の雌ねじを連結して延長可能に構成さ
れるのに対し,乙2発明のスクリューポイントは,ロッド部材の雄ねじに取り付け
られ,ロッド部材の雌ねじに他のロッド部材の雄ねじを連結して延長可能に構成さ
れる点(相違点4)において相違する。
本件訂正発明1は,相違点1ないし4に係る構成を備えることにより,本件明細
書における【発明の詳細な説明】【0003】【発明が解決しようとする課題】に
記載された課題を解決し,同【0010】【発明の効果】に記載された「(スクリ
ューポイントの各部,すなわち本体部とねじ部に要求される,)それぞれに必要な
性質を確保することができる」との効果を奏する。
しかし,乙2発明は,「雄ねじ部を有するスクリューポイント」であることを前
提とする本件訂正発明1とは異なり,ロッド部材の雄ねじを利用することを前提に
「雌ねじ部を有するスクリューポイント」を用いるようにしたものである。そのた
め,乙2発明のスクリューポイントは,各部で異なった性質を備えるようにすると
いったことを目的としておらず,また,そうした作用効果を奏するものでもない。
しかも,乙2発明は,従来のスクリューポイントでは雄ねじ部が折れてしまうこと
を問題としているが,この雄ねじ部を継手ロッド側に設けた場合,継手ロッドに設
けた雄ねじ部が折れてしまうおそれが生じることについては全く考慮していないも
のといえる。
これに対して,本件訂正発明1では,例えば,無頭ねじ部品の靱性をロッド部材
より高めることにより,スクリューポイントのみならずこのスクリューポイントに
連結されるロッド部材の折損をより積極的に防止することができるのであって,か
かる作用効果は乙2発明では決して奏することはできない。さらに,地質試験装置
における継手(連結)手段として無頭ねじ部品を用いることは公知であり,また,一
般的に継手(連結)手段として無頭ねじ部品を用いることは周知であるとしても,無
頭ねじ部品は,あくまでも雌ねじと雄ねじを連結するために用いられるものとして
公知ないし周知であるにすぎないから,雄ねじと雌ねじを連結する乙2発明に無頭
ねじ部品を用いることは,当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
イ 本件訂正発明2について
乙2発明と本件訂正発明2は,前記本件訂正発明1の記載と同様,無頭ねじ部品
を有していない点で相違する。
一方,本件訂正発明2には,本体部の硬度を特定する発明特定事項(「本体部は
無頭ねじ部品に対して硬度が高くなるよう構成し,」)と,無頭ねじ部品の靱性を
特定する発明特定事項(「無頭ねじ部品は本体部に対して高い靭性を有するように
構成した」)とが含まれ,このうち,前者の発明特定事項では,無頭ねじ部品の硬
度を基準にして本体部の硬度が特定されている。
したがって,無頭ねじ部品を有していない乙2発明では,この無頭ねじ部品の硬
度を基準にして本体部の硬度を特定する前者の発明特定事項も,無頭ねじ部品自体
の靱性を特定する後者の発明特定事項も含まれていないことは明らかである。すな
わち,乙2発明には,本件訂正発明1に存在せず本件訂正発明2のみに存在する発
明特定事項は全く含まれていない。
また,本件訂正発明2のみに存在する発明特定事項は,いずれも無頭ねじ部品に
関連するものであるから,無頭ねじ部品を用いることが一切記載されていない乙2
公報に,本件訂正発明2のみに存在する発明特定事項の示唆がないことは明らかで
ある。
ウ 以上によれば,本件訂正発明1及び2には被告らの主張する無効理由はない。
【被告らの主張】
原告の主張は争う。
本件発明1の構成要件Aは,単に本体部がロッド部材先端に取り付けられるとし
ているのに対し,本件訂正後の本件訂正発明1においては,ロッドとロッドのねじ
連結により,ロッドの延長可能として構成されたものというのであるから,ロッド
部材のねじ連結による延長可能とすることを主張するもので,明らかに拡張であり,
本件訂正は無効である。また,本件発明2においても,本件訂正は,下限を設定し
たものであるから,訂正前の範囲を超えたものということができ,無効である。
また,本件訂正発明に無効事由が存することは,前記1及び2の各【被告らの主
張】欄記載のとおりである。
4 争点(4) 被告P1及び同P2は会社法429条1項又は不法行為に基づく責
(
任があるか。)
【原告の主張】
(1) 被告P1の行為
ア 会社法429条1項に係る任務懈怠と重過失
被告P1は,被告G.Eの代表取締役として,被告G.Eがする製品の販売等が
他人の特許権を侵害するものでないか十分な調査を行った上で取引の可否を決すべ
き善管注意義務ないし忠実義務を負っていた(会社法355条,同330条,民法
644条)にもかかわらず,平成20年11月15日以前において,かかる義務に
違反して十分な調査を行うことなく,被告G.Eがイ号物件を販売するよう業務決
定を行った点は,任務懈怠に該当する。建設産業機械及びその部品の製造販売並び
にその輸出入を業とする株式会社の代表取締役の地位にある被告P1の上記義務違
反の程度は著しく,上記任務懈怠について重過失が存することは明らかである。
また,被告P1は,被告G.Eが販売する製品が他人の特許権を侵害することを
認識している場合は,直ちにその販売を中止すべき善管注意義務ないし忠実義務を
負っていた。ところが,被告P1は,同日には,被告G.Eによるイ号物件の販売
が原告の本件特許権を侵害することを認識していたのであるから,翌日以降,被告
G.Eにおけるイ号物件の販売を中止すべきであったのに,これを行わなかった点
は,任務懈怠に該当し,この点につき被告P1が悪意であることは明らかである。
イ 民法709条に係る不法行為と,故意・過失
上記被告P1の行為は,民法709条に基づく不法行為にも該当し,本件特許権
に対する侵害について,平成20年11月15日までにおいては過失,その後にお
いては故意が存する。
(2) 被告P2の行為
ア 被告P2が被告G.Eの事実上の(代表)取締役であること
被告P2は,被告G.Eがその事業の全部又は一部を承継した倒産会社株式会社
アイティーエムの元代表取締役であり,被告G.Eのオーナーとして,同社の事業
に精通していた。
また,被告P2は,被告G.Eの営業顧問なる立場において,同社が本件特許権
を侵害していることに関して,平成20年12月から平成21年3月にかけて,原
告が被告G.Eに対して送付した文書に回答し,被告P1と共に原告会社を訪問す
るなどして,率先して対応に当たった。そして,同月30日付和解契約においては,
被告P2も契約書に記名捺印を行ったもので,被告P2は,被告G.Eの業務の運
営や執行について,代表取締役に匹敵する権限を有し,これに準ずる活動をしてい
たものであり,被告G.Eの事実上の(代表)取締役の地位を有していたといえる。
イ 会社法429条1項類推適用に係る任務懈怠と重過失
被告P2は,被告G.Eの事実上の(代表)取締役として,被告P1と同様,同
社が販売等しようとする製品が他人の特許権を侵害するものでないか十分な調査を
行った上で取引の可否を決すべき善管注意義務ないし忠実義務を負っていたにもか
かわらず,平成20年11月15日以前において,かかる義務に違反して十分な調
査を行うことなく,同社がイ号物件を販売するよう業務決定を行った点は,任務懈
怠に該当する。建設産業機械及びその部品の製造販売並びにその輸出入を業とする
株式会社の事実上の(代表)取締役の地位にある被告P2の上記義務違反の程度は
著しく,上記任務懈怠について重過失が存する。
さらに,被告P2は,被告G.Eの事実上の(代表)取締役として,同社による
製品の販売が他人の特許権を侵害することを認識している場合は,当該製品の販売
を中止すべき善管注意義務ないし忠実義務を負っていたが,被告P2は,かかる義
務に違反し,遅くとも平成16年8月26日には,本件特許権の存在を認識し(甲
4,甲5),同時点より後に設立された被告G.Eがイ号物件を販売することが本
件特許権を侵害することも認識していたのであるから,平成20年11月16日以
降,被告G.Eにおいてイ号物件の販売を中止すべきであったのに,これを行わな
かった点は,任務懈怠に該当し,被告P2が上記任務懈怠について悪意であったこ
とは明らかである。
ウ 民法709条に係る不法行為と,故意・過失
上記イの被告P2の行為は,民法709条の不法行為にも該当し,本件特許権に
対する侵害について故意又は過失が存することは明らかである。
【被告P1及び同P2の主張】
(1) 被告P1の行為について
否認ないし争う。
(2) 被告P2の行為について
書面のやり取りや和解契約を締結した事実については認めるが,その余について
は,否認ないし争う。
(3) いずれにしても,本件特許は進歩性がなく無効であるから,忠実義務違反は
なく,不法行為は成立しない。
5 争点(5)(原告の損害額)
【原告の主張】
(1) 被告田井精機は,平成20年11月16日以降,業としてイ号製品を9万個
製造し,これを被告G.Eに販売し,同被告は,業としてこれを仕入れて販売した。
原告は,本件発明の実施品を販売しているところ,同製品の1個当たりの利益は
895円であり,被告田井精機の上記製造量は原告の実施の能力の範囲内である。
したがって,被告らの行為によって原告の受けた損害の額は,特許法102条1
項により8055万円である。
(2) 本件訴訟と因果関係のある弁護士費用及び弁理士費用は805万5000円
である。
【被告らの主張】
否認ないし争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件発明1は進歩性を欠くか。)及び(2)(本件発明2は進歩性を
欠くか。)について
(1) 本件明細書の記載
本件明細書には,次の記載がある(甲2,別紙図面目録記載1参照)。
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,地中に軸状のロッド部材を貫入して各種デー
タを採取する地質調査試験において,ロッド部材の先端に連結されて地中に貫入さ
れるスクリューポイントに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来,土地の地耐力を調査するために,貫入ロッドに荷重と回転と
を付加して地中に貫入し,所定深度毎の貫入ロッドの半回転数(貫入ロッドの半回
転を1として計数した回転回数),荷重などのデータを元にその土地の地層構造を
判定する,いわゆるスウェーデン式サウンディング試験が一般に広く行われている。
図5に示すように,この試験において使用される貫入ロッド50は,所定の長さの
ロッド部材51と,このロッド部材51の先端に取り付けられるスクリューポイン
ト52とから構成されている。前記ロッド部材51には,一端におねじ(図示せず),
他端にめねじ51aが形成されており,図示しない同一構成の他のロッド部材を継
ぎ足し可能に構成されている。また,前記スクリューポイント52は,日本工業規
格(JIS規格)に準じて製作されるものであり,略四角錘形状の素材をねじって
先端尖鋭なドリル状に成形されている。このスクリューポイント52の基端面には,
おねじ52aが一体に突出成形されており,前記ロッド部材51のめねじ51aを
螺合して連結可能に構成されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】一般にスクリューポイントには,ドリル状を成す
表面的な部分は,貫入時に土砂,礫などとの接触で摩耗し易いため,硬さが求めら
れ,一方ロッド部材に接続されるおねじ部近辺は貫入時の衝撃的な曲げモーメント,
あるいは回転トルクによる引っ張り応力などで破損することがないように強度およ
び靱性が求められる。しかしながら,上記従来のスクリューポイントは,ドリル状
部分もおねじ部も全て同一材料で一体に構成されているため,前述のような性質を
両立させることが極めて困難である等の問題が発生している。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は上記課題に鑑みて創成されたものであり,
各部に要求されるそれぞれ異なった性質を備えるスクリューポイントを提供するこ
とを目的とする。この目的を達成するため,本発明は,地質の調査を行う試験に際
して所定の長さのロッド部材先端に取り付けられ,所定の荷重と,必要に応じて付
与される回転とによってロッド部材と一体に地中に貫入されるスクリューポイント
であって,先端尖鋭な本体部を有し,この本体部の基端部にめねじを形成し,この
めねじに無頭ねじ部品を一端が突出するように螺合し,この無頭ねじ部品をロッド
部材に設けためねじに螺合して連結するように構成されている。前記本体部は,そ
の硬度が高くなるよう構成されており,また,前記無頭ねじ部品は高い靱性を有す
るように構成されている。
【発明の実施の形態】
・・・
【0006】前記貫入ロッド200は,図1ないし図3に示すように,所定の長さ
に構成されたロッド部材210と,このロッド部材210先端に取り付けたスクリ
ューポイント1とから構成されている。前記ロッド部材210には,その一端にめ
ねじ211が,また他端にはおねじ212がそれぞれ一体形成されており,同一構
成からなる他のロッド部材(図示せず)のめねじをおねじ212に螺合させて長さ
を延長可能に構成されている。また,前記スクリューポイント1は,先端先鋭なド
リル状の本体部2を有し,この本体部2の基端面には前記ロッド部材210のめね
じ211と同一構成を成すめねじ3が中心線上に延びて形成されている。この本体
部2のめねじ3には,スタッドボルトなどの無頭ねじ部品4が螺合されており,こ
の無頭ねじ部品4に前記ロッド部材210のめねじ211を螺合させて連結可能に
構成されている。
【0007】前記スクリューポイント1の本体部2は,SCM材などの焼入れ可能
な材料からなり,実際に焼入れが施されてその硬度が高められている。また,前記
無頭ねじ部品4もSCM材によって構成されているが,この無頭ねじ部品4には,
靱性が高くなるよう熱処理が施されている。
【0008】上記構成の自動貫入試験機100は,貫入ロッド200に所定の荷重
を負荷しつつ,必要に応じて回転を加えて地中に貫入し,この貫入ロッド200が
所定量貫入するごとに,その時の荷重とそれまでの回転回数とをデータとして収集
する,いわゆるスウェーデン式サウンディング試験に準拠する貫入試験を行うもの
である。・・・この貫入試験では,貫入ロッド200が所定量貫入する毎に,所定
量貫入するに要した貫入ロッド200の半回転数(貫入ロッドの半回転を1として
計数した回転回数)と,所定量貫入した時点における荷重値とが試験データとして
記録される。なお,このようにして得られた試験データは,その試験地の地質を判
定するための判定基準として用いられる。
【0009】前述のように貫入ロッド200を地中に貫入する場合,スクリューポ
イント1には岩盤,礫などとの接触による衝撃的な曲げモーメント,回転時の回転
トルクによる引っ張り応力などが作用するが,無頭ねじ部品4は靱性が高いため,
このような曲げモーメント,引っ張り応力などに耐え得る。また,前述のモーメン
ト,応力のみならず,スクリューポイント1には礫土との摩擦も作用するが,本体
部2は焼入れを行うことにより硬度が高められているため,礫土との摩擦によって
も容易に摩滅することがない。このように,本スクリューポイント1は,その構成
部品(本体部2および無頭ねじ部品4)を別個に製作することでそれぞれに必要な
特性が確保されているのである。
【0010】
【発明の効果】以上説明したように本発明のスクリューポイントは,ドリル状の本
体部にめねじを形成し,このめねじに無頭ねじ部品を螺合することによって構成さ
れている。このため,本体部,無頭ねじ部品を別個に製作してそれぞれに必要な性
質を確保することができる等の利点がある。したがって,無頭ねじ部品には高い靱
性を持たせて曲げモーメント,引っ張り応力などによる折損を防止するとともに,
本体部には焼入れなどの熱処理を施して硬度を高め,貫入時の摩滅を抑えることが
できる等の利点がある。
(2) 引用発明(乙2発明)について
ア 乙2公報には,次の記載がある(乙2,乙21,別紙図面目録記載2参照)。
(ア) 「(産業上の利用分野)
本考案は,土層に差し込んで土質を測定するのに用いられる土質貫入試験杆に関
する。」(明細書1頁18~20行)
(イ) 「(従来の技術)
一般に,建築物を建てる場合・・・地盤の調査を行う。・・・
この調査には,一般にスエーデン式の土質貫入試験杆が使用される。
この試験杆は,第5図に示すように,スクリュウーポイントaに継手ロッドbを
結合して,この継手ロッドbの上方に装着された台板c上に,所定の重さの載荷板
d…を取手eを持って載せ,継手ロッドbの上端に装着されたハンドルfを回転さ
せて,調査しようとする箇所の土地に前記スクリュウーポイントaと継手ロッドb
を貫入させ,各荷重段階での貫入量及び一定重量載荷し回転させて一定深さ貫入さ
せるに要する回転数を測定することによって,その地点における土層(地盤)の土
質(強度)を測定する。
・・・
従来の前記スクリュウーポイントaと継手ロッドbの結合形態は,第6図に示す
ようにスクリュウーポイントaの上端に雄ねじ部a1が突出されていて,この雄ね
じ部a1に第7図に示すように継手ロッドbの下端に設けられた雌ねじ部b1が螺
合されることにより結合されるようになっていた。」(同2頁1行~3頁13行)
(ウ) 「(考案が解決しようとする課題)
ところが,スクリュウーポイントaはクロムモリブデン鋼やセラミック等の固い
材料で形成されているものであるために,前記雄ねじ部a1が根本から折れてしま
う場合があった。このように,雄ねじ部a1が折れてしまうとこのスクリュウーポ
イントaは使用不可能となってしまう欠点があり,しかもスクリュウーポイントa
は一般に高価なものであるために経済的損失が大きいといった問題点があった。
本考案は,上記従来の実情に鑑みて,前記課題を解決するためになされたもので
あって,その目的とするところは,スクリュウーポイントに従来設けられていた雄
ねじ部をなくして,代わりにスクリュウーポイントに雌ねじ部を設けるとともに,
継手ロッドに雄ねじ部を設けてこれらスクリュウーポイントと継手ロッドとを結合
するように構成することにより,スクリュウーポイントの長期使用ができ,経済的
に有利である土質貫入試験杆を提供することにある。」(同3頁14行~4頁13
行)
(エ) 「(課題を解決するための手段)
本考案は,ハンドルと,捩り角錐形状のスクリュウーポイントと,前記ハンドル
とスクリュウーポイントとの間に配される複数本の継手ロッドとを備え,定量の載
荷板を載荷して土層に差し込んで回転させることによって土質を測定するのに用い
られる土質貫入試験杆であって,下端に配置される前記スクリュウーポイントの上
部に雌ねじ部が設けられ,このスクリュウーポイントに結合される継手ロッドの下
部に前記雌ねじ部に螺合される雄ねじ部が設けられているものである。」(同4頁
14行~5頁4行)
(オ) 「(作用)
まず,土層(地盤)の土質を測定するときに,スクリュウーポイントの上部に設
けられた雌ねじ部に継手ロッドの下部に設けられた雄ねじ部を螺合してスクリュウ
ーポイントと継手ロッドとを結合する。次に,継手ロッドの上部に定量の載荷板を
載荷し,この継手ロッドの上端にハンドルを取りつける。
このようにした状態で,前記スクリュウーポイントを土層に差し込んでハンドル
を回転させながら,その箇所の土層(地盤)の土質(強度等)を測定する。」(同
5頁5~16行)
(カ) 「(実施例)
以下,本考案に係る土質貫入試験杆の実施例について図面に基づいて説明する。
第1図は土質貫入試験杆のスクリュウーポイントの斜視図,第2図は土質貫入試
験杆のスクリュウーポイントと継手ロッドとハンドルを示す分解斜視図,第3図は
スクリュウーポイントと継手ロッドとの結合状態を示す要部の断面図,第4図は土
質貫入試験杆の全体構造を示すものであって,土層に差し込んだ状態の正面図であ
る。
この土質貫入試験杆は,ハンドル1と,クロムゼリブデン鋼,セラミック等の固
い材料からなる捩り角錐形状のスクリュウーポイント2と,前記ハンドル1と捩り
角錐形状のスクリューポイント2との間に配され,S45C,SS41等の鋼材か
らなる複数本の継手ロッド3・・・と,最上段の継手ロッド3・・・に装着される
台板4と,この台板4上に載荷され取手51を有する所定の重さ(普通100kg)
の載荷板5・・・とからなるものである。
本考案では,前記スクリューポイント2の上部に雌ねじ部21が設けられ,この
スクリュウーポイント2に結合される継手ロッド3の下部に前記雌ねじ部21に螺
合される雄ねじ部31が設けられている。
更に,この継手ロッド3の上部には,この継手ロッド3に結合される他の継手ロ
ッド3の雌ねじ部21に螺合される雌ねじ部32が設けられている。
また,前記スクリュウーポイント2の上端部分両側には,スパナ等の工具を係止
するための切欠段部22,22が形成されている。
尚,11はハンドル1の中央部下方向きに設けられ,前記継手ロッド3の雌ねじ
部32に螺合される雄ねじ部である。」(同5頁17行~7頁10行。なお,本項
7行目にある「クロムゼリブデン鋼」は「クロムモリブデン鋼」の,同17行目の
「雌ねじ部21」は「雄ねじ部31」の誤記であると解される。)
(キ) 「(考案の効果)
以上説明したように,本考案によれば,下端に配置される前記スクリュウーポイ
ントの上部に雌ねじ部が設けられ,このスクリュウーポイントに結合される継手ロ
ッドの下部に前記雌ねじ部に螺合される雄ねじ部が設けられていることにより,従
来,スクリュウーポイントに雄ねじ部が設けられていたもののように,雄ねじ部が
折れてスクリュウーポイントが使用不可能となるようなことがない。
このことにより,スクリュウーポイントの長期使用ができ,経済的に有利である
等の効果を奏する。」(同8頁20行~9頁12行)
そのほか,乙2公報の第1図には,「スクリュウーポイント2」の斜視図が図示
されており,「スクリュウーポイント2」は先端尖鋭な形状であり,「スクリュウ
ーポイント2」の基端部に「雌ねじ部21」が形成されている。また第2図には,
土質貫入試験杆の分解斜視図が図示されており,「継手ロッド3」は,所定の長さ
を有し,複数の「継手ロッド3」が連結されている。
イ 乙2発明について
上記ア記載及び図示内容からすれば,乙2公報は,次の発明(乙2発明)を開示
しているといえる。
「スウェーデン式サウンディング試験に際して,一端に雄ねじ部31,他端に雌
ねじ部32が設けられた所定の長さのS45C,SS41等の鋼材からなる継手ロ
ッド3の雄ねじ部31に取り付けられ,継手ロッド3の雌ねじ部32に他の継手ロ
ッド3の雄ねじ部31を連結して延長可能に構成され,所定の重さと,回転とによ
って継手ロッド3と一体に地中に貫入されるスクリュウーポイント2であって,ス
クリュウーポイント2は先端尖鋭な形状であってクロムモリブデン鋼,セラミック
等の固い材料からなり,このスクリュウーポイント2の基端部に雌ねじ部21を形
成し,この雌ねじ部21に継手ロッド3の雄ねじ部31が螺合して連結するように
構成したスクリュウーポイント。」
(3) 本件発明と乙2発明との対比
ア 一致点
本件発明と乙2発明は,次の点で一致している。
「スウェーデン式サウンディング試験に際して,所定の長さのロッド部材に取り
付けられ,所定の荷重と,回転とによってロッドと一体に地中に貫入されるスクリ
ューポイントであって,スクリューポイントは先端尖鋭な本体部を有し,この本体
部の基端部に雌ねじ部を螺合し,このねじ部でロッド部材を連結するように構成し
たスクリューポイント。」
イ 相違点
本件発明1は,次の相違点1で乙2発明と相違し,本件発明1に従属して本件発
明1の全ての発明特定事項を含んでいる本件発明2は,これに相違点2を加えた2
点で乙2発明と相違している。
(ア) 相違点1
ねじ部について,本件発明は,「本体部の基端部に形成しためねじに無頭ねじ部
品を一端が突出するように螺合し,この無頭ねじ部品をロッド部材のめねじに螺合
して連結するように構成した」のに対し,乙2発明は,「雌ねじ部21に継手ロッ
ド3の雄ねじ部31が螺合して連結するように構成した」ものである点。
(イ) 相違点2
本件発明2は,「本体部は硬度が高くなるよう構成し,また無頭ねじ部品は高い
靱性を有するように構成したことを特徴とする」のに対し,乙2発明は,「スクリ
ュウーポイント2(スクリューポイントの本体部)」は「クロムモリブデン鋼,セ
ラミック等の固い材料」からなり,「継手ロッド3は,S45C,SS41等の鋼
材からなる」という点。
ウ なお,原告は本件発明と乙2発明の相違点を異なる観点で特定しているが,
その主張に係る相違点1ないし3(前記第3の1【原告の主張】(3)ア(ア)ないし(ウ))
は,その趣旨は上記相違点1に含まれているということができる。
(4) 本件特許出願時の公知技術等
本件特許出願時の公知技術,周知技術として以下のものが存する。
(公知技術)
ア 乙16文献
(ア) 本件出願前に頒布された地質調査の技術に関する便覧である乙16文献に
は,次の事項が記載されていることが認められる(乙16)。
「土の標準貫入試験方法」(104~107頁)についての記載がされており,
「標準貫入試験装置」の図(105頁)には,「標準貫入試験用サンプラ」と「ボ
ーリングロッド」とが連結されていることが図示されている。
「(a)スプリットバレルサンプラ」の図(106頁)には,「コネクターヘッ
ド」と「ロッド」とを「ロッドカップリング」で連結していることが図示されてい
る。
「ノッキングヘッド」の図(107頁)には,「ロッドカップリング」が図示さ
れており,「ロッドカップリング」が無頭ねじの構造であることが理解できる。
(イ) 上記記載からすれば,乙16文献には,「標準貫入試験装置におけるサンプ
ラのコネクターヘッドとロッドとを連結するロッドカップリングが無頭ねじである
構造。」(以下「乙16発明」という。)が記載されていると認められる。
イ 米国特許第4332160号(米国特許)
(ア) 本件出願前に公開された米国特許には,次の記載がされている(乙9の10
1から108頁,乙10の17,18頁)。
「この発明は,土壌などの棒入度試験装置に関する。」
「図5は雄ネジを螺刻した結合部33を示し,この結合部33は,ロッド32が
雌ネジ結合部を設けていればこのロッド32が連結するために,または,遭遇する
様々なロッドおよび構成部品に必要なその他のあらゆる連結に使用できる。」
そして,同特許のFIG.5(図5)(乙9の103頁)には,「結合部33」
が図示されており,「結合部33」は無頭ねじの構造であることが理解できる。
(イ) 上記記載からすれば,上記米国特許には,「土壌などの棒入度試験装置にお
けるロッド及び構成部品の連結に使用できる結合部33が無頭ねじである構造。」
(以下「乙10発明」という。)が記載されている。
(周知技術)
ウ 特開平7-133649号公報(乙3公報)
(ア) 本件出願前に頒布された乙3公報には,次の事項が記載されていることが認
められる(乙3,別紙図面目録記載3参照)。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は鉄筋の締結に使用するための鉄系形状記憶合金を
用いた継手に関する。」
「【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は鉄筋の締結作業が特別な技能を要せず
締結工具も使わずに,狭所や高所においても簡単に作業でき,かつ信頼性の高い締
結ができる継手を提供する。特に構造物の規模が大きくなり,太径ものの鉄筋が使
用される場合にも特別な困難を伴わずに容易に施工できるものとすることを課題と
した。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は,少なくとも端部にねじを有する鉄筋用
の継手であって,鉄系形状記憶合金製円筒の内面に雌ねじが形成されており,加熱
によって円筒内径が収縮する方向に形状記憶処理が行なわれている鉄筋用継手,な
らびに雌ねじ部を有する締結用スリーブを端部に固定された鉄筋の締結に使用する
継手であって,鉄系形状記憶合金製棒材の両端に雄ねじが形成されており,加熱に
よって棒の直径が拡がる方向に形状記憶処理が行なわれている鉄筋用継手である。」
「【0025】実施例3
D29サイズの鉄筋端部にS45C製で外径45mm,長さ150mm のスリーブ
を,鉄筋に90mm だけ被せた状態でダイスを通して引き抜いて固定をした。次に鉄
筋に固定したのと反対側のスリーブ内面に,端部から中央に向かってM36のメー
トル並目雌ねじ(JIS-B-205)を切削加工した。このような予備加工を施
した鉄筋に対して,32%Mn-6%Siを含有する鉄ベースの鉄系形状記憶合金
で製作したボトル形状の継手を用いて締結することを試みた(図1(c))。」
図1の(c)には,継手3により鉄筋30を連結する構造が図示されており,継
手3は無頭ねじの構造であることが理解できる。
(イ) 以上の記載からすれば,乙3公報には,「鉄筋30を連結する継手3が無頭
ねじである構造。」が記載されていると認められる。
エ 特開昭58-50344号公報(乙4公報)
(ア) 本件出願前に頒布された乙4公報には,次の事項が記載されていることが認
められる(乙4,別紙図面目録記載4参照)。
「以下,この発明の一実施例について第1図ないし第4図を参照して説明する。
このワイヤー継手は,一方のワイヤー1の一端部に取り付けられるカラー2と,他
方のワイヤー3の一端部に取り付けられるカラー4と,これら両カラー2,4を接
続するカラー接続部材5とからなつている。」(2頁右上欄6行~同11行)
「カラー接続部材5の中央部には周縁部にローレツト加工がなされたつば部12
が設けられ,またつば部12の両端には右おねじ部13および左おねじ部14がそ
れぞれ軸線方向に延びるように設けられている。なお,これら右おねじ部13およ
び左おねじ部14は前記カラー2,4のめねじ部7,10にそれぞれ螺合されるよ
うになされている。また,カラー接続部材5のおねじ部13,14の側部には前記
カラー2,4の貫通孔8,11と同径の貫通孔15,16がそれぞれ設けられてい
る。」(2頁左下欄3行~同13行)
第1図には,ワイヤー継手が縦断側面図として図示されており,カラー接続部材
5は,両端に右おねじ部13と左おねじ部14とを有する無頭ねじの構造であるこ
とが理解できる。
(イ) 上記記載からすれば,乙4公報には「ワイヤー1,2を連結するカラー接続
部材5が無頭ねじである構造。」が記載されていると認められる。
オ 特開平8-86047号公報(乙5公報)
(ア) 本件出願前に頒布された乙5公報には,次の事項が記載されていると認めら
れる(乙5,別紙図面目録記載5参照)。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,建築,土木等の分野において鉄筋コンクリート
構造体の打ち継ぎ工法等に用いられる鉄筋連結装置に関する。」
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】前者の方法では,鉄筋と継手の連結強度を高め
るために大きなトルクでロックナットを締め付けなければならず,打ち継ぎ現場に
おいて大型の締付装置を必要とし,作業性が悪かった。後者の工法では,注入管を
必要とするため継手の構成が複雑であった。」
「【0005】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため,請求項1~4の発明に
係わる鉄筋連結装置は,一対の端継手と1つの中央継手とを備えている。・・・
(略)・・・」
「【0007】
【実施例】以下,本発明の第1実施例を図1を参照して説明する。図1において,
符号10は,ねじ鉄筋1,2を連結するための鉄筋連結装置10を示す。鉄筋連結
装置10は,一対の端継手11,12と,1つの中央継手13とを備えている。端
継手11,12は,それぞれ筒形状をなし,全長にわたって六角形の断面形状を有
しており,その外周が工具掛け部11x,12xとなっている。なお,中央部にの
み工具掛け部を有し,その両側部を円筒部としてもよい。」
「【0011】 上記中央継手13は,中央部に断面六角形の工具掛け部13xを
有し,この工具掛け部13xの両側に互いに一直線をなして延びる一対の雄ねじ部
13a,13b(微細ねじ部)を有している。これら雄ねじ部13a,13bは互
いに長さが等しく,上記端継手11,12の第2雌ねじ部11b,12bと同一ピ
ッチP2の微細ねじをなしている。また,これら雄ねじ部13a,13bは,ねじ
方向が逆であり,一方の雄ねじ部13aは右ねじであり,他方の雄ねじ部13bは
左ねじである。」
図1には,鉄筋1,2を中央継手13を用いて連結する構造が図示されており,
中央継手13が両端部に雄ねじ部13a,13bを形成した無頭ねじの構造である
ことが理解できる。
(イ) 上記記載からすれば,乙5公報には「鉄筋1,2を連結する中央継手13が
無頭ねじである構造。」が記載されていると認められる。
カ 特開平7-161472号公報(乙7公報)
(ア) 本件出願前に頒布された乙7公報には,次の事項が記載されていると認めら
れる(乙7,別紙図面目録記載6参照)。
「【0002】
【従来の技術】従来構造の炭素電極においては,図14に示すように,炭素また
は黒鉛の部材10と20を通常の電極継手構造で連結している。この電極継手構造
は図15にも示されている。相互に対向する電極部材10,20は,好ましくは同
軸に配置され,横方向衝合面113,115間の接触界面110において衝合関係
にねじ込み係合され,機械的応力を避けるためそれぞれねじ山を備えたソケット1
17,119を有する。これらの電極部材の長手方軸線30,40は,図1および
図2に示されているように相互に一致し,また,円筒形のねじ山を有するニップル
70の中心軸線60とも一致している。」
図14には,電極部材10,20をニップル70で連結する構造が図示されてお
り,ニップル70は,無頭ねじの構造であることが理解できる。
(イ) 上記記載からすれば,乙7公報には「電極部材10,20を連結するニップ
ル70が円筒形のねじ山を有する無頭ねじである構造。」が記載されていると認め
られる。
キ 特表昭62-501515号公報(乙17公報)
(ア) 本件出願前に頒布された乙17公報には,次の事項が記載されていると認め
られる(乙17,別紙図面目録記載7参照)。
「第1図は上部にテーパー付外部ねじ3を,下部に同様のねじ4を設け,管体8
と9の接続部内にそれぞれ形成したテーパー付内部ねじ6と7と耐密接続するよう
にするカップリング2から成る管接続器を20で示す。」(3頁左上欄21~24
行)
FIG.1(図1)には,対向する管体8,9の内面に内部ねじ6,7を設け,
その間を両端外側に外部ねじ3,4を設けたカップリング2とで連結する構造が図
示されており,カップリング2は筒状の無頭ねじの構造であることが理解できる。
(イ) 乙17公報の上記記載からすれば,「管体8,9を連結するカップリング2
が無頭ねじである構造。」が記載されていると認められる。
ク 「土と基礎」(昭和39年7月号)(乙19文献)
(ア) 本件出願前に頒布された乙19文献には,次の事項が記載されていると認め
られる(乙19)。
「2.試験用具
試験に用いる用具は,スクリューポイント,ロッド,オモリ,載荷用クランプ,
底板および全体を回転させるためのハンドルから構成され,測定後それを引抜くた
めの引抜き装置が付属する。」(26頁右下欄)
「2.2ロッド
材質は機械構造用炭素鋼を使用するのが一般である。・・・ネジは三角ネジまた
は90°台形ネジが使われているが,いずれもネジの末端にはバイト逃げのみぞの
ないのが望ましい。また連結部に強ジン特殊鋼を用いたり,テーパーネジとするこ
とにより,連結部の強さを増加させる試みがなされている。」(26頁右下欄)
「2.3スクリューポイント
・・・
これは,ロッドの先端に連結して土中に貫入するものであるから,強さが大きく
なければならないことはもちろん,摩耗しにくいものであることが必要である。し
たがって材質としては焼入れが可能なものを使用し,すくなくともS-50-C以
上の高炭素鋼,あるいはSK-2以上の炭素工具鋼などを使用すればよいと思われ
る。」(26頁右下欄~27頁右欄)
図-1には,スクリューポイントに連結されたスクリューポイント用ロッドに,
さらにロッドが連結されているスウェーデン式サウンディング試験機が示されてい
る。また,図-2には,スクリューポイントの上端に雄ねじ部が突出している図が
示されている。
(イ) 以上によれば,乙19文献には,スウェーデン式サウンディング試験に用い
る試験用具において,ロッドの連結部に強ジン特殊鋼を用いること,及びスクリュ
ーポイントの材質として摩耗しにくい ,焼入れ可能なものを使用することが記載さ
れていると認められる。
(ウ) これに対し,原告は,乙19文献においては,強ジン特殊鋼を用いているこ
とを前提しているのではなく,試みがされていることを示しているにすぎず,成功
したか否かも明らかでなく,スウェーデン式サウンディング試験用具の連結部にお
いて高い靱性を有する材料を用いることを示唆していると拡張解釈すべきでない旨
主張する。しかし,ロッド部に設けられるねじ部について,その後のスウェーデン
式サウンディング試験方法についての昭和51年,平成5年及び平成7年のJIS
規格にも,乙19文献の上記記載と全く同様の記載がされていることからすれば(甲
20の1ないし3),試みられているというよりむしろそのような材料を用いるの
が当業者の常識となっていると推認され,原告の主張は採用できない。また,強ジ
ン特殊鋼を用いる部分が明確でない旨主張するが,どの部分にどの程度用いるかは
当業者の設計事項であり,明らかにされていないことにより,技術として不明確と
いうものではない。
(5) 検討
ア 本件発明と乙2発明の課題について
本件発明は,「一般にスクリューポイントには,ドリル状を成す表面的な部分は,
貫入時に土砂,礫などとの接触で摩耗し易いため,硬さが求められ,一方ロッド部
材に接続されるおねじ部近辺は貫入時の衝撃的な曲げモーメント,あるいは回転ト
ルクによる引っ張り応力などで破損することがないように強度および靱性が求めら
れる」ところ,「従来のスクリューポイントは,ドリル状部分もおねじ部も全て同
一材料で一体に構成されているため,前述のような性質を両立させることが極めて
困難である等の問題が発生してい」たので,そのような課題を解決するために,各
部に要求される,それぞれ異なった性質を備えるスクリューポイントを提供するこ
とを目的とするものである(【0003】,【0004】)。
これに対して,乙2発明も,従来のスクリューポイントと継手ロッドの結合形態
は,スクリューポイントの上端に雄ねじ部が突出されていて,この雄ねじ部に継手
ロッドの下端に設けられた雌ねじ部が螺合されることにより結合されるようになっ
ていたが,スクリューポイントはクロムモリブデン鋼やセラミック等の固い材料で
形成されているものであるために,本件発明と同様,ロッド部材に接続される雄ね
じ部が根本から折れてしまう場合があったので,このような課題を解決するために,
スクリューポイントに従来設けられていた雄ねじ部を無くして,代わりにスクリュ
ーポイントに雌ねじ部を設けるとともに,S45C,SS41等の鋼材からなる継
手ロッドに雄ねじ部を設けてスクリューポイントと螺合するように構成したもので
ある(前記(2)ア(ウ),(エ)及び(カ))。
すなわち,乙2発明も,固い材料で形成されるスクリューポイントが折損するの
を防ぐため,スクリューポイント本体に雄ねじを無くして雌ねじにするだけでなく,
結合部分であるねじ部には,固い材料とは異なる鋼材からなるロッド部を螺合する
ことを開示しているもので,課題解決のために,スクリューポイント本体部とこれ
に接続するねじ部に要求される,それぞれ異なった性質を備えるスクリューポイン
トを提供することを目的としているといえる。
イ 相違点2について
本件発明2は,乙2発明と相違点1を有する本件発明1を前提に「本体部は硬度
が高くなるよう構成し,また無頭ねじ部品は高い靱性を有するように構成したこと
を特徴とする」ものであるところ,本体部の硬度あるいは無頭ねじ部分の靱性の程
度は数値で特定されず,高いという比較による評価が与えられているだけであるた
め,その技術的意義は,本体部は無頭ねじ部品より硬度が高く,無頭ねじ部品は本
体部より靱性が高い性質を持つよう構成を異ならしめることを特定したものである
と解される。
他方,乙2発明は,従来のスクリューポイントと継手ロッドの結合形態は,スク
リューポイントの上端に雄ねじ部が突出されていて,この雄ねじ部に継手ロッドの
下端に設けられた雌ねじ部が螺合されることにより結合されるようになっていたが,
スクリューポイントはクロムモリブデン鋼やセラミック等の硬い材料で形成されて
いるものであるために雄ねじ部が根本から折れてしまう場合があったので,このよ
うな課題を解決するために,スクリューポイントに従来設けられていた雄ねじ部を
無くし,代わりにスクリューポイントに雌ねじ部を,継手ロッドに雄ねじ部を設け,
これらによってスクリューポイントと継手ロッドとを結合するように構成したもの
で,その部品の材質は,スクリューポイントの本体部につき「クロムモリブデン鋼,
セラミック等の固い材料」,ロッド部につき「S45C,SS41等の鋼材」を使
用するものとされているのであるから,その材質の技術常識に照らし,両部品の関
係では,本体部はロッド部分に対して「硬度が高く」なるように構成されているこ
とが明らかであり,また,ロッド部分は本体部と異なる性質を有する材料を使用し,
本体部のような高い硬度を求めていないのであるから,ロッド部分は本体部と異な
る適当な材料を用いることができることが示されているといえる。
さらに,上記(4)ク記載の乙19文献には,「スウェーデン式サウンディング試験
に用いる試験用具において,ロッドの連結部に強ジン特殊鋼を用いること,及びス
クリューポイントの材質として摩耗しにくい,焼入れ可能なものを使用すること」
が開示されているところ,「強ジン特殊鋼」が高い靱性を有する材料であることは
技術常識であるから,スウェーデン式サウンディング試験用具の連結部に高い靱性
を有する材料を用い,スクリューポイント,すなわち本体部により硬い材料を用い
ることは,本件特許の出願前から知られていたことといえる。
したがって,乙2発明とは相違点1がある本件発明1を前提にしても,そのスク
リューポイントにおいて,本体部とこれに連結するねじ部分を硬度及び靱性の高低
の観点から性質を異ならしめ,本体部の硬度をねじ部分より高くし,ねじ部分の靱
性を本体部より高くすること(相違点2)は,当業者が適宜なし得たことにすぎな
いことといえる。
ウ 相違点1について
上記(4)に認定のとおり,本件特許出願前に「標準貫入試験装置におけるサンプラ
のコネクターヘッドとロッドとを連結するロッドカップリングが無頭ねじである構
造。」(乙16発明),及び「土壌などの棒入度試験装置におけるロッド及び構成
部品の連結に使用できる結合部33が無頭ねじである構造。」(乙10発明)が開
示されており,地質試験装置における継手(連結)手段として,無頭ねじ部品を用
いることは,本件特許出願前から公知である。また,乙3ないし乙5公報,乙7公
報及び乙17公報には,無頭ねじを用いた継手(連結)手段が開示されており,多
くの技術分野で,継手(連結)手段として無頭ねじ部品を用いることは,本件特許
出願前から周知の技術であったといえる。
上記アのとおり,乙2発明は,スクリューポイント本体部とこれに接続するねじ
部に要求される,それぞれ異なった性質を備えるスクリューポイントを提供するこ
とを目的としているものであるが,上記イのとおり,ねじ部にスクリューポイント
と異なる性質を有する材料を使用することは当業者が適宜なし得たことであり,そ
して,一般的に,器具や装置などを構成する複数の部品(部分)をそれぞれ製作し,
その後に組み付けて一体のものとするか,複数の部品(部分)を一体成形するかは,
当業者がそれぞれの有利な点,不利な点を考慮して適宜に決定し得ることであると
いえるところ,乙2発明の技術分野と共通する地質試験装置における継手(連結)
手段として無頭ねじ部品を用いることは公知であり,また,一般的に継手(連結)
手段として無頭ねじ部品を用いることは周知であることからすれば,ねじ部品とロ
ッド部品とをそれぞれに必要な性質を確保することができるように,またそれぞれ
の部品の製作がしやすいように別体に製作することは,当業者が容易に着想し得た
ことといえる。
したがって,スクリューポイントの基端部に雌ねじを設けることを特徴とする乙
2発明において,これに接続するねじ部に異なる性質を備えさせるため,ロッド部
との連結手段として,ロッド部そのものに雄ねじを設けるのではなく,これに無頭
ねじ部品を用いて,スクリューポイント本体部の基端部の雌ねじとロッド部を連結
すること,すなわち本件発明1における上記相違点1に係る構成とすることは,当
業者が容易に想到し得たことであるといえる。
エ まとめ
以上の各相違点を個別に検討してきたところを総合して考えると,これらの相違
点をひとまとまりのものとして乙2発明に適用することも当業者が容易になせると
ころといえるから,本件発明1及び2は,当業者が,乙2公報を主引例として,乙
3ないし5公報,乙7公報及び乙17公報に記載の周知技術,並びに,乙19文献
に記載の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるといえ,い
ずれも進歩性を欠くものといえる。
2 争点(3)(上記(1),(2)に対する訂正の再抗弁の成否)について
(1) 本件訂正発明
ア 本件訂正発明1及び2の構成要件は,別紙対比表2の「本件訂正発明1の分
説」及び「本件訂正発明2の分説」に記載のとおりである。
イ 本件訂正発明1は,主として,本件発明1の構成要件Aの「地質の調査を行
う試験に際して所定の長さのロッド部材先端に取り付けられ,」を,構成要件A′
の「スウェーデン式サウンディング試験に際して,一端に有底のめねじ,他端にお
ねじが一体成形された所定の長さのロッド部材のめねじに取り付けられ,ロッド部
材のおねじに他のロッド部材のめねじを連結して延長可能に構成され,」に訂正し
たものである。
ウ また,本件訂正発明2は,本件発明2の構成要件E「本体部は硬度が高くな
るよう構成し,また無頭ねじ部品は高い靭性を有するように構成したことを特徴と
する」を,構成要件E′「本体部は無頭ねじ部品に対して硬度が高くなるよう構成
し,また無頭ねじ部品は本体部に対して高い靭性を有するように構成したことを特
徴とする」に訂正したものである。
しかし,上記訂正内容は,上記1(5)イによれば,本件発明2の構成要件Eの解釈
から得られた技術的意義を構成要件として明記したにすぎないといえるから,構成
要件E′は,結局,構成要件Eと同じ構成を表しているのと同じである。
エ 本件訂正発明と乙2発明との相違点
(ア) 本件訂正発明1は,上記1(3)イ(ア)の相違点1に加えて次の相違点3の2点
で乙2発明と相違している。
相違点3:ロッド部材同士の連結構造(雄ねじと雌ねじ)について,本件訂正発
明1は,「他端におねじが一体成形された・・・ロッド部材のおねじに他のロッド
部材のめねじを連結して延長可能に構成され」ているのに対し,乙2発明は,「他
端に雌ねじ部32が設けられた」,「継手ロッド3の雌ねじ部32に他の継手ロッ
ド3の雄ねじ部31を連結して延長可能に構成され」ており,連結部におけるロッ
ド部材に設けた雄ねじと雌ねじの配置が,本件発明と乙2発明とでは逆の関係であ
る点。
(イ) なお,本件訂正発明2における構成要件E′については,上記ウのとおり,
本件発明2における構成要件Eと同じ構成を表しているにすぎないから,この部分
の訂正によって新たに検討すべき相違点は生じず,本件訂正発明1に従属して本件
訂正発明1の全ての発明特定事項を含んでいる本件訂正発明2は,相違点1及び相
違点3に,上記1(3)イ(イ)の相違点2を加えた3点で乙2発明と相違しているとい
える。
オ 検討
(ア) 相違点3について
本件訂正発明1の「スクリューポイント」は,「ロッド部材に設けためねじに螺
合して取り付けられ,・・・ロッド部材と一体に地中に貫入されるスクリューポイ
ント」と特定されているように,「ロッド部材」に取り付けられることを前提とす
るものではあるが,「ロッド部材」は「スクリューポイント」そのものの構成では
ないから,「ロッド部材」同士を連結するための構造である「他端におねじが一体
成形された」,「ロッド部材のおねじに他のロッド部材のめねじを連結して延長可
能に構成され」たことが,「スクリューポイント」の構成(構造)を特定するもの
とはいえない。 その上,相違点3は,「ロッド部材」同士の連結に際して,「雌ね
じ」と「雄ねじ」を連結部における上下どちら側に設けるかという当業者が適宜に
決定し得る事項の相違にすぎないから,相違点3は,引用発明からの容易想到性を
判断する上での実質的な相違点とはいえない。
(イ) その他の相違点1及び相違点2については,前記1(5)イ及びウのとおり,相
違点1は当業者において容易に想到することができたものであり,相違点2は当業
者において適宜なし得たものであるから,これらの相違点に相違点3を加えひとま
とまりのものとして乙2発明に適用することも当業者 が容易になせるところとい
え,したがって,本件訂正発明は,当業者が,乙2公報を主引例として,乙3ない
し5公報,乙7公報及び乙17公報に記載の周知技術,並びに,乙19文献に記載
の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるといえ,進歩性を
欠くものといえる。
(ウ) 以上から,本件訂正請求後の本件訂正発明においても,本件発明における無
効理由が解消されておらず,したがって,訂正要件の充足の検討をするまでもなく,
訂正の再抗弁は認められない。
3 結論
以上によれば,本件特許は,特許法123条1項2号に該当し,特許無効審判に
より無効にされるべきものと認められるから,同法104条の3第1項により,原
告は本件特許権に係る権利を行使することができないというべきであるので,原告
の被告に対する請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。
よって,原告の請求をいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴
訟法61条を適用し,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 森 崎 英 二
裁判官 田 原 美 奈 子
裁判官 林 啓 治 郎
(別紙)
イ号物件目録
製品名 別紙イ号物件説明書記載のスクリューポイント
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