知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成24(ネ)10082等 商標権侵害差止等請求控訴,同附帯控訴事件

この記事をはてなブックマークに追加

平成24(ネ)10082等商標権侵害差止等請求控訴,同附帯控訴事件

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
裁判年月日 平成25年3月18日
事件種別 民事
当事者 控訴人・附帯被 株式会社チェルシー
被控訴人・附帯控訴人株式会社PLATFORM
法令 商標権
民事訴訟法228条4項5回
民法513条1項2回
キーワード 商標権32回
ライセンス20回
許諾4回
侵害1回
損害賠償1回
差止1回
主文 1 本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人の,附帯控訴費用は附帯控訴人の各負担とする。
事件の概要 1 本件は,原告が,被告に対し,①原告,被告及び株式会社エムズリーグ(以 下「エムズリーグ」という。)の3者間で締結した原告及びエムズリーグが共有す る原判決別紙商標権目録1~5記載の各商標権(以下,同商標権目録1~7記載の 商標権を「本件商標権1」~「本件商標権7」,その登録商標を「本件登録商標1」 ~「本件登録商標7」という。)の独占的使用権を被告に許諾する旨のライセンス 契約(以下「本件ライセンス契約」という。)に基づく平成21年6月22日から 同年11月26日までの間の未払ロイヤルティ269万6816円及びこれに対す る弁済期の翌日である平成22年1月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の 割合による遅延損害金並びに本件ライセンス契約の債務不履行に基づく弁護士費用 相当額の損害賠償金100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である同年3 月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め るとともに,②原告及びエムズリーグの共有に属する本件商標権6,7について, 被告に原告の持分権を譲渡した事実がないのに,被告名義の不実の商標権移転登 録(原判決別紙登録目録記載の商標権移転登録。以下「本件移転登録」という。) がされているとして,本件商標権6,7の持分権に基づき,本件移転登録の抹消登

▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 商標権に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

平成25年3月18日判決言渡
平成24年(ネ)第10082号,同第10089号 商標権侵害差止等請求控訴,
同附帯控訴事件(原審・東京地裁平成21年(ワ)第43006号)
口頭弁論終結日 平成25年1月28日
判 決
控訴人・附帯被控訴人 株 式 会 社 チ ェ ル シ ー
訴訟代理人弁護士 土 谷 喜 輝
同 土 橋 央 征
同 荒 牧 浩 昭
被控訴人・附帯控訴人 株式会社PLATFORM
訴訟代理人弁護士 照 井 勝
同 星 知 矩
主 文
1 本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人の,附帯控訴費用は附帯控訴人の各負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求める裁判
1 控訴
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 被控訴人・附帯控訴人(以下「被告」という。 は,
) 控訴人・附帯被控訴人(以
下「原告」という。)に対し,269万6816円及びこれに対する平成22年1
月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(3) 被告は,原告に対し,原判決別紙商標目録6及び7記載の各商標権について,
同別紙登録目録記載の登録の抹消登録手続をせよ。
(4) 訴訟費用は,第1,2審とも,被告の負担とする。
2 附帯控訴
(1) 原判決中,被告敗訴部分を取り消す。
(2) 原告の上記取消しに係る部分の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも,原告の負担とする。
第2 事案の概要
1 本件は,原告が,被告に対し,①原告,被告及び株式会社エムズリーグ(以
下「エムズリーグ」という。)の3者間で締結した原告及びエムズリーグが共有す
る原判決別紙商標権目録1~5記載の各商標権(以下,同商標権目録1~7記載の
商標権を「本件商標権1」~「本件商標権7」,その登録商標を「本件登録商標1」
~「本件登録商標7」という。)の独占的使用権を被告に許諾する旨のライセンス
契約(以下「本件ライセンス契約」という。)に基づく平成21年6月22日から
同年11月26日までの間の未払ロイヤルティ269万6816円及びこれに対す
る弁済期の翌日である平成22年1月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の
割合による遅延損害金並びに本件ライセンス契約の債務不履行に基づく弁護士費用
相当額の損害賠償金100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である同年3
月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め
るとともに,②原告及びエムズリーグの共有に属する本件商標権6,7について,
被告に原告の持分権を譲渡した事実がないのに,被告名義の不実の商標権移転登
録(原判決別紙登録目録記載の商標権移転登録。以下「本件移転登録」という。)
がされているとして,本件商標権6,7の持分権に基づき,本件移転登録の抹消登
録手続を求める事案である。
2 原審の東京地裁は,平成24年9月28日,原告の上記各請求について,本
件ライセンス契約に基づく未払ロイヤルティ269万6816円及びこれに対する
平成22年1月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金
の支払を求める限度において認容し,その余の請求を棄却した。
そこで,原告は,前記第1の1の裁判を求めて控訴をし,被告は,同2の裁判を
求めて附帯控訴をした。
第3 当事者の主張
1 当事者の主張は,次に付加するほか,原判決「事実及び理由」欄第3「当事
者の主張」記載のとおりであるから,これを引用する(略称は,本判決で注記した
もののほか,原判決のものを用いる。)。
2 控訴について
(1) 原告の主張
ア 本件譲渡証書の不成立
原判決は,本件譲渡証書は真正に成立したものと推定されるとしたが,文書に本
人の押印がある場合,民事訴訟法228条4項により真正に成立したものと推定さ
れるのは,本人が保有している印章による印影があれば,本人が押印したと推定さ
れるからである。しかし,原告の実印は,Aが被告の事務所において保管しており,
同条項による推定が働く場面ではなく,被告は,原告が本件譲渡証書に押印した事
実を立証する必要がある。
仮に民事訴訟法228条4項が適用されるとしても,
Aが被告の事務所において原
告の実印を保管していたという事実は,反証の一つに該当するから,後述する理由
などからも,本件譲渡証書の成立は認められない。
イ 本件譲渡の合意の不存在
(ア) 原判決は,①平成21年3月1日以降,被告の事業収益をB,A及びCの3者で
分配するため,原告及びエムズリーグが共有する商標権については全て無償で被告
に譲渡することが想定されていたこと,
②AがB及びCに送信した平成21年5月13
日付け電子メール中に,「今回の商標権の移管に伴いMUVEIL関連の商標をP
LATOFORMに移管したく思います」との記載があること,③AがBに送信した
同年6月4日付けメールに,「MUVEILは既にPF(判決注:被告)に移管手
続き開始しております」とあり,これに対し,Bが同月5日付けメールで,「ほぼ理
解できました」と返信していること,④同月11日,捺印作業が行われ,その終了
後に,Aから,D弁理士に対し,本件商標権6,7の譲渡に関する一連の資料が送付
されていることを理由に,本件譲渡の合意が成立したと認定した。
しかし,パートナーシップ解消後,すなわちBが被告の株式売却後は,被告に本件
商標権6,7が移転すると,Bは,間接的にもこれらの商標を保有できなくなるので
あり,平成21年5月13日時点とは全く利害関係が異なる。原判決は,パートナ
ーシップ解消の前後で利害関係が異なることを全く理解しておらず,このような誤
解が認定を誤らせたものである。
(イ) 平成21年6月4日には,本件商標権6,7の譲渡については,全く話し合
われていない。
また,Bは,同月11日には,本件商標権6,7の無償譲渡の話は出ておらず,無
償譲渡に関する書類に押印していないという明確な記憶があるのであり,このこと
は他の捺印書類を覚えていないことと何ら矛盾しない。本件譲渡証書(乙56の4
枚目)の年月日欄には,「平成21年4月28日」と手書きで数字部分が記入され
ているが,BとAが,同年6月11日に本件譲渡の合意をしたのであれば,本件譲渡
証書の年月日欄にも「平成21年6月11日」と記載すれば足りたはずである。か
かる日付が記載されていないことからも,同日には,本件譲渡の合意がなされてい
ないことが推認される。
(ウ) 原判決は,①Bが本件商標権1~5の譲渡の受け皿となる新会社を設立し,②
本件商標権1~5を使用した商品の取引を展開することで利益が得られるものと期
待していたと認められること,③Bが,被告の株式の譲渡代金として,Aから750
万円を受領していること,④被告のみずほ銀行に対する借入金債務の連帯保証債務
が免除されること,⑤本件登録商標6,7を使用した商品の売上高が被告の他のブ
ランド商品と比較してそれほど大きくなかったと認識していたことなどを理由とし
て,本件商標権6,7を被告に無償で譲渡することは,Bにとって,特段不合理な取
引ではないと認定した。
しかし,被告が平成21年当時赤字であったことから明らかなとおり,本件商標
権1~5を使用した商品の取引を展開することにより利益が得られるなどとは,B
はもとより,誰も想定していなかったから,上記①,②は理由にならない。また,
被告の株式を売却する際には,被告グループの連結決算直近12か月の純資産から
計算することとされ(株主間協定書(乙3)第4条),Bは,被告の純資産約634
4万円(乙14),被告の子会社FRIENDSの純資産約325万円の合計約6
669万円の3分の1である約2223万円で株式を売却することができたのであ
るから,上記③は本件譲渡の合理性を基礎づける事情になるはずがない。さらに,
被告の資産状況(乙14)などから連帯保証債務が現実化することは考えられない
から,上記④は本件譲渡の合理性を基礎づける事情にはならず,上記⑤についても,
本件登録商標6,7を使用した商品の売上げが大きく伸びることが予測されていた
のであるから,誤りである。
以上のとおり,原判決は,パートナーシップ解消前に話が出ていた本件商標権6,
7の移転がパートナーシップ解消後も続いていたかのように誤解して,本件合意を
認定したものである。
(2) 被告の反論
ア 本件譲渡証書の不成立の主張に対し
本人が印章を保管していないとの一事をもって,民事訴訟法228条4項に基づ
く推定が働かないと解するのは誤りであり,推定を覆す事情としては,あくまで受
託者が委託の趣旨に反して使用した場合や,
保管者が濫用した場合などに限られる。
本件において,上記の場合に当たるような事実が存在しないことは,証拠全体か
ら明らかであり,原判決が正しく判示するとおりである。
イ 本件譲渡の合意の不存在の主張に対し
(ア) Aは,平成21年6月1日及び同月4日の2回にわたり,Bの入院先を訪問し,
本件パートナーシップ解消の話合いを持ち,同月4日,その話合いの結果をまとめ
た内容の電子メール(本件登録商標6,7の被告への移転に向けた手続が進められ
ていることが明記されている。乙7,18)をBに送信した。これに対し,Bは,そ
の翌日に,「ほぼ理解できました。退院次第,豊田(被告注:豊田通商)と話し,
この予定に支障ないよう話します。」と返信し(乙8),本件登録商標6,7の移
転手続について認識し,理解している旨をAに伝えていた。
Bが退院した後の同月11日午前11時,
被告の事務所において,
本件譲渡証書
(乙
56の4枚目)を含めた本件パートナーシップ解消に関する関係書類の捺印がAとB
との間で行われた。Aは,同日,D弁理士に対し本件譲渡証書,本件取締役会承認書(乙
56の5枚目)等を送付し,D弁理士は,翌12日,本件譲渡証書,本件取締役会承
認書等を添付した本件移転登録の申請手続を行い,その旨の移転登録がなされたも
のである。
(イ) 原告は,本件パートナーシップ解消の前後で利害関係が大きく変化したと主
張するが,Bが,Aやその他の関係者に対し,譲渡の中止を求めたり,又は有償譲渡
を求めるなど行動をとった事実を認めるに足りる証拠は存在しない。本件パートナ
ーシップ解消は,Bが保有する被告の全株式をAに譲渡することを意味するが,本件
登録商標6,
7を使用しているのは被告の子会社であるFRIENDSであるから,
BがFRIENDSの経営に関与できなくなることを意味し,
必然的に本件登録商標
6,7の使用にも関与できなくなることを意味する。本件登録商標6,7の無償譲
渡は,本件パートナーシップ解消に伴う利害関係の変化に合致していると考えるの
が自然かつ合理的である。
(ウ) 本件譲渡証書のドラフト(乙19の2)の日付欄には,手書きで「記入しな
いで下さい」と記載され,D弁理士が空欄での捺印を求めたのであり,仮にAが捺印
を偽造するのであれば,成立に疑義を生じさせるような平成21年6月11日以前
の日にちをあえて記入する動機も理由もない。
(エ) 原告は,本件登録商標1~5を使用した商品の取引を展開することにより利
益が得られるとは想定していなかったなどと主張する。しかしながら,本件パート
ナーシップ解消後に,本件商標権1~5がBの個人会社又はBと提携予定であった豊
田通商等の第三者に譲渡予定であったのであるから,利益が得られると思っていな
い商標権を自己の個人会社や提携先に譲渡することを予定していたなどと主張する
こと自体が,不自然極まりないものである。
また,原告は,株主間協定書(乙3)に規定する算定方式に基づき,Bは約222
3万円での株式を売却できたと主張する。しかしながら,株主間協定書に規定する
算定方式に基づかずに株式を売却したのは,それだけ当時の被告の財務体質が悪化
していた事実を端的に示しているにすぎない。平成21年5月末時点における連帯
保証債務の主たる債務である被告の長期借入金債務の残高は合計4500万円と高
額であり,Bは,被告の事業に関する自らの連帯保証が解約できるかどうかに強い関
心を示していた。連帯保証債務が現実化することは考えられないとの原告の主張に
は,何ら理由がないというべきである。
3 附帯控訴について
(1) 被告の主張
ア 本件使用許諾の合意は,①本件ライセンス契約解除後の被告による2009
年秋冬商品の販売行為の許諾と,②これに伴う対価(ロイヤルティ)が無償である
ことの合意から構成される抗弁である。
しかるところ,Bは,平成21年6月1日覚書が締結された後も,被告による20
09年秋冬商品の販売を認識していただけでなく,平成21年7月31日付け「通
知書」(甲7の1)を被告に対して送付するまで,その販売に積極的に協力してい
たから,上記①の事実が認められることは明らかである。
したがって,本件使用許諾の成否は,上記②の合意を認定できる直接証拠又はか
かる事実の存在を推認させる間接事実が存在するか否かに帰着する。
(ア) AがBに送信した6月4日付けメール(乙7)には,被告が2009年秋冬商
品の取引先に対する「納品」のみならず「売掛回収」まで行うこと,「サンプル代
金・展示会費用」は被告が負担する旨が記載されているが,このように本件ライセ
ンス契約解除後の被告による販売行為及びこれに付随して被告が負担する経費・費
用を列記しながら,その中からロイヤルティは明確に除外されている。また,6月
4日付けメールでは,被告に資金的余裕がないことが繰り返し記載されていたので
あり,この点からも被告が負担する予定であった上記経費・費用対象は明記されて
いたものに限定的に解釈するのが自然かつ合理的である。
そして,有償であることを明記してなく,有償であることを推認させる記載のな
い6月4日付けメールから推認される事実は,AとBの平成21年6月1日及び同月
4日の話合いにおいて,被告による2009年秋冬商品での使用はロイヤルティを
無償とすることが合意されたという事実であり,少なくともロイヤルティが無償で
あることを前提とした黙示の合意があったと解するのが合理的である。
したがって,6月4日付けメールにおいてロイヤルティについて何ら記載されて
いないという間接事実から推認される事実は,契約解除後のロイヤルティも引き続
き無償とする合意があったという事実である。
(イ) 本件ライセンス契約に基づくロイヤルティは,同契約が締結された平成18
年8月31日当時,卸売価格又は小売価格の5%に設定されていたが(甲3の第4
条1項),被告の財務状況の悪化を受けて,平成19年3月以降5%から2%に減
額され(乙39),さらに,原告及びエムズリーグとの間で締結された平成20年
11月30日覚書(乙2の1,2)第2条に基づき,将来発生する分も含めてロイ
ヤルティ全額の免除が合意されていた。したがって,同覚書が締結された当時,原
告及び被告間において,同日以降に発生する将来のロイヤルティに関しても全額免
除し,別途合意をしない限り,ロイヤルティを発生させない旨の合意が成立してい
たと解するのが合理的である。再び有償のロイヤルティに戻すのであれば,有償で
ある旨及びその比率について協議するのが自然であり,資金的に逼迫していた被告
の財務状況を考慮すれば,有償であるのならば,その旨やその比率について協議・
言及していたはずである。しかしながら,かかる事実が存在したことを認めるに足
りる証拠は存在しない。
また,Bは,平成21年6月12日以降,本件ライセンス契約第15条4項に基づ
くリストの提出を求めたことは一度もなかったのであり,同条5項適用の前提とな
る4項の履行を求めていない以上,当事者としては同条4項及び5項の適用を予定
していなかったと解するのが合理的である。
イ 更改による債務消滅
平成21年6月1日付け覚書(甲6)第4条には, (判決注:原告)
「甲 及び乙(判
決注:被告)は,当事者間に本覚書締結日現在で,本覚書に定める外,本契約に関
しては何らの債権・債務のないことを相互に確認する。」と記載されている。同覚
書が締結され本件ライセンス契約が解除された後も,
Bが被告による2009年秋冬
商品の販売を認識していたのみならず,これに積極的に協力していたことからすれ
ば,上記規定は,本件ライセンス契約解除後に被告が2009年秋冬商品を販売す
る権限を否定するものではなく,単に当該販売に伴い,被告が原告に対しロイヤリ
ティ等の金銭債務を負わないことを確認 合意していたと解するのが合理的である。

また,同覚書第1条は,用語の定義は本件ライセンス契約の定義に従う旨を規定し
ているが,本件ライセンス契約第15条4項,5項が引き続き適用されるとは規定
されていない。
したがって,平成21年6月11日又は同月12日以降,平成21年6月1日付
け覚書第4条によって,本件ライセンス契約の第15条4項,5項に基づく被告の
金銭債務は,更改により消滅したと解するのが合理的である(民法513条1項及
び2項)。
(2) 原告の反論
被告の更改による債務消滅の主張は,否認ないし争う。
第4 当裁判所の判断
1 当裁判所も,原告の本訴各請求は,本件ライセンス契約に基づく未払ロイヤ
ルティ269万6816円及びこれに対する平成22年1月1日から支払済みまで
商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があ
るから認容し,その余は理由がないから棄却すべきものと判断する。その理由は,
次に付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄第4の1ないし3記載のとおりで
あるから,これを引用する。
2 控訴について
(1) 本件譲渡証書の不成立の主張について
原告は,原告の実印はAが被告の事務所において保管していたことを理由に,民事
訴訟法228条4項による推定は働かず,仮に同項が適用されるとしても,Aが被告
の事務所において原告の実印を保管していたという事実は反証の一つに該当するか
ら,本件譲渡証書(乙56の4枚目)の成立は認められないと主張する。
確かに,平成21年6月11日当時,Aが被告の事務所で原告の実印を保管・管理
していたことは,前記認定(引用に係る原判決33頁1行~2行)のとおりである。
しかしながら,本件譲渡証書の譲渡人欄における原告の印影は原告の意思に基づい
て顕出されたものと認められることは前記説示(引用に係る原判決32頁9行~3
9頁9行)のとおりであるから,本件譲渡証書は,民事訴訟法228条4項により
真正に成立したものと推定されるというべきであり,原告の主張は理由がない。
(2) 本件譲渡の合意の不存在の主張について
ア 原告は,本件パートナーシップ解消後は,平成21年5月13日時点とは全
く利害関係が異なるから,本件パートナーシップ解消前に本件商標権6,7の譲渡
の話が進んでいたことは,
本件譲渡の合意を認定する理由とはならないと主張する。
しかしながら,本件パートナーシップ解消に当たって,Bは,本件商標権1~5の
譲渡を受ける新会社の代表者に就任する予定であり,新会社における本件商標1~
5を使用した商品の取引から利益が得られると期待していたこと,AがBに対し被告
の株式(750株)の譲渡代金として750万円を支払い,また,被告のみずほ銀
行に対する長期借入金(平成21年5月末現在の残高合計4500万円)に関するB
の連帯保証債務を免除する合意をしたこと等を考慮すると,本件商標権6,7を被

告に無償で譲渡することがBにとって不合理な取引ということはできないことは,
記説示(引用に係る原判決37頁11行~38頁11行)のとおりである。
これらの点について,原告は,本件商標権1~5を使用した商品の取引を展開す
ることにより利益が得られるなどとは誰も想定していなかった,被告の株式は合計
約2223万円で売却することができた,被告の資産状況などから連帯保証債務が
現実化することは考えられないなどと主張する。しかし,Bが豊田通商から本件商標
権1~5の譲渡の受け皿となる新会社の代表者に就任するという条件で豊田通商と
交渉していたことは,B作成の陳述書(甲15)にも記載されているとおりであると
ころ,これらの商標権が本件パートナーシップの解消に際して被告に譲渡された本
件商標権6,7と比較して価値のないものであったとは認められないし,また,平
成21年5月当時,被告の財務状況は悪化しており,みずほ銀行に対する長期借入
金債務の残高が4500万円に上っていたこと(乙11の4,12の4)からすれ
ば,被告の株式が高額で売却できたと認めることはできず,また,連帯保証債務が
現実化する可能性も否定し得ない状況であったと認められる。
したがって,原告の上記主張は,いずれも採用することができない。
イ 原告は,本件譲渡証書の年月日欄に「平成21年4月28日」と記載されて
いることは,平成21年6月11日に本件譲渡の合意がなされていないことが推認
されると主張する。
しかしながら,本件譲渡証書の年月日欄は,D弁理士が,平成21年6月12日,
特許庁に本件移転登録申請手続をする際に手書きで書き加えたことは前記認定(引
用に係る原判決25頁13行~15行)のとおりであるところ,そのことが本件譲
渡の合意がなされていないことを推認する事情になるとは認められず,原告の主張
は理由がない。
ウ 原告は,そのほかにも縷々主張するが,採用の限りではない。
(3) 以上のとおり,原告の当審における主張はいずれも採用することができず,
本件控訴は理由がない。
3 附帯控訴について
(1)ア 被告は,6月4日付けメール(乙7)に被告による2009年秋冬商品で
の本件商標1~5の使用についてロイヤルティを有償とする記載がないことから,
Bが平成21年6
少なくともロイヤルティを無償とする合意があったと推認される,
月12日以降本件ライセンス契約第15条4項に基づくリストの提出を求めなかっ
た以上,同条5項の適用を予定していなかったなどと主張する。
しかしながら,本件ライセンス契約第15条5項には,契約期間満了後又は解除
後の販売も本件ライセンス契約に定められたロイヤルティの支払の対象となること
が明記されているのであって,6月4日付けメールにロイヤルティを有償とする記
載がないからといって,
これを無償とする合意があったものと認めることはできず,
また,Bが同条4項のリストの提出を求めなかったからといって,同条5項の適用を
予定していなかったと認めることもできない。
イ 被告は,原告及びエムズリーグとの間で締結された平成20年11月30日
覚書(乙2の1,2)が締結された当時,原告及び被告間において,同日以降に発
生する将来のロイヤルティに関して全額免除し,別途合意をしない限り,ロイヤル
ティを発生しない合意が成立していたと主張する。
しかしながら,上記各覚書には,経営状況の悪化に伴い,別途合意する期間内に
発生するロイヤルティ全額を免除する旨の記載はあるが,同日以降に発生する将来
のロイヤルティに関して全額免除する旨の記載はなく,また,上記別途合意する期
間として2009年秋冬商品の販売に係る期間(平成21年6月22日から同年1
1月26日までの期間)が合意されたことを認めるに足りる証拠はない。
ウ したがって,被告の上記主張はいずれも採用することができない。
(2) 更改による債務消滅の主張について
被告は,平成21年6月1日付け覚書(甲6)第4条に「甲(判決注:原告)及
び乙(判決注:被告)は,当事者間に本覚書締結日現在で,本覚書に定める外,本
契約(判決注:本件ライセンス契約)に関しては何らの債権・債務のないことを相
互に確認する。」と記載されていることを根拠に,本件ライセンス契約の第15条
4項,5項に基づく被告の金銭債務は,更改により消滅したと解するのが合理的で
ある(民法513条1項及び2項)と主張する。
更改は,債務の要素(給付の内容,債権者,債務者等)を変更することによって,
もとの債権を消滅させ,新たな債権を成立させる契約である。しかしながら,被告
が更改の根拠とする前記覚書第4条は,上記のとおり「本覚書締結日現在」すなわ
ち平成21年6月1日現在において,「本覚書に定める外,本契約に関しては何ら
の債権・債務のないことを相互に確認する」ことは記載されているが,本件ライセ
ンス契約の債務の要素を変更する趣旨の記載はない。
したがって,上記覚書第4条から被告主張の更改を認めることはできず,また,
上記記載をもって,2009年秋冬商品の販売に係る期間(平成21年6月22日
から同年11月26日までの期間)に発生するロイヤルティを無償とする,ないし
は消滅させる趣旨と解することもできない。よって,被告の上記主張も採用するこ
とができない。
(3) 以上のとおり,被告の当審における主張はいずれも採用することができず,
本件附帯控訴は理由がない。
4 結論
以上のとおり,原判決は相当であって,本件控訴及び附帯控訴はいずれも理由が
ないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所 第3部
裁判長裁判官
芝 田 俊 文
裁判官
岡 本 岳
裁判官
武 宮 英 子

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

来週の知財セミナー (3月3日~3月9日)

3月4日(火) -

特許とAI

3月6日(木) - 東京 港区

研究開発と特許

3月7日(金) - 東京 港区

知りたかったインド特許の実務

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

ウェストルム特許商標事務所

〒460-0008 愛知県名古屋市中区栄一丁目23番29号 伏見ポイントビル3F 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国商標 鑑定 コンサルティング 

佐藤良博特許事務所

埼玉県久喜市久喜東6-2-46 パレ・ドール久喜2-203 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

羽鳥国際特許商標事務所

群馬県前橋市北代田町645-5 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング