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平成27(ワ)6380特許権侵害差止等請求事件

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裁判所 請求棄却 大阪地方裁判所
裁判年月日 平成28年8月23日
事件種別 民事
当事者 被告株式会社ケーマックス
原告アラオ株式会社
対象物 コーナークッション
法令 特許権
特許法100条1項1回
民事訴訟法61条1回
キーワード 特許権6回
侵害4回
差止2回
損害賠償1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は,発明の名称を「コーナークッション」とする特許権を有する原告が,被 告による別紙物件目録記載の製品(以下「被告製品」という。)の販売が原告の特 許権を侵害すると主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づき被告製品の 製造販売等の差止め,同条2項に基づき同製品の廃棄を求めるとともに,特許権侵 害の不法行為に基づく損害賠償として,損害金1000万円及びこれに対する不法 行為の日の後である平成27年7月8日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで 年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

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判決文

平成28年8月23日判決言渡し 同日原本交付 裁判所書記官
平成27年(ワ)第6380号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成28年6月7日
判 決
原 告 ア ラ オ 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 下 垣 和 久
同訴訟代理人弁理士 福 島 三 雄
同補佐人弁理士 塩 田 哲 也
被 告 株式会社ケーマックス
同訴訟代理人弁護士 真 下 博 孝
同補佐人弁理士 大 久 保 恵
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,別紙物件目録記載の製品を生産し,譲渡し,輸入し,及び,譲渡の
申し出をしてはならない。
2 被告は,その占有にかかる前項記載の製品を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成27年7月8日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,発明の名称を「コーナークッション」とする特許権を有する原告が,被
告による別紙物件目録記載の製品(以下「被告製品」という。)の販売が原告の特
許権を侵害すると主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づき被告製品の
製造販売等の差止め,同条2項に基づき同製品の廃棄を求めるとともに,特許権侵
害の不法行為に基づく損害賠償として,損害金1000万円及びこれに対する不法
行為の日の後である平成27年7月8日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで
年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 判断の基礎となる事実(当事者間に争いがない)
(1) 当事者
原告は,工業用ゴム,プラスティック製品の製造,販売を業とする株式会社であ
る。
被告は,建築資材の設計・製造・販売などを業とする株式会社である。
(2) 原告の特許権
原告は,以下の特許(以下,「本件特許」という。また,その特許出願の願書に
添付された明細書及び図面を「本件明細書」といい,本件特許のうち請求項1に係
る発明を「本件発明」という。)に係る特許権を有している。
特許番号 特許第3409299号
発明の名称 コーナークッション
出願日 平成10年9月28日
登録日 平成15年3月20日
特許請求の範囲
【請求項1】
「互いに若干の間隔をおいて長手方向に列設された複数の短尺クッション材と,
これら複数の短尺クッション材の表面側を被覆する長尺表面側シート部とこれら複
数の短尺クッション材の裏面側の幅方向両側部をそれぞれ一定幅で被覆する長尺裏
面側シート部とからなる帯状被覆部材と,前記長尺表面側シート部の外面に設けら
れ,明度差をもつ色彩が交互に反復してなる斜め方向縞模様と,前記長尺裏面側シ
ート部の外面に設けられた粘着材層とを有してなり,全体として帯状をなすととも
に危険箇所のコーナー部に装着されるコーナークッションであって,前記長尺裏面
側シート部同士の間から,前記複数の短尺クッション材が露出していることを特徴
とするコーナークッション。」
(3) 本件発明の構成要件の分説
本件発明の構成要件は,次のとおり分説することができる。
A 互いに若干の間隔をおいて長手方向に列設された複数の短尺クッション材
と,
B これら複数の短尺クッション材の表面側を被覆する長尺表面側シート部とこ
れら複数の短尺クッション材の裏面側の幅方向両側部をそれぞれ一定幅で被覆する
長尺裏面側シート部とからなる帯状被覆部材と,
C 前記長尺表面側シート部の外面に設けられ,明度差をもつ色彩が交互に反復
してなる斜め方向縞模様と,
D 前記長尺裏面側シート部の外面に設けられた粘着材層とを有してなり,
E 全体として帯状をなすとともに危険箇所のコーナー部に装着されるコーナー
クッションであって,
F 前記長尺裏面側シート部同士の間から,前記複数の短尺クッション材が露出
している
G ことを特徴とするコーナークッション。
(4) 被告の行為
被告は,平成24年5月2日頃から被告製品を業として販売している。
(5) 被告製品の構成
被告製品の構成は別紙物件目録記載のとおりであり,被告製品の裏面の構成は,
より具体的には,長手方向中央部周辺において,短尺クッション材が長尺裏面側シ
ート部に覆われておらず,同シート部の間から短尺クッション材が見える構成とな
っており,本件発明の短尺クッション材に相当するスポンジの幅方向中央部周辺を
含め,その裏面全面が粘着シール(粘着材層)で覆われているというものである。
2 争点
被告製品が,本件発明の構成要件AないしE,Gを充足する構成を備えているこ
とは当事者間に争いがないので,本件における争点は,被告製品が本件発明の構成
要件Fを充足する構成を備えているか(争点(1))と,侵害と認められた場合の損害
の額(争点(2))である。
3 争点に関する当事者の主張
(1) 被告製品が本件発明の構成要件Fを充足する構成を備えているか。
(原告の主張)
ア 本件発明は,帯状裏面材が裏面全体にあると,折り曲げたときに,帯状裏面
材には皺やたるみが生じ,装着作業に支障を来すとともに,コーナー部にコーナー
クッションを密着させることが困難である(本件明細書【0007】)ことを課題と
しており,これを解決するために,帯状裏材の中央部を切除したものであるが,こ
の状態を言い換えると,本件発明の構成要件Fの「長尺裏面側シート部同士の間か
ら,短尺クッション材が露出している」となる。
被告製品においては,裏面側シート部は,両側部を一定幅で被覆しているだけで
あり,短尺クッション材を完全に覆うものではなく,その覆っていない中央部分か
ら,短尺クッション材が「露出」している。
したがって,被告製品は,本件発明の構成要件Fを充足している。
イ 被告製品における短尺クッション材には粘着材が貼られているが,本件発明
は,短尺クッション材の表面にどのような処理がなされているかについては触れて
いないことから,被告製品における短尺クッション材に粘着材が貼られていても,
「露出」を充足する。
なお本件発明は,裏面シートがない裏面中央部から,空気が排出されることを
効果としているところ,被告製品は ,粘着材が貼られたクッション材のみなら
ず,粘着材そのものに通気性が認められるし,被告製品の粘着材は,裏面シート
に密着して貼られている部分とそうでない部分があり,裏面シートに密着してい
ない部分(粘着材の浮き)を通って,裏面中央部から空気が排出され,裏面シー
トがない裏面中央部から空気が排出されるという効果は得られているから,粘着
材は上記効果の妨げにならず,短尺クッションが「露出」していることに変わり
はない。
ウ 被告製品も,裏面中央部に裏面シートがないので,全面に裏面シートがあ
る場合に生じていた皺やたるみは生じない。また裏面中央部にある粘着材層は,
裏面シートより遙かに薄いので,全面に裏面シートがある場合に生じていた皺や
たるみが生じないことに変わりはない。
この点,被告は,粘着材が全面に貼ってあれば,クッション材の厚み分だけ曲率
半径が小さくなり,粘着材層には皺が寄り,粘着材同士がくっつくことは明白であ
ると主張するが,本件発明は,全面に裏面シートがある場合に生じていた皺やたる
みの解消を課題としているのであり,被告製品は,裏面中央部に裏面シートがない
ので,この課題を解決しており,短尺クッションに粘着材層があることは「露出」
要件の充足の妨げとならない。
(被告の主張)
ア 国語辞典において「露出」とは,「あらわれでること,あらわしだすこと」
と定義されている。
また,本件明細書【0030】の記載からすると,構成要件Fの「露出」の意味
は,短尺クッション材が膨張した空気が放出され得る態様で外気と触れていること
を示している。
しかし,被告製品は,裏面の全面を覆うようにして1枚の粘着シールが裏面の全
体に貼られており,かつ,短尺クッション材はコーナークッション内部で密封され
て外気と触れておらず,膨張する空気が放出されることはない。
したがって,被告製品の裏面は,「露出」には当たらず,また,本件発明の効果
を奏する構造にはなっていないから,構成要件Fを充足しない。
イ 帯状裏面材が裏面全体になかったとしても,裏面全体に粘着材(粘着シ
ール)が 貼られて い れば , 粘着材に ついて曲 率半径が 小さくな るため, 「皺 や
たるみに よって粘 着材(1 6)同 士 がくっつ き 」(【 0007 】) とい う 課 題
が 生 じ る 旨の 記載 があるが ,この記 載 を参酌 しても , 本件発明 でいう露 出とは ,
短尺クッ ション材 の部 分に 粘着シー ルがあっ てはなら ないとい う構成が 必須 に
なる。こ のことは ,本件明 細書【0 030】 に「コー ナー部に は長尺裏 面側 シ
ート部と粘着材層が位置しない」と開示されていることからも明らかである。
被告製品 の裏面( 両側部の 長尺裏面 側シート 部と , 短 尺クッシ ョン材) に は ,
この裏面 の 全面を 覆うよう にして1 枚の粘着 シールが 裏面の全 体に貼ら れて い
る のであ るから , 被告製品 は ,この 【000 7】の課 題を解決 するもの では な
く,発明の効果も奏していない。
(2) 損害
(原告の主張)
被告は,平成24年5月2日から現在に至るまで,被告製品の販売を行っており,
その受けた利益額は1000万円を下らないから,同額が原告の損害となる。
(被告の主張)
争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(被告製品が本件発明の構成要件Fを充足する構成を備えているか)
について
(1) 本件明細書には,次の記載がある。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はコーナークッションに関し,より詳しくは,長
さ調節の際,カットした部分が開口せず,また夏場にコーナークッションが膨張せ
ずこれによって帯状表面材や帯状裏面材が破れるのを防止し,また折り曲げたとき
に帯状裏面材や粘着材に皺やたるみが生じずこれによってコーナー部への装着を容
易かつ確実に行うことのできるコーナークッションに関する。
【0002】
【従来の技術】建設現場におけるコーナー部や建物のコーナー部は,人や物が衝突
すると危険である。このため,同コーナー部には,衝突したときのショックを和ら
げるためにクッション材が取り付けられることが多い。近年,クッション効果に加
え,コーナー部の存在をアピールして注意を促すことができるものとして,図5お
よび図6に示すようなコーナークッション(11)が提案されている。このコーナ
ークッション(11)は,耐水性シート材料からなる帯状表面材(12)および帯
状裏面材(13)と,これら帯状表面材(12)および帯状裏面材(13)の間に
形成された閉じられた空間内に充填されたクッション材(14)と ,帯状表面材
(12)の外面に形成された斜め方向縞模様(15)と,帯状裏面材(13)の外
面に塗布された粘着材(16)とを有してなり,全体として帯状をなすものである。
なお,クッション材(14)には,連続気泡型スポンジが用いられている。
【0003】このコーナークッション(11)は,コーナー部に沿って折り曲げら
れ,粘着材(16)によってコーナー部に装着される。このコーナークッション
(11)は内部にクッション材(14)を有しており,しかも表面に斜め方向縞模
様(15)を有しているので,周囲の人に注意を促すとともに人や物が衝突したと
きのショックを和らげることができ,コーナー部用安全具として優れたものであっ
た。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,前記したコーナークッション(1
1)には,以下のような課題が存在した。すなわち,このコーナークッション(1
1)は,その長手方向において区切りのない均一断面構造であったため,コーナー
部の長さに応じてカットした場合,そのカット部分がぱっくりと開口し,雨天時に
はその開口部分から雨水が浸入していた。また,その開口部からクッション材(1
4)が抜け落ちてしまうこともあった。さらに,クッション材(14)には連続気
泡型スポンジが用いられていたため,コーナークッション(11)内に浸入した雨
水はクッション材(14)全体に浸透し,コーナークッション(11)内を水浸し
にすることがあった。こうなると,コーナークッション(11)から常に水がした
たって非常に見栄えが悪くなるとともに,人や物が衝突したときのショックを十分
に吸収できなくなる恐れがあった。
【0005】また,クッション材(14)が帯状表面材(12)と帯状裏面材(1
3)の間に形成された閉じられた空間内に充填されているため,夏場にはその閉じ
られた空間内の空気が膨張してコーナークッション(11)全体が膨張し,人や物
が衝突したときのショックで帯状表面材(12)や帯状裏面材(13)が破れてし
まうことがあった。この場合,雨天時にはその破れた箇所から雨水が浸入し,上記
したような水浸し状態となる恐れがあった。
【0006】また,このコーナークッション(11)においては,クッション材
(14)が帯状表面材(12)や帯状裏面材(13)に接着されていなかったため,
コーナー部の長さに応じてカットした場合,そのカットによる開口部分からクッシ
ョン材(14)が抜け落ちてしまい,コーナー部への装着作業に手間取ることがあ
った。
【0007】また,このコーナークッション(11)においては,コーナー部に装
着するために長手方向に折り曲げたとき,帯状裏面材(13)は帯状表面材(12)
に対し,クッション材(14)の厚み分だけ曲率半径が小さくなってしまう。この
ため,帯状裏面材(13)とこれに塗布された粘着材(16)に,皺やたるみが生
じていた。この場合,皺やたるみによって粘着材(16)同士がくっつき,コーナ
ー部への装着作業に支障をきたすとともに,コーナー部へコーナークッション(1
1)を密着させることが困難であった。
【0008】本発明はそのような実情に鑑みてなされたもので,長さ調節の際,カ
ットしてもそのカット部分が開口せず,また夏場にコーナークッションが膨張せず
これによって帯状表面材や帯状裏面材が破れるのを防止し,また内部に雨水が浸入
してもクッション材にその雨水が浸透せず,また折り曲げたときに帯状裏面材や粘
着材に皺やたるみが生じずこれによってコーナー部への装着を容易かつ確実に行う
ことのできるコーナークッションの提供を目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明は,互いに若干の間隔をおいて長手
方向に列設された複数の短尺クッション材と,これら複数の短尺クッション材の表
面側を被覆する長尺表面側シート部とこれら複数の短尺クッション材の裏面側の幅
方向両側部をそれぞれ一定幅で被覆する長尺裏面側シート部とからなる帯状被覆部
材と,前記長尺表面側シート部の外面に設けられ,明度差をもつ色彩が交互に反復
してなる斜め方向縞模様と,前記長尺裏面側シート部の外面に設けられた粘着材層
とを有してなり,全体として帯状をなすとともに危険箇所のコーナー部に装着され
るコーナークッションであって,前記長尺裏面側シート部同士の間から,前記複数
の短尺クッション材が露出していることを特徴とするコーナークッションである。
【0030】
【発明の効果】請求項1の発明は,互いに若干の間隔をおいて長手方向に列設され
た複数の短尺クッション材と,これら複数の短尺クッション材の表面側を被覆する
長尺表面側シート部とこれら複数の短尺クッション材の裏面側の幅方向両側部をそ
れぞれ一定幅で被覆する長尺裏面側シート部とからなる帯状被覆部材と,前記長尺
表面側シート部の外面に設けられ,明度差をもつ色彩が交互に反復してなる斜め方
向縞模様と,前記長尺裏面側シート部の外面に設けられた粘着材層とを有してなり,
全体として帯状をなすとともに危険箇所のコーナー部に装着されるコーナークッシ
ョンであって,前記長尺裏面側シート部同士の間から,前記複数の短尺クッション
材が露出していることを特徴とするコーナークッションであるから,以下の効果を
奏する。すなわち,長尺裏面側シート部が短尺クッション材の裏面側の幅方向両側
部をそれぞれ一定幅で被覆している構造であるから,コーナークッションの裏面側
はその幅方向中央部が長手方向に開放された状態となる。このため,夏場にコーナ
ークッション内の温度が上昇し,これに応じて内部の空気が膨張しても,膨張した
空気はコーナークッション裏面側の開放部分から放出される。従って,コーナーク
ッションは膨張せず,人や物が衝突したショックで長尺表面側シート部や長尺裏面
側シート部が破れることがない。また,コーナークッション内に雨水が浸入しても,
その雨水は前記開放部分からすぐに排出される。また,複数の短尺クッション材は
互いに若干の間隔をおいて列設されているから,人や物が衝突したときのショック
により或る短尺クッション材がずれたり外れたりしても,その影響は隣の短尺クッ
ション材へ及ばない。従って,コーナークッションの劣化を最小限に止めることが
でき,その維持管理費用を低減することができる。また,短尺クッション材は裏面
側において幅方向中央部分を帯状に露出した状態となるから,この帯状露出部分を
コーナー部に合わせることにより,コーナー部には長尺裏面側シート部と粘着材層
が位置しない。従って,コーナー部には短尺クッション材が密着し,長尺裏面側シ
ート部や粘着材層には皺やたるみが生じない。これにより,コーナークッションを
コーナー部へ密着状態で装着することができる。
(2) 「短尺クッション材が露出している」との用語の解釈について
ア 本件発明は,長手方向において区切りのない均一断面構造を持つシート材で
閉じられた空間内にクッション材を充填した従来技術によるコーナークッションで
は,①コーナー部の長さに応じてカットした場合,そのカット部分から雨水が浸入
したり,クッション材が抜け落ちるという課題,②クッション材が閉じられた空間
内に充填されているため,夏場にはその閉じられた空間内の空気が膨張して,場合
によっては外装のシートが破れてしまうという課題,③クッション材が外装のシー
トに接着されていないことから,カットによる開口部分からクッション材が抜け落
ちてしまい,コーナー部への装着作業に手間取る課題,④コーナー部に装着するた
めに長手方向に折り曲げたとき,裏面が表面に対し,クッション材の厚み分だけ曲
率半径が小さくなってしまい,裏面材とこれに塗布された粘着材に,皺やたるみが
生じ,皺やたるみによって粘着材同士がくっついてコーナー部への装着作業に支障
をきたすなどの課題が生じていたことから,本件発明の構成要件を採用することに
より,長さ調節の際,カットしてもそのカット部分が開口せず,また夏場にコーナ
ークッションが膨張せずこれによって帯状表面材や帯状裏面材が破れるのを防止し,
また内部に雨水が浸入してもクッション材にその雨水が浸透せず,また折り曲げた
ときに帯状裏面材や粘着材に皺やたるみが生じずこれによってコーナー部への装着
を容易かつ確実に行うことのできるコーナークッションの提供を目的とするものと
いうのである。
そして,その効果として,①コーナークッションの裏面側はその幅方向中央部が
長手方向に開放された状態となるので,コーナークッション内部の空気が膨張して
も,膨張した空気はコーナークッション裏面側の開放部分から放出され,②コーナ
ークッション内に雨水が浸入しても,その雨水は前記開放部分からすぐに排出され,
③複数の短尺クッション材は互いに若干の間隔をおいて列設されているから,人や
物が衝突したときのショックによる影響は隣の短尺クッション材へ及ばず,④従っ
て,コーナークッションの劣化を最小限に止めることができ,その維持管理費用を
低減することができる。また,短尺クッション材は裏面側において幅方向中央部分
を帯状に露出した状態となるから,この帯状露出部分をコーナー部に合わせること
により,コーナー部には長尺裏面側シート部と粘着材層が位置しない。従って,コ
ーナー部には短尺クッション材が密着し,長尺裏面側シート部や粘着材層には皺や
たるみが生じない。これにより,コーナークッションをコーナー部へ密着状態で装
着することができるというのである。
イ ところで「露出」とは,「あらわに,むき出しになること」(広辞苑第6版)
を意味するが,上記認定した本件発明の課題及び効果に照らせば,本件発明におけ
るその技術的意義は,コーナークッション内を通気性,透湿性が制限された状態か
ら解放してその弊害を除去するというだけでなく,製品を長手方向に折り曲げても,
クッション裏面の幅方向中央部周辺に裏面シート部と粘着材層がないことで,裏面
シートと粘着材に皺やたるみが生じず,粘着材同士がくっつかず,その結果,製品
をコーナー部に密着させやすくするという点にもあるものと解される。
そうすると,構成要件Fの「前記長尺裏面側シート部同士の間から,前記複数の
短尺クッション材が露出している」とは,コーナークッション裏面において,複数
の短尺クッション材の幅方向中央部周辺が長尺裏面側シートに覆われておらず,長
尺裏面側シートの間から見える構成となっていることを指すのみならず,長尺裏面
側シートに覆われていない幅方向中央部周辺の短尺クッション材が粘着材にも覆わ
れていないことを指すと解するのが相当である。
これに対し被告製品は,長手方向中央部周辺において,短尺クッション材が長尺
裏面側シート部に覆われておらず,同シート部の間から短尺クッション材が見える
構成となっており,本件発明の短尺クッション材に相当するスポンジの幅方向中央
部周辺を含め,その裏面全面が粘着シール(粘着材層)で覆われているというもので
あるから,上記技術的意義を有する「短尺クッション材が露出している」という要
件を充たすということはできない。
したがって,被告製品の構成は,構成要件Fを充足しないというべきである。
ウ なお原告は,被告製品の裏面は粘着シールで覆われているが,粘着シールの
透湿度はクッション材そのものよりも高く,粘着シールが貼られていない製品より
も貼られている製品の方が水分,空気をよく通すとし,それを裏付ける実験結果と
して一般財団法人化学物資評価研究機構作成に係る試験報告書(甲6)を提出する
ところ,この実験結果そのものは,技術常識に照らし受け入れられないが,これを
そのまま受け入れたとしても,それでは本件発明の四つの課題のうち上記ア①,②
の二つが解決され,その効果がもたらされるだけである。被告製品は,コーナーク
ッションの裏面幅方向中央部付近に粘着シールが存在することにより,長手方向へ
の折り曲げ時にその部分の粘着シールに皺やたるみが生じる結果,本件発明が解決
しようとした四つのうち最後の一つの課題(上記ア④)が解決されず,またそれに対
応する効果も奏しないことになるのであるから,これでは被告製品が構成要件Fを
充足すると認めることはできず,前記非充足の判断は左右されないというべきであ
る。
2 以上によれば,原告の被告に対する請求は,その余の争点につき検討するま
でもなく理由がないことが明らかであるので,これを棄却することとし,訴訟費用
の負担につき民事訴訟法61条により主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 森 崎 英 二
裁判官 田 原 美 奈 子
裁判官 大 川 潤 子
(別紙)
物 件 目 録
被告における商品名 「反射コーナークッション」
全体の長さ(長辺) 約196㎝
全体の幅(短辺) 約26.5㎝
スポンジの枚数 4枚
スポンジの長さ 約45.5㎝
スポンジの幅 約20㎝
スポンジ同士の位置関係 長手方向に4枚並んでいる。
スポンジ同士の間隔 約1~1.7㎝
長尺裏面シートの長さ 約196㎝
長尺裏面シートの幅 約8.5~10㎝
長尺裏面シート同士の間隔 約6.0~9.3㎝
長尺裏面シートが存在する場所 全体の長辺と平行に,互いに約6.0~9.3㎝
の間隔を空けて左右両側に存在する。裏面シート及
びスポンジ上には粘着材層がある。
スポンジが存在する場所 両長辺と平行に表面シートと左右の裏面シートと
をそれぞれ溶着し(溶着の開始は両長辺からの距離
で0㎝),短辺と平行に,短辺から0㎝と約50.
5㎝で表面シートと裏面シートを溶着し(反対短辺
からも同様),両短辺からの中央(短辺からの距離
約98.5㎝)で表面シートと裏面シートを溶着す
ることにより4カ所にできた表面シートと裏面シー
トの間の空間(それぞれの空間の大きさ縦45㎝,
横21㎝)内に存在する。上記空間は4カ所あり,
4カ所すべてにスポンジが存在する。

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