平成28(行ケ)10049審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成28年10月26日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告特許庁長官金子幸一 原告住友不動産株式会社
株式会社フルタイムシステム小林英了
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対象物 |
商品配達システム及び方法 |
法令 |
特許権
特許法157条2回 特許法29条2項1回 特許法159条1項1回
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キーワード |
審決33回 実施3回
|
主文 |
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯等
(1) 原告らは,平成22年9月17日,発明の名称を「商品配達システム及び方
法」とする発明について特許出願(特願2010-208829号。以下「本願」
という。)をし,平成26年3月20日付けで拒絶理由通知(甲8)を受けたこと
から,同年6月9日付け手続補正書(甲10)により特許請求の範囲を補正したが,
同年10月28日付けで拒絶査定(甲11)を受けた。
(2) 原告らは,平成27年2月4日,上記拒絶査定について不服審判を請求する
とともに(甲12),同日付け手続補正書(甲13)により特許請求の範囲を補正
した(以下「本件補正」という。)。
(3) 特許庁は,上記審判請求を不服2015-2201号事件として審理を行い,
平成28年1月6日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写
し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月19日,原
告らに送達された。
(4) 原告らは,平成28年2月17日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提
起した。 |
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判決文
平成28年10月26日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成28年(行ケ)第10049号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成28年9月21日
判 決
原 告 住 友 不 動 産 株 式 会 社
原 告 株式会社フルタイムシステム
上記両名訴訟代理人弁護士 大 野 聖 二
小 林 英 了
多 田 宏 文
被 告 特 許 庁 長 官
同 指 定 代 理 人 手 島 聖 治
金 子 幸 一
石 川 正 二
相 崎 裕 恒
冨 澤 武 志
主 文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が不服2015-2201号事件について平成28年1月6日にした審決
を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
(1) 原告らは,平成22年9月17日,発明の名称を「商品配達システム及び方
法」とする発明について特許出願(特願2010-208829号。以下「本願」
という。)をし,平成26年3月20日付けで拒絶理由通知(甲8)を受けたこと
から,同年6月9日付け手続補正書(甲10)により特許請求の範囲を補正したが,
同年10月28日付けで拒絶査定(甲11)を受けた。
(2) 原告らは,平成27年2月4日,上記拒絶査定について不服審判を請求する
とともに(甲12),同日付け手続補正書(甲13)により特許請求の範囲を補正
した(以下「本件補正」という。)。
(3) 特許庁は,上記審判請求を不服2015-2201号事件として審理を行い,
平成28年1月6日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写
し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月19日,原
告らに送達された。
(4) 原告らは,平成28年2月17日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提
起した。
2 特許請求の範囲の記載
(1) 本願発明
本件補正前の特許請求の範囲請求項1の記載は,平成26年6月9日付け手続
(甲10)により補正された次のとおりのものである。以下,この請求項1に記載
された発明を「本願発明」といい,明細書及び図面(甲1)を併せて「本件明細書」
という。なお,文中の「/」は,原文の改行箇所を示す(以下同じ。)。
【請求項1】商品発注時に利用者によって操作される発注端末と,/集合住宅に
備えられ,商品を収容するための複数のロッカーを有する宅配ロッカーと,/前記
利用者端末と複数の前記宅配ロッカーの利用状態を管理するとともに,利用者への
通知先を示す通知先情報を保有するロッカー管理部と,/通信回線を介して前記発
注端末と接続され,前記発注端末から商品の発注内容を示す発注情報を受信すると
ともに,発注に係る商品の前記集合住宅への配達を指示する宅配管理部を備え,/
前記宅配ロッカーは,発注に係る商品が搬入されたことを示す搬入完了情報を前記
ロッカー管理部へ送信し,/前記ロッカー管理部は,前記宅配ロッカーの中で利用
可能な前記ロッカーの予約が可能であり,前記搬入完了情報を受信したときに前記
宅配ロッカーの利用状態を更新するとともに,前記通知先に対して商品の配達完了
を示す配達完了情報を送信することを特徴とする商品配達システム。
(2) 本願補正発明
本件補正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,次のとおりである(甲13)。
以下,この請求項1に記載された発明を「本願補正発明」という。下線部は,本件
補正による補正箇所を示す。
【請求項1】商品発注時に利用者によって操作される発注端末と,/集合住宅に
備えられ,商品を収容するための複数のロッカーを有する宅配ロッカーと,/前記
利用者端末と複数の前記宅配ロッカーの利用状態を管理するとともに,利用者への
通知先を示す通知先情報を保有するロッカー管理部と,/通信回線を介して前記発
注端末と接続され,前記発注端末から商品の発注内容を示す発注情報を受信すると
ともに,発注に係る商品の前記集合住宅への配達を指示する宅配管理部を備え,/
前記宅配ロッカーは,発注に係る商品が搬入されたことを示す搬入完了情報を前記
ロッカー管理部へ送信し,/前記ロッカー管理部は,前記宅配ロッカーの中で利用
可能な前記ロッカーの予約が可能であり,前記搬入完了情報を受信したときに前記
宅配ロッカーの利用状態を更新するとともに,前記通知先に対して商品の配達完了
を示す配達完了情報を送信し,発注に係る商品が前記宅配ロッカーに搬入されてい
る場合には,前記通知先に対して商品の搬出を促す通知を所定時間ごとに送信する
ことを特徴とする商品配達システム。
3 本件審決の理由の要旨
(1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,①
本願補正発明は,下記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」とい
う。),下記イの引用例2に記載された発明(以下「引用発明2」という。)及び
下記ウないしカの周知例1ないし4に記載された周知技術に基づいて,当業者が容
易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許
出願の際独立して特許を受けることができないものであって,本件補正は,平成2
3年法律第63号による改正前の同法17条の2第6項において準用する同法12
6条5項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同
法53条1項の規定により却下すべきものである,②本願発明は,本願発明の構成
に限定を加えた本願補正発明と同様に,引用発明1,引用発明2及び上記周知技術
に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同法29条
2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
ア 引用例1:特開2001-175555号公報(甲2)
イ 引用例2:特開2003-128259号公報(甲3)
ウ 周知例1:特開2005-154037号公報(甲4)
エ 周知例2:特開2002-8130号公報(甲5)
オ 周知例3:特開2007-268024号公報(甲6)
カ 周知例4:特開2008-27182号公報(甲7)
(2) 本願補正発明と引用発明1との対比
本件審決が認定した引用発明1,本願補正発明と引用発明1との一致点及び相違
点は,次のとおりである。
ア 引用発明1
住居者が使用可能なモバイルインターネット端末と,/集合住宅内に備えられ,
配達された荷物を収容する複数の宅配ボックスと,/電子メールアドレス記憶部,
電子メール送信部,宅配ボックス状態記憶部を備え,宅配ボックスと双方向通信可
能に接続された通信サーバと,/を備え,/宅配ボックスは着荷信号を通信サーバ
に送信し,/その後,前記通信サーバは,宅配ボックスについての記憶使用状態を
更新するとともに,使用状態ホームページを更新し,荷物の受取人宅宛に電子メー
ルを送信する,宅配ボックスシステム。
イ 本願補正発明と引用発明1との一致点
ユーザ端末と,/集合住宅に備えられ,商品を収容するための複数のロッカーを
有する宅配ロッカーと,/前記利用者端末と複数の前記宅配ロッカーの利用状態を
管理するとともに,利用者への通知先を示す通知先情報を保有するロッカー管理部
と,/を備え,/前記宅配ロッカーは,発注に係る商品が搬入されたことを示す搬
入完了情報を前記ロッカー管理部へ送信し,/前記ロッカー管理部は,前記搬入完
了情報を受信したときに前記宅配ロッカーの利用状態を更新するとともに,前記通
知先に対して商品の配達完了を示す配達完了情報を送信する商品配達システム。
ウ 本願補正発明と引用発明1との相違点
(ア) 相違点1
ユーザ端末に関し,本願補正発明は「商品発注時に利用者によって操作される発
注端末」であるのに対し,引用発明1は「住居者が使用可能なモバイルインターネ
ット端末」である点。
(イ) 相違点2
宅配管理部に関し,本願補正発明は「通信回線を介して前記発注端末と接続され,
前記発注端末から商品の発注内容を示す発注情報を受信するとともに,発注に係る
商品の前記集合住宅への配達を指示する宅配管理部」を備えているのに対し,引用
発明1はこの点の構成を備えていない点。
(ウ) 相違点3
予約機能に関し,本願補正発明は「前記ロッカー管理部は,前記宅配ロッカーの
中で利用可能な前記ロッカーの予約が可能であり」という構成を備えているのに対
し,引用発明1はこの点の構成を備えていない点。
(エ) 相違点4
再通知機能に関し,本願補正発明は「発注に係る商品が前記宅配ロッカーに搬入
されている場合には,前記通知先に対して商品の搬出を促す通知を所定時間ごとに
送信する」という構成を備えているのに対し,引用発明1はこの点の構成を備えて
いない点。
4 取消事由
相違点1ないし4に係る容易想到性の判断の誤り(取消事由1ないし4)
第3 当事者の主張
1 取消事由1(相違点1に係る容易想到性の判断の誤り)について
〔原告らの主張〕
(1) 本件審決は,引用例2には,利用者が利用者端末装置を操作して中食の注文
を管理装置に送信することが記載されており,引用発明1に引用例2の技術手段を
適用する上での阻害要因は見当たらず,引用発明1の「住居者が使用可能なモバイ
ルインターネット端末」を本願補正発明の「商品発注時に利用者によって操作され
る発注端末」として構成することは当業者において適宜なし得るものであるとする。
しかし,引用例1には,宅配ボックスへの着荷の状況を把握することのみが記載
されているにすぎず,商品をどのようにして発注するのか,ひいては引用発明1に
記載の端末において商品発注を行うかどうかについては,何ら記載がなく,またそ
の示唆も見られない。仮に,引用発明1に引用例2の発注端末を適用するに当たり
阻害要因がないとしても,そのことのみをもって容易に想到することができるとい
うことはできない。
(2) また,引用例1の【0019】には,二つの暗証番号を入力して防犯性を高
めるセキュリティシステムが開示されており,それに引き続いて,「たとえば最近
のインターネット通販などによる高価な宅配物の増加に対して極めて有効なセキュ
リティシステムとなる。」と記載されているとおり,引用例1では,高価な宅配物
を対象とするインターネット通販において,高いセキュリティシステムを適用する
ことが開示されているにすぎないが,これに対し,引用例2では,インターネット
を介して中食を発注するシステムが開示されているものの,高価な宅配物を対象と
するものではなく,また,二つの暗証番号を入力するといった高度なセキュリティ
を必要とするものではない。
したがって,引用例1と引用例2が対象とする宅配物は全く異なるものであり,
単にインターネット通販に係るものであるからといって,引用発明1に引用発明2
を組み合わせる動機付けは一切存しない。
(3) よって,引用発明1に記載のインターネット端末を,引用例2の発注端末に
置き換えることが容易であるとする本件審決の認定は,本願補正発明をみてなされ
た後付けの議論にすぎないから,相違点1に係る構成が容易に想到することができ
るとした本件審決の判断は誤りである。
〔被告の主張〕
(1) 引用発明1の荷物にはインターネット通販の宅配物が含まれ,引用例2には,
そのインターネット通販の受発注のための具体的構成として,利用者端末装置や管
理装置などが開示され,管理装置からの指示によって配送者が注文された商品(中
食)を集合住宅の宅配ボックスに配送することが開示されている。したがって,引
用発明1に,引用例2の利用者端末装置や管理装置を適用することには動機付けが
あるとともに,阻害要因は見当たらない。
そして,引用発明1には,インターネットに接続可能な「居住者が使用可能なモ
バイルインターネット端末」があるから,これを,引用例2の利用者端末装置とし
て利用し,「商品発注時に利用者によって操作される発注端末」として構成するこ
とは適宜なし得ることである。
(2) よって,引用発明1に記載のインターネット端末を,引用例2の発注端末に
置き換えることは,容易に想到することができる。
2 取消事由2(相違点2に係る容易想到性の判断の誤り)について
〔原告らの主張〕
(1) 本件審決は,引用例2には,通信回線を介して発注情報を受信するとともに
集合住宅に設置された配送中継装置への配送の処理を行う管理装置が記載されてお
り,引用発明1において,荷物を宅配ボックスへ配送するために当該管理装置を採
用することに阻害要因は見当たらないから,引用発明1に本願補正発明の宅配管理
部を付加することは当業者において適宜なし得ることであるとする。
しかし,前記1の〔原告らの主張〕のとおり,引用例1には,宅配ボックスへの
着荷の状況を把握することのみが記載されているにすぎず,商品を発注すること,
商品の発注情報を受信して宅配ボックスへ商品の配送を指示することについては,
何らの記載もなく,また示唆もない。
よって,引用例2に記載の管理装置を本願補正発明に付加することが容易である
とする本件審決の認定は,本願補正発明をみてなされた後付けの議論にすぎない。
(2) また,引用例2に記載の管理装置には,配送先(受取者)への通知,受取者
からの回答の受付,配送作業者への配送物の運搬指示及び荷物の受取確認を行う配
送物通知手段が備えられており(【0022】),受取者への通知内容としては,
荷物の受領態様(場所,日時)に関する問合せのほか,さらなる配送物にかかる連
絡を行うことが記載されている(【0023】【0024】)。ここで,引用例2
では,「さらなる配送物にかかる連絡」の内容には特段の限定が付されていないこ
とから,配送物が配達された旨の通知もまた,「さらなる配送物にかかる連絡」に
含まれる。
そして,引用発明1では,通信サーバにおいて,受取人に対して配送物が配達さ
れた旨の通知を行う構成が既に備えられているのであり,受取人に対して配送物が
配達された旨の通知を行う引用例2の管理装置を追加する必要はない。よって,引
用発明1の構成に,引用例2の管理装置を付加することにつき阻害事由がある。
(3) 被告が周知技術として挙げる乙2には,課金配送要求をサービス事業者サー
バに送信する店舗端末と,商品集荷指示要求及び商品配送指示要求を送信するサー
ビス事業者サーバとが開示されているところ,店舗端末は小売店等の店舗に設置さ
れたパーソナルコンピュータであり(【0038】),サービス事業者サーバは宅
配業者等に設置されたワークステーション・サーバであり(【0042】),両者
は完全に異なるものであるから,乙2に宅配管理部の構成が開示されているとは到
底いうことができない。
また,被告が周知技術として挙げる乙3には,センター端末が注文情報を受信し
て,注文者情報,注文情報,取引識別情報及び地図情報を外食宅配店舗端末に送信
することが開示されているが(【0047】),当該外食宅配店舗端末が商品の配
達をセンター端末に通知する機能を有しているとおり(【0037】),商品の配
達を行うかどうかは外食宅配店舗端末において決められることであり,センター端
末において発注者への配達を指示することについては,乙3には何ら示されていな
い。
さらに,被告は,取消訴訟の段階になって初めて,乙2及び乙3によって当該構
成が周知技術であるとの主張を行ったものと解さざるを得ず,このような主張の変
更は,審決に理由を付することを義務付けた特許法157条の趣旨に反するもので
あり,認められるべきものではない。
(4) このように,引用発明1には商品の配送処理を行う管理装置については記載
ないし示唆がなく,また,引用発明1に引用例2に記載の管理装置を付加すること
につき阻害事由があるから,引用発明1に宅配管理部を付加することが容易である
とした本件審決の判断は誤りである。
〔被告の主張〕
(1) インターネット通販の宅配物のように配達(配送)される荷物が配達先を含
む指示の内容に即して集合住宅へ配達(配送)されるようにするために,発注端末
からの商品の発注内容を示す発注情報を受信するとともに,この発注情報において
特定される配達先への発注に係る商品の配達を指示する手段が通常は必要となると
ころ,このような手段は,引用例2の【0062】に記載されている。さらに,引
用例2のみならず,乙2(特開2006-12015号公報)及び乙3(特開20
02-352124号公報)においても示されており,その意味では,このような
手段は,周知技術であるということもできる。
(2) そして,引用発明1の荷物にはインターネット通販の宅配物が含まれており,
インターネット通販で注文された商品の届け先が集合住宅であれば,集合住宅に配
達するように宅配業者に指示することは当然であって,そのための手段が必要とな
るから,引用発明1において,引用例2に示される管理装置のような,周知の「通
信回線を介して前記発注端末と接続され,前記発注端末から商品の発注内容を示す
発注情報を受信するとともに,発注に係る商品の前記集合住宅への配達を指示する」
手段を採用し,これを相違点2に係る宅配管理部とすることには動機付けがあるし,
また,これを採用することに対する阻害事由は見当たらない。
(3) 原告らは,引用例2では,「さらなる配送物にかかる連絡」の内容には特段
の限定が付されていないことから,配送物が配達された旨の通知もまた,「さらな
る配送物にかかる連絡」に含まれると主張する。
しかし,引用例2には,本願補正発明の「宅配管理部」と同様の構成が示されて
いるから,このことに照らせば,引用例2の細部の記載は本件審決の容易想到の論
理付けの阻害事由にはならず,管理装置によって「さらなる配送物にかかる連絡」
として「配送物が配達された旨の通知」を行うことが,引用例2において示唆され
ていても,そのことは,本件審決が示した容易想到の論旨に対する阻害要因になら
ない。「配送物が配達された旨の通知」は,配達後の通知機能であって,配達前の
受注機能や配送指示機能とは全く別の機能であって,引用例2に記載された管理装
置のような周知の宅配管理部に不可分に含まれるものではないし,計算機を用いた
システムを設計するにあたって当業者が行う通常の工夫の範囲での相違は,文字ど
おりの設計事項にすぎず,阻害要因ではない。
また,このことをさておくとしても,引用例2には,管理装置が「配送物が配達
された旨の通知」を行うことは記載されていないし,「さらなる配送物にかかる連
絡」として「配送物が配達された旨の通知」を行う旨も記載されていない。むしろ,
利用者は,自らが指定した時間に配送中継装置を訪れ(【0060】【006
5】),ロッカーから中食を取り出すのであり(【0066】),いうなれば,
「配送物が配達された旨の通知」を待つまでもなく配達される時間を知っているの
であり,管理装置11が「配達された旨の通知」を行うことは必ずしも予定されて
いない。
(4) したがって,いずれにせよ,原告らの阻害事由に関する主張は,失当であり,
本件審決の判断に誤りはない。
3 取消事由3(相違点3に係る容易想到性の判断の誤り)について
〔原告らの主張〕
(1) 本件審決は,相違点3(予約機能)について,周知例1,2などに開示され
ているように,宅配ボックスを利用した商品の配送方法において,宅配ボックスを
予約しておくことは慣用手段であるし,予約機能を備えた宅配ボックスシステム自
体も周知例1,2に開示されているように周知であり,阻害要因もないため,引用
発明1に予約機能を付加することは当業者にとって容易に想到できるとする。
しかし,周知例1に係る宅配システムでは,予約の対象となるのはあくまで生鮮
食品専用の宅配ボックスに限られており,宅配物の種類を問わず宅配ボックスを予
約することができる本願補正発明の予約機能とは,その目的が異なる。また,周知
例2に係るロッカーシステムは,駅等の公共の場に設置された,不特定多数の者に
よる利用を予定しているロッカーボックスを対象としており,商品を確実に受け渡
すために,商品を配達するロッカーボックスの場所をあらかじめ特定し,予約する
ことが必須である。これに対し,本願補正発明の予約機能は,宅配ロッカーの場所
があらかじめ特定されており,しかも利用する者が限られており,商品を確実に受
け渡すという観点からは,利用すべきロッカーを予約することは必須ではない。よ
って,本願補正発明の予約機能は,周知例2に係るロッカーシステムの予約機能と
は全く異なる。
このように,周知例1及び同2に開示された構成は,本願補正発明の予約機能と
は異なっており,これら周知例から,宅配ボックスを利用した商品の配送方法にお
いて宅配ボックスを予約しておくことが周知慣用技術であるとすることはできない。
そして,引用発明1には,利用すべきロッカーを予約するという構成は開示されて
おらず,またその示唆もない。
(2) したがって,本願補正発明の相違点3に係る構成は,引用発明1等に基づき
容易に想到できたものではなく,これを容易であるとした本件審決の判断は誤って
いる。
〔被告の主張〕
(1) 予約機能を備えた宅配ボックスを用いて商品配送に先立って宅配ボックスを
予約することが周知技術であることは,周知例1及び同2のみならず,乙4(特開
平11-151154号公報)の【0002】【0003】【0011】,乙5
(特開2004-30159号公報)の【0009】【0011】【0034】
【0035】の記載からみても,認められるところであり,本件審決の周知技術の
認定に誤りがないことは明らかである。
(2) 周知例1及び同2がいずれも周知例として不適である旨の原告ら主張は,い
ずれも本願補正発明(及び審決の相違点3の判断に係る周知技術の内容)と無関係
の事情によるものであり,失当である。本願補正発明の「前記宅配ロッカーの中で
利用可能な前記ロッカーの予約が可能であり」とは,利用可能なロッカーを予約す
るという程度の意味であり,特定の目的に限定された予約機能や予約することが必
須である予約機能を排除するものではない。
さらに,周知例1については,予約される収納ボックスが生鮮食品専用に限定さ
れるものではないから,予約の対象となる宅配ボックスが生鮮食品専用であるとい
う目的において本願補正発明と異なる旨の原告ら主張は,周知例1の記載に即した
ものでなく,その観点からも根拠がないものである。
(3) 空の宅配ボックスがなければ荷物を預けることができない引用発明1におい
て,宅配ボックスに空きがない場合の荷物の持ち帰りの必要ないし負担を軽減する
ための技術である上記周知技術を適用する動機付けはあり,また,阻害事由は見当
たらない。
4 取消事由4(相違点4に係る容易想到性の判断の誤り)について
〔原告らの主張〕
(1) 本件審決は,相違点4(再通知機能)について,引用例2に,所定の管理期
間が経過しても利用者が中食を取りにこないと判断した場合に利用者のメールアド
レス宛てに通知をする構成が開示されており,また,周知例3,4に,宅配ボック
スを利用した商品の配送方法において,商品の受取を促すメールを所定時間ごとに
利用者宛てに送信することが開示されているし,阻害要因もないため,引用発明に
再通知機能を付加することは,当業者にとって容易であるとする。
しかし,引用例2の【0066】に開示されているのは,所定の管理期間が経過
しても配送物が受領されない場合に一度だけメールを送信する技術にすぎず,所定
時間ごとに通知を送信する本願補正発明の再通知機能とは異なるものである。さら
に,引用例2には,再通知機能を付加することの示唆はない。また,周知例3では,
「最初に着荷メールを送信してから期限切れとなる時点まで指定メールアドレスか
ら確認応答がない場合に,代理通知用のメールアドレスに着荷の通知メールを送信
するようにした例として示したが,期限切れとなるまでの間にもう少し短い期間ご
とに指定メールアドレスに再通知メールを送り,それでも確認応答が一度も得られ
ない場合に代理通知用メールアドレスに通知するようにしても良い。」と記載され
ているように(【0087】),指定されたメールアドレスから確認応答がない場
合に再通知メールが送られるのであって,商品が宅配ロッカーに搬入されている間
ではない。さらに,周知例4では,「上記処理のどこかで失敗した場合,または荷
受人からのHPアクセス(図4のJ)がない場合は,宅配物管理サーバは一定時間
おきに一定回数メールの送信(図4の I)を繰り返す。それでも荷受人によるHPア
クセスが無く,受け渡し手続き(図4のK)が完了できなかった場合は,宅配業者
は再度届け先へ出向き,宅配物を回収し,不在届を届ける。」と記載されていると
おり(【0039】),再通知メールが送られるのは,処理に失敗があった場合か
荷受人によるHPアクセスがない場合に限られるのであり,商品が宅配ロッカーに
搬入されている間に一定時間ごとに通知を行うものではない。このように,周知例
3及び同4に開示された構成は,本願補正発明の商品の搬出を促す通知を所定時間
ごとに送信するという構成とは異なっており,これら周知例の記載から,宅配ボッ
クスを利用した商品の配送方法において相違点4に係る構成が周知慣用技術である
とすることはできない。
そして,引用発明1には,商品の搬出を促す通知を所定時間ごとに送信するとい
う構成は開示されておらず,またその示唆もない。
(2) したがって,本願補正発明の相違点4に係る構成は,引用発明1等に基づき
容易に想到できたものではなく,これを容易であるとした本件審決の判断は誤って
いる。
〔被告の主張〕
(1) 本件審決の相違点4の判断に係る周知技術の認定に誤りはない。
(2) 引用発明1には,荷物が宅配ボックスから長期間取り出されないという異常
状態を把握して対応するという課題があり,また,引用例2,周知例3,周知例4,
乙6及び乙7には,その課題への対応策である再通知機能が記載されているのであ
るから,引用発明1には,このような再通知機能を適用する動機付けがあり,また,
阻害事由は見当たらない。
よって,本件審決が,引用発明1において,宅配ボックスへの着荷を受取人宛て
に通知するために,これらの周知技術に基づいて,「発注に係る商品が前記宅配ロ
ッカーに搬入されている場合には,前記通知先に対して商品の搬出を促す通知を所
定時間ごとに送信する」構成を付加する程度のことも当業者であれば適宜なし得る
ことであると判断した点に誤りはない。
第4 当裁判所の判断
1 本願補正発明について
(1) 本願補正発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2(2)記載のとおりであ
るところ,本件明細書(甲1)には,おおむね,次の記載がある。
ア 技術分野
本発明は,例えば集合住宅の居住者への商品の配達,及び,商品を収容するコン
テナの回収を確実に行うことが可能なシステム及び方法に関するものである(【0
001】)。
イ 背景技術
近年,共働き家族の増加に伴い,例えば食品を配達する配達サービスが広く普及
してきている。特に,マンション等の集合住宅においては,この傾向が顕著である。
この食品配達サービスでは,利用者が食品配達事業者の運営する注文用ウェブサイ
トにアクセスし,あるいは,所定の注文用紙を食品配達事業者が回収するなどの方
法により,食品の注文が行われる。注文を受けた食品配達事業者は,自ら食品を配
送し,あるいは提携する宅配業者に食品の配送を指示することで,利用者に食品が
配達される。これにより,利用者は,スーパーマーケットに行って食品を購入する
手間を省くことができる(【0002】)。
このような食品配達サービスにおいては,宅配業者(あるいは食品配達事業者)
が食品を配達する際にマンションの中に入る必要があったため,セキュリティの観
点から問題があった。また,食品の配達時に利用者が不在である場合は,食材を持
ち帰るか,住戸の前に留め置く必要があったため,生鮮品を配達する場合には不向
きであった(【0003】)。
そこで,非特許文献1に記載のサービスでは,マンションの共用部分に食品保管
場所を設置し,マンションの居住者と個別に契約した食品配達事業者が,この食品
保管場所に食品を留置配達するとともに,居住者に食品が配達されたことを通知す
る電子メールを送信する。これにより,食品配達事業者がマンションの中に入るこ
となく,食品の配達が可能となる(【0004】)。
ウ 発明が解決しようとする課題
しかしながら,上記非特許文献に記載のサービスでは,マンション内に食品の保
管場所を確保する必要があり,スペース上の制約が生じていた。また,当該保管場
所は,マンション内の全居住者が出入り可能となっているため,ある居住者が注文
した食品が,他の居住者によって誤って持ち出されるおそれがあった。また,食品
を注文した居住者が搬出を忘れてしまう場合には,保管場所全体の衛生状態が悪化
するという問題があった(【0006】)。
さらに,食品配達事業者において,配達された食品を収容する食品コンテナを別
途回収する必要があるところ,上記非特許文献に記載のサービスでは,食品コンテ
ナを回収すべきタイミングを認識できず,食品コンテナを直ちに回収することがで
きないという問題も生じていた(【0007】)。
本発明は,上記背景に鑑みなされたものであり,簡易な構成により,安全かつ確
実に商品を配達することのできる商品配達システム及び方法を提供することを目的
とする。また,本発明は,配達後のコンテナを直ちに回収することを可能とする商
品配達システム及び方法を提供することを目的とする(【0008】)。
エ 課題を解決するための手段
本発明の商品配達システムは,商品発注時に利用者によって操作される発注端末
と,集合住宅に備えられ,商品を収容するための複数のロッカーを有する宅配ロッ
カーと,前記発注端末と複数の前記宅配ロッカーの利用状態を管理するとともに,
利用者への通知先を示す通知先情報を保有するロッカー管理部と,通信回線を介し
て前記発注端末と接続され,前記発注端末から商品の発注内容を示す発注情報を受
信するとともに,発注に係る商品の前記集合住宅への配達を指示する宅配管理部を
備え,前記宅配ロッカーは,発注に係る商品が搬入されたことを示す搬入完了情報
を前記ロッカー管理部へ送信し,前記ロッカー管理部は,前記搬入完了情報を受信
したときに前記宅配ロッカーの利用状態を更新するとともに,前記通知先に対して
商品の配達完了を示す配達完了情報を送信することを特徴とする(【0009】)。
この構成により,利用者が注文した商品が集合住宅の宅配ロッカーへ搬入される
とともに,商品の配達完了を示す通知が利用者に送信されるから,簡易な構成によ
り,安全かつ確実に商品を配達することが可能となる(【0010】)。
本発明の商品配達システムにおいて,前記ロッカー管理部は,発注に係る商品が,
前記宅配ロッカーに所定時間搬入されている場合には,前記通知先に対して商品の
搬出を促す通知を送信することを特徴とする。この構成により,商品の搬出を失念
している利用者に対して商品の搬出を促すことができ,ロッカー内部の衛生状態が
悪化するのを防止することができる(【0011】)。
オ 発明の効果
本発明によれば,注文に係る商品を宅配ロッカーに搬入するとともに,ロッカー
への搬入を利用者へ通知するようにしたから,簡易な構成により,安全かつ確実に
商品を配達することができる。また,商品を収容するコンテナを宅配ロッカーへ搬
入されたことを,配達業者へ通知するようにしたから,配達に用いられたコンテナ
を直ちに回収することができる(【0016】)。
(2) 本願補正発明の特徴
ア 本願補正発明は,集合住宅の居住者への商品の配達を確実に行うことが可能
な商品配達システム及び方法に関するものである(【0001】)。
イ 例えば食品を配達する配達サービスが,利用者が食品配達事業者の運営する
注文用ウェブサイトにアクセスするなどの方法により食品の注文が行われ,注文を
受けた食品配達事業者は,自ら食品を配送し,あるいは提携する宅配業者に食品の
配送を指示することで,利用者に食品が配達されるものであり,宅配業者(あるい
は食品配達事業者)が食品を配達する際にマンションの中に入る必要があったため,
セキュリティの観点から問題があり,また,食品の配達時に利用者が不在である場
合は,食材を持ち帰るか,住戸の前に留め置く必要があったため,生鮮品を配達す
る場合には不向きであったところ,従来の配達サービスでは,マンションの共用部
分に食品保管場所を設置し,マンションの居住者と個別に契約した食品配達事業者
が,この食品保管場所に食品を留置配達するとともに,居住者に食品が配達された
ことを通知する電子メールを送信することで,食品配達事業者がマンションの中に
入ることなく,食品の配達を可能としていた。しかしながら,マンション内に食品
の保管場所を確保する必要があり,スペース上の制約が生じており,また,当該保
管場所は,マンション内の全居住者が出入り可能となっているため,ある居住者が
注文した食品が,他の居住者によって誤って持ち出されるおそれがあり,さらに,
食品を注文した居住者が搬出を忘れてしまう場合には,保管場所全体の衛生状態が
悪化するなどという問題が存在した(【0002】~【0004】,【0006】,
【0007】)。
それに対し,本願補正発明は,簡易な構成により,安全かつ確実に商品を配達す
ることのできる商品配達システム及び方法を提供することを目的とするものである
(【0008】)。
ウ そこで,本願補正発明は,請求項1に係る構成を採用することにより,注文
に係る商品を宅配ロッカーに搬入するとともに,ロッカーへの搬入を利用者へ通知
するようにすることで,簡易な構成により安全かつ確実に商品を配達することがで
き,また,食品の搬出を失念している利用者に対して食品の搬出を促すことができ,
ロッカー内部の衛生状態が悪化するのを防止することができ,さらに,商品の配達
時に搬入可能なロッカーが存在せず,商品を持ち帰らなければならないリスクをな
くすことができる,という効果を奏するものである(【0009】~【0011】,
【0016】)。
2 引用発明1について
(1) 引用例1(甲2)の発明の詳細な説明には,おおむね,以下のとおり記載さ
れている。
ア 発明の属する技術分野
この出願の発明は,宅配ボックスシステムに関するものである(【0001】)。
イ 従来の技術
従来より,マンション等の集合住宅においては,宅配物等の荷物を,その配達先
の居住者が不在の場合でも複数並設された宅配ボックスの一つに入れて保管してお
き,帰宅した配達先の居住者のみが取り出せるように構築されている宅配ボックス
システムがしばしば設けられている(【0002】)。
ウ 発明が解決しようとする課題
しかしながら,従来の宅配ボックスシステムでは,宅配ボックスへの荷物の着荷
を配達先居住者に通知する必要があるが,その通知手段が実用上十分に満足できる
程に利便性の良いものではなかった。すなわち,従来の宅配ボックスシステムには
配達先番号(受取人宅の部屋番号など)を表示する番号表示手段が備えられており,
居住者はその番号表示手段による番号表示を確認して,自分宛ての荷物が保管され
ていることを知るのである。これでは帰宅の度に宅配ボックスシステムの設置場所
まで行って番号表示手段を確認しなければならず,居住者にとってはあまり効率の
よいものではなかった(【0003】)。
そこで,より利便性の良い着荷・保管通知を実現すべく,着荷を自動検出して受
取人宅へ自動的に電話連絡する宅配ボックスシステムが検討されてきている。この
ようなシステムとしては,たとえば特開平4-267789号公報,特開平5-1
47694号公報,特開平8-11984号公報,特開平10-290742号公
報に開示されたものがある(【0004】)。
しかしながら,これらの従来システムではいずれも,電話による自動通知の利便
性は認めるものの,居住者が電話連絡を必ず受け取る必要があり,また通知メッセ
ージが合成音声なので宅配ボックス番号や暗証番号などを聞き取りにくく,たとえ
ば留守番電話に録音されていても聞き取れない場合があり,さらにまた電話連絡を
受けても直ぐに取りに行けないときには暗証番号等をいちいち書き留めておかなけ
ればならない,などといった障害がある。このため,これらの問題点を解決してさ
らに進歩した自動通知技術の実現が望まれる(【0005】)。
ところで,上述したことは専ら集合住宅の居住者(受取人)側から見た問題や要
望であるが,この宅配ボックスシステムについてはさらに,それを使用している集
合住宅の管理人や外部のシステム管理会社において,たとえば各宅配ボックスの使
用状況の管理やトラブル発生の即時通報などの実現が望まれてもいる。宅配ボック
スシステムが複数人により共同で使用されるとともに高いセキュリティを必要とし
たシステムであることを考えると当然のことである(【0006】)。
この出願の発明は,以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり,従来技術の
問題点を解消し,各宅配ボックスの使用状況や配達状況などの様々なシステム情報
を,自由度高く,容易かつ確実に,通知・管理することのできる,新しい宅配ボッ
クスシステムを提供することを課題としている(【0007】)。
エ 課題を解決するための手段
この出願の発明は,上記の課題を解決するものとして,宅配ボックスへの着荷を
示す電子メールを作成する電子メール作成部と,受取人ごとの電子メールアドレス
を記憶する電子メールアドレス記憶部と,電子メールアドレス記憶部から着荷荷物
の受取人の電子メールアドレスを読み出して当該電子メールアドレスへ電子メール
作成部による電子メールを送信する電子メール送信部とを有しており,宅配ボック
スへの着荷を受取人へ電子メールにより自動通知することを特徴とする宅配ボック
スシステム(請求項1),宅配ボックスの使用状態を記憶する宅配ボックス状態記
憶部と,宅配ボックス状態記憶部の記憶使用状態を記載したホームページを作成す
るホームページ作成部と,ホームページ作成部によるホームページを記憶するホー
ムページ記憶部と,インターネット端末装置からのアクセスに応じてホームページ
記憶部の前記ホームページを閲覧可能とするWWWサーバと,を有しており,イン
ターネット端末装置からアクセスして前記ホームページ上にて宅配ボックスの使用
状態を閲覧可能となっていることを特徴とする宅配ボックスシステム(請求項2),
宅配ボックスの使用状態を示す電子メールを作成する電子メール作成部と,管理者
の電子メールアドレスを記憶する電子メールアドレス記憶部と,電子メールアドレ
ス記憶部から管理者の電子メールアドレスを読み出して当該電子メールアドレスへ
電子メール作成部による電子メールを送信する電子メール送信部と,を有しており,
宅配ボックスの使用状態を管理者へ電子メールにより自動通知することを特徴とす
る宅配ボックスシステム(請求項3),そしてこれらの宅配ボックスシステムを統
合構築した,宅配ボックスへの着荷を示す電子メール及び宅配ボックスの使用状態
を示す電子メールを作成する電子メール作成部と,受取人ごとの電子メールアドレ
スおよび管理者の電子メールアドレスを記憶する電子メールアドレス記憶部と,電
子メールアドレス記憶部から着荷荷物の受取人の電子メールアドレス及び管理者の
電子メールアドレスを読み出して当該電子メールアドレスへ電子メール作成部によ
る電子メールを送信する電子メール送信部と,宅配ボックスの使用状態を記憶する
宅配ボックス状態記憶部と,宅配ボックス状態記憶部の記憶使用状態を記載したホ
ームページを作成するホームページ作成部と,ホームページ作成部によるホームペ
ージを記憶するホームページ記憶部と,インターネット端末装置からのアクセスに
応じてホームページ記憶部の前記ホームページを閲覧可能とするWWWサーバと,
を有しており,宅配ボックスへの着荷を受取人へ電子メールにより自動通知し,宅
配ボックスの使用状態を管理者へ電子メールにより自動通知し,且つ,インターネ
ット端末装置からアクセスして前記ホームページ上にて宅配ボックスの使用状態を
閲覧可能となっていることを特徴とする宅配ボックスシステム(請求項4)を提供
する(【0008】)。
オ 発明の実施の形態
この出願の発明は,上記の通りの特徴を有するものであり,すなわちインターネ
ットを介して宅配ボックスへの着荷や宅配ボックスの使用状態を通知したり監視し
たりすることができるようになっているものである(【0010】)。
<A>着荷の電子メール通知電子メールにより受取人へ着荷通知を行うこの発明
の宅配ボックスシステムは,たとえば図1に例示したように,電子メール作成部
(20),電子メールアドレス記憶部(21),電子メール送信部(22)を主な
構成要素として備えている(【0011】)。
電子メール作成部(20)は,複数併設されている宅配ボックス(10)の一つ
に荷物が預けられると,宅配ボックス(10)への着荷を示す電子メールを自動作
成する。この電子メール自動作成は,たとえば宅配ボックス(10)に備えられた
荷物検出センサ(11)や捺印装置(12)の動作に従って始動する。より具体的
には,荷物検出センサ(11)が宅配ボックス(10)に備えられている場合には,
荷物検出センサ(11)の荷物検出に従って,つまり宅配ボックス(10)内の荷
物が検出されると電子メール作成部(20)は電子メールを自動作成する。また,
捺印装置(12)が宅配ボックス(10)に備えられている場合には,通常,宅配
業者等の配達人は捺印装置(12)により受領捺印を受けるので,その捺印装置
(12)の受領捺印に従って,つまり受領捺印動作が行われると電子メール作成部
(20)は電子メールを自動作成する。もちろん荷物検出センサ(11)および捺
印装置(12)の両方が宅配ボックス(10)に備えられていてもよく,この場合
ではたとえば荷物検出センサ(11)が故障などにより動作しなくても捺印装置
(12)の受領捺印動作に従って電子メール自動作成が確実に行われるようになる
(【0012】)。
このように電子メール作成部(10)により自動作成された電子メールは荷物の
受取人へ送信される必要があるが,この送信は電子メールアドレス記憶部(21)
および電子メール送信部(22)によって行われる。電子メール送信部(22)は
まず,各受取人ごとの電子メールアドレスが予め記憶されている電子メールアドレ
ス記憶部(21)から該当する受取人の電子メールアドレスを読み出す。この読み
出しは,たとえば宅配ボックス(10)からの受取人識別情報に基づいて行われる。
より具体的には,たとえば,配達人が荷物の受取人の識別情報を宅配ボックス(1
0)の番号入力装置(13)にて入力すると,この受取人識別情報が電子メール送
信部(22)へ与えられ,電子メール送信部(22)は受取人識別情報により識別
される該当受取人を電子メールアドレス記憶部(21)から選択し,その電子メー
ルアドレスを読み出すのである。受取人識別情報としては,たとえば受取人宅の部
屋番号を用いることができ,この場合では電子メールアドレス記憶部(21)には
受取人宅ごとの電子メールアドレスが記憶されている(【0013】)。
そして,このように選択・読出された電子メールアドレスへ着荷を示す電子メー
ルが自動送信されることとなり,受取人は,電子メール機能を有するインターネッ
ト端末装置(100)によって電子メールを受信し,自分宛ての荷物が宅配ボック
ス(10)に保管されていることを確実に知ることができる(【0014】)。
また,この電子メールには着荷宅配ボックス番号,つまり荷物が預けられたボッ
クス(10)の識別番号,が記載される。この着荷宅配ボックス番号としては,た
とえば配達人によって番号入力装置(13)に入力されたものが電子メール作成部
(20)へ与えられ,電子メール作成部(20)により電子メールに記載されるの
である(【0015】)。
ところで,荷物の取り出しには,通常は暗証番号の入力が必要とされるのである
が,この発明では,三通りの暗証番号システムを採用することができ,セキュリテ
ィに関しても非常に優れたものとなっている(【0016】)。
一つは,予め受取人ごと(あるいは受取人宅ごと)に暗証番号を登録しておき,
宅配ボックス(10)は受取人識別情報によって識別される受取人の暗証番号入力
が取出時(解錠時)に必要となるように設定されるシステムである。この暗証番号
を固定暗証番号と呼ぶこととし,この固定暗証番号の登録は図1中の固定暗証番号
登録部(70)にて行われる(【0017】)。
もう一つは,電子メール通知ならではのシステムであり,電子メール作成時に自
動的に暗証番号をランダムに作成するようにして,この暗証番号(一時的な暗証番
号であるので一時暗証番号と呼ぶこととする)を電子メールに記載するのである。
一時暗証番号は電子メール作成の度にランダムに異なるものとなるので,毎回(着
荷ごと)異なる暗証番号が必要となり,高いセキュリティ性を確保することができ
る。この一時暗証番号は,図1中の一時暗証番号作成部(60)により作成され,
電子メール作成部(20)に送られて電子メールに記載される。宅配ボックス(1
0)は一時暗証番号の入力が必要となるように設定される(【0018】)。
そして,これら固定暗証番号および一時暗証番号の両方を組み合わせた暗証番号
システムとすることももちろん可能である。この場合には,固定暗証番号とともに,
電子メールに記載された一時暗証番号をも入力する必要があり,いうなれば二重セ
キュリティが構築されていることになる。宅配ボックス(10)も両暗証暗号の入
力が必要となるように設定される。これは,二つの暗証番号の入力という極めて防
犯姓が高いものであり,たとえば最近のインターネット通販などによる高価な宅配
物の増加に対して極めて有効なセキュリティシステムとなる(【0019】)。
これらの情報から,ある宅配ボックス(10)が空・解錠・未捺印状態であれば
その宅配ボックス(10)は正常な未使用状態であり,また着荷・施錠・未捺印状
態であればその宅配ボックス(10)は捺印なしで使用状態となっており,また着
荷・施錠・捺印状態であればその宅配ボックス(10)は正常な使用状態であるこ
となどが確認できる。さらには,たとえば正常な使用状態中(正常保管中)に暗証
番号の入力なしに解錠したりボックス扉が開けられた場合や,不正暗証番号の入力
が多数回行なわれた場合などは,異常状態として使用状態ホームページに表示され
る。着荷時刻および取出時刻からは荷物の保管時間も把握でき,保管が所定時間以
上であると長時間滞留の異常状態となる。これらの異常状態を使用状態ホームペー
ジにて確認した管理者は,各異常状態に適した的確な対応を行えるようになる。な
お,使用状態の変化履歴からは宅配ボックスごとや受取人ごとの利用傾向などを把
握できる(【0028】)。
カ 実施例
ここで,本実施例における宅配ボックスシステムおよびそれを使用する受取人
(居住者)・管理人・管理会社が行なう各種動作について説明する。なおここでは,
通信サーバ(110)に備えられた上記各構成部ごとの細かな動作・機能について
は既に詳述しているので,大まかな流れについてのみ説明する。以下,宅配ボック
ス(10)の番号は「a」「b」「c」…,集合住宅の配達先部屋番号は「201」
「202」「203」…であるとする(【0045】)。
<1> 宅配ボックス(10)への着荷時のシステム動作
①配達人が荷物を空の宅配ボックス(10)「a」に預ける。
②配達人が配達先部屋番号「201」を入力するとともに捺印装置(12)により
受領捺印を受ける。
③捺印装置(12)の捺印動作に従って着荷信号(配達先部屋番号「201」およ
び着荷宅配ボックス番号「a」を表す信号を含む)が通信サーバ(110)に送信
される。
④通信サーバ(110)は,荷物の受取人宅(「201」号室の電子メールアドレ
ス)宛てに電子メールを送信する。電子メールには着荷宅配ボックス番号「a」お
よび一時暗証番号「****」が記載されている。「201」号室については一時
暗証番号作成部(60)の動作が予めOn設定されているとする。
⑤一方で,宅配ボックス(10)「a」の使用状態が通信サーバ(110)へ送信
される。着荷時の使用状態には,着荷有り,施錠有り,捺印有り,一時暗証番号設
定有りや,着荷時刻などが含まれる。
⑥通信サーバ(110)は,宅配ボックス(10)「a」についての記憶使用状態
を更新するとともに,使用状態ホームページを更新する(【0046】)。
キ 発明の効果
以上詳しく説明した通り,この発明の宅配ボックスシステムによって,居住者・
管理者が利用可能な宅配ボックスに関わるインターネット・イントラネットが構築
され,電子メールによる着荷の自動通知やホームページ閲覧による宅配ボックス自
体の状態管理が実現される。最近では各住戸と管理人・管理会社等との間でのイン
トラネットシステムや各住戸が外部インターネットへ自在に接続可能としたインタ
ーネットシステムを予め導入したマンション(いわゆるインターネットマンション)
などが出現してきており,このインターネット・イントラネットシステムにこの発
明の宅配ボックスシステムを組み込むことにより,より一層の宅配ボックスの利便
性向上を安価に図ることもできる(【0053】)。
(2) 引用発明1の特徴
引用例1(甲2)には,本件審決が認定したとおりの引用発明1(前記第2の3
(2)ア)が記載されていることが認められ,前記(1)の記載によれば,引用発明1の
特徴は,以下のとおりのものと認められる。
ア 引用発明1は,宅配ボックスシステムに関するものである(【0001】)。
イ 従来の宅配ボックスシステムでは,宅配ボックスへの荷物の着荷を配達先居
住者に通知する必要があり,そのために,配達先番号(受取人宅の部屋番号など)
を表示する番号表示手段が備えられ,居住者はその番号表示手段による番号表示を
確認して,自分宛ての荷物が保管されていることを知るので,帰宅の度に宅配ボッ
クスシステムの設置場所まで行って番号表示手段を確認しなければならず,居住者
にとってはあまり効率のよいものではなく実用上十分に満足できる程に利便性の良
いものではなかったところ,より利便性の良い着荷・保管通知を実現するために検
討された,着荷を自動検出して受取人宅へ自動的に電話連絡する宅配ボックスシス
テムでは,居住者が電話連絡を必ず受け取る必要があり,また通知メッセージが合
成音声なので宅配ボックス番号や暗証番号などを聞き取りにくく,たとえば留守番
電話に録音されていても聞き取れない場合があり,さらにまた電話連絡を受けても
直ぐに取りに行けないときには暗証番号等をいちいち書き留めておかなければなら
ない,などといった問題が存在した(【0003】~【0005】)。
加えて,宅配ボックスシステムを使用している集合住宅の管理人や外部のシステ
ム管理会社において,たとえば各宅配ボックスの使用状況の管理やトラブル発生の
即時通報などの実現が望まれていた(【0006】)。
それに対し,引用発明1は,各宅配ボックスの使用状況や配達状況などの様々な
システム情報を,自由度高く,容易かつ確実に,通知・管理することのできる,新
しい宅配ボックスシステムを提供することを目的とす るものであり(【000
7】),インターネット等を用いて,宅配ボックスへの荷物の着荷情報の通知の利
便性を向上させ,また,集合住宅の管理人等による宅配ボックス管理の利便性を向
上させるものである。
ウ そこで,引用発明1は,電子メール送受機能やホームページ閲覧機能を有す
る集合住宅の住居者が使用可能なモバイルインターネット端末,集合住宅内に設置
された宅配ボックス,宅配ボックスと双方向通信可能に接続されるとともに,電子
メール作成部,電子メールアドレス記憶部,電子メール送信部,宅配ボックス状態
記憶部を備える通信サーバ,を有し,配達人が荷物を宅配ボックスに預けると,着
荷信号が宅配ボックスから通信サーバに送信され,その後通信サーバは,荷物の受
取人宅宛てに電子メールを送信し,宅配ボックスについての記憶使用状態を更新す
るとともに,使用状態ホームページを更新する宅配ボックスシステムに係る構成を
採用することにより,居住者・管理者が利用可能な宅配ボックスに関わるインター
ネット・イントラネットが構築され,電子メールによる着荷の自動通知やホームペ
ージ閲覧による宅配ボックス自体の状態管理が実現され,受取人は,電子メール機
能を有するインターネット端末装置によって電子メールを受信し,自分宛ての荷物
が宅配ボックスに保管されていることを確実に知ることができる,という効果を奏
するものである(【0008】【0010】~【0019】【0028】【005
3】)。
3 取消事由1(相違点1に係る容易想到性の判断の誤り)について
(1) 本願補正発明と引用発明1とを対比すると,前記第2の3(2)ウ(ア)記載の
とおりの相違点1が認められ,このことは当事者間に争いがない。
(2) 引用例2(甲3)には,以下のとおり,引用発明2が開示されている。
好きな食事を任意に摂取できる食環境について,より低コストかつ迅速な配送が
可能で,管理や作業が容易であり,かつ,発送者,受取者の利用者双方の要求に臨
機応変に適応できるような,便利で効率のよい配送システムを提供するために
(【0007】【0008】),権限を有する所定の配送作業者及び利用者のみが
荷物を出し入れすることができるボックスなどの収容手段を複数有する集合住宅の
玄関などに設置された配送中継装置と,利用者端末装置と,管理装置と,中食提供
者端末装置とを備え,利用者が利用者端末装置を操作して,中食の内容,当該中食
を利用者が受け取る時間及び配送中継装置を指定した注文を管理装置に送信し,管
理装置が,上記受信した注文について,中食提供者端末装置に対して,指定された
内容の中食を製造することを指示するとともに,中食配送者端末装置に対して,上
記指定された時間までに指定された配送中継装置に中食を配送することを指示し,
中食配送者が,中食配送者端末装置が受けた指示を基に,中食提供者から受け取っ
た中食を,上記指定された時間までに,指定された配送中継装置の所定のロッカー
に保管されるよう配送し,配送中継装置は,所定の管理期間が経過しても利用者が
中食を取りにこないと判断した場合には,利用者のメールアドレスにその旨を通知
する,中食配送システム(【0029】【0032】【0054】~【006
6】)。
(3) 引用発明1は,前記2(2)のとおり,集合住宅内に設置された宅配ボックス
から成り,受取人宛ての荷物が配達され宅配ボックスに保管されると,通信サーバ
が,荷物の受取人宅宛てに電子メールを送信する宅配ボックスシステムである。そ
して,引用発明2は,前記(2)のとおり,ボックス等の収納手段を有する集合住宅の
玄関などに設置された配送中継装置から成り,利用者の注文した中食が配送され配
送中継装置に保管され,その後所定の管理時間が経過しても中食が取られない場合
には,配送中継装置が,中食の受取人である利用者のメールアドレスに通知を送る
中食配送システムというものである。
したがって,引用発明1と引用発明2は,ともに,集合住宅に設置された保管ボ
ックスから成り,配達され保管された利用者宛ての荷物について,システムから利
用者に対しメール通知を行う荷物の配送システムという,共通の技術分野に属する
ものである。そして,引用発明1と引用発明2は,いずれも,荷物の配送システム
において,インターネット等を利用して発送者,受取者等の利用者の利便性を向上
させるという課題を解決するものということができ,引用発明1のシステムの利便
性を向上させるために,利用者端末装置や管理装置を含む引用発明2の構成を組み
合わせる動機付けがあるというべきである。
(4) 他方,引用発明1は,自分宛ての荷物の注文が,誰によりどのようになされ
たものであるのか何ら特定していないから,自分宛ての荷物の配達として,利用者
自らの注文によらない場合の配達サービス(具体的には,他者による注文に基づく
荷物の配達)に限定されないと解するのが自然であり,また,引用例1の【001
9】における「…たとえば最近のインターネット通販などによる高価な宅配物の増
加に対して極めて有効なセキュリティシステムとなる。」との記載には「インター
ネット通販」が例示として挙げられているのであって,引用発明1が,インターネ
ット通販のような,利用者自らが自分宛ての荷物を注文し,当該注文した荷物を配
送業者等により自身宛てに配達してもらう形態を排除していないと解するのが相当
である。
そうすると,引用発明1に対し,共通の技術分野に属し,共通の課題を有する引
用発明2を適用する上での阻害要因は何ら認められないというべきである。
(5) 原告らの主張について
原告らは,引用例1では,高価な宅配物を対象とするインターネット通販におい
て,高いセキュリティシステムを適用することが開示されているにすぎないのに対
し,引用例2では,インターネットを介して中食を発注するシステムが開示されて
いるものの,高価な宅配物を対象とするものではなく,また,二つの暗証番号を入
力するといった高度なセキュリティを必要とするものではないから,引用例1と引
用例2が対象とする宅配物は全く異なるものであり,単にインターネット通販に係
るものであるからといって,引用発明1に引用発明2を組み合わせる動機付けは一
切存しないと主張する。
しかし,引用例1自体,高度のセキュリティを備えることを必然の構成としてい
るわけではないし(甲2の【0016】~【0019】),配送対象の荷物が高価
であるか否かや,高度なセキュリティを要するか否かが,技術分野及び課題の共通
性を阻害し動機付けを失わせるとはいえないから,原告らの上記主張は理由がない。
(6) したがって,引用発明1に対し,共通の技術分野に属し,課題においても共
通する引用発明2を適用することの動機付けがあり,かつ,適用する上での阻害要
因が何ら認められないのであるから,引用発明1におけるユーザのモバイル端末に
おいて,引用発明2の技術を適用することで,発注機能を備えるよう構成して相違
点1に係る構成とすることは,当業者が容易に想到することができたものである。
4 取消事由2(相違点2に係る容易想到性の判断の誤り)について
(1) 本願補正発明と引用発明1とを対比すると,前記第2の3(2)ウ(イ)記載の
とおりの相違点2が認められ,このことは当事者間に争いがない。
(2) 前記3のとおり,引用発明1におけるユーザのモバイル端末において,引用
発明2を適用することで,発注機能を備えるよう構成することは当業者が容易に想
到することができたものである。そして,この場合,引用発明2記載の技術である
発注端末によって発注された商品等の荷物が,配達先を含む発注内容に即して集合
住宅へ配達されるようにするためには,前記発注端末と,実際に配達を行う配達人
用装置との間を,情報を伝達するインターネット等を介して接続する手段が必要と
なるところ,インターネットを介して発注端末に接続され,当該発注端末から商品
の発注内容を示す情報を受信するとともに,発注に係る商品の配達を指示する手段
は,例えば,引用発明2の管理装置(甲3の【0060】【0063】),センタ
ー端末(乙3の【0047】)のように周知の技術であると認められる。そうする
と,引用発明1に対し,共通の技術分野に属し,荷物の配送システムにおいて,イ
ンターネット等を利用して発送者,受取者等の利用者の利便性を向上させる点で課
題が共通し,かかる課題を解決するために発注内容に即した配達を行える仕組みを
構築するという周知の技術を適用することの動機付けがある。また,引用発明2の
管理装置における配送物通知手段は,管理装置の機能の一つにすぎないから,引用
発明2が配送物通知手段を備えていることは,前記周知の技術の適用を妨げるもの
ではなく,阻害要因は認められない。
(3) 原告らの主張について
ア 原告らは,乙3においては,商品の配達を行うかどうかは外食宅配店舗端末
において決められることであり,センター端末において発注者への配達を指示する
ことについては,何ら示されていないと主張する。
しかし,乙3におけるセンター端末は,外食宅配店舗端末に対し実質的に配送の
指示をしているといえるから,原告らの上記主張は理由がない。
イ 原告らは,被告が取消訴訟の段階になって初めて,周知技術の主張をしたの
であって,かかる主張の変更は,審決に理由を付することを義務付けた特許法15
7条の趣旨に反するものであり,認められるべきものではないと主張する。
しかし,本件審決は,「発注者のインターネット端末等から商品の発注内容を示
す発注情報を受信し,発注者への配達を指示する宅配管理部」が証拠を挙げるまで
もなく周知であることを示しており,乙3は,本件訴訟において,当該周知に係る
事実について念のため提出されたものにすぎない。よって,原告らの上記主張は理
由がない。
(4) したがって,引用発明1に,上記周知の技術を適用することで,引用発明1
において発注処理を行うために,相違点2に係る本願補正発明の構成を付加するこ
とは,当業者が容易に想到することができたものである。
5 取消事由3(相違点3に係る容易想到性の判断の誤り)について
(1) 本願補正発明と引用発明1とを対比すると,前記第2の3(2)ウ(ウ)記載のと
おりの相違点3が認められ,このことは当事者間に争いがない。
(2) 周知技術について
ア 周知例1(甲4)には,以下の技術が記載されている。
受取人が収納ボックスに収納された商品を取り出した場合,当該商品の識別情報
から配送業者のメールアドレス情報に基づき,受取人の情報処理装置により送信さ
れた宅配物の受領を示すメールを配送業者の情報処理装置により受信する商品の配
送方法において,宅配業者のサーバは,宅配物が生鮮食料品と判断される場合には,
マンション内のサーバに生鮮食品専用の宅配ボックスの予約を送信するとともに,
生鮮食料品でないと判断した場合には,マンション内のサーバに通常の宅配ボック
スの予約を送信する(【0007】【0033】【0039】)。
イ 周知例2(甲5)には,以下の技術が記載されている。
駅等の公共施設等に設置されている商品を保管するための宅配ロッカーに対し,
依頼者端末から回線を経由して前記ロッカーの空き状況を検索し,前記ロッカーに
空きがある場合前記ロッカーを予約するロッカー予約機能を有するロッカーシステ
ム(【0001】【0006】【0025】【0028】)。
ウ 前記ア及びイによれば,宅配ボックスを利用した商品の配送方法において,
宅配業者が配達した荷物を持ち帰る事態を防止し,荷物を宅配ボックスに確実に配
達できるようにするため,宅配ボックスの空きを確認し,空きがある場合に当該空
きボックスを予約する手段は,周知であると認められる。
(3) 引用発明1の宅配ボックスシステムでは,設置される集合住宅の住人に対し
予め宅配ボックスが一対一に割り当てられてはおらず,よって,荷物の配達時に宅
配ボックスシステムに空きがなく,荷物を持ち帰る事態が生じることが想定される。
そうすると,このような事態を避けるという一般的な課題が認められる。
そして,宅配ボックスを利用した商品の配送方法において,宅配ボックスの空き
を確認し,空きがある場合に当該空きボックスを予約する手段は,前記(2)のとおり,
周知の技術である。そうすると,引用発明1に対し,配達人が荷物を持ち帰る事態
が生じ得るという一般的な課題を解決するために,宅配業者が荷物を持ち帰ること
なく,確実に配達する仕組みを構築するという周知の技術を適用することの動機付
けがある。また,配達した荷物を持ち帰ることのないようあらかじめ宅配ボックス
を予約する機能を設けるようにするため,当該周知の技術を適用することに阻害要
因は認められない。
(4) 原告らの主張について
ア 原告らは,周知例1に係る宅配システムでは,予約の対象となるのはあくま
で生鮮食品専用の宅配ボックスに限られており,宅配物の種類を問わず宅配ボック
スを予約することができる本願補正発明の予約機能とは,その目的が異なると主張
する。
しかし,前記(2)アのとおり,周知技術1の商品の配送方法は,宅配物が生鮮食料
品でない場合に,生鮮食品専用ではない,通常の宅配ボックスを予約するものであ
るから,原告らの上記主張は前提を異にし,理由がない。
イ 原告らは,周知技術2に係るロッカーシステムは,駅等の公共の場に設置さ
れた,不特定多数の者による利用を予定しているロッカーボックスを対象としてお
り,商品を確実に受け渡すために,商品を配達するロッカーボックスの場所を予め
特定し,予約することが必須であるのに対し,本願補正発明の予約機能は,宅配ロ
ッカーの場所が予め特定されており,しかも利用する者が限られており,商品を確
実に受け渡すという観点からは,利用すべきロッカーを予約することは必須ではな
いから,本願補正発明の予約機能は,周知技術2に係るロッカーシステムの予約機
能とは全く異なると主張する。
しかし,前記(2)によれば,設置場所を限定することなく,「宅配ボックスを利用
した商品の配送方法において,商品の配送に先立って宅配ボックスの空きを確認し,
空きがある場合に当該空きボックスを予約しておく」ことが周知(慣用手段)であ
り,ロッカーの予約を課題とする点で両者は共通する。よって,原告らの上記主張
は前提を異にし,理由がない。
(5) したがって,引用発明1に,前記(2)の周知の技術を適用することで,引用
発明1において,相違点3に係る本願補正発明の構成を付加することは,当業者が
容易に想到することができたものである。
6 取消事由4(相違点4に係る容易想到性の判断の誤り)について
(1) 本願補正発明と引用発明1とを対比すると,前記第2の3(2)ウ(エ)記載の
とおりの相違点4が認められ,このことは当事者間に争いがない。
(2) 周知技術について
ア 周知例3(甲6)には,以下の技術が記載されている。
宅配ボックスなどで受け取った荷物の情報を携帯型通信装置に通知することがで
きる着荷通知システムにおいて,宅配ボックスから着荷信号が停止された旨の信号
を受信しない場合で,所定の通知時間を経過した場合には,着荷の再通知の処理を
行うべくASPサーバに対して再通知の指示を送信することで,使用者がうっかり
荷物の取り出しを忘れていた場合でも使用者に促す(【0001】【0011】
【0064】【0072】)。
イ 周知例4(甲7)には,以下の技術が記載されている。
一度の配達で宅配物や郵便物の受け渡しを略確実に行うため,電子ロッカーに宅
配物が入れられると情報を宅配物管理サーバに送信し,宅配物管理サーバは宅配物
専用の認証キーを生成してユーザの情報端末に送信し,ユーザは暗証番号と情報端
末から得られる認証キーによりロッカーを開錠する宅配物受け渡しシステムにおい
て,宅配物を取り出す日時から一定時間を過ぎても,高機能電子ロッカーから宅配
物取り出し通知が宅配物管理サーバへ通知されなかった場合は,宅配物管理サーバ
は一定時間おきに一定回数メールの送信を荷受人に対し繰り返し送信するという異
常処理を行う(【0001】【0015】~【0018】【0039】)。
ウ 前記ア及びイによれば,宅配ボックスを利用した商品の配送方法において,
荷物の到着を失念している注文者に対し,速やかに荷物を受け取ってもらえるよう,
商品の受取を促すメールを所定時間ごとに利用者宛てに送信することは,周知であ
る。
(3) 引用例1には,「…異常状態として使用状態ホームページに表示される。着
荷時刻および取出時刻からは荷物の保管時間も把握でき,保管が所定時間以上であ
ると長時間滞留の異常状態となる。…」との記載(甲2の【0028】)があり,
保管が所定時間以上経つと異常状態としてホームページに表示することになってい
る。これによれば,引用発明1の宅配ボックスシステムは,荷物の保管が所定時間
以上経つとユーザに通知することを課題としているものと解される。
そして,宅配ボックスを利用した商品の配送方法において,商品の受取を促すメ
ールを所定時間ごとに利用者宛てに送信することは,前記(2)のとおり,周知の技術
である。このように,引用発明1は,荷物の保管が所定時間以上経つとユーザに通
知することを課題としているのであって,かかる課題を解決するため,荷物の到着
を失念している注文者に対し,速やかな荷物の受取を促すという共通の課題を解決
する周知の技術を適用することの動機付けがある。また,そのための具体的手段と
して,商品の受取を促すメールを送信する機能,さらには,そのようなメール送信
を所定時間ごとに行う機能を設けるようにすることの阻害要因は認められない。
(4) 原告らの主張について
ア 原告らは,周知例3では,指定されたメールアドレスから確認応答がない場
合に再通知メールが送られるのであって,商品が宅配ロッカーに搬入されている間
ではないと主張する。
しかし,周知例3における確認応答は,着荷メールに対し,使用者が,荷物が届
いたことを認識して荷物の取出しを行う前提として行うものであるから(甲6の
【0082】),「商品の受取を促すメールを所定時間ごとに利用者宛てに送信す
る」ことが周知であるとした点に誤りはなく,原告らの上記主張は理由がない。
イ 原告らは,周知例4では,再通知メールが送られるのは,処理に失敗があっ
た場合か,荷受人によるHPアクセスがない場合に限られるのであり,商品が宅配
ロッカーに搬入されている間に一定時間ごとに通知を行うものではないと主張する。
しかし,周知例4においては,一旦HPにアクセスしない限り,電子ロッカーを
開錠するために必要な認証キーが入手できず,宅配物を取り出せないから(甲7の
【0017】),「商品が宅配ロッカーに搬入されている間に一定時間ごとに通知
を行う」ことが周知であるであるとした点に誤りはなく,原告らの上記主張は理由
がない。
(5) したがって,引用発明1に,前記(2)の周知の技術を適用することで,引用
発明1において,相違点4に係る本願補正発明の構成を付加することは,当業者が
容易に想到することができたものである。
7 以上のとおり,本願補正発明を容易に想到することができる旨の本件審決の
判断に誤りはなく,本件補正は,特許法159条1項において読み替えて準用する
同法53条1項の規定により却下すべきものであるとの本件審決の判断は,相当で
ある。そして,本願発明については,引用発明1との間で前記の相違点1ないし3
が認められるところ,これらの相違点を容易に想到することができることは,既に
述べたとおりである。
8 結論
以上のとおり,原告ら主張の取消事由はいずれも理由がないから,原告らの請求
をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 髙 部 眞 規 子
裁判官 古 河 謙 一
裁判官 鈴 木 わ か な
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