平成28(行ケ)10054審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
平成28年11月7日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告Y小谷昌崇 原告株式会社丸豊建硝日高一樹
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法令 |
意匠権
意匠法3条2項7回 意匠法3条1項3号3回
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キーワード |
審決19回 無効6回 新規性3回 無効審判2回 進歩性1回
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主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,意匠登録無効審判請求に基づいて意匠登録を無効とした審決の取消訴訟
である。争点は,創作容易性(意匠法3条2項)の有無である。 |
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判決文
平成28年11月7日判決言渡
平成28年(行ケ)第10054号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成28年7月11日
判 決
原 告 株 式 会 社 丸 豊 建 硝
訴 訟 代 理 人 弁 理 士 松 村 修
日 高 一 樹
被 告 Y
訴 訟 代 理 人 弁 理 士 小 谷 悦 司
小 谷 昌 崇
川 瀬 幹 夫
並 川 鉄 也
上 田 知 恵
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 原告の求めた裁判
特許庁が無効2014-880005号事件について平成28年1月22日にし
た審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,意匠登録無効審判請求に基づいて意匠登録を無効とした審決の取消訴訟
である。争点は,創作容易性(意匠法3条2項)の有無である。
1 特許庁における手続の経緯
被告は,平成22年5月28日,意匠に係る物品を「手摺」とする部分意匠につ
き,意匠登録出願をし(意願2010-14740号),平成23年8月26日,意
匠登録(意匠登録第1423705号)を受けた(甲1。以下「本件部分意匠」と
いう。。
)
原告は,平成26年5月23日,本件部分意匠につき,登録無効審判を請求した
(無効2014-880005号)。
特許庁は,平成28年1月22日,登録第1423705号の登録を無効とする。
「 」
との審決をし,その謄本は,同年2月2日,原告に送達された。
2 本件部分意匠の形態
本件部分意匠の形態は,次のとおりである(甲1)。
(1) 意匠に係る物品の説明
「本件手摺の意匠は,面板材に使用する合わせガラスを対象とするものである。面板材に使用す
る合わせガラスは上部の透明度を高く,下部の透明度を低く,あいだの透明度をグラデーショ
ンで変化させることで,下からの視線を遮り,上からの視界を広げることを特徴とする。施工
時には建築物の大きさにより支柱の数等は変わってくるものである。」
(2) 意匠の説明
「実線で表された部分が,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。左側面図は右
側面図と対称にあらわれるため省略する。透過率を説明する参考図にある薄墨のグラデーショ
ン部分は,ガラス透過率の変化を表すものであり,薄い部分は透過率が高く,濃い部分は透過
率が低い事を表している。」
「【透過率を説明する参考図】
【正面図】
【背面図】
【底面図】
【右側面図】 【A-A’断面図】
【平面図】
【B-B’断面図】
【使用状態を示す参考図】
【意匠の特徴を示す参考図】
【C-C’参考断面詳細図】
」
3 審判における請求人(被告)の主張
本件部分意匠は,①甲4~10に記載された意匠に類似するから,意匠法3条1
項3号に規定する意匠に該当する。また,②甲2~11に記載された意匠に基づい
て容易に創作をすることができたものであって,意匠法3条2項に規定する意匠に
該当する。
4 審決の理由の要旨
(1) 類似性について
本件部分意匠は,甲4~10に記載された意匠のいずれとも類似する意匠とは認
められず,意匠法3条1項3号には該当しない。
ア 本件部分意匠の認定
本件部分意匠は,建物のベランダなどに用いられる手摺である。
その形態は,全体を,正面視略横長長方形状の面板状のガラス部を,上の手摺の
レールと左右の支柱及び下のレールから成る枠で囲んだもので,中間部の3本の支
柱は背面側に設けられ,本件部分意匠に係る部分は,略横長長方形状のガラス部の
4枚の各ガラス面板であり,その部分の形態は,ガラス面板は,正面側と背面側が
同形の合わせガラスで,ガラス面板を正背面視やや縦長の長方形状とし,ガラス面
板は上部の透明度を高く,下部の透明度を低く,中間の透明度をグラデーションで
変化させたもので,ガラス面板の縦横比を約9:8とし,ガラス面板同士の正面視
左右辺を接するように設け,ガラス面板の正面視した縦の高さの約1/2の部分に
グラデーションで透明度を低く変化させた部分を設けたものである。
イ 甲4~10に記載された各意匠の認定
(ア) 甲4及び8に記載された意匠(引用意匠①)
九州国立博物館の吹抜け部分に面するフロアの吹抜けの周縁部に沿って配置され
る転落防止板を兼ねた仕切り板の手摺に係るものである。
前記手摺のガラス部は,上の手摺のレールを円柱形状とし,左右の縦支柱及び下
のレールから成る枠で囲んだガラス面板であって,その上方寄り約1/3の位置に
水平方向に支柱を備えたもので,同一の高さで連続して設けられている複数のガラ
ス面板である。ガラス面板の形態は,ガラス面板を正面視横長長方形状とし,ガラ
ス面板は上部の透明度を高く,下部の透明度を低く,中間の透明度をグラデーショ
ンで変化させたもので,ガラス面板の正面視の縦横比を約2:3とし,ガラス面板
同士の正面視左右辺を接するように設け,各ガラス面板の正面視した縦の高さの約
1/3の部分にグラデーションで透明度を低く変化させた部分を設けたものである。
(イ) 甲5に記載された意匠(引用意匠②)
茨木市立生涯学習センターきらめきの吹抜け部分に面するフロアの吹抜けの周縁
部に沿って配置される転落防止板を兼ねた間仕切り板の手摺に係るものである。
手摺のガラス部は,上の手摺のレールを設けず,下のレールから成る枠を設け,
その各ガラス面板の上方寄り約1/9と下方寄り約1/9の位置に左右辺寄りに背
面側の支柱と接続する円形状の金具を備えたもので,同一の高さで連続して設けら
れている複数のガラス面板である。ガラス面板の形態は,ガラス面板を正面視縦長
長方形状とし,ガラス面板は上部の透明度を高く,下部の透明度を低く,中間の透
明度をグラデーションで変化させたもので,ガラス面板の正面視した縦横比を約
5:4とし,各ガラス面板同士の正面視左右辺を接するように設け,各ガラス面板
の正面視した縦の高さの約1/3から1/2の部分にグラデーションで透明度を低
く変化させた部分を設けたものである。
(ウ) 甲6及び7に記載された意匠(引用意匠③)
玉川高島屋S.C.新南館の吹抜け部分に面するフロアの吹抜けの周縁部に沿っ
て配置される転落防止用間仕切り板を備えた手摺に係るものである。
手摺のガラス部は,上の手摺のレールを設けず,下のレールから成る枠を設け,
ガラス部の上方寄り約1/5の位置の背面側に手摺を設け,その各ガラス面板の上
方寄り約1/5と下方寄り約1/5の位置の左右辺寄りに背面側の支柱と接続する
小型正方形状の金具を備えたもので,同一の高さで連続して設けられている複数の
ガラス面板である。ガラス面板の形態は,ガラス面板を正面視やや縦長の長方形状
とし,ガラス面板は上部の透明度を高く,下部の透明度を低く,中間の透明度をグ
ラデーションで変化させたもので,ガラス面板の正面視した縦横比を約5 4とし,
:
各ガラス面板同士の正面視左右辺を接するように設け,各ガラス面の正面視した縦
の高さの約1/3から1/2の部分にグラデーションで透明度を低く変化させた部
分を設けたものである。
(エ) 甲9及び10に記載された意匠(引用意匠④)
成蹊大学情報図書館の吹抜け部分に面するフロアの吹抜けの周縁部に沿って配置
される転落防止を兼ねた間仕切り板を備えた手摺に係るものである。
手摺のガラス部は,上の手摺のレールを設けず,下のレールから成る枠を設け,
ガラス部の上方寄り約1/3の位置と約2/5の位置の背面側に手摺を設けたもの
で,その各ガラス面板の上方寄り約1/4の位置の左右辺寄りに背面側の支柱と接
続する小型正方形状の金具を備えたもので,同一の高さで連続して設けられている
複数のガラス面板である。ガラス面板の形態は,ガラス面板を正面視縦長長方形状
とし,ガラス面板は上部の透明度を高く,下部の透明度を低く,中間の透明度をグ
ラデーションで変化させたもので,ガラス面板の正面視した縦横比を約4 3とし,
:
各ガラス面板同士の正面視左右辺を接するように設け,各ガラス面板の正面視した
縦の高さの上寄りの約1/4から1/3の部分にグラデーションで透明度を低く変
化させた部分を設けたものである。
ウ 本件部分意匠と引用意匠①~④との対比
(ア) 意匠に係る物品
共通する。
(イ) 用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲
共通する。
(ウ) 形態
a 引用意匠①との対比について
【共通点】
複数のガラス面板を連続して設け,ガラス面板の正面視左右辺同士を接するよう
に設け,ガラス面板は上部の透明度を高く,下部の透明度を低く,中間の透明度を
グラデーションで変化させた点。
【差異点】
① 本件部分意匠は,ガラス面板が正面側と背面側が同形の合わせガラスであるの
に対して,引用意匠①は,ガラス面板が合わせガラスかどうか不明である点。
② 本件部分意匠は,ガラス面板を正背面視やや縦長の長方形状とし,ガラス面板
の正面視した縦横比を約9:8としているのに対して,引用意匠①は,ガラス面板
を正面視横長の長方形状とし,ガラス面板の正面視の縦横比を約2:3としている
点。
③ 本件部分意匠は,ガラス面板の正面視した縦の高さの約1/2の部分にグラデ
ーションで透明度を低く変化させた部分を設けたものであるのに対して,引用意匠
①は,各ガラス面板の正面視した縦の高さの約1/3の部分にグラデーションで透
明度を低く変化させた部分を設けたものである点。
b 引用意匠②との対比について
【共通点】
複数のガラス面板を連続して設け,各ガラス面板を正背面視縦長の長方形状とし,
ガラス面板の正面視左右辺同士を接するように設け,ガラス面板は上部の透明度を
高く,下部の透明度を低く,中間の透明度をグラデーションで変化させた点。
【差異点】
① 引用意匠①との対比における【差異点】①と同じ。
② 本件部分意匠は,ガラス面板の正面視した縦横比を約9:8としているのに対
して,引用意匠②は,ガラス面板の正面視した縦横比を約5:4としている点。
③ 本件部分意匠は,ガラス面板の正面視した縦の高さの約1/2の部分にグラデ
ーションで透明度を低く変化させた部分を設けたものであるのに対して,引用意匠
②は,ガラス面板の正面視した縦の高さの上寄りの約1/3から1/2の部分にグ
ラデーションで透明度を低く変化させた部分を設けたものである点。
c 引用意匠③との対比について
【共通点】
引用意匠②との対比における【共通点】と同じ。
【差異点】
① 本件部分意匠は,ガラス面は正面側と背面側が同形の合わせガラスであるのに
対して,引用意匠③は,ガラス面板が合わせガラスかどうか不明である点。
② 引用意匠②との対比における【差異点】②と同じ。
③ 本件部分意匠は,ガラス面板の正面視した縦の高さの約1/2の部分にグラデ
ーションで透明度を低く変化させた部分を設けたものであるのに対して,引用意匠
③は,ガラス面板の正面視した縦の高さの上寄りの約1/3から約1/2の部分に
グラデーションで透明度を低く変化させた部分を設けたものである点。
d 本件部分意匠と引用意匠④との対比について
【共通点】
引用意匠②との対比における【共通点】と同じ。
【差異点】
① 引用意匠①との対比における【差異点】①と同じ。
② 本件部分意匠は,ガラス面板の正面視した縦横比を約9:8としているのに対
して,引用意匠④は,ガラス面板の正面視した縦横比を約4:3としている点。
③ 本件部分意匠は,ガラス面板の正面視した縦の高さの約1/2の部分にグラデ
ーションで透明度を低く変化させた部分を設けたものであるのに対して,引用意匠
④は,ガラス面板の正面視した縦の高さの上寄りの約1/4から1/3の部分にグ
ラデーションで透明度を低く変化させた部分を設けたものである点。
エ 類否判断
(ア) 本件部分意匠と引用意匠①~④に係る物品は共通し,本件部分意匠及
び引用意匠①~④の用途及び機能並びに位置,大きさ及び範囲も共通する。
(イ) 共通点全体として本件部分意匠及び引用意匠①~④とのそれぞれの
形態同士の類否判断に与える影響を考慮しても,両部分のそれぞれの形態同士の類
否判断を決定付けるに至るということはできない。
これに対し,両部分の差異点に係るそれぞれの態様が相まって生じる意匠的な効
果は,本件部分意匠と引用意匠①~④のそれぞれの形態同士の類否判断を決定付け
るものである。
a この点,複数のガラス面板を連続して設けた態様は,部分全体の基
本構成に係るものであるが,この種の物品分野においては普通に見られる態様であ
り,この点が類否判断に及ぼす影響は微弱なものである。
また,ガラス面板の正面視左右辺同士を接するように設けた態様も,この種の物
品分野においては既にありふれた態様といえるもので,格別の特徴とはいえず,こ
の点が類否判断に及ぼす影響は微弱なものである。
さらに,ガラス面板の上部の透明度を高く,下部の透明度を低く,中間の透明度
をグラデーションで変化させた態様は,この種の物品分野においては既に見られる
もので,顕著な特徴とはいえず,この点が類否判断に及ぼす影響は一定程度に留ま
るものである。
b(a) 合わせガラスかどうかの差異については,外側から観察した場合
に合わせガラスかどうかは格別目立つ態様とはいえないものであるから,類否判断
に与える影響は,認められない。
(b) 一方,縦横比について,本件部分意匠と引用意匠①及び②につい
ては,各ガラス面板の正面視における縦横比が大きく異なり,縦長である本件部分
意匠の態様と,横長である引用意匠①及び②の態様とでは,需要者に与える印象を
異ならせるものであり,その差異は,類否判断に相当程度の影響を与えるものとい
える。
また,本件部分意匠と引用意匠③及び④についても,各ガラス面板の正面視にお
ける縦横比が一致せず,その差異を無視することはできず,これらの差異は,いず
れも類否判断に影響を与えるものといえる。
(c) グラデーションの位置についても,本件部分意匠と引用意匠①~
④については,いずれともその位置が一致するものとはいえず,その差異を無視す
ることはできず,この点における差異は,いずれも類否判断に一定程度の影響を与
えるものといえる。
オ 結論
本件部分意匠と,引用意匠①~④とは,意匠に係る物品が共通し,用途及び機能
並びに位置,大きさ及び範囲が共通するものであるが,形態において,差異点が共
通点を凌駕し,それらが意匠全体として需要者に異なる美感を起こさせるものであ
るから,両意匠は類似しないものと認められる
したがって,本件部分意匠は,意匠法3条1項3号には該当しない。
(2) 創作容易性について
本件部分意匠は,甲2~11に記載された意匠に基づいて当業者が容易に創作を
することができたものと認められる。
ア 甲2~11に記載された各意匠の認定
(ア) 甲4~10に記載された各意匠は,前記の引用意匠①~④のとおりで
ある。
(イ) 甲2(意匠登録第1260850号に係る意匠公報。登録日平成17
年12月2日。)に記載された意匠(引用意匠⑤)
マンションのバルコニー及び廊下に使用される手摺である。
その形態は,全体を,正面視略横長長方形状の面板状のガラス部を,上の手摺の
レールと下のレールから成る枠で囲んだもので,中間部の3本の支柱は背面側に設
けられ,各支柱の正面側に左右にガラス面板を挟むコ字状の接続部を支柱のやや上
寄りに設けたもので,上の手摺と支柱の上部は側面視略台形状の接続具を設けて接
続し,下の枠は支柱の下から支柱全体の高さの約1/6程度の高さの位置に横架し
たもので,ガラス面板部分は,略横長長方形状のガラス部の4枚の各ガラス面板で
あり,ガラス面板の形態は,正面側と背面側が同形のガラスで,正背面視やや縦長
の長方形状とし,透明で,縦横比を約9:8とし,正面視左右辺をコ字状の接続部
に接するように設けたものである。
(ウ) 甲3(意匠登録第1318894号に係る意匠公報。登録日平成19
年12月7日。)に記載された意匠(引用意匠⑥)
ベランダなどに使用される手摺である。
その形態は,全体を,正面視略横長長方形状の面板状のガラス部を,上の手摺の
レールと下のレールから成る枠で囲んだもので,中間部の2本の支柱は背面側に設
けられ,ガラス面板部分は,略横長長方形状のガラス部の3枚の各ガラス面板であ
り,ガラス面板の形態は,正面側と背面側が同形の強化ガラス又は合わせガラスで,
正背面視やや縦長の長方形状とし,全体が透光性を有するもので,縦横比を約8:
7とし,正面視左右辺同士を接するように設けたものである。
(エ) 甲11(「3M/Fasara/ファサラガラスシェード/2008
-2009」と題するカタログ抜粋)に記載された意匠(引用意匠⑦)
ガラスに砂目やドットを表したスクリーンを貼り,グラデーションを表したもの
であり,
「手摺」として階段に設備されたものが示され,ガラス面板のグラデーショ
ン模様を,上部の透明度を高く,下部の透明度を低く形成した態様が掲載されてい
る。
また,甲11には,
「ガラスシェードを連続する白い点の密度を徐々に変化させる
ことで,柔らかな乳白色から透明へと滑らかなグラデーションを表現した壁,窓」
の記載があり,いずれも上部の透明度を高く,下方の透明度を低く形成し,実際に
施工された態様が掲載されている。
イ 創作容易性の判断
(ア) この種の建物のベランダなどに設置される手摺の分野において,横長
長方形状のガラス部のガラスを前面側に配し,後面側に支柱を隠す形状としたもの
は,例えば,引用意匠⑤及び⑥に見られるように,本件部分意匠の出願前より既に
公然と知られた態様といえるものである。
また,ガラス面板を4枚とすることも,引用意匠⑤に見られるように,この種の
手摺の分野においては,格別特徴のない,ありふれた態様といえるものであり,そ
のガラス面板の正面視左右辺同士を接するように設け,合わせガラスとする態様も,
引用意匠⑥に見られるように,本件部分意匠の出願前より既に公然と知られた態様
といえるものである。
いずれの態様も本件部分意匠の出願前からこの種の手摺の分野において広く採用
されている態様といえるものであり,その外形状や合わせガラスとした態様自体に
本件部分意匠独自の創作を見出すことはできない。
そして,ガラス面の上部の透明度を高く,下部の透明度を低く,中間の透明度を
グラデーションで変化させたものについても,本件部分意匠の出願前より既に普通
に知られた態様(例えば,引用意匠①~④,⑦)といえるものである。
また,ガラス面板の縦横比は設置する場所等に応じて適宜変更されるものであり,
ガラス面板の縦横比を約9:8とするやや縦長の長方形状とすることも,例えば,
引用意匠⑤に見られるように,本件部分意匠の出願前より既に公然知られた態様と
いえるもので,本件部分意匠独自の格別の特徴を見出すことはできないものである。
(イ)a 被請求人(原告)は,本件部分意匠について,ガラス面板の合わせ
ガラスの厚さ方向中央部分に配されたグラデーション模様に特徴がある旨主張する。
しかしながら,建築物に利用されるガラスの分野においては,遮光のために窓等
のガラスに色を付すことや,必要に応じて透過率を低くして見えにくい部分を設け
ることは,本件部分意匠の出願前より既に普通に知られた手法といえるもので,特
徴のないものといえ,ガラス面板にグラデーション模様を施す方法としてスクリー
ンを貼る方法だけでなく,その方法には様々なものが考えられるところであるが,
本件部分意匠と同様に,合わせガラスの厚さ方向中央部分にグラデーション模様を
設けたもの(甲14の2,乙2。特開2006-1807号公報)が,既に公然知
られていることを考え併せれば,手摺のガラス面板を合わせガラスとし,その厚さ
方向中央部分にグラデーション模様が配されたという点をもって,本件部分意匠独
自の態様ということはできない。
b また,被請求人は,甲11について,その日付や発行部数が不明で
あり,公知性に疑問がある旨述べている。
しかしながら,住友スリーエム株式会社が発行した「3M/Fasara/ファ
サラガラスシェード/2008-2009」と題するカタログ(甲11)について
は,ファサラガラスフィルム」
「 として現在もインターネットでも閲覧できるところ,
「2015年の見本帳です。」として「2015-2016」という表示がなされて
いるところから,
「2008-2009」という表示は,通常の商慣行上の慣習によ
れば,普通は2008年(平成20年)から2009年(平成21年)のカタログ
であることが推認でき,本件部分意匠の出願日である平成22年(2010年)よ
り以前には公知であった蓋然性が高いものといえるものである。グラデーション模
様を配した手摺については引用意匠①~④に見られるとおり,本件部分意匠の出願
前より多数認められるものであるから,ガラス面板の上部の透明度を高く,下部の
透明度を低く,中間の透明度をグラデーションで変化させたものは,その態様が既
にありふれた態様といえるもので,本件部分意匠独自の特徴とはいうことができず,
そこに格別の創意を認めることができないものである。
(ウ) 本件部分意匠は,全体を,正面視略横長長方形状の面板状のガラス部
を,上の手摺のレールと左右の支柱及び下のレールから成る枠で囲んだもので,中
間部の3本の支柱は背面側に設けられた建物のベランダなどに用いられる手摺であ
って,本件部分意匠に係る部分は,引用意匠⑤及び⑥に見られるような略横長長方
形状のガラス部の4枚の各ガラス面板であり,引用意匠⑥に見られるようなガラス
面板の正面視左右辺同士を接するように設け,ガラス面板は,正面側と背面側が同
形の合わせガラスとしたもので,引用意匠⑤と同様に正背面視やや縦長の長方形状
とし,その上部の透明度を高く,下部の透明度を低くし,中間の透明度をグラデー
ションで変化させた引用意匠①~④や⑦に見られるような広く知られた態様とした
もので,縦横比を引用意匠⑤と同様の約9:8とし,単に,正面視した縦の高さの
約1/2の部分にグラデーションで透明度を低く変化させた部分を設けたまでにす
ぎず,当業者の特段の創意を要したものとは認めることができず,容易に創作をす
ることができた意匠と認められる。
以上のとおり,本件部分意匠は,当業者が日本国内又は外国において公然知られ
た形状に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであるから,意匠法3
条2項の規定に該当する。
第3 原告主張の審決取消事由
本件部分意匠は,当業者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若
しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたもの
ではなく,意匠法3条2項に規定する意匠に該当しない。
1 本件部分意匠の構成
(1) 本件部分意匠は,次のa~f項の各構成を備える。
a やや縦長の長方形の板状のガラス面板を4枚並列して成るものである。
b ガラス面板には,合わせガラスの厚さ方向中央部分に配された上部の透
明度を高く下部の透明度を低くして,透明度を漸次変化させたグラデーション模様
が施されている。
c ガラス面板の合わせガラスの厚さ方向中央部分に配されたグラデーショ
ン模様は,ガラス面板の正面側及び背面側のどちらから見ても前面に透明の肉厚部
を通して見えるものであり,ガラスの肉厚によってグラデーション模様が深みを有
する光沢を発現し,また,ガラス面板の前面側及び背面側の外表面の反射による光
像がグラデーション模様に重畳され,周囲の明るさによってグラデーション模様が
変化するものであり,
d グラデーション模様の透明度の変化は,正面視で一定の幅を有し,水平
方向に延びる上下3段の3つの帯状部分から構成され,下側の帯状部分が最も透明
度が低く,中間の帯状部分が中間の透明度で,上側の帯状部分が最も透明度が高く,
各帯状部分は下側から上側に次第に透過率が高くなるとともに,各帯状部分間にお
いて,透明度が漸次変化し,高さ方向の透過率の変化によってグラデーションの模
様がガラス面板上に全体として形成され,
e ガラス面板の合わせガラスの厚さ方向中央部分に配されたグラデーショ
ン模様の光像は,その外側に位置するガラスから空気層に入射する入射角が臨界角
よりも大きいときには,前記ガラスの外表面で全反射されて外側に出射されず,当
該入射角が臨界角より小さいときには,前記ガラスを通して外側に出射されるもの
である。
f ガラス面板を構成する合わせガラスの厚さ方向の中央部分に,上部の透
明度を高く,下部の透明度を低くして透明度を上下方向で漸次変化させたグラデー
ション模様を施し,特に上方からの視界であってベランダの内側から外側に対する
視界がこのガラス面板のグラデーション模様によって遮られることのないようにし,
これに対してグラデーション模様によって,下側であってマンションの外にいる人
からマンションのベランダ内にいる人に向けた視界が,このガラス面板のグラデー
ション模様によって遮られるようにしている。
(2) a~f項の構成は,その全てが極めて重要な美感に直接関わる特徴であっ
て,このような特徴の美感を判断基準として判断が行われなければならない。
また,a~f項の機能的構成は,本件意匠の大きな特徴をなすものであり,この
ような機能的特徴を有する意匠は,保護の客体とされるべきである。
ア(ア) 本件部分意匠は,ガラス面板材として合わせガラスを用い,合わせガ
ラスの厚さ方向中央部分にグラデーション模様を配している。
本件部分意匠は,両側のガラス板の間に挟まれているフィルム等によって,上部
の透明度を高く,下部の透明度を低くしたグラデーション模様を形成する構成によ
り,ガラス面板の正面側及び背面側のどちらから見ても,前面に透明のガラス肉厚
部を通してグラデーション模様が厚い透明コーティング層を介して深みと光沢とを
発現する高い視覚効果による美感を奏するものである。
本件部分意匠のグラテーション模様の両側に合わせガラスとして存在する透明コ
ーティング層を配した構成は,前記視覚効果を発揮する美感を有し,本件部分意匠
の要部を構成する。
(イ) このような美感を発現する視覚的効果を生じる構成は,甲1の意匠に
係る物品の説明,図面中の透過率を説明する参考図,C-C’参考断面詳細図等か
ら総合的に導かれる構成である。特にC-C’参考段断面詳細図には,合わせガラ
スを構成する前面側のガラス板と背面側のガラス板との間に,グラデーション模様
が形成されたフィルム状媒体がやや濃い色に着色された状態で開示されている。こ
の部分が,グラデーション模様を形成したフィルムを表しており,グラデーション
模様が「合わせガラスの厚さ方向中央部分に配された」構成態様が導き出される。
イ(ア) 本件部分意匠は,両側のガラス板の間を通過する光の状態によって,
各種の異なった映像を出射し,また,このような映像を出射しない等の光学機器の
応用的な特徴を持っており,このような特徴については,機能的形状と同様に保護
されるべきである。
(イ) fの機能的構成は,甲1の意匠の特徴を示す参考図に示されている。
2 甲14の2について
甲14の2に記載された意匠(以下「甲14の2の意匠」という。)を,進歩性の
否定のための公知資料として引用した審決は,判断を誤るものである。
(1) 甲14の2の意匠のグラデーションに関する構成は,本件部分意匠と異な
る。
甲14の2の意匠においては,2枚の湾曲する合わせガラスの端面の接合部に設
けられた複数の注入口から互いに別々の多色に着色された樹脂を同時に又は時系列
的に注入し,互いに色が異なる液状樹脂による島状部分が隣接する境界部において,
両側の樹脂の混ざり合いによるグラデーションが形成されるものである。
このような構成は,上側は透過率が高く,下側は透過率が低く,透明度を上下方
向又は高さ方向に透明度が変化するグラデーションを形成するものではない。
したがって,甲14の2の意匠のグラデーションを甲2又は3のガラス面板と組
み合わせても,本件部分意匠を構成することはなく,甲14の2の意匠には,これ
を他の意匠を組み合わせて本件部分意匠を構成する契機又は起因が存在しない。
(2) 甲14の2の意匠は,本件部分意匠と,次の点が異なる。
ア 物品
本件部分意匠に係る物品は,手摺であり,特にマンションのベランダの先端部に
取り付けられる手摺に関するものであるのに対し,甲14の2の意匠に係る物品は,
外装材や内装材の壁,窓,スクリーン,照明器具,造形作品等に用いられる樹脂合
わせグラスであり,異なる用途に用いられるものであって,転用の容易性がない。
イ 形状
本件部分意匠は,縦横比が約9対8の平板状をなすガラス面板であるのに対し,
甲14の2の意匠は,縦横比が約4対5の曲面板である。
ウ グラデーション模様
本件部分意匠は,高さ方向の下側約2分の1の部分に,上部の透明度を高く,下
部の透明度を低くして,透明度を漸次変化させるようにしているのに対し,甲14
の2の意匠は,エッジの互いに別々の注入口3a,3b,3cのそれぞれの点から
異なる樹脂を注入し,各樹脂の流れの先端側の会合部で境界グラデーションを形成
させるものである。
エ グラデーション模様の微細構造
本件部分意匠は,連続する透明度の変化によって形成されるのに対し,甲14の
2の意匠は,各樹脂の会合部における局部的な色の混合による漸次変化である。
また,本件部分意匠のグラデーション模様は,上部の透明度を高く,下部の透明
度を低くして,透明度を高さ方向に漸次変化させたものであるのに対し,甲14の
2の意匠では,色が違う複数の樹脂液の先端部で両側の樹脂が局部的に混ざり合っ
ているもので,透明度を漸次変化させるものではない。
オ 交換の手法
本件部分意匠は,面板を交換するのに,安全に十分な配慮を必要とする。したが
って,ガラス面板の交換は,極めて困難を伴う。
甲14の2の意匠は,曲面板で,手摺としてのそのままの使用は適わない。
請求項4に「平ガラス」の記載があっても,意匠としての記載ではなく,意味が
ない。
(3) 甲14の2の意匠は,合わせプラスチックであって,合わせガラスではな
く,しかも,曲面のブラスチック板から構成されている。このような湾曲するプラ
スチック板からなる意匠を甲2又は甲3に記載された意匠とうまく組み合わせるこ
とができないから,阻害要因が認められる。
3 乙1(国際出願番号PCT/JP88/00244,特願昭63-5024
66号。国際公開WO88/07027。)について
乙1に記載された意匠(以下「乙1の意匠」という。)は,本件部分意匠と,次の
点が異なる。
(1) 物品
本件部分意匠は,マンションのベランダ等に用いられる手摺に関するのに対して,
乙1の意匠は,自動車のフロントガラスに関する。
(2) 形状
本件部分意匠は,縦横比が約9対8の平板であるのに対し,乙1の意匠は,縦横
比が3対7の横長の長方形の曲面版である。
(3) グラデーション模様
本件部分意匠は,高さ方向の下側約2分の1の部分に上部の透明度を高く,下部
の透明度を低くして,透明度を高さ方向に漸次変化させているのに対し,乙1に記
載されたグラデーションパターン105は,フィルム原板106の左右の中間部の
上下方向やや下側寄りに形成され,左上の部分が跳ね上がって弧状を成しており,
上部,左右両側部,下部に透明な空白領域が形成され,その他の領域は,真黒な不
透明部分によって構成されている。
(4) グラデーション模様の微細構造
本件部分意匠は,連続する透明度の変化によって形成されており,上部の透明度
を高く,下部の透明度を低くして,透明度を高さ方向に漸次変化させた模様である
のに対し,乙1の意匠は,横方向(水平方向)に延びる点線状のパターンから構成
され,光が透過される領域と光が遮断される領域とを互いに交互に形成しており,
光を遮る点線状のパターンは,上方の点線間のピッチを小さくして,下方の点線間
のピッチを大きくすることにより,擬似的グラデーションを形成しているところ,
透明度を漸次変化させたものではなく,仮に点線間のピッチがグラデーションに対
応するなら,透過率の変化は,本件部分意匠と上下が逆である。
(5) 交換の方法
本件部分意匠では,自動車のフロントガラスと交換することはなされておらず,
また,ありふれておらず,ガラス面板の交換が危険を伴うものであるのに対して,
乙1の意匠は,自動車のフロントガラスは,簡単に取り外せるものではなく,交換
することは不可能である。
4 創作容易性について
(1) ①公知の意匠のグラデーション模様を,他のグラデーション模様に置き換
えることはありふれてはいないから,本件部分意匠は,置換の意匠には該当せず,
②本件部分意匠のグラデーション模様を,他のグラデーションから寄せ集めで構成
することはありふれてはいないから,本件部分意匠は,寄せ集めの意匠には該当せ
ず,③本件部分意匠のグラデーション模様を,他の意匠の配置の変更によって構成
することはありふれていないから,本件部分意匠は,配置の変更による意匠に該当
せず,本件部分意匠は,容易に創作ができるいずれの類型の意匠でもない
(2)ア 甲14の2の意匠を本件部分意匠に変更するには,①グラデーション模
様を本件部分意匠のグラデーション模様となるように全面的に変更する,②甲14
の2のガラス板を平板にする,③平板状に変形されたガラス板の縦横比を変更する,
④平板状のガラス板を支持手段に固定するという,少なくとも4つのステップを要
するのであって,本件部分意匠は,甲14の2の意匠から容易に想到することがで
きたとはいえない。
イ 乙1の意匠を本件部分意匠に変更するには,①乙1の疎密が変化する点
線から成るパターンを本件部分意匠のような透過率が変化するグラデーション模様
に全面的に変更する,②グラデーション模様の透過率の変化を上下逆にする,③自
動車のフロントガラスを曲面板から平面状にする,④縦横比を修正して本件部分意
匠の縦横比とする,⑤平板状のガラス面板を支持手段に固定するという,数多くの
ステップを要するのであって,本件部分意匠は,乙1の意匠から容易に想到するこ
とができたとはいえない。
(3)ア 審決において,本件部分意匠に係る部分と引用意匠に係る部分等との具
体的比較がなされておらず,本件部分意匠の具体的構成態様と各引用意匠とが同一
又はほぼ同一に近い類似の意匠であるという証明はなされていない。
この種物品分野において,ガラス面に模様フィルムを貼付することが,コストや
従来の需要等から一般的であり,自動車用ガラスや窓ガラスに用いられる合わせガ
ラスの手法をして,ありふれた手法とすることはできない。
この種物品における本件部分意匠の形状に関わる創作の動機付けは,当業者には
なかった。
イ 審決は,創作容易とした引用意匠の類似性につき,具体的構成態様の比
較をしたものではなく,グラデーション模様を概念的に捉えたものである。
ウ(ア) 審決は,「ガラス面板は正面側と背面側が同形の合わせガラスで」と
認定しているから,蓋然的に,構成態様d項を構成要素と認定している。
d項の構成は,甲1の「透過率を構成する参考図」に示されている。
(イ) このd項の構成によると,縦方向における光の透過率の変化によるグ
ラデーション模様は,手摺の横方向のどの位置においても高さ方向における濃度の
変化がほぼ一定になり,これによってグラデーション模様が整然とした端正な模様
になり,このグラデーション模様を有する手摺が端正な美感を発現することになる。
このような特徴は,被告が提出した公知資料や審決の引用意匠のいずれにも開示さ
れていないから,本件部分意匠は,新規性を有している。
また,被告が提出したいずれの公知資料にも,本件部分意匠のd項の構成が開示
されていないから,当業者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若
しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたもの
に該当せず,本件部分意匠は,創作非容易性を有する。
エ(ア) e項の構成は,前面側からグラデーション模様を有するガラス面板
又はマンションのベランダの手摺を見るときに,見る方向の位置が正面側か,又は,
側方からかによって,グラデーション模様が見えたり見えなかったりする。
e項の構成は,甲1の意匠に係る物品,意匠に係る物品の説明,意匠の説明,
図面を総合して適正に抽出される構成である。
(イ) e項の構成は,被告が提出したいずれの公知資料にも記載されてい
ないから,本件部分意匠は,新規性を有する。
また,この構成がいずれの引用意匠にも開示されていないことから,本件部分意
匠は,当業者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又
はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものには該当せず,
創作非容易性を有する。
オ(ア) f項の構成は,甲1の意匠の特徴を示す参考図に示されている。
(イ) f項の構成は,被告が提出したいずれの公知資料にも記載されてい
ないから,本件部分意匠は,新規性を有する。
また,この構成がいずれの引用意匠にも開示されていないことから,本件部分意
匠は,当業者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又
はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものには該当せず,
創作非容易性を有する。
5 甲11について
審決は,甲11に記載された意匠(引用意匠④)につき,
「住友スリーエム株式会
社が発行した『3M/Fasara/ファサラガラスシェード/2008―200
9』については,
『ファサラガラスフィルム』として現在もインターネットで閲覧で
きるところ,
『2015年の見本帳です』として『2015-2016』という表示
がなされていることから,
『2008-2009』という表示は,2008年から2
009年の型号であると推認でき,本件部分意匠の出願日である平成22年より以
前には公知であった蓋然性が高い」旨を認定する。
しかしながら,甲11には,奥付又は書誌的事項の表示が存在しない。
そして,証拠には推認は認められない。蓋然性で証拠の有効性を図ること自体,
正しいものとはいえない。
また,甲11が,不特定多数の人が目にすることができる状態に置かれていたか
も不明である。証拠が有効であるためには,その証拠が本件部分意匠の出願日にお
いて正しく見ることができたことが必要であり,それが後からのインターネットの
閲覧でただされることはなく,因果関係の時間軸上における逆の推認は意味がない。
さらに,被告は,甲11をどのようにして入手し,何に利用していたかについて
の事情を明らかにしておらず,甲11は,審決において,適正な公知資料から外し
て判断すべきものである。
6 被告の主張について
ガラスやプラスチックなどの透明材質で構成される意匠は,光の透過性や乱反射
などの効果を常識的に捉えることは必然である。本件部分意匠は,物品が手摺であ
るから,建物等に取り付けられる位置により,手摺に設けられた合わせガラスのグ
ラデーション模様が見る角度によって変化し,又は,両側のガラスの厚みを看取で
きることも,需要者の視覚を通じて起こさせる美感の要素であり,意匠を特定する
上で必須である。
被告の動的意匠に関する推論的主張や,合わせガラスと模様との相関関係による
d項の構成態様及びe項の視覚効果の否定等の各主張は,合理性がない。
第4 被告の反論
本件部分意匠は,甲2~11並びに乙1及び2に示された本件部分意匠出願前の
公知意匠ないし公知形状に基づいて,物品「手摺」の分野において当業者が容易に
創作をすることができたものである。
1 本件部分意匠の構成について
本件部分意匠の構成は,次のとおり特定されるべきである。
A 手摺は,縦長の長方形のガラス面板を4枚並列して成る。
B ガラス面板には,上部の透明度を高く下部の透明度を低くして,透明度を
漸次変化させたグラデーション模様が施されている。
C ガラス面板は合わせガラス状に形成され,グラデーション模様はその厚さ
方向中央部分に施されている。
2 甲14の2(乙2)について
(1) 原告は,個々の構成態様の非類似をもって創作容易性を否定しており,不
当である。
(2) 意匠においては,その「形状」「模様」をどのような手法をもって形成す
,
るのか等が問題とされるものではないから,創作容易性を否定するための根拠とし
てグラデーションの形成手法が異なることを挙げるのは,不当である。
(3) 甲14の2(乙2)には,グラデーションを施す対象が「合わせガラス」
であることが記載されており,材質としてプラスチックが例示されていたとしても,
「ガラス」と概念されるものである上,
「平ガラス」を対象とすることも記載されて
いる(甲14の2(乙2)の【発明の名称】【要約】【請求項4】。
, , )
3 乙1について
2(1)と同じ。
4 創作容易性について
(1) 構成態様Aは,本件部分意匠の出願前公知の構成態様である(甲2,3)。
構成態様Bは,本件部分意匠の出願前に広く知られた構成態様である(甲4~1
1)。
構成態様Cについては,合わせガラスの中間膜にグラデーション模様を施すこと
は,本件部分意匠の出願前にありふれたものであった(甲14の2,乙1,2)。
(2) 甲4~11に挙げられた「手摺」,それも建物等に用いられる「手摺」に
おいて,
「上部の透明度を高く下部の透明度を低くして,透明度を暫時変化させたグ
ラデーション模様をガラス面板に施す」構成態様が示されているから,手摺りの縦
横形態等を特定された構成態様Aにあって,手摺のガラス面板に係る構成態様Bを
備えることは,極めて容易に想到される程度のものであり,このような構成態様A
+Bが本件部分意匠出願前公知であるかのごとき評価さえ与えることができる。
そして,乙1及び2には,構成態様Cが表され,引用意匠④には,手摺のガラス
面板を含んでグラデーション模様を施す手法が多々あることが示されているので,
乙1及び2中のガラス板の構成態様Cを構成態様A+Bに結合することも,極めて
容易に想到することができる。
また,本件部分意匠にあって,構成態様Cは,工夫なくそのまま構成態様A+B
と結合したものであり,かつ,当該結合により格別の美感が創出されてもいない。
5 甲11について
甲11についての原告の主張は,いずれも甲11の証拠性を否定する根拠となり
得るものではない。
もっとも,引用意匠⑦は,ガラス面板にグラデーション模様を施す手法は多々存
在することを示すもので,
「合わせガラスの厚さ方向中央部分に施される」構成態様
は,ありふれた構成態様にすぎないものであることを示唆するものであって,この
ことは,乙1及び2の記載から明らかである。
6 原告の主張について
(1) 本件部分意匠の構成について
ア 原告主張の構成態様c項は,構成態様のもたらす効果にすぎず,物理的
効果を更に具体的に機能的効果として表現したものであって,構成態様に該当する
ものではない。
かかる効果は,乙1及び2の構成態様からそのまま導き出されるもので,「手摺」
にあってもそれ以上の効果を創出するものではなく,「転用の容易性が存在しない」
とする根拠にはなり得ない。
また,引用意匠①~④において,ガラス面板の正面,背面,厚さ中央部のいずれ
にグラデーション模様が施されているかが特定されていないとしても,少なくとも
「正面側又は背面側のいずれかから,透明のガラス肉厚部を通してグラデーション
模様が見える」効果が奏されているし,上からの視界を保ちながら下からの視線を
遮るために,下から見た場合の美感に対応して設けられたグラデーション模様が,
透明のガラス肉厚部を通しても通さなくても,その美感に実質的な相違はないはず
である。
イ 原告主張の構成態様d項は,グラデーション模様の透明度の変化が上下
「
3段の3つの帯状部分から構成される」旨特定されたものであるが,かかる構成態
様は,本件部分意匠の意匠公報中の図面のいずれにも表されておらず,構成態様の
1つとすることは不当である。
ウ 原告主張の構成態様e項は,入射光の入射角の大きさにより反射面が変
「
化する」旨特定されたものであるが,これは,
「ガラス面板の合わせガラスの厚さ方
向中央部分に配されたグラデーション模様」の物理的効果のみが表されたものであ
り,構成態様に該当するものではない。
また,原告は,
「本件意匠に係る手摺は見る方向によってグラデーション模様が見
えたり見えなかったりする」旨を主張しているが,これはe項の物理的効果を更に
具体的に機能的効果として表現したものにすぎず,構成態様に該当するものではな
い。
原告が,これをいわゆる動的意匠に係る美感と捉えているとしても,動的意匠は,
物品の機能に基づいて構成態様が変化することを要するが,本件部分意匠の「合わ
せガラスの厚さ方向中央部分にグラデーション模様を配する」構成態様は, 「手
物品
摺」の機能に基づいて変化するものではなく,いわゆる動的意匠を形成することは
あり得ない。
なお,手摺を外部下方より遠く見上げる場面にあって,合わせガラスであるのと,
そうでないのと,グラデーションの見え方に美感上の差異があるとも考えられず,
グラデーションを合わせガラスの厚さ方向の中央部に設けることへの限定には,事
実上意味がない。審決においても,その構成態様中において単に「ガラス面板は正
面側と背面側が同形の合わせガラスである」と評価されているにすぎない。
エ 原告主張の構成態様f項は,美的効果ではなく,機能的効果にすぎない。
かかる効果は,意匠に求められる要素とはなり得ない。
(2) 美感・機能的効果について
美感は,意匠の成立要件ではあるが,構成態様そのものではない。また,機能も,
意匠に求められる要素とはなり得ない。
したがって,美感又は機能的効果をもって構成態様の1つとするのは,不当であ
る。
第5 当裁判所の判断
1 本件部分意匠について
本件部分意匠は,前記第2の2記載のとおりであり,前記各図面の実線で表され
た部分であって,建物のベランダなどに用いられる「手摺」のうち,面板材である
合わせガラスの部分の意匠である。
その形態は,全体を,正面視略横長長方形状の面板状のガラス部を,上のレール
と左右の支柱及び下のレールから成る枠で囲んだもので,中間部の3本の支柱は背
面側に設けられ,本件部分意匠に係る部分(以下「本件部分」という。)は,略横長
長方形状のガラス部の4枚の各ガラス面板であり,各ガラス面板は,正面側と背面
側が同形の合わせガラスで,正背面視やや縦長の長方形状であり,上部の透明度を
高く,下部の透明度を低く,中間の透明度をグラデーションで変化させたもので,
各ガラス面板の縦横比を約9:8とし,各ガラス面板同士の正面視左右辺を接する
ように設け,各ガラス面板の正面視した縦の高さの約1/2の部分にグラデーショ
ンで透明度を低く変化させた部分を設けたものである。(甲1)
2 透明度を変化させた部位について
(1)ア 本件部分意匠に係る各ガラス面板については,本件部分意匠に係る公報
(甲1。以下「本件公報」という。)に,「合わせガラス」であることが記載されて
おり(意匠に係る物品の説明,C-C’参考断面詳細図),前記C-C’参考断面詳
細図には,4本の実線の平行線が,左から1本目と2本目との間,3本目と4本目
との間の間隔が略同程度で,2本目と3本目との間は前記各間隔より狭く記載され
ているから,2枚の略同じ厚さの各ガラス板を中間部分を介して接着した合わせガ
ラスであることが認められる(甲1)。
イ 合わせガラスの透明度を変化させる手段としては,中間膜に着色し,こ
れをガラスと貼り合わせたり(転写により着色した中間膜を,直接ガラス板と貼り
合わせたり(乙1),着色されたフィルムを熱融着フィルムに挟んで,中間膜として
ガラス板と貼り合わせる方法(甲14の2,乙2)がある。,2枚のガラス板の間
)
に樹脂層を設けるに当たり,ガラス板周囲に堰き止めテープを貼り,ガラス板間に
着色した樹脂を注入し,重合硬化させる(甲14の2,乙2)という手段が存在す
ることが認められる。
他方,弁論の全趣旨によれば,ガラス原料も,着色して不透明にすることが可能
であり,合わせガラスとして貼り合わせる各ガラス板自体を着色することは可能で
あると認められ,また,各ガラス板の表面を削ることにより,合わせガラス面板に
不透明な模様を配することも可能であると認められる。
ウ そして,本件公報には,合わせガラスを構成する2枚の各ガラス板と中
間部分のうち,どの部分の透明度を変化させるのかについての記載はないのであっ
て,透明度を変化させる手法は特定されていないから,本件部分意匠が,合わせガ
ラスの厚さ方向中央部分にのみグラデーション模様が配され,合わせガラスを構成
する2枚の各ガラス板は透明であることを構成要件とするものとは認められない。
エ 以上によれば,本件部分意匠の形態につき,
「全体を,正面視略横長長方
形状の面板状のガラス部を,上の手摺のレールと左右の支柱及び下のレールから成
る枠で囲んだもので,中間部の3本の支柱は背面側に設けられ,本件部分意匠に係
る部分は,略横長長方形状のガラス部の4枚の各ガラス面板・・・であり,その部
分の形態は,ガラス面板は正面側と背面側が同形の合わせガラスで,ガラス面板を
正背面視やや縦長の長方形状とし,ガラス面板は上部の透明度を高く,下部の透明
度を低く,中間の透明度をグラデーションで変化させたもので,ガラス面板の縦横
比を約9:8とし,ガラス面板同士の正面視左右辺を接するように設け,ガラス面
板の正面視した縦の高さの約1/2の部分にグラデーションで透明度を低く変化さ
せた部分を設けたものである。(審決30頁9~18行)とする審決の認定に誤り
」
はなく,ガラス面板の合わせガラスの厚さ方向中央部分,すなわち,前記中間部分
のみにグラデーション模様が配され,合わせガラスを構成する2枚のガラス板は透
明であることを前提とする原告主張の構成b,c,e及びf項の各部分を認めるこ
とはできないのであって,かかる構成を前提とする原告の主張は,いずれも採用で
きない。
(2) この点,原告は,C-C’参考断面詳細図には,合わせガラスを構成する
前面側のガラス板と背面側のガラス板との間に,グラデーション模様が形成された
フィルム状媒体がやや濃い色に着色された状態で開示されているところ,この部分
がグラデーション模様を形成したフィルムを表しており,グラデーション模様が「合
わせガラスの厚さ方向中央部分に配された」構成態様が導き出されると主張する。
しかしながら,前記C-C’参考断面詳細図を拡大してみても,左から2本目と
3本目の実線との間が,1本目と2本目の実線との間及び3本目と4本目の実線と
の間と,明確に異なる色に着色されているものとは認識できない。仮に着色されて
いるとしても,その上部と下部の色は,同程度の濃さである。すなわち,前記C-
C’参考断面詳細図は,各ガラス面板の上下方向の略中央の部分の一定の長さの断
面図であるところ,前記透過率を説明する参考図及び使用状態を示す参考図におい
ては,各ガラス面板の上下方向の略中央の部分の一定の長さにおいて,不透明から
透明へと,下から上に向かって透明度が変化しているから,原告の主張のように,
着色がグラデーション模様が配されていることを示すものであるとするならば,前
記C-C’参考断面詳細図における左から2本目と3本目の実線との間の着色は,
下から上に向かって透明度を増すように記載されることになるはずであるが,少な
くとも,そのようには認識できない。そうすると,仮に前記部分が着色されている
としても,それは,グラデーション模様が配されていることを示すものとはいえな
い。
したがって,原告の前記主張は採用できない。
3 創作容易性について
(1) グラデーション模様の配されている部位が特定されていないことを前提
とする創作容易性について
ア 引用意匠
(ア) 甲3には,次の意匠が記載されている。
a 意匠に係る物品 手摺り
b 意匠に係る物品の説明
「本件手摺の意匠は,ガラスを前面全体に配置して,支柱をその後ろに隠してしまう形状を
対象とするものである。手摺枠自体の高さ・長さの寸法,支柱の数等は随時変わってくるもの
である。手摺本体はステンレスまたはアルミ材などを使用する。ガラスは強化ガラス又は合わ
せガラス等を使用する。ガラスのつなぎ目は基本的に支柱の箇所に作り,コーキングシール(S
SG構法同等)またはテンポイント金具などの固定用具で支柱に固定する。」
c 意匠の説明
「左側面図は右側面図と対称にあらわれるため省略する。透光性を示す参考図において,薄
緑部は透光性をあらわす。透光性を示す参考図や使用状態を示す参考図は色彩のある物を記し
ているが,本件意匠はガラスを前面全体に出した形状を対象とするものであって,色彩,模様
等を限定するものではない。」
「【正面図】
【背面図】
【使用状態を示す参考図】
【右側側面図】 【A-A’断面図】
【平面図】 【B-B’断面図】
【底面図】 【透光性を示す参考図】
」
(イ) 前記(ア)によれば,甲3に記載された意匠(甲3意匠)は,ガラスを前
面全体に配置して,支柱をその後ろに隠してしまう形状を対象とするもので,手摺
枠の高さ・長さの寸法,支柱の数等は随時変わり,ガラスのつなぎ目は基本的に支
柱の箇所に作るとされている。また,前記各図の正面視において,各支柱の前面に
はガラスの支柱の前の位置に上下方向に直線が記載されている。
そうすると,前記(ア)によれば,甲3意匠は,ベランダなどに使用される手摺であ
り,その形態は,全体を,正面視略縦長長方形状の複数のガラス面板を1ないし複
数枚横に並べたガラス部を,上の手摺のレールと左右の支柱及び下のレールから成
る枠で囲んだもので,複数枚の各ガラス面板が配される場合は,各ガラス面板の間
の背面側に各支柱が設けられ,各ガラス面板は,正面側と背面側が同型の強化ガラ
ス又は合わせガラス等で,長方形又は正方形であり,正面視左右辺同士を接するよ
うに設けたものである。また,ガラスは,透光性を示す参考図においては,全体が
透光性を有するものとされているが,色彩,模様等の限定はないものと認められる。
そして,前記の各ガラス面板部分が,本件部分意匠との対比の対象となる部分で
ある。
イ 本件部分意匠と引用意匠の対比
(ア) 意匠に係る物品
両意匠は,いずれも手摺であるから,意匠に係る物品は共通する。
(イ) 用途及び機能,位置,縦横比及び範囲
両意匠は,いずれもベランダなどに使用される手摺のガラス面板部分であり,上
のレールと下のレールと各支柱に囲まれたものであるから,用途及び機能並びに位
置及び範囲は,共通する。
本件公報には,前記第2の2のとおり,各ガラス面板の縦横比を約9:8とする
図が記載されているが,文章としては,特段の記載はないのに対し,甲3には,前
記アのとおり,各ガラス面板の縦横比を約8:7とする図が記載されているが,文
章としては,手摺枠の高さ・長さの寸法,支柱の数等は随時変わる旨明示されてい
るところ,これらが変わればその間に配される各ガラス面板の縦横比も変わるので
あって,縦横比が特定されていないことが明示されているといえる。
したがって,本件部分意匠は,各ガラス面板の縦横比を約9:8とするのに対し,
甲3意匠は,各ガラス面板の縦横比の特定がない点で相違する。
(ウ) 形状
本件部分意匠に係る全体の形状は,ガラス部を,上の手摺のレールと左右の支柱
及び下のレールから成る枠で囲んだもので,中間部に支柱を設ける場合は,支柱は
背面側に設けられ,支柱の下端は下のレールより下方に出ていて,上の手摺のレー
ルの左右端は,最も外側の支柱より外に出ているほかは,略長方形状である。これ
に対し,甲3意匠の全体の形状も,ガラス部を,上の手摺のレールと左右の支柱及
び下のレールから成る枠で囲んだもので,中間部に支柱を設ける場合は,支柱は背
面側に設けられ,支柱の下端は下のレールより下方に出ていて,上の手摺のレール
の左右端は,最も外側の支柱より外に出ているほかは,略長方形状であるから,全
体の形状は,共通する。
また,本件部分意匠に係る部分は,前記第2の2のとおり,4枚のガラス面板を
連続して設け,ガラス面板の正面視左右辺同士を接するように設けている図が記載
されているものの,建物の大きさにより支柱の数等は変わる旨明示されているとこ
ろ,支柱の数が変わればその間に配される各ガラス面板の数も変わるのであって,
ガラス面板の数は特定されていないことが明示されているといえる。甲3意匠にお
いても,前記のとおり,3枚のガラス面板を連続して設け,ガラス面板の正面視左
右辺同士を接するように設けている図が記載されているものの,支柱の数等は随時
変わる旨明示されているところ,支柱の数が変わればその間に配される各ガラス面
板の数も変わるのであって,ガラス面板の数は特定されていないことが明示されて
いるといえる。
したがって,ガラス面板の枚数については,本件部分意匠と甲3意匠の相違点と
しては挙げられない。
なお,本件部分意匠においては,ガラス面板は,合わせガラスであるとされてい
るのに対し,甲3意匠においては,強化ガラス又は合わせガラス等とされているか
ら,本件部分意匠と甲3意匠とは,「合わせガラス」の限度で一致する。
(エ) 透明度
本件部分意匠は,ガラス面板の上部の透明度を高く,下部の透明度を低く,中間
の透明度をグラデーションで変化させたもので,各ガラス面板の正面視した縦の長
さの約1/2の部分にグラデーションで透明度を低く変化させた部分を設けたもの
であるのに対し,甲3意匠では,甲3の透光性を示す参考図においては,ガラス面
板の全体が透光性を有するものとされているものの,色彩,模様等の限定はないこ
とが明示されている。
したがって,本件部分意匠においては,ガラス面板の上部の透明度を高く,下部
の透明度を低く,中間の透明度をグラデーションで変化させたもので,各ガラス面
板の正面視した縦の長さの約1/2の部分にグラデーションで透明度を低く変化さ
せた部分を設けたものであるのに対し,甲3意匠においては,ガラス面板の色彩,
模様等に限定はなく,色彩,模様等が変われば透明度も変わるので,透明度におい
ても限定がない点において,相違する。
ウ 検討
(ア) 縦横比について
前記イ(イ)のとおり,本件部分意匠と甲3意匠は,本件部分意匠は,各ガラス面板
の縦横比を約9:8とするのに対し,甲3意匠は,各ガラス面板の縦横比の特定が
ない点で相違するが,甲3意匠の各ガラス面板の縦横比の特定がない以上,各ガラ
ス面板の縦横比を約9:8とすることも甲3意匠には含まれているといえるから,
創作容易性の判断に当たって,これを実質的な相違点として,容易に創作すること
ができたかどうかを検討すべき点には当たらない。
(イ) 透明度について
平成17年10月以前に建築された九州国立博物館の屋内上層階端に設けられた
手摺部分の面板部分(甲4,8,乙4,8),平成18年7月以前に建築された茨木
市立生涯学習センターきらめきの屋内上層階端に設けられた手摺部分の面板部分
(甲5,乙5),平成15年8月以前に建築された玉川高島屋S・C新南館の屋内上
層階端に設けられた手摺部分の面板部分(甲6,7,乙6,7)及び平成18年1
1月以前に建築された成蹊大学情報図書館の屋内上層階端に設けられた手摺部分の
面板部分(甲9,10,乙9,10)は,白く着色された部分の色調や透明度,透
明度がグラデーションにより変化している部分の位置や,その幅が各ガラス面板全
体の面積に占める割合に差は見られるものの,いずれも,下が白く着色されて透明
度が低く,上が透明度が高く,下から上に向けてグラデーションにより透明度が高
くなっていること(甲9,10,乙9,10)が認められる。
以上によれば,透明の面板を手摺の構成部分に使用する場合において,下を白く
着色して透明度を低く,上の透明度を高く,下から上にグラデーションにより透明
度を高く変化させることは,公然知られた模様又は色彩であると認められるのであ
って,これを合わせガラス面板の模様又は色彩として手摺の構成部分である合わせ
ガラス面板に付することは,当業者にとってありふれた手法である。
そして,着色された部分の色調や透明度をどの程度とするか,透明度がグラデー
ションにより変化している部分を水平方向においてどの位置にするか,透明度がグ
ラデーションにより変化する幅をどの程度にするかについては,構成比率を変更す
るものにすぎず,これらの比率を,前記第2の2の甲1の透過率を説明する参考図
や使用状態を示す参考図のようにすることは,当業者にとってありふれた設定であ
る。
したがって,本件部分意匠は,意匠登録出願前に当業者が日本国内において公然
知られた形状と模様又は色彩の結合に基づいて容易に創作をすることができたもの
といえ,意匠法3条2項に該当する。
(2) グラデーション模様の配されている部位がガラス面板を構成する合わせ
ガラスの厚さ方向の中央部分に特定されていることを前提とする創作容易性につい
て
ア 前記2のとおり,本件部分意匠は,グラデーション模様の配されている
部位がガラス面板を構成する合わせガラスの厚さ方向の中央部分に特定されている
ものとは認められないが,仮に,原告の主張するように,グラデーション模様の配
されている部位が,ガラス面板を構成する合わせガラスの厚さ方向の中央部分に特
定されていることを前提としても,本件部分意匠が,意匠法3条2項に該当すると
の結論に変わりはない。
イ すなわち,原告の前記主張は,合わせガラスを構成する2枚のガラスを
貼り合わせるに際し,中間に置かれる中間膜部分,又は,2枚のガラス板の間に樹
脂を流し込んで形成される中間の樹脂部分のみに,グラデーション模様が配され,2
枚のガラス板の部分はいずれもその全面において透明であることを前提としている
と解されるところ,かかる構成が本件部分意匠に含まれるとするならば,本件部分
意匠と甲3意匠の相違点としては,前記(1)の場合と同様に,本件部分意匠と甲3意
匠は,本件部分意匠は,各ガラス面板の縦横比を約9:8とするのに対し,甲3意
匠は,各ガラス面板の縦横比の特定がない点,本件部分意匠においては,合わせガ
ラスであるガラス面板を構成する2枚のガラス板の間の中間膜ないし樹脂層を,上
部の透明度を高く,下部の透明度を低く,中間の透明度をグラデーションで変化さ
せ,正面視した縦の長さの約1/2の部分にグラデーションで透明度を低く変化さ
せた部分を設け,2枚のガラス板はその全面において透明であるのに対し,甲3意
匠においては,ガラス面板の色彩,模様等に限定はなく,透明度においても限定が
ない点において,相違することになる。
ウ(ア) 縦横比については,前記(1)ウ(ア)のとおりであって,創作容易性の判断
に当たって,これを実質的な相違点として,容易に創作することができたかどうか
を検討すべき点には当たらない。
(イ) 合わせガラスであるガラス面板を構成する2枚のガラス板の間の中
間膜ないし樹脂層に,グラデーション模様を配することについては,次の記載があ
る。
a 乙1(特許協力条約に基づいて国際公開された日本語特許出願,特
願昭63-502466号,国際公開番号WO88/07027。)には,次の記載
がある。
「 本発明は,自動車のフロントガラスなどに用いる合わせガラスを製造するための化粧中間
膜の製造方法の改良に関する。(技術分野,3頁左上4~6行)
」
「・・・既知の合わせガラス用の製造技術に従って,中間膜・・・を二枚のガラス・・・の間
にはさみ,平盤プレス・ ・で加熱加圧して,
・ 中間膜により接着すると同時に,印刷パターン・ ・
・
を中間膜・・・の内部に浸透させる。
得られた合わせガラスを,たとえば5日間,温度55℃の雰囲気に放置して熟成し,
・・・着
色剤が化粧中間膜の裏面にまで浸透した合わせガラスを得る。 (合わせガラスの製造工程,6
」
頁左下2~10行)
「 本発明の方法は,特に,自動車のフロントガラスにグラデーションパターンを形成する場
合に優れた効果を発揮し得る。
このグラデーションパターンは,フロントガラスの上方から下方に向かって均一な濃度勾配
で着色濃度が次第に低下していくボカシ模様からなる。従来このようなグラデーションパター
ンを中間膜に形成するためには,たとえば,原板となる感光フィルム上に遮光板を載置し,こ
の遮光板を少しづつ移動させながら露光する方法が行われている。
しかしながら,このような方法では,目的とするグラデーションを得るためには,遮光板の
移動速度,露光量等を厳格に制御する必要があり,熟練した技術を要する。さらに,従来の方
法では,フロントガラスの形状に対応するように濃度勾配が変化するパターンを得ることは不
可能であり,不自然なものしか得られないのが現状である。
本発明においては,
・・・あらゆる形状に対応するグラデーションパターンを形成することが
可能となる。(グラデーションパターンの形成,6頁右下3~22行)
」
「本発明の製造方法によって得られた合わせガラス用化粧中間膜は,合わせガラスに貼り合わ
せて使用したとき,気泡が残留することがなく,着色が均一で外観の美しい合わせガラス製品
が,高い良品歩留まりをもって提供される。したがって,本発明は,自動車のフロントガラス
の他,各種ショーウィンドウ用のガラス板の製造に好適である。(産業上の利用可能性,14
」
頁左上21行~同頁右上3行)
「請求の範囲
1. 下記の工程からなる,合わせガラス用化粧中間膜の製造方法。
(イ) 転写シート基材上に,合わせガラス用の熱可塑性樹脂からなる中間膜を染色し得る
インキで印刷して所望の印刷パターンを有する転写シートを形成する工程,
(ロ) 得られた転写シートの印刷パターン面または(および)中間膜の表面に,印刷イン
キのビヒクルおよび中間膜をある程度軟化させ得る溶剤液を塗布する工程,
(ハ) 溶剤液の塗布面を介して,印刷パターンの面と中間膜とを重ね合わせて該中間膜の
ガラス転移点以下の低温度下で加圧することにより,印刷パターンを中間膜の表面に転移浸透
させる工程,および,
(ニ) 中間膜から転写シート用基材を剥離して乾燥することによって,合わせガラス用化
粧中間膜を得る工程。
・・・
6. 印刷パターンが,均一な濃度勾配を有するボカシ模様(グラデーションパターン)から
なる,請求の範囲第1項に記載の方法。(14頁左下1行~同頁右下7行)
」
b 甲14の2(乙2,公開特許公報,特願2004―181178号,
特開2006-1807号。)には,次の記載がある。
「【請求項1】
液体樹脂を用いた樹脂合わせガラスにおいて,複数色の顔料,染料で調整された各着色樹脂
を個別,且つ,同時に注入し,液状樹脂が自然に生み出す流線,境界グラデーション,混合パ
ターンを特徴とする合わせガラス。」
「【請求項4】
前記合わせガラスは,平ガラス,曲げガラス,若しくは樹脂板(アクリル,ポリカーボネー
トなど)を用いた請求項1,2,および3に記載の合わせガラス」
「
【0001】
合わせガラスは,2枚のガラス間に樹脂層を設け,耐衝撃性,耐貫通性,断熱性,並びにガ
ラスの飛散防止性などを向上させ,最近,多くのガラス建材に用いられている。このうち,樹
脂合わせガラスの加工法は,顔料や染料の添加量により,設計者が意図する微妙な色調やガラ
ス間の多色混合化が可能となる。本発明は,これら加工法を検討し,意匠性を一段と高めた樹
脂合わせガラスに関するもので,外装材,内装材の壁,窓,スクリーン,照明器具,造形作品
などに組み込んで有効に活用できる。
【0002】
樹脂合わせガラスは,ガラス周囲に堰き止めテープを貼り,ガラス間に樹脂を注入し,重合
硬化させる基本的な加工法は既に公知である。市場の多くを占めているフィルムによる合わせ
ガラスの着色化は,その製造加工法により,着色化されているフィルムを熱融着フィルムに挟
み込んでいるため,色のバリエーションや多色配合は,着色フィルムの色調に制限される。
【0003】
着色フィルムは,押出機により大量に製造する必要があり,設計者やユーザーが要求する微
妙な色調・・・の生産は高コストを招く。一方,樹脂合わせガラスは,1枚のガラスにおいて
は,顔料,染料の添加量により容易に如何なる調色も可能となる。しかし,既存技術では,1
枚のガラス部分に複数の多色化やグラデーションを発現させるのは困難である。
【0004】
樹脂合わせガラスにおいて,樹脂注入は,傾斜させた2枚のガラス間に注入口を1カ所とし
ているため,単色化,若しくは,時系列な異色注入による多色化しかできない。後者は,一層
目の樹脂に二層目以降の樹脂が傾斜方向に配色されるだけで,境界のグラデーションや液体の
流線などが表現できない。」
「
【0011】
本発明によれば,樹脂合わせガラスの製法を生かし,複数に着色した樹脂を用い,注入方法,
樹脂の粘性率適正化などにより,自然滴下によって二色の境界グラデーションや複数色の流線
模様が表現でき,興味ある高意匠性合わせガラスの製造が可能となる。これらの色調模様は,
色調を含め,同一パターンにはならずオリジナルなデザインになる。これらは,ガラス建材と
して,スクリーン,衝立,壁材,照明器具,造形作品などに有効に応用できる。」
「
【0014】
合わせたガラスを傾斜可能な架台に乗せ,注入口を複数個開ける。各注入口からイメージど
おりの着色樹脂を同時あるいは時系列的に滴下させる。また,一個の注入口から二色以上の樹
脂を撹拌せずに注入する。
【0015】
滴下は,必要に応じて二枚のガラス間の奥部まで達するような注入誘導管を取り付け,奥部
から樹脂を充填する。流線や二色の境界パターンに注目しながら,必要に応じて微振動や微衝
撃を与え,模様を流動化させる。
【0016】
別の方法として,注入前に二色の境界板を入れておき,注入後に抜き取り,境界部の色を混
合させる場合もある。
【0017】
本発明による加工は,ガラスの他,ポリカーボネート,アクリルなどの樹脂製板でも適用で
きる。また,平板状の他,曲げ形状(曲げガラス,曲げ樹脂板)においても同様に適用できる。」
(ウ) 透明の面板を手摺の構成部分に使用する場合において,下を白く着色
して透明度を低く,上の透明度を高く,下から上にグラデーションにより透明度を
高く変化させることは,公然知られた模様又は色彩であり,これを合わせガラス面
板の模様又は色彩として手摺の構成部分である合わせガラス面板に付することは,
当業者にとってありふれた手法であることは,前記(1)ウ(イ)のとおりである。
また,着色された部分の色調や透明度をどの程度とするか,透明度がグラデーシ
ョンにより変化している部分をどの位置にするか,透明度がグラデーションにより
変化する幅をどの程度にするかについては,構成比率を変更するものにすぎず,こ
れらの比率を,前記第2の2の甲1の透過率を説明する参考図や使用状態を示す参
考図のようにすることは,当業者にとってありふれた設定であることも,前記(1)ウ
(イ)のとおりである。
そして,前記(イ)によれば,平板の合わせガラスを着色するに当たり,合わせガラ
スを構成する2枚のガラス板の間の中間膜ないし樹脂層のみに着色し,2枚のガラ
ス板をその全面において透明にすることは,当業者にとってありふれた手法である。
したがって,仮に,グラデーション模様の配されている部位が,ガラス面板であ
る合わせガラスを構成する2枚のガラス板の間の中間膜ないし樹脂層に特定されて
いることを前提としても,本件部分意匠は,意匠登録出願前に当業者が日本国内に
おいて公然知られた形状と模様又は色彩の結合に基づいて容易に創作をすることが
できたものといえ,意匠法3条2項に該当する。
(3) 原告の主張について
ア 原告の本件部分意匠の透明度を変化させた部位についての構成に係る主
張については,前記2(2)のとおりであって,採用できない。
仮に,前記(2)のとおり,グラデーション模様の配されている部位が,ガラス面板
を構成する合わせガラスの厚さ方向の中央部分に特定されていることを前提として
も,本件部分意匠において,特定されているのは,合わせガラスを構成する2枚の
ガラスを貼り合わせるに際し,中間に置かれる中間膜部分,又は,2枚のガラス板
の間に樹脂を流し込んで形成される中間の樹脂部分のみに,グラデーション模様が
配され,2枚のガラス板の部分はいずれもその全面において透明であることのみで
あり,本件公報(甲1)を精査しても,それ以上にグラデーションの微細構造が特
定されていることは読み取れない。
そうすると,本件部分意匠が,
「ガラス面板の合わせガラスの厚さ方向中央部分に
配されたグラデーション模様は,ガラス面板の正面側及び背面側のどちらから見て
も前面に透明の肉厚部を通して見えるものであ」る(原告主張のc項の一部)とは
いえても,ガラス面板の前面側及び背面側の外表面の反射による光像がグラデーシ
「
ョン模様に重畳され,周囲の明るさによってグラデーション模様が変化」
(原告主張
のc項の一部) 「ガラス面板の合わせガラスの厚さ方向中央部分に配されたグラ
し,
デーション模様の光像は,その外側に位置するガラスから空気層に入射する入射角
が臨界角よりも大きいときには,前記ガラスの外表面で全反射されて外側に出射さ
れず,その外側に位置するガラスから空気層に入射する入射角が臨界角より小さい
ときは前記ガラスを通して外側に出射され」(原告主張のe項),両側のガラス板の
間を通過する光の状態によって各種の異なった映像を出射し,また,このような映
像を出射しない構成を有するものとは認められない。
イ 原告は, (甲14の2)
乙2 の意匠と本件部分意匠との相違点を挙げて,
甲2又は甲3に記載された意匠との組合せにつき,組み合わせても本件部分意匠の
構成にはならず,組合せの契機又は起因が存在せず,阻害事由がある旨を主張する。
しかしながら,前記(1)のとおりであって,乙2の意匠と本件部分意匠との相違点
の存否・内容は,前記(1)の結論には関係しない。
また,前記(2)のとおり,グラデーション模様の配されている部位が,ガラス面板
を構成する合わせガラスの厚さ方向の中央部分に特定されていることを前提として
も,甲3において,手摺のガラス面板の構成が記載されており,透明の面板を手摺
の構成部分に使用する場合において,下を白く着色して透明度を低く,上の透明度
を高く,下から上にグラデーションにより透明度を高く変化させることが,公然知
られた模様又は色彩であることは,前記(1)ウ(イ)のとおり,甲4~10により認めら
れる事実であり,乙2(甲14の2)は,そのような面板につき,2枚のガラス板
の間の樹脂層部分にのみ着色したものとすることは,当業者にとってありふれた手
法であることを示す証拠であるから,乙2(甲14の2)の意匠と本件部分意匠の
相違点の存在・内容は,本件部分意匠と主引用意匠の対比としての意味を有するわ
けではない。また,本件公報(甲1)を精査しても,グラデーションの微細構造が
特定されていると読み取れないことは,前記アのとおりであるし,前記(2)ウ(イ)bに
よれば,乙2(甲14の2)には,液体樹脂を用いた樹脂合わせガラスである平ガ
ラスに,グラデーション模様を配することも記載されていることが認められるから,
原告の前記主張のうち,グラデーションに関する構成やガラス板の形状を相違点と
する部分は,前提を欠く。さらに,着色部分の色調や透明度,グラデーションを配
する水平方向の部分や幅が,構成比率を変更するものにすぎないことは,前記(1)ウ
(イ)のとおりである。
ウ 原告は,乙1の意匠と本件部分意匠との相違点も挙げるが,乙1の意匠
と本件部分意匠との相違点の存否・内容は,前記(1)の結論には関係せず,前記(2)
のとおり,グラデーション模様の配されている部位が,ガラス面板を構成する合わ
せガラスの厚さ方向の中央部分に特定されていることを前提としても,本件部分意
匠の相違点の存在・内容は,本件部分意匠と主引用意匠の対比としての意味を有す
るわけではなく,グラデーションの微細構造と平ガラスの点について原告の主張が
前提を欠き,着色部分の色調や透明度,グラデーションを配する水平方向の部分や
幅が,構成比率を変更するものにすぎないことは,前記イのとおりである。
エ 原告は,前記第3の4のとおり,創作容易性についてるる否定する主張
をするが,乙 1 及び2(甲14の2)に係る主張については,前記イ及びウのとお
りである。
また,原告は,合わせガラスを手摺に採用することはありふれた手法ではない旨
を主張するが,甲3において,ガラス面板が強化ガラス又は合わせガラス等とされ
ているのは,前記(1)ア(ア)bのとおりである。
さらに,原告は,審決は,グラデーション模様を概念的に捉えたものである旨も
主張するが,本件部分意匠において,グラデーションの微細構造が特定されている
といえないことは,前記アのとおりである。
原告は,審決が,蓋然的に構成態様d項を構成要素と認定しているとも主張する
が,原告主張の「グラデーション模様の透明度の変化は,正面視で一定の幅を有し,
水平方向に延びる上下3段の3つの帯状部分から構成され,下側の帯状部分が最も
透明度が低く,中間の帯状部分が中間の透明度で,上側の帯状部分が最も透明度が
高く,しかも各帯状部分は下側から上側に次第に透過率が高くなるとともに,各帯
状部分間において,透明度が漸次変化し,高さ方向の透過率の変化によってグラデ
ーションの模様がガラス面板上に全体として形成され」ること(原告主張のd項)
は,要は,グラデーションの模様が垂直方向に連続性を持って全体として形成され
ており,水平方向の透明度は,同じ高さでは一定であることを述べているにすぎず,
3つの帯状部分の境界を画して分けることに意味があるとは解されない。そして,
甲4~10(乙4~10)においても,複数の手摺の面板の水平方向の透明度は,
同じ高さでは一定であるように見えることが認められる上,一定の長さで設置され
る手摺を構成する複数の面板を,同じ意匠とすることは,ありふれた手法である。
オ 原告は,本件部分意匠において,グラデーション模様が見えたり見えな
かったりするとも主張するが,本件部分意匠が,両側のガラス板の間を通過する光
の状態によって各種の異なった映像を出射し,また,このような映像を出射しない
構成を有するものとは認められないことは,前記アのとおりである。
また,原告の主張するとおり,
「上方からの視界であってベランダの内側から外側
に対する視界がこのガラス面板のグラデーション模様によって遮られることのない
ようにし,これに対してグラデーション模様によって,下側であってマンションの
外にいる人からマンションのベランダ内にいる人に向けた視界が,このガラス面板
のグラデーション模様によって遮られるようにしている」(原告主張のf項の一部)
としても,このことは,手摺のガラス面板を,一定の比率で,上部の透明度を高く,
下部の透明度を低くすることによる効果であって,本件部分意匠の構成とはいえな
い。
仮に,ガラス面板を構成する合わせガラスのグラデーション模様が,
「上方からの
視界であってベランダの内側から外側に対する視界がこのガラス面板のグラデーシ
ョン模様によって遮られること」がなく,
「これに対してグラデーション模様によっ
て,下側であってマンションの外にいる人からマンションのベランダ内にいる人に
向けた視界が,このガラス面板のグラデーション模様によって遮られるよう」なも
のであることが,機能的表現による意匠の構成であるならば,少なくとも,前記内
容により,グラデーション模様が特定できなければならないが,ベランダ内にいる
人の目の位置,下側であってマンションの外にいる人の目の位置及び手摺のガラス
面板との位置関係が決まらない限り,ベランダの内側から外側に対する視界が遮ら
れることなく,下側であってマンションの外にいる人からマンションのベランダ内
にいる人に向けた視界が遮られるようなグラデーション模様の具体的な内容は決ま
らないはずである。そうすると,前記内容により,グラデーション模様が特定でき
るとはいえない。そもそも,甲1には,ベランダにいる人の目の位置や下側であっ
てマンションの外にいる人の目の位置を一定の位置に特定する記載はなく,かかる
内容が,本件部分意匠を構成するものとも認められない。
他に前記認定を覆すに足りる主張・立証はなく,原告の創作容易性についての主
張は,採用できない。
(4) まとめ
以上のとおりであって,原告主張の取消事由は,理由がなく,本件審決にこれを
取り消すべき違法は認められない。
第6 結論
以上の次第で,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文の
とおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
清 水 節
裁判官
中 村 恭
裁判官
森 岡 礼 子
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