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平成27(行ケ)10226審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成28年11月24日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官
原告アクロマ,タナイタス,アクチボラグ
対象物 同期化された水及びその製造並びに使用
法令 特許権
特許法36条4項1号6回
特許法36条6項2号6回
特許法29条1項4回
キーワード 実施33回
審決12回
分割1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事件の概要 容易に認定できる事実である。)

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判決文

平成28年11月24日判決言渡
平成27年(行ケ)第10226号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成28年9月29日
判 決


原 告 アクロマ,タナイタス,アクチボラグ


訴 訟 代 理 人 弁 護 士 吉 武 賢 次
同 宮 嶋 学
同 髙 田 泰 彦
同 柏 延 之
同 砂 山 麗
訴 訟 代 理 人 弁 理 士 永 井 浩 之
同 中 村 行 孝
同 佐 藤 泰 和
同 朝 倉 悟
同 浅 野 真 理

被 告 特 許 庁 長 官
指 定 代 理 人 山 口 直
同 平 瀬 知 明
同 松 下 聡
同 長 馬 望
同 金 子 尚 人
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための
付加期間を30日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2013-13650号事件について平成27年6月16日にした
審決を取り消す。
第2 事案の概要(認定の根拠を掲げない事実は争いがないか弁論の全趣旨により
容易に認定できる事実である。)
1 特許庁における手続の経緯等
訴外アクロマ,バイオサイエンス,アクチボラグは,発明の名称を「同期化され
た水及びその製造並びに使用」とする発明について,平成22年8月19日を出願
日とする特許出願(優先日を平成19年2月13日とする特願2010-1841
81号(平成20年2月13日にした特許出願(特願2009-549552)の
一部を分割した特許出願)。以下「本願」という。)をし,原告は,平成22年9月
24日,アクロマ,バイオサイエンス,アクチボラグから,本願の特許を受ける権
利を取得した(甲24)。原告は,平成25年3月12日付けで拒絶査定を受けたた
め,同年7月16日付けで,これに対する不服の審判を請求した。
特許庁は,上記請求を不服2013-13650号事件として審理をした上,平
成27年6月16日,本件審判の請求は成り立たないとの審決をし,その謄本を,
同月26日,原告に送達した。
2 特許請求の範囲(甲2)
本願の特許請求の範囲(請求項の数は18)の請求項1ないし18の記載は,以
下のとおりである(ただし,平成27年3月2日付け手続補正書(甲2)による補
正後のもの。以下,請求項1ないし18に係る発明をそれぞれ「本願発明1」ない
し「本願発明18」,これらを併せて「本願発明」,本願の明細書及び図面を併せて
「本願明細書」,とそれぞれいう。また,請求項1に規定する「特徴的幾何学的マト
リックスおよび波長360~4000nmを有する入射光の電磁特性を変化させな
い支持体を含んでなる耳鳴り処置用の装置」を「本願装置」,同項に規定する水の特
性である「・22℃における密度0.997855~0.998836g/ml,

凝固点における水温-6.7℃~-8.2℃,
・融点0.1℃~0.2℃, ・22℃
における表面張力72.3~72.7dyn/cm,及び ・誘電率82.4~82.
6F/m」を「本願水特性」と,本願水特性を得るために本願装置を構成する「特
徴的幾何学的マトリックス」を「本願マトリックス」と,それぞれいう。。

「【請求項1】
特徴的幾何学的マトリックスおよび波長360~4000nmを有する入射光の
電磁特性を変化させない支持体を含んでなる耳鳴り処置用の装置であって,
前記特徴的幾何学的マトリックスが,支持体上に配置されており,前記入射光が,
特徴的幾何学的マトリックスを通過し,その後,水または水を含む媒体と接触した
場合に,前記水が,蒸留された状態かつ大気圧で,下記の特性:
・ 22℃における密度0.997855~0.998836g/ml,
・ 凝固点における水温-6.7℃~-8.2℃,
・ 融点0.1℃~0.2℃,
・ 22℃における表面張力72.3~72.7dyn/cm,及び
・ 誘電率82.4~82.6F/m,
を有するように,前記特徴的幾何学的マトリックスが,前記入射光の電磁特性を変
化させ,
前記特徴的幾何学的マトリックスが,下記(a)~(f)からなる群からより選
択され,
(a)共通の中心または円弧上に共通の接点を有する一個以上の同心円を取り囲
む円,
(b)より小さい閉じた円を含む円,
(c)2つの同心円であって,より小さい円が開いている,
(d)幾つかの同心円を含み,形成されたリングの一個以上が閉じている円,
(e)「フラワー オブ ライフ」のパターン,
(f)前記(a)~(e)の組合せ,
前記特徴的幾何学的マトリックスを構成する線が0.01~1.0mmの幅を有
する,
装置。
【請求項2】
前記特徴的幾何学的マトリックスの,最外円の直径と,同心円の共通の中心に向
かって数えて次の円の直径との比,および第二の最も外側にある円の直径と,共通
の中心に向かって数えて次の円との比が,フィボナッチ数列Fn=θn/50.5(式
中,Fnは0,1,1,2,3,5,8,13,21,34..の整数列を示す)

に従う,請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記支持体が,入射光の電磁特性を変化させず,ガラス,厚紙,紙,プラスチッ
ク,シート金属または天然材料からなる,請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記支持体が透明である,請求項2に記載の装置。
【請求項5】
前記支持体がプラスターである,請求項1~4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記特徴的幾何学的マトリックスが,前記支持体上に,被覆,インプリント,好
ましくは凸版または金箔または銀箔でインプリント,エッチング,接着またはラミ
ネート加工されている,請求項1~5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記支持体がラミネートまたはホイルからなる,請求項1~6のいずれか一項に
記載の装置。
【請求項8】
前記特徴的幾何学的マトリックスが,金属,好ましくは銅または黄銅からなる,
請求項1~7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記特徴的幾何学的マトリックス上に存在するフィールド及びラインが特定のス
ペクトル色を有するか金属ホイルであり,金,銀,銅,黒,緑,トルコ玉の色彩お
よび赤から選択されるスペクトル色を有する,請求項1~8のいずれか一項に記載
の装置。
【請求項10】
前記特徴的幾何学的マトリックスを構成する線が0.1~0.5mmの幅を有す
る,請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記特徴的幾何学的マトリックスが,開いた円とその第一の円の中心になる1個
以上の閉じた円からなるSSマトリックスである,請求項1~9のいずれか一項に
記載の装置。
【請求項12】
前記SSマトリックスの外側円直径が13mmであり,内側円直径が1mmであ
り,外側円の線幅が1/13mmである,請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記特徴的幾何学的マトリックスが,開いた円とその第一の円の中心になる1個
以上の開いた円からなるSScマトリックスである,請求項1~9のいずれか一項
に記載の装置。
【請求項14】
前記SScマトリックスの外側円直径が13mmであり,外側円の円幅が0.5
mmであり,内側円直径が2mmまたは3mmで,内側円の線幅が0.1mmであ
るか,または,外側円直径が13mmであり,外側円の円幅が0.5mmであり,
内側円直径が3mmで,内側円の線幅が0.35mmである,請求項13に記載の
装置。
【請求項15】
前記特徴的幾何学的マトリックスが,六角形の格子点に中心を有する一群の円で
あり,
各円の半径が格子点間隔と等しく,合計4個の同心円が,格子点間隔の1,2,3
及び4倍の半径で各格子点に描かれたものを含む「フラワー オブ ライフ」パタ
ーンとして形成されており,外側円直径が34mmであり,線幅が0.1mmであ
る,請求項1に記載の装置。
【請求項16】
前記装置が患者の体の皮膚上に適用され,白色光が照射される,請求項1~15
のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
前記装置が,患部の耳付近に適用される,請求項16の記載の装置。
【請求項18】
前記装置が,耳鳴り症状を示す耳の後部の頭蓋基底部に,皮膚に穏やかな接着剤
で局所的に配置される,請求項16または17に記載の装置。」
3 審決の理由
審決の理由は,別紙審決書(写し)に記載のとおりである。その要旨は,①本願
発明は,未だ発明として完成していないから,特許法2条1項に規定する「発明」
に該当するとはいえず,②本願発明は,本願明細書の作用効果が得られるとする理
論的根拠が不明であり,特許法36条6項2号(明確性要件)に規定する要件を満
たすものではなく,③本願明細書は,当業者が本願発明の実施をすることができる
程度に明確かつ十分に記載したものではなく,同条4項1号(実施可能要件)に規
定する要件を満たすものではないとして,本願は拒絶をすべきものであるというも
のである。
第3 取消事由に関する当事者の主張
取消事由に関する当事者の主張は,次のとおりである(以下,
「本願マトリックス
を通過した波長360~4000nm の入射光が本願水特性の水を得られる場合が
あること」という立証事項を「立証事項A」と,
「本願マトリックスを通過した入射
光を生体に照射することにより耳鳴り治療効果が得られること」という立証事項を
「立証事項B」と,立証事項A及び立証事項Bを併せて「本件立証事項」と,それ
ぞれいう。。

1 原告の主張
本願明細書等によれば,本件立証事項がいずれも立証されているにもかかわらず,
これらが立証されていないことを前提とする審決には,発明の完成に関する特許法
29条1項柱書に関する判断の誤り(取消事由1),特許法36条6項2号(明確性
要件)に関する判断の誤り(取消事由2),特許法36条4項1号(実施可能要件)
に関する判断の誤り(取消事由3)があり,その誤りは審決の結論に影響を及ぼす
から,審決は違法であり取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(特許法29条1項柱書に関する判断の誤り)
ア 立証事項Aについて
本願明細書の例1の実施例(【0095】)によれば,表1のとおり,本願水特性
に変化した水(以下,当該水を「同期化された水」ともいう。)が得られることが経
験則的に立証されており,この点につき,被告も争っていない。また,ワシントン
大学のA生物工学教授(以下,単に「A教授」という。)の宣誓書(甲11添付の参
考資料2。以下「A宣誓書」という。)によれば,本願発明にいう同期化された水の
物理的特徴は,同期化されていない水と有意に異なるのであり,A教授の研究室で
行った構造化された水の測定と一致しているというのであるから,本願明細書にい
う上記実験の結果も裏付けられている。したがって,立証事項Aは,少なくとも経
験則的には立証されている。
イ 立証事項Bについて
本願明細書の例14にいうパイロット実験(【0178】)によれば,被験者4名
全員につき耳鳴りが消滅し,A教授も,本願明細書の上記実験が耳鳴り症状に対し
て有効な効果を有したことを実証していると指摘している。また,事例研究報告と
題する報告書(甲22)によれば,本願装置によって102人中90人の耳鳴りの
症状が改善している。したがって,立証事項Bは,少なくとも経験則的には立証さ
れている。
ウ 特許法29条1項柱書該当性について
特許法29条1項に規定する「発明」であるというには,その原理,メカニズム
等によって理論的に解明することまでは不要であり,経験則的に立証すれば足りる
というべきである。したがって,本件立証事項は,上記のとおり経験則的に立証さ
れているのであるから,本願発明は,上記にいう「発明」に該当する。
(2) 取消事由2(特許法36条6項2号〔明確性要件〕に関する判断の誤り)
明確性要件該当性の判断基準は,特許請求の範囲の記載がそれ自体明確であるか
どうかに尽きるのであって,本願発明の解決課題,作用効果等に左右されるもので
はない。本願発明の特許請求の範囲の記載は,技術的意味において明確であり,本
願発明の原理如何にかかわらず,明確性に欠けるところはない。したがって,本願
発明は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たすといえる。
(3) 取消事由3(特許法36条4項1号〔実施可能要件〕に関する判断の誤り)
上記(1)のとおり,本件立証事項は経験則的に立証されているのであるから,本願
明細書は,当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載
されたものであり,特許法36条4項1号に規定する要件を満たすといえる。
2 被告の主張
本願明細書等によっても,本件立証事項は,理論的にも経験則的にも立証されて
いないため,これを前提とする審決の判断に誤りはない。
(1) 取消事由1(特許法29条1項柱書に関する判断の誤り)
ア 立証事項Aについて
原告は,本願明細書の例1の実施例によれば,表1のとおり,同期化された水が
得られることが経験的に立証され,A宣誓書もこれを裏付けるものであると主張す
る。しかしながら,本願マトリックスによって同期化されたという立証事項Aを客
観的に立証するには,本願マトリックスを使用しない場合との比較試験が必要であ
るにもかかわらず,上記実施例においては当該比較試験が行われていない。また,
A宣誓書は,同期化された水が入射光によって形成されたというにとどまり,本願
マトリックス自体の作用効果によって同期化されたことを裏付けるものとはいえな
い。したがって,立証事項Aは,理論的にも経験則的にも立証されたとはいえない。
イ 立証事項Bについて
原告は,本願明細書の例14にいうパイロット実験によれば,被験者4名全員に
つき耳鳴りが消滅し,A宣誓書はこれを裏付けるものであると主張する。しかしな
がら,耳鳴り治療の効果に関する評価についても,患者を二つのグループに分け,
偽薬(プラセボ)か治療薬のどちらかを無差別に内服させ,得られたデータを分析
評価するなどの比較実験が必要とされるところ(乙12の図1),上記実験は,この
ような比較実験を行うものではない。のみならず,キセノン光線療法が耳鳴り治療
に有効であるとされ(乙6,乙9),本願装置の入射光にはキセノン光線治療法の近
赤外線(波長780~2500nm)が含まれるのであるから,本願マトリックスの
使用の有無にかかわらず,被験者には耳鳴り治療の効果が得られることになる。し
たがって,立証事項Bは,理論的にも経験則的にも立証されたものとはいえない。
ウ 以上によれば,本件立証事項は理論的にも経験則的にも立証されたものとは
いえず,本願発明は,特許法29条1項にいう「発明」に該当しない。
(2) 取消事由2(特許法36条6項2号〔明確性要件〕に関する判断の誤り)
上記(1)のとおり,本件立証事項は理論的にも経験則的にも立証されたものとは
いえず,本願マトリックスによっても同期化されない水が存在し得ることになる。
それにもかかわらず,本願明細書には同期化された水かどうかを確かめるための条
件(照射する入射光の強度,入射光の照射時間,照射する水の容量,照射する前の
蒸留水の状態)が一切記載されていないから,本願発明は明確であるとはいえない。
したがって,本願発明は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たすものとは
いえない。
(3) 取消事由3(特許法36条4項1号〔実施可能要件〕に関する判断の誤り)
特許法36条4項1号にいう実施可能要件を満たすというには,本件立証事項が
立証されることを要するところ,上記(1)のとおり,これらが立証されたものとはい
えないことは明らかである。そうすると,当業者は,本願明細書の記載から,本願
発明が耳鳴り症状を改善するという課題を解決できることを認識することができず,
本願発明を実施することができない。したがって,本願明細書は,特許法36条4
項1号に規定する要件を満たすものとはいえない。
第4 当裁判所の判断
当裁判所は,原告の取消事由3(特許法36条4項1号〔実施可能要件〕に関す
る判断の誤り)の主張には理由がなく,その余の点について判断するまでもなく本
願は拒絶をすべきものであるから,審決にはこれを取り消すべき違法はないものと
判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 取消事由3(特許法36条4項1号〔実施可能要件〕に関する判断の誤り)
について
(1) 特許法36条4項1号は,発明の詳細な説明の記載は,
「その発明の属する技
術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確
かつ十分に記載したものであること」と規定している。したがって,同号に適合す
るためには,本願明細書中の「発明の詳細な説明」の記載が,これを見た本願発明
の技術分野の当業者によって,本願出願(優先日。以下同じ。)当時に通常有する技
術常識に基づき本願発明の実施をすることができる程度の記載であることが必要と
なる。
(2) 本願明細書の記載について
ア 同期化された水の概要
同期化された水は,水又は含水媒体に,特定の波長領域にある放射線を照射する
ことにより製造することができる。その際,光を,水又は含水媒体に照射する前に,
特別に設計された本願マトリックスを通過させる。本願マトリックスの設計は,通
過する光の特性を,その後に光が水又は含水媒体に照射された時に,以前には知ら
れていなかった水分子の同期化を創出するように変化させる。同期化された水の特
性は,いわゆるクラスター化された水及びこの技術分野で以前に開示されている類
似した種類の水の特性とは異なっている。すなわち,本願発明の同期化された水は,
蒸留された状態で,大気圧で,22℃における密度0.997855~0.998
836g/ml,凝固点における水温-6.7℃~-8.2℃,融点0.1℃~0.
2℃,表面張力(22℃)72.6~72.7dyn/cm,及び比誘電率82.
4~82.6F/mを有する点で,独特な物理的特性を示す。【0016】
( )
イ 本願マトリックス
マトリックスは,光が当たる製品又は物体を意味し,光は,マトリックスを通過
してから水又は含水媒体に当たり,その中で水分子が同期化される。本願マトリッ
クスは,含水媒体と直接接触している支持体上に配置するか,又は含水媒体からあ
る距離を置いて存在することができる。本願マトリックスは,一実施態様では,光
の放射方向に対して直角又は主として直角の平面中に二次元的外観により限定され
る。二次元的外観とは,より正確には,放射線源から見た時に,本願マトリックス
が形成する二次元的なパターンを意味する。したがって,この実施態様では,本願
マトリックスは,放射方向に対して直角の二次元的平面における広がりと比較して
著しく小さい厚さ又は深さを有することができる。その他の実施態様では,本願マ
トリックスは,例えばマトリックスがより明確な三次元的幾何学的形状を構成する
場合,例えば上記の厚さ又は深さがより大きく,より大きな程度に,入射光の特性
の修正に影響を及ぼすことを意図している場合のように,その三次元的外観により
限定される。【0045】【0046】
( , )
ウ 支持体
本願マトリックス用の支持体は,プラットホーム,板,ホイル,パイプ,スプー
ル,含水媒体用貯蔵容器,例えばビーカー,包装物又はタンクの壁等の形態を有す
ることができる。支持体自体は,上記のように,入射光の電磁特性に実質的に影響
を及ぼさないようにすべきである。独特な特性を有する同期化された水を得るため
に,入射光の特性を修正することを意図しているのは,設計(二次元的又は三次元
的設計),すなわち特徴的幾何学的特性である。 【0048】【0050】
( , )
エ 本願マトリックスの形成
本願マトリックスは,支持体上にいずれかの公知の様式で,例えば,被覆,イン
プリント,接着,塗装,テープ,キャスティング,又はラミネート加工により,配
置することができる。一実施態様では,本願マトリックスを石英ガラス上にインプ
リントするか,又はラミネート加工している。本願マトリックスの設計は,入射光
の特性の修正に大きな影響を及ぼし,含水媒体の振幅を行う。重要な結果は,円及
び球の幾何学的構造に基づく幾何学的設計で得られる(下記【図16】AないしF
参照)(
。【0048】【0052】
, )
オ 本願マトリックスの具体的形状(図16A)
入射光の方向に対して実質的に直角である二次元的平面の本願マトリックスのう
ち,最も簡単な実施態様は,通常の円である。その他の実施態様は,共通の中心又
は円弧上に共通の接点を有する一個以上の同心円を取り囲む円,又はより小さな閉
じた円を含む円を包含する。上記にいう「閉じた」とは,入射光が閉じた表面を通
過できないことを意味する。別の実施態様は,幾つかの同心円を含み,形成された
リングの一個以上が閉じた円を包含する。【0053】
( )
カ 本願マトリックスの種類(【図16】)

【図16A-1】 【図16A-2】


【図16B】 【図16C】


【図16D】 【図16E】


【図16F】


キ 本願マトリックスの技術的範囲
同期化は,実質的に二次元的平面にある本願マトリックスが,古典的な形状を,
円の幾何学的構造を基礎とするマトリックスとして含む場合に得られる。しかし,
本願マトリックスの外観の設計は,古典的な幾何学的構造から僅かに偏っている。
幾何学的構造が本願マトリックスの外観に基づいている円は,僅かに長円形であり,
一実施態様では,円が完全に同心円状である必要はなく,共通の幾何学的中心を有
する必要もない。異なったサイズの円が互いに重なり合っていてもよい。したがっ
て,本願マトリックスは,全て上記の形態から僅かに偏っていてよい。しかし,こ
の偏りは,含水媒体中で水を同期化するための入射光の修正がそれでもなお起こり
さえすればよい。したがって,上記の種類の本願マトリックスの全て及びそれらの
変形並びに組合せも,含水媒体中の水が同期化され,それによって,上記の独特な
特性が得られるように,入射光に影響を及ぼす能力を有する限り,本願発明の範囲
内に含まれる。【0060】
( )
ク メカニズム
水の同期化の背後にあるメカニズムは,十分には解明されていない。このメカニ
ズムを少なくとも部分的に解明できるモデルは,本願マトリックスを通過する際の
光の電磁的,磁気的成分の変化である。
光源から来る入射光を本願マトリックスに通過させると,その特性が,スペクト
ル電磁光における幾何学的エントロピーがその空間形態及びフィールド構造に関し
て変化するように変化し,電気的及び磁気的性質の両方を有する単一波成分の配位
が増加するために,
「レーザー状の」凝集性自己安定化する光が生じる。これらの修
正を,非凝集性光を放射する分光光度計における通常光電球から来るスペクトル光
(例えば634nm)で測定することができる。本願マトリックスを通過した後の
物理的光特性における修正を高感度ビデオカメラで記録し,光学的スペクトル画像
形成により画像を解析し,数学的に評価する。【0073】【0092】
( , )
ケ 実施例(例1)
密度,比誘電率,表面張力,凝固点及び融点における温度プロファイルを,同期
化された蒸留水で試験した。蒸留水(Apoteket AB,スウェーデン)を白昼光及び本
願マトリックスに24時間常温で暴露した。温度特性を,NiCrNiセンサーで
温度データを1/3秒間毎に8時間まで集めることにより,追跡した
(Temperaturlogger, Nordtec AB,スウェーデン)。同期化された水の密度は,既知
量の水で秤量により分析した(Mettler,GTF,スウェーデン) 水の比誘電率は,

Percometer(Adek Ltd, Estonia)で分析した。誘電体プローブは,ファラデーのケ
ージで遮蔽した。本願マトリックス調整後の同期化された水の特性をマトリックス
の【表1】に示す。

【表1】


同期化された水は,本願マトリックス処理の後,常温(22℃)でかなり高い密
度を有することが分かった。本願マトリックス調整の後に測定した密度の平均に基
づいて計算した相対密度は,0.997855~0.998836(P<0.01
-0.01)である。同期化された水で,凝固点における平均水温は,-6.7℃
~-8.2℃(P<0.001)である。対応する融点は,0.1~0.2℃(P
<0.05)である。本願マトリックス処理中に比誘電率はかなり増加し,82.
4~82.6F/m(P<0.001)であった。表面張力は,本願マトリックス
処理後に,特にSSマトリックスでかなり低下し(72.3dyn/cm),平均は
72.3~72.7F/mであった。
結論として,この結果は,蒸留した同期化された水では,水構造の結合及び秩序
が大幅に組織化されている。密度の増加は,
「流動する結晶構造」の形成を示唆して
おり,これは,冷水及び氷中に存在する通常の六方晶状の構造とは異なっている。
実験の際に,通常の凝固点における六角形秩序とはかなり異なった網目構造が存在
し,室温で維持されるので,実験中に固有の同期化された水は,安定化する「真の」
水構造間の水素結合により調整された高い構造的対称性を有する連続的な水を構築
するために,四面体モジュール水構造の形成により,自己調整分子フィードバック
を目指している。同期化された水で幾つかの,ある方向に向けられた水素結合は,
高度に安定した,分子間及び分子内的に結合した自己組織化するバイオシステムを
導入する。【0095】ないし【0101】
( )
コ その他実施例(例2~13の結果のまとめ)
例2ないし13の実施例で行った実験から,とりわけ,下記の結果が得られた。
同期化された水(自己調整分子同期化)中で,室温で,①本願マトリックス及び
コロイド状石英による,時間に依存する導電率増加,②時間に依存する温度低下,
及び/又は温度安定性増加(標準偏差の中間値は,比較試料に対して著しく低かっ
た)。本願発明の同期化された水は,食品及び飲料の酸化を遅くし,溶液(例えばミ
ルク)中のタンパク質を安定化させ,酵素活性(トリプシン触媒作用)を刺激し,
UV,モバイル及びEMF(コンピュータ放射線)に暴露した時の生物学的活性の
変性を抑制する。同期化された水は,酵母の安定した酸化防止性物質の代謝及び生
成を刺激し,栄養状態に対するレドックス活性を適合させる。安定した幾何学的構
造及び協同性相乗効果により,同期化された水における組織が増大し,細胞の酸化
性エネルギー収率がより効果的になる。心臓血管の交感神経迷走神経バランスのと
れた,迷走神経トーンが増加した適応性がある自律神経が,自律神経の安定性を増
大させ,生理学的ストレスを低下させ,分泌免疫性を刺激する。【0177】
( )
サ 耳鳴り治療に関するパイロット実験(例14)
男性2名及び女性2名に,
【図16】の外径34mm,線幅0.1mmの本願マト
リックスにより,耳鳴り処置のパイロット実験を行った。本願マトリックスを,耳
鳴り症状を示す耳の後部の頭蓋基底部に,皮膚に穏やかな接着剤で局所的に配置し
た。被験者は,全て数年間傷害に苦しんでおり,処置の前に大きな問題を経験して
いる。
1 女性,55~60歳,鍼療法師。1週間以内に問題が消失した。
2 女性,55~60歳,歯科医。24時間以内に問題が消失し,非常に大きな
改善。
3 男性,55~60歳,専務取締役。かなりのストレス。信号と音の高さに関
連する問題が24時間以内に消失した。外国へ(飛行機で)旅行した。ナイトクラ
ブ及びフォーミュラー1レースによる高音レベルに晒された。次いで,耳鳴りが再
発した。再度処置し,やはり問題が24時間以内に消失した。
4 男性,45歳。15年間耳鳴りに悩まされている。信号音に関連する問題が
24時間以内に,低い振動音に関連する問題も定期的に消失した。 【0178】
( )
シ 本願発明の作用効果
本願発明は,耳鳴りの処置方法であって,本願マトリックス,好ましくは図16
Fによる本願マトリックスを患者の体上に,好ましくは影響を受けている耳の近く
に置き,患者の体の中で水の同期化を行う方法にも関する。【0191】
( )
(3) 本件立証事項について
ア 前記(2)の認定事実によれば,本願明細書の実施例(例1)では,本願マトリ
ックスを通過した白昼光に対し蒸留水を24時間常温で暴露する実験を行ったとこ
ろ,水が同期化したことが認められ,この点については当事者間に争いがないとこ
ろである。しかしながら,上記実験は,実験条件の詳細が明らかではなく,本願明
細書の表1における「基準」に関する実験条件も具体的に記載されていないことか
らすると,本願マトリックスを使用した場合とこれを使用しなかった場合における
比較実験を行ったものと認めることはできない。のみならず,水の同期化の理論的
なメカニズムは十分に解明されていない上,特開2004-251498号公報(乙
2の【要約】【0006】【0011】
, , )によれば,かえって,マイクロウェーブ,
超音波,マイクロ波超音波,赤外線(遠赤外線,中間赤外線,近赤外線を含む。)な
どを使用することによって,水分子の回転運動を促進し,本願水特性のように,凝
固点における水温をマイナス10度以下に降下させることが可能になるとされてお
り,しかも,上記近赤外線(780nm~2500nm)は,本願発明にいう入射光の
範囲(360nm~3600nm)に含まれるのであるから,本願マトリックスを通過
しない入射光であっても水を一定程度同期化し得ることが認められ,水の同期化が
本願マトリックス以外の実験条件によって生じた可能性も残るといわざるを得ない。
そうすると,本願明細書にいう上記実験は,水が同期化された原因が,その他の実
験条件によるものではなく,専ら入射光が本願マトリックスを通過したことによる
ことまでを立証するものとはいえない。
したがって,立証事項Aが立証されたということはできない。
イ また,前記(2)の認定事実によれば,本願明細書の実施例(例14)では,男
性2名及び女性2名に対し,本願マトリックスを耳鳴り症状を示す耳の後部の頭蓋
基底部に,皮膚に穏やかな接着剤で局所的に配置する実験を行ったところ,このう
ち3名の耳鳴り症状が24時間以内に消失し,1名の耳鳴り症状が1週間以内に消
失したことが認められる。しかしながら,上記実験における被験者は僅か4名にと
どまり,しかも本願マトリックスを使用しない場合との比較試験を行うものではな
いことからすれば,耳鳴り症状が自然治癒又はいわゆるプラセボ効果(乙11)に
より消失した可能性も残るというほかない。のみならず,証拠(乙6ないし9)及
び弁論の全趣旨によれば,キセノンが発する光のうち近赤外線を利用した耳鳴り治
療法(いわゆるキセノン光線療法)が現に実施されていることが認められることか
らすれば,上記実施例における実験においても,被験者の耳の後部に照らされた光
が耳鳴り治療に一定程度有効に作用した可能性も残ることが認められる。したがっ
て,本願明細書にいう上記実験は,耳鳴り症状が本願マトリックス自体によって消
失したものであることまでを立証するものとはいえない。
したがって,立証事項Bが立証されたものとはいえない。
ウ 以上によれば,本件立証事項が立証されたものと認めることはできず,本願
明細書は,当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載
たものとはいえない。
(4) 原告の主張について
ア 原告は,本願明細書にいう上記各実験結果はA宣誓書によって裏付けられて
いる旨主張する。しかしながら,本願マトリックスを使用した実験がA教授の研究
室で行われたことはうかがわれないことからすれば,A宣誓書は,本願明細書にい
う実験によって同期化された水の性質が,A教授の研究室での実験結果と同一であ
るというにとどまり,水を同期化するとされる入射電磁エネルギーが本願マトリッ
クスによって形成されることまでを裏付けるものとはいえない。したがって,原告
の上記主張は,A宣誓書を正解しないものであって,採用することができない。
イ 原告は,人に対する治療を目的とする発明に対し,特許出願前のごく僅かな
期間に厳格な実験を行うことを求めるのは困難を強いるものであって現実的ではな
く,また,本願明細書の耳鳴り治療に関する実験はA宣誓書によっても裏付けられ
ている旨主張する。しかしながら,比較実験の被験者となる耳鳴り患者の人数が少
ないことを認めるに足りる証拠はなく,耳鳴り症状の比較実験の方法についても,
例えば耳鳴り症状を示す両耳のうち片耳に限り本願マトリックスを配置すれば足り
るのであるから,格別困難を強いるものとはいえず,原告の主張は,その前提を欠
く。また,A宣誓書は,
「例14は,パイロット臨床実験におけるTGMの適用が4
人のヒト被験者における耳鳴り症状に対して有利な効果を有したことを実証してい
る」
(甲11〔53頁4行目ないし5行目〕参照)として,単に実験結果を追認する
ものにすぎず,A教授の研究室で本願マトリックスによる耳鳴り症状の改善に関す
る実験が行われていない以上,A宣誓書によっても本願マトリックスによって耳鳴
り症状の改善効果があることを認めることはできない。さらに,原告主張に係る報
告書(甲22)における実験も,上記(3)イで説示するところと同様に,比較試験を
行うものではなく,本件立証事項を裏付けるものとして適切ではない。したがって,
原告の主張は,その裏付けを欠くというほかなく,採用することができない。
(5) まとめ
上記によれば,本願明細書は当業者が本願発明の実施をすることができる程度に
明確かつ十分に記載したものではないとした審決の判断に誤りはなく,原告の主張
する取消事由3(特許法36条4項1号〔実施可能要件〕に関する判断の誤り)は
理由がない。
第5 結論
以上によれば,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとして,
主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部


裁判長裁判官 設 樂 一


裁判官 中 島 基 至


裁判官 岡 田 慎 吾

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