平成26(ワ)23364等損害賠償請求事件
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裁判所 |
一部認容 東京地方裁判所
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裁判年月日 |
平成28年11月24日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告(反訴原告)株式会社ブリッツ 原告(反訴被告)株式会社日本電機サービス
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法令 |
不正競争
不正競争防止法2条1項15号3回 民法415条1回 民法90条1回
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キーワード |
損害賠償13回 無効1回
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主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 原告は,被告に対し,4450万7614円及びこれに対する平成26年10月30日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 被告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,本訴反訴を通じてこれを5分し,その2を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。 |
事件の概要 |
本件本訴は,被告との間で機器の継続的売買契約を締結していた原告が,被
告に対し,①被告には契約で定められた金額で原告に機器を販売する義務及
び所定の期間内に機器を提供する義務の違反があると主張して,債務不履行
(民法415条)に基づき損害賠償金7624万円及びこれに対する訴状送
達の日の翌日である平成26年9月18日から支払済みまで商事法定利率年
6分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,②被告は原告の取引
先に対して虚偽の事実を告知し,原告の営業を妨害する不正競争(不正競争
防止法2条1項15号)を行ったと主張して,民法709条に基づき損害賠
償金1350万円及びこれに対する不法行為の後の日である同日から支払済
みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 |
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判決文
平成28年11月24日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
損害賠償請求事件
平成26 損害賠償請求反訴事件
口頭弁論終結日 平成28年9月13日
判 決
原 告(反訴被告) 株式会社日本電機サービス
(以下「原告」という。)
同訴訟代理人弁護士 深 井 俊 至
同 磯 田 直 也
被 告(反訴原告) 株 式 会 社 ブ リ ッ ツ
(以下「被告」という。)
同訴訟代理人弁護士 金 井 暁
同 高 野 哲 也
同訴訟復代理人弁護士 古 川 俊 哉
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 原告は,被告に対し,4450万7614円及びこれに
対する平成26年10月30日から支払済みまで年6分の
割合による金員を支払え。
3 被告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,本訴反訴を通じてこれを5分し,その2を
原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 本訴請求
被告は,原告に対し,8 974万円及びうち7624万円に対する平成2
6年9月18日から支払済みまで年6分の,1350万円に対する同日から
支払済みまで年5分の各割合による金員を支払え。
2 反訴請求
原告は,被告に対し,2億4368万0412円及びこれに対する平成26
年10月30日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件本訴は,被告との間で機器の継続的売買契約を締結していた原告が,被
告に対し,①被告には契約で定められた金額で原告に機器を販売 する義務及
び所定の期間内に機器を提供する義務の違反があると主張して,債務不履行
(民法415条)に基づき損害賠償金7624万円及びこれに対する訴状送
達の日の翌日である平成26年9月18日から支払済みまで 商事法定利率年
6分の割合による遅延損害金 の支払を求めるとともに,②被告は原告の取引
先に対して虚偽の事実を告知し,原告の営業を妨害する不正競争(不正競争
防止法2条1項15号)を行ったと主張して,民法709条に基づき損害賠
償金1350万円及びこれに対する不法行為の後の日である同日から支払済
みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払 を求める事案である。
本件反訴は,被告が原告に対し,原告が上記契約の定めに反して被告の機器
と競合する商品を販売したと主張して,債務不履行 (民法415条)に基づ
き損害賠償金2億4368万0412円及びこれに対する反訴状送達の日の
翌日である平成26年10月30日から支払済みまで商事法定利率年6分の
割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全
趣旨により容易に認められる事実)
当事者
原告は,音響映像機器,情報通信機器及び自動車用品の販売及び点検修理
等を目的とする株式会社である。
被告は,自動車用部品の規格開発販売業務等を目的とする株式会社である。
被告の機器
ア 自動車に搭載されている自動車メーカー純正のテレビ付きカーナビゲー
ション機器(以下「純正機器」という。)は,走行中にテレビを映したり,
ナビゲーションの設定操作をしたりすることができないように設計されて
いるため,純正機器に接続して自動車に搭載し,自動車走行中における純
正機器の機能制限を解除する機器(以下「解除機器」という。)が製造販
売されている。解除機器は,純正機器が搭載される自動車の車種ごとに,
これに適合する機種が開発され,商品設定がされる。
イ 解除機器はいわゆるサードパーティーと呼ばれる複数の業者が製造販売
しているが,被告はこのうちの1社であり,「TVジャンパー」及び「T
Vナビジャンパー」という商品名の解除機器(以下,これらを「被告商品」
と総称する。)を製造販売している。被告以外の製造業者として,株式会
社ビートソニック(以下「ビートソニック社」という。),株式会社デー
タシステム(以下「データシステム社」という。)等がある。
ウ 原告は,解除機器をカーディーラー,車用品専門店等に販売する業者で
ある。
原告と被告との間の解除機器の売買契約
ア 原告と被告は,平成21年5月26日,被告が原告に対して継続的に
被告商品を販売する旨の 売買契約(以下「本件契約」という。 )を締結
した。この契約は,平成19年10月1日に締結された商品売買基本契
約及び覚書の内容を修正又は変更したものであった。(甲1~3)
イ 本件契約には,以下の条項が設けられていた(ただし,以下の条項にお
ける「甲」を被告と,「乙」を原告と置き換えた。また,以下,本件契約
第4条本文を「本件競合避止条項」と,同条ただし書を「本件ただし書」
という。なお,5条に規定する「別紙見積価格」は存在しない。)。
「第4条(競合品販売について)
原告は取引開始後,被告の製品TVジャンパー商品と競合する製品
は扱わない。但し被告の製品TVジャンパー商品に商品設定が無い機
種はその限りではない。
第5条(納入価格)
被告が原告に納入するTVジャンパー商品は別紙見積価格とする。
新規設定車種についてはビートソニック製品の設定が有る場合は基
本的に3,880円とする。但し製品の仕様や材料コストの急激な上
昇等,被告が別紙見積価格での納入が不可能になった場合には両者協
議の上価格を決定する。
また被告は生産数やコスト見直しにより上記納入価格より安くする
努力をする。」
ウ 本件契約では,上記条項のほか,原告と被告の間で個別に合意した販売
先に関しては原告の専売とし,被告からの納入はしないこと(3条),被
告の商品開発力(適合車種)が競合他社と比べて著しく劣った場合又は被
告商品の発売時期が競合他社と比べて著しく劣った場合には,無催告で本
件契約を解除することができること(9条④)が定められていた。また,
本件契約の有効期間は,契約締結の日から5年間であるが,期間満了の1
か月前までに書面による解約の申入れがない限り,3年ごとに更新するも
のとされていた(11条)。(甲3)
エ 被告は,平成19年11月から平成26年5月まで,原告に対して被告
商品を販売した。その売上高は別紙1のとおりであり,平成24年8月頃
から徐々に下落した。
原告による被告商品以外の解除機器の製造販売
原告は,本件契約の存続期間中である平成24年8月頃から,「TVコン
トロール」及び「TVナビコントロール」という商品名の解除機器(以下,
これらを「原告商品」と総称する。)を製造し,販売するようになった。
原告による更新拒絶及び被告による解除
原告は,平成26年3月4日に到達した書面により,被告に対し,本件契
約を更新しない旨通知した。
被告は,同年5月9日に到達した書面により,原告に対し,原告の契約違
反を理由として本件契約を解除する旨の意思表示をした。(乙10の1及び
2)
2 争点
本件契約上の義務違反による被告の損害賠償責任(本訴)
ア 納入価格に関する義務違反の有無
イ 解除機器の提供期間に関する義務違反の有無
営業誹謗行為(不正競争防止法2条1項15号)による被告の損害賠償
責任(本訴)
被告商品と「競合する製品」(以下「競合製品」という。)を取り扱わ
ない義務(以下「競合避止義務」という。)の違反による原告の損害賠償
責任(反訴)
ア 原告による競合避止義務違反の有無
イ 被告の損害額
3 争点に対する当事者の主張
本件契約上の義務違反による被告の損害賠償責任(本訴)
ア 納入価格に関する義務違反の有無
(原告の主張)
本件契約5条第2文の規定により,新規設定車種にビートソニック製品
の設定がある場合,被告は当該車種についての被告商品の納入価格を基本
的に3880円として原告に販売する義務を負う。その例外は製品の仕様
や材料コストの急激な上昇等があった場合に限られるが(同文ただし書),
本件契約の締結以降そのような事実は発生していない。それにもかかわら
ず,被告は3880円を大幅に超える納入価格で被告商品を原告に販売し
た。また,被告は1回の最低購入数を一方的に定め,当該個数で購入しな
ければ被告商品を供給しないという不当な購入条件を付けることもした。
被告は,不当な納入価格や購入条件に関する原告の再三の異議にも応じな
かった。原告は,本件契約により他社の解除機器を取り扱うことができな
いため,被告から被告商品を購入せざるを得なかったのであり,原告と被
告の間の協議により納入価格が合意されたとはいえない。その結果,原告
は,上記3880円と実際の納入価格の差額に相当する額として,平成2
1年5月26日から平成26年5月25日までの5年間で少なくとも66
00万円の損害を受けた。
(被告の主張)
本件契約では,新規設定車種につきビートソニック製品の設定がある場
合には「基本的に」その納入価格を3880円とする旨が定められている
のであり,当該金額が確定的に合意されていたわけではなく,被告は1個
当たり3880円で被告商品を販売する義務を負っていない。
被告が原告に対して当該価格を上回る価格で販売を行ったこともあるが,
その場合の納入価格は,原告と被告の間の協議を経て合意により決定され
たものである。また,開発に特別の費用を要した場合には費用の回収に見
合うだけの数量の購入を原告に依頼したこともあるが,これも原告との協
議を経て合意したものである。
イ 解除機器の提供期間に関する義務違反の有無
(原告の主張)
被告は,本件契約に基づき,又は本件契約の付随義務として,新車種が
発売された後7日又は遅くとも10日以内(以下,単に「7日以内」とい
う。)に(なお,予備的に「相当の期間内に」と主張する。),当該新車
種に適合した商品設定をし,当該商品設定をした被告商品を原告に提供す
る義務を負う。競合各社の商品は新車種が発売された後7日以内に商品設
定がされて販売されるのであり,原告が競合避止義務に同意し,従前原告
が取り扱っていたビートソニック社やデータシステム社等の製品から被告
商品に乗り換えることにしたのも,新車種が発売された後7日以内に被告
が当該車種に適合した被告商品を原告に提供することが前提である。
それにもかかわらず,被告は当該期間内に新車種に適合した商品設定を
せず,そのような被告商品を原告に提供しなかった。その結果,原告は,
顧客をつなぎとめるために,新車種への対応を終えている競合商品を高値
で仕入れて販売することを余儀なくされ,仕入れた競合他社商品と被告商
品との差額として少なくとも1024万円の損害を受けた。
(被告の主張)
新車種が発売された後7日以内に当該新車種に適合する被告商品を原告
に販売するという義務については,何らの法令上又は契約上の根拠も存在
しない。新車種の発売から解除機器の販売までには2か月から3か月程度
を要するのが通常であり,商取引の実態に照らしても,新車種が発売され
た後7日以内に当該新車種に適合した被告商品を販売する義務が存在しな
いことは明らかである。
営業誹謗行為による被告の損害賠償責任(本訴)
(原告の主張)
原告と被告は競争関係にあるところ,被告は,被告商品に関し,原告が
本件契約に違反している事実又は原告が被告に違法行為をしている事実が
ないにもかかわらず,故意又は過失により,平成26年5月又は6月頃,
原告の顧客に対し,原告が被告との間の契約に違反している旨又は原告が
被告に対して違法行為をしている旨発言した。これにより,原告は,原告
の顧客から,同月以降に納入する予定であった原告商品の納入を拒絶され
た。被告の行為は,不正競争防止法2条1項15号に規定する虚偽の事実
の告知に該当する。
被告の上記行為により,原告は,同月から8月までの間に,少なくとも
1350万円(1か月当たりの顧客への納入予定個数1800個×原告商
品1台当たりの利益額2500円×3か月分の合計額)の損害を受けた。
(被告の主張)
被告の従業員が原告の顧客に対し,原告による競合避止義務違反を理由
として被告が本件契約を解除した旨の話をしたことはある。しかし,被告
が上記理由により本件契約を解除したことは事実であり,被告が虚偽の事
実を述べたということはない。
競合避止義務の違反による原告の損害賠償責任(反訴)
ア 原告による競合避止義務違反の有無
(被告の主張)
原告は,本件競合避止条項に基づく競合避止義務を負っているにもか
かわらず,遅くとも平成24年8月頃から,被告商品と競合する原告商
品をカーディーラー等に対して販売した。
本件競合避止条項における競合製品とは,被告商品の販売数量を下落
させる影響を与える一切の解除機器を意味する。原告商品は,被告商品
と同様に,自動車に設置することにより,自動車の走行中であっても車
内に設置されたテレビを視聴できるようにするための自動車用部品(解
除機器)であり,被告商品と競合することは明らかである。
本件ただし書には,被告商品に「商品設定がない機種」については原
告が競合避止義務を負わない旨が定められているが,被告が一定時点に
おいて新車種に適合する被告商品の販売を開始していない場合であって
も,被告が合理的期間内に当該車種に適合する被告商品の開発を予定し
ている場合などは,原告が競合避止義務を負わない場合には該当しない。
被告が新車種に対応する被告商品の開発を予定していないことを明示的
に表明しない限り,原告は競合避止義務を免除されず,競合製品を販売
することは許されない。
原告は,被告が原告による原告商品の販売を許容したなどと主張する
が,そのような事実は一切ない。被告が原告に対し,原告が本件契約に
基づいて被告から購入した被告商品の付属品として目隠しパネル(スイ
ッチを自動車の操作パネルにはめ込んで取り付けるタイプの解除機器の
部品)を製造して顧客に販売することを許容したことはあるが,被告が
許容したのはあくまでも目隠しパネル自体又は目隠しパネルを付加した
被告商品の販売である。
(原告の主張)
原告商品が被告商品と「競合する」とは,原告商品がある顧客に販売
されていなかったと仮定した場合に,その顧客が被告商品を購入したで
あろうという関係が認められる場合である。原告商品と被告商品は,ス
イッチのタイプ(自動車の操作パネルにはめ込んで取り付ける「純正パ
ネル(目隠しパネル)」タイプのものか,スイッチを両面テープで貼付
するものか)及び作動方法(助手席のシートベルトが装着されていない
場合にスイッチが入らないか否か)や,自動車のエンジンを切った場合
のリセットの有無等の仕様が異なり,その仕様の相違により需要が異な
るため,そもそも競合関係が認められない。
対象車種につき競合製品の取扱いが開始された時点において,被告商
品に当該車種についての商品設定がない場合には,原告が被告以外の解
除機器を継続的に販売することが許容されるから,本件ただし書が適用
され,原告は競合避止義務を負わない。
本件契約において,原告が競合避止義務を負うことに合意し,従前原
告が取り扱っていたビートソニック社やデータシステム社が販売する解
除機器から被告商品に乗り換えることとしたのは,被告商品の性能及び
価格が競合製品に比べて十分に競争力を有すること並びに新車種が発売
された後7日以内に被告が当該新車種に適合した商品設定をし,原告に
提供することが前提である。
被告商品は競争力を欠き,提供期間の遅れも常態化していたから,本
件競合避止条項を有効ならしめる前提は満たされておらず,被告が原告
に対して競合避止義務違反を主張することは信義則違反又は権利濫用と
して認められず,本件競合避止条項は民法90条違反として無効である。
また,このような場合には,被告商品の商品設定がないと解するか,原
告が原告商品を販売することについて責めに帰すべき事由がないと解す
べきであるし,少なくとも過失相殺が認められるべきである。
原告は,平成23年3月,被告に対し,純正パネルタイプの解除機器
を原告において製造する予定であることを告げ,その後も数回にわたり,
原告商品の製造及び販売の事実を告げている。この点は,平成25年1
1月に被告から原告に送付されたメール(甲6)により裏付けられる。
被告は原告が原告商品を販売している事実を認識し,これを許容又は黙
認していたのであるから原告による原告商品の販売行為は,競合避止義
務違反を構成しない。
イ 被告の損害額
(被告の主張)
81円,予備
逸失利益
a 被告は平成24年2月に原告の希望を受けて小型化した被告商品の
納品を開始しており,被告商品の売上げ(原告に対する売上げを指す。
以下同じ。)は以後も大幅に増加することが十分に見込める状況であ
った。同年1月から7月までの被告商品の売上げに照らせば,同年8
月から12月までの各月の被告商品の売上高は前年同月比の191.
0%(平成24年1月から7月までの被告商品の売上高の前年同月比
の平均)であり,平成25年1月から平成26年5月25日までの期
間における各月の被告商品の売上高は前年同月比の180.4%(平
成24年1月から12月までの各月の売上高の前年同月比の平均)と
なることが見込まれた。したがって,平成24年8月から平成26年
5月25日までの間の被告商品の予想売上高は6億1074万384
2円となる。
被告商品の売上高における利益率は,平成24年8月から12月ま
での間は43.9%,平成25年1月から平成26年5月25日まで
の間は43.8%である。
以上を前提とすると,平成24年8月から平成26年5月25日
までの間の予想利益額は2億6760万0224円となり,当該期間
に実際に被告から原告に販売された被告商品に係る限界利益4935
万5907円及び上記予想売上高と実際の売上高の差額に係る輸送費
189万2692円の合計5124万8599円を控除した2億16
35万1625円(反訴状において2億2177万1556円と主張
していたものは改める。)が被告の逸失利益となる。
b 仮に,上記aによる予想売上高が認められないとしても,平成24
年2月に小型化した被告商品の販売を開始したことにより,従前を大
幅に上回る売上げが実現されていたことからすれば,同年8月以降の
各月も,少なくとも直前6か月である同年2月から7月までの1か月
当たりの平均売上高(1249万9700円)と同程度の売上げがあ
ったことは疑いがなく,同年8月から平成26年5月25日までの間
の予想売上高は,合計2億7256万8458円であったといえる。
平成24年2月から7月までの期間の被告商品の売上高における利
益率は,44.3%である。
以上を前提とすると,同年8月から平成26年5月25日までの間
の予想利益額は1億2074万7827円であり,上記aと同様に限
界利益4935万5907円及び輸送費60万7626円の合計49
96万3533円を控除した7078万4294円が被告の逸失利益
となる。
c 被告商品の売上高の下落は原告商品の販売に起因するものであり,
原告による競合避止義務違反と被告の損害との間には相当因果関係が
ある。なお,本件契約は平成26年5月9日をもって解除されている
が,原告の義務違反がなければ,被告は契約期間満了日まで従前どお
り売上げを得ることができた以上,契約期間満了日である同月25日
までの逸失利益が相当因果関係の範囲内にある損害である。また,在
庫数量に関する原告の後記主張は誤りであり,同年1月以降の予想売
上数量をゼロとすることは実態に反している。
その他の損害
被告が,原告の競合避止義務違反の事実関係を確認するために購入し
た原告商品の合計額は89万5268円である。また,原告の競合避止
義務違反の結果,販売されずに在庫として被告の下に存在する被告商品
の合計金額は2101万3588円であり,これは原告の競合避止義務
違反により生じたものである。
(原告の主張)
逸失利益
a 被告商品の売上数量は,平成22年頃に頭打ちとなっていた。平成
24年1月から7月までの被告商品の平均売上数量が対前年の同月比
で増加したのは新車販売台数の増加があったためである。平成24年
から平成26年にかけて新車販売台数は横ばいに推移しているから,
同期間において被告商品の売上数量が増加したであろうとは認められ
ない。
商品の需要は景気動向その他の様々な要因に左右されるから,わず
か数か月間の売上数量をもって平成24年8月から平成26年5月ま
での売上数量を予測することは適切ではない。被告商品の売上数量が
頭打ちとなった平成22年1月から平成24年7月までの間の予想平
均売上数量に基づき売上数量を勘案するのが適当である。
なお,原告は,平成24年3月から5月までの間に,小型化商品を
4000個購入している。これは,小型化商品の開発に伴う初期導入
として,実際の需要にかかわらず引き取らざるを得なかったものであ
り,将来の需要に相当する量を前倒しで購入したものであるから,当
該期間の売上げに当該4000個分を含めることは相当でない。
以上を前提とすると,被告商品の1か月当たりの予想平均売上数量
は,1893個であると認めるのが相当である。
b 利益率については裏付けがないため,30%の限度で認める。なお,
被告が利益率を立証するために提出する報告書(乙23)は,公認会
計士が作成した書面であるが,記載内容の誤りが看過されており,信
用性がない。また,被告が提出している原単価及び輸送費に関する証
拠(乙23,41~48,59~61。枝番を含む。)は,被告が損
害賠償を請求する期間と対応するものではない。
原告は,本件契約を更新しないことを決めており,平成26年5月
25日に本件契約が終了することを前提としていた。そして,原告は,
通常在庫として被告商品を5か月分程度保有していたから,同年1月
から契約終了までの5か月間は,被告商品を購入する必要がなかった。
したがって,同期間における被告商品の予想売上数量はゼロとすべき
である。
以上を前提とすると,平成24年8月から平成26年5月25日ま
での間の被告商品の売上数量は3万2181個(1893個×17か
月)であり,当該個数から同期間における実購入数量2万5618個
を控除した6563個が被告商品の売上数量の減少分である。
c 因果関係は争う。売上数量の減少は,適合確認の遅れや顧客の需要
に応じた仕様にしていないことなど,被告による不適切な対応を原因
とするものである。
その他の損害
争う。
第3 当裁判所の判断
1 ア(納入価格に関する義務違反の有無)について
原告は,被告にはビートソニック社の製品に商品設定がある車種について
の被告商品の価格を3880円とする義務があるにもかかわらず,当該価格
を上回る価格で被告商品を販売した義務違反があると主張する。
そこで判断するに,前記 のとおり,本件契約5条は「新
規設定車種についてはビートソニック製品の設定が有る場合は基本的に3,
880円とする」と定めており,価格について「基本的に」との文言が付さ
れていること,ただし書として製品の仕様や材料コストの急激な上昇等によ
り納入が不可能になった場合には両者協議の上価格を決定する旨の定めが設
けられていることからすれば,上記3880円とは被告商品のうち標準的な
仕様のものについて基準となる価格を定めているにとどまり,個々の商品ご
とに価格の変動があることを予定しているとみるのが相当である。
そして,証拠(乙3の4,13,23,24の1及び2)及び弁論の全趣
旨によれば,被告が原告に販売した被告商品には100を超える機種がある
が,販売個数が多いものなど相当数の機種の価格は3880円と設定されて
いたこと,これと異なる価格で販売するに当たっては,被告が原告に対して
価格の見積りを提示し,原告がこれを検討の上回答するなど,納入価格につ
いて協議が行われていたことが認められるから,ビートソニック社の製品に
商品設定がある車種についての被告商品の具体的な販売価格は原告と被告と
の合意の下に決定されていたと認めるのが相当である。
したがって,被告商品の納入価格について被告に本件契約上の義務違反が
あるということはできない。
これに対し,原告は,再三異議を述べたにもかかわらず,被告がこれを聞
き入れなかった上,被告商品の販売個数についても被告から不当な販売条件
を付された旨主張するが,これを裏付けるに足りる証拠はない。原告が代金
額について不満を抱いていたことが事実であるにせよ,代金の支払を行って
取引を継続していた以上は当該代金額について合意をしていたものとみるほ
かなく,原告の主張は採用することができない。
2 解除機器の提供期間に関する義務違反の有無)について
原告は,被告には,本件契約上の義務又は少なくとも付随義務として,
新車種の発売から7日ないし10日以内に(予備的に,相当期間内に)適
合商品を提供する義務があると主張している。
そこで判断するに,まず,本件契約の契約書(甲3)には,解除機器の
提供期間に関する条項は何ら設けられておらず,本件契約 の締結に際し,
原告と被告が新車種の発売から適合商品を提供するまでの期間について合
意をしたことをうかがわせる客観的証拠は存在しない。
また,証拠(証人A,同B)及び弁論の全趣旨によれば,被告を含む解除機
器の製造メーカーは,新車種の発売後に,当該車種に搭載されている純正機
器に適合する解除機器を開発すること,解除機器の新車種への適合確認は,
新車種に搭載される純正機器と既存の解除機器のコネクタが適合するか,コ
ネクタで接続をした場合に正常に作動するか等を確認する方法により行われ
ること,コネクタが適合しない場合や,これが適合しても機種本体が作動し
ない場合には,適合確認を終えるまでに数か月を要すること,以上の事実が
認められる一方,最大手であるデータシステム社を除き,新車種の発売後速
やかに適合商品の開発を終えていると認めるに足りる証拠はない。
以上によれば,被告が本件契約上の義務又は付随義務として解除機器の提
供期間に係る義務を負っていたと認めることはできない。
これに対し,原告は,解除機器の製造メーカーは新車種の発売から7日な
いし10日以内に適合商品を提供することが通常であるため,当該期間内に
適合商品を提供することは本件契約の当然の前提であった旨主張するが,上
記のような提供期間が通常であると認めるべき証拠はない。商品の提供期間
が本件契約の重要な要素となるというのであれば,この点につき被告と協議
してその合意内容を契約書に記載すべきものであって,この点に関する原告
の主張は失当というほかない。
3 営業誹謗行為による被告の損害賠償責任)について
原告は,平成26年5月又は6月頃,被告が原告の顧客に対し,原告が本件
契約に違反し,又は原告が違法行為をし ているとの発言をしたと主張するが,
発言の時期,場所,主体及び相手方,発言内容について 主張の具体性を欠く
上,そのような発言がされたことを認めるに足りる証拠はない。
この点をおくとしても,原告に競合避止義務違反
いて後に判示するとおりであって,被告従業員による上記 のような発言があ
ったとしても,これをもって虚偽の事実の告知ということはできない。
したがって,不正競争防止法に基づく原告の請求は理由がない。
4 ア(原告による競合避止義務違反の有無)について
本件競合避止条項により原告は被告商品と「競合する製品」を取り扱わな
い義務を負うところ(前記前提 となる
告商品と同様の解除機器であるから競合製品に当たる と主張するのに対し,
原告は,原告商品と被告商品はスイッチ等の仕様 が異なるため競合製品に
当たらないし,仮に当たるとしても本件ただし書が適用され,原告は債務
不履行責任を負わない旨主張するので,以下,検討する。
まず,本件競合避止条項にいう競合製品の意義についてみるに, 解除機
器はその使用目的に照らし自動車1台につき1個購入されるものであり,
解除機器の購入者は各種ある解除機器の中から自らの望む仕様や価格等を
総合考慮して購入する商品を選択するものと解される。そうすると,解除
機器の市場においては,仕様の差異にかかわらず, すべての解除機器が競
合しているものといえる。
また,本件契約が原告と被告が合意した販売先への被告商品の販売を原告
に独占させる内容のものであること(前記前提となる からすると,
本件契約は原告が被告商品以外の解除機器を販売することにより被告商品の
売上げを減少させないことを目的としているというべきである。そして,原
告が主張するようにスイッチ等の仕様が異なれば原告が他の解除機器を販売
し得るものとすれば,原告は容易に競合避止義務を免れることとなり,上記
目的を達成できなくなることは明らかである。
このような事情に照らせば,本件競合避止条項は,被告商品に商品設定が
ない車種についての例外(本件ただし書)を除き,原告が取り扱うことがで
きる解除機器は被告商品のみであることを定めたものであり,同条項に定め
る「競合する製品」とは,自動車走行中にテレビの視聴等を可能にする一切
の解除機器を指すものと解するのが相当である。
次に,本件ただし書の適用の有無についてみるに,本件ただし書は「(被
告商品に)商品設定が無い機種」について競合避止義務を免除するものであ
り,商品設定がされる時期については触れていない。そして,原告が競合避
止義務を負っているか否かは契約当事者双方にとって一義的に明確である必
要があること,被告及び競合他社がいつ適合商品の取扱いを開始するかは機
競合
避止義務の有無を区別することは相当でない。そうすると,「被告商品に商
品設定が無い場合」とは,対象となる車種について被告商品の設定がされな
いことが確定している場合であると解するのが相当である。このように解し
ても,原告にとっては,商品設定の有無や予定を被告に問い合わせることに
より,競合避止義務を負うか否かを確認することは容易であるし,被告の商
品設定が遅れているような場合には,個別の車種について競合避止義務を免
除するよう交渉したり,必要に応じて本件契約9条④に基づく解除を検討し
たりすることが可能なのであるから,不都合はないというべきである。
原告が本件契約の存続期間中に原告商品を販売したこと,原告商品が自動
車走行中にテレビの視聴等を可能にする解除機器に当たることは前記前提
となる 条
項に違反するものであり,原告はこれにより被告が被った損害を賠償すべ
きものである。なお,原告商品の一部についてはこれに対応する被告商品
の設定がないことがうかがわれ(乙6),これについては本件ただし書の
適用があると考えられるが,この点はそれ以外の原告商品について原告が
債務不履行責任を負うことに影響するものではない。
これに対し,原告は,被告は 競合他社の製品と比べて 価格や性能におい
て競争力のある商品を提供 せず,新車種の発売後7日以内 に適合商品を提
供しなかったのであるから,①被告による反訴請求は信義則に反し,権利
の濫用に当たり,又は本件競合避止条項は公序良俗に違反する,②原告に
競合避止義務違反があるとしても帰責事由がなく,少なくとも過失相殺が
認められる旨主張する。
そこで判断するに,まず,被告商品が他社の解除機器に比し価格又は性能
面で劣ることをうかがわせる証拠はない。なお,被告商品にはいわゆる純正
パネル対応のものがないなど,仕様のバリエーションが少ないといえるとし
ても,原告は,本件契約に先立つ平成19年頃から被告商品を取り扱ってい
たのであり(前記前提となる ),被告商品にどのような仕様のものが
あるかについて十分に認識をした上で本件契約を締結したものと解される。
また,被告商品の提供期間については 判示したとおりであ
り,原告の主張を採用することはできない。
むしろ,証拠(甲63,乙3の1~6,乙4~6,18,24の2)及び
弁論の全趣旨によれば,原告商品には被告商品と同じ仕様のものしか存在し
ない型番があり,被告商品のパッケージ等を原告のものに付け替えただけの
ものもあること,原告は,被告が適合確認に長期間を要している車種だけで
はなく,既に適合確認を終えている車種についても,これに適合する原告商
品の製造販売をしていること,原告と被告は本件契約の存続期間中少なくと
も数か月置きに打合せを行っているが,原告は平成24年8月頃に原告商品
の販売を開始しながらその旨を被告に伝えず,被告商品の販売実績の低下に
は別の原因があり,対策が必要であるなどと述べていたことが認められる。
これらの事実関係からすれば,原告が競合避止義務に違反して原告商品の取
扱いをしたのは,原告が主張するような事情によりやむを得ず行ったもので
はなく,原告が自らの利益を図るためであったと推認することができる。し
たがって,原告の上記主張はすべて失当というべきである。
原告は,また,被告が原告による純正パネルタイプの原告商品の製造販
売を許容又は黙認していた 旨主張するが,そのような事実を認めるに足り
る証拠はない。なお,原告は,被告の従業員が平成25年11月に 原告に
送付したメール(甲6)を根拠として,被告には原告による 純正パネルタ
イプの原告商品の製造販売についての認識があった旨主張するが,当該メ
ールで上記従業員が言及しているのはメクラ蓋対応のスイッチプレート
(純正パネルタイプの解除機器に使 用されるスイッチプレート)について
のみであり(甲6),これをもって,被告が原告による純正パネルタイプ
の原告商品の製造販売を認識し,これを認容していたと認めることはでき
ない。
5 争点 (被告の損害額)について
逸失利益
ア 損害の発生及び因果関係
被告商品の原告に対する売上高が別紙1のとおりであることは,当事者
間に争いがなく,被告商品の売上高は,平成24年8月頃から徐々に減少
し,平成25年及び平成26年には大幅に減少したことが認められる。
原告が原告商品を販売するようになったのは平成24年8月頃であるこ
と,同月以降は原告の販路において原告商品(被告商品に商品設定がない
車種のものを除く。)と被告商品が競合していたこと,解除機器はその性
質上テレビ等を搭載した自動車1台につき1個販売されることからすれば,
上記原告商品の販売により,被告商品の売上げが減少したと推認される。
また,本件の関係各証拠上,原告商品の販売以外に被告商品の売上げが減
少する原因があったことはうかがわれない。そうすると,同月以降におけ
る被告商品の売上高の減少は,原告の競合避止義務違反によるものである
というべきである。
そして,原告による競合避止義務違反がなかった場合には,本件契約は
少なくとも有効期間の満了日である平成26年5月25日まで継続してい
たと認められるから,被告は,原告に対し,原告の競合避止義務違反と相
当因果関係のある損害として,平成24年8月から平成26年5月25日
までの間に競合避止義務違反行為がなかったとした場合に想定される売上
高(後記イ)と同期間の実際の売上高(同ウ)との差額に,被告の利益率
(同エ)を乗じた額の支払を求めることができると解するのが相当である。
イ 想定売上高
被告は,主位的に,原告による義務違反がなかった場合には,平成2
4年8月から12月までの被告商品の売上高は前年同月比の191.
0%であり,平成25年1月から平成26年5月25日まで被告商品の
売上高は,前年同月比の180.4%であったと主張する。
しかし,原告による義務違反がなかった場合に被告の各月の売上高が
上記割合で増加し続けていたと認めるに足りる証拠はないというほかな
く,被告の上記主張を採用することはできない。
被告は,予備的に,平成24年8月の直前6か月における1か月当た
りの平均売上高を逸失利益の算定根拠とすべきである旨主張するが,証
拠(甲63,乙18,24の2)及び弁論の全趣旨によれば,月ごとの
被告商品の売上高には大きな変動があると認められる。そうすると,売
上高を推計するに当たっては,6か月間ではなく直前1年間(平成23
年8月~平成24年7月)における1か月当たりの平均売上高をもって
逸失利益の算定の基礎とするのが相当である。
もっとも,証拠(甲63,乙18,24の1及び2,25)及び弁論
の全趣旨によれば,平成24年3月から5月までの売上高には,小型化
商品4000個の売上げも含まれていること,小型化商品の発注は当初
2000個の予定であったが,製造コストが増加したため,価格を増額
するか発注数量を4000個にするかを被告が原告に提案し,原告が4
000個を発注したことが認められ,小型化商品のうち2000個分の
売上げは同期間における実際の需要に基づくものではないものと解され
る。そうすると,小型化商品4000個の代金額1871万円(甲63)
の半額に相当する935万5000円は同期間の売上高から控除すべき
ものである。
以上によれば,平成23年8月から平成24年7月までの期間におけ
る1か月当たりの平均売上高は,別紙2の表1記載のとおり,1026
万9468円となり,平成24年8月から平成26年5月25日までの
被告商品の想定売上高は,同表2記載のとおり,合計2億2394万0
657円となる。
以上に対し,原告は,平成22年頃までには被告商品の売上げは頭打
ちとなっていたとして,同年1月から平成24年7月までの期間の被告
商品の平均売上げを算定根拠とすべきであると主張するが,新車種に適
合するよう被告商品が順次開発されていく 中で被告商
品の売上げが頭打ちになっていたと認めるに足りる証拠はなく,実際に
も平成22年に比しそれ以降の売上げは上昇しているのであるから,原
告の上記主張は採用できない。
原告は,また,通常在庫を5か月分保有しているから,本件契約を更
新しないことを決めた平成26年1月以降は被告商品を購入する必要が
なく,同年1月から5月までの予想売上高はゼロである旨主張する。し
かし,被告商品には車種に合わせて多数の機種があり,多様な顧客の需
要に適時適切に対応するためには当該期間においても従前どおり被告商
品を購入する必要があったと解され,現に原告は少ないながらも被告商
品の購入を続けていること(別紙1参照)からすれば,原告の上記主張
は失当というべきである。
ウ 被告商品の実際の売上高
平成24年8月から平成26年5月25日までの間における被告商品の
売上高は,以下のとおりである(別紙1参照)。
平成24年(8月~12月) 4281万8830円
平成25年(1月~12月) 6541万4690円
平成26年(1月~5月25日) 443万8100円
エ 利益率
証拠(乙23,41~48,59~61。なお,枝番の記載は省略す
る。以下同じ。)及び弁論の全趣旨によれば,被告商品の限界利益は,
売上高から製造原価,被告商品の組立てを行う外注先にステッカー,箱
等を輸送するための輸送費(以下「外注輸送費」という。)及び被告商
品を原告宛てに配送するための輸送費(以下「原告輸送費」という。)
を控除した額であること,別紙1に記載の各月の粗利額は発注書等に記
載された部品の単価等により算出されたものであること,運賃明細書,
配送伝票及び請求明細書によれば,外注輸送費は売上高の約0.04%,
原告輸送費は売上高の約0.34%であり,各月分のこれら輸送費の合
計額は別紙1の「送料」欄記載の額を上回るものではないことが認めら
れる。
そして,このようにして算定された各年の限界利益率が,別紙1のと
おり,37.8%~43.8%の範囲内にあることからすれば,平成2
4年8月から平成26年5月25日までの逸失利益の算定に当たっては,
利益率を40%と認めるのが相当である。
これに対し,原告は,被告作成の月別売上推移表(乙58)に記載さ
れた粗利益の額の算出過程に関して提出された公認会計士作成の報告書
(乙23)は誤記が看過されており信用できないなどと主張するが,金
額の一部に上記発注書等との間に僅かな相違があるにすぎず,原告の指
摘を受けて被告が修正を加えたものが上記推移表であるから(弁論の全
趣旨),原告の上記主張は失当と解される。
オ 逸失利益の額
以上に基づき,平成24年8月から平成26年5月25日までの間の被
告の逸失利益を計算すると,別紙2の表2記載のとおり,その合計額は4
450万7614円となる。
その他の損害
被告は原告の競合避止義務違反の事実関係を確認するために購入した原告
商品の代金額を請求しているが,当該額については原告の義務違反と相当因
果関係のある損害と認めるに足りない。また,被告は在庫として被告の下に
存在する被告商品の代金相当額も請求するが,当該在庫は原告による義務違
反がなければ販売されていたはずのものであり,その代金相当額は上記
逸失利益の算定に当たり考慮されているから,これを別途請求することはで
きない。
小括
以上によれば,被告の反訴請求は,4450万7614円及びこれに対す
る反訴状送達の日の翌日である平成26年10月30日から支払済みまで商
事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
第4 結論
よって,原告の本訴請求をいずれも棄却し,被告の反訴請求を上記の限度
で認容することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長 谷 川 浩 二
裁判官 萩 原 孝 基
裁判官 林 雅 子
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