平成27(ワ)5578民事訴訟 商標権
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裁判所 |
請求棄却 大阪地方裁判所
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裁判年月日 |
平成28年12月15日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告有限会社オリエンタルアート 原告株式会社絨毯ギャラリー
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法令 |
商標権
商標法1条1回 商標法37条1号1回 商標法4条1項10号1回 民事訴訟法61条1回
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キーワード |
商標権40回 侵害21回 差止5回 許諾1回 損害賠償1回
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主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,後記商標権の商標権者である原告が,別紙被告標章目録記載1の標章を
付したじゅうたん等をイランから輸入販売し,同記載1ないし同3の各標章を被告
ウェブサイト目録記載の各ウェブサイト(以下,まとめて「被告ウェブサイト」と
いう。)の広告に掲載している被告に対し,商標権侵害を理由に下記の請求をした
事案である。 |
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判決文
平成28年12月15日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成27年(ワ)第5578号 商標権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成28年10月14日
判 決
原 告 株式会社絨毯ギャラリー
同訴訟代理人弁護士 美 根 晴 幸
被 告 有限会社オリエンタルアート
同訴訟代理人弁護士 西 脇 怜 史
同 宮 島 明 紀
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,別紙被告商品目録記載の商品又はその包装に,別紙被告標章目録記
載1ないし同3の各標章を付してはならない。
2 被告は,商品又はその包装に別紙被告標章目録記載1ないし同3の各標章を
付した別紙被告商品目録記載の商品を販売し,引き渡し又は販売若しくは引渡しの
ために展示してはならない。
3 被告は,別紙被告商品目録記載の商品に関する広告に,別紙被告標章目録記
載1ないし同3の各標章を付して展示し,頒布し又はこれを内容とする情報に同各
標章を付して電磁的方法により提供してはならない。
4 被告は,その占有に係る,商品又はその包装に別紙被告標章目録記載1ない
し同3の各標章を付した別紙被告商品目録記載の商品,及び別紙被告標章目録記載
1ないし同3の各標章を付した別紙被告商品目録記載の商品に関する広告を廃棄せ
よ。
5 被告は,その営業に関し,別紙被告ウェブサイト目録記載の各ウェブサイト
及び会社説明書に,別紙被告標章目録記載1ないし同3の各標章を使用してはなら
ない。
6 被告は,別紙被告ウェブサイト目録記載の各ウェブサイトから別紙被告標章
目録記載1ないし同3の各標章を削除せよ。
7 被告は,原告に対し,2904万円及びこれに対する平成27年6月23日
から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,後記商標権の商標権者である原告が,別紙被告標章目録記載1の標章を
付したじゅうたん等をイランから輸入販売し,同記載1ないし同3の各標章を被告
ウェブサイト目録記載の各ウェブサイト(以下,まとめて「被告ウェブサイト」と
いう。)の広告に掲載している被告に対し,商標権侵害を理由に下記の請求をした
事案である。
記
① 商標法37条1号,同法36条1項に基づく,別紙被告商品目録記載の商品
又はその包装に,別紙被告標章目録記載1ないし同3の各標章を付する行為の差止
請求
② 商標法37条1号,同法36条1項に基づく,商品又は包装に別紙被告標章
目録記載1ないし同3の各標章を付した商品を販売し,引き渡し又は販売若しくは
引渡しのために展示する行為の差止請求
③ 商標法37条1号,同法36条1項に基づく,別紙被告商品目録記載の商品
に関する広告に,別紙被告標章目録記載1ないし同3の各標章を付して展示し,頒
布し又はこれを内容とする情報に同各標章を付して電磁的方法により提供する行為
の差止請求
④ 商標法36条2項に基づく,商品又はその包装に別紙被告標章目録記載1な
いし同3の各標章を付した別紙被告商品目録記載の商品,及び同各標章を付した同
商品に関する広告の廃棄請求
⑤ 商標法37条1号,同法36条1項に基づく,被告ウェブサイト及び会社説
明書に,別紙被告標章目録記載1ないし3の各標章を付す行為の差止請求
⑥ 商標法36条2項に基づく,被告ウェブサイトからの別紙被告標章目録記載
1ないし同3の各標章の削除請求
⑦ 商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求及びこれに対する平成27年6
月23日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6%の割合による
遅延損害金請求
1 判断の基礎となる事実(当事者間に争いのない事実及び各項末尾記載の書証
により容易に認定できる事実。なお,枝番号のある書証については,特に記載しな
い限り,その全てを指すものとする。)
(1) 当事者
ア 原告は,ZOLLANVARI社(以下「ゾ社」という。)と日本における
じゅうたんの総代理店契約を締結し,ゾ社の製品であるじゅうたんを輸入し,これ
を原告商品として日本国内において卸売り,小売販売を行う株式会社である。原告
は,原告商品の販売につき,BDコーポレーション株式会社,株式会社すぎむらな
ど多数の国内の会社と販売代理店契約を締結している。
イ 被告は,主としてカーペット,家具用品,室内装飾品の輸入及び販売を行う
特例有限会社であり,主として被告ウェブサイトで商品を販売している。
ウ ゾ社は,イラン・イスラム共和国(以下「イラン」という。)のシラーズに
拠点を置き,ギャッベを始めとする南ペルシアの部族民による手織りじゅうたんを
世界各国に供給する協同組合である。ゾ社においては,P1がその代表者を務め,
P2がセールスマネージャーを務めて原告とゾ社との取引を担当している。なお,
その商標である「ZOLLANVARI」は,日本国内においても取引者間,需要
者間で広く認識されている。(甲の2の3,甲19)
(2) 原告商標権
ア 原告は,以下の商標の商標権者である(以下,この商標権を「原告商標権」
といい,その登録商標を「原告商標」という。)。
登録番号 商標登録第5385564号
商品及び役務の区分 第27類
指定商品 洗い場用マット,畳類,人工芝,敷物,壁掛け(織物
製のものを除く。),体操用マット,壁紙
出願番号 商願2010-051092
出願日 平成22年6月28日
登録日 平成23年1月21日
登録商標 別紙原告登録商標のとおり
イ 原告商標権取得の経緯(甲1,甲2)
(ア) 原告は,平成22年6月28日,原告商標につき登録出願したところ,特許
庁審査官から,原告商標は,動物の図形と「ZOLLANVARI」の文字よりな
るところ,ゾ社が商品「敷物」に使用し,原告商標の登録出願前から取引者,需要
者に広く認識されている商標「ZOLLANVARI」と同一又は類似であり,か
つ同一又は類似の商品に使用するものであり,商標法4条1項10号に該当するこ
とを理由に,同年9月29日付けで拒絶理由通知がなされた。
(イ) 原告は,同年11月8日付けで,特許庁審査官に対し,原告商標の登録につ
きゾ社の同意を得る手続を進めていることを理由に猶予を求めた。
(ウ) その後,原告は,原告が日本国におけるゾ社の総代理店であること,及び原
告が原告商標を日本国において使用し,かつ当該商標を日本国において登録出願を
する権限を有することについてのゾ社代表者作成の証明書を取得し,同年11月2
5日,これを添付した手続補正書を特許庁に提出した。
(エ) 特許庁審査官は,平成23年1月4日,原告商標の登録査定をし,同月21
日,原告商標の登録がなされた。
(3) 被告の行為
ア 被告は,被告ウェブサイトを開設し,別紙被告商品目録記載の商品を,主と
して同ウェブサイトで販売し,又は販売のために同ウェブサイト上に掲載している
(以下,被告がゾ社の製品であるとして販売している商品を「被告商品」という。 。
)
イ 被告が輸入販売する被告商品の中には,別紙被告標章目録記載1(以下「被
告標章1」という。)が添付されたものが少なくとも50枚ある。
ウ 被告ウェブサイトには,被告商品を説明する部分に,被告標章1のほか,別
紙被告標章目録記載2及び同3(以下「被告標章2」,「被告標章3」という。)
が,別紙目録1ないし同4の態様で表示されている(以上,イ,ウを併せて「被告
標章使用行為」という。)。
(4) 原告商標と被告各標章との類似性
被告商品は,いずれも原告商標の指定商品である第27類の「洗い場用マット,
敷物,体操用マット」に含まれるものであるところ,被告標章は,以下のとおりい
ずれも原告商標に類似している。
ア 原告商標は,直線を用いて描いたライオンの絵と「ZOLLANVARI」
の文字を組み合わせた商標であり,被告標章1は,これとほぼ同一のライオンの絵
と同じ文字列を組み合わせたものに,さらにその下部にペルシャ文字の文字列を組
み合わせたものであるが,外観において類似し,「ゾランバリ」ないし「ゾランヴ
ァリ」という称呼において同一であり,またいずれも「ゾランバリ」ないし「ゾラ
ンヴァリ」の観念を生じるものであって全体として類似している。
イ 被告標章2は,原告商標の文字列部分である「ZOLLANVARI」から
なるものであるが,原告商標と外観において類似し,同じ「ゾランバリ」ないし「ゾ
ランヴァリ」という称呼,観念を有するものであって,原告商標に類似している。
ウ 被告標章3は,「ゾランヴァリ」のカタカナの文字列であるが,原告商標と
同じ称呼,観念を有するものであって,原告商標に類似している。
2 争点
(1) 被告標章使用行為が,真正品の並行輸入として商標権侵害の実質的違法性を
欠くといえるか。
(2) 原告に生じた損害
3 当事者の主張
(1) 被告標章使用行為が,真正品の並行輸入として商標権侵害の実質的違法性を
欠くといえるか。
(被告の主張)
ア 被告商品への直接使用について
被告標章1が記載された別紙タグ目録記載1の形式のタグ(以下「被告タグ」と
いう。)は,被告がゾ社から購入し輸入したじゅうたんのうち50枚だけにゾ社に
よって付されていたものであり,いわゆる真正商品の並行輸入として商標権侵害の
実質的違法性を欠く。
(ア) すなわち,被告が被告ウェブサイトでゾ社の製品である旨広告して販売して
いる商品は,被告タグが付されていた50枚を含み,いずれも被告が,イランに赴
き,ゾ社の本社倉庫において,平成22年4月12日,平成23年8月13日,平
成24年1月7日,平成24年3月13日ないし同年12月10日,平成25年5
月14日,平成26年4月25日に,ゾ社と締結した売買契約に基づき,ゾ社から
購入し,日本に輸入したものである(以下,これらの取引を日付順に「本件取引1」
ないし「本件取引6」という。)。そのことは,各取引における輸出入書類(インボ
イス,パッキングリスト,船荷証券,原産地証明書)と契約書の内容が整合し,パ
ッキングリストにおける番号と,被告ウェブサイトで販売している商品に付された
番号が同一であり,また,ゾ社に対する支払もされていることから明らかである。
(イ) そして原告は,日本におけるゾ社の唯一の特約販売店であり,ゾ社の直営店
と同じ扱いと待遇を得ている関係の中で,ゾ社からゾ社の標章を原告名義で登録す
る権限を与えられたのである。
したがって,ゾ社と原告は同視し得る関係にあり,被告標章1が原告商標と同一
の出所を表示するものといえる。
(ウ) また被告は,ゾ社から直接商品を購入し,ゾ社が関与して輸入しているので
あるから,被告商品と原告商品とは原告商標が保証する品質において実質的に差異
がないといえる。ゾ社の製品は輸出向けとイラン国内向けの製品で品質が違うよう
にいう原告の主張は争う。
イ 被告ウェブサイトでの使用について
被告が,被告ウェブサイトの被告商品を説明する部分に被告標章1ないし同3を
用いているのは,ゾ社から購入した商品に関し,当該商品の出所識別表示としてい
るだけである。
原告商標はゾ社の出所を示すものであるが,被告は,日本国内で販売することを
前提にゾ社から購入し輸入した商品を,ゾ社の製品として販売しているだけである
から,仮に,ゾ社が被告に販売した商品がイラン国内向けのものであったとしても,
何ら原告商標の出所識別機能を害さず,実質的違法性を欠く。
また,原告は,ゾ社の日本における総代理店として原告商標権を有し,日本にお
いてゾ社と同視できる関係にあるから,その原告が,ゾ社から購入した商品をゾ社
の商品であると表示して販売する被告に対し,商標権侵害を主張することは,権利
の濫用である。
(原告の主張)
ア 被告商品への直接使用について
被告商品に付されている被告タグは,ゾ社が作製したものではなく,またゾ社が
付したものでもない。
そもそもゾ社は,仕入れたじゅうたんについてゾ社内で厳重に選別した上で,日
本及び世界各地に輸出するゾ社の製品には別紙タグ目録記載2の形式のタグ(以下
「原告タグ」という。)を付け,その付する価値のない二級品は,原告タグとは異
なる別紙タグ目録記載3のタグ(以下,この記載形式を含むタグを「別紙3のタグ」
という。)を付して国内の一般業者に販売し,イラン国内において市場(バザール)
でノーブランドの商品として販売され,流通している。
被告は,ゾ社が原告タグを付する価値のないものとしてイラン国内の市場(バザ
ール)にノーブランド商品として放出したじゅうたんをゾ社の製品として日本に輸
入し,販売しているのであるから,被告商品は,ゾ社の製品であっても,ゾ社の認
める品質の保証はないことになる。
したがって,被告標章1の使用行為は,原告商標権を侵害する行為であり,実質
的にも違法である。
イ 被告ウェブサイトでの使用について
被告は,被告商品はゾ社から全て購入したように主張するが,P2が関与した取
引であっても,全てゾ社の製品であるとの保証はない。
被告ウェブサイトの被告商品を紹介する部分に被告標章1ないし同3を使用する
被告の行為は,販売する商品があたかもゾ社の製品であるかのように消費者に信じ
込ませる悪質な行為であり,原告商標の出所識別機能を害し,商標権侵害を構成す
る。
また,ゾ社の製品であったとしても,前記のように商品の質にばらつきがあり,
どの織子が製造したものか明らかでない以上,被告商品と原告商品とが原告商標が
保証する品質において実質的に差異がないとはいえないことから,これを対象とす
るウェブサイト上における被告標章1ないし同3の使用行為は,商標権侵害として
実質的にも違法である。
(2) 原告に生じた損害
(原告の主張)
ア 原告は平成3年頃から現在まで,ゾ社の製品であるじゅうたんを輸入してこ
れを原告商品として販売しており,平成23年からは,これに原告商標を付して販
売している。
イ 損害額
(ア) 原告における,ゾ社の商品の売上減少額は次のとおりである。
平成25年4月1日から平成26年3月31日(29期)
●(省略)●
平成26年4月1日から平成27年3月31日(30期)
●(省略)●
(イ) ゾ社の製品を原告商品として販売することにより得られる原告の粗利益率は
●(省略)●である。
(ウ) 原告の粗利益は,29期と30期を比較すると30期は少なくとも●(省略)
●減少した。
(計算式)●(省略)●
平成26年度(30期)の減額要因は,①被告による原告商標の不正使用,②
消費税率の8%への引上げ,③インド,中国,イラン等によるコピー商品の市場
撹乱等が考えられ,それぞれの寄与度が33%の割合とすると,被告が被告商品
を被告ウェブサイト等で販売したことにより,原告に生じた損害は●(省略)●
である。原告は,本件訴訟において,このうち2640万円を請求する。
(計算式)●(省略)●
ウ 弁護士費用
被告による不法行為と相当因果関係のある弁護士費用額は264万円である。
(被告の主張)
争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(被告標章使用行為が,真正品の並行輸入として商標権侵害の実質的
違法性を欠くといえるか。)について
(1) 被告標章1ないし同3は,いずれも原告商標に類似し,また被告商品は,い
ずれも原告商標の指定商品に含まれるのであるから(上記第2の1(4)),被告標章
1を被告商品に付する行為はもとより,被告商品の広告である被告ウェブサイトに
被告標章1ないし同3を使用する行為は外形的には原告の有する商標権を侵害する
ことになる(なお,被告は指摘していないものの,被告ウェブサイトにおける被告
各標章の使用態様の一部には,商標的使用といえないものが含まれているが,後記
検討のとおり全て実質的違法性がないから,その点をさておいて検討を進める。)。
(2) これにつき被告は,原告商標権は,原告がゾ社からゾ社の標章を原告名義で
登録する権限を与えられて取得した権利であり,原告とゾ社は同視し得る関係にあ
るところ,被告は,ゾ社から原告商品と同じ品質の商品を輸入し販売しているので
あり,一部商品に付された被告標章1が記載された被告タグはゾ社が付したもので
あり,また被告標章1ないし同3も,ゾ社から購入した製品に関し,当該商品の出
所識別表示として,被告ウェブサイトの被告商品を説明する部分に表示して使用し
ているだけであるから,被告標章使用行為は,真正品の並行輸入として商標権侵害
の実質的違法性を欠くと主張する。
商標権者以外の者が,我が国における商標権の指定商品と同一の商品につき,そ
の登録商標と同一又は類似の商標を付されたものを輸入する行為,あるいは付され
ていないけれども,我が国内における販売に当たり,その宣伝広告に当該商標を使
用する行為は,外形的には商標権侵害行為となるが,商標法が「商標を保護するこ
とにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,もって産業の発達に
寄与し,あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」(商標法1条)もの
であることからすると,上記のような場合であっても,商標の機能である出所表示
機能及び品質保証機能を害することがなく,商標の使用をする者の業務上の信用及
び需要者の利益を損なわないのなら,実質的に違法性がないというべきである。
そして,そのような観点からすると,商標を付されたものを輸入した場合につい
ては,①当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた
者により適法に付されたものであり,②当該外国における商標権者と我が国の商標
権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関
係があることにより,当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するもので
あって,③当該商品と我が国の商標権者が扱う登録商標を付した商品とが品質にお
いて実質的に差異がないと評価される場合には,商標権侵害としての実質的違法性
を欠くと解すべきであり,また,その宣伝広告に当たり商標を使用する行為につい
ても,商標が付されている商品である場合のみならず,商標が付されていない商品
であっても,外国の商標権者が,当該商品を我が国において当該商標権者の商品と
して販売することを許容していた場合においては,これに上記②,③の要件が加わ
るのなら,やはり同様に商標権侵害としての実質的違法性を欠くと解するべきであ
る。
(3) そこで,まず被告標章使用行為のうち,被告標章1が記載されている被告タ
グについて検討するが,証拠(乙11,乙25)及び弁論の全趣旨によれば,被告
商品は,その全てに被告標章1を記載した被告タグが付されているものではなく,
被告商品の一部に付されているにとどまることが認められる(被告は,約50枚の
限度で自認している。)。
ただ,その被告タグの付された商品全てを個別具体的に特定できるわけではない
から,まずは,被告タグが付された商品を含み被告がゾ社の製品であるとして販売
している被告商品が,ゾ社から輸入した商品であるのかを検討し,次いで被告タグ
がゾ社によって付されたかについて検討すると,証拠(甲11ないし甲18,乙1,
乙3,乙13ないし乙17,乙25(9頁),乙27ないし乙30,乙34ないし
乙37,乙40,乙49)及び弁論の全趣旨によれば,被告が被告商品を輸入した
取引であるとする本件取引1ないし同6については,①被告がゾ社との取引である
とする本件取引1ないし同6において,被告が購入した商品及びその数量と,P2
から被告に対して送付されたインボイス及びパッキングリストに記載された商品及
びその数量は概ね一致しており,それぞれ,インボイス及びパッキングリストに対
応する船荷証券及び原産地証明書が存在すること,②被告がウェブサイトで販売す
る商品に付された商品番号の多くは,被告に送付されたパッキングリストにおいて,
同商品に付された品番に由来するものと認められること,③被告に対してインボイ
ス等を送付してきたP2は,ゾ社と原告との取引を担当するゾ社のセールスマネー
ジャーであること,④P2自身も,原告が被告に対して原告商標権侵害を警告し始
めた頃の被告代表者夫との会話において,ゾ社がその製品を被告に対して日本へ輸
出するために販売したことを前提とする発言をしていたこと,⑤被告は,被告商品
を別紙3のタグに記載された番号で管理しており,そのことをウェブサイト上でも
説明し,ウェブサイトで個別商品を選択すれば,その番号(バーコード番号)も確
認できること,⑥被告に送付されてきた商品には,原告代表者名である「P3」と
いうインク移りがあるタグが封入されていたものがあったこと,⑦被告は,平成2
4年4月6日,ゾ社に対し,ギャッベ84枚を返品のため送付したことなどの事実
が認められ,これらの事実を総合すると,被告がゾ社の製品であるとして販売して
いる被告商品は,いずれも本件取引1ないし同6によりゾ社から購入したものであ
り,ゾ社においても,それらの商品が日本国内で販売されることを前提に被告と取
引をしていたことが認められる。
そして,被告タグはゾ社が付したものであるかについて検討すると,証拠上確認
できる被告タグ(乙25の写真番号21中の3枚,甲5,乙11の1,乙12の1
の各1枚)に記載された商品番号は,本件取引1ないし同6に係るパッキングリス
トに記載された商品番号に由来するものであることが認められるし(乙25の写真
番号21中の右端のタグの番号については乙36の5(30頁),中央及び左端の
各タグの番号については乙35の2(12頁),甲5については乙36の5(45
頁),乙11の1については乙36の5(36頁),乙12の1については乙29
の2(5頁)のパッキングリスト記載の番号に対応する。),被告タグは原告が真
正品の証明であるとする原告タグとは異なるものである上,被告商品の一部にしか
付されていないというのであるから,被告がこれを自らの判断で積極的に付したと
も認め難く,後記検討するゾ社代表者の本件における報告内容が信用できないこと
も併せ考えると,被告タグは,被告が主張するようにゾ社によって付されたものと
認められる。
(4) なお,ゾ社の代表者であるP1の各報告書(甲32,甲41の1,甲44の
1,甲52)には,ゾ社は被告によるゾ社の製品の日本向け輸出に関与していない
し,被告タグはゾ社が付したものではないという原告主張に沿った記載がある。
しかし,P1の上記報告書の記載内容については,原告とゾ社間の総代理店契約
を前提にするなら,被告が指摘するように,ゾ社が被告による日本向け輸出に関与
することは原告に対する契約違反となる関係にあることが考慮されるべきであり,
加えて上記認定(3)①のとおりゾ社のセールスマネージャーであるP2がゾ社製品
の日本への輸出へ関与していることは明らかに認められているのに,原告からその
積極的な説明はないし,またP1の報告書等でもこの点について何ら触れられてお
らず,またP2は,被告が関与した取引についての書類に基づき,それらの取引が
イラン国内の取引であることを報告しているものの(甲40,甲43),P2が被
告に対する日本への輸出に関与した事実自体が否定されるわけではないから,被告
との取引への関与についてのゾ社の説明が変遷していること(甲10の2,甲44
の1)をも考慮すると,上記各報告書の記載内容は直ちに信用し難く,上記認定を
左右するものとはいえない。
(5) また被告がゾ社の製品として取り扱う被告商品が,原告が真正品であるとす
る原告商品と品質の点で異なるものであるか検討するに,上記認定のとおり,被告
商品は全てゾ社の製品であると認められるのであるから,原告商品と被告商品との
間に品質の点で異なる点はないはずのものということができる。
この点,原告は,被告商品がゾ社の製品であるとしても,イラン国内のバザール
で販売していた製品であり,ゾ社が日本輸出向けとして選別し原告タグを付した原
告商品とは品質の点で異なる旨主張するところ,確かに,証拠(乙25)によれば,
被告商品には,ゾ社がイラン国内向けの商品に用いていると原告が説明する別紙3
のタグが付されていることも認められる。そして,ゾ社の取り扱うじゅうたんが,
工場生産に係るものではなく,イラン国内において複数の織子から仕入れるもので
あって,製品ごとの品質のばらつきが免れないことからすると,原告主張に係るよ
うな輸出向けと国内販売向けの製品を選別するという取り扱いも考えられるところ
である。
しかし,ゾ社は織子から仕入れたじゅうたんを厳重に選別し,原告タグを付する
価値のない二級品は,イラン国内向けとして販売しているとの原告の主張は,日本
の総代理店である原告がゾ社から受けている説明と考えられるが,前掲したゾ社代
表者作成の報告書においては,タグの違いは強調されるが,いかなる点で品質に違
いがあるかはもとより,そもそも品質の違いについて触れるところはなく,上記の
ような選別がなされているのか,さらにはそれによって品質が異なるのかは何ら客
観的に裏付けられているものではない(原告は,被告商品を入手しながら,その品
質の違いについて積極的に立証しているわけではない。)。
そして,そもそも,少なくとも被告商品であっても,ゾ社が日本国内で販売する
ことを許容して販売したことは上記認定のとおりであるから,原告商品と被告商品
に問題とすべき品質の違いはなく,むしろ,原告商品と被告商品の品質は同一であ
ると認定するのが相当である(なお,原告は,輸入取引書類等(乙27の2,乙3
0の1,乙34の1,甲48ないし甲50の各1)を引用して,原告商品は輸入価
格において同種被告商品より5倍から18倍程度高価格となっている事実を指摘す
るが,その価格差が品質だけに由来するのかは明らかにされていないし,またそれ
が事実であれば,ゾ社はそれほどの価格差が生じるような品質に差があるものを,
わざわざイラン各地の織子から仕入れているということになって,かえって不自然
というべきであり,これらによって上記認定は左右されないというべきである。)。
(6) 以上総合すると,被告商品は,全てゾ社の製品であってゾ社が関与して日本
国内に輸入されているものであること,そのうち被告標章1が記載された被告タグ
はゾ社によって付されたものであること,その商品の品質はゾ社の総代理店である
原告が取り扱う原告商品と異なるところはないと認められる。
そして原告は,ゾ社の日本における総代理店であり,ゾ社の権限授与を受けて原
告商標の登録を得ることができたにすぎないものであって,原告とゾ社を同視でき,
原告商標と被告標章1が同一の出所を表示するものといえることを併せ考えると,
被告標章1が付された被告商品を販売する行為は,商標の持つ出所表示機能及び品
質保証機能を何ら害するところがないし,商標の使用をする者の業務上の信用及び
需要者の利益を損なうことはないということができるから,外形的に商標権侵害行
為に該当するとしても,実質的違法性を欠くということができる。
(7) 次いで被告標章1ないし同3を被告ウェブサイトで使用する行為の実質的違
法性の点について検討すると, 原告の主張は,被告が販売している商品がゾ社の製
品ではないこと,少なくともそのような製品を含んでいる可能性を前提として,ゾ
社の製品でないものを販売するに当たり,ウェブサイトにおける被告商品の紹介の
部分で被告標章1ないし同3を使用する被告の行為が,原告商標権の出所識別機能
を害するものであり,商標権侵害に当たるというものである。
しかし,上記認定のとおり,被告がゾ社製品として販売している商品には,ゾ社
が付したことを原告も認めているタグが付されているのであって,被告は,このタ
グの番号で管理されていることをゾ社製品の証明であるとウェブサイト上で説明し
ている(甲9の4・6枚目)くらいであるから,それ以外のじゅうたん類をゾ社の
製品として販売しているものとは考えられず,したがって,原告の主張は,その前
提となる事実関係が認められないということになる。
そして以上に加え,ゾ社の製品である被告商品と原告商品の品質に実質的な違い
が認められないこと,また原告は,ゾ社の日本における総代理店であり,ゾ社の権
限授与を受けて原告商標の登録を得ることができたにすぎないものであって,原告
とゾ社は同視でき,被告標章1のみならず被告標章2及び同3も原告商標と同一の
出所を表示するものといえるから,上記ウェブサイトにおける宣伝広告対象となる
商品が,被告標章1が記載された被告タグを付された被告商品である場合はもとよ
り,被告標章1ないし同3が全く付されていない被告商品の場合であっても,これ
ら商品の販売広告に当たり,これら商品がゾ社製品であることを示すために被告標
章1ないし同3を別紙目録1ないし同4に認められるような態様の限度で使用する
行為は,商標の持つ出所表示機能及び品質保証機能を害するものではなく,商標の
使用をする者の業務上の信用及び需要者の利益を損なうこともないから,外形的に
原告商標権の侵害行為に該当するとしても,やはり実質的違法性を欠くというべき
である。
2 以上によれば,その余の争点につき検討するまでもなく,原告の請求にはい
ずれも理由がないことは明らかであるからこれを棄却することとし,訴訟費用の負
担につき民事訴訟法61条を適用して主文のとおり判決する(なお,以上によれば,
被告による商標権侵害があったことを前提に,被告商品の販売数量及び売上げ等を
記載した書類を対象とする原告による文書提出命令の申立てについては,その必要
性がないことが明らかであるから,これを却下する。)。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 森 崎 英 二
裁判官 田 原 美 奈 子
裁判官 大 川 潤 子
(別紙)
被告商品目録
じゅうたん,玄関マット,ラグ,カーペットの織物製の敷物
(別紙)
被告標章目録
1
2 ZOLLANVARI
3 ゾランヴァリ
(別紙)
被告ウェブサイト目録
1 オリエンタルムーン本店:http://www.oriental-moon.com/
2 オリエンタルムーン楽天店:http://www.rakuten.co.jp/o-moon/
3 オリエンタルムーン YAHOO!店:http://store.shopping.yahoo.co.jp/o-moon/
4 ペルシャ絨毯専門サイト「ペルシャ絨毯館」: http://www.persian-carpet.jp/
(別紙)
原告登録商標
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