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平成23(ヨ)22027特許権仮処分命令申立事件

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裁判所 東京地方裁判所
裁判年月日 平成25年2月28日
事件種別 民事
対象物 移動通信システムにおける予め設定された長さインジケータを用いてパケットデータを送受信する方法及び装置
法令 特許権
民事訴訟法61条1回
民法1条3項1回
キーワード ライセンス107回
分割30回
特許権24回
許諾23回
実施10回
差止10回
優先権5回
抵触4回
侵害3回
主文 1 本件申立てをいずれも却下する。
2 申立費用は債権者の負担とする。
3 この決定に対する即時抗告のための付加期間を30日と定める。理 由第1 申立て
1 債務者は,別紙物件目録1及び2記載の各製品を生産し,譲渡し,貸し渡し,輸入し,又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡若しくは貸渡しのための展示を含む。)をしてはならない。
2 債務者は,前項記載の各製品に対する占有を解いて,これらを執行官に引き渡さなければならない。第2 事案の概要
1 事案の要旨本件は,発明の名称を「移動通信システムにおける予め設定された長さインジケータを用いてパケットデータを送受信する方法及び装置」とする特許第4642898号の特許権(以下,この特許を「本件特許」,この特許権を「本件特許権」という。)の特許権者である債権者が,債務者による別紙物件目録1及び2記載の各製品(以下「本件各製品」という。)の輸入及び販売が本件特許権の侵害に当たる旨主張して,本件特許権に基づく差止請求権を被保全権利として,債務者に対し,本件各製品の生産,譲渡等の差止め及び執行官保管を求めた仮処分命令申立事件である。
2 争いのない事実等(疎明資料の摘示のない事実は,争いのない事実又は審尋の全趣旨により認められる事実である。)(1) 当事者ア 債権者は,電子電気機械器具,通信機械器具及び関連機器とその部品の製作,販売等を目的とする韓国法人である。イ 債務者は,パーソナル・コンピュータ,コンピュータ関連機器のハードウェア及びソフトウェア,コンピュータに関連する付属機器の販売等を目的とする合同会社である。なお,債務者は,平成23年10月30日に,米国法人のアップルインコーポレイテッド(以下「アップル社」という。)の子会社であるアップルジャパン株式会社を吸収合併し,本件における同社の地位を承継した(以下においては,上記吸収合併前のアップルジャパン株式会社についても「債務者」という。)。(2) 債権者の特許権ア 債権者(特許登録原簿上の名称「サムスン エレクトロニクス カンパニー リミテッド」)は,平成18年5月4日,本件特許に係る国際特許出願(国際出願番号・PCT/KR2006/001699,優先日・平成17年5月4日,優先権主張国・韓国,日本における出願番号・特願2008-507565号。以下「本件出願」という。)をし,平成22年12月10日,本件特許権の設定登録を受けた(甲1,2)。イ 本件特許の特許請求の範囲は,請求項1ないし14から成り,その請求項1及び8の記載は,次のとおりである(以下,請求項8に係る発明を「本件発明1」,請求項1に係る発明を「本件発明2」といい,本件発明1及び2を併せて「本件各発明」という。)。「【請求項1】 移動通信システムにおけるデータを送信する方法であって,上位階層からサービスデータユニット(SDU)を受信し,前記SDUが一つのプロトコルデータユニット(PDU)に含まれるか否かを判定する段階と,前記SDUが一つのPDUに含まれる場合に,ヘッダーとデータフィールドを含む前記PDUを構成する段階と,ここで,前記ヘッダーは,一連番号(SN)フィールドと,前記PDUが分割,連結,またはパディングなしに前記データフィールドに前記SDUを完全に含むことを指示する1ビットフィールドと,を含み,前記SDUが一つのPDUに含まれない場合に,前記SDUを伝送可能なPDUのサイズにより複数のセグメントに分割し,各PDUのデータフィールドが前記複数のセグメントのうち一つのセグメントを含む複数のPDUを構成する段階と,ここで,前記各PDUのヘッダーは,SNフィールド,少なくとも一つの長さインジケータ(LI)フィールドが存在することを示す1ビットフィールド,そして前記少なくとも一つのLIフィールドを含み,前記PDUの前記データフィールドが前記SDUの中間セグメントを含むと,前記LIフィールドは前記PDUが前記SDUの最初のセグメントでも最後のセグメントでもない中間セグメントを含むことを示す予め定められた値に設定され,前記PDUを受信器に伝送する段階と,を有することを特徴とするデータ送信方法。」「【請求項8】 移動通信システムにおけるデータを送信する装置であって,上位階層からサービスデータユニット(SDU)を受信し,前記SDUが一つのプロトコルデータユニット(PDU)に含まれるか否かを判定し,前記SDUを伝送可能なPDUサイズによって少なくとも一つのセグメントに再構成するための伝送バッファと,一連番号(SN)フィールドと1ビットフィールドをヘッダーに含み,前記少なくとも一つのセグメントをデータフィールド内に含む少なくとも一つのPDUを構成するヘッダー挿入部と,前記SDUが一つのPDUに含まれる場合に,前記PDUが分割,連結,パディングなしに前記データフィールドに前記SDUを完全に含むことを示すように前記1ビットフィールドを設定し,前記PDUの前記データフィールドが前記SDUの中間セグメントを含む場合,少なくとも一つの長さインジケータ(LI)フィールドが存在することを示すように前記1ビットフィールドを設定する1ビットフィールド設定部と,前記SDUが一つのPDUに含まれない場合に,前記少なくとも一つのPDUの前記1ビットフィールド以後にLIフィールドを挿入し,設定するLI挿入部と,ここで,前記PDUの前記データフィールドが前記SDUの中間セグメントを含む場合,前記LIフィールドは前記PDUが前記SDUの最初のセグメントでも最後のセグメントでもない中間セグメントを含むことを示す予め定められた値に設定され,前記LI挿入部から受信される少なくとも一つのPDUを受信部に伝送する送信部と,を含むことを特徴をするデータ送信装置。」ウ 本件各発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,各構成要件を「構成要件A」,「構成要件B」などという。)。(ア) 本件発明1(請求項8)A 移動通信システムにおけるデータを送信する装置であって,B 上位階層からサービスデータユニット(SDU)を受信し,前記SDUが一つのプロトコルデータユニット(PDU)に含まれるか否かを判定し,前記SDUを伝送可能なPDUサイズによって少なくとも一つのセグメントに再構成するための伝送バッファと,C 一連番号(SN)フィールドと1ビットフィールドをヘッダーに含み,前記少なくとも一つのセグメントをデータフィールド内に含む少なくとも一つのPDUを構成するヘッダー挿入部と,D 前記SDUが一つのPDUに含まれる場合に,前記PDUが分割,連結,パディングなしに前記データフィールドに前記SDUを完全に含むことを示すように前記1ビットフィールドを設定し,前記PDUの前記データフィールドが前記SDUの中間セグメントを含む場合,少なくとも一つの長さインジケータ(LI)フィールドが存在することを示すように前記1ビットフィールドを設定する1ビットフィールド設定部と,E 前記SDUが一つのPDUに含まれない場合に,前記少なくとも一つのPDUの前記1ビットフィールド以後にLIフィールドを挿入し,設定するLI挿入部と,F ここで,前記PDUの前記データフィールドが前記SDUの中間セグメントを含む場合,前記LIフィールドは前記PDUが前記SDUの最初のセグメントでも最後のセグメントでもない中間セグメントを含むことを示す予め定められた値に設定され,G 前記LI挿入部から受信される少なくとも一つのPDUを受信部に伝送する送信部と,H を含むことを特徴をするデータ送信装置。(イ) 本件発明2(請求項1)I 移動通信システムにおけるデータを送信する方法であって,J 上位階層からサービスデータユニット(SDU)を受信し,前記SDUが一つのプロトコルデータユニット(PDU)に含まれるか否かを判定する段階と,K 前記SDUが一つのPDUに含まれる場合に,ヘッダーとデータフィールドを含む前記PDUを構成する段階と,ここで,前記ヘッダーは,一連番号(SN)フィールドと,前記PDUが分割,連結,またはパディングなしに前記データフィールドに前記SDUを完全に含むことを指示する1ビットフィールドと,を含み,L 前記SDUが一つのPDUに含まれない場合に,前記SDUを伝送可能なPDUのサイズにより複数のセグメントに分割し,各PDUのデータフィールドが前記複数のセグメントのうち一つのセグメントを含む複数のPDUを構成する段階と,ここで,前記各PDUのヘッダーは,SNフィールド,少なくとも一つの長さインジケータ(LI)フィールドが存在することを示す1ビットフィールド,そして前記少なくとも一つのLIフィールドを含み,M 前記PDUの前記データフィールドが前記SDUの中間セグメントを含むと,前記LIフィールドは前記PDUが前記SDUの最初のセグメントでも最後のセグメントでもない中間セグメントを含むことを示す予め定められた値に設定され,N 前記PDUを受信器に伝送する段階と,O を有することを特徴とするデータ送信方法。(3) 債務者の行為等ア 債務者は,アップル社が製造した本件各製品を輸入し,販売している。イ(ア) 本件各製品は,本件発明1の構成要件A及びHを充足する。(イ) 本件各製品におけるデータ送信方法は,本件発明2の構成要件I及びOを充足する。ウ 本件各製品は,第3世代移動通信システムないし第3世代携帯電話システム(3G)(Third Generation)の普及促進と付随する仕様の世界標 準 化 を 目 的 と す る 民 間 団 体 で あ る 3 G P P ( Third GenerationPartnership Project ) が 策 定 し た 通 信 規 格 で あ る U M T S 規 格(Universal Mobile Telecommunications System)に準拠した製品である(甲3ないし6,11。以下,3GPPが定める通信規格を「3GPP規格」という。)。UMTS規格は,日本では,W-CDMA方式(広帯域符号分割多元接続方式)と称されている。(4) 本件特許に関するFRAND宣言ア 3 G PP を 結成 し た 標準 化 団体 の 一つ で あ るE T SI (EuropeanTelecommunications Standards Institute ) ( 欧 州 電 気 通 信 標 準 化 機構)は,知的財産権(IPR)の取扱いに関する方針として「IPRポリシー」(Intellectual Property Rights Policy)を定めている。IPRポリシーには,次のような規定がある(乙12。原文英語)。「3 方針の目的3.1 ETSIは,総会が提議した,ヨーロッパの通信セクターの技術的な目的に最も資する解決策に基づく規格および技術仕様を作成することを目的としている。この目的を推進するため,ETSIのIPRについての方針は,ETSIおよび会員,ETSI規格および技術仕様を適用するその他の,規格の準備および採用,適用への投資が,規格または技術仕様についての必須IPRを使用できない結果無駄になる可能性があるというリスクを軽減するためのものである。この目的を達成するに当たり,ETSIのIPRについての方針では,通信分野での一般利用の標準化の必要性と,IPRの所有者の権利との間のバランスを取ることが求められる。3.2 IPRの所有者は,ETSIの会員またはその関連会社,第三者であるかによらず,規格および技術仕様の実装で,IPRの使用につき適切かつ公平に扱われるものとする。」「4 IPRの開示4.1 …各会員は,自らが参加する規格または技術仕様の開発の間は特に,ETSIに必須IPRについて適時に知らせるため合理的に取り組むものとする。特に,規格または技術仕様の技術提案を行う会員は,善意をもって,提案が採択された場合に必須となる可能性のあるその会員のIPRについてETSIの注意を喚起するものとする。4.3 上記の第4.1項に従っての義務は,ETSIにこの特許ファミリーの構成要素について適時に知らされた場合には,すべての既存および将来のその特許ファミリーの構成要素につき満たされたとみなされる。…」「6 ライセンスの可用性6.1 特定の規格または技術仕様に関連する必須IPRがETSIに知らされた場合,ETSIの事務局長は,少なくとも以下の範 囲 で , 当 該 の I P R に お け る 取 消 不 能 な ラ イ セ ン ス(irrevocable licences)を公正,合理的かつ非差別的な条件( fair,reasonable and non-discriminatory terms andconditions)で許諾する用意があることを書面で取消不能な形で3か月以内に保証することを,所有者にただちに求めるものとする。・製造で使用するべく,ライセンシー自身の設計で,カスタマイズした部品およびサブシステムを製造または過去から引き続き製造する権利を含む,製造。・上記で製造した機器の販売または賃貸,処分。・機器の修理または使用,動作,および・方法の使用。上記の保証は,ライセンスの相互供与に同意することを求めるという条件に従い行われる場合がある。…6.2 特許ファミリーの指定された構成要素に関する,第6.1項に従っての保証は,保証が行われた時点で指定したIPRを除外する旨を明示する書面がある場合を除き,その特許ファミリーのすべての既存および将来の必須IPRに適用されるものとする。当該の除外の範囲は,明示的に指定されたIPRに限定されるものとする。6.3 要請されたIPRの所有者の保証が許諾されない場合,委員会の委員長は,適切な場合,ETSI事務局と協議の上,問題が解決するまで,委員会が規格または技術仕様についての作業を停止すべきかどうかについて判断し,および/または関連の規格または技術仕様の承認を行うものとする。」「12 このポリシーは,フランス法に準拠する。」「15 定義
6 IPRに適用される「必須」とは,(商業的ではなく)技術的な理由で,標準化の時点で一般に利用可能な通常の技術慣行および最新技術を考慮し,IPRに抵触せずに規格に準拠する機器または方法を製造または販売,賃貸,処分,修理,使用または動作できないことを意味する。疑義を回避するため,規格が技術的な解決策でのみ実行可能で,すべてがIPRに抵触する例外的な場合で,当該のすべてのIPRは必須とみなされるものとする。
7 「IPR」とは,商標以外の知的財産権の適用を含む,法律により参照された知的財産権を意味するものとする。疑義を回避するため,体裁に関連する権利または機密情報,企業秘密,同様のものは,IPRの定義から除外される。
9 「会員」とは,ETSIの会員または賛助会員を意味するものとする。会員の参照は,文脈が許す場合には常に,その会員およびその関連会社と解釈されるものとする。
13 「特許ファミリー」とは,優先順位の高い文書それ自体を含む,一般に1つ以上の優先順位のあるすべての文書を意味するものとする。疑義を回避するため,「文書」は特許および実用新案,その応用を表す。」イ(ア) ETSIの会員である債権者は,1998年(平成10年)12月14日,ETSIに対し,UMTS規格としてETSIが推進しているW-CDMA技術に関し,債権者の保有する必須IPRライセンスを,ETSIのIPRポリシー6.1項に従って,「公正,合理的か つ 非 差 別 的 な 条 件 」 ( fair,reasonable and non-discriminatoryterms and conditions)(以下「FRAND条件」という。)で許諾する用意がある旨の誓約(宣言)をした(乙5)。(イ) 債権者は,2007年(平成19年)8月7日,ETSIに対し,ETSIのIPRポリシー4.1項に従って,本件出願の優先権主張の基礎となる韓国出願の出願番号,本件出願の国際出願番号(PCT/KR2006/001699)等に係るIPRが,UMTS規格(TS 25.322等)に関連して必須IPRであるか,又はそうなる可能性が高い旨を知らせるとともに,ETSIのIPRポリシー6.1項に準拠する条件(FRAND条件)で,取消不能なライセンスを許諾する用意がある旨の宣言(以下「本件FRAND宣言」という。)をした(乙13)。
3 当事者の主張債権者及び債務者の各主張書面に記載されたとおりであるから,これを引用する。第3 当裁判所の判断
1 本件各製品についての本件発明1の技術的範囲の属否について(1) 本件各製品の構成についてア 本件各製品の本件技術仕様書V6.9.0の準拠の有無債務者は,本件発明1が3GPP規格の本件技術仕様書V6.9.0記載の「代替的Eビット解釈」(Alternative E-bit解釈)を具現化したものであり,同技術仕様書に準拠した本件各製品は,本件発明1の技術的範囲に属する旨主張する。そこで,まず,本件各製品が本件技術仕様書V6.9.0に準拠した製品といえるかどうかについて判断する。(ア) 代替的Eビット解釈本件技術仕様書V6.9.0の9.2.2.5項,9.2.2.8項及び9.2.2.8.1項(別紙1参照)には,①伝送モードが非確認モードのPDU(UMD PDU)の最初のオクテットに含まれるEビット(拡張ビット)について,「通常Eビット解釈」又は「代替的Eビット解釈」が上位レイヤーのコンフィギュレーションに応じて選択的に適用されること,②「代替的Eビット解釈」の下では,最初のオクテットに含まれるEビットが「0」の場合は,「次のフィールドは,分割,連結,パディングされていない完全なSDU」であることを,「1」の場合は,「次のフィールドは,長さインジケータとEビット」であることを示すこと,③「長さインジケータ」は,最初のオクテットに含まれるEビットが「分割,連結,パディングされていない完全なSDU」であることを示していなければ,PDUの中のそれぞれのSDU(RLC SDU)が終わる最後のオクテットを示すものとして用いられること,④「代替的Eビット解釈」が設定され,かつ,PDU(RLC PDU)がSDUのセグメントを含むが,SDUの最初のオクテットも最後のオクテットも含まない場合には,「長さインジケータ」は,「111 1110」の値を持つ7ビットの長さインジケータ又は「111 1111 1111 1110」の値を持つ15ビットの長さインジケータが用いられることが記載されている。(イ) 本件実機テストa 疎明資料(甲21,22,49)及び審尋の全趣旨によれば,次の事実が認められる。(a) カナダ法人のチップワークス社が本件各製品について,「基地局エミュレータ」として,CMW500を用いたテスト(本件実機テスト)を行った。CMW500は,W-CDMA方式に対応している。(b) 本件実機テストのテスト1は,「PDUサイズ:488ビット,SDUサイズ:480ビット」の設定で,「PDUが分割,連結,パディングされていない完全なSDUを含む場合」のテストであり,テスト2は,「PDUサイズ:80ビット,SDUサイズ:480ビット」の設定で,最初と最後を除いた「中間セグメント」としてのPDU(例えば,2番目のPDU)をモニタするテストである。(c) 本件実機テストの結果は,次のとおりである。① テスト1の場合には,一連番号(SN)に続くEビットが「0」となり,長さインジケータを含まないPDUが出力されている(甲21の図12,14)。② テスト2の場合には,一連番号(SN)に続くEビットが「1」となり,長さインジケータとして所定値(111111
0 ) を 含 む P D U が 出 力 さ れ て い る ( 甲 2 1 の 図 1 3 , 15)。b 前記aの本件実機テストの結果が示すEビットの値及び長さインジケータの値は,前記(ア)の代替的Eビット解釈を採用した場合の値と整合しており(テスト1は前記(ア)②及び③と,テスト2は前記(ア)②及び④とそれぞれ整合する。),本件各製品は,代替的Eビット解釈の機能を実装していることが認められる。c こ れ に 対 し 債 権 者 は , 本 件 実 機 テ ス ト の 結 果 の「 Interpretation」 の 欄 に 「 次 の オ ク テ ッ ト : デ ー タ ( 「 nextoctet: data」)」と表示されており,「分割,連結,パディングされていない完全なSDU」と表示されていないから,本件実機テストでは,代替的Eビット解釈ではなく,通常Eビット解釈が用いられているなどと主張する。しかしながら,代替的Eビット解釈において,Eビットに「0」が設定される場合,次のフィールドのビット列が「分割,連結,パディングされていない完全なSDU」を構成するSDUの「データ」を示すものであることからすると,「Interpretation」 の欄に「次のオクテット:データ(「next octet: data」)」と表示されていることは本件実機テストにおいて代替的Eビット解釈が使用されていることと相反するものではない。したがって,債権者の上記主張は理由がない。イ 小括以上によれば,本件各製品は,本件技術仕様書V6.9.0に準拠した製品であり,代替的Eビット解釈に基づく機能を実施する構成を備えていることが認められる。(2) 本件発明1の技術的意義ア 明細書の記載事項本件発明1の特許請求の範囲(請求項8)の文言と本件特許に係る明細書(以下,図面を含めて,「本件明細書」という。甲2)の「発明の詳細な説明」の記載事項を総合すれば,本件明細書には,①パケットサービスを支援する移動通信システム(無線データパケット通信システム)において,音声コーデックから発生した音声フレームをインターネットプロトコルを用いて音声パケットの形態で伝送する通信技術であるVoIPを提供するに当たって,従来技術によるVoIP通信方式でRLCフレーミング方式(上位階層から受信されたRLC SDUを無線チャンネルを通じて伝送するために適合したサイズに処理する動作)を使用する場合,大部分のRLC SDUが,分割又は連結せず,一つのRLC SDUは一つのRLC PDUで構成されるにもかかわらず,既存のRLCフレーミング動作では,少なくともRLC SDUの開始を示すLI(長さインジケータ)フィールドとその終了を示すLIフィールドが常に要求されるといったように,不必要なLIフィールドが挿入され,それによって限定された無線リソースが非効率的に使用されるという問題点が発生すること,②本件発明1の目的は,従来技術による上記問題点を解決するために,RLC PDU(無線リンク制御階層のプロトコルデータユニット)のヘッダーサイズを減少させて無線リソースを効率的に使用する装置を提供することにあること,③本件発明1は,上記目的を達成するための手段として,「一つの完全なRLC SDUを分割/連結/パディングせずに,一つのRLC PDUにフレーミングが可能である場合」に,そのことをRLC PDUのデータフィールドに1ビット情報で示す構成(構成要件Dの「前記SDUが一つのPDUに含まれる場合に,前記PDUが分割,連結,パディングなしに前記データフィールドに前記SDUを完全に含むことを示すように前記1ビットフィールドを設定」の構成)を採用することによって,そのRLC SDUの分割/連結/パディングを示すための追加情報の挿入(「LIフィールド」の使用)を不要とし,RLC PDUが「RLC SDUの開始や終了が含まれない,RLC SDUの中間セグメントのみ」を含む場合に,そのことを予め定められたLIの新たな値に設定されたLIフィールドで示す構成(構成要件Dの「前記PDUの前記データフィールドが前記SDUの中間セグメントを含む場合,少なくとも一つの長さインジケータ(LI)フィールドが存在することを示すように前記1ビットフィールドを設定する1ビットフィールド設定部」の構成及び構成要件Fの「前記LIフィールドは前記PDUが前記SDUの最初のセグメントでも最後のセグメントでもない中間セグメントを含むことを示す予め定められた値に設定」される構成)を採用することによって,RLC SDUの分割動作を可能とし,これによりヘッダーサイズを減少させて無線リソースを効率的に使用する効果を奏することが開示されているものと認められる。イ 本件発明1と代替的Eビット解釈との関係(ア) 本件発明1の構成要件Dの「前記SDUが一つのPDUに含まれる場合に,前記PDUが分割,連結,パディングなしに前記データフィールドに前記SDUを完全に含むことを示すように前記1ビットフィールドを設定」の構成及びその効果(前記ア③)は,代替的Eビット解釈において,最初のオクテットに含まれるEビットが「0」の場合は,「次のフィールドは,分割,連結,パディングされていない完全なSDU」であることを示し,長さインジケータが用いられないこと(前記(1)ア(ア)②及び③)を規定し,また,構成要件Dの「前記PDUの前記データフィールドが前記SDUの中間セグメントを含む場合,少なくとも一つの長さインジケータ(LI)フィールドが存在することを示すように前記1ビットフィールドを設定する1ビットフィールド設定部」の構成及び構成要件Fの「前記LIフィールドは前記PDUが前記SDUの最初のセグメントでも最後のセグメントでもない中間セグメントを含むことを示す予め定められた値に設定」される構成は,代替的Eビット解釈において,PDU(RLC PDU)がSDUのセグメントを含むが,SDUの最初のオクテットも最後のオクテットも含まない場合には,「長さインジケータ」は,「1111110」の値を持つ7ビットの長さインジケータ又は「111 1
111 1111 1110」の値を持つ15ビットの長さインジケータが用いられること(前記(1)ア(ア)④)を規定したものであると認められる。したがって,本件発明1は,代替的Eビット解釈を具現化した発明であるというべきである。(イ)a これに対し債務者は,本件発明1の構成要件Bの「前記SDUが一つのPDUに含まれるか否かを判定」とは,「SDUが一つのPDUに完全に含まれるかどうか(一致するかどうか)」を判定することを意味するのに対し,本件技術仕様書V6.9.0の4.2.1.2.1項の「RLC SDUがUMD PDUの利用可能なスペースの長さより大きい場合」に「RLC SDUを適当なサイズのUMD PDUに分割する。」との記載は,4.2.1.2.1項記載の判定方式が,SDUの分割が必要か否かを決定することを目的とし,SDUがPDUの利用可能な領域よりも大きいか否か(SDUとPDUの大小関係)を判定する方式を意味するものであり,SDUが一つのPDUに完全に含まれる(一致する)か否かを判定する方式とは異なるものであるから,本件技術仕様書V6.9.0には,構成要件Bの開示がない旨主張する。しかしながら,本件技術仕様書V6.9.0の9.2.2.5項には,「代替的Eビット解釈」の下において,最初のオクテットに含まれるEビットが「0」の場合は,「次のフィールドは,分割,連 結 , パ デ ィ ン グ さ れ て い な い 完 全 な S D U 」 で あ る こ と を,「1」の場合は,「次のフィールドは,長さインジケータとEビット」であることを示すこと(前記1(1)ア(ア)②)が記載されており,上記記載は,SDUがPDUに完全に含まれる(一致する)か否か(「分割,連結,パディングされていない完全なSDU」か否か)の判定を行うことを前提に,その判定結果に従ってEビットを上記のように設定することを規定するものといえるから,構成要件Bの「SDUが一つのプロトコルデータユニット(PDU)に含まれるか否か」を「判定」する構成を開示するものというべきである。したがって,債務者の上記主張は理由がない。b また,債務者は,構成要件Dにいう「前記SDUが一つのPDUに含まれる場合」とは,①パディングが生じている場合,②連結が生じている場合,③分割,連結及びパディングのいずれも生じていない場合を全て対象とするものであるから,構成要件Dを充足するというためには,上記①又は②の場合であっても,「PDUが分割,連結又はパディングなしにSDUを完全に含むことを示すように1ビットフィールドが設定」されなければならないのに対し,本件技術仕様書V6.9.0記載の代替的Eビット解釈においては,上記③の場合にのみ,PDUが完全なSDUを含むことを示すように1ビットフィールドが設定されるのであるから,構成要件Dの構成は,本件技術仕様書V6.9.0記載の代替的Eビット解釈とは異なる旨主張する。しかしながら,構成要件Dの「前記SDUが一つのPDUに含まれる場合に,前記PDUが分割,連結,パディングなしに前記データフィールドに前記SDUを完全に含むことを示すように前記1ビットフィールドを設定」との文言,本件明細書の段落【0022】及び図5Aによれば,構成要件Dの「前記SDUが一つのPDUに含まれる場合」とは,「前記PDUが分割,連結,パディングなしに前記データフィールドに前記SDUを完全に含む」場合(上記③の場合)のみを意味し,SDUが連結されてPDUに格納されている場合やSDUがパディングとともにPDUに格納されている場合は,これに含まれないと解すべきであるから,債務者の主張は,その前提を欠くものとして,採用することができない。(3) 本件各製品についての本件発明1の技術的範囲の属否についてア 本件各製品が本件発明1の構成要件A及びHを充足することは,前記争いのない事実等(3)イ(ア)のとおりである。そして,本件各製品が,本件技術仕様書V6.9.0に準拠した製品であり,代替的Eビット解釈に基づく機能を実施する構成を備えていること(前記(1)イ),本件発明1が代替的Eビット解釈を具現化した発明であること(前記(2)イ(ア))によれば,本件各製品は,本件発明1の構成要件BないしGを充足するものと認められる。以上によれば,本件各製品は,本件発明1の構成要件を全て充足するから,その技術的範囲に属する。イ(ア) これに対し債務者は,本件技術仕様書V6.9.0に構成要件B及びDの開示がないことを理由に,本件各製品が構成要件B及びDを充足しない旨主張する。しかしながら,前記(2)イ(イ)で述べたとおり,債務者の主張は,その前提を欠くものであるから,理由がない。(イ) また,債務者は,本件各製品が本件発明1の技術的範囲に属するというためには,本件各製品が本件発明1の構成要件に記載された全ての機能を現実のネットワーク上で実行していることを立証する必要があるが,代替的Eビット解釈は,通常Eビット解釈のオプション的なものであり,通信事業者が代替的Eビット解釈を使用するようにネットワークを設定していることについての立証がないから,本件各製品が本件発明1の技術的範囲に属さない旨主張する。しかしながら,本件各製品は,本件発明1の構成要件を全て充足し,代替的Eビット解釈を実施する構成を備えている以上,本件発明1の技術的範囲に属するものと認められ,現実のネットワーク上で通信事業者が代替的Eビット解釈を使用するようにネットワークを設定しているかどうかは本件発明1の技術的範囲の属否に影響を及ぼすものではないというべきである。したがって,債務者の上記主張は採用することができない。(4) まとめ以上によれば,本件各製品は,本件発明1の技術的範囲に属する。そして,本件発明2は,本件発明1の送信装置におけるデータの送信方法の発明であり,両発明の構成は共通すること(争いがない。)によれば,本件各製品におけるデータ送信方法の構成は,本件発明2の技術的範囲に属するものと認められる。
2 権利濫用の成否について次に,本件事案の内容等に鑑み,債権者による本件各製品についての本件特許権に基づく差止請求権の行使が権利の濫用に当たる旨の債務者の抗弁の成否について判断することとする。(1) 前提事実前記争いのない事実と本件疎明資料及び審尋の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。ア ETSIのIPRポリシー(ア) 第2世代移動通信システム(2G)は,欧州外においては国ごとに規格が異なるばかりか,一つの国の中ですら規格が異なっており,普遍的な運用互換性がなかった。また,米国,日本,欧州は,それぞれ互換性のない規格に従ったシステムを運用していた。そのような状況の中,従来の音声サービスだけでなく,データサービス及びマルチメディアサービスを提供する第3世代移動通信システム(3G)の普及促進と付随する仕様の標準化を目的として,ETSI(欧州電気通信標準化機構)などの世界の標準化団体が結集し,1998年(平成10年)に3GPPという名称の標準化団体を結成した。(イ) ETSIは,知的財産権(IPR)の取扱いに関する方針として,IPRポリシーを定めている。一般に,技術の標準化を進めることによって,製品間の互換性を確保し,製造・調達のコストを削減し,また,研究開発の効率化や他社との提携機会の拡大等の効果が見込まれ,さらには,エンドユーザーにとっても,製品・サービスの利便性の向上,製品価格やサービス料金の低減につながるといった意義があると考えられるが,他方で,企業は,知的財産権に基づいて技術の実施を独占することで,競合他社による当該技術の実施を禁止し,自社の売上げの増加を図っているところ,ある特定の知的財産権が標準化された技術の規格に必須とされた場合,当該知的財産権を保有する企業が,その標準規格を使用して製品化を図る他の企業に対し,当該知的財産権の実施を禁止すると脅しつつ,法外な実施料やその他の理不尽なライセンス条件を要求して,これに強制的に同意させるという状況が策出されるおそれがあり,また,他の企業は,当該知的財産権の実施許諾を得られない結果,既に標準規格の適用のために行った投資(開発投資・設備投資)が無駄になるおそれがあり,ひいては,技術の標準化による普及が著しく阻害される可能性があることを踏まえて,通信分野における技術の標準化の必要性と知的財産権の保有者の権利との間のバランスをとることが要請されている。ETSIのIPRポリシーは,このような要請に応えることを目的とするものである(3.1項の「方針の目的」参照)。(ウ) ETSIのIPRポリシーには,次のような規定がある。a IPRポリシー4.1項は,各会員は,自らが参加する規格技術仕様の開発の間は特に,ETSIに必須IPRについて適時に知らせるため合理的に取り組むものとし,特に,規格又は技術仕様の技術提案を行う会員は,善意をもって,提案が採択された場合に必須となる可能性のあるその会員のIPRについてETSIの注意を喚起する旨を規定し,4.3項は,4.1項の義務は,ETSIにこの特許ファミリーの構成要素について適時に知らされた場合には,全ての既存及び将来のその特許ファミリーの構成要素につき満たされたとみなされる旨を規定する。b IPRポリシー6.1項は,特定の規格又は技術仕様に関連する必須IPRがETSIに知らされた場合,ETSIの事務局長は,少なくとも製造(製造で使用するべく,ライセンシー自身の設計で,カスタマイズした部品及びサブシステムを製造又は過去から引き続き製造する権利を含む。),製造した機器の販売,賃貸,処分,修理又は使用,動作及び方法の使用の範囲で,当該IPRにおける取消不能なライセンスを「公正,合理的かつ非差別的な条件」(FRAND条件)で許諾する用意があることを書面で取消不能な形で3か月以内に保証することを,当該IPRの所有者に直ちに求めるものとする旨,上記保証は,ライセンスの相互供与に同意することを求めるという条件に従い行われる場合がある旨を規定し,6.2項は,6.1項の保証は,保証が行われた時点で指定したIPRを除外する旨を明示する書面がある場合を除き,その特許ファミリーの全ての既存及び将来の必須IPRに適用されるものとする旨を規定し,6.3項は,要請されたIPRの所有者の保証が許諾されない場合,委員会の委員長は,適切な場合,ETSI事務局と協議の上,問題が解決するまで,委員会が規格又は技術仕様についての作業を停止すべきかどうかについて判断し,「および/または」関連の規格または技術仕様の承認を行う旨を規定する。c IPRポリシー15項6は,IPRに適用される「必須」とは,(商業的ではなく)技術的な理由で,標準化の時点で一般に利用可能な通常の技術慣行および最新技術を考慮し,IPRに抵触せずに規格に準拠する機器又は方法を製造又は販売,賃貸,処分,修理,使用または動作できないことを意味する旨を規定する。d IPRポリシー12項は,IPRポリシーはフランス法に準拠する旨を規定する。(エ) IPRポリシーを補足する「IPRについてのETSIの指針」には,次のような規定がある。a IPRについてのETSIの指針1.1項は,「本指針の主な特徴は,次のように簡略化できる」と規定する。「・会員は,ライセンスの許諾を拒否する権利を含む,自らが保有するIPRを保持しその利益を得る権利を完全に有する。・ETSIは,ETSIの技術的な目的に最も資する解決策に基づく規格および技術仕様を作成することを目的としている。・この目的を達成するに当たり,ETSIのIPRについての方針では,通信分野での一般利用の標準化の必要性と,IPRの所有者の権利との間のバランスを取ることが求められる。・IPRについての方針は,規格の準備および採用,適用への投資が,規格または技術仕様についての必須IPRを使用できない結果無駄になる可能性があるというリスクを軽減するためのものである。・よって,規格作成過程の可能な限り早期に,必須IPRの存在を知っていることが,特にライセンスが公正,合理的かつ非差別 的 な ( F R A N D ) 条 件 を 利 用 で き な い 場 合 に 必 要 で ある。」b IPRについてのETSIの指針1.4項は,ETSIのIPRについての方針は,機関としてのETSI及びその会員,事務局の権利及び義務を定義するものであり,ETSIの非会員にも,方針の下で特定の権利はあるが,法的な義務は有さない旨を規定し,同項に掲げる「表」中には,次のような記載がある。「会員の権利」「・自らのIPRを規格に含めることを拒否すること(8.1項及び8.2項)。・規格に関し,公正,合理的かつ非差別的な条件でライセンスが許諾されること(6.1項)。」「会員の義務」「・ETSIに,自らのIPR及び他者の必須IPRについて知らせる(4.1項)。・必須IPRの所有者は,公正,合理的かつ非差別的な条件でライセンスを許諾することを保証することが求められる(6.1項)。」「第三者の権利」「・第三者には,必須IPRの所有者として,又はETSI規格若しくは文書のユーザーとして,ETSIのIPRについての方針の下で,次の特定の権利を有する。○少なくとも製造及び販売,賃貸,修理,使用,動作するため,規格に関し,公正,合理的かつ非差別的な条件でライセンスが許諾されること(6.1項)。」イ 本件FRAND宣言に至るまでの経緯(ア) ETSIの会員である債権者は,1998年(平成10年)12月14日,ETSIに対し,UMTS規格としてETSIが推進しているW-CDMA技術に関し,債権者の保有する必須IPRライセンスを,ETSIのIPRポリシー6.1項に従って,「公正,合理的かつ非差別的な条件」(FRAND条件)で許諾する用意がある旨の宣言をした。(イ) 債権者は,2005年(平成17年)5月4日,韓国において,本件出願の優先権主張の基礎となる特許出願(優先権主張番号10-2005-0037774)をした。(ウ) 債権者は,2005年(平成17年)5月9日から13日にかけて,3GPPのワーキンググループに対し,その当時の規格を記載した本件技術仕様書V6.3.0について,「RLC UMでの動作時に任意で使用される「代替的Eビット解釈」の導入」及び「RLCPDUがRLC SDUの最初のオクテットでも最後のオクテットでもない場合に「長さインジケータ」に設定する新たな所定値の導入」を要請する旨の変更リクエストを提出した。その後,上記変更リクエストが採用され,同年6月に発行された3GPP規格の本件技術仕様書V6.4.0の「拡張ビット(Eビット)」の項(9.2.2.5項)において,従来からある通常Eビット解釈のオプション規格としての代替的Eビット解釈(非確認モード(UM)でデータを伝送する場合に,シーケンス番号(SN)に続くEビットについて,上位レイヤーのコンフィギュレーションが代替的Eビット解釈を使用することを選択した場合にのみ使用される規格)が記載され,代替的Eビット解釈は,標準規格の一つとされた。(エ) 債権者は,平成18年5月4日,本件出願をした。その後,債権者は,平成22年12月10日,本件特許権の設定登録を受けた。(オ) 債権者は,2007年(平成19年)8月7日,ETSIに対し,「IPRの情報についての声明及びライセンスの宣言」と題する書面を提出することにより,ETSIのIPRポリシー4.1項に従って,本件出願の優先権主張の基礎となる韓国出願の出願番号,本件出願の国際出願番号(PCT/KR2006/001699)等に係るIPRが,UMTS規格(TS 25.322等)に関連した必須IPRであるか,又はそうなる可能性が高い旨を知らせるとともに,そのIPRが引き続き必須である範囲で,規格に関し,IPRポリシー6.1項に準拠する条件(FRAND条件)で,取消不能なライセンスを許諾する用意がある旨の宣言(本件FRAND宣言)をした。上記書面には,この保証は,ライセンスを求める者がIPRポリシー6.1項に従い,規格に関し,相互にライセンスを供与することの条件に従い行われる旨,本件FRANDの構成,有効性及び実行は,フランス法に準拠する旨の記載がある。ウ 本件FRAND宣言後の経緯等(ア) アップル社は,2011年(平成23年)4月,米国において,債権者に対し,債権者が「iPhone」及び「iPad」に関するアップル社の知的財産権を侵害したと主張して侵害訴訟を提起した。なお,アップル社主張の知的財産権は,標準規格に必須とされるものではない。(イ) 前記(ア)のアップル社による米国での訴訟提起の後,債権者は,平成23年4月21日,本件申立てをした。(ウ)a アップル社は,2011年(平成23年)4月29日付け書簡で,債権者に対し,●(省略)●等を明らかにするよう要請した。b 債権者は,2011年(平成23年)5月13日付け書簡で,アップル社に対し,アップル社が求めるライセンスの条件(対象特許の特定,期間,アップル社が保有する必須特許のクロスライセンスの可能性等)を明らかにすること及び今後の交渉について双方機密扱いで行うよう要請し,さらに,同年6月3日付け書簡で,債権者は,FRAND条件でアップル社にライセンスを提供する用意があるが,当該ライセンスの条件を規定する前に,機密保持契約を締結することを求める旨を述べた。アップル社は,同月22日付け書簡で,債権者に対し,●(省略)●旨を述べた。これらの経緯を踏まえて,アップル社と債権者は,同年7月20日付けで秘密保持契約(以下「アップル社と債権者間の秘密保持契約」という。)を締結した。(エ) 債権者は,2011年(平成23年)7月25日付け書簡で,アップル社に対し,FRAND条件に従って,UMTS規格に必須の債権者の保有する特許(出願中のものを含む。)の全世界的かつ非独占的なライセンスを,関連する「●(省略)●%の料率」でライセンス供与する用意ができていることを提示(以下「債権者の本件ライセンス提示」という。)し,●(省略)●旨を伝えた。これに対し,アップル社は,同年8月18日付け書簡で,債権者に対し,●(省略)●との意見を述べるとともに,債権者の本件ライセンス提示がFRAND条件に従ったものとアップル社において判断することができるようにするために,アップル社と債権者間の秘密保持契約に基づいて,債権者がアップル社に支払うことを求めるロイヤルティ料率を他社も支払っているかの確認を含む情報,債権者と他社との間の必須特許のライセンス契約に関する情報を開示するよう要請した。アップル社の上記意見は,①UMTS規格に不可欠とされる特許のあらゆる所有者が全体として要求できるロイヤルティ料率の合計には上限があると考えられており,債権者も別の訴訟において,そのようなロイヤルティ料率の合計が「約5%」であるべきだと主張しているところ,全世界においてUMTS規格に不可欠と宣言された1889の特許ファミリーのうち,債権者が保有しているものがその5.5%に当たる103にすぎないこと(2009年に「Fairfield ResourcesInternational」が実施した調査結果)に鑑みると,債権者がアップル社に対して要求できるロイヤルティ料率は,高くても0.275%(5%×5.5%)と捉えるべきである,②債権者がUMTS規格に不可欠と宣言する特許は移動体通信チップの機能性にのみ関連するものであるから,当該部品の価格あるいは少なくとも通信装置の業界平均価格を基準とすべきであるところ,債権者提示のライセンス料率は,●(省略)●を基準とし,その料率に係る数値も上記①の数値をはるかに上回る点で,法外に高いなどというものである。(オ)a 債権者は,2012年(平成24年)1月31日付け書簡で,アップル社に対し,●(省略)●などの意見を述べた上で,債権者の本件ライセンス提示がアップル社にとって不本意な内容であるならば,アップル社において,真摯な対案を提示するよう要請をした。b アップル社は,2012年(平成24年)3月4日付け書簡で,債権者に対し,自社が行ったUMTS規格に必須であると債権者が主張する日本における三つの特許(特許第4642898号(本件特許),特許第4299270号及び特許第4291328号)に関する分析結果を反映したライセンス条件を提案するものとして,ライセンス契約書案を添付して,ライセンス契約の申出をした。その概要は,同契約書案記載のとおり,●(省略)●%をロイヤルティとして支払うという内容のものである。これを受けて,債権者は,同年4月18日付け書簡で,アップル社に対し,アップル社の上記ライセンス契約の申出について,●(省略)●ロイヤルティ料率●(省略)●%という金銭的条件が低額であり不合理であること,●(省略)●などを理由に,FRAND条件に基づくライセンス契約の申出に当たらないなどと意見を述べた。(カ)a アップル社は,2012年(平成24年)9月1日付け書簡で,債権者に対し,2G,3G及び4G(LTE)に対応する携帯機器標準規格必須特許全体を対象として,クロスライセンスの提案を含むFRAND条件に基づくライセンス許諾の枠組みを提案する用意がある旨を表明した。b 債権者は,2012年(平成24年)9月7日付け書簡で,アップル社に対し,アップル社の同月1日付け書簡は,●(省略)●などの意見を述べた上で,●(省略)●を提案した。c ア ッ プル 社 は, 2 01 2 年 (平 成 24 年 ) 9月 7 日付 け 書簡(で,債権者に対し,ロイヤルティ料率を算定するに当たってのアップル社の基本的な考え,算定基準等を示した上で,全てのフィーチャーフォン,スマートフォン及び携帯型タブレットに関する両当事者間の1台当たりのロイヤルティの構成として,携帯機器標準規格必須特許全体のロイヤルティを1台当たり●(省略)●ドルを上限とすべきであるとの前提に立ち,債権者がアップル社に請求できるロイヤルティ料率をその●(省略)●%(1台当たり●(省略)●ドル),アップル社が債権者に請求できるロイヤルティ料率をその●(省略)●%(1台当たり●(省略)●ドル)とするライセンス案を提示した。アップル社の上記書簡には,①ロイヤルティ料率を算定するに当たってのアップル社の基本的な考えとして,「●(省略)●」(訳文1頁33行~2頁4行,3頁1行~8行,20行~21行),②「●(省略)●」(訳文4頁28行~39行)などの記載がある。エ 本件特許の位置付け本件特許は,UMTS規格の本件技術仕様書V6.9.0記載の「代替的Eビット解釈」に準拠した製品の製造,販売等及び方法の使用をするのに避けることのできない必須特許である。(2) 準拠法について本件は,韓国法人である債権者が,日本法人である債務者に対し,本件特許権に基づく差止請求権を被保全権利として,債務者に対し,本件各製品の生産,譲渡等の差止めを求めた仮処分命令申立事件であり,渉外的要素を含むものであるから,準拠法を決定する必要がある。特許権に基づく差止請求の準拠法は,当該特許権が登録された国の法律であると解される(最高裁判所平成14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁)から,本件には,日本法が適用される。以上を前提に,債権者による本件特許権に基づく差止請求権の行使が権利の濫用に当たるか否かについて判断することとする。(3) 権利濫用の成否について債務者は,債権者が意図的に本件特許について適時開示義務に違反したこと,債権者の本件仮処分の申立てが報復的な対抗措置であること,債権者が本件FRAND宣言に基づく標準規格必須宣言特許である本件特許権についてのライセンス契約締結義務及び誠実交渉義務に違反し,いわゆる「ホールドアップ状況」(標準規格に取り込まれた技術の権利行使によって標準規格の利用を望む者が利用できなくなる状況)を策出していること,かかる債権者の一連の行為が独占禁止法に違反することなどの諸事情に鑑みれば,債権者が債務者に対し,本件特許権に基づく差止請求権を行使することは,権利の濫用(民法1条3項)に当たり許されない旨主張する。ア(ア) 我が国の民法には,契約締結準備段階における当事者の義務について明示した規定はないが,契約交渉に入った者同士の間では,一定の場合には,重要な情報を相手方に提供し,誠実に交渉を行うべき信義則上の義務を負うものと解するのが相当である。ところで,前記前提事実によれば,①3GPPを結成した標準化団体であるETSI(欧州電気通信標準化機構)の会員である債権者は,平成19年8月7日,甲13の書面で,ETSIに対し,本件出願の国際出願番号等に係るIPR(知的財産権)がUMTS規格(3GPP規格)に必須であること,この必須IPRについて,ETSIのIPRポリシー6.1項に準拠するFRAND条件(公正,合理的かつ非差別的な条件)で,取消不能なライセンスを許諾する用意がある旨の宣言(本件FRAND宣言)をしたこと,②IPRについてのETSIの指針1.4項は,会員の義務として,「必須IPRの所有者は,公正,合理的かつ非差別的な条件でライセンスを許諾することを保証することが求められること」(IPRポリシー6.1項),会員の権利として,「規格に関し,公正,合理的かつ非差別的な条件でライセンスが許諾されること」(IPRポリシー6.1項),第三者の権利として,「少なくとも製造及び販売,賃貸,修理,使用,動作するため,規格に関し,公正,合理的かつ非差別的な条件でライセンスが許諾されること」(IPRポリシー6.1項)を定めていることが認められる。上記①及び②と審尋の全趣旨を総合すると,債権者は,ETSIのIPRポリシー6.1項,IPRについてのETSIの指針1.4項の規定により,本件FRAND宣言でUMTS規格に必須であると宣言した本件特許権についてFRAND条件によるライセンスを希望する申出があった場合には,その申出をした者が会員又は第三者であるかを問わず,当該UMTS規格の利用に関し,当該者との間でFRAND条件でのライセンス契約の締結に向けた交渉を誠実に行うべき義務を負うものと解される。そうすると,債権者が本件特許権についてFRAND条件によるライセンスを希望する具体的な申出を受けた場合には,債権者とその申出をした者との間で,FRAND条件でのライセンス契約に係る契約締結準備段階に入ったものというべきであるから,両者は,上記ライセンス契約の締結に向けて,重要な情報を相手方に提供し,誠実に交渉を行うべき信義則上の義務を負うものと解するのが相当である。そして,遅くとも,アップル社が,平成24年3月4日付け書簡で債権者に対し,債権者がUMTS規格に必須であると宣言した本件特許を含む日本における三つの特許に関するFRAND条件でのライセンス契約の申出をした時点で,アップル社から債権者に対するFRAND条件によるライセンスを希望する具体的な申出がされたものと認められ,アップル社と債権者は,契約締結準備段階に入り,上記信義則上の義務を負うに至ったものというべきである。(イ) この点に関し,債権者は,①日本法の観点からは,FRAND宣言により誠実交渉義務が生じるのは,ライセンス対象特許の有効性を争うことなく,真にライセンスを受けることを希望する「確定的なライセンスの申出」が必要であると解すべきである,②アップル社の債権者に対する平成24年3月4日の申出は,債権者の本件特許の抵触性と有効性を争うものであるから,そもそも「確定的なライセンスの申出」に該当しないし,③また,アップル社の上記申出の内容は,「●(省略)●%」という不合理に低額なライセンス料率を提示するものであって,交渉が成立しないことを知った上で,申出の外形を形式的に策出しただけの真にライセンスを受ける意思のないものであり,この点においても,上記申出が「確定的なライセンスの申出」に該当しないとして,債権者には,本件FRAND宣言に基づく誠実交渉義務が発生していない旨主張する。しかしながら,債権者の主張は,以下のとおり理由がない。a 上記①及び②についてFRAND宣言に基づく標準規格必須宣言特許についてのFRAND条件によるライセンスを希望する申出は,許諾対象特許の有効性を留保するものであったとしても,その申出の内容が許諾対象特許が有効であることを前提とする具体的なものであり,FRAND条件によるライセンスを受けようとする意思が明確であるときは,上記申出により,FRAND宣言をした者と上記申出をした者との間で,前記(ア)の信義則上の義務が発生するというべきである。しかるところ,アップル社の平成24年3月4日付け申出は,許諾対象特許を本件特許を含む三つの日本国特許に特定し,ライセンス料率等の詳細なライセンス条件を記載したライセンス契約書案を添付した具体的なものであり,その記載内容に照らし,アップル社におけるFRAND条件によるライセンスを受けようとする意思が明確であることが認められる。もっとも,上記契約書案の「●(省略)●」には,「●(省略)●」(訳文2頁2行~4行)との記載があり,アップル社の上記申出は,許諾対象特許とされた本件特許の有効性を留保するものといえる。しかし,上記条項の記載内容自体は格別不合理なものではない上,債権者がアップル社の子会社である債務者に対し本件特許権に基づく本件各製品の輸入,譲渡等の差止めを求める本件仮処分の申立てをし,債務者がその防御として本件特許の有効性等を争っていること,同仮処分命令申立事件はアップル社の上記申出があった当時も係属中であったこと(審尋の全趣旨)を踏まえると,アップル社が上記申出において本件特許の有効性を留保しているからといって,直ちにアップル社においてFRAND条件によるライセンスを受けようとする意思がないということはできない。したがって,債権者の主張①及び②は,理由がない。b 上記③についてアップル社が平成24年3月4日付け申出において提示したライセンス料率(ロイヤルティ料率)は日本国における●(省略)●%というものであるが,そのライセンス料率の数値のみからFRAND条件に適合しない不合理に低額なものであり,アップル社においてFRAND条件によるライセンスを受けようとする意思がないものと断ずることはできないし(前記前提事実に照らすと,上記ライセンス料率は,アップル社が平成23年8月18日付け書簡で示した全世界におけるUMTS規格に不可欠と宣言された特許ファミリーのうち,債権者が保有しているものの割合を踏まえたものであることがうかがわれる。),アップル社において上記ライセンス料率以外の条件でライセンス契約を締結する意思が全くなかったとまで認めることはできない。したがって,債権者の主張③は,理由がない。イ そこで,債権者において前記ア(ア)の信義則上の義務違反があったかどうかについて検討する。前記前提事実と審尋の全趣旨によれば,①債権者は,平成23年7月20日付けで秘密保持契約(アップル社と債権者間の秘密保持契約)を締結した後,同月25日付け書簡で,アップル社に対し,FRAND条件に従って,UMTS規格に必須の債権者の保有する特許(出願中のものを含む。)の全世界的かつ非独占的なライセンスを,関連する「●(省略)●%の料率」でライセンス供与する用意ができていることを提示(債権者の本件ライセンス提示)し,●(省略)●,その際,債権者は,上記ライセンス条件の「●(省略)●%の料率」の算定根拠を示さなかったこと,②アップル社は,同年8月18日付け書簡で,債権者に対し,債権者の本件ライセンス提示について,全世界においてUMTS規格に不可欠と宣言された1889の特許ファミリーのうち,債権者が保 有 し て い る も の が そ の 5 . 5 % に 当 た る 1 0 3 に す ぎ な い こ と(「Fairfield Resources International」が実施した調査結果)からすると,債権者がアップル社に対して要求できるロイヤルティ料率は,高くても0.275%(5%×5.5%)と捉えるべきであることなどを理由に,債権者の本件ライセンス提示に係るライセンス料率が法外な高さであり,FRAND条件に従ったものでないとの意見を述べるとともに,債権者の本件ライセンス提示がFRAND条件に従ったものとアップル社において判断することができるようにするために,アップル社と債権者間の秘密保持契約に基づいて,債権者がアップル社に支払うことを求めるロイヤルティ料率を他社も支払っているかの確認を含む情報,債権者と他社との間の必須特許のライセンス契約に関する情報を開示するよう要請したこと,③債権者は,平成24年1月31日付け書簡で,アップル社に対し,●(省略)●債権者の本件ライセンス提示がアップル社にとって不本意な内容であるならば,アップル社において,真摯な対案を提示するよう要請をしたが,その際,債権者は,債権者の本件ライセンス提示に係るライセンス料率(ロイヤルティ料率)の算定根拠を示さなかったこと,④アップル社は,平成24年3月4日付け書簡で,債権者に対し,債権者がUMTS規格に必須であると宣言した本件特許を含む日本における三つの特許について,●(省略)●%をロイヤルティとして支払う旨のFRAND条件でのライセンス契約の申出をしたこと,⑤債権者は,同年4月18日付け書簡で,アップル社に対し,アップル社の上記④の申出は,日本における三つの特許の個々につきロイヤルティ料率●(省略)●%という金銭的条件が低額であり不合理であること,●(省略)●などを理由に,FRAND条件に基づくライセンスの申出に当たらないなどと意見を述べたこと,⑥アップル社は,同年9月1日付け書簡で,債権者に対し,2G,3G及び4G(LTE)に対応する携帯機器標準規格必須特許全体を対象として,クロスライセンスの提案を含むFRAND条件に基づくライセンス許諾の枠組みを提案する用意がある旨を表明し,さらに,同月7日付け書簡で,債権者に対し,ロイヤルティ料率を算定するに当たってのアップル社の基本的な考え,算定基準等を示した上で,全てのフィーチャーフォン,スマートフォン及び携帯型タブレットに関する両当事者間の1台当たりのロイヤルティの構成として,携帯機器標準規格必須特許全体のロイヤルティを1台当たり●(省略)●ドルを上限とすべきであるとの前提に立ち,債権者がアップル社に請求できるロイヤルティ料率をその●(省略)●%(1台当たり●(省略)●ドル),アップル社が債権者に請求できるロイヤルティ料率をその●(省略)●%(1台当たり●(省略)●ドル)とするライセンス案を提示したこと,⑦一方,債権者は,同月7日付け書簡で,アップル社に対し,上記⑥のアップル社の同月1日付け書簡は,●(省略)●を提案したことが認められる。これらの認定事実に加えて,本件疎明資料上,アップル社が平成24年9月7日付け書簡で提示したライセンス案について,債権者がいかなる対応をしたのか不明であることを総合すると,①アップル社と債権者間の本件特許権についてのライセンス交渉の過程において,債権者は,平成23年7月25日付け書簡で,アップル社に対し,本件FRAND条件に従ったライセンス条件として,UMTS規格に必須の債権者の保有する特許(出願中のものを含む。)の全世界的かつ非独占的なライセンスについて「●(省略)●%の料率」の提示(債権者の本件ライセンス提示)をしたものの,その際には,上記ライセンス条件の算定根拠を示すことがなかった上,その後,アップル社から,債権者の本件ライセンス提示がFRAND条件に従ったものとアップル社において判断することができるようにするために,債権者がアップル社に支払うことを求めるロイヤルティ料率を他社も支払っているかの確認を含む情報,債権者と他社との間の必須特許のライセンス契約に関する情報を開示するよう要請があったにもかかわらず,平成24年9月7日に至っても上記ライセンス条件の算定根拠を示すことはなかったこと,②その間,債権者は,アップル社が同年3月4日付け書簡で債権者がUMTS規格に必須であると宣言した本件特許を含む日本における三つの特許について,●(省略)●%をロイヤルティとして支払う旨のFRAND条件でのライセンス契約の申出をし,さらには,同年9月7日付け書簡でロイヤルティ料率を算定するに当たってのアップル社の基本的な考え,算定基準等を示した上で,クロスライセンスを含む具体的なライセンス案を提示しているにもかかわらず,アップル社が債権者の本件ライセンス提示を不本意とするならば,アップル社において具体的な提案をするよう要請するのみで,アップル社が提示したライセンス条件に対する具体的な対案を示していないことが認められる。上記①及び②に鑑みると,債権者は,アップル社の再三の要請にもかかわらず,アップル社において債権者の本件ライセンス提示又は自社のライセンス提案がFRAND条件に従ったものかどうかを判断するのに必要な情報(債権者と他社との間の必須特許のライセンス契約に関する情報等)を提供することなく,アップル社が提示したライセンス条件について具体的な対案を示すことがなかったものと認められるから,債権者は,UMTS規格に必須であると宣言した本件特許に関するFRAND条件でのライセンス契約の締結に向けて,重要な情報をアップル社に提供し,誠実に交渉を行うべき信義則上の義務に違反したものと認めるのが相当である。これに反する債権者の主張は,採用することができない。ウ 以上のとおり,債権者が,債務者の親会社であるアップル社に対し,本件FRAND宣言に基づく標準規格必須宣言特許である本件特許権についてのFRAND条件でのライセンス契約の締結準備段階における重要な情報を相手方に提供し,誠実に交渉を行うべき信義則上の義務に違反していること,債権者のETSIに対する本件特許の開示(本件出願の国際出願番号の開示)が,債権者の3GPP規格の変更リクエストに基づいて本件特許に係る技術(代替的Eビット解釈)が標準規格に採用されてから,約2年を経過していたこと,その他アップル社と債権者間の本件特許権についてのライセンス交渉経過において現れた諸事情を総合すると,債権者が,上記信義則上の義務を尽くすことなく,債務者に対し,本件各製品について本件特許権に基づく差止請求権を行使することは,権利の濫用に当たるものとして許されないというべきである。
3 結論以上によれば,本件申立ては,被保全権利についての疎明を欠くので,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないから却下することとし,申立費用の負担については民事保全法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり決定する。平成25年2月28日東京地方裁判所民事第46部裁判長裁判官 大 鷹 一 郎裁判官 高 橋 彩裁判官 上 田 真 史(別紙) 物件目録
1 「iPhone 4」
2 「iPad 2 Wi-Fi+3Gモデル」(別紙1)3GPP TS25.322 V6.9.0(抜粋)
1 「4.2.1.2 Unacknowledged mode (UM) RLC entitiesFigure 4.3 below shows the model of two unacknowledged mode peer RLCentities when duplicate avoidance and reordering is not configured.」(訳文)「4.2.1.2 アンアクナリッジドモード(UM)RLCエンティティ下記に示す図4.3は,重複回避及びリオーダリングを有しない2つのアンアクナリッジモード(UM)ピアRLCエンティティを示す。」T ra n sm ittingU M R L Ce n tityT ra n sm issio nb u ffe rU M -S A PR e c e iv in gU M R L Ce n tityR e c e p tio nb u ffe rU M -S A PR a d io In te rfa c e (U u )S e g m e n ta tio n &C o n c a te n a tio nC ip h e rin gA d d R L C h e a d e rR e a sse m b lyD e c ip h e rin gR e m o v e R L Ch e a d e rD C C H /D T C H – U EC C C H /S H C C H /D C C H /D T C H /C T C H /M C C H /M S C H /M T C H – U T R A ND C C H /D T C H – U T R A NC C C H /S H C C H /D C C H /D T C H /C T C H /M C C H /M S C H /M T C H – U EU E /U T R A N U T R A N /U EFigure 4.3a:Model of two unacknowledged mode peer entitiesconfigured for use with duplicate avoidance and reordering」
2 「4.2.1.2.1 Transmitting UM RLC entityThe transmitting UM-RLC entity receives RLC SDUs from upper layers throughthe UM-SAP.The transmitting UM RLC entity segments the RLC SDU into UMD PDUsof appropriate size, if the RLC SDU is larger than the length of availablespace in the UMD PDU.」(訳文)「4.2.1.2.1 送信UM RLC エンティティ送信UM-RLCエンティティは,上位レイヤからUM-SAPを通じてRLC SDUsを受信する。送信UM RLCエンティティは,もしRLC SDUがUMD PDUの利用可能なスペースの長さより大きい場合には,RLC SDUを適当なサイズのUMD PDUsに分割する。」
3 「9.2.1.3 UMD PDUThe UMD PDU is used to transfer user data when RLC is operating inunacknowledged mode. The length of the data part shall be a multiple of 8bits. The UMD PDU header consists of the first octet, which contains the"Sequence Number". The RLC header consists of the first octet and all theoctets that contain "Length Indicators". 」(訳文)「9.2.1.3 UMD PDUUMD PDUは,RLCがUMモードで動作しているときに,ユーザーデータを転送するために用いられる。データパートの長さは,8ビットの倍数である。UMD PDUヘッダは,「一連番号」を含む最初のオクテットで構成される。RLCヘッダは,最初のオクテットと,「長さインジケータ」を含むすべてのオクテットで構成される。」Oct1ELength IndicatorDataPADLast OctetELength Indicator (Optional) (1)...ESequence Number(Optional)(Optional)Figure 9.2: UMD PDU
4 「9.2.2.5 Extension bit(E)Length:1bit.The interpretation of this bit depends on RLC mode and higher layerconfiguration:- In the UMD PDU, the "Extension bit" in the first octet has either thenormal E-bit interpretation or the alternative E-bit interpretationdepending on higher layer configuration. The "Extension bit" in all theother octects always has the normal E-bit interpretation.- In the AMD PDU, the "Extension bit" always has the normal E-bitinterpretation.Normal E-bit interpretation:Bit Description0 The next field is data, piggybackedSTATUS PDU or padding1 The next field is Length Indicatorand E bitAlternative E-bit interpretation:Bit Description0 The next field is a complete SDU,which is not segmented,concatenated or padded.1 The next field is Length Indicatorand E bit」(訳文)「9.2.2.5 エクステンションビット(E)長さ:1ビットこのビットの解釈は,RLCのモード及び上位レイヤーのコンフィギュレーションに依存する。- UMD PDUにおいて,最初のオクテットに含まれる「拡張ビット」は,上位レイヤーのコンフィギュレーションに応じて,通常Eビット解釈又は代替的Eビット解釈のいずれかを有する。他の全てのオクテットに含まれる「拡張ビット」は,常に通常Eビット解釈を有する。- AMD PDUにおいて,「拡張ビット」は,常に通常Eビット解釈を有する。通常Eビット解釈:Bit 記述0 次のフィールドは,データ,ピギーバック状態のPDU,又はパディング1 次のフィールドは,長さインジケータとEビット代替的Eビット解釈:Bit 記述0 次のフィールドは,分割,連結,パディングされていない完全なSDU1 次のフィールドは,長さインジケータとEビット」5(1) 「9.2.2.8 Length Indicator (LI)Unless the "Extension bit" indicates that a UMD PDU contains a completeSDU which is not segmented, concatenated or padded, a "Length Indicator" isused to indicate the last octet of each RLC SDU ending within the PDU.」(訳文)「9.2.2.8 長さインジケータ(LI)「エクステンションビット」が,UMD PDUが分割,連結,パディングのいずれもなされていない完全なSDUを含むことを示していなければ,「長さインジケータ」は,PDUの中のそれぞれのRLC SDUが終わる最後のオクテットを示すものとして用いられる。」(2) 「In the case where the "alternative E-bit interpretation" is configured forUM RLC and an RLC PDU contains a segment of an SDU but neither the firstoctet nor the last octet of this SDU:-if a 7-bit "Length Indicator" is used:-the "Length Indicator" with value "111 1110" shall be used.-if a 15-bit "Length Indicator" is used:- the "Length Indicator" with value "111 1111 1111 1110" shall be used.」(訳文)「UM RLCのための「代替的Eビット解釈」が設定され,かつ,RLC PDU がSDUのセグメントを含むがSDUの最初のオクテットも最後のオクテットも含まない場合であって,-7ビットの「長さインジケータ」が用いられるときには,値「111 1110」を持つ「長さインジケータ」を用い,-15ビットの「長さインジケータ」が用いられるときには,値「111 1111 11111110」を持つ「長さインジケータ」を用いる。」
事件の概要 1 事案の要旨 本件は,発明の名称を「移動通信システムにおける予め設定された長さイ ンジケータを用いてパケットデータを送受信する方法及び装置」とする特許 第4642898号の特許権(以下,この特許を「本件特許」,この特許権 を「本件特許権」という。)の特許権者である債権者が,債務者による別紙 物件目録1及び2記載の各製品(以下「本件各製品」という。)の輸入及び 販売が本件特許権の侵害に当たる旨主張して,本件特許権に基づく差止請求 権を被保全権利として,債務者に対し,本件各製品の生産,譲渡等の差止め 及び執行官保管を求めた仮処分命令申立事件である。

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判決文

平成23年(ヨ)第22027号 特許権仮処分命令申立事件
決 定
大韓民国京畿道水原市<以下略>
債 権 者 三 星 電 子 株 式 会 社
代 理 人 弁 護 士 大 野 聖 二
同 三 村 量 一
同 田 中 昌 利
同 市 橋 智 峰
同 井 上 義 隆
同 小 林 英 了
同 井 上 聡
同 逵 本 憲 祐
同 岡 田 紘 明
代 理 人 弁 理 士 鈴 木 守
復 代 理 人 弁 護 士 飯 塚 暁 夫
補 佐 人 弁 理 士 大 谷 寛
東京都新宿区<以下略>
債 務 者 アップルジャパン株式会社承継人
Apple Japan合同会社
代 理 人 弁 護 士 長 沢 幸 男
同 矢 倉 千 栄
同 片 山 英 二
同 北 原 潤 一
同 岡 本 尚 美
同 岩 間 智 女
同 梶 並 彰 一 郎
代 理 人 弁 理 士 加 藤 志 麻 子
復 代 理 人 弁 護 士 永 井 秀 人
同 金 子 晋 輔
同 稲 瀬 雄 一
同 石 原 尚 子
同 蔵 原 慎 一 朗
復 代 理 人 弁 理 士 大 塚 康 徳
補 佐 人 弁 理 士 大 塚 康 弘
同 坂 田 恭 弘
主 文
1 本件申立てをいずれも却下する。
2 申立費用は債権者の負担とする。
3 この決定に対する即時抗告のための付加期間を30日と定める。
理 由
第1 申立て
1 債務者は,別紙物件目録1及び2記載の各製品を生産し,譲渡し,貸し渡
し,輸入し,又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡若しくは貸渡しのた
めの展示を含む。)をしてはならない。
2 債務者は,前項記載の各製品に対する占有を解いて,これらを執行官に引
き渡さなければならない。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は,発明の名称を「移動通信システムにおける予め設定された長さイ
ンジケータを用いてパケットデータを送受信する方法及び装置」とする特許
第4642898号の特許権(以下,この特許を「本件特許」,この特許権
を「本件特許権」という。)の特許権者である債権者が,債務者による別紙
物件目録1及び2記載の各製品(以下「本件各製品」という。)の輸入及び
販売が本件特許権の侵害に当たる旨主張して,本件特許権に基づく差止請求
権を被保全権利として,債務者に対し,本件各製品の生産,譲渡等の差止め
及び執行官保管を求めた仮処分命令申立事件である。
2 争いのない事実等(疎明資料の摘示のない事実は,争いのない事実又は審
尋の全趣旨により認められる事実である。)
(1) 当事者
ア 債権者は,電子電気機械器具,通信機械器具及び関連機器とその部品
の製作,販売等を目的とする韓国法人である。
イ 債務者は,パーソナル・コンピュータ,コンピュータ関連機器のハー
ドウェア及びソフトウェア,コンピュータに関連する付属機器の販売等
を目的とする合同会社である。
なお,債務者は,平成23年10月30日に,米国法人のアップルイ
ンコーポレイテッド(以下「アップル社」という。)の子会社であるア
ップルジャパン株式会社を吸収合併し,本件における同社の地位を承継
した(以下においては,上記吸収合併前のアップルジャパン株式会社に
ついても「債務者」という。)。
(2) 債権者の特許権
ア 債権者(特許登録原簿上の名称「サムスン エレクトロニクス カン
パニー リミテッド」)は,平成18年5月4日,本件特許に係る国際
特許出願(国際出願番号・PCT/KR2006/001699,優先
日・平成17年5月4日,優先権主張国・韓国,日本における出願番
号・特願2008-507565号。以下「本件出願」という。)を
し,平成22年12月10日,本件特許権の設定登録を受けた(甲1,
2)。
イ 本件特許の特許請求の範囲は,請求項1ないし14から成り,その請
求項1及び8の記載は,次のとおりである(以下,請求項8に係る発明
を「本件発明1」,請求項1に係る発明を「本件発明2」といい,本件
発明1及び2を併せて「本件各発明」という。)。
「【請求項1】 移動通信システムにおけるデータを送信する方法であ
って,上位階層からサービスデータユニット(SDU)を受信し,前記
SDUが一つのプロトコルデータユニット(PDU)に含まれるか否か
を判定する段階と,前記SDUが一つのPDUに含まれる場合に,ヘ
ッダーとデータフィールドを含む前記PDUを構成する段階と,ここ
で,前記ヘッダーは,一連番号(SN)フィールドと,前記PDUが
分割,連結,またはパディングなしに前記データフィールドに前記S
DUを完全に含むことを指示する1ビットフィールドと,を含み,前
記SDUが一つのPDUに含まれない場合に,前記SDUを伝送可能
なPDUのサイズにより複数のセグメントに分割し,各PDUのデー
タフィールドが前記複数のセグメントのうち一つのセグメントを含む
複数のPDUを構成する段階と,ここで,前記各PDUのヘッダー
は,SNフィールド,少なくとも一つの長さインジケータ(LI)フ
ィールドが存在することを示す1ビットフィールド,そして前記少な
くとも一つのLIフィールドを含み,前記PDUの前記データフィー
ルドが前記SDUの中間セグメントを含むと,前記LIフィールドは
前記PDUが前記SDUの最初のセグメントでも最後のセグメントで
もない中間セグメントを含むことを示す予め定められた値に設定さ
れ,前記PDUを受信器に伝送する段階と,を有することを特徴とす
るデータ送信方法。」
「【請求項8】 移動通信システムにおけるデータを送信する装置であ
って,上位階層からサービスデータユニット(SDU)を受信し,前記
SDUが一つのプロトコルデータユニット(PDU)に含まれるか否か
を判定し,前記SDUを伝送可能なPDUサイズによって少なくとも
一つのセグメントに再構成するための伝送バッファと,一連番号(S
N)フィールドと1ビットフィールドをヘッダーに含み,前記少なく
とも一つのセグメントをデータフィールド内に含む少なくとも一つの
PDUを構成するヘッダー挿入部と,前記SDUが一つのPDUに含
まれる場合に,前記PDUが分割,連結,パディングなしに前記デー
タフィールドに前記SDUを完全に含むことを示すように前記1ビッ
トフィールドを設定し,前記PDUの前記データフィールドが前記S
DUの中間セグメントを含む場合,少なくとも一つの長さインジケー
タ(LI)フィールドが存在することを示すように前記1ビットフィ
ールドを設定する1ビットフィールド設定部と,前記SDUが一つの
PDUに含まれない場合に,前記少なくとも一つのPDUの前記1ビ
ットフィールド以後にLIフィールドを挿入し,設定するLI挿入部
と,ここで,前記PDUの前記データフィールドが前記SDUの中間
セグメントを含む場合,前記LIフィールドは前記PDUが前記SD
Uの最初のセグメントでも最後のセグメントでもない中間セグメント
を含むことを示す予め定められた値に設定され,前記LI挿入部から
受信される少なくとも一つのPDUを受信部に伝送する送信部と,を
含むことを特徴をするデータ送信装置。」
ウ 本件各発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,各構成
要件を「構成要件A」,「構成要件B」などという。)。
(ア) 本件発明1(請求項8)
A 移動通信システムにおけるデータを送信する装置であって,
B 上位階層からサービスデータユニット(SDU)を受信し,前記S
DUが一つのプロトコルデータユニット(PDU)に含まれるか否か
を判定し,前記SDUを伝送可能なPDUサイズによって少なくと
も一つのセグメントに再構成するための伝送バッファと,
C 一連番号(SN)フィールドと1ビットフィールドをヘッダーに
含み,前記少なくとも一つのセグメントをデータフィールド内に含
む少なくとも一つのPDUを構成するヘッダー挿入部と,
D 前記SDUが一つのPDUに含まれる場合に,前記PDUが分
割,連結,パディングなしに前記データフィールドに前記SDUを
完全に含むことを示すように前記1ビットフィールドを設定し,前
記PDUの前記データフィールドが前記SDUの中間セグメントを
含む場合,少なくとも一つの長さインジケータ(LI)フィールド
が存在することを示すように前記1ビットフィールドを設定する1
ビットフィールド設定部と,
E 前記SDUが一つのPDUに含まれない場合に,前記少なくとも
一つのPDUの前記1ビットフィールド以後にLIフィールドを挿
入し,設定するLI挿入部と,
F ここで,前記PDUの前記データフィールドが前記SDUの中間
セグメントを含む場合,前記LIフィールドは前記PDUが前記S
DUの最初のセグメントでも最後のセグメントでもない中間セグメ
ントを含むことを示す予め定められた値に設定され,
G 前記LI挿入部から受信される少なくとも一つのPDUを受信部
に伝送する送信部と,
H を含むことを特徴をするデータ送信装置。
(イ) 本件発明2(請求項1)
I 移動通信システムにおけるデータを送信する方法であって,
J 上位階層からサービスデータユニット(SDU)を受信し,前記S
DUが一つのプロトコルデータユニット(PDU)に含まれるか否か
を判定する段階と,
K 前記SDUが一つのPDUに含まれる場合に,ヘッダーとデータ
フィールドを含む前記PDUを構成する段階と,ここで,前記ヘッ
ダーは,一連番号(SN)フィールドと,前記PDUが分割,連
結,またはパディングなしに前記データフィールドに前記SDUを
完全に含むことを指示する1ビットフィールドと,を含み,
L 前記SDUが一つのPDUに含まれない場合に,前記SDUを伝
送可能なPDUのサイズにより複数のセグメントに分割し,各PD
Uのデータフィールドが前記複数のセグメントのうち一つのセグメ
ントを含む複数のPDUを構成する段階と,ここで,前記各PDU
のヘッダーは,SNフィールド,少なくとも一つの長さインジケー
タ(LI)フィールドが存在することを示す1ビットフィールド,
そして前記少なくとも一つのLIフィールドを含み,
M 前記PDUの前記データフィールドが前記SDUの中間セグメン
トを含むと,前記LIフィールドは前記PDUが前記SDUの最初
のセグメントでも最後のセグメントでもない中間セグメントを含む
ことを示す予め定められた値に設定され,
N 前記PDUを受信器に伝送する段階と,
O を有することを特徴とするデータ送信方法。
(3) 債務者の行為等
ア 債務者は,アップル社が製造した本件各製品を輸入し,販売してい
る。
イ(ア) 本件各製品は,本件発明1の構成要件A及びHを充足する。
(イ) 本件各製品におけるデータ送信方法は,本件発明2の構成要件I
及びOを充足する。
ウ 本件各製品は,第3世代移動通信システムないし第3世代携帯電話シ
ステム(3G)(Third Generation)の普 及促進と付随する仕様の世界
標 準 化 を 目 的 と す る 民 間 団 体 で あ る 3 G P P ( Third Generation
Partnership Project ) が 策 定 し た 通 信 規 格 で あ る U M T S 規 格
( Universal Mobile Telecommunications System) に 準 拠 し た 製 品 で あ
る(甲3ないし6,11。以下,3GPPが定める通信規格を「3GP
P規格」という。)。
UMTS規格は,日本では,W-CDMA方式(広帯域符号分割多元
接続方式)と称されている。
(4) 本件特許に関するFRAND宣言
ア 3 G P P を 結 成 し た 標 準 化 団 体 の 一 つ で あ る E T S I ( European
Telecommunications Standards Institute ) ( 欧 州 電 気 通 信 標 準 化 機
構)は,知的財産権(IPR)の取扱いに関する方針として「IPRポ
リシー」(Intellectual Property Rights Policy)を定めている。
IPRポリシーには,次のような規定がある(乙12。原文英語)。
「3 方針の目的
3.1 ETSIは,総会が提議した,ヨーロッパの通信セクターの
技術的な 目的に最 も資す る解決 策に基づ く規格お よび技術 仕様
を作成す ることを 目的と してい る。この 目的を推 進するた め,
ETSI のIPR につい ての方 針は,E TSIお よび会員 ,E
TSI規 格および 技術仕 様を適 用するそ の他の, 規格の準 備お
よび採用 ,適用へ の投資 が,規 格または 技術仕様 について の必
須IPR を使用で きない 結果無 駄になる 可能性が あるとい うリ
スクを軽 減するた めのも のであ る。この 目的を達 成するに 当た
り,ET SIのI PRに ついて の方針で は,通信 分野での 一般
利用の標 準化の必 要性と ,IP Rの所有 者の権利 との間の バラ
ンスを取ることが求められる。
3.2 IPRの所有者は,ETSIの会員またはその関連会社,第
三者であ るかによ らず, 規格お よび技術 仕様の実 装で,I PR
の使用につき適切かつ公平に扱われるものとする。」
「4 IPRの開示
4.1 …各会員は,自らが参加する規格または技術仕様の開発の間
は特に, ETSI に必須 IPR について 適時に知 らせるた め合
理的に取 り組むも のとす る。特 に,規格 または技 術仕様の 技術
提案を行 う会員は ,善意 をもっ て,提案 が採択さ れた場合 に必
須となる 可能性の あるそ の会員 のIPR について ETSI の注
意を喚起するものとする。
4.3 上記の第4.1項に従っての義務は,ETSIにこの特許フ
ァミリー の構成要 素につ いて適 時に知ら された場 合には, すべ
ての既存 および将 来のそ の特許 ファミリ ーの構成 要素につ き満
たされたとみなされる。…」
「6 ライセンスの可用性
6.1 特定の規格または技術仕様に関連する必須IPRがETSI
に知らさ れた場合 ,ET SIの 事務局長 は,少な くとも以 下の
範囲で,当該のIPRにおける取消不能なライセンス
( irrevocable licences) を 公 正 , 合 理 的 か つ 非 差 別 的 な 条 件
( fair,reasonable and non-discriminatory terms and
conditions) で許 諾 する 用 意が ある こ と を書 面で 取 消不 能 な形
で3か月 以内に保 証する ことを ,所有者 にただち に求める もの
とする。
・製造で 使用する べく, ライセ ンシー自 身の設計 で,カス タマ
イズし た部 品お よび サブ シス テム を製造 または 過去 から 引き
続き製造する権利を含む,製造。
・上記で製造した機器の販売または賃貸,処分。
・機器の修理または使用,動作,および
・方法の使用。
上記の保 証は,ラ イセン スの相 互供与に 同意する ことを求 める
という条件に従い行われる場合がある。…
6.2 特許ファミリーの指定された構成要素に関する,第6.1項
に従って の保証は ,保証 が行わ れた時点 で指定し たIPR を除
外する旨 を明示す る書面 がある 場合を除 き,その 特許ファ ミリ
ーのすべ ての既存 および 将来の 必須IP Rに適用 されるも のと
する。当 該の除外 の範囲 は,明 示的に指 定された IPRに 限定
されるものとする。
6.3 要請されたIPRの所有者の保証が許諾されない場合,委員
会の委員 長は,適 切な場 合,E TSI事 務局と協 議の上, 問題
が解決す るまで, 委員会 が規格 または技 術仕様に ついての 作業
を停止す べきかど うかに ついて 判断し, および/ または関 連の
規格または技術仕様の承認を行うものとする。」
「12 このポリシーは,フランス法に準拠する。」
「15 定義
6 IPRに適用される「必須」とは,(商業的ではなく)技術的な
理由で,標準化の時点で一般に利用可能な通常の技術慣行および最
新技術を考慮し,IPRに抵触せずに規格に準拠する機器または方
法を製造または販売,賃貸,処分,修理,使用または動作できない
ことを意味する。疑義を回避するため,規格が技術的な解決策での
み実行可能で,すべてがIPRに抵触する例外的な場合で,当該の
すべてのIPRは必須とみなされるものとする。
7 「IPR」とは,商標以外の知的財産権の適用を含む,法律によ
り参照された知的財産権を意味するものとする。疑義を回避するた
め,体裁に関連する権利または機密情報,企業秘密,同様のもの
は,IPRの定義から除外される。
9 「会員」とは,ETSIの会員または賛助会員を意味するものと
する。会員の参照は,文脈が許す場合には常に,その会員およびそ
の関連会社と解釈されるものとする。
13 「特許ファミリー」とは,優先順位の高い文書それ自体を含
む,一般に1つ以上の優先順位のあるすべての文書を意味するもの
とする。疑義を回避するため,「文書」は特許および実用新案,そ
の応用を表す。」
イ(ア) ETSIの会員である債権者は,1998年(平成10年)12
月14日,ETSIに対し,UMTS規格としてETSIが推進して
いるW-CDMA技術に関し,債権者の保有する必須IPRライセン
スを,ETSIのIPRポリシー6.1項に従って,「公正,合理的
か つ 非 差 別 的 な 条 件 」 ( fair,reasonable and non-discriminatory
terms and conditions)(以下 「FRA N D条件」と いう。) で許 諾
する用意がある旨の誓約(宣言)をした(乙5)。
(イ ) 債権者は,2007年(平成19年)8月7日,ETSIに対
し,ETSIのIPRポリシー4.1項に従って,本件出願の優先権
主張の基礎となる韓国出願の出願番号,本件出願の国際出願番号(P
CT/KR2006/001699)等に係るIPRが,UMTS規
格(TS 25.322等)に関連して必須IPRであるか,又はそ
うなる可能性が高い旨を知らせるとともに,ETSIのIPRポリシ
ー6.1項に準拠する条件(FRAND条件)で,取消不能なライセ
ンスを許諾する用意がある旨の宣言(以下「本件FRAND宣言」と
いう。)をした(乙13)。
3 当事者の主張
債権者及び債務者の各主張書面に記載されたとおりであるから,これを引
用する。
第3 当裁判所の判断
1 本件各製品についての本件発明1の技術的範囲の属否について
(1) 本件各製品の構成について
ア 本件各製品の本件技術仕様書V6.9.0の準拠の有無
債務者は,本件発明1が3GPP規格の本件技術仕様書V6.9.0
記載の「代替的Eビット解釈」(Alternative E-bit解釈)を具現化した
ものであり,同技術仕様書に準拠した本件各製品は,本件発明1の技術
的範囲に属する旨主張する。
そこで,まず,本件各製品が本件技術仕様書V6.9.0に準拠した
製品といえるかどうかについて判断する。
(ア) 代替的Eビット解釈
本件技術仕様書V6.9.0の9.2.2.5項,9.2.2.8
項及び9.2.2.8.1項(別紙1参照)には,①伝送モードが非
確認モードのPDU(UMD PDU)の最初のオクテットに含まれ
るEビット(拡張ビット)について,「通常Eビット解釈」又は「代
替的Eビット解釈」が上位レイヤーのコンフィギュレーションに応じ
て選択的に適用されること,②「代替的Eビット解釈」の下では,最
初のオクテットに含まれるEビットが「0」の場合は,「次のフィー
ルドは,分割,連結,パディングされていない完全なSDU」である
ことを,「1」の場合は,「次のフィールドは,長さインジケータと
Eビット」であることを示すこと,③「長さインジケータ」は,最初
のオクテットに含まれるEビットが「分割,連結,パディングされて
いない完全なSDU」であることを示していなければ,PDUの中の
それぞれのSDU(RLC SDU)が終わる最後のオクテットを示
すものとして用いられること,④「代替的Eビット解釈」が設定さ
れ,かつ,PDU(RLC PDU)がSDUのセグメントを含む
が,SDUの最初のオクテットも最後のオクテットも含まない場合に
は,「長さインジケータ」は,「111 1110」の値を持つ7ビ
ットの長さインジケータ又は「111 1111 1111 111
0」の値を持つ15ビットの長さインジケータが用いられることが記
載されている。
(イ) 本件実機テスト
a 疎明資料(甲21,22,49)及び審尋の全趣旨によれば,次
の事実が認められる。
(a) カナダ法人のチップワークス社が本件各製品について,「基
地局エミュレータ」 として,CMW 50 0を用いたテスト( 本件
実機テスト)を行った。
CMW500は,W-CDMA方式に対応している。
(b) 本件実機テストのテスト1は,「PDUサイズ:488ビッ
ト,SDUサイズ: 480ビット」 の設 定で,「PDUが分 割,
連結,パディングさ れていない完全 なS DUを含む場合」の テス
トであり,テスト2 は,「PDUサ イズ :80ビット,SD Uサ
イズ:480ビット 」の設定で,最 初と 最後を除いた「中間 セグ
メント」としてのP DU(例えば, 2番 目のPDU)をモニ タす
るテストである。
(c) 本件実機テストの結果は,次のとおりである。
① テスト1の場合には,一連番号(SN)に続くEビットが
「0」と なり,長 さイン ジケー タを含ま ないPD Uが出力 され
ている(甲21の図12,14)。
② テスト2の場合には,一連番号(SN)に続くEビットが
「1」と なり,長 さイン ジケー タとして 所定値( 1111 11
0)を含むPDUが出力されている(甲21の図13,1
5)。
b 前記aの本件実機テストの結果が示すEビットの値及び長さイン
ジケータの値は,前記(ア)の代替的Eビット解釈を採用した場合の
値と整合しており(テスト1は前記(ア)②及び③と,テスト2は前
記(ア)②及び④とそれぞれ整合する。),本件各製品は,代替的E
ビット解釈の機能を実装していることが認められる。
c こ れ に 対 し 債 権 者 は , 本 件 実 機 テ ス ト の 結 果 の
「 Interpretation 」 の 欄 に 「 次 の オ ク テ ッ ト : デ ー タ ( 「 next
octet: data」)」と表示されており,「分割,連結,パディングさ
れていない完全なSDU」と表示されていないから,本件実機テス
トでは,代替的Eビット解釈ではなく,通常Eビット解釈が用いら
れているなどと主張する。
しかしながら,代替的Eビット解釈において,Eビットに「0」
が設定される場合,次のフィールドのビット列が「分割,連結,パ
ディングされていない完全なSDU」を構成するSDUの「デー
タ」を示すものであることからすると,「Interpretation」 の欄に
「次のオ クテット :デー タ(「 next octet: data」)」 と表示さ れ
ていることは本件実機テストにおいて代替的Eビット解釈が使用さ
れていることと相反するものではない。
したがって,債権者の上記主張は理由がない。
イ 小括
以上によれば,本件各製品は,本件技術仕様書V6.9.0に準拠し
た製品であり,代替的Eビット解釈に基づく機能を実施する構成を備え
ていることが認められる。
(2) 本件発明1の技術的意義
ア 明細書の記載事項
本件発明1の特許請求の範囲(請求項8)の文言と本件特許に係る明
細書(以下,図面を含めて,「本件明細書」という。甲2)の「発明の
詳細な説明」の記載事項を総合すれば,本件明細書には,①パケットサ
ービスを支援する移動通信システム(無線データパケット通信システ
ム)において,音声コーデックから発生した音声フレームをインターネ
ットプロトコルを用いて音声パケットの形態で伝送する通信技術である
VoIPを提供するに当たって,従来技術によるVoIP通信方式でR
LCフレーミング方式(上位階層から受信されたRLC SDUを無線
チャンネルを通じて伝送するために適合したサイズに処理する動作)を
使用する場合,大部分のRLC SDUが,分割又は連結せず,一つの
RLC SDUは一つのRLC PDUで構成されるにもかかわらず,
既存のRLCフレーミング動作では,少なくともRLC SDUの開始
を示すLI(長さインジケータ)フィールドとその終了を示すLIフィ
ールドが常に要求されるといったように,不必要なLIフィールドが挿
入され,それによって限定された無線リソースが非効率的に使用される
という問題点が発生すること,②本件発明1の目的は,従来技術による
上記問題点を解決するために,RLC PDU(無線リンク制御階層の
プロトコルデータユニット)のヘッダーサイズを減少させて無線リソー
スを効率的に使用する装置を提供することにあること,③本件発明1
は,上記目的を達成するための手段として,「一つの完全なRLC SD
Uを分割/連結/パディングせずに,一つのRLC PDUにフレーミング
が可能である場合」に,そのことをRLC PDUのデータフィールドに
1ビット情報で示す構成(構成要件Dの「前記SDUが一つのPDUに
含まれる場合に,前記PDUが分割,連結,パディングなしに前記デー
タフィールドに前記SDUを完全に含むことを示すように前記1ビット
フィールドを設定」の構成)を採用することによって,そのRLC S
DUの分割/連結/パディングを示すための追加情報の挿入(「LIフィ
ールド」の使用)を不要とし,RLC PDUが「RLC SDUの開始
や終了が含まれない,RLC SDUの中間セグメントのみ」を含む場合
に,そのことを予め定められたLIの新たな値に設定されたLIフィー
ルドで示す構成(構成要件Dの「前記PDUの前記データフィールドが
前記SDUの中間セグメントを含む場合,少なくとも一つの長さインジ
ケータ(LI)フィールドが存在することを示すように前記1ビットフ
ィールドを設定する1ビットフィールド設定部」の構成及び構成要件F
の「前記LIフィールドは前記PDUが前記SDUの最初のセグメント
でも最後のセグメントでもない中間セグメントを含むことを示す予め定
められた値に設定」される構成)を採用することによって,RLC S
DUの分割動作を可能とし,これによりヘッダーサイズを減少させて無
線リソースを効率的に使用する効果を奏することが開示されているもの
と認められる。
イ 本件発明1と代替的Eビット解釈との関係
(ア) 本件発明1の構成要件Dの「前記SDUが一つのPDUに含まれ
る場合に,前記PDUが分割,連結,パディングなしに前記データフ
ィールドに前記SDUを完全に含むことを示すように前記1ビットフ
ィールドを設定」の構成及びその効果(前記ア③)は,代替的Eビッ
ト解釈において,最初のオクテットに含まれるEビットが「0」の場
合は,「次のフィールドは,分割,連結,パディングされていない完
全なSDU」であることを示し,長さインジケータが用いられないこ
と(前記(1)ア(ア)②及び③)を規定し,また,構成要件Dの「前記P
DUの前記データフィールドが前記SDUの中間セグメントを含む場
合,少なくとも一つの長さインジケータ(LI)フィールドが存在す
ることを示すように前記1ビットフィールドを設定する1ビットフィ
ールド設定部」の構成及び構成要件Fの「前記LIフィールドは前記
PDUが前記SDUの最初のセグメントでも最後のセグメントでもな
い中間セグメントを含むことを示す予め定められた値に設定」される
構成は,代替的Eビット解釈において,PDU(RLC PDU)が
SDUのセグメントを含むが,SDUの最初のオクテットも最後のオ
クテットも含まない場合には,「長さインジケータ」は,「111
1110」の値を持つ7ビットの長さインジケータ又は「111 1
111 1111 1110」の値を持つ15ビットの長さインジケ
ータが用いられること(前記(1)ア(ア)④)を規定したものであると認
められる。
したがって,本件発明1は,代替的Eビット解釈を具現化した発明
であるというべきである。
(イ)a これに対し債務者は,本件発明1の構成要件Bの「前記SDU
が一つのPDUに含まれるか否かを判定」とは,「SDUが一つの
PDUに完全に含まれるかどうか(一致するかどうか)」を判定す
ることを意味するのに対し,本件技術仕様書V6.9.0の4.
2.1.2.1項の「RLC SDUがUMD PDUの利用可能な
スペースの長さより大きい場合」に「RLC SDUを適当なサイ
ズのUMD PDUに分割する。」との記載は,4.2.1.2.1
項記載の判定方式が,SDUの分割が必要か否かを決定することを
目的とし,SDUがPDUの利用可能な領域よりも大きいか否か
(SDUとPDUの大小関係)を判定する方式を意味するものであ
り,SDUが一つのPDUに完全に含まれる(一致する)か否かを
判定する方式とは異なるものであるから,本件技術仕様書V6.
9.0には,構成要件Bの開示がない旨主張する。
しかしながら,本件技術仕様書V6.9.0の9.2.2.5項
には,「代替的Eビット解釈」の下において,最初のオクテットに
含まれるEビットが「0」の場合は,「次のフィールドは,分割,
連結,パディングされていない完全なSDU」であることを,
「1」の場合は,「次のフィールドは,長さインジケータとEビッ
ト 」 で ある こ と を 示 す こ と ( 前記 1 (1)ア (ア)② ) が 記 載 され て お
り,上記記載は,SDUがPDUに完全に含まれる(一致する)か
否か(「分割,連結,パディングされていない完全なSDU」か否
か)の判定を行うことを前提に,その判定結果に従ってEビットを
上記のように設定することを規定するものといえるから,構成要件
Bの「SDUが一つのプロトコルデータユニット(PDU)に含まれ
るか否か」を「判定」する構成を開示するものというべきである。
したがって,債務者の上記主張は理由がない。
b また,債務者は,構成要件Dにいう「前記SDUが一つのPDU
に含まれる場合」とは,①パディングが生じている場合,②連結が
生じている場合,③分割,連結及びパディングのいずれも生じてい
ない場合を全て対象とするものであるから,構成要件Dを充足する
というためには,上記①又は②の場合であっても,「PDUが分
割,連結又はパディングなしにSDUを完全に含むことを示すよう
に1ビットフィールドが設定」されなければならないのに対し,本
件技術仕様書V6.9.0記載の代替的Eビット解釈においては,
上記③の場合にのみ,PDUが完全なSDUを含むことを示すよう
に1ビットフィールドが設定されるのであるから,構成要件Dの構
成は,本件技術仕様書V6.9.0記載の代替的Eビット解釈とは
異なる旨主張する。
しかしながら,構成要件Dの「前記SDUが一つのPDUに含ま
れる場合に,前記PDUが分割,連結,パディングなしに前記デー
タフィールドに前記SDUを完全に含むことを示すように前記1ビ
ットフィールドを設定」との文言,本件明細書の段落【0022】
及び図5Aによれば,構成要件Dの「前記SDUが一つのPDUに
含まれる場合」とは,「前記PDUが分割,連結,パディングなし
に前記データフィールドに前記SDUを完全に含む」場合(上記③
の場合)のみを意味し,SDUが連結されてPDUに格納されてい
る場合やSDUがパディングとともにPDUに格納されている場合
は,これに含まれないと解すべきであるから,債務者の主張は,そ
の前提を欠くものとして,採用することができない。
(3) 本件各製品についての本件発明1の技術的範囲の属否について
ア 本件各製品が本件発明1の構成要件A及びHを充足することは,前記
争いのない事実等(3)イ(ア)のとおりである。
そして,本件各製品が,本件技術仕様書V6.9.0に準拠した製品
であり,代替的Eビット解釈に基づく機能を実施する構成を備えている
こと(前記(1)イ),本件発明1が代替的Eビット解釈を具現化した発明
であること(前記(2)イ(ア))によれば,本件各製品は,本件発明1の構
成要件BないしGを充足するものと認められる。
以上によれば,本件各製品は,本件発明1の構成要件を全て充足する
から,その技術的範囲に属する。
イ(ア) これに対し債務者は,本件技術仕様書V6.9.0に構成要件B
及びDの開示がないことを理由に,本件各製品が構成要件B及びDを
充足しない旨主張する。
しかしながら,前記(2)イ(イ)で述べたとおり,債務者の主張は,そ
の前提を欠くものであるから,理由がない。
(イ) また,債務者は,本件各製品が本件発明1の技術的範囲に属する
というためには,本件各製品が本件発明1の構成要件に記載された全
ての機能を現実のネットワーク上で実行していることを立証する必要
があるが,代替的Eビット解釈は,通常Eビット解釈のオプション的
なものであり,通信事業者が代替的Eビット解釈を使用するようにネ
ットワークを設定していることについての立証がないから,本件各製
品が本件発明1の技術的範囲に属さない旨主張する。
しかしながら,本件各製品は,本件発明1の構成要件を全て充足
し,代替的Eビット解釈を実施する構成を備えている以上,本件発明
1の技術的範囲に属するものと認められ,現実のネットワーク上で通
信事業者が代替的Eビット解釈を使用するようにネットワークを設定
しているかどうかは本件発明1の技術的範囲の属否に影響を及ぼすも
のではないというべきである。
したがって,債務者の上記主張は採用することができない。
(4) まとめ
以上によれば,本件各製品は,本件発明1の技術的範囲に属する。
そして,本件発明2は,本件発明1の送信装置におけるデータの送信方
法の発明であり,両発明の構成は共通すること(争いがない。)によれ
ば,本件各製品におけるデータ送信方法の構成は,本件発明2の技術的範
囲に属するものと認められる。
2 権利濫用の成否について
次に,本件事案の内容等に鑑み,債権者による本件各製品についての本件
特許権に基づく差止請求権の行使が権利の濫用に当たる旨の債務者の抗弁の
成否について判断することとする。
(1) 前提事実
前記争いのない事実と本件疎明資料及び審尋の全趣旨を総合すれば,以
下の事実が認められる。
ア ETSIのIPRポリシー
(ア) 第2世代移動通信システム(2G)は,欧州外においては国ごと
に規格が異なるばかりか,一つの国の中ですら規格が異なっており,
普遍的な運用互換性がなかった。また,米国,日本,欧州は,それぞ
れ互換性のない規格に従ったシステムを運用していた。そのような状
況の中,従来の音声サービスだけでなく,データサービス及びマルチ
メディアサービスを提供する第3世代移動通信システム(3G)の普
及促進と付随する仕様の標準化を目的として,ETSI(欧州電気通
信標準化機構)などの世界の標準化団体が結集し,1998年(平成
10年)に3GPPという名称の標準化団体を結成した。
(イ ) ETSIは,知的財産権(IPR)の取扱いに関する方針とし
て,IPRポリシーを定めている。
一般に,技術の標準化を進めることによって,製品間の互換性を確
保し,製造・調達のコストを削減し,また,研究開発の効率化や他社
との提携機会の拡大等の効果が見込まれ,さらには,エンドユーザー
にとっても,製品・サービスの利便性の向上,製品価格やサービス料
金の低減につながるといった意義があると考えられるが,他方で,企
業は,知的財産権に基づいて技術の実施を独占することで,競合他社
による当該技術の実施を禁止し,自社の売上げの増加を図っていると
ころ,ある特定の知的財産権が標準化された技術の規格に必須とされ
た場合,当該知的財産権を保有する企業が,その標準規格を使用して
製品化を図る他の企業に対し,当該知的財産権の実施を禁止すると脅
しつつ,法外な実施料やその他の理不尽なライセンス条件を要求し
て,これに強制的に同意させるという状況が策出されるおそれがあ
り,また,他の企業は,当該知的財産権の実施許諾を得られない結
果,既に標準規格の適用のために行った投資(開発投資・設備投資)
が無駄になるおそれがあり,ひいては,技術の標準化による普及が著
しく阻害される可能性があることを踏まえて,通信分野における技術
の標準化の必要性と知的財産権の保有者の権利との間のバランスをと
ることが要請されている。
ETSIのIPRポリシーは,このような要請に応えることを目的
とするものである(3.1項の「方針の目的」参照)。
(ウ) ETSIのIPRポリシーには,次のような規定がある。
a IPRポリシー4.1項は,各会員は,自らが参加する規格技術
仕様の開発の間は特に,ETSIに必須IPRについて適時に知ら
せるため合理的に取り組むものとし,特に,規格又は技術仕様の技
術提案を行う会員は,善意をもって,提案が採択された場合に必須
となる可能性のあるその会員のIPRについてETSIの注意を喚
起する旨を規定し,4.3項は,4.1項の義務は,ETSIにこ
の特許ファミリーの構成要素について適時に知らされた場合には,
全ての既存及び将来のその特許ファミリーの構成要素につき満たさ
れたとみなされる旨を規定する。
b IPRポリシー6.1項は,特定の規格又は技術仕様に関連する
必須IPRがETSIに知らされた場合,ETSIの事務局長は,
少なくとも製造(製造で使用するべく,ライセンシー自身の設計
で,カスタマイズした部品及びサブシステムを製造又は過去から引
き続き製造する権利を含む。),製造した機器の販売,賃貸,処
分,修理又は使用,動作及び方法の使用の範囲で,当該IPRにお
ける取消不能なライセンスを「公正,合理的かつ非差別的な条件」
(FRAND条件)で許諾する用意があることを書面で取消不能な
形で3か月以内に保証することを,当該IPRの所有者に直ちに求
めるものとする旨,上記保証は,ライセンスの相互供与に同意する
ことを求めるという条件に従い行われる場合がある旨を規定し,
6.2項は,6.1項の保証は,保証が行われた時点で指定したI
PRを除外する旨を明示する書面がある場合を除き,その特許ファ
ミリーの全ての既存及び将来の必須IPRに適用されるものとする
旨を規定し,6.3項は,要請されたIPRの所有者の保証が許諾
されない場合,委員会の委員長は,適切な場合,ETSI事務局と
協議の上,問題が解決するまで,委員会が規格又は技術仕様につい
ての作業を停止すべきかどうかについて判断し,「および/また
は」関連の規格または技術仕様の承認を行う旨を規定する。
c IPRポリシー15項6は,IPRに適用される「必須」とは,
(商業的ではなく)技術的な理由で,標準化の時点で一般に利用可
能な通常の技術慣行および最新技術を考慮し,IPRに抵触せずに
規格に準拠する機器又は方法を製造又は販売,賃貸,処分,修理,
使用または動作できないことを意味する旨を規定する。
d IPRポリシー12項は,IPRポリシーはフランス法に準拠す
る旨を規定する。
(エ) IPRポリシーを補足する「IPRについてのETSIの指針」
には,次のような規定がある。
a IPRについてのETSIの指針1.1項は,「本指針の主な特
徴は,次のように簡略化できる」と規定する。
「・会員は,ライセンスの許諾を拒否する権利を含む,自らが保有
するIPRを保持しその利益を得る権利を完全に有する。
・ETSIは,ET SIの技術的な 目的 に最も資する解決策 に基
づく規格および技術仕様を作成することを目的としている。
・この目的を達成す るに当たり,E TS IのIPRについて の方
針では, 通信分野 での一 般利用 の標準化 の必要性 と,IP Rの
所有者の権利との間のバランスを取ることが求められる。
・IPRについての 方針は,規格の 準備 および採用,適用へ の投
資が,規 格または 技術仕 様につ いての必 須IPR を使用で きな
い結果無 駄になる 可能性 がある というリ スクを軽 減するた めの
ものである。
・よって,規格作成 過程の可能な限 り早 期に,必須IPRの 存在
を知って いること が,特 にライ センスが 公正,合 理的かつ 非差
別的な(FRAND)条件を利用できない場合に必要であ
る。」
b IPRについてのETSIの指針1.4項は,ETSIのIPR
についての方針は,機関としてのETSI及びその会員,事務局の
権利及び義務を定義するものであり,ETSIの非会員にも,方針
の下で特定の権利はあるが,法的な義務は有さない旨を規定し,同
項に掲げる「表」中には,次のような記載がある。
「会員の権利」
「・自らのIPRを規格に含めることを拒否すること(8.1項及
び8.2項)。
・規格に関し,公正 ,合理的かつ非 差別 的な条件でライセン スが
許諾されること(6.1項)。」
「会員の義務」
「・ETSIに,自らのIPR及び他者の必須IPRについて知ら
せる(4.1項)。
・必須IPRの所有 者は,公正,合 理的 かつ非差別的な条件 でラ
イセンス を許諾す ること を保証 すること が求めら れる(6 .1
項)。」
「第三者の権利」
「・第三者には,必須IPRの所有者として,又はETSI規格若
しくは文 書のユー ザーと して, ETSI のIPR について の方
針の下で,次の特定の権利を有する。
○少なくとも製造及び販売,賃貸,修理,使用,動作するた
め,規 格に 関し ,公 正, 合理 的か つ非差 別的な 条件 でラ イセ
ンスが許諾されること(6.1項)。」
イ 本件FRAND宣言に至るまでの経緯
(ア) ETSIの会員である債権者は,1998年(平成10年)12
月14日,ETSIに対し,UMTS規格としてETSIが推進して
いるW-CDMA技術に関し,債権者の保有する必須IPRライセン
スを,ETSIのIPRポリシー6.1項に従って,「公正,合理的
かつ非差別的な条件」(FRAND条件)で許諾する用意がある旨の
宣言をした。
(イ) 債権者は,2005年(平成17年)5月4日,韓国において,
本件出願の優先権主張の基礎となる特許出願(優先権主張番号10-
2005-0037774)をした。
(ウ) 債権者は,2005年(平成17年)5月9日から13日にかけ
て,3GPPのワーキンググループに対し,その当時の規格を記載し
た本件技術仕様書V6.3.0について,「RLC UMでの動作時
に任意で使用される「代替的Eビット解釈」の導入」及び「RLC
PDUがRLC SDUの最初のオクテットでも最後のオクテットで
もない場合に「長さインジケータ」に設定する新たな所定値の導入」
を要請する旨の変更リクエストを提出した。
その後,上記変更リクエストが採用され,同年6月に発行された3
GPP規格の本件技術仕様書V6.4.0の「拡張ビット(Eビッ
ト)」の項(9.2.2.5項)において,従来からある通常Eビッ
ト解釈のオプション規格としての代替的Eビット解釈(非確認モード
(UM)でデータを伝送する場合に,シーケンス番号(SN)に続く
Eビットについて,上位レイヤーのコンフィギュレーションが代替的
Eビット解釈を使用することを選択した場合にのみ使用される規格)
が記載され,代替的Eビット解釈は,標準規格の一つとされた。
(エ) 債権者は,平成18年5月4日,本件出願をした。その後,債権
者は,平成22年12月10日,本件特許権の設定登録を受けた。
(オ ) 債権者は,2007年(平成19年)8月7日,ETSIに対
し,「IPRの情報についての声明及びライセンスの宣言」と題する
書面を提出することにより,ETSIのIPRポリシー4.1項に従
って,本件出願の優先権主張の基礎となる韓国出願の出願番号,本件
出願の国際出願番号(PCT/KR2006/001699)等に係
るIPRが,UMTS規格(TS 25.322等)に関連した必須
IPRであるか,又はそうなる可能性が高い旨を知らせるとともに,
そのIPRが引き続き必須である範囲で,規格に関し,IPRポリシ
ー6.1項に準拠する条件(FRAND条件)で,取消不能なライセ
ンスを許諾する用意がある旨の宣言(本件FRAND宣言)をした。
上記書面には,この保証は,ライセンスを求める者がIPRポリシ
ー6.1項に従い,規格に関し,相互にライセンスを供与することの
条件に従い行われる旨,本件FRANDの構成,有効性及び実行は,
フランス法に準拠する旨の記載がある。
ウ 本件FRAND宣言後の経緯等
(ア) アップル社は,2011年(平成23年)4月,米国において,
債権者に対し,債権者が「iPhone 」 及び「iPa d」に関する
アップル社の知的財産権を侵害したと主張して侵害訴訟を提起した。
なお,アップル社主張の知的財産権は,標準規格に必須とされるも
のではない。
(イ) 前記(ア)のアップル社による米国での訴訟提起の後,債権者は,
平成23年4月21日,本件申立てをした。
(ウ)a アップル社は,2011年(平成23年)4月29日付け書簡
で,債権者に対し,●(省略)●等を明らかにするよう要請した。
b 債権者は,2011年(平成23年)5月13日付け書簡で,ア
ップル社に対し,アップル社が求めるライセンスの条件(対象特許
の特定,期間,アップル社が保有する必須特許のクロスライセンス
の可能性等)を明らかにすること及び今後の交渉について双方機密
扱いで行うよう要請し,さらに,同年6月3日付け書簡で,債権者
は,FRAND条件でアップル社にライセンスを提供する用意があ
るが,当該ライセンスの条件を規定する前に,機密保持契約を締結
することを求める旨を述べた。
アップル社は,同月22日付け書簡で,債権者に対し,●(省
略)●旨を述べた。
これらの経緯を踏まえて,アップル社と債権者は,同年7月20
日付けで秘密保持契約(以下「アップル社と債権者間の秘密保持契
約」という。)を締結した。
(エ) 債権者は,2011年(平成23年)7月25日付け書簡で,ア
ップル社に対し,FRAND条件に従って,UMTS規格に必須の債
権者の保有する特許(出願中のものを含む。)の全世界的かつ非独占
的なライセンスを,関連する「●(省略)●%の料率」でライセンス
供与する用意ができていることを提示(以下「債権者の本件ライセン
ス提示」という。)し,●(省略)●旨を伝えた。
これに対し,アップル社は,同年8月18日付け書簡で,債権者に
対し,●(省略)●との意見を述べるとともに,債権者の本件ライセ
ンス提示がFRAND条件に従ったものとアップル社において判断す
ることができるようにするために,アップル社と債権者間の秘密保持
契約に基づいて,債権者がアップル社に支払うことを求めるロイヤル
ティ料率を他社も支払っているかの確認を含む情報,債権者と他社と
の間の必須特許のライセンス契約に関する情報を開示するよう要請し
た。
アップル社の上記意見は,①UMTS規格に不可欠とされる特許の
あらゆる所有者が全体として要求できるロイヤルティ料率の合計には
上限があると考えられており,債権者も別の訴訟において,そのよう
なロイヤルティ料率の合計が「約5%」であるべきだと主張している
ところ,全世界においてUMTS規格に不可欠と宣言された1889
の特許ファミリーのうち,債権者が保有しているものがその5.5%
に当たる103にすぎないこと(2009年に「Fairfield Resources
International」が実施した調査結果)に鑑みると,債権者がアップル
社に対して要求できるロイヤルティ料率は,高くても0.275%
(5%×5.5%)と捉えるべきである,②債権者がUMTS規格に
不可欠と宣言する特許は移動体通信チップの機能性にのみ関連するも
のであるから,当該部品の価格あるいは少なくとも通信装置の業界平
均価格を基準とすべきであるところ,債権者提示のライセンス料率
は,●(省略)●を基準とし,その料率に係る数値も上記①の数値を
はるかに上回る点で,法外に高いなどというものである。
(オ)a 債権者は,2012年(平成24年)1月31日付け書簡で,
アップル社に対し,●(省略)●などの意見を述べた上で,債権者
の本件ライセンス提示がアップル社にとって不本意な内容であるな
らば,アップル社において,真摯な対案を提示するよう要請をし
た。
b アップル社は,2012年(平成24年)3月4日付け書簡で,
債権者に対し,自社が行ったUMTS規格に必須であると債権者が
主張する日本における三つの特許(特許第4642898号(本件
特許),特許第4299270号及び特許第4291328号)に
関する分析結果を反映したライセンス条件を提案するものとして,
ライセンス契約書案を添付して,ライセンス契約の申出をした。そ
の概要は,同契約書案記載のとおり,●(省略)●%をロイヤルテ
ィとして支払うという内容のものである。
これを受けて,債権者は,同年4月18日付け書簡で,アップル
社に対し,アップル社の上記ライセンス契約の申出について,●
(省略)●ロイヤルティ料率●(省略)●%という金銭的条件が低
額であり不合理であること,●(省略)●などを理由に,FRAN
D条件に基づくライセンス契約の申出に当たらないなどと意見を述
べた。
(カ )a アップル社は,2012年(平成24年)9月1日付け書簡
で,債権者に対し,2G,3G及び4G(LTE)に対応する携帯
機器標準規格必須特許全体を対象として,クロスライセンスの提案
を含むFRAND条件に基づくライセンス許諾の枠組みを提案する
用意がある旨を表明した。
b 債権者は,2012年(平成24年)9月7日付け書簡で,アッ
プル社に対し,アップル社の同月1日付け書簡は,●(省略)●な
どの意見を述べた上で,●(省略)●を提案した。
c アップル社は,2012年(平成24年)9月7日付け書簡
(で,債権者に対し,ロイヤルティ料率を算定するに当たってのア
ップル社の基本的な考え,算定基準等を示した上で,全てのフィー
チャーフォン,スマートフォン及び携帯型タブレットに関する両当
事者間の1台当たりのロイヤルティの構成として,携帯機器標準規
格必須特許全体のロイヤルティを1台当たり●(省略)●ドルを上
限とすべきであるとの前提に立ち,債権者がアップル社に請求でき
るロイヤルティ料率をその●(省略)●%(1台当たり●(省略)
●ドル),アップル社が債権者に請求できるロイヤルティ料率をそ
の●(省略)●%(1台当たり●(省略)●ドル)とするライセン
ス案を提示した。
アップル社の上記書簡には,①ロイヤルティ料率を算定するに当
たってのアップル社の基本的な考えとして,「●(省略)●」(訳
文1頁33行~2頁4行,3頁1行~8行,20行~21行),②
「●(省略)●」(訳文4頁28行~39行)などの記載がある。
エ 本件特許の位置付け
本件特許は,UMTS規格の本件技術仕様書V6.9.0記載の「代
替的Eビット解釈」に準拠した製品の製造,販売等及び方法の使用をす
るのに避けることのできない必須特許である。
(2) 準拠法について
本件は,韓国法人である債権者が,日本法人である債務者に対し,本件
特許権に基づく差止請求権を被保全権利として,債務者に対し,本件各製
品の生産,譲渡等の差止めを求めた仮処分命令申立事件であり,渉外的要
素を含むものであるから,準拠法を決定する必要がある。
特許権に基づく差止請求の準拠法は,当該特許権が登録された国の法律
であると解される(最高裁判所平成14年9月26日第一小法廷判決・民
集56巻7号1551頁)から,本件には,日本法が適用される。
以上を前提に,債権者による本件特許権に基づく差止請求権の行使が権
利の濫用に当たるか否かについて判断することとする。
(3) 権利濫用の成否について
債務者は,債権者が意図的に本件特許について適時開示義務に違反した
こと,債権者の本件仮処分の申立てが報復的な対抗措置であること,債権
者が本件FRAND宣言に基づく標準規格必須宣言特許である本件特許権
についてのライセンス契約締結義務及び誠実交渉義務に違反し,いわゆる
「ホールドアップ状況」(標準規格に取り込まれた技術の権利行使によっ
て標準規格の利用を望む者が利用できなくなる状況)を策出しているこ
と,かかる債権者の一連の行為が独占禁止法に違反することなどの諸事情
に鑑みれば,債権者が債務者に対し,本件特許権に基づく差止請求権を行
使することは,権利の濫用(民法1条3項)に当たり許されない旨主張す
る。
ア(ア) 我が国の民法には,契約締結準備段階における当事者の義務につ
いて明示した規定はないが,契約交渉に入った者同士の間では,一定
の場合には,重要な情報を相手方に提供し,誠実に交渉を行うべき信
義則上の義務を負うものと解するのが相当である。
ところで,前記前提事実によれば,①3GPPを結成した標準化団
体であるETSI(欧州電気通信標準化機構)の会員である債権者
は,平成19年8月7日,甲13の書面で,ETSIに対し,本件出
願の国際出願番号等に係るIPR(知的財産権)がUMTS規格(3
GPP規格)に必須であること,この必須IPRについて,ETSI
のIPRポリシー6.1項に準拠するFRAND条件(公正,合理的
かつ非差別的な条件)で,取消不能なライセンスを許諾する用意があ
る旨の宣言(本件FRAND宣言)をしたこと,②IPRについての
ETSIの指針1.4項は,会員の義務として,「必須IPRの所有
者は,公正,合理的かつ非差別的な条件でライセンスを許諾すること
を保証することが求められること」(IPRポリシー6.1項),会
員の権利として,「規格に関し,公正,合理的かつ非差別的な条件で
ライセンスが許諾されること」(IPRポリシー6.1項),第三者
の権利として,「少なくとも製造及び販売,賃貸,修理,使用,動作
するため,規格に関し,公正,合理的かつ非差別的な条件でライセン
スが許諾されること」(IPRポリシー6.1項)を定めていること
が認められる。
上記①及び②と審尋の全趣旨を総合すると,債権者は,ETSIの
IPRポリシー6.1項,IPRについてのETSIの指針1.4項
の規定により,本件FRAND宣言でUMTS規格に必須であると宣
言した本件特許権についてFRAND条件によるライセンスを希望す
る申出があった場合には,その申出をした者が会員又は第三者である
かを問わず,当該UMTS規格の利用に関し,当該者との間でFRA
ND条件でのライセンス契約の締結に向けた交渉を誠実に行うべき義
務を負うものと解される。
そうすると,債権者が本件特許権についてFRAND条件によるラ
イセンスを希望する具体的な申出を受けた場合には,債権者とその申
出をした者との間で,FRAND条件でのライセンス契約に係る契約
締結準備段階に入ったものというべきであるから,両者は,上記ライ
センス契約の締結に向けて,重要な情報を相手方に提供し,誠実に交
渉を行うべき信義則上の義務を負うものと解するのが相当である。
そして,遅くとも,アップル社が,平成24年3月4日付け書簡で
債権者に対し,債権者がUMTS規格に必須であると宣言した本件特
許を含む日本における三つの特許に関するFRAND条件でのライセ
ンス契約の申出をした時点で,アップル社から債権者に対するFRA
ND条件によるライセンスを希望する具体的な申出がされたものと認
められ,アップル社と債権者は,契約締結準備段階に入り,上記信義
則上の義務を負うに至ったものというべきである。
(イ) この点に関し,債権者は,①日本法の観点からは,FRAND宣
言により誠実交渉義務が生じるのは,ライセンス対象特許の有効性を
争うことなく,真にライセンスを受けることを希望する「確定的なラ
イセンスの申出」が必要であると解すべきである,②アップル社の債
権者に対する平成24年3月4日の申出は,債権者の本件特許の抵触
性と有効性を争うものであるから,そもそも「確定的なライセンスの
申出」に該当しないし,③また,アップル社の上記申出の内容は,
「●(省略)●%」という不合理に低額なライセンス料率を提示する
ものであって,交渉が成立しないことを知った上で,申出の外形を形
式的に策出しただけの真にライセンスを受ける意思のないものであ
り,この点においても,上記申出が「確定的なライセンスの申出」に
該当しないとして,債権者には,本件FRAND宣言に基づく誠実交
渉義務が発生していない旨主張する。
しかしながら,債権者の主張は,以下のとおり理由がない。
a 上記①及び②について
FRAND宣言に基づく標準規格必須宣言特許についてのFRA
ND条件によるライセンスを希望する申出は,許諾対象特許の有効
性を留保するものであったとしても,その申出の内容が許諾対象特
許が有効であることを前提とする具体的なものであり,FRAND
条件によるライセンスを受けようとする意思が明確であるときは,
上記申出により,FRAND宣言をした者と上記申出をした者との
間で,前記(ア)の信義則上の義務が発生するというべきである。
しかるところ,アップル社の平成24年3月4日付け申出は,許
諾対象特許を本件特許を含む三つの日本国特許に特定し,ライセン
ス料率等の詳細なライセンス条件を記載したライセンス契約書案を
添付した具体的なものであり,その記載内容に照らし,アップル社
におけるFRAND条件によるライセンスを受けようとする意思が
明確であることが認められる。もっとも,上記契約書案の「●(省
略)●」には,「●(省略)●」(訳文2頁2行~4行)との記載
があり,アップル社の上記申出は,許諾対象特許とされた本件特許
の有効性を留保するものといえる。しかし,上記条項の記載内容自
体は格別不合理なものではない上,債権者がアップル社の子会社で
ある債務者に対し本件特許権に基づく本件各製品の輸入,譲渡等の
差止めを求める本件仮処分の申立てをし,債務者がその防御として
本件特許の有効性等を争っていること,同仮処分命令申立事件はア
ップル社の上記申出があった当時も係属中であったこと(審尋の全
趣旨)を踏まえると,アップル社が上記申出において本件特許の有
効性を留保しているからといって,直ちにアップル社においてFR
AND条件によるライセンスを受けようとする意思がないというこ
とはできない。
したがって,債権者の主張①及び②は,理由がない。
b 上記③について
アップル社が平成24年3月4日付け申出において提示したライ
センス料率(ロイヤルティ料率)は日本国における●(省略)●%
というものであるが,そのライセンス料率の数値のみからFRAN
D条件に適合しない不合理に低額なものであり,アップル社におい
てFRAND条件によるライセンスを受けようとする意思がないも
のと断ずることはできないし(前記前提事実に照らすと,上記ライ
センス料率は,アップル社が平成23年8月18日付け書簡で示し
た全世界におけるUMTS規格に不可欠と宣言された特許ファミリ
ーのうち,債権者が保有しているものの割合を踏まえたものである
ことがうかがわれる。),アップル社において上記ライセンス料率
以外の条件でライセンス契約を締結する意思が全くなかったとまで
認めることはできない。
したがって,債権者の主張③は,理由がない。
イ そこで,債権者において前記ア(ア)の信義則上の義務違反があったか
どうかについて検討する。
前記前提事実と審尋の全趣旨によれば,①債権者は,平成23年7月
20日付けで秘密保持契約(アップル社と債権者間の秘密保持契約)を
締結した後,同月25日付け書簡で,アップル社に対し,FRAND条
件に従って,UMTS規格に必須の債権者の保有する特許(出願中のも
のを含む。)の全世界的かつ非独占的なライセンスを,関連する「●
(省略)●%の料率」でライセンス供与する用意ができていることを提
示(債権者の本件ライセンス提示)し,●(省略)●,その際,債権者
は,上記ライセンス条件の「●(省略)●%の料率」の算定根拠を示さ
なかったこと,②アップル社は,同年8月18日付け書簡で,債権者に
対し,債権者の本件ライセンス提示について,全世界においてUMTS
規格に不可欠と宣言された1889の特許ファミリーのうち,債権者が
保有しているものがその5.5%に当たる103にすぎないこと
(「Fairfield Resources International」が実施した調査結果)からす
ると,債権者がアップル社に対して要求できるロイヤルティ料率は,高
くても0.275%(5%×5.5%)と捉えるべきであることなどを
理由に,債権者の本件ライセンス提示に係るライセンス料率が法外な高
さであり,FRAND条件に従ったものでないとの意見を述べるととも
に,債権者の本件ライセンス提示がFRAND条件に従ったものとアッ
プル社において判断することができるようにするために,アップル社と
債権者間の秘密保持契約に基づいて,債権者がアップル社に支払うこと
を求めるロイヤルティ料率を他社も支払っているかの確認を含む情報,
債権者と他社との間の必須特許のライセンス契約に関する情報を開示す
るよう要請したこと,③債権者は,平成24年1月31日付け書簡で,
アップル社に対し,●(省略)●債権者の本件ライセンス提示がアップ
ル社にとって不本意な内容であるならば,アップル社において,真摯な
対案を提示するよう要請をしたが,その際,債権者は,債権者の本件ラ
イセンス提示に係るライセンス料率(ロイヤルティ料率)の算定根拠を
示さなかったこと,④アップル社は,平成24年3月4日付け書簡で,
債権者に対し,債権者がUMTS規格に必須であると宣言した本件特許
を含む日本における三つの特許について,●(省略)●%をロイヤルテ
ィとして支払う旨のFRAND条件でのライセンス契約の申出をしたこ
と,⑤債権者は,同年4月18日付け書簡で,アップル社に対し,アッ
プル社の上記④の申出は,日本における三つの特許の個々につきロイヤ
ルティ料率●(省略)●%という金銭的条件が低額であり不合理である
こと,●(省略)●などを理由に,FRAND条件に基づくライセンス
の申出に当たらないなどと意見を述べたこと,⑥アップル社は,同年9
月1日付け書簡で,債権者に対し,2G,3G及び4G(LTE)に対
応する携帯機器標準規格必須特許全体を対象として,クロスライセンス
の提案を含むFRAND条件に基づくライセンス許諾の枠組みを提案す
る用意がある旨を表明し,さらに,同月7日付け書簡で,債権者に対
し,ロイヤルティ料率を算定するに当たってのアップル社の基本的な考
え,算定基準等を示した上で,全てのフィーチャーフォン,スマートフ
ォン及び携帯型タブレットに関する両当事者間の1台当たりのロイヤル
ティの構成として,携帯機器標準規格必須特許全体のロイヤルティを1
台当たり●(省略)●ドルを上限とすべきであるとの前提に立ち,債権
者がアップル社に請求できるロイヤルティ料率をその●(省略)●%
(1台当たり●(省略)●ドル),アップル社が債権者に請求できるロ
イヤルティ料率をその●(省略)●%(1台当たり●(省略)●ドル)
とするライセンス案を提示したこと,⑦一方,債権者は,同月7日付け
書簡で,アップル社に対し,上記⑥のアップル社の同月1日付け書簡
は,●(省略)●を提案したことが認められる。
これらの認定事実に加えて,本件疎明資料上,アップル社が平成24
年9月7日付け書簡で提示したライセンス案について,債権者がいかな
る対応をしたのか不明であることを総合すると,①アップル社と債権者
間の本件特許権についてのライセンス交渉の過程において,債権者は,
平成23年7月25日付け書簡で,アップル社に対し,本件FRAND
条件に従ったライセンス条件として,UMTS規格に必須の債権者の保
有する特許(出願中のものを含む。)の全世界的かつ非独占的なライセ
ンスについて「●(省略)●%の料率」の提示(債権者の本件ライセン
ス提示)をしたものの,その際には,上記ライセンス条件の算定根拠を
示すことがなかった上,その後,アップル社から,債権者の本件ライセ
ンス提示がFRAND条件に従ったものとアップル社において判断する
ことができるようにするために,債権者がアップル社に支払うことを求
めるロイヤルティ料率を他社も支払っているかの確認を含む情報,債権
者と他社との間の必須特許のライセンス契約に関する情報を開示するよ
う要請があったにもかかわらず,平成24年9月7日に至っても上記ラ
イセンス条件の算定根拠を示すことはなかったこと,②その間,債権者
は,アップル社が同年3月4日付け書簡で債権者がUMTS規格に必須
であると宣言した本件特許を含む日本における三つの特許について,●
(省略)●%をロイヤルティとして支払う旨のFRAND条件でのライ
センス契約の申出をし,さらには,同年9月7日付け書簡でロイヤルテ
ィ料率を算定するに当たってのアップル社の基本的な考え,算定基準等
を示した上で,クロスライセンスを含む具体的なライセンス案を提示し
ているにもかかわらず,アップル社が債権者の本件ライセンス提示を不
本意とするならば,アップル社において具体的な提案をするよう要請す
るのみで,アップル社が提示したライセンス条件に対する具体的な対案
を示していないことが認められる。
上記①及び②に鑑みると,債権者は,アップル社の再三の要請にもか
かわらず,アップル社において債権者の本件ライセンス提示又は自社の
ライセンス提案がFRAND条件に従ったものかどうかを判断するのに
必要な情報(債権者と他社との間の必須特許のライセンス契約に関する
情報等)を提供することなく,アップル社が提示したライセンス条件に
ついて具体的な対案を示すことがなかったものと認められるから,債権
者は,UMTS規格に必須であると宣言した本件特許に関するFRAN
D条件でのライセンス契約の締結に向けて,重要な情報をアップル社に
提供し,誠実に交渉を行うべき信義則上の義務に違反したものと認める
のが相当である。
これに反する債権者の主張は,採用することができない。
ウ 以上のとおり,債権者が,債務者の親会社であるアップル社に対し,
本件FRAND宣言に基づく標準規格必須宣言特許である本件特許権に
ついてのFRAND条件でのライセンス契約の締結準備段階における重
要な情報を相手方に提供し,誠実に交渉を行うべき信義則上の義務に違
反していること,債権者のETSIに対する本件特許の開示(本件出願
の国際出願番号の開示)が,債権者の3GPP規格の変更リクエストに
基づいて本件特許に係る技術(代替的Eビット解釈)が標準規格に採用
されてから,約2年を経過していたこと,その他アップル社と債権者間
の本件特許権についてのライセンス交渉経過において現れた諸事情を総
合すると,債権者が,上記信義則上の義務を尽くすことなく,債務者に
対し,本件各製品について本件特許権に基づく差止請求権を行使するこ
とは,権利の濫用に当たるものとして許されないというべきである。
3 結論
以上によれば,本件申立ては,被保全権利についての疎明を欠くので,そ
の余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないから却下するこ
ととし,申立費用の負担については民事保全法7条,民事訴訟法61条を適
用して,主文のとおり決定する。
平成25年2月28日
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大 鷹 一 郎
裁判官 高 橋 彩
裁判官 上 田 真 史
(別紙) 物件目録
1 「iPhone 4」
2 「iPad 2 Wi-Fi+3Gモデル」
(別紙1)3GPP TS25.322 V6.9.0(抜粋)
1 「4.2.1.2 Unacknowledged mode (UM) RLC entities
Figure 4.3 below shows the model of two unacknowledged mode peer RLC
entities when duplicate avoidance and reordering is not configured.」
(訳文)
「4.2.1.2 アンアクナリッジドモード(UM)RLCエンティティ
下記に示す図4.3は,重複回避及びリオーダリングを有しない2つのアンアクナリ
ッジモード(UM)ピアRLCエンティティを示す。」
U E /U T R A N R a d io I n te rfa c e ( U u ) U T R A N /U E
U M -S A P U M -S A P
T ra n s m iss io n T ra n s m it ti n R e c e iv i n g
R e a s s e m b ly
b u f fe r g UM RLC
UM RLC e n t ity
e n t it y R em ove R LC
S e g m e n t a ti o n & header
C o n c a te n a t io n
R e c e p tio n
A dd R LC header b u ff e r
C ip h e ri n g D e c i p h e r in g
D C C H /D T C H – U E D C C H /D T C H – U T R A N
C C C H /S H C C H /D C C H /D T C H /C T C H / C C C H /S H C C H /D C C H /D T C H /C T C H /
M C C H / M S C H /M T C H – U T R A N M C C H / M S C H /M T C H – U E
Figure 4.3a:Model of two unacknowledged mode peer entities
configured for use with duplicate avoidance and reordering」
2 「4.2.1.2.1 Transmitting UM RLC entity
The transmitting UM-RLC entity receives RLC SDUs from upper layers through
the UM-SAP.The transmitting UM RLC entity segments the RLC SDU into UMD PDUs
of appropriate size, if the RLC SDU is larger than the length of available
space in the UMD PDU.」
(訳文)
「4.2.1.2.1 送信UM RLC エンティティ
送信UM-RLCエンティティは,上位レイヤからUM-SAPを通じてRLC SDUsを受信する。
送信UM RLCエンティティは,もしRLC SDUがUMD PDUの利用可能なスペースの長さより
大きい場合には,RLC SDUを適当なサイズのUMD PDUsに分割する。」
3 「9.2.1.3 UMD PDU
The UMD PDU is used to transfer user data when RLC is operating in
unacknowledged mode. The length of the data part shall be a multiple of 8
bits. The UMD PDU header consists of the first octet, which contains the
"Sequence Number". The RLC header consists of the first octet and all the
octets that contain "Length Indicators". 」
(訳文)
「9.2.1.3 UMD PDU
UMD PDUは,RLCがUMモードで動作しているときに,ユーザーデータを転送するた
めに用いられる。データパートの 長さは,8ビ ットの倍数である。UMD PDUヘッダ
は,「一連番号」を含む最初のオクテットで構成される。RLCヘッダは,最初のオク
テットと,「長さインジケータ」を含むすべてのオクテットで構成される。」
Sequence Number E Oct1
Length Indicator E (Optional) (1)
.
.
.
Length Indicator E (Optional)
Data
PAD (Optional)
Last Octet
Figure 9.2: UMD PDU
4 「9.2.2.5 Extension bit(E)
Length:1bit.
The interpretation of this bit depends on RLC mode and higher layer
configuration:
- In the UMD PDU, the "Extension bit" in the first octet has either the
normal E-bit interpretation or the alternative E-bit interpretation
depending on higher layer configuration. The "Extension bit" in all the
other octects always has the normal E-bit interpretation.
- In the AMD PDU, the "Extension bit" always has the normal E-bit
interpretation.
Normal E-bit interpretation:
Bit Description
0 The next field is data, piggybacked
STATUS PDU or padding
1 The next field is Length Indicator
and E bit
Alternative E-bit interpretation:
Bit Description
0 The next field is a complete SDU,
which is not segmented,
concatenated or padded.
1 The next field is Length Indicator
and E bit

(訳文)
「9.2.2.5 エクステンションビット(E)
長さ:1ビット
このビットの解釈は,RLCのモード及び上位レイヤーのコンフィギュレーションに依
存する。
- UMD PDUにおいて,最初のオクテットに含まれる「拡張ビット」は,上位レイ
ヤーのコンフィギュレーションに応じて,通常Eビット解釈又は代替的Eビット解
釈のいずれかを有する。他の全てのオクテットに含まれる「拡張ビット」は,常
に通常Eビット解釈を有する。
- AMD PDUにおいて,「拡張ビット」は,常に通常Eビット解釈を有する。
通常Eビット解釈:
Bit 記述
0 次のフ ィー ルドは ,デ ータ ,ピギ ーバ
ック状態のPDU,又はパディング
1 次のフ ィー ルドは ,長 さイ ンジケ ータ
とEビット
代替的Eビット解釈:
Bit 記述
0 次のフ ィー ルドは ,分 割, 連結, パデ
ィングされていない完全なSDU
1 次のフ ィー ルドは ,長 さイ ンジケ ータ
とEビット

5(1) 「 9.2.2.8 Length Indicator (LI)
Unless the "Extension bit" indicates that a UMD PDU contains a complete
SDU which is not segmented, concatenated or padded, a "Length Indicator" is
used to indicate the last octet of each RLC SDU ending within the PDU. 」
(訳文)
「9.2.2.8 長さインジケータ(LI)
「エクステンションビット」が,UMD PDUが分割,連結,パディングのいずれもな
されていない完全なSDUを含むことを示していなければ,「長さインジケータ」は,
PDUの中のそれぞれのRLC SDUが終わる最後のオクテットを示すものとして用いられ
る。」
(2) 「In the case where the "alternative E-bit interpretation" is configured for
UM RLC and an RLC PDU contains a segment of an SDU but neither the first
octet nor the last octet of this SDU:
-if a 7-bit "Length Indicator" is used:
-the "Length Indicator" with value "111 1110" shall be used.
-if a 15-bit "Length Indicator" is used:
- the "Length Indicator" with value "111 1111 1111 1110" shall be used.」
(訳文)
「UM RLCのための「代替的Eビット解釈」が設定され,かつ,RLC PDU がSDUのセグメ
ントを含むがSDUの最初のオクテットも最後のオクテットも含まない場合であって,
-7ビットの「長さインジケータ」が用いられるときには,値「111 1110」を持つ
「長さインジケータ」を用い,
-1 5 ビッ ト の「 長 さイ ン ジケ ー タ 」が 用 いら れる と きに は ,値 「111 1111 1111
1110」を持つ「長さインジケータ」を用いる。」

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