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平成24(行ケ)10144審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成25年2月27日
事件種別 民事
当事者 被告日亜化学工業株式会社
原告燦坤日本電器株式会社
対象物 発光ダイオード
法令 特許権
キーワード 審決17回
分割10回
無効3回
特許権1回
進歩性1回
新規性1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の概要 (1) 被告は,発明の名称を「発光ダイオード」(以下,発光ダイオードを「LE D」ということがある。)とする特許第3995011号(以下「本件特許」という。) の特許権者である。原告は,平成23年9月30日,特許庁に対し,本件特許を無 効にすることを求めて審判(無効2011-800191号事件)を請求した。こ れに対し,特許庁は,平成24年3月16日,「本件審判の請求は,成り立たない。」 との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は同月26日に原告に送達された。 (2) 本件特許に至る手続の経緯は次のとおりである。

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判決文

平成25年2月27日判決言渡
平成24年(行ケ)第10144号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成25年1月28日
判 決
原 告 燦坤日本電器株式会社
訴訟代理人弁護士 松 田 純 一
同 丸 山 幸 朗
同 大 橋 君 平
同 近 森 章 宏
同 森 田 岳 人
同 菅 原 清 暁
同 村 上 康 聡
同 兼 定 尚 幸
同 山 口 智 寛
同 柴 田 陽 介
同 篠 森 重 樹
同 伊 藤 卓
同 岡 本 明 子
同 佐 藤 康 之
同 夏 苅 一
同 西 村 公 芳
同 白 井 潤 一
同 大 坂 憲 正
同 奥 津 麻 美 子
訴訟復代理人弁護士 西 脇 怜 史
被 告 日亜化学工業株式会社
訴訟代理人弁護士 古 城 春 実
同 牧 野 知 彦
同 高 橋 綾
訴訟代理人弁理士 鮫 島 睦
同 言 上 惠 一
同 田 村 啓
同 玄 番 佐 奈 恵
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2011-800191号事件について平成24年3月16日にし
た審決を取り消す。
第2 前提となる事実
1 特許庁における手続の概要
(1) 被告は,発明の名称を「発光ダイオード」
(以下,発光ダイオードを「LE
D」ということがある。 とする特許第3995011号
) (以下「本件特許」という。

の特許権者である。原告は,平成23年9月30日,特許庁に対し,本件特許を無
効にすることを求めて審判(無効2011-800191号事件)を請求した。こ
れに対し,特許庁は,平成24年3月16日,
「本件審判の請求は,成り立たない。」
との審決(以下「審決」という。 をし,
) その謄本は同月26日に原告に送達された。
(2) 本件特許に至る手続の経緯は次のとおりである。
平成 3年11月25日 原出願(特願平3-336011号(以下「最初の
原出願」という。)

平成 9年10月20日 分割出願
(第1世代)特願平9-306393号
( (以
下「第1分割出願」という。)

平成10年12月28日 分割出願
(第2世代)特願平10-377128号)

平成13年 9月 3日 分割出願(第3世代)
(特願2001-313286
号)
平成15年 2月 4日 分割出願
(第4世代)特願2003-67318号)

平成16年 9月27日 分割出願(第5世代)
(特願2004-280288
号)
平成17年 5月30日 分割出願(第6世代)
(特願2005-158166
号)
平成17年10月31日 分割出願(第7世代)
(特願2005-317711
号(以下「本件出願」という。

平成19年 8月10日 本件特許の設定登録
(3) 本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
基板上にn型及びp型に積層されてなる窒化ガリウム系化合物半導体からなる発
光素子と,
電極となる第1のメタル及び第2のメタルと,
前記発光素子を包囲する樹脂と,
前記発光素子からの青色の可視光に励起されて,励起波長よりも長波長の可視光
を発して前記発光素子の色補正をする,前記樹脂中に含有されてなる蛍光染料又は
蛍光顔料と,
前記窒化ガリウム系化合物半導体をエッチングしてn型層を表面に露出させてn
電極を付け,該n電極と前記第1のメタル及び第2のメタルの一方とを電気的に接
続させてなる金線と,を有する発光ダイオード。
2 審決の概要
審決の理由は,別紙審決書写のとおりである。要するに,
「第1分割出願が分割要
件を満たさないから本件出願の出願日は最初の原出願の出願日に遡及しない,した
がって,本件特許は新規性・進歩性を欠く」との原告(請求人)の主張は,採用でき
ないとするものである。
第3 争点に関する当事者の主張
1 原告の主張
審決は,最初の原出願の明細書(特許請求の範囲及び図面を含む意味に用いる。

【0005】【0006】及び【0009】の記載を根拠に,最初の原出願には,

窒化ガリウム系化合物半導体である発光素子を包囲する樹脂モールド中に蛍光染料
又は蛍光顔料を添加することにより,蛍光染料又は蛍光顔料により前記発光素子か
らの光の波長よりも長波長の可視光を出して,発光素子からの光の波長を変換し,
発光ダイオードの視感度を良くすることを内容とする発明が開示されているという
ことができると判断している。
しかし,最初の原出願の明細書【0005】【0006】及び【0009】には,

従来の技術であるところの一般式GaXAl1-XN(ただしXは0≦X≦1である。

で表される窒化ガリウム系化合物半導体,あるいは,発光ピークが430nm付近
及び370nm付近にある窒化ガリウム系化合物半導体だけが記載されているもの
で,最初の原出願の明細書には,組成や発光波長について何らの限定もない「窒化
ガリウム系化合物半導体」
は記載されていないから,審決の上記判断は誤りである。
審決は,最初の原出願の明細書【請求項1】や【0008】に「一般式GaXA
l1-XN(但し0≦X≦1) で表される窒化ガリウム系化合物半導体 【請求項1】,
」 ( )
あるいは,
「GaAlNがn型およびp型に積層されてなる青色発光素子」
(【000
8】
)等の記載があるとしても,
「窒化ガリウム系化合物半導体」はこれらの組成に
限定されないとしている。
しかし,このような審決の判断が成り立つためには,最初の原出願の明細書の【請
求項1】や【0008】以外の箇所に,組成等につき何らの限定もない「窒化ガリ
ウム系化合物半導体」が記載されていることが必要であるというべきであるが,最
初の原出願の明細書には,
【請求項1】や【0008】のみならず他の全ての部分に
おいて,組成等につき何らの限定もない「窒化ガリウム系化合物半導体」は記載さ
れていないから,審決の上記判断は,誤りである。
2 被告の反論
本件出願時の技術常識に基づけば,最初の原出願の明細書には「GaxAl1-x
N(但し0≦X≦1)
」という特定の組成又は「発光ピークが430nm付近,およ
び370nm付近にある」という特定の発光波長に限定されない,青色の「窒化ガ
リウム系化合物半導体」の視感度を改善する発明が記載されていることが明らかで
あるから,審決の判断には誤りがない。
すなわち,最初の原出願の明細書【0005】【0006】【0009】で用い
, ,
られている「窒化ガリウム系化合物半導体」という用語は,窒素(N)とガリウム
(Ga)を必須の元素とする化合物半導体を意味する語である。GaN(窒化ガリ
ウム)を基本組成として,化学周期表で IIIA 族元素であるGaの一部を同じ IIIA
族元素である元素(代表的には,AlやIn)で置換した半導体が「窒化ガリウム
系化合物半導体」であり,その代表的な例が,GaAlN(窒化アルミニウムガリ
ウム)
,InGaN(窒化インジウムガリウム)
,InAlGaN(窒化インジウム
アルミニウムガリウム)であることは当業者の常識に属する。したがって,審決が
正しく認定し,また,
【0005】【0006】【0009】の記載から明らかなと
, ,
おり,最初の原出願には,
「GaxAl1-xN(0≦X≦1)」に限定されない「窒化
ガリウム系化合物半導体」について,窒化ガリウム系化合物半導体である発光素子
を包囲する樹脂モールド中に蛍光染料又は蛍光顔料を添加することにより,当該蛍
光染料又は蛍光顔料により前記発光素子からの光の波長よりも長波長の可視光を出
して,発光素子からの光の波長を変換し,LEDの視感度を良くすることを内容と
する発明が開示されている。
「視感度」の意義及び青色発光の視感度が悪いことは,技術常識として知られて
いる。最初の原出願の【0009】には,
「蛍光染料,蛍光顔料は,一般に短波長の
光によって励起され,励起波長よりも長波長光を発光する。
」と記載され,続いて,
窒化ガリウム系化合物半導体の波長が短波長であることが記載され,さらに「青色
LEDの色補正はいうにおよばず,蛍光染料,蛍光顔料の種類によって数々の波長
の光を変換することができる」と記載されている。当業者であれば,このような記
載により,最初の原出願が,青色発光を励起源としてそれよりも長波長の光を発光
する構成を開示していると理解する。このため審決は,最初の原出願に開示された
「窒化ガリウム系化合物半導体」は,青色等の短波長の光を発光することに意義が
あるものとして把握でき,それ以上にその組成がどのようなものであり,また,そ
の発光波長が具体的にどのような範囲にあるのかということを問うものではないと
判断したのであるから,その判断には誤りはない。
第4 当裁判所の判断
1 最初の原出願に係る当初明細書には,次の記載がある(甲2)。

【0005】ところで,現在,LEDとして実用化されているのは,赤外,赤,黄
色,
緑色発光のLEDであり,
青色または紫外のLEDは未だ実用化されていない。
青色,紫外発光の発光素子はII-VI族のZnSe,IV-IV族のSiC,I
II-V族のGaN等の半導体材料を用いて研究が進められ,最近,その中でも一
般式がGaXAl1-XN(但しXは0≦X≦1である。)で表される窒化ガリウム系
化合物半導体が,常温で,
比較的優れた発光を示すことが発表され注目されている。
また,窒化ガリウム系化合物半導体を用いて,初めてpn接合を実現したLEDが
発表されている(応用物理,60巻,2号,p163~p166,1991)
。それ
によるとpn接合の窒化ガリウム系化合物半導体を有するLEDの発光波長は,主
として430nm付近にあり,さらに370nm付近の紫外域にも発光ピークを有
している。その波長は上記半導体材料の中で最も短い波長である。しかし,そのL
EDは発光波長が示すように紫色に近い発光色を有しているため視感度が悪いとい
う欠点がある。
【0006】本発明はこのような事情を鑑みなされたもので,その目的とするとこ
ろは,発光ピークが430nm付近,および370nm付近にある窒化ガリウム系
化合物半導体材料よりなる発光素子を有するLEDの視感度を良くし,またその輝
度を向上させることにある。」

【0009】
【発明の効果】蛍光染料,蛍光顔料は,一般に短波長の光によって励起され,励起
波長よりも長波長光を発光する。逆に長波長の光によって励起されて短波長の光を
発光する蛍光顔料もあるが,それはエネルギー効率が非常に悪く微弱にしか発光し
ない。前記したように窒化ガリウム系化合物半導体はLEDに使用される半導体材
料中で最も短波長側にその発光ピークを有するものであり,しかも紫外域にも発光
ピークを有している。そのためそれを発光素子の材料として使用した場合,その発
光素子を包囲する樹脂モールドに蛍光染料,蛍光顔料を添加することにより,最も
好適にそれら蛍光物質を励起することができる。したがって青色LEDの色補正は
いうにおよばず,蛍光染料,蛍光顔料の種類によって数々の波長の光を変換するこ
とができる。さらに,短波長の光を長波長に変え,エネルギー効率がよい為,添加
する蛍光染料,
蛍光顔料が微量で済み,輝度の低下の点からも非常に好都合である。

2 取消事由についての判断
最初の原出願の当初明細書には,
前記1のとおりの記載がある。
同記載によれば,
最初の原出願に記載の発明の技術的課題及び解決方法は,窒化ガリウム系化合物半
導体である発光素子を包囲する樹脂モールド中に蛍光染料又は蛍光顔料を添加する
ことにより,蛍光染料又は蛍光顔料から発光素子からの光の波長よりも長波長の可
視光を出して,発光素子からの光の波長を変換し,LEDの視感度を良くする点に
「一般式GaXAl1-
あると合理的に理解できる。最初の原出願の当初明細書には,
X N(但し0≦X≦1)で表される窒化ガリウム系化合物半導体」【請求項1】,
( )
あるいは,
「発光ピークが430nm付近,および370nm付近にある窒化ガリウ
ム系化合物半導体材料よりなる発光素子を有するLED」
(【0006】,
)「GaAl
Nがn型およびp型に積層されてなる青色発光素子」
(【0008】等の記載もある。

しかし,これらの記載があったとしても,最初の原出願の当初明細書に接した当業
者は,前記のとおりの最初の原出願に記載の発明の技術的課題及び解決方法の趣旨
に照らすならば,
「窒化ガリウム系化合物半導体」において青色等の短波長の光を発
光する点が,発明の解決課題及び解決方法に関連する共通の性質であると解される
から,上記組成や発光ピークの「窒化ガリウム系化合物半導体」のみに限定して理
解することはないというべきである。
そうすると,最初の原出願に開示された「窒化ガリウム系化合物半導体」は,青
色等の短波長の光を発光することに技術的意義があるものであって,窒化ガリウム

「一般式GaXAl1-
系化合物半導体」について,特定の組成であること(例えば,
X N(但し0≦X≦1である)で表される窒化ガリウム系化合物半導体」であるこ
と。
)や,特定の発光波長であること(例えば,
「発光ピークが430nm付近,お
よび370nm付近」であること。
)は,何ら問うものではないことになる。
以上によれば,この点に関する審決の判断は相当であり,原告の主張は採用の限
りではない。
3 結論
以上よりすると,審決は相当であり,取消事由はない。原告はその他縷々主張す
るがいずれも採用の限りではない。よって原告の請求を棄却することとして主文の
とおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
飯 村 敏 明
裁判官
八 木 貴 美 子
裁判官
小 田 真 治

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