平成23(ワ)13469特許権侵害差止等請求事件
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裁判所 |
請求棄却 大阪地方裁判所
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裁判年月日 |
平成25年2月19日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告アイリスオーヤマ株式会社 原告株式会社ヤマヒサ
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対象物 |
ペットのトイレ仕付け用サークル |
法令 |
特許権
特許法29条2項7回 特許法65条1項2回 特許法101条2号1回 民事訴訟法61条1回 特許法101条1号1回 特許法29条1項3号1回
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キーワード |
侵害26回 進歩性25回 無効25回 間接侵害13回 特許権12回 実施12回 無効審判9回 損害賠償5回 新規性4回 審決2回 差止2回
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主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,発明の名称を「ペットのトイレ仕付け用サークル」とする特許第4
616162号の特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が,別紙
物件目録記載1及び2(以下,順に「被告物件1」,「被告物件2」といい,併
せて「被告物件」という。)の製造販売をする被告に対し,特許法100条1,
2項に基づき,被告物件の製造販売の差止め及び廃棄を求めると共に,特許法
65条1項に基づく補償金として8808万円,特許権侵害の不法行為に基づ
く損害賠償金として3300万円及びこれらの合計1億2108万円に対する
催告の翌日以降の日でかつ不法行為の後の日である平成23年11月6日から
支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案で
ある。 |
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判決文
平成25年2月19日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成23年(ワ)第13469号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成24年11月16日
判 決
原 告 株式会社ヤマヒサ
同訴訟代理人弁護士 上 原 健 嗣
同 上 原 理 子
同訴訟代理人弁理士 宇 治 美 知 子
同 池 村 正 幸
同補佐人弁理士 倉 内 義 朗
被 告 アイリスオーヤマ株式会社
同訴訟代理人弁護士 髙 橋 淳
同訴訟代理人弁理士 布 施 行 夫
同補佐人弁理士 大 渕 美 千 栄
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,別紙物件目録記載1及び2の各物件を製造,販売してはならない。
2 被告は,別紙物件目録記載1及び2の各物件を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,金1億2108万円及びこれに対する平成23年11
月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
本件は,発明の名称を「ペットのトイレ仕付け用サークル」とする特許第4
616162号の特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が,別紙
物件目録記載1及び2(以下,順に「被告物件1」「被告物件2」といい,併
,
せて「被告物件」という。)の製造販売をする被告に対し,特許法100条1,
2項に基づき,被告物件の製造販売の差止め及び廃棄を求めると共に,特許法
65条1項に基づく補償金として8808万円,特許権侵害の不法行為に基づ
く損害賠償金として3300万円及びこれらの合計1億2108万円に対する
催告の翌日以降の日でかつ不法行為の後の日である平成23年11月6日から
支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案で
ある。
1 判断の基礎となる事実
以下の事実については,当事者間に争いがないか,掲記の各証拠又は弁論の
全趣旨より認められる。
(1) 本件特許権
ア 原告は,本件特許権を有しており,その内容は下記のとおりである(以
下,下記の特許を「本件特許」という。また,下記特許請求の範囲の【請
求項1】記載の発明を「本件発明」といい,本件特許に係る明細書を「本
件明細書」という。。
)
記
登 録 番 号 特許第4616162号
発 明 の 名 称 ペットのトイレ仕付け用サークル
出 願 日 平成17年12月 9日
公 開 日 平成19年 6月28日
登 録 日 平成22年10月29日
特許請求の範囲
【請求項1】 「複数のパネルが連結されたサークル本体の内部で,収容
したペットのトイレの仕付けを行うペット用サークルにおい
て,前記サークル本体の内部空間が中仕切体によって仕切ら
れることにより住居スペースとトイレスペースに区画されて
おり,前記中仕切体には,ペットが出入り可能な仕切出入口
が開口されるとともに,この仕切出入口を開閉する仕切扉が
設けられ,この仕切扉を介して住居スペースとトイレスペー
スとの間をペットが行き来できるように或いは行き来が規制
されるように構成されていることを特徴とするペットのトイ
レ仕付け用サークル。」
イ 本件発明は,次の構成要件に分説することができる(以下,記号に従い
「構成要件A」などという。)。
A 複数のパネルが連結されたサークル本体の内部で,収容したペットの
トイレの仕付けを行うペット用サークルにおいて,
B 前記サークル本体の内部空間が中仕切体によって仕切られることに
より住居スペースとトイレスペースに区画されており,
C 前記中仕切体には,ペットが出入り可能な仕切出入口が開口されると
ともに,
D この仕切出入口を開閉する仕切扉が設けられ,この仕切扉を介して住
居スペースとトイレスペースとの間をペットが行き来できるように或
いは行き来が規制されるように構成されていることを特徴とする
E ペットのトイレ仕付け用サークル
ウ なお,原告は,本件特許に係る無効審判請求事件(無効2012− 8
00005)において,平成24年4月16日付けで,特許庁審判長に
対し,訂正請求をした(甲7。以下,訂正後の本件発明を「訂正後本件
発明」という。 。同訂正請求は,上記無効審判請求事件の審決(平成2
)
4年10月5日付け)で「訂正を認める。」とされたが(無効審判請求
については不成立。甲11),同審決は確定していない。
上記訂正後の特許請求の範囲(訂正後本件発明)は以下のとおりであ
る(下線部が訂正箇所である。 。
)
【請求項1】 「複数のパネルが連結されたサークル本体の内部で,収容
した犬のトイレの仕付けを行う犬用サークルにおいて,前記
サークル本体の内部空間が中仕切体によって仕切られるこ
とにより住居スペースとトイレスペースに区画されており,
前記中仕切体には,犬が出入り可能な仕切出入口が開口され
るとともに,この仕切出入口を開閉する仕切扉が設けられ,
この仕切扉を介して住居スペースとトイレスペースとの間
を犬が行き来できるように或いは行き来が規制されるよう
に構成されていることを特徴とする犬のトイレ仕付け用サ
ークル」
(2) 被告物件の製造販売
被告は,被告物件を日本国外で製造し,日本国内で被告物件1を平成20
年4月10日以降,被告物件2を平成22年11月19日以降,それぞれ販
売している(なお,被告物件の販売については,いずれも組立て前の部品1
セットをまとめて梱包したものが購入者に引き渡されているところ,このよ
うな場合に,被告による販売の対象を被告物件(ペット用サークル)自体と
捉えるか,被告物件(ペット用サークル)の部品群と捉えるかについては,
後記のとおり争いがある。争点3参照)。
(3) 被告に対する警告
原告は,本件特許の出願公開の後の日である平成20年7月26日,被告
に対し,本件発明の内容を記載した書面を提示して,特許法65条1項の警
告をした(甲5の1・2)。
2 争点
(1) 被告物件は本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)
(2) 本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものか(争点2)
(3) 被告による直接侵害又は間接侵害の成否(争点3)
(4) 補償金及び損害賠償金の額(争点4)
第3 争点に係る当事者の主張
1 争点1(被告物件は本件発明の技術的範囲に属するか)について
【原告の主張】
被告物件は,以下のとおり,本件発明の技術的範囲に属する。
(1) 被告物件の構成
ア 被告物件1について
被告物件1の構成は,以下のとおりである。
a1 正面パネル,側面パネル,後面パネルが連結されたサークル本体の
内部で,収容したペット(犬)のトイレの仕付けを行うペット用サー
クルについて,
b1 前記サークル本体の内部空間が正面パネルと後面パネルを連結する
仕切りパネルによって仕切られることにより住居スペースとトイレス
ペースに区画されており,
c1 前記仕切りパネルには,ペット(犬)が出入り可能な出入口が開口
されるとともに,
d1 この出入口には,これを開閉する扉が設けられ,この扉を介して住
居スペースとトイレスペースとの間をペット(犬)が行き来できるよ
うに,あるいは行き来が規制されるように構成されていることを特徴
とする
e1 ペット(犬)のトイレ仕付け用サークル
イ 被告物件2について
被告物件2の構成は以下のとおりである(下線部は,被告物件1の構成
と異なる点である。。
)
a2 正面パネル,側面パネル,後面パネルが連結され,正面パネル及び
後面パネルが伸長可能なサークル本体の内部で,収容したペット(犬)
のトイレの仕付けを行うペット用サークルについて,
b2 前記サークル本体の内部空間が正面パネルと後面パネルを連結する
仕切りパネルによって仕切られることにより住居スペースとトイレス
ペースに区画されており,
c2 前記仕切りパネルには,ペット(犬)が出入り可能な出入口が開口
されるとともに,
d2 この出入口には,これを開閉する扉が設けられ,この扉を介して住
居スペースとトイレスペースとの間をペット(犬)が行き来できるよ
うに,あるいは行き来が規制されるように構成されていることを特徴
とする
e2 ペット(犬)のトイレ仕付け用サークル
(2) 被告物件の構成要件充足性
ア 被告物件1について
(ア) 構成要件A,E
被告物件1の構成a1,e1は,構成要件A,Eを充足する。
(イ) 構成要件B
被告物件1の構成b1の「仕切りパネル」は,構成要件Bの「中仕切
り体」に相当し,構成要件Bを充足する。
(ウ) 構成要件C
被告物件1の構成c1の「出入口」は,構成要件Cの「仕切出入口」
に相当し,構成要件Cを充足する。
(エ) 構成要件D
被告物件1の構成d1の「扉」は,構成要件Dの「仕切扉」に相当し,
構成要件Dを充足する。
イ 被告物件2について
(ア) 構成要件A,E
被告物件2の構成a2,e2は,構成要件A,Eを充足する。
(イ) 構成要件B
被告物件2の構成b2の「仕切りパネル」は,構成要件Bの「中仕切
り体」に相当し,構成要件Bを充足する。
(ウ) 構成要件C
被告物件2の構成c2の「出入口」は,構成要件Cの「仕切出入口」
に相当し,構成要件Cを充足する。
(エ) 構成要件D
被告物件2の構成d2の「扉」は,構成要件Dの「仕切扉」に相当し,
構成要件Dを充足する。
【被告の主張】
被告が販売する対象は被告物件(ペット用サークル)自体であるとしても,
被告物件は,以下のとおり,本件発明の技術的範囲に属するとはいえない(な
お,被告が販売する対象は,被告物件(ペット用サークル)の部品群と捉える
べきであり,その場合に直接侵害及び間接侵害が成立しないことは,後記3【原
告の主張】のとおりである。。
)
(1) 被告物件の構成について
ア 被告物件1について
(ア) 構成a1,e1について
被告物件1は,収容したペット(犬)のトイレの仕付けを行うことが
可能な構造ではあるが,これを必須とするものではない。
(イ) 構成b1について
被告物件1は,仕切りパネルによって二つの空間に仕切られるもので
あるが,仕切られた各空間の使用方法はユーザーの任意であり,住居ス
ペースとトイレスペースに区画されることを必須とするものではない。
(ウ) 構成d1について
被告物件1は,仕切りパネル自体が出入口を開閉するものであり,仕
切りパネルと別部材である扉を備えるものではない。
イ 被告物件2について
(ア) 構成a2,e2について
被告物件2は,収容したペット(犬)のトイレの仕付けを行うことが
可能な構造ではあるが,これを必須とするものではない。
(イ) 構成b2,c2について
被告物件2には,仕切りパネルは存在せず,仕切扉によって内部空間
が二つの空間に仕切られるものであり,また,仕切られた各空間の使用
方法はユーザーの任意であり,住居スペースとトイレスペースに区画さ
れることを必須とするものではない。
(ウ) 構成d2について
被告物件2には,仕切りパネルは存在しない。
(2) 被告物件の構成要件充足性について
ア 被告物件1について
(ア) 被告物件1は,
「収容したペット(犬)のトイレの仕付けを行う」こと
を必須とするものではないから,構成要件A,Eを充足しない。
(イ) 被告物件1の仕切りパネルは,別部材としての扉を必要としないこと
から,別部材としての扉を必要とする「中仕切体」に該当せず,構成要
件B,Cを充足しない。
(ウ) 被告物件1の扉は,仕切りパネルと別部材ではないため,「中仕切体」
と別部材である「仕切扉」に該当せず,構成要件Dを充足しない。
イ 被告物件2について
(ア) 被告物件2は,
「収容したペット(犬)のトイレの仕付けを行う」こと
を必須とするものではないから,構成要件A,Eを充足しない。
(イ) 被告物件2の仕切扉は,
「中仕切体」に該当せず,構成要件B,Cを充
足しない。
(ウ) 被告物件2の仕切扉は,
「中仕切体」と別部材である「仕切扉」に該当
せず,構成要件Dを充足しない。
2 争点2(本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものか)について
【被告の主張】
本件特許は,以下の無効理由を有することから,特許無効審判により無効に
されるべきである。
(1) 新規性の欠如
本件発明は,実用新案公報(実用新案出願公告平3− 33255。乙55。
以下「乙55文献」という。)に記載された発明と同一であることから,新規
性を欠く(特許法29条1項3号)。
ア 乙55発明について
乙55文献の記載から,以下の発明が認定できる(以下「乙55発明」
という。)
① 複数のパネルが連結されてなる動物飼育籠(以下「飼育籠」という。)
であって,
② 飼育籠内に仕切壁が設けられ,当該仕切壁によって飼育籠内のスペー
スが区画され,
③ 仕切壁には出入口として開設される開口部が設けられ,
④ 開口部には当該開口部を開閉する扉が設けられ,
⑤ 仕付けに便利な動物のための飼育籠。
イ 相違点
本件発明と乙55発明を形式的に比較した場合,以下の相違点がある。
相違点 本件発明は,サークル本体の内部空間が中仕切体によって仕切ら
れることにより住居スペースとトイレスペースに区画されている
(構成B)のに対し,乙55発明は,飼育籠内に設けられた仕切壁
によって飼育籠内のスペースが区画されているものの,区画された
スペースが住居スペースとトイレスペースであるかどうかが不明で
ある点
ウ 相違点の検討
乙55文献の記載によると,乙55発明はトイレの仕付けの困難さを改
善するための工夫を講じることを当然予定しているところ,犬のトイレの
仕付けについて,住居スペースとトイレスペースを物理的に仕切るのが効
果的であることは,技術常識である(乙27,29,37参照)。
また,本件発明は,サークルの用途を「トイレ仕付け用」に限定してい
るものの,この点は,出願時の技術常識からすれば物の構成を限定するた
めの特別の意味を有しているとはいえない。本件発明の「住居スペースと
トイレスペースに区画」については,上記用途を機能的に特定するものに
すぎない。
さらに,本件発明の「住居スペースとトイレスペースに区画」されると
は,区画されたスペースが住居及びトイレとして利用可能であることを意
味するにすぎないところ,乙55発明の区画されたスペースが住居及びト
イレとして利用可能であることは自明又は技術常識である(乙27,29,
37)。
エ 小括
したがって,本件発明の構成は,すべて乙55発明に記載されており,
本件発明は新規性欠如の無効理由を有する。
(2) 進歩性の欠如①
本件発明は,平成13年6月発行の「赤ちゃん犬のしつけと育て方」
(杉浦
基之監修,主婦と生活社発行。乙27。以下「乙27文献」という。)に記載
された発明に周知技術等を適用することによって容易に発明できたことから,
進歩性を欠く(特許法29条2項参照)。
ア 乙27発明について
乙27文献の記載から,以下の発明が認定できる(以下「乙27発明」
という。)
① ベッドとトイレを有するペット用のサークルであって,
② サークルの内部空間が板によってベッドスペースとトイレスペース
とに区別されており,
③ 犬がベッドスペースとトイレスペースとを自由に行き来できるスペ
ースが存在する
④ 犬の飼育用サークル
イ 相違点
本件発明と乙27発明の相違点は,以下のとおりである。
相違点1 本件発明は「複数のパネルが連結されたサークル」であるのに
対し,乙27発明はこれが不明である点
相違点2 本件発明は「中仕切体」に「ペットが出入り可能な仕切出入口
が開口されるとともに,この仕切出入口を開閉する仕切扉が設け
られ」ているのに対し,乙27発明はこれが不明である点
なお,上記相違点に加え,本件発明は「仕切扉を介して住居スペースと
トイレスペースとの間のペットの行き来が規制されるように構成されて
いる」のに対し,乙27発明はこれが不明である点も相違点といえるが,
この点は,相違点2に係る構成の効果を示したものであるから,独立して
検討する意義はない。
ウ 相違点の検討
(ア) 相違点1について
本件明細書の「ペット用サークルは,複数のパネルを連結し,これら
のパネルで囲まれた内部にペットを収容するものであって,サークルの
内部空間は,仕切られることなく1つ空間として構成されているものが
一般的である」という記載(段落【0002】)等によれば,複数のパ
ネルが連結されたサークルは周知技術であり,同技術の適用により,相
違点1に係る構成に想到することは容易である。
(イ) 相違点2について
乙27文献には,
「人間の寝室のように,ベッドとトイレの間を板で仕
切って区別するのもよい方法です」との記載があるところ,人間の寝室
とトイレが隣接している構造の住居の場合,寝室とトイレとの間の仕切
体に扉を設けることは一般常識である。したがって,当該一般常識の適
用により,相違点2に係る構成に想到することは容易である。
また,ペットの仕付けのためには,住居スペースとトイレスペースと
の出入りをコントロールする必要があるところ,出入りをコントロール
するために出入口に扉を設けることは設計事項であり(乙29∼ 34),
この点からも相違点2に係る構成に想到することは容易である。
エ 小括
したがって,本件発明は,乙27発明に周知技術等を適用することによ
り容易に発明できたことから,進歩性欠如の無効理由を有する。
(3) 進歩性の欠如②
本件発明は,乙27発明に乙32発明等を適用することによって容易に発
明できたことから,進歩性を欠く(特許法29条2項参照)。
ア 乙27発明について
乙27発明は,上記(2)アのとおりである。
イ 相違点
本件発明と乙27発明の相違点は,上記(2)イのとおりである。
ウ 相違点の検討
(ア) 相違点1について
相違点1に係る構成に想到することが容易であることは,上記(2)ウ
(ア)のとおりである。
(イ) 相違点2について
a 乙32発明について
登録実用新案公報(実用新案登録番号第3059475。乙32。
以下「乙32文献」という。 の記載から,
) 以下の発明が認定できる(以
下「乙32発明」という。。
)
① 飼育室(第2の飼育室)とトイレを有するペット用のサークルで
あって,
② サークルの内部空間が開口部を有する壁部によって飼育室とトイ
レスペースとに区別されており,
③ 開口部には開口部を開閉する開閉ドアが設けられ,
④ 開口部を介して,ペットが飼育室とトイレスペースとを自由に行
き来しあるいは行き来が規制できるように構成されている
⑤ ペットの飼育用サークル
乙32発明は,開閉ドアを有する開口部を含む構成であって,上記
相違点2に係る構成を含むものである。
b 乙27発明に乙32発明を適用できること
乙27発明の課題は,ペットのトイレの仕付けの困難さを前提とし
て,これを助けるためのペット用サークル(飼育容器)を提供するも
のであるところ,乙32発明の課題も同様である。
このように,乙27発明と乙32発明は,課題が共通であり,対象
がペット用サークル(飼育容器)で,基本構造が居住スペースとトイ
レスペースとを区画する点においても共通する上,ペットの習性を利
用しようとする点でも共通するから,乙27発明に乙32発明を適用
する動機付けがある(なお,出入りをコントロールするために出入口
に扉を設けることは設計事項であり,この点からも,乙27発明に乙
32発明を適用する動機付けがあるといえる。乙29∼ 31,33,
34,37)。
エ 小括
したがって,本件発明は,乙27発明に乙32発明等を適用することに
より容易に発明できたことから,進歩性欠如の無効理由を有する。
(4) 進歩性の欠如③
本件発明は,乙37発明に乙32発明等を適用することによって容易に発
明できたことから,進歩性を欠く(特許法29条2項参照)。
ア 乙37発明について
公開特許公報(特開2003− 23904。乙37。以下「乙37文献」
という。)の記載から,以下の発明が認定できる(以下「乙37発明」と
いう。。
)
① トイレの仕付けを行う犬用サークルであって,
② 居住空間部分とトイレ部分を明確に分け,
③ その境目に取り外し可能な仕切りを備え,
④ 犬の居住空間部分とトイレ部分との行き来ができるようにあるいは行
き来が規制されるように構成されている
⑤ トイレ仕付け用サークル
イ 相違点
本件発明と乙37発明の相違点は,以下のとおりである。
相違点 本件発明は「中仕切体」に「ペットが出入り可能な仕切出入口が
開口されるとともに,この仕切出入口を開閉する仕切扉が設けられ」
ているのに対し,乙37発明は仕切扉が設けられていない点
ウ 相違点の検討
(ア) 乙32発明の適用
a 乙32発明
乙32発明は,上記(3)ウ(イ)aのとおりである。
b 乙37発明に乙32発明を適用できること
乙37発明の課題は,ペットのトイレの仕付けの困難さを前提とし
て,これを助けるための機器を提供するものであるところ,乙32発
明の課題も同様である。
このように,乙37発明と乙32発明は,課題が共通であり,対象
はペット用サークル(飼育容器)で,基本構造が居住スペースとトイ
レスペースとを区画する点においても共通する上,ペットの習性を利
用しようとする点でも共通するから,乙37発明に乙32発明を適用
する動機付けがある。
(イ) 技術常識の適用
平成17年11月発行の「06・07年版犬の医・食・住」
(小方宗次・
大友藤夫監修,どうぶつ出版発行。乙29。以下「乙29文献」という。)
には,トイレスペースとその他のスペースを区切るサークルに扉を設け
る構成が開示されているが,これは技術常識である。乙29文献には,
犬のトイレの仕付けに関する事項も記載されていることから,乙37発
明に上記技術常識を適用することは容易である(また,そもそも出入り
をコントロールするために出入口に扉を設けることは設計事項であり,
この点からも,乙37発明の取り外し可能な仕切りを,仕切扉を付加し
た仕切板に置換することについては,動機付けがあるといえる。乙29
∼ 34)。
エ 小括
したがって,本件発明は,乙37発明に乙32発明等を適用することに
より容易に発明できたことから,進歩性欠如の無効理由を有する。
(5) 進歩性の欠如④
本件発明は,乙39発明に乙32発明を適用することによって容易に発明
できたことから,進歩性を欠く(特許法29条2項参照)。
ア 乙39発明について
有限会社創作工房(以下「創作工房」という。)が販売するジョイント・
サークルのチラシ(乙39)の記載から,以下の発明が認定できる(以下
「乙39発明」という。。
)
① 複数のパネルで連結されたサークル本体であって,
② サークル本体内部をガラスアーチ枠により仕切ることにより住居ス
ペースとトイレスペースに区画することが可能であり,
③ ガラスアーチ枠には,ペットが出入り可能な仕切出入口が開口される
④ ことを特徴とするペットのトイレ仕付け用サークル
イ 相違点
本件発明と乙39発明の相違点は以下のとおりである。
相違点 乙39発明は,住居スペースとトイレスペースとをガラスアーチ
枠によって仕切るのに対し,本件発明は,
「仕切扉」によって仕切る
点
なお,上記相違点に加え,本件発明は「仕切扉を介して住居スペースと
トイレスペースとの間のペットの行き来が規制されるように構成されて
いる」点も相違点といえるが,この点は,本件発明の構成要件A∼ Cの有
機的結合によって当然に生じる効果であるから,独立して検討する意義は
ない。
ウ 相違点の検討
(ア) 乙32発明の適用
a 乙32発明について
乙32発明は,上記(3)ウ(イ)aのとおりである。
b 乙39発明に乙32発明を適用できること
乙39発明の課題の一つは,ペットのトイレの仕付けの困難さを前
提として,これを助けるための機器を提供するものであるところ,乙
32発明の課題も同様である。
このように,乙39発明と乙32発明は,課題が共通であり,対象
がペット用サークル(飼育容器)で,基本構造が居住スペースとトイ
レスペースとを区画する点においても共通するから,乙39発明に乙
32発明を適用する動機付けがある。
(イ) 技術常識の適用
乙29文献には,トイレスペースとその他のスペースを区切るサーク
ルに扉を設ける構成が開示されているが,これは技術常識である。乙2
9文献には,犬のトイレの仕付けに関する事項も記載されていることか
ら,乙39発明に上記技術常識を適用することは容易である(また,出
入りをコントロールするために出入口に扉を設けることは設計事項で
あり,この点からも,乙39発明のガラスアーチ枠を,仕切扉を付加し
た仕切板に置換することの動機付けがあるといえる。乙29∼ 34,4
3)。
エ 小括
したがって,本件発明は,乙39発明に乙32発明等を適用することに
より容易に発明することができたことから,進歩性欠如の無効理由を有す
る。
(6) 進歩性の欠如⑤
本件発明は,乙55発明に周知技術を適用することによって容易に発明で
きたことから,進歩性を欠く(特許法29条2項参照)。
ア 乙55発明について
乙55発明は,上記(1)アのとおりである。
イ 相違点
本件発明と乙55発明の相違点は,上記(1)イのとおりである。
ウ 相違点の検討
乙55文献の記載によると,乙55発明はトイレの仕付けの困難さを改
善するための工夫を講じることを当然予定しているところ,犬のトイレの
仕付けについて,住居スペースとトイレスペースを物理的に仕切るなどし
て区画するのが効果的であることは周知技術又は技術常識である(乙27,
29,37参照)。
エ 小括
したがって,本件発明は,乙55発明に周知技術又は技術常識を適用す
ることにより容易に発明できたことから,進歩性欠如の無効理由を有する。
(7) 進歩性の欠如⑥
本件発明は,乙39,乙40及び乙45の記載から認定できる発明に乙
55発明を適用することによって容易に発明できたことから,進歩性を欠
く(特許法29条2項参照)。
ア 乙39等発明について
乙39,乙40及び乙45の記載から以下の発明が認定できる(以下「乙
39等発明」という。。
)
① 複数のパネルで連結されたジョイント・サークルであって,
② サークル本体内部をストレート枠とガラスアーチ枠とにより仕切る
ことによりリビングとトイレに区画し,
③ ガラスアーチ枠には,ペットが出入り可能な出入口が開口される
④ 犬の仕付けが可能なペット用サークル。
イ 相違点
本件発明と乙39等発明の相違点は,以下のとおりである。
相違点 本件発明は,「仕切出入口を開閉する仕切扉」が設けられている
(構成D)のに対し,乙39等発明は,ガラスアーチ枠の開口部に
扉が設けられていない点
なお,上記相違点に加え,本件発明は,「仕切扉を介して住居スペース
とトイレスペースとの間をペットが行き来できるように或いは行き来が
規制されるように構成されている」
(構成D)のに対し,乙39等発明は,
「ペットが行き来が規制されるように構成されている」ことが記載されて
いない点も相違点といえるが,この点は,独立して検討する意義はない。
ウ 相違点の検討
(ア) 乙55発明
乙55発明は,上記(1)アのとおりである。
乙55発明は,開口部に当該開口部を開閉する扉を含む構成であって,
上記相違点(「仕切扉」)に係る構成を含むものである。
(イ) 乙39等発明に乙55発明を適用できること
乙39等発明の課題の一つは,トイレの仕付けの困難性を前提として,
これを手助けする機器を提供するものであるところ,乙55発明の課題
も同様である。
このように,乙39等発明と乙55発明は,課題が共通であり,基本
構造においても共通するから,乙39等発明に乙55発明を適用する動
機付けがある。
エ 小括
したがって,本件発明は,乙39等発明に乙55発明を適用することに
より容易に発明できたことから,進歩性欠如の無効理由を有する。
【原告の主張】
(1) 新規性の欠如について
ア 乙55文献に記載されているのは扉の規制装置に関する考案であるとこ
ろ,確かに,この規制装置を「仕切壁」にも適用可能である旨の記載はあ
るが,それは単に扉の規制装置の用途を例示しているだけであって,「仕
切壁」の具体的な構成や「仕切壁」を設ける目的などについては,一切記
載も示唆もない。
したがって,乙55文献の記載から,被告が主張する乙55発明を認定
することはできない。
イ また,仮に被告が主張する乙55発明を認定できたとしても,乙55発
明は,本件発明とは課題が全く異なる別個の技術的思想であり,対比の対
象として論じること自体が無意味である。乙55文献には,仕付けを行う
対象動物や,仕付けの対象について全く記載されていないことから,乙5
5発明はトイレの仕付けの困難さを改善するための工夫を講じることを
当然予定していると推定することはできない。また,乙55文献に「仕切
壁」や「扉」といった文言が記載されているからといって,本件発明の課
題を解決するものではない。そもそも,乙55文献の「仕切壁」について
は具体的構成や目的は不明である上,乙55文献の「扉」についても,比
較的簡単な構造で,開放,内方へのみ開放又は閉塞という3通りの取扱い
ができる規制装置を備えたことが特徴とされているのみで,かかる規制装
置と仕付けとの関連性,あるいは規制装置を仕切壁に設けることと仕付け
との関連性は認めることができない。
さらに,訂正後本件発明の「犬のトイレ仕付け用サークル」とは,犬の
トイレ仕付けに適した構造のサークルを意味するところ,訂正後本件発明
と乙55発明はこのような用途限定が意味する構造が相違することから,
別異の発明である。
ウ したがって,本件発明は,被告が主張する乙55発明と同一ではない。
(2) 進歩性の欠如①について
ア 乙27文献は,犬の飼育に慣れない飼い主を読者として想定した犬の仕
付け方に関する書籍であるところ,被告が指摘する箇所は単に飼い主への
助言の記載であって具体的な技術思想が記載されているとはいえず,先行
技術が開示されているとはいえない。なお,犬の仕付け方に関する課題が
知られ,その解決方法が抽象的に提案されていたとしても,これをもって
発明ということはできない。
仮に,乙27文献に先行技術が開示されているとしても,板でベッドと
トイレを仕切り,赤ちゃん犬が自由に行き来できるスペースを開けた上で,
ベッドとトイレをサークルで囲う場合,いかなる手段で板を自立させるの
か,いかなる手段でもって赤ちゃん犬が自由に行き来できるスペースを確
保しながら板で仕切るのかも不明であり,実施可能であるということはで
きない。
イ 被告は,相違点2において,乙27文献の記載を参照するが,同文献に
は,ベッドとトイレの間を板で仕切る具体的な方法は開示されていない。
「人間の寝室のように」という記載は,ベッドとトイレを区別する例とし
て記載されているに過ぎず,隔壁や隔壁で形成された扉と同じような構成
によって区別することまでも示唆するものではない。また,人間の寝室で
採用される構造をそのままペットに当てはめることは不相当である。
ウ また,ペット用サークルで,内部空間を仕切る中仕切体に設けた出入口
に扉を設ける構成は,単に出入りをコントロールすることにとどまらず,
ペットの仕付けを格段に容易に行うことができるという格別の作用効果を
もたらすのであるから,当該構成を設計事項ということはできない。乙2
9∼ 34には,ペット用のサークルにおいて,トイレの仕付けを行うとい
う目的のために,内部空間を仕切った上,その仕切りに扉を設けるという
技術的思想は,開示されていない。
エ したがって,本件発明は,乙27発明に周知技術等を適用することによ
り容易に発明できたとはいえない。
(3) 進歩性の欠如②について
ア 乙27文献において,先行技術が開示されているとはいえず,また,仮
に開示されていても実施可能といえないことは,上記(2)アのとおりである。
イ 被告が主張する乙32発明は,
「ペットの習性,特に,巣穴にもぐるとい
う習性を利用してペットに排泄の躾を行って巣穴と排泄場所とを分離させ,
これによりペット飼育容器を清潔に保つ」というものであり,このような
習性を有しないペットには不適切である。
ウ また,乙32文献には,住居スペースである第1の飼育室の一部にトイ
レとして凹所を設けることは記載されているが,第1の飼育室と凹所のト
イレを仕切りによって区分すること,すなわち本件発明の住居スペースと
トイレスペースを中仕切体によって区分することは記載されていない。
エ 乙29∼ 31,33,34には,ペット用のサークルにおいて,トイレ
の仕付けを行うという目的のために,内部空間を仕切った上,その仕切り
に扉を設けるという技術的思想は,開示されていない。
また,乙37については,排泄のタイミングを見計らって犬をトイレエ
リアに入れ,平常時には取り外しておいた仕切りを装着するという煩わし
さがあるのに対し,本件発明では,中仕切体を装着したまま仕切扉を開閉
するという簡単な操作によってトイレスペースあるいは住居スペースへの
ペットの誘導を行うことができ,これを閉鎖することによってペットが元
のスペースに戻ることが抑制され,かつ仕切扉を容易かつ迅速に閉鎖でき
るという格別の作用効果を奏する。
オ したがって,本件発明は,乙27発明に乙32発明等を適用することに
より容易に発明できたとはいえない。
(4) 進歩性の欠如③について
ア 乙37発明では,居住エリアとトイレエリアは,境目に段差が設けられ
ており,本件発明のように中仕切体によって仕切られているものではない。
また,乙37発明では,仕切りは平常時には取り外しておき,排泄のタイ
ミングを見計らって犬をトイレエリアに入れてから仕切りを装着するも
のであり,本件発明のように仕切りが常時装着されているものでもない。
イ 乙37発明において本件発明の「住居スペース」に該当するのは,サー
クル全体(被告が主張する居住エリアとトイレエリアの全体)であって,
サークルの全体が,常時「住居スペース」と「トイレスペース」に分けら
れるわけではない。
ウ 乙37発明の仕切りについては,これに開口部や扉を設ける必要性は皆
無であり,開口部や扉を設けるとかえって使い勝手が悪くなるばかりか,
上下方向のスライドの移動の際に扉部材によって犬を傷付けるおそれが
生じる。したがって,乙37発明に乙32発明を適用することについては
阻害要因がある。
エ また,乙29文献には,中仕切体ではなくサークルの外周スペースに扉
が設けられることが記載されているのみであり,また,サークル内のスペ
ース全体をトイレとするものであるから,乙37発明に,同文献に記載さ
れた技術を適用することによって本件発明に想到するとはいえない。
また,乙29文献は,犬の飼育に慣れない飼い主を読者として想定した
犬の仕付け方に関する書籍であるところ,被告が指摘する箇所は単に飼い
主への助言の記載であって具体的な技術思想が記載されているとはいえ
ないし,また,犬の仕付け方に関する課題が知られ,その解決方法が抽象
的に提案されていたとしても,これをもって発明ということはできない。
オ したがって,本件発明は,乙37発明に乙32発明等を適用することに
より容易に発明できたとはいえない。
(5) 進歩性の欠如④について
ア 乙39には,仕切りにアーチ枠を利用すればリビングとトイレに部屋を
「
分けられます!」との記載があるが,本件発明の課題や解決手段が乙39
作成時に認識されていたのであれば,仕切りにアーチ枠ではなくガラス扉
枠を使用することが示唆されてしかるべきであるところ,それにもかかわ
らずアーチ枠の利用のみ記載されていることからすれば,むしろ本件発明
から遠ざかる教示である。
イ したがって,本件発明は,乙39発明に乙32発明等を適用することに
より容易に発明できたとはいえない。
(6) 進歩性の欠如⑤について
ア 乙55文献の記載から,被告が主張する乙55発明を認定することがで
きないこと,乙55発明は本件発明と課題が全く異なる別個の技術的思想
であることは,上記(1)のとおりである。
また,乙27文献,乙29文献及び乙37文献に住居スペースとトイレ
スペースとを区画することが開示されていたとしても,本件発明とはその
構成も効果も異なるものであるし,乙55文献にこれを適用する動機付け
は全くない。
イ したがって,本件発明は,乙55発明,周知技術又は技術常識(乙27,
29,37)を適用することにより当業者が容易に発明できたとはいえな
い。
(7) 進歩性の欠如⑥について
ア 乙45添付資料③には,サークル本体内部を仕切ることによりリビング
とトイレに区画することが記載されているが,同資料は,創作工房のウェ
ブサイトを平成24年1月30日付けでプリントアウトしたものであり,
また,同添付資料⑤・⑦について頒布年月日や真偽のほどは不明である。
イ また,乙39等発明のコンセプトは,犬の成長に合わせてサークルのサ
イズを容易に変更できることであり(乙45参照),犬のトイレの仕付け
に関する課題や具体的な解決手段について記載や示唆があるとはいえな
い。
さらに,乙39文献には,「仕切りにアーチ枠を利用すればリビングと
トイレに部屋を分けられます!」との記載があるが,本件発明の課題や解
決手段が乙39文献作成時に認識されていたのであれば,仕切りにアーチ
枠ではなくガラス扉枠を使用することが示唆されてしかるべきであると
ころ,それにもかかわらずアーチ枠の利用のみ記載されていることからす
れば,むしろ本件発明から遠ざかる教示である(乙45添付資料⑦におい
ても同様である。。
)
ウ また,乙55文献に記載された「扉」が本件発明の「仕切扉」に相当す
るとはいえないことは,上記(1)イのとおりである。
エ したがって,本件発明は,乙39等発明に乙55発明を適用することに
より当業者が容易に発明できたとはいえない。
3 争点3(被告による直接侵害又は間接侵害の成否)について
【被告の主張】
(1) 直接侵害が成立しないこと
ア 被告が販売している被告物件は,ペット用サークルの部品群であって,
ペット用サークル自体ではないから,直接侵害は成立しない(なお,物理
的にペット用サークル自体の販売行為は存在しないことから,いかに規範
的評価を加えても,被告をペット用サークル自体の販売主体とみることは
できない。。
)
イ 本件において,被告物件の購入者が被告物件を完成させているところ,
これを規範的にみて被告による製造といえるかが問題となる。
しかしながら,被告は,ユーザーによる組立てを予想し,これを誘引し
ているものの,ユーザーによる組立ては,専らユーザーの意思でされるも
のであり,被告は何らの管理支配をしていない。また,被告は,被告物件
を販売することで利益を得ており,ユーザーによる組立てからは何らの利
益も得ていない。さらに,被告とユーザーとの関係は,被告物件の売主と
買主という関係に尽きるのであって何らの指揮監督関係等は存在しない。
また,本件では,被告物件の製造行為は中国で行われているために本件
特許権の効力は及ばないが,出願人は,特許請求の範囲を適切に記載すれ
ば,被告物件の製造を特許の実施行為と捉えるような特許権を取得するこ
とも可能であったといえる。
以上によれば,被告が,被告物件の製造の主体であるとみることはでき
ない。
(2) 間接侵害が成立しないこと
本件において,ユーザーの行為は「業として」の要件を欠いており,想定
される実施行為が特許権侵害ではないため,間接侵害は成立しない。
また,被告物件の完成品は,仕切り板又は仕切扉によって二つの居住空間
を形成し,二匹の犬を一つのサークルに入れることにも利用可能であるから,
本件発明以外の実用的用途が存在しないとはいえず,間接侵害は成立しない。
【原告の主張】
(1) 直接侵害の成立
ア 被告物件は,ユーザーが段ボール箱に梱包された部品を,取扱説明書に
従って組み立てるだけで直ちに完成する。被告物件の組立てには,他に部
品を付け加える必要はなく,組立てに当たって特殊な工具は全く必要とせ
ず,また,特別な知識や技能を必要とするものでもない。
イ 被告による被告物件の販売は,いわゆるノックダウン方式による製品の
供給と同視できるものであり,簡単な組立て作業を要するものとはいえ,
本件特許権に対する直接侵害と評価するのが相当である。また,被告は,
ユーザーを道具として,本件発明の実施品を生産することにより,本件特
許権の直接侵害をしていると評価することもできる。
なお,被告が販売する対象を,被告物件(ペット用サークル)自体では
なく,被告物件(ペット用サークル)の部品群と捉えるとしても,均等論
の適用により,直接侵害が成立する。
(2) 間接侵害の成立
仮に,直接侵害が成立しなくても,以下のとおり間接侵害が成立する。
ア 特許法101条1号の間接侵害について
被告は,本件発明の構成要件を充足する被告物件の部品を一まとめのセ
ットにして,小売業者,繁殖業者,一般消費者等に販売しており,特許法
101条1号の間接侵害に該当する。
なお,購入者の中には,例外的に中仕切りを用いない者がいるかもしれ
ないが,わざわざ中仕切りのある被告物件を購入しておきながらこれを装
着せずに使用することは経済的に合理的な行動とはいい難く,上記間接侵
害が認められるべきである。
イ 特許法101条2号の間接侵害について
被告による被告物件の部品を一まとめのセットにして販売していること
は,以下のとおり特許法101条2号の間接侵害に該当する。
(ア) 被告が販売する被告物件の部品について,購入者の下で本件発明の構
成要件を充足する製品として完成するために用いられることについて
は,被告自身が自認していることから,「その物がその発明の実施に用
いられることを知りながら」といえる。
(イ) また,本件では,被告が販売する被告物件の部品の全てがなければ,
購入者の下で本件発明の構成要件を充足する製品が完成することもな
いのであるから,「その発明による課題の解決に不可欠なもの」といえ
る。
(ウ) 被告が販売する被告物件の部品は,全ての部品を一まとめのセットに
した者であり,本件発明の実施品特有の構成であるということができる。
特に,中仕切り用の部材については,これを除外すれば本件発明の技術
的範囲から逃れ得ることになるため,本件発明の実施品特有の構成であ
り,
「日本国内において広く一般に流通しているもの」には当たらない。
4 争点4(補償金及び損害賠償金の額)について
【原告の主張】
(1) 補償金について
原告による警告後本件特許登録までの間の被告による被告物件の売上金額
の合計は,少なくとも11億0100万円である。
したがって,補償金の額は,上記売上金額合計に実施料率8%を乗じた8
808万円とするのが相当である。
(2) 損害賠償金について
本件特許登録後平成23年9月までの間の被告による被告物件の売上金額
の合計は,少なくとも4億1250万円である。
したがって,損害賠償金の額は,上記売上金額合計に実施料率8%を乗じ
た3300万円とするのが相当である。
【被告の主張】
争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(被告物件は本件発明の技術的範囲に属するか)について
(1) 被告物件の構成について
ア 証拠(甲3の1∼ 5)及び弁論の全趣旨によれば,被告物件1の構成は
以下のとおりと認められる。
a1 正面パネル,側面パネル,後面パネルが連結されたサークル本体の
内部で,収容したペット(犬)のトイレの仕付けを行うペット用サー
クルについて,
b1 前記サークル本体の内部空間が正面パネルと後面パネルを連結する
仕切りパネルによって仕切られることにより住居スペースとトイレス
ペースに区画されており,
c1 前記仕切りパネルには,ペット(犬)が出入り可能な出入口が開口
されるとともに,
d1 この出入口には,これを開閉する扉が設けられ,この扉を介して住
居スペースとトイレスペースとの間をペット(犬)が行き来できるよ
うに,あるいは行き来が規制されるように構成されていることを特徴
とする
e1 ペット(犬)のトイレ仕付け用サークル
イ 証拠(甲4の1∼ 4)及び弁論の全趣旨によれば,被告物件2の構成は,
以下のとおりと認められる(下線部は,被告物件1の構成と異なる点であ
る。。
)
a2 正面パネル,側面パネル,後面パネルが連結され,正面パネル及び
後面パネルが伸長可能なサークル本体の内部で,収容したペット(犬)
のトイレの仕付けを行うペット用サークルについて,
b2 前記サークル本体の内部空間が正面パネルと後面パネルを連結す
る仕切りパネルによって仕切られることにより住居スペースとトイレ
スペースに区画されており,
c2 前記仕切りパネルには,ペット(犬)が出入り可能な出入口が開口
されるとともに,
d2 この出入口には,これを開閉する扉が設けられ,この扉を介して住
居スペースとトイレスペースとの間をペット(犬)が行き来できるよ
うに,あるいは行き来が規制されるように構成されていることを特徴
とする
e2 ペット(犬)のトイレ仕付け用サークル
(2) 構成要件充足性
ア 被告物件の仕切りパネル(b1,b2),ペット(犬)が出入り可能な出
入口(c1,c2),扉(d1,d2)は,それぞれ本件発明の「中仕切
体」「仕切出入口」「仕切扉」に該当し,被告物件はいずれも本件発明の
, ,
構成要件を充足する。
イ 被告は,被告物件は,「収容したペット(犬)のトイレの仕付けを行う」
ことが可能な構造ではあるが,これを必須とするものではなく,また,仕
切りパネルによって二つの空間に仕切られるものであるが,仕切られた各
空間の使用方法はユーザーの任意であり,「住居スペース」と「トイレス
ペース」に区画されることを必須とするものではないとして,構成要件A,
B,D,Eを充足しないと主張する。
しかしながら,本件発明において,
「収容したペットのトイレの仕付けを
行う」「住居スペースとトイレスペースに区画」とされているのは,本件
,
発明のペット用サークルの用途に関するものであるところ,本件発明は,
既知の構成に新規の用途を見出したことを特徴とする発明ではなく,ペッ
ト用サークルの構成自体を特徴とする発明と解されるから,上記各文言は,
当該ペット用サークルについて,トイレの仕付けのために住居スペースと
トイレスペースとに分けて使用することが可能な構成であることを意味
するにすぎず,当該用途に使用されることが必須であるとは解されない。
そして,被告物件1は「トレーニングサークル」という名称で,「幼犬
のトイレのしつけに」と宣伝されており,被告物件2も「トイレのトレー
ニングにも!」と宣伝されているのであるから,被告物件が,いずれも上
記各文言を充足することは明らかである。
ウ また,被告は,本件発明の「中仕切体」と「仕切扉」は別部材であると
した上で,被告物件では仕切りパネル自体が出入口を開閉し,仕切りパネ
ルと扉が一体になっているから(構成d1,d2),構成要件Dを充足しな
いと主張する。
しかしながら,被告物件においても,扉は,固定された仕切りパネルの
開口部に設けられ,仕切りパネルの横方向に沿ってスライドさせることが
できる以上,仕切りパネルと扉が別部材であることは明らかであって,被
告の主張を採用できないことは明らかである。
(3) 小括
したがって,被告物件は本件発明の技術的範囲に属すると認められる。
2 争点2(本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものか)について
当裁判所は,本件発明は,乙55文献に記載された発明に基づき,当業者に
とって容易想到であることから,本件特許は特許無効審判により無効にされる
べきと判断する。
(1) 本件発明の内容
本件発明は,特許請求の範囲記載のとおり,
「複数のパネルが連結されたサ
ークル本体の内部で,収容したペットのトイレの仕付けを行うペット用サー
クルにおいて,前記サークル本体の内部空間が中仕切体によって仕切られる
ことにより住居スペースとトイレスペースに区画されており,前記中仕切体
には,ペットが出入り可能な仕切出入口が開口されるとともに,この仕切出
入口を開閉する仕切扉が設けられ,この仕切扉を介して住居スペースとトイ
レスペースとの間をペットが行き来できるように或いは行き来が規制される
ように構成されていることを特徴とするペットのトイレ仕付け用サークル。」
である。
(2) 乙55文献に記載された発明
ア 乙55文献の記載内容
平成3年7月15日公告の乙55文献には,以下の事項が記載されてい
る。
(ア) 「『産業上の利用分野』 本考案は,主として犬,猫,小鳥,マウス,
うさぎ等動物飼育籠に於ける出入口,仕切壁,通路等に開閉自在に設け
られて扉の規制装置に関するものである」(第1欄第20行∼ 第24行)
(イ) 「『実施例』 図面は本考案の一実施例を示しており,1は犬,猫,
うさぎ等動物の飼育籠で,この飼育籠1の一面には出入口,仕切壁用の
出入口(飼育籠内に仕切り壁体を設けた場合である。図示せず),通路
用として開設される方形の開口部を囲繞する扉枠杆2が設けられてお
り,この扉枠杆2は飼育籠 を構成する上方側の横杆3と下方側の横杆
4及びこれと直行する左右の縦杆5,6を井形に交わらせて形成されて
いる。7は扉枠杆2の上方側の横杆3に回動自在に吊架された扉で,扉
枠体2と略同じ大きさとされている。」
「8は扉枠体2の両縦杆5,6に上下動可能かつ僅か揺動可能(第2
図で手前と後方である。)に捲装された平面視して偏平環状若しくは両
端部が偏平環状になる規制杆で,…この規制杆8が下降限にある時外方
杆材8aは下方側の横杆4上に載架される構造となっている。そしてこ
の規制杆8の外方杆材8aにはこの例では二本のストッパー片9,9が
垂下されており,このストッパー片9,9は前述の如く下方側の横杆4
の裏側に掛止できる。この場合規制杆8は前記下降限より僅か上方に位
置するようになる(第3,4図のロの状態)。そして扉7の丈と規制杆
8との関係,及び規制杆8の操作を介して扉7の動きを規制する方法は,
下記のようになっている。
先ず,前述の如く,規制杆8が,下降限にあるとき,即ち,規制杆8
の外方杆材8aが,下方側の横杆4上に載架されているとき(下方側の
横杆4上面に乗っているとき,以下同じ)は,この規制杆8より離間す
る。いわゆる扉7の下枠杆7aと,規制杆8との間に,僅かの隙間Aが
形成される。この隙間Aを利用して,扉7が開閉される。
また前述の如く,規制杆8のストッパー片9,9が下方側横杆4に掛
止されているとき,即ちストッパー片9,9が,下方側の横杆4上に載
架されているときは,内外方杆材8b,8aで扉7の下枠杆7aを狭持
して,この扉7の開閉を規制するか,又は内外杆材8bで扉7の下枠杆
7aの外方への開扉を規制し,扉7の動物籠1の外方への動きが停止さ
れている(…)。尚以上は動物籠1の出入口について詳述したが,その
他通路とか仕切壁とかの開閉扉にも採用できるし…」(第4欄第16行
∼ 第5欄第19行)
(ウ) 「『考案の効果』 本考案は以上詳述したように,動物籠等の扉枠杆
に扉を回動自在に設けると共に,この扉の回動若しくは内方へのみの回
動または停止を司る規制杆を前記扉枠杆に設ける構成であるので,扉の
取り扱いが,開放,内方へのみ開放または閉塞という三通りが可能とな
り大変に便利であり,動物等の飼育に最適であること,また飼育する動
物の種類とか習性,しつけの程度等により随時使い分けることができ重
宝する。(第5欄第23行∼ 第6欄第9行)
」
イ 乙55文献に記載された発明
乙55文献の上記記載内容を踏まえると,同文献には,以下の発明(「乙
55発明」)が記載されていると認められる。
① 動物(主として犬,猫,小鳥,マウス,うさぎ等)の飼育籠(以下「飼
育籠」という。)であって,
② 飼育籠内に仕切壁が設けられ,当該仕切壁によって飼育籠内のスペー
スが区画され,
③ 仕切壁には開口部が設けられ,
④ 開口部には当該開口部を開閉する扉が設けられた,
⑤ 動物の飼育や仕付けに適した飼育籠。
(3) 本件発明と乙55発明との対比
本件発明と乙55発明を比較すると,乙55発明の仕切壁,開口部,扉は,
それぞれ本件発明の「中仕切体」「仕切出入口」「仕切扉」に相当する。
, ,
本件発明と乙55発明の相違点は以下のとおりである。
相違点1 本件発明は「複数のパネルが連結されたサークル」であるのに対
し,乙55発明は「飼育籠」である点
相違点2 本件発明は,区画されたスペースが「住居スペースとトイレスペ
ース」であるのに対し,乙55発明は,区画されたスペースが,動
物の飼育や仕付けに利用されるものの,住居スペースとトイレスペ
ースであるかどうかが不明である点
(4) 検討
上記各相違点については,以下のとおり,いずれも当業者にとって,想到
することが容易であったと認められる。
ア 相違点1について
平成17年11月29日発行の乙29文献には,「子犬の部屋はサーク
ルを使って囲うとトイレのしつけがしやすく,大変便利です」と記載され
ている。また,創作工房は,遅くとも平成16年頃から,「ジョイント・
サークル」という商品名で,犬の飼育用として,複数のパネルが連結され
たサークルを販売したことが認められる(乙36,39,40,45)。
これらの記載を踏まえると,犬の飼育に当たって複数のパネルを連結し
たサークルを用いることは,本件特許出願時に周知技術であったと認めら
れる。そして,乙55発明にこの周知技術を適用することについて困難と
なる事情も見当たらないことから,当業者は,相違点1に係る構成を想到
することは容易であったといえる。
イ 相違点2について
(ア) 相違点2に係る本件発明の構成は,本件発明のペット用サークルにお
いて,区画されたスペースが「住居スペースとトイレスペース」に使用
可能な構成であることを意味するものであるところ,本件発明のペット
サークルにおいて内部空間を仕切った場合,それが住居スペースとトイ
レスペースに使用可能な構成であることは,当業者にとって自明といえ
る。
(イ) また,区画したスペースを住居スペースとトイレスペースとして使用
すること自体について当業者が容易に想到できるかを検討しても,以下
のとおり,当該使用態様は本件特許出願前に開示されており,当業者は,
乙55発明にこれを適用することによって,区画したスペースを「住居
スペースとトイレスペース」に使用することを容易に想到できたといえ
る。
a 平成13年発行の乙27文献には,犬のトイレの仕付けに当たり,
「人間の寝室のように,ベッドとトイレとの間を板で仕切って区別す
るのもよい方法です」と記載されている。
また,平成15年1月28日公開の乙37文献には,
「犬のトイレの
しつけを行うために,犬の反復学習(スリコミ)を利用して,居住部
分とトイレ部分を明確に分け,トイレ以外で排泄をしないように習慣
づけができるように,その境目に取り外し可能な仕切りを備え,トイ
レ部分にはトイレシーツが滑りにくく加工した引き出しトレーを備え
たドッグサークル型トイレしつけ機」と記載されている(「乙37発
明」。
)
さらに,前記「ジョイント・サークル」については,平成16年7
月20日頃,
「ストレート枠を5枚,扉枠を1枚,仕切り棒2本セット
を追加することで2ルーム仕様のサークルができあがります!…さら
に,仕切りにアーチ枠を利用すればリビングとトイレに部屋を分けら
れます!」として販売されていたことが認められる(乙39,45添
付資料④⑤。なお,原告は,乙45添付資料⑤の頒布年月日が不明で
あると主張するが,同添付資料⑤の作成日は同添付資料④によって明
らかにされており,この頃に頒布されたものと認められる。。
)
以上によれば,区画したスペースを,犬のトイレの仕付けのために
住居スペース,トイレスペースとして使用することは,本件特許出願
前に,上記各文献等において既に開示されていたといえる。
b そして,乙55文献には,
「主として犬,猫,小鳥,マウス,うさぎ
等動物飼育籠に於ける出入口,仕切壁,通路等に開閉自在に設けられ
て扉の規制装置に関するもの」であり,
「動物等の飼育に最適であるこ
と,また飼育する動物の種類とか習性,しつけの程度等により随時使
い分けることができ重宝する」ものとして,開口部に扉を設けた仕切
壁を備える構成(乙55発明)が記載されており,当該構成を犬を含
む動物の仕付けに使用することが記載されている。
このような乙55文献の記載内容に照らせば,乙55発明に上記a
に開示された内容を適用して,区画したスペースを「住居スペースと
トイレスペース」として使用することを想到するのも容易であったと
いえる。
ウ 原告の主張について
原告は,乙55文献には,「仕切壁」の具体的構成が一切記載も示唆も
されていないと主張するところ,確かに,同文献では,図示した上でその
構成が詳細に開示されているのは,飼育籠の一面に出入口を設けた場合の
のみであり,飼育籠内に仕切り壁体を設けた場合については「図示せず」
とされるなど,その具体的構成が詳細に開示されているとはいい難いが,
飼育籠や飼育用サークルに仕切壁を設けること自体に技術的な困難があ
るともいえないことから(この点,前記「ジョイント・サークル」でも,
内部の仕切りとしてアーチ枠という部材を利用するものとされており,本
件特許出願前から実際に,飼育サークル内に仕切りを設ける構成が存在し
ていたことが認められる。,この点は当業者が容易に理解し得るものであ
)
ったといえる。したがって,乙55文献に,「仕切壁」について図面等の
詳細な記載がないことをもって,「仕切壁」の構成が開示されていないと
いうことはできない。
また,原告は,乙55文献には「仕切壁」の目的が一切記載も示唆もさ
れていないと主張するが,同文献には,犬のトイレの仕付けに使用するこ
とまでの具体的な記載はないものの,作用効果として「動物等の飼育に最
適であること,また飼育する動物の種類とか習性,しつけの程度等により
随時使い分けることができ重宝する」旨記載されており,「仕切壁」が動
物の飼育,仕付けに利用されること自体は開示されているといえる。そし
て,前記イ(イ)の各文献等には,犬のトイレの仕付けのために,トイレス
ペースと住居スペースを区画することが開示されており,乙55発明にこ
れらを適用できることは上記イ(イ)のとおりであるから,原告の主張には
理由がない。
なお,原告は,乙37発明について,同発明の仕切りは,仕付け以外の
平常時には取り外されていることから,本件発明の「住居スペース」に該
当するのは,サークル全体(被告が主張する居住エリアとトイレエリアの
全体)であって,サークルの全体が,常時「住居スペース」と「トイレス
ペース」に分けられるわけではないと主張するが,少なくとも仕付け時に
おいて両スペースが区画されていることは明らかであり,同内容が開示さ
れていないとはいえない。
(5) 小括
以上のとおり,本件発明は,その特許出願前に頒布された乙55文献に記
載された発明に周知技術等を適用することによって,容易に想到することが
できたものと認められ,前記第3の2【被告の主張】(6)「進歩性の欠如⑤」
には理由がある。したがって,本件発明は,特許法29条2項に違反し,特
許無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,被告に対し,
本件特許権を行使することができない。
なお,原告は,本件発明の「ペット」を「犬」に減縮する訂正請求を行っ
ているが,上記のとおり,乙55発明等は「犬」の場合も含んだものである
ことから,訂正後本件発明においても上記無効理由が解消しないことは明ら
かである。
第5 結語
以上のとおり,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく理由
がないから,原告の請求をいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき
民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 谷 有 恒
裁判官 松 川 充 康
裁判官 網 田 圭 亮
別紙
物件目録
1 被告物件1
(1) 商品名 トレーニングサークル
型 番 TRS− 950
(2) 商品名 トレーニングサークル
型 番 TRS− 960
2 被告物件2
商品名 伸縮ウッディサークル
型 番 DWS− 1800
以上
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