平成29(ネ)10069特許権侵害差止等請求控訴事件
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裁判所 |
控訴棄却 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
|
裁判年月日 |
平成29年12月13日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
控訴人株式会社辰巳菱機 被控訴人株式会社アステックス
|
対象物 |
負荷試験機 |
法令 |
特許権
特許法100条1項1回
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キーワード |
特許権5回 侵害5回 実施4回 差止2回 分割1回 損害賠償1回
|
主文 |
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。 |
事件の概要 |
1 本件は,その名称を「負荷試験機」とする発明に係る特許権(本件特許権。
その特許が「本件特許」である。)を有する控訴人が,原判決別紙物件目録
記載の負荷試験機(被告物件)は,本件特許の願書に添付した特許請求の範
囲の請求項1記載の発明(本件発明)の技術的範囲に属するから,被控訴人
による被告物件の製造,販売又は使用は本件特許権の侵害を構成すると主張
して,被控訴人に対し,以下の請求をしたものである。 |
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判決文
平成29年12月13日判決言渡
平成29年(ネ)第10069号 特許権侵害差止等請求控訴事件(原審 東京地
方裁判所平成28年(ワ)第5095号)
口頭弁論終結の日 平成29年10月25日
判 決
控 訴 人 株 式 会 社 辰 巳 菱 機
同訴訟代理人弁護士 伊 藤 博 昭
同補佐人弁理士 伊 藤 儀 一 郎
被 控 訴 人 株 式 会 社 ア ス テ ッ ク ス
同訴訟代理人弁護士 吉 峯 真 毅
同 高 橋 拓 也
同 大 井 倫 太 郎
同 大 河 原 啓 充
同 吉 峯 裕 毅
同 倉 都 雄 規
同 寒 河 江 孝 允
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,原判決別紙物件目録記載の負荷試験機を製造,販売及び使用
してはならない。
3 被控訴人は,原判決別紙目録記載の負荷試験機を廃棄せよ。
4 被控訴人は,控訴人に対し,2833万円及びこれに対する平成28年3
月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等(略称は原判決のそれに従う。)
1 本件は,その名称を「負荷試験機」とする発明に係る特許権(本件特許権。
その特許が「本件特許」である。)を有する控訴人が,原判決別紙物件目録
記載の負荷試験機(被告物件)は,本件特許の願書に添付した特許請求の範
囲の請求項1記載の発明(本件発明)の技術的範囲に属するから,被控訴人
による被告物件の製造,販売又は使用は本件特許権の侵害を構成すると主張
して,被控訴人に対し,以下の請求をしたものである。
(1) 特許法100条1項に基づき,被告物件の製造,販売及び使用の差止め
(2) 同条2項に基づき,被告物件の廃棄
(3) 特許権侵害の不法行為による損害賠償金2833万円及びこれに対する
不法行為後の日である平成28年3月1日(訴状送達の日の翌日)から支払
済みまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払
2 原判決は,被告物件はいずれも文言上本件発明の技術的範囲に属さず,本
件発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するということもできないと
して,控訴人の請求を全部棄却した。
控訴人は,原判決を不服として控訴した。
3 前提事実等
前提事実等は,原判決3頁10行目「500689」の後に,「号」を加え
るほかは,原判決「事実及び理由」「第2 事案の概要」「2 前提事実等」
(原判決2頁23行目~4頁16行目)に記載のとおりであるから,これを引
用する。
4 争点及び争点に対する当事者の主張
本件における当事者の主張は,以下のとおり訂正,付加するとともに後記5
のとおり当審における補充主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」
「第2 事案の概要」「3 争点」(原判決4頁17行目~5頁5行目)及び
「4 争点に対する当事者の主張」(原判決5頁6行目~20頁5行目)に記
載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決6頁7行目の「同別紙」を「別紙被告物件説明書(1)」に改め
る。
(2) 原判決8頁10行目及び10頁9行目の「対抗」を,いずれも「対向」
に改める。
(3) 原判決8頁12行目の「また,」の後に,「特許請求の範囲の記載上」
を加える。
(4) 原判決15頁25行目の冒頭に,「また,被告物件においては,」を加
える。
(5) 原判決16頁11行目の「点にあり,」の後に,「そのために,」を加
える。
(6) 原判決17頁9行目の「同月」を「同年10月」に,21行目の「同月
25日」を「同年11月5日」に,それぞれ改める。
(7) 原判決17頁26行目の「ことという」を「という」に改める。
(8) 原判決30頁22行目及び33頁22行目の「車両の」を,いずれも
「車両に」に改める。
5 当審における補充主張
(1) 争点1-1(被告物件の構成はいかなるものか)及び1-2(被告物件
は,文言上本件発明の技術的範囲に属するか(構成要件A-3,D,E,F
及びGの充足性))について
【控訴人の主張】
ア 原判決は,構成要件A-3にいう「枠」につき,「最低限,互いに隣り
合う関係にある『枠』が『絶縁素材で構成され』ていることを要する」
と解釈し,被告物件は構成要件A-3等を充足しないとの判断を示した。
しかし,以下のとおり,原判決は,抵抗ユニットそのもの及び抵抗ユ
ニット間の絶縁性についての理解を誤っており,また,抵抗ユニットに
設けられた「枠」の技術的意義についても誤った理解をしている。これ
により,原判決は,本件発明の技術的意義の判断を誤っている。
イ 本件発明の技術的意義
負荷試験対象電源の電圧が大きい場合には,複数の抵抗ユニットを並
べた大型の負荷試験機が必要になるが,従来技術によれば,大型の負荷
試験機では,複数の抵抗ユニットを上部に取り付けた土台部が一体的に
構成されるため,複数の抵抗ユニットと土台部を組み立てられた状態の
まま運搬する必要があるため,昇降機等狭いスペースを経由して運搬す
ることが困難になる(本件明細書等【0004】)。本件発明は,複数
の抵抗ユニットで構成される負荷試験機で,運搬や設置が容易な負荷試
験機を提供することを目的とするものである(【0005】)。
本件発明は,1つの土台部の上に,外形を土台部より小さくした抵抗
ユニットを取り付けて,土台部と抵抗ユニットとを1つのセットとし,
もって前記昇降機等の狭いスペースを経由して1つずつ運搬出来るよう
にしたものである(【0007】)。
また,昇降機等で運搬した後,再度,例えばビルの屋上等で負荷試験
機を組み立てることができ(【0008】),しかも,内部に抵抗ユニ
ットの下面の開口から上面の開口に向けて送風できるよう取り付けた冷
却ファンつき土台部と,その上に取り付けた抵抗ユニットを1つのセッ
トとしてあるため,組立の際,このセットを複数並べることにより,詳
細に計測しなくとも安全な絶縁距離を取って設置することができる
(【0008】~【0010】)。
このように,本件発明の課題解決手段は,1つの土台部の上に1つの
抵抗ユニットをあらかじめ取り付けたセットを構成し,そのセット自体
について,あらかじめ所定の絶縁距離が取れるように設計することによ
り,その運搬・設置を容易にした,というものである。
ウ 本件特許における「絶縁」について
(ア) 本件特許において,隣り合う抵抗ユニット間の絶縁性については,
絶縁距離を取ることで十分な絶縁が達成されており,当該絶縁距離を
取ることが本件発明の本質である。抵抗ユニットの前面及び背面を除
く二側面を絶縁素材で構成する必要性はない。
(イ) すなわち,高圧の負荷試験機であれば,6600Vもの高圧電流を
扱うのであるから,高圧電流の絶縁につき最大の考慮を図らなければ
ならないが,負荷試験機に関する絶縁規定又は抵抗器群を覆う枠につ
いての公式な規格ないし基準は全く存在しない。本件特許においては,
乾式負荷試験機のパイオニアであり,本件発明の発明者である控訴人
代表者が,電気工事等の基本的知識や技術常識のほか,長年の負荷試
験の実績によって得た経験則に基づき,一定の絶縁距離を設定したも
のである。
また,「日本配電盤工業会規格 キュービクル式高圧受電設備通則」
(乙6。以下「通則」という。)は,そのまま負荷試験機に適用するこ
とはできないものの,基礎となる電気機械,配電盤等における電気の作
用や注意点等,電気機械や配電盤等の安全性に関する基本的な知識につ
いては,共通するところはある。この通則において,それぞれ周囲を絶
縁部材で覆われている,隣り合う高圧用絶縁電線を近づけられる絶縁距
離は20mm と規定され,また,高圧電流が流れる高圧用絶縁電線が例
えば変圧器と接続する接続箇所(高圧充電部)と,当該接続箇所の隣に
設置された高圧用絶縁電線が例えば変圧器と接続する接続箇所(高圧充
電部)との相互の絶縁距離は90mm 以上と規定されている。これを参
考として負荷試験機の絶縁距離について考察すると,負荷試験機の場合,
棒状をなす抵抗器(筒状パイプ内にニクロム線等の電気抵抗の大きい通
電部材が軸方向に貫挿して用いられ,この通電部材の周りには粉状のマ
グネシウム等絶縁部材が充填されている。)が,絶縁素材で被覆絶縁さ
れた高圧用絶縁電線に,抵抗ユニット内の棒状の抵抗器の長手方向の端
部にある接続端子が高圧充電部に,それぞれ類似すると考えられる。こ
のため,1つの抵抗ユニット内に設けられた棒状の抵抗器の側面とその
隣の棒状の抵抗器の側面との間の最小絶縁距離については20mmを,
1つの抵抗ユニット内の棒状の抵抗器の長手方向の端部にある接続端子
と,その抵抗ユニットの隣にある別の抵抗ユニットに設置された抵抗器
の接続端子との間の最小絶縁距離は90mm を,それぞれ取ればよいこ
とになる。こうした点を踏まえると,本件特許における絶縁距離の考え
方は,電気工事等の基本的知識や技術常識に基づいた合理的なものであ
るということができる。
(ウ) 負荷試験機において,同じ抵抗ユニット内での抵抗器の接続端子と
その隣の抵抗器の接続端子とは,接続部材で直列に接続されており,
電位差がなく,短絡の危険も小さいから,同じ抵抗ユニット内で並列
に並んでいる抵抗器と隣の抵抗器との接続部分については,最小絶縁
距離を90mm取る必要はない。もっとも,この直列接続部について
は,支持碍子を用いて支持,固定するのが一般的である。この支持碍
子につき,控訴人代表者は,従来の支持碍子の問題点を解決すべく,
これと同様の絶縁性能を持つ板状の絶縁素材を発明し,この板状の絶
縁素材に間隔を空けて設けた孔に,複数の抵抗器の接続端子を挿入し
て支持,固定し,もって従来の支持碍子と同様に高圧の電流が流れる
抵抗器と抵抗器との接続部を支持できると共に,固定できるようにし
た(甲17)。板状に形成された絶縁素材で構成された「枠」を前面
と背面に使用する理由はここにある。
(エ) 他方,抵抗器群の側面(抵抗器の端子が取り付けられない面)の
「枠」は,前面と背面の「枠」とは異なり,支持碍子の機能は必要な
く,絶縁素材で形成する必然性は全くない。
負荷試験機において,1つの抵抗ユニット内の抵抗器の長手方向と並
行する側面には,抵抗器の端部にある接続端子(通則における高圧充電
部)が存在しないことから,ある抵抗ユニット内の当該側面と隣の抵抗
ユニット内の抵抗器の長手方向と並行する側面の間の絶縁距離は定かで
ない。もっとも,本件特許においては,抵抗ユニットの四側面全てにつ
き,隣り合う抵抗ユニットの「枠」と「枠」との間が90mm 以上空く
ように設計されているため,この絶縁距離を取るだけで十分に絶縁は達
成される。このため,この側面部分に絶縁素材で構成された枠を設ける
ことは必要とされていない。
また,抵抗ユニットの四側面のうち抵抗器の長手方向側面について絶
縁素材以外の素材を使用し得ることは,被告物件製造時においては広く
当業者に知られていた技術常識である(甲12)。
さらに,抵抗ユニットの前面及び背面を除く二側面に枠を設ける意味
としては,抵抗ユニット自体の安定性や内部へのゴミの侵入防止,冷却
の便宜といった複数の目的があるが,隣り合う抵抗ユニットとの間の絶
縁を図るという目的は含まれていない。
したがって,この側面の枠を必ずしも絶縁素材で構成する必要はない。
エ 特許請求の範囲及び本件明細書等の記載
(ア) 本件特許の特許請求の範囲の記載は,隣り合う抵抗ユニット間の絶
縁のため,隣り合う抵抗ユニットにおける「前記枠」の間隔が第2距
離(90mm)以上になるようにして,絶縁距離を取ることを明記して
いる。他方,「枠」が必ず「絶縁素材」で構成されなければならない
との記載はないし,「枠」を「絶縁素材」で構成する目的が「隣り合
う抵抗ユニット間の絶縁のため」との記載もない。
(イ) 本件明細書等においても,抵抗器の長手方向側面側についての枠に
つき,必ず絶縁素材で構成するとは明記されていない。前記のとおり,
抵抗器の内部にはあらかじめ絶縁素材を充填して絶縁処理をしている
ため,この側面側の枠についての絶縁処理は必須ではない。
また,「発明が解決しようとする課題」を参照しても,抵抗器群の側
面の「絶縁」については一切記載されていない。
オ 以上より,「互いに隣り合う関係にある『枠』が『絶縁素材で構成され』
ていることを要する」とする原判決の判断は誤りである。
カ 被告物件の構造
被告物件は,1つの大きな横長の土台部の上に3つの抵抗ユニットが
取り付けられた従来型の構造の負荷試験機ではなく,内部に1つの冷却
ファンが取り付けられた1つの土台部の上に1つの抵抗ユニットが取り
付けられ,それを1セットとし,車両の荷台上にこれが3セット並べて
搭載されている。これらは,1セットずつ簡単に取り外し,運搬・設置
することができる。
したがって,被告物件は,その構造上,本件発明に係る構成要件を充
足する。
【被控訴人の主張】
ア(ア) 本件特許の特許請求の範囲には,構成要件として「前記枠のうち,
少なくとも他の抵抗ユニットと対向する位置関係にあるものは」「隣り
合う抵抗ユニットにおける前記枠の間隔が第2距離以上になるように,
並べられ」との記載がある。これを通常の語法で読めば,抵抗ユニット
間で対向できるのは上面と下面を除く四方向であること,当該枠は「第
1距離」ないし「第2距離」を定義づけるものであることからすれば,
「枠」とは「抵抗ユニットとしての側面間の対向を観念できる上面と下
面を除く四側面」をいうと解されるところ,当該「枠」について「絶縁
素材で構成され」とされている以上,本件特許の特許請求の範囲は,四
側面が全て絶縁素材で構成されることを要求しているものと解釈するの
が素直である。
(イ) 本件明細書等の絶縁に関する記載は,絶縁効果に資する構造につき,
①「第2距離」等の離隔を取ることによる絶縁(【0009】,【0
010】,【0015】,【0059】),②絶縁素材で構成できた
枠による絶縁(【0045】,【0071】) , ③碍子による 絶 縁
(【0076】,【0077】,【0089】,【0093】)の大
きく3つに分類することができる。このうち,①は構成要件D,E,
F,Gに,②は構成要件A-3に,③は構成要件Cに明示されて,特
許請求の範囲に漏れなく記載されている。
(ウ) 以上より,原判決の指摘する本件発明及び構成要件A-3の解釈に
誤りはない。
イ(ア) 控訴人は,負荷試験機において,抵抗器群端子部が挿入される二面
とそうではない二面とでは支持碍子であるか否かの違いがあり,抵抗器
群端子部が挿入されない枠は支持碍子ではないから,絶縁素材で構成さ
れる必要はない旨を主張するものと理解されるが,その裏付けはなく,
技術的観点においての合理的根拠が全く存在しない。
(イ) 控訴人が引用する甲12は,スイッチング部材のケースの密閉性が
低いことから,長期間屋外に設置した状態で使用すると放電が生ずる
という問題の解決を図ることを目的とする発明であって,本件発明の
ように,絶縁距離を取り,運搬・設置を容易にすることを目的とした
技術的な思想を背景とするものではない。したがって,本件発明と甲
12記載の技術とで,抵抗器を囲む四側面を全て絶縁素材で構成する
か否かという問題を同列に扱うことはできない。
また,甲12は控訴人自身の出願した特許に関するものであって,こ
れをもって当業者の技術常識とすることは合理的根拠に欠ける。
(ウ) 控訴人は,抵抗ユニットの長手方向側面につき,抵抗ユニット間の
絶縁という目的を有しないなどと主張するけれども,「隣り合う抵抗
ユニットとの絶縁性を高めるために,絶縁素材でできた枠(第1枠2
1a~第6枠26a)で側面が覆われ」(本件明細書等【0045】)
との記載に反する。絶縁素材は絶縁性において有用であるからこそ使
用されるものであって,絶縁目的ではないが絶縁素材を使用するなど
といった主張は,技術常識上容認し得ない。
(エ) 被告物件は,車載型負荷試験装置であり,その状態で完成している
ため,わざわざ分解しないし,取り外しも容易でない。また,屋上で
試験を行う場合にも,車載された状態で,屋上部分までケーブルを接
続すれば試験可能であり,無益な時間的経済的コストをかけてまで屋
上に運搬する必要性はない。控訴人の主張は技術的・合理的根拠を欠
くものである。
(2) 争点1-3(被告物件は,本件発明と均等なものとしてその技術的範囲
に属するか)について
【控訴人の主張】
ア 原判決は,「複数の抵抗ユニットと土台が組み立てられる際に,抵抗ユ
ニット間の絶縁を維持した状態で簡単に設置できるようにしたという点
において,従来技術では達成することのできなかった新たな作用効果を
奏するものとされているのであって,これを実現するための本件発明に
特有の構成として ,『前記抵抗器群の側面』を『絶縁素材で構成され
(た)』『枠』で『覆われ』るようにしたものというべきである。」と
解釈した上,「本件相違部分は,本件発明の本質的部分に係るものであ
る」として,いわゆる均等の第1要件を満たさないと判断した。
イ 主位的主張
しかし,前記のとおり,本件特許においては,隣り合う抵抗ユニット
間の絶縁性につき,絶縁距離を取ることで十分な絶縁が達成されている
のであり,当該絶縁距離を取ることが本件発明の本質である。抵抗ユニ
ットの前面及び背面を除く二側面を絶縁素材で構成する必要性はない。
また,抵抗ユニットの前面及び背面を絶縁素材で構成する意味は,抵
抗器の長手方向の端部にある接続端子部分を支持し,固定するための支
持碍子として利用することにあるのであって,隣り合う抵抗ユニット間
の絶縁のためではない。他方,抵抗ユニットの前面及び背面を除く二側
面に枠を設ける意味は,抵抗ユニット自体の安定性やゴミの侵入防止,
冷却の便宜といった複数の目的にあるが,隣り合う抵抗ユニットとの間
の絶縁を図るという目的は含まれていない。したがって,この側面の枠
を必ずしも絶縁素材で構成する必要はない。
以上のとおり,抵抗ユニットを覆う四側面,又は少なくとも抵抗ユニ
ットが隣り合う関係にある側面が絶縁素材で構成されることは,本件特
許の本質的部分ではない。この点に関する原判決の判断は誤りである。
ウ 予備的主張
仮に,原判決のとおり,抵抗ユニットを覆う四側面,又は少なくとも
抵抗ユニットが隣り合う関係にある側面が絶縁素材で構成されることが,
絶縁に資するという意味で本件発明の本質的部分に係るものであったと
しても,被告物件は,1つの土台部の上に1つの抵抗ユニットが搭載さ
れたセットを3つ備え,それぞれのセットで上部の抵抗ユニットが土台
部よりも内側に入り,これらを並べたときに自然に絶縁距離を取ること
ができるようにあらかじめ設計された負荷試験機である。
そうすると,被告物件は,従来技術に見られない本件発明特有の技術
的思想に基づく具体的構成,すなわち,絶縁距離を取るための設計をあ
らかじめしておくことにより,分割して運搬・移動し,かつ,絶縁を確
保し得る負荷試験機であることを共通に備えるものである。そうである
以上,本件相違部分を取り上げただけで均等の第1要件を満たさないと
した原判決の判断は誤りである。
【被控訴人の主張】
争う。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,被告物件はいずれも本件特許の特許請求の範囲の請求項の文
言上本件発明の技術的範囲に属さず,また,本件発明と均等なものとしてそ
の技術的範囲に属するということもできないと判断する。
その理由については,以下のとおり訂正,付加するとともに,当審における
補充主張につき後記2のとおり付加するほかは,原判決「第3 当裁判所の判
断」(20頁6行目~28頁8行目)に記載のとおりであるから,これを引用
する。
(1) 原判決21頁1行目の「別体」を「別体構成」に改める。
(2) 原判決21頁11行目の「(【0037】)」の後に,改行の上,以下
のとおり付加する。
「『第1抵抗ユニット21~第6抵抗ユニット26のそれぞれは,y方向に
平行な棒状の抵抗器Rがx方向に所定の間隔を空けて複数本並べられ直
列接続された抵抗器群が,z方向に複数段並べ並列接続され,絶縁素材
で構成され当該抵抗器群の側面を覆う枠(第1枠21a~第6枠26a)
を含むもので,使用する抵抗器群の切り替えを行って,発電機などの試
験対象電源の負荷の条件を変えて,試験対象電源の負荷試験を行うため
に用いられる。』(【0042】)
『図1~図24までで示す実施形態では,第1抵抗ユニット21~第6
抵抗ユニット26のそれぞれは,y方向に平行な棒状の抵抗器Rがx方
向に所定の間隔を空けて8本並べられ,短絡バーなどを使って,直列接
続された抵抗器群が,z方向に8段並べ並列接続されたもので説明する
が,各抵抗器群に並べられる抵抗器Rの本数や,抵抗器群が積み重ねら
れる段数は,これに限るものではない。』(【0043】)」
2 当審における補充主張について
(1) 本件発明における「枠」(構成要件A-3,E)の解釈
ア 特許請求の範囲の「絶縁素材で構成され前記抵抗器群の側面を覆う枠を
含む抵抗ユニットが2以上設けられ,」(構成要件A-3)との文言を
検討すると,「枠」は,その文言上,抵抗器群の側面を覆うものである
ことは明らかであるが,抵抗器群のどの側面を覆うものであるかは明示
的に特定されていない。また,「絶縁素材で構成され」なる文言は,
「側面を覆う」と並列的に「枠」を修飾するものと見ることも可能であ
るし,「枠を含む」と並列的に「抵抗ユニット」を修飾するものと解す
ることも可能である。
イ もっとも,本件明細書等には,「第1抵抗ユニット21の第1枠21a
の背面は,第3抵抗ユニット23の第3枠23aの前面と対向し,第1
抵抗ユニット21の第1枠21aの側面の一方は,第2抵抗ユニット2
2の第2枠22aの側面の他方と対向する。」(【0037】),「抵
抗器群のそれぞれは,下部に設けられた冷却ファンからの冷風を上部に
流すために,上面と下面が開口し,隣り合う抵抗ユニットとの絶縁性を
高めるために,絶縁素材で出来た枠(第1枠21a~第6枠26a)で
側面が覆われ,各抵抗器Rの両端子は当該枠の前面部分や背面部分によ
って保持される。」(【0045】)との記載がある。これらの記載に
よれば,「枠」(構成要件A-3)は,前面,背面並びに側面の一方及
び他方の四側面から成ることが理解される(なお,抵抗器群の上面及び
下面は,抵抗ユニットに対する冷却風の通り道として開口している。本
件明細書等【0045】,【0071】)。この理解は,本件特許の特
許請求の範囲の記載及び本件明細書等の他の記載とも整合する。
また,本件発明とは抵抗ユニットの配置が異なる実施形態,すなわち,
x方向に平行な抵抗器Rがz方向に並べられた抵抗器群がy方向に複数
並べられる実施形態(【0159】,図25,26)においても,「抵
抗ユニットの枠(抵抗ユニットの外形を形成し,吸気口や排気口を構成
する前面と背面以外の面)であって,少なくとも隣接する抵抗ユニット
と対向する位置関係にあるものは,土台部(冷却部)の側面(冷却部の
外形を形成し,吸気口や排気口を構成する前面と背面以外の面)よりも
第1距離 d1 だけ内側に配置される。」(【0160】)と記載されてい
るところ,これも「枠」が吸気口及び排気口を除く四側面を指すとの理
解を裏付けるものということができる。
ウ(ア) 本件発明の課題については,本件明細書等に「負荷試験対象電源の
電圧が大きい場合には,複数の抵抗ユニットを並べた大型の負荷試験機
が必要になる。大型の負荷試験機では,複数の抵抗ユニットを上部に取
り付けた土台部が一体的に構成されるため,抵抗ユニットと土台部が組
み立てられた状態で運搬する必要があるが,昇降機など狭いスペースを
経由して運搬することが困難になる。」(【0004】),「したがっ
て本発明の目的は,複数の抵抗ユニットで構成される負荷試験機で,運
搬や設置が容易な負荷試験機を提供することである。」(【0005】)
との記載がある。これらの記載によれば,本件発明は,負荷試験対象電
源の電圧が大きい場合を想定しつつ,なお運搬や設置が容易な負荷試験
機を提供することにあると認められる。
ここで「負荷試験対象電源の電圧が大きい場合」とは,本件明細書等
の記載からは6600Vが想定されていることがうかがわれるところ
(【0010】,【0059】~【0068】,【0081】,【00
88】,【0098】),このような高電圧下での使用を想定している
にもかかわらず絶縁が維持できないのでは,その危険性ゆえに負荷試験
機としての使用に耐えないことは,技術常識から明らかといってよい。
そうすると,本件発明においては,このような高電圧に対して絶縁を維
持し得ることが要求されていると見られる。
したがって,本件発明の課題は,負荷試験対象電源の電圧が6600
Vと大きくとも絶縁を維持し得ることを前提として,運搬や設置が容易
な負荷試験機を提供することにあると認められる。
(イ) 絶縁を維持するための構成について,本件明細書等には「特に,本
件発明では,第2距離が90mm 以上に出来るため,隣り合う2つの抵
抗ユニットのそれぞれに6600Vの電圧が印加された場合でも,当
該両 抵抗ユニット間の絶縁を維持することができる。」(【001
0】)との記載がある(同旨の記載として,【0059】~【006
8】,【0098】)。しかし,隣り合う抵抗ユニットにおける「枠」
の間隔を90mm 以上にすることのみによって絶縁を維持し得るとする
根拠に関する記載は,本件明細書等には見当たらない。
また,本件明細書等には「第2距離 d2 以上の離隔を設けることによ
り,かかる離隔を設けない形態に比べて,x方向に並べられた抵抗ユニ
ット間の絶縁性が高くなる。第3距離 d3 以上の離隔を設けることによ
り,かかる離隔を設けない構成に比べて,y方向に並べられた抵抗ユニ
ット間の絶縁性が高くなり,且つ,抵抗ユニット間に作業者が入って,
配線などの作業(特に接続ケーブル60の着脱)を容易に行えるメリッ
トもある。」との記載がある(【0093】)。この記載によれば,
「枠」の間隔を90mm 以上設けることは,そのような離隔を設けない
形態との比較において,x方向及びy方向とも絶縁性を高めるための手
段であることを理解し得る。しかし,この手段のみで6600Vの電圧
に対する絶縁性を保証しているか否かは必ずしも明らかでない。
他方,本件明細書等【0045】の前記記載によれば,「枠」を絶縁
素材とすることは隣り合う抵抗ユニット間の絶縁性を高めるための手段
として位置づけられていることを理解し得る。しかし,この手段のみで
6600Vの電圧に対する絶縁性を保証しているか否かも,必ずしも明
らかでない。
このように,本件明細書等には,絶縁を維持するための手段として2
つの手段(①x方向及びy方向とも,枠間の距離を90mm 以上離隔す
ること,②「枠」を絶縁素材で構成すること)が記載されているけれど
も,いずれも1つの手段のみで6600Vの電圧に対する絶縁を維持し
得ることが明記されているわけではない。そうである以上,本件明細書
等記載の実施形態は,絶縁性を高めるための上記2つの手段を併用する
ことにより,6600Vの電圧に対して隣り合う抵抗ユニット間の絶縁
を維持するという本件発明の前記課題を解決しているものと理解するの
が相当である。
(ウ) これらの点に鑑みると,本件発明の構成要件のうち,構成要件E
(及びF,G)は上記手段①に対応したものであることは明らかであ
る。他方,本件発明が隣り合う抵抗ユニット間の絶縁を維持するとい
う課題を解決するためには,構成要件A-3が上記手段②に対応する
ものであることも要することとなる。
エ 以上より,本件特許の特許請求の範囲の記載及び本件明細書等の記載を
総合的に考慮すると,構成要件A-3については「前記抵抗器群の四側
面を覆う絶縁素材で構成された枠を含む抵抗ユニットが2以上設けら
れ,」との意味に解釈するのが相当である。
(2) 文言侵害(争点1-1及び1-2)について
ア 被告物件は,いずれも,抵抗器に平行な枠をアルミ板すなわち導電素材
で構成しているものと認められる(甲4~6)。このため,上記構成要
件A-3の解釈を前提とすると,被告物件がいずれも構成要件A-3を
充足しないことは明らかである。
したがって,この点に関する原判決の判断に誤りはない。
イ 控訴人の主張について
(ア) 控訴人は,本件発明は,1つの土台部の上に1つの抵抗ユニットを
あらかじめ取り付けたセットを構成し,そのセット自体 をあらかじめ
所定の絶縁距離を取ることができるように設計することにより,運
搬・設置を容易にしたものであり,隣り合う抵抗ユニット間の絶縁性
は絶縁距離を取ることで達成するというのが本件発明の本質であるか
ら,抵抗ユニットの前面及び背面を除く二側面を絶縁素材で構成する
必要はないなどと主張する。
しかし,前記のとおり,本件発明においては,絶縁維持のための構成
として,絶縁距離を取ることだけではなく,「枠」を絶縁素材で構成す
ることをも必要としていると解される。以下,この点を,控訴人の主張
を踏まえ,敷衍して説明する。
(イ)a 控訴人は,本件発明の絶縁距離は,本件発明の発明者である控訴
人代表者が得た経験則等に基づくものである旨主張するけれども,こ
れを裏付ける記載は本件明細書等には見当たらない。
b また,控訴人は,通則の記載に基づき,本件発明の絶縁距離は電気
工事等の基本的知識及び技術常識に基づく合理的なものである旨をも
主張する。
しかし,そもそも,控訴人自身が指摘するとおり,キュービクル
式高圧受電設備に関する通則を負荷試験機に対してそのまま適用し得
るものと考えることには疑問の余地がある。
その点を措くとしても,本件発明の抵抗器につき,その内側の通
電部材が絶縁素材で被覆されているという構成は,本件特許の特許請
求の範囲及び本件明細書等に記載も示唆もないから,このような構成
を前提として,1つの抵抗ユニット内に設けられた抵抗器の側面と側
面との最小絶縁距離は20mm で足りるとする主張(本判決第2,5,
【控訴人の主張】ウ(イ))は失当というべきである。
また,控訴人は,通則を根拠として,隣接する抵抗ユニットの接
続端子相互の最小絶縁距離は90mm で足りる旨主張するところ,こ
れは,隣接する抵抗ユニット内の抵抗器の長手方向側面相互の最小絶
縁距離も90mm で足りるとする旨を含意しているとも理解される。
しかし,本件明細書等の記載(【0052】,【0063】)によれ
ば,間隔調整部材を含まない形態の本件発明においては,隣接する抵
抗ユニットの接続端子相互の距離が90mm 以上離間するとは必ずし
もいえないことから,通則をもって,本件発明が隣接する抵抗ユニッ
トの「枠」間の最小絶縁距離を90mm とすることの合理性を根拠付
けるものと見ることはできない。加えて,通則による規制はあくまで
も最低限のものなのであるから,これを踏まえ,どのようにして高電
圧下での絶縁性を確保し,安全性を保持するかは当業者が適宜定める
べき事柄である。そして,この点や,通則が,それ自体としてはキュ
ービクル式高圧受電設備を対象とするものであって,負荷試験機を対
象とするものではないことを考え合わせると,本件発明は,より安全
性を確保するという観点から,絶縁距離(90mm)と絶縁素材で構
成された枠という二要素によって絶縁性を確保しようとしたものと解
するのが相当である。したがって,控訴人の主張は失当である。
c 控訴人は,本件発明の「枠」の機能につき,抵抗ユニットの前面及
び背面のものは支持碍子の機能を果たすものであって,抵抗ユニット
間の絶縁のためではない旨主張する。
しかし,この主張は,その理由とするところはともかく,抵抗ユ
ニットの前面及び背面の「枠」が絶縁素材で構成されなければならな
いことをいうものにほかならない。
他方, 控訴人 は, 抵 抗ユニ ットの 前面 及 び背面 を除く 二側 面の
「枠」につき,支持碍子となる絶縁素材の板を設置する必要はなく,
また,既に十分な絶縁距離を取っていることから,必ずしも絶縁素材
の板でなくともよく,これを設けるのは,抵抗ユニット自体の安定性,
ゴミの侵入防止及び冷却の便宜といった複数の目的のためであるが,
これには隣り合う抵抗ユニットとの間の絶縁を図るという目的は含ま
れないなどと主張する。
しかし,前記のとおり,本件発明の絶縁維持のための構成は,絶
縁距離を取ることだけではなく,「枠」を絶縁素材で構成することを
も必要としていると解される以上,既に十分な絶縁距離を取っている
とする点は失当である。また,抵抗ユニットの安定性,ゴミの侵入防
止及び冷却の便宜いずれの目的も,隣接する抵抗ユニット間の絶縁を
維持するという目的を阻害するものではない。結局,本件発明におけ
る抵抗ユニットの側面の枠は,絶縁の維持をもその目的としていると
解されるから,絶縁素材により構成されるべきものと考えられる。
すなわち,本件発明の抵抗ユニットの四側面の枠はいずれも絶縁
素材により構成されるものと解されるべきである。
d 控訴人は,甲12を挙げ,抵抗ユニットの四側面のうち抵抗器が取
り付けられていない長手方向側面につき絶縁素材以外の素材を使用す
ることは,被告物件製造時において広く当業者に知られていたもので
あるなどと主張する。
しかし,甲12記載の技術は,抵抗素子の抵抗線がマグネシア等
の絶縁材料により形成された絶縁体(絶縁部材)により覆われた構造
であることがその明細書に明記されており(【0027】,図11A
~C),この点で,そのような記載が本件明細書等に見られない本件
発明とは異なる。すなわち,甲12は,本件発明とは絶縁を維持する
方法が異なることから,仮に甲12記載の技術が技術常識であったと
しても,本件発明の「枠」を甲12記載のものに置換することはでき
ない。
その他,本件発明と同様の絶縁手法を採用する技術において,枠
を絶縁材料以外の素材で構成し得ることが技術常識であったと認める
に足りる証拠はない。
e 控訴人は,本件特許の特許請求の範囲には「隣り合う抵抗ユニット
間の絶縁を確保するために抵抗器群の側面を覆う枠が必ず絶縁素材で
なければならない」との記載はないなどと主張するところ,当該特許
請求の範囲の記載につき文言上は多義的に解し得ることは前記のとお
りであるが,本件明細書等の記載を参酌すれば,抵抗ユニットの四側
面の枠がいずれも絶縁素材で構成されていることを要すると解される
こともまた前記のとおりである。
また,控訴人は,本件明細書等には抵抗器の長手方向側面側の枠
につき必ず絶縁素材で構成すると明記されていないとも主張する。
しかし,前記のとおり,本件明細書等【0045】には「隣り合
う抵抗ユニットとの絶縁性を高めるために,絶縁素材で出来た枠(第
1枠21a~第6枠26a)で側面が覆われ,」との記載がある。当
該記載部分においては,枠の前面,背面,側面いずれの部分かを問わ
ず,枠が隣り合う抵抗ユニットとの絶縁性を高めるものである旨が記
載されているものと理解される。また,本件発明の解決すべき課題と
して絶縁に関する記載はないものの,本件明細書等の全体を踏まえる
と,前記のとおり,課題として絶縁を維持することも含まれると解さ
れるのであり,当然,隣り合う抵抗ユニットの側面間の絶縁も維持さ
れなければならないものと理解される。
(ウ) その他控訴人がるる主張する点を考慮しても,この点に関する控訴
人の主張は採用し得ない。
(3) 均等侵害(争点1-3)について
ア 前記(1)によれば,構成要件A-3の「枠」(の四側面)を絶縁素材に
より構成する点は,構成要件Eと合わせることにより,6600Vもの
高電圧においても絶縁を維持するという本件発明の主要な目的を達成す
るための構成であるということができる。したがって,これをもって本
件発明の本質的部分に係るものというべきである。
そうすると,枠の二側面をアルミ板で構成した被告物件は,いずれも
本件発明とはその本質的部分において相違していることになるから,い
わゆる均等の第1要件を満たさない。
したがって,この点に関する原判決の判断に誤りはない。
イ 控訴人の主張について
(ア) 主位的主張について
上記(2)イと同様の理由により,この点に関する控訴人の主位的主張
は採用し得ない。なお,本件明細書等【0045】の記載によれば,抵
抗ユニットの枠のうち前面部分及び背面部分が抵抗器Rの両端子を保持
する役割を担うことが認められるけれども,それに加え,隣接する抵抗
ユニットとの絶縁性を高めるものであることを否定する趣旨を含むもの
とは解し得ない。
(イ) 予備的主張について
控訴人は,被告物件は,従来技術に見られない本件発明特有の技術的
思想に基づく具体的構成を共通に備えているから,その全体を観察すれ
ば,本件発明と同じ特徴的部分を共通に備えるものということができる
などと主張する。
しかし,前記のとおり,本件発明において絶縁を維持するための構成
は,絶縁距離を取るだけでなく,これと抵抗ユニットを覆う枠の四側面
を絶縁素材で構成することを組み合わせたものである。このため,本件
発明の本質的部分は,並べたときに自然に絶縁距離を取ることができる
ようにあらかじめ設計されていることのみならず,抵抗ユニットを覆う
枠が全て絶縁素材で構成されていることも含めて把握されなければなら
ない。そうすると,被告物件は,いずれも本件発明と同じ特徴的部分を
共通に備えるものということはできない。
したがって,この点に関する控訴人の予備的主張も採用し得ない。
第4 結論
以上より,控訴人の請求を棄却した原判決の判断は相当であり,本件控訴は
理由がないから,これを棄却することとする。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
鶴 岡 稔 彦
裁判官
杉 浦 正 樹
裁判官
寺 田 利 彦
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