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平成29(行ケ)10025審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成29年12月21日
事件種別 民事
当事者 被告株式会社マネースクウェアHD
原告株式会社外為オンライン伊藤雅浩
対象物 金融商品取引管理装置,金融商品取引管理システムおよびプログラム
法令 特許権
特許法29条2項1回
キーワード 実施20回
審決7回
無効7回
特許権2回
無効審判2回
分割1回
進歩性1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,進歩 性の有無についての判断の当否である。

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判決文

平成29年12月21日判決言渡
平成29年(行ケ)第10025号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成29年9月26日
判 決
原 告 株式会社外為オンライン
同訴訟代理人弁護士 鮫 島 正 洋
伊 藤 雅 浩
和 田 祐 造
溝 田 宗 司
関 裕 治 朗
被 告
株式会社マネースクウェアHD訴訟承継人
株式会社マネースクウェアHD
同訴訟代理人弁護士 伊 藤 真
平 井 佑 希
丸 田 憲 和
牧 野 知 彦
同訴訟代理人弁理士 佐 野 弘
石 井 明 夫
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求の趣旨
特許庁が無効2016-800016号事件について平成28年12月12日に
した審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,進歩
性の有無についての判断の当否である。
1 特許庁における手続の経緯等
被告の旧商号は株式会社インフィニティであったが,平成29年4月1日,株式
会社マネースクウェアHD(以下,「旧マネースクウェアHD」という。)を吸収合
併し,商号を株式会社マネースクウェアHDに変更した。
旧マネースクウェアHDは,名称を「金融商品取引管理装置,金融商品取引管理
システムおよびプログラム」とする発明についての特許(特許第5650776号。
以下,
「本件特許」という。)の特許権者であったところ(甲3),被告は,上記吸収
合併に伴い,本件特許の特許権者となった。
本件特許は,平成20年12月26日(以下,「本件原出願日」という。)に出願
した特願2008-332599号を,平成25年3月7日に分割出願した特願2
013-45238号に係るものであり,平成26年11月21日に設定登録され
た(甲3)。
原告は,平成28年2月4日付けで本件特許の請求項1~7に係る発明(それぞ
れ,「本件発明1」「本件発明2」などといい,まとめて「本件発明」という。
, )に
ついて無効審判請求をし(無効2016-800016号。甲4),特許庁は,平成
28年12月12日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄
本は,同月22日,原告に送達された。
2 本件発明の要旨
(1) 本件発明の要旨は,以下のとおりである。
(本件発明1)
金融商品の売買取引を管理する金融商品取引管理装置であって,
前記金融商品の売買注文を行うための売買注文申込情報を受け付ける注文入力受
付手段と,
該注文入力受付手段が受け付けた前記売買注文申込情報に基づいて金融商品の注
文情報を生成する注文情報生成手段とを備え,
該注文情報生成手段は,
一の前記売買注文申込情報に基づいて,所定の前記金融商品の売り注文または買
い注文の一方を成行または指値で行う第一注文情報と,該金融商品の売り注文また
は買い注文の他方を指値で行う第二注文情報と,前記金融商品の売り注文または買
い注文の前記他方を逆指値で行う逆指値注文情報とを含む注文情報群を複数回生成
し,
売買取引開始時に,前記第一注文情報に基づく成行注文を行うとともに,当該注
文情報群の前記第二注文情報に基づく指値注文を有効とし,
前記第二注文情報に基づく該指値注文が約定されたとき,次の注文情報群の生成
を行うと共に,該生成された注文情報群の前記第一注文情報に基づく前記成行注文
の価格と同じ前記価格の指値注文を有効にし,以後,前記第一注文情報に基づく前
記指値注文の約定と,前記第一注文情報に基づく前記指値注文の約定が行われた後
の前記第二注文情報に基づく前記指値注文の約定と,前記第二注文情報に基づく前
記指値注文の約定が行われた後の,次の前記注文情報群の生成とを繰り返し行わせ
ることを特徴とする金融商品取引管理装置。
(本件発明2)
前記注文情報生成手段が生成した前記注文情報を記録する注文情報記録手段と,
前記注文情報に基づいて前記金融商品の約定を行う約定情報生成手段とを備え,
前記約定情報生成手段は,前記注文情報記録手段に記録された前記注文情報群を
形成する個々の前記注文情報のうち,前記第一注文情報に基づいて前記金融商品の
約定を行う処理と,前記第二注文情報に基づいて前記金融商品の約定を行う処理と
を,予め定められた回数だけ繰り返すことを特徴とする請求項1に記載の金融商品
取引管理装置。
(本件発明3)
前記注文情報生成手段は,前記逆指値注文情報に基づく前記逆指値注文が約定さ
れたときに,前記第一注文情報に基づく指値注文および前記第二注文情報に基づく
指値注文を停止し,
前記約定情報生成手段は,前記逆指値注文情報に基づいて約定を行った場合,該
逆指値注文情報を生成した前記売買注文申込情報に対応して生成される前記第一注
文情報および第二注文情報のうち,前記逆指値注文情報の生成時点で未生成である
前記注文情報を,全て前記注文情報記録手段から消去するキャンセル処理を行うこ
とを特徴とする請求項2に記載の金融商品取引管理装置。
(本件発明4)
前記約定情報生成手段は,一旦成立した前記金融商品の注文に対するキャンセル
要求があった場合,該キャンセル要求のあった注文に対応する注文情報群を前記第
一注文情報および前記第二注文情報から抽出し,抽出された前記注文情報群に含ま
れる約定前の前記注文情報を全てキャンセル処理することを特徴とする請求項2又
は3の何れかに記載の金融商品取引管理装置。
(本件発明5)
特定顧客の預金残高情報を記録する顧客口座情報記録手段を備え,
前記注文情報記録手段には,前記第一注文情報および前記第二注文情報の注文価
格に基づく金額情報が属性情報として記録され,
前記注文情報生成手段は,前記注文価格に基づく金額情報を前記預金残高情報と
比較し,該預金残高情報の値が前記注文価格に基づく金額情報の値以上である場合
に,前記第一注文情報および第二注文情報を生成することを特徴とする請求項2乃
至4の何れかに記載の金融商品取引管理装置。
(本件発明6)
金融商品の売買取引を管理する金融商品取引管理システムであって,
前記金融商品の売買注文を行うための売買注文申込情報を受け付ける注文入力受
付手段と,
該注文入力受付手段が受け付けた前記売買注文申込情報に基づいて金融商品の注
文情報を生成する注文情報生成手段とを備え,
該注文情報生成手段は,
一の前記売買注文申込情報に基づいて,所定の前記金融商品の売り注文または買
い注文の一方を成行または指値で行う第一注文情報と,該金融商品の売り注文また
は買い注文の他方を指値で行う第二注文情報と,前記金融商品の売り注文または買
い注文の前記他方を逆指値で行う逆指値注文情報とを含む注文情報群を複数回生成
し,
売買取引開始時に,前記第一注文情報に基づく成行注文を行うとともに,当該注
文情報群の前記第二注文情報に基づく指値注文を有効とし,
前記第二注文情報に基づく該指値注文が約定されたとき,次の注文情報群の生成
を行うと共に,該生成された注文情報群の前記第一注文情報に基づく前記成行注文
の価格と同じ前記価格の指値注文を有効にし,以後,前記第一注文情報に基づく前
記指値注文の約定と,前記第一注文情報に基づく前記指値注文の約定が行われた後
の前記第二注文情報に基づく前記指値注文の約定と,前記第二注文情報に基づく前
記指値注文の約定が行われた後の,次の前記注文情報群の生成とを繰り返し行わせ
ることを特徴とする金融商品取引管理システム。
(本件発明7)
コンピュータを請求項1乃至5の何れか一つに記載の金融商品取引管理装置とし
て機能させることを特徴とするプログラム。
(2) 本件発明1の要旨は,次のとおり分説することができる。
1A 金融商品の売買取引を管理する金融商品取引管理装置であって,
1B 前記金融商品の売買注文を行うための売買注文申込情報を受け付ける注文入
力受付手段と,
1C 該注文入力受付手段が受け付けた前記売買注文申込情報に基づいて金融商品
の注文情報を生成する注文情報生成手段とを備え,
1D 該注文情報生成手段は,
1E 一の前記売買注文申込情報に基づいて,所定の前記金融商品の売り注文また
は買い注文の一方を成行または指値で行う第一注文情報と,該金融商品の売り注文
または買い注文の他方を指値で行う第二注文情報と,前記金融商品の売り注文また
は買い注文の前記他方を逆指値で行う逆指値注文情報とを含む注文情報群を複数回
生成し,
1F 売買取引開始時に,前記第一注文情報に基づく成行注文を行うとともに,当
該注文情報群の前記第二注文情報に基づく指値注文を有効とし,
1G 前記第二注文情報に基づく該指値注文が約定されたとき,次の注文情報群の
生成を行うと共に,該生成された注文情報群の前記第一注文情報に基づく前記成行
注文の価格と同じ前記価格の指値注文を有効にし,以後,前記第一注文情報に基づ
く前記指値注文の約定と,前記第一注文情報に基づく前記指値注文の約定が行われ
た後の前記第二注文情報に基づく前記指値注文の約定と,前記第二注文情報に基づ
く前記指値注文の約定が行われた後の,次の前記注文情報群の生成とを繰り返し行
わせる
1H ことを特徴とする金融商品取引管理装置。
3 審決の理由の要旨
(1) 原告の主張した無効理由の要旨
本件発明1~本件発明7は,平成14年12月19日に公開された米国特許公開
第2002/0194106号公報(甲1の1。以下,「引用文献」という。)に
記載された発明(以下,「引用発明」という。)及び平成14年6月28日に公開
された特開2002-183446号公報(甲2。以下,「甲2文献」という。)
に記載された発明(以下,「甲2発明」という。)に基づいて,本件原出願日前に
当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定
により特許を受けることができないものであり,その特許は同法123条1項2号
に該当し,無効とすべきである。
(2) 引用発明及び甲2発明の認定
ア 引用発明
「証券市場に投資する投資家と,彼らのトランザクションを取り扱うために,コ
ンピュータネットワークを備えた(E-Trade,Ameritrade等のよ
うな)ホスト証券ブローカを備え,ホストコンピュータネットワークは,電子証券
注文テンプレートを提供するデータベースサーバを含み,このテンプレートで,ホ
ストコンピュータネットワークは,証券トランザクション要求を記憶及び体系化し,
これによって,投資家がトランザクションを開始した場合に,このネットワークは,
この要求を処理し,(ニューヨーク証券取引所,ナスダック等のような)証券取引
所へ送信できるものであり,
各投資家又はブローカのための各コンピュータワークステーションは,ビデオモ
ニタと,ブローカの投資家が,ホストコンピュータネットワークへユーザコマンド
を送るための手段と,投資家又はブローカが,ホストコンピュータネットワークか
ら送信された指示と証券注文テンプレートとを受信し,(ビデオモニタ上に)表示
するための手段と,を含み,
証券ブローカホストコンピュータネットワークの一部としての(LOCK管理モ
ジュールと称される)追加のソフトウェアモジュールであって,このソフトウェア
は,ホストコンピュータネットワークを,証券取引市場にリンクさせ,投資家の指
定した価格で株式を買い,その後,指定された所望の利益価格を加え,第2の注文
をするための,2パートのシーケンス化された証券取引注文を開始するものであり,
LOCK処理のパート1を実行するために使用される投資家の入力要求を表す,
買い/売り指示2は,パート1の買いから,パート2の売り11に切り替わるもの
であり,株式銘柄5,また,株式の量6は,パート1及びパート2において同じま
まであり,パート1の価格選択は,市場相場でトレードを実行する成行注文7又は
価格を指定する指値注文8かの何れかを含み,投資家が指値注文を実行するために
は通常,ボックスをチェックし,実行する価格を入力するものであり,LOCKボ
ックス9及びLOCK価格10における情報と組み合わされたパート1注文実行価
格は,LOCKトランザクションのパート2の指値注文実行価格を形成し,
LOCK注文をオープン及びクローズするためのLOCK処理は,投資家17が,
LOCK注文19を発行することで始まり,この注文はLOCK注文として識別さ
れ,LOCK管理モジュール処理12に入力され,LOCK管理モジュール12は,
ソフトウェアインターフェースを備え,このソフトウェアインターフェースは,L
OCK注文19ドキュメントを受信し,追跡記録33を生成し,LOCKインクリ
メント35を記録し,LOCK注文発行34の前半の発行をモニタし,この注文3
4が,証券取引所23にトレードピット36を入力し,注文が満たされる37と,
第1の注文が満たされたことを記録し38,LOCK注文の後半を生成し39,L
OCK注文の後半を発行し40,LOCK注文の後半40がトレードピット41へ
再発行され,第2の注文が満たされる42と,口座残高を記録43し,投資家17
に,LOCKトランザクションが完了したことを通知するものであり,
代替実施形態は,この処理を再度自動的に繰り返すオプションを含み,LOCK
管理モジュール12に再入力するために,サイクル数44の追加によって,投資家
は,より多くの利益を得ることを望んで,LOCK処理に自動的に再入力できる,
ホスト証券ブローカ。」
イ 甲2発明
「トレーディングシステムにおいて,
商品先物で用いられる注文の種類には,「新規注文」と「仕切注文」という分類
があり,「仕切注文」とは,買建玉を転売し,又は売建玉を買い戻すといった取引
を終了させる注文をいい,また,他に「成行注文」,「指値注文」及び「逆指値注
文」という別の分類の仕方もあり,新規注文又は仕切注文のどちらを行うにしても,
必ず「成行注文」,「指値注文」又は「逆指値注文」といった執行条件を指定しな
ければならないものであり,ここで,「成行注文」とは,売買価格を指定しない注
文をいい,また,「指値注文」とは,指定価格,若しくはそれより有利な価格での
み成立する注文をいい,さらに,「逆指値注文」とは,指定価格,若しくはそれよ
り不利な価格でのみ成立する注文をいい,「いくら以上なら買いたい,いくら以下
なら売りたい」という条件が付された注文であり,この注文を決済時に用いる場合
は,主に損失確定の水準を設定する形になるものであり,
「成立前提連続ダブル仕切注文」を利用した発注形態では,委託者2は,新規注
文を入力する際,新規注文と,その新規注文が成立した場合に有効としたい2種類
の仕切注文(指値注文及び逆指値注文)とを一括して入力し,これを受けて,受託
者3は,新規注文を発注し,2種類の仕切注文は,先に発注された新規注文が成立
するまで発注されないものであり,発注した新規注文が成立すると,それと同一の
取引対象に係る保留されていた2種類の仕切注文(指値注文及び逆指値注文)が有
効となって自動的に発注され,その後,市場価格が条件に合致して,一方の仕切注
文が成立した場合,他方の仕切注文は自動的に取り消される,
トレーディングシステム。」
(3) 本件発明1について
ア 本件発明1と引用発明との対比
(一致点)
「金融商品の売買取引を管理する金融商品取引管理装置であって,
前記金融商品の売買注文を行うための売買注文申込情報を受け付ける注文入力受
付手段と,
該注文入力受付手段が受け付けた前記売買注文申込情報に基づいて金融商品の注
文情報を生成する注文情報生成手段とを備え,
該注文情報生成手段は,
一の前記売買注文申込情報に基づいて,所定の前記金融商品の売り注文または買
い注文の一方を成行または指値で行う第一注文情報と,該金融商品の売り注文また
は買い注文の他方を指値で行う第二注文情報と,を含む注文情報群を複数回生成す
る金融商品取引管理装置。」
(相違点1)
本件発明1の「注文情報生成手段」では,「前記金融商品の売り注文又は買い注
文の前記他方を逆指値で行う逆指値注文情報」も生成しているが,引用発明ではそ
のようになっていない点。
(相違点2)
本件発明1では「売買取引開始時に,前記第一注文情報に基づく成行注文を行う
とともに,当該注文情報群の前記第二注文情報に基づく指値注文を有効とし(以下,
「構成1F」という。),前記第二注文情報に基づく該指値注文が約定されたとき,
次の注文情報群の生成を行うと共に,該生成された注文情報群の前記第一注文情報
に基づく前記成行注文の価格と同じ前記価格の指値注文を有効にし,以後,前記第
一注文情報に基づく前記指値注文の約定と,前記第一注文情報に基づく前記指値注
文の約定が行われた後の前記第二注文情報に基づく前記指値注文の約定と,前記第
二注文情報に基づく前記指値注文の約定が行われた後の,次の前記注文情報群の生
成とを繰り返し行わせる(以下,「構成1G」という。)」ものであるのに対し,
引用発明ではそのようになっておらず,成行注文を指定した場合には,2回目以降
も成行注文を繰り返し行わせる点。
イ 相違点についての判断
(ア) 相違点1について
甲2発明でも示されるように,いわゆる損切りのための「逆指値注文」自体はよ
く知られた技術である。
また,甲2発明では,発注した新規注文が成立すると,それと同一の取引対象に
係る保留されていた2種類の仕切注文である指値注文及び逆指値注文が有効となっ
て自動的に発注される技術が開示されており,当該新規注文と仕切り注文を自動的
に繰り返すことについての記載はないものの,仕切り注文時には常に相場価格の想
定外の変動リスクが伴うことは明らかである。
そして,引用発明におけるパート2の注文は仕切り注文であり,常に相場価格の
想定外の変動リスクが伴う注文であることから,顧客の損失の拡大を防ぐために甲
2発明を適用し,仕切り注文であるパート2における指値注文の生成と共に,逆指
値注文を繰り返し生成する構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得たこ
とである。
(イ) 相違点2について
引用発明は,「LOCK注文」においてサイクル数を指定することにより,パー
ト1の注文とパート2の注文からなる注文情報群が,サイクル数で指定された回数
繰り返し生成されるものであるが,「LOCK注文」におけるパート1の注文とし
て成行注文が指定された場合に,2回目の「LOCK注文」におけるパート1の注
文を自動的に指値注文に変更することは,全く記載がないし,また,「2つのサイ
クルを指定する例は,1株あたり50ドルでXYZを100株(1ドルのロック価
格で)買い,1株あたり51ドルで売り,50ドルで買い戻し,51ドルで再び売
ることを意味するであろう。」との例は,「LOCK注文」におけるパート1の注
文として指値注文が指定された場合としてその他の記載と矛盾しないものである。
また,一般に,成行注文を行った注文者が,常にその後に指値注文を行うわけで
はないし,成行注文後に指値注文を行う注文者が常に成行注文の約定価格を指値と
して注文をするわけでもないから,仮に,「LOCK注文」において成行注文が指
定された場合に,2回目の「LOCK注文」における注文を自動的に指値注文にす
るようにシステムを変更しようとすれば,システムに入力指定されているのが成行
注文であって指値注文でないにもかかわらず指値注文を行うとともに,その指値注
文における指値が注文者の意志を反映したものとなるようにする必要がある。しか
し,引用文献には,注文者が指値注文を指定していないにもかかわらず指値注文を
行ったり,注文者が具体的に指定していない指値による指値注文を行うことを示唆
する記載は見当たらない。引用発明のシステムは,注文者からの成行注文か指値注
文かの入力指定を受けて,注文者からの成行注文はそのまま成行注文として取り扱
うものであり,これを注文者が成行注文を行ったにもかかわらず,注文者によって
具体的に指定されていない指値での指値注文とみなすようなシステムへと変更する
ことは困難である。
そうすると,引用発明において,「LOCK注文」として成行注文が指定された
場合の2回目のパート1の注文を自動的に指値注文とするようにシステムを変更す
る動機付けがあるとはいえないし,むしろ,そのようなシステムの変更は阻害され
るものである。
なお,甲2発明は,そもそも新規注文と仕切り注文の注文群を繰り返し生成する
ものではなく,甲2文献にも,成行注文に対する仕切り注文の約定後に,次の注文
として,当該成行注文の約定価格での新規の指値注文を繰り返し行うという注文手
法は記載されていない。
したがって,相違点2に係る構成は,当業者が容易に想到し得たものではない。
(4) 本件発明2~5について
本件発明2~5は,本件発明1をさらに限定したものであるので,本件発明1と
同様に,引用発明及び甲2発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができ
たものであるということはできない。
(5) 本件発明6について
本件発明6は,本件発明1の「金融商品取引管理装置」との語を,「金融商品取
引管理システム」に置き換えたものであって,発明を特定する各手段は同一である
から,本件発明1と同様に,引用発明及び甲2発明に基づいて,当業者が容易に発
明をすることができたものであるということはできない。
(6) 本件発明7について
本件発明7は「コンピュータを請求項1乃至5の何れか一つに記載の金融商品取
引管理装置として機能させることを特徴とするプログラム。 であって,
」 本件発明1
~5の「金融商品取引管理装置」で行われる情報処理を「プログラム」の発明とし
て請求するものであるから,本件発明1と同様に,引用発明及び甲2発明に基づい
て,当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
第3 原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(相違点の認定の誤り)
(1) 引用文献[0085]の「1株あたり50ドルでXYZを100株(1ド
ルのロック価格で)買い,1株あたり51ドルで売り,50ドルで買い戻し,51
ドルで再び売ることを意味するであろう。 という記載の例は,
」 1回目のLOCK注
文のパート1で成行注文が採用された場合,その成行注文の約定価格が1株当たり
50ドルであることを意味する。そして,引用文献の[0085]の「・・・50
ドルで買い戻し・・・」という記載は,先行する成行注文の約定価格(1株あたり
50ドル)と同じ指値価格で買い戻すという意味である。引用文献[0085]の
例において,2回目のLOCK注文のパート1の買い注文で1回目のLOCK注文
のパート1の買い注文と同じ成行注文を繰り返すのであれば,2回目のLOCK注
文のパート1の成行注文の約定価格は,1回目のLOCK注文のパート2の指値注
文の約定価格(1ドルあたり51ドル)とほぼ同じ価格になる。すなわち,2回目
のLOCK注文のパート1の成行注文は,1回目のLOCK注文のパート2の指値
注文で売るや否や,すぐに買い戻すことになり,投資として意味がない行為である
ばかりか,相場価格が常に上昇する場面でないと売買できないことになり,
「毎日の
小さな株価変動を活用することが可能」という引用発明の目的を達成することがで
きない。また,「51ドルで再び売ること」は,「再び」という用語からみて,売り
の指値注文の指値価格をその指値価格とする売りの指値注文を意味する。したがっ
て,引用発明は,本件発明の構成1Gを備える。
(2) 成行注文を選択する注文者の関心は,成行注文がいくらで約定するのかと
いうより,成行注文で買った金融商品について,成行注文の約定価格を基準にして,
利益をいくら上乗せして売ることができるのかということにある。そして,成行注
文の約定価格とは,取引開始後,成行注文が約定してはじめて分かるものであって,
注文者が事前に知ることができないから,LOCK注文のパート1で成行注文を選
択した場合,パート2では,パート1での成行注文の約定価格を基準にした上,
「注
文者が指値注文を指定していない指値による指値注文を行う」ことになる。
(3) 引用文献の原文の「The addition of #Number of Cycles# 44 would allow
the investor to automatically reenter the LOCK process again」という記載は,
サイクル数44の追加により,投資家は,自動的にLOCKプロセスに再び入るこ
とができる,といった意味の記載であって,審決が認定するような,成行注文を再
入力するという記載ではない。引用文献の図7のうち,
「44」欄から投資家を意味
する「17」欄及び「19」欄へと接続された矢印の箇所は,除かれるべきである。
(4) 指値注文においては,指定した指値価格そのもので金融商品を買うとは限
らないというのが技術常識であるから,LOCK注文において,パート1の注文方
法が指値注文であろうが,成行注文であろうが,約定するまで約定価格が分からな
いことに変わりがないので,パート2では,実際に約定した価格である購入価格を
基準とせざるを得ない。
引用文献の[0085]の「2つのサイクルを指定する例は,1株あたり50ド
ルでXYZを100株(1ドルのロック価格で)買い,1株あたり51ドルで売り,
50ドルで買い戻し,51ドルで再び得ることを意味するであろう。 という記載に

おいて,1回目のLOCK注文のパート1の注文が成行注文なのか,それとも,指
値注文であるのかについての記載がないにもかかわらず,LOCK値として1ドル
という記載があるのは,仮に,1回目のLOCK注文のパート1で指値注文を選択
し,注文者が具体的な指値価格を入力したとしても,その指値注文が実際に約定す
る約定価格は,指値価格と一致しないことがあるからである。そうすると,引用発
明では,
「50ドルで買い戻し」という記載からみて,2回目のLOCK注文のパー
ト1では,1回目のLOCK注文のパート1における指値注文の約定価格を指値価
格とする指値注文を行うことが分かる。指値注文は,約定するまで約定価格が分か
らないという意味において,成行注文と同じ特性を有するから,引用発明において,
2回目のLOCK注文のパート1では,1回目のLOCK注文のパート1の注文方
法にかかわらず,1回目のLOCK注文のパート1の注文の約定価格を指値価格と
する指値注文を行わざるを得ない。
引用文献の[0085]において,1回目のLOCK注文のパート1の注文では,
成行注文が排除され,指値注文のみが選択されたということについて,引用文献に
裏付けとなる記載が何ら存在しない。このことは,この例における1回目のLOC
K注文のパート1の注文の種類は問題とはならず,成行注文であろうが,指値注文
であろうが,引用発明は,どちらにも対応していることを意味するものである。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)
引用発明に構成1Gに係る本件発明1の構成が明確に開示されていないとしても,
この構成は,引用文献の[0085]の「1株あたり50ドルでXYZを100株
(1ドルのロック価格で)買い,1株あたり51ドルで売り,50ドルで買い戻し,
51ドルで再び売ることを意味するであろう。という記載に接した当業者であれば,

投資として意味がない行為を回避するため,当該記載から導き出すことができたも
のであるか,又は,当業者が容易に想到し得たものにすぎない。
第4 被告の主張
1 取消事由1に対し
(1) 引用発明は執行条件を途中で変更する構成を備えないこと
引用発明は,引用文献の図6のような注文フォーム(LOCK注文(19))に,
所望の取引条件を入力して株式などの取引を行う発明である。図6では,サイクル
数(44)という欄が設けられ,ここに入力した回数分,その取引が繰り返される。
また,図6では執行条件(成行(7)か指値(8)か)を選択するための欄が設け
られている。しかし,図6にはそれ以上に,途中で執行条件を変更することを選択
する欄や,何サイクル目までは成行注文,何サイクル目以降は指値注文などとサイ
クル数に応じて執行条件を選択するというような欄は設けられておらず,引用文献
の他の箇所でも,図6で一度設定した取引条件を取引の途中で変更するということ
は開示されていない。
引用発明における取引フローを示した図7では,引用発明においてLOCK注文
が繰り返される際には,図6の画面で入力した取引条件(LOCK注文(19))か
ら始まる一連の処理が行なわれ,注文成立(42)を経由し,サイクル数選択(4
4)から投資家(17)に戻った後,再び同じ「LOCK注文(19),すなわち

同じ取引条件を経て2回目以降の注文が行なわれることとされている。このように,
引用文献には,複数注文群が繰り返される場合であっても,図6の画面で入力され
た取引条件で注文を繰り返すという構成しか開示されていないのであり,途中で取
引条件を変更するような構成は開示されていない。
(2) 引用文献の[0085]の記載について
ア 原告は,引用文献の[0085]の記載から,引用文献には途中で執行条
件を変更することが開示されていると主張する。
しかし,「1 株あたり50ドルでXYZを100株(1ドルのロック価格で)買い,
1 株あたり51ドルで売り,50ドルで買い戻し,51ドルで再び売ることを意味
するであろう。 という記載の例で,
」 1回目のLOCK注文のパート1は指値注文で
あり,成行注文を採用する根拠はない。1回目のLOCK注文のパート1の注文を
成行注文,2回目のLOCK注文のパート1の注文を指値注文とするためには,取
引の途中で執行条件を変更する必要があるが,引用文献にはそのような構成は開示
されていない。
イ 原告は,
[0085]に記載されている例において2回目のLOCK注文
のパート1の買い注文で1回目のLOCK注文のパート1の買い注文と同じ成行注
文を繰り返すのであれば,投資として意味がない行為である,と主張する。
しかし,2回目のLOCK注文のパート1の成行注文までに,相場価格が変動す
ることはあり得るので,原告の主張はその前提が誤っている。しかも,仮に2回目
のLOCK注文のパート 1 の成行注文の約定価格と1回目のLOCK注文のパート
2の指値注文の約定価格がほぼ同じ価格になってしまうとしても,それ自体投資と
して意味がないということにはならない。現に,別事件における原告の説明による
と,原告が現に顧客に提供している「i サイクル注文」というシステムでは,成行
注文で買った金融商品を指値注文で売ると,その売りの指値注文の約定価格とほぼ
同じ価格の買いの成行注文が行われている。仮にこれが投資として意味がない取引
なのであれば,原告は顧客に意味のない取引を行わせていることになる。
ウ 原告は,引用文献の[0085] 「The addition of “Number of Cycles”

44 would allow the investor to automatically reenter the LOCK process again
in hopes of making more profit」という記載について,LOCKプロセスに自動
的に入る,と主張する。
しかし,上記記載を「LOCKプロセスに自動的に入る」という意味に捉えたと
しても,その際に1回目のLOCK注文の取引から執行条件を変更する構成が開示
されていないことに変わりはない。
2 取消事由2に対し
争う。
第5 当裁判所の判断
1 本件発明について
(1) 本件明細書には,以下の記載がある(甲3)。
【技術分野】
【0001】本発明は,外国為替等,金融商品の取引を管理,支援す
る技術に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-9978
7号公報
【発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0004】ここで,金融商品の
指値注文においては,イフダンオーダーが行われることも多い。本願明細書におい
て,イフダンオーダーとは,順位のある2つの注文を同時に出し,第一順位の注文
(以下「第一注文」と称する。)が成立したら,自動的に第二順位の注文(以下「第
二注文」と称する。)が有効になる注文形式のことを言う。実際の金融商品取引にお
いては,一の顧客が特定の金融商品について複数のイフダンオーダーを並行して行
う場合もある。
【0005】これに対して,特許文献1のシステムには,イフダンオーダーの指
値注文に対応できないという問題がある。また,特許文献1のシステムには,利用
客が複数のイフダンオーダーを並行して行いたい場合には,それぞれのイフダンオ
ーダーを個別に注文していかなければならず,顧客の注文手続が煩雑になるという
問題がある。
【0006】一方,金融商品の相場が従来の相場よりも大きく変動してしまい当
面回復の見込みがない場合には,当該金融商品を所持する取引者は,損害を最小限
に留めるべく当該金融商品の売却を望む場合が多い。しかし,特許文献1のシステ
ムでは,利用客は,指値注文の買い注文によって取得した金融商品を将来の相場の
状況に応じて自動的に売却することはできず,またイフダンオーダーを相場の状況
に応じて自動的に中止させることができないという問題がある。
【0007】さらに,特許文献1のシステムには,成行注文でイフダンオーダー
を行いたい場合に対応できないという問題もある。
【0008】本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり,金融商品の成行
注文において,システム利用客が煩雑な注文手続を行うことなく複数のイフダンオ
ーダーを行うことができ,また将来の相場の状況に応じてイフダンオーダーを自動
的に中止させることができて,システムを利用する顧客の利便性を高めると共にイ
フダンオーダーを行う際に顧客が被るリスクを低減させることができる金融商品取
引管理装置を提供することを課題としている。
【発明の効果】
【0016】請求項1,請求項6に記載の発明によれば,金融商品
の売買注文を行うための売買注文申込情報を受け付ける注文入力受付手段と,注文
入力受付手段が受け付けた売買注文申込情報に基づいて金融商品の注文情報を生成
する注文情報生成手段とを備え,注文情報生成手段は,一の売買注文申込情報に基
づいて,所定の金融商品の売り注文または買い注文の一方を成行または指値で行う
第一注文情報と,金融商品の売り注文または買い注文の他方を指値で行う第二注文
情報と,金融商品の売り注文または買い注文の他方を逆指値で行う逆指値注文情報
を含む注文情報群を複数回生成し,売買取引開始時に,第一注文情報に基づく成行
注文を行うとともに,注文情報群の第二注文情報に基づく指値注文を有効とし,第
二注文情報に基づく指値注文が約定されたとき,次の注文情報群の第一注文情報に
基づく指値注文を有効にし,第一注文情報に基づく指値注文が約定されたときに,
第一注文情報に基づく指値注文を停止するとともに,注文情報群の第二注文情報に
基づく指値注文を有効にし,以後,第一注文情報に基づく指値注文の約定と,第一
注文情報に基づく前記指値注文の約定が行われた後の第二注文情報に基づく指値注
文の約定とを繰り返し行わせる。これにより,指値注文により金融商品の売買を行
う顧客の利便性を向上させつつ,金融商品の指値注文において,システムを利用す
る顧客が煩雑な注文手続を行うことなく複数のイフダンオーダーを繰り返し行うこ
とができて,システムを利用する顧客の利便性を高めると共にイフダンオーダーを
行う際に顧客が被るリスクを低減させることができる。
【0043】図5に示す通り,第二の入力画面40には第一の入力画面(図示せ
ず)において入力された事項,即ち,日本円と米国ドルの通貨ペアを示す表示41,
注文の売り/買いの区別を示す表示42,注文形式が成行イフダンであることを示
す表示43および有効期限が無期限であることの表示49に加えて,取引業者が提
供するサービスの種類を入力する欄44,一注文における一ポジションごとの金額
を入力するポジション金額入力欄45,一ポジションの第一注文が約定した後に一
ポジションの第二注文が約定した際の利益額を指定するための利益額入力欄46,
「逆指値注文情報」としての逆指値注文の約定価格を入力する逆指値注文価格入力
欄47および注文形式としてリピートイフダンを指定するためのリピートイフダン
入力欄48が表示される。顧客は,第二の入力画面40の各入力欄44~48によ
って,各種の指定を行う。
【0044】ここで,成行リピートイフダンとは,リピートイフダンを成行注文
に適用した注文方法である。即ち,通常のリピートイフダンでは,イフダンオーダ
ー(第一注文として指値買い注文または指値売り注文の一方を行ったのち,第二注
文として指値買い注文または指値売り注文の他方を行う取引方法)を,自動的に複
数回繰り返す。これに対して,成行リピートイフダンでは,一回目のイフダンでは,
第一注文で買い注文または売り注文の一方を成行で行ったのち,第二注文で買い注
文または売り注文の他方を指値で行う。第二注文の指値は,予め指定することとし
てもよいし,成行注文の価格等に応じて自動的に設定されることとしても良い。本
実施形態では,第二注文は,第一注文とは反対の売買方向であり且つ同じ注文金額
となるように,自動的に決定される。また,第二注文の指値価格は,価格自体を予
め指定しても良いが,成行価格との比率または金額差が予め設定された値となるよ
うに自動的に決定することもできる。この第二注文の約定の後,指値の第一注文(こ
のときの指値価格は一回目の成行注文での約定価格とする)と指値の第二注文とか
らなるイフダンが,複数回繰り返される。加えて,本実施形態では,逆指値注文も
行われる。この逆指値注文も,第一注文とは反対の売買方向であり且つ同じ注文金
額となるように指定される。逆指値注文の指値価格も,価格自体を予め指定しても
良いが,成行価格との比率または金額差が予め設定された値となるように自動的に
決定することもできる。
【0050】ここで,この実施の形態においては,注文情報生成部16は,第一
注文を新規の成行注文の注文情報として生成し,第二注文を決済の指値注文の注文
情報として生成し,逆指値注文を決済の逆指値注文の注文情報として生成する。第
二注文を決済の指値注文の注文情報として生成することにより,第一順位の注文情
報によって生じた注文による利益を第二順位の注文情報によって逐次確定させ,注
文手続や金融商品取引管理システム1A内における情報処理の煩雑化を防止できる。
更に,逆指値注文を決済の逆指値注文の注文情報として生成することにより,逆指
値注文を,真に逆指値注文が必要とされる,顧客が指値取引によって生ずる損害を
最小限に留める為に決済手続を行う場面のみに限定できて,逆指値注文の乱用防止
と金融商品取引管理システム1A内における情報処理の煩雑化を防止とを図ること
ができる。
【0059】図4A及び図4Bは,本実施形態の金融商品取引管理装置1におけ
る,イフダンオーダーによる指値注文の成立後の処理手順を示すフローチャートで
あり,図7は,本実施形態の金融商品取引管理装置1における,指値注文に基づく
約定を模式的に表したタイムチャートである。以下,同図に基づいて処理手順を説
明する。
【図7】
【0060】注文処理の完了後,金融商品取引管理装置1の価格情報受信管理部
19は為替相場の情報取得を継続する。
【0061】本実施形態では,図7に示す通り,注文処理が完了した時点t1で,
約定情報生成部14は当該ポジションの第一注文51aを約定させる処理を行う
(ステップS21)。この処理では,約定情報生成部14が,当該注文の約定が行わ
れたことを内部に記憶する。この記憶は,例えば約定の成立/不成立を示すフラグ
を用いて行うことができる。そして,約定情報生成部14の命令により,口座情報
生成部15が,当該約定の売買額に応じて,上述の証拠金情報を書き換える。さら
に,約定情報生成部14は,入出金情報生成部13に,入出金の一覧表に入金や出
金の状況を記載させる。その後,実際の売買が行われる。そして,約定情報生成部
14は,クライアント端末2の表示部22に約定の成立を表示し,さらに,第一注
文51aの属性情報を構成する注文価格情報51d・・・に基づいてクライアント
端末の銀行口座の入出金処理を行う。なお,後述の第二注文に係る約定処理(ステ
ップS25参照)も,ステップS21の約定処理と同様である。
【0062】第一注文51aに基づく成行注文が約定すると,約定情報生成部1
4はデータベース18中の対応するデータを書き換える。具体的には,注文テーブ
ル181の当該成行注文に関する注文情報である,第一注文51aのデータが削除
され,顧客口座情報テーブル182の“amnt”フィールド182aのデータが約定
した価格分だけ増減される。ここで,本実施形態の第一注文は,一回目は成行注文
で行われるが,二回目以降は指値注文で行われる。このため,約定情報生成部14
は,当該成行注文の約定価格を,二回目以降の第一注文の指値価格に設定する。
【0063】次に,第一注文51aに基づく成行注文が約定すると,約定情報生
成部14は,第一の注文情報群51Aにおける第二注文51bと逆指値注文51c
とを無効な注文情報から有効な注文情報に変更する(ステップS22)。
【0064】この後,米国ドルの相場販売価格72が逆指値注文51cの約定価
格まで下落することがなく(ステップS23の“No”,図7に示すように,米国

ドルの相場販売価格72が上昇し,特定時点t2において米国ドルの相場購入価格
71が第二注文51bの約定価格と同じ価格になると(ステップS24の“Yes”,

約定情報生成部14は当該ポジションの第二注文51bに基づく指値注文を約定さ
せると共に,逆指値注文51cをキャンセルする処理を行う(ステップS25)。そ
して,約定情報生成部14はデータベース18中の対応するデータを書き換える。
これにより,顧客はt1時点の買い注文とt2時点の売り注文の差額分の利益を得
られることになる。
【0065】図7のt2時点においてステップS1での入力により生成された注
文情報が全て約定していない場合には(ステップS26の“No”,口座情報生成

部15が再度顧客口座情報テーブル182の当該顧客の証拠金情報を取得する。そ
して,注文入力受付部12は,再度,取得された証拠金情報と顧客の注文総額とを
対比し,証拠金の額が注文総額以上であるか否かを確認する(ステップS27)。証
拠金の額が注文総額を下回る場合(ステップS28の“Yes”)には,注文総額以
上になるまで処理は保留され,証拠金の額が注文総額以上である場合(ステップS
28の“No”,注文情報生成部16は新たな注文情報群(以下「第二の注文情報

群」と称する。)を生成する(ステップS29)。注文情報生成部16は,ステップ
S9と同様に,生成された第二の注文情報群を注文テーブル181に記録する(ス
テップS30) ステップS29において第二の注文情報群が生成されると,
。 フロン
トページ配信部11は,クライアント端末2の表示部22に表示された注文情報群
表示画面50に,第一の注文情報群に含まれる第一注文51a,第二注文51b,
逆指値注文51cに代えて,新たに生成された第二の注文情報群(図示せず)に含
まれる第一注文,第二注文,逆指値注文(いずれも図示せず)を表示させる。そし
て,ステップS21以降の処理が繰り返される。
【0066】当該処理では,全てのポジションの個数分の注文情報群が形成され
る。また,当該処理は,ステップS21,S25の処理が,指示されたポジション
の個数分の回数繰り返されるまで,継続する(ステップS26の“No”。
) そして,
ステップS21,S22の処理が上記入力されたポジションの個数分の回数繰り返
された後(ステップS26の“Yes”,全ての処理手順が終了する。

【0067】なお,約定せずに注文期限が経過した指値注文は全てキャンセルさ
れ,注文テーブル181から削除される。
【0068】一方,ステップS22の処理ののち,米国ドルの相場販売価格72
が逆指値注文51cの約定価格まで下落した場合(ステップS23の“Yes”,

約定情報生成部14は逆指値注文51cの約定を行う(ステップS31)。即ち,約
定情報生成部14は,ステップS22で有効な注文情報に変更された第二注文51
bに基づく指値注文を逆指値注文の約定価格で約定させて決済する処理を行う。こ
れにより,金融商品の相場が従来の相場よりも大きく変動してしまい当面回復の見
込みがない場合等において,指値取引を行う顧客が被る損害を最小限に留めること
ができる。
【0075】以上示した通り,この実施の形態においては,金融商品取引管理装
置1を利用する顧客が金融商品を売買する際,顧客がクライアント端末2側で一の
注文手続きを行うことで,同一種類の複数価格の金融商品を複数のイフダンオーダ
ーによって繰り返し注文することができ,かつ,当該顧客が将来的に所有する金融
商品を逆指値注文によって売却することもできる。これにより,指値注文により金
融商品の売買を行う顧客の利便性を向上させつつ,金融商品の指値注文において,
金融商品取引管理システム1Aを利用する顧客が煩雑な注文手続を行うことなく複
数の成行イフダンオーダーを行うことができ,また将来の相場の状況に応じて該成
行イフダンオーダーを自動的に中止させることができて,金融商品取引管理システ
ム1Aを利用する顧客の利便性を高めると共に成行イフダンオーダーを行う際に顧
客が被るリスクを低減させることができる。
(2) 以上から,本件発明は次のとおりのものと認められる。
本件発明は,外国為替等,金融商品の取引を管理,支援する技術に関するもので
ある(【0001】。

従来の指値注文を行うシステムでは,イフダンオーダーの指値注文に対応できず,
また,利用客が複数のイフダンオーダーを並行して行いたい場合には,それぞれの
イフダンオーダーを個別に注文していかなければならず,顧客の注文手続が煩雑に
なり,さらに,利用客は,指値注文の買い注文によって取得した金融商品を将来の
相場の状況に応じて自動的に売却することはできず,またイフダンオーダーを相場
の状況に応じて自動的に中止させることができず,さらに,成行注文でイフダンオ
ーダーを行いたい場合に対応できない,という課題が存在した(【0005】~【0
007】。

そこで,本件発明は,金融商品の成行注文において,システム利用客が煩雑な注
文手続を行うことなく複数のイフダンオーダーを行うことができ,また将来の相場
の状況に応じてイフダンオーダーを自動的に中止させることができて,システムを
利用する顧客の利便性を高めると共にイフダンオーダーを行う際に顧客が被るリス
クを低減させることができる金融商品取引管理装置を提供することを目的とするも
のである(【0008】。

そして,上記課題を解決するために,本件発明1,本件発明6の構成を採用する
ことにより,指値注文により金融商品の売買を行う顧客の利便性を向上させつつ,
金融商品の指値注文において,システムを利用する顧客が煩雑な注文手続を行うこ
となく,第一注文で買い注文又は売り注文の一方を成行で行ったのち,第二注文で
買い注文又は売り注文の他方を指値で行い,この第二注文の約定の後,指値の第一
注文と指値の第二注文とからなるイフダンが,複数回繰り返される取引(成行リピ
ートイフダン)を行うことができ,また,逆指値注文を行うことで将来の相場の状
況に応じて成行リピートイフダンを自動的に中止させることができ,システムを利
用する顧客の利便性を高めると共に顧客が被るリスクを低減させる,という作用効
果を奏するものである(【0016】【0044】【0075】 。

2 引用発明の認定
(1) 引用文献には,以下の記載がある(甲1の1・2。引用は,訳文による。。

本発明の背景
[0004]この発明は,株式,オプション,商品,債券,および大部分の型式
のエクイティおよび証券の売買に適合する。この発明は,個人投資家,証券ブロー
カ,および証券をトレードするその他の人のための有用なアプリケーションを有す
る。
[0007]現在のインターネット投資アプローチは,投資家に対して,買い注
文を発行するために彼らの口座にアクセスし,日々のトランザクションのリストを
受け取るために,彼らの口座に再アクセスすることを要求する。投資家が指値注文
を発行すると,株価は,トランザクションがなされる前に,指値注文価格に達する
必要があり,この注文は,しばしば,同日に満たされない。投資家が成り行き注文
を発行すると,トランザクションは迅速に発生するが,投資家は,市場によって決
定されたトランザクションの費用を知るのを待たねばならない。
[0008]いずれの場合も,投資家は,利益を得ることを願って,注文を発行
し,トランザクションの発生を待ち,その後,第2の注文を発行して,ポジション
をクローズアウトする。当該技術分野の処理のこの現在の状態は,時間を浪費し,
投資家に対して,一日に数回,口座をチェックすることを要求し得る。この結果は,
時間の損失,または,投資家の通常の仕事の邪魔となり,迅速に動いている市場に
おいて,投資家は,ポジションをクローズアウトする機会を喪失し得る。
[0009]市場の変動を利用するために,投資家は,絶えず市場をモニタしな
ければならない。先ず,投資家は,いつ買うのかを決定する必要がある。そして,
買いトランザクションが発生すると,投資家は,売りポジションをとり,予め決定
された価格でポジションをクローズアウトするために,通常は指値注文である第2
の注文を直ちに発行する必要がある。
[0010]もちろん,投資家は,売買または買売戦略を実行するために,従来
の株式ブローカを依然として使用でき得る。しかしながら,ブローカを用いること
は,より高いトランザクション費用を増し,ブローカもまた,株式を観察し,2つ
のシーケンス化された注文を実行せねばならない。
[0011]私の発明は,現在の方法および処理に代わって,投資家が,トラン
ザクション費用を下げることを可能とする。私の発明を用いて,投資家は,追加の
投資家行動を必要とすることなく,証券を,現在価格で買い,利得価格で売る,1
つの注文を出すことができ得る。
概要
[0012]指値注文カップルリンク(LOCK)発明は,オンライン投資家ま
たは株式ブローカが,1つのトランザクション注文を入力することを可能にするよ
うに設計される。これは,予め規定された利益を求めて証券を売買するために自動
的にシーケンス化されたトランザクション戦略を実行する。この発明は,多くの利
点を提案する。それは,選択された証券価格変動をモニタする負荷から,オンライ
ン投資家または株式ブローカを解放する。代わりに,電子トレードシステムにおけ
る管理ソフトウェアモジュールが,買売戦略を実行するであろう。LOCKは,投
資家が注文を発行しなければならない現在の処理を,先ずオープンポジションを確
立し,次にポジションをクローズアウトするように,簡素化する。
[0015]上記のLOCK注文は,
「1株あたり56ドルでXYZを100株買
い,トランザクションが発生すると(オープンポジション),1株あたり57ドルで
XYZの100株の売り注文を発行する」と解釈する。証券が売られると,ポジシ
ョンがクローズされ,投資家は約100ドルを持ち去る。
[0016]LOCKは大きな利点を提案しており,実行するのが非常に簡単で,
単に1つのデータフィールドを追加するだけである。現在,電子トランザクション
は,少なくとも5つのデータフィールドが必要とされている。(1)買いまたは売り,
(2) 証券 銘 柄, (3) 量 , (4) 市 場 価格 ま た は指 値 , お よび (5) 注文 が デイ オー ダ
(day-order)のために,またはグッドティルキャンセル(good-till-cancel)のた
めに良好である時間,を必要としている。LOCKは,もう1つのデータフィール
ドを加える。これは,投資家が決定した価格で自動的にトランザクションをロック
するLOCKフィールドである。例は,(1)買い(2)株式XYZ,(3)100株,(4)
株式の市場価格,(5)グッドティルキャンセル,(6)LOCK1,となるであろう。
これは,1株あたり市場において100XYZの買い注文としてコンピュータネッ
トワークによって解釈され,(1)売り,(2)株式XYZ,(3)100株,(4)購入価格
に加えて1株あたり1.00ドル,(5)グッドティルキャンセルのための注文をする
であろう。これによって,投資家は,自分たちの戦略を完了するために,注文をす
ることが可能となり,市場を観察する必要がなくなる。投資家は,他のビジネスを
自由に行うことができ,自分たちが得たXYZ株式の100株が1.00ドル上が
った場合,売り注文が実行され,100.00ドルからトランザクション費用を引
いた利益を得るであろう。
[0017]LOCKは実際に,株式トレードからのリスクのうちいくつかを排
除し,投資家が利益を実現するより良好な機会を提供する。現在のシステムの下で
は,投資家は,心の中で売値を設定するが,その後,株式が,その価格を超えると,
しばしば,売値も同様に移動させる。その後,株価が下がった場合,投資家は,株
価が再び上がるまで,または上がらなければ,利益機会を失う。LOCKを使えば,
投資家は,証券における,学習され,予め規定された利益を設定し得る。投資家は,
どの価格で株式を買うか,どの価格で売るのかを決定する。LOCKは,投資家の
予め決定された価格で,自動的に買い,売る。その結果,投資家は,変動している
株価を絶えずモニタする必要はなく,株式が,予め決定された売値へ上がれば,利
益が保証される。
[0018]LOCKの別の重要な利点は,小口のパートタイム投資家が,毎日
の市場変動から一般に生成される,より少額の株式利得からの利益を実現でき得る
ことである。これは,「持ち切り」戦略に対する代替案である。
[0024]図6は,サイクル回数,および,各インクリメントに関する価格変
化におけるインクリメントのオプションを追加することによるLOCK方法の代替
実施形態を図示する。
[0073]株式およびエクイティトレード指値注文カップルリンク(LOCK)
方法および発明は,発明者のエクイティ注文に含まれる追加の買い/売り利益情報
に着目する。それは,この注文を,投資家ポジションをオープンにし,事前に設定
された利益目標でクローズアウトする,2つ以上の注文へ切り替えるように設計さ
れたソフトウェアをも包含する。
[0074]LOCK方法および発明は,
(A)利益を得るという目的で証券市場
に投資する投資家と,
(B)彼らのトランザクションを取り扱うために,コンピュー
タネットワークを備えた(E-Trade,Ameritrade等のような)ホ
スト証券ブローカと,を備える。ホストコンピュータネットワークは,電子証券注
文テンプレートを提供するデータベースサーバを含む。このテンプレートで,ホス
トコンピュータネットワークは,証券トランザクション要求を記憶および体系化し,
これによって,投資家がトランザクションを開始した場合に,このネットワークは,
この要求を処理し,
(ニューヨーク証券取引所,ナスダック等のような)証券取引所
へ送信できる。
(C)各投資家またはブローカのための個々のコンピュータワークス
テーション。各コンピュータワークステーションは,ビデオモニタと,ブローカの
投資家が,ホストコンピュータネットワークへユーザコマンドを送るための手段と,
投資家またはブローカが,ホストコンピュータネットワークから送信された指示と
証券注文テンプレートとを受信し,
(ビデオモニタ上に)表示するための手段と,を
含むであろう。
(D)投資家のコンピュータワークステーションをホストコンピュー
タネットワークへ電子的にリンクさせる通信ネットワーク。(E)投資家が開始し,
ホストコンピュータネットワークが証券取引をトランザクトするための特有の指示
を含む(LOCK注文とも称される)2パートの証券取引注文。LOCK注文は,
証券取引をトランザクトする指値または現在の市場価格,および,トランザクショ
ンのパート2を開始するための証券価格における増加または減少(LOCK利益と
称される)を受け入れるために,証券を買うかまたは売るかに関する指示および情
報と,証券の名称と,その証券の量とを含むであろう。
(F)投資家がコンピュータ
ワークステーションにおいて,ホストコンピュータネットワークとインタラクトす
ることを可能にするソフトウェアモジュール。このソフトウェアを用いて,投資家
は,証券取引オプションを選択し,ホストコンピュータネットワークにそれらを送
信し,その後,それが進行中であることの確認を受け取る。
(G)証券ブローカホス
トコンピュータネットワークの一部としての(LOCK管理モジュールと称される)
追加のソフトウェアモジュール。このソフトウェアは,ホストコンピュータネット
ワークを,証券取引市場にリンクさせ,投資家のLOCK注文のステータスを追跡
およびモニタするであろう。適切な市場価格において,ソフトウェアは,投資家の
指定した価格で株式を買い,その後,指定された所望の利益価格を加え,第2の注
文をするための,2パートのシーケンス化された証券取引注文を開始するであろう。
動作-主な実施形態
[0077]LOCK方法および発明は,投資家のエクイティ注文に含まれる追
加の買い/売り利益情報に注目する。それはまた,投資家の注文を,投資家のポジ
ションをオープンし,予め設定された利益目標でクローズアウトする2つ以上の注
文を切り替えるソフトウェアを包含する。
[0079]図2は,図1の例示的な注文フォームにLOCK情報ボックス9を
追加したものを図示する。投資家が,LOCKトレードを実行することを望んだの
であれば,投資家は,単に,ポジションをクローズアウトするために,エクイティ
の変動値10を加えるであろう。この単純な,情報LOCK値10の追加は,投資
家が,LOCK処理を実行するために追加しなければならないすべてである。投資
家が,株式を買う注文を入力し,ボックス内に1.00を入力すると,これは,購
入価格よりも1.00高くエクイティを売るとLOCK処理(図3)およびモジュ
ール(図5)によって解釈されるであろう。この数値の代替実施形態は,投資家に
対して,150ドルのように所望される利益量を指定させることであり得る。
[図1](判決注:訳文は,甲1の2による。)
[図2](判決注:訳文は,甲1の2による。)
[図3](判決注:訳文は,甲1の2による。)
[0080]図3は,LOCK発明および処理のロジック実行および変換を示す。
図3の右側は,LOCK処理のパート1を実行するために使用される投資家の入力
要求を表す。買い/売り指示2は,パート1の買いから,パート2の売り11に切
り替わる。例は,注文が,100XYZを買うことを明示しているのであれば,パ
ート1は,買い,その後,パート2において売り注文に切り替わるであろう。パー
ト1において,有効なボックスとなるこの注文の時間は,デイまたはグッドトゥキ
ャンセル4として指定され得る。LOCK注文におけるパート1が実行されると,
この情報は,グッドティルキャンセル注文に切り替わるであろう。投資家のための
オプションは,注文のステータスを観察し,LOCK注文に対する修正を要求する
か,または,実行されていないのであれば,LOCK注文の後半をキャンセルする
ことである。例は,投資家のLOCK注文が実行され,投資家が,XYZの100
株を保持し,売る前に,2.00のLOCK価格変動を待つことであり得る。この
時間中,投資家は,電子投資会社に対して,LOCK注文のステータスについて問
い合わせを行い,パート1が実行され,現在,LOCK注文のパート2において,
「売り」注文のキャンセルを望んでいる。投資家は,キャンセル要求を発行し,時
間内に受信されれば,LOCK注文がキャンセルされ,投資家は,LOCK注文の
パート1の結果しか得ないであろう。同様に,投資家が,パート1が実行される前
にLOCK注文の全体のキャンセルを望んでいるのであれば,この注文は,従来の
未実行注文のキャンセルと類似の方法でキャンセルされるであろう。
[0081]株式銘柄5,また,株式の量6は,パート1およびパート2におい
て同じままである。代替実施形態は,パート2において半分を売り,その後,パー
ト2を繰り返し,増加された価格で後半を売るように,量を変え得る。パート1の
価格選択は,市場相場でトレードを実行する成行注文7または価格を指定する指値
注文8かの何れかを含む。投資家が指値注文を実行するためには通常,ボックスを
チェックし,実行する価格を入力するか,または,市場状況が許すのであれば,よ
りよい価格を入力する。LOCKボックス9およびLOCK価格10における情報
と組み合わされたパート1注文実行価格は,LOCKトランザクションのパート2
の指値注文実行価格を形成するであろう。
[0083]図5は,LOCK注文をオープンおよびクローズするためのLOC
K方法,処理,および注文フローシーケンスの主な実施形態を図示する。この方法
は,投資家17が,LOCK注文19を発行することで始まる。これは,図3に記
載されたような十分な情報を含む。LOCK注文19は,電子トレード会社20へ
発行され,ここで,この注文は,LOCK注文として識別され,LOCK管理モジ
ュール処理12に入力する。LOCK管理モジュール12は,ソフトウェアインタ
ーフェースを備える。このソフトウェアインターフェースは,LOCK注文19ド
キュメントを受信し,追跡記録33を生成し,LOCKインクリメント35を記録
し,LOCK注文発行34の前半の発行をモニタし,この注文34が,証券取引所
23にトレードピット36を入力し,注文が満たされる37と,第1の注文が満た
されたことを記録し38,LOCK注文の後半を生成し39,LOCK注文の後半
を発行する40。LOCK注文の後半40がトレードピット41へ再発行され,第
2の注文が満たされる42と,電子トレーディング会社20は,口座残高を記録4
3し,投資家17に,LOCKトランザクションが完了したことを通知する。
[図5](判決注:訳文は甲1の2による。)
詳細説明および動作-代替実施形態
[0085]代替実施形態は,この処理を再度自動的に繰り返すオプションと,
買値/売値を上げまたは下げる追加のオプションと,を挿入することを含む。図6
および図7は,この方法に,サイクル数と,インクリメントオプションとを加える
ことによるLOCK方法の代替実施形態を図示する。図6は,処理を繰り返すため
に必要な追加情報を図示する。図7は,LOCK管理モジュール12に再入力する
ための方法を図示する。
「サイクル数」44の追加によって,投資家は,より多くの
利益を得ることを望んで,LOCK処理に自動的に再入力できるようになるであろ
う。2つのサイクルを指定する例は,1株あたり50ドルでXYZを100株(1
ドルのロック価格で)買い,1株あたり51ドルで売り,50ドルで買い戻し,5
1ドルで再び売ることを意味するであろう。この投資処理によって,個人投資家は,
毎日の小さな株価変動を活用することが可能となるであろう。
[0086]別のオプションは,各サイクルの価格インクリメント45を上げる
ことであろう。投資家は,上昇している株価を利用するためにこの処理を利用する
であろう。例は,1ドルのLOCK価格,サイクル数3,および,0.50ドルの
インクリメントで,50.00ドルで100株のXYZを買うことを指定する。こ
れは,50.00ドルで100株のXYZを買い,51.00ドルで売り,51.
50で買い戻し,52.50ドルで売り,52.00ドルで買い戻し,53.00
ドルで売ると解釈するであろう。
[図6](判決注:訳文は甲1の2による。)
[図7](判決注:訳文は甲1の2による。)
結論,波及効果,および範囲
[0092]LOCK発明および方法は,投資家が,具体的な投資戦略を規定し,
最小の関与でこれら戦略を実行することを可能にするであろう。この発明はさらに,
投資家が,小さく反復する株価移動を活用することを可能にするであろう。これは,
時間と共に,著しい利益となるであろう。LOCK管理モジュールは,オンライン
投資会社に,または投資家のコンピュータに存在でき得る。この発明は,オンライ
ン投資会社のトレード量を著しく増加させるだろう。この戦略は,伝統的な持ち切
り戦略から離れて,多くの小額であるが一貫した利益を試みることの1つへ移動さ
せる。LOCKは,市場の一定の動きを観察するための十分な時間を持たない平均
的な投資家に特に有利である。
(2) 以上より,引用発明は以下のとおりのものと認められる。
引用発明は,株式,オプション,商品,債券,及び大部分の型式のエクイティ及
び証券の売買に適合した,個人投資家,証券ブローカ,及び証券を取引するその他
の人のための有用なアプリケーションに関するものである([0004]。

現在のインターネット投資アプローチでは,投資家は,利益を得ることを願って,
注文を発行し,約定を待ち,その後,第2の注文を発行して,ポジションをクロー
ズアウトし,一日に数回,口座をチェックしなければならず,この結果,投資家は,
時間を損失し,通常の仕事を妨げられ,迅速に動いている市場において,ポジショ
ンをクローズアウトする機会を喪失する可能性があるとともに,市場の変動を利用
するために,絶えず市場をモニタしなければならず,また,売買戦略を実行するた
めに,株式ブローカを使用できるものの,ブローカを用いることは,取引費用を増
加させ,ブローカもまた,株式を観察し,二つのシーケンス化された注文を実行せ
ねばならない,との課題が存在した([0007]~[0010] 。

そこで,引用発明は,現在の方法及び処理に代わって,投資家が,取引費用を下
げることを可能とし,追加の投資家行動を必要とすることなく,証券を,現在価格
で買い,利益価格で売る,一つの注文を出すことができるようにすることを目的と
するものである([0011]。

そして,上記課題を解決するために,引用発明は,オンライン投資家又は株式ブ
ローカが,一つのトランザクション注文を入力することを可能にすることで,予め
規定された利益を求めて証券を売買するために二つの注文(上記目的における,現
在価格での買い注文であるパート1の注文,及び,利益価格での売り注文であるパ
ート2の注文)からなる自動的にシーケンス化された取引戦略を実行するもので,
電子トレードシステムにおける管理ソフトウェアモジュールが売買戦略を実行する
ものであり,上記注文により,先ずオープンポジション(投資家の指示に基づく現
在価格での注文が約定した状態)を確立し,次にポジションをクローズアウト(予
め設定された利益目標での指値での注文が約定した状態)する処理が行われるとと
もに,代替実施形態として,上記処理を再度自動的に繰り返すオプションを含む構
成を採用することにより([0012][0015][0073][0077][0
, , , ,
085],投資家が,最小の関与で具体的な投資戦略を実行することを可能にし,

さらに,小さく反復する株価移動を活用することを可能にして,時間を浪費するこ
となく,多くの少額であるが一貫した利益を得ることができる,という作用効果を
奏するものである([0092]。

(3) 引用発明は前記第2,3,(2)アのとおりのものと認められる。
3 取消事由1(相違点の認定の誤り)について
(1) 本件発明1と引用発明との対比
ア 本件発明1と引用発明とを対比すると,少なくとも,①「金融商品の売
買取引を管理する金融商品取引管理装置であること,②前記金融商品の売買注文を
行うための売買注文申込情報を受け付ける注文入力手段を備えること,③該注文入
力受付手段が受け付けた前記売買注文申込情報に基づいて金融商品の注文情報を生
成する注文情報生成手段を備えること,及び,④一の前記売買注文申込情報に基づ
いて,所定の前記金融商品の売り注文又は買い注文の一方を成行又は指値で行う第
一注文情報と,該金融商品の売り注文又は買い注文の他方を指値で行う第二注文情
報と,を含む注文情報群を複数回生成することで共通し,⑤引用発明が,
「前記金融
商品の売り注文又は買い注文の前記他方を逆指値で行う逆指値注文情報」を生成し
ていない点で相違している。
イ 本件発明1の構成1Gは,前記第二注文情報に基づく該指値注文が約定

されたとき,次の注文情報群の生成を行うと共に,該生成された注文情報群の前記
第一注文情報に基づく前記成行注文の価格と同じ前記価格の指値注文を有効に」1

G前段)するとともに,「以後,前記第一注文情報に基づく前記指値注文の約定と,
前記第一注文情報に基づく前記指値注文の約定が行われた後の前記第二注文情報に
基づく前記指値注文の約定と,前記第二注文情報に基づく前記指値注文の約定が行
われた後の,次の前記注文情報群の生成とを繰り返し行わせる」
(1G後段)という
ものである。構成1G前段は,売買取引開始時において,同じ注文情報群に含まれ
る第一注文情報に基づく成行注文が約定した後で,第二注文情報に基づく該指値注
文が約定されたときに,次の注文情報群の前記第一注文情報に基づく注文が,上記
売買取引開始時に約定された成行注文の価格と同じ価格の「指値注文」として有効
に生成されることとを意味するものである。
これに対し,引用発明は,前記2(2)のとおり,代替実施形態においては,パート
1注文とパート2注文とで形成されるLOCK注文を再度自動的に繰り返すもので
ある。このことは,引用文献の図6では,代替実施形態において情報を入力する際
に「指値注文」と「成行注文」を選択する欄しかない上,引用文献の[0085]
には,『サイクル数44』の追加によって,投資家は,より多くの利益を得ること

を望んで,LOCK処理に自動的に再入力できるようになるであろう。 と記載され

ており,図7には,サイクル数選択「44」を経て同じ注文が繰り返される旨の矢
印が記載されていることからしても,明らかであるということができる。したがっ
て,1回目のLOCK注文の第一注文が成行注文である場合には,繰り返されるL
OCK注文の第一注文も成行注文であり,1回目のLOCK注文の第一注文が指値
注文である場合には,繰り返されるLOCK注文の第一注文も指値注文であるとい
うことができる。
ウ 以上より,本件発明1と引用発明とは,本件発明の構成1Gの点におい
て相違している。
(2) 原告の主張について
ア 原告は,①引用文献[0085]の例において,2回目のLOCK注文
のパート1の買い注文で1回目のパート1の買い注文と同じ成行注文を繰り返すの
であれば,投資として意味がない上,相場価格が常に上昇する場面でないと売買が
できないことになり,引用発明の目的を達成することができない,②成行注文を選
択する注文者の関心は,成行注文がいくらで約定するのかというより,成行注文で
買った金融商品について,成行注文の約定価格を基準にして,利益をいくら上乗せ
して売ることができるのかということにあるから,LOCK注文のパート1で成行
注文を選択した場合,パート2では,指値注文を行うことになる,③約定するまで
約定価格が分からないという点で指値注文と成行注文では違いがなく,引用文献の
[0085]において,1回目のLOCK注文のパート1の注文が指値注文である
か成行注文であるかにかかわらず,2回目のLOCK注文のパート1の注文では,
1回目のLOCK注文のパート1の注文の約定価格の指値注文が行われる,④引用
文献の[0085]において,1回目のLOCK注文のパート1の注文では,成行
注文が排除され,指値注文のみが選択されたということについて,引用文献に裏付
けとなる記載が何ら存在しないなどと主張する。
しかし,引用文献の[0085]の「1株あたり50ドルでXYZを100株(1
ドルのロック価格で)買い,1株あたり51ドルで売り,50ドルで買い戻し,5
1ドルで再び売ることを意味するであろう。」の記載は,前記(1)のとおり,引用発
明は,指値注文と成行注文のいずれかしか選択できないことからすると,指値注文
が選択された場合の記載であると理解することができ,この場合の注文は,全て指
値注文であると解される。
そうすると,引用文献の[0085]の例は,1回目のLOCK注文のパート1
の買い注文及び2回目のLOCK注文のパート1の買い注文が成行注文である例を
示したものではないから,このような注文に投資として意味がないなどと主張する
原告の主張は,その前提を欠くものである。
なお,引用発明において,1回目のLOCK注文のパート1の注文が成行注文で
ある場合に,1回目のLOCK注文のパート2の注文が成立して次のLOCK注文
のパート1の注文が成立するまでの間に相場が変動することもあり得るから,パー
ト1の注文が成行注文であるLOCK注文を繰り返す行為に投資として意味がない
とはいえず,引用発明の目的を達することができないということもない。
また,原告の上記②,③の主張は,引用文献の記載に基づくものではなく,採用
することができない。
イ 原告は,引用文献の原文の「The addition of #Number of Cycles# 44 would
allow the investor to automatically reenter the LOCK process again」という
記載は,サイクル数44の追加により,投資家は,自動的にLOCKプロセスに再
び入ることができる,といった意味の記載であり,成行注文を再入力するという注
文方法では,そもそも技術的又は投資的に意味がないし,引用発明が奏するとして
いる効果を奏しないことになってしまうから,引用文献の図7のうち,
「44」欄か
ら投資家を意味する「17」欄及び「19」欄へと接続された矢印の箇所は,除か
れるべきである,と主張する。
しかし,上記原文引用箇所を原告主張どおりに解しても,前記(1)イの引用発明の
認定が左右されることがないことは,既に判示したとおりであるし,上記の矢印の
箇所は除かれるべきであるとの主張は,その根拠を欠くもので採用することができ
ない。
4 取消事由2(相違点の判断の誤り)について
前記3(1)イのとおり,本件発明1の構成1Gに相当する構成が引用文献に記載さ
れているとはいえず,引用発明として読み取れるのは,成行又は指値によるパート
1の注文及び指値によるパート2の注文からなるLOCK注文を,そのまま繰り返
すことのみである。
そして,引用発明のうち,パート1の注文を成行とした場合のLOCK注文を繰
り返す場合,2回目以降のLOCK注文のパート1の注文について指値注文となる
ように変更することや,変更した2回目以降のLOCK注文のパート1の注文の指
値を,1回目のLOCK注文のパート1の注文の成行約定の価格と同じになるよう
設定することは,記載も示唆もされていない。また,パート1の注文を指値とした
場合のLOCK注文を自動繰り返しの対象とした場合,繰り返しにおける,1回目
のLOCK注文のパート1の注文について成行注文となるように変更することや,
2回目のLOCK注文のパート1の注文の指値を,変更した1回目のLOCK注文
のパート1の成行約定の価格と同じになるよう設定することは,記載も示唆もされ
ていない。
また,引用発明は,成行又は指値によるパート1の注文を含むLOCK注文をそ
のまま繰り返す発明であることから,これを,1回目と2回目以降とでパート1の
注文の種類が異なるように変更すると,連続する注文間の執行条件指定が発生する
ことになり,最小の関与で具体的な投資戦略を実行することを可能に」
「 するという,
引用発明の特徴を変更することになる。
そうすると,構成1Gに相当する構成は,引用発明から当業者が容易に想到し得
たものとはいえない。
第6 結論
以上のとおり,取消事由にはいずれも理由がないから,原告の請求を棄却するこ
ととして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
森 義 之
裁判官
永 田 早 苗
裁判官
古 庄 研

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