知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成29(ワ)13897 損害賠償請求事件

この記事をはてなブックマークに追加

平成29(ワ)13897損害賠償請求事件

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 一部認容 東京地方裁判所
裁判年月日 平成30年1月23日
事件種別 民事
当事者 被告
原告株式会社WILL松下翔
法令 著作権
著作権法114条3項3回
著作権法29条1項2回
民法724条2回
著作権法23条1項2回
キーワード 損害賠償12回
侵害6回
許諾2回
主文 1 被告は,原告に対し,40万円及びこれに対する平成29年5月3日から支15払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを10分し,その6を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。20
事件の概要 本件は,原告が,被告に対し,原告は別紙著作物目録記載の映像作品(以下, 同目録記載の番号により「本件著作物1」,「本件著作物2」といい,本件著作物 1及び本件著作物2を併せて「本件各著作物」という。)の著作権を有する株式会 社CAを吸収合併し,同社の権利義務を承継したところ,被告が本件各著作物の データを動画共有サイトのサーバー上にアップロードした行為が公衆送信権(著 作権法23条1項)の侵害に当たると主張して,民法709条及び著作権法115 4条3項に基づき,損害賠償金107万7843円及びこれに対する不法行為の 後の日である平成29年5月3日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法 所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 著作権に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

平成30年1月23日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成29年(ワ)第13897号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成29年12月1日
判 決
原 告 株 式 会 社 W I L L
同訴訟代理人弁護士 竹 村 公 利
松 下 翔
10 岡 本 順 一
仲 條 真 以
被 告 A
主 文
15 1 被告は,原告に対し,40万円及びこれに対する平成29年5月3日から支
払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを10分し,その6を原告の負担とし,その余を被告の負
担とする。
20 4 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は,原告に対し,107万7843円及びこれに対する平成29年5月3
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
25 第2 事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,原告は別紙著作物目録記載の映像作品(以下,
同目録記載の番号により「本件著作物1」「本件著作物2」といい,本件著作物

1及び本件著作物2を併せて「本件各著作物」という。 の著作権を有する株式会

社CAを吸収合併し,同社の権利義務を承継したところ,被告が本件各著作物の
データを動画共有サイトのサーバー上にアップロードした行為が公衆送信権(著
5 作権法23条1項)の侵害に当たると主張して,民法709条及び著作権法11
4条3項に基づき,損害賠償金107万7843円及びこれに対する不法行為の
後の日である平成29年5月3日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法
所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(裁判所に顕著な事実,当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠
10 及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
原告は,映画・ビデオの映像製作,編集業務,販売及びその企画営業代行業
並びにそのコンサルタント業務等を営む株式会社である。原告は,平成28年
12月 1 日,株式会社CAを吸収合併し,同社の権利義務を承継した。
(甲1)
氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)は,平成26年1月6日に「蒼井
15 そら-ギリギリモザイクはげましセックス-3お姉さん手コキ」と題する動画
(以下「本件動画1」という。)のデータを,平成26年1月26日に「集団痴
女 12コーナー 4時間」と題する動画(以下,
「本件動画2」といい,本件
動画1及び本件動画2を併せて「本件各動画」という。)のデータを,いずれも
アメリカ合衆国法人であるFC2,Inc.
(以下「FC2」という。)が管理
20 する,インターネット上の動画共有サイトである「FC2動画アダルト」
(以下
「本件動画サイト」という。 のサーバー上にアップロードし,
) 不特定多数の者
が閲覧できる状態に置いた。(甲2の1,甲2の2の2,甲2の3の2)
原告は,平成29年4月26日,本件訴訟を提起した。
2 争点
25 株式会社CAは本件各著作物の著作権者であったか
本件各動画は本件各著作物の複製物であるか
本件発信者は被告であるか
損害額
消滅時効の成否
3 争点に関する当事者の主張
5 株式会社CAは本件各著作物の著作権者であったか)について
(原告の主張)
株式会社CAは,本件各著作物の製作に発意と責任を有し,本件各著作物の
監督は株式会社CAに対してその製作に参加することを約束した上で本件各
著作物を制作し,株式会社CAは本件各著作物の著作権を取得した(著作権法
10 29条1項)。
そして,その後,原告は株式会社CAを吸収合併し,同社から本件各著作物
の著作権及び本件各著作物の著作権侵害により発生した損害賠償請求権を取
得した。
(被告の主張)
15 株式会社CAが本件各著作物の著作権者であることは否認ないし争う。
争点 (本件各動画は本件各著作物の複製物であるか)について
(原告の主張)
株式会社CAは,本件各動画と本件各著作物との比較対象を行い,本件動画
1は本件著作物1と同一であり,本件動画2は本件著作物2と同一であると確
20 認し,本件各動画の静止画像を保存したこと,このような手順で保存された本
件動画1の静止画面は本件著作物1の静止画面と同一であり,本件動画2の静
止画面は本件著作物2の静止画面と同一であることから,本件各動画が本件各
著作物の複製物であることは明らかである。
(被告の主張)
25 否認ないし争う。
争点 (本件発信者は被告であるか)について
(原告の主張)
ア 原告は,本件動画サイトの管理者であるFC2から本件発信者に関する情
報開示を受けたところ,本件発信者の氏名及び住所と被告の氏名及び住所が
一致したから,本件発信者が被告であることは明らかである。
5 イ 被告は,被告が本件発信者ではなく,FC2から開示された情報中に被告
の氏名及び住所があるとしても,第三者が勝手に入力したものであると主張
する。しかし,FC2が開示した情報は本件発信者が本件動画サイトに登録
した情報であるところ,被告以外の第三者が被告の氏名及び住所を登録する
ことは考えられない。
10 すなわち,まず,本件動画サイトには無料会員と有料会員があるところ,
有料会員として登録する場合には,FC2に対する会費の支払のためにクレ
ジットカード情報を登録する必要がある。また,本件動画サイトでは,ユー
ザーにアフィリエイト報酬が支払われる場合があるが,アフィリエイト報酬
を受領するには,有料会員登録をした上でアフィリエイト登録をする必要が
15 ある。アフィリエイト登録をするには,氏名(ローマ字表記も含む。,居住

国,郵便番号,住所の登録が必要であり,さらに,銀行口座又はクレジット
カード情報を登録する必要がある。したがって,アフィリエイト登録をした
有料会員の登録情報である氏名及び住所等の情報が登録者本人のものでは
ないということはおよそ考えられない。
20 次に,本件動画サイトの投稿動画は,有料会員でなければ動画全体を閲覧
することができない有料動画に指定することができ,無料会員が有料動画を
視聴しようとすると再生時間の短いサンプル動画が再生される。そして,無
料会員が有料動画から有料会員登録すると,動画投稿者にアフィリエイト報
酬が支払われることになる。したがって,ユーザーが本件動画サイトに有料
25 動画をアップロードする理由はアフィリエイト報酬を得るためであるとい
える。
そして,本件各動画はいずれ有料動画であるから,本件発信者はアフィリ
エイト報酬を得るために投稿したと考えられる,そうすると,アフィリエイ
ト登録をした本件発信者の登録情報である氏名及び住所等の情報が登録者
本人のものではないということはおよそ考えられない。
5 (被告の主張)
原告の主張は否認する。
ア 被告は,本件各動画が本件動画サイトに投稿された当時,生活保護を受給
しており,パソコン等は所有していなかった。このことは,ケースワーカー
が被告宅に訪問して確認している。また,被告は,本件各動画が本件動画サ
10 イトに投稿された当時から現在まで,精神障害者2級に認定されており,動
画を本件動画サイトにアップロードする知識はないし,意欲もなかった。
イ 本件動画サイトの会員になるには,フリーメールアドレス(無料で利用で
きる電子メールサービスを使用して作成したメールアドレス)を使用した登
録が可能であり,フリーメールアドレスは氏名等の簡易情報を入力すること
15 で入手可能である。つまり,本件動画サイトの会員登録手続には本人認証等
の仕組みがなく,第三者が他人の氏名や住所を勝手に登録することができる。
本件でも,本件発信者の情報として登録されているメールアドレスはフリー
メールアドレスである。
ウ 原告は,有料会員になるためにはクレジットカードの情報が必須であると
20 主張するが,本件動画サイトで使用できる「FCポイント」で支払う方法や,
銀行振込み等の方法によっても有料会員登録をすることが可能である。また,
原告は,本件動画サイトでアフィリエイト登録をするには,氏名,住所の他
に,銀行口座又はクレジットカード情報を登録する必要があると主張するが,
アフィリエイト登録のキャプチャ画面(甲11)によれば,氏名や住所等は
25 必須の登録情報であるが,銀行口座又はクレジットカード情報の登録は任意
となっている。そもそも,被告は,本件各動画が本件動画サイトに投稿され
た当時,生活保護を受給しており,クレジットカードを所持していなかった。
エ 以上から,本件発信者は被告ではない。
争点 (損害額)について
(原告の主張)
5 株式会社CAは取引先との間でコンテンツ提供基本契約を締結していたと
ころ,同契約においては,本件各著作物の使用許諾の対価として●(省略)●
を株式会社CAが受け取ることになっているから,同金額に相当する金額が損
害額になる(著作権法114条3項)。
本件各著作物はいずれも動画配信サイトにおいて●(省略)●となる。
10 そして,本件動画サイトにおける本件動画1の再生回数は7709回であり,
本件動画2の再生回数は1307回であるから,本件動画1に係る株式会社C
Aの損害額は●(省略)●(7709回×●(省略)●)となり,本件動画2
に係る損害額は●(省略)●(1307回×●(省略)●)となる。また,弁
護士費用相当額は,上記金額の合計の●(省略)●が相当である。原告は,株
15 式会社CAを吸収合併したことにより,上記株式会社CAが有する損害賠償請
求権を取得した。
したがって,原告は,被告に対し,株式会社CAから承継した著作権侵害の
不法行為に基づく損害賠償請求として,107万7843円及びこれに対する
不法行為の日の後の日である平成29年5月3日(訴状送達の日の翌日)から
20 支払済みまでの年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
(被告の主張)
否認ないし争う。
争点 (消滅時効の成否)
(被告の主張)
25 本件動画1がアップロードされた日である平成26年1月6日又は株式会
社CAがこの事実を知った日である平成26年1月27日から3年が経過し
ている。また,本件動画2がアップロードされた日である平成26年1月26
日又は株式会社CAがこの事実を知った日である平成26年1月28日から
3年が経過している。そして,被告は平成29年6月13日の本件第1口頭弁
論期日において消滅時効を援用する旨の意思表示をしたから,原告の損害賠償
5 請求権は時効消滅した。
(原告の主張)
被告の主張は争う。
不法行為による損害賠償請求は,「損害及び加害者を知った時」から消滅時
効が進行するところ(民法724条前段)「加害者を知った時」とは,加害者

10 に対する賠償請求が事実上可能な程度にこれを知ったことをいう。
本件において,株式会社CAは,平成26年7月7日にFC2から本件発信
者,すなわち被告の氏名及び住所等の情報の開示を受けたのであり,その時点
で損害賠償請求が事実上可能な程度に被告の情報を知った。
したがって,本件において消滅時効の起算日は平成26年7月7日であると
15 ころ,本件訴訟の提起は平成29年4月26日であり,平成26年7月7日か
ら3年以内に請求権の行使をしているから,原告の損害賠償請求権は時効消滅
していない。
第3 当裁判所の判断
1 争点 (株式会社CAは本件各著作物の著作権者であったか)について
20 証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件著作物1は,株式会社CAが製作を企
画し,製作に係る負担を負っており,本件著作物1の監督は株式会社CAに対
して製作に参加することを約束して本件著作物1を製作したことが認められ
る(甲7の2,甲14)。
そうすると,株式会社CAは本件著作物1の製作を企画すると共に製作に係
25 る負担を負ったのであるから,株式会社CAが本件著作物1の製作に発意と責
任を有しており,本件著作物1の監督は株式会社CAに対して製作に参加する
ことを約束して本件著作物1を製作したということができる。
したがって,株式会社CAは本件著作物1の著作権者であったと認められる
(著作権法29条1項)。
また,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件著作物2には,4名の監督が製
5 作した6個の映像作品が収録されていること(甲8の1ないし甲8の6,甲9
の1ないし6) 本件著作物2に収録されている
, 「美脚美女達の接吻とSEX」
と題する映像作品(以下「本件作品」という。)は株式会社CAが製作を企画
し,製作に係る負担を負っており,本件作品の監督は株式会社CAに対して製
作に参加することを約束して本件作品を製作したこと(甲12,14)が認め
10 られる。
そうすると,株式会社CAは本件著作物2に収録されている本件作品の製作
を企画すると共に製作に係る負担を負ったのであるから,原告が本件作品の製
作に発意と責任を有しており,本件作品の監督は株式会社CAに対して製作に
参加することを約束して本件作品を製作したということができる。
15 したがって,株式会社CAは,少なくとも本件著作物2に収録されている本
件作品の著作権者であったと認められる。
そして,前提事実 のとおり,原告は,平成28年12月 1 日,株式会社C
Aを吸収合併し,同社の権利義務を承継したから,本件著作物1及び本件著作
物2に収録されている本件作品の著作権を取得し,また,それらの著作物の著
20 作権侵害により発生した損害賠償請求権を取得した。
2 本件各動画は本件各著作物の複製物であるか)について
証拠及び弁論の全趣旨によれば,株式会社CAは,同社の著作物が違法にア
ップロードされたと考えた場合,アップロードされた著作物が株式会社CAの
著作物であるか否かの確認を業者に委託することがあり,本件においても,同
25 確認を業者に委託し,委託先の従業員において,本件動画1は本件著作物1と
同一の場面を含み,本件動画2は本件著作物2と同一の場面を含むことを確認
し,本件動画1及び本件動画2の一場面の静止画像をそれぞれ保存したこと
(甲15),このような手順で保存された本件動画1の静止画像(甲2の3の
2)は本件著作物1の一場面の静止画像(甲2の3の3)と同一であり,本件
動画2の静止画像(甲2の2の2)は本件著作物2に収録されている本件作品
5 の一場面の静止画像(甲2の2の3)と同一であること,本件動画1の題名と
本件著作物1の作品タイトルである「ギリギリモザイク 蒼井そら はげまし
セックス」
(甲2の3の1)は多くが一致し,本件動画2の題名(前提事実 )
と本件著作物2の作品タイトル(甲2の2の1)は一致していることが認めら
れる。
10 これらによれば,本件動画1は少なくとも本件著作物1の一部と同一の動画
であり,本件動画2は少なくとも本件著作物2に収録されている本件作品の一
部と同一の動画であると認められ,本件動画1は本件著作物1の複製物であり,
本件動画2は本件著作物2の複製物である。なお,本件著作物1の収録時間は
約120分であり,本件著作物2の収録時間は約240分であるが(甲2の3
15 の1,甲2の2の1),本件動画1及び本件動画2の再生時間は明らかではな
い。
以上によれば,本件発信者が本件各動画のデータを動画共有サイトのサーバ
ー上にアップロードした行為は,株式会社CAの本件各著作物に係る公衆送信
権(著作権法23条1項)の侵害に当たると認められる。
20 3 争点 (本件発信者は被告であるか)について
証拠及び弁論の趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 本件動画サイトについて
本件動画サイトの会員には,無料会員と有料会員(会費は1か月当たり
1000円又は1年当たり6000円)がある。一般ユーザーが本件動画
25 サイトの会員になれば,会員の種別にかかわらず,本件動画サイトにアッ
プロードされている動画の閲覧や動画のアップロードをすることができ
るが,無料会員と有料会員では,閲覧する動画の画質,配信速度,視聴回
数,アップロードすることができる動画のサイズ,閲覧できる動画の範囲
等に違いがある。(甲16の1,乙6)
一般ユーザーが本件動画サイトの無料会員に登録するにはメールアド
5 レスを登録する必要があるが,住所を登録する必要はない。有料会員に登
録するには,まず無料会員に登録した上で,クレジットカード又は保有す
るFC2ポイント(本件動画サイト等で有料サービスに使用することがで
きるポイントであり,銀行振込み,クレジットカード,電子マネー等で購
入することができるもの)を使用して会費を支払う必要があるが,氏名及
10 び住所を登録する必要があることを認めるに足りる証拠はない。(甲16
の1,乙6,乙7)
本件動画サイトへの動画の投稿者は,投稿した動画について本件動画サ
イトの有料会員でなければ動画全体を視聴することができないという設
定をすることができる(以下,このように設定された動画を「有料動画」
15 という。。無料会員が有料動画を視聴しようとすると再生時間がごく短い

サンプル動画のみが再生される。
無料会員が当該動画全部を視聴したいと考えた場合,同動画から有料会
員登録をすることができる。この手順で無料会員が有料会員登録をすれば,
動画投稿者等に,後記のアフィリエイト報酬が支払われる。
20 本件動画サイト上の動画から他のユーザーが有料会員登録をした場合,
当該動画の投稿者や当該動画を自己のブログ等で紹介したユーザーに対
し,アフィリエイト報酬が支払われる。アフィリエイト報酬は「FC2換
金可能ポイント」として支払われ,FC2換金可能ポイントは,FC2ポ
イントと交換すること及び現金化すること等が可能である。
(甲16の3)
25 本件動画サイト上の動画の投稿者等がアフィリエイト報酬を受領する
ためには,有料会員となった上でアフィリエイト登録をする必要がある。
アフィリエイト登録をするには,氏名(ローマ字表記も含む。,居住国,

郵便番号,住所の登録が必要である。また,アフィリエイト登録画面にお
いて銀行口座やクレジットカード等の情報を登録することも可能である。
(甲11,甲16の3)
5 イ 本件動画1及び本件動画2について
本件動画1及び本件動画2はいずれも有料動画に指定されていた(甲2の
2の2,甲2の3の2)。
ウ 本件発信者に関する開示情報
原告は,平成26年7月7日,アメリカ合衆国連邦地方裁判所ネバダ州地
10 区が発令した開示命令に基づき,FC2から,同社が入手可能な情報であり,
本件発信者を特定するために十分な情報として,本件発信者の氏名,住所に
関する情報の開示を受けた。
開示された氏名は,被告の氏名(ただし,平成27年8月4日に婚姻する
前のもの)と同一であり,その住所は,証拠及び弁論の全趣旨によれば,被
15 告の従前の住所地であったと認められる。
(甲5の1の1,甲5の2の1,甲
5の3,甲6)
検討
ア 上記 ア 及び のとおり,本件動画サイト上の動画から他のユーザーが
有料会員登録をした場合に当該動画の投稿者に対してアフィリエイト報酬
20 が支払われるところ,ユーザーに対して有料会員登録を促し動画の投稿者が
アフィリエイト報酬を得るためには,投稿した動画を無料会員が一部しか視
聴することができない有料動画とすることが効果的といえるから,本件動画
サイトに投稿した動画を有料動画と設定する理由はアフィリエイト報酬を
得る目的である場合が多いといえる。そして,本件各動画は有料動画である
25 ところ,本件において上記と異なる目的をうかがわせる特段の事情を認める
に足りず,本件発信者が本件動画サイトに本件各動画をアップロードした目
的についても上記に述べたところが該当するといえる。
また,上記 ア 及び のとおり,本件動画サイトにおいては,無料会員,
有料会員のいずれも会員登録するためには必ずしも氏名や住所等の情報を
登録する必要があるとは認められない。他方,アフィリエイト登録の際には
5 氏名,住所等の情報を登録する必要がある。また,FC2は本件発信者の氏
名及び住所の情報を保有していた。
これらによれば,本件発信者はアフィリエイト登録をしていて,FC2が
開示した上記 ウの本件発信者の氏名及び住所は本件発信者がアフィリエ
イト登録をする際に入力した情報であると推認するのが相当であり,これを
10 覆すに足りる証拠はない。
そして,本件発信者がアフィリエイト登録の際に入力した氏名及び住所と
被告の氏名及び住所が一致するところ,アフィリエイト報酬を得るためのア
フィリエイト登録をする場合,他人の氏名,住所を登録することは通常は考
え難いこと,本件においてあえて第三者が被告の氏名,住所を登録したこと
15 をうかがわせる事情は全くないことなどからすれば,本件発信者は被告であ
ると推認するのが相当である。
イ これに対し,被告は,被告は本件発信者ではなく,FC2から開示された
情報中に被告の氏名及び住所があるとしても,本件発信者である第三者が勝
手に入力したものであると主張する。
20 しかし,上記のとおりアフィリエイト登録をする場合,他人の氏名,住所
を登録することは通常は考え難く,本件においてあえて第三者が被告の氏名,
住所を登録したことをうかがわせる事情は全くない。また,本件動画サイト
のアフィリエイト登録をするためには,氏名や住所等のほかに銀行口座やク
レジットカード等の情報を登録することができ,これらの情報は会費(アフ
25 ィリエイト登録をするには有料会員であることが必要である。)の支払やF
C2換金可能ポイントを現金化するために必要な情報であるところ,本件動
画サイトのアフィリエイト登録を行ったユーザーが,第三者の氏名,銀行口
座やクレジットカード情報を入力することは通常は考え難いし,本件におい
てあえて第三者が被告の氏名等を登録したことをうかがわせる事情は全く
ない。また,ユーザーがFC2ポイントで会費を支払い,かつ,FC2換金
5 可能ポイントを現金化しないことをあえて望む場合には,銀行口座やクレジ
ットカード情報については入力しないことも考えられるが,そのような第三
者が架空の氏名等ではなく,あえて被告の氏名等を登録する理由は通常はな
いし,本件で第三者が被告の氏名等を登録したことをうかがわせる事情は全
くない。その他,本件発信者が登録した被告の氏名等について,被告ではな
10 く第三者が勝手に入力したことをうかがわせる事情はなく,被告の主張は採
用することができない。
ウ また,被告は,本件各動画が本件動画サイトに投稿された当時,生活保護
を受給しており,パソコンやクレジットカードは所持していなかった,精神
障害者2級に認定されており,動画を本件動画サイトにアップロードする知
15 識はないし,その意欲もなかった旨主張する。
証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告は平成24年12月13日から平成
26年7月1日まで(省略)から生活保護を受給していたこと(乙2),平成
21年11月27日に(省略)から障害等級2級の障害者手帳の交付を受け
たこと(乙3)が認められる。しかし,これらの事実から直ちに被告が動画
20 を本件動画サイトにアップロードすることが不可能ないし困難であったと
認めることはできない。
エ 以上によれば,本件発信者は被告であると推認するのが相当であるところ,
これを覆すに足りる証拠はないから,本件発信者は被告であると認められ,
被告が本件各動画のデータを動画共有サイトのサーバー上にアップロード
25 した行為は,株式会社CAの本件各著作物に係る公衆送信権(著作権法23
条1項)の侵害に当たると認められる。
4 争点 (損害額)について
証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 本件動画サイトの本件各動画には,それぞれの動画ごとに「動画の情報」
欄がある。同欄には「再生数」欄があり,数字(以下「表示再生数」という。)
5 が表示されていた。本件動画1は,平成26年1月6日に本件動画サイトに
有料動画としてアップロードされ,同月27日時点において表示再生数は7
709回であった。本件動画2は,同月26日に本件動画サイトに有料動画
としてアップロードされ,同月28日時点において表示再生数は1307回
であった。(甲2の2の2,甲2の3の2)
10 イ 本件各著作物は,いずれも動画配信サイト「DMM.com」において●
(省略)●である(甲2の2の1,甲2の3の1)。
ウ 株式会社CA(変更前の商号は株式会社北都)は,取引先との間で,コン
テンツ提供基本契約を締結し,取引先に対して映像作品等のコンテンツの配
信を許諾していた。ある取引先との契約では,株式会社CAは,●(省略)
15 ●が定められていた(甲3の1・2)。
エ 本件動画1及び本件動画2は,株式会社CAの要請によって,上記アの後,
本件動画サイトから削除された。
原告は,上記 の本件動画サイトにおける表示再生数の数字は本件動画サイ
トにおいて当該動画が配信された回数であり,同回数に本件著作物1及び本件
20 著作物2の●(省略)●を受領できたとして著作権法114条3項に基づく損
害賠償(本件動画1について●(省略)●,本件動画2について●(省略)●)
を請求する。
しかし,本件動画 1 及び本件動画2の表示再生数に差があることなどから,
本件動画サイトにおける表示再生数が何らかの方法に基づいて計測されたも
25 のであることはうかがわれるが,その数字が当該動画の配信以外の理由で増加
することがなく配信回数を正確に表したものであることを裏付ける証拠は何
ら提出されておらず,その数字が配信回数を正確に表したものであると認める
ことはできない。また,上記3 ア のとおり,本件動画サイトの無料会員が
有料動画である本件各動画を視聴しようとすると再生時間がごく短いサンプ
ル動画のみが再生されるところ,表示再生数においてこのようなサンプル動画
5 の視聴回数がどのように扱われているかを説明する証拠の提出はなく,全体の
視聴回数のうち一定の割合を占めると考えられる無料会員によるサンプル動
画の視聴回数が表示再生数に含まれていないとは認められない。そして,サン
プル動画については,再生時間の短さやその性質等に照らせば,その配信回数
に対し原告主張の金額を乗じた額の損害が発生するとは直ちには認められな
10 い。
そこで,本件動画1について,本件動画1の表示再生数,表示再生数に関す
る上記に述べた事情,上記 ウの事情その他本件に現れた諸事情を考慮し,著
作権者に生じた損害額を30万円とするのが相当である。
また,本件動画2について,本件動画2の表示再生数,表示再生数に関する
15 上記に述べた事情,上記 ウの事情その他本件に現れた諸事情を考慮し,著作
権者に生じた損害額を5万円とするのが相当である。
本件に現れた諸事情に照らし,本件における弁護士費用相当額の損害額は5
万円とするのが相当である。
5 争点 (消滅時効の成否)について
20 不法行為による損害賠償請求は,「損害及び加害者を知った時」から消滅時効
が進行するが(民法724条前段)「損害及び加害者を知った時」とは,被害者

等において,加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に,そ
れが可能な程度に損害及び加害者を知った時を意味するものと解される(最高裁
判所昭和48年11月16日判決民集27巻10号1374頁)。株式会社CA
25 は,平成26年7月7日,FC2から本件発信者,すなわち被告の登録時の氏名
及び住所等の情報の開示を受けたと認められ(甲5の2の1,甲5の3) 同日,

FC2からの情報開示によって損害賠償請求が事実上可能な程度に被告の情報
を知ったといえる。
そして,加害者を知った時である平成26年7月7日から3年以内である平成
29年4月26日に本件訴訟は提起されているから
5 賠償請求権の消滅時効は完成していないというべきである。
したがって,被告の消滅時効の主張は理由がない。
6 結論
よって,原告は,被告に対し,民法709条及び著作権法114条3項に基づ
き,40万円及びこれに対する不法行為の日の後の日である平成29年5月3日
10 (訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払
を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄
却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
15 裁判長裁判官 柴 田 義 明
裁判官 林 雅 子
裁判官 大 下 良 仁
別紙
著作物目録
1 本件著作物1
5 作品タイトル
『ギリギリモザイク 蒼井そら はげましセックス』
品番
oned201
DMM.com上のURL
10 (省略)
収録時間
約120分
2 本件著作物2
15 作品タイトル
『集団痴女 12コーナー4時間』
品番
mibd033
DMM.com上のURL
20 (省略)
収録時間
約240分

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

山口晃志郎特許事務所

岐阜県各務原市つつじが丘1丁目111番地 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 コンサルティング 

知財テラス特許事務所 名古屋事務所

愛知県名古屋市中区平和一丁目15-30 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

和(なごみ)特許事務所

〒550-0005 大阪市西区西本町1-8-11 カクタスビル6F 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング