ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成28(ワ)35189 民事訴訟 特許権
| 裁判所 | 請求棄却 東京地方裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 平成30年3月8日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 被告株式会社ミツバ田中浩之 原告アスモ株式会社 |
| 対象物 | モータ |
| 法令 |
特許権 特許法100条1項1回 特許法36条6項1号1回 特許法79条1回 特許法29条の21回 特許法29条1項3号1回 |
| キーワード | 実施11回 特許権11回 新規性9回 分割7回 進歩性6回 侵害3回 無効3回 差止2回 刊行物1回 |
| 主文 | 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
| 事件の概要 | 本件は,発明の名称を「モータ」とする特許権を有する原告が,被告に対し,5 被告による被告製品の製造等の行為が特許権侵害に当たると主張して,特許法1 00条1項及び2項に基づく被告製品の製造等の差止め及び廃棄を求める事案 である。 |
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平成30年3月8日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成28年(ワ)第35189号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成29年12月14日
判 決
原 告 ア ス モ 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 櫻 林 正 己
同訴訟代理人弁理士 碓 氷 裕 彦
被 告 株 式 会 社 ミ ツ バ
同訴訟代理人弁護士 小 野 寺 良 文
田 中 浩 之
呂 佳 叡
岩 澤 祐 輔
同補佐人弁理士 大 塚 康 徳
江 嶋 清 仁
木 村 秀 二
鎗 田 伸 宜
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,別紙被告製品目録記載1及び2の各製品(以下,同目録記載1の製品を「被告製品1」,同目録記載2の製品を「被告製品2」といい,被告製品1及び2を「被告製品」と総称する。)の製造,販売又は譲渡の申出をしてはならない。2 被告は,被告製品1及び2を廃棄せよ。
第2 事案の概要
5 本件は,発明の名称を「モータ」とする特許権を有する原告が,被告に対し,被告による被告製品の製造等の行為が特許権侵害に当たると主張して,特許法100条1項及び2項に基づく被告製品の製造等の差止め及び廃棄を求める事案である。1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)当事者原告は,自動車,産業車両等の各種輸送機器用,その他原動機用の小型モータ,その他機器,システムの製造,販売等を業とする株式会社である。被告は,小型電気機器及び電気通信機器並びにその部品の製造,販売,修理等を業とする株式会社である。原告の特許権ア 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」といい,その特許出願の願書に添付された明細書及び図面を「本件明細書」という。)の特許権者である(甲1,2)。特許番号 第5969660号出 願 日 平成27年5月27日(特願2015-107250号)原出願日 平成21年9月10日登 録 日 平成28年7月15日イ 本件特許権の特許請求の範囲請求項1の記載は次のとおりである(以下,同請求項に記載された発明を「本件発明」という。。)「ヨークハウジングとギヤハウジングとの間に配設されたブラシホルダが,前記ヨークハウジングの開口に組み付けられブラシを保持するホルダ部材と,コネクタ部を有し前記ホルダ部材に組み付けられるベース部材とを有し,
5 前記ヨークハウジングの開口部側端部には,該ヨークハウジングに前記ギヤハウジングを固定するためのフランジ部が設けられ,前記ベース部材には,前記ヨークハウジングと前記ベース部材との間に介在され前記ヨークハウジングと前記ベース部材との間をシールするシール部材が設けられ,前記ホルダ部材には,前記ヨークハウジングの開口部側端部に対して回転軸の軸方向における反ギヤハウジング側に向かって当接する当接部が設けられ,前記シール部材が前記ヨークハウジングと前記ベース部材との間に介在された状態において,前記当接部は,隙間によって前記ベース部材から離間していることを特徴とするモータ。」ウ 本件発明は,次の構成要件に分説される(以下,それぞれの構成要件を「構成要件A」などという。。)A ヨークハウジングとギヤハウジングとの間に配設されたブラシホルダが,B 前記ヨークハウジングの開口に組み付けられブラシを保持するホルダ部材と,C コネクタ部を有し前記ホルダ部材に組み付けられるベース部材とを有し,D 前記ヨークハウジングの開口部側端部には,該ヨークハウジングに前記ギヤハウジングを固定するためのフランジ部が設けられ,E 前記ベース部材には,前記ヨークハウジングと前記ベース部材との間に介在され前記ヨークハウジングと前記ベース部材との間をシールするシール部材が設けられ,F 前記ホルダ部材には,前記ヨークハウジングの開口部側端部に対して回転軸の軸方向における反ギヤハウジング側に向かって当接する当接部が
5 設けられ,G 前記シール部材が前記ヨークハウジングと前記ベース部材との間に介在された状態において,前記当接部は,隙間によって前記ベース部材から離間しているH ことを特徴とするモータ。被告の行為等被告は,被告製品を製造,販売等している。2 争点被告製品の構成要件充足性(なお,被告は,次のア,イ以外の構成要件充足性を争っていない。)ア 構成要件Cの「組み付けられ」の充足性イ 構成要件D及びFの「開口部側端部」の充足性無効理由の有無ア 特開2009-11076号公報(乙2。平成21年1月15日公開。以下「乙2文献」という。)に基づく新規性又は進歩性欠如(特許法29条1項3号,2項)イ 特開2004-187490号公報(乙3。以下「乙3文献」という。)に基づく進歩性欠如(特許法29条2項)ウ 構成要件D及びFの「開口部側端部」及び「当接部」についてのサポート要件違反(特許法36条6項1号)エ 構成要件D及びFの「開口部側端部」及び「当接部」についての明確性要件違反(特許法36条6項2号)オ 構成要件Fの「当接部」及び構成要件Gの「隙間」についてのサポート要件違反(特許法36条6項1号)カ 構成要件Fの「当接部」及び構成要件Gの「隙間」についての明確性要件違反(特許法36条6項2号)
5 キ 分割要件違反に基づく新規性欠如(特許法44条1項,29条1項3号)ク 拡大先願要件違反(特許法29条の2)先使用の抗弁の成否(特許法79条)3 争点に関する当事者の主張争点 (被告製品の構成要件充足性)についてア 構成要件Cの「組み付けられ」の充足性(原告の主張)構成要件Cの「組み付けられ」とは,ベース部材とホルダ部材が組み付けられることを意味しており,その組み付ける方法に限定はない。そして,被告製品のベース部材とホルダ部材とは,電気端子(凸端子)と電気端子部(凹端子)との嵌め合い及び係合爪と係合穴との嵌め合いにより組み付けられているから,構成要件Cを充足する。(被告の主張)構成要件Cの「組み付けられ」とは,本件明細書の記載によれば,ベース部材とホルダ部材のそれぞれが有する係合用の専用部材によって,ベース部材とホルダ部材が組み付けられていることを意味する(本件明細書の段落【0033】。これに対し,被告製品のベース部材とホルダ部材は,電気端)子(凸端子)と電気端子部(凹端子)との嵌め合いにより組み付けられるものであり,係合用の専用部材(機械的な手段)の係合によって組み付けられているものではない。そして,電気端子を電気端子部に差し込むことによって達成されるのは電気接続であり組み付けではない。また,原告が主張する被告製品の係合爪と係合穴は,ベース部材とホルダ部材の位置決めをサポートするためのガイド部材にすぎない。したがって,被告製品は構成要件Cの「組み付けられ」を充足しない。イ 構成要件D及びFの「開口部側端部」の充足性(原告の主張)
5 構成要件D及びFの「開口部側端部」は,ヨークハウジングの開口部側の端部(出力側端部)であり,出力側からみて露出する部位である(本件明細書の段落【0011】。そして,ヨークハウジングの開口部側端部に)はギヤハウジングを固定するためのフランジ部が設けられ,フランジ部にはホルダ部材に設けられた当接部を受けるための被当接部が設けられ,ホルダ部材の当接部が開口部側端部に当接して軸方向の位置決めが可能となる(本件明細書の段落【0025】。)被告製品は,ヨークハウジングの開口部側端部にギヤハウジングを固定するためのフランジ部が形成されており,フランジ部にはホルダ部材に設けられた当接部を受けるための被当接部が設けられ,ホルダ部材の当接部が開口部側端部に当接して軸方向の位置決めが可能となっている。したがって,被告製品は構成要件D及びFの「開口部側端部」を充足する。被告は,構成要件D及びFの「開口部側端部」は,専らホルダ部材の当接部の当接を受けるために形成されたホルダ部材の位置決め用の段差部等を含んではならないところ,被告製品には当該位置決め用の段差部が成型されているので,被告製品は構成要件D及びFの「開口部側端部」を充足しないと主張する。しかしながら,本件発明の課題は,ホルダ部材の位置決め用段差部をヨークハウジングの側部に形成することから生じる事項である。すなわち,ホルダ部材の位置決めをヨークハウジングの側部の段差部で行うと,開口部側端部で位置決めを行う場合と比較して開口部側端部からの距離が長くなって,設計上,交差や熱膨張の観点から不利となり,かつ製造上のばらつきやヨークハウジングとホルダ部材との軸線の不一致などの問題が生じるという課題があった。本件明細書では,ヨークハウジングの側部に形成した段差部でホルダ部材の位置決めをするのではなく,開口部側端部
5 で位置決めをするようにすれば,位置決め構造の構成が容易になり,製造の容易化等の効果をもたらすことが記載されている。本件発明の効果は,ホルダ部材の位置決め用の被当接部をヨークハウジングの側部に形成するよりも,開口部側端部に形成する方が位置決め構造の構成が容易となり,結果としてヨークハウジングの製造も容易となるというものである。したがって,本件発明は開口部側端部に位置決め用段差部を形成すること自体は排除していない。そして,被告製品のホルダ部材の位置決め用の被当接部はヨークハウジングの開口部側端部に形成されているから,被告製品の開口部側端部に位置決め用段差部が形成されているとしても,被告製品は構成要件D及びFの「開口部側端部」を充足する。(被告の主張)本件明細書によれば,本件発明の課題は,ホルダ部材の位置決め用の段差部等をヨークハウジングの側部に形成することによってヨークハウジングの構成が複雑化するということであり,本件発明は,ヨークハウジングの開口部側端部でホルダ部材の位置決めを行うことで,ヨークハウジングの側部に段差部等を設ける必要がなくなり,位置決め構造の構成が容易になり,製造の容易化等の効果をもたらすというものである。また,本件発明は,原告が平成21年9月10日にした特許出願(特願2009-209352号。以下「本件原々出願」という。)の一部を分割して平成25年9月17日にした特許出願(特願2013-191539号。以下「本件原出願」という。)の一部を更に分割して特許出願したものであるところ,本件原々出願の明細書(乙16)に記載されている課題及び効果(乙16の段落【0004】【0005】【0019】)並びに本件原出願の明細書(乙15)に記載されている課題及び効果(乙15の段落【0004】【0005】【0014】)は,上記に記載した本件発明の課題及び
5 効果と全く同じであり,分割出願では新規事項の追加が禁止されるため,本件発明が本件原々出願及び本件原出願の明細書で開示された範囲を超えた課題や効果等を有することはあり得ない。さらに,本件明細書に従来技術として記載されている乙2文献ではホルダ部材の軸方向への位置決めそれ自体の課題は解決されており,当該課題が本件発明の解決課題になることはあり得ない。このような本件発明に係る特許出願の経緯及び従来技術との比較を踏まえても,本件発明の課題及び効果は上記のとおりとなる。そして,本件発明の課題及び効果を踏まえると,ホルダ部材の位置決めのために当接部が当接する部位である「開口部側端部」とは,ヨークハウジングの構成が複雑になるものであってはならない。ヨークハウジングの成型とは別の工程で,専らホルダ部材の当接部の当接を受けるための段差部等を成型すると,ヨークハウジングの構成が複雑化してしまい,本件発明の課題が解決されず,ヨークハウジングの製造容易化という効果も発揮されないのであるから,構成要件D及びFの「開口部側端部」は,少なくとも,専らホルダ部材の当接部の当接を受けるために形成されたホルダ部材の位置決め用の段差部等を含まない。被告製品は,ホルダ部材の位置決めの精度を高めるために,製造工程数の増加やヨークハウジングの構成の複雑化は甘受して,専らホルダ部材の当接部の当接を受けるための段差部をヨークハウジングの成型とは別の工程で成型している。したがって,被告製品は構成要件D及びFの「開口部側端部」を充足しない。争点 (無効理由の有無)についてア 乙2文献に基づく新規性又は進歩性欠如(被告の主張)
5 新規性の欠如本件特許の原出願日前に公開されていた乙2文献には,モータ本体と減速機とが1つのユニットとされた減速機付き電動モータ及びその製造方法に関する発明(乙2文献の段落【0001】)が記載され,①モータヨーク,ギヤケース及びブラシユニットが配置されていること(乙2文献の段落【0023】【0028】【0036】。構成要件Aに該当),②モータヨークの開口にはブラシを備えるブラシホルダが形成されていること(乙2文献の段落【0028】【0029】【0064】。構成要件Bに該当),③コネクタ部を有しブラシホルダに組み付けられるコネクタユニットを有すること(乙2文献の段落【0035】【0041】【0048】。構成要件Cに該当),④モータヨークにはフランジ部が設けられており,フランジ部にギヤケースが固定されること(乙2文献の段落【0023】,【図1】。構成要件Dに該当),⑤コネクタユニットにはモータヨークとコネクタユニットとの間をシールするシール部材が装着されていること(乙2文献の段落【0049】。構成要件Eに該当),⑥ブラシホルダには,モータヨークの開口端から所定の深さの位置に設けられている当接面を有する段差部と,回転軸の軸方向における反ギヤケース側に向かって当接する当接部が設けられていること(乙2文献の段落【0030】 構成要件Fに該当)。 ,
⑦シール部材がモータヨークとコネクタユニットとの間に介在された状態において,ブラシホルダの当接部とコネクタユニットの間に隙間を設けられていること(乙2文献の【図1】。構成要件Gに該当),⑧以上の構成を有するモータであること(構成要件Hに該当)が開示されている(以下,乙2文献に記載された発明を「乙2発明」という。)乙2発明は本件発明の構成要件を全て備えているから,本件発明は新規性を欠く。乙2文献及び特開平10-225048号公報(以下「乙17文献」と
5 いう。)に基づく進歩性欠如本件発明が,ヨークハウジングの開口部側端部にホルダ部材と当接する当接部を設ける構成を有するものであるとすると,乙2発明ではモータヨークの側部にブラシホルダと当接する当接部が設けられている点
⑥)で本件発明(構成要件F)と相違する。上記 イの被告の主張のとおり,構成要件D及びFの「開口部側端部」は,少なくとも,専らホルダ部材の当接部の当接を受けるために形成されたホルダ部材の位置決め用の段差部等を含まないところ,本件発明のホルダ部材と当接させられるのはヨークハウジングのフランジ部以外には考えられず,構成要件D及びFの「開口部側端部」はヨークハウジングのフランジ部と実質的同意義であると考えられる。このことは本件明細書記載の課題及び効果,本件特許の出願の経過からも明らかである。本件特許の原出願日前に公開されていた乙17文献の【図3】には,ハウジングの開口端縁に対して,蓋部材の一部が当接する構成が開示されており,この当接部の一部がフランジ部に当接している構成が開示されている。乙17文献は,減速機付き小型モータに関する発明であり(乙17文献の段落【0001】,技術分野が乙2文献と共通する上,基本的な構成)においても乙2文献と共通する(乙17文献の段落【0027】【0028】【0031】【0032】【0034】。したがって,乙17文献に記載)されている,ホルダ部材の当接部をフランジ部に当接する構成を乙2発明に組み合わせることは当業者が容易に想到し得る。(原告の主張)新規性欠如について本件発明と乙2発明は,本件発明はホルダ部材の当接部がヨークハウジングの開口部側端部と当接する(構成要件F)のに対し,乙2発明はモータヨークの側部にブラシホルダと当接する当接部を設けている点で相違
5 する。したがって,本件発明は乙2発明に対して新規性を有する。乙2文献及び乙17文献に基づく進歩性欠如について乙17文献には,ホルダ部材が組み付けられるベース部材が存在せず,乙17文献の蓋部材と本件発明のブラシホルダ(ホルダ部材とベース部材)とでは基本的な構成が相違しているから,乙17文献に記載されている構成を乙2発明に組み合わせたとしても,本件発明の構成には至らない。また,乙17文献には,蓋部材の位置決め構造に関する説明が一切なく,乙2文献にも,モータヨークの側部にブラシホルダを当接させて位置決めすることの課題についての開示も示唆もない。したがって,仮に,乙17文献に蓋部材とフランジ部を当接させる構成が開示されているとしても,本件発明の課題解決のために,乙17文献の上記構成を乙2発明に組み合わせて,ヨークハウジングの開口部側端部にホルダ部材を当接させて位置決めをするように構成する動機付けがない。イ 乙3文献に基づく進歩性欠如(被告の主張)本件特許の原出願日前に公開されていた乙3文献には,ブラシホルダとコネクタ部とを一体に設けてなるモータ及びその製造方法に関する発明(乙3文献の段落【0001】)が記載され,①ヨークハウジング,ギヤハウジング及びブラシホルダが配置されていること(乙3文献の段落【0027】。構成要件Aに該当),②一対のブラシを保持するブラシ保持部があること(乙3文献の段落【0028】【0029】。構成要件Bに該当),③コネクタ部はコネクタ本体を有すること(乙3文献の段落【0027】【0032】【0034】【0036】。構成要件Cに該当),④ヨークハウジングには固定部が設けられており,固定部を貫通するネジによってヨークハウジングはギヤハウジングに固定されること(乙3文献の段落【0042】,
5 【図1】。構成要件Dに該当),⑤ブラシホルダの接続部と挟持部にはシール部材が一体に成形されていること(乙3文献の段落【0031】 図2】,【 。構成要件Eに該当),⑥ブラシホルダの挟持部はホルダ本体の側面から外側方向に張り出すように,そしてシール部材と一体に成形されており,挟持部とシール部材はヨークハウジングの開口部とギヤハウジングの開口部との間に挟持されること(乙3文献の段落【0027】【0028】【0029】【0031】 構成要件Fに該当) ⑦シール部材の近傍において,。 ,ブラシホルダとギヤハウジングとの間に隙間が設けられていること(乙3文献の【図1】。構成要件Gに該当),⑧以上の構成を有するモータであること(構成要件Hに該当)が開示されている(以下,乙3文献に記載された発明を「乙3発明」という。。)乙3発明と本件発明は,本件発明のホルダ部材の当接部がヨークハウジングの開口部側端部に当接するのに対し,乙3発明の挟持部は固定部に当接せず,挟持部の表面に成形されたシール部材が固定部と当接することになる点(上記⑥。相違点1) 本件発明のホルダ部材の当接部は隙間によっ,てベース部材から離間しているのに対し,乙3文献の文言上は,ブラシホルダとギヤハウジングとの間に隙間が設けることについて明示的な記載がない点(上記⑦。相違点2)で相違する。相違点1について,本件特許の原出願日前に公開されていた特開2002-325388号公報(以下「乙4文献」という。)は直流モータに関する発明であり(乙4文献の【0001】,) 技術分野が乙3文献と共通する。そして,乙4文献には,ヨークのフランジ部に対して回転軸の軸方向に当接する当接部をブラシホルダに設ける技術が開示されており(乙4文献の【0016】【0017】【0018】【0022】,乙4文献に記載されて)いる上記技術を乙3発明に組み合わせることは当業者が容易に想到し得る。
5 また,相違点2について,シール部材を用いて部材間をシールする場合に部材間にシール部材が密着するように,シール部材の弾性変形を許容する隙間を部材間に設けることは,機械設計において周知な技術である。(原告の主張)乙3発明と本件発明は,本件発明はシール部材がベース部材に設けられて,シール部材はヨークハウジングとベース部材との間のシールを行うのに対し,乙3発明はシール部材がブラシホルダに設けられて,シール部材はヨークハウジングとブラシホルダとの間のシールを行う点(構成要件E関係),本件発明はホルダ部材にヨークハウジングの開口部側端部に対して回転軸の軸方向における反ギヤハウジング側に向かって当接する当接部が設けられているのに対し,乙3発明では軸方向の位置決めを行う当接部は形成されていない点(構成要件F関係),本件発明はホルダ部材に設けられた当接部をベース部材から離間させる隙間を設けているのに対し,乙3発明では当接部がなく,部材間に離間も生じていない点(構成要件G関係)で相違する。また,これらの相違点によって,乙3発明では,ホルダ部材のヨークハウジングに対する回転軸の軸方向における反ギヤハウジングへの確実な位置決めはできない。乙4文献はブラシホルダをヨークと直接接合する構成であり(乙4文献の【0005】【0019】,) ブラシホルダとヨークの間にシール部材を介在させてシールを行うことはできないから,乙4文献の技術を乙3発明に組み合わせてシール部材を介在することなく直接ブラシホルダのヨークハウジングに当接させる構成にすると,ヨークハウジングとギヤハウジングとの間のシールができない。したがって,乙3発明に乙4文献を組み合わせることは,その動機付けがないだけではなく,阻害要因が存在する。また,シール部材の弾性変形を許容する隙間を設けることは周知技術であるとしても,本件発明の隙間(構成要件G)はヨークハウジングとギヤ
5 ハウジングとのシールを確保しつつ,位置決めに支障が生じることのないようにするために当接部は隙間によってベース部材から離間させるためのものであり,乙3発明に乙4文献の構成を組み合わせても,このような本件発明の構成には想到することはできない。ウ 構成要件D及びFの「開口部側端部」及び「当接部」についてのサポート要件違反(被告の主張)構成要件Dは「前記ヨークハウジングの開口部側端部には,該ヨークハウジングに前記ギヤハウジングを固定するためのフランジ部が設けられ」とし,他方,構成要件Fは「前記ホルダ部材には,前記ヨークハウジングの開口部側端部に対して回転軸の軸方向における反ギヤハウジング側に向かって当接する当接部が設けられ」とするから,構成要件Fは,ホルダ部材の当接部が「フランジ部」以外の「開口部側端部」に当接する構成を包含している。しかしながら,本件明細書には,ホルダ部材の当接部がフランジ部に当接することしか開示されておらず,かつ,フランジ部以外の部位に当接することを否定ないし除外する記載も存在するから(本件明細書の段落【0025】【0037】【0038】【0039】【0053】~【0057】,ホルダ部)材の当接部が「フランジ部」以外の「開口部側端部」に当接する構成は,本件明細書でサポートされておらず,本件発明はサポート要件に違反している。(原告の主張)ヨークハウジングの「開口部側端部」とは,ヨークハウジングの開口部側の端部のことであり,これはヨークハウジングの出力側の端部でもある(本件明細書の段落【0011】【0039】。そして,ヨークハウジングの開口)部側の端部にはフランジ部が形成される(本件明細書の段落【0011】。)このように,ヨークハウジングの開口部側端部は部位を示す概念である。ヨークハウジングの開口部側の端部の部位であれば,フランジ部以外でもヨー
5 クハウジングの開口部側端部に含まれるが,フランジ部と開口部側端部は一致することまでは必要ではなく,開口部側の端部であれば,フランジ部以外でもヨークハウジングの開口部側端部に含まれる。換言すれば,出力側から見て露出する部位がヨークハウジングの開口部側端部である。本件明細書の【図2】で示す実施例では,当接部がヨークハウジングの開口部側端部に当接する例として,まず,当接部がフランジ部に当接する例を詳細に説明している(本件明細書の段落【0037】。そして,本件明細書)は,当接部の形状や個数や設ける位置等は構成に応じて適宜変更してもよいと説明しており(本件明細書の段落【0048】,当接部をヨークハウジン)グの開口部側端部に含まれる部位の中で他の部位に変更することも説明している。このように,本件明細書では,ヨークハウジングの開口部側端部の例としてフランジ部を示した上で,他の部位に変更することも説明しており,ホルダ部材の当接部がフランジ部以外の開口部側端部に当接する構成もサポート要件を満たしている。エ 構成要件D及びFの「開口部側端部」及び「当接部」についての明確性要件違反(被告の主張)「開口部側端部」の意義は本件明細書には記載されておらず,いかなる部位であるかが不明確であること,特に構成要件Fは当接部がフランジ部以外の開口部側端部に当接する構成を包含しているが,フランジ部以外のどの部分に「当接部」が当接するのか不明確であることから,本件発明は明確性要件に違反している。(原告の主張)「開口部側端部」は,ヨークハウジングの側部との対比で用いられ,ヨークハウジングの側部を除外するものである。そして,ヨークハウジングの開
5 口部側端部は,ヨークハウジングの開口側の端部で出力側から見て露出する部位であり,「開口部側端部」の意義は不明確ではない。また,「当接部」は,「ホルダ部材」に設けられているものであることが明確であり,かつ,「ヨークハウジングの開口部側端部に対して回転軸の軸方向における反ギヤハウジング側に向かって当接する」ことも一義的に明確であり,不明確なところはない。オ 構成要件Fの「当接部」及び構成要件Gの「隙間」についてのサポート要件違反(被告の主張)本件明細書には,当接部が開口部側端部に当接した状態を維持する構成として被挟持部を備えた構成のみが開示されているにもかかわらず(本件明細書の段落【0037】,本件明細書の請求項1には被挟持部に相当する構成)が規定されておらず,ホルダ部材が挟持されない構成も含まれている。ホルダ部材が挟持されていない構成は本件明細書でサポートされておらず,本件発明はサポート要件に違反している。(原告の主張)本件発明では,ブラシを保持するホルダ部材がヨークハウジングの開口に組み付けられ(構成要件B),ホルダ部材の当接部がヨークハウジングの開口部側端部にアタッチメントされて,当接される状態が維持されることを前提としている。本件明細書に記載された被挟持部を備えた構成(本件明細書の段落【0037】 は当接状態を維持する上での一実施例であり,) この一実施例が特許請求の範囲に記載されていないからといって,本件発明がサポート要件に反することはない。本件明細書では,ホルダ部材をヨークハウジング側に押し込むことで押し込まれた状態が維持できると説明しているのであるから(本件明細書の【0011】【0012】【0020】,本件発明は実施例を挙げて説明されてお)
5 り,サポート要件を満たしている。カ 構成要件Fの「当接部」及び構成要件Gの「隙間」についての明確性要件違反(被告の主張)本件発明において,ヨークハウジングとギヤハウジングとの間に設けられたブラシホルダはホルダ部材とベース部材の二部材からなる構成とされている(構成要件A~C) そして,。 本件明細書にはホルダ部材とベース部材との間のアタッチメントについては記載がないにもかかわらず,ホルダ部材とベース部材との間には当接部において「隙間」があると規定しており,当接状態が維持される構成は不明確であることから,本件発明は明確性要件に違反している。(原告の主張)本件発明では,ブラシを保持するホルダ部材がヨークハウジングの開口に組み付けられ(構成要件B),ホルダ部材の当接部がヨークハウジングの開口部側端部にアタッチメントされて,当接される状態が維持されることを前提としている。しかしながら,当接される状態を維持するための構成をどのようにするかは,当業者において適宜設計し,対応すれば足りる事項であり,本件発明において,構成上限定しなければならないものではなく,本件発明は明確性要件に違反しない。キ 分割要件違反に基づく新規性欠如(被告の主張)上記ウの被告の主張のとおり,構成要件Fは,ホルダ部材の当接部がフランジ部以外の開口部側端部に当接する構成を包含しているが,このような構成は本件原出願の明細書に開示されていない事項が含まれている。本件出願は分割要件に違反するものであるから,出願の遡及が認められない。そして,本件発明は,本件出願の出願前に頒布された刊行物であり,本件原出願の公
5 開公報である特開2013-252055号公報(公開日は平成25年12月12日。乙15)により,新規性が否定される。(原告の主張)開口部側端部のうちフランジ部以外の部位に当接部が当接することは,本件明細書に記載があり(本件明細書の段落【0011】【0039】,このよ)うな本件明細書の記載は本件原々出願の明細書及び本件原出願の明細書に記載されている。そして,本件原々出願の明細書及び本件原出願の明細書には,当接部の当接部位はヨークハウジングの開口部側端部のうちフランジ部以外の部位にしてはらないとの記載はなく,当接部位の形状や個数や設置位置等は構成に応じて適宜変更してよいと説明しており(本件原々出願の明細書の段落【0061】及び本件原出願の明細書の段落【0056】,フラン)ジ部以外であってもヨークハウジングの開口部側端部であれば当接は可能であることが開示されている。本特特許に係る分割出願は本件原出願の明細書の記載の範囲内で,当接部の当接部位をヨークハウジングの開口部側端部に特定したものであり,新規事項の追加はない。ク 拡大先願要件違反(被告の主張)被告は,本件原々出願の出願日(平成21年9月10日)より前の平成20年12月25日に特願2008-331165号(以下「本件被告先願」という。 を出願した。) 被告製品は本件被告先願の実施品であり,本件被告先願の明細書(乙18。以下「乙18文献」といい,そこに記載された発明を「乙18発明」という。)には被告製品と同一の構成が開示されている。仮に,被告製品が本件特許の技術的範囲に含まれるのであれば,被告製品と同一の構成からなる乙18発明と本件発明は同一の発明であり,本件発明に係る特許権は,特許法29条の2の規定に反するものであり,無効である。また,仮に乙18文献に構成要件Gの「隙間」に関する記載が明示的に開
5 示されていないとしても,シール部材が挟持される二部材の間に隙間を設けることは技術常識であり,構成要件Gによって奏される新たな作用効果もないから,本件発明と乙18発明とは実質的に同一である。(原告の主張)本件発明は,ブラシホルダのホルダ部材に設けられた当接部とブラシホルダのベース部材との間に隙間があり,接触しないように構成することにより(構成要件G) ホルダ部材の軸方向の位置決めを容易にしている。, 他方,乙18発明は,ヨーク,ブラシホルダ,コネクタユニットの位置決めの精度を高めたことを発明の効果とするもので,ブラシホルダと挟持部は「接触して」配置され,また,ぴったりと当接することにより「軸方向の位置決め」がされている。このように,本件発明は,ホルダ部材とベース部材との間に隙間を設けることが組み付けを容易にする上で重要であるのに対し,乙18発明は,ブラシホルダにコネクタユニットの挟持部を隙間なくぴったりと当接させることがコネクタユニットの軸方向の位置決めにおいて重要とされており,両者は技術思想及び構成が異なって同一の発明とはいえない。先使用の抗弁の成否(被告の主張)被告は,平成18年に次期パワーウインドウモータの開発を開始し,平成20年10月には,パワーウインドウモータの試作品(以下「被告先使用品1」という。 を完成させ,) 平成21年3月には取引先の評価試験等を受け,これが自動車メーカーの要求仕様を充たすことが確認された。さらに,被告は,被告先使用品1の改良を進め,平成21年6月に,パワーウインドウモータの試作品(以下「被告先使用品2」という) を完成させ,。 同年7月から8月にかけて,取引先の評価試験等を受け,これが自動車メーカーの要求仕様を充たすことが確認された。その後も被告は被告先使用品2の正式採用に向けた準備を進め,
5 平成23年11月には被告製品がホンダアコード用に正式に採用されることが決定され,平成24年6月には被告製品の量産が開始された。被告は,本件原々出願の出願日(平成21年9月10日)より前に,本件発明の内容を知らないで自ら被告先使用品1及び2を完成させ,その実施の準備を行っており,被告製品は被告先行製品1及び2と同一の発明の範囲内のものであるから,被告は本件特許権に対して先使用権を有し,被告が被告製品の製造,販売等をする行為は本件特許権を侵害しない。(原告の主張)被告の主張は,被告が,本件原々出願の出願日(平成21年9月10日)時点において,試作品である被告先使用品1及び2を完成させ,これらの試作品について取引先の評価試験等を受けたというものにすぎず,本件原々出願の出願日において,被告製品の量産体制の計画準備等は行われておらず,被告製品は設計すらされていなかった。被告先使用品1及び2は試作品にすぎないところ,試作品と量産品とでは型を始め製造工程が全く異なるのであるから,試作品を少量製作したところで,量産品の実施の準備がされていたとはいえない。加えて,被告先使用品1,被告先使用品2と被告製品ではモータの極数(モータに使用される磁石の数)が異なっている。モータの設計にとって極数は極めて重要な要素であり,極数を変更すれば,モータの設計は全面的に変更となり,試作や試験等の作業を初めからやり直す必要がある。したがって,被告は,本件原々出願の出願日時点おいて,「事業の準備」(特許法79条)を行っていたとはいえない。
第3 当裁判所の判断
1 本件発明の技術的意義
本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明欄には,次の記載がある。ア 発明の属する技術分野「本発明は,減速部を一体に備えたモータに関するものである。 段落」( 【0
5 001】)
イ 背景技術「従来,モータでは,モータ本体側のハウジング(ヨークハウジング)と減速部側のハウジング(ギヤハウジング)との間にブラシホルダが配設されており,このようなモータにおいて,ブラシホルダが,ブラシを保持するホルダ部材と,コネクタ部を有しホルダ部材に組み付けられたベース部材とから構成されたモータが知られている(例えば,特許文献1参照)」。(段落【0002】。判決注:特許文献1は,「特開2009-11076号公報」であり(段落【0003】,乙2文献である。) )ウ 発明が解決しようとする課題「本発明の目的は,ホルダ部材の当接部をヨークハウジングの開口部側端部に対して回転軸の軸方向における反ギヤハウジング側に向かって当接させることで,ホルダ部材のヨークハウジングに対する回転軸の軸方向における反ギヤハウジング側への位置決めを可能にするモータを提供することにある。(段落【0004】」 )エ 課題を解決するための手段「上記課題を解決するモータは,ヨークハウジングとギヤハウジングとの間に配設されたブラシホルダが,前記ヨークハウジングの開口に組み付けられブラシを保持するホルダ部材と,コネクタ部を有し前記ホルダ部材に組み付けられるベース部材とを有し,前記ヨークハウジングの開口部側端部には,該ヨークハウジングに前記ギヤハウジングを固定するためのフランジ部が設けられ,前記ベース部材には,前記ヨークハウジングと前記ベース部材との間に介在され前記ヨークハウジングと前記ベース部材との間をシールするシール部材が設けられ,前記ホルダ部材には,前記ヨークハウジングの開口部側端部に対して回転軸の軸方向における反ギヤハウジング側に向かって当接する当接部が設けられ,前記シール部材が前記ヨークハウジングと前
5 記ベース部材との間に介在された状態において,前記当接部は,隙間によっ
て前記ベース部材から離間している。(段落【0005】」 )オ 発明の効果「本発明によれば,ホルダ部材の当接部をヨークハウジングの開口部側端部に対して回転軸の軸方向における反ギヤハウジング側に向かって当接させることで,ホルダ部材のヨークハウジングに対する回転軸の軸方向における反ギヤハウジング側への位置決めが可能となる。(段落【0006】」 )カ 発明を実施するための形態「ヨークハウジング4の開口部4c側の端部(出力側端部)には,前記湾曲面4bから径方向外側(図1中,左右方向側)に延びる一対のフランジ部4dが形成されている。そして,ヨークハウジング4の開口部4cには,ブラシホルダ8が固定されている。(段落【0011】」 )「また,ホルダ部材31には,軸直交方向(ホルダ部材31の長手方向)に延出された一対の当接部34が形成されている。図2に示すように,当接部34は,ホルダ部材31の長手方向両端面(湾曲面)の下端部(ギヤハウジング21側端部)からそれぞれ軸直交方向に延出され,各当接部34はヨークハウジング4のフランジ部4dと軸方向に当接している。これにより,ホルダ部材31は,ヨークハウジング4に対して軸方向に位置決めされている。(段落【0025】」 )「尚,ヨークハウジング4とギヤハウジング21とを組み付けた状態では,係合爪33の爪部33aがベース部42の段差部42cから離間するようになっており,また,当接部34を含むホルダ部材31とベース側フランジ部42aとの軸方向の間に隙間Dが存在するように構成されている(図2参照)。即ち,ホルダ部材31の当接部34は,収容凹部46内においてベース側フランジ部42aと非接触となるように構成されている。また,上記のホルダ部材31は,当接部34におけるヨークハウジング4のフランジ部4
5 dとの当接面を基準として寸法等の設定がなされる。このため,従来技術の
ようにヨークハウジング4に段差等の位置決め構造を形成する必要がなくなり,その結果,容易に且つ低コストでホルダ部材31の軸方向の位置決め構造を構成することが可能となっている。(段落【0038】」 )「次に,本実施形態の特徴的な作用効果を記載する。
(1)本実施形態では,ヨークハウジング4とギヤハウジング21との間
に配設されたブラシホルダ8が,ヨークハウジング4の開口部4cに組み付けられブラシ9を保持するホルダ部材31と,コネクタ部8cを有しホルダ部材31に組み付けられるベース部材41とを有し,ヨークハウジング4の出力側端部(軸方向における開口部4c側の端部)には,該ヨークハウジング4にギヤハウジング21を固定するためのフランジ部4dが設けられ,ホルダ部材31には,ヨークハウジング4のフランジ部4dに対して回転軸10の軸方向に当接する当接部34が設けられる。従って,ホルダ部材31の当接部34がヨークハウジング4のフランジ部4dに当接することで,ホルダ部材31がヨークハウジング4に対して回転軸10の軸方向に位置決めされるため,ヨークハウジング4の内部にホルダ部材31の位置決め用の段差部等を設ける必要がなくなり,その結果,ホルダ部材31をヨークハウジング4に対して位置決め可能な構成としつつも,ヨークハウジング4を容易に製造することが可能となる。(段落【0039】」 )「(2)本実施形態では,ホルダ部材31は,回転軸10の軸方向及び軸直交方向においてベース部材41に対して遊嵌されるため,ホルダ部材31及びベース部材41の寸法精度を高精度とすることなく,互いの組み付けを容易にすることが可能となる。(段落【0040】」 )「ところで,従来,モータでは,モータ本体側のハウジング(ヨークハウジング)と減速部側のハウジング(ギヤハウジング)との間にブラシホルダが配設されており,このようなモータにおいて,ブラシホルダが,ブラシを
5 保持するホルダ部材と,コネクタ部を有しホルダ部材に組み付けられたベー
ス部材とから構成されたモータが知られている(例えば,特許文献1参照)。このようなモータでは,ブラシホルダをヨークハウジングに組み付ける際,ヨーク内部に収容されるホルダ部材をヨークハウジングに対しどのようにして軸方向の位置決めを行うかが課題である。例えば特許文献1のモータでは,ヨークハウジングの側部に位置決め用の段差部を形成し,その段差部にホルダ部材を軸方向に当接させるとともに,その反対側でベース部材と軸方向に当接させることで,ホルダ部材が軸方向に位置決めされるようになっている。(段落【0053】」 )「しかしながら,上記のようなモータにおいて,ヨークハウジングの側部に形成されたホルダ部材の位置決め用の段差部は,ヨークハウジングの側部の構成を複雑にするものであった。(段落【0054】」 )「以下の構成は,上記課題を解決するためになされたものであって,その目的は,ホルダ部材をヨークハウジングに対して位置決め可能な構成としつつも,ヨークハウジングの側部の構成を複雑にするという課題を解決することが可能なモータを提供することにある。(段落【0055】」 )「この構成によれば,ホルダ部材の当接部がヨークハウジングのフランジ部に当接することで,ホルダ部材がヨークハウジングに対して回転軸の軸線方向に位置決めされるため,ヨークハウジングの側部にホルダ部材の位置決め用の段差部等を設ける必要がなくなる。そのため,ホルダ部材をヨークハウジングに対して位置決め可能な構成としつつも,ヨークハウジングの側部の構成を複雑にするという課題を解決することが可能となる。(段落【00」57】)上記 の本件明細書の記載によれば,先行文献である乙2文献に開示されたモータのようにヨークハウジングの側部にホルダ部材の位置決め用の段差部等を設けると,ヨークハウジングの構成が複雑化するという課題があった。そ
5 こで,本件発明は,ホルダ部材の当接部をヨークハウジングの開口部側端部に
対し,回転軸の軸方向における反ギヤハウジング側に向かって当接させて,ホルダ部材のヨークハウジングに対する回転軸の軸方向における反ギヤハウジング側への位置決めを行うこととした。本件発明は,このことによって,ヨークハウジングの側部に段差部等を設ける必要がなくなり,位置決め構造の構成が容易になり,ヨークハウジングの製造の容易化等の効果をもたらすという点に技術的意義があると認められる。
2 争点 -ア(構成要件Cの「組み付けられ」の充足性)について
被告製品のベース部とホルダ部材とは,電気端子(凸端子)と電気端子部(凹端子)との嵌め合いによって組み付けられることは当事者間で争いがない。構成要件Cは,ホルダ部材とベース部材が「組み付けられ」るという構成であるところ,本件明細書において,その組み付ける方法について特に限定する趣旨の記載はないし,また,組み付ける方法に関する技術的な意義等についての記載はない。本件明細書にはホルダ部材とベース部材が係合孔及び係合爪によって組み付けられる構成も示されているが(段落【0033】【図6】等), ,一実施形態として説明されているものである。上記1の本件発明の技術的意義に照らしても,本件発明のホルダ部材とベース部材は何らかの方法によって組み付けられていれば足り,特定の方法に限定されないというべきである。したがって,電気端子(凸端子)と電気端子部(凹端子)との嵌め合いによってベース部とホルダ部材が組み付けられる被告製品は構成要件Cを充足すると認められ,これと異なる
(被告の主張)
は採用することができない。
3 争点 -イ(構成要件D及びFの「開口部側端部」の充足性)について
本件発明の技術的意義は上記1のとおりであり,本件発明は,ヨークハウジングの開口部側端部でホルダ部材の位置決めを行うということによって,ヨークハウジングの側部に段差部等を設ける必要がなくなり,位置決め構造の構成が容易になり,ヨークハウジングの製造の容易化等の効果をもたらすという点
5 に技術的意義があるものである。
このような本件発明の技術的意義からすると,構成要件Fにおけるホルダ部材の当接部と当接するヨークハウジングの「開口部側端部」とは,ホルダ部材の当接部が当接する部分であって,ヨークハウジングを成型する際に形成されたヨークハウジングの開口部側の部分であり,少なくとも,ホルダ部材の当接部の当接を受けてホルダ部材の位置決めをするためにヨークハウジングの成型とは別の工程で設けられた段差部を含まないと解するのが相当である。なぜなら,ヨークハウジングの成型とは別の工程でホルダ部材の位置決めのため段差部を設けると,単にヨークハウジングを成型する場合と比べて位置決め構造の構成と製造が複雑化するため,位置決め構造の構成の容易化と製造の容易化という本件発明の効果を奏さなくなるのであり,本件発明は,少なくとも,ホルダ部材の当接部の当接を受けてホルダ部材の位置決めをするためにヨークハウジングの成型とは別の工程でヨークハウジングに段差部を設けることを排除していると解されるからである。本件明細書を見ても,「開口部側端部」に該当するとものとして,ヨークハウジングを成型する際に形成されたといえるヨークハウジングのフランジ部が挙げられていて(段落【0025】【0038】【0039】【0057】,ホルダ部材の当接部の当接を受け)てホルダ部材の位置決めをするためにヨークハウジングの成型とは別の工程で成型された段差部が「開口部側端部」となることの記載はないし,また,このような段差部が「開口部側端部」となり得ることを示唆する記載もない。これに対し,原告は,本件発明の課題は,ホルダ部材の位置決めをヨークハウジングの側部の段差部で行うと,開口部側端部で位置決めを行う場合と比較して開口部側端部からの距離が長くなって,設計上,交差や熱膨張の観点から不利となること等を背景とする課題であり,本件発明は,ホルダ部材の位置決め用の被当接部はヨークハウジングの側部に形成するよりも,開口部側端部に形成する方が位置決め構造の構成が容易となり,結果としてヨークハウジング
5 の製造も容易となる効果を有しており,被告製品はかかる効果を奏していると
主張する。しかしながら,原告が主張する,ホルダ部材の位置決めをヨークハウジングの側部の段差部で行うことにより発生する課題(ホルダ部材の位置決めをヨークハウジングの側部の段差部で行うと,開口部側端部で位置決めを行う場合と比較して開口部側端部からの距離が長くなって,設計上,交差や熱膨張の観点から不利となること等)は本件明細書に記載されておらず,また,このような課題があることを認めるに足りる証拠はない。
(原告の主張)
は採用することができない。被告製品についてみると,被告製品のホルダ部材はヨークハウジングに組み付けられた状態で,ホルダ部材の当接部の当接端面がヨークハウジングのフランジ部先端より約0.9mm内側(ヨークハウジングの奥へ向かう方向側)に位置し,ヨークハウジングの被当接部の当接端面もフランジ部先端より約0.9mm内側(ヨークハウジングの奥へ向かう方向側)に位置していることが認められる(弁論の全趣旨)。このように,ホルダ部材の当接部の当接端面は,ヨークハウジングに約0.9mm内側に挿入されて当接し位置決めされるものであるから,上記のヨークハウジングの被当接部の形状は,ホルダ部材の位置決めのための段差部であると認められる。そして,このヨークハウジングの段差部は,ホルダ部材の当接部の当接を受けてホルダ部材の位置決めをするため,ヨークハウジングの成型とは別の工程で成型されたものであると認められる(弁論の全趣旨)。そうすると,被告製品では,ヨークハウジングを成型する際に形成された部分をホルダ部材の当接部の当接を受けてホルダ部材の位置決めをするために利用せず,ヨークハウジングの成型とは別の工程によって設けられた段差部が,ホルダ部材の当接部が当接する被当接部となり,ホルダ部材の位置決
5 めをしている。このようにホルダ部材の当接部の当接を受けてホルダ部材の
位置決めをするためにヨークハウジングの成型とは別の工程によって設けられた段差部は,上記に述べたところに照らし,構成要件D及びFの「開口部側端部」とはいえない。したがって,被告製品は構成要件D及びFを充足せず,被告製品は本件発明の技術的範囲に属しない。
4 結論
よって,その余の点について検討するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第46部裁判長裁判官 柴 田 義 明裁判官 林 雅 子裁判官 大 下 良 仁(別紙)被 告 製 品 目 録
1 パワーウインドウレギュレータ(カーメーカーの品番 83401-81M0
5 1)に組み付けられた,パワーウインド装置の駆動用モータ(レギュレータメーカ
ーのシロキ工業株式会社の品番 201601-0463)
2 パワーウインドウレギュレータ(カーメーカーの品番 72210-T4G-0
03)に組み付けられた,パワーウインド装置の駆動用モータ(レギュレータメーカーの株式会社ハイレックスコーポレーションの品番 CM012670A)以 上
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