ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成28(ワ)30183 不正競争行為差止等請求事件
| 裁判所 | 請求棄却 東京地方裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 平成30年5月11日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 法令 |
不正競争 民法709条2回 著作権法21条1回 |
| キーワード | 侵害8回 許諾5回 実施5回 損害賠償3回 差止2回 |
| 主文 | 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。15 |
| 事件の概要 | 1 本件は,中学校受験のための学習塾等を運営する原告が,同様に学習塾を経25 営する被告に対し,被告がそのホームページやインターネット上で配信してい る動画等に別紙原告商品等表示目録記載の表示(以下「原告表示」という。) と類似する表示を付する行為は,需要者の間に広く認識された原告の商品等表 示を使用して需要者に混同を生じさせるものであって,不正競争防止法(以下 「不競法」という。)2条1項1号に該当するとして,同法3条1項に基づき 「SAPIX」又は「サピックス」の文字を含む表示の使用の差止めを求める5 とともに,同法4条に基づき合計6300万円の損害賠償金及びこれに対する 不法行為の後の日である平成28年9月14日(本訴状送達の日の翌日)から 支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案で ある。 また,原告は,被告に対し,予備的に,原告の作成したテスト問題を被告が10 不正に使用する行為は一般不法行為を構成するとして,民法709条に基づき, 損害賠償金として4348万円の支払を求めている。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実又は文中に掲記した証拠及び弁論の全 |
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平成30年5月11日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成28年(ワ)第30183号 不正競争行為差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成30年3月9日
判 決
原 告 株式会社日本入試センター
同訴訟代理人弁護士 中 森 峻 治
西 田 育 代 司
今 村 昭 文
牧 山 美 香
被 告 株式会社受験ドクター
同訴訟代理人弁護士 大 熊 裕 司
島 川 知 子
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,原告に対し,6300万円及びこれに対する平成28年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。2 被告は,その営業上の施設又は活動並びにホームページ上に「SAPIX」又は「サピックス」の文字を含む表示を使用してはならない。3 訴訟費用は被告の負担とする。4 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 本件は,中学校受験のための学習塾等を運営する原告が,同様に学習塾を経営する被告に対し,被告がそのホームページやインターネット上で配信している動画等に別紙原告商品等表示目録記載の表示(以下「原告表示」という。)と類似する表示を付する行為は,需要者の間に広く認識された原告の商品等表示を使用して需要者に混同を生じさせるものであって,不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号に該当するとして,同法3条1項に基づき
5 「SAPIX」又は「サピックス」の文字を含む表示の使用の差止めを求めるとともに,同法4条に基づき合計6300万円の損害賠償金及びこれに対する不法行為の後の日である平成28年9月14日(本訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。また,原告は,被告に対し,予備的に,原告の作成したテスト問題を被告が不正に使用する行為は一般不法行為を構成するとして,民法709条に基づき,損害賠償金として4348万円の支払を求めている。2 前提事実(当事者間に争いのない事実又は文中に掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実)
(1) 当事者ア 原告は,学校法人高宮学園代々木ゼミナールグループの一員であり,中学校受験のためのSAPIX(サピックス)小学部等を運営する株式会社である。イ 被告は,中学校受験のための学習塾を経営する株式会社である。
(2) 原告による原告表示の使用について原告表示は,原告の営業又は商品を表示する原告の商品等表示である。原告は,原告の標章や略称として原告表示を使用しており,原告のホームページ,校舎,教室,雑誌の広告,パンフレット,出版物,テスト問題等に付して使用している。
(3) 被告の行為被告はそのホームページ(甲4)において,
①「SAPIX8月マンスリー」
②「SAPIX生のための復習用教材」
③「SAPIX今週の戦略ポイント Daily Support」との表示をしている。
5 また,被告はインターネット上に配信した動画において,
④「サピックスマンスリーテストLIVE速報解説」(甲5)
⑤「サピックス7月度組分けテスト(5年)」(甲65)
⑥「サピックス9月度マンスリーテスト(6年生)」(甲66)
⑦「サピックス9月度マンスリーテスト(5年生)」(甲67)
⑧「サピックス10月度マンスリーテスト(5年生)」(甲68)
⑨「サピックス10月度マンスリーテスト(6年生)」(甲69)
⑩「合格力判定サピックスオープン(第2回)」(甲70)との表示をしている。(以下,上記①から⑩の表示を番号順に「本件表示1」「本件表示2」などといい,本件表示1から10を併せて「本件各表示」という。)。3 争点
(1) 不競法違反の成否(主位的請求原因)
(2) 一般不法行為の成否(予備的請求原因)
(3) 損害の有無及びその額
第3 当事者の主張
1 争点(1)(不競法違反の成否)について
〔
(原告の主張)
〕
(1) 原告表示の周知性について
原告表示は,平成10年頃には,本店のある東京都や神奈川,千葉,埼玉等の首都圏だけではなく,関西圏の大阪,兵庫において,中学受験生及びその保護者の間で原告の営業又は商品を表示するものとして周知となっていた。このことは,①原告は,毎年,様々な宣伝媒体を用いて多額の広告宣伝費(例えば,平成28年度には3億4000万円余)をかけて広報を行っていること,②原告のホームページへのアクセス数は受験期の前後を含めた3か月間(毎年1月から3月)に90万件から100万件に上ること,③原告
5 の経営する学習塾(以下「原告学習塾」という。)の有名私立中学への合格
実績は平成29年も引き続き首位であり,同塾の在籍者数は5000名を超えることなどから明らかである。
(2) 商品等表示の「使用」の有無について
被告は,そのホームページ等において本件各表示をしていることは,不競法2条1項1号の「使用」に当たらないと主張するが,自他識別力のある使用かどうかは独立の要件ではなく,営業主体の混同のおそれの有無の判断において考慮されれば足りる。後記(3)のとおり,本件各表示は営業主体を誤認させるおそれのあるものである。
(3) 商品等表示の類否及び誤認混同のおそれについて
ア 本件各表示は,不可分一体なものではなく,その要部は,「SAPIX」又は「サピックス」である。原告表示と本件各表示を対比すると,その外観及び称呼において類似し,「SAPIX」又は「サピックス」は造語であり,原告学習塾以外の観念は生じない。このため,原告表示と本件各表示は,外観,称呼,観念において類似する。イ 被告は,原告が作成した教材並びにマンスリーテスト,組分けテストのための問題の解説を行っているが,①原告と被告の営業内容は類似していること,②被告の通塾生の約半数は原告学習塾の生徒であること,③原告の作成した問題,教材等は原告又は原告から使用許諾を受けている系列会社しか入手できない情報であることなどの営業実態に照らしても,需要者である中学校の受験生及びその保護者は,その主体が原告又は原告の子会社,系列企業等であると誤認混同するおそれがある。実際のところ,原告学習塾の生徒の保護者又は同塾への入塾を検討している保護者から,被告は原告の系列会社ではないかとの電話による問合せや,被告の営業方法を非難し,対応を求める匿名の手紙も来ている。ウ 営業主体を誤認混同させるおそれについて,本件各表示に即して具体的
5 に説明すると,次のとおりである。
(ア) 本件表示1について被告のホームページには,「ライブ速報」,「できたの?できなかったの?」,「気になる結果を生中継」,「6年 8/27(土)21:00~21:45,5年 8/28(日)20:00~20:45」等と記載されている(甲4の1枚目左側)。これらの記載を見た原告学習塾の生徒やその保護者は,同塾の8月マンスリーテストのライブ解説が行われると理解するのが一般的である。同解説は,テスト実施日の当日,しかもテスト終了から程なく配信されるから,上記記載に接した保護者等は,原告,原告の系列会社又は同解説の配信について原告から使用許諾を受けた会社が配信していると誤認混同するおそれがある。(イ) 本件表示2について被告のホームページには「SAPIX生のための復習用教材」と記載され,更にその下には「9月10月11月算数B国語ABテキスト対応」と記載されている(甲4の1枚目中央)。これらの記載に接した原告学習塾の生徒やその保護者は,同塾で使用されている教材の復習用教材が販売されていると理解するのが一般的である。そして,同保護者等は,原告学習塾で使用されている教材は非売品であり,同塾の生徒以外の第三者がこれらの教材を入手できないことを知っているから,復習用教材を作成したのは原告学習塾の教職員であり,原告により販売されていると誤認混同するおそれがある。(ウ) 本件表示3について被告のホームページには,「SAPIX『デイリーサポート』の“今週の戦略ポイントです”」との記載があり,その下には,算数,国語,理科及び社会の四教科について,SAPIXの教材(Daily Support 又は Daily Sapix)の解説が掲載されている(甲4の1枚目右側中央から
5 2枚目にかけて)。これらの教材は,原告が独自のカリキュラムに基づ
いて作成し,非売品であるから,原告学習塾の生徒の保護者は,その解説を掲載しているのが原告又は原告から使用許諾を受けている会社であると誤認混同するおそれがある。(エ) 本件表示4~10について本件表示4~10は,いずれも原告が実施した各種テストのライブ速報解説であり,原告学習塾の生徒の保護者は,これらの解説を行っているのが原告又は原告から使用許諾を受けている会社であると誤認混同するおそれがある。エ 以上のとおり,原告表示と本件各表示とは類似しており,その営業の実情に照らしても,需要者は被告の行っている営業の主体が原告又はその系列会社等であると誤認混同するおそれがある。〔
(被告の主張)
〕
(1) 原告表示の周知性について
原告表示が平成10年頃までに全国の中学受験生の間で周知であったと認めるに足りる証拠はない。本件で周知性が問題となるのは原告表示であるから,原告の経営する学習塾の有名中学校への合格実績をもって,原告表示が周知であるということはできない。
(2) 商品等表示の「使用」の有無について
不競法2条1項1号の「使用」というためには,他人の商品等表示を自他識別機能又は出所識別機能を果たす態様で使用していることを要するが,被告は本件各表示をそのような態様で使用していない。例えば,被告ホームページには「SAPIX生のための」という表示があるが,この表示に接した需要者は,原告学習塾に通う生徒向けのテキスト,授業であると理解するのが通常である。また,同ホームページには,書体の異なる文字によって「中学受験ドクターのプロ講師による」との説明が付さ
5 れ,冒頭には「塾別!今週の戦略ポイント」と大きく表示されたすぐ下に「会
員限定:SAPIX・日能研・四谷早稲アカの授業の要点を毎週解説!」と表示されている。これらの表示からも,被告の経営する学習塾(以下「被告学習塾」という。)の提供する授業等の主体が被告であり,「SAPIX」又は「サピックス」との記載はサービスの性質や内容を示すものにすぎないと容易に理解し得る。
(3) 商品等表示の類否及び誤認混同のおそれについて
ア 原告表示と本件各表示とは,外観,称呼,観念のいずれにおいても類似していない。すなわち,外観において,原告表示は,青い欧文字の「SAPIX」で,「A」の部分は赤い三角形が付された特徴的な形をしている。他方,本件各表示は,全体が一体不可分のものとして認識されるところ,その内容,字体,色彩が全く異なる上,原告表示にみられる特徴的な形も有していない。次に,称呼についても,本件各表示はひとまとまりの意味を有するものとして区切ることなく称呼されるのが通常であり,この点において原告表示と類似しない。さらに,原告表示からは特定の観念は生じないが,本件各表示からはその記載内容に従った観念(例えば,「SAPIX生のための復習用教材」からは「SAPIXに通う生徒に向けた復習用教材」との観念)が生じるので,原告表示と本件各表示の観念は大きく異なる。イ 取引の実情についても,被告学習塾は,原告学習塾以外の学習塾(日能研,四谷大塚,早稲田アカデミーなど)に通う生徒に対しても,授業を提供している。一般的に,中学受験を目指す小学生及びその保護者は塾の経営主体や授業等のサービスの提供主体について非常に強い関心を有しているところ,被告学習塾の生徒及び保護者は,被告が様々な学習塾に通う生
5 徒に授業を提供していることを認識しつつ,それぞれが通う学習塾におけ
る成績向上を期待して通っている。同保護者等は,被告が原告等とは関係のない塾であることは十分に認識しており,被告が非売品である原告学習塾の問題等を使用しているとしても,被告が原告の関連会社であると誤認混同するおそれはない。また,原告は,原告学習塾の生徒の保護者からの問合せが来ているなどと主張するが,これを裏付ける客観的な証拠は提出されていない。ウ したがって,需要者が,被告の提供するサービスについて,その主体が原告又は原告の関連会社等であると誤認混同するおそれはない。
2 争点(2)(一般不法行為の成否)について
〔
(原告の主張)
〕原告の学習塾で使用されているテスト問題やその解答,解説は,原告が多額の費用と労力をかけて作成した著作物であり,いわば原告の企業秘密としてその価値は非常に大きい。しかるに,被告は,主として原告学習塾の生徒を奪う目的で,非売品である上記テスト問題等を何らかの形で入手した上で,原告に無断でその解説本を出版し,又はウェブサイト上で解説するなどしている。こうした被告の行為は,上記テスト問題等を不正に使用することにより原告の営業の自由を妨害することを目的とするものであり,自由競争の範囲を逸脱した不公正な行為に当たる(なお,原告は,上記テスト問題等の著作権侵害に基づく損害賠償を求めるものではなく,民法709条に基づき,著作権法の保護する以外の法益である営業の自由や営業上の信用等が侵害されたと主張するものである。)。〔
(被告の主張)
〕著作物の利用行為について著作権侵害が成立しない場合には,その自由な利用が許容されるべきであり,特段の事情がない限り,一般不法行為は成立しない。本件では,原告の作成したテスト問題が著作物として著作権法上の保護の
5 対象となるかどうか明らかではなく,仮に著作物であると認められるにして
も,被告は著作権法21条以下の支分権を侵害していない上,著作物の利用による利益とは異なる法的利益を被告が侵害したなどの特段の事情も認められない。したがって,原告の予備的請求は理由がない。
3 争点(3)(損害の有無及びその額)について
〔
(原告の主張)
〕
(1) 主位的請求原因
被告は,原告表示の使用により,原告学習塾の生徒のうち少なくとも500名を自らの塾生として獲得し,1名当たり月額2万円の授業料を徴収しているので,月額1000万円の売上げがある。この売上げから,固定費,一般管理費,講師等の人件費を除いた利益は月250万円を下らないので,被告が過去2年間に得た利益は合計6000万円を下らない。したがって,原告が受けた損害は,不競法5条2項により6000万円と推定される。また,原告が本件訴訟を追行するために必要な弁護士費用は300万円を下らないので,損害額の合計は6300万円となる。
(2) 予備的請求原因
被告は,原告学習塾の生徒のうち,原告の提供する個別学習指導を内容とする「プリバート」の「フォローアップコース」に加入するはずであった生徒308名(平成28年度に103名,平成29年度に205名)を違法に奪った。上記(1)のとおり,被告は,生徒1人当たり月額2万円の授業料を得ており,利益率は25%であるから,被告が得た利益額は平成28年度が618万円,平成29年度が1230万円(合計1848万円)となる。また,原告は,被告の行為により教育方針等の異なる被告と関連会社であるかのように疑われ,著しく信用を棄損されたものであり,原告が被告との間に何らの関係もないことを広く説明するための費用は首都圏のみでも25
5 00万円を下らない。
以上により,原告は,上記合計4348万円の損害を被った。〔
(被告の主張)
〕否認又は争う。
第4 当裁判所の判断
1 認定事実
(1) 原告学習塾は,日能研,四谷大塚,早稲田アカデミー,市進学院,栄光ゼミナールなどとともに,中学校受験のための大手の学習塾の一つである。被告は,これらの大手の学習塾に通う生徒のために,各塾のテストの解説のライブ配信や復習用教材の作成等を行っている。(甲46,乙2~5)
(2) 被告のホームページ(甲4)には,次のとおりの表示がある。ア ヘッダー部には,被告学習塾の名称である「中学受験ドクター」及び問合せのための電話番号が表示されている。イ メインコンテンツ部の最上部には,囲み枠が表示され,その枠中には「塾別!今週の戦略ポイント」,「会員限定:SAPIX・日能研・四谷早稲アカの授業の要点を毎週解説!」との表示がある。また,そのすぐ下に設けられた囲み枠の枠内には「9月・10月・11月版 発売開始!」,「中学受験ドクターのプロ講師による」,「新 今週の戦略ポイント」,「SAPIX生のための復習用教材」(本件表示2),「9月10月11月 算数B国語ABテキスト対応」などの表示がある。そして,メインコンテンツ欄の下部には,「詳細な一覧を見る」ためのリンク先が表示されており,リンクの貼られた「SAPIX今週の戦略ポイント Daily Support」(本件表示3)等の表示をクリックするとその内容を見ることができるようになっている。ウ 左側のサイドバーの中段に設けられたバナーには「SAPIX8月マンスリー」(本件表示1),「~ライブ速報~」,「できたの?できなかった
5 の?」などと表示されている。
(3) 被告は,①平成28年6月10日,「SAPIX6月マンスリー」と題する動画をインターネット上でライブ配信したところ,その画像の下には「サピックスマンスリーテストLIVE速報解説」(本件表示4)と表示され(甲5),②平成28年7月3日,「SAPIX7月組分けテスト5年生」と題する動画をインターネット上でライブ配信したところ,その画像の下には「サピックス7月度組分けテスト(5年)」(本件表示5)と表示され(甲65),③平成28年8月27日,「SAPIX8月マンスリー6年生」と題する動画をインターネット上でライブ配信したところ,その画像の下には「サピックス9月度マンスリーテスト(6年生)」(本件表示6)と表示され(甲66),
④平成28年8月28日,「SAPIX8月マンスリー5年生」と題する動画をインターネット上でライブ配信したところ,その画像の下には「サピックス9月度マンスリーテスト(5年生)」(本件表示7)と表示され(甲67),
⑤平成28年10月7日,「SAPIX10月マンスリー5年生」と題する動画をインターネット上でライブ配信したところ,その画像の下には「サピックス10月度マンスリーテスト(5年生)」(本件表示8)と表示され(甲68),⑥平成28年10月18日,「SAPIX10月マンスリー6年生」と題する動画をインターネット上でライブ配信したところ,その画像の下には「サピックス10月度マンスリーテスト(6年生)」(本件表示9)と表示され(甲69),⑦平成28年10月24日,「第2回合格力判定サピックスオープン6年生」と題する動画をインターネット上でライブ配信したところ,その画像の下には「合格力判定サピックスオープン(第2回)」(本件表示10)と表示されている(甲70)。そして,本件表示4~10の下には「受験ドクター株式会社」との表示がされている。(4) 被告による原告学習塾のマンスリーテスト等の解説のライブ配信は,被告
5 においてあらかじめ問題を入手した上で,問題の解説を口頭で行い,視聴者である生徒は問題をあらかじめ手元に用意した上で,その解説を聴くという形式で行われるものである。(甲9~11,18~20,74~77〔枝番のあるものはいずれも枝番を含む。〕)
2 争点(1)(不競法違反の成否)について(1) 商品等表示の「使用」の有無について原告は,不競法2条1項1号にいう「使用」の意義について,自他識別力のある使用といえるかどうかは独立の要件ではなく,営業主体の混同のおそれの有無の判断において考慮すべき要素にすぎないと主張する。しかし,同号は,人の業務に係る商品又は営業(以下「商品等」という。)の表示について,その商品等の出所を表示して自他商品等を識別する機能,その品質を保証する機能及びその顧客吸引力を保護し,事業者間の公正な競争を確保することを趣旨とするものであるから,同号にいう「使用」というためには,単に他人の周知の商品等表示と同一又は類似の表示を商品等に付しているのみならず,その表示が商品等の出所を表示し,自他商品等を識別する機能を果たす態様で用いられていることを要するというべきである。ア 本件表示1~3これを前提として,被告のホームページ上の本件表示1~3について検討するに,前記認定のとおり,被告のホームページには,そのヘッダー部に被告学習塾の名称が表示され,またメインコンテンツ部には「中学受験ドクターのプロ講師による」との記載があるのであるから,同ホームページに掲載されたサービスの提供主体が被告であることは明らかである。また,メインコンテンツ部の最上部の囲み枠に「塾別!今週の戦略ポイント」「SAPIX・日能研・四谷早稲アカの授業の要点を毎週解説!」などと記載されていることによれば,被告が原告学習塾のみならず他の大手学習塾の授業の解説を行っていることは容易に理解し得る。
5 その上で,本件表示1~3をみると,本件表示1(「SAPIX 8月マンスリー」)は,その表示がされたバナー内の他の記載と併せ考慮すると,被告の行うライブ解説の対象が原告学習塾のマンスリーテストであると理解し得るのであり,その解説の主体が原告又はその子会社等であることを表示するものではなく,またそのように誤認されるおそれがあるとは認められない。次に,本件表示2(「SAPIX生のための復習用教材」)についても,原告学習塾に通う生徒のための復習教材を被告が販売していると理解し得るのであり,その教材の販売主体が原告又はその子会社等であることを表示するものではなく,またそのように誤認されるおそれがあるとは認められない。さらに,本件表示3 「SAPIX今週の戦略ポイント Daily Support」( )についても,解説等の対象が原告学習塾の教材であることを意味するにすぎず,その教材の販売主体が原告又はその子会社等であることを表示するものではなく,またそのように誤認されるおそれがあるとは認められない。以上によれば,本件表示1~3は,いずれも,商品等の出所を表示し,自他商品等を識別する機能を果たす態様で用いられているものということはできない。イ 本件表示4~10について本件表示4~10は,前記認定のとおり,いずれも,被告が行ったインターネット上でのライブ配信の画面の下に表示されているものであるところ,これらのライブ配信の主体が被告であることは,本件表示4~10に被告の名称が表示されていることからも明らかである。本件表示4~10は,動画によって解説をされる対象である原告学習塾のテスト等であることを明らかにするものにすぎず,同配信の主体が原告又はその子会社等であることを表示するものではなく,またそのように誤認されるおそれがあ
5 るとは認められない。以上によれば,本件表示4~10は,いずれも,商品等の出所を表示し,自他商品等を識別する機能を果たす態様で用いられているものということはできない。ウ したがって,本件各表示は,いずれも,その表示が商品等の出所を表示し,自他商品等を識別する機能を果たす態様で用いられているということはできないので,不競法2条1項1号の「使用」には該当しない。(2) 誤認混同のおそれについてア 前記1(1)ないし(3)によれば,本件各表示に係る需要者は中学校受験を目指す生徒及び保護者であるものと認められるところ,上記(1)で判示するとおり,本件各表示は,いずれも,その表示が商品等の出所を表示し,自他商品等を識別する機能を果たす態様で用いられているということはできないので,同各表示に接した需要者が,被告の行っているライブ配信による問題解説や復習用教材の作成の主体が原告又は原告の子会社等であると誤認混同をするとは考え難い。また,中学校受験を目指す生徒及び保護者は,塾により教授法や合格実績が異なることから,いずれの塾を選択するかという観点から,学習塾の授業,テスト等の提供主体について強い関心を有するのが一般的である。さらに,志望校に合格するためには,大手学習塾においてより上位の組に所属し,また当該学習塾の実施するテスト等において上位の成績をとることが望ましいことから,大手学習塾の問題や教材を補習するサービスを提供する学習塾が被告のほかにも存在しており(乙9~11),保護者等もそのような学習塾が存在することを認識していたと考えられる。このような中学校受験のための学習塾の営業実態に照らしても,本件各表示に接した生徒又はその保護者は,被告の行っている問題の解説や復習用教材の作成の主体が原告又はその子会社等であると誤認混同するとは考えられない。
5 イ これに対し,原告は,①原告と被告の営業内容は類似していること,②被告学習塾の通塾生の約半数は原告学習塾の生徒であること,③原告の問題,教材等は原告又は原告から使用許諾を受けている系列会社しか入手できない情報であることなどに基づき,中学校の受験生及びその保護者は,その主体が原告又は原告の子会社等であると誤認混同するおそれがあると主張する。しかし,上記①については,中学校受験のための学習塾の経営という点で原告と被告の営業内容に共通する点があるとしても,原告が大手学習塾であるのに対し,被告は,大手学習塾の問題や教材の解説を主とする点で,そのサービスの内容については相違しており,また,前記判示のとおりの被告ホームページの表示内容及びインターネット上でのライブ配信の画面の表示によれば,その需要者が営業主体を誤認混同するとは考え難い。また,上記②については,被告が原告学習塾以外の大手学習塾の問題等の解説も行っていることは,そのホームページ上から明らかであり,被告学習塾の通塾生の約半数は原告学習塾の生徒であることをもって,被告の行っているサービスの主体が原告又は原告の子会社等であると誤認混同するおそれがあるということはできない。上記③については,原告の実施する問題や教材は原告学習塾の生徒に配布されるのであるから,需要者は,被告が原告学習塾の問題や教材の解説を求める保護者や生徒から任意の提供を受けて解説を行っていると理解するのが自然であり,これらの問題等が非売品であることから,本件各表示に接した保護者又は生徒が営業主体を誤認混同するとは考えられない。さらに,原告は,匿名の手紙(甲13)に基づき,実際に営業主体の誤認混同が生じていると主張するが,その内容は被告学習塾を原告又は原告の子会社等であると誤認混同したものではなく,同証拠をもって,そのような誤認混同が需要者の間に生じていると認めることはできない。
5 ウ 以上によれば,本件各表示に接した需要者が,被告の行っている問題解説等のサービスの主体が原告又は原告の子会社等であると誤認混同するおそれがあるということはできない。(3) したがって,不競法2条1項1号に基づく原告の請求には理由がない。
2 争点(2)(一般不法行為の成否)について原告は,本件における被告の行為は,原告の作成したテスト問題等を不正に使用することにより原告の営業の自由を妨害することを目的とするものであり,自由競争の範囲を逸脱した不公正な行為に当たるので,一般不法行為を構成すると主張する。本件においては,被告が原告の著作権を侵害したと認めるに足る証拠はないところ,著作物に係る著作権侵害が認められない場合における当該著作物の利用については,著作権法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないというべきである(最一小判平成23年12月8日民集65巻9号3275頁参照)。本件についてみるに,原告は,被告が原告作成に係る問題等を入手し,ライブ配信などの方法でその解説をするのは原告のノウハウにただ乗りするものであると主張するが,大手学習塾に通う生徒やその保護者の求めに応じ,他の学習塾が業としてその補習を行うこと,すなわち,当該大手学習塾の授業内容を理解し,又はその実施するテストの成績を向上させるため,当該大手学習塾の問題や教材を入手し,その解説等を行うとのサービスを提供することは,自由競争の範囲を逸脱するものではなく,そのような営業形態が違法ということはできない。また,原告は,被告の行為は原告の営業の自由を妨害し,原告の顧客を奪取することを目的とするものであると主張するが,被告がそのような主観的な意図を有していたことをうかがわせる証拠はない。加えて,被告が原告学習塾の生徒に提供するサービスは,原告学習塾における理解の深化や成績向上等を目的
5 としているのであるから,被告学習塾に通塾する原告学習塾の生徒は原告学習塾における学習を継続することを前提としているものと考えられる。そして,仮に被告の行為により原告のプリバード(個別指導塾)の受講者が減少したとしても,それは大手学習塾の教材や問題の補習というサービス分野における自由競争の範囲内であるというべきである。さらに,原告の作成した問題の入手方法,ライブ解説の配信方法等についても,原告の営業を妨害するような態様で行われていたと認めるに足りる証拠はない。以上によれば,本件における被告の行為については,不法行為の成立が認められるべき特段の事情は存在しないというべきである。
3 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
佐 藤 達 文
裁判官
遠 山 敦 士
署名押印できない。
裁判長裁判官
佐 藤 達 文
別紙
原告商品等表示目録以上
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