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平成29(行ケ)10159審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成30年4月11日
事件種別 民事
当事者 被告Y山本真祐子
原告X中村成美
対象物 シートカッター
法令 特許権
特許法39条2項14回
特許法167条5回
特許法36条6項1号5回
特許法17条の24回
特許法126条6項4回
特許法123条1項1号4回
特許法36条4項1号3回
特許法36条6項2号2回
特許法126条1項1号2回
特許法70条2項2回
特許法2条3項1号1回
特許法123条1項8号1回
特許法72条1回
特許法123条1項4号1回
特許法123条1項2号1回
キーワード 審決139回
分割125回
無効120回
無効審判57回
実施40回
特許権12回
侵害2回
訂正審判2回
抵触2回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は,特許無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,①特 許法39条2項の発明の同一性,②一事不再理効,③サポート要件,④明確性要件, ⑤実施可能要件の各判断の誤りの有無である。

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判決文

平成30年4月11日判決言渡

平成29年(行ケ)第10159号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成30年3月19日

判 決

原 告 X

同訴訟代理人弁理士 滝 田 清 暉

中 村 成 美

穂

被 告 Y

同訴訟代理人弁護士 鮫 島 正 洋

山 本 真 祐 子

杉 尾 雄 一

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 原告の求めた裁判

特許庁が無効2016-800018号事件について平成29年6月28日にした審決を取り消す。

第2 事案の概要

本件は,特許無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,①特許法39条2項の発明の同一性,②一事不再理効,③サポート要件,④明確性要件,

⑤実施可能要件の各判断の誤りの有無である。1 特許庁における手続の経緯等

(1) 被告は,名称を「シートカッター」とする発明について,平成22年2月1日を出願日として特許出願(特願2010-47083号)をし(甲13。以下,「本願」という。,平成25年3月11日付けで特許請求の範囲を補正する手続補)正をし(甲3。以下,「本件補正」という。,同年9月27日,その設定登録を受け)た(特許第5374419号。請求項の数1。以下,「本件特許」という。甲14)。

(2) 被告は,平成25年9月17日,本願の一部を分割出願し(特願2013-号。以下,「本件分割出願」という。,平成27年5月15日,その設)定登録を受けた(特許第5745000号。請求項の数4。以下,「分割特許」という。甲1)。原告は,平成27年10月5日付けで分割特許の請求項1~4についての特許異議申立て(異議2015-700055号)をしたところ,被告は,平成29年1月16日付けで特許請求の範囲を訂正(請求項1は削除)する訂正請求をし(以下,「別件訂正」という。,特許庁は,同年6月19日,別件訂正を認め,請求項2~)に係る特許を維持し,請求項1に係る特許についての申立てを却下する決定をした(甲16)。

(3) 原告は,平成26年1月6日付けで本件特許の請求項1に係る発明についての特許無効審判請求(無効2014-800004号)をしたところ(以下,「前件無効審判」という。,特許庁は,同年7月15日,請求不成立審決をした(甲4。)以下,「前件審決」という。。)前件審決は,平成28年1月4日,確定した(弁論の全趣旨)。

(4) 被告は,平成28年1月6日,本件特許の特許請求の範囲を訂正する訂正審判請求(訂正2016-390002号)をしたところ(以下,本件訂正」「 という。,)特許庁は,同年10月4日,本件訂正を認める旨の審決をし(以下,「本件訂正審決」という。,本件訂正審決は,同月18日,確定した(甲15)) 。

(5) 原告は,平成28年2月9日付けで本件特許の請求項1に係る発明についての特許無効審判請求(無効2016-800018号)をしたところ(甲6。以下,「本件無効審判」という。,特許庁は,平成29年6月28日,) 「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年7月6日,原告に送達された。2 本件特許発明1等の要旨本件訂正後の本件特許の請求項1に係る発明(以下,本件特許発明1」「 という。,)本件補正後の本件特許の請求項1に係る発明(以下,「本件補正発明1」という。)及び本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下,「本件当初発明1」という。)並びに別件訂正後の分割特許の請求項2~4に係る発明(以下,請求項の番号に従って「分割特許発明2」のようにいい,併せて「分割特許発明」という。)の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(なお,本件訂正後の本件特許の明細書及び図面を「本件明細書」というが,本件特許について,明細書及び図面の補正及び訂正は行われていないから,本件明細書の記載は,本願の願書に最初に添付した明細書及び図面〔以下,「当初明細書」という。甲13〕の記載と同一である。)

(1) 本件特許発明1(甲15。下線は,訂正箇所を示す。)【請求項1】

第1の刃と,

第2の刃と,

前記第1の刃と前記第2の刃を設けた本体と,前記本体と可動的に接続され,該本体と略平行に接続された平板状のガイド板とを有し,前記ガイド板の一辺が切断対象物の表面に接する状態で,前記本体が前記ガイド板に対して動くことにより前記ガイド板から前記第1の刃または前記第2の刃が該ガイド板に隣接した位置から該ガイド板と略平行に出ることを特徴とするカッター。

(2) 本件補正発明1(甲3。下線は,補正箇所を示す。)【請求項1】刃と,前記刃を設けた本体と,前記本体と可動的に接続されたガイド板とを有し,前記本体が前記ガイド板に対して動くことにより前記ガイド板から前記刃が出ることを特徴とするカッター。

(3) 本件当初発明1(甲13)【請求項1】カッターナイフの刃の横に,ガイド板(4)を設けたシートの切断道具であるシートカッター。

(4) 分割特許発明(甲16)ア 分割特許発明2【請求項2】

第1の刃と,

第2の刃と,

前記第1の刃と前記第2の刃を設けた本体と,前記本体と略平行に接続され,前記第1の刃または前記第2の刃と略平行であり,前記本体の下端部から少なくとも一部が露出している平板状のガイド板とを有し,前記本体を前記ガイド板に対して傾けることにより前記ガイド板から前記第1の刃または前記第2の刃が該ガイド板に隣接した位置から該ガイド板と略平行に出ることを特徴とするカッター。イ 分割特許発明3【請求項3】

第1の刃と,

第2の刃と,

前記第1の刃と前記第2の刃を設けた本体と,前記本体と略平行に接続され,前記第1の刃または前記第2の刃と略平行に設けられた平板状のガイド板とを有し,前記本体は平板状であり,前記本体を前記ガイド板に対して傾けることにより前記ガイド板から前記第1の刃または前記第2の刃が該ガイド板に隣接した位置から該ガイド板と略平行に出ることを特徴とするカッター。ウ 分割特許発明4【請求項4】前記ガイド板は,前記本体と軸によって接続されている,請求項2及び3に記載のカッター。3 本件無効審判における請求人(原告)の主張(無効理由)

(1) 無効理由1(特許法39条2項)本件明細書に記載された具体的な発明は,分割特許の明細書及び図面に記載された発明と完全に同一である。この具体的な発明は,本件特許権で保護される発明であると同時に,分割特許の特許権によって保護される発明でもあることは一目瞭然であるから,一発明一特許の原則に違反する。そして,分割出願の出願日は親特許出願の出願日に遡及するから,本件特許は特許法39条2項に違反して登録されたものであり,特許法123条1項2号により無効とされるべきものである。

(2) 無効理由2(特許法36条6項1号・2号)分割特許は,「本体がガイド板に対して動く」ものである本件特許発明1から「本体をガイド板に対して傾ける」との態様を分割したものである。一発明一特許の原則から,本件特許発明1が,分割特許に係る発明と同一の発明を包含していると解することは許されないが,本件明細書には,本体をガイド板に対して傾けて用いるカッターしか開示されていない。したがって,分割後に本件特許に残っている発明は,発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえないから,本件特許の特許請求の範囲の記載は,特許法3条6項1号を満たしていない。また,本件明細書に記載された発明以外の発明を把握することもできないから,発明が明確に記載されているともいえず,本件特許の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号も満たしていない。したがって,本件特許は,特許法123条1項4号により無効とされるべきものである。

(3) 無効理由3(特許法36条4項1号)前記無効理由2のとおり,本件特許発明1は,本件明細書に記載された発明以外の発明を把握することができないから,当業者が実施することもできない。したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項1号を満たしていないから,本件特許は,特許法123条1項4号により無効とされるべきものである。

(4) 無効理由4(特許法17条の2第3項)本件特許の「前記本体と可動的に接続されたガイド板とを有し,」と「前記本体が前記ガイド板に対して動くことにより前記ガイド板から前記第1の刃または前記第の刃が出る」は,本件補正によって導入された。そして,本件分割出願後に残存する本件特許発明1は,「本体をガイド板に対して傾ける」という態様以外の「動き方」をする発明に特定されたが,そのような発明は本件明細書の記載から具体的に導き得ないから,本件補正は,本願の出願当初の明細書等の記載を超えてされた違法なものであり,本件特許は,特許法17条の2第3項の要件を満たさない補正をされた出願に対してされたものである。したがって,本件特許は,特許法123条項1号により無効とされるべきものである。4 審決の理由の要点

(1) 無効理由4について無効理由4は,確定した前件無効審判と同一の当事者によりされた無効とすべき理由であって,前件無効審判の無効理由1と同一の事実及び同一の証拠によるものであるから,特許法167条によりその審判を請求することができない。無効理由4を根拠とする本件無効審判は,前件審決の確定効たる一事不再理効に反する請求として許されず,無効理由4についての請求は却下すべきである。

(2) 無効理由2についてア 前件無効審判の無効理由2の請求の内容は,前件無効審判が請求された平成26年1月6日時点における本件特許の特許請求の範囲の記載が,特許法36条6項1号及び2号を満たしていないというものであるのに対し,本件無効審判の無効理由2は,平成28年10月18日に確定した本件訂正審決により訂正された特許請求の範囲の記載が,特許法36条6項1号及び2号を満たしていないというものである。そうすると,前件審決時の特許請求の範囲の記載は,本件訂正審決によって訂正されたから,前件無効審判と本件無効審判の対象となる特許請求の範囲の記載は,同一とはいえない。したがって,本件無効審判の無効理由2は,前件無効審判の無効理由2とは,審理すべき対象の発明が異なるから,同一の事実に基づいて請求されたものであるとはいえず,前件審決の確定効たる一事不再理効は働かない。イ 本件明細書の記載によると,本件特許発明1は,「主に床材のノンスリップシートなど」【0001】( )のシートを切断するための道具である。従来は,ノンスリップシートのようなシートを切断するに当たっては,「直定規とカッターナイフを使用して,シートを切断していた」【0002】( )ところ,「直定規とカッターナイフでノンスリップシートなどの凹凸に沿って,真っすぐ切断する際,光の向きや照度により見づらく,きれいに切断しにく」【0004】( )との欠点がある。本件特許発明1は,このような欠点を解決し,「光の向きや照度に左右される事なく,簡単できれい,かつ迅速にノンスリップシートなどを切断できる」【0(】)ことを課題とするものである。本件特許発明1には,切断対象物の表面に,ガイド板」「 の一辺が接する状態とし,「ガイド板」と可動的に接続された「本体」が「ガイド板」に対して動くことで,「本体」に設けた「第1の刃」または「第2の刃」が「ガイド板」と略平行に出ることが特定されている。そして,このとき,「ガイド板」の一辺が切断対象物の表面に接する状態であるから,「本体」と「ガイド板」とが「シャフト3」を軸とするものに限らず,両者が可動的に接続され,「第1の刃」または「第2の刃」が「ガイド板」に隣接した位置からガイド板と略平行に出るものであれば,切断対象物が刃により切り込まれることは明らかである。したがって,そのままの状態で,「本体」を切断対象物の表面に沿って移動させるならば,「ガイド板」から出る「刃」によって切断対象物が切断されることが理解できる。すなわち,「第1の刃」「第2の刃」「ガイド板」及び「本体」は,可動的接続に, ,より一体となっているから,この「本体」を持って,「本体」に可動的に接続された「ガイド板」の一辺を切断対象物の表面に接するようにした上で,「本体」を「ガイド板」に対して動かすように「本体」を操作することは可能であり,このような本件特許発明1の操作により,上記欠点は解消できるものといえる。上記認定した本件特許発明1の技術的意義によると,本件特許発明1は,請求項に係る発明が,発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるとはいえない。ウ 本件特許発明1は,前記イのとおり,明確に把握できるものであり,発明の詳細な説明の記載と矛盾しないから,本件特許発明1は明確である。エ 無効理由2についての請求人(原告)の主張は,要するに,本願が,その後に,一部の発明を分割して新たな出願をしたことに起因して,新たな出願側に全部の発明が移ったことを前提とし,分割の効果により本件特許側にはもはや残存する発明があるとは考えられないため,特許法36条6項1号や2号を満たすことはあり得ないとする趣旨と解されるが,特許に関係する法令の中に,他の特許出願あるいは他の特許により,対象特許の特許請求の範囲の画定が左右されるとする定めはない。したがって,請求人(原告)主張の分割による発明の移動が発生したと解する余地はないから,請求人(原告)が無効理由2が成立するとして説明した理由は,その前提において妥当でない。

(3) 無効理由3について無効理由3は,無効理由2における「本件特許発明1は,本件明細書に記載された発明以外の発明を把握することもできない」ことを前提とするものであるが,前記(2)のとおり,本件特許発明1は,本件明細書に記載された発明であり,本件特許発明1は明確であるから,無効理由2によって本件特許発明1に係る特許を無効とすることはできない。したがって,無効理由3は,その前提において理由がない。

(4) 無効理由1についてア 本件特許発明1と分割特許発明2について(ア) 本件特許発明1と分割特許発明2とを対比すると,以下の一致点で一致し,以下の相違点1~3で一応相違する。a 一致点「第1の刃と,

第2の刃と,

前記第1の刃と前記第2の刃を設けた本体と,前記本体と略平行に接続された平板状のガイド板とを有し,前記本体が前記ガイド板に対して動くことにより前記ガイド板から前記第1の刃または前記第2の刃が該ガイド板に隣接した位置から該ガイド板と略平行に出るカッター。」b 相違点1「本体」と「ガイド板」との「接続され」について,本件特許発明1は,「略平行」に加え,さらに「可動的に」接続されたものであるのに対し,分割特許発明2は,「略平行に接続され」たものである点。c 相違点2「ガイド板」を設ける態様として,本件特許発明1は,「第1の刃」又は「第2の刃」とどのような位置関係で「ガイド板」が設けられたものであるか,及び,「本体の下端部」との関係が,一応不明であるのに対し,分割特許発明2は,「前記第1の刃または前記第2の刃と略平行であり,前記本体の下端部から少なくとも一部が露出している」ように設けられたものである点。d 相違点3「前記ガイド板から前記第1の刃または前記第2の刃が該ガイド板に隣接した位置から該ガイド板と略平行に出」すために,本件特許発明1は,「前記ガイド板の一辺が切断対象物の表面に接する状態で,前記本体が前記ガイド板に対して動くことに」よるものであるのに対し,分割特許発明2は,「前記本体を前記ガイド板に対して傾ける」ものである点。(イ) 相違点3のうち,本件特許発明1は,本体がガイド板に対して「動く」のに対し,分割特許発明2は,「傾ける」と特定されている点を検討する。本件特許発明1は,カッターナイフの刃が設けられた本体がガイド板に対して動くことで,カッターナイフの刃が切断対象部に対して出るならば,動きや動かすための具体的な態様は特定されていなくても,発明の詳細な説明によってサポートされていることは,前記(2)イのとおりである。そうすると,上記相違点3に係る分割特許発明2の構成の「傾ける」は,本件特許発明1の「動く」のうちの具体的な態様の一つであるから,本件特許発明1の「動く」は,分割特許発明2の「傾ける」を包含する上位概念として表現したことによる差異であるといえる。ここで,本件特許発明1を先願とし,分割特許発明2を後願と仮定すると,相違点3に係る構成のうち,本体とガイド板との間の動きについては,先願発明の「動く」に対して,後願の「傾ける」は,上位概念として表現したことによる差異ということはできない。そして,「動く」と「傾ける」との差異が,本件特許発明1の課題を解決するための具体化手段における微差であるということもできないし,カテゴリー表現上の差異である場合でもない。そうすると,本件特許発明1を後願とし,分割特許発明2を先願と仮定するまでもなく,両発明は実質同一ではないから,他の相違点について検討するまでもなく,本件特許発明1と分割特許発明2とは,同一の発明とすることはできない。イ 本件特許発明1と分割特許発明3について(ア) 本件特許発明1と分割特許発明3とを対比すると,前記ア(ア)の一致点で一致し,前記ア(ア)の相違点1~3に加え,以下の相違点4で相違する。(相違点4)「本体」の形状について,本件特許発明1は,特段特定しておらず任意であるのに対し,分割特許発明3は,「平板状」である点。(イ) 前記ア(イ)のとおり,相違点3について,本件特許発明1と分割特許発明3とは,実質同一の発明とすることはできない。また,相違点4の「本体」の形状について,本件特許発明1は,特段特定しておらず任意であるから,「平板状」のものも,「平板状」でないものも包含される。しかし,分割特許発明3で特定される「本体」の形状は,「平板状」であるから,「平板状」でない「本体」は含まれない。そうすると,「本体」の形状について,本件特許発明1は,分割特許発明3の上位概念であるから,前記ア(イ)と同様に検討すると,相違点4も実質的に同一ということはできない。したがって,相違点3及び4以外の他の相違点について検討するまでもなく,本件特許発明1と分割特許発明3とは,同一の発明とすることはできない。ウ 本件特許発明1と分割特許発明4について(ア) 分割特許発明4は,分割特許発明2又は3を引用する発明であって,それぞれの特定事項の全てを包含し,かつ,「本体」と「ガイド板」との「接続」について,「前記本体と軸によって接続され」た点を限定するものである。そうすると,本件特許発明1と分割特許発明4とを対比すると,前記ア(ア)の一致点で一致し,前記ア(ア)の相違点1~3に加え,又は,前記ア(ア)の相違点1~3及び前記イ(ア)の相違点4に加え,以下の相違点5で相違する。(相違点5)「本体」と「ガイド板」との「接続」する手段について,本件特許発明1は,特段特定しておらず任意であるのに対し,分割特許発明4は,「軸によって接続」するものである点。(イ) 前記ア(イ)のとおり,相違点3について,本件特許発明1と分割特許発明4とは,実質同一の発明とすることはできない。また,本件明細書の記載(【0006】【0008】, )によると,相違点5に係る分割特許発明4の「軸によって接続」の技術的意義は,「本体」と「ガイド板」が相対的に軸を中心として傾く動きを可能とするためのものである。そうすると,分割特許発明4の「軸によって接続」は,本件特許発明1の「動く」について,動かすための具体的な態様の一つであるから,本件特許発明1の「動く」ための「接続」は,分割特許発明4の「軸によって接続」の上位概念であるといえる。したがって,前記ア(イ)と同様に検討すると,相違点5も実質的に同一ということはできない。以上のとおり,相違点3及び5以外の他の相違点について検討するまでもなく,本件特許発明1と分割特許発明4とは,同一の発明とすることはできない。エ 小括前記ア~ウのとおり,本件特許発明1は,分割特許発明2~4のいずれとも同一ではないから,本件特許発明1は,特許法39条2項に該当するとはいえず,請求人(原告)主張の無効理由1によって,本件特許発明1に係る特許を無効とすることはできない。

第3 原告主張の審決取消事由

1 取消事由1(特許法39条2項の発明の同一性判断の誤り)

(1) 本件特許発明1の認定の誤り

審決は,本件特許発明1を前記第2の2(1)のとおりであると認定したが,審決の認定の基礎となった本件訂正が違法であるから,前件審決で確定された本件特許発明1の特許請求の範囲を,本件訂正によって拡大した審決の判断は,違法である。本件訂正によって,本件特許発明1に,本件訂正前には存在しなかった「『本体』と『ガイド板』とが『シャフト3』を軸とするものに限らず,両者が可動的に接続され」た発明が,新たに導入された。本件訂正は,特許法126条1項1号~3号のいずれにも該当せず,「動く」の意味について,軸を中心に回転する態様には限定されないと定義し直すものであり,前件審決が認定した特許請求の範囲を超える解釈の原因であるから,同条5項及び6項に違反する。すなわち,前件審決は,①本件特許発明1の「前記本体と可動的に接続され」について,「機能的に表現された『本体と可動的に接続されたガイド板』の意味を考察すれば,本体をガイド板に対して傾け,カッターナイフの刃を出し得る構成,即ちシャフトを中心にガイド板に対して本体の傾斜角度を変更し得る手段であるものと解する事ができ,それ以外のものは含まれないものとみられる。」と認定した。これは,本件明細書には,「本体(1)の中にカッターナイフの刃(2)を設け,シャフト(3)を軸にしてスイングするガイド板を設ける。本発明は以上のような構造である。(」【0008】)と記載され,それに対応する図面が添付されているだけであり,「可動的に接続」という文言自体はもとより,「可動的に接続」という,広い,一般的な態様が本件特許発明1における技術的構成要件であることを示唆する記載が皆無であるから当然である(特許法70条2項)。また,前件審決は,②「前記本体が前記ガイド板に対して動く」における「動く」についても,「機能的に表現された『本体がガイド板に対して動く』の意味を考察すれば,本体をガイド板に対して傾け,カッターナイフの刃を出し得る構成,即ちシャフトを中心にガイド板に対して本体の傾斜角度を変更し得る手段であるものと解する事ができ,それ以外のものは含まれないものとみられる。と認定した。」 これは,出願当初の特許請求の範囲はもとより,当初明細書においても,「可動的」及び「動く」という文言が記載されておらず,それらの一般的概念が,出願当初から本件特許発明1における技術的構成要件であることを示唆する記載も皆無であるから当然である。それにもかかわらず,審決は,「本件特許明細書には,『ガイド板(4)』と『本体

(1)』とが『シャフト(3)』を共通軸として可動に軸着されたものが記載されて

いる。」と認定しながら,その直後に,何の根拠もなく,突然,「そして,可動であるから,本体がガイド板に対して『動く』事は明らかである。」と論理的に飛躍し,「動く」の用語を,軸とは無関係に,単に動く場合全てを含み得るように拡大解釈する余地を作った。そして,審決は,この違法に一般化した「動く」の文言に対して,『ガイド板』の一辺が切断対象物の表面に接する状態であるから,「 」という,本件訂正によって導入した文言を用いて意味不明な理由を付加し,技術的・論理的な説明もなく,『本体』と『ガイド板』とが『シャフト3』を軸とするものに限らず,「両者が可動的に接続され,『第1の刃』または『第2の刃』が『ガイド板』に隣接した位置からガイド板と略平行に出るものであれば,切断対象物が刃により切り込まれることは明らかである。」と認定して,接続の対象を際限なく拡大した。上記「『ガイド板』の一辺が切断対象物の表面に接する状態である」という訂正事項が,なぜ「『本体』と『ガイド板』とが『シャフト3』を軸とするものに限らず,」という結論を導き出せるのか,その技術的根拠はもとより,論理性も全くない。仮に本件訂正によって導入した文言に依拠することを不問にしたとしても,それによって,本件明細書はもとより,それらに基づいて前件審決が認定した技術的範囲を超える解釈がされたことは間違いないから,本件訂正は,特許法126条6項に違反してされたものである。本件訂正は,「軸着」の技術的意味を超えて,特許請求の範囲を不当に拡大させたものであり,本件訂正によって前件審決の前提を超える技術的概念が「可動的に接続」及び「動く」の文言に導入され,これによって本件特許発明1に係る特許請求の範囲が拡大されたものである。被告は,本件訂正が特許法126条6項に違反したものであるとの

(原告の主張)

に対し,そのような主張をするのであれば,新たな無効審判を請求すべきであると主張するが,この主張は,本件訂正の適法性については再度無効審判で争うことを容認したものでもあると解されるので,その意味でも,審決を取り消し,差し戻された審判で再度審理し直すことが合理的である。

(2) 本件特許発明1と分割特許発明2の同一性判断の誤り

ア 審決の相違点1の認定は,「本体と略平行に接続された平板状のガイド板とを有し,前記本体が前記ガイド板に対して動くことにより前記ガイド板から前記第1の刃または前記第2の刃が該ガイド板に隣接した位置から該ガイド板と略平行に出る」点を一致点としたことと矛盾する。すなわち,相違点1は,分割特許発明2では,本体とガイド板の「接続」が可動的であるか否かが分からないと認定したものであるが,本体とガイド板の接続が「可動的」でなければ,「本体がガイド板に対して動く」ことはできない。分割特許発明も,「本体がガイド板に対して動く」という一致点を有するものであるから,本体とガイド板の接続は可動的である。それにもかかわらず,単なる表現上の差異を,あえて技術的相違点であるかのように抽出して認定した相違点1の認定は,一致点の認定と矛盾する非論理的な認定であって,不当である。被告は,本件特許発明1は,本体とガイド板とが「可動的」に接続された態様が特に限定されないのに対し,分割特許発明2は,本体をガイド板に対して「傾ける」態様により可動的に接続されていることに限定されていることから,前者が上位概念で,後者が下位概念の関係にあり,実質的に相違すると主張するが,前件審決の理由に反する主張であるから,失当である。イ 審決の相違点2の認定は,「本体と略平行に接続された平板状のガイド板とを有し,前記本体が前記ガイド板に対して動くことにより前記ガイド板から前記第1の刃または前記第2の刃が該ガイド板に隣接した位置から該ガイド板と略平行に出る」点を一致点としたことと矛盾する。すなわち,相違点2は,「ガイド板」を設ける態様として,本件特許発明1は,「第の刃」又は「第2の刃」とどのような位置関係で「ガイド板」が設けられたものであるかが一応不明であると認定したものであるが,上記一致点の認定から,本件特許発明1においても,「ガイド板」が,「第1の刃」又は「第2の刃」と略平行に設けられていることは明らかである。「一応不明である」との認定は,「ガイド板と本体の下端部との関係」にのみ可能であるから,相違点2は正確性に欠けており,不適切である。被告は,本件特許発明1は,ガイド板が本体の下端部から少なくとも一部露出している場合のほか,ガイド板が本体の下端部から露出していない場合も含むと主張するが,本件特許発明1において,ガイド板を被切断物表面に当接できないような構成はあり得ないから,ガイド板が本体の下端部から露出していない場合に相当する発明は,存在しない。ウ 審決の相違点3の認定は,「本体と略平行に接続された平板状のガイド板とを有し,前記本体が前記ガイド板に対して動くことにより前記ガイド板から前記第1の刃または前記第2の刃が該ガイド板に隣接した位置から該ガイド板と略平行に出る」点を一致点としたことと矛盾する。すなわち,前記(1)のとおり,前件審決は,上記一致点の中の「動く」は「傾く」と同義であると判断した。特許発明を特定する「特許請求の範囲の記載」を正しく理解するためには,そのための辞書として機能する特許明細書(特許法70条2項)に記載された文言から理解される範囲を超えないように解釈する必要があり,国語の意味をそのまま当てはめることはできず,より慎重に検討すべきである。特に,本件特許発明1の「動く」は,明細書には記載されていない上,出願後,原告の製品を見た後に,後知恵に基づく補正によって導入された文言であるから,その解釈については,当初明細書に基づいて,更なる試行錯誤を必要とせず,当業者が実施できる発明の範囲(特許法36条4項1号)を超えないように解釈しなければならない点に,特に留意する必要がある。それにもかかわらず,審決は,そのような留意をせずに,「動く」が「傾ける」の上位概念であるという国語的解釈を堅持して,本件特許発明1と分割特許発明2は実質同一ではないと判断したが,これは,本件特許発明1に対する解釈を誤り,前件審決によって確定した特許請求の範囲を超える解釈をしたものであるから,違法である。また,審決は,相違点3の判断において,本件特許発明1は,カッターナイフの刃が設けられた本体がガイド板に対して動くことで,カッターナイフの刃が切断対象部〔原告注・「切断対象物」の誤記である。〕に対して出るならば,動きや動かすための具体的な態様は特定されていなくても,発明の詳細な説明によってサポートされていると判断したが,これが誤りであることは,後記3のとおりである。被告は,本件特許発明1の「前記本体が前記ガイド板に対して動くこと」は,本体がガイド板に対して移動することを意味することが特許請求の範囲の記載に基づき一義的に明確に認定できると主張するが,上記の「動く」という文言は,出願当初の特許請求の範囲はもとより,当初明細書にも全く記載されていなかったにもかかわらず,本件補正によって根拠なく導入されたものであり,その技術的意義が一義的に明確に理解できない。また,当初明細書に記載されているように,本願によって保護を求めた発明における本体とガイド板は,1本のシャフト(3)で,ガイド板がこのシャフト(3)を軸にスイングするように本体と接続されているから,本体がガイド板に対してシャフト(3)を軸に「動く」ことは,「傾く」ことと技術的に略同義であると認められるが,移動する」「 ことと同じであるとは認められない。シャフト(3)の部分に関する,本体とガイド板の位置関係は不変であるのに,それを「本体がガイド板に対して移動することを意味する」と主張するのは誤りであり,被告が故意に技術的にあいまいにして,文言解釈を拡大しようとする意図が明らかである。

(3) 本件特許発明1と分割特許発明3の同一性判断の誤り

ア 審決は,相違点1及び2の妥当性について何ら検討していないから,それらを実質的な相違点と認めること自体,許されるべきではない。また,相違点1~3が相違点と認められないことは,前記(2)のとおりである。イ 相違点4における「平板状」の文言は,明細書には記載されていない一方,「本体が平板状である」ことは,分割特許発明3の訂正事項であるから,この訂正は,図面にその根拠を置くと理解するほかない。したがって,この訂正によって明確になった「平板状の本体」は,図面に記載された形状・構造の本体及びその本体と均等な本体であると理解される。他方,本件特許発明1の場合も,本件明細書には,「平板状」の文言は記載されていないから,本件特許発明1を実施しようとすれば,「本体」の形状については,やはり図面に基づいて把握しなければ実施することができない。この目的のために基礎となる図面は,分割特許発明3に対する図面と完全に同一である。したがって,本件特許発明1における本体も,分割特許発明3の場合と同じく,「分割特許発明3の図面に記載された形状 構造の本体及びその本体と均等な本体」・であると解さざるを得ない。結局のところ,本件特許発明1を実施すれば,それは分割特許発明3を実施することと同じになり,分割特許発明3を実施すれば本件特許発明1を実施することと同じにならざるを得ないから,本件特許発明1と分割特許発明3は同一の発明である。被告は,本件特許発明1の「本体」の形状に関し,本件明細書の図面の記載を参酌したとしても,「本体」の形状が,平板状に限定されることはないと主張する。確かに,当初明細書に基づいて理解できる「本体」は,「本体(1)の中にカッターナイフの刃(2)を設け」の記載(【0005】【0008】及び図面)から読み取れ,る本体であって,刃を収納できるから,これを平板状といえるかどうか明らかではなかった。しかし,被告は,刃を収納することができる上記本体を,分割特許発明において,平板状の本体であると定義してしまった。したがって,第三者は,本件明細書等を見ても,被告が主張する「平板状でない本体」を理解することも,実施することもできないから,本件特許発明1の本体と分割特許発明3の本体は,「平板状」の文言の有無にかかわらず,実質的に同一である。

(4) 本件特許発明1と分割特許発明4の同一性判断の誤り

ア 相違点3が相違点と認められないことは,前記(2)のとおりである。イ 審決は,相違点5に係る分割特許発明4の「軸によって接続」は,本件特許発明1の「動く」について,動かすための具体的な態様の一つであるから,本件特許発明1の「動く」ための「接続」は,分割特許発明4の「軸によって接続」の上位概念であるといえると認定したが,この認定は,「動く」についての,「本体をガイド板に対して傾け,カッターナイフの刃を出し得る構成,即ちシャフトを中心にガイド板に対して本体の傾斜角度を変更し得る手段であるものと解する事ができ,それ以外のものは含まれないものとみられる。」という,前件審決の確定された技術的範囲の解釈を超える認定であるから,失当である。ウ 被告の製品である「カッティー」は,本件特許発明1の特許要件を具備した本件特許発明1の実施品であり,本件明細書の全てを忠実に再現したカッターである。同様に,「カッティー」は,分割特許発明2~4の特許要件を具備した分割特許発明の実施品であり,分割特許の明細書及び図面の全てを忠実に再現したカッターでもある。特許権者が本件特許権か分割特許権のいずれかを第三者に譲渡した場合を想定すると,いずれかの特許権に基づいて製造された「カッティー」は,必ず他方の特許権の侵害品になるが,これは特許制度上あり得ない状況である。したがって,本件特許発明1と分割特許発明2~4が同一ではないという審決の判断に根本的な誤りがあると解さざるを得ない。エ 被告は,前件無効審判の対象となる発明は,本件訂正前の発明であり,本件無効審判の対象となる発明は,本件訂正後の発明であるから,前件審決の発明の要旨認定は,本件無効審判における発明の要旨認定とは前提が異なり,本件無効審判において何ら関係がないと主張するが,本件訂正に依拠して,確定した特許請求の範囲を拡大解釈することは,既判力を無視する違法な解釈であり,特許法12条6項にも反する。被告が本件訂正に依拠する拡大解釈をするときは,その前提となった本件訂正審決自体が違法なものであるから,特許法123条1項8号に基づいて,再度無効審判を請求することにより本件特許発明1は無効とされるべきである。このことは,本件訂正に依拠して,前件審決が認定した本件特許発明1を拡大解釈した審決が取り消されるべきであることと同義である。

2 取消事由2(一事不再理効の判断の誤り)

審決は,本件補正の新規事項追加に係る無効理由4について,確定した前件無効審判と同一の当事者によりされた無効とすべき理由であって,前件無効審判の無効理由1と同一の事実及び同一の証拠によるものであるから,特許法167条によりその審判を請求することができないと判断したが,以下のとおり,誤りである。

(1) 本件無効審判時には,前件無効審判時とは異なり,前件審決が,①本件特

許発明1の「前記本体と可動的に接続され」について,「機能的に表現された『本体と可動的に接続されたガイド板』の意味を考察すれば,本体をガイド板に対して傾け,カッターナイフの刃を出し得る構成,即ちシャフトを中心にガイド板に対して本体の傾斜角度を変更し得る手段であるものと解する事ができ,それ以外のものは含まれないものとみられる。」と説示し,②「機能的に表現された『本体がガイド板に対して動く』の意味を考察すれば,本体をガイド板に対して傾け,カッターナイフの刃を出し得る構成,即ちシャフトを中心にガイド板に対して本体の傾斜角度を変更し得る手段であるものと解する事ができ,それ以外のものは含まれないものとみられる。」と説示し,③これらを前提として,特許法36条6項1号及び2号に該当しないと判断し,この前件審決が確定したという事実があり,特許請求の範囲の解釈について,訂正審判によって,前件審決によって確定された特許請求の範囲の解釈を拡大することは違法になるという法的歯止めが生じた(特許法126条6項)。この事実は,本件補正が新規事項追加に当たるかを判断する上で,極めて重要な新たな証拠である。それにもかかわらず,審決は,これを証拠として採用せず,無視して判断しなかったという判断遺脱の違法がある。また,審決は,訂正事項に依拠して,特許請求の範囲における「可動的に接続」及び「動く」の用語の意味を拡大し,前件審決によって確定された特許請求の範囲の解釈を拡大した違法がある。

(2) 審決は,原告(請求人)が主張した新事実5とされた本件訂正は,本件補

正で追加した事項と実質的に関連する内容を請求するものではないと判断したが,これは,審決自身が,本件訂正に係る訂正事項により補正事項の意味を拡大したという明らかな事実に反する。すなわち,審決は,『ガイド板』の一辺が切断対象物の表面に接する状態である「から,」という本件訂正によって導入した文言のみに依拠し,技術的・論理的な説明もなしに,『本体』と『ガイド板』とが『シャフト3』を軸とするものに限らず,「両者が可動的に接続され,『第1の刃』または『第2の刃』が『ガイド板』に隣接した位置からガイド板と略平行に出るものであれば,切断対象物が刃により切り込まれることは明らかである。」と認定して,接続の態様を際限なく拡大した。

(3) 被告は,前件審決の理由中で,特許請求の範囲の用語の意義に関し何らか

の解釈が示されたとしても,特許法上,それにより,何らかの法的効果が発生する旨の定めは存在しないし,本件無効審判の審決が前件審決の理由により拘束されることもないと主張するが,確定審決の既判力を無視したもので,失当である。前件審決が確定したことによって,本件特許発明1において機能的に表現された, 「前

①

記本体と可動的に接続されたガイド板」及び②「前記本体が前記ガイド板に対して動く」の意味は,共に,「シャフトを中心にガイド板に対して本体の傾斜角度を変更し得る手段」であり,「それ以外のものは含まれない」との解釈で確定しており,この認定には既判力が生じている。被告は,上記①,②について前件審決で認定された事実は,本件訴訟において主張した新たな事実であるから,審決取消訴訟の審理範囲を超えるものであり,本件訴訟において主張することは許されないと主張するが,原告は,本件無効審判の審判請求書(甲6)において,上記①,②について前件審決で認定された事実を明確に指摘している。

3 取消事由3-1(サポート要件の判断の誤り)

(1) 審決は,「本件特許明細書等には,『ガイド板(4)』と『本体(1)』とが

『シャフト(3)』を共通軸として可動に軸着されたものが記載されている。」という根拠に基づき,「そして,可動であるから,本体がガイド板に対して『動く』ことは明らかである。」という結論を導いたが,論理の飛躍がある。「軸着」とは,「軸で回転自在に取り付けること」(甲7)を意味するから,上記根拠に基づく正しい結論は,「本体が『シャフト(3)』を中心としてガイド板に対して『回転自在に動く』」であり,均等の範囲として,「本体が『共通軸』を中心としてガイド板に対して『回転自在に動く』」も認められるが,単に「本体がガイド板に対して『動く』」という事実ではない。審決は,「機能的に表現された『動く』」の解釈を,「軸着」とは無関係に「動く」態様にまで,拡大解釈したものであり,極めて不当で,不公正である。被告は,本件明細書の記載(【0006】【0008】【図2】【図3】, , , )によると,本体をガイド板に対して傾けて動かし,カッターナイフの刃を出し得る状態になるよう,本体とガイド板が固定されることなく,動きを規制する部材を介して,相互に動き得る状態で接続されることが記載されていると主張するが,被告指摘の記載は,「シャフト(3)を軸に本体をガイド板に対して傾け,・・・相互に動き得る状態で接続されている」発明を記載したものであり,「本体が,シャフト(3)を軸にせずに動く発明」が実在する根拠になるものではない。被告は,「シャフト(3)を軸にしない,本体の傾け方」が,本件明細書のどこに記載されているか,その根拠を明示することなく,「シャフト(3)を軸に」の限定がない,特許請求の範囲に記載された発明が,明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であると繰り返すにすぎず,失当である。1本のシャフト(3)を軸にしなければ,ガイド板をスイングするようにすること(【0008】)は,技術的に不可能である。本件明細書には,「シャフト(3)を軸に,本体とガイド板が相互に動き得る状態で接続されている」発明が記載されているにすぎず,「シャフト(3)を軸にしない発明」は記載も示唆もされていないから,本件明細書によってサポートされていない。

(2) 審決は,「そして,このとき,『ガイド板』の一辺が切断対象物の表面に接

する状態であるから,」という技術的な論拠となり得ない理由に基づき,『本体』と「『ガイド板』とが『シャフト3』を軸とするものに限らず,両者が可動的に接続され,『第1の刃』または『第2の刃』が『ガイド板』に隣接した位置からガイド板と略平行に出るものであれば,切断対象物が刃により切り込まれることは明らかである。 という結論を導いたが,」 ここにも論理の飛躍があり,論理的飛躍を重ねて,「動く」の意味を,確定した前件審決の認定範囲を超えて,際限なく拡大認定した。この無謀な論理の根拠が,本件訂正によって導入された「ガイド板の一辺が切断対象物の表面に接する状態で」という訂正事項であるから,この審決の認定からも,本件訂正が特許法126条6項に違反し,違法な訂正であったことが確認できる。

4 取消事由3-2(明確性要件の判断の誤り)

審決は,本件特許発明1が前記第2の2(1)のとおりであることを前提として,本件特許発明1は明確であると判断したが,前記のとおり,本件特許発明1の認定が誤りであり,前提において誤りがある。

5 取消事由4(実施可能要件の判断の誤り)

審決は,サポート要件違反及び明確性要件違反に係る無効理由2によって本件特許発明1に係る特許を無効とすることはできないから,実施可能要件違反に係る無効理由3は,その前提において理由がないと判断したが,前記3のとおり,サポート要件違反及び明確性要件違反に係る無効理由2についての審決の判断が誤りであるから,実施可能要件違反に係る無効理由3についての審決の判断も誤りである。本件明細書には,審決が認定した,その限界も判定できない発明群を示唆する記載は全くなく,明確で具体的な例が一つだけ記載されているにすぎない。

(被告の主張)

する「軸とは無関係に本体が動くような発明」は,本件明細書に記載も示唆もされていないから,当業者は,本件明細書を参照して「軸とは無関係に本体が動くような発明」を実施することはできない。

第4

(被告の主張)

1 取消事由1(特許法39条2項の発明の同一性判断の誤り)に対し

(1) 本件特許発明1の認定の誤りについて

原告は,本件訂正が特許法126条5項及び6項の訂正要件に違反する旨を主張するが,原告が本件訂正の訂正要件違反を主張するのであれば,訂正要件違反を無効理由とする新たな無効審判を請求し,その新たな無効審判において主張すべきであって,本件無効審判は,特許法39条2項を無効理由とするものであるから,訂正要件違反は何ら関係がない。

(2) 本件特許発明1と分割特許発明2の同一性判断の誤りについて

ア 原告は,相違点1の認定に誤りがあると主張するが,以下のとおり,理由がない。(ア) 審決は,まず,特許請求の範囲において形式的な相違点を認定した上で,この相違点が実質的に相違するかを検討するというプロセスで同一性の判断を行っている。原告は,審決が「一応相違する」として,形式的な相違点の認定プロセスで,相違点1を認定することが違法であるというものであるが,審決の上記認定プロセスからすると,相違点1の認定に何らの誤りがないことは,明らかである。(イ) 後記ウの相違点3と併せて考えると,本件特許発明1は,本体とガイド板とが「可動的」に接続された態様が特に限定されないのに対し,分割特許発明2は,本体をガイド板に対して「傾ける」態様により可動的に接続されていることに限定されていることから,前者が上位概念で,後者が下位概念の関係にあり,実質的に相違する。イ 原告は,相違点2の認定に誤りがあると主張するが,以下のとおり,理由がない。(ア) 原告は,審決が「一応相違する」として,形式的な相違点の認定プロセスで,相違点2を認定することが違法であるというものであるが,前記ア(ア)の審決の認定プロセスからすると,相違点2の認定に何らの誤りがないことは,明らかである。(イ) 相違点2では,「ガイド板」と「第1の刃」又は「第2の刃」との関係のほか,「ガイド板」と「本体」の下端部との関係についても認定されている。そして,「ガイド板」と「本体」の下端部との関係に関し,本件特許発明1は,特に限定がされていないから,ガイド板が本体の下端部から少なくとも一部露出している場合のほか,ガイド板が本体の下端部から露出していない場合も含むのに対し,分割特許発明2は,ガイド板が「前記本体の下端部から少なくとも一部露出している」ことに限定されているから,前者が上位概念で,後者が下位概念の関係にある。したがって,相違点2は,実質的に相違する。ウ 原告は,相違点3の認定に誤りがあると主張するが,以下のとおり,理由がない。(ア) 特許法39条2項における「発明」は,特許請求の範囲に記載された発明特定事項に基づいて認定することから,発明の要旨認定の一場面であると考えられる(乙2)。本件特許発明1の「前記本体が前記ガイド板に対して動くこと」 「動く」 「移は, が動する」の意味であることから(乙3),本体がガイド板に対して移動することを意味することが特許請求の範囲の記載に基づき一義的に明確に認定できるため,明細書の参酌が許される特段の事情は,存在しない。本件特許発明1における「前記本体が前記ガイド板に対して動くこと」は,本体がガイド板に対して移動することを意味し,その移動する態様は,特に限定されないことから,本体をガイド板に対して「傾ける」以外の移動態様も,これに含まれる。したがって,本件明細書の記載に基づき,「動く」は「傾く」と同義であると認定されるべき旨の

(原告の主張)

は,理由がない。審決が,相違点3において,「動く」は,「傾ける」を包含する上位概念として表現したことによる差異であると認定した上で,本件特許発明1と分割特許発明2とは,実質的に同一ではないと認定したことは,正当である。(イ) 仮に本件明細書の記載を参酌したとしても,「動く」は,「傾ける」を包含する上位概念による差異が存在する。本件明細書の記載(【0006】【0008】【図2】【図3】, , , )によると,本体をシャフトを軸にしてガイド板に対して傾け,又は回動させることにより,本体の中に設けた二つのカッターナイフの刃の一方が出て,シートなどを切断できる状態となることが開示されているが,本件明細書には,「本体が前記ガイド板に対して動く」態様等を特に限定する記載はない。そうすると,「前記本体が前記ガイド板に対して動くこと」には,少なくとも,「本体」を「ガイド板」に対して傾け,又は回動などさせることにより,「本体」の中に設けた「第1の刃」又は「第2の刃」が「ガイド板」の底面よりも下の位置に出て対象物を切断することが可能な状態となる構成のものは,含まれると考えられる。したがって,本件明細書の記載を参酌したとしても,「動く」は,「傾ける」や「回動」等を包含する上位概念による差異があるから,相違点3は,実質的に相違する。エ 以上のとおり,本件特許発明1と分割特許発明2とは,相違点1~3において,実質的に相違するから,特許法39条2項の適用はない。

(3) 本件特許発明1と分割特許発明3の同一性判断の誤りについて

ア 原告は,相違点4の認定に誤りがあると主張するが,以下のとおり,理由がない。(ア) 本件特許発明1の「本体」の形状は,特許請求の範囲において,何ら限定がないことから,「本体」の形状に「平板状」のものも「平板状」でないものも包含されることは,その文言から一義的に明確に認定できる。また,分割特許発明3の「本体」の形状も,「前記本体は平板状であり」の文言から,平板状であることが一義的に明確に認定できる。したがって,本件特許発明1,分割特許発明3のいずれにおいても,原告主張のように,図面に基づいて「本体」の形状を認定すべき理由はない。(イ) 仮に,本件特許発明1の「本体」の形状に関し,本件明細書の図面の記載を参酌したとしても,図面において,本体の形状が平板状であることは,本体の形状の一例として記載されていることが明らかであり,本体の形状を平板状に限る旨の記載は本件明細書には一切見られないことから,「本体」の形状が,平板状に限定されることはない。(ウ) 以上のとおり,相違点4において,「本体」の形状について,本件特許発明1は,分割特許発明3の上位概念であるから,実質的に同一ではない。イ 以上のとおり,本件特許発明1と分割特許発明3とは,相違点1~4において,実質的に相違するから,特許法39条2項の適用はない。

(4) 本件特許発明1と分割特許発明4の同一性判断の誤りについて

ア 原告は,相違点5の認定に誤りがあると主張するが,以下のとおり,理由がない。(ア) 本件特許発明1の「動く」は,前記(2)ウ(ア)のとおり,特許請求の範囲の記載により,本体がガイド板に対して移動することを意味し,その移動する態様は,特に限定されないから,原告主張のように,シャフトを中心にガイド板に対して傾斜角度を変更し得る手段に限定して解釈することはできない。(イ) 仮に,前記(2)ウ(イ)のとおり,本件明細書の記載を参酌して,「動く」を,「本体」を「ガイド板」に対して傾け,又は回動などさせることにより,「本体」の中に設けた「第1の刃」又は「第2の刃」が「ガイド板」の底面よりも下の位置に出て対象物を切断することが可能な状態となる構成であると解したとしても,やはり,原告主張のように,シャフトを中心にガイド板に対して傾斜角度を変更し得る手段に限定して解釈することはできない。(ウ) 原告は,発明の要旨を,前件審決の理由に基づいて認定すべき旨を主張するが,特許法上,審決の理由中で述べられた事項に基づき,発明の要旨を認定すべき旨の規定は存在せず,審決の理由中の判断に拘束力が発生する旨の規定も存在しない。また,前件無効審判の対象となる発明は,本件訂正前の発明であり,本件無効審判の対象となる発明は,本件訂正後の発明であるから,前件審決の発明の要旨認定は,本件無効審判における発明の要旨認定とは前提が異なり,本件無効審判において何ら関係がない。(エ) 以上のとおり,本件特許発明1の「動く」の要旨を,シャフトを中心にガイド板に対して傾斜角度を変更し得る手段に限定して解釈することはできないから,相違点5は,実質的に相違する。(オ) なお,原告は,被告の製品である「カッティー」が本件特許発明1及び分割特許発明2~4の構成要件を充足するから,本件特許発明1と分割特許発明2~4とは,特許法39条2項における「同一」である旨主張するが,例えば,同日出願の構成要件Aに係る発明X1と構成要件A+Bに係る発明X2が存在する場合に,両発明が同一でないことと,A+B+Cの構成に係る対象製品がX1及びX2のいずれの構成要件も充足することは,両立するから,失当である。イ 以上のとおり,本件特許発明1と分割特許発明4とは,相違点1~5において,実質的に相違するから,特許法39条2項の適用はない。

2 取消事由2(一事不再理効の判断の誤り)に対し

(1) 原告は,前件審決が審決の理由において①「前記本体と可動的に接続され」

について, 機能的に表現された「 『本体と可動的に接続されたガイド板』の意味を・ ・・とみられる」と認定したこと,②「機能的に表現された『本体がガイド板に対して動く』の意味を・・・とみられる」と認定したことを,審決が無視して判断しなかったことに,判断遺脱の違法があると主張するが,上記①,②の事実は,本件訴訟において主張した新たな事実であるから,審決取消訴訟の審理範囲を超えるものであり,本件訴訟において主張することは許されない。また,前件審決の理由中で,特許請求の範囲の用語の意義に関し何らかの解釈が示されたとしても,特許法上,それにより,何らかの法的効果が発生する旨の定めは存在しないし,本件無効審判の審決が前件審決の理由に拘束されることもないから,上記①,②が存在したとしても,本件無効審判と前件無効審判の基礎となる事実及び証拠が相違することにはならない。

(2) 原告は,審決が本件補正は本件補正で追加した事項と実質的に関連する内

容を請求するものではないと判断したことが事実に反すると主張するが,特許法1条の2第3項違反を理由とする無効理由は,本件補正が新規事項を伴うかどうかが問題となるのであり,本件訂正が確定したとしても,本件補正の内容に影響を及ぼすことはない。

3 取消事由3-1(サポート要件の判断の誤り)に対し

(1) 原告は,審決は,

「機能的に表現された『動く』」の解釈を,「軸着」とは無関係に「動く」態様にまで,拡大解釈したものであり,極めて不当で,不公正であると主張するが,以下のとおり,理由がない。本件明細書の記載(【0006】【0008】【図2】【図3】, , , )によると,本体をガイド板に対して傾けて動かし,カッターナイフの刃を出し得る状態になるよう,本体とガイド板が固定されることなく,動きを規制する部材を介して,相互に動き得る状態で接続されることが記載されている。また,本体をガイド板に対して傾けて動かすことで,本体に設けられたカッターナイフの刃がガイド板から出ることも記載されている。したがって,特許請求の範囲に記載された「前記本体が前記ガイド板に対して動くことにより前記ガイド板から前記第1の刃または前記第2の刃が該ガイド板に隣接した位置から該ガイド板と略平行に出る」ことが,本件明細書に記載されていることは明らかである。また,本件明細書には,本体とガイド板が相互に動き得る状態で接続されることが記載されていることから,審決が「本体がガイド板に対して『動く』ことは明らかである」と認定したことに誤りはない。

(2) 原告は,審決が,論理的飛躍を重ねて,『本体』と『ガイド板』とが『シャ

「フト3』を軸とするものに限らず,両者が可動的に接続され,『第1の刃』または『第の刃』 『ガイド板』が に隣接した位置からガイド板と略平行に出るものであれば,切断対象物が刃により切り込まれることは明らかである。」という結論を導いたなどと主張するが,以下のとおり,理由がない。本件明細書の記載(【0001】【0002】【0004】, , )によると,本件特許発明1における課題は,カッターナイフで,シートを切断する際に,直定規を用いる場合,光の向きや照度との関係で,直定規を持った方の手の影によって切断面が見づらくなり,きれいに切断することができないという点にある。本件特許発明1は,特許請求の範囲の記載から,「ガイド板」の一辺が切断対象物の表面に接する状態とし,「ガイド板」と可動的に接続された「本体」 「ガイド板」がに対して動くことで,「本体」に接続された「第1の刃」又は「第2の刃」が「ガイド板」に隣接した位置からガイド板と略平行に出るものである。そうすると,本体」「が「ガイド板」に対して動くことで,「第1の刃」又は「第2の刃」が出れば,対象物が刃により切断されることは明らかである。したがって,当業者は,本件特許発明1が,カッターナイフで,シートを切断する際に,直定規を持った方の手の影によって切断面が見づらくなる課題を解決できることを認識することができるから,本件特許発明1は,発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の詳細な説明に記載された課題を解決できると認識できる範囲内のものである。本体をガイド板から傾けて動かすことで,カッターナイフの刃が出る構成であれば,直定規を持った方の手の影によって切断面が見づらくなることはなくなり,上記課題を解決することができることから,本体をガイド板から傾けて動かす動作が,本体とガイド板とをシャフト3を軸として傾ける動作に限られる必要はない。さらにいえば,本体をガイド板から動かすことで,カッターナイフの刃が出る構成であれば,直定規を持った方の手の影によって切断面が見づらくなることはなくなり,上記課題を解決することができることから,上記課題を解決するためには,そもそも,傾けて動かす動作に限る必要もない。

4 取消事由3-2(明確性要件の判断の誤り)に対し

(1) 原告は,本件特許発明1の認定が誤りであるから,審決の判断は前提におい

て誤りがあると主張するが,審決の本件特許発明1の認定は,本件特許の請求項1に記載された発明が正しく引用されており,何ら誤りはない。

(2) そもそも,原告が本件無効審判において主張する明確性要件違反の理由は,

親特許である本件特許に残っている発明が本件明細書に記載された発明以外の発明を把握することができないから,保護されるべき発明が明確に記載されているともいえないというものであって,請求項の記載自体の明確性を理由とするものではないし,仮に,原告主張のとおり,本件特許発明1は,本件明細書に記載された発明以外を把握できなかったとしても,請求項の記載が不明確であることにはならないから,

(原告の主張)

は,主張自体失当である。

5 取消事由4(実施可能要件の判断の誤り)に対し

原告は,サポート要件違反及び明確性要件違反に係る無効理由2についての審決の判断が誤りであるから,実施可能要件違反に係る無効理由3についての審決の判断も誤りであると主張するが,サポート要件違反についての審決の判断に誤りがないことは,前記3のとおりである。

第5 当裁判所の判断

事案に鑑み,取消事由3-1,同3-2,同4,同1,同2の順に検討する。

1 取消事由3-1(サポート要件の判断の誤り)について

(1) 本件明細書には,以下の記載がある。

ア 技術分野【0001】この発明は主に床材のノンスリップシートなどの凹凸を利用して,シートを切断する道具である。イ 技術背景【0002】従来,直定規とカッターナイフを利用して,シートを切断していた。ウ 発明が解決しようとする課題【0004】従来の欠点は,直定規とカッターナイフでノンスリップシートなどの凹凸に沿って,真っすぐ切断する際,光の向きや照度により見づらく,きれいに切断しにくかった。本発明は以上のような欠点をなくすために作られた作品である。エ 課題を解決するための手段【0005】本体(1)の中に,カッターナイフの刃(2)を設け,シャフト(3)の通ったガイド板(4)を設ける。本発明は,以上の構成によりなるシートカッターである。オ 発明の効果【0006】このシートカッターはノンスリップシートなどの表面の凹凸に,ガイド板(4)を合わせ,シャフト(3)を軸に本体を傾けるだけで,設けてあるカッターナイフの刃(2)が出てくる。後はノンスリップシートなどの凹凸に沿わせ滑らせるだけで,光の向きや照度に左右される事なく,簡単できれい,かつ迅速にノンスリップシートなどを切断できる。カ 発明を実施するための形態【0008】以下,本発明を実施するための形態について説明する。本体(1)の中にカッターナイフの刃(2)を設け,シャフト(3)を軸にスイングするガイド板(4)を設ける。本発明は以上のような構造である。これを使用する時は,ガイド板(4)をノンスリップシートなどの表面の凹凸に合わせ,シャフト(3)を軸にして本体(1)を傾けカッターナイフの刃(2)を出す。後は凹凸に沿わせて滑らせ,ノンスリップシートなどを切断する。その他の応用例として,壁紙の施工時,入り隅や枠の凹凸に沿わせ,後は同様にシートカッターを滑らせる事により,壁紙の余分な部分を,地ベラや定規を使用せず切り取る。キ 図面【図1】本発明の斜視図【図2】本発明の分解斜視図【図3】 本発明の断面図

(2) 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許

請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断するのが相当である(知財高裁平成17年(行ケ)第10042号同年11月11日特別部判決・判例タイムズ1192号164頁参照)。

(3) 前記(1)によると,本件明細書には,本件特許発明1の「前記ガイド板の一辺

が切断対象物の表面に接する状態で,「前記ガイド板から前記第1の刃または前記」

第2の刃が該ガイド板に隣接した位置から該ガイド板と略平行に出る」(以下,「ガ

イド板から刃が出る」という。)ための具体的構成としては,本体とガイド板とをシャフトにより軸支し,本体がガイド板に対して傾くようにする実施例が記載されているに止まる。しかし,上記実施例に接した当業者は,上記実施例において本体がシャフトを軸にしてガイド板に対して傾くことにより「ガイド板から刃が出る」のは,本体のうち刃が設けられた部分が切断対象物の表面に接したガイド板の一辺に向かって移動するからであり,特許請求の範囲に記載された「ガイド板から刃が出る」ようにするためには,本体のうち刃が設けられた部分が切断対象物の表面に接したガイド板の一辺に向かって移動することが可能となるように,本体をガイド板に対して動くようにすればよいことを,容易に認識することができる。また,前記(1)によると,本件特許発明1の課題は,「直定規とカッターナイフでノンスリップシートなどの凹凸に沿って,真っすぐ切断する際,光の向きや照度により見づらく,きれいに切断しにくかった」という問題を解決することである。そして,本件明細書には,発明の効果として,①「このシートカッターはノンスリップシートなどの表面の凹凸に,ガイド板(4)を合わせ,シャフト(3)を軸に本体を傾けるだけで,設けてあるカッターナイフの刃(2)が出てくる」,②「後はノンスリップシートなどの凹凸に沿わせ滑らせるだけで,光の向きや照度に左右される事なく,簡単できれい,かつ迅速にノンスリップシートなどを切断できる」【00(】と記載されているところ,) 当業者は,前記課題に直接対応するのは②であり,本件特許発明1の課題の解決には,②において利用される①により達成される状態,すなわち「ガイド板から刃が出る」ように構成すれば十分であり,本体をガイド板に対して「傾ける」構成は上記課題の解決に必須の構成ではないことを,容易に理解することができる。そうすると,当業者は,本件明細書において,「ガイド板から刃が出る」ようにする実施例として,本体をシャフトを軸にしてガイド板に対して傾ける実施例しか記載されていないとしても,本件明細書の記載から,本体がガイド板に対して動くことにより「ガイド板から刃が出る」ようにする構成を認識することができると認められる。したがって,「前記本体が前記ガイド板に対して動く」ことにより「ガイド板から刃が出る」という発明特定事項を備えた本件特許発明1は,「本体がシャフトを軸にしてガイド板に対して傾く」以外の動きをする発明も含めて,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるということができる。また,上記のとおり,本件明細書に接した当業者は,「直定規とカッターナイフでノンスリップシートなどの凹凸に沿って,真っすぐ切断する際,光の向きや照度により見づらく,きれいに切断しにくかった」という問題を解決するという本件特許発明1の課題を,「ガイド板から刃が出る」ように構成することにより解決できることを容易に理解することができるから,「前記本体が前記ガイド板に対して動く」ことにより「ガイド板から刃が出る」という発明特定事項を備えた本件特許発明1は,発明の詳細な説明の記載により当業者がその発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができる。

(4) 原告は,本件明細書には,

「シャフト(3)を軸に,本体とガイド板が相互に動き得る状態で接続されている」発明が記載されているにすぎず,シャフト「 (3)を軸にしない発明」は記載も示唆もされていないから,本件明細書によってサポートされていないなどと主張する。しかし,当業者は,本件明細書には,本体をシャフトを軸にしてガイド板に対して傾ける実施例しか記載されていないとしても,本件明細書の記載から,本体がガイド板に対して動くことにより「ガイド板から刃が出る」ようにする構成を認識することができることは,前記(3)のとおりである。原告は,1本のシャフト(3)を軸にしなければ,ガイド板をスイングするようにすること(【0008】)は,技術的に不可能であるとも主張するが,本件特許発明1の課題の解決には,「ガイド板から刃が出る」ように構成すれば十分であり,本体をシャフトを軸にスイングしてガイド板に対して傾ける構成が上記課題の解決に必須の構成ではないことは,前記(3)のとおりである。

(原告の主張)

は,いずれも理由がない。

(5) 原告は,審決は,論理的飛躍を重ねて,

「動く」の意味を,確定した前件審決の認定範囲を超えて,際限なく拡大認定したものであって,確定審決の既判力を無視したものであるなどと主張するが,確定判決の既判力(民訴法114条1項)は,確定判決の主文に包含するものに限り生じるものであって,確定した審決の理由中の特許請求の範囲の記載の解釈に他の事件の審決等に対する何らかの拘束力が生じる根拠はないから,本件特許発明1の「動く」の意味について,前件審決の理由中の解釈と異なる解釈を採用したことが違法となるものではない。

(原告の主張)

は,理由がない。

(6) 以上のとおり,取消事由3-1は,理由がない。

2 取消事由3-2(明確性要件の判断の誤り)について

(1) 特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようと

する発明が明確でなければならない旨規定する。この趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断するのが相当である。

(2) 本件特許発明1に係る特許請求の範囲の記載は,前記第2の2(1)のとおり

であるが,その構成の意義は一義的に明らかであって,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるものではない。

(3) 原告は,審決は,本件特許発明1の認定に誤りがあるから,明確性要件の判

断の前提において誤りがあると主張するが,審決の本件特許発明1の認定に誤りがないことは,後記4(1)のとおりである。

(原告の主張)

は,理由がない。

(4) 以上のとおり,取消事由3-2は,理由がない。

3 取消事由4(実施可能要件の判断の誤り)について

(1) 物の発明における発明の実施とは,その物の生産,使用等をする行為をいう

から(特許法2条3項1号) 物の発明について実施可能要件を充足するか否かにつ,いては,当業者が,明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,その物を製造し,使用することができる程度の記載があるか否かによって判断するのが相当である。

(2) 前記1(1)のとおり,本件明細書には,本件特許発明1について,課題を解決

するための手段(【0005】)に加え,発明を実施するための形態において,本件特許発明1に係るシートカッターの構造,使用方法,応用例について,斜視図(【図】,分解斜視図() 【図2】)及び断面図(【図3】)と共に説明がされている(【00】。)そして,当業者において,これらの記載に接すると,技術常識に照らし,過度の試行錯誤を要することなく,物の発明である本件特許発明1のシートカッターを製造し,使用することは,十分に可能であると認められる。したがって,本件特許発明1は,発明の詳細な説明において当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるということができる。

(3) 原告は,サポート要件違反及び明確性要件違反についての審決の判断が誤

りであるから,これを前提とする実施可能要件違反についての審決の判断も誤りであると主張するが,サポート要件違反及び明確性要件違反についての審決の判断に誤りがないことは,前記1及び2のとおりである。

(原告の主張)

は,理由がない。

(4) 原告は,本件明細書には,明確で具体的な例が一つだけ記載されているにす

ぎず,「軸とは無関係に本体が動くような発明」は,本件明細書に記載も示唆もされていないから,当業者は,本件明細書を参照して「軸とは無関係に本体が動くような発明」を実施することはできないと主張する。しかし,当業者は,本件明細書には,本体をシャフトを軸にしてガイド板に対して傾ける実施例しか記載されていないとしても,本件明細書の記載から,本体がガイド板に対して動くことにより「ガイド板から刃が出る」ようにする構成を認識することができることは,前記1(3)のとおりであって,そのような認識に基づいて本件特許発明1を実施することができるものである。

(原告の主張)

は,理由がない。

(5) 以上のとおり,取消事由4は,理由がない。

4 取消事由1(特許法39条2項の発明の同一性判断の誤り)について

(1) 本件特許発明1の認定について

ア 前記第2の1(4)のとおり,本件訂正を認めた本件訂正審決は確定しているから,本件特許発明1は,前記第2の2(1)のとおりであると認められ,これと同旨の審決の認定に誤りはない。イ 原告は,審決の認定の基礎となった本件訂正は,特許法126条1項1号~3号のいずれにも該当せず,同条5項及び6項に違反するから,前件審決で確定された本件特許発明1の特許請求の範囲を本件訂正によって拡大した審決の判断は,違法であるなどと主張するが,特許法123条1項は,同法126条1項ただし書,同条5項及び6項等の訂正要件違反(同法123条1項8号)を,同法39条2項違反(同法123条1項2号)とは別個の無効理由としているから,同法3条2項違反を判断するに当たり,その前提として訂正要件違反を判断することはできない。そして,本件無効審判において,原告は,同法123条1項1号,2号,号の無効理由を主張したものの,同項8号の訂正要件違反の無効理由を主張していないから(甲6),本件訂正が違法であることを前提とする

(原告の主張)

は,失当である。

(2) 本件特許発明1と分割特許発明2の同一性について

ア 本件特許発明1と分割特許発明2(前記第2の2(4)ア)とを対比すると,審決認定のとおり,前記第2の4(4)ア(ア)aの一致点で一致し,少なくとも同dの相違点3(以下に再掲)で相違すると認められる。(相違点3)「前記ガイド板から前記第1の刃または前記第2の刃が該ガイド板に隣接した位置から該ガイド板と略平行に出」すために,本件特許発明1は,「前記ガイド板の一辺が切断対象物の表面に接する状態で,前記本体が前記ガイド板に対して動くことに」よるものであるのに対し,分割特許発明2は,「前記本体を前記ガイド板に対して傾ける」ものである点。イ 分割特許発明2は,第1の刃又は第2の刃をガイド板から出すために,本体をガイド板に対して「傾ける」ものである。そして,分割特許の明細書及び図面(甲1。以下,「分割明細書」という。)には,ガイド板をノンスリップシートなどの表面の凹凸に合わせて,「本体を傾けるだけ」でカッターナイフの刃が出てくることにより,凹凸にガイド板を沿わせて滑らせるだけで光の向きや照度に左右されることなく,簡単できれいかつ迅速にノンスリップシートなどを切断できること(【0006】)が記載されている。そうすると,分割特許発明2において,本体をガイド板に「傾ける」だけで第1の刃又は第2の刃をガイド板から出すことができることには,簡単かつ迅速な切断を実現するという作用効果の観点から,技術的意義があると認められる。他方,本件特許発明1は,第1の刃又は第2の刃をガイド板から出すものではあるが,その際の動作は,本体がガイド板に対して単に「動く」ことによるものであり,分割特許発明2のように「傾ける」に限定された動作とは異なるものである。したがって,相違点3は,実質的な相違点であると認められる。そうすると,本件特許発明1と分割特許発明2とは,特許法39条2項の「同一の発明」であるとはいえない。ウ 原告は,審決が,「動く」が「傾ける」の上位概念であるという国語的解釈を堅持して,本件特許発明1と分割特許発明2は実質同一ではないと判断したことは,本件特許発明1に対する解釈を誤り,「動く」は「傾く」と同義であると判断した前件審決によって確定した特許請求の範囲を超える解釈をしたものであるから,違法であるなどと主張する。しかし,本件特許発明1の「前記本体が前記ガイド板に対して動くこと」という記載は,「動く」は,「移動する」の意味であると一般に理解されており(乙3),本件明細書の記載を参酌しても,前記1(3)のとおり,当業者は,本件明細書の記載から,本体がガイド板に対して動く構成を認識できるから,本件特許発明1の「動く」を,明らかに語義が異なる「傾ける」の意味に限定して解釈すべき理由はない。また,前記1(5)のとおり,前件審決の理由中の解釈に基づいて,本件特許発明1の「動く」を「傾ける」と同義であると解釈する理由はない。

(原告の主張)

は,理由がない。

(3) 本件特許発明1と分割特許発明3の同一性について

ア 本件特許発明1と分割特許発明3(前記第2の2(4)イ)とを対比すると,審決認定のとおり,前記第2の4(4)ア(ア)aの一致点で一致し,少なくとも同dの相違点3及び前記第2の4(4)イ(ア)の相違点4(以下に再掲)で相違すると認められる。(相違点4)「本体」の形状について,本件特許発明1は,特段特定しておらず任意であるのに対し,分割特許発明3は,「平板状」である点。イ 相違点3が実質的な相違点であると認められることは,前記(2)イのとおりである。また,相違点4について検討すると,分割特許発明3において,本体の形状はガイド板と同じく平板状である。そして,本体の形状を平板状とすることによる作用効果については,分割明細書に明示の記載はないが,当業者は,本体の形状が平板状であり,かつ,ガイド板と同じ形状であることに起因する把持性の向上等の作用効果を認識することができ,本体の形状を平板状とすることには,技術的意義があると認められる。他方,本件特許発明1は,本体の形状について格段の限定はなく,分割特許発明のように限定された形状ではないから,分割特許発明3とは異なるものである。したがって,相違点4は,実質的な相違点であると認められる。そうすると,本件特許発明1と分割特許発明3とは,特許法39条2項の「同一の発明」であるとはいえない。ウ 原告は,本件特許発明1も,分割特許発明3も,相違点4の「平板状」の文言が明細書に記載されていないから,図面に基づいて把握しなければならないところ,その図面は,両発明において同一であって,当業者は,「平板状でない本体」を理解することも実施することもできないから,本件特許発明1の本体と分割特許発明3の本体は,実質的に同一である旨主張する。しかし,本件特許発明1に係る特許請求の範囲の記載によると,「本体」は,「前記第1の刃と前記第2の刃を設けた」ものであり,かつ,「平板状のガイド板」が可動的に接続され「前記ガイド板に対して動く」ものとして特定されている。本件特許発明1は,「凹凸を利用して,シートを切断する道具」【0001】( )であり,この「凹凸にガイド板を沿わせ滑らせるだけで光の向きや照度に左右されることなく,簡単で,きれい,かつ迅速にノンスリップシートなどを切断できる」【0006】( )ものであるから,この凹凸を利用するガイド板が平板状であることは,本件特許発明1の課題解決に直接寄与する構成であるといえるものの,このガイド板に対して「動く」ものであればよい本体の形状までもが平板状である必要はないことを,当業者は当然に理解することができ,そのような本体を実施することができる。そうすると,本件明細書の図1~3における「本体」の形状が「平板状」であることを踏まえても,本件特許発明1における本体を,特許請求の範囲においてその形状に限定がないにもかかわらず,「平板状」の形状に限定して解釈すべきものとは認められない。

(原告の主張)

は,理由がない。

(4) 本件特許発明1と分割特許発明4の同一性について

ア 本件特許発明1と分割特許発明4(前記第2の2(4)ウ)とを対比すると,審決認定のとおり,前記第2の4(4)ア(ア)aの一致点で一致し,少なくとも同dの相違点3及び前記第2の4(4)イ(ア)の相違点4(分割特許発明3を引用する場合)に加え,前記第2の4(4)ウ(ア)の相違点5(以下に再掲)で相違すると認められる。(相違点5)「本体」と「ガイド板」との「接続」する手段について,本件特許発明1は,特段特定しておらず任意であるのに対し,分割特許発明4は,「軸によって接続」するものである点。イ 相違点3及び4が実質的な相違点であると認められることは,それぞれ,前記(2)イ及び(3)イのとおりである。また,相違点5について検討すると,分割特許発明4においては,本体とガイド板とは,「軸によって接続され」るものである。そして,これにより,分割特許発明は,本体をガイド板に対して軸を中心に相対移動させ,本体をガイド板に対して「傾ける」ことができるものであるから,軸によって本体とガイド板とを接続することには,技術的意義があると認められる。他方,本件特許発明1は,本体とガイド板とは,「可動的に接続され」るものであるから,本体とガイド板とは「可動的」,すなわち動かすことができるように接続されていればよく,分割特許発明4のような「軸」による接続に限定されたものとは異なるものである。したがって,相違点5は,実質的な相違点であると認められる。そうすると,本件特許発明1と分割特許発明4とは,特許法39条2項の「同一の発明」であるとはいえない。ウ 原告は,審決が本件特許発明1の「動く」ための「接続」は分割特許発明4の「軸によって接続」の上位概念であるといえると認定したことは,前件審決の確定された技術的範囲の解釈を超える認定であるから,失当であると主張する。しかし,前記1(5)のとおり,前件審決の理由中の解釈に基づいて,本件特許発明の「動く」を「軸によって接続」と同義であると解釈する理由はない。

(原告の主張)

は,理由がない。エ 原告は,被告の製品である「カッティー」は,本件特許発明1の特許要件を具備した本件特許発明1の実施品であるとともに,分割特許発明2~4の特許要件を具備した分割特許発明の実施品であるところ,特許権者が本件特許権か分割特許権のいずれかを第三者に譲渡した場合を想定すると,いずれかの特許権に基づいて製造された「カッティー」は,必ず他方の特許権の侵害品になり,これは特許制度上あり得ない状況であるなどと主張する。しかし,特許法上,一つの製品が複数の特許に同時に抵触することがあることは当然に予定されているし(特許法72条等) 複数の特許に係る発明の実施品が同一,であっても,それらの特許に係る発明が同一であることにはならないから, 「カ仮にッティー」が本件特許及び分割特許に同時に抵触するものであるとしても,特許制度上あり得ない状況とはいえないし,本件特許発明1と分割特許発明とが同一であることにもならない。

(原告の主張)

は,理由がない。

(5) 小括

以上のとおり,取消事由1は,理由がない。

5 取消事由2(一事不再理効の判断の誤り)について

(1) 前記第2の1(3)(5)のとおり,原告は,本件特許の請求項1に係る発明につ

いて,前件無効審判を請求し,これに対する前件審決は,本件無効審判請求に先立つ平成28年1月4日,確定している。そして,前件審決(甲4)によると,前件無効審判の無効理由1は,本件補正は,「前記本体と可動的に接続されたガイド板とを有し, や」 「前記本体が前記ガイド板に対して動くことにより」を含む補正であるから,新規事項を追加するものであり,本件特許は,特許法123条1項1号に該当するというものである。他方,本件無効審判の無効理由4は,本件補正は,「前記本体と可動的に接続されたガイド板とを有し,」及び「前記本体が前記ガイド板に対して動くことにより」を導入したものであるから,新規事項を追加するものであり,本件特許は,特許法1条1項1号に該当するというものである。そうすると,本件無効審判の無効理由4は,前件無効審判の無効理由1と同一であるから,特許法167条の「同一の事実」に基づくものと認められる。また,特許法123条1項1号所定の同法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正であるか否かは,その補正が,当業者によって,「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面」の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるか否かによって判断するのが相当である(知財高裁平成18年(行ケ)第10563号同20年5月30日特別部判決・判例タイムズ1290号224頁参照)。そうすると,前件無効審判において,その無効理由1を基礎付ける証拠は,本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲及び当初明細書の内容を示す特開2011-161193号公報(前件無効審判甲1)と,本件補正の内容を示す,本願に係る平成25年3月11日付け手続補正書の写し(前件無効審判甲2)であると認められる(甲4)。他方,本件無効審判において,無効理由4を基礎付ける証拠は,上記特開2011-161193号公報(甲2)と,本件補正の内容を示す,特開2-161193号の平成25年3月11日付け補正についての特許法17条の2による補正の掲載公報(甲3)であると認められ,本件補正の内容を示す証拠は,実質的に同一であることは明らかであるから,本件無効審判の無効理由4は,特許法167条の「同一の証拠」に基づくものと認められる。なお,原告は,本件無効審判において,本件補正が補正要件を満たさない理由として,本件特許発明1は,本件分割出願によって「本体をガイド板に対して傾ける」態様以外の「動き方」をする発明になったところ,そのような発明は当初明細書に記載されていないことは前件審決が認定するとおりであると主張し(甲6) 分割特,許の特許公報(甲1)及び前件審決(甲4)を提出するとともに,本件訂正などについて主張している(審決10頁~11頁記載の新事実1~5)が,本件分割出願若しくは前件審決の理由中の判断又は本件訂正により,本件補正の内容や「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面」の内容が変わるものではなく,これらの主張や証拠は,本件無効審判の無効理由4を基礎付ける事実や証拠に当たらない。以上によると,本件無効審判の無効理由4は,確定した審決と「同一の事実及び同一の証拠」に基づくものであるから,特許法167条により,許されないものであり,これと同旨の審決の判断に誤りはない。

(2) 原告は,特許請求の範囲の記載の解釈を示した前件審決が確定したことは,

本件補正が新規事項追加に当たるかを判断する上で,極めて重要な新たな証拠であり,これを証拠として採用せず,無視して判断しなかった審決には,判断遺脱の違法があるなどと主張する。しかし,前件審決の理由中の解釈により,本件補正の内容や「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面」の内容が変わるものではないことは,前記

(1)のとおりであるから,前件審決(甲4)は,特許法167条の証拠の同一性の判

断を左右するものではなく,審決に判断遺脱の違法はない。

(原告の主張)

は,理由がない。なお,被告は,前件審決の理由中の特許請求の範囲の記載の解釈に関する原告の主張は,本件訴訟において主張した新たな事実であるから,審決取消訴訟の審理範囲を超えるものであり,本件訴訟において主張することは許されないと主張するが,被告指摘の

(原告の主張)

は,本件補正が新規事項追加に当たるから,本件特許は同法条1項1号に該当するという本件無効審判の無効理由4について,同法16条の「同一の事実及び同一の証拠」に基づくものではないことの理由を主張するものであって,新たな無効理由を主張するものではないから,本件無効審判における主張の有無を検討するまでもなく,本件訴訟の審理範囲を超えるものではない。

(3) 以上のとおり,取消事由2は,理由がない。

6 結論

以上によると,原告の請求は,理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第2部裁判長裁判官森 義 之裁判官森 岡 礼 子裁判官古 庄 研

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