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平成29(行コ)10004特許料納付書却下処分取消請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
裁判年月日 平成30年5月14日
事件種別 民事
当事者 被告)国
控訴人(一審原告)X
被控訴人(一審被告)国
法令 特許権
キーワード 特許権54回
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事件の概要 1 事案の経緯等 (1) 本件は,特許第4761196号の特許権(本件特許権)の特許権者であ った控訴人が,特許法(以下,単に「法」という。)112条1項所定の特許料追 納期間中に特許料及び割増特許料(特許料等)を納付しなかったため同条4項によ り消滅したものとみなされた本件特許権について,法112条の2第1項の規定に 基づき第4年分及び第5年分の各特許料等を納付する旨の納付書(本件納付書)及 び回復理由書を提出したが,特許庁長官が平成28年9月9日付けで本件納付書の 提出手続を却下した(本件却下処分)ことから,控訴人には法112条の2第1項 にいう「特許料を追納することができる期間内に・・・特許料及び割増特許料を納 付することができなかったことについて正当な理由」があり,本件却下処分には同 条項の解釈適用を誤った違法があるとして,その取消しを求めた事案である。

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判決文

平成30年5月14日判決言渡

平成29年(行コ)第10004号 特許料納付書却下処分取消請求控訴事件

(原審・東京地方裁判所平成29年(行ウ)第253号)

口頭弁論終結日 平成30年3月19日

判 決

控訴人(一審原告 ) X

同 補 佐 人 弁 理 士 中 川 邦 雄

被控訴人(一審被告) 国

処 分 行 政 庁 特 許 庁 長 官

同 指 定 代 理 人 松 本 亮 一

高 橋 昌 寛

近 野 智 香 子

小 野 和 実

安 原 文 香

主 文

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事 実 及 び 理 由

用語の略称及び略称の意味は,本判決で付するもののほか,原判決に従う。

第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。2 特許第4761196号の特許権に係る第4年度分から第5年度分特許料納付書について,特許庁長官がした平成28年9月9日付け手続却下処分を取り消す。

第2 事案の概要

1 事案の経緯等

(1) 本件は,特許第4761196号の特許権(本件特許権)の特許権者であった控訴人が,特許法(以下,単に「法」という。)112条1項所定の特許料追納期間中に特許料及び割増特許料(特許料等)を納付しなかったため同条4項により消滅したものとみなされた本件特許権について,法112条の2第1項の規定に基づき第4年分及び第5年分の各特許料等を納付する旨の納付書(本件納付書)及び回復理由書を提出したが,特許庁長官が平成28年9月9日付けで本件納付書の提出手続を却下した(本件却下処分)ことから,控訴人には法112条の2第1項にいう「特許料を追納することができる期間内に・・・特許料及び割増特許料を納付することができなかったことについて正当な理由」があり,本件却下処分には同条項の解釈適用を誤った違法があるとして,その取消しを求めた事案である。

(2) 原審は,控訴人が第4年分の特許料等を支払わないまま本件追納期間が経過したこと(本件期間徒過)については,法112条の2第1項にいう「正当な理由」があるものとはいえないと判断して,控訴人の請求を棄却した。

(3) 控訴人は,原判決を不服として控訴した。2 前提事実本件の前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)は,下記(1)~(2)のとおり原判決を補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第2の2に記載のとおりである。

(1) 原判決2頁24行目の「108条2項」の後に「本文」を挿入する。

(2) 原判決3頁24行目に「当庁」とあるのを「東京地方裁判所」と改める。3 争点本件の争点は,原判決「事実及び理由」欄の第2の3に記載のとおりである。4 争点に関する当事者の主張本件の争点に関する当事者の主張は,下記(1)のとおり原判決を補正し,下記(2)及び(3)のとおり当審における控訴人の補充主張とそれに対する被控訴人の主張を加えるほかは,原判決「事実及び理由」欄の第2の4に記載のとおりである。

(1) 原判決の補正原判決4頁14行目に「特許証納付期限日」とあるのを「特許料納付期限日」と改める。

(2) 当審における控訴人の補充主張当審における控訴人の補充主張は,別紙「控訴理由書」のとおりであるが,その要旨は以下のとおりである。ア 控訴人は,これまで,特許証とともに送付される「特許料納付期限日」の書面を参考にする等しながら,個人的に期日管理を行い,期日を徒過したことは一度もなかった。しかし,本件特許権については,東日本大震災直後の登録案件であったこと,震災直後の第三者らの片付けによって包袋が紛失してしまったこと,通常届くはずの本件特許事務所からの年金納付の案内通知が本件特許権のみ届かなかったこと,その後に依頼した一覧表からも本件特許権のみ欠落していたことなど,不運な複数の事象が重なってしまったため,年金納付期間の徒過に至ったものである。この不運な複数の事象は,控訴人としては初めて経験することばかりであり,到底予測することは不可能であった。その中において,控訴人は,置かれた状況の中で考え得る相応の措置を講じたのであるから,本件期間徒過を回避するために一般に求められる相当な注意を尽くしていたといえ,「正当な理由」があったといえる。イ 東日本大震災により控訴人の自宅が被災し,その片付けを依頼した第三者において本件特許権に係る包袋を紛失したという事実についての証拠を提出することは,ないことを証明することに等しい。震災の時期,震災地域に該当すること,その他の事情をくんで救済されるべきである。ウ 控訴人は,本件特許事務所と特許料の納付期限の管理契約はしておらず,本件特許事務所に納付期限管理を委ねていなかったのであるから,控訴人の事情のみを考慮すべきである。本件特許事務所作成の「特許権継続料金納付のお知らせ」と題する書面は,本件特許事務所がサービスで自発的に通知しているものであり,いわゆるダイレクトメールのようなものにすぎない。エ 第1年分~第3年分の特許料を納付することは,出願手続を特許事務所に委任しているときは,期日管理も特許事務所が行うことが一般的である。本件特許権についても,本件特許事務所からの書面等の連絡が何度かあったため,震災直後の混乱時期にあっても,特許料を納付することができた。オ 特許事務所や専門知識を有する一部の者を除き,特許情報プラットフォームの検索方法に慣れていない個人等の場合には,特許情報プラットフォームを検索するという発想がないことも多く,検索自体も決して簡易とはいえないから,特許情報プラットフォームは,期日管理のための十分な手段とはなっていない。特許庁から特許証とともに送付される「特許料納付期限日」の書面を参考にしたり,特許事務所に確認したりして年金管理を行うことが,置かれた状況で行える精一杯の方法であり,現実的な方法である。特許情報プラットフォームが存在することにより一般に求められる相当な注意を尽くしていたといえないと解釈すると,特許情報プラットフォームで情報提供されている権利の期日徒過は,回復の余地がなくなるから,平成23年法律第63号による改正により,法112条の2第1項による救済を認める要件を緩和した趣旨に反するものである。カ 法112条の2第1項による救済では,救済による第三者への手当もされているから,例えば,特許により利益などが得られた場合に初めて救済を申し立てるような脱法的な者を除き,一定の期間的制限の範囲内で,通常の権利維持の意思があると認められる者には,「うっかり忘れてしまった」場合なども含め,救済を許容すべきである。

(3) 被控訴人の主張ア 本件では,控訴人が東日本大震災より後の平成23年5月26日に第1年分~第3年分の特許料を納付したことにより,同年6月17日付けで本件特許権の設定登録がされ,同日以降に控訴人補佐人弁理士に対して本件特許権の特許証等の交付がされているから,第1年分~第3年分の特許料を納付し,本件特許権の特許証等の交付を受けた控訴人において,本件特許権の存在を覚知することは容易であった。控訴人が,第1年分~第3年分の特許料を納付することを代理人に委任したとしても,特許料を出捐するのは出願者自身であり,出捐した事実をもって本件特許権の存在を覚知できる。イ 本件特許権の存在を覚知する方法は特許情報プラットフォームの参照に限られず,その他の方法によっても可能である。また,原判決は,本件特許事務所の管理データから本件特許権に関するデータが欠落することは控訴人には予期できない旨の主張を排斥するために,控訴人が本件特許権に係る発明の発明者であり,

第1年分~第3年分の特許料を納付した事実を考慮した上で,特許情報プラットフ

ォームの参照などにより本件特許権の存在を覚知できたと判断したと解されるから,特許情報プラットフォームの参照が可能であることを理由に,一律に回復が認められないとする趣旨ではないことは明らかである。

第3 当裁判所の判断

当裁判所は,本件納付書による納付のうち,第4年分の特許料等に係る部分については,本件期間徒過につき正当な理由があるとはいえないし,第5年分の特許料等に係る部分については,第4年分の特許料等の追納が認められないために本件特許権は消滅しているから,これらと同旨の理由により本件納付書の提出手続を却下した本件却下処分に法112条の2第1項の解釈適用を誤った違法はなく,したがって,控訴人の請求を棄却した原判決の結論は相当であり,本件控訴は棄却すべきものと判断する。その理由は,下記1のとおり原判決を補正し,下記2のとおり当審における控訴人の補充主張に対して判断するほかは,原判決「事実及び理由」欄の第3に記載のとおりである。

1 原判決の補正

(1) 原判決7頁23行~26行を,次のとおり改める。

「 そうすると,法112条の2第1項にいう「正当な理由があるとき」とは,特段の事情のない限り,原特許権者(その特許料の納付管理又は納付手続を受託した者を含む。)において,一般に求められる相当な注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる客観的な事情により,法112条1項の規定により特許料を追納することができる期間内に特許料及び割増特許料を納付することができなかった場合をいうものと解するのが相当である。」

(2) 原判決8頁11行~10頁6行を,次のとおり改める。

「 (2) 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によると,本件特許権について,次の事実が認められる。ア 控訴人は,平成17年8月15日,本件特許権に係る特許出願をし(特願2005-262908号。以下,「本件特許出願」という。 ,その後,本件特許)出願について,平成20年7月30日,控訴人補佐人弁理士を代理人とする旨の代理人受任届を提出し,同年8月6日,出願審査請求をした(乙1の1~3,乙3)。イ 本件特許出願については,平成23年1月14日付けで拒絶理由通知がされたが,同年3月11日の東日本大震災後の同月14日,控訴人は,特許請求の範囲,明細書及び図面を補正するとともに,意見書を提出した(乙2の1~3)。ウ 本件特許出願は,平成23年4月14日付けで特許査定され,控訴人は,同年5月26日,第1年分~第3年分の特許料を納付し,本件特許権は,同年月17日,設定登録された(乙2の4,乙3)。

(3) 前記(2)認定の事実によると,控訴人は,平成23年3月11日の東日本大

震災から2か月以上が経過した同年5月26日,本件特許権の第1年分~第3年分の特許料を納付し,本件特許権は,同年6月17日,設定登録されたことが認められる。そして,特許出願手続を代理人弁理士に委任した場合,特許査定後に第1年分~第3年分の特許料を納付するか否かを依頼者に対し確認し,特許権の設定登録後に送付される特許証等を依頼者に対し交付するのが通常であるから,控訴人は,本件特許権について,平成23年4月14日から同年5月26日までの間に,第1年分~第3年分の特許料を納付するか否かの問合せを受け,同年6月17日から相当期間経過後には,特許証等を受領したものと推認され,これを覆すに足りる証拠はない。そうすると,控訴人は,本件特許出願に係る発明の発明者であり,本件特許出願を自ら行ったのみならず,同年3月11日の東日本大震災より後に,本件特許権が同年6月頃設定登録されたことを認識する機会が十分にあったものと認められるから,控訴人の自宅が東日本大震災により被災したという控訴人の主張を前提としても,控訴人は,平成23年6月頃,本件特許権がその頃設定登録されたことを認識したものと認められる。

(4) 控訴人は,自ら包袋により特許権に関する書類を管理して特許料の納付期

限を管理していたところ,東日本大震災により被災した控訴人の自宅の片付けを第三者に依頼した際に,特許関係の重要な書類がある旨の注意喚起をしたにもかかわらず,第三者が本件特許権の包袋を紛失してしまったことを主張するが,特許権についての特許料の納付等の管理は特許権者の責任において行われるべきものであり,その方法として特許権に関する書類を入れた包袋(以下,「特許関連包袋」という。)によって管理することを採用したのであれば,一般に求められる相当な注意として,そのような特許関連包袋自体が紛失することのないように管理すべきであったということができる。そして,控訴人が特許関連包袋を保管していた場所の被災状況の詳細は,必ずしも明らかではないが,控訴人の主張によると,控訴人は,特許関連包袋の保管場所の片付けを第三者に依頼するに当たり,特許関係の重要な書類がある旨の注意喚起を行ったというのであるから,特許関連包袋により特許権の管理を行っている控訴人としては,第三者が行った片付けの後に,特許関連包袋が誤って廃棄されてしまうという自らの懸念が現実化していないかどうかを確認すべきであったということができる。そのような確認作業を行うことにより,平成23年6月頃本件特許権が設定登録されたことを認識していた控訴人は,本件特許権についての特許料の納付等の管理を行うことができたものであって,本件期間徒過が生じなかった可能性が高いものと認められる。

(5) また,控訴人は,本件特許事務所に依頼して権利の一覧表を作成させたに

もかかわらず,本件特許事務所の管理データから本件特許権に関するデータが欠落していたことから,上記一覧表に本件特許権に係る情報が欠落していたことを主張する。そして,証拠(甲2の1,甲2の2の6・7)によると,控訴人は,平成2年5月に控訴人が代表取締役を務める会社(以下,「本件会社」という。)の法人格を有限会社から株式会社に変更したことに伴って,控訴人名義及び本件会社名義の特許・実用新案出願案件及び登録案件を整理するため,同年6月10日頃,本件特許事務所に対し,上記出願案件及び登録案件の一覧表の作成を依頼したこと,同日頃,本件特許事務所が控訴人に交付した上記一覧表には,本件特許権の記載はなかったことが認められる。上記一覧表の作成依頼が,控訴人名義の特許権の特許料の納付期限の管理について,特許関連包袋による管理の不十分な点を補充する目的で行われたものであるとしても,特許権者である控訴人は,控訴人名義の特許権の存在と内容の確認について,控訴人自身が自ら又は雇用関係にある被用者に命じて行うか,第三者に委託して行うか,また,第三者に委託する場合にいかなる者を選定するかについて,自らの判断により自由に選択することができるのであるから,自らの判断により委託した第三者(本件特許事務所)において,特許情報プラットフォームを参照することなどによって容易に本件特許権の存在を覚知することができたにもかかわらず,そのような確認をしなかったことにより本件特許権の存在を把握できなかったことは,特許権者側の事情として考慮すべきものである。

(6) さらに,控訴人は,本件特許事務所からの本件特許権の特許料納付に係る

案内通知が届かなかったことを主張するが,控訴人は,控訴人名義の特許権の特許料の納付期限を特許関連包袋により管理していたというのであって,控訴人が本件特許事務所に対して本件特許権の特許料納付に係る案内通知の送付を控訴人名義の特許権の特許料の納付期限を管理する目的で委託していた事実は認められないから,本件特許事務所からの本件特許権の特許料納付に係る案内通知が届かなかったことは,控訴人において,一般に求められる相当な注意を尽くしていても,本件期間徒過が生じたことの根拠とすることはできない。

(7) 以上を総合すると,本件期間徒過については,原特許権者である控訴人に

おいて,一般に求められる相当な注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる客観的な事情により,本件追納期間内に特許料等を納付することができなかった場合に当たるものとは認められないから,正当な理由」「 があるとはいえない。」

2 当審における控訴人の補充主張に対する判断

(1) 控訴人は,特許情報プラットフォームが存在することにより一般に求めら

れる相当な注意を尽くしていたといえないと解釈すると,特許情報プラットフォームで情報提供されている権利の期日徒過は,回復の余地がなくなるから,平成23年法律第63号による改正により,法112条の2第1項による救済を認める要件を緩和した趣旨に反するなどと主張する。しかし,前記1のとおり補正して引用する原判決が認定説示するとおり,本件期間徒過について「正当な理由」があるとはいえないことは,特許情報プラットフォームが存在することのみを理由とするものではないから,控訴人の主張は,理由がない。

(2) 控訴人は,平成23年法律第63号による法112条の2第1項の改正で

は,救済による第三者への手当もされているから,例えば,特許により利益などが得られた場合に初めて救済を申し立てるような脱法的な者を除き,一定の期間的制限の範囲内で,通常の権利維持の意思があると認められる者には,「うっかり忘れてしまった」なども含め,救済を許容すべきであると主張する。しかし,前記1のとおり補正して引用する原判決が認定説示するとおり,上記改正においては,特許法条約が,手続期間を徒過した場合の救済を認める要件として,「Due Care(いわゆる『相当な注意』)を払っていた」又は「Unintentional(いわゆる『故意ではない』)であった」のいずれかを選択することを認めていたところ,第三者の監視負担にも配慮しつつ,「Unintentional」ではなく,「Due Care」を採用したのであるから,控訴人の主張は,このような改正経緯に沿わないものであって,採用の限りでない。

(3) その他控訴人の主張するその余の事情を考慮しても,本件期間徒過につい

て「正当な理由」があるとはいえないという結論を左右するものではない。

第4 結論

以上によると,控訴人の請求を棄却した原判決の結論は相当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第2部裁判長裁判官森 義 之裁判官森 岡 礼 子裁判官古 庄 研(別紙省略)

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