ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成29(ワ)28884 特許権侵害差止等請求事件
裁判所 | 認容 東京地方裁判所 |
---|---|
裁判年月日 | 平成30年11月28日 |
事件種別 | 民事 |
対象物 | 敗血症及び敗血症様全身性感染の検出のための方法20及び物質 |
法令 |
特許権 特許法101条5号5回 特許法101条4号2回 特許法36条4項1号2回 特許法100条1項1回 特許法102条3項1回 特許法36条1回 |
キーワード | 実施14回 侵害9回 間接侵害8回 新規性7回 進歩性5回 特許権5回 無効4回 優先権2回 無効審判2回 差止2回 損害賠償1回 |
主文 | 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。事 実 及 び 理 由10第1 請求 1 被告は,別紙物件目録記載1の装置を製造し,譲渡し,輸入し,貸し渡し又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。 2 被告は,別紙物件目録記載2のキットを製造し,譲渡し,輸入し,譲渡の申出をしてはならない。15 3 被告は,その占有に係る第1項及び第2項記載の各製品を廃棄せよ。 4 被告は,原告に対し,900万円及びこれに対する平成29年9月2日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。第2 事案の概要 1 本件は,発明の名称を「敗血症及び敗血症様全身性感染の検出のための方法20及び物質」とする特許第5215250号の特許権(以下「本件特許権」といい,この特許を「本件特許」という。また,本件特許の願書に添付した明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。)を有する原告が,別紙物件目録記載1の装置(以下「被告装置」という。)及び同目録記載2のキット(以下「被告キット」という。)を用いる敗血症及び敗血症様全身性感染(以下「敗血症等」という。)の25検出に係る方法(以下「被告方法」という。)は本件特許の特許請求の範囲請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)の技術的範囲に属するとして,被告において被告装置の製造,譲渡,輸入,貸渡し,譲渡又は貸渡しの申出(以下「製造等」という。)をする行為は,特許法101条5号の間接侵害に当たり,被告において被告キットの製造等(ただし,被告キットについては貸渡し及び貸渡しの申出を除く。以下同じ。)をする行為は,同条4号の間接侵害に当たると主張して,被5告に対し,特許法100条1項に基づき,被告装置及び被告キットの製造等の差止め,同条2項に基づき,被告装置及び被告キットの廃棄を求めるとともに,不法行為による損害賠償請求権に基づき,900万円及びこれに対する不法行為後の日である平成29年9月2日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。10 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)⑴ 当事者ア 原告は,ドイツ連邦共和国の法人であり,分析機器,診断用試薬等の製造,販売,輸出等を業としている。15イ 被告は,医療用具及びその付属機器,化学及び物理の分野で使用する分析装置及び計測器並びに体外診断薬及び産業用試薬の輸入,卸売,販売等を業とする株式会社である。⑵ 本件特許権ア 原告は,本件特許権を有しており,その出願日等は,次のとおりである。20特 許 番 号 特許第5215250号登 録 日 平成25年3月8日発 明 の 名 称 敗血症及び敗血症様全身性感染の検出のための方法及び物質出 願 日 平成21年6月26日出 願 番 号 特願2009-15284425優 先 日 平成10年10月15日優先権主張番号 198 47 690.6優 先 権 主 張 国 ドイツイ 本件特許の特許請求の範囲請求項1は,次のとおりである。「患者の血清中でプロカルシトニン3-116を測定することを含む,敗血症及び敗血症様全身性感染を検出するための方法。」5⑶ 構成要件の分説本件発明は,次のとおり,構成要件に分説することができる(以下,分説に係る各構成要件を符号に対応させて「構成要件A」などという。)。A 患者の血清中でプロカルシトニン3-116を測定することを含む,B 敗血症及び敗血症様全身性感染を検出するための方法。10⑷ 被告の行為被告は,平成28年9月頃から,被告装置を輸入し,日本国内の医療機関,研究機関等に対して,譲渡,貸渡し,譲渡又は貸渡しの申出をしている。被告は,被告キットを輸入し,日本国内の医療機関,研究機関等に対して,譲渡,譲渡の申出をしている。15⑸ 被告方法ア 被告装置は,全血又は血漿検体中の成分を,光の照射を受けると蛍光を放出する性質を有する試薬と反応させ,試薬から発せられる蛍光強度を検出する方法によって抗原及び抗体の量を測定する装置であり,被告キットは,プロカルシトニンを検出するために用いられる被告装置の専用試薬である。20被告装置及び被告キットを使用すると,患者の全血又は血漿検体中において,プロカルシトニン3-116とプロカルシトニン1-116を区別することなく,いずれをも含み得るプロカルシトニンの濃度は測定することができ,医療機関等において,その測定結果が敗血症の鑑別診断等に使用されている(甲3ないし11,弁論の全趣旨)。25イ プロカルシトニン1-116は,合計116個のアミノ酸からなるタンパク質であり,そのN末端(アミノ末端)側から数えて1番目及び2番目(以下,プロカルシトニンを構成するアミノ酸の順番については,いずれもN末端側から数えたものを示す。)のアミノ酸であるアラニン及びプロリンが欠落した部分ペプチドがプロカルシトニン3-116である(弁論の全趣旨)。 3 争点5⑴ 被告方法は本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)⑵ 特許法101条5号及び同条4号の間接侵害の成否(争点2)⑶ 本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか(争点3)ア 本件発明は特表平8-501151号公報により新規性又は進歩性を欠くか(争点3-1)10イ 本件特許は特許法36条4項1号に違反しているか(争点3-2)⑷ 損害の発生の有無及びその額(争点4)第3 争点に対する当事者の主張 1 争点1(被告方法は本件発明の技術的範囲に属するか)【原告の主張】15⑴ 「プロカルシトニン3-116を測定すること」の意義「プロカルシトニン3-116を測定すること」は,プロカルシトニン3-116を敗血症等の検出に必要な精度で測定ないし検出することができれば,プロカルシトニン3-116だけを特異的・選択的に測定することに限られず,プロカルシトニン3-116とプロカルシトニン1-116及びその他のプロカルシトニン由20来の部分ペプチドとを区別することなく測定することも含む。敗血症等の患者の血清中からはプロカルシトニン3-116が必ず高濃度で検出されることが本件特許により明らかにされたのであり,これを踏まえれば,プロカルシトニン3-116とプロカルシトニン1-116及びその他のプロカルシトニン由来の部分ペプチドを区別することなく測定する方法によっても,プロカルシトニン3-116を検出25できれば,敗血症等を検出することはできる。⑵ 被告方法被告は,被告装置及び被告キットを医療機関等に提供することにより,患者の血清中でプロカルシトニン3-116を測定し,もって,敗血症等を検出するという方法(被告方法)を実施させている。被告装置及び被告キットを使用すれば,検体中のプロカルシトニンが定量測定さ5れるから,被告方法は,患者の血清中のプロカルシトニン3-116だけを特異的・選択的に測定することに限らず,プロカルシトニン3-116とプロカルシトニン1-116及びその他のプロカルシトニン由来の部分ペプチドを区別することなく測定することを含むものであり,また,プロカルシトニン3-116は患者の血清中に存在するものであるから,被告方法は,「患者の血清中でプロカルシトニ10ン3-116を測定する」ものである。⑶ 小括したがって,被告方法は,構成要件A,Bをいずれも充足し,本件発明の技術的範囲に属する。【被告の主張】15プロカルシトニン3-116とプロカルシトニン1-116を区別することなく測定する方法であっても構成要件Aを充足するとする原告の主張は否認する。被告方法により,全血及び血漿検体中のプロカルシトニン3-116とプロカルシトニン1-116が区別されることなく測定され,敗血症等を検出することができるが,プロカルシトニン3-116だけを特異的,選択的に測定することができ20るものではない。被告装置及び被告キットを用いて,プロカルシトニン3-116の存在及び量を検出ないし測定することはできない。以上より,被告方法は,本件発明の技術的範囲に属するとはいえない。 2 争点2(特許法101条5号及び同条4号の間接侵害の成否)【原告の主張】25⑴ 被告装置被告装置は,被告方法の使用に用いる物であり,本件発明の課題解決に不可欠なものであって,被告は,本件発明が特許発明であること及び被告装置が本件発明の実施に用いられることを知っていた。したがって,被告が,業として,被告装置の製造等をする行為は特許法101条5号の間接侵害に当たる。⑵ 被告キット5被告キットは,被告方法の使用のみに用いられるものであるから,被告が,業として,被告キットの製造等をする行為は,特許法101条4号の間接侵害に当たる。【被告の主張】⑴ 被告装置被告が被告装置を製造していることは否認し,被告の行為が特許法101条5号10の間接侵害に当たるとする原告の主張は争う。⑵ 被告キット被告が被告キットを製造していることは否認し,被告の行為が特許法101条4号の間接侵害に当たるとする原告の主張は争う。 3 争点3(本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか)15⑴ 争点3-1(本件発明は特表平8-501151号公報により新規性又は進歩性を欠くか)【被告の主張】構成要件Aの「プロカルシトニン3-116を測定すること」が,プロカルシトニン3-116とプロカルシトニン1-116を区別することなく測定することを20含むと解した場合,以下のとおり,本件発明は,特表平8-501151号公報(乙1。以下「乙1公報」という。)記載の発明(以下「乙1発明」という。)により新規性又は進歩性を欠く。ア 乙1公報には,敗血症の検出方法として,プロカルシトニン又はその部分ペプチドを測定する方法が記載されており,この測定方法によれば,プロカルシトニ25ン1-116のみならずプロカルシトニン3-116も必然的に測定されることになるから,本件発明と同一である。本件発明は方法の発明であり,乙1公報にプロカルシトニン3-116が具体的に記載されているかどうかにかかわらず,同一の発明が開示されているというべきであって,本件発明は新規性を欠く。イ また,乙1公報には,敗血症マーカーとなるペプチドとして,プロカルシトニンから形成される部分ペプチドであり,57個以上のアミノ酸からなり,プロカ5ルシトニンの部分配列を有し,96番目から116番目までのアミノ酸領域であるカタカルシン領域のうちの96番目から107番目までの部分を認識する第1の抗体と,60番目から91番目までのアミノ酸領域であるカルシトニン領域のうちの70番目から76番目までの部分を認識する第2の抗体とを用いたイノムアッセイによって検出可能なものが開示されており,プロカルシトニン3-116も含まれ10ている。このように,乙1公報には,プロカルシトニン1-116から形成され得る部分ペプチドがプロカルシトニン3-116を含めて開示されており,本件発明は新規性を欠く。ウ さらに,プロカルシトニン3-116において,プロカルシトニン1-11156から欠落したアラニン及びプロリンが,酵素である「Dipeptidyl Peptidase-IV」(以下「DPP-Ⅳ」という。)によって生体内のタンパク質から切断され得ることは,本件特許の優先日当時,周知であった(乙5)。したがって,本件発明が新規性を有すると解したとしても,本件発明は,上記の周知技術と乙1発明に基づき容易に発明をすることができたものであり,進歩性を20欠く。【原告の主張】本件発明は乙1発明により新規性又は進歩性を欠くとはいえない。その理由は以下のとおりである。ア 乙1公報には,敗血症の検出手段として,プロカルシトニン1-116,C25-プロカルシトニン(プロカルシトニン60-116),109番目から116番目までのアミノ酸のいずれかがプロカルシトニン1-116と異なるペプチド,C末端アミノ酸領域の108番目から116番目までのアミノ酸にプロカルシトニン1-116から逸脱があったペプチドを測定対象とすることが開示されているにすぎず,プロカルシトニン3-116を測定対象とするものは開示されていない。また,乙1公報に開示されているプロカルシトニンの変異体は,いずれもC末端5側のアミノ酸領域が変異したものであって,プロカルシトニン3-116のようなN末端側のアミノ酸領域の変異及びその可能性については記載も示唆もされていない。イ 被告が指摘する文献(乙5)には,DPP-Ⅳが生体内のプロカルシトニン1-116に作用してアラニン及びプロリンを切断し得ることは記載されておらず,10DPP-Ⅳが敗血症患者の生体内にあるプロカルシトニン1-116に作用するかも不明であるから,被告が主張するような周知技術は存在しない。⑵ 争点3-2(本件特許は特許法36条4項1号に違反しているか)【被告の主張】本件発明が,本件明細書の段落【0023】及び【0027】(以下,本件明細15書の段落については,単に【0023】などという。)に記載された市販のプロカルシトニンアッセイである「LUMItest PCT, B.R.A.H.M.S. Diagnostica」(以下「本件測定装置」という。)を用いることで実施可能であるとすると,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明を実施するために必要な本件測定装置の構成は開示されておらず,また,本件測定装置を用いたプロカルシトニンの測定方法は,20本件特許の出願前に公然知られたものではなく,公然実施されたものでもなかったから,本件特許の出願当時,当業者は,本件発明を実施することができなかったか,本件発明を実施するに当たって過度の試行錯誤を要した。したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載していたとはいえず,本件特許は特許法36条425項1号に違反している。【原告の主張】本件測定装置が,本件特許の出願当時に公然知られたものではなく,公然実施されたものでなかったとしても,免疫測定法の一種であることは当業者に明らかであったから,本件明細書の発明の詳細な説明には,敗血症等の患者の血中におけるプロカルシトニン3-116の濃度を免疫測定法により測定することが記載されてい5たといえる。また,免疫測定法に用いる免疫試薬は,一般に,抗原タンパク質の構造が特定されれば技術常識により容易に得られるから,プロカルシトニン3-116に対する免疫試薬を作製し,免疫測定法に基づき本件発明を実施することは,当業者に容易であった。10したがって,本件特許は特許法36条4項1号に違反しているとはいえない。 4 争点4(損害の発生の有無及びその額)【原告の主張】被告装置及び被告キットの平成28年9月1日から平成29年8月25日までの売上額は1800万円を下らず,また,本件発明の実施に対する相当な実施料率は15売上額の50%を下らない。したがって,特許法102条3項に基づく原告の損害額は,少なくとも900万円である。【被告の主張】否認ないし争う。20第4 当裁判所の判断 1 本件発明について⑴ 本件明細書の発明の詳細な説明本件明細書の発明の詳細な説明は,概要,次のとおりであり,図1,図2は,別紙図面(本件明細書)記載1及び2のとおりである(甲2)。25ア 技術分野「本発明は,敗血症及び敗血症様全身性感染において,プロカルシトニン又はプロカルシトニンの部分ペプチド(partial peptides)の発生に関係する,新規な,実験的に確認された発見から導かれる,新規な診断及び治療の可能性に関する。」(【0001】)イ 背景技術5「特許DE 42 27 454及びEP 0 656 121 B1及びUS 5,639,617は,敗血症の危険を有する患者及び敗血症の典型的な症候が見られる患者の血清又は血漿中のプロホルモンのプロカルシトニン及びそこから得られる部分ペプチドの測定が,早期検出にとって,すなわち敗血症に至らしめるかもしれない感染の検出及び非感染性の病因との鑑別,重大性の検出,及び,敗血症及び敗血症様全身性感染の治療の成果の評10価にとって,有益な診断手段であること開示している。…」(【0002】)ウ 発明が解決しようとする課題「プロカルシトニンは,カルシトニンのプレホルモンとして既知となっており,その完全なアミノ酸配列は古くから知られている(FEBS 167 (1984), 93-97頁)。プロカルシトニンは,甲状腺のC細胞において,通常の状態で産生されており,そ15れから,特異的開裂によってホルモンのカルシトニンになり,さらに,部分ペプチドのカタカルシン及び57のアミノ酸を含むN-末端残基(「アミノプロカルシトニン」)となる。」(【0006】)「…しかしながら,敗血症のケースで形成されるプロカルシトニンが甲状腺で形成されるプロカルシトニンと異なるのかどうかという疑問は,現在まで答えが得ら20れていない。あり得る違いは,既知のプロカルシトニンの,糖化(グリコシレーション),リン酸化あるいは一次構造の修飾等の翻訳後の修飾,さらに,変性した,短くされたあるいは長くされたアミノ酸配列であった。今日まで分析アッセイ方法は,カルシトニン前駆体として既知のプロカルシトニンと,敗血症の場合に形成されるプロカルシトニンとの間の違いを明らかにしなかったので,敗血症のケースで25形成されるプロカルシトニンは,カルシトニン前駆体と同一であり,ゆえに,既知の116アミノ酸のプロカルシトニン配列を有するペプチド(プロカルシトニン1-116)であると暫定的,一般的に見なされていた。」(【0008】)エ 課題を解決するための手段「しかしながら,出願人の研究室における測定によって明らかにされ,本出願の実験部分により詳細に説明されているように,敗血症のケースで形成されるプロカ5ルシトニンは,甲状腺で形成される完全なプロカルシトニン1-116とは,わずかだが重大な違いがある。見出された違いは,それから,新規な診断及び治療方法,そこで使用可能な物質,及び,遂行され得る科学的アプローチにおいて実施可能な多数の科学的結論を導き出した。」(【0009】)「本出願において開示される発明の開始点は,敗血症及び敗血症様全身性感染の10ケースにおいて患者血清中に比較的高濃度で検出可能なプロカルシトニンが,116のアミノ酸を含む完全なプロカルシトニン1-116ではなく,そのアミノ末端がジペプチド分短くなっているが他は同一であり,114のアミノ酸のみのアミノ酸配列を有するプロカルシトニン(プロカルシトニン3-116)であるという驚くべき発見である。」(【0010】)15オ 実施例(実験セクション)-敗血症患者の血清からの内因性プロカルシトニンペプチドの単離と確認「…重度の敗血症に苦しむ複数の患者からの血清サンプルを混合することによって,総容量68mlの混合血清が調製された。得られたプール血清中のプロカルシトニン濃度は,市販のプロカルシトニンアッセイ(LUMItest PCT, B.R.A.H.M.S.20Diagnostica)を用いて測定したところ,280ng/ml(総量19μg)であった。前記プール血清は,同量のバッファー…と混合し,そのサンプル中に含まれるプロカルシトニンを,アフィニティークロマトグラフィーによって単離及び精製した。」(【0023】)「この方法で集められた物質は,rpC18 カラムμBondapak 0.4×30mm25(Watersより)での逆相HPLCによって精製した。…」(【0025】)「そのカラム流出物は,214nmでの吸収によって持続的に測定され,0.25mlのフラクションが集められた。市販のプロカルシトニンアッセイ(LUMItest PCT,B.R.A.H.M.S. Diagnostica)を用いて,PCT免疫反応性を検出できたフラクションを決定した。主要な免疫反応性を有する部分が,シャープなバンドとして51番目のフラクションに溶離したことが見出された。加えて,不均一な組成及び低いPC5T免疫反応性を有するタンパク質フラクションが,39から49のフラクションにて得られた。」(【0027】)「図1は,前記rp HPLCの,集められた各フラクションについて決定され,溶離したフラクションの吸光度(OD)を示す曲線に重ね合わせたPCT免疫反応性(ngPCT/mlで表される)を示す。」(【0028】)10「ポジティブなプロカルシトニン免疫反応性を有する全てのフラクションを,窒素ガス処理によって乾燥させた。その後,それらのサンプルをマススペクトロメトリーで分析し,N-末端塩基配列決定を行った。」(【0029】)「前記マススペクトロメトリー分析(MSLDI-TOF法)では,図2に示されるプロファイルが,フラクション50-52に対して得られ,そのプロファイルから,1152640±15のモル質量という結果となった。マススペクトロメトリーで調べられた他のフラクション(36-49,53-59)はすべて,12640未満のモル質量で不均一な質量分布を示した。それらの個々の質量は,フラクション50-52の質量の強度と比べて2%未満の強度を与えた。このように,敗血症患者血清中のプロカルシトニン免疫反応性が,12640±15の質量と関連があることが20示された。」(【0030】)「フラクション36-59中に含まれるペプチドのN-末端塩基配列決定を行った。ここでも,フラクション36-49及び53-59の内容が不均一であると証明された。すなわち,N-末端の多様性が測定された。」(【0031】)「その優勢なプロカルシトニン免疫反応性がわかったフラクション50-52で25は,そこに含まれるペプチドが明らかに以下のN-末端(15のアミノ酸):PheArg Ser Ala Leu Glu Ser Ser Pro Ala Asp Pro Ala Thr Leuを有することが明らかになった。」(【0032】)「既知のプロカルシトニン1-116のアミノ酸3-116の配列と完全に対応した配列が得られた。その配列の理論上の質量は12627であったが,これはマススペクトロメトリーにより測定された12640±15の質量と一致する。」5(【0034】)「したがって,114のアミノ酸を含み且つプロカルシトニン3-116としてデザインされたプロカルシトニンペプチドが敗血症患者の血液中を循環することが示された。…」(【0035】)「前記プロカルシトニン3-116は,可能性のある内因性プロカルシトニン部10分ペプチドとしては,現在に至るまで科学論文で論じられておらず,それゆえに,当業者にとって,今日までに,具体的に,このペプチドを調製し,その性質についてそれを調べる理由もない。しかしながら,上記発見は,今や,遺伝子工学技術によって前記プロカルシトニン3-116の具体的な調製の理由をもたらしている。…」(【0036】)15⑵ 本件発明の概要前記第2の2⑵イ認定の本件特許の特許請求の範囲,前記⑴認定の本件明細書の発明の詳細な説明及び図面に照らせば,本件発明の概要は次のとおりであると認められる。ア 本件発明は,敗血症等において,プロカルシトニン又はその部分ペプチドの20発生に関係する診断及び治療の可能性に関する(【0001】)。イ 従来技術として,敗血症の危険を有する患者及び敗血症の典型的な症候が見られる患者の血清又は血漿中のプロカルシトニン及びそこから得られる部分ペプチドの測定が,早期検出にとって有益な診断手段であることが知られていたが,敗血症のケースで形成されるプロカルシトニンが甲状腺のC細胞において形成されるプ25ロカルシトニン1-116と異なるかどうかは明らかでなかった(【0002】,【0006】,【0008】)。ウ 本件発明は,敗血症等の患者の血清中に比較的高濃度で検出可能なプロカルシトニンが,プロカルシトニン1-116ではなく,プロカルシトニン3-116であることが実験的に確認されたことを踏まえ,そこから導かれる新規な敗血症等の検出方法を提供することを目的とするものである(【0001】,【0009】,5【0010】)。 2 争点1(被告方法は本件発明の技術的範囲に属するか)について⑴ 「プロカルシトニン3-116を測定すること」の意義ア 構成要件Aは「患者の血清中でプロカルシトニン3-116を測定することを含む」というものであるところ,一般に,「測定」に,長さ,重さ,速さといっ10た種々の量を器具や装置を用いてはかるという字義があることからすると,「プロカルシトニン3-116を測定すること」は,プロカルシトニン3-116の濃度等の量を明らかにすることを意味すると解するのが文言上自然である。また,前記1⑵認定のとおり,本件発明は,敗血症等の患者の血清中に比較的高濃度で検出可能なプロカルシトニンがプロカルシトニン1-116ではなく,プロ15カルシトニン3-116であることが確認されたことを踏まえて新規な敗血症等の検出方法を提供することを目的とするものであり,このような本件発明の目的に照らせば,本件発明は,患者の血清中においてプロカルシトニン3-116が比較的高濃度で検出されるか否かを見ることを可能とすることが求められているということができる。20以上から,構成要件Aの「プロカルシトニン3-116を測定すること」は,プロカルシトニン3-116の濃度等の量を明らかにすることを意味すると解するのが相当である。イ この点につき,原告は,「プロカルシトニン3-116を測定すること」は,プロカルシトニン3-116を敗血症等の検出に必要な精度で測定ないし検出する25ことができれば,プロカルシトニン3-116だけを特異的,選択的に測定することに限られず,プロカルシトニン3-116とプロカルシトニン1-116及びその他のプロカルシトニン由来の部分ペプチドとを区別することなく測定することも含むと主張しており,その意味するところは明確でないが,血清中のプロカルシトニン3-116を検出しさえすれば足りるものである旨の主張であるとすれば,それはプロカルシトニン3-116の存在を明らかにすることで足り,その量を明ら5かにすることは必要ではないことをいうものであって,前記アでみた「測定」の文言の解釈に反するものであり,採用することができない。また,血清中のプロカルシトニン3-116とプロカルシトニン1-116等とを区別することなく測定することがプロカルシトニン3-116を測定することに該当すると主張するものであると解しても,そのような測定方法では,血清中にプ10ロカルシトニン3-116が存在するかも明らかにならず,もとより,血清中のプロカルシトニン3-116の量も確認できないから,これを「プロカルシトニン3-116を測定すること」に該当するというのは文言上困難である。⑵ 被告方法前記第2の2⑸ア認定のとおり,被告装置及び被告キットを使用すると,患者の15検体中において,プロカルシトニン3-116とプロカルシトニン1-116とを区別することなく,いずれをも含み得るプロカルシトニンの濃度を測定することができ,その測定結果に基づき敗血症の鑑別診断等が行われていると認められるものの,本件全証拠によっても,被告装置及び被告キットを使用して敗血症等を検出する過程で,プロカルシトニン3-116の量が明らかにされているとは認められず,20更にいえば,プロカルシトニン3-116の存在自体も明らかになっているとはいえない。したがって,被告方法は,構成要件Aの「プロカルシトニン3-116を測定する」を充足するとはいえない。⑶ 小括25よって,被告方法は,本件発明の技術的範囲に属するとはいえない。第5 結論以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第29部5裁判長裁判官山 田 真 紀裁判官伊 藤 清 隆裁判官西 山 芳 樹(別紙)当事者目録原 告 ベー・エル・アー・ハー・エム・エス・ゲーエムベーハー5同訴訟代理人弁護士 古 城 春 実同 牧 野 知 彦同訴訟代理人弁理士 松 谷 道 子同 田 村 啓同 呉 英 燦10同 補 佐 人 弁 理 士 坂 田 啓 司被 告 ラ ジ オ メ ー タ ー 株 式 会 社同訴訟代理人弁護士 北 原 潤 一同 米 山 朋 宏同訴訟代理人弁理士 小 林 浩15同 補 佐 人 弁 理 士 杉 山 共 永(別紙)物件目録 1 移動式免疫蛍光分析装置「AQT90FLEXシステム」 2 プロカルシトニンキット「プロカルシトニンAQTテストキット」5(別紙)図面(本件明細書) 1 図1 2 図2 |
事件の概要 | 1 本件は,発明の名称を「敗血症及び敗血症様全身性感染の検出のための方法20 及び物質」とする特許第5215250号の特許権(以下「本件特許権」といい, この特許を「本件特許」という。また,本件特許の願書に添付した明細書及び図面 を併せて「本件明細書」という。)を有する原告が,別紙物件目録記載1の装置 (以下「被告装置」という。)及び同目録記載2のキット(以下「被告キット」と いう。)を用いる敗血症及び敗血症様全身性感染(以下「敗血症等」という。)の25 検出に係る方法(以下「被告方法」という。)は本件特許の特許請求の範囲請求項 1に係る発明(以下「本件発明」という。)の技術的範囲に属するとして,被告に おいて被告装置の製造,譲渡,輸入,貸渡し,譲渡又は貸渡しの申出(以下「製造 等」という。)をする行為は,特許法101条5号の間接侵害に当たり,被告にお いて被告キットの製造等(ただし,被告キットについては貸渡し及び貸渡しの申出 を除く。以下同じ。)をする行為は,同条4号の間接侵害に当たると主張して,被5 告に対し,特許法100条1項に基づき,被告装置及び被告キットの製造等の差止 め,同条2項に基づき,被告装置及び被告キットの廃棄を求めるとともに,不法行 為による損害賠償請求権に基づき,900万円及びこれに対する不法行為後の日で |
本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。
特許裁判例 実用新案裁判例 |
意匠裁判例 商標裁判例 |
不正競争裁判例 著作権裁判例 |
特許判例 実用新案判例 |
意匠判例 商標判例 |
不正競争判例 著作権判例 |
12月1日(日) -
12月1日(日) -
12月2日(月) - 滋賀 草津市
新製品開発の「タネ」がみつかる!株式会社リコーによるシーズ発表会 ~リコーの技術(シーズ)やアイデアを使って新製品をつくりませんか?~
12月2日(月) -
12月4日(水) - 東京 千代田区
12月4日(水) - 東京 港区
12月4日(水) -
12月4日(水) - 大阪 大阪市
12月4日(水) -
12月4日(水) -
12月5日(木) - 東京 港区
12月5日(木) -
12月5日(木) -
12月5日(木) - 大阪 大阪市
【特別講演】第8回 前コミュ 生成AIでビジネスチャンスをつかむ前に、生成AI導入に待ち構える法的ハードルを越える方法 ~ つながりを育む出会いの場(知財ネットワーク交流会)~
12月6日(金) -
12月6日(金) - 愛知 豊橋市花田町
12月6日(金) -
12月1日(日) -
12月10日(火) - 東京 港区
12月10日(火) -
12月10日(火) - 東京 港区
12月11日(水) - 東京 港区
12月11日(水) -
12月11日(水) -
12月11日(水) -
12月11日(水) -
12月11日(水) -
12月12日(木) -
12月12日(木) - 東京 港区
12月12日(木) - 東京 品川
ビジネスの実務で役立つ技術契約の基礎知識と実例 ~秘密保持契約、共同研究開発、共同出願契約、製造委託契約、特許ライセンス契約~
12月12日(木) - 東京 千代田
12月12日(木) -
12月12日(木) -
12月13日(金) - 東京 23区
12月13日(金) - 東京 品川
12月13日(金) -
12月13日(金) -
12月14日(土) -
12月10日(火) - 東京 港区
東京都武蔵野市吉祥寺本町1丁目35-14-202 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 鑑定 コンサルティング
愛知県名古屋市中区平和一丁目15-30 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング
〒220-0004 横浜市西区北幸1-11-15 横浜STビル8階 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング