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平成30(行ケ)10101審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成30年12月19日
事件種別 民事
当事者 被告カンパニョロソチエタア
原告株式会社ブリヂストン
法令 商標権
商標法2条3項2号5回
商標法50条1回
商標法4条1項15号1回
商標法50条1項1回
キーワード 審決17回
商標権2回
許諾1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等 (1) 被告は,以下の商標(登録第5263495号。以下「本件商標」という。) の商標権者である(甲1,2)。 商 標 POTENZA(標準文字) 登録出願日 平成19年4月19日 設定登録日 平成21年9月4日 異議申立確定登録日 平成24年3月13日 指 定 商 品 第12類「競技用自転車の部品及び付属品(自転車の フレーム・タイヤ・チューブ・車輪・リム・スポーク を除く。)」(異議申立確定登録後のもの) (2) 原告は,平成28年4月4日,本件商標の商標登録について,商標法50 条1項所定の商標登録取消審判(以下「本件審判」という。)を請求し,同 月18日,その登録がされた(甲8)。 特許庁は,本件審判の請求を取消2016-300224号事件として審 理し,平成30年6月11日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との

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判決文

平成30年12月19日判決言渡
平成30年(行ケ)第10101号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成30年11月12日
判 決
原 告 株式会社ブリヂストン
訴訟代理人弁理士 本 多 敬 子
同 本 多 一 郎
同 脇 田 真 希
被 告 カンパニョロ ソチエタ ア
レスポンサビリタ リミタータ
訴訟代理人弁理士 小 川 利 春
同 中 村 信 彦
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が取消2016-300224号事件について平成30年6月11
日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
(1) 被告は,以下の商標(登録第5263495号。 「本件商標」
以下 という。)
の商標権者である(甲1,2)。
商 標 POTENZA(標準文字)
登録出願日 平成19年4月19日
設定登録日 平成21年9月4日
異議申立確定登録日 平成24年3月13日
指定商品 第12類「競技用自転車の部品及び付属品(自転車の
フレーム・タイヤ・チューブ・車輪・リム・スポーク
を除く。)」(異議申立確定登録後のもの)
(2) 原告は,平成28年4月4日,本件商標の商標登録について,商標法50
条1項所定の商標登録取消審判(以下「本件審判」という。)を請求し,同
月18日,その登録がされた(甲8)。
特許庁は,本件審判の請求を取消2016-300224号事件として審
理し,平成30年6月11日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との
審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月21日,原告に
送達された。
(3) 原告は,平成30年7月23日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提
起した。
2 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。その要旨は,被告
の通常使用権者である有限会社カンパニョーロジャパン(以下「本件日本法人」
という。 が,
) 本件審判の請求の登録前3年以内(以下「要証期間内」という。)
に,本件商標と社会通念上同一と認められる商標である,横長の白塗りの平行
四辺形が,やや厚みのある縦長で白塗りの平行四辺形の上に重なるように中心
で交差し,横長の平行四辺形中には「POTENZA」の欧文字が,縦長の平
行四辺形中には数字の「11」が表された態様から成る商標(甲14の1(審判
乙4の1),甲15(審判乙5),甲16(審判乙6)。以下「本件使用商標」
という。 を付した
) 「自転車用ギアクランク」(以下「本件使用商品」という。)
を輸入した行為は商標法2条3項2号の「商品に標章を付したものを輸入する
行為」に,本件使用商標を付した本件使用商品を「第32回全日本トライアス
ロン宮古島大会」の展示ブースにおいて展示した行為は同項8号の「商品に関
する広告に標章を付して展示する行為」にそれぞれ該当し,本件使用商品は,
「競技用の自転車用ギアクランク」であって,本件商標の指定商品の範疇の商
品であるから,被請求人(被告)は,要証期間内に,日本国内において,通常
使用権者が本件審判の請求に係る指定商品に含まれる本件使用商品について本
件商標を使用していたことを証明したものと認められるから,本件商標の登録
は,同法50条の規定により取り消すことはできないというものである。
3 取消事由
本件商標の使用の事実の判断の誤り
第3 当事者の主張
1 原告の主張
(1) 本件使用商標と本件商標の社会通念上同一性の判断の誤り
本件使用商標は,別紙記載のとおり,2種の略平行四辺形を前後に重ねて,
それぞれの中に「POTENZA」と「11」を配置した,統一感のあるス
タイリッシュなロゴデザインである。
被告は,本件使用商標の商標登録出願手続(商願2016-59143号。
甲20)において,拒絶理由通知を受けたため,本件使用商標の「11」を
含む部分は,変速機のギアの枚数が11枚である上位機種の自転車であるこ
とを示す大きな要素である旨の意見書(甲20)を提出している。また,被
告は,他の自転車用ギアクランクにも,「11」を含む部分と他の構成を組
み合わせた商標(甲21の1ないし4)を付して使用している。
このように「11」を含む部分は,被告の自転車用ギアクランクにおいて
11速を暗示させる識別標識として機能している。
加えて,「POTENZA」の部分は,特段特徴的な態様で表されている
とはいえず,他に比して目立っているような事情もないことからすると,本
件使用商標は,「POTENZA」,「11」,略平行四辺形の図形等の各
構成要素が一体として結合した態様によって識別性が発揮されており,本件
使用商標から「POTENZA」の部分だけを分離抽出することはできない。
さらに,本件使用商品に付された本件使用商標の隣には,「POTENZ
A」の部分と同じデザインで,横長の白塗りの「CAMPAGNOLO」の
欧文字が表された平行四辺形が配されており,これに接した需要者,取引者
は,本件使用商標と「CAMPAGNOLO」の欧文字が表された平行四辺
形の態様を含めた全体を使用商標と認識することもある。
以上によれば,本件使用商標は,「POTENZA」の標準文字からなる
本件商標とは明らかに異なり,本件商標と社会通念上同一とはいえない。
したがって,本件使用商標が本件商標と社会通念上同一であるとした本件
審決の判断は誤りである。
(2) 本件使用商品の指定商品該当性の判断の誤り
ア 原告は,原告の著名な登録商標である「POTENZA」(甲22)と
同一の標章について,第12類「二輪自動車・自転車並びにそれらの部品
及び附属品」を指定商品とする防護標章登録(商標登録第1569999
号の防護標章登録第2号・登録日平成24年4月27日。甲23)を受け
ている。
被告は,本件商標の商標登録に対する登録異議申立事件(異議2009
-900452号。以下「別件異議申立事件」という。甲30)において,
本件商標が商標法4条1項15号に該当するとの取消理由通知を受けたた
め,商標権の一部抹消登録申請により,指定商品を一部放棄し,「競走用
自転車の部品及び付属品(自転車のフレーム・タイヤ・チューブ・車輪・
リム・スポークを除く。)」にする予定であり,一部放棄後の指定商品は
同号に該当しないこと,日常的な短 中距離走行用に用いられるシティ車,

実用車,子供用自転車及び幼児用自転車を「一般用自転車」といい,スポ
ーツとしての長距離走行や,自転車競技,自転車を用いた職業等に用いら
れるマウンテンバイク,ロードレーサー,トラックレーサー,BMX車等
を「競走用自転車」ということなどを記載した平成23年6月13日付け
の商標登録異議意見書(甲29)を提出した。
そして,特許庁は,別件異議申立事件について,「競技用自転車は,競
技用としてその用途が限られ,かつ,専門性の高い商品」であると認定し
た上で,本件商標の指定商品中,「競技用自転車の部品及び付属品(自転
車のフレーム・タイヤ・チューブ・車輪・リム・スポークを除く。)」の
みについての商標登録を維持し,その余の指定商品についての商標登録を
取り消す旨の決定(以下「別件異議決定」という。甲30)をした。
これらの事情を勘案すると,本件商標の指定商品は,競技専用又はそれ
に近い商品を意図するものといえるから,「競技用としてその用途が限ら
れ,かつ,専門性の高い商品」と理解すべきである。
イ 本件使用商品は,雑誌で「ミドルグレード」のモデルとして紹介されて
いること(甲15),被告の取扱商品のグレードは,価格帯別に「SUP
ERRECORD」が最上位機種で,「RECORD」 「CHORUS」
, ,
「ATHENA」,「POTENZA」,「VELOCE」の順であり,
「SUPERRECORD」の価格は,本件使用商品のほぼ4倍であるこ
と(甲31,32)に照らすと,被告の最上位機種の「SUPERREC
ORD」と本件使用商品(「POTENZA」)とでは,商品の性能が格
段に異なり,その用途及び需要者の範囲も異なる。
加えて,本件使用商品は,競技専門の雑誌ではなく,自転車総合情報雑
誌や趣味系自転車雑誌に掲載されており(甲4,5,15,16),これ
らの雑誌に掲載される商品は,一般的な競技にも使用でき,通勤やサイク
リング等の日常的な用途にも使用できる商品であることからすると,本件
使用商品の主な需要者は,自転車愛好家であるといえる。
以上によれば,本件使用商品は,「競技用としてその用途が限られ,か
つ,専門性の高い商品」とはいえないから,本件商標の指定商品に該当し
ない。
したがって,本件使用商品が本件商標の指定商品の範囲に属するとした
本件審決の判断は誤りである。
(3) 本件使用商標の使用の判断の誤り
本件審決は,被告が本件日本法人に対して発行したインボイス(甲17)
及び本件日本法人が「第32回全日本トライアスロン宮古島大会」で本件使
用商品を展示した事実(甲13の1・2,14の1・2)に基づき,本件使
用商品が日本に輸入されたと判断した。
しかし,本件審決掲記の証拠から,本件使用商品が日本に輸入されたこと
を認めることはできないから,本件審決の上記判断は誤りである。
また,本件日本法人が「第32回全日本トライアスロン宮古島大会」にお
いて本件使用商標を付した本件使用商品を譲渡又は引渡しのために展示した
との被告の主張の立証はない。
(4) 小括
以上によれば,被告は,要証期間内において,日本国内において,通常使
用権者が本件審判の請求に係る指定商品に含まれる商品に本件商標と同一の
商標を使用したことを証明したとはいえないから,本件商標の登録は,商標
法50条の規定により取り消されるべきである。
2 被告の主張
(1) 本件使用商標と本件商標の社会通念上同一性の判断の誤りの主張に対し
ア 本件使用商標は,別紙記載のとおり,次のように構成された態様からな
る。
A 横長の白塗りの平行四辺形が,やや厚みのある縦長で白塗りの平行四
辺形の上に重なるように中心で交差する。
B 横長の平行四辺形中には,「POTENZA」の欧文字が,表示され
る。
C 縦長の平行四辺形中には,数字の「11」が,表示される。
D 欧文字「POTENZA」が表示された横長の平行四辺形は,数字の
「11」が表示された縦長の平行四辺形とは,欧文字「POTENZA」
の中央に位置する文字「E」が表示された箇所において,背後で縦長の
平行四辺形と交差する。
E 縦長の平行四辺形中に表示された数字の「11」は,上に重なった横
長の平行四辺形により中央で上下に分断されて数字の一部が隠された状
態で表示される。
イ 本件使用商標においては,数字の「11」の部分が,その中央で上下に
分断され,一部が隠された状態で表示されているのに対し,横長の白塗り
の平行四辺形内に表示された欧文字の「POTENZA」の部分が,強調
されて表示されているので,「POTENZA」の部分が自他商品識別標
識としての機能を有する。
「POTENZA」の部分が表されている平行四辺形は,ありふれた形
状であり,本件使用商標に接した需要者は,「POTENZA」の部分の
単なる背景図形として認識するといえるから,「POTENZA」の部分
の自他商品識別標識としての機能に何ら影響を与えるものではない。
そして,「POTENZA」の部分は,特段特徴的な態様で表されてい
るとはいえず,本件商標と同一の文字つづりからなるものであるから,本
件使用商標は,本件商標と社会通念上同一の商標である。
ウ(ア) これに対し原告は,本件使用商標の「11」を含む部分は,被告の
自転車用ギアクランクにおいて11速を暗示させる識別標識として機能
しているなどとして,本件使用商標から「POTENZA」の部分だけ
を分離抽出することはできない旨主張する。
しかし,「POTENZA」の部分は,他の構成要素と分離すること
が不自然というほど一体に表されているとはいえないし,また,本件使
用商標に接した需要者が,「POTENZA」の部分と数字の「11」
の部分とを結び付けて把握することは不自然であるから,原告の上記主
張は理由がない。
(イ) また,原告は,需要者,取引者は,本件使用商品に付された本件使
用商標と「CAMPAGNOLO」の欧文字が表された平行四辺形の態
様を含めた全体を使用商標と認識することもある旨主張する。
しかし,「POTENZA」の欧文字が表されている平行四辺形と,
その隣の「CAMPAGNOLO」の欧文字が表されている平行四辺形
とは分断されていること,「POTENZA」と「CAMPAGNOL
O」とは全体の文字数が17文字に及び,一体として把握するには多す
ぎること,「CAMPAGNOLO」が被告の名称であることを考慮す
ると,本件使用商標は,「CAMPAGNOLO」とは区別されてそれ
自体認識されるというべきであるから,原告の上記主張は理由がない。
(2) 本件使用商品の指定商品該当性の判断の誤りの主張に対し
自転車競技については,世界的な競技ばかりでなく,初心者や趣味として
競技を行っている競技者を含め,様々なレベルの競技者が参加できる競技が
行われていることは一般に知られているところであり,本件商標の指定商品
である「競技用自転車の部品及び付属品(自転車のフレーム・タイヤ・チュ
ーブ・車輪・リム・スポークを除く。)」は,これらの競技用自転車の部品
及び付属品であり,世界選手権のレース等の専用品に限定しなければならな
いとする理由はない。
また,原告の防護標章の登録日は平成24年4月27日であるのに対し,
本件商標の登録日は,上記登録日より前の平成21年9月4日であることか
らすると,本件商標の指定商品が,別件異議決定によって,「競技用自転車
の部品及び付属品(自転車のフレーム・タイヤ・チューブ・車輪・リム・ス
ポークを除く。)」に縮減されたからといって,「競技用」の意味を原告の
主張のように狭く解釈すべき理由はない。
したがって,競技用の自転車用ギアクランク(クランクセット)である本
件使用商品が本件商標の指定商品に含まれるとした本件審決の判断に誤りは
ない。
(3) 本件使用商標の使用の判断の誤りの主張に対し
本件商標の通常使用権者である本件日本法人は,平成28年1月31
日ころ,本件使用商標を付した本件使用商品(黒色)(甲13の1,1
4の1,15,16)を輸入し(甲17,乙4),同年4月15日ころ,
第32回全日本トライアスロン宮古島大会会場内で,被告の名称が表示さ
れたバナーとテントで飾り付けられた展示ブースにおいて,譲渡又は引渡し
のために展示した。
そして,被告は,競技用自転車の部品メーカーとして認識されていること
(甲18),第32回全日本トライアスロン宮古島大会の会場内において,
本件使用商品が展示されていたことからすると,需要者は,本件使用商品を
競技用の自転車用ギアクランク(クランクセット)と認識したとみるのが自
然である。
したがって,本件日本法人の上記行為は,本件使用商品に本件使用商標を
付したものを輸入する行為及び譲渡又は引渡しのために展示する行為として,
商標法2条3項2号の使用に該当する。
(4) 小括
以上によれば,被告は,要証期間内に,日本国内において,通常使用権者
である本件日本法人が,本件審判の請求に係る指定商品に含まれる本件使用
商品に本件商標と同一の商標(社会通念上同一の商標)を使用したことを証
明したものといえるから,原告主張の取消事由は理由がない。
第4 当裁判所の判断
1 認定事実
証拠(甲6,13ないし19,21,乙2ないし7(枝番のあるものは枝番
を含む。))及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められ,これに
反する証拠はない。
(1) 被告は,競技用の自転車部品の製造,販売等を業とするイタリア法人であ
る。
本件日本法人は,被告の子会社であり,被告から本件商標の通常使用権の
許諾を受けた通常使用権者である。
(2) 被告は,2016年(平成28年)1月29日,送付業者をディー・エイ
チ・エル インターナショナル エス・アール・エルと記載した,「POT
ENZA BL 11S crankset L.172.5 34-50」
(POTENZA ブラック 11S クランクセット 長さ172.5㎜
34-50)1個1万4399.68円を含む商品の本件日本法人あてのイ
ンボイス(甲17,乙6)を発行した。
ディー・エイチ・エル・ジャパン株式会社は,同月31日ころ,本件日本
法人に対し,品名「P/T.ACC OF MOTORCYCLE」の貨物
について,輸入許可日を「31/01/2016」とする輸入関税等を立替
納付した旨の支払確認書(乙4)を発行した。
(3) 本件日本法人は,平成28年4月17日,沖縄県宮古島市で開催された「第
32回全日本トライアスロン宮古島大会」の会場内の展示場に出展し,「C
ampagnolo」の表示が付されたテント及びバナースタンドを設置し
た展示ブースにおいて,テント内の台の上に,別紙記載の本件使用商標が付
された自転車用ギアクランク(クランクセット)(本件使用商品)を含む自
転車部品を並べて展示(甲13の1,14の1,乙3の添付写真1及び2)
した。
「第32回全日本トライアスロン宮古島大会」は,スイム,バイク,ラン
の3種目で行われたトライアスロン大会であり,国内外の有力選手を含め,
1546人(乙5)が出場した。
(4) 雑誌「BiCYCLE CLUB 6 2016 June」(平成28年4月2
0日発行。甲15)に,本件使用商標を付した「自転車用ギアクランク」の
写真とともに,「カンパニョーロ新型機種が日本にいよいよ上陸!」との見
出しの下に,「イタリアのカンパニョーロ。1933年の創業からドライブ
トレイン発展の歴史をつねにリードし,数々の名作を生み出してきた。その
性能はツール・ド・フランスをはじめ,数々のビッグレースでの勝利で実証
され,レーシングコンポーネントとして不動の地位を築いた。…今回,カン
パニョーロの新作がスペインで世界のメディアに向けに発表された。注目を
集めたのは,8年ぶりとなる新型ミドルグレードのグループセット「ポテン
ツァ11」の誕生。」,「新ラインナップに加わったポテンツァ11は,ス
ーパーレコードに採用されているエンブレイステクノロジーをはじめとした,
トップグレードの性能とデザインを継承した機械式アルミグループセット
だ。」,「ハードな変速ラインにも対応するレーシングパーツ」などと記載
した記事が掲載された。
また,雑誌「CYCLE SPORTS 2016 6」(平成28年4
月20日発行。甲16)に,本件使用商標を付した「自転車用ギアクランク」
の写真とともに,「CRANKSET」,「剛性の適正化で変速性能が向上」
との見出しの下に,「アルミ中空構造によって上位機種と同様のデザインを
実現。4アーム構造は,…クランク本体とチェーンリングのたわみを抑制」
などと記載した記事が掲載された。
2 本件使用商標と本件商標の社会通念上の同一性について
(1)ア 平成28年4月17日に開催された「第32回全日本トライアスロン宮
古島大会」の会場内の本件日本法人の展示ブースにおいて,別紙記載の本
件使用商標が付された自転車用ギアクランク(本件使用商品)が展示され
たことは,前記1(3)認定のとおりである。
本件使用商品は,全体が黒色で,柄の部品(クランク)単体と歯車部品
(チェーンリング)の中央に取り付けられた柄の部品(クランク)とから
なるクランクセット(甲13の1,14の1,16)である。
イ 本件使用商品の柄の部品(クランク)の中央には,横長の白塗りの平行
四辺形内に黒色のデザイン化された文字で表された「POTENZA」の
欧文字と,「POTENZA」の欧文字の4文字目の「E」が表された箇
所の背後に重なるように交差する縦長の白塗りの平行四辺形内に黒色で表
された「11」の数字とからなる,別紙記載の本件使用商標(甲14の1,
15,16)が付されている。
しかるところ,「POTENZA」の欧文字部分は,横長の白塗りの平
行四辺形内に横書きで表されているのに対し,「11」の数字部分は,縦
長の白塗りの平行四辺形内に縦書きで表示されていること,「11」の数
字部分は,上に重なった「POTENZA」の欧文字部分を表する横長の
平行四辺形によって中央で上下に分断され,数字の一部が隠されているの
に対し,「POTENZA」の欧文字部分は,分断された「11」の数字
部分の前面に表されていることからすると,「POTENZA」の欧文字
部分は,他の構成要素と分離して観察することが取引上不自然と思われる
ほど不可分的に結合しているとはいえない。
そして,「POTENZA」の欧文字部分は,「11」の数字部分の前
面の目につきやすい位置にまとまりよく配置されており,本件使用商標全
体から「ポテンザ」あるいは「ポテンツァ」の称呼が自然に生じることか
らすると,「POTENZA」の欧文字部分は,その部分のみから自他商
品識別標識としての機能を発揮しているものと認められる。
一方で,「11」の数字部分は,上記のとおり,中央で上下に分断され,
数字の一部が隠されており,注視しなければ,数字の「11」と判読でき
ないことに照らすと,「11」の数字部分の自他商品識別標識としての機
能は,「POTENZA」の欧文字部分よりも,明らかに低いものと認め
られる。また,「POTENZA」の欧文字部分が表されている横長の白
塗りの平行四辺形は,ありふれた形状であって,黒と白のコントラストに
より,「POTENZA」の欧文字部分を構成する黒色の7文字を目立つ
ように表示するための背景図形であると認識されるから,それ自体に自他
商品識別標識としての機能があるものとはいえない。
そして,本件使用商標の「POTENZA」の欧文字部分と本件商標と
を対比すると,「POTENZA」の欧文字部分は,標準文字の本件商標
と字体の違いがあるが,構成する文字は同一であり,その字体の違いも特
に目立ったものではないこと,両者の称呼は同一であることからすると,
本件使用商標は,本件商標と社会通念上同一の商標であるものと認められ
る。
(2) これに対し原告は,①本件使用商標は,2種の略平行四辺形を前後に重ね
て,それぞれの中に「POTENZA」と「11」を配置した,統一感のあ
るスタイリッシュなロゴデザインであること,本件使用商標の「11」を含
む部分は,被告の自転車用ギアクランクにおいて11速を暗示させる識別標
識として機能していること,「POTENZA」の部分は,特段特徴的な態
様で表されているとはいえず,他に比して目立っているような事情もないこ
とからすると,本件使用商標は,「POTENZA」,「11」,略平行四
辺形の図形等の各構成要素が一体として結合した態様によって識別性が発揮
されており,本件使用商標から「POTENZA」の部分だけを分離抽出す
ることはできない,②本件使用商品に付された本件使用商標の隣には,「P
OTENZA」の部分と同じデザインで,横長の白塗りの「CAMPAGN
OLO」の欧文字が表された平行四辺形が配されており,これに接した需要
者,取引者は,本件使用商標と「CAMPAGNOLO」の欧文字が表され
た平行四辺形の態様を含めた全体を使用商標と認識することもあるとして,
本件使用商標は,「POTENZA」の標準文字からなる本件商標とは明ら
かに異なり,本件商標と社会通念上同一とはいえない旨主張する。
しかしながら,上記①の点については,前記(1)イ認定のとおり,本件使用
商標の「POTENZA」の欧文字部分は,他の構成要素と分離して観察す
ることが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているとはいえず,
「POTENZA」の欧文字部分のみから自他商品識別標識としての機能を
発揮しているものと認められる。また,原告が述べるように「11」の数字
が,被告の自転車用ギアクランクにおいて11速を暗示させるものであった
としても,前記(1)イ認定のとおり,「11」の数字部分は,中央で上下に分
断され,数字の一部が隠されており,注視しなければ,数字の「11」と判
読できないことに照らすと,「11」の数字部分が11速を暗示させる識別
標識として機能しているものと直ちにはいえない。
次に,上記②の点については,本件使用商品の柄の部品(クランク)には,
「POTENZA」の欧文字が表された平行四辺形の右隣に「CAMPAG
NOLO」の欧文字が表された平行四辺形が付されているが(甲14の1,
15,16),二つの平行四辺形の間には,スペースがあり,それぞれの平
行四辺形内の「POTENZA」の欧文字部分と「CAMPAGNOLO」
の欧文字部分とは,明瞭に区別される態様で示されている。加えて,前記1
の認定事実によれば,本件商標の指定商品の需要者である自転車競技や競技
用自転車に関心のある者の間では,被告は,競技用自転車の部品メーカーと
して広く知られていたものと認められることに照らすと,本件使用商品に接
した需要者は,「CAMPAGNOLO」の欧文字は,被告の名称を外国語
表記したものとして,それ自体を独立の商標として認識するものと認められ
るから,本件使用商標と「CAMPAGNOLO」の欧文字が表された平行
四辺形の態様を含めた全体がひとまとまりの商標として認識されるというこ
とはできない。
したがって,原告の上記主張は,理由がない。
(3) 以上によれば,本件使用商標が本件商標と社会通念上同一の商標であると
した本件審決の判断に誤りはない。
3 本件使用商品の本件商標の指定商品該当性について
(1) 前記1の認定事実によれば,本件使用商品は,競技用自転車の部品メーカ
ーである被告が製造,販売する自転車用ギアクランク(クランクセット)で
あること,本件使用商品について,「新ラインナップに加わったポテンツァ
11は,スーパーレコードに採用されているエンブレイステクノロジーをは
じめとした,トップグレードの性能とデザインを継承した機械式アルミグル
ープセット」,「ハードな変速ラインにも対応するレーシングパーツ」など
と雑誌(甲15)に紹介されていることが認められる。
上記認定事実によれば,本件使用商品は,自転車競技に使用される自転車
のギアクランクとして用いることができるものと認められる。
そして,本件商標の指定商品「競技用自転車の部品及び付属品(自転車の
フレーム・タイヤ・チューブ・車輪・リム・スポークを除く。)」にいう「競
技用自転車」の用語について,「競技」の具体的なレベルを特に限定する記
載はないこと,自転車競技は,プロのロードレーサーなどが参加する世界的
な競技のほかに,趣味として競技を行っている者を含め,様々なレベルの者
が参加できる競技が行われていることは一般に知られていることに照らすと,
自転車競技に使用される自転車に用いることができる部品であれば,本件商
標の指定商品にいう「競技用自転車の部品」に含まれるものと認められる。
そうすると,本件使用商品は,本件商標の指定商品に該当するものと認め
られる。
(2) これに対し原告は,①原告は,原告の著名な登録商標である「POTEN
ZA」と同一の標章について,第12類「二輪自動車・自転車並びにそれら
の部品及び附属品」を指定商品とする防護標章登録を受けていること,特許
庁は,別件異議申立事件について,「競技用自転車は,競技用としてその用
途が限られ,かつ,専門性の高い商品」であると認定した上で,本件商標の
商標登録時の指定商品の一部を取り消す旨の別件異議決定をしたことなどの
事情を勘案すると,本件商標の指定商品は,競技専用又はそれに近い商品を
意図するものといえるから,「競技用としてその用途が限られ,かつ,専門
性の高い商品」と理解すべきである,②被告の最上位機種の「SUPERR
ECORD」と本件使用商品とでは,商品の性能が格段に異なり,その用途
及び需要者の範囲も異なる上,本件使用商品の需要者は一般の自転車愛好家
であることからすると,本件使用商品は,「競技用としてその用途が限られ,
かつ,専門性の高い商品」とはいえないとして,本件使用商品は,本件商標
の指定商品に該当しない旨主張する。
しかしながら,上記①の点については,別件異議決定(甲30)の理由中
に,「被請求人の主張及び職権による調査によれば,競技用自転車は,競技
用としてその用途が限られ,かつ,専門性の高い商品であることから,一般
用自転車に比して高額であり,需要者の範囲も限られ,かつ,販売場所も専
門店やウェブサイトにおける注文販売などが一般的であることが認められる
から,需要者が,自己の自転車に装着する商品を申立人又はブリヂストンサ
イクルの商品であると誤認混同することは考えがたいというのが相当であ
る。」との記載部分(6頁)があるが,この記載部分は,一般用自転車と対
比する意味で,「競技用自転車は,競技用としてその用途が限られ,かつ,
専門性の高い商品」であることを示したものにすぎず,自転車競技の具体的
なレベルや商品の具体的な性能についてまで述べたものではないから,本件
商標の指定商品にいう「競技用自転車」の用語を特定のレベルの競技に限定
する根拠とはならない。また,原告がその登録商標である「POTENZA」
と同一の標章について上記防護標章登録を受けたのは平成24年4月27日
(甲23)であって,別件異議決定日(平成23年10月3日)よりも後で
あるから,原告が防護標章登録を受けたことは,別件異議決定の認定及び判
断に影響を及ぼしたものとは認められない。
次に,上記②の点については,本件使用商品が,被告の最上位機種の「S
UPERRECORD」ではなく,ミドルクラスの機種であるからといって,
本件商標の指定商品にいう「競技用自転車の部品」に該当しないということ
はできない。
したがって,原告の上記主張は,理由がない。
(3) 以上によれば,本件使用商品が本件商標の指定商品に該当するとした本件
審決の判断に誤りはない。
4 本件使用商標の使用について
(1)ア 前記1(2)及び(3)の認定事実を総合すれば,①被告が2016年(平成
28年)1月29日に発行した本件日本法人あてのインボイス記載の「P
OTENZA BL 11S crankset L.172.5 34
-50」(POTENZA ブラック 11S クランクセット 長さ1
72.5㎜ 34-50)1個を含む商品について,送付業者である「デ
ィー・エイチ・エル インターナショナル エス・アール・エル」(ディ
ー・エイチ・エル・ジャパン株式会社)によって,本件日本法人のために
日本国内への輸入手続が行われ,同月31日付けで輸入許可がされ,その
ころ,上記「POTENZA BL 11S crankset L.1
72.5 34-50」が輸入されたこと,②同年4月17日に開催され
た「第32回全日本トライアスロン宮古島大会」の会場内の本件日本法人
の展示ブースで展示された本件使用商品は,上記「POTENZA BL
11S crankset L.172.5 34-50」であったこと
が認められ,この認定を左右するに足りる証拠はない。
上記認定事実によれば,本件日本法人は,平成28年1月31日ころ,
被告から,本件使用商標を付した本件使用商品を輸入したものと認められ
る。
そうすると,本件日本法人による上記輸入行為は,「商品に標章を付し
たもの」を「輸入する行為」として,商標法2条3項2号の使用に該当す
るものと認められる。
これに反する原告の主張は理由がない。
イ 次に,証拠(甲11,12,乙7の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,
本件日本法人は,平成28年3月24日,取引先の卸売業者に対し,本件
使用商品を含む,2017年新製品に関する被告作成のレター及びプライ
スリスト(商品価格表)を添付したメールを送信したこと,上記メールに
は,「日本の希望小売価格,受注活動解禁日については,後日ご連絡いた
します。」との記載があること,上記プライスリストには,「商品価格表
は6月1日から有効」との記載があることが認められる。
上記認定事実及び前記1の認定事実を総合すると,本件日本法人は,平
成28年4月17日に開催された「第32回全日本トライアスロン宮古島
大会」の会場内の本件日本法人の展示ブースにおいて,本件使用商品を受
注活動解禁日以後に販売することを目的として,本件使用商品を展示した
ものと認められる。
そうすると,本件日本法人による上記展示行為は,「商品に標章を付し
たもの」を「譲渡又は引渡しのために展示する行為」として,商標法2条
3項2号の使用に該当するものと認められる。
これに反する原告の主張は理由がない。
(2) 以上のとおり,本件日本法人による本件使用商標を付した本件使用商品の
輸入行為及び展示行為は,商標法2条3項2号の使用に該当するものと認め
られる。
5 結論
以上によれば,被告は,要証期間内に,日本国内において,通常使用権者で
ある本件日本法人が本件審判の請求に係る指定商品に含まれる本件使用商品
について本件商標と社会通念上同一と認められる本件使用商標を使用してい
たことを証明したものと認められるから,原告主張の取消事由は理由がなく,
本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 大 鷹 一 郎
裁判官 古 河 謙 一
裁判官 関 根 澄 子
(別紙)

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