ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成29(ワ)6494 自由発明対価等請求事件
裁判所 | 請求棄却 大阪地方裁判所 |
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裁判年月日 | 平成30年11月26日 |
事件種別 | 民事 |
当事者 | 被告サントリーホールディングス株式会社 原告P1 |
法令 |
特許権 特許法35条3項7回 |
キーワード | 実施12回 職務発明12回 分割5回 特許権4回 |
主文 | 1 本件訴えのうち,原告が被告に対し平成27年4月以降の国内販売分,15及び平成15年以降平成29年までの国外販売分に対して発明対価の支払を求める部分を却下する。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は原告の負担とする。事実及び理由20第1 請求 1 被告は,原告に対し,1億3500万円及びこれに対する平成29年8月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告に対し,平成27年4月以降の国内販売分,及び平成15年以降平成29年までの国外販売分に対しても,発明対価を支払え。25第2 事案の概要 1 請求の要旨本件は,後記の本件特許に係る発明の発明者の一人で,金沢大学の助教授であった原告が,その特許を受ける権利の持分をサントリー株式会社(以下「サントリー」という。)に譲渡したと主張して,同特許権の特許権者の一人で組織改編によりサントリーの権利義務を承継した被告に対し,①特許法35条3項(平成275年法律第55号による改正前のもの。以下同じ。)に基づく職務発明の対価として(主位的請求),②上記発明がサントリーとの関係で職務発明でないとしても,特許を受ける権利の譲渡に伴う合理的意思解釈ないし信義誠実の原則による合理的な譲渡対価として(予備的請求1),③原告が金沢大学の「従業者等」であり,サントリーの「従業者等」でないとしても,金沢大学とサントリーとの一体的な関係に10照らして特許法35条3項の類推適用に基づく相当の対価として(予備的請求2),(1)平成27年3月までの国内販売分について1億3500万円及びこれに対する平成29年8月9日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金,(2)平成27年4月以降の国内販売分及び平成15年以降平成29年までの国外販売分について発明対価の支払を請求した事案である。15 2 前提事実(証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお,本判決において書証を掲記する際には,枝番号の全てを含むときはその記載を省略する。)(1) 当事者原告は,平成15年当時,金沢大学の大学院医学系研究科の助教授であり,20記憶障害や注意・集中力障害などの高次脳機能障害に関する基礎的かつ臨床的研究を行っていた。サントリーは,酒類のほか健康食品を製造販売する株式会社であるが,平成21年の組織変更により,その健康食品事業に関する権利義務はサントリーウエルネス株式会社(以下「サントリーウエルネス」という。)に承継され,サントリーの産25業財産権に関する権利義務は被告に承継された。(2) 原告の発明に係る特許出願原告は,平成15年以降,サントリーの従業員であったP3と共同して,次のアの特許(以下「本件原特許」といい,その特許出願を「本件原出願」という。)及びイの特許(以下「本件特許」といい,その特許出願を「本件出願」という。)に係る発明(以下,このうちの本件特許に係る発明を「本件発明」とい5う。)をした。そして,サントリー及び金沢大学は,原告及びP3から本件発明に係る特許を受ける権利の譲渡を受けて,本件原出願及び本件出願をした(甲6,乙1及び30。なお,サントリー及び金沢大学のそれぞれが,原告及びP3のいずれからその特許を受ける権利の持分の譲渡を受けたのかについては争いがある。)。ア 本件原特許(乙30)10特許番号 特許第5697293号発明の名称 器質的脳障害に起因する高次脳機能の低下に対する改善作用を有する組成物発明者 原告,P3出願日 平成17年6月30日15登録日 平成27年2月20日特許請求の範囲【請求項1】(請求項2以下は省略)(1)アラキドン酸を構成脂肪酸とするトリグリセリド及び(2)ドコサヘキサエン酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドを含んで成る,ヒト20に対してアラキドン酸及びドコサヘキサエン酸がそれぞれ240mg/日の量で,1日当り1~3回分割して経口投与される,脳挫傷又は脳梗塞に起因するアーバン神経心理テストにより測定される,高次脳機能障害における即時記憶又は遅延記憶の低下に対する改善のための医薬組成物。イ 本件特許(乙1)25特許番号 特許第6095615号発明の名称 器質的脳障害に起因する高次脳機能の低下に対する改善作用を有する組成物発明者 原告,P3出願日 平成26年7月22日分割の表示 特願2005-191624の分割5原出願日 平成17年6月30日登録日 平成29年2月24日特許請求の範囲【請求項1】(請求項2以下は省略)アラキドン酸を構成脂肪酸とするトリグリセリド及びドコサヘキサエ10ン酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドを含んでなる,ヒトに対してアラキドン酸及びドコサヘキサエン酸を経口投与するための,脳挫傷又は脳梗塞に基因するアーバンス神経心理テストにより測定される高次脳機能障害における即時記憶又は遅延記憶の低下に対する改善用飲食物。(3) 本件発明の内容(乙1)15ア 最近,高次脳機能をより高精度に再現性を持って評価する方法としてRBANS神経心理テストに注目が集まっており,同テストによりヒトの高次脳機能を短時間で再現性良く判定することができるようになった(【0004】)。また,アラキドン酸及びドコサヘキサエン酸の学習記憶能力の向上,老人性痴呆症の予防回復に注目が集っている(【0005】)が,それらについては,健常高齢者の事20象関連電位の改善や脳血管性痴呆患者,アルツハイマー患者の情動や行動障害を改善したことが示されたにとどまっており,器質的脳障害による高次脳機能の低下に対して,改善又は向上作用を有するかどうかは全く明らかではなかったことから,器質的脳障害による高次脳機能の低下を改善又は向上させ,医薬,さらには食品への適応に優れた副作用の少ない化合物の開発が強く望まれている(【0009】)。25そこで,本発明者等は,アラキドン酸及び/又はアラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物並びにドコサヘキサエン酸及び/又はドコサヘキサエン酸を構成脂肪酸とする化合物の,高次脳機能の低下に対する改善作用を明らかにする目的で鋭意研究した結果,驚くべきことに,RBANS神経心理テストを指標に評価することで,アラキドン酸及び/又はアラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物並びにドコサヘキサエン酸及び/又はドコサヘキサエン酸を構成脂肪酸とする化合物の器質的脳障害5による高次脳機能障害患者に対する効果をヒトで明らかにした(【0013】)。イ 試験参加の同意を得られた器質的脳障害患者6名(脳挫傷患者3名,脳梗塞患者3名:いずれも高次脳機能障害の程度が安定している患者)にアーバンス神経心理テストを実施した翌日から,アラキドン酸およびドコサヘキサエン酸をそれぞれ1日240mg摂取できるように,調製したアラキドン酸およびドコサヘキ10サエン酸含有食用油脂カプセル(アラキドン酸およびドコサヘキサエン酸としてそれぞれ40mg/粒)6粒を3ヶ月間服用させ,カプセルの摂取後にもアーバンス神経心理テストを実施し,実施前のテスト結果と,即時記憶,視空間・構成,言語,注意および遅延記憶の5つの認知領域における粗点を比較した(【0040】)。カプセル摂取前後の即時記憶並びに遅延記憶の粗点の変化によれば,アラキドン15酸およびドコサヘキサエン酸含有食用油脂カプセルを摂取することで,即時記憶の粗点が平均で11.9点有意に上昇し,遅延記憶の粗点が平均で18.1点有意に上昇することが明らかとなった。このように,アラキドン酸およびドコサヘキサエン酸含有食用油脂を服用することで器質的脳障害に起因する高次脳機能の低下を改善することを初めて明らかにした(【0041】,図1)。20(4) アラキドン酸を配合したサントリーの商品ア サントリーは,平成15年7月1日,アラキドン酸とドコサヘキサエン酸(DHA)を配合した健康食品である「アラビタ」を発売した(乙2)。イ サントリーウエルネスは,平成23年11月15日,アラキドン酸とDHAとエイコサペンタエン酸(EPA)を配合したサプリメントである「オメガエ25イド」を発売した(乙3)。 3 争点(1) 主位的請求関係ア 本件発明が,サントリーを「使用者等」,原告を「従業者等」とする「職務発明」か(争点1)イ 原告は,本件発明に係る特許を受ける権利の持分をサントリーに譲渡し5たか(争点2)ウ 相当の対価の額(争点3)(2) 予備的請求1関係ア 原告は,本件発明に係る特許を受ける権利の持分をサントリーに譲渡し,それに伴う合理的意思解釈ないし信義誠実の原則により,合理的な譲渡対価を被告10に請求し得るか(争点4)イ 合理的な譲渡対価の額(争点5)(3) 予備的請求2関係ア 原告は,特許法35条3項の類推適用により,特許を受ける権利の譲渡の対価を被告に請求し得るか(争点6)15イ 相当の対価の額(争点7)第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(本件発明が,サントリーを「使用者等」,原告を「従業者等」とする「職務発明」か)について【原告の主張】20原告は,日本人向けの新たな神経心理テスト(アーバンス神経心理テスト)を開発していたところ,平成15年春頃,アラキドン酸を使用した新製品(アラビタ)の発売を考えていたサントリーから,アラキドン酸組成物の臨床的効果について,アーバンス神経心理テストによる研究の依頼を個人的に受け,これに応じてサントリーの担当者であったP3と共に予備的研究を行い,報告書(甲2)の提出後25も臨床的研究を行った。その臨床的研究は,原告の金沢大学での職務とは無関係に,金沢市郊外の南ヶ丘病院において,東海大学開発工学部から原告の下に国内留学していた研究員を補助者として,サントリーの研究経費と研究材料の提供の下で,サントリーから指揮監督を受けて行ったもので,原告の金沢大学での職務とは無関係のものであった。そして,原告の努力の結果,期待していた以上の臨床的効果が得られたこともあ5り,サントリーが原告に対して特許出願の提案をし,原告がこれに応じて本件原出願がされるに至った。このように,本件発明は,サントリーを「使用者等」,原告を「従業者等」とする「職務発明」である。【被告の主張】10サントリーは,金沢大学医学部・大学院医学系研究科のP4と原告に対して,平成15年8月1日から同年12月31日までを期間とする研究を委託したが,それは本件発明のようなアラキドン酸組成物を用いた臨床研究ではない。本件発明は,サントリーと金沢大学とが平成16年12月27日に締結した共同研究契約(以下「本件共同研究契約」という。甲3)の成果である。そして,本件発明は,「使用15者等」である金沢大学の「従業者等」である原告がしたもので,金沢大学の業務範囲に属し,かつ,記憶障害や注意・集中力障害などの高次脳機能障害に関する基礎的かつ臨床的研究という金沢大学における職務に属するものであるから,金沢大学の「職務発明」に当たり,サントリーの「職務発明」には当たらない。 2 争点2(原告は,本件発明に係る特許を受ける権利の持分をサントリーに譲20渡したか)について【原告の主張】(1) 争点1に関する原告の主張のとおり,本件発明は,金沢大学とは無関係に,サントリーの指揮命令の下,サントリーの利益のために行われたものであるから,原告の特許を受ける権利の譲渡も原告からサントリーに対してされたものである。25(2) 被告は,原告の特許を受ける権利は全て金沢大学に譲渡されたと主張して,金沢大学とサントリーとの間の共同研究契約(甲3)の内容を指摘する。しかし,原告は同契約に拘束される法的地位にない。また,同契約は,サントリーから原告個人に対して本件発明に関する研究の依頼がされてから約1年半も後に,原告個人による研究が成果を上げたことを事後的に確認した上で,原告に何ら確認をすることもなくされたものであるから,本件発明との関係で効力が認められるものではな5い。また,被告は,乙11の譲渡証書を指摘する。しかし,乙11は金沢大学から言われるままに提出したものにすぎず,原告が乙11により特許を受ける権利を金沢大学にのみ譲渡した形になることは原告の本意ではなかった上,乙11は,原告がその旨をP3に抗議した後に作成された乙10の譲渡証書によって内容訂正されて10いる。そして,乙10の譲渡証書では,譲渡先としてサントリーも記載されているから,原告及びP3の持分は一体としてサントリー及び金沢大学に譲渡されたものである。【被告の主張】(1) 争点1に関する被告の主張のとおり,本件発明は本件共同研究契約の成果15であるところ,同契約(14条6項)及びサントリーと金沢大学との本件発明に関する特許共同出願契約(甲8の11条)では,発明者に対する補償を,それぞれに勤務する発明者に対してのみ,自己所定の規定に基づき行うものとすると定められているから,サントリー及び金沢大学は,本件共同研究契約に係る各発明者の有する特許を受ける権利については,それぞれが属する当事者との間で処理されること20を前提としており,原告については金沢大学との間で,P3についてはサントリーとの間で処理することが前提とされていた。そして,平成17年6月17日付けの譲渡証書(乙11)では,本件発明に関して金沢大学内の発明者が原告のみであること,本件発明に係る原告の有する特許を受ける権利が金沢大学へ譲渡されたことが明記されており,本件原出願の願書でも,25共同出願人であるサントリーと金沢大学の持分は各50%とされ,原告の持分50%全てが金沢大学に譲渡されたことが前提とされており,その後,金沢大学は原告にのみ,サントリーはP3にのみ本件発明の補償金を支払っている。これらのとおり,本件発明に係る特許を受ける権利の持分は全て金沢大学にのみ譲渡されており,サントリーには譲渡されていない。(2) 原告は,乙10の譲渡証書で譲渡先がサントリーと金沢大学になっている5ことを指摘するが,●(省略)●によるものであるから,乙10をもって原告の持分がサントリーに譲渡されたことを示すものではない。 3 争点3(相当の対価の額)について【原告の主張】(1) サントリー及びその健康食品事業を承継したサントリーウエルネスは,平10成15年以後,本件発明を実施した「アラビタ」と「オメガエイド」を国内販売し,平成27年3月末までに,アラビタは50万本,オメガエイドは100万本を,1本当たり6000円で売り上げた。そして,これらの売上げのうち本件発明に係る特許権に基づく超過売上率は20%を下らない。また,仮想実施料率は30%を下らず,発明の寄与率は50%を下らず,発明者寄与率は100%で,発明者間寄与15度は50%を下らない。したがって,平成27年3月末までの実施分に係る相当の対価の額は,1億3500万円を下らない([500,000本+1,000,000本]×6000円×0.2×0.3×0.5×1×0.5)。(2) また,原告が金沢大学を退職した平成27年4月1日以降の国内販売分及20び平成15年から平成29年までの国外販売分についても,相当の対価の支払を求める。【被告の主張】原告の主張は争う。サントリー等は本件発明を実施しておらず,独占の利益はない。25 4 争点4(原告は,本件発明に係る特許を受ける権利の持分をサントリーに譲渡し,それに伴う合理的意思解釈ないし信義誠実の原則により,合理的な譲渡対価を被告に請求し得るか)について【原告の主張】原告による本件発明が,仮にサントリーとの関係においては自由発明に該当するとしても,争点3に関する原告の主張のとおり,原告は本件発明に係る特許を5受ける権利の持分をサントリーに譲渡している。そして,かかる譲渡に関して,仮に対価額が具体的に定められていなかったとしても,サントリーにとっての本件発明の重要性に鑑みれば,原告もサントリーも上記持分を無償で譲渡したはずがなく,それにもかかわらず,対価額を具体的に定めていないことを奇貨として,サントリーが無償で上記持分を取得できると解することは信義誠実の原則に反する。10したがって,原告は,本件発明に係る特許を受ける権利の持分をサントリーに譲渡したことに伴う合理的意思解釈ないし信義誠実の原則により,合理的な譲渡対価を被告に請求し得る。【被告の主張】争う。15 5 争点5(合理的な譲渡対価の額)争点3に同じ 6 争点6(原告は,特許法35条3項の類推適用により,特許を受ける権利の譲渡の対価を被告に請求し得るか)について【原告の主張】20原告による本件発明が,仮に金沢大学との間で職務発明に該当するのみであり,サントリーとの関係では自由発明に該当するとしても,金沢大学とサントリーとは密接かつ一体的な関係を有していたから,原告とサントリーとの関係でも特許法35条3項が類推適用されて,原告は被告に対して特許を受ける権利の譲渡の相当の対価を請求することができる。25【被告の主張】争う。 7 争点7(相当の対価の額)について争点3に同じ第4 当裁判所の判断 1 事案に鑑み,まず争点2(原告は,本件発明に係る特許を受ける権利の持分5をサントリーに譲渡したか)について判断する。(1) 事実経過前提事実のほか,証拠(後掲書証,甲17,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。ア 原告は,平成14年頃,金沢大学大学院医学系研究科の助教授として同10大学に勤務していたところ,同年6月に他の研究者らと連名で,被告を筆頭者として,「『アーバンス(RBANS)』神経心理テストによる高次脳機能評価」と題する論文を発表して,種々の脳疾患に合併する高次脳機能障害を短時間で繰り返し評価し得る神経心理テスト課題を公表していた(甲1)。イ サントリーは,加齢に伴う脳機能低下を改善し得る多価不飽和脂肪酸と15して,従来からアラキドン酸含有油脂の研究を行っており(乙5及び9),平成15年7月1日にはアラキドン酸とドコサヘキサエン酸(DHA)を配合した健康食品である「アラビタ」を販売していた(乙2)ところ,金沢大学大学院医学系研究科のP4と原告に対し,「健康食品と脳機能との関連に関する研究」について,研究期間を同年8月1日から同年12月31日までとして研究を委託し,P4と原告20は,同年12月8日,被告に対し,この研究委託についての報告書を提出した(甲2)。この研究報告書は,「新しい高次脳機能検査法-アーバンス神経心理テスト-」と題しており,健常な日本人成人52名を対象に行った日本版「アーバンス」神経心理テストを紹介し,同テストでは高齢者における遅延記憶,ついで即時記憶の機能低下がより鮮明に検出され,同テストが加齢に伴う高次脳機能障害の簡便か25つ正確な評価に有用であることが示唆された旨を内容とするものであった。ウ 国立大学法人となった金沢大学とサントリーは,平成16年12月27日,共同研究契約書(甲3)により本件共同研究契約を締結した。そこでは,①研究題目を「健康食品と脳機能との関連に関する研究」(2条(1)),②研究目的及び内容を「アラキドン酸含有油脂の高次脳機能に及ぼす影響を検討する」(同(2)),③研究分担を,金沢大学のP4と原告が「神経機能の測定」,サン5トリーのP3が「データ統計解析」とし,P4が研究代表者となること(同(3),別表第1),④研究実施場所を「金沢大学大学院医学系研究科,サントリー株式会社健康科学研究所」(同(4)),⑤研究期間を「研究に要する経費支払日の翌日から平成17年3月31日まで」(3条),⑥研究の直接経費はサントリーのみが負担する(7条,別表2)こととされた。10また,⑦この共同研究の実施により発明等がされた場合については,(ア)金沢大学又はサントリーはそれぞれ,金沢大学又はサントリーに属する研究担当者が本共同研究の結果,単独で発明等を行ったときは,単独所有とし,単独で出願等の手続を行うものとする(14条3項),(イ)金沢大学又はサントリーは,金沢大学に属する研究担当者及びサントリーに属する研究担当者が本共同研究の結果,共同して発明15等を行い,当該発明等に係る知的財産権のうち,金沢大学に属する研究担当者の持分を第2項の規定により金沢大学がすべて承継した場合において,当該発明等に係る出願等を行おうとするときは,当該知的財産権に係る金沢大学及びサントリーの持分を協議して定めた上で,別途締結する共同出願契約にしたがって共同して出願等を行うものとする(同条4項)(ウ)金沢大学及びサントリーは,本発明の発明者に20対する補償を,それぞれに属する発明者に対してのみ,自己所定の規定に基づき行うものとする(同条6項)とされた。上記に定められたサントリーが負担する研究経費は,サントリーから金沢大学に支払われた。エ 原告は,金沢市郊外の南ヶ丘病院において,同病院の患者を対象に,ア25ラビタ投与の前後による認知機能の比較試験を行い(甲4),P3と共同して本件発明を完成させた。オ サントリーでは,本件発明を特許として出願する方針でいたところ,平成17年5月26日の北國新聞に,「アラキドン酸で〝脳力〟回復」の見出しの下,原告らの研究グループが,サントリー健康科学研究所との共同研究で,脳卒中や脳挫傷の後遺症,アルツハイマー病の患者ら25人にアラキドン酸を飲んでもらった5ところ,脳卒中や脳挫傷の後遺症には効いた一方,アルツハイマー病では今のところ症状が改善したといえるデータは出なかった旨の記事が掲載された(乙18)。また,原告は,同年7月26日から同月28日に開催される日本神経科学大会(乙6)で本件発明を発表することとしており,その要旨集は7月中旬に発送される予定となっていた。10このように本件発明の主要部分が新聞記事により出願前に公知となり,大会の要旨集によりさらに本件発明が開示されることとなる事態に直面して,サントリーの知財部は,同年6月6日,●(省略)●大会要旨が配布される前の同年6月中に出願を完了することとして,P3に対し,本件共同研究契約における発明を成した場合の取決めの内容を確認した上で,金沢大学事務局から,共同出願契約書の作成は15後回しにして先に特許出願手続を進めることの了解を得て,出願手続を至急進めるよう指示した(乙19)。これを受けて,P3は,翌7日,原告に対し,サントリーの方針を伝え,金沢大学事務局から,共同出願契約書の作成は後回しにして先に特許出願手続を進めることの了解を得るよう求めた。そこで,原告が金沢大学知的財産本部に対して事態を20説明して相談したところ,同本部は,同日,早急に対応するとして,原告に対し,発明届出書を提出するよう求めるとともに,本件発明が本件共同研究契約に伴う発明であるか否かの確認を求めた。そこで,原告は,P3に対し,発明届出書に必要事項を記載するよう求め,P3は,同月10日,必要事項を記載して原告に確認を求めた(以上乙20)。25カ 以上を踏まえ,原告は,同月16日,金沢大学知的財産本部長に対し,本件発明の発明届出書(乙22)を提出した。そこでは,「下記の発明について,金沢大学職務発明取扱規程第4条の規定に基づき,届け出ます。」と記載された書式について,①発明の名称として「器質的脳障害に起因する高次脳機能の低下に対する改善作用を有する組成物」,②共同発明者としてP3(持分は50%ずつ),③発明に至った研究課題として「健康食品と5脳機能との関連に関する研究」,④使用した研究経費として「共同研究費」,⑤その他参考事項として,「共同研究の基礎部門は分子情報薬理学のP4が担当し,臨床部門はP1が担当している。今回の特許申請は後者にかかわるものであるため,P4の承諾を得て,金沢大学側はP1の名義で申請することになった。」と記載され,⑥共同発明の場合に添付する共同研究契約書として本件共同研究契約書の写し10が添付された。なお,このうち①ないし④の記載については,P3が下書きしたものであるが,⑤の記載と⑥の添付についてはP3の下書にはないものであった(乙21)から,⑤⑥は原告が自ら記載し,添付したものと推認される。これに対し,金沢大学知的財産本部長は,原告に対し,同月16日付けで,本件発明を職務発明であると認定した旨の職務発明認定結果通知書(乙7及び23)及15び本件発明を特許出願の対象とすることに決定した旨の出願対象決定通知書(乙16)を発送した(なお,これが実際に原告の研究室に届いたのは,原告の後記の米国出張中であった,乙25)。また,金沢大学知的財産本部の担当者は,同月17日,原告に対し,本件発明に係る原告の持分の100%を金沢大学に譲渡したことを確認する旨の譲渡証書を提20示し,原告はこれに署名押印して担当者に交付した(乙11)。その後,原告は,同月19日から同月30日まで米国出張に出た。キ この間,サントリーでは,本件発明の特許出願のための社内決裁を進め,同月21日にその決裁がされた(乙24)。そこで,サントリーと金沢大学は,同月30日,本件発明の特許を受ける権利の持分が50%ずつである旨の持分契約書25(乙13)を作成した上で,本件原出願をした(乙12及び30)。本件原出願後の同年7月8日,P4は,サントリーに対し,本件共同研究契約に係る共同研究報告書(乙4)を提出した。そこでは,研究課題を「健康食品と脳機能との関連に関する研究」,研究期間を「2004年11月1日~2005年3月31日」とし,物忘れを訴える60歳以上の正常高齢者,発症後5年以上を経過し後遺症が固定している器質的脳疾患(脳挫傷,脳出血など)及び変性性疾患(アル5ツハイマー病)の29例を対象として,アラキドン酸とプラセボ(オリーブ油)を各投与し,その前後に日本版アーバンス神経心理テストを実施して,即時記憶,図形,言語,集中力及び遅延記憶の粗点変化を統計解析したところ,変性性疾患とプラセボ群では基本的に有意な改善が見られなかったが,正常高齢者では集中力と即時記憶が有意に改善し,特に器質的脳疾患では治療前には障害が完全に固定してい10たにもかかわらず,遅延記憶と即時記憶が著明な改善を示したとされ,本件原出願の明細書に記載された図1(器質的脳障害に起因する高次脳機能障害の低下に与える影響)と同様の即時記憶と遅延記憶の改善結果を示す図(Figure2)が記載されている。ク その後,サントリーは,本件発明の外国出願を行うこととし,平成1815年4月12日,金沢大学の知的財産権を管理する有限会社金沢大学ティ・エル・オーに対し,外国出願前に共同出願契約を締結する旨を伝えるとともに,譲渡証書への捺印依頼を忘れていたとして,原告の捺印を得た上で返送するよう求め,平成17年6月21日付けとされた乙10の譲渡証書を送付した(乙26)。なお,乙10の譲渡証書の書式は,サントリーが,当時,サントリーと他社が,それぞれ両者20に所属する従業員の発明について,それら各発明者から特許を受ける権利の譲渡を受けるに当たり用いていた書式であった(乙35)。そこで,原告は,同年5月8日頃,乙10の譲渡証書に署名押印するとともに,P3に対し,「新しいセンターの働きごごちはいかがですか? さて,金沢大学ティ・エル・オーより昨年の特許のことで,サイン&押印を依頼してきました。ご多25用中,恐縮ですが,住所,サイン&押印の上,上記にまでご返送下さい。」と記して,署名押印した乙10の譲渡証書を送付し(乙27),同月16日頃,P3において署名押印して乙10の譲渡証書が完成された(乙28)。また,サントリーと金沢大学は,同年6月30日,本件共同研究契約14条に基づき本件原出願に係る発明について,特許共同出願契約書(甲8)を作成して,特許共同出願契約を締結した。そこでは,サントリー及び金沢大学は,本件発明の発5明者に対する補償を,それぞれに勤務する発明者に対してのみ,自己所定の既定に基づき行うものとするとされた(11条)。ケ その後,サントリーと金沢大学は,平成20年8月28日,本件原出願とその外国出願並びにそれらの分割出願に基づき得られる特許権について,本件共同研究契約及び本件共同出願契約の内容を確認し,又は一部修正する覚書(甲9)10を作成した。そして,サントリーと金沢大学は,平成26年7月22日,本件原出願の分割出願として,本件出願をした。コ 現在までのところ,金沢大学は原告に対してのみ本件発明に係る補償金を支払い,サントリーはP3に対してのみ本件発明に係る補償金を支払ってきてい15る(乙31ないし34,36及び37)。(2) 判断ア まず,本件共同研究契約と本件発明との関係について検討する。(ア) 前記認定事実によれば,①本件共同研究契約の研究目的である「アラキドン酸含有油脂の高次脳機能に及ぼす影響を検討する」ことは,本件発明の対象20と同じものであること,②サントリーは,本件発明に関する記事が新聞に掲載されて本件原出願の手続を早急に進めることとした当初から,本件発明が本件共同研究契約によるものであることを前提とする指示をP3にしていたこと,③原告も,金沢大学に発明届出書を提出するに当たり,自ら,本件発明が本件共同研究契約によるものである旨を記載し,その契約書を添付したこと,④金沢大学も原告からの発25明届出書やサントリーからの早期出願の申入れに異議を述べずに,本件原出願の手続を進めたこと,⑤本件共同研究契約上の研究代表者であるP4がサントリーに提出した共同研究報告書の内容も,本件原出願及び本件出願に係る明細書の記載と同じ内容であることが認められ,これらからすれば,本件発明は,本件共同研究契約の成果としてされた発明であると認めるのが相当である。(イ) この点について,原告本人は,陳述書(甲17)及び当事者尋問にお5いて,(a)本件共同研究契約は,原告が本件発明を完成した頃に,それを知ったサントリーが金沢大学との間で原告への確認なく締結したものであり,(b)同契約の契約書で原告の役割とされている「神経機能の測定」というのも,本件発明である高次脳機能の測定とは異なり,(c)実際の治験場所とした南ヶ丘病院は,同契約の契約書で記載された研究場所中にはないから,本件発明は本件共同研究契約の成果ではな10く,(d)発明届出書に本件共同研究契約の契約書を添付したのも金沢大学から求められたためにすぎず,(e)金沢大学知的財産本部の担当者から本件発明が本件共同研究契約に伴う発明であるか否かの確認を求められたのに対して回答をしていないと述べる。しかし,(a)については,本件共同研究契約は,その契約書の日付は平成16年1152月27日とされているが,P4が提出した共同研究報告書では,研究期間が平成16年11月1日から平成17年3月31日とされているから,実際にはその間にされたものと認められるところ,本件発明が上記の研究期間の開始までに完成されていたことを認めるに足りる証拠はない(原告がアラビタの臨床治験データとして提出する甲4でも,アラビタ投与後の試験日として最も早いのは平成17年1月1201日である。)。また,上記の③及び⑤の事情や,研究経費がサントリーから金沢大学に支払われていたことからすると,本件共同研究契約が本件発明に係る研究を対象とするものであることについて原告が了解していなかったとは考え難いことである。また,(b)については,上記①のとおり本件共同研究契約の契約書での研究目的は「アラキドン酸含有油脂の高次脳機能に及ぼす影響を検討する。」とされてお25り,本件発明に係るアーバンス神経心理テストによる即時記憶及び遅延記憶の評価は,本件契約において原告とP4の役割とされた「神経機能の測定」というに妨げないものである(そして,現に上記⑤のとおりP4からは本件共同研究の研究報告書として本件発明と同内容のものが提出されている。)から,本件共同研究の対象が本件発明の対象と異なるとはいえない。さらに,(c)については,このような共同研究契約では,各研究者の研究の本務地を研究場所として予定しつつ,状況に応じ5て実際の研究場所を適宜追加したり変更したりすることが行われても不合理ではないから,研究場所の相違を重視することはできない。また,(d)については,たとえ契約書の添付を金沢大学から求められたという事情があるにせよ,上記③のとおり原告は自ら本件発明が本件共同研究契約によるものである旨を記載して発明届出書を提出した以上,原告は本件発明が本件共同研究契約の成果であるものとして契約10書の添付に応じたものと認めるのが相当である。また,(e)についても,上記のような発明届出書の提出自体によって,本件発明が本件共同研究契約に伴う発明である旨の回答をしたというべきである。確かに,原告が甲17で述べるところからすると,本件共同研究契約の研究期間の開始前から原告による治験が開始されていた可能性はあるが,仮にそうであると15しても,上記①から⑤の事情(特に③及び⑤の事情)からすると,既に開始されていた治験の状況も踏まえて,本件共同研究契約に係る研究が実施され,その成果として本件発明がされたと認めるのが相当である。したがって,原告本人が上記のように述べるところは採用できない。イ 以上を前提に,本件発明に係る原告の特許を受ける権利の持分が被告に20譲渡されたかを検討する。(ア) 本件共同研究契約における共同研究による発明の取扱いに関する定め,特に,各発明者に対する補償は,金沢大学とサントリーがそれぞれに属する発明者に対してのみ,自己所定の規定に基づき行うものとすると定められていることからすると,本件共同研究契約においては,金沢大学とサントリーは,それぞれに属す25る発明者からのみ特許を受ける権利の譲渡を受けて出願することが想定されていたと認められる。このことからすると,サントリーが,本件共同研究契約の成果である本件発明に係る特許を受ける権利について,自己の従業員であるP3の持分以外に原告の持分の譲渡も受ける意思を有していたとは考え難いことである。また,このことは,本件発明を職務発明と認定した金沢大学についても同様であり,金沢大学が,原告の持分以外にP3の持分の譲渡を受ける意思を有していたとは考え難い5ことである。そして,原告も,金沢大学側から,本件発明に係る原告の持分100%を金沢大学に譲渡したことを確認する旨の譲渡証書(乙11)の提示を受けて,これに署名押印して交付しているのであるから,原告も本件発明に係る原告の持分を全て金沢大学に譲渡する意思を有していたと認められる。そして,原告のこのような行動は,10前記のとおり原告も本件発明が本件共同研究契約の成果であるとの認識を発明届出書に記載したこととも整合している。また,本件原出願を行うに当たり,サントリーと金沢大学がそれぞれの持分を50%ずつと定めたことや,その後の補償金の支払を,サントリーはP3に対してのみ,金沢大学は原告に対してのみしていることも,サントリーはP3から,金沢大15学は原告から,それぞれ各持分の全ての譲渡を受けたと見ることが整合的である。以上からすると,本件発明に係る原告の特許を受ける権利の持分がサントリーに譲渡されたとは認められない。(イ) 以上に対し,原告本人は,乙11の譲渡証書に署名押印して交付した後,自己の意思と異なることに気づいたことから,金沢大学知的財産本部の担当者20に対してその旨説明するとともに,P3にも自己の意に沿う内容の譲渡証書にしなければ特許出願に協力しないと強く申し入れたところ,P3との間で,原告の納得する形の譲渡証書に作り直すと合意したが,原告の米国出張中に譲渡証書を作り直すことなく本件原出願がされてしまい,それに対して原告が強く抗議したところ,後に譲渡人と譲受人がいずれも連名とされた書式である乙10の譲渡証書がサント25リーから送付されてその作成に至ったから,乙10により,原告とP3の持分は一体的にサントリーと金沢大学に譲渡されたことが明らかにされたと述べる。また,原告は,乙11の譲渡証書は,乙10の譲渡証書により訂正されたと主張する。しかし,原告が述べるこのような経緯をうかがわせる客観的な証拠はない上,原告が乙10のような譲渡証書の作成をしないまま本件原出願がされたことに強く抗議したのであれば,それから9か月以上もの間,それに関する何らの動きもうかが5われないのは不合理である。また,前記認定のとおり,乙10の譲渡証書の書式は,サントリーが,当時,サントリーと他社が,それぞれ両者に所属する従業員の発明について,それら各発明者から特許を受ける権利の譲渡を受けるに当たり用いていたものであり,このことからすると,乙10の書式は,各発明者が各持分を各社に譲渡することを互いに同意する旨を明確にするための書式であったと考えられるか10ら,このような譲渡証書の作成を後にサントリーが提示したからといって,原告本人が述べるような趣旨であったとは認められず,(1)で認定した乙10の譲渡証書の作成をサントリーが提示した状況を見ても,単にサントリー社内の正式の書式での譲渡証書の作成を失念していたことによると認められるにすぎず,原告が述べるような趣旨はうかがわれない。15したがって,原告本人が上記のとおり述べるところは採用できない。また,以上述べたところからすると,乙10の譲渡証書が乙11の譲渡証書を訂正する趣旨であるとも認められないから,原告の前記主張も採用できない。(ウ) なお,原告は,本件の弁論終結後に,乙10が作成された趣旨を基礎付ける証拠として甲18を提出して弁論の再開を申し立てた。そこでこの点につい20て述べておくと,甲18は,サントリーと金沢大学が平成18年4月19日に作成した共同研究契約書であり,①研究題目を「健康食品と脳機能との関連に関する研究」,②研究目的及び内容を「高度不飽和脂肪酸含有油脂の高次脳機能に及ぼす影響を検討する。」,③研究分担を原告が「ヒトおよびサルの高次脳評価」,P3が「高度不飽和脂肪酸含有油脂の供給およびデータの分析・評価」とし,④研究実施25場所を「金沢大学大学院医学系研究科,サントリー株式会社健康科学研究所」,⑤研究期間を「研究に要する経費支払日の翌日から平成19年3月31日まで」とするものである。原告は,このような甲18は,本件原出願がされた後に作成された実態に即さないもので,サントリーが,本件共同研究契約の契約書では本件発明をその成果と基礎づけることができないことから,甲18により本件発明を改めて基礎付けて,原告が述べるような乙10の譲渡証書の解釈がされることを回避するた5めに作成されたものであると主張する。しかし,上記のとおり,甲18の共同研究契約では,本件原出願後の契約期間を対象としており,甲4によれば,実際にも,本件原出願後も原告による臨床治験が行われていた(甲4での試験日の最も遅いものは平成19年8月28日である。)と認められるから,甲18は,本件原出願後の更なる共同研究を対象とするものと10認めるのが相当であり,原告が主張するような趣旨で作成されたとは認められない。また,その余の原告の主張も,前記認定判断を左右するとは認められない。そのため,当裁判所は弁論を再開しなかった次第である。ウ 以上より,本件発明に係る原告の特許を受ける権利の持分がサントリーに譲渡されたとは認められないから,その余の点について判断するまでもなく,原15告の請求第1項に係る特許法35条3項に基づく請求(主位的請求)は理由がない。 2 争点4(原告は,本件発明に係る特許を受ける権利の持分をサントリーに譲渡し,それに伴う原被告間の合理的意思解釈ないし信義誠実の原則により,合理的な譲渡対価を被告に請求し得るか)及び争点6(原告は,特許法35条3項の類推適用により,特許を受ける権利の譲渡の対価を被告に請求し得るか)について20先に争点2について述べたとおり,本件発明に係る原告の特許を受ける権利の持分がサントリーに譲渡されたとは認められないから,それがサントリーに譲渡されたことを前提とする争点4に関する原告の主張は理由がなく,原告の請求第1項に係る予備的請求1は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。また,原告の予備的請求2は,特許法35条3項の類推適用に基づくものである25ところ,同項が類推適用されるためには,少なくとも本件発明に係る原告の特許を受ける権利の持分がサントリーに譲渡されたことが必要であるが,これが認められないことは前記のとおりである。したがって,争点6に関する原告の主張は理由がなく,原告の請求第1項に係る予備的請求2は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。 3 本件訴えのうち,原告が被告に対し平成27年4月以降の国内販売分,及び5平成15年以降平成29年までの国外販売分に対して発明対価の支払を求める部分(請求第2項)についてこれについては,原告が被告に対して給付を求める内容が特定されていないから,不適法な訴えとしてこれを却下すべきである(なお,これまで述べたところからすると,仮に請求内容が特定されたとしても,請求には理由がないというべきであ10る。)。 4 まとめ以上の次第で,原告の本件訴えのうち,原告が被告に対し平成27年4月以降の国内販売分,及び平成15年以降平成29年までの国外販売分に対して発明対価の支払を求める部分は不適法であるから,却下することとし,その余の請求は,その15余の争点を判断するまでもなくいずれも理由がないから,棄却することとし,主文のとおり判決する。大阪地方裁判所第26民事部裁判長裁判官髙 松 宏 之25裁判官野 上 誠 一裁判官大 門 宏 一 郎 |
事件の概要 | 1 請求の要旨 本件は,後記の本件特許に係る発明の発明者の一人で,金沢大学の助教授で あった原告が,その特許を受ける権利の持分をサントリー株式会社(以下「サント リー」という。)に譲渡したと主張して,同特許権の特許権者の一人で組織改編に よりサントリーの権利義務を承継した被告に対し,①特許法35条3項(平成275 年法律第55号による改正前のもの。以下同じ。)に基づく職務発明の対価として (主位的請求),②上記発明がサントリーとの関係で職務発明でないとしても,特 許を受ける権利の譲渡に伴う合理的意思解釈ないし信義誠実の原則による合理的な 譲渡対価として(予備的請求1),③原告が金沢大学の「従業者等」であり,サン トリーの「従業者等」でないとしても,金沢大学とサントリーとの一体的な関係に10 照らして特許法35条3項の類推適用に基づく相当の対価として(予備的請求2), (1)平成27年3月までの国内販売分について1億3500万円及びこれに対する平 成29年8月9日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅 延損害金,(2)平成27年4月以降の国内販売分及び平成15年以降平成29年まで の国外販売分について発明対価の支払を請求した事案である。15 |
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